※スズメ氏の設定にあります、ポケモン世界のホームセンターを題材とした作品です。
今日という日、オレはホームセンターにやってきた。
相棒のイシズマイが進化して大きくなり、部屋の整頓にいろいろ棚とかが必要になったからだ。
独り身だと部屋の狭さも考えずにモノを買い込んでしまうもので、常々反省を心がけちゃいるんだが……。
さておき、ついでにイシ……いや、イワパレスにも進化祝いに何か買ってやろうというのも、ある。
イシズマイとは体格が違うからな。とりあえず大きいエサ入れから考えていこうと思っている。ハサミでも壊れないような、頑丈な陶器のヤツをな。
ホームセンターは好きだ。
いろいろな生活道具があって、自分が使っているところを想像するだけで楽しい。
モップや掃除機は学生時代を思い出すし、土建屋向けのチョッキとかは実用的な上にカッコいい。キッチン用品は調理風景がどう変わるか考えるだけでも心が躍る。
とはいえ園芸用品など、日当たりの良いベランダのある家に住まない限りは、と現状ではとても無理なものを想像して空しくなることもあるが。
到着早々、イワパレスがその園芸用品にひきつけられた。
ポケモンを出したままだとこうなるんだよなぁ。まぁ、オレもそうだけど、承知の上でやってる人も多いからな。
さーて、イワパレス君は何が気になったのかねー……除草剤?
却下。行くぞ。
……あきらめろ。うちじゃ必要ない。その宿にも必要ないっての。
ったく、店内を見回る前からコレかい。
*
店内にはポケモンの姿がちらほらと見えた。オレも同じだけど、目を離すなよ?
ほれ、あのエルフーンも隣にトレーナーの姿がないし、なんか目ぇ輝かせてるし? ……トレーナーさん、あいつがなんぞやらかす前に引き取れよぉ?
まず、工具や網棚などのコーナーを見て回った。こうして見ているだけで、日曜大工というか、部屋の改造アイデアがわいてくることもある。
それにしても、ネジとか針金とか、太さが細かいんだよなぁ。使わないから関係ないけど。
…………コイル、ココドラ、お断り、か……。流石にボールに戻すだろうさ、みんな。
収納道具として、結束バンドやポールを何本かと、網棚を買った。こういうものは買う前に計画を立てておく必要があるし、今回ももちろん計画済みだ。ただちょっと衝動買いもあったけどな。
次にポケモン用品を見てみた。ポケモンとひとくくりに言っても種類があるからな。タイプごとに棚が分けられていて、なかなかバラエティに富んでいる。
ここ最近は、ゴーストポケモン向けのコーナーに野生のポケモンが入り込んだってニュースがあったが……あっちこっちで見かけるお札やうっとうしいまでのお香は、所謂 清めのアレってことか?
……待てコラ、イワパレス! その盛り塩は食い物じゃない! オヤツ買ってやるから、もうちょっと待て!
虫ポケモン向けの商品を見ると……売れ筋はやっぱり甘いミツか。これ見よがしにたくさん並んでるな。
しかしながら、うちのイワパレスは塩気のほうが好みだ。
こんにゃろう、昔 ヒトが酒のつまみにと用意した大根の塩漬けをかすめ取りやがったからな。濃い口しょう油センベイを全部食われたことだってある。今となっては恨めしい思い出だ。
とりあえず、エサ箱の他に、外骨格のためにカルシウムブロックでも買うか。ミネラルも入ってるし、たまにかじるだろ。
岩ポケモン向けの商品は、イワパレスはむしろ岩が苦手だ。進化した今、宿も岩っていうか地層……土の塊だし、買わなくても良いだろう。
こいつも使い捨てと割り切ってるのか、昔から宿への執着が薄い。とは言え、脱皮のたびにオレは次の岩を買わされてかなり辟易していたが。高いんだよ、そこそこの大きさの岩となると。おかげでローブシン印のコンクリート塊には何度も世話になった。
今では地層なんて背負っているが…………“からをやぶる”なよ? 代えなんて知らねぇぞ、オレ。
ついでに他のところも見てみた。
悪タイプ向けにはサングラスとか偽タバコとか、なんだか“それっぽいもの”が売ってる。
しかし……この香木とか、それっぽいクスリとか……大丈夫なんだろうな、いろいろと? 購入の際は身分証提示を、とか書かれてるし……。
そして建物の隅の方にある炎ポケモンコーナーには、木炭や燃油キャンディ、耐熱手袋なんかが。ただ火気厳禁で対象の炎ポケモンを近づけないようにと警告が出されてるな。
……なんていうか、命がけなんだね、あいつらの相手って。
ノーマルタイプ、というか獣ポケモン向けのコーナーでは、トレーナーの腕に抱えられたヨーテリーが、棚に並んだ缶詰を前によだれをたらしていた。
「どれがいい?」なんて聞いてるが、その様子だと「全部」って考えてそうだな、そいつ。
……ん、サーナイト? トレーナーにおねだりか。賢いポケモンは面白いねぇ。でもあの辺って獣向けのグッズじゃ…………首輪?
