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  [No.1515] バースに集え!!! 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2016/02/14(Sun) 00:07:31   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 初めての方は初めまして、そうでない方はお久しぶりです。おでんです。
 この度、ネタが降ってきたので新規連載を立ち上げることとなりました。毎日日記に殴り書きにしてるので更新ペースが遅くなりますが、たまにチェックしていただければ幸いです。
 連載からはしばらく遠ざかっていましたが(ミカンの作品1作有)、その間に考えたことを多少なりとも反映できていると思います。
執筆に協力してくれる方:小樽ミオ様


  [No.1516] 一話「裸の出会い」 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2016/02/14(Sun) 00:08:54   48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

アサギシティ。ジョウト地方西部の町、異邦へと繋がる港町、出会いと別れが交錯する運命の町。この町がまさに、物語の舞台となる場所である。
町の北西にあるポケモンジムに、主役はいた。情けない声で叫んでいる彼がそうだ。
「くっそう、また負けた! もう何回負けたか分かんねえよ」
 この男、名はケイと言う。赤のワイシャツに黒のベスト、黒のデニムといった出で立ちであり、対峙する同年代程度の女とは対照的な色使いである。
「ふふ。その調子じゃ、旅立ちはまだ先になりそうね」
 彼女はミカン、アサギジムのジムリーダーである。ケイとは幼馴染、近所と揃っていながら、雰囲気は正反対。服装も薄緑のワンピースに白のカーディガンと、上述の通り対照的だ。
「そんなことねえさ、日毎に着実に差は縮まってきてる。これなら近いうちに勝って見せるさ」
「さて、それはどうかしらね。私も若いとはいえ、ジムリーダーの一人。そう易々と負けたりしないわ。それより、この後いつもの場所に行くのでしょう? 連絡しておいてあげるね」
「ああ、ありがとな。それじゃ行ってくるわ」
 ケイ、モンスターボールを持ち足早にジムを去る。その姿を見送るミカン、少し悲しげな表情を浮かべる。
「ごめんなさい、ケイ。あなたをこの町から出すわけにはいかないの……」
 彼女の目線は、自然とジムの脇にある机を向いていた。その上にある新聞、一面の見出しにはこう書かれていた。
「……行方不明のトレーナー急増……」
 一方ケイはと言うと、傷ついたポケモンの回復へ急ぐ。だが、懐に余裕のない若者に、ポケモンセンターを使うという選択肢はない。彼が向かう場所、それはジムから歩いて約十分、町の中心部にある建物だ。「バース」と書かれた看板の店に入ったケイは、開口一番ボールを出した。
「おっちゃん、二時間でお願い! ポケモンに風呂、あとご飯も食べてくよ」
「了解。連絡は来てるから時間料金と飯代で頼むぜ。……ところで、ミカンと何かあったのか? 受話器越しにすすり泣きが聞こえたような気がするんだが」
「え、あいつが? ジムを出る時には何も変わったようには見えなかったぜ」
「そうか、なら良い。とりあえず支払いが先だ」
「分かった。えーと、三百円に飯代だから、これで」
 ケイ、財布から千円札を取り出し「おっちゃん」に渡す。そして一目散に浴場へ走っていった。
 言うまでもなく、浴場は男女に分けられる。近くに銭湯がない者は知らぬかもしれないが、こうした公衆浴場は思いの外客が多い。平日でも時間帯によっては大入りとなる。しかし、今は学校が終わる少し前で、当然仕事上がりの人々もいない。黒い石材で造られた湯船には、しかし先客が一人いた。
「あれ、おっさん見ない顔だね。旅の人?」
 湯船に入ったケイは、見知らぬ男に声をかけた。もみあげがあごを通じて繋がっており、しかし幅・長さ共に短く揃えている。やや日焼けしたその顔から、口から返事が飛んできた。
「誰がおっさんだ誰が。俺っちにはレアードって立派な名前があるんだぜ? そう言う坊主は、この町の人間ってところか」
「う、なんか変な奴。それと俺はケイ、いずれポケモンリーグに挑む男だ」
 ケイの口上に、レアードと名乗る男、吹き出す。不敵な笑みを浮かべ、ケイにこう返す。
「ほーん、お前さんがねえ。どう見てもペーペーにしか見えないルーキーだが……。そこまで自信があるからには、当然この町のジムリーダーには勝ってるんだよな?」
「う、それは……」
 ケイ、返す言葉もない。言えるわけがない、もう百にも届く数、負けを重ねていることなど。
「現在、あのフスベジムは勿論、下手したらポケモンリーグ本部ともやり合えると専らの噂。ジムリーダー・ミカンの名は俺の故郷であるオーレ、滞在先のカロスにも聞こえてきた。明らかに強くなったのは数年前……何があったか気になって取材しに来たのが、俺と言うわけ」
「はあ、そりゃご苦労様。じゃあレアードってカメラマンか何かなの?」
「おいおい、そこはジャーナリストだろ? 新聞や雑誌の記事は俺みたいな奴らが足で稼いでんだ。もうちょっと知ってほしいもんだねえ。ま、俺の場合は少し違うが……」
 今度はレアードが言葉に詰まる。ケイはこれに突っ込む。
「違うって、じゃあ何してんの?」
「ん? ああ、俺の場合はブログで自分の集めた記事を出してるのさ。そのネタ探しも兼ねて、世界中を飛び回る。ブログの閲覧数に応じて金が入るから、こっちも真剣そのものよ」
「……要するに、小銭を稼ぐ無職なんでしょ」
「まあな……。俺も好きでこのポジションに収まったわけじゃないんだがな。ま、青いケイ君にはまだ分からんだろう。それよりも、頼みたいことがあるんだが」
 レアード、ややばつの悪そうな顔でケイを見る。頼みは意外なものであった。
「俺っちをミカンちゃんへ紹介してくれないか? 生憎電話を持ってないものでね、まだ予約を入れてないんだ」
「……しょうがないなあ。後で飯でもおごってよ」
「お、頼まれてくれるか! 話が早いぜ、相棒」
「なんで俺が相棒になるんだよお」
 こうして。ケイとレアード、二人の縁が始まったのであった。このいまいちパッとしない男達が、後に大仕事をやってのけることを、今はまだ誰も知る由がない。


