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  [No.46] Our Future 〜3 years after〜 The Special Episodes 投稿者:あゆみ   投稿日:2010/09/08(Wed) 16:20:41   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

こんにちは。そしてご存じない方は初めまして。あゆみです。

この作品は、本棚にある本作品のまえがきを読んでいただければ分かるかと思いますが、かつて「ぽけあに」と言うポケモン総合サイトに設置されていた掲示板で連載を始めたものです。
「ぽけあに」が管理人様の事情から2009年12月末で掲示板を閉鎖、2010年2月12日を持って無期限更新停止、以後は事実上の閉鎖となったあとは当マサポケに執筆の場を移して連載を続けてまいりました。当マサポケの管理人様が交代されたとき、閉鎖の可能性も示唆されたことから別のサイト様でも連載を始めさせていただきましたが、こちらでも引き続いて執筆を続けさせていただいております。
さて、ナナシマからジョウト地方に舞台を移して、現在鋭意執筆中の本作品ですが、本編のマサト達の冒険の裏では、たくさんの物語が繰り広げられています。
ここでは、そう言ったたくさんの物語の数々をスピンオフ(表記では「SpecialEpisode-○」)と言う形でまとめていきたいと思っています。
本作の本編につきましては、以下のリンクに当サイト本棚に収録されているものがございますので、どうぞご覧くださいませ。

http://masapoke.sakura.ne.jp/cgi-bin/library/yomi.cgi?mode=kt&kt=01_35
(最初にhを付けてください)

スペシャルエピソードのうち、現段階で第1作から第4作が本棚に収録されており、第5作も近く収録する予定です。ここでは第6作から掲載を始めたいと思います。
これらの作品は随時本棚にも収めていく予定です。
それではどうぞ。



本棚作品も含めて
【描いてもいいのよ】
【批評していいのよ】


  [No.47] SpecialEpisode-6(1) 投稿者:あゆみ   投稿日:2010/09/08(Wed) 18:35:23   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

スピンオフ作品の第6作となる今回は、ナナシマ編のクライマックスとなったバトルチャンピオンシップスのもう1つのエピソードに触れてみたいと思います。
本棚収録はSpecialEpisode-5の後を予定しています。

SpecialEpisode-6『もう1つのバトルチャンピオンシップス!』

(1)

カントー地方の南にある、7つの主な島とその回りにある無数の島々から成り立っている地方・ナナシマ。それまでポケモンリーグやポケモンコンテストも行われていなかったこの地方が、初めて行われたバトルとコンテストの大イベントに盛り上がった。「ナナシマ・バトルチャンピオンシップス」である。
ナナシマ・バトルチャンピオンシップスは、7のしまにあるトレーナータワーをメイン会場に、周囲に配置されたバトル大会とコンテスト大会の会場が舞台となり、マサト達を始め、たくさんのトレーナーやコーディネーターによる息詰まる熱戦、そして華麗なる演技が繰り広げられ、大成功のうちに幕を下ろすことができた。そして閉会式において、ポケモンリーグのケロ会長はナナシマリーグの設立を宣言、トモヤを始めとする5人のトレーナーがジムリーダーに選ばれたのだった。
そして、バトル大会ではミキ、コンテスト大会ではユカリが優勝、マサト達もバトル大会決勝トーナメントやコンテスト大会二次審査・コンテストバトルに揃って進出、優秀な成績を収めたのだった。
しかし、バトルチャンピオンシップスを成功に導くまでには、裏で多くの人が働いていたのである。そして、マサト達の知らないところで、いくつもの名勝負が生まれ、あまたのトレーナーやコーディネーターがバトルを繰り広げていたのである。
このお話は、そのナナシマ・バトルチャンピオンシップス、大成功の裏で繰り広げられた、もう1つの物語である。

(2)に続く。


  [No.48] SpecialEpisode-6(2) 投稿者:あゆみ   投稿日:2010/09/10(Fri) 19:34:37   52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-6『もう1つのバトルチャンピオンシップス!』

(2)

〜挿入歌:『Together(2007バージョン)』が流れる〜
広報部長「ナナシマ・バトルチャンピオンシップスに、ゲスト解説として実況の横でアシスタントを務めてもらいたいのです。」
ルリカ「はい、わかりました。私に是非、ゲスト解説者として参加させてください!」
広報部長から直々にゲスト解説を要請されたこの女性。衣装は膝まであるスカートと一体になった水色のキャミソールを身にまとっており、胸のリングから出ている肩紐を首の後ろで結んでいるスタイルだった。彼女こそが、ジョウトリーグ四天王にしてくさポケモンの使い手・ルリカである。
ルリカ「私はルリカ。くさタイプを使うジョウトリーグの四天王。今回、ナナシマ・バトルチャンピオンシップスにバトル大会のゲスト解説として招かれたの。それで、ナナシマに足を運ぶことになったんだけど、ナナシマに眠っていた特別な宝石、ダイヤモンド・パール・プラチナをめぐるネイス神殿の戦いに巻き込まれたの。それで、7のしまに入ったのは、もうすぐバトルチャンピオンシップスが開幕する日のことだったわ。」
ルリカの説明に合わせて、ルリカ自身がマサト達に協力して特別な宝石をロケット団から守り抜いたネイス神殿の激闘、そして1のしまのネットワークマシンの完成のときの描写が写し出される。そしてルリカは7のしまの港でマサト達と別れ、一足早く現地入りしたのだった。

ルリカ「(ここがバトルチャンピオンシップスの会場ね。設備もよく整ってるし、いいバトルが期待できそうね。今から楽しみだわ。)」
ナナシマ・バトルチャンピオンシップスのメイン会場となるトレーナータワーは、「タイムアタックバトル」と言う、トレーナー達とバトルしながらどれだけ短い時間で屋上までたどり着けるかを競う競技が繰り広げられることで知られていた。バトルチャンピオンシップスの期間中はタイムアタックバトルの受付は中止となっており、間近に迫った開催に向けて大忙しとなっていた。
ルリカがゲスト解説を務めるバトル大会、そしてトップコーディネーターのソウスケがゲスト解説を務めるコンテスト大会。その実況席はこのトレーナータワーの屋上に特設スタジオが設けられることになっており、ここから全国に向かって試合の模様が中継されるのだった。
さすがにメイン会場と言うこともあり、警備員が至るところに配置されている。ルリカも入るときに身分証明を求められた。
警備員「お名前とご用件をお願いします。」
ルリカ「私はルリカ。ナナシマ・バトルチャンピオンシップスのバトル大会で、ゲスト解説を務めさせていただくものです。」
警備員「ジョウトリーグのルリカさんですね。どうぞ。」
警備員に案内されて、ルリカはトレーナータワーの入り口に立った。
ルリカ「(いよいよね。実況の方も大変だけど、ゲスト解説はトレーナーやポケモンの心理を理解していないと務まらない、大切な役だわ。だから、緊張なんてしていられないわ。)」
入り口の自動ドアをくぐると、腕章をはめたテレビのスタッフが声をかけてきた。テレビカントーをキー局としており、シンオウ地方のテレビコトブキと同じ系列局であるナナシマレインボーテレビのスタッフだった。
テレビクルー「ジョウトリーグのルリカさんですね?」
ルリカ「はい。私はルリカと申します。これからよろしくお願いします。」
テレビクルー「こちらこそよろしくお願いします。まず、打ち合わせは屋上のスタジオで行われますので、早速行ってみてはいかがでしょうか。スタジオまでは私が案内いたします。」
ルリカ「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきますね。」
そしてルリカはテレビクルーに連れられて、トレーナータワーを上っていった。
階段を昇る度に実況席や解説席が一歩ずつ近くなっていく。果たして、ルリカはこの大役を無事に務め上げることができるのだろうか。

(3)に続く。


  [No.50] SpecialEpisode-6(3) 投稿者:あゆみ   投稿日:2010/09/14(Tue) 19:27:07   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-6『もう1つのバトルチャンピオンシップス!』

(3)

ルリカはテレビクルーに連れられて、トレーナータワーを上に登っていった。本当ならエレベーターを使ってもよかったのだが、トレーナータワーの内部の様子を見てみたいと言うルリカの要望をクルーが受け入れたのである。
テレビクルー「普段はタイムアタックバトルで賑わっていまして、たくさんのトレーナーがどれだけ早く屋上まで行けるかを競っているんですよ。」
ルリカ「そうですね。通路は曲がっていて、まっすぐに進みにくくなっていますし、さらにどこからトレーナーが現れるかも分かりませんからね。不馴れなトレーナーですといきなりのバトルで戸惑うかもしれないですね。」
テレビクルー「そうですね。ですが、ここに何度も参加していくとどこで誰がどう言うポケモンを使うか、そしてどう言ったパターンで現れるかと言うのを熟知している人も多くなります。トレーナーやポケモンの体力にも左右されますが、早い人では1時間半か2時間で上まで到着するそうですよ。」
ルリカ「そうなんですかぁ。今度機会がありましたら、私も是非挑戦してみたいですね。」
テレビクルー「そのときは特別番組でも製作しましょうか?『四天王ルリカ、トレーナータワーに挑む!』と言う感じで。」
ルリカ「うふふ・・・。」
テレビクルー「とまあ、内部はこういう感じになっているんです。似た施設はホウエン地方にもありまして、キンセツシティの郊外にトレーナーヒルと言う建物があるんです。そこでもここと大体同じ、タイムアタックバトルが行われているんです。」
ルリカ「トレーナーヒルですね。私もかつてホウエンを回ったことがあるんですが、そのときはまだありませんでしたね。バトルやコンテストと、いろんなことに挑戦していくことで、人とポケモンは仲良く共存しているんですね。」
テレビクルー「そうですね。あ、ルリカさん、ホウエンを回ったって言うのは、確かホウエンリーグで優勝されたときでしたね。」
ルリカ「そうです。2年前のことになりますけど、ラルースシティで行われたときでした。でも私も、まだレベルとしては自分でも満足するところまでは行っていないと思うんです。それで、ホウエンのチャンピオンリーグは挑戦しないで、ジョウトに行ったんです。」
テレビクルー「そうだったんですか。カントーからホウエン、そしてジョウトを渡り歩いた実力。それが認められて、ジョウトリーグの四天王に選ばれたんですね。」
ルリカ「はい。でも四天王に選ばれたからと言って、更なる高みに向かう挑戦は終わらないと思うんです。だから、この前ワタルさんを相手にチャンピオン防衛戦に挑んだんですけど・・・。」
テレビクルー「いえ、あのときもルリカさんはいいバトルを見せていましたよ。きっとルリカさんでしたら、ワタルさんにも勝てる実力をつけられると思います。」
ルリカ「ありがとうございます。」