…………いやー、えらくなついてるね、あのサーナイト。行こう、イワパレス。自分たちには関係ないことだ。
*
そうして、なにかイワパレスに良い物はないかと見回ることしばらく。
とりあえず店内にはもうないようなので精算をすませ、再び店外は資材などが並んでいるコーナーへ。
そこで、イワパレスが異様な物に興味を示しやがった。
壁材? タイル?
今の壁に貼り付けるだけ?
貼るだけで防水断熱?
お前ってやつぁ、何かね?
その見事な地層の上に、無粋な板切れを貼り付けようって言うのか?
ロールキャベツを切ったような、歴史を感じさせるその断面を、お前はこんな寒々しいビルのようなタイルで埋めようって言うのか?
水技や草技への対策か? 確かに岩ならどっちも苦手だな。このタイルも雨風への強さがウリみたいだしなぁ……。
だが、断る。
認められっか、そんなこと。するならあっち、園芸コーナー。苔むした岩、地層の上に広がる森、その風情はお前も分からないわけじゃないだろう。
イヤか? 確かに苔は水で草だしな。だが毒をもって毒を制す、だ。
……そんな顔するな!
わかったよ! お前の欲しい物買ってやるよ! タイルだろうがセメントだろうが買ったらぁ!
気分は護岸工事だ! 利便性や安全性と、生い茂る自然やロマンとを天秤にかけて! えぇ!?
だいたい高いんだよ、壁材は! お前の岩宿 包むとなったらどんだけかかるやら……!
……またそんな顔をする!
いいよ、黙るよ! お前がそんな負い目を感じることはないの!
これは自分のわがままなの! お前はバトルで勝ちたくて選んだんだろ?
そりゃ横でぶちぶち文句言われちゃ気も滅入るってもんだろうけどさ、気にしなさんな。
今回はお前の進化祝い。だから、優先するのはお前の意思。
もうな、「からをやぶる」なんて絶対使いません、ってぐらいにしっかりしたヤツにするぞ。いいな!?
……漆喰もありっちゃありだよなぁ……あぁ、なんでもないよ。気にすんなよ。
そうだ、柿ピーを買おう。お前好物だったろ?
……そーそー、喜べよろこべ。ほれ、店に戻るぞ、ついてこい。
「お買い上げ、ありがとうございました」
買い物を終えた今、ベンチでコーヒー片手に休むオレと、その横でイワパレスがうまそうに柿ピーをむさぼっている。
高い買い物だったよ、まったく。まぁ、イワパレスが嬉しそうだから良いんだけど。
でもこれ、インチキにならないかなぁ……。バトルはあんまりやらないけど、ありなのかねぇ……。
……ん、食ったか。じゃ、帰るか。
荷物が多いからお前も手伝え。お前の宿に貼り付けるもんだ。今のうちから重たいとかボヤくんじゃねぇぞ。
ところで、網棚も背負えるか? ……あ、大丈夫? いける?
いやー、助かった。網棚って抱えて歩くには重いんだよ。今回はお前が進化してて良かったよ。ありがとうな。
帰ってからもいろいろやることがあるからな。今からいろいろ楽しみだなぁ、おい?
*
それからオレは、イワパレスの宿に泣く泣くタイルを貼り付けたわけだが。
後日、バトルでその耐水性をいい感じに発揮してくれた。バトルをふっかけてきたトレーナーに「あり得ない!」といわれたが、結果オーライというヤツだ。
しかしやっぱり納得できないというか、もったいないというか……。
いつか相棒にもわかってもらえる日が来ると、オレはそう信じている。