  [No.1540] 二話「彼女はなぜ強くなったのか」 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2016/05/02(Mon) 00:46:39   44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「……と言うわけなんだ。良いか?」
 翌日。ケイ、レアードの両名は、アサギジムを訪れていた。むき出しの岩盤に圧迫される雰囲気の中にいるのは、ジムリーダーのミカンただ一人である。今日の彼女も、昨日同様ワンピース一枚。体型が気になるわけではない、むしろラインが出る服の方が良さそうではある。だがそれは今重要なことではない。
さて、ケイからの頼みに、彼女は多少照れながら、こう答えた。
「ええ、それは構わないわ。でも、なんだかちょっと恥ずかしいかも」
「……うーん、素晴らしい」
 レアード、あごを左手で押さえ、何度もうなずく。昨日は風呂の中だったが、今日はちゃんと服を着ている。白のワイシャツに赤のネクタイ、紺のチノパンと黒のジャケットのセット。黙っていれば男前な彼に、しかし自重と言う言葉はないようだ。
「これほど奥ゆかしく美しい女性、故郷はおろか旅先でも見たことがない。取材が終わったら出発しようと考えていたが、予定を変えよう。しばらくこの町にいさせてもらうよ」
「……で、インタビューはどうする?」
 ケイ、口元を曲げてご機嫌斜めだ。レアードとミカンが接近することに嫉妬しているのだろうか。分かりやすい男……。勝負に負け続けるのも無理はない。当然、レアードもすぐに勘付く。
「……ふーん、なるほどね。まあいいや、早速初めても大丈夫かな?」
「? はい、どうぞお掛けになってください」
 三人の中で最も鈍感なのはミカンのようだ。彼女は椅子を用意し、腰掛けて話を始めた。ケイとレアードはこれに耳を傾けるとする。
「……初めに、私は元々岩タイプの使い手だったと言うことを知っておいていただきたいです。今でこそ、鋼タイプのジムとして知られていますけど」
「だよねえ、俺っちもそう聞いてるよ。でも、元々の方針から鋼タイプと、あとたまに灯台にいるデンリュウも使うようになったんだよね? なぜなんだい?」
「それは……秘密です。お答えできません」
「おやおや、そりゃ困るなあ。やっぱ読者はその辺を知りたいわけだよ。もちろん、俺っちもね」
 レアード、粘る。ただの空振りでは終わるまいと必死である。生活がかかっているから当然か。一方のミカン、鈍感さとは裏腹にキレのある変化球を投げる。
「……レアードさん。しつこい男性は、このジョウトでは好まれませんよ? 私も含めて」
「おっと、こりゃ言い返せないな。強いのはバトルだけじゃないってか」
 レアード、思わず頭をかく。しかしメモをする手は止まらない。ミカンの言葉で出鼻をくじかれた彼は、次に別の切り口から尋ねた。
「それじゃあ、バトル以外の話を聞いちゃおうかな。まず、このジムは君しかいないけど、挑戦者がいない間は何をしているんだい? 相手がいなけりゃ練習もできないんじゃ?」
「そうかしら。一人になってからは、ケイがよく挑戦に来てくれてたし、話しが広まるにつれて色々なトレーナーが来るようになったから」
「確かに、俺とミカンがバトルしてたのって、ジムリーダーになりたての頃が多かったと思う」
 ケイ、ミカンの発言を補強する。レアードとミカンの会話が続いていたので忘れられがちだが、彼も隣で二人のインタビューに立ち会っているのだ。
「そうね、そんな時期もあったわね……。あまり振り返ることはしないのですが、あの頃が最も楽しく過ごせていたような気がします」
「ほう、それは具体的にどういう?」
 ここでミカン、一呼吸置いて答える。心なしか、彼女の目線が逸れたようにも見えた。
「……やっぱり、何も考えずに勝負に打ち込めていたからではないでしょうか。当時はまだ幼く、自分にとって興味のあることには夢中になれていました。今ではほとんど大人と言って差し支えない年齢です、考えることも増えてしまうんですよ」
「……戻れるなら、その頃に戻りたいかい?」
 レアード、もう一歩踏み込む。普通の人間は、およそ重い事情を垣間見た時、それ以上深追いするのは控えるものである。しかしレアードもジャーナリストだ。そこがたとえ地雷原だとしても、危険を顧みず突っ込む。ミカンも表情を変えずに返すが、ほんの少しだけ、眉間にしわを寄せる。
「戻りたい、ですか。私、できもしないことを願わないようにしているので。ポケモンの中には時を越えたり、、操ることができる種もいるそうですが、会える人はごくわずか。そういうことは期待していませんよ」
 ミカンの言葉遣いに、いらだちや諦めにも似た気持ちが混じってきた。突っ込むのは結構だが、限界をわきまえねばならない。レアードは追求をここまでに留め、別の話題を振ることにした。
「ありがとう。悪いね、言いづらいことを色々と聞いてしまって。それじゃあここからはプライベートな質問に入っていこう。まずは……好きな食べ物はあるかい?」
「い、いきなり食べ物になるの?」
 ケイ、拍子抜けする。無理もない。雑誌やテレビのインタビューと言うものは、数多くの質問を行い、そのうちの一部が紙面に載り、電波で飛んでいく。故にすぐに終わるものと錯覚する……。しかし実際はそうではない。レアード、ケイに意図を説明する。
「ああ、これは俺っちの経験則でね。食は文化を、そしてその人の考え方を反映する。食べるもの、食べ方、一人で食べるのが好きか、大勢の方が良いのか。話を聞いていれば、自然と見えてくるんだよ。で、相手に合わせて質問のしかたを変えたりといった調整をしていくのさ。もちろん、読者も親しみ深い話題を提供したいと言う理由もある。ま、こちらの都合と読者の興味が合わさった結果かな」
 一通り、レアードが説明したところで、ミカンが何度かうなずきながら回答しだした。この長い説明も、相手に考える時間を与えるために有効なのだ。
「好きな食べ物……挙げていけばきりがないですが、これ、と言えるものは特に無いように思います。」
「でも、ミカンは量が凄いんだよなあ」
「ちょ、ちょっとケイ!」
 ケイの言葉に、ミカンの顔が耳まで真っ赤になった。レアード、待ってましたと言わんばかりの顔である。彼はわざとらしくリアクションを取った。
「えええ? そんなにたべるのかぁい? こんなに華奢で、モデルやグラビアもできそうなのに、ギャップが出てるねえ。ケイ、具体的にはどのくらい食べるんだい?」
「そうだなあ、この間一緒にご飯食べに行った時は特にすごかったな……。まず手始めにボンゴレを大皿一杯平らげるところから始めて、ドリアを二人前、ほうれん草とベーコンのソテーを山盛り、ピザ丸々一枚、ケーキ半ホール……。あ、あれ? ミカンどうしてそんなに怖い顔をぎゃあああああああああ……!」
「ケイのばかあ!」
 ケイ、全てを言い切らないうちにレアード諸共ジムからつまみ出された。人は見かけによらないとはよく言ったものだが、恥じらいは年相応にあったようだ。

