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  [No.44] 黒い慈雨の降る街 投稿者:CoCo   投稿日:2010/09/07(Tue) 14:56:29   48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 
 夏の終わり。
 今も煉瓦造りの古い町並みが通りを続くこの街なら、この頃の夕焼けはとても美しいのだけども、残念ながらここらへんの気候では、残暑の頃には雨が多くなる。特に黄昏時の通り雨。

 でも坂の上で天気雨なんかに遇うとね、夕日に家々の影がすっと伸びて、どこまでも黄金色の空、赤く染まった街、どんな素晴しい画家のカンバスでも出会えないような、本当に眼の焼けるような美しい夕暮れが見られるんだ。凄いと思わないか?

 しかし最近、妙な噂があるんだ。
 岬のほうにある例のでかい塔、あすこにはいつも雲がかかってるじゃないか。あれが暗雲に囲まれると、街のほうでは黒い雨が降るって。
 しかも、それを降らす渦巻き雲の下にはいつも、真っ黒いコウモリ傘を差した少女が立っているんだと。

 不吉だよなあ。
 うちのグラエナもよくなんでもないことで吼えたりしてるし。よくないことが起こりそうで嫌だね。
 そういえば最近寝覚めが悪いよ。湿気があるせいかな……。


【黒い慈雨の降る街】


 お前もあんまし寝てないみたいだな。目の下が真っ黒だぞ。
 今度はズバットだっけか? 便利屋気取りもいいが、身体は壊さないようにしろよな。


***

【描いてもいいのよ】
【批評していいのよ】

 連載掲示板は過疎気味なので逃げてきたチキン。
 完結したら書いてもいいのよを付け足す予定です。
 しかし完結予定は微妙。


  [No.45] 黒雨1 投稿者:CoCo   投稿日:2010/09/07(Tue) 23:50:03   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 

『Welcome rain!』


 雨なんて面倒なものをなぜ招く。
 もちろん、それはここらへんの広い広い畑に恵みの雨を求めるためだろうが、雨が降ると曇って空が見えないせいで観察日誌もつけられないため大変都合が悪い。

 というかこんなばかでかい看板ひとつで雲が招けたら苦労しないだろうと思う。この腐りかけた木片の寄せ集めに雨来て! と書くことにどれだけの意味があるのか?

 よくわからんが、とにかく一昨日のゴンベによる畑荒らし騒動の勢いでぽっきり折れてしまった看板を直すべく、俺は今、街はずれまで来ている。

 ここは広大な野菜畑と街との境目にあたり、畑の中にまばらにあばら屋が立っている程度のだだっぴろい丘だ。旅人にとっちゃ街への入り口ってことになる。俺も去年の今頃、ここを通ってあそこへたどり着いたのだ。間違いない目的を持って。

 俺には夢がある。
 しかしそれは、ポケモンマスターになるとか、トップブリーダーになるとか、実業家になるとか学者になるとかアイドルになるとかそういう具体的な夢ではない。

 うえに、俺のこのなんとも退廃的(に、見えるらしい)風貌も合わさって、俺がその夢について話すとシティの友人はみんな驚き、そして直後爆笑した。

 俺の夢は空を飛ぶことである。

 今時そんなの大して難しいことじゃない。飛行機もヘリもあるし、それに乗れなくてもひこうタイプのポケモンがいれば簡単に大空を舞うことが可能だ。

 けれどそのためには”そらをとぶ”が要る。
 ポケモンの翼はもともと人間を乗せて空を飛べるようにはできていない。だからこそ人を乗せて飛ぶためにはなんらかのコツが必要らしく、そのコツの秘伝こそが”そらをとぶ”と呼ばれるテクニックなのだという。

 もちろん、ひでんマシンがあれば一発なのだが。
 わざマシンが大量生産でもない限り、わりかし高価なのは周知の事実である。増して、達人の技が必要なひでんマシンがそうそう転がっているもんだろうか。
 そんなはずはない。
 オークションなどで高価で取引されるほか、各地の達人の中でもまたひとにぎり社交的な人間がシルフやデポンなど大きな会社と手を組んで、壮大な金と技術を積み込んでやっとできあがるひでんマシン。
 そんなものが一介の貧乏人の俺に手に入るはずがない。
 バッタもんの改造品や粗悪品も出回っている。そんなのにひっかかって、大事な手持ちに後遺症が残ったなんて話も聞くからたまったもんじゃない。

 だから普通、多くの人間は秘伝の技をポケモンに教えることのできる匠のもとへ教わりにいくのだ。

 俺の住んでいたシティから一番近い、そらをとぶを専門にする匠が住む街はここだった。一番近い、とは言っても歩きでは途方に暮れるほど遠い。
 それでも俺は鉄道とバスと徒歩でここまで来た。
 空が飛びたい。兄貴が銀翼に誘われて飛んだ空を。

