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  [No.320] ■洗濯日和シリーズ のスレッド 投稿者:No.017   投稿日:2011/05/02(Mon) 21:17:06   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/kagebouzu/index.html に掲載しているもの以降で
洗濯日和関連作品を投稿いただける場合、
または新規【書いてみた】等を投稿いただける場合、
こちらのスレッドにレスする形でお願い致します。


【書いていいのよ】
【描いていいのよ】
【再投稿プリーズ!】


  [No.363] よろしい、ならば洗濯だ 投稿者:CoCo   投稿日:2011/05/03(Tue) 00:51:16   98clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 

 自主断水が続いていたが、ついにこのおんぼろアパートにも水道が戻ってきた。
 大家さんいわく「苦情が出たので」とのことだ。
 俺は大家さんの決定なのでまったく苦にならないような顔をしつつ職場でコッソリ自分の下着を洗うスレスレの生活を続けていたもので、実は内心苦情言ったやつに「お前はエラい!」と一声かけてやってもいいかもしれんとさえ思っているのは秘密だ。

 五月の生ぬるい日差しの中、とりあえず裏庭にタライを出して、汚れた制服を洗った。
 この制服は俺の仕事先、つまりポケモンの”洗濯”を専門としているポケモントリミングセンターから貸与されているもので、たいがいの汚れは軽い水洗いで落ちるようになっている。
 のだが、たまにポケットレベルでおさまらないモンスタートレーナーみたいなのが、昨日みたいにベトベトンを洗ってくれとか言ってくるから、洗濯機に放り込んでピッ、と済まされなくなることがあるのだ。そもそもなんだよベトベトン洗えって、あいつら洗ったら溶けてなくなるだろ。どうしろっつーんだよ。とりあえず悪臭と毒素に耐えるため仮揃えの防護服(本来はミツハニー駆除用らしい)を着て、ドロドロした中へ腕を突っ込み、中に溜まっていたドロとかタバコの吸殻とかを回収した。さすがに空き缶とか溶けた週刊誌を見かけたときには「こんなトレーナーで大丈夫か、お前」と声に出してしまった。ベトベトンはどろりと身体を床に伏しながらこっちを見上げ、なんとも問題なさそうな目で見つめてきたのだが。

 それでもどうして制服には黒い染みができた。俺の汚い部屋にはとても持ち込めないようなかぐわしい香りが漂っていたので先月貸したレンタル自転車代1000円の催促代わりに、同じアパートに住むとある先輩の部屋先にかけておいた。1000円はマッハで戻ってきた。
 放置しておくわけにもいかず、せっかくの洗濯解禁ということで、こうして洗っているのだ。

 するとどこからともなく、ふよふよと効果音がする。

(来たな……)

 だいたい予想はついていた。階段手すりに三匹、階段下に五匹、205号室の軒下に二匹、いや……まだだ、まだいた。自転車置き場の雨よけに二だか三匹。
 晴天をもろともせず、姿を見せたにんぎょうポケモンども。
 数を予想しながら振り返ると、意外にも居たのはいつもの五匹だけ。
 ちょっと段差で足を踏み外したような期待はずれに襲われながらも、まあ楽でいいか、と思って手元に目をやれば、すでにタライには黒いひらひらが詰まっている。

(伏兵……だと……)

 やられた。こいつらどんどん人をがっかりさせる方法を考案していやがる。たまに家に返ると部屋の中央あたりに黒団子みたいになって集まっており、人が戻ってきたのを見てそそくさと散っていくような動作を見せたので、もしかしたら何かを企んでいるのかもしれない。いや、まさかポケモンがそんな、なあ。

 しょうがないので上から洗濯洗剤をまぶしてみた。

「ほれほれ」

 ぎっしりしているカゲボウズが白く染まる。

「ははは、浄化せよ」

 呟きながらごしごしやると、ぎゅっと目を閉じた一匹が手の平の中であっというまにつやつやした姿に変わる。どうやら近頃は近所の公園で水浴び程度で済ませていたらしい、だいぶ染みがついているものがいる。というかこいつら染みとかつくのか。触った感じたしかに布っぽいんだが、いったいカゲボウズというやつらはどういう生態の生物なんだろうか……まあ俺には関係ないが、こいつらは色落ちすることもないから材質にも気を使わないし。

 ところでさっき「浄化」ってワードに反応して何匹かばつの悪そうな顔をしたのがいたので、「ナンミョーホーレン浄化せよー」と言いながらタライを掻きまわすといくつかまだ洗剤を頭にかぶったままのカゲボウズが飛んで逃げていった。
 やっぱりいちおうゴーストタイプだからなあ、浄化とか言われると逃げたくなるんだろうかな。
 残りをごしごしやりながらそんなことを考えていると、あら、と大家さんが通りかかった。