「いやあ、凄い力だったね。大の男を、それも二人もジムの外まで投げ飛ばすとは」
 しばらくして、二人はジム近くの食堂に腰かけていた。窓からは出港する高速船の姿も見ることができる。だが、店内の客の目を引くのは、レアードのそこかしこについたすり傷であった。一方、ケイは慣れているのか大して気にしていない。
「俺は結構受けてるから大丈夫だけど、今日は一段と力が強かった……。あと、あいつ今日は縞パンだったな」
「投げられた時見るのがそことは、本当によくやられてるんだな。ともかく、乙女の秘密に触れるのは、それだけ危険と言うわけだ。この話は載せないでおこう」
 そのような話をしていたら、やって来る、注文の品が。握りずしと天ぷらそば、各二人前。
「ま、とにかくインタビューはできた。少し量が少ないが、何とかなるだろう。ケイにはその礼として、飯をごちそうだ。俺っちもしっかり味見させてもらうよ」
「そりゃどうも。ここ、ちょっと高いから家族と一緒じゃないと来れないんだよね。その分どの料理もおいしいから、レアードも気に入ると思うよ」
「へえ、なら良いけど。こう見えても俺っち、世界中で寿司もそばも食べてきたから厳しいぜ?」
 レアード、お祈りをしてから箸を手に取った。まずはそばを、慣れた具合にすする。
「……ぅぉ……」
 レアード、言葉を出そうとして、しかし食べることに没頭してしまった。つゆを飲み、天ぷらの食感を味わい、ここで七味を投入する。なじむまでの間に寿司もほおばり始めた。アジの脂の乗った風味は、あっさりとしたそばの出汁とよく合う。サケもまた然り。と、ここで再びそばをすする。七味の微妙な酸味と辛みが、先程とは異なるそばの味を引き立てる。心地良い音を立てながら、一気に胃袋に吸い寄せる。みるみるうちに器が空になっていった……。息つく暇もなく、残りの寿司も口の中へ。タコ、ゲソ、ネギトロ……。しょう油は少々つける程度に抑え、素材の味を十分に楽しんだ。最後に、名残惜しそうに緑茶をぐびぐびと。ここでようやく口を開いた。
「……こりゃあ良い、良い!」
「そ、そんなに良かった?」
「ああ。全くもって、どうして俺っちはこんなに幸せな男なんだろう。神に感謝しないといけないよほんと」
 レアード、ごちそうさまの代わりに指を絡めてお祈り。その目は、まるで極上の、そう、一目惚れである。
「ケイ、君は本当に恵まれているよ。リアルな女の子だけでなく、このような魔性の女をも知っているのだから」
「はぁ……?」
「いいか、これは俺っちの持論なんだけどさ……時に食は人を狂わせる! 魔性! 金を出せばいつでも振り向いてくれ、飽きたら別の品に切り替えられる。そんな中でも、ずっと一緒にいたいと思わせる品も中にはいる。そう、まさに理想の女性のように。そんなだから、食と言う沼にはまるなと言う方が無理がある。そもそも俺っちの故郷、オーレでは……」
 レアード、いつになく熱弁をふるう。ケイ、それを適当に聞き流しながら、自分のご飯を食べ続けるのであった。


  [No.1543] Re: 二話「彼女はなぜ強くなったのか」 投稿者:小樽   投稿日:2016/05/04(Wed) 23:30:48   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

こんにちは、ごちそうさまでした!

> ああ、これは俺っちの経験則でね。食は文化を、そしてその人の考え方を反映する。食べるもの、食べ方、一人で食べるのが好きか、大勢の方が良いのか。話を聞いていれば、自然と見えてくるんだよ。
早くも名言が出ましたね。おでんさんが食の描写にこだわっていらっしゃるのはこういうことかと納得しました。私も人の食べる様子や品目に注目してみよう。

> みるみるうちに器が空になっていった……。
勢いよく美味しそうに食べる様子が目に浮かぶようです。「がつがつ」や「美味しそうに」と書かずとも読者に想像させるのは、やっぱりいい文章の証拠なんでしょうね。三点リーダにまた味がありますね……濫用すると味が薄まりがちなのですが、ここはまさにここに三点リーダがあって気持ちいい……という印象です。

ミカンが頑として答えなかったデンリュウを使いだした理由、それから前ほど勝負を楽しめなくなった理由は何か……打ちこめていた理由が何も考えていなかったことにあるなら、今はどんな勝負を楽しめなくなるような思いを抱えているのか……気になるところです。次の更新も応援しています!


  [No.1544] Re: 二話「彼女はなぜ強くなったのか」 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2016/05/04(Wed) 23:39:03   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

こんばんは、お粗末様です。
ミカン…誰がどう見てもこの時点ではヒロインなのですが、思ったより出番が少ないので、要所要所でねじ込みながら物語の華になってもらおうと思います。その辺も楽しんでいただければ幸いです。

ちなみに、まだ鋼タイプが数えるほどしかいなかった時代、例えばポケスタ金銀ではマンタインやドククラゲ、ランターンといった近場の水ポケモンの採用も多かったですね。タイプ相性的にはいい組み合わせだと思います。