 ということで、俺は毎日一枚空の写真を撮って日記をつけている。
 今日はいい具合に快晴だ。雲ひとつない。突き抜けるような青の空は清々しい。

 のに、何で俺は看板なんかと戦わなきゃならんのだ。
 溜め息をつくと、心配そうに俺を見上げたトゲチックがきゅ、と言った。

「いや」
 なんか可愛かったから撫でた。
「はやくお前が空飛べるよーになればな、と思ってさ」

 トゲチックはなにもしなくても風船のようにふよふよと浮いているが、あまり高くは浮かべないらしく、小さな羽根を必死に羽ばたかせて飛ぼうとしても3メートルぐらいが限界で、あのときの必死さを見たら俺を乗せて飛ぶなんて到底無理だとわかってしまった。
 しかしそらをとぶが使えれば、隣町までなんざひとっとびできるようになる。
 この空を泳ぐように飛び回るトゲチックを思えば、雑用生活も耐えられる気がする。

 地平線がくっきりするほどなにもない畑の真ん中の道で、テッカニンの羽音も聞かなくなってきた夏の終わりの白昼。
 目が霞む。最近本を読んでばかりであまり寝ていないせいか。くそ、今日はさっさと寝よう。

「とりあえずこれ直すか……」

 俺は古臭く緑に変色しかけた木片でできた雨の神様へのまじないとかいう看板を見た。
 綺麗に折れている。そりゃあもうぽっきりと。

 工具箱を運んできた右腕が、昼間の温い時間の流れと同じくらいだるかった。



***

雑用男「王子系イケメンはそうでもないのに、俺がトゲチックを相棒にしていると言ったらなぜか引かれた。不条理を感じる」


  [No.81] 空飛ぶ師匠に弟子入りしたい 投稿者:No.017   投稿日:2010/10/23(Sat) 15:50:47   41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

CoCoさん、こんにちは。
ポケスト板のほうではお世話になっております。

そうかぁ ひでんマシン高価なのかなぁ。
でも師匠に師事するのってなんかロマンありますよね。
師匠がイケメンだったりしたら女の子がいっぱい弟子入りしていそう。
あるいはゴッツイじいさんに弟子一人だけ、とかね。

いいですね、萌えますね。師弟関係。

この人のお師匠様は如何に!?



> 雑用男「王子系イケメンはそうでもないのに、俺がトゲチックを相棒にしていると言ったらなぜか引かれた。不条理を感じる」

wwwwwww

ギャラドス柄のジャンパーのスキンヘッドがピィ出してきたの思い出したw


  [No.97] あなたならきっと師匠になれる 投稿者:CoCo   投稿日:2010/10/26(Tue) 20:50:22   40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 
No.017さん、いつもお世話になっています。
お返事が遅くなったのは放置体制が整っていたからとかでは決してありません。

ひでんマシンは人から貰うなど、なかなか特殊な方法でしか手に入れられないので、主人公以外のトレーナーだったらどんなようにしてあれを貰っているんだろうな、と思った結果がこれです。
師匠が出てくるのはまだまだ先になりそうですが、というか自分はちゃんと続きを書けるのでしょうか。あれれ。まあ気が向いたときに(そんな姿勢でいいのか?)。

そして鳩の異名を持つNo.017さんならば、空飛びの師匠を名乗るのも難しくないことでしょう。
雑用男へ愛の手を。


>ギャラドス柄のジャンパーのスキンヘッドがピィ出してきたの思い出したw
 人を見かけで判断するのは八割ぐらいにしておきましょう、というお話でしtおや、だれか来たようだ



あーsage忘れた!
何か何も書いてないのに上がってしまって申し訳ない……。


  [No.111] 黒雨2 投稿者:CoCo   投稿日:2010/11/14(Sun) 00:30:09   53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 棒のようになった足を引き摺りながら、石畳の坂道を登る。
 煉瓦を重ねて出来上がった背の高い住居を繋ぎ合わせる急勾配な赤茶の階段と、大小いくつかの丘を縫うように街を広げていった跡であるこの道ごとの高低差。だるいこと極まりない。

 大通りから暖色で塗り固められた町並みを行くと、すぐ右手に聳える二番街へ上がる大きな階段の下、そこにとあるレストランの扉がある。
 しかし、いくら重厚そうな年季の入った黒い木の扉が招くといっても、マナーを弁えていなければ入るにも敷居が高いような店ではなく、ショウウインドウのガラスの中、ロウ製の食品サンプルに混じって可愛らしい手縫いのミミロル人形がおいてあることからも分かるとおり、家族連れを想定したファミリーレストランである。週末には店の一角に置かれたグランドピアノの音色とそれを奏でに座る朱色のドレスの人を目当てに大賑わいする。