「世間は連休ですのに、いつもどおりお暇そうですね。」

 …………。
 あー、昼飯、隣町まで食いに行こうかな。

 カゲボウズどもはタライのなかでにやつきながらつやを増している。
 舌打ちしようとしたらよだれ垂れた。
 溜め息が黒ずんだタライのなかへと吸い込まれるように消えた。




***
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【批評していいのよ】

 彼が振り向いた瞬間に、いっせいにタライへ飛び込みぎゅっと収まるカゲボウズを想像してください。
 ほら、ユートピア。


  [No.367] はじまりのはじまり 投稿者:てこ   投稿日:2011/05/03(Tue) 02:29:40   105clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



 ジュペッタがはねる。いっち、に、さん。


 天気も久しぶりに回復し、寒くなったり暑くなったりが収まって、ようやく安定した陽気な天気になった。もう当の昔に桜は散って、青々とした緑の葉が天へ天へと葉をのばしている。快晴、快晴。

「今年は桜を見る暇がなかったんだ、いや、見られなかったのかもしれない」

 僕は見たよというようにジュペッタは自慢げに胸を張った。なんか知らんが最近こいつは、一人で勝手にどこかへ出かけていくのだ。十分だかすぐに帰ってくるのだが、なんだか気になる。帰ってきたときは必ず何かのいいにおいを体につけて帰ってくる。お前な、外に出かけてるの気づかないとか思ってるかも知んないけどね、お前の体はむちゃくちゃにおいを吸い込むんだからな。どこ行ってんだ一体。……彼女?

 はぁっ、彼女か彼女か。はいはいリア充。かんわいいぬいぐるみの彼女でもいるんだろお前! 俺を、主人を差し置いてひどい、ひどすぎる。俺だって彼女欲しいわ、守ってやりてーって彼女欲しいわ。俺は思いっきりため息をつ――

「っぐえ」

 思いっきりジュペッタに頭を叩かれた。お前、案外馬鹿力なんだからな。お前、俺より絶対力強いからな。何倍かの規模だぞお前。その細腕、いや綿腕でよくそんな力出るよ。さすがポケモンかよ。ちくしょー。


 河原の土手には、日が射して、やわらかな風が吹いて、少し残った菜の花が揺れて――穏やかな、穏やかな時間が流れている。ジュペッタは小さなバスケットを持って、意気揚々と歩く。真っ黒なぬいぐるみが、てくてくぺたぺた歩く。
 慣れてしまったけど、これって変わったことなのかもしれない。
 
 ぬいぐるみが歩いているんだ。端から見たら何かと思うに違いない。すれ違う人々はジュペッタにやさしく声をかけてくれることもあるけれど、知らない人だと目を丸くして俺とジュペッタを見ることもある。ジュペッタ自体が数も少なく、認知度の低いポケモンだ。しょうがないことかもしれないけれど、その視線に興味以外の何かが含まれていないことを俺は願う。

 黒い体。赤い瞳。ひょっとして、世間からは忌み嫌われる見た目かもしれないし、避けられるポケモンであるかもしれない。ゴーストタイプって大体そんなイメージを持たれている。今はまだましなほうだが、昔の話。ゴーストタイプは霊を呼ぶと言われ、カゲボウズを匿った家族が街を追い出されたなんて話もあったらしい。俺ももし、ジュペッタを持っていなければ、そんなイメージを持っていたかもしれない。

 今、俺がジュペッタと一緒にいることで苦情を言ったり避けるような人を幸いなことに知らないが、もしかしたらすぐ近くにいるのかもしれない。もし、そういう人たちが集まって、『呪い人形をどこかにやれ』といわれても、する気はさらさらない。そんなときは――

「お前と一緒に夜逃げしてやるよ」
「?」

 空を見上げる。青に浮かぶ白い雲。ゆっくりゆっくりと流れていく。ふっと紫の風が吹いた気がした。
 にししとジュペッタが笑って脚にしがみついてきた。歩けねぇよと笑いながら、俺はジュペッタの頭をなでた。さらに目を細めるぬいぐるみ。
 あぁ、俺は――自分でも笑ってしまうくらい、しあわせだよ。



 五月風の吹く中、懐かしい姿を見た。懐かしいというほど見ていないわけではなかったはずだったが、とてもなつかしく感じた。
 たらいを前に苦労しているようで、楽しそうな背中。時々垣間見える黒い小さな影。嫌がっているようで、やさしさにあふれた声。少しの間だけど、長い間。見られなかった姿、聞けなかった声。戻ってきたその姿に、ほっと一息ついて、また歩き出す。


「戻るよ、戻る。変わったとしても、また、戻るよ」



 あと少しすれば、また、夏が来る。
 俺とジュペッタが出会った夏が、また――。



【ご自由にどうぞ】


  [No.474] 【再投稿】Unhappy Valentine? 投稿者:レイニー   投稿日:2011/05/25(Wed) 17:00:09   111clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「はあ……」