  [No.1585] 三話「閑古鳥が鳴くのはどこか」 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2016/08/29(Mon) 23:55:34   45clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「なあ、ケイ」
 ふと、レアードがケイに問いかける。ミカンへのインタビューから数日経った夕方のことである。二人は、「バース」のカウンターで話をしていた。
「何、レアード」
「この町に、ポケモンセンターはないのか?」
「へ?」
 ケイ、返答に困る。言葉の代わりに、「何言ってんの?」と言う表情を返した。
「いやさ、俺っちは船でこの町に、ジョウト地方に来たわけなんだが、探せど探せど見つからなかったんだよ。だからこのネットカフェにいるんだけど、座敷席とは言え腰に来るんだ。できれば宿泊先を変えたいんだよね。もしあるなら、案内してくれないか?」
「ああ、そう言うこと? まあ無理もないか、分かりにくいもんね。それじゃ、今から行く? 近くにあるのはあるけど……。あ、でも荷物はまだ持って行かない方が良いよ」
「そうだなあ、晩飯の時間までまだ時間もあるし……。1日中こんな密室にいるのも、胸が詰まるしね」
 そう言うと、二人は腰を上げ、一時店外に出て行った。「バース」はいわゆるインターネットカフェ、ネカフェである。この手の店は長期滞在の利用者もいることから、一時外出が認められることがある。食事に行くも良し、風に当たりに行くもまた良し。レアードも言っていたが、換気や採光が十分に行われないことが多いため、長くいればいるほど重要になってくる。
 ここで話を戻す。二人が町に出た時、西の山際に太陽の下弦が舞い降りそうな状況であった。それから、しばし大通りを歩く。時間帯の割には人混みもまばら、仕事帰りの買い物客が何人かいる程度である。ケイは特に気にしていないが、流石にレアードは思うところがあるようだ。歩きながら器用にメモを取っている。例のブログのネタにするのだろうか。
「……さあ、着いたよ。ここがアサギのポケモンセンター」
「へ〜これが……え?」
 足を止めたケイが指で示し、それを目で追ったレアードの口が固まった。町の南部、高速船の船着場に近い海岸沿いにある建物。潮風と経年劣化による外装、中から漏れる切れかけた蛍光灯の明かりにより、およそ何かが行われているようには見えない。その姿、冬の海の家を思わせる。
「ここ、俺っちが船を降りてから最初に立ち寄った所だぜ? まさかポケモンセンターだとは思わないでしょ、ここ。夜で暗かったし、ただのボロビルだと勘違いしてた……」
「そうだよねえ。一度そうだと判断したら、中々気付かないよねえ。こんなに古ぼけてるのに、バースより何もかも高いんだもん。そりゃ寂れるさ」
 そう言いながらケイ、「ポケモンセンターらしきもの」の入口に近付く。扉には種々の料金が書かれていた。レアード、目を丸くした
「バースは2時間からで300円、その間は
風呂もパソコンも使えるし、ポケモンの回復もしてもらえる。でもここは、回復で300円。トレーナーってさ、金が全然ないからさ。やっぱり同じ額払うなら、色々できるバースの方を選ぶんだよ。だからこんな感じになってるわけ」
「ちょ、ちょっと待ったケイ。それよりも……」
「何?」
「なぜ、ポケモンセンターに金がいるんだ? タダで当然だろう?」
 レアード、至極当然の指摘をする。ケイは思わず考えこむ。考えたこともなかった、今まで……! よくよく考えれば不自然だ、なぜ誰もが使うセンターで金を取るのか。
「レアード、ポケモンセンターがタダで当然って本当なのか? 俺が小さかった頃にはすでにこんなだったぞ。一体どうしてこんなことに……」
 ケイの疑問に答えたのは、レアードでも自身でもなく、更に別の人物であった。
「あらあら、そこのお二方。あなたがたはニュースを見ないのですか?」
「はあ、誰だあんた?」
 振り返ると、そこには少女が1人いた。一目見て、ケイは度肝を抜かされる。フリルの付いた白のプリーツスカートはひざ上15センチはあろうか。一方でスーツでもないのにまとうワイシャツの色はは深紅。そして細身のベルトは、ヤミカラスの濡羽のごとき漆黒であり、遠くからならモンスターボールと見紛いそうな配色だ。彼女は二人の元に迫り、こう名乗った。
「人に聞く時はまず自分から……そう言うものではありませんか? まあ良いでしょう、手本を示すのも私の務め。私はルナ、以後お見知り置きを」
「……レアード、この娘は一体何を言ってるんだ?」
「……さあ? でも俺っちのカンが働かない辺り、大人の女性ではないようだな」
 レアード、仮にも初対面の女の子に向けて失礼な物言い。ミカンの時とは明らかな違いである。
「それで? 下々の者にどのような御用でしょうか、お嬢ちゃん」
「ちょっと、勝手に子供扱いしないでくださらない? まあそれは置いておくとして……あなた達、一つ聞きたいことがあるのですが」
「な、何を?」
 と、ケイが聞き返したところで、ルナと名乗る少女はやや顔を赤らめる。よくよく耳を澄ませば、彼女の方向から腹の虫が鳴る音が聞こえる。
「その……安く泊まれる場所を知りませんか? そこのポケモンセンターよりもね」



