[掲示板へもどる]
一括表示

  [No.399] 【立候補してみた】 その未来は――。 投稿者:巳佑   投稿日:2011/05/05(Thu) 20:24:27   29clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



前置き:こんにちは、巳佑という者でございます。
    今回、ハッピーエンドに挑戦してみましたが、
    色々と勝手にやってしまったかもしれません。(汗)

前置き2:再投稿させてもらいました。よろしくお願いします。


【1】

『命、輝くもの。命、失うもの。二つの世界が交わる場所』

そう呼ばれている『もどりのどうぐつ』と呼ばれているところは、
命あるものが産まれしとき、また死せるとき、通る場所だとされている。
今、その『もどりのどうぐつ』の奥に二匹のポケモンがいた。
黄色と水色のポケモンだ。


「お前も来たのか、サンダース」
「シャワーズ……」


死んでから誰かに呼ばれるように導かれて、ここまでやってきたサンダースは目を見開いた。
まさかシャワーズもいたなんて、思いもしなかった。
サンダースが驚いている様子にシャワーズは嘲笑(ちょうしょう)を含んだ微笑みを向けた。


このサンダースとシャワーズは幼なじみであった。
ただ、よくケンカを売り買いしては、お互い暴れまわっていて、
おまけに加減をお互い知らなかったものだから、骨折などの大ケガすることも珍しくなかった。
だけどケンカすればするほど仲がよい……のかどうか分からないが、この二匹が離れるということはなく、
お互い、悩みを相談しあったりすることもあった仲である。


しかし、ある雨の日のことであった。
意味が分からないイライラに悩まされていたサンダースはワケも分からないままシャワーズにぶつけてしまった。
そして本気のケンカの中でサンダースは渾身(こんしん)の『かみなり』をシャワーズにぶつけてしまい、
当たりどころが悪かったシャワーズはそのまま死んでしまった。
その後、サンダースは周りのポケモンから責められ、
そのときに打たれた『どくばり』の毒によって死んでしまったのであった。


そして、今、こうして死んでから初めて、サンダースとシャワーズは再会した。
「……なぁ、シャワーズ」
「なんだよ?」
「俺が……悪かった……」
とんでもないことをしてしまったという顔を浮かべているサンダース。
「許すわけないだろ」
さっきまでの嘲笑から一転、シャワーズの目つきが険しいものになった。
「いきなり、お前のワケ分からない逆ギレに僕は巻き込まれて、よく分からないまま死んだ。
 ……正直に言おうか? 僕はお前が死んでせいせいしているんだよ」
シャワーズの言葉がサンダースの胸に突き刺さっていく。
本来のサンダースならその言葉に逆ギレしているところだが、
しかしサンダースは苦虫を噛んだかのような顔になって、何も言えなかった。


サンダースは死ぬ前にセレビィという時渡りポケモンに出逢い、
シャワーズを死なせてしまった『かみなり』を打つ過去の自分を止めに時渡りをしてもらったが……止めることはできなかった。
そこでサンダースは過去を変えることはできないということを教えてもらった。
過去を変えることはできない、その言葉がサンダースの頭だけに留まらず、
骨の髄(ずい)まで染みこんでいったのだ。


「お……俺のことは許さなくてもいいし……なんだって言ってもいい。だけど……これだけは言わせてくれ」
セレビィは死んでいくサンダースに過去は変えることはできないという言葉と同時に
もう一つの言葉を教えてもらった。
「これだけは、言わなきゃダメなんだ。本当にゴメン!!」
それは未来を変えることはできること。
もう死んでいる身だし、この先のことはよく分からない。
だけど、この先、もし、自分を変えることができるという未来があるというのなら、
変えてみたい。
いや、変えなきゃダメなんだとサンダースは自分に言い聞かせていた。
変えなきゃ、この先、自分は同じことを繰り返してしまうだろうと思ったから。
「…………お前」
「っ!」
シャワーズの顔がいきなり近づいてきてサンダースは思わず目をつむった。
「なんか、変わったよな。何があったんだよ?」
「へっ?」
「……勘違いするなよ。僕はお前を許したわけでもないし……ただ」
シャワーズは苦笑いを浮かべていた。
「なんかお前がこんなにも本気で謝ってくるなんて、ちょっとおかしくてさ」


シャワーズとサンダースは今までケンカしても、お互い謝ったことなんてなかった。
ケンカは日常茶飯事であったし、
謝ったらなんか負けかな、というプライドを二匹は持っていた。
だから謝るなんていらなかった。
だけど、サンダースは本気で謝ってきた。
謝っても死んだことは変えることはできないし、今さら何を、という感じは否めないが、
それでも、あの口よりも手が速く出るサンダースが本気で謝ってきているという事実は
シャワーズに何かしらのものが伝わったみたいだった。


「それに免じて……もう一つ正直な話をしてやるよ」
シャワーズは上を向いて、何か遠くのものを見ているかのような顔で語り始めた。
「僕はしばらく、ここで考えていたんだ。もちろん、最初はお前に殺されたって怒っていたけどな」
シャワーズの溜め息が上に浮かぶ。
「なんで、お前が不機嫌だったのかとか、お前は今頃どうしてんのかな,とか色々考えてた……」
あの雨の日、超がつくほど不機嫌だったサンダースの神経を逆なでしてしまったという点から、
いささかだが、シャワーズにも非があったと言えるかもしれない。
……けど、殺されてしまったという結果がシャワーズにそれを認めさせてなかった。
「僕は……自分が悪かったとは思っていない……ただ」
「ただ?」
「……お前の不機嫌の理由を聞けなかったっていう後悔は残ってる」
あのとき、いつもの憎まれ口調ではなく、
何があったのかを尋ねていれば、結果は変わっていたのか?
もしかしたら、自分もサンダースも生きていたのか? とシャワーズの心は揺れ始めていた。
サンダースが本気で謝ってきたときから。
「ほ、本当に勘違いするなよ!? 僕はお前のことを許したわけじゃないんだからな!」
「……分かってるって」
言ってて何だか恥ずかしくなってきたシャワーズにサンダースは苦笑いしていた。
シャワーズを殺してしまった上に、なんだかシャワーズに悩みごとをさせていたみたいで、
本当に自分はとんでもないことをしてしまったという事実が更に重くサンダースにのしかかった。