 大学時代の友人と久々に女子会して、目一杯飲んできた帰り道にはあまりに似つかわしくないため息。つきたくなかったのに、思わずついてしまった。
 久しぶりに会う友人ばかりで、楽しみにしていたはずだったのに。

 そう、女子会。
 女子会の話と言えば、そりゃ仕事のグチとかもあるけど、メインはいわゆるガールズトーク。特にバレンタインが近いせいで、みんな私にお構いなしでノロケ話のオンパレード。

 あー、はいはい、しーちゃん別れた彼氏と復縁した。そりゃよかったねー。
 りっちゃんは付き合いはじめてもう5年かー。え、指輪もらった!? はいはい、よかったねー。
 ユウは何、上司と別れて部下に乗り換えた!? へー、そうですかそうですか。よくやるねー。
 え、カナ! アンタまで彼氏できたの!お幸せにー。

 「アンタ、今日相槌適当じゃない?」と訊かれたときは、ちょっと焦ったわ。お酒入ってるせいで気持ち悪くなったふりしてごまかしたけど。


 つい先ほどまでの甘い空気を思い出して、うんざりしている私の近くに、紫色のトラックが止まった。
 路肩にトラックを止めて、降りてきたのは、紫色の制服を着た女性配達員。持っているのは有名高級チョコの包み。制服のポケットから、紫のガスが出ているような……気がした。ああ、酔ってるのか、自分。
 気が付くと、一面紫の彼女を目で追っていた。
 配達先の家から出てきたのは、嬉しそうな女性。きっとあらかじめお取り寄せしておいて、バレンタイン当日に渡すのだろう。当日が楽しみだという、幸せオーラがあふれ出ている。
 はいはい。どうぞどうぞ。お幸せにー。横目で観察し、通り過ぎながら、心の中で感情の全くこもってない言葉を吐き出す。


 ああ、それにしてもこの空気。街を歩けばバレンタインバレンタインって。
 彼氏どころか好きな人すらいない、完全フリーの私にとっては、独り身の寂しさを肌身で感じさせられるばかり。
 ああ、もう!世間みんな幸せそうで!! 友人一同もいちゃついてばかりで! 余計私にひもじさ感じさせやがって!!

「ああ! もう! ばくは……」

 爆発すればいいのに、と思わず言いかけて。
 確かに今は周りに人がいないとはいえ外。爆発しろなんて発言するのは問題だ。でも、酔った私がそんな細かいことを気にして発言をやめたわけではない。

 確かに、目の前に人はいない。

 が、ポケモンはいるのだ。さっきまではいなかったはずなのに。しかも大量に。

 そう。大量のカゲボウズ。黒いてるてる坊主の集団が、じっと私の方を見つめていたのである。
 そんな光景に出くわしたら、一気に酔いも醒める。

「あ、あたし、そんなに負の感情出してたの……!」

 このあたりにはカゲボウズが頻出する。以前見かけた時は野生かと思っていたけど、どうやら家の近くのアパートに住み着いているらしい。そう噂で聞いた。
 確かにカゲボウズがこんなごく普通の街に野生で大量に住み着いている……というのは考えにくいけど、まさかアパートに住み着いてるとは。よっぽど負の感情に満ちたアパートなのか。

 カゲボウズは、負の感情に引き寄せられる性質を持つ。以前こっぴどく失恋した際、その負の感情に引き寄せられた大量のカゲボウズを、そのまま勢いで世話したことがあった。
 その日以来、目を付けられてしまったのか、私がネガティブモードになるとしばしば私に寄ってくるようになった。今では寄ってきたカゲボウズの数で、自分の精神状態を客観的に判断できるようになったくらいだ。

 でも、これだけ大量に寄ってくるのは久しぶりだ。それこそ、あの失恋以来かも。

「……あのさ、とりあえず落ち着こう。ね。外だし。」

 カゲボウズたちに言っているのか、やっぱりまだ酔いが残る自分に言い聞かせているのか。

 さっきまであれほど凄かった負の感情が収まって、ある程度冷静になっているのは、カゲボウズたちがそれを吸収したせいなのか。それともこの真っ黒な状況を見て、私が叫んでるどころではなくなっているせいなのか。
 とりあえず、気がついたら、酔いに任せて爆発しろと叫ぶどころではなくなっていたのは確かだった。



 結局、カゲボウズたちは、家までついてきてしまった。家の中を縦横無尽にふわふわと動き回る彼ら。そんな彼らを後目に、冷蔵庫から缶チューハイ、そして食料庫からはチョコレートを取り出す。
 仕方ないからカゲボウズ交えて二次会だっ。カゲボウズにお酒はあげないけど。そもそもポケモンにお酒あげていいのかもわかんないし、第一、酔っぱらって家の中でわざ使われたら、たまったもんじゃない。お酒の代わりに、私の負の感情で満足して欲しいところ。

