十二番道路でポケモンが大量発生しているという電光掲示板の情報を頼りに、僕はソウリュウシティから東へ、十一番道路を進み、ビレッジブリッジを抜け……ようとしたけれど、思わず足を止めてしまった。
なぜなら、十一番道路とビレッジブリッジを繋ぐゲートを出た瞬間に、なんだかおかしな物を目撃してしまったからだ。
チェレンとビレッジサンド
なんだかおかしな物を横目に見ながら橋を渡り切り、十二番道路へ続くゲートには入らず、橋の下に広がる草むらに下りると『ビレッジブリッジ名物 ビレッジサンド』と書かれたのぼりがはためいていた。
のぼりの傍には、車体に木の実が描かれているピンクのキャンピングカーが停まっていて、正面に木製のベンチが幾つか置かれ、数人の客(ポケモンも混ざっている)が思い思いにそこに腰掛け、みんな笑顔でサンドイッチを食べたり注文したりしている。
気になるのは、客の接待や誘導をしているのがどう見てもポケモンだし、その取り合わせがどこかで見たことのあるものだということだ。極めつけにどこかで見たことのある、と言うか見慣れ過ぎた人が、キャンピングカーの中から現われた。
声をかけようとその人に近づく。相手もこちらに気がついて、ニカッと笑いかけてきた。
「おっ、チェレン! いらっしゃーい! 好きな所に座っといて〜」
僕の幼馴染みの一人リヨンは、いつも身につけている、モンスターボールがプリントされたキャップと黒い上着の代わりに、ピンクのバンダナとエプロンをして、サンドイッチを運んでいた。
「……何してるのさ、リヨン?」
「何って、ウエートレスっしょ」
「…………」
「物言いたげにつっ立ってないで座りなって!」
そりゃあ物言いたげにつっ立ちたくもなるさ。なぜウエートレス?
否応無しに彼女に引っ張られて、僕は川沿い最前列のベンチに座らされた。メニューも渡された。
頼むって言ってないけど……とりあえず、ありがとう。
「お礼にって木の実の詰め合わせが貰えるから、たまに手伝いに来てるんだ」
なるほど、それで。
「橋のたもとにレシラムがいたから、まさかと思って来たんだけど、やっぱりきみだったんだね。そもそもレシラムを連れている人なんて、きみ以外にいないよね」
「うん、シロは客寄せ! かなり目立つっしょ?」
「行く人来る人一人残らずびびってたよ」
シロというニックネームのレシラムは、ブリッジゲートを出てすぐの所で『向こう岸にビレッジサンドのお店があるよ! 来てね☆』と書かれた看板を首に掛けて佇んでいた。なんだかおかしな物っていうのはそれのことだ。
彼女(性別不明だけど僕の受けた印象ではメス)は一応、イッシュ建国伝説に登場する伝説のポケモンなんだけど、リヨン的には関係無いんだろう。シロも若干微笑んでいた(ような気もする)し、まあ、いいか。
「じゃっ、注文が決まったら、ゼラールが持ってる注文票に書き込んでね!」
と言ってリヨンが立ち去ると同時に、右の脇からゼラールがぬっと顔を出したものだから、思わず「うおっ」と言ってしまった。
ゼブライカのゼラールは、注文票を鞍のように胴体に取り付けている。
「きみのトレーナーはなんて言うか……自由人だよね」
そう声をかけながら首を撫でると、ゼラールは小さく鳴いて頷いた。
メニューを開く。通常、木の実はポケモンの食べ物だ。それをこの店では人間の口にも合うように工夫して、『ポケモンと一緒に食べられるサンドイッチ』として売り出しているらしい。木の実の種類は多いから、その分メニューも豊富だ。しかもドリンク付きで全品一律五百円。これは迷う。
とりあえずドリサンドだけは嫌だな……なんとなく臭そうで。
「お奨めとかあるのかい、ゼラール」
「ゼブルルルィ」
ゼラールに訊いたら速答された。ゼブライカ語で。
