窓の外の風景は、今日も今日とて変わることなく。
「……ふう」
天気は曖昧、晴れのちくもり。あたしの気持ちも、たぶん曖昧。
窓際の席からぼーっと外を見つめていると、時間がいくらでもあるような気がしてくる。ホントはあと五分くらいで次の時間のチャイムが鳴って、数学の授業が始まることは分かってる。分かってても、ついついぼんやりしてしまうのだ。
それはたぶん、あたしがぼんやりすることに慣れているから。
「あとは、数学と英語だったっけ」
お昼休みのあとの授業は、いつも眠気とのバトルになる。と言っても、本気で戦う気はあんまり無い。とりあえずは、テストの直前だけ起きてれば、あとはまあ、大体なんとかなる。大体なんとかなれば、それで大丈夫だ。あたしみたいなのは、それくらいでちょうどいい。
平坦で何もない、お決まりの世界で過ごす日々。大きな事件なんて起きなくて、いまいち代わり映えのしない毎日が、淡々淡々とテンポよく流れていく。
なんというか、ポケットの中にいるみたいだ。
小さなスペースという意味でも、広がりのなさという意味でも、本当にポケットみたいだ。
「あ」
ほう、とため息を付いた直後だった。廊下を上靴で叩く音、誰かがパタパタ走ってくる音。こっちへ近付いてくる。
あれはきっと、あいつがやってきている。間違いなく、あいつしかいない。
「おーい、サチコー」
「いよっすネネ」
あいつとは、そう。ネネのことだ。
あたしの席の近くまでパタパタ音を立てながら掛けてきて、少し前でピタッと止まった。
「ネネったら、相変わらず髪ボサボサだな」
「だって、髪とかすのめんどくさいし。どうせぼさぼさになっちゃうし」
髪をばたばた振りながら、ネネはいつも通りの回答をするばかりなのだった。
ネネらしいと言えば、ネネらしい。
*
そう言えば、ネネのことをまだ話してなかった。だからちょっと話しておこうと思う。
ネネ。本名を「仲村渠寧々(なかんだかり・ねね)」と言う。正直に言って滅多に見ない名字で、他の子からはしょっちゅう「仲村さん」と間違って呼ばれている。ぶきっちょな性格だから、「仲村さん」と呼ばれても絶対に応えない。ちゃんとした名字で呼んでもらえないのが不満とかそういうんじゃなくて、単純に自分が呼ばれたと思ってないのだ。何回間違えられても同じなので、たぶん根っからなのだろう。
というわけで、名字よりはわかりやすいと思う「ネネ」と呼ばれることが多い。あたしも含めて大体の子が、ネネを「ネネ」と呼んでいる。
ネネは学校のすぐ近くにある、川沿いの古い団地で暮らしている。確か「リバーサイドなんちゃら」とかいう名前が付いていたはずだった。ずっと前、まだお母さんがいた頃ぐらいに家へ遊びに行ったことがあるけど、エレベータが全部の階に止まらないのだ。止まるのは1階・4階・7階・10階とか飛び石で、途中までエレベーターで行って後は階段を使う。ネネは5階に住んでたから、4階まで行って階段を一つ登らなきゃいけなかった。
「ネネったら、服に葉っぱ付いてるじゃん」
「えっえっ、どこどこー?」
「取ったげるよ。ほら、これ」
制服に葉っぱがくっついてたら分かりそうなもんだけど、ネネはこういうところがニブい。いや、こういうところだけじゃなくて、こう、全体的にニブい。よく言えばおっとりしているのかも知れない。
悪く言うなら、ちょっと足りない。
「サチコ、なんか元気が無い」
「なんでもないって。あたしいっつもこんな感じだから」
「ふぅーん」
ネネの言葉を右から左へ受け流しながら、ふと隣の席へ視線をチラリ。
目にしたのは、ニャスパーを抱いた同級生の姿。
「いいなあ、城ヶ崎さん。ニャスパー抱っこしてる。かわいい」