 え? 何でつまみがチョコレートなのかって?私、甘党だから、普通のおつまみよりこっちの方が好きなのよ。……体重は気にしない方向で。

「お酒はないけど、これだったら食べて良いわよー」

 机の上に出したのは、ちょっと大きめだが、ごくごく普通の板チョコ。綺麗なチョコが街を彩る季節だが、私の食料庫にそんな豪華なものはない。線に沿って小さく割られたものが、そのまま皿代わりにされた銀紙の上に置いてあるだけ。ポケモンに人間用のチョコあげていいのかも実はあやふやだけど。まあ酔っているし仕方ない。

 カゲボウズたちは私の声に反応して、一気に食べ始める。
 嬉しそうに頬張る者。初めて見るのかちょっと警戒心を持って食べ始める者。じっくり味を確かめるかのように噛みしめて食べる者。反応は様々だ。

 そんな中、食べた後明らかに嫌そうな顔をしている者たちも。……あ、こいつら、甘い物嫌いだな。直感的にそう気づく。

 客人に申し訳ないことをしたなぁと思い、私は食料庫から別の物を出してくる。
「アンタたち、甘い物嫌いなの?だったらこれどう?」
 それは、いわゆるカカオ99%チョコ。一昨日興味本位で買ってきたけど、一片食べただけであえなくリタイア。そのままになっていたものだ。

 甘い物嫌いのカゲボウズたち。さっきよりも黒い欠片に興味津々な者、警戒している者。反応は分かれたが、興味津々な者が食べ、今度は美味しいといった姿をしていると、警戒している者も食べだした。
 ……うん、反応は悪くなさそうだ。

 不満げだった客人をももてなせて、何となく嬉しくなってくる。

 ……だが、これだけでは終わらなかった。目の前にやってきたのは、甘い物好きのカゲボウズたち。ふと机の上を見ると、あれだけあった板チョコはすっからかん。もっとくれといった表情で、私の目を見つめる。

「……申し訳ないけど、今日はこれでおしまい。さ、帰った帰った。」

 カゲボウズたちにそう言い聞かせるが、彼らは動こうとしない。どんどん私に迫ってくる。今にも「のろい」や「うらみ」を発動しそうな雰囲気。……ヤバい。

「こ、今度来たときはちゃんと作ってあげるから!」

 気が付いたら発していた言葉。
 その言葉に反応して、表情が和らぐカゲボウズたち。
 負の感情の圧力から解放され、安心したところで、ふと気づく。

 あ、あれ? あたし今、何て言った?


「ちゃんと作ってあげるから」


 つ、作る……!!?


 そ、そうか……。
 彼氏がいない今年のバレンタインに手作りチョコを送る相手は、まさかのカゲボウズたちか……。予想外の展開に、驚きと絶望とが混ざりあったような何とも言えない感情を隠しきれない。
 そしてその横で、私のその感情すら、肥やしにしているような、嬉しそうなカゲボウズたち。

 ま、言ったからには作らないと仕方ないか。カゲボウズたちに恨まれたら怖いし。それにお菓子づくり自体は嫌いじゃないしなー。
 その複雑な感情すら、カゲボウズたちは吸い取ってしまったのか、結構すぐに前向きに検討を始めている自分。カゲボウズたちに踊らされまくっている気がしないでもないが……。まぁいっか。

 とはいえ、ポケモンのためだけに作るのも何だよなー。せっかくだからついでに誰かにあげようかしら。

 そう思った瞬間、目に留まったのは継ぎ接ぎだらけのヒメグマのぬいぐるみ。
 ヒメちゃんを見て脳裏に浮かぶのは、以前ヒメちゃんをボコボコにしたあの元気なジュペッタ。
 そして、その後ものすごい勢いで謝りに来て、ヒメちゃんを直してくれた、あの優しい瞳の青年。

 ……あ、そういえば、あたし、まだお礼出来てない。何かお礼しようと思ってたのに、結局仕事に忙殺されててすっかり忘れてた……。ダメすぎる……!

 この機会に、感謝の気持ち込めてってのも、いいかもしれないな。世の中には義理チョコっていう、こういう時にピッタリなものもあるわけだし。うん、ちょうどいいかも。

 気が付いたらバレンタイン爆発しろなんて感情は、どこへ行ってしまったのか。
 彼氏はいないけど、何だかんだでチョコ作りに励む、前向きなバレンタインにはなりそうな予感。



おわりませう



--

【テーマ:悪(バレンタイン爆発しろ的な意味で)】


【書いていいのよ】
【描いていいのよ】
【いろいろお借りしてしまったのよ】
【勝手にフラグたててしまったのよ】

--

修正して再投稿です。


  [No.475] 【再投稿】パティシエールが配送された 投稿者:レイニー   投稿日:2011/05/26(Thu) 01:02:32   112clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 こんにちわー!
 チョロネコヤマトです!