 重たい扉を押し開けるとからんころんとドアベルが鳴った。

「いらっしゃいませ! ……間違えたお前か! おかえり!」
 裸電球に照らされ、木目にテーブルが独特の影を落とす落ち着いた店内から、黒いベストを着込んだ若いウェイターが、俺を客かと思って背筋を伸ばして出迎えてきた。
 こいつが猫背をしゃんとすると、同い年だとは思えないぐらいにひょろ高い。
「看板直ったかい?」
「まだ。でも修理はした。あと立てるだけ」
 これさんきゅーな、と俺は工具箱を差し出した。工具箱は店から借りたものだ。俺が"便利屋"業のために所持しているのは大きな虫取り網だけなので、他に用具が必要なときは街中を駆けずり回って探さなくてはならない。
「どいたま。でもお礼はミネさんに言ってね」
 だから多趣味なここの店長、ミネさんにはいつもお世話になっている。
「わかってるっての」
「そうかなー、メモ帳が手放せないお前だったらすかっと忘れかねないぜ」
 余計なお世話だ。そもそもあのメモ帳は物忘れ防止じゃねえよ。そう返すとあはははあと猫のような大きな瞳を細めて笑う。グレイの名に相応しい灰色の瞳だ。
 彼は家族経営で細々やってるこのレストラン唯一の雇われ従業員で、こいつの居る下宿の隣に俺が引っ越してきた縁でよくしてくれている。
「飯は?」
「それを食いにきた」
 例えば、飯代を割り引いてくれたりとか。

 腹が減った。
 なにせ二時間近くあの雨乞い看板の足と格闘していたのだ。最終的に補強するのは諦めて、新しい角材と取り替えてしまった。
 たとえどんなに"便利屋"を名乗っていたとしても、もともと器用じゃあない俺に日曜大工を頼むのは角違いのような気がしてたまらない。
 まあしょうがないか。トレーナーになる気で故郷を経ってしまって学も金も何もない俺にはそれぐらいしかできることがないんだ。

 狭いカウンターの裏から蝶ネクタイを締めてウェイター服を着込んだポチエナが出てきて、アオンと一言吼えた。
 グレイがカウンターの下にフーズを置いているのだ。

 小さい体躯のポケモンに人間風に服を着せるのが上流階級では流行っているそうだが、グレイは趣味でこいつに服を着せているわけではないらしい。
 何でも飲食店だから、こういった毛皮のフサフサしたポケモンを置いておくと毛が舞ってしまって衛生的に悪いんじゃないか、という懸念からだそうだ。
 客が普通に椅子やら床やらテーブルの上やらにポケモンを放す店で今さら何を、と店長のミネさんも言ったそうなのだが、本人は「けじめです!」と一言言い返したんだと。
「そんなんだから雇ったんだけどね」と語ったミネさんが、実はこの凛々しい表情をしたウェイター・ポチエナにべたべたに惚れ込んでいるのを俺は知っている。

 ほとんどタダ飯と言って差し支えない値段で食事をさせてもらってるこっちとしてはメニューなど選べない。トゲチックと一緒にさっさと席についた俺のところへ、グレイがにやにやしながらドリアを運んできた。
 そしてそのまま向かいに座る。

「聞いた?」

 こいつの話はいつも唐突に始まる。俺は知らん、と適当に返事をして、今はこのドリアをおいしくいただくことにした。皿のふちでホワイトソースがまだぐつぐついいながらジューシーな香りを立ち上らせている。すきっ腹をいじめ抜くようなこの焼き具合。たまらずにスプーンが唸る。

「最近さ、妙な雨が降るらしいんだ」

 熱っ! マグマッグ食ったみてぇ! 舌ヤケドした!

「墨みたいに黒い雨だってよ。しかもその雨が降ると、幽霊が出るらしい」

 それでも腹は減って減ってしょうがない、しょうがないからハフハフ食べる。舌は見事なからげんきを発揮してくれた。
 隣ではトゲチックが、きのみを練りこんで作られたパンにおおよそ清純派らしからぬ大口でかぶりついている。今の顔だけ見ればトゲチックというよりかは飢えたキバニア。

「幽霊っつってもゴースとかヨマワルじゃないんだよ、女の子でさ。しかもさ……」
「トゲチックお前顔ひでぇぞ」
「ちちちー」
「おい話聞けよ」

 メニューの角で殴られた。




***

灰「どう聞いても俺の話は次の展開へのキーだろっ。真面目に聞けよ主人公」
雑用男「キー? こんらんでもしたのか」
灰「ピヨピヨパンチッ!」