毎日、毎日、上司のおじさんのお茶汲みばかりさせられる。部長からは蔑まれる。
そんな女性が下に見られてきつい会社員の仕事も、今日は休み。
たまの休みに、バトルサブウェイに行くのが、私の息抜き、そして、ストレスの捌け口。
したっぱ社員の私にも、バトルの腕は多少なりはあったみたいで、ノーマル車両なら2周くらいいく。バトルカンパニーに就職すれば良かったかと、今は思う。
ただ、サブウェイマスターとはまだ一戦も交えたことがない。噂ではかなりの強さらしい。
シングルやダブルは普段からしているから、今日は気分を変えて、マルチに乗ってみよう。
ん?何か変だな。
……しまった。
私、一人で来たんだった!
誰と乗ろうか。マルチトレインはシングルやダブルと違い、2人いないと、乗車拒否される。
諦めかけた、その時だった。
「おぉ、サカモトやん!」
え……?
「ケンジ、先輩……?!」
高校の先輩の、オオバヤシ ケンジ先輩。軽音部の部長で、イケメンで、楽器もギターを始めとしてどれも上手く、女子生徒の憧れの的だった。私も憧れてたけど、あまり話せなかった。そんなにかっこいいのに、彼女はいなかったらしい。他の女子のアタックは凄かったけど、それでも先輩は彼女を作らなかった。
「何で、バトルサブウェイに来たんですか……?」
「仕事がいきなり休みになってん。サカモトは?」
「……私はもともと休みで、ここに来る予定でした。」
「まさか、一人でマルチに乗ろうとしとった?」
「パートナーを探してました。」
(本当は先輩の言うとおり、乗ろうとしてました。)
そこから、話は何でもないことに飛ぶことになる。
「今何の仕事しとるん?」
「会社員です。ケンジ先輩も、最近テレビで見ますよ。」
「ありがとう。」
ケンジ先輩は、今、タレントをしている。若い女の子に人気なんだ。今だって、周りに女の子が一杯。私、睨み付けられてる?
「先輩、マルチトレインに一緒に乗りませんか?」
私が言った直後だった。
「私でしょ!」
「私でしょ!」
「私でしょ!」
次々女の子が言い寄ってきた。
「嫌、俺はこの人からパートナーのお誘い受けてんねん。」
ケンジ先輩は、私の肩をトン、と叩いた。途端に女達の顔色が変わる。皆、一様にギロリと私を睨んで言った。
「あんたがいるからオオバヤシくんは私達を選ばないのよ!!」
「あんたなんかいなくなればいいのに!」
そう言ってポケモンを出して、一斉に私を狙ってきた!
ヤバい、と思った。
私殺される、と思った。
「しゃあないなぁ、悪い女達をとっちめるか。」
そう言って、ケンジ先輩はボールを投げた。
黄色の、大きめな電気蜘蛛、人よりはまだ小さい子、が姿を見せたんだ。確か、あの子、高校の頃は手乗りサイズだったはず。
「デンチュラ、……放電。」
さっきの女達のポケモンは、全員そのまばゆい光の前に屈した。
ケンジ先輩は、強い。しかも、かなり。
「お前らみたいな奴と、俺は組みたないねん。」
「何であの女がいいのよ!そんなに綺麗じゃないのに」
「お前ら、顔は仮に化粧で綺麗になっとるとしても心どす黒いやんけ!俺はお前らが集団で一人を攻撃しようとするんが腹立つねん!文句あるならバトルでも口論でもサシでやれや!!」
女達は散り散りに逃げていった。そのうち一人はキッと私を睨んで去った。
口パクで、こう言っていた気がした。
「ゆ、る、さ、な、い」
落ち着いてから、ケンジ先輩はこう切り出した。
「さっきの、お前のお願い、」
「乗車してくださいってやつですよね?」
「おぉ、そうや。俺からも言ったる。……俺もサカモトと一緒に乗りたい。文句はないか?」
「ないです!」
こうして、私はケンジ先輩と一緒にバトルサブウェイ・マルチトレインに乗ることになった。
車掌さん(サブウェイマスター)のところにたどり着けるのだろうか。
あの女達に邪魔されないだろうか。
駅員さんに案内され、ポケモンを最大限元気にしてもらい、私達は乗りこんだ。
続く
マコです。バトルサブウェイのマルチトレインの乗車の時に、実際にこういうやり取りがあるのかなぁ、と思い、話を作りました。
女の嫉妬の気持ちが怖いって書いていて思いました。
学生時代に片思いしてた相手と、もしこういう状況になったら、皆さんはタッグを組めますか?
【意見募集中なのよ】
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】