ごめん。訊いておいてなんだけど、なんて言ってるのか解らないや。
「そのゼブライカは『ウケを狙ってレンブサンドにしたらいいんじゃね?』と言ったのさ」
困ってしまった僕を見兼ねてか、後ろの席の人がゼブライカ語を翻訳してくれた。
「なるほどね。ゼラールは、僕がアデクさんに『レンブさんに似てる』って言われたことを覚えてたのか。しかしきみ、ウケ狙いとか口調とか……意外と砕けたキャラなんだね」
…………。
………………。
……………………。
「……と、いうか!」
そこで僕はようやく後ろの席の人に振り向いた。
モノクロのキャップにスペアミントの長髪、僕より二つか三つほど歳上の男。
予想通りの人物がそこにいた。
「なんでいるんだ、N……?」
「ボクはこの店のリピーターだからさ」
……随分と早口なんだな。
久々に彼の台詞を聞いて、初めて会った時と同じ感想を持った。
文章として読んでいる人には分かり難いと思うけど、彼の話し方はとにかく早い。想像で読んでもらうしかなくて申し訳ない……って、僕は一体誰に向かって話しているんだろう。
「キミはこの店初めてなんだろ?初心者には無難にモモンサンドをオススメする。ドリンクはサイコソーダやミックスオレは邪道だ。パンの素朴な味わいとモモンのまろやかな甘さ繋ぎに使用されたソクノクリームの控えめな酸味という計算し尽くされたモモンサンドの数式を壊してしまう。美味しい水かモーモーミルクにしたまえ」(早口)
Nは困惑気味の僕には構わず、異常にてきぱき説明をした。最終的には命令だし。モモンサンドの数式ってなんだよ。
僕がおかしいのか? こんな光景はあり得ないと思う僕がおかしいのか?
「…リピーターって、」
サンドイッチ屋に通い詰める元敵役のボスは嫌だ。信念を懸けた勝負に破れた者が、こんな所に何事も無かったかのように現われてもいいものなのか。僕は固定概念に囚われ過ぎなのか?
「リヨンにここで手伝いで働いているから顔を見せに来ないかと誘われてね。それから彼女がいる時は毎回来ている」(早口)
「……リヨンから、きみと連絡を取り合っているという話は聞いたことが無いけど」
「それはそうさ。ボクとリヨンの間ではなくゼクロムとレシラムの間での連絡だからね」
(早口…ってメンドーだな。もういいか。
なんかすごいね、その連絡網。さすが元々は一匹のポケモンたちだ。
ああ、それでシロの隣にゼクロムまでいたのか。異様な風景になってるなビレッジブリッジ。今日だけは礼三さんの歌も霞み気味だ。
「ゼブルルル」
Nの方を向いたままぼんやり考えていたら、ゼラールが唸った。
「ごめんゼラール。注文しなくちゃいけないね。えーと……そうだな」
Nの言う通り……は、癪だからやめておこう。
一ページにつき一種類、サンドの写真と説明書きの載ったメニューを眺める。しばらくぱらぱらと捲っていたら最後のページになった。まあ、これでいいかな。
サンド名と、ドリンクのモーモーミルク、ベンチに書かれている座席番号を注文票に書き記す。
「うん。よろしくゼラール」
「ゼブルルッ」
ゼラールは小さく頷いて、パカパカと軽い蹄の音をさせて次の客の方へ去って行った。
「フウン……ナゾサンドに挑むんだ。初めてなのにスゴいね」
Nが呟く。
ゼラール今バラしたな。意外と薄情だ。
「リヨンも相当面白いけどキミも面白いね。人間といることがこんなに面白いものだとは思わなかった」
「……僕を面白いと言う人はきみが初めてだよ」
全く嬉しくないけれど。
なんかすごく居心地が悪くなった(Nのお陰で)。こういう時にベルがいたら気楽なんだけど、そんなにタイミング良くベルが来る訳は無いよな。
「……ん?」
「ホロ〜」
びっくりしたっ。
いつの間にか僕が座っているベンチ左側の背もたれに、頭飾りの無いケンホロウ、リヨンのクックが停まっていた。