 本日限定、パティシエール配達サービスをご利用いただき誠にありがとうございます。
 受け取りにはハンコかサインを……。ここにお願いします。
 あ、会話は苦手なのでコミュニケーションはなるべく筆談でお願いします。大丈夫、硬筆三段の腕前ですから。
 ……え?頼んでいない?いいえ、確かにご注文受けましたよ。

 パティシエールの方から。
 あ、サインされましたね。はい、ありがとうございました―。
 
 ……もちろん、終わり次第引き取りに参ります。
 では、良いバレンタインを!



 箱を開けてみて私は、途方に暮れた。
 中に入っていたのは、チョコレートをはじめとした、お菓子の材料。そしてお菓子のレシピ。でもって一匹のゲンガー。
 ……何で我が家にポケモンが?しかも宅配便で。
 確かに、家には時々カゲボウズが寄りついてくるけど、基本的に私の一人暮らし。まあ、時々寂しくなることもないわけじゃないけど、それでも一人好きなところもあって、うまくやっていけてる。
 パートナーとしてポケモンを連れてみることも……、まあ、考えなかった訳じゃないけど、結構仕事忙しいし、そんな無責任に連れられるもんじゃない。

 ……のに。どうして我が家にゲンガーが?

 不思議に思っていると、ゲンガーが紙を見せてきた。
『バレンタインの お手伝いに 来ました』
 やたらと綺麗な文字で書かれている。
 え?バレンタインのお手伝い?手伝いって言ってもそんな……いったい何?

 そう思っていると、ゲンガーはすらすらと文字を書き出した。
『ポケモンから 人間まで お菓子なら何でもござれ』
 ……こ、このゲンガー、明らかに私より字が綺麗!……めちゃくちゃ敗北感を感じる。ポケモンの方が字が上手いってどういうことよ。人間としてものすごーく恥ずかしいぞ、自分。
 そこまで落ち込んでようやく、配達員さんが筆談がどうとかって言っていたことを、記憶の片隅から取り出す。ああ、筆談ってそういうことか……。

「で、どうしてアンタ、私の家に?」
『バレンタイン 乙女の聖戦 協力します』
 ……聖戦なんて言葉よく知ってるなぁ。
「でも、私、今恋なんてしてないし、そんな乙女って言えるような人間じゃないし……」
『女の子は 誰だって 乙女です!』
 ……何故私はゲンガーに乙女だと言い聞かされているのだろうか。自分が人間としてどうなのかという気持ちが、ますます膨らんでくる。
『とにかく 作りましょ! 乙女の聖戦に向けて!』
 ゲンガーはそう書き記すと、キッチンへ飛んでいく。……って、それ私のキッチンなんだけど! おーい!


 結局、ゲンガーに押し切られる形で、私はお菓子作りをすることになった。チョコレートケーキを作るべく、チョコレートを湯煎にかけつつ、小麦粉をふるう。
 ゲンガーは慣れた手つきで、どんどん私にボディーランゲージ(流石に調理しながら筆談は大変らしい)で指示をしていく。

 えっと、次は、こっちのチョコを湯煎に……?
 手渡されたのは、見慣れない濃紫色のパッケージのチョコレート。
「……怨念チョコレート!?」
 なんじゃいそりゃ。
 裏面を見てみると「原材料:砂糖、カカオ豆、牛乳、怨念」……。怨念って、そんないったいどこで手に入るんだ……と一瞬考えたけど、呪われそうな気がするのでやめといた。

『それは カゲボウズの 向こうのとは 混ぜないように』
 流石にボディーランゲージでは伝えきれなかったのか、ゲンガーが筆談で指示を出してくる。
 ものすごくテキパキした完璧な指示。完全にプロの犯行。先生と呼ばざるを得ない。

 ……って、あれ? カゲボウズ相手にチョコ作ること知ってる、ってことは……。
 何となく突然の来訪者の情報源が読めてきた。まさか酔っぱらいの一言がこんなことになるとは……。
 さらに手渡される怨念入りビターチョコ。あ、これも別に作るのね。苦いの好きな子用か。そこまで注文わたってるのね……。
 カゲボウズたちからのある種の怨念に、私は苦笑いを浮かべつつ、先生の指導下でお菓子作りを続けるのだった。



 家中に広がる甘い香り。そして、ケーキの焼き上がりを告げる、オーブンの音。
 ゲンガー先生指導の元、ついにガトーショコラの完成!
 焼き上がりは……ありゃ、ちょっと足りなかったか。そう思った瞬間、先生はちょっと離れてて、と合図を私に送り次の瞬間。
 サイコキネシスによって、ふわりと浮かんだケーキ。その周りに現れたるは青い炎。おにびの火力でガトーショコラは内部まで完全に火が通った。焼き加減十分。……流石先生。

 さて、今度こそ焼き上がり十分。
 カゲボウズたち用のトリュフは、冷蔵庫で冷やしてるし、これで完せ……え、まだ?
『仕上げは まだまだ これからよ』
 そう書くと、取り出したるは、ハート型の型紙と粉砂糖。あら熱がとれた後、先生の指示に従って、粉砂糖をケーキに振りかけていく。茶色い大地に舞い降りる、ハート型の粉雪。うーん、なんて綺麗。
 可愛い装飾の箱にしまい、リボンをかけて完成!

