――そうだ、ポケモンマスターになろう。
絶対なろう。何がなんでもなろう。どんな手を使ってでもなろう。最悪試合前にチャンピオンや四天王の皆さんが使われる水道に下剤を混ぜて猛烈な便意をもよおさせておきながらなおかつバトルを断れないような状況を作ってでもなろう。
いいんだ俺はチェレンと違って強くなりたいわけじゃない。ポケモンマスター、イッシュの頂点、それで足りなければ全世界のポケモンバトルのカリスマ、その称号だけあればいい。
実を言うと、そこまでポケモンが好きなわけでもない。実を言うと。進学が面倒だから旅には出ようと思っていたけど、まあ適当にポケセンで寝泊りしながらバトったりなんだり好きにやっちゃえばいいかなと思っていた。
しかし、もはや事情が違うのだ。
「トウコってさ、彼氏とかつくらないの?」
↑この一言を言うだけでもどれだけの度胸を掻き集めたことか。
「うーん、もう好きな人いるんよねー」
↑そしてこの一言にどれだけの衝撃を受けたことか(しかし後に「実はトウヤなんだー」って続いたりしないかなあと一握りの期待を持っていたためまだ石にはならなかった)。
「えっ、誰」
「なに、知りたいの」
「いっ、いや、ちょっと気になるけどさ」
「聞いてもばかにしないでよ?」
「うん」
「……チャンピオン」
は? 何の?
って聞くじゃん。聞くよね。普通聞くよね。
「いまは……プロレスかなぁ」
彼女はまったく素直な顔で言った。
「プロレス……? いまは?」
「うん。このあいだのマキシマム仮面戦で勝ってたゴッド沢村さん」
知らない。
「強い人が好きなんだよねー。チャンピオンとか。いろいろ勝ち抜いて一番になるってすごくない。かっこいいよねー」
ものすごい衝撃を受けた。
頑張るのも勝ちに行くのも面倒だし大変だし辛いしがっついてもみっともないから常に「まずまず」のランクに掴まっていられるよう、それなりの努力とそれなりのサボタージュを掲げてきた自分を一気に否定されたような、というかそういう人タイプじゃないわって言われたような。……いやいやぁ、あくまで好きっつっても憧れレベルなわけだしさぁ、何ら気にする必要は……でも「彼氏」っつって振って「チャンピオン」だよな、つまりどういうこと? まずまずに甘んじてるような男には興味ありませんってこと?
「だからさー、格闘技でも、スポーツでも、ポケモンでもやっぱりチャンピオンだよ」
俺は半分息をしていなかったので、後に続くトウコの「チャンピオン語り」はほぼ耳から耳へ抜けていってしまった。が、ぎりぎりで鼓膜に引っかかった「カントーのすごいポケモントレーナー」の話だけがやや記憶に残った。チャンピオンを倒しながらもさらなる高みを目指して連盟への参加を断った少年がいるらしいと。それを彼女は「とても素敵だ」と言ったような気がする。
そして、それぐらいなら出来るんじゃないかと、閃いた。
正直言って運動は苦手中の苦手である。恥さらし必須の運動会では一週間前から欠かさず雨乞いをする(テニス部に所属していたトウコが短距離走を難なくこなしているなか、みっともなく同級生に抜かされていく自分の姿を彼女に晒すのはものすごく苦痛だった)。勉強も頑張れば少しは違うのかもしれないが、頑張る才能というやつが俺にはないのだ。続かない。
しかしポケモンならば?
つまり強いポケモンを捕まえて、そいつを鍛えるだけで、自分はなんら身体を鍛えたり脳を酷使したりする必要はないのだ。なんてラクチンなんだポケモントレーナー、将来は絶対ポケモントレーナーになろうとは前々から思っていたが、先日の適正診断で担任に「ポケモンと息が合っていて素晴しい。トレーナーの素質があるよ」と言われ、実際に模擬戦でも好成績を収めた俺ならば死ぬ気で頑張ってなおかついろいろ……いろいろすれば、チャンピオンを倒すくらいなんとかなるかもしれない。リーグ常設の勝ち抜き戦中継なんか見ても、わりとぎりぎりまで四天王倒してる奴多いし。まだチャンピオンを拝めた奴は見たことがないが、四天王戦なんかもよくよく見てみればポカミスとかで落ちるのばっかりだし、あれなら俺でもいけるかもしれない。少なくとも今まで見た中では、そんなに強いトレーナーって居なかった。どいつもポケモンといちゃいちゃしてるだけ。あの様子ならぜったい俺のほうがバトル強くなれる。
とりあえず、ポケモンならイケる。ポケモンマスターになろう。そう思った。
彼女に告白するのはその後にしよう。そうだ、チャンピオンを倒した後、インタビューとかで「彼女にこの勝利を捧げます(キリッ」とか言うのも……いやいや、さすがに痛いか。チェレンじゃあるまいし。
ともかく全ては明日だ。明日トウコの家に送られてくるポケモンを貰って、トレーナーになる。そしてもう学校に行くことも宿題に追われることもなく自由に旅をして、ジムリーダーぶっ倒しまくるんだ……。
【夢みるトウトウ☆ハートブレイク】
そんなことを考えていたらなかなか眠れず、いつの間にか布団で時間が過ぎていた気がする。
せいか。寝坊した。
ぬくぬくと暖かい布団の中からみょうに明るく感じる部屋を見回し、ねみーとか思いながら身体をむくり起こして、何者かの手によって止められている目覚まし時計を見る。
10:34。集合時刻は9:00。
うん。過ぎてる(笑)。
……笑えねえよ! えっなにお母さん起こしてくれなかったの!? 普段口うるせえくせに大事なときに使えないな畜生! 着替え! 顔! 朝飯! うわああああああああああ
***
【描いてもいいのよ】
【批評していいのよ】
注意書き。
*原作のキャラクター(主人公、チェレン、ベルなど)が作者のたいへんな曲解を受けて登場します。
*調理済みのポケモンが食卓に出されます。
*登場人物による品のない発言がたびたびございます。
*作者は連載ものを五話以上続けられた経験が生涯通してたった一回しかございません。
*それもそのはず、基本的に見切り発車で今後の展開とかほとんど考えていません。
*黒い雨? ああ、そんなものも降ったね。
*早くも二の舞を踏みそうなかほりがします。
暇つぶしにホワイトを最初からやり直した結果、このような事態を招いてしまったことをたいへん遺憾に思います。
読んでしまったみなさま、本当に申し訳ございません。
勢いでやった。今は後悔している。しかし公開している……。
とりあえずまずは五話書けるように、頑張ります。