城ヶ崎さん。本名は……確か、城ヶ崎絵梨香(じょうがさき・えりか)。同じクラスの知り合いだ。みんなからは、大体「城ヶ崎さん」か「絵梨香ちゃん」って呼ばれている。ちなみにあたしは「城ヶ崎さん」だ。特に何かこだわりがあるとかじゃなくて、「城ヶ崎さん」って呼ぶ人が多いからそうしてるだけだけど。
そんな城ヶ崎さんが住んでるのは、大通りから離れて坂道を登った先にある「ゆかり台」っていう台地の上だ。そこにある一軒家で暮らしてるらしい。あたしはちょっと前あの辺を散歩してるときに、あ、ここが城ヶ崎さんの家か、いいなあ、庭付き一戸建てだ、なんて思いながら前を通りがかっただけだから、中に入ったことはない。まあでも多分、城ヶ崎さんの様子を見てると、きっと中も片付いてそうだと思う。
「いいなー城ヶ崎さん。ニャスパーすごい可愛いし」
「ありがとう。お父さんがプレゼントにって渡してくれて、いつも側にいてくれてるんだ」
「ふさふさしてるー。毛並みいいね」
「毎日たくさん毛が抜けちゃうから、ブラッシングしてあげてるの」
こういうのを、きっと「育ちがいい」って言うんだろうな。頬杖を付いて城ヶ崎さんをぼけーっと眺めながら、あたしはそんなことを考える。
城ヶ崎さんのニャスパーはおとなしくてかわいい。つぶらな瞳がすごくかわいい。あたしもあんなポケモン――というか、ニャスパーそのものが欲しくてしょうがない。あんな風に抱っこして、みんなに見せたりしてみたい。
けど、それはやっぱり、願望に過ぎないわけで。
「ねえ、サチコ。サチコー」
「んー……聞いてるよ、ネネ。どうしたの?」
「今日も付き合ってほしい。見ててもらいたい」
「いいよ、いつものっしょ」
願望と現実とで折り合いをつけるときは、いつもいつでも、願望が折れるものだと思う。ま、世の中そんなもんだ。深刻に考えるようなことじゃない。
今日もまた、ポケットの中の日常が流れてく。
*
学校の裏にある山。舗装されてない道を登ると、少しだけ開けた場所がある。あたしとネネは時々ここへやってきて、あたしたちだけにしか分からないあることをしている。
「サチコ、ちゃんと見ててね」
「ういうい。ちゃーんと見てますって」
ネネが茂みへ入って少しガサガサやると、煤けた布に包まれた何かを持ってきた。ちょうどネネが抱えられるくらいの大きさで、布にくるまれてるようなモノって言ったら、まあ大方想像はつくと思う。セットで小型のシャベルも持ってるのを見れば、ほとんどの人がピーンと来るだろう。
布を開いたネネがあたしに見せたのは、小さなジグザグマの死骸だった。まだ子供だったみたいだ。
「これ、いつ見つけたの?」
「きのう。バイクにはねられて、道端で転がってたの。だからひろってきた」
「いつも思うけど、ホントよくやるよ。ネネは」
ネネは平然としてるけど、あたしは何回見ても慣れない。もう50回か60回くらいはこうやってネネからポケモンの死骸を見せられてるけど、全然慣れる気がしない。ましてやネネみたいに持ったり触ったりなんて、正直言ってとてもじゃないけどできる気がしない。
少ししてからネネがジグザグマの死骸を地べたに置いて、足を折って屈み込むと、サビだらけのシャベルでざくざくと地面を掘り始めた。もちろんお墓を作るためだ。ちゃんとそれっぽい大きな石も用意してある。ジグザグマを埋めた後に上から置いて、ここにジグザグマが埋まってるってことが分かるようにするためだ。
「サチコー、今度算数おしえて」
「数学だって。そりゃ別にいいけどさ、あたしより凛さんの方が得意じゃないの? そういうの」
「うーん。凛さんいそがしいし、よくおでかけしてるし、ネネ、サチコがいい」