「ほうほう、それじゃあルナちゃんは家を飛び出してきたというわけか」
 数十分後、2人はルナを連れてバースに戻っていた。3人はやはり食堂に座っているが、先程と異なるのは皿が置かれていることである。本来の役目を果たすテーブルは、どこか活き活きとしている。メニューは3品。まず、衣がまだ少しサクサクしているカツ丼。カツとご飯を分けろと言う声もあると思うが、その理由である衣のサクサク感の喪失を防いだ名品である。その脇を固めるのは、箸休めにちょうど良いきゅうりの塩漬け。手揉みの塩漬けは、箸休めと言いながら休ませてくれない美味。また、ごぼうや人参等具沢山の豚汁も、心身をほっとさせてくれる。そして、締めの緑茶。ルナは喋るのも程々に、胃袋の空白を埋めるがごとく食べ続ける。箸を進める。ひとしきり手を付けてから、ようやく一息入れて話し始めた。
「ええ、その通りです。私、言葉の節々にトゲがあるでしょう?
それでよく家族とケンカしてしまうのです。今日はその勢いで屋敷を飛び出してしまい、あてもなく歩いていたところで、ケイ殿とレアード殿に巡りあったと言う訳なのです。本当に、先刻は失礼しました」
 どうやらこのようなことらしい。ケイとレアードは態度の変わりように呆気に取られる。
「あ、ああ。そう言うこともあるよな。な、レアード?」
「まあね。イライラもそうだが、お腹減ってたんだろ? 戦うべきは血糖値だったわけだ。もう大丈夫だろう。ところで……」
 ここでレアード、左手で顎を押さえる。表情も少し真剣になった。
「さっきの話の続き。ポケモンセンターが有料化したのは理由があるんだよね? 聞かせてくれないかな。地元人のケイはともかく、俺っちはここに来たばかりで事情が良く分からないんだけど」
「……地元人の俺も分からないぞ」
 首をひねるケイに、ルナはゆっくりと説明を始めた。
「ええ、それも無理はありません。何しろ私が七歳の時に始まったことですから。ケイ様は私と同い年ということですから、記憶が曖昧なのでしょう。……この有料化が始まったのは、使うトレーナーのためなのです」
「トレーナーのため?」
「はい。トレーナーとして各地を回り、実力を高めていく旅。昔から行われてきましたが、近年の科学や産業の発達により、引退後の仕事や教育で不利になると言うことが問題になっています。これはご存知でしょう?」
「ああ、それな分かるよ。俺っちの故郷のフェナスシティも、旅立ったは良いけど帰ってきてからの食い扶持がないってのが多いんだ」
「ふーん、そんなもんなのか。それで、そのことがポケセンにどう関係してくるんだ?」
 ルナ、ケイの素っ気ない疑問に元気よく返す。先程より少しテンションが上ったようだ。
「そう、それこそが本題です。帰郷したトレーナーが直面する教育格差、それに伴う職不足、そして不安定な生活……。トレーナー達をこのような立場に置くことを防ぐために、ポケモンセンター有料化で得られた利益を使って社会復帰プログラムを立ち上げたのです。この動きを主導したのが、私のお父様なのです。」
「お父様……それは一体誰なんだい?」
「そうでした、私としたことが。私のお父様は……」
 と、ルナが言いかけたその時。彼女のポケットから電子音が鳴り響いた。彼女が取り出したポケギアが音源である。電話だ。ルナ、すぐに応答する。
「もしもし、じいや? どうしたのこんな時間に。……どこにいるか、ですって? それは、あんっ」
 答えかけたルナの言葉、遮られる。ポケギアを奪いとったレアードが、受話器越しの相手と話をし始めた。
「もしもし、突然すみません。私はルナさんを保護しているレアードと申します。……ええ、現在アサギの繁華街で、はい。……ほうほう、明日の午前中に。ずいぶん暗いですし、それが良いと思います。……分かりました、それでは明日の10時に、お待ちしております。はい、失礼します」
 結局、レアードは最後まで受話器を離すことなく電話を切った。ポケギアをルナに返し、通話の内容を説明した。
「悪いね、普通に会話したら長くなりそうだったから。心配させないように俺っちの方で全部話しをつけといたよ。とりあえず今晩はもう暗いから、明日の午前10時に迎えに来るって。場所はアサギ港、あのボロっちいポケセンの近くだ」
「ちょ、ちょっと勝手に決めないでください!」
 ルナ、ご立腹。喧嘩して家を出てきた手前、あっさり帰るのはバツが悪い。そんな具合だったので、レアードが諭す。
「あのな〜ルナちゃん。俺っちだって、君が旅のトレーナーか何かならね、一晩中一緒にいるのも、その後もありだと思うよ。でもね、君には家族がいて、帰るべき場所があってだ、そこで心配している人がいるんだ。そういう人達は大事にしないといけない。俺っちみたいに、心配してくれる人がいない奴だっているんだから……」
「レアード?」
「おっと、おしゃべりが過ぎたようだ。ともかく、今夜は俺っちの部屋で寝なさい、掃除はしとくから。俺っちは一晩中カラオケ部屋でも行くとしよう……それじゃ、早いけどお休み」
 こう話を締めると、レアードはそそくさと自分の部屋に戻っていった。ケイとルナは互いに顔を見合わせ、おもむろに食器類の片付けに取り掛かるのであった。


  [No.1592] 四話「どこで愛情を注ぐのか」 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2016/12/31(Sat) 16:55:05   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「旦那様、そろそろお嬢様のお迎えに参ります」
「ああ、任せたぞストロム。戻り次第、お前は件の準備を進めてくれ」
 朝。陽光差し込む書斎に、2人の男がいる。1人は椅子に座っており、羽織姿に精悍な顔つきが似合う初老の男。もう1人はワイシャツにネクタイ、そしてベストの出で立ちで、直立して話をしている。その態度や言葉遣いから、座る男が上の立場であることが伺える。
「承知いたしました。しかし、珍しいですな。旦那様がお嬢様のことについて、他の者にお任せになるとは。しかも外泊の許可など……」
 座る男、「旦那様」に「ストロム」と呼ばれた男は、尋ねるように言葉を発した。部屋の中では木々のなびく音やポッポの鳴き声くらいしか聞こえない。その分、「旦那様」の言葉は単なる重さ以上の響きがある。
「……どのように声をかけるべきか、こちらも考える必要があるからな。お前も子を育てた経験があるから分かるだろう。電話も全てやってもらったしな。それに……」
「なんでございましょう?」
「ルナも来年には高校を卒業する。私が今の境地に辿り着いたのも、そのくらいの歳だった。ならば彼女とて、自ら考え、選択をすると言う当たり前のことができねばならん。そのために1人で考える時間も、また必要だと考えている」
「ほほう……さすがは旦那様、あの短時間でそこまでお考えでしたか。この爺であれば、せいぜいどちらかにしか至らなかったでしょうな。しかし、ルナお嬢様はそこまで辿り着けるでしょうか?」
 ここまでストロムが話したところで、「旦那様」はデスクのコーヒーを口に含む。
「ふん、その時はその時。だが、私の目利きは間違いない、心配するな。では頼むぞストロム、道中遅くなるなら連絡してくれ」
「かしこまりました、仰せのままに」

