窓の向こうの景色が,ひたすら右に流れていく。既に山や街路樹は青々とした葉を茂らせている物が多く,花がまだ付いているものは少なかった。
カオリは通路を挟んで騒ぐクラスメイト達の声を嫌だとは思っていなかった。人それぞれだと思っていた・・というより,諦めていたと言った方がいいだろうか。
「あんまり騒がないでよ」
目の前でカゲボウズ達がキャンディの袋に顔を突っ込んでいた。ガサガサという音は,車内の騒音に掻き消されて聞こえることはない。なので,袋が勝手に動いていることに気付く者はいない。
・・だが。
「ミスミ,さっきから何見てるんだい」
カオリの席から四つ斜め後ろに,ミスミとミコトが座っていた。車内だというのに,ミスミはノートパソコンを起動させている。
「カミヤ・カオリ。私達のクラスメイト。誰とも群れることなく,常に一匹狼。時折影の形が縦に増えていたりと,とにかく謎の多い人間・・と」
「ちょっと」
ミコトがノートパソコンを取り上げた。
「話を聞かないなら,これ壊すよ」
「ミコト」
いつになく真剣な表情だったので,ミコトはパソコンを戻した。
「何だよ」
「ミコトは気付いてないの?この前,カミヤさんと話した時のこと」
「カミヤ?」
駄目だ。全く気にしてない。
「ああ,彼女のことか。うん。ちょっと面白そうだとは思ってるよ。
・・で,どうしたの」
ミスミは一呼吸置いて言った。
「私,今回の旅行で彼女とグループを組む。隠してる何かを探し出すのよ」
カオリは外をつまらなそうに見ている。時折手元にある本を広げるが,特に変わったことはない。
ただ,彼女の上で何かの影がふわふわ浮いていた。
時は,高校一年生の春・・の終わり。生徒の親交を深めるために二泊三日の合宿を計画し,それに向かうところだった。
中等部から来た子も多く,既に仲良しのグループは出来上がっていたため,意味があるのかは不明だったが,とにかく私・・ミスミは楽しんでいた。
・・この時は,まだ。
電車から降り,バスに乗り換えても彼女はまだ一人だった。私は横の席に座る。
「カミヤさん,一緒のグループにならない?」
「いいよ」
あまりにもアッサリ言われたので,私はひっくり返りそうになった。
「え,いいの?」
「別に」
それだけ言うと,カミヤさんは窓の外の景色に視線を移してしまった。
こうして横顔を見ると,なかなかの美人だと思う。男子が憧れのまなざしで見ていることはあるが(女子が恨みのこもった目で見ていることはよくある)それでも,表情一つ変えない。
街の中心部まで来た時,クラスメイトの一人が何かに気付いて声をあげた。
「あれ」
山側の景色を指差している小高い丘の頂上に,城があった。
「あれ,なんですか」
「お城のことですか?あれは,雷雲城。その昔,この土地が戦によって平民が敵軍の兵に焼き殺されそうになった時,空から沢山の雷が落ち,人々を救ってくれたそうです。その出来事を祭ったのが,この城だと言われています」
ガイドさんが詳しく説明してくれる。
(今度の小説のネタに使えるかも)
「・・・」
カオリは,その城をジッと見つめていた。