タワーを上まで登っていくと、やがて屋上の広場に出た。広場は展望台を兼ねており、バトルチャンピオンシップスの会場から7のしまの市街地、そしてしっぽうけいこくまでを見渡すことができた。また、目立つところに電光掲示板が1台設置されており、普段は受付からここまでの所要時間が表示される。今回はバトルチャンピオンシップスを間近に控えていると言うこともあり、「Welcome――ナナシマ・バトルチャンピオンシップス」と言う表示がなされていた。
テレビクルー「スタジオはここになります。」
クルーはそう言って、特設スタジオを手で指し示した。――「ナナシマ・バトルチャンピオンシップス、報道席」と書かれた貼り紙が貼られており、一般客が多く訪れることを考慮してか、「関係者以外立入禁止」と言う貼り紙もなされていた。
そして四天王を務めているルリカのこと、名前はナナシマにも知れ渡っているのだろう、子供達がルリカの姿を見つけるや否や声をかけてきた。
子供達にとって四天王は憧れの的。そしてルリカも子供達が大好きなのである。
子供A「あ、ルリカさんだ!」
子供B「すごーい!本物だ!」
子供C「きれいでかっこいい!」
ルリカ「うふふっ。みんなありがとうね。お姉ちゃん、バトル大会で解説として実況のお兄さんの横に座るのよ。」
子供A「解説をするの?すごーい!」
ルリカ「今回のバトルチャンピオンシップスは、たくさんのお兄さんやお姉さんがバトルやコンテストに参加するのよ。お姉ちゃんはその中のバトル大会って言う方で解説をするの。ポケモンやトレーナーの心を理解してないとできない仕事なのよ。」
子供B「大変だね。でもお姉ちゃんだったらきっとできると思うよ!」
ルリカ「ありがとう。お姉ちゃんも解説としてしっかり参加するわ。みんなも応援してね!」
子供C「うん!僕、大きくなったらルリカさんみたいな強くて優しいトレーナーになる!」
ルリカ「ありがとう!」
その光景を見ながら、クルーはこう思っていた。
テレビクルー「(ルリカさんは子供が大好きなんですね。私も子供の頃はああやって強くて優しいトレーナーに憧れていましたっけ・・・。)」

子供達と別れたルリカは、実況席の特設スタジオの扉を開けた。
テレビクルー「あ!お待たせしました、ルリカさん。早速ですが、これから打ち合わせに入りたいと思います。では、実況とゲスト解説の皆さん、自己紹介を。」
イチロウ「私はイチロウと申します。ご存じかもしれませんが、テレビカントーのアナウンサーとして色々な番組を担当させていただいております。今回、バトルチャンピオンシップス、バトル大会の実況を務めさせていただくと言うことで、観客の皆さま方、そして全国の視聴者の心に残る実況ができればと思っています。よろしくお願いします。」
シンイチ「私はシンイチです。イチロウさんと同じく、テレビカントーのアナウンサーを務めておりますので、色々な番組で見かけたこともあるかと思います。私は今回、コンテスト大会の実況を務めさせていただくことになりました。ポケモン達の華麗な演技、それをいかにして全国の視聴者の皆様にお届けするか、大変重要な役割を仰せつかった訳であります。皆さん、是非よろしくお願いします。」
ルリカ「初めまして。私はジョウトリーグ四天王のルリカと申します。いつもは挑戦者を迎える立場にある私ですが、今回、イチロウさんの横でゲスト解説として参加させていただくことになりました。たくさんのトレーナーたちが繰り広げる激戦。それを全国の視聴者の皆さま方にお届けする重要な役割だと思っています。どうぞよろしくお願い致します。」
ソウスケ「初めまして。私はソウスケと言います。トップコーディネーターとして活動している傍ら、今回コンテスト大会のゲスト解説と言う大役をこうして任されたわけですが、多くのコーディネーターが演技を繰り広げるなかで、シンイチさんの実況をいかにして足を引っ張らずに解説ができるか、まだ不安だらけですが、皆さん、全国の皆さま方に印象に残る解説をお届けしたいと思います。ではどうぞよろしくお願いします。」
テレビクルー「皆さん、どうもありがとうございました。私もご高名なアナウンサーのお二方にポケモンリーグの四天王、そしてトップコーディネーターと言うそうそうたる顔ぶれをお迎えして、ますます身が引き締まる思いがします。ではよろしくお願いします!」
一同「はい。」
テレビクルー「では早速リハーサルに入りたいと思います。まずはイチロウさんとルリカさん、よろしくお願いします。」
クルーはそう言って、モニターに見本の映像を写し出した。――3年前のシンオウリーグ・スズラン大会準決勝、あのサトシがタクトとバトルしたときの様子が写し出された。
画面はサトシのジュカインがタクトのダークライと互角以上の勝負を繰り広げている場面だった。
イチロウ「ジュカイン、ダークライのダークホールで眠らされている!しかもゆめくいが襲いかかる!」
そこにサトシの呼び掛けが通じ、ジュカインが目を覚ました。さらにジュカインはリーフブレードでダークライを攻撃、大会を通じて唯一ダークライに黒星を付けたのだった。
イチロウ「ダークライ、戦闘不能!サトシ選手、タクト選手のダークライに初めて黒星を付けました!」
ルリカ「ダークライの特性はナイトメア。眠っている相手の体力を減らす特性です。ですがそれを打ち破るほどのポケモン達との絆。サトシ選手は本当にポケモン達との絆が深いですね。」
テレビクルー「はい、そこまでです。初めてにしてはなかなか上手でしたね。」
イチロウ「こうやってポケモンとトレーナーの心情を理解していないとゲスト解説は務まらないのです。でもルリカさん、あなたならきっと大丈夫です。是非よろしくお願いします!」
ルリカ「ありがとうございます!私の方こそよろしくお願いします!」
リハーサルも上手くこなすことができたルリカ。ゲスト解説としての仕事はいよいよこれから本番を迎えるのだった。

(4)に続く。


  [No.52] SpecialEpisode-6(4) 投稿者:あゆみ   投稿日:2010/09/19(Sun) 16:25:19   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-6『もう1つのバトルチャンピオンシップス!』

(4)

ナナシマ・バトルチャンピオンシップスは、バトル大会で2000名、コンテスト大会でも1500名を越すトレーナーやコーディネーターが参加した一大イベントだった。
次々と行われる試合、そして演技に、実況アナウンサーやゲスト解説も忙しく対応しながらも、それでいて中身の濃い体験をすることができた。
中でも試合が昼の休憩に入るとき、そして1日の試合がすべて終了した後はスタッフ一同で楽しく食事をとる時間となっており、日替わりでいろいろな弁当が支給されたのだった。
それは大会初日、ちょうどユカリがコンテスト大会二次審査・コンテストバトルに駒を進めた夜のことである。この日の夕食として支給される弁当はシウマイ(※1)をメインに、卵焼きや唐揚げ、かまぼこ、竹の子の煮物、魚の照り焼き、昆布、漬け物、あんずが入っていた。業者も栄養面に配慮してか、ヘルシーな組み合わせとなっていた。
だが、業者と担当スタッフがやりとりしたとき、どういう訳か8食分の弁当が余計に注文されたのだった。昼食のときの弁当は誤発注はなかったのだが、これは一体どうしたことなのだろう。
放送スタッフ「(どうしよう・・・。8個も余計に注文されている。イチロウさん、シンイチさん、ルリカさん、ソウスケさんの分、そしてうちらの分。おかしいなぁ。どう考えても8個余ってしまうんだよなぁ・・・。)」
スタッフは8個分が上乗せされた弁当が入った袋を抱えてスタジオのドアを開けた。
放送スタッフ「皆さん、今日の晩ご飯が届きました。」
イチロウ「おっ、晩ご飯ですね。」
ルリカ「美味しそうですね。ここまでいいにおいが漂ってきます。」
シンイチ「にしても、ちょっと多い気がするのは気のせいではないでしょうか?」
放送スタッフ「(まさかとは思いたいけど・・・。)たぶん気のせいだと思いますよ。さあ、早く食べましょう。冷めてしまいますよ。」
ソウスケ「そうですね。ところで今晩のは何でしょうか?」
放送スタッフ「シウマイです。ほかに唐揚げや卵焼きなどおかずもいろいろ入っています。それにあんずも入っているんです。」
ルリカ「結構たくさん入っているんですね。皆さん、早く頂きましょう!」
放送スタッフ「そうですね。それでは皆さん、どうぞお召し上がりください!」
一同「いただきます!」

だが案の定、放送スタッフの予感は的中していた。誰のものでもない弁当が8個、袋の中に残ってしまったのである。
イチロウ「あれ?お弁当、余っちゃいましたね・・・。」
ルリカ「そうですね。ほかの皆さんは、もう召し上がったんですよね。」
スタッフ全員で文字通り美味しく頂いた弁当。だが8個分が余計に注文されたのだろう、手つかずのまま残っている。
シンイチ「もしかしたら誤発注の可能性もあるかもしれないですね。確認してみます。」
そう言うとシンイチは電話のところに向かい、注文を担当したスタッフに聞いてみることにした。
シンイチ「実況席のシンイチです。いつもお世話になっております。・・・今晩の弁当なのですが、どうも発注ミスでも起きたのでしょうか、8個余ってしまったんです。ちょっと確認して頂けないでしょうか?」
注文担当スタッフ「分かりました。ちょっと調べてみますね。」
電話の向こうでキーボードを叩く音がした。どうやらスタッフも発注ミスの原因について調べているとみて良さそうである。
注文担当スタッフ「これは・・・?」
シンイチ「どうかしましたか?」
注文担当スタッフ「はい。やっぱり私の方のミスでした。注文するとき、32個って誤って送信してしまっていたんです。私を入れて24人のはずなのに、おかしいとは思っていたのですが、恐らくはキーボードの打ち間違えだと思います。」
シンイチ「差額は私達で負担いたします。それにしてもこの弁当、どうしましょう?」
注文担当スタッフ「今更返品もできないですよね。したらしたで『食べ物を粗末にするな!』って言われるのがおちですので・・・。」
シンイチ「そうですね。どうもありがとうございました。」
そう言ってシンイチは電話を切った。
シンイチ「・・・確認してみたところ、どうやら担当した側の発注ミスでして、8個余計に発注してしまったそうです。今更返品するわけにもいきませんし・・・。」
ルリカ「(8個ね・・・。)」
8個。それはちょうど8人分である。これを見てルリカはふとひらめいた。
ルリカ「(このまま食べ物を粗末にするわけにもいかないわ。そうだ。マサト君達にも食べさせてあげたいわ。マサト君、コトミちゃん、トモヤさん、ミキさん、ユカリさん、レイカちゃん、サヤカさん、そしてケイコさん。8人分ぴったりあるわね。)」
そしてこう切り出したのである。
ルリカ「あ、じゃあ余ったお弁当、私が頂いていいですか?」
ソウスケ「えっ?ルリカさんが?」
ソウスケは驚いた表情でルリカを見た。
ルリカ「知り合いに差し入れとして持って行こうかと思いまして。よろしいですか?」
シンイチ「ええ。構いませんよ。」
ルリカ「ありがとうございます。では行ってきます。」
イチロウ「はい。」
余ったままの弁当。腐らせてしまうのはあまりにももったいない。食べ物を粗末にしないためにも、知り合いに食べさせた方がいいのだろう。それに味もよく整っており、知り合いも喜んでくれるだろう。イチロウ、シンイチ、ソウスケを始め、ほかの放送スタッフも同じことを考えていた。
そしてルリカは弁当を持って放送席を出て行った。――その後ろ姿を見て、スタッフの1人はこう呟いていた。
放送スタッフ「ルリカさん、優しいんだね・・・。」