この先、どんな世界が広がろうとも、その罪は消えない。
その過去は消すことはできないが、
未来を変えることができるのなら、
自分を変えることができるのなら、
許してくれなくてもいい、
でも、
その未来の自分を見せることが、
今、自分にできるシャワーズに対しての償いだったから。
時間はかかるかもしれないけど。

サンダースがそう思ったのと同時に光が現れ、
そこでサンダースの意識も、シャワーズの意識も、一旦、途切れた。 
 

【2】

雨の日だった。
怒りに我を忘れて本気以上の『かみなり』を当ててしまった。
声をかけても返事がなかった。
体をゆすっても返事がなかった。
何度、それを繰り返しても結果は同じだった。
認めたくなかった。
一粒、また一粒、透明な雫が頬を伝って(つたって)いった。
止まらなかった。
思いっきり叫んでいた。

そして、
目の前が真っ暗になった。


【3】

ポッポのさえずりが遠くから聞こえてくる。
森の奥にある、一軒の木造の家。
並んで置いてある柔らかい二つのベッドの上に
それぞれ黄色と水色。

「どうですか? エルフーン先生、二匹の容態は」
「うん、シャワーズ君の傷は半分ぐらい直ったかな。サンダース君の精神状態も安定してきているし……やっと峠は越えたってところかな」
「良かったです〜。もう! 二匹ともいくらなんでも今回はやりすぎ! あとでお説教なんだから!」
「そうだね……今回は死んでいてもおかしくなかったからね、二匹とも」
「もう! エルフーン先生からもなにか言ってくださいよ!」
「あはは……それは君に任せるよ、なんかハリセン持っててやる気まんまんだし」
「分かりました! もうビシバシと……!」
「あわわっ! 頼むから傷口を開かせないようにね!?」

窓から木漏れ日がベッドの上で眠っている二匹の顔を優しく照らしていて、
外から、風に吹かれた葉っぱが子守唄のようにささやいた。

『大丈夫、誰でも、もちろん君たちでも、未来を変えることはできるから……』 




【あとがき】

★今回の話の流れ。

今回の話では最初に以下のようなルートを考えてみました。

1・サンダース君がシャワーズ君に『かみなり』を撃つ。
2・意識不明になったシャワーズ君にサンダース君が死んだと思って、精神に大ダメージを負い、倒れる。
3・エルフーン先生のところに運ばれ、なんとか二匹とも一命を取りとめる。

この2と3の間に
まず、セレビィさんが干渉してサンダース君にシャワーズ君が死んだ後の世界(幻?)を見せる。
その後、幻でもなんでもなく、本当にサンダース君が生死の境をさまよっているときにシャワーズ君と再会し、今回の話へ。

ちなみに場所を『もどりのどうぐつ』にしたのは、
あそこは……三途の川みたいな場所なのかな……と考えてみた結果です。(汗)

……とまぁ、こんな流れかなぁと思いながら、ハッピーエンドを考えてみました。(汗)
最初は全部、サンダース君がシャワーズ君に『かみなり』を撃ったことも含めて、
夢だったんだという終わりを考えてみましたが、
セレビィさんのセリフと、
ふにょんさんのあとがきから、
サンダース君がシャワーズ君に『かみなり』を撃ったという事実までも夢にしては、
過去は変えられないという重さが伝わらなくなってしまうかも!? と思って、
上記の通り、生死をさまよってからの生還という終わりにしてみました。
と、とりあえず、ハッピーエンドってこんな感じで良かったですかね?(汗)

あ、それと勝手にエルフーン先生も使ってしまって、大丈夫だったでしょうか……?(汗)
最初はラッキーさんとかタブンネさんとかを考えていましたが、
ふにょんさんの作品ですし、あの可愛い先生がいいかなと思いまして。


★未来からのメッセージの感想。


過去は変えられないこそ、それを認めることが難しいのかな……。
シャワーズを殺した後の「わざとじゃないんだ!」というサンダースの言葉から、そう思いました。


★最後に……。

改めて、ふにょんさん、
【ハッピーエンドは任せたのよ】に微力ながら立候補してみました。

ありがとうございました。

それでは、長文、失礼しました。


【五分間シリーズで一番好きなキャラはエルフーン先生なのよ】
【エルフーン先生を応援してるのよ】
【サンダース君とシャワーズ君に幸あれ!】


  [No.480] 都合により―――――― 投稿者:ふにょん(?)   投稿日:2011/05/29(Sun) 22:52:47   33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ちょっと……リアルの都合で……削除します。ごめんなさい。
 いろいろ書いていただいてうれしいのですが……
 
『リアルの都合』
         
 により、削除しないといけなくなりました。
 

 半耳のほうはけさないので……お許しください。
 
 いろいろと勝手にやらかしてしまい、すいません。

 


  [No.401] 【書いてみました】 光と影の分岐歌 投稿者:巳佑   投稿日:2011/05/05(Thu) 20:38:39   31clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
【書いてみました】 光と影の分岐歌 (画像サイズ: 762×549 91kB)

前置き:再投稿させてもらいました。よろしくお願いします。

【Shade song】

 また人間だ――。
 
 白い毛並みに映える黒色の顔、
 そして頭には鋭利なカマみたいなものがついているポケモン――アブソルは体を震わせながらも近づいてくる人間たちから距離を取る為に逃げていった。

 
 最初は皆の為だと思って、やったことだった。
 本来ならアブソルという種族は災いを察知しては人々やポケモンたちの前に現れ、その接近している危険を教えてくれるときもある……というポケモンなのだ。
 しかし、その災いを知らせるという行為を、人間に勘違いされてしまって、いつしかアブソルは災いを運んでくるポケモンだという虚偽(きょぎ)が出回ってしまった。
 ……いや、もしくは勘違いではなく、起こってしまった災いに対する怒りをぶつける相手が欲しかったという、人間の我がままから生まれた虚偽かもしれない。
 
 そのような虚偽を信じてしまった人間たちに対して、アブソルの中では、もう人々に迫っている災いを感じても教えに行かないというものが出ているのも珍しくなかった。
 だけど、このアブソルは違った。
 なんとかして災いから人々やポケモンを守りたい。
 その一心で、今まで災いを察知しては人々に姿を現していたが……返ってきたのは、罵倒(ばとう)と襲撃で、その度に傷ついた。
 肉体的にもだが、精神的にも辛いことだった。
 守る為に、助けたい為に、災いを教えにきているのに、どうして皆、怖い顔をしてくるのだろうか?
 迫ってくる災いではなくて、自分に。
 