「さて、そろそろ時間だな」
 所変わって、アサギシティは船着き場。潮風と白煙の匂いが広がる港の入口に、ケイとレアードとルナはいた。ケイの手元にあるポケギアは、午前9時58分を示している。3人共落ち着いているように見えるが、ルナだけは周囲を見回し目線がせわしなく動く。
「おや? ルナ嬢、やけにそわそわしてるじゃないか。さては俺っちとの別れが名残惜しくなった?」
「ち、違います。そうではなくて、その……」
 ルナ、中々言い出せない。もじもじすると、浜風にあおられ、彼女の腰まではある銀髪がさらさらとなびく。
「お嬢様!」
 ルナの言葉を待たず、別の何者かが3人の方向へ叫んだ。ルナはその声に即座に反応する。
「ストロム! 早かったではありませんか、多少の遅れは気にしないといつも言っていますのに」
「何をおっしゃいますか! 私めがどれほど心配したことか、もっとお考えくださいませ。旦那様も会いたがっておられます、さあどうぞこちらへ……」
「あ、あのう。どちら様ですか?」
 ここでケイ、2人の話に割って入った。ルナを「お嬢様」と呼ぶその男は、ワイシャツの上に赤い蝶ネクタイと黒のベストで決め、これまた黒のスラックスを穿いている。年季の入った革靴も、年齢を感じさせない毛髪も、黒。特に髪型はオールバックでセットしてあり、彫刻のように彫りの深い顔とあいまって中々の威圧感を醸していた。だが、それが世話好きの好々爺になるのだから人は見かけによらない。
「おや、これは失礼いたしました。お嬢様のこととなると、ついつい周りへの気配りを怠ってしまいますな。貴殿らが、連絡を下さったレアード様御一行ですね? 私めはストロム、お嬢様のお世話を中心に、屋敷での執務を取り仕切っております。以後、お見知りおきを」
「お、お嬢様? お屋敷? ルナ、君は一体……」
 ケイ、割り込んだは良いものの話についていけず面食らった。これもまた、若さゆえの飲み込みの悪さが災いしたか。そこにレアードがフォローに入る。
「ケイ、どうやらルナちゃんは、良いとこのお家の令嬢……らしい。俺っちも鵜呑みにはできないが、それで合ってるか、ストロムの旦那?」
「ほっほ、旦那は良かったですな。いかにも、ルナ様はあのエルドレッド様の、たった1人のご子息。将来のジョウトにとって欠けてはならぬお方なのです」
 ストロム、語る言葉に熱を帯びさせてきた。確かに、ルナのこととなると一味違うようだ。
「それ故、一刻も早くお迎えに参上する必要があったのですが、まあ、こちらにも色々事情がありましてな。こうして、一晩おいてから到着した次第であります」
「大人の事情、と言ったところですか。ジャーナリストとしては気になるところですが、聞きますまい。では名残惜しいですが、ここでお別れ……」
 レアードの言葉が、別れの時を告げようとしていた。しかし、今しばし待ったの声がかかる。ルナ本人だ。
「あ、あの! ストロム、少しよろしいですか」
「なんでございましょう」
「その、もう少し帰るのは待ってもらえませんか?」
「ルナ……?」
 思わぬ提案に、一同虚を突かれた。彼女はケイとレアードの方を向き、ストロムに言って聞かせた。
「彼らは私を助けてくださったのですよ。何かお礼をしたいわ。それも、上に立つ者の務めではなくて?」
「……はっ! 確かにそうですな。このストロム、気が回りませんでした。不甲斐ない限りでございます」
 ルナの提案にストロム、頭を掻いてケイ達に頭を下げた。
「レアード様、ケイ様。この度はまことにありがとうございました。このような形で申し上げることとはなりますが、是非ともお礼をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか。これでも私めは、執務の合間を縫って食べ歩きの旅をしていましてな、きっとご満足いただけるやと思います」
「……だってさ。どうするレアード?」
「まあ、良いんじゃないかい。もらえる物はもらっておこうよ」

「うわ、このたこ焼きほんと美味いな! ほら、ルナももっと食べなよ」
 主人に言われて出された礼に、ケイとレアードは少し覚めた様子だったが、一時間もしないうちにそれを吹き飛ばされた。それだけ、ストロムの紹介する食の数々に唸らされたわけである。
 彼らは現在、船着き場に近い待合所の食堂街にいる。各所から船が出入りする都合、異国情緒漂う香りがそこかしこからやって来る。形式も、座席が用意されている店や急ぎの旅人向けのテイクアウト等、それこそ多種多様だ。その中で現在食べているのは、たこ焼き。黄金色の、だし香る生地の中に迷い込んだ、たこの足。みずみずしいネギもふんだんに混ぜられており、しかも焼き加減は絶妙。陳腐な表現であるが、外はパリパリで中はトロトロ。三種類の食材と二種類の食感で、1舟で何度も美味しい。しかもあつあつだから、すぐに食べることはできず、その間に会話も弾む優れものである。
「ふふふ、私めのチョイスはいかがですかな? お嬢様に、限られた予算で最高のお食事を供するため、全国を回りながら食材探しに奔走する傍ら、調理法の勉強も兼ねて食べ続けてきたのですよ。もう十年以上は続いているでしょうか。これらはお嬢様の好き嫌いを克服するのにも大変役立ちました」
「へぇ、ルナちゃんもそう言うところあったんだ。出る品みんな平らげちゃうのに」
「ええ、それもこれもストロムのおかげです。いつも私達のために色々手を尽くしてくれるんです」
 ルナの「お褒めの言葉」に、ストロムは思わず感涙。
「お、お嬢様にそのように言っていただけるとは……!」
「ただ、中々外出をさせてもらえないのはなんとかしてもらいたいですわ。おかげで、学校でも友人があまりできないのですよ」
「え、そんなことしてるの? 今時そんな話聞いたことありませんよ、ストロムさん」
 ケイが驚くのも無理はない。彼はある種、ルナと真逆の生活をしているのだ。ストロムはたこ焼きを一個口に入れ、飲み込んでからこう切り出した。
「……旦那様、お嬢様の父君のお達しなのです。『将来のジョウトを、そして世界を担う存在は、その交友にも気をつけるのは当然だ』と。私めには子がおらぬ故、どのような育て方が良いのか検討はつきませぬ。しかし、その中で最も良いと思われる形で、お嬢様に接することはできます。こうして日々の食事に神経を尽くすのも、そうした心の表れだと、思っていただきたいのです」
「ストロム……」
 ストロムの言葉には、確かに愛情が詰まっていた。例え実子でなくても、力の限り育てれば、応えてくれる。ルナを見ながら、ケイ達独り者はそのような事を考えるのであった。
「あ、あっつ!」
 ただし、だからと言って焼きたてのたこ焼きを丸ごと口に入れてはいけない。


  [No.1593] あらためまして感想 投稿者:小樽   投稿日:2017/01/27(Fri) 22:58:03   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 こんばんは、ふらりと小樽です。
 4話まで進んだところでまた1話から戻ってきたのでざっくり感想を残しますね。


▽銭湯
銭湯を含めてお風呂は基本的にはリラックスするところでもあるので、ケイとレアードが比較的ゆるーく出会いを迎えて、このシーンの外でもちょっと語らいながら風呂から上がってきたんだろうなーと想像が捗ります。


▽1話終盤
>「……要するに、小銭を稼ぐ無職なんでしょ」

辛辣すぎる(すき)。


▽インタビュー
緊迫感って、何もポケモンバトルだとか命のやりとりだとかに限らない。プロ(プロ?)の聞き手と、プロのジムリーダー。どこまで掘り下げて聞けるか、どこまでで矛を収めるか。ミカンの機嫌を損ねたのが読者にも分かる場面があって、その駆け引きにいい意味で表情がこわばりましたね。


▽食事(そば)
刺激を求めて読みに来る読者にとって、三大欲求のひとつに訴えかけてくるこれはキツい(賛辞)。いっぺんに風味や食感を書き立てるんじゃなく、レアードがそばを啜る動作に合わせて描写が進んでいく。私も立ち食い蕎麦を食べるのが好きなのですが、食べているときに感じるそばへの感想がまさにこういう具合に段階的。だからリアリティがあってなおさら美味しそうに感じます。今後もぜひ『バースに集え!!!』では飯テロを推進していただけたらなあと(?