「あたしもそんな得意じゃないけど、ネネに教えるくらいならなんとかなるかな」
ネネはポケモンの死骸を埋めるための穴を掘ってる間、必ずこうやってあたしとしょうもない話をする。この間先生に叱られたとか、外で遊んでる子供を見たとか、ポケモントレーナーに会ったとか、そういう本当にしょうもない話だ。世間的に言うなら世間話ってやつなのかも知れない。ネネがお墓を作るときはこうやって世間話がセットでくっついてくる。
なんでお墓作ってる最中に世間話をするのかは、あたしにはちょっと分からないし、たぶん知らなくてもいいことだと思う。
「こないだねー、凛さんけんけん汁作ってくれたの。おいしかった」
「けんけん汁って何それ。そんなの聞いたことない」
「うーん。なんか、お味噌汁にいっぱい具がはいったみたいのだった。けんけん汁」
さっきまで勉強の話をしていたと思ったら、今はもう全然違う話になってて、ちょっと前に食べたものについてしゃべってる。ネネの会話はだいたいこんな具合で、つながりが乏しい。こういうのを、散漫って言い方をするらしい。
「ネネさ、まあちゃんとスパッツ履いてるからいいけどさ、スカート全開で中丸見えなんだけど」
「なんかヘン?」
「フツーは見えないように隠すと思う。常識的に考えてってやつで」
「凛さんからもおんなじこと言われた」
「でしょ?」
「でも、ここにいるの、サチコとネネだけだよ。サチコとネネだけ」
「んー、あんまりそーいう問題でもないんだけどなあ。まいっか」
ネネがこうやってポケモンのお墓を作り始めたのはいつか。正直細かいところは覚えて無いけど、とりあえず少なくとも小三の時くらいからこうやってるのは知ってる。たぶん、もっと前からやってるはずだ。
きっかけはだいたいこんな感じだ。あたしが墓掘り中のネネに話しかけて「何してんの?」って聞いたら「お墓作ってる」って返されて、それで、なんでそんなことしてんだろって思って観察して、そうしたらいつの間にかネネの方から「お墓作るから見てて」って言われるようになって、今もそれに付き合ってる。あたしが側にいるのは、実は深い理由なんてなくて、ネネに頼まれたからってのが大きい。
今までのペースだと一ヶ月に一回か二回、たまに三回くらいネネの立会人をして、ポケモンの死骸が土の中に埋められるのを見ている。言い方を変えれば、それだけたくさんポケモンが辺りで死んでるってことでもある。しょうがない。あいつらどこにでもいるし、見かけない日なんてないし、事故だってあっちこっちで起きてる。だから、しょうがない。そんなものなんだ、そんなもの。
「できた」
「おー、できたできた」
「サチコー、この子埋めるよー」
「ほーい」
ネネが額に浮かんだ汗をブラウスの袖でぐじぐじ拭うと、布の上に寝かされていたジグザグマの死骸を穴の中へ入れてから、側に置いてあったモモンの実を隣に置く。
モモンの実を一緒に埋めるのが、ネネのお墓作りの特徴だった。なんか意味あるのそれって聞いたら、ネネ曰く「お腹がすいたら食べられるようにしとく」らしい。モモンの実はそこら中に生ってて、あたしは食べないけど他の子は勝手にもいで食べてるのをちょくちょく見かける。それでも減らないから、こうやって一緒に埋めても問題ないわけだ。まあ、ネネがやりたいんだからやらせておけばいいって思う。
掘り返した土を死骸の上からどさどさ被せて、シャベルでぺたぺた地ならししてから、用意しておいた墓石っぽいものを上からぐいぐい押さえつけて、晴れてお墓の完成だ。ネネは「おわった」とつぶやく、というよりももうちょいハッキリ宣言して、屈んだまま両手を合わせて拝み始めた。ネネの手は泥まみれで、ブラウスにも土が飛んでいる。ついでに、スカートにも。