 
 どうして、そのアブソルは逃げなかったのか? 
 これだけ身も心も傷ついて、信用なんか一切してくれないようなモノなど、放っておいて、どこかに旅立てばよいものなのに。
 アブソルの身なら、旅立ちは不可能ではないし……逃げられるなら、いつでも逃げられたはずだ。
 近くにある村からもっと遠く、遠く離れた場所へと逃げることができたはずなのに、実際に来たのはまだ、村から近いと言われてもおかしくない場所。
 アブソル自身も、その場から離れられない自分に懐疑的(かいぎてき)な戸惑いを覚えていた。
 なんで、傷つくだけだと分かっているのに、理解を得られるなんて分からないのに、どうして……?
 アブソルのもやもやが膨らんだその日のことだった。
 アブソルは一匹の黒に黄色の模様を入れた、メスのポケモンに出逢った。
 彼女は一匹で旅をしているらしく、どうやら、何かワケありのようであった。
 久しく誰かと話すなんてことがなかったアブソルだったが、なぜだか、彼女と話しているとき、不思議な気分がした。
 安心できるような……そんな感じ。
 大抵、誰かと話す前に逃げられたり、攻撃されたりするのに、それがなかったというのもあるのかもしれない。
 けれど、それだけではない。
 警戒されなかったから良かったという気持ちだけではなかった。
 その気持ちが分からないまま、アブソルは思わず尋ねていた。

 彼女の旅に自分もついていっていいかと。

 けれど、彼女からは首を横に振られただけであった。
 無理強いするのもよくないと、仕方なく、彼女と旅をするのを 諦めたアブソルだったが、去ろうと思って駆ける足がなんだか重かった気がした。
 どうしてなのだろうか。ただ単に旅の同行を断られただけだというのに、どうしてこんなにも胸が痛いのか。
 爪が喰い込んできているのではないかと錯覚するぐらい、胸が痛くて……そして苦しかった。
 いつの間にか、アブソルの目から涙が頬(ほお)を伝って(つたって)こぼれ落ちていったのであった。


 不思議な雰囲気を出していた彼女に出逢ったその日の夜。
 アブソルはぼんやりと月を見ていた。
 今日のあの出逢いが頭から離れられなくて、眠れないでいたのだ。
 どうして、彼女が気になるんだろう。
 それと、自分があのとき感じたものはなんだったのだろうと――。

「いたぞ! シェイドだ!!」

 刹那――シェイドと呼ばれたアブソルが我に返ると、何人もの人間が各々ポケモンを連れながら現れていて、あっという間に囲まれてしまっていた。
 シェイドという名前、それはアブソルが危険を察知して、知らせに行った村の人たちから名づけられたもので、アブソルの影を見ると災いが起こると言われたことから付けられた名前だった。
 ……その影が本当に映しているものは災いではなく、村の人たちやポケモンを助けたいというアブソルの想いだということは誰も気づいてくれなかった。  
 その影は本来なら希望を与えるものでもあるのに。

 アブソルは村のポケモンたちから一斉に攻撃を受けてしまった。
 反撃ができないこともなかったが……アブソルはどうしたことだか、攻撃一つもしなかった。
 ひたすら、飛んでくる水や炎や雷、ハサミみたいなものや、カマみたいなものから回避しているだけだった。
 本当は攻撃をして、生まれた隙(すき)から逃げ出さなければいけない状況のはずなのに、攻撃をしようとすると、なぜか動きが寸で止まってしまう。
 誰も自分のことを助けてくれないのに……そう思ったとき、アブソルの頭の中に光が走った。
 
 そうか……友達が欲しかったのかと。
 
 アブソルがそう思ったのと、肉が深く切れる不気味な音が鳴ったのは、ほぼ同時であった。
 
 首から赤い花が咲き乱れる、その痛みにアブソルは絶叫しながら……やがて倒れた。
   
 村の人たちやポケモンたちと友達になりたくて、そして、いつかなれると心のどこかで信じていたのだろう。
 村人やポケモンたちを助けたいという気持ちの他に、その気持ちがアブソルの足をつかんで、どこか遠くに行かすことをさせなかったのかもしれない。
 そして、あの彼女に出逢ったときに自分の中で芽生えたものはきっと……友達が欲しかったという気持ち。
 だから、旅について行きたいと言ったのだろう。
 あれだけ、色々と語ることができた相手だったから……きっと彼女とはいい友達になれると思った。
 
 ここで、ふと、アブソルはこう思った。
 
 友達になりたいと村人たちやポケモンたちに素直に言えばいいのだろうか?
 いつも攻撃されることを恐れて逃げるのではなくて、ちゃんと逃げずに伝えることができるのならば……。

「な!? こ、コイツまだ立ってくるのか!?」
「グライオンのハサミギロチンは決まったはずだぜ!?」

 首から血を垂らし、その身を赤く染めながらもアブソルは立ちあがった。
 友達になりたい、その気持ちを伝えたいんだという一心だけが、アブソルの足を支えていた。
 もう死んでもおかしくないはずのアブソルを見て、村人たちやポケモンたちが驚嘆(きょうたん)する中、アブソルは口元を動かし始めていた。
 すると……辺りには歌声のようなものが響き渡たり始めた。
 アブソルは歌っているつもりではなかった。ただ、ただ、伝わるかも分からない想いを声に出していただけなのだが、その想いが本人も気づかない内に歌になっていた。
 村人たちもポケモンたちも、その歌声を聴くと動けなくなった。
 何やら悲しくて、だけど強くて――。
 
 一人の人間が倒れた。
 次は一匹のポケモンが倒れた。
 続けて三人の人間が倒れた。
 更には四匹のポケモンが倒れた。

 最後には、村人もポケモンも全員、倒れていた。
 
 そして……アブソルも倒れた。
 
 ……意識が遠のいていく中で、かすんでいたアブソルの視界に、事実が映ることはもう叶わなかった。
 首から垂れた血がアブソルを完全に赤く染め上げた頃、アブソルは力なくだが微笑んだ。


