ここはジョウト地方の南東に位置する街、ワカバタウン。
ポケモンの研究者として有名なウツギ博士の研究所のあるこの街に、一軒の孤児院があった。
と、
「よい…しょっと。」
家のドアが開き、中から数人の子供達と一人の少女が出てきた。
「おっとっと…危ない危ない…。」
15歳位の年の少女は大きな洗濯籠を持ち、
「あ、巧、そっち行ったよ!」
「よーし任せろ!でりゃ!」
「ナイス巧!ってああ!」
「そっちそっち!やばいって落ちる!」
子供達は時折籠から零れ落ちそうになる洗濯物をキャッチしては籠に戻していた。
「ふう…洗濯終わりっと。」
そんなこんなで賑やかな洗濯が終わり、ほっと息をつく少女。
「「「「終わったーー!」」」」
「皆手伝ってくれてありがとね。あとでドーナツでも作るね。」
「「「「やったーーー!ありがと文奈お姉ちゃん!」」」」
子供達が歓声を上げてはしゃぎ回り、少女は「落ち着いて落ち着いて」と宥める。
この少女、海鳴文奈は15年前、元々老夫婦の家だったこの家の前に捨てられていたのを引き取られ、以来本当の家族のように育てられてきた。
そして10歳になった春、晴れてポケモントレーナーとなった文奈は各地の大会に出場、見事好成績を残した。
が、2年前に老夫婦がこの世を去り、孤児院の責任者がいなくなると、文奈はポケモントレーナーを引退し、自分の家であり皆の家であるここを守ると孤児院の新たな責任者となったのだった。
「さ、手を洗っておやつにしましょうね。」
文奈がそう言ってドアを開けようとした時、
バサッ…バサッ…
「ん?何だろ…。」
文奈が何かに気づき、辺りを見回す。が、視界に写るのは見慣れたワカバタウンの風景だけだった。
「…気のせい…かなぁ?」
首をかしげ、家に戻ろうとする文奈。だが、
バサッ!バサッ!
「!気のせいじゃ…ない!この音は…!」
文奈は音のする方向、空を見上げる。
そこにはどこまでも広がる青い空、こちらを優しく照りつける太陽。そして…
バサッ!バサッ!
こちらに向かってくる一匹のポケモンがそこにはいた。青い体と赤い巨大な羽を持つそのポケモン―ボーマンダのは、巨大な体躯にも拘らず遥か上空を、一人の少年をその背に乗せ飛んでいた。
そして…
ドスン!!!!!
大きな音と風、地面が揺れるほどの衝撃と共に着地した。
強力な羽ばたきによる風で砂煙がもうもうと立ち込め、数メートルから先の光景が全く見えず、その場にいた面々はたまらず目をつぶってしまう。
着地したボーマンダは、あくびをしながら体制を低くし、少年はその首を撫でて飛び降りる。
文奈と同じくらいの年頃の少年は、季節感を無視した(現在は春)黒いコートを羽織っており、真っ直ぐ文奈と子供達の方へと歩き始めた。
砂煙が晴れて前が確認できるようになった文奈はその少年の顔を見た瞬間、少年に向かって走り出す。
そして…
ポカッ!
「いってぇ!」
少年の頭を拳骨で小突いた。
「もう!今まで何してたの零!?2年間ずっと帰ってこないで。こっちは大変だったんだから!」
「悪かった悪かった。だからもう殴るな!」
少年―零は頭をさすりながら後退する。
「はぁ…全く。こっちの気苦労も知らないで、何暢気な事を…。」
「お、お前等元気にしてたか?」
「うん!僕は元気だよ!」
「俺もだ!」
「私も元気!」
「そうかそうか…それは何よぶふぇぇっ!!」
「アンタ…いっぺん死なないと分かんないみたいね…。」
文奈が拳を固め、鬼のような形相で零に迫る。
「いや、あの…と、とりあえずは落ち着いて…。」
「うるさい!吹っ飛べー!!!!!!」
「ぐはぁぁ!!!!!!!」
怒りのこもった文奈のパンチは見事決まり、殴られた当人は吹っ飛ばされて星になりましたとさ…めでたしめでたし。
「めでたくねーだろこのやろーーーー!!!!!!!」