ネネは背が低くて体も小柄だから、しょっちゅう小学生に間違えられる。あたしと並んでたら、結構な割合で上級生と下級生だと思われてしまう。もちろん、あたしが上級生でネネが下級生だ。
「サチコ、かえろう」
「うし、帰るか」
ついでに口調も幼いというか、そもそも舌っ足らずだから、なおさらよく間違えられる。ここまでの会話で、ネネがどういう風に話すかっていうのはだいたい分かると思う。
山道を降りて、アスファルトで舗装された道まで戻ってきてからちょっと歩くと、なんてことない小さな公園に差し掛かる。すると、ネネが「あっ」と例によって大きめの声をあげる。
「サチコ、ちょっと待ってて。おしっこしてくる」
「ほいほい、いってらいってら。てか外で『おしっこ』言うなって」
「よくない?」
「あんまり」
そう言うと、言葉通り公園にあるトイレへ走っていくネネ。パタパタ全力で駆けていく様子が、ますます子供っぽい。
背丈とか体格とか言葉遣いだけじゃなくて、行動や考え方まで全部幼いから、ひょっとするとネネはホントに小学生のままなのかも知れない。小学生のまま、とりあえず制度的に中学へ通う年齢になっちゃった、的な。
「サチコー」
「あれ、ずいぶん早いじゃん。もう済ませてきたわけ?」
「ううん。トイレットペーパー無かった。だからサチコ、ティッシュ貸して」
「しょうがねーなー」
当のネネ本人は、そういう風に小学生に間違えられたり年下だと思われたりするのを、ちっとも気にしていないようだけど。
*
「ただいまー」
誰もいないと分かっていても、とりあえず帰ってきたら「ただいま」って言う。そういうくせを付けておけば、いざ誰かがいる時に帰ってきても、挨拶もなしに入るんじゃないの、とかそういう系のお小言を言われなくて住む。小さな心掛けの積み重ねが、お小言の回数を減らすのだ。
部屋に入ってスイッチをパチン。微妙な間を置いてから、パッと部屋が明るくなる。カバンを机の上へ置くと、お弁当箱を出して台所まで持ってってから、部屋に戻ってベッドにぐったり。六時間授業のある日は、帰ってくるともう何もしたくなくなる。明日は五時間授業の日だから、ちょっとだけマシだろう。けど、帰ってきてから何もしたくないっていうのは、多分変わらない。
学校から30分くらい歩いたところにある15階建てのマンションの4階。それがあたしの家だ。二つある部屋のうちの一つがあたしの部屋で、もう一つの部屋は、今はほぼ物置と化している。お父さんもお母さんも、今はそんなに必要としていないモノが結構あるのだ。そういうのは目について何となく気になるから、目につかない場所へ置いてしまおう。ということで、向かいの部屋は気がつくとモノが増えている。
「はー、しんど」
何にもすることがなくて、ついでにやる気も起きなくて、うつ伏せになったまま枕に顔を埋める。枕に巻いたタオルから微妙に汗が乾いたあとの匂いがする。制服から着替える気にもならなくて、とにかく帰ってきた時のカッコのまんま、ただただぐでーっとしている。
「スマホあったらなあ。あたしも『ポケとる』できるのに」
手持ち無沙汰。思い浮かぶのは、みんなが学校の休み時間にいじくり回しているスマホ。あたしも欲しい欲しいって言ってるけど、サチコにはまだ早い、の一言で却下されてる。みんなはポケモンの絵を使ったパズルのゲームで遊んでて、なんかすごい楽しそうにしてる。あたしも楽しそうにしたい。