 ――目が覚めたら、友達ができているといいな――






【Moon lullaby】

「はっ!!」
 いきなりの声が月夜に高く昇って消えていった。
 もちろん、隣にいたものは背筋に電流が走ったかのように尻尾を立たせながら、声の主を見た。
「だ、大丈夫……? ライト」
「……あ、ごめん。変な夢を見ちゃってさぁ、よく覚えてないけど……って、ライちゃんはまだ起きてたの?」
「うん……今夜は月が奇麗だったから……つい、ね」
 一匹の黒に黄色の模様を入れたポケモン――ブラッキーのライの言葉に、白い毛並みに映える黒色の顔、そして頭には鋭利なカマみたいなものがついているポケモン――アブソルのライトも月に顔を上げた。
 確かに今夜は満月で、ライの言う通り、奇麗に夜空の中で映えていた。
 あの日――旅立ちの前で見ていた満月よりもなんだか不思議な感じで、寂しい気持ちになったりしなかった。
「ねぇ……ちゃんと眠れてる? なんか、ときどきうなされていたみたいだけど……」
「う〜ん、正直に言うと……なんかよく眠れない感じでさ」
 ライトは苦笑いしながら答えていた。
 
 ライトは元はとある村の近くに住んでいて、ある日、災い呼ばわりされた村人たちやポケモンに襲われてしまう。
 死ぬかもしれない、そのときにブラッキーのライという子が助けてくれて、一命を取り留めたライトはライと一緒に旅立つことになったのだが……。
 
 旅立ち初夜、謎のドキドキがライトを襲っていた。

 一体、なんでこうも胸がドキドキしているのだろうかとライトは思った。
 そして、その理由にたどりつく時間はさほどかからなかった。
 ライトは満月に向けていた視線を一回下ろしてみる。
「どうしたの……?」
「う、ううん! なんでもない! うん、大丈夫だから!」
 怪訝(けげん)そうな顔を向けてくるライに対して、ライトはただ笑っていた。
 その背中に冷や汗を垂らしながら、ドキドキしていることがライにバレないようにと白い歯まで見せながら。

 今まで一匹だけだった。
 親と一緒に夜を過ごしたことはあったのだが、こうして友達と一緒に夜を過ごすという経験は初めてだったのだ。
 なんか、くすぐったいというか、なんというか、興奮してしまって、ライト更には眠れなくなってしまった。
 顔が赤くなりそうなぐらいの興奮で……まぁ、顔は黒だから分かりにくいかもしれないが。
 仮に白い毛の色が赤くなったりしないだろうかと、変に心配してしまって、冷や汗が更にライトの背中から垂れていく。
 
 このように脳内で若干パニックを起こしかけそうになっていたライトの体に何かが触れた。

「とりあえず……何があったのかは分からないけど、落ち着いて……ゆっくり体を休めさせないと……まだ、ケガが治ったばかりなんだから」  
 
 ライが静かにライトの横に隙間なく寄り、小さな黒い前足をライトの前足に乗せた。ライの黄色の模様が淡くて優しい光を放っている。
 すると、不思議なことにライトの沸騰寸前だった興奮が冷めていき、やがて、目を閉じた。
 
 誰かが一緒にいてくれること。
 隣にいてくれること。
 今までなかった触れあいにこれから戸惑うこともあるかもしれない。
 けれど、ライと一緒なら大丈夫……そう不思議に思えるからライは素敵な子だと思う。
 これから、今までできなかったことをライとたくさんしていこう。
 そして、ライに何かあったときには、力になりたい。
 ライトという名前にかけて。
 
 ライの体温から伝わってくる、その温もりにライトは身を寄せながら静かに眠りに落ちていった。
 そして、月明かりで照らされてできた影には希望が詰まっていた。
 
 
 ――ありがとう……ライちゃん……いつまでも友達だよ――




【あとがき】

 最初はバッドエンドだけの予定でしたが、なんか、申し訳ないなぁ……と思いまして、
 後日談みたいなものも入れてみました。
 
 『Shade song』ではライトさんがどのような想いで、
 村人やポケモンの為に行動していたのかな……と考えながら書かせてもらいました。
 あのとき、ライちゃんが助けに来なかったらという、あくまでIfバッドエンドです。(汗)
 ちなみに最後の場面にあります歌とは『ほろびのうた』のことであります。(汗)

 『Moon lullaby』は最初に書いたとおり正規ルートの後日談のようなもので、
 ふにょんさんのライさんのイラストを見たとき、
 「あ、これはライトさんの視線からというのも考えられるかな」と思って、今回の物語を書いてみました。
 友達の家とか、修学旅行とかって中々眠れなかったよなぁ……と思いだしながら書きましたです。
 
 ちなみに『lullaby』とは子守唄のことです。
 

【心の鎖の感想】 

 ライちゃんと最初はお呼びしようかと思ったのですが……すっかり大人びましたね!
 これはもうライさんとお呼びした方がいいかと思いましたです。

 それにしてもライトさん本当に優しいなぁ……。
 私だったら、『かまいたち』で辻斬りの真似ごとをしてたかもしれません。(汗)
 そしてライさんもまた一つ強くなったみたいで、
 自分に打ち勝ったところや、ライトさんを助けるところでは涙腺が熱くなりましたです!
 これからもライさんや、そしてライトさんの成長に期待大です!

 それと、『もどりのどうぐつ』が再登場するとは……!
 この五分間シリーズは個人的に、他の作品のキャラとクロスオーバーしているところも魅力の一つだと思っています。
 次はどんなキャラがクロスオーバーしてくるのかも楽しみにしてます!



【最後に……】

 改めて……ふにょんさん、【バッドエンドもいいかもねぇ……なのよ】挑戦させていただきました! 
 ありがとうございました!
 

 それでは失礼しました。


【大人びたライさんにトキメキました】
 


  [No.400] 【五年後を想像】 もふ恋。 投稿者:巳佑   投稿日:2011/05/05(Thu) 20:29:09   28clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
【五年後を想像】 もふ恋。 (画像サイズ: 358×525 54kB)

もふ恋。

前置き:再投稿させてもらいました。よろしくお願いします。

【1】

 昔、わたくしがまだチュリネだった頃でしたわ。
 今まで元気だったのが嘘だったのかのように、重い風邪にかかってしまったことがありましたの。
 もう死ぬかもしれない、と幼いながらもわたくしは恐怖で震えていました。
 そのときにわたくしを助けてくださったのがエルフーン先生でしたわ。
 あの先生の手際の良さのおかげで、わたくしは生き延びることができ、そして、あの先生のおかげで今のわたくしがいますの。

