ポケットモンスター、縮めてポケモン。この世界にはいたるところに多くの種類のポケモンが……
棲んでいない。
ポケモンが生物で生きていられるのは、縦と横の二次元の世界。私たち人間はテレビやパソコン、ゲームの画面の中でしか動くポケモンを見ることができない。少なくとも私はそんな世界に生きている。
今ではこんなにひねくれている私も、十歳になったら博士からポケモンを貰って旅に出ることを夢見ていたし、各地のジムを回ってポケモンマスターを目指すつもりでいた。でも、当時私よりも随分と年上だったサトシはいつまでも十歳のまま。そんなこんなで私はいつしか十歳を超えていた。自分にポケモントレーナーの素質がなかったから博士が私にポケモンを渡すのをやめたんだと本気で悩んだ事もあった……今では完全な黒歴史だが。
そして、私はやっと気がついた。ポケモンはこの世界には存在しない。ポケモントレーナーも、ポケモンマスターも、存在しないんだ……と。私は気がつくのが遅すぎたせいで、夢と希望を失い、この世界に絶望した。なんてつまらない世の中なんだろう。この先、なんとなーく勉強して、なんとなーく就きたい職業を見つけて、なんとなーく働いて、なんとなーく死ぬのか。そっか、そっか。この世界ってこんなにつまらなかったんだ。
そんなこんなで私は今、普通に中学校に通っている。授業なんて聞かずにひたすらポケモンの絵を描いて、部活に入らずに家に帰り部屋でポケモンとこんにちはしてゲームの世界にダイブする。これで成績が悪かったらお母さんも何か言うんだろうけど、あいにく私はそんなに頭が悪いわけでもなかった。
ある日の昼休み、クラスの女の子たちが「あの子カッコイイよね」とか「昨日のドラマ見たー?」「見た見た! 面白かったよね! あのシーンで……」とか言ってる中で、私はやはりポケモンの絵を描いていた。あまりに集中していたため、前の席の子が後ろを振り向いて私のことを見ていることにさえ気がつかなかった。時計を確認しようと前を向いたとき、私はその子と目が合った。そりゃもうバッチリ。ビックリしすぎて少しの間目が逸らせないくらい目が合った。
「いつもポケモンの絵、描いてるよね?」
「えっ、あっ、うん」
「それでいつも色は塗らないよね? どうして?」
そう、私はいつも絵に色を塗ることをしなかった。なんというか、色塗りが苦手なのだ。水彩やコピックに挑戦したこともあったが、ことごとく失敗し、せっかくの絵をめちゃめちゃにしてしまったこともある。それからというもの、絵に色を塗ることがなかったのだ。
でも、どうして彼女がそんなことを知っているのだろう。もしかして、私が気づかない間に私のことを見ていたのだろうか。でも、確かに私は絵に集中すると周りが見えなくなる。今日目が合ったのもいい例だ。
「あの、えっと、色を塗るのが……苦手で」
同年代の子と話すことが少ないせいか、会話をしようとすると究極にテンパる。顔が赤くなってるのが自分でもわかる。あー恥ずかしい!
「あのさ、マスキングテープって知ってる?」
「マスキング……テープ?」
「うん。色のついたテープなんだけど、それを貼ったらいいんじゃないかなぁと思って」
「貼る?」
「うん」
絵に、テープを貼る。そんなこと、考えたことがなかった。確かに私は手先が器用だし、テープを貼るくらいならできそうだ。
彼女は私の顔を見てにっこり笑うと、こう言った。
「ねぇ、あのさ、今日ヒマ?」
「えっ」
「私、今日ヒマなの。だから、家に遊びにおいでよ。マスキングテープいっぱいあるよ」
「でも……」
「私がヒマなの!」
彼女は大分強情で、私が返事をする前に彼女の家に行くことが決定してしまった。よく考えてみたら、中学生になってから誰かの家に遊びに行くのは初めてかもしれない。
「私、春風鈴(はるかぜ りん)。よろしくね」
「えっと、私は佐藤小雪(さとう こゆき)、です」
「よっし、じゃあ放課後学校の前の公園に集合ね! 絶対くるんだよ?」
「うん」
なんだか、波乱の予感。でも、いいかもしれない。私、久しぶりにワクワクしてる。家にこもってゲームするよりずっといい。
この絵、チュリネに色がつく。今まで白黒だった私の絵に色がつく。それだけで放課後がとても楽しみだった。私は描いていた絵の線を整え、ボールペンでペン入れを始めた。なんだかいつもより線が綺麗にすらすらと描けた、気がした。
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なんだか連載してみたいなーという軽い考えで書かせていただきました。Linkみたいな短編の塊じゃなくて、ちゃんと続いている話を書いてみようと思いまして。何せ長い文章を書くのが苦手なもので、ちょっとした苦手克服のつもりです。はい。
マスキングテープは万能です。私も友人に教えてもらうまで白黒の絵ばかり描いていました。マスキングテープの存在を教えてくれた友人には本当に感謝しています。多分。
このあと、ポケモンとマスキングテープがどのように絡んでいくのか、ちょっと自分でも行き当たりばったりな気がしてなりませんが、頑張ろうと思います。それなりに。