 ……それにしても、先生が用意したこの純白の箱にピンクのリボン、私だったら絶対恐れ多くて絶対チョイスできないくらい、乙女。というか、このお菓子作りの腕からして、まず間違いなく女子力上だ!
 ……ポケモンに女子力で負けたという事実、正直かなり悔しい。

 その、私に猛烈な敗北感を与えている先生は、そんなことを気にも止めず。ケーキを崩さないよう、ゆっくりとサイコキネシスで箱を浮かべ、次に私を……って、え?
「ちょ、ちょっと! 何するの!?」

 私は抵抗するすべもなく、そのままガトーショコラとともに、ゲンガー先生に連れ出されるのであった。


---

【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【パティシエールありがたいのよ】

---

修正して再投稿。
冒頭部は当時音色さんが投稿したものをそのまま使わせていただきました。
怨念チョコレートはスズメさんの作品からのインスパイアです。


  [No.1086] Landry8 -Sunday Morning- 投稿者:レイニー   投稿日:2013/03/12(Tue) 22:31:42   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

日常は相変わらず過ぎていく。

私が大切な人を失って……平たく言うと告白することもなく失恋してから、数カ月がたった。
それでも特に日常は変わることなく過ぎていく。

また日曜日、つまり休みの日がやってきた。
忙しい日々だけど、こうして適度にきちんと休みがもらえているのはありがたい。
仕事の日よりちょっと遅めに起きて、まずは朝ご飯から。
冷やご飯を電子レンジに入れようとして……視線に気がついた。

数匹のカゲボウズたちが、窓ガラス越しにじっとこちらを見ている。
そしてその横には、一匹のジュペッタ。
あら、ジュペッタが来るなんて珍しい。
でも、ジュペッタはカゲボウズの進化系だから、一匹くらい混ざっててもおかしくないのかな。
などと思いつつ。

「さ、おいで。」
声をかけながら、カゲボウズたちを迎え入れる。


そう。あの日から、変わったことが一つ。
私の家に時々カゲボウズが寄りつくようになってしまったこと。
カゲボウズは恨みや妬みといった感情を食べるらしい。
それであの日、私から発せられていたものすごい妬みオーラを嗅ぎつけて、大挙してきたらしい。

それからカゲボウズたちは、ときどき私のもとにやってくるようになった。
あの時みたいにベランダを真っ黒く埋め尽くす程の大群で来ることはないけれど。
きっと彼らは、やっぱり私の負の感情に惹かれて、ここまで来ているのだろう。

忘れなきゃ、忘れようとは何度も思った。思ってる。現に前よりは大丈夫になってきている。
でも、それはいつもどこか不完全な決心で、何かの拍子にぐらついてしまう。
引きずりっぱなしじゃいけないのはわかってるんだけどな……

どことなく楽しそうなカゲボウズたちを迎え入れ、私は手早く食事の準備をする。
「……悪いけど、今日もあなたたちの分はないからね。」
あの日の翌朝は、うっかりご飯を与えてしまったけど、よく考えるとあんまり餌付けしてしまうのもよくないだろう。
残念そうなカゲボウズたちを尻目にご飯。
うう、あの定食屋さんで食べるときはカゲボウズに見られてすっきりするのになぁ。

でも、どこか申し訳ないと思いながら食べていたはずなのに、気がついたら食べてるうちに気分が軽くなっている。
カゲボウズたちの表情も、私が食べ始めた時よりも何だか清々しい。
その真っ黒で柔らかな体を揺らし始めて、楽しそうにも見える。

まさか彼ら、自分たちの負の感情をも解消しているのではないだろうか。
……だとしたら何と効率のいいポケモンだろう。
なんだか羨ましいなー。

楽しそうにしているカゲボウズたちの隣で、ジュペッタはお構いなしにシャドーボクシング。
……あ、そっか。この子、この間ヒメちゃんボコボコにしたあの子なんだ。
あの謝りにきたトレーナーさん、いい人だったなぁ。
わざわざヒメちゃん直してくれて……
ふと、ヒメちゃんを直して持ってきてくれたときの、あの人の優しい顔を思い出す。
なぜだかあのときの笑顔が、頭の中で鮮やかに蘇ってきて。


食べる前とは対照的に、食事を終えたときには晴れやかな気分だった。
さて、次は洗濯だ。
日が出ているうちに早いとこすませないと。
そうでなくても休みの日はあっという間に過ぎてくんだから。