クックの胸元には、首から吊るされた木目調の小さな箱。表面には『ありがとうございました! 五百円を入れてね☆』の文字。
「先払いと言う訳だね。はい、五百円」
「ホロウ!」
五百円硬貨を箱に入れると、クックは高く鳴いて、ゼラールが注文を取っている客の方へ飛んで行った。
シロといいクックといい……大分リヨンが自己流にアレンジしてるんだろうな。店長はタブンネくらい心が広いんだ、きっと。
そんなことを考えていると、リヨンがキャンピングカーから出て来た。乳白色に橙色と桃色が混ざったような色の、ミックスオレだろうドリンクをトレーに二つ乗せて持っている。その後ろからリヨンの一番のパートナー、エンブオーのとんとんが、サンドイッチを乗せたトレーを持って出て来る。
「どもっお待たせしましたー、ザロクサンドでーす!」
「ぶおー」
ふたりはチラーミィと一緒にいる、ミニスカートの女の子が座っているベンチへと歩いて行った。
「ありがとー!」
「ミィミー!」
ふたりがザロクサンドとミックスオレを差し出すと、女の子とチラーミィが嬉しそうに受け取った。
リヨンは何事にも全力投球だ。とてもプラズマ団のイッシュ制圧を阻止したトレーナーには見えない。
『ピュ〜〜イ♪』
その時突然、後ろで軽快な音がした。
「なんだい? 今の」
音の出所と思われるNをバッと振り返る。
「ウエーターを呼んだのさ」
え、なに、ダメ? とでも言いたげな顔でNが言った。
さっきの音はどうやら、Nが口笛を吹いて出したものらしい。
「ナッキッ」
「やあみもん。いつも早いねアリガトウ。テイクアウトなんだけど」
「ナキッ!」
すぐにNの隣にリヨンのヤナッキー、みもんが軽やかな身のこなしで現われた。Nがテイクアウトと発すると、素早く手に持っていた注文票を彼に渡す。
Nは慣れた手つきでメニューを捲っては書き込んで、を何度か繰り返して、みもんに注文票とメニューを返した。
「これでお願いするよ」
「ナッキ、ナッキー!」
「うん。十二個」
じゅっ……じゅうに?!
僕はとっさに心の中で聞き間違いだよねそうだよねと自問自答するが、さっきのNの動作を見る限りでは確実に十二個頼んだ雰囲気だったような。
「……きみ、あと十二個も食べるのか?」
「何を言う。そんな数をボク一人で食べられるワケが無いだろう?お腹が壊れるよ」
僕の問いにNは心外だ、という表情で返してきた。
そうだよね。じゃあなぜ十二個も。
「ボクのトモダチのポケモンたちが食べるんだ」
「ああ……そういうことか」
まさかの大食いキャラなのかと思って焦った。
公式のキャラクター、しかも敵のボスにそんな意味の解らない設定を付けたら駄目だろ! と、全力で否もうと思ってしまった。
……一体誰に対してかは僕自身でも謎だけど。
「ガマロ〜」
みもんが去った後からリヨンのガマゲロゲ、うたが、のそのそとNのもとへやって来た。
うたは両手で木箱を抱えている。その表面には『ありがとうございました! 大きなお金はこちらへ☆』という文字。
「はい、うた六千円入れるよ」
「ガ〜マロ〜」
Nはうたに五千円札一枚、千円札一枚を見せて、折り畳んで箱に入れた。うたはにこにこNに微笑んで、踵を返しキャンピングカーの方へのそのそ歩いて行った。
他の客の所にはゼラールとクックが回っているから……みもんとうたはN専属? もしかして。
それにしてもNはリヨンのポケモンたちと、そのトレーナーの幼馴染みの僕よりも仲が良さそうで少し悔しい。やっぱりポケモンと話せるっていうのがポイント高いんだろうね。ポイントって意味が解らないけど。
「おおっ! チェレン! Nと仲良さげじゃん」
声をかけられて、後ろに向けていた姿勢を戻すと、目の前にリヨンがいた。いつの間に。