▽2話ラスト
> レアード、いつになく熱弁をふるう。ケイ、それを適当に聞き流しながら、自分のご飯を食べ続けるのであった。

さっくり流されてて涙が止まらない。


▽ポケモンセンター
そろそろ本題へと進んでいきそうな予感がしてきましたね。


▽ルナちゃん
由来を知ったときの衝撃。確かにそうだった。
恐らく生活には苦労することのないであろう彼女に、有料化されたポケモンセンターや、その他この世界のトレーナー制度はどう映るのかなーというところに関心があります。恐らくごくふつうのケイやレアードとは違った視点を持っているんじゃないかと思いました。


 ◇


 そろそろ長編の流れが見えてくるころかな? と思います。
 次回も楽しみにしていますね!ヽ(≧∀≦)ノ


  [No.1594] Re: あらためまして感想 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2017/01/28(Sat) 00:56:58   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

返す刀で感想ありがとうございます。
>
>
> ▽銭湯
> 銭湯を含めてお風呂は基本的にはリラックスするところでもあるので、ケイとレアードが比較的ゆるーく出会いを迎えて、このシーンの外でもちょっと語らいながら風呂から上がってきたんだろうなーと想像が捗ります。

出てから必殺の瓶牛乳orコーヒー牛乳の流れにしようと思いましたが、話題がなかったのでカットしました。1話だけ食事シーンないんですよね。

>
>
> ▽1話終盤
> >「……要するに、小銭を稼ぐ無職なんでしょ」
>
> 辛辣すぎる(すき)。

読者の感想で妄想が広がる作者の鑑なのでこれでひらめきました。ケイって旅もしてないし働いてもないから金を稼ぐって大変なことなのがわかってないのを表せていいと思いました(便乗)

>
>
> ▽インタビュー
> 緊迫感って、何もポケモンバトルだとか命のやりとりだとかに限らない。プロ(プロ?)の聞き手と、プロのジムリーダー。どこまで掘り下げて聞けるか、どこまでで矛を収めるか。ミカンの機嫌を損ねたのが読者にも分かる場面があって、その駆け引きにいい意味で表情がこわばりましたね。

レアードも色んな所に足を運んでいるので、そのへんの引き際はわきまえていると思っています。町に残ればいくらでも見聞きできますしね。

>
>
> ▽食事(そば)
> 刺激を求めて読みに来る読者にとって、三大欲求のひとつに訴えかけてくるこれはキツい(賛辞)。いっぺんに風味や食感を書き立てるんじゃなく、レアードがそばを啜る動作に合わせて描写が進んでいく。私も立ち食い蕎麦を食べるのが好きなのですが、食べているときに感じるそばへの感想がまさにこういう具合に段階的。だからリアリティがあってなおさら美味しそうに感じます。今後もぜひ『バースに集え!!!』では飯テロを推進していただけたらなあと(?

???「おばあちゃんが言っていた…食という字は人が良くなると書く、と」
同じ釜の飯を食うという古臭いですが案外手っ取り早いコミュニケーションのツール。最終話までどこかしらに食べ物をねじ込むので、おすすめの料理とかあったら教えて下さい。ネタ切れなんです(切実)

>
>
> ▽2話ラスト
> > レアード、いつになく熱弁をふるう。ケイ、それを適当に聞き流しながら、自分のご飯を食べ続けるのであった。
>
> さっくり流されてて涙が止まらない。

ケイは地元民ですし、アサギという外国の風が入ってきて洗練された街であれば、どうしても食の意識が高くなるのもあります。ですのでレアードが感動しても「これくらい普通だろ?」と言っちゃったりしてもおかしくないのがケイ。

>
>
> ▽ポケモンセンター
> そろそろ本題へと進んでいきそうな予感がしてきましたね。
>

このお話を考えつくに至った原点ですね。出番は少ないですが、後半では色々出てくると思います。

>
> ▽ルナちゃん
> 由来を知ったときの衝撃。確かにそうだった。
> 恐らく生活には苦労することのないであろう彼女に、有料化されたポケモンセンターや、その他この世界のトレーナー制度はどう映るのかなーというところに関心があります。恐らくごくふつうのケイやレアードとは違った視点を持っているんじゃないかと思いました。
>

ルナとブラッドが抱き合ってる画像が脳裏をよぎったからね、しかたないね。
ルナは今回みたいに親とケンカしたりすることもあるけど、色々あってとても尊敬しているわけで、これがいい方向につながると信じてるフシはあります。大事なところでスペるところはどうしようかなあ…。