そしてこのことが、かえってスタッフと業者の間に親密な関係を築き上げたのである。それにふさわしい出来事が、いよいよバトル大会決勝トーナメント決勝戦、そしてコンテスト大会二次審査・コンテストバトルファイナルを迎えた日に起きたのだった。
この日の弁当は誤発注もなく、無事に発注できたのだが、発注が終わるとルリカは弁当の発注を担当するスタッフの元を訪れたのである。
ルリカ「失礼します。」
注文担当スタッフ「おや、ルリカさん。ここまで足を運ぶとは珍しい。どう言ったご用件で?」
ルリカ「はい。私達実況の関係者向けの弁当とは別に、特注のお弁当を発注して欲しいのです。」
注文担当スタッフ「へぇ。特注のお弁当を、わざわざ発注してもらいたいとは。早速業者の方に聞いてみます。ルリカさんもどうぞ。」
ルリカ「よろしくお願いします。」
注文のスタッフは弁当を製造する業者に連絡を取った。
注文担当スタッフ「いつもお世話になっております。ナナシマ・バトルチャンピオンシップス実行委員会・放送担当です。」
弁当業者「こちらこそお世話になっております。お弁当の注文、承りました。」
ルリカ「初めまして。私はバトル大会でゲスト解説を担当しておりますルリカと申します。」
弁当業者「確か、ジョウトリーグの四天王でしたね。お名前はかねがね伺っております。今回はどのようなご用件で?」
ルリカ「今晩、私の知り合いのためにパーティーを開こうと思っているんですけど、そこでお弁当を出したいのです。よろしいでしょうか?」
注文担当スタッフ「(知り合い・・・?ああ、そうか。こないだお弁当を持って行った方に食べさせてあげるんだね。)」
弁当業者「はい、かしこまりました。何名様でしょうか?」
ルリカ「8名分です。大丈夫ですか?」
弁当業者「大丈夫です。ではどう言ったものにいたしましょうか?」
業者はそう言ってたくさんのメニューを見せた。――リーズナブルなものから豪華なものまで、いろいろ揃っている。ちょっと手軽に食べたいときのおにぎりから、がっつり食べたいときのためのボリュームたっぷりの弁当まで、量も様々だ。
ルリカ「あ、じゃあこの『とり南蛮重・大盛り』(※2)で。」
それはこの業者が作っている弁当の中でもとびきりのでか盛りだった。ご飯の上にぎっしりと鳥南蛮が載せられており、アクセントにいろいろな色のピーマン、さらに玉ねぎ、レモンも入っている。その量たるや半端なものではなく、何と800グラムを超えていた。そのためか業者のメニュー表にも「あなたは食べきれますか?」と言う一文が添えられていた。
弁当業者「かしこまりました。とり南蛮重・大盛りを8つですね。今日の夜に配達いたします。ありがとうございました。」
ルリカ「ありがとうございました。」
そう言うと業者は電話を切った。
注文担当スタッフ「800グラム・・・。たくさん食べさせてあげたいんですね。」
ルリカ「うふふっ。こう言う私って、変ですか?」
注文担当スタッフ「それはないと思いますよ。ルリカさん、本当に優しいんですね。私、今回ルリカさんみたいな方と一緒に仕事ができてよかったです。」
ルリカ「ありがとうございます。」
ルリカはそう言って、にっこりと笑った。

(※1)「初日で差し入れした弁当の表記について」
この出来事はちょうどChapter-27の出来事と一致しています。このときも述べましたが、通常は「シウマイ」「シューマイ」「焼売」などいろいろな表記があります。ですがここでは、モデルとなった横浜駅の駅弁・「シウマイ弁当」にちなみ、「シウマイ」で統一することとします。
(※2)「決勝戦の夜に差し入れした弁当の表記について」
この出来事はChapter-38の出来事に当たります。モデルとなったのは小田原駅の駅弁・「BIGとり南蛮重」です。名称をそのまま使用することは商標登録に引っかかると判断したため、名称を一部変更して表記することとします。

(5)に続く。


  [No.53] SpecialEpisode-6(5) 投稿者:あゆみ   投稿日:2010/09/19(Sun) 17:33:02   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-6『もう1つのバトルチャンピオンシップス!』

(5)

イチロウ「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ナナシマ・バトルチャンピオンシップス最終日は参加者全員で楽しく大バトル!バトルスタンプラリーを行います!」
シンイチ「バトル大会に参加した選手がコンテスト大会に。またコンテスト大会に参加した選手がバトル大会にも参加できる、参加者全員が一体となって楽しむ催しです!実況の私達も一緒になってこの模様をお伝えしたいと思います。ではルリカさん、ソウスケさん、どうぞよろしくお願いします。」
ルリカ・ソウスケ「よろしくお願いします。」
激戦が繰り広げられたナナシマ・バトルチャンピオンシップス。ミキがバトル大会を、ユカリがコンテスト大会を優勝するまでには、それまでに敗れ去った多くのトレーナーやコーディネーターの姿があるのもまた事実だった。
勝つものがあれば、必然的に負けるものがいる。だがその中にも数多くの原石が散らばっているのである。そして、ナナシマ・バトルチャンピオンシップスはこの負けたトレーナーやコーディネーターに対しても次の大会に向けたレベルアップの場を提供するため、「バトルスタンプラリー」と言うイベントを企画していた。
バトル大会に出場した選手がコンテストに。またコンテスト大会に出場した選手がバトルに参加できるという内容で、まずは予選ラウンドで敗退したトレーナーや一次審査で落選したコーディネーターが対象となり、決勝トーナメントやコンテストバトルと並行して行われた。そして最終日となる今日は決勝トーナメントやコンテストバトルに勝ち残った選手も含めて、この場に残っていたトレーナー全員が参加することになっていた。任意の3か所でバトルすれば記念品をもらうことができた。