と言うか、今なんだか聞き捨てならないセリフを言ったよね。
「……仲良くしてるつもりは一切無いけど」
「照れんなよ! いいじゃん、友だちっぽくてさ。ねえ? N!!」
「照れてもいないよ」
リヨンに話を振られたNは、美味しい水(メニューにはシロガネ山産とあった。シロガネ山は遠いジョウトとカントーの間に聳える山だ)を飲んでいた手を止めた。
「フウン。こういうのを人間はトモダチと言うんだ。なんだかカンタンだな」
「そーそ、簡単簡単!」
あ、もうひけない。
「んじゃチェレン、もーちょい待ってて。ナゾサンドは他よりちょおっと手間が掛かるから! しっかしナゾサンドを選ぶとは、チェレンは結構思い切るなー。はっはっは」
リヨンはそう言い残して、サンドイッチを食べ終わって席を立つ客に元気良く礼を言ったり、トレーを回収したりしながらキャンピングカーの中に入って行った。
いや、ちょっと待って。
手間が掛かるってどういうことだい。結構思い切るってどういうことだい。
そういえばNもさっき、初めてなのにスゴいって言ってたな。
「……N」
「なんだいチェレン」
……名前呼ばれた……。
じゃなくて。
「ナゾサンドって、そんなに……アレなのかい」
アレってドレだよと自分でも思うけど、今はそんな小さなことには構っていられない。
「ボクは食べたことは無いがナゾの実の味はトモダチから聞いて知っている」
僕の問いかけにNはそう答え、続ける。
「辛い味が苦手なポケモンは間違い無く丸三日は沈めさせられると」
好きなポケモンからすればクセになるらしいけどね、とNは付け足す。
「人間用に刺激を抑える工夫はされると思うがそれでも辛いものが好きでない限り撃沈する結果に変わりは無いだろうさ」
「…………キャンセル、」
「代金を支払ったらキャンセルは無効」
そう……なんだ。
まさかそんなスペシャルメニューだとは思ってもみなかった。知らない名前だから珍しい木の実なんだなとは思ったけど、まさかそんな味だとはね。
だけど、そんな危険極まりないものをこうも易々と売らないでほしいよ。百歩譲って売るのはよしとしても、一言くらい注意書きを添えておいてほしい。
初心者は初心者らしくNの言う通りにモモンサンド、間違ってもドリサンドにしておけば良かったのだ、ってことか。
後悔先に立たず。礼三さんの暢気な歌声が厭に耳を突く。
いっそのことダイケンキに救助を要請しようか。僕の一番のパートナー・ダイケンキは勇敢な性格だから、辛いものが好きなんだ。
そうと決まればダイケンキを出
「チェレンお待たせ〜! 当店一の激辛メニュー・ナゾサンドでーす!!」
「ぶお!!」
来ちゃった。ダイケンキ出してないのに。
リヨンはモーモーミルクのコップを乗せたトレーを、とんとんはナゾサンドの皿を乗せたトレーを持って、ゆっくりと、だが確実にこちらに近づいて来る。
恐怖だ。
「なんせナゾサンドは激辛だからね、モーモーミルクとサンドのクリームにカイスエキスを混ぜてあるって店長さんが。少しは辛味が抑えられてると思うよ」
「ぶおー」
「あ。うん。ありがとう……」
リヨンからモーモーミルクを受け取った後、小さく戦慄いている(気がする)両手で、恐る恐るとんとんからナゾサンドを受け取った。
果たしてカイスの甘さで、どこまでナゾの激辛に対抗出来るのか。
非常に不安だ。
「さっ、どーぞ召し上がれ!!」
ゴクリ……唾を飲む。
若干、周りの席の客から視線を感じる。やめてくれ。注目しないでくれ。
しかも、すぐ隣からも誰かが僕を見ているような――
「ってリヨンなんで横に」
左隣を向いたらリヨンがベンチに座っていて、とんとんもその後ろで僕をじっと見つめていた。
「もしチェレンがぶっ倒れたら、アタシたちが介抱するためよ。だから安心して食べなって!」