>
>  ◇
>
>
>  そろそろ長編の流れが見えてくるころかな? と思います。
>  次回も楽しみにしていますね!ヽ(≧∀≦)ノ

春には5話を出せるようにしたいと思います。
お会いした際にアドバイスでもいただければ幸いです。


  [No.1612] 五話「その目に光るものは何か」 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2017/10/13(Fri) 22:51:20   37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「今日の晩飯は何にしようかな」
「……なあ、ケイ。少し聞きたいんだけど」
 ルナとの出会いと別れから数日たったある日。ケイはレアードの入っている部屋に馴染んでいた。部屋と言っても、ここはネットカフェ。二メートル四方の空間のうち、半分強を革張りのウレタンマットが占め、さらに靴を置くために一角が低くなっているために二人が座ればもう狭い。しかし、もう半分のスペースは引き出しの上にテーブルが敷いてあり、一段高い。そこに荷物を置けるので、圧迫感は狭さほど無い。
 そんな場所で、レアードはケイに一つ尋ねた。
「お前さん、学校には行ってないのか? 平日でもぶらぶらしてるとこ見るし、初めて会った日も休日じゃなかっただろ?」
「ああ、そのこと。俺は学校には通ってないよ。旅に出てポケモンリーグを目指すつもりだったんだけど、色々あってさ」
 ケイ、この話を始めた途端顔から笑みを隠せない。これにはレアードも困惑する。
「なんで予定通りに進んでないのに嬉しそうなんだよ」
「そりゃだって、俺が有名になる姿を想像しちゃうじゃないか。それにしても、どうしてまた今になってそんな?」
「いやさ、さっき外で学生らしき集団がいたもんでね。どうやら卒業パーティーにでも行くみたいだったよ」
「ふーん。ま、俺のことなら心配いらねえよ。ポケモンリーグにさえ行けばなんとかなるさ」
 そう言いながら、ケイは脳天気に食事のメニューを開く。そして壁にかけてある内線に手を取った。ネットカフェの個室にはホテルのそれと同様、フロントと連絡を取るための内線が用意してある。食事の注文もできるが、衛生上の理由から食事スペースに移動するか個室の扉を開けて食べなければならない。ケイ達の場合は、テーブルがいっぱいなので注文後に移動することとなる。
「ん、あれは……」
 ふと、部屋の扉の隙間から、ケイの見覚えのある姿が垣間見えた。背中だけだが、グレーのパーカーを羽織り、色あせたジーンズのポケットに手を突っ込むその姿。それが食事スペースの方へ歩いていったのだ。ケイは一旦受話器を置き、追いかけていく。レアードもこれに続く。
「おいセギノール、こんな所で何してるんだ?」
「うわ! ケイ……と、そちらの方は?」
 パーカーを着ていたのは男、ケイに声をかけられて飛び上がった。状況を把握しかねるレアードは、例の如く話に入っていく。
「お話の所申し訳ないが、お名前を教えてもらえるかな? 俺っちはレアード、旅のジャーナリストだ」
「あ、はい。私はセギノールと申します。初めまして」
 セギノール、深々とお辞儀をした。視線が中々安定しない。口をモゴモゴさせてはいるがよく聞こえないので、代わりにケイが説明し始めた。
「あー、悪いなレアード。こいついい歳してこんな話し方なんだ。大学生なんだけど、たまにここに立ち寄るんだ。それにしても、今日はまた何かあったの?」
「えっと、いやあ……」
 セギノール、埒が明かない。と、ここでレアードが手をぽんと叩いた。
「お、セギノール君って、もしかしてさっきすれ違った学生集団にいなかったか?」
「え!? さ、さあ……?」
「いや、隠さなくても良いだろう。ケイ、彼はもしかして?」
「そう言えば、今年で卒業のはずだな。だったら尚の事分かんねえ、なんで1人なんだ?」
 ケイとレアード、両者の追求に、セギノールはあっさりと陥落した。とてもバツの悪そうな表情で頭をかきむしり、状況の説明を始めた。
「……2人の予想通り、私はひとりぼっちなんです。自宅通いの私と下宿住まいの同期とではどうしても生活リズムも違いますし、なにより私自身がこの口下手。でも4年間でただの1人も友達ができてないなんて、家族に言えるわけもなく、ここに来たというわけです」
「……それはまあ、何と言うか」
 レアード、思わず目を背けた。大学とは自由なものであるが、その分セギノールのような極端な例が生まれても不思議ではない。しかしいざそのような例に直面すれば、誰しも戸惑いを隠せないものなのだ。
 だが、この男は違った。何かアテがあるのか、それともこの現実を他人事と捉えているのか。ともかくケイは軽いノリでこう切り出した。
「仕事かあ。それだったらさ、今から俺の家に来ないか? 晩飯も食べて行きなよ」
「え、でも……」
「……ええい! 若い者は人の厚意に甘えとけ! 歳下とかそんなことは気にせずに!」
 レアード、痺れを切らす。彼はケイに目で合図すると、そのままセギノールを引っ張り外に出るのであった。

「……と、言うわけでして。こうしてお邪魔しております」
 しばらく後。3人の姿は別の場所にあった。どこかの家の食堂、年季の入った台所に特売のチラシが貼られた冷蔵庫。湯気を放つ炊飯器と鍋。鍋からは、粗挽きの大豆がほのかに香る味噌の匂い。今まさに、3人の食卓が開かれようとしていた。だが、今ここにいるのは4人である。4人目は、台所に立って背中を向けている。彼はセギノールの話に何度も頷いていた。
「うんうん、わかるぞお。仕事が無いってのは、辛えものだからな。みんな外に出て働いてんのに自分だけ仕事探しの日々……そんな昔なじみを何人も見てきたよ」
「へえ、じゃあ父さんに相談したのは正解だったな。何か良い案が出るかも」
 4人目に対し、ケイが「父さん」と呼んだ。つまり、ここはケイの自宅で、3人に食事を振る舞おうとする4人目の男こそ、ケイの父親なのである。ケイの言葉にレアードも同調する。
「確かに、アキノブさんのご職業は弁護士だから、色んな人の事情を知ってるだろう。中には人手の足りない会社の話もあるかもね」
「……今でこそ、働き口が無いと嘆かれて久しいが、それは旅に出て結果が伴わなかった者の話。町に残り、学を磨いた者には、今でも相応の職がある。口にせんだけでな」
 父・アキノブは茶碗に飯をよそい、鍋の味噌汁を人数分分け、テーブルに並べた。テーブル中央には漬物、納豆、卵と調味料が置かれている。いつでも食べられる状態が整った。
「あるよ、仕事の話なら。だけどちょっと遅かった、昼間に1人紹介しちまってな。そいつと枠を取り合っても良いってのなら、明日にでも連絡しといてやるが……どうする?」
「……ぼ、僕は……」
 セギノール、しばし言葉が詰まる。食卓にいくばくかの沈黙が流れた後、小さい声が絞り出された。
「……ます」
「ん?」
「僕にその会社、紹介してください。やります」
「……あいわかった! それじゃ、辛気臭い話は終わりにして飯にしよう! 終わったら順に風呂に入ってくれよ!」
 アキノブ、セギノールの返答を聞くやいなや合掌。すかさずケイもこれに続いた。セギノールとレアードは一瞬状況が掴めなかったが、共に真似して手を合わせる。
「はい、いただきます!」
 さあアキノブの号令とともに戦場の火蓋は切って落とされた。食卓にある食べ物という食べ物は奪い合いである。勝手を知るアキノブ・ケイ親子は速攻で卵を手に取り器に割り、更に納豆も投入して混ぜる。程よく混ざった所で醤油を適量垂らして2,3周。熱々の白飯にかけ、がっついた。白身と黄身と、そして納豆白米と。織りなす味、食感、喉越し、全てがパーフェクトな上に栄養価も高い。ここに味噌汁と漬物が脇を固めるため最強である。レアードとセギノールも負けじと冷えた空腹の体に温かい食事を取り込む。温かい食事はそれだけでご馳走と、どこかの島では言われるそうだが、それは真実なのだろう。セギノールの目からは薄っすらと光るものが流れていた。