洗濯を始めようとした私に気付き、カゲボウズたちが、ここぞとばかりに身を左右に揺らす。
「わかってるわよ。ちゃんとあなたたちも洗ってあげるから。」
何だか彼らは、洗ってもらうのが好きらしい。
あの日汚れた彼らを洗ってあげたのがよほど気に入ったのか、彼らは来るたびに、
洗ってくれ洗ってくれと、身体である布をはためかせながら大きな瞳で訴えかける。

ちょっと待っててねとカゲボウズたちを制し、まずは自分の洗濯物を片付ける。
洗い物をいっぺんに洗濯機に入れて、洗剤を入れ、スイッチを押す。
徐々に泡が生まれ、ぐるぐる回りだす洗濯槽。

ガタンゴトン。ガタンゴトン。

……最近ちょっと音が大きくなってきた気がする。
心なしか、前より大きく揺れるようになってきた気もするし。
でも、寿命にしてはちょっと早い気もする。
この間の台風で動いてる時に停電しちゃったせいかしら。
一度電気屋さんに訊いてみた方がいいのかなー。

とか思っていたら。

バチッ。

目の前で何か、いや、まぎれもなく洗濯機から、一瞬、一筋の光が現れ、そして消えていった。
どう見ても電流だ。

え、なにこれ。故障……!?

すると。
カゲボウズたちが洗濯機をじっと見て、そして身をひそめあっている。何か話し合っているみたい。

「……何?洗ってほしいんじゃなかったの?」
いつもと様子が違うカゲボウズたちが気になって、声をかける。
すると。

次の瞬間、カゲボウズたちから放たれたのは、黒い球体だった。
黒い球体……シャドーボールは、まっすぐに洗濯機に突撃していく。

へー、この子たちシャドーボール使えるんだ。
案外レベル高かったんだ。

……。

「……って、ええっ!?」

私が理性を取り戻し、声を上げた時には時すでに遅し。
カゲボウズたちが放ったシャドーボールは、洗濯機に直撃。クリーンヒット。
あまりにも突然すぎる事態、むしろ暴挙に、思考回路がストップ。
な、何でこんなことに……?

さらに次の瞬間。
シャドーボールを受けてから、どことなく電気を帯びている洗濯機が。

勢いよく水を噴出した。
いわばハイドロポンプのごとく。

ドバアアアアアアアアアアアアッ。

ハイドロポンプと共に排出される洗濯物たち。
洗濯物と水を吐き出したっきり、ぷつりと動かなくなった洗濯機。
そして水浸しの床。
ずぶぬれのカゲボウズと私。

「ど……どうなってるの……。」

何が起きたか理解できず、ただつぶやく私の前に現れたのは、カゲボウズたちのようにとがった頭をして、電気を帯びてる、オレンジの生き物。
ずぶぬれの私たちの惨状を見て、ニヤニヤ笑っている。

オレンジの生き物、ロトムと、びしょ濡れでちょっと寒そうなカゲボウズたち。
台無しになった洗濯物と、そして壊れた洗濯機。

こうして、普段と違うとんでもない休みの日は幕を開けたのだった。




おわろう



【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【まとめていいのよ】

---

ポメラの中身整理してたら出てきました。……が、あとがきまで含め完成しているっぽいにもかかわらず、投稿された形跡がない。
あとがきに「世間はBW一色」と書いてあるので多分その頃。何故寝かされていたのかは不明。
というわけで勢いだけで晒してみることにした。一切手直しなし。文章が若い(気がする)。



ちなみに当時のあとがき。

---

世間はBW一色ですが、まだまだカゲボウズ。

本当は、主人公別にした、全く違うカゲボウズものを書くつもりだったのですが、そちらが座礁。
座礁したまま長らく放置していたのですが、ロトムネタ思いついた結果、勢いで書いていた。

再度幸薄荘のカゲボウズたちを勝手に友情出演させていただきました。ありがとうございます。

---

だそうです。


【追記】
よくよく見てみたらパソコンの中から差分発掘。
そのファイルの最新更新日が2010/10/28。
……若干恐れをなしております。


  [No.1087] 【再投稿】桜の散った日 投稿者:レイニー   投稿日:2013/03/12(Tue) 22:50:11   67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

定時に帰れるなんて、いつぶりだろう。
そんなことを考えながら、疲れた体で今日も家路をたどる。

何気なく遠くを見てみると、夕空には月が昇りつつある。
そして手前には桜の木。しかしその桜はいつの間にか、美しき花びらをすっかり落としてしまっていた。
……あ、そういえば、今年お花見し損ねた。
満開になるのはまだまだ先だと思ってたのに、気がついたらもうこんな季節になってたのか……。