そして今、ちょうど2人の女性トレーナーが最後のスタンプをもらうため、バトルに挑もうとしていた。カントー地方・ハナダシティ出身のアユミ。そして同じくカントー地方・トキワシティから参加していたマドカだった。
アユミ「(あたしはアユミ。今回ナナシマ・バトルチャンピオンシップスに出場したんだけど、予選ラウンド3回戦で負けてしまったわ。だから決勝トーナメントに進むことはできなかったんだけど、また次のステップに向かう第一歩として、バトルスタンプラリーに参加することにしたの。)」
マドカ「(あたしはマドカ。あたしも予選ラウンド2回戦で負けてしまったの。でもどうして負けたのか、どこをどうすれば勝てたのかを改めて分析するきっかけになればと思って、バトルスタンプラリーに参加したのよ。そして今回、最後のスタンプをもらうために、あたしとアユミさんがこうしてバトルすることになったのよ。)」
かくしてバトルすることになったアユミとマドカ。勝負は3体ずつで行われ、先に2勝した方が勝ちというルールだった。
アユミ「マドカさん。あたし達でいいバトルにしましょう!」
マドカ「うん!手加減はしないわよ、アユミさん!」
アユミ「行くわよ、トゲキッス!」
アユミはトゲキッスを繰り出した。
マドカ「出番よ、ギガイアス!」
マドカはギガイアスを繰り出した。
アユミ「(ギガイアス・・・。イッシュ地方のポケモンね。それなら。)トゲキッス、はどうだん!」
トゲキッスがはどうだんを放つ。
マドカ「ギガイアス、受け止めて!」
ギガイアスは効果抜群になるはずのはどうだんを受け止めた。
アユミ「受け止めた!?」
マドカ「うん。ギガイアスの特性はがんじょう。一撃で倒されることがない特性なのよ。」
アユミ「(一撃で倒されない・・・。マドカさん、やっぱり手強いわね。)」
マドカ「ギガイアス、ロックブラスト!」
アユミ「トゲキッス、連続ではどうだん!」
ギガイアスがロックブラストを放つ。それをトゲキッスがはどうだんを連発して打ち砕いていく。だがロックブラストの威力が勝っていたのか、砕けなかった1発がトゲキッスに命中した。効果は抜群だ。
アユミ「トゲキッス!」
トゲキッスはそのまま地面に向かって落ちていく。
マドカ「今よ!ギガイアス、ギガインパクト!」
ギガイアスがギガインパクトでトゲキッスに襲いかかった。トゲキッスはギガインパクトをもろに受けてしまい、フィールドに崩れ落ちた。戦闘不能だった。
アユミ「トゲキッス、ゆっくり休んでね。・・・やるわね、マドカさん。よく育てられてるわ。」
マドカ「アユミさんだって、今のトゲキッス、かなり鍛えられていたわ。これから経験を積んでいけば、もっと強くなれると思うわ。」
アユミ「ありがとう!じゃあ次のポケモンを出すわね。行くわよ、ピカチュウ!」
アユミはピカチュウを繰り出した。
マドカ「出番よ、ヌオー!」
マドカはヌオーを繰り出した。相性の面ではアユミのピカチュウが圧倒的に不利だ。
アユミ「(まずいわ。ヌオーはじめんタイプも併せ持っている。ピカチュウのでんき技は効かないわ。)」
マドカ「ヌオー、マッドショット!」
ヌオーがマッドショットを放つ。じめんタイプの技であるマッドショットをもろに受ければ効果は抜群だ。
アユミ「(でもでんき技だけがピカチュウではないわ!)ピカチュウ、空高く飛んで!」
マドカ「ピカチュウがそらをとぶを使えるの!?」
宙返りしたピカチュウは風船で空高く飛び上がってマッドショットをかわした。
マドカ「ヌオー、みずのはどう!」
アユミ「ピカチュウ、みずのはどうをよく見て!」
ヌオーはみずのはどうをピカチュウに向かって放ち続けていた。だがよく見ると1発放ってから次に移るまでにわずかな隙が見られた。
アユミ「今よ!ピカチュウ、急降下!」
マドカ「ヌオー、マッドショットで迎え撃って!」
ピカチュウは急降下してヌオーに迫る。ヌオーもマッドショットを放って応戦するが、ピカチュウは右に左によけ続けており、なかなか命中しない。そして空からの強烈な一撃がヌオーに叩き込まれた。
マドカ「ヌオー!」
よほど威力が大きかったのか、ヌオーは一撃で戦闘不能となってしまっていた。
マドカ「ヌオー、よく戦ったわね。・・・アユミさん、そのピカチュウ、たくさんの技を使いこなせるのね。」
アユミ「うん。なみのりにそらをとぶと言った、普段のピカチュウが使いこなせない技も使えるのよ。意外な技を使えるって言うのは意表性もあると思うわ。」
マドカ「すごいわね、アユミさん。・・・ピカチュウを連れたトレーナーって言うと、サトシ君を思い出すわね。」
アユミ「うふふっ。サトシ君はポケモンマスターにまで上り詰めた実力の持ち主。そしてピカチュウはサトシ君の一番のパートナー。でもあたしのピカチュウは、サトシ君のとはひと味もふた味も違うわ。」
マドカ「そうね。サトシ君のピカチュウが覚えていない技も使えるもんね。さあ、最後の1匹ね。出番よ、カメックス!」
マドカはカメックスを繰り出した。
アユミ「行くわよ、フシギバナ!」
アユミはフシギバナを繰り出した。
マドカ「(相手はフシギバナ。みずタイプのカメックスにとってはタイプで不利ね。)カメックス、れいとうビーム!」
カメックスがれいとうビームを放つ。タイプで不利なカメックスだが、技でカバーする作戦だろう。
アユミ「フシギバナ、まもる!」
フシギバナはまもるの体制に入り、れいとうビームを防いだ。
アユミ「フシギバナ、続いてエナジーボール!」
フシギバナがエナジーボールを放つ。
マドカ「カメックス、ラスターカノン!」
カメックスもラスターカノンで応戦する。2つの技がフィールド中央でぶつかり合い、大爆発が生じた。
アユミ「やるわね、マドカさん!」
マドカ「アユミさんもなかなかの実力ね。じゃあ、これならどうかしら。カメックス、ハイドロカノン!」
アユミ「フシギバナ、ハードプラント!」
フシギバナがハードプラントで、カメックスがハイドロカノンで激突する。強力な技同士の激突となった。
互いに激しくぶつかり合うが、相性の面ではフシギバナの出したハードプラントが抜群の効果を与えられたのに対し、カメックスのハイドロカノンはフシギバナに対しては効果今ひとつだった。だがカメックスはさほどのダメージにならなかったのに対し、フシギバナはかなりダメージを受けてしまった。
今の技を受けてか、フシギバナが緑色の光を、カメックスが青い光をそれぞれ放ち始めたではないか。
アユミ「これはフシギバナの特性・しんりょくね。」
マドカ「カメックスの特性・げきりゅうだわ。・・・次で決まりそうね。」
アユミ「そうね!最後までいいバトルにしましょう!」
マドカ「うん!カメックス、ハイドロポンプ!」
アユミ「フシギバナ、エナジーボール!」
フシギバナのエナジーボールとカメックスのハイドロポンプが同時に放たれ、フィールドの中央でまたしても激しくぶつかり合う形となった。激しくぶつかったエナジーボールとハイドロポンプは拮抗する形となり、やがて激しい大爆発を巻き起こしたのだった。それぞれしんりょくとげきりゅうで威力が上がっていたのも影響していたのだろう、爆発の威力はあまりにすさまじいものとなっていた。
やがて煙が収まると、フシギバナとカメックスは互いに倒れ込んでいた。・・・どうやら両者とも戦闘不能となってしまった模様だった。
アユミ「・・・引き分けみたいね。」
マドカ「そうね。でもとてもいいバトルだったわ。アユミさん、どうもありがとう!」
アユミ「ううん。お礼を言うのはあたしの方だわ。マドカさん、ありがとう!」

〜挿入歌:『そこに空があるから』が流れる〜
激闘が繰り広げられたナナシマ・バトルチャンピオンシップスは全ての日程が終了、閉会式を迎えることができた。そして、また新しい目標に向かって、次なる冒険が始まるのだった。
アユミ「マドカさん、これからどうなされるの?」
マドカ「あたし?・・・あたしはね、一度トキワシティに帰るんだけど、今度はジョウト地方に行ってみようと思うの。」
アユミ「ジョウト地方ね。あたしもこれからハナダシティに帰ることにしているけど、あたしもジョウトに行ってみようと思っているわ。マドカさん、あたし達ってこれからいいライバルになれそうね。」
マドカ「そうね。目指すは同じジョウトリーグ。これからは友達として、またライバルとして負けていられないわね。これからお互いに高め合えたらいいわね!」
アユミ「うん!たどる道は違うかもしれないけど、目指すものは1つ。次に会うときは負けないわよ!」
マドカ「あたしも次のバトルが楽しみだわ!それまでにまた強くなって、今度会うときもいいバトルにしましょう!」
そしてマドカは手を差し出した。――アユミはその手を取り、しっかりと握手を交わした。

いくつもの激闘が繰り広げられたナナシマ・バトルチャンピオンシップス。そこでは多くのトレーナーやコーディネーター、そして実況やゲスト解説の、数え切れないほどのドラマが生み出されたのだった。
南の島がバトル、そしてコンテストで熱く燃えた激闘の日々。ここでの日々は参加した彼ら、彼女たちの思い出として、いつまでも残り続けることだろう。
そしてナナシマは新たなるポケモンリーグ・ナナシマリーグの開設が決定、コンテストも行われることになった。今後、新しいバトルとコンテストの場所として期待されるナナシマ。ますますの発展が期待されることだろう。

SpecialEpisode-6、完。


  [No.79] おねーさん、ポケモンリーグ弁当ひとつ! 投稿者:No.017   投稿日:2010/10/23(Sat) 15:18:29   78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

こんにちは、No.017です。
遅ればせながら読ませていただきました。

今15時なんですが、
まだ昼ご飯を食べていないせいかですね。
お弁当のシーンに異様に反応している自分がいましてですね、
非常においしそうだなと、こう思ったわけです。

ポケモンリーグ弁当いいですね。
ポケモンみながら弁当とかこりゃあ、最高の娯楽ですよ。

あと何がいいって、
やっぱポケモンというとバトルに注力しがちなんですが
実況の話とか、弁当とか 裏方の話が出てくるのがイイですね。
まぁ実況は裏方じゃないかもしれませんが……

ルリカさんがこどもたちの声援に応えるところが個人的には好きですね。


> 【批評していいのよ】

これはへたするとあゆみさんの作品作りの根幹にかかわるかもしれないんで言及するのはどうかなぁとか思ったりもしたんですが。
タグついていたのであえて。
もしお気に障ったらすみません。

読んでいて、「脚本形式じゃなくてもぜんぜんいけるじゃん」と思ってしまいました。
ただ読む限り、あゆみさんアニメシリーズが相当お好きなんですよね。
だからこうアニメの脚本を意識してるから、あえてこういう形とってるのかな、と思います。
読みきりの金銀恋唄を見る限りたぶんそうですよね。

ただやはり「小説」としての評価すると、
セリフの前の名前とか非常に邪魔でして、特に子供ABCとか非常に違和感あるんですよね。
台詞には出ない「(      )」の部分とか。
もちろんアニメの脚本としてなら当然こうなっちゃうんですけれど。

ですからこれは、あくまで「小説」として見た場合の評価です。
「アニメ脚本をつくってみた」としての評価なら別だと思います。

ですがアニメはアニメになって、絵が動いてやっと完成なんです。
そういう意味では仕掛品を見せられているともとれるわけですね。
ですから私なら、脚本形式は選択せずに、いわゆる普通の市販の小説形式を選択しちゃいます。
もちろん あゆみさんがどう選択するかは自由です。


  [No.94] Re: おねーさん、ポケモンリーグ弁当ひとつ! 投稿者:あゆみ   投稿日:2010/10/24(Sun) 22:14:34   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

>管理人様
こんばんは。批評いただき、どうもありがとうございます。
意見を述べられていただくと今後の作品作りの参考にもなると思います。

>「脚本形式?」
よくお気づきになられたと思います。
と言うのも、この作品は(繰り返しでしつこいかと存じますが・・・)元々あるポケモン情報サイトの中で運営されていた掲示板で連載していたものです。
スレッドが「アニメがこんな内容だったらいいな〜」と言うものだったため、自然と脚本形式となっていたのだと思います。
元をたどれば言わばアニメのオリジナルストーリーを考えようと言うスレッドだったと言うのも、脚本形式を選択した理由の1つだと思っています。
その当時はよもや件のサイトが無期限更新停止、掲示板も閉鎖となってしまうとは夢にも思っていませんでしたので・・・。放送スケジュールもダイヤモンド・パールにポケモンサンデーのままと言うのを見ると、時間が止まってしまったと言う気がしてならないです。
せっかく批評していただいたのに大した意見を述べることができず、逆に申し訳ありません。
ですが、今後スペシャルエピソードのどこかで普通の小説形式の作品を書くと言う構想は練っております。

繰り返しになりますが、批評していただきありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。


  [No.115] SpecialEpisode-7(1) 投稿者:あゆみ   投稿日:2010/11/22(Mon) 19:09:52   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

スピンオフ作品の第7作は、管理人様に頂いたご意見も参考にしながら、本編も含めて初めての小説形式にしていきたいと思います。
今回スポットを当てるのはロケット団の幹部兼ナナシマ支部長・ケイです。本編ではマサト達の視点からダイヤモンド・パール・プラチナをめぐる攻防が繰り広げられましたが、ここではケイ達ロケット団の視点から見ていきたいと思います。
本棚収録はキキョウシティ編の後を予定しています。

SpecialEpisode-7「ロケット団!ナナシマに賭けた野望!!」

(1)


【はじめに】
この作品はナナシマ編・ネイス神殿の攻防の時期に当たるため、作中、例によって某ジ○リ映画のオマージュやパロディが多々見られるかと思います。
元ネタは恐らく誰でもご存知の作品ですが、元ネタをご覧になったことがない方は十分注意してご覧くださいませ。


