第1話
これは、今から約1000年前の話。
この世界には、人類、魔獣が存在している。魔獣は、人類との意思の疎通はある個体と無い個体があり、判別は極めて難しかった。
人類を食う魔獣、田畑を荒らす魔獣、また、人類に従う魔獣と、多くの性格を持っていた。
このイッシュ国にも、あちこちに魔獣が存在していた。ここカノコ地区は、海から最も近く、海から来る魔獣に備えて要塞都市となり、多数の兵士が配置されていた。
アレクオス・ヴォルター。カノコ地区に生まれた12歳の少年である。
「ふう。おい、レナータも手伝ってくれよ。」
「ちょっと待ってよ。今魔獣の観察してるんだから。」
答えた少女は、レナータ・ザクサー。観察好きで、魔獣がいればどこでも腰を下ろす。アレクオスの幼馴染だ。
アレクオスとレナータは、近くの川に水汲みに来ている。しかし、汲んでいるのはアレクオスだけで、レナータは目の前にいる緑色の体に、赤い線を引く模様の魚の様な魔獣をじっと見ている。
「そんなもの観察して楽しいか?俺にはわからないな。」
アレクオスは桶に汲み終え、両手に持って歩き出した。
「待ってよアレク!」
アレクとはアレクオスのあだ名で、レナータがつけた。レナータも観察をやめ、速攻で水を汲む。
「私、来年騎士団学校に入ろうと思うんだよね。」
レナータが言った。
「騎士団学校?お前、魔獣騎士団に入るつもりかよ!」
「うん。今騎士団に入る人は減少している。理由は、たぶん魔獣への興味が薄れてきたから。」
「魔獣への興味?」
「だって、魔獣が出現したときは、騒ぎになった。あれから200年、魔獣を語る人はいないでしょ?万が一のために兵士は配備されているけど。」
「そっか・・・」
アレクオスはレナータの意見に反対ではないが、わざわざ騎士団に入るのは納得できない。
「ただいまー。」
「あらお帰り。遅かったわね。」
ベティーナ・ヴォルター。アレクオスの母親である。
「うん。レナータがまた観察しててさ・・・ん?父さんは?」
アレクオスの父親、ギルベルト・ヴォルター。カノコ地区では有名な鍛冶職人であり、イッシュ地方の中心地、王都ライモンからも仕事が来る。
「あ、今日は王都よ。国王陛下の装飾具を新しくするんですって。」
「へー。」
アレクオスは気のなさそうに返事をして、窓の外を見た。
「母さん、何だあれ・・・?」
ベチィーナもつられて窓を見る。外には、黒竜と白竜が戦う光景が広がった。
「魔獣だわ・・・」
ベティーナは怯えて、その場にへたり込んでしまった。
「おい、いま王からの伝令があった!」
ドアが開き、ギルベルトが帰ってきた。
「父さん!」
「巨大な魔獣がカノコ地区に出現したそうだ!今兵士たちが対応に当たっているらしい!」
「本当?」
「ああそうだ。しかし、日頃からろくに訓練もしていない兵が対応できるはずが無い。」
黒竜と白竜は、お互い噛み合ったりしていたが、白竜が赤い炎の玉を放った。
「うわあああああっ!!!」
その炎の玉は黒竜をかすめ、家のほうに直撃をした。