 わたくしも病気のポケモンたちを助けたい。

 エルフーン先生はわたくしに命だけではなく、夢まで与えてくれたのです。
 それからわたくしはたくさん勉強しましたわ。
 看護師になって、できればエルフーン先生と一緒にポケモンたちを助ける仕事をする為に。
 ここまで大変でしたわ、例えば、ポケモンの体内構造は一匹一匹違いますから、その膨大な情報を頭にたたきこまなければいけませんでしたし。
 けれど、一途に夢に向かって努力した結果、ようやくわたくしは看護師になりましたわ。
 姿もチュリネからドレディアに変わり、そして、ついにエルフーン先生とお仕事をするという夢が叶いました。

 けれど、実はもう一つ夢がありましたの。

 その夢がなんだったのかは、当時のわたくしには分からなかったのですが。



【2】

 つるつる……そんな言葉が似合う茶色の頭が窓から入って来る光を受けてフラッシュのごとく光っていた。
 その光を受けたのか頭に一輪の花を咲かせた者が眩しそうに眼を閉じている。
「うぅ……ドレディアさん、抜きすぎないようにって僕、前も言ったよね?」
「ごめんなさい、先生。つい、その……」
 つるつるの茶色の頭――エルフーン先生の泣きそうな顔を向けられた、頭に一輪の花を咲かせた者――ドレディアは一旦、言葉を詰まらせた。
 エルフーン先生はそのドレディアの様子に一瞬、頭から疑問符を出す。
 いつものドレディアなら、すぐに舌を出しながら「つい、やってしまいました♪」と楽しそうに言うのに。
「へへへ、楽しくて、つい」
 エルフーン先生はやっぱりいつものドレディアだと思い直した後、小さな手で頭をさすると、思わずため息をついた。
 エルフーン先生の頭からは元々、もふもふとした綿がたっぷりと生えていて、採取して消毒すれば医療用に使えないこともなかった。
 そこでときどき、エルフーン先生はドレディアに頼んで、自分の頭から生えている綿を取ってもらっていたのだが、決まって、つるつる頭になるのがオチであった。
 エルフーンという種族は自分の綿を取られても、また生えさせることができることができるポケモンで、逆に放っておくと綿のもふもふが増えるのだ。
 しかし、だからといって頭がつるつるになるまで採られてしまったら、エルフーン先生いわく、元に戻るまでには最低でも一ヵ月はかかるというらしい。
 自分はつるつる頭のエルフーン先生も好きだとドレディアは言ってくれるし、病院にやって来る患者にも可愛いですね、と言ってくれるのだが……なんだか恥ずかしくて嫌だったエルフーン先生であった。

 ここは森の奥にあるポケモン病院。
 小さいながらもそこには腕の立つ医者のエルフーン先生と頼りになる看護師のドレディアがいた。
 ドレディアは今年十年目の看護師で、研修時代を経て、エルフーン先生と共にお仕事を始めてからは八年目になる。
 実はこのドレディア、チュリネの頃にエルフーン先生に助けてもらったことがある経験があるだが……どうやら、エルフーン先生は覚えていないみたいだった。
 自分以外にもたくさんの患者を相手にしてきたのだろうし、第一、ドレディアに進化して姿が変わってしまっていては気付かないのも無理ない。
 それに、自分があの頃、助けてもらったチュリネですと言っていないのだから仕方がない。
 何故、八年も一緒に仕事をしているのにそのことを告げなかったのか?
 理由はただ一つ――。
 
「すまへんな……エルフーン先生はおらへんか……?」

 毎回、ここで言おうと思ったときに限って、患者が来訪してくるからである。
 これでは、エルフーン先生に告げたくても告げられない……その前に、このタイミングが悪い状況が八年間も続いていることに気がついたドレディアは思わずため息を漏らしてしまう。
 でもすぐに患者に対応する為に受付へと向かった。


【3】 

「さて……今のが今日の最後の患者さんだったかな?」
「そうですね。今日はもう終業時間です」
「ふわぁぁ……ようやく、終わったよ〜。僕はちょっと寝てくるね。後は任せてもいいかな?」
「はい。了解しました、先生。ゆっくり体を休んでくださいね」

 エルフーン先生は眠そうな目をこすりながら、自室へと向かっていった。
 今日の患者も個性的な者達ばかりで、睡眠不足気味だった先生は若干バテながらも無事、対応し終えた。
 どんなに疲れていても正確に診断し、解決させていく先生の姿はいつ見ても尊敬するものだ。
 ドレディアの中で今日一番、印象的に残った患者は関西弁を話す赤茶色の狐――ロコンである。
 名前を『ひむ』と名乗っていて、腹が痛いから診てもらえないだろうかとエルフーン先生に頼みに来たのだ。
 とりあえず、患者の行動から診察してみようと、エルフーン先生がいくつか、ひむに質問してみたところ――。

「……食べ過ぎによる、胃痛でしょう。胃薬出しておきますので飲んでください。 それと、今日はあんまり食事の量は控えてくださいね?」
                                               
 ひむは納得してなさそうな顔だったが、みたらし団子を一日で一万本も食べたら、普通、そうなるであろう。むしろ胃痛だけでおさまったのが異常だ。
 でも他には特に怪しいところもなかったので、胃薬をひむに渡して、終わった。
 ひむが口にしたみたらし団子の数にも驚いたが、その数を聞いたときのエルフーン先生の大きく口を開けた顔も可愛いかったなぁ、とドレディアは思い出し笑いをした――。

 もふもふもふもふもふもふもふ!
 
 当然、ドレディアに聞こえて来たのは、何かが膨らむかのような柔らかい音。
 ドレディアは音がする方――エルフーン先生の自室に急いで向かうと、ノックもせずに扉を乱暴に開けた。
 一体、何の音だろうと、エルフーン先生に何かあったのではないかと、ドレディアが心配そうな瞳をエルフーン先生の方に向けた……。
 向けたのだが、ドレディアの心配そうな瞳が一転、驚いて丸くなった。
 エルフーン先生の綿は一回抜かれると、本人曰く、一ヵ月ぐらいはかかるはずなのに、もう生えていたのだ。
 抜かれてからまだ三日も立っていないというのに、確かにエルフーン先生のもふもふは元通りになっている。
「……先生?」
「へへへ! やったぞ! これで、いつも綿をいっぱい抜かれても一発で元通りだぁ!」
「これは、一体?」
「あ! ドレディアさん! へへへ、実はね、毛生え薬ならぬ綿生え薬というものを知り合いの薬屋からもらったんだ。効果は見ての通り!」
 エルフーン先生が嬉々としてドレディアに見せたのは小さな紫色のビン。
 ……確かに効きそうではあるが、なんだか毒が含んでいそうな色という印象をドレディアは抱いた。
「先生、それ、副作用とかありませんよね?」
「多分、大丈夫だと思うよ、あの薬屋の腕は確かなはずだから」
 エルフーン先生が自信を持って言っているのだから、きっと大丈夫なのだろうとドレディアは思うと、心配していた心が、ウキウキとしたものに変わっていく。
 いつでも、綿を生やすことができるということは、いつでもエルフーン先生の綿を取ることができるという意味でもある。
 エルフーン先生の綿が大好きなドレディアにとっては、これ以上にない朗報だったかもしれない。
 早速、取ってみようかしらという衝動に流されるまま草の手を伸ばそうとして――。

 もふ! 