「ああぁ!目がぁ、目があああ〜!!」
気がついたとき、私の視界は何も見えなかった。
さっきまで確かに見えていたはずなのに。激しい目の痛み。それを理解するまでにさほど時間はかからなかった。
周りから音が聞こえる。天井が、そして足元が今にも崩れ落ちそうな、激しい音。何も見えないまま、音だけが響く中、私は壁づたいに歩かなければならなかった。
だが何も見ることができない。その事が私の判断を、そして理性を完全に喪失させていた。
壁づたいに必死で歩く。だが私の足元もまた崩壊が始まっていたことに気づくはずもなかった。
「あ、あぁ!目がっ!」足元が何かにつまずく。その瞬間、手は壁から離れ、私は何も見えない中に放り出されてしまった。「あああああ、あぁぁぁ!!」
支えを失った私は、揺れる地面に足を取られ、下に向かって落ちていくのがわかった。
やがて全身に衝撃を覚えた。床に叩きつけられたのだろう。だが何も見えないのは変わらない。しかしこの階層も崩落するのは間違いなかった。
「ああっ、目がぁ!」私はどうにかして壁に手を触ろうとする。だが、私の口から出るのはこの言葉だけだった。「目が、目がぁ、ああぁ!!」
だが次の瞬間、聞いたこともないきしむ音がしたかと思うと、床が完全に抜け落ちていくのが分かった。
「あああああーーーーーっ!!!!」
私は抜け落ちた床――無数の瓦礫と一緒に、真っ逆さまに落ちていくのがわかった。

私はケイ。ロケット団の幹部にして、ナナシマ地区の支部長だ。
私はサカキ様からの命を受け、このナナシマに眠る超古代文明・ネイス神殿、そして伝説の宝石である、特別なダイヤモンドとパールを手に入れる使命を受けたのだ。
ネイス神殿を蘇らせて私が支配者となる。シナリオは完璧なはずだった。だが、まさかこんなことになろうとは・・・。
海に向かって落ちていく私の脳裏を、サカキ様から命を受けたときのことがよぎった。
(サカキ様・・・。)

(2)に続く。


  [No.119] SpecialEpisode-7(2) 投稿者:あゆみ   投稿日:2010/12/12(Sun) 17:34:12   53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-7「ロケット団!ナナシマに賭けた野望!!」

(2)

私が、サカキ様からナナシマに眠る超古代文明、「ネイス神殿」の話を聞かされたとき、私はこれこそロケット団が探し求めていた古代の遺跡だと直感した。
「ケイ君。君にナナシマに眠るネイス神殿の謎を解き明かしてほしい。そして、神殿を蘇らせて、我がロケット団の世界征服の新たな拠点とするのだ!」
サカキ様のその言葉を聞いたとき、私は胸が引き締まる思いがした。そして、サカキ様の思いを、そしてロケット団の新たなる拡大のためにも、ネイス神殿を必ず蘇らせてみせる。このとき、私は思ったのである。
「かしこまりました。ネイス神殿、このケイが必ず見つけ出して見せます。そして、我らがロケット団に繁栄と栄光を!」

それからの私の行動は早かった。
イッシュ地方でロケット団の先遣隊として活躍したムサシとコジロウ(※)。彼らに憧れてロケット団に入ったというミカサとコイチロウの2名をナナシマ先遣隊として教育することになったのだ。
「私はロケット団幹部のケイ。今日から私がお前達を指導する。目的は1つ。ナナシマに眠ると言われる特別な宝石、ダイヤモンドとパールを見つけ出すためだ。いいか、諸君。ロケット団の未来はお前達の活躍にかかっているのだ!」
「はい、ケイ様!」
このピンクのショートヘアの女性団員。彼女がミカサである。
「ロケット団の名の下に!」
水色の髪を肩まで伸ばした男性団員。彼がコイチロウ。2人とも私がナナシマ先遣隊として選んだ団員である。
ミカサとコイチロウの活躍はずば抜けていた。ナナシマ先遣隊に向かうために準備段階として与えた任務を軽々とこなしていく。それはまるで、イッシュ先遣隊として活躍したときのムサシとコジロウを見ている感じがした。
この分なら、ナナシマ先遣隊としての仕事も簡単にまとめてくれる。そしてきっと、ネイス神殿が手に入るのも間近いだろう。そのとき私はそう思っていたのだった。あのときまでは・・・。

それは、これまでの活躍を見る上で正式に派遣できるかどうかを試す、一種のテストの形式だった。
「今回のミッションは、ホウエン地方・イザベ島で暮らすポケモン達をサカキ様に献上することだ。」
そう言って私はミッションの内容を説明した。
「イザベ島の片隅にポケモンセンターがある。この周辺で暮らすポケモン、ラルトス、キルリア、そしてサーナイトを連れ去り、サカキ様に献上するのだ。これまでのお前達の活躍を評価する上で重要なミッションだ。心してかかれ!」
ポケモンを奪ってサカキ様に献上する。ロケット団員としては手慣れた任務だが、ミカサとコイチロウはこう言った任務は初めてとなる。このミッションに成功するか否かが、今後のナナシマでの活動に重大な影響をもたらすと言っても過言ではなかった。
「ラルトス、キルリア、そしてサーナイトですね?」
コイチロウが私に尋ねた。
「ああ。調べたところではいずれも♀、それも3匹まとまって生活しているそうだ。こいつらを連れ出してサカキ様に献上するのだ。」
「かしこまりました。ではイザベ島はどうやって?」
ミカサも尋ねる。ミカサやコイチロウはカントーの地理には慣れているが、ホウエン地方は詳しくない。
「トクサネシティとルネシティの間にある島々だ。」
私はそう言ってホウエン地方の地図を見せた。
「この中で一番大きな島がイザベ島だ。そしてルネ行きの船があるのがセルロスタウン。この手前にあるのがラルトス達が暮らしているポケモンセンターだ。ラルトス達が現れたら、そこを逃がさず取り押さえるのだ。分かったな。」
「はっ!」
ミカサとコイチロウの自信にあふれた一言を聞いたとき、私はこのミッションも無事にこなせるだろうと思っていた。
だが、それは大きな誤算だった。まさか、あのような邪魔が入ってしまうとは、このときはまだ、夢にも思っていなかった・・・。

(※)「ムサシとコジロウについて」
現段階ではまだベストウイッシュが始まって間もないため、ムサシとコジロウの活躍についてはあくまでもラフなものとして留めております。ですがここでは、現段階のアニメにおいて、ムサシ・コジロウがダイヤモンド・パールまでとは違う活躍を行っていることから、ロケット団のイッシュ地方進出における先遣隊として活躍したものとします。

(3)に続く。

やはりこれまで書きためた脚本形式を元にして(スピンオフとは言え)新たに小説形式の作品をひねり出すのは苦労します。拙文かもしれませんが、どうぞ温かく見守ってくださいませ。


  [No.123] SpecialEpisode-7(3) 投稿者:あゆみ   投稿日:2010/12/14(Tue) 16:49:48   97clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-7「ロケット団!ナナシマに賭けた野望!!」

(3)

ミカサとコイチロウが帰ってきたのはそれから数日後のことだった。だがどことなく様子がおかしい。何かに吹っ飛ばされたのではないのだろうか。2人の姿を見たとき、私は妙な胸騒ぎを覚えていた。
「どうした!?」
「ケイ様、すみませんでした・・・!」
「ラルトス達を奪うことはできませんでした。まさかあのような小僧に・・・!」
そう言うと2人はばったりと倒れてしまった。あの小僧とはいったい何者なのだろう。
「誰か!救護を呼べ!」
ミッション失敗の責任は私にあるのは間違いない。私はミカサとコイチロウにつきっきりでいることにした。

やがて2人は目を覚ました。
「気がついたか?」
「はい・・・。うっ!」
よほど強力な一撃を受けたのだろう。ミカサは身を起こすのも一苦労といった感じだった。
「大丈夫です。ケイ様、ミッションがこういう形となってしまって、誠に申し訳ありません。」
コイチロウは受けたダメージはそれほどでもない感じだったが、無理はできないだろう。
「どうしたのだ?小僧がどうのこうのと言っていたが・・・?」
「はい。あのラルトスを奪おうとしたときのことでした・・・。」
ミカサとコイチロウの口から衝撃的な展開が告げられたのだった。

話によると、イザベ島に到着してからポケモンセンターに向かうまでは、何事もなかったそうだ。2人はポケモンセンターの近くの草むらに隠れて、ラルトス達が現れるのを待っていたという。
だが、そこに思わぬ邪魔が入ったのだという。報告によると、眼鏡をかけたポケモントレーナーに成り立ての少年だったらしい。
「あ、ラルトス!」
不意に現れたラルトスに、その少年は優しく語りかけたという。それはまるで、ラルトスが現れるのをはっきりと予感している感じだったという。
「何なのよあのガキ!どうしてラルトスと親しくしてるの!?」
「しっ!見つかるとまずいことになる。しばらく様子を見ていよう。」
ミカサとコイチロウがこう思うのも無理はない。
「僕、ポケモントレーナーになったんだ。あのときの約束、覚えてる?『僕がポケモントレーナーになったら、会いに行くよ』って。」
「どうしてあのガキがラルトスとそう言う約束してるのよ!」
「こうなったら力尽くでも奪うまでだ!」
そう言って2人は小僧に襲いかかったと言うことだった。どうしてラルトスが小僧と仲良しなのか、そう言ったことはどうでもよかったのだろう。それに、その程度のことは後からでも十分調べることができるはずだ。
「そのラルトス、君とずいぶん親しそうにしてるみたいだけど、そこまでよ!そのラルトス、頂いていくよ!」
ミカサはそう言って小僧を脅かそうとしたらしい。
だが小僧は「許さない!ラルトスは僕が守る!」と言って、あくまでも対決する姿勢を崩さなかった。しかし、小僧はよほどそのラルトスに愛着していたのだろう、最初のポケモンをもらっていなかったそうだ。
ホウエン地方ならキモリ、アチャモ、ミズゴロウの3匹が初心者用ポケモンとして推奨されている。それは私たちも調べて知っていることだが、小僧はそこまでして最初のポケモンをラルトスにしたかったのだろうか。恐らくは小僧の台詞にもあるとおり、昔そのラルトスと何かしらの約束を交わしていたのだろう。
「なぁに?ポケモントレーナーのくせしてポケモンを持ってないの?じゃあ容赦しないわ!行け、クロバット!」
「お前もだ!行け、ハッサム!」
ミカサはクロバット、コイチロウはハッサムを出して真っ向勝負に挑んだそうだ。だがそこに思わぬ邪魔が入ったそうだ。
キルリアの♂がめざめいしで進化した姿、エルレイド。そいつが突然現れてサイコカッターでクロバットとハッサムを吹っ飛ばしたらしい。
「こしゃくな!ハッサム、エルレイドにつばさでうつ!」
「クロバット、エルレイドにどくどくのキバ!」
クロバットとハッサムはエルレイド達を相手に奮戦した。だがあの小僧とラルトスは、私たちの想像もつかないほど深い絆で結ばれていたのかもしれない。
あの小さいラルトスを相手にクロバットとハッサムは翻弄されていたのだろう。最後には容赦なくサイコキネシスを打たれてしまったそうだ。
「やな気分〜!」
そう言ってミカサとコイチロウは吹っ飛ばされていったという・・・。