とりあえず動かすのにあんまり苦にならない首を動かしてそこら辺を見ると、ややくたびれ気味のピンク色のニンテンドーDSが転がっていた。最後に差してたソフトなんだったっけ、あっ思い出した、トモコレだ。友達に教えてもらってお母さんに買ってもらって、周りの友達とか、その時流行ってた芸能人とか、マンガのキャラとかを適当に登録して、恋人になったり別れたりするのを見てわいわい騒いでた。
最後に電源入れたのいつだっけ。もう一年くらい前のような気がする。あの中の住人は今どんな風になってるだろう。電源を入れるのがちょっと怖い。だから触らないでおきたい。
ぐだってると勝手に時間が過ぎて、気が付いたら7時を回ったくらいになって。
「ただいまー」
「あ……おかえりー」
お母さんが仕事から帰ってきた。今日も買い物してきたみたいで、ビニール袋が揺れる音が聞こえる。玄関でお母さんを出迎えると、お母さんからビニール袋を受け取って台所まで持っていく。
「サッちゃんただいま。ポスト見てきてくれた?」
「ごめん、忘れてた。ちょっと見てくる」
そうだそうだ、ポスト見てくるの忘れてた。いろんなカードが刺さってるポケットから宅配ロッカーのカードを抜いて、運動靴を半穿きしてエレベーターに向かう。目指すは一階、集合ポストだ。
ぐるぐる回して番号を入れるタイプの鍵をいじって、ポストのフタを開ける。中には封筒が3通と、赤白二色の住宅というか不動産会社のチラシ、それから。
「あ、マッハピザ」
近くにあるピザ屋さんのチラシが入っていた。クーポン券付き、今なら二枚目半額。六分の一に切って、チーズがのびーって伸びた写真がでかでかと入っている。
おいしそうだ。
「ピザ食べたいなー、チーズとツナとコーン載ったやつ」
そんなことを呟きながらチラシと封筒を持って帰ると、お母さんがもう晩ごはんの支度を始めていた。
「ただいまー」
「おかえり。何か来てたかしら?」
「封筒が3つ。それからチラシが2枚」
「ありがとう。テーブルの上に置いといて」
言われたとおりテーブルの上に郵便物を全部置いてから、テーブルの周りをうろうろする。
「おかーさんおかーさん」
「どうしたの、サッちゃん」
「いきなりだけど、ピザ食べたい」
「ピザ?」
ちらちらと視界に入るマッハピザのチラシが気になって気になって、つい口を付いてこんな言葉が出てきてしまった。
そう、あたしはピザが食べたい。丸くて大きい、チーズとツナとコーンの載ったピザが食べたい。
「明日の朝ごはん、チーズ載せる?」
「そういうんじゃなくて、電話で頼むやつ。丸いやつ」
「マッハピザとかそういうの?」
「そうそうそれそれ」
「うーん。また今度にしましょ。サッちゃんの誕生日とか」
今日もまたダメだった。お母さんの必殺技「また今度」で終わってしまった。
お母さんの言う「今度」が来た記憶はほとんどない。あってもせいぜい、カレー食べたいって言ったら次の日にカレーが出てきたぐらいだ。それだって、晩ご飯の献立に詰まったからちょうど良かっただけだったし。
いつもこんな風に、来ることのない「今度」を待つことになる。スマホも、ピザも、他にもたくさん。いつも何かが欲しくって、けれどそれは「今度」という来ることのない未来に予約されてしまう。
台所を見て、並んでいる食べ物をチェックする。キャベツともやしとにんじん、パック詰めの鮭の切り身、それからお麩。たぶん、野菜炒めと鮭を焼いたやつと、それからお味噌汁ってところだろう。別に悪くはないけど、でも、楽しみってわけでもない献立。
「サッちゃん、お皿並べて」
「はーい」
お母さんから食器を受け取りながら、あたしはもう一度だけチラシに目を向ける。
(ピザ、食べたいな)
あたしの気持ちとは裏腹に、お母さんはまな板の上でキャベツをトントンとざく切りにしていたのだった。