「ん?」
「あら?」

 もふもふもふもふもふもふもふもふもふ!!

「あわわわ! な、なんか、いっぱい綿が!!」
「先生! 取らしてもらいます!!」
「え!!??」
「このままでは病院が壊れますから!!!」

 エルフーン先生から膨らんでくるもふもふに負けじと声をあげたドレディアは一息入れると、次から次へ、エルフーン先生のもふもふを取っては部屋の外に適当にポイ捨てしていく。
 部屋を埋め尽くすかもしれないと考えると、手を休ませてはいられない。もふもふによる病院の倒壊なんて、他人からしたら笑い話。当のこちらはもちろん笑えない。
 比較的危機的状況な為、ドレディアも楽しみながらエルフーン先生の綿を取っている余裕がなかった。考えるよりも先に手を動かさなければ! 綿を取っていかなければ! そんな真剣な想いがドレディアの手を加速させていく。
 定期的にエルフーン先生の綿を取ってきた、もふ取り数年のキャリアは伊達ではなかった。
 エルフーン先生の綿を取っているドレディアの手つきは鮮やかだった。

「頼みますから!! 全部、取らないでくださいね!!??」   


【4】

「先生、廊下が綿だらけになってしまいましたね」
「……まさかここまでの効果があったとは思わなかったよ」
 もふもふ大量発生事件が起こってから十数分間、ようやくエルフーン先生の綿がもふもふと膨らむのを止まってくれた。
 ドレディアがポイ捨てした綿は廊下一面、敷き詰められたかのように積もっている。
 今もまだ、多く生えているエルフーン先生の綿をドレディアが取っているのだが、薬の効果が切れているから落ち着いてゆっくりと取ることができる。
「医療用だけでは、余ってしまいますし……どこかに売ってしまいましょうか?」
「そうだね……他の病院とか?」
「布団用にも売れると思いますよ」
 エルフーン綿100パーセントの布団……なんか気持ち良さそうだなぁ、と思い浮かべながらドレディアは作業を続けていく。
 しかし、ゆっくりとエルフーン先生のもふもふを取っていく度に、ドレディアは違和感を感じた。
 ……胸がドキドキするような、キュンキュンするような……。
 この違和感はこれが初めてではなかった。ここ最近、数ヶ月前からこんな感じだった。
 エルフーン先生の綿を取ると――もふもふに触れると胸がドキドキと鼓動がいささか速くなっているような気がする。
 今までは違和感が出て来るまでは楽しく取っていたのに、なんだか、もふもふに触れると胸のあたりが熱くなっていくような感覚がドレディアにはあった。
 しかも今回はいつもよりゆっくりと作業をしている為か、その違和感が若干強くドレディアの中に広がっていく。
 風邪を引いているのか? でも、そんなに体調が悪いというわけでもない。
 なら、この胸のドキドキは――。
「う〜ん……この薬、まだあるんだけど、どうしましょうか、ドレディアさん」
 まだ残っていると思われる例の薬が入っているビンを眺めながらエルフーン先生が尋ねたが、ドレディアからの返事がない。
 エルフーン先生がもう一度、ドレディアに声をかけてみても返事がない。しかし、代わりに聞こえてきたのは――。
「……寝てしまいましたか……って、ドレディアさん? 起きてくださーい。ドレディアさーん?」
 だけど、ドレディアの静かな寝息は止まることはなかった。


 それは昔、ドレディアがまだチュリネだった頃。
「チュリネさん? まだ起きてたんですか?」
「あ、せんせい」
 チュリネが病を起こして、エルフーン先生の病院に入院していた頃。
 最初は症状が重くて、緊急手術を施した……結果、なんとか峠を越えることに成功した。
 しかし、療養が必要とのことで、こうしてチュリネは入院していて、エルフーン先生によると、薬をしっかり飲んでここでゆっくりと療養すれば病も治ると言ってくれたのだが、死に際を経験したチュリネは不安だった。
 また病が起こるのではないかと。
 そう考えると不安で胸がいっぱいになって、とてもではないが眠れる気分ではなくなった。
「もう……しっかりと寝ないと駄目ですよ? まだ病み上がりなんですからね」
「うん、わかってるよ。でもね、こわいの」
 一室の病室、ベッドの上にいるチュリネにエルフーン先生が近づき、彼の手に持っていたランプが静かに揺れる。 
「大丈夫ですよ……そうだ、今晩は僕がここに一緒にいますよ。それぐらいしか、今、できることがなくて申し訳ないのですが」
「とちゅうでいなくならない?」
「大丈夫。チュリネさんの傍から離れませんから」
 慣れない病室生活でイライラしたり、心細くなったりしている患者は珍しくない。
 こうやって、患者の心と向き合い助けるのも医師の務めだと、後にドレディアになったチュリネは聞くことになる。
「隣、失礼しますね」
「せんせいのからだは、だいじょうぶなの?」
「あはは。もう忙しいのは慣れっこですよ。自分で言うのもなんですけど、打たれ強いですから、僕」
「せんせい……おいしゃさんって、たいへん?」
「そうですね……チュリネさんのときのように自分ではなく、他の方の命に関わる仕事ですから、結構、大変ですよ」
「やめたいっておもったことはないの?」
「それはもう。確かに変わった患者さんのときなんか特に……けど、やっぱり、僕は医者をやっていきますよ、今までも、これからも」
「なんで?」
「なんだかんだ言いながらもこの仕事に誇りを持ってますから」
 はにかみながら語ってくれるエルフーン先生の言葉にチュリネの不安が不思議と消えていった。
 すると、今までの疲れが押し寄せてくるかのように眠気がチュリネに襲いかかってきた。
「わわわ、チュリネさん?」
「せんせいのもふもふ……あたたかくてきもちいい」
 顔だけは残し、後はエルフーン先生の綿の中にチュリネは体をうずめた。
 気持ち良さそうな顔を浮かべながらチュリネがウトウトし始める。
 エルフーン先生のもふもふがチュリネの凝り固まっていた心を更にほぐしてくれているようであった。
「しょうがないですね……ゆっくりお休み下さい」
 チュリネが出てこないことを悟ったエルフーン先生は苦笑いしながらも、もうすぐチュリネが眠れそうな雰囲気だったのでそれでよしとした。
 