「今回の失敗の件、ミッションを命じたケイ、お前にも責任がある。そしてミカサとコイチロウ、お前達はラルトス達を連れて帰ることができなかったということも忘れてはならない。」
サカキ様の言葉はいつにもまして厳しいものだった。イッシュ地方に派遣される前のムサシとコジロウも、任務に失敗するたびごとにこうしてサカキ様の叱責を受けていたのかもしれない。
だが、サカキ様はこう述べられたのだった。
「しかし、お前達のナナシマ・ネイス神殿を見つけ出すという固い意志はしかと受け止めている。そして何より、ナナシマでの活躍はお前達にかかっているのだ。」
「はっ!」
「ミカサ、コイチロウ。両名は回復次第、新たなるミッションを命じる。次の目的地は6のしま、点の穴だ!」
6のしまにある点の穴。古くから点字で形作られた遺跡の扉が入り口をふさいでいるという。ネイス神殿につながる超古代文明の遺跡と言われている。
「ケイ。お前は点の穴と遺跡の谷について調査を開始せよ。そしてミカサとコイチロウの新たなミッションの準備に取りかかるのだ!」
6のしまの遺跡を調べろ、と言われたときはもう後には引けないと感じていた。だが、今私が感じているのは、文字通り奈落の底に向かって真っ逆さまに落ちていく感覚だった・・・。

(4)に続く。

脚本形式から小説形式を生み出す、と言うのはかなり骨の折れる作業ですが、同時にかえって別の作法から同じ物語を振り返ることができるとも言えます。ロケット団の野望にまつわるお話はまだまだ続きます。


  [No.152] SpecialEpisode-7(4) 投稿者:あゆみ   投稿日:2010/12/29(Wed) 23:14:10   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-7「ロケット団!ナナシマに賭けた野望!!」

(4)

6のしまの南部に、遺跡の谷と呼ばれている峡谷がある。点の穴はこの地に眠る遺跡の名前だった。
ミカサとコイチロウに命じられたミッション。それは、この遺跡に眠っている特別なサファイアを見つけ出し、サカキ様のもとに届けることだった。
私は2人を送り出した後、本部にこもってネイス神殿の伝説についてさらに調べることにした。
「ケイ様、まだ調べものですか?」
「ああ。ナナシマに眠ると言うネイス神殿だよ。」
私はそう言って、部下にネイス神殿の書物を指し示した。
「この神殿・・・ですか?」
「そうだ。この神殿はナナシマの古くからの言い伝えにある神殿だ。私達ロケット団が蘇らせることができれば、すなわち世界征服の原動力となる。そうだと思わないか?」
「世界征服・・・?」
「すまん。私としたことが壮大な理想を述べてしまったな。もちろん、超古代文明の中に語られるネイス神殿がいかほどの力を秘めているのか、それは私にも分かったものではない。だが、その謎を解き明かすのもロケット団の役割ではないのだろうか?」
私は部下に対して、本音ともとれる発言をこのときすでにしていたのだろう。
だが、ロケット団のネイス神殿をめぐる行動は、この後、思いもかけない方向に向かって進み出していくのだった。それも、またしてもミカサとコイチロウのためだった。

数日後、ミカサとコイチロウは本部に戻ってきた。だが明らかに様子がおかしい。まさか、この前の小僧がまた・・・。
報告に現れた2人の顔色には、その事がはっきりと浮き出ていた。
「申し訳ありませんでした、ケイ様・・・。」
「後一歩のところだったのですが、思わぬ邪魔が入ってしまいまして・・・。」
申し訳なさそうな表情で2人は報告に現れた。
「しょうがない。この俺が直々に足を運ばねばならぬようだな。サファイアはどうでもよい。ナナシマに眠る超古代文明、それを甦らせるのに、あのダイヤモンドとパールが必要なのだからな。はっはっはっ・・・。」
私はそう言っていたが、内心は落ち着かなかった。
と言うのも、ミカサとコイチロウが点の穴に到着したとき、実はあの小僧がいたのだと言う。そして、報告で伝えられたのは、小僧にも仲間がいたと言うことだった。

2人は点の穴到着後、物陰に身を潜めていたと言う。だが、遺跡の入り口にあの小僧が現れたとき、彼は単独行動ではなかったのだ。小僧と同じ年頃の、エルレイドを連れた小娘。そして小僧や小娘よりも年上の男が同行していたと言う。
「あのガキ、確かイザベ島でラルトスを取ろうとしたときに現れた小僧ね。しかもあのラルトス、小僧のポケモンになって、しかもサーナイトになってるじゃない。」
「あの遺跡の中には、確か特別なサファイアが眠ってるって聞いたことがある。あれはゲットする以外に道はない。行くぞ!」
だが気になるのは小僧の取り巻きの小娘と兄貴分の男。この2人が加わっていることから、多勢に無勢となるかもしれない。だが、そう言った不安を抱えながらも2人は遺跡の中に足を踏み入れて行ったのである。
遺跡の中の構造は私が調べていた通り、点字で示された方向をたどっていくと言うものだった。そして小僧達がサファイアを手に入れるところを仕留める。そう言う手はずだった。
そして案の定小僧達はサファイアを見つけ出した。
「きれいね・・・。ルビーのときもそうだったけど、美しいって言うより、神秘的で神々しいって言う表現がふさわしいと思うわ。」
「早くこれをニシキ博士のところに持って行ってあげよう!」
「ああ!」
小僧達はサファイアに夢中になっている。今が奪い取るチャンスだ。
「行くわよ、コイチロウ!」
「ああ!」
そして2人は小僧達の前に現れた。
「そこまでだ!サファイアは渡さん!」
「あたし達ロケット団が、このサファイアをいただいていくよ!」
だが小僧達とのやり取りから、衝撃的な事実が知らされたのだった。何と、小僧達はサファイアと対になるルビーを手に入れてしまっていたのだ。
「何だと!?それならサファイアだけでもいただいていく!」
コイチロウの判断は正しかったと言えよう。サファイアを見つけ出した後、小僧達がどこかに隠したであろうルビーも手に入れるのだ。
そして2人は小僧達からサファイアを奪い取り、帰還しようとした。ところが、そこに思わぬ邪魔者が現れたのだと言う。
およそポケモントレーナー離れした、肩むき出しの真っ赤なイブニングドレスに身を包んだ女。小僧の仲間だった。そいつはむげんポケモンと言われるラティオスにまたがり、でんじほうを放つエーフィと共に現れたのだと言う。
その女のエーフィが放ったでんじほうが飛行機のメカを破壊。2人はやむ無く小僧達を相手に変則ダブルバトルに挑んだのだが、小僧達のポケモンにあっけなく吹っ飛ばされ、サファイアはもちろん小僧達の手に渡ってしまったのだと言う・・・。

だがそれもこれまでだ。
私が本部の文献を読みあさって調べ上げた、特別なダイヤモンドとパールが眠る島、へそのいわ。
私はあの小僧がへそのいわに上陸したのを見計らい、潜水艦を飛行艇モードにして島の頂上に降り立ったのだ。
「素晴らしい!ネイス神殿を蘇らせる特別なダイヤモンド。伝承の通りだ!」
頂上に眠っていたのは、普段見かけるダイヤモンドとは全く違う、まさに神々しい代物だった。
「見える!見えるぞ!まさしくネイス神殿に導くダイヤモンドだ!」
そうだ。まさしくネイス神殿の伝説に伝えられているダイヤモンドだ。この力があればネイス神殿は蘇る。そのとき私はそうだと思っていたのだった。
だが、そこに・・・。

(5)に続く。


  [No.160] SpecialEpisode-7(5) 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/01/04(Tue) 12:02:30   78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-7「ロケット団!ナナシマに賭けた野望!!」

(5)

