昨日はとても風が強かった。牧場のミルタンクたちを小屋に入れようと外に出たときには、3匹に1匹のミルタンクがひっくり返ってばたばたしていた。その必死な姿が…なんというか…メタボである母にそっくりで、少しにやけてしまった。
そして今、私は牧場の端にある風車の前に立っていた。風車に何か得体の知れない物体が引っかかっているのである。ふよふよと風にゆれ、砂まみれになっているその物体は、じっとこっちを見ている。
「…ポケモン?」
「ふゆーん」
ちょっと不気味なその声にビビりながらも、助けないわけにもいかないので、私は風車の中の階段をかけ上り、そのポケモンが引っかかっている風車の羽に近い窓を開けた。
「ぷわわー」
「…わっ、わかった。今助けるからその不気味な声出さないで」
ポケモンの紐(?)が風車に結ばれていて、これじゃあ自力で抜け出せないはずだと1人で納得しなから、私はポケモンの紐をほどいて窓からポケモンを中に入れた。なんていうポケモンなんだろう…こんなポケモン見たことない。
「すごい砂まみれ…昨日の風に吹き飛ばされちゃったの?」
「…」
「洗っても大丈夫かな?水苦手?」
「…」
「あ、ごめん、声出していいよ。ほどほどに…なら」
「ふゆゆーん♪」
そのポケモンはゴムのような布のような謎の手触りで、どこもかしこも謎だらけだった。とりあえず、ミルタンクの水浴び用の桶に水をためて、その中に入ってもらったのだが、何故か沈まない。まるでうきわみたいだ。しかたがないので風呂場に行き、家のシャワーで砂だけ落としてやった。すると、そのポケモンが嬉しそうに空中をくるくるまわり始めた。
「ふゆーん♪ふっゆゆーん♪」
その声を聞きつけたのか、父が風呂場までやってきた。
「なんだ…新しいポケモンか?」
「風車に引っかかってたの。お父さん、このポケモンの名前知らない?」
「…本棚に最新のポケモン百科事典入ってたぞ」
「ホント!?ありがとう!」
私はすぐさま本棚から百科事典を取り出し、ぱらぱらとめくった。最初のほうのポケモンは見たことがあるのに、後ろのほうになると全然わからない。まぁ、普段からミルタンクにしか縁のない私にとっては、他のポケモンなんて知らなくても困ったりしないのだが。
「あった!…フワンテ?」
「ぷわわー♪」
いつのまにか後ろにポケモン…じゃなくてフワンテがいた。最初は不気味だと思っていたその声も、慣れてくればそんなに気にならない。むしろ、可愛いとさえ思い始めていた。
私はフワンテをつれて外付けに出て、フワンテの紐…じゃなくて手を離した。すると、フワンテはふよふよと空を飛び始めていた。
「ねぇお父さん、フワンテ飼っちゃ…」
そう言いかけたとき、急に風が吹いて、フワンテは風にさらわれてしまった。それは、突然の別れだった。
「どうした?」
「ううん、何でもない。私、ミルタンクたちを小屋に戻してくるね」
これでいいと自分に言い聞かせながらも、翌日私はまた風車に向かって歩いていた。そんなに何度も引っかかるわけないのに…とあきらめかけていたそのとき
「ふ…ふゆーん」
聞き覚えのある可愛い声、風車を見上げると、フワンテが申し訳なさそうにこっちを見つめていた。