「せんせい……」
「ん?」
「ありがとう」
 
 もふもふに包まれて、チュリネが微笑みながら言った。
 体だけが暖かくなっただけではなくて、心までも温かくなった気分がチュリネの中に広がる。
 
 
 もふもふもふもふ。

 エルフーン先生のもふもふ揺りかごの中でチュリネが二つの夢を種まきした。

 一つはエルフーン先生のような医者になること。
   
 もう一つは――。



【5】

「……懐かしいものを見ましたわね」 
 
 ヨルノズクが夜空に子守唄を優しく響かせている真夜中、ドレディアが静かに起き上がった。
 どうやら、エルフーン先生のもふもふを抱きながら眠ってしまったらしいことを確認すると、ドレディアはエルフーン先生に声をかけてみる。
 しかし、返ってきたのは小さな寝息だけだった。
 仕方ない、いつも寝不足な上に今回のもふもふ大量発生事件の後では疲れも臨界点を突破したのだろう。
 とりあえず、ドレディアは残りの余分なエルフーン先生の綿取り作業に戻ることにした。
 
 もふりもふり……。

 また胸が高鳴ってきている。静かな真夜中だからか、その胸の音がドレディア自身にも聴こえていた。
 その音を聴く度にドレディアは顔を赤らめさせていく。その胸の高鳴りの意味をようやく知ったその身の体温は熱さを更に帯びている。
 エルフーン先生は自分が退院するまで、あの日から毎晩、あのもふもふの綿の中で眠らせてくれた……あのとき感じた温もりは一生忘れられないものだ。
 ドレディアがもふもふ好き、というのは裏を返せば――。
 
 ある程度、エルフーン先生の綿も取れて、形も整えたこのまま草の腕で起用にエルフーン先生を持ち上げると、ベッドへと運んでいく。
 静かに先生をベッドの上に置いて、ドレディアの目に映るエルフーン先生の寝顔。
 睡眠にありつけることができてこの上なく幸せそうだというような顔をしていた。
 その寝顔にドレディアが思わず、草の手でエルフーン先生の頬をさすると、顔を近づけていって……目が合った。
「あ……ドレディア、さん? 起きてたの…………あれ? 頭が軽くなっているような……あ、取られ過ぎてない」
「先生……」
「ん? どうしたの? ドレディアさん……って、なんか顔が近いような気がするけど……?」
 お互いの顔と顔の距離は約十センチ。
 その気になれば、すぐにキスができる距離。
 ドレディアがあまりにも見つめてくるからか、エルフーン先生の胸の鼓動が速くなっていく。

「先生……覚えてますか? 一匹のチュリネが先生の綿の中で寝ていたときのこと」
「え……? あ、はい。今でも覚えてますよ。僕も初めてのことだったので結構印象に残ってます…………ってなんでドレディアさんが、それを?」 
「……わたくし、あのときのチュリネだったんです」
「えっ!? そ、そうだったの! …………良かった。立派に育ったんだね。本当に良かった…………」
「わたくし、先生のおかげで看護師という夢を持つことができたんですよ」
「あわわわ! な、なんか、えっと、その、光栄です……」
「それと、もう一つ、夢を持てたのですが」
「はい?」

「大好きですわ、エルフーン先生。結婚してくれませんか?」

 突如、ドレディアからの告白で一瞬、辺りは水を打ったかのように静かになった。
 しかし、お互いの胸の高鳴りは更に強くなっていく。 
「………………」
「………………」
「………………え?」
 ようやくエルフーン先生の意識が元に戻った。

「そそそそそそれって、プロポーズってやつだよね!? ぼ、僕はこの場合どうすれば……!?」

 軽くパニックになりそうになり距離を離したエルフーン先生にドレディアは「ふふふ」と微笑んだ。
 チュリネの頃のエルフーン先生のもふもふから温もりと勇気をもらった。
 忙しかったはずなのに、残っている仕事もあったはずなのに、いつも夜になっては、あのもふもふの中で眠らしてくれた。
 そしてドレディアになって、エルフーン先生の姿に更に惚れていったのだ。
 ネガティブなことを呟きながらも、真剣に患者と向き合うその姿がかっこよくて。
 取り乱して、慌てふためくその姿が可愛くて。
 もふもふから好きになったのではなく、エルフーン先生のことを大好きになったから、もふもふが大好きになった。
 エルフーン先生のもふもふを取り過ぎてしまうのは、きっと愛情表現の一つ。

「簡単ですよ。先生がわたくしのことをどう思っているのか、教えてくだされば」
「え……と。僕の綿を取り過ぎてしまったり……イジワルなこともしてきますけど……いつもテキパキと行動してくれますし、アロマセラピーで患者さんの心を落ち着かせてくれたりとか、助かりました。病院のお母さん的な存在ですよね、ドレディアさんは。だから、頼りにしてます、本当に。えっと……その、だから、えっと………………」

 言っていてなんだか恥ずかしくなってきたエルフーン先生は顔が茹で(ゆで)上がったかのように赤くなっていく。
「……あの……自分で言うのもアレなんですけど……僕って、結構鈍感、ってやつですかね……?」
「そんな先生も大好きですよ」
「茶化さないで下さいよっ」
「茶化してなんかいませんよ」

 
 最後の距離を詰めた。


「わたくしの気持ちは本物ですから」
 ドレディアがそう言った途端、エルフーン先生がベッドの上で横に倒れた。
 心なしか、エルフーン先生の顔から湯気が出てきてもおかしくなさそうな感じがした。
 そんな真っ赤な顔になっているエルフーン先生の唇から漂うのは花の甘い香り。
「あらあら……ふふふ、ここで倒れてしまうなんていかにも先生らしいですわね。さて……わたくしも今日はここで寝かせてもらおうかしら」 
 ドレディアはエルフーン先生の綿の方に寝転がり、そして、ぎゅっと抱き締めた。
「もう……あの時みたいに、もふもふの中には入れないですが……こうやって抱き締めることができるようになりましたわね」