へそのいわの頂上。ここに置かれていたのが、特別なダイヤモンドだった。これを手に入れればネイス神殿は蘇る。
私がダイヤモンドを手に取ると、たちまち海に向かって一筋の光が放たれたのだ。これこそまさしくネイス神殿を指し示しているのだ。
だが、思わぬ邪魔がそこに入った。
「そこで何しているんだ!」
「その宝石は、ネットワークマシンを完成させるのにとても重要な役割を持っているのよ!今すぐ渡しなさい!」
現れたのはまたしてもあの小僧。だが横にいるのはミカサやコイチロウの報告に聞かれたのとは別の女だった。確か、この女・・・。
(そうか、あいつだ!)
以前テレビで見た、全国で初めてくさタイプを操る四天王となった人物。確か、ジョウトリーグ四天王のルリカと言っていた。あの小僧、まさか四天王まで・・・。
「誰かと思ったら、報告に載っていた小僧!それにジョウトリーグの四天王まで!そう言って、はいそうですかと渡してたら、俺たちロケット団の名が廃るぜ!」
「ロケット団だと!?」
「そうとも。私はロケット団の幹部にして、ナナシマ支部長のケイだ!この島に眠る特別なダイヤモンド、それは今この私のものになったのだ!」
「許せない!マサト君、行くわよ!」
「はい!」
「それはどうかな?岩山の頂に眠るダイヤモンド、そして海の底に眠るパール。2つが共鳴して、今、ナナシマの超古代文明が甦るのだ!お前たちは2人そろって、超古代文明の復活に立ち会うがいい!はっはっは・・・!」
四天王やチャンピオンとは言うものの、束になってかかったところで今の私にかなうはずがない。このダイヤモンドさえあれば世界は私のものになるのだ。ネイス神殿の超古代文明。それは私のものなのだ。
「そうだ、俺たちが求めていたのはナナシマに眠る超古代文明。そして俺様はこの超古代文明を甦らせて、新たな王となるのだ!」
「それはお前だけの都合だ!それでこの世界がどうなってもいいのか!」
「関係ないな!」
お前みたいな小僧がわめこうが何しようが、もうどうもならない。
「ホウエンの超古代ポケモン、グラードンとカイオーガは、かつてマグマ団とアクア団が甦らせようとした。でも結局、超古代ポケモンは人間の手では操れるものではなかったわ。そしてシンオウでもギンガ団が赤い鎖と湖の3匹、そしてこんごうだまとしらたまを使って、ディアルガとパルキアを復活させようとしたわ。でも、結局思い通りになることはなかったわ。あなた達も同じことを繰り返したいの!?」
「関係ないな!」
四天王の分際が何を言う。もう誰にも止められないのだ!
「見るがいい。かつてナナシマに栄えた超古代文明。その中心となったネイス神殿だ!長きにわたる眠りから、今甦ったのだ!」
ダイヤモンドが放った光は大きな光の柱を高く空に伸ばした。そしてその中心に眠っていたネイス神殿が、その姿をあらわにしたのだ。
遥か昔、空中浮遊都市として栄えていたネイス神殿。長きにわたって海底で眠っていたのだが、今、長いときを超えて蘇ったのだ。
「見るがいい、今こうして甦ったネイス神殿を。俺はこのネイス神殿の王となり、新しい世界を築くのだ!」
「そうはさせない!行くよ、サーナイト!」
「あなたみたいな悪は、この私が四天王の名にかけて許さないわ!行くわよ、メガニウム!」
小僧はサーナイトを繰り出した。おそらくミカサとコイチロウが報告したあのラルトスが進化したのだろう。そして四天王が出したのはメガニウム。あやつの一番のパートナーと聞く。だが私のポケモンにかなうわけがない。
「面白い。ポケモンバトルで勝負というのか。それなら私も行くぜ!出でよ、バンギラス!」
私が繰り出したのはバンギラス。たちまちすなおこしの特性が働き、辺り一面が強烈な砂嵐に見舞われた。サーナイトとメガニウムは砂嵐でダメージを受けることになるだろう。
「サーナイト、マジカルリーフ!」
「メガニウム、エナジーボール!」
マジカルリーフとエナジーボール。バンギラスが苦手とするくさタイプの技だが、この程度でかなうとでも思っているのだろうか。
「効かない!?」
「どうしてなの?」
「私のバンギラスは、ちょっとやそっとのダメージはものともしないんだ!バンギラス、いわなだれ!」
バンギラスのいわなだれ。これを食らえばひとたまりもないだろう。だが。
「サーナイト、メガニウムと一緒にテレポート!」
「何っ!?」
いわなだれが命中する直前、サーナイトはテレポートでメガニウムもろとも姿を消してしまった。
「サーナイト、もう一度マジカルリーフ!」
「メガニウム、はっぱカッター!」
次にサーナイトとメガニウムが現れたのはバンギラスの真後ろだった。バンギラスも予想外のダメージを受けてしまった。だがこの小僧、ロケット団に入ればなかなかの活躍をやってくれるだろう。そして四天王のルリカとやら、お前も幹部クラスの働きに値する。
「ほう。小僧、お前はなかなか見込みがある。ロケット団に入れば幹部になれるかもしれないな。それとも、私と組んで古代文明を繁栄させようではないか?」
「断る!」
「何ということを言うの!?あなたに超古代文明を操る資格はないわ!おとなしくダイヤモンドを返しなさい!」
ふっ。案の定断られたか。だがダイヤモンドを返すわけにはいかない。
と、そこに思わぬ人物が現れたのだ。
「マサト!」
「ルリカさん!」
ミカサとコイチロウの報告に上がっていたもう1人の小娘。そして例のイブニングドレスの女。しかも小娘の手にはパールが握られているではないか。飛んで火に入る夏の虫ポケモンとはこのことを言うのだろう。
「そこの小娘。お前が持っているのはパールだな。見ろ、ダイヤモンドとパールの光が1つになって、ネイス神殿が完全復活を遂げるのだ!」
「ふざけないで!パールは渡さないわ!」
「ラティオス、サイコキネシス!」
と、サイコキネシスはバンギラスではなく、私が持つダイヤモンドに向かってかけられたではないか。あくタイプのバンギラスはエスパー技が効かない。それを利用してダイヤモンドを奪おうというのか。
「お前達もじゃまをする気か。しょうがない。バンギラス、邪魔者のラティオスにかみくだく攻撃!」
ラティオスはバンギラスのかみくだくをまともに受けて技の発動が途切れてしまった。見ろ、言わぬことではない。
「見ろ、ネイス神殿の全貌を!この神殿は古代文明の象徴。この私が新しい支配者にふさわしいのだ!」
そうしていると、私の足下が青く光り始めた。光の道が空に続く。そして道はネイス神殿の入り口に架かったのだ。この道はロケット団の栄光、いや、私の野望に続く道だ。
「お前達、私の野望を止めたいんだな!?なら神殿までついていくかね?」
しかし邪魔というのは予想もつかないところから現れるものだった。
私が光の道を渡り始めたちょうどそのとき、強烈なハイドロポンプがダイヤモンドを私の手から弾き飛ばしてしまったのだ。
「ダイヤモンドが!!」
ダイヤモンドが高く空を舞う。
「今よ!メガニウム、つるのムチ!」
四天王がメガニウムにつるのムチを出す。つるのムチはダイヤモンドに向かって一直線に伸びていく。だがこう言うときのために下で部下が行動していると言うことをお前達は知るまい。私の乗ってきた潜水艦は飛行艇にもなると言うことにお前達は気づいていないだろう。
飛行艇から現れたクロバットはダイヤモンドをがっちりとキャッチして私に差し出したのだ。
「ありがとう、ドンカラス。見ろ、これはロケット団の飛行艇なのだ。あるときは潜水艦、そしてまたあるときは飛行艇。空の上だろうと海の中だろうと自由自在なのだ!はっはっは・・・!」
どうだ。これでもうお前達に勝ち目はあるまい。このネイス神殿は私のものになるのだ。そして世界も私のものだ。

(6)に続く。


  [No.161] SpecialEpisode-7(6) 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/01/04(Tue) 13:45:38   62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-7「ロケット団!ナナシマに賭けた野望!!」

(6)

私はついにネイス神殿の中に足を踏み入れていった。
古代人が残した遺跡。その名残は長い間海に沈んでいながらも、色濃く残っていた。普通なら海水で錆びてしまっているかもしれないが、何と言う科学力だったのだろう。ホウエン地方の神話に伝わるグラードン、カイオーガ、レックウザの壁画。シンオウ地方の神話に語られているディアルガとパルキアの壁画。さらにはイッシュ地方の神話にあるレシラムとゼクロム(※)の壁画までもが描き残されていたのだ。
「素晴らしい!陸、海、空を司るポケモン。時間と空間の神と呼ばれるポケモン。そしてイッシュの建国神話に語られるポケモンまでもが今に残されているのだ!」
それらの壁画を見ながら通路を進んでいく。さらに進んでいくと上下左右にせわしなく行き来する立方体のところにたどり着いた。
(これに乗っていけば一番奥までたどり着けるんだな。よし。)
私は恐る恐る乗ってみた。すると立方体はきわめて安定した動作を見せていた。
立方体がたどり着いたのは、不思議な紋章が刻まれた扉だった。この先にはどうやっても進めそうにない。
(待て。ダイヤモンドをここにかざせば・・・。)
私はふと思ってダイヤモンドを扉にかざしてみた。すると、扉が音を立てて開き、奥に続く道が開けたではないか。
そして奥に進む。そこは神殿の中央部。祭壇の間だった。
「ここがネイス神殿の中心部。素晴らしい。古代人の知識はすべてここに結集していたのか。見ろ。私はこの世界の王となるのだ!はっはっはっ・・・!」
古代の民の科学力がなしえたネイス神殿。それはポケモンが使うあらゆる技を増幅してこの神殿から打ち出すことができる装置を備えていたのだった。しかも全方位、あらゆる方向を見渡すことができるヴィジョンを使えばどこに誰がいるのかも一発でわかるのだ。
もうロケット団どころではない。私がこの世界を支配することができるのだ。それも、私の思いのままにだ。
(おや?)
ヴィジョンが海の盛り上がりを映し出していた。そこから大きな鳥のポケモンが飛び出してきたではないか。ルギアだ。オレンジ諸島やジョウト地方に伝えられる、海の神と言われるポケモン。早速お出ましか。
「ちっ、いまいましい。古代文明の技術を集めたネイス神殿。その力を甘く見てもらっては困る!海の神といえど私の敵ではない!食らえ!」
私はダイヤモンドを石版にかざした。するとたちまち強力なビームがルギアに向かって放たれた。
ルギアは攻撃を巧みによける。そして後方のヴィジョンにまた別のポケモンが現れた。ジョウトやカントーに伝わる虹色のポケモン、ホウオウ。だが虹色の翼も私の敵ではない。
「ホウオウもお出ましか。ならこれでも食らえ!」
石版にダイヤモンドをかざすと、水の大砲が勢いよく放たれ、ホウオウを牽制した。
「いまいましい!海の神や虹色の翼が現れようが、この私の敵ではない!」
強烈なビームがルギアを、水の大砲がホウオウを牽制する。だが攻撃それ自体が命中しない。敵も然る者というところだろう。
と、そのときだった。ダイヤモンドが私を貫き、後ろの壁に向かって一筋の光を放ったのだ。
「何だ!?」
後ろを向くと、ダイヤモンドの光は壁を貫き、その向こうに向かって差し込んでいるのだ。この壁の向こうに何があるのだろう。
「この奥にもまだ何かがあるのか。この私にその姿を見せよ!」
すると、どうだろう。壁が独りでに開き、通路が姿を現したではないか。
通路を進むとそこには大きな宝石がはめ込まれていた。ネイス神殿を支えていた、ダイヤモンド、パールと並ぶ第3の宝石、プラチナだった。
「これは・・・!ネイス神殿を支えていた古代の宝石、プラチナか!」
プラチナ。それはネイス神殿の伝説にも記載されていなかった。だが、ダイヤモンドやパールと対になる第3の宝石として、その名はしばしば古代遺跡の文献に登場していたのだ。
「プラチナとダイヤモンドが反応している・・・!この私こそがこの世界を支配する王なのだ!」
そうだ。この私こそが世界を支配するのだ。もうロケット団に縛られている必要などない。ミカサやコイチロウを始め、ここまで足を伸ばしてくれた団員、本当にご苦労だった。
お前達など、もう用はない。