ニカッと、リヨンは笑った。
だからなぜそんな危険極まりないものを売って(ry
リヨンの前で……いや、違うな。NとかNとかNとか、その他見知らぬ人たちの前でそんな格好悪過ぎる姿を晒す訳にはいかないよ。
……覚悟を決めよう。僕一人で、決して倒れること無く全て食べ切るという覚悟を。
「そーいやさあ、ダイケンキが辛いの得意なんじゃないっけ。一人で無理しないでダイケンキと一緒に食べたら? アタシも出来れば、チェレンにぶっ倒れてほしくなんかないし」
今まさに腹を据えようとしていたところで、リヨンが言った。
あ、ああ、そうだよ、ね。
ダイケンキへの救助要請許可が下りたみたいだ。そもそも誰も禁止なんてしていなかったけど。
それじゃ、心置きなくダイケ
「だがリヨン」
「ん? どうした、N」
急にNが後ろから口を挟んできた。
彼はごちそうさまと言って、すっかり空になったコップをトレーに置いた。サンドイッチの皿にも何も無い。何サンドを食べたんだろう。いや、そんなことはどうでもいい。
このタイミングでの発言は嫌な予感しかしないよ。
「もしもチェレンがナゾサンドを単独で完食したならばキミはどう思う」
N……? まさか、きみ……。
「そりゃスゴいよ! チェレン男前! カッコイイぜこの野郎! って思う!!」
やっぱりそう来たかっ……!!
リヨンにそこまで言われたら、僕がダイケンキに頼るに頼れなくなると判ってて言ったんだな。
僕に対する挑戦と取っていいんだねN。僕も男だ、受けて立つよ……!!
チェレンの インファイト!
「あ。」
リヨンととんとんが呆然としている。
僕がなんの前触れも無くナゾサンドに噛り付いたら、そんな顔にもなるか。
「……チェレン? 大丈夫?」
もぐ……もぐ。
ナゾの実ってこんな味なのか。なるほどね。
「……うん。想像していたより大したことは……、無いか、な……」
もぐ……、もっ……ぐ。
自分でも不自然だと感じるくらい機械的な動きでナゾサンドを食べ進めながら、僕はリヨンに返す。
「ホントに? 目が死んでるよ?」
目が死んでるって、すごい表現だね。解らないでもないけど。
いっそ『辛い』と言ってしまえば楽になれるんだけれど、僕は意外と負けず嫌いだということが旅の間に発覚したし、男はつまらない見栄を張ってしまう生き物なんだって父さんも言っていたし。
「いや。全っ……然、平気だ……か、らッ」
誰に言い訳してるのか判断つかないが、とにかく、一度始めてしまった勝負を、簡単に投げ出す訳にはいかない。
…………あ、大変だ。飲み込めない。
それになんだか、目の前が暗くなってきた……
バタンッ
「うおおおチェレンんんんん!!」
痛い。僕は倒れたの、か?
近くでだか遠くでだか、リヨンの叫び声が聞こえた。すごい声だ……。
「とんとん! チェレンをあっちの草むらまで運んで!!」
「ぶおおっ!!」
リヨンととんとんの姿が見えたと思ったら、視界が暗転した。
――薄れゆく意識の中。
僕は、
インファイトという技は使うと能力が下がるんだったな
なんて
全く以てどうでもいいことを考えていた。
ナゾサンドとNにはもうこりごりだ――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「リヨン。店長さんに伝えてくれるかな。ナゾサンドのページには注意書きを添えておいて下さい、と」
「え? あったっしょ注意書き。黄色い吹き出しに赤い文字でさ、『激辛!! 食べ切った時アナタは勇者となるッ!!』って」
「……………………本当に?」
「うん。今度来る時に見てみ?」
「……いや。当分ビレッジサンドはやめておくよ」
「そう? まぁなんにしてもさ、次は間違ってもナゾサンドは頼まないようにしなよ! はっはっは!」
「………………。」