 もふもふと優しい音色が辺りに漂う。
 それはもう一つの夢が花咲いた証でもあった。


【6】
   
「ついに、あの先生がな〜。結婚かぁ……先を越されたなぁ」

「なぁ、ロコン。結婚って言うと、なんかあのときを思い出すよな」
「えぇ……ルクシオさんがプロポーズしてくれた日……ふふふ、あの方々がどんなプロポーズをしたのか……後で話を訊かなくちゃ」

「あのこええドレディアが結婚か、なんか信じられねぇよな」
「そのドレディアさんを怒らした張本人が言うか」
「んだと? シャワーズ」
「やるのか、サンダース?」 
「…………」
「…………」
「止めとくか。看護師にケガさせられるって変な話にしたくないし」
「奇遇だな。僕もそう思っていたところだよ」

「おい、あそこにホウオウ様がいるぞ!?」
「マジっすか」

「ふむ……これだけの人数が揃うとは」
「みなさんエルフーン先生やドレディアさんのことが大好きですから」
「まさか伝説のポケモンもお世話になっていましたとは」
「他の者達にも困ったらエルフーンとドレディアがいる病院を勧めておいた」
「ホウオウ様の知り合いの方々というと……どなたですか?」
「近々、ルギアなどが来訪するかもしれんな」
「こりゃ、先生もドレディアさんも大変だ」
「けど、ますます、楽しみになってきたなぁ。あの二匹がどんな病院にしていくのかを」

「あの……グラエナさん。私達もいつか……」
「え、ちょ、エーフィっ!?」
「おお!? ここにも春が来ましたかな〜?」
「おら! ニューラ! てめぇはちょっと黙ってろ!」

「何はともあれ、今日はめでたい日じゃな。ほ、ほ、ほ」
 
 過去と未来を見ることができる一匹の鳥が笑った後に吹きゆく春一番。 
 森の広場にて花満開の春が二匹を迎え入れる。
 一匹は恥ずかしそうな新郎――エルフーン先生。
 もう一匹は頭から白いベールをかぶっている新婦――看護師のドレディア

「わぁぁ! 皆さん、本日はお忙しい中、集まってくれまして、あ、ありがとうございます!」
「あら、先生、まだ緊張してます?」
「うぅ、ドレディアさんは緊張してないの?」
「はい! だって、皆がこうやって祝福してくれてますから、嬉しくて、緊張なんか忘れちゃいました」
 ドレディアは下を出しながらそう言うと、どこからか何やら取り出したのは一本の小さな紫色のビン。「ちょっと失礼」と一言置くと、ドレディアは近くに置いてあった大きなカゴを持って来た。そのカゴの中には赤、青、黄色、その他にも色々な色の花がぎっしり詰まっていた。
「さて、先生、緊張で喉が渇いてますでしょう? まずはこれを飲んでください」
「え、それどこかでみたことあるような……ちょ? ドレディアさん!? ゴキュ、ゴク、ゴキュン!! ……っぷはぁ!」
 半ば強引にドレディアがエルフーン先生に飲ませたもの、それは――。

 もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ!!!

「わわぁぁあああ!!! やっぱり、あのときの綿生え薬だ!!」

 エルフーンの綿がいきなり増え始めたので、辺りが騒然となっていく中、ドレディアが見事な草の両手さばきでエルフーン先生の綿を取っては、その綿に何かを入れて、すぐに空へと飛ばしていく。
 その一ちぎれの綿が風に乗ってふわりと空中散歩をちょっとばかりした後、エーフィのところに落ちてきた。
 エーフィがそれをキャッチして、その綿を覗き込むと、数輪の花がそこには添えられていた。
 エーフィだけではない、ドレディアが次々に投げていく綿は風に乗って、集まった者達のところに着地していく。
 どの綿も数輪の花が添えられていた。

「名づけて、もふもふブーケですわ! 皆さんに幸せのおすそ分けです!」

 手を素早く動かしながら、ドレディアがそう説明した。
 たくさんのもふもふブーケが風に乗って空中散歩をしていく。
 時折、春一番が吹いては空中を駆け抜けていくもふもふブーケもあった。
 この場に集まったポケモン達だけではなく、世界中のポケモン達にもこのもふもふブーケは届くことだろう。

 エルフーン先生との出逢いから始まった、もふもふな恋。
 
 その、もふもふブーケには確かに幸せが詰まっていた。

「だから! 取り過ぎないようにって何度注意したらいいんですかぁ!!」
「えへへ、嬉しくて、つい、やっちゃいました」

 その場に集まったポケモン達の笑い声が響き渡っていく。
 
 エルフーン先生のつるつる頭に反射した太陽の光が一つのもふもふブーケに当たっていた。






【五年後を書いてみました】

 
 それは四月某日のチャットの日、ふにょんさんとのトークで盛り上がった、エルフーン先生、それが全ての始まりでした。 
「最近、先生のもふもふに触れると胸がキュンってなりますの……これって……」
 このようなドレディアさんの台詞から一気に、今回の話を書かせていただけることになりました。
 さりげなく、自分の小説のキャラ(ひむ)も入れてみたりで色々と楽しかったです。
 ありがとうございます、ふにょんさん!
 そして遅くなって申し訳ありませんです……!(汗)

 ちなみに今回の物語の時間軸を一応表記しておきますと、
 ふにょんさんの五分シリーズのエーフィさんの占いのお話で出てきた、エルフーン先生の五年後のことです。
 
 とりあえず、個人的にはエルフーン先生がドレディアさんの尻に敷かれそうなイメージがあります。
 結婚後のプライベートな夫婦生活ではドレディアさんが色々とエルフーン先生を引っ張っていきそうな感じですかね?
 頑張ってください、エルフーン先生。(汗)
 変わって、病院での仕事中はそのエルフーン先生の手腕にドレディアさんは内心惚れ惚れしているといった感じで……。
 ……って、これって(ドレディアさんはツンツンしてないですが)ツンデレみたいなやつですかね?(汗)
 とにかく、エルフーン先生、ドレディアさん、末永くお幸せに!
 
 改めて、ふにょんさん。【五年後】書かせてもらいました、ありがとうございました!
 お気に召したら幸いです。(ドキドキ)


 それでは失礼しました。


【皆さんのところにも届け、もふもふブーケ!】