桜の一番美しい時期を忘れるほど目まぐるしかった、ここ最近の日々。
ここ最近は一大プロジェクトに関わっていたため、ほとんど休む暇もなく働く日々。終電ギリギリまで働き、家には寝に帰るだけ。……寝に帰る体力すらなくて、会社で夜を明かしたことも何度かあったっけ。
そして今日、そのプロジェクトが、ひと段落ついたのだ。
もちろん、まだひと段落であって、これからも仕事は続くけど。

帰る時間がいつもよりだいぶ早いとはいえ、自炊をするだけの気力もなく、途中のセブンエレブーで380円のお弁当を買って、私はさらに家路をたどる。
歩きながら、このひと段落でできた休みをどう使おうか、ぼんやり考えてみた。が、何がしたいとか、出てこなかった。頭の中に思い浮かぶのは「何もしない」ことばかり。

そんなことを考えていると、いつの間にか、アパートに帰りついていた。
鍵を開け、真っ暗な部屋に明かりをともす。
明るくなったいつもの部屋は、何となくいつもより広く見えた。

がらんとした静かな部屋で、電子レンジで暖めたお弁当を食べながら、ふと思う。

……このプロジェクト自体、もう終盤にさしかかっている。
ここしばらくは、必死にこの仕事に打ち込んできた。
この仕事が終わったら、私、どうなっちゃうんだろう……。

前は、休みになると、映画を見たり、旅行に行ったりしてたけど。
あの頃から、ふとした時に忘れたい何かを思い出してしまうことが度々あって、休みが来るのが怖くなった。
だから、仕事に打ち込んだ。
この一大プロジェクトに志願したのも、自分からだ。
余計なことを考える暇がないくらい、仕事で充実した日々になることが、わかっていたから。

確かに、この仕事が終われば、また新しい仕事が来る。
事実、今回のプロジェクトで、私は身を投げうって仕事に取り組んだだけあって、成果を上げていて、上司からの評価も上がっている。また大きな仕事が来るだろう。
それが終わったら、また仕事。
それが終わったら、また仕事。

でも、本当にそれでいいの……?

逃げるように仕事に取り組んでいたら、いつの間にか、休み方が、わからなくなっていた。

そして、そんな状態になった私は、仕事からたった束の間離れた今でさえ、無性に感じてしまったのだ。

私、一人なんだ……。

そう。
前は、一人でも平気だった。
でも、あの日から、一人でいることが辛くなってしまったのだ。
つい、あのことを思い出してしまいそうで……。

でも、このまま、一人でいいの……?
このままずっと仕事に打ち込んで、それだけの生活で?

目に留まったのは、ヒメグマのぬいぐるみ。
一人暮らしの私の、唯一の同居人、ヒメちゃんだ。
寂しくて、寂しくて、ヒメちゃんのことを前みたいに抱きしめたくなって。

でも。
ここで、抱きしめてしまったら、また思い出してしまうかもしれない。
そうしたら、また逆戻りだ。

寂しい。
どうしようもなく寂しい。
誰かに、そばにいてほしい。
その誰か。……いったい誰?

もう、あの人のことは忘れたはず。忘れたはず。
でも……。

いろんな思い出がフラッシュバックして、私は、「また」ヒメちゃんをゴミ箱に放り投げそうになった。
それが二度目であることを思い出したのは、投げようとしたとき、ヒメちゃんにつぎはぎを見つけたからだ。
そうだ、確かあの時ジュペッタが……。


以心伝心というのは、起こるものかもしれない。
そのとき、私は思った。
ヒメちゃんを以前に捨てた時のことを思い出し、ふとベランダを見ると、そこに、また、あのジュペッタがいたのだ。
ゴーストポケモンだから、夜の散歩とでもいったところだろうか。

「おいで。」
衝動的に、私は、彼を呼び入れていた。
彼は、何も疑問に思うことなく私の部屋へやってきた。
人なつこい、マイペースな性格なのは、以前の件で知っている。
純粋なその笑顔に、私はただただ癒され。そして、その優しい顔を見ると、私の中で、何かがはじけ飛んで。

「お願い。しばらく、一緒にいてくれないかな……?」

とにかく、今の私には、仕事以外の拠り所が欲しかった。
愛を注ぎ、また愛してくれる誰かが。
そんな私の事情をわかっていないだろうジュペッタは、きょとんとした顔で、こちらを見上げていた。
それがどうしても愛おしく。
そして、彼の笑顔の奥深くから、彼を育てた青年の顔が呼び起こされ。

私は、気がついたら、彼を抱きしめて、大声で泣いていた。


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発掘ついでにこちらも再投稿。
てこさんの作品(ログ消失)を見て、思わずジュペッタ抱きしめたくなって書いたものだった記憶が。
気に入らなくて書き直そうと思ったまま結局放置してましたが、一度公開してるものだしいいやと思って勢いで。
また桜の時期がやってきたので、新しいの書きたいな……なんてこともぼんやり思いつつ。
勢いあった若い頃が我ながら羨ましいです。でもめげない。