だが、ミカサやコイチロウなど、ロケット団員の一部はのこのこと自分たちから足を運んでくれたのだ。
だが私はこの神殿の王。直接足を運ぶまでもない。
「ようこそ、諸君。」
「ケイ様!?」
「どこにいるのです!お姿を!」
ミカサとコイチロウの驚く姿が見て取れる。私の姿は下の展望台にも現しているが、この姿は実像ではない。今更本物が姿を見せに行くなどおこがましい。
「お静かに・・・。」
「おい、どうしてケイ様が上から・・・!?」
「どうなされたのです、ケイ様!?」
「君たち、言葉を慎み給え。ネイス神殿の正当なる後継者たるこの私の声が聞こえないのか!?」
団員が驚くのも無理はない。この後に壮大なプレゼントが待っているのだからな。
「ケイ様!気でも狂ったのですか!?」
「姿を見せて!」
「はっはっは。ネイス神殿の復活を祝って、この神殿に秘めたる力を見せてやろうと思う。ルギアとホウオウよ、これでも食らえ!!」
私は石盤にダイヤモンドをかざした。すると黒い闇の固まりが放たれた。
闇の固まりはルギアとホウオウに向かって襲いかかっていく。ルギアとホウオウもエアロブラストやせいなるほのおで抵抗するが、その程度で弾き返せるわけがない。たちまち闇の餌食になってしまった。
「古代人が作り出した、ポケモンを捕らえ、思いのままに操ることのできる空間だよ。これでルギアとホウオウは俺のものになったのだ!」
「ケイ様、やはりあなた様はロケット団の新しい時代を築くのにふさわしいお方です!」
「ロケット団が新しい時代を作るのです!」
お前達、ここまでなって何を言う。・・・もうお前達と構っている時間などないのだ。ここで消えてもらおう。
「お前達のあほ面には心底うんざりさせられる。・・・お前達はもう必要ないのだよ。」
「えっ!?今なんと仰いました?」
命乞いでもするつもりか。
「帰れ!!」
ダイヤモンドをかざすと、団員が立っている足下が開き、そのまま団員達は真っ逆さまに海に向かって落ちていった。今の私にとって、お前達はもうただの足手まといだ。

だが今度は飛行艇の団員達が邪魔だ。
案の定ポケモン達を出して神殿に攻撃しているが、ルギアやホウオウの攻撃でもびくともしないこのネイス神殿、お前達が束になってかかったところで全く痛くもかゆくもない。
「はっはっは、その程度の攻撃で私に刃向かおうというのか。おもしろい!」
私は石盤にダイヤモンドをかざす。と、強烈なビームが飛行艇に向かって一直線に放たれた。
ビームの直撃を受けた飛行艇は大爆発を起こして墜落していく。
「はっはっはっ。人やポケモンがみんなゴミくず同然だ!私に刃向かうとこうなるのだ!」
そうだ。今やこの私にかなうものなどいるわけがない。しかしそこに、またしてもあの小僧一行が現れたのだ。
小僧一行は6人に増えていた。ミカサやコイチロウが点の穴で見かけたという年上の男。そしてもう1人、ノースリーブの長いドレスを着た、ツインテールを輪っかにした特徴的な髪型の女だった。
「お前、よくもほかの団員を!」
「おとなしくダイヤモンドを返して!」
「お前のしたことは許されることではない!そのダイヤモンドを今すぐ返すんだ!」
「あなたはロケット団の幹部に居座る資格も、いやポケモントレーナーとしての資格もないわ!」
「四天王としてだけじゃない。一人の人間として、あなたを許すことはできないわ!」
「今すぐこの神殿を元に戻して!そしてダイヤモンドを、おとなしくあたし達に渡して!」
6人とも必死になってほざいている。だがそれはどうだろうか。
言いながら私はダイヤモンドを石盤にかざした。するとルギアとホウオウが姿を現した。ダイヤモンドの力で私の思いのままに操ることができる。
「行け、ルギア、ホウオウ!」
ルギアははかいこうせんを、ホウオウはせいなるほのおを放って小僧達に襲いかかった。小僧達はルギアとホウオウを解放するつもりなのか、サーナイトやメガニウムに続いて、エーフィ、ニドキング、エルレイド、カメックスと、一番のパートナーとおぼしきポケモンを続々繰り出してきた。
「サーナイト、サイコキネシスで打ち返すんだ!」
「あたしも行くわよ!エーフィ、サイコキネシス!」
「エルレイド、サイコカッター!」
「メガニウム、はっぱカッター!」
「ニドキング、ヘドロばくだんだ!」
「カメックス、ハイドロポンプよ!」
ポケモン達は強力な技を繰り出してルギアとホウオウ、そして私の持つダイヤモンドを狙っている。だがこの程度の技では大したことはない。
さらに小僧はガバイト、小娘はビブラーバを繰り出す。2対8という圧倒的不利な状況だが、所詮進化の第2段階にあるポケモンだ。ルギアとホウオウごときにかなうわけがない。
「こしゃくな!行け、ルギア、ホウオウ!」
ルギアのハイドロポンプとホウオウのじんつうりきがガバイトとビブラーバを吹っ飛ばす。
「負けるな、ガバイト!」
「ビブラーバ!」
「所詮伝説と呼ばれるポケモンには、どのポケモンもかなわないのだよ。やれ!」
それでも立ち上がろうとするガバイトとビブラーバに対してルギアはハイドロポンプ、ホウオウはだいもんじを繰り出す。お前達が束になったところでこの神殿はお前達のものにはならない。まだ分からないのか。
だがガバイトとビブラーバが突然白く光り始めた。進化だ。見る間に姿を変えていき、ガバイトはガブリアス、ビブラーバはフライゴンに進化したのだった。
「行くよ、ガブリアス!ハイドロポンプを跳ね返せ!」
「行くわよ!フライゴン、だいもんじを跳ね返して!」
ガブリアスとフライゴンはハイドロポンプとだいもんじを受け止めてしまったではないか。
「あたしも協力するわ!エーフィ、ハイドロポンプをサイコキネシスで跳ね返して!」
「私も行くわよ!メガニウム、だいもんじにエナジーボール!」
さらにサイコキネシスとエナジーボールが加わり、ハイドロポンプとだいもんじは容赦なく跳ね返されてしまう。
「何をするんだ!?」
「今よ、カメックス!ハイドロポンプ!」
そこにツインテールを輪っかにした女がカメックスにハイドロポンプを出した。私の右手にハイドロポンプが命中、ダイヤモンドが手からこぼれてしまった。
「お願い!今度こそ取り返すのよ、メガニウム!つるのムチ!」
「させるか!」
四天王のメガニウムがつるのムチを繰り出す。お前達にダイヤモンドとプラチナは渡さない。だがつるのムチの方が一歩早かった。
「待て!」
私は必死になってつるのムチにしがみつく。そうこうしているうちにダイヤモンドがつるのムチからこぼれ、高く宙を舞った。
「ああっ!ダイヤモンドが!」
「僕が取りに行く!」
たちまち小僧がダイヤモンドをキャッチ。小僧の手にダイヤモンドとパールが渡ってしまった。だが私にはまだもう1つある。そうだ、プラチナだ。
「そのダイヤモンドを確かに持ってろ!ダイヤモンドがなくても、私にはまだこの宝石がある!ネイス神殿を支えるもう1つの宝石、プラチナがな!」
だがダイヤモンドが小僧の手に渡ってしまい、ルギアとホウオウは急に表情を変えていくではないか。見る見るうちにルギアとホウオウの怒りが収まっていく。まさか・・・。
「このネイス神殿は滅びぬ。何度でもよみがえる!人とポケモンの共存を超えたネイス神殿こそ、人とポケモンの進化の理想型なのだ!」
そうだ。ネイス神殿は何度でも蘇る。人とポケモンの進化の理想型だったネイス神殿。それの王者は私だ。私に刃向かうと言うことがどうなるか、お前達も見ていただろう。
私はバンギラスを繰り出した。ダイヤモンドとパールを取り返すのはお前の役目だ。
「バンギラス、はかいこうせん!」
バンギラスははかいこうせんを繰り出して小僧達に襲いかかる。だが・・・。
「サーナイト、サイコキネシス!」
「エルレイド、サイコカッター!」
「エーフィ、でんじほう!」
小僧達もサイコキネシスやサイコカッター、さらにはでんじほうを放って応戦する。しかし勢いが強すぎた。バンギラスは後ろのプラチナの柱まで吹っ飛ばされてしまい、勢いで柱からプラチナが落ち始めたのだ。
「バンギラス、プラチナを!」
「メガニウム、もう1度つるのムチ!」
バンギラスがプラチナに飛びつく。だがつるのムチの方が早く、プラチナもまた小僧達の手に落ちてしまった。
「ほう、お前達がその宝石を使うというのか。だがお前達が使って何になる!」
お前達にこの宝石の使い道が分かるというのか。時間を与えよう。
小僧、小娘、イブニングドレスの女が宝石を1つに重ね合わせる。お前達の宝石の使い方というのを見せてもらおう。だが次は私の番だ。
「ダイヤモンド!」
「パール!」
「プラチナ!」
「その力を解き放って!!」
「ギャーアアス!!」
「ギャシャーッ!!」
小僧達の声とルギア、ホウオウの声が1つに重なる。と、次の瞬間、宝石から今まで見たこともない強烈な光が発せられたのだった。
「ああぁっ、がぁ!」
私にとってその光はあまりに強すぎた。強烈な光をまともに受けた私は目が見えなくなった。単にくらんだだけなのか、それとも失明してしまったのか。
「あぁぁ!目が、目がああぁぁ!!」
どこともなく壁伝いに歩いて行く。だがもう何も見えない。
「あ、あぁ!目が、あっああああ、あぁぁぁ!!」
手で壁伝いに歩いていたが、私は足場が落ちているのに気づくわけもなく、そのまま真っ逆さまに落ちていったのだった。

瓦礫とともに海に向かって落ちていくのが私にも分かる。両手、両足をばたつかせているのが分かるが、私の意識も次第に遠ざかっていく。
(サカキ様・・・。ナナシマでの任務は失敗でした・・・。)
ロケット団がナナシマで進めていた野望。そして私の野望もまた、瓦礫とともに崩れ落ちていったのだった。
(だが、ジョウトの伝説にあるシント遺跡。あの遺跡につながる伝説が、ジョウト地方に眠っている。私の後の任務は、ジョウトの幹部がやってくれるだろう・・・。)
そこで私の意識は完全に遠のいていった・・・。

(※)「レシラムとゼクロムについて」
この物語は概ねChapter-19からChapter-22までの期間であり、本編を書いていた当時はハートゴールド・ソウルシルバー発売直後だったため、ブラック・ホワイトの情報は全く出ていませんでしたが、ここでは壁画にレシラムとゼクロムの絵が描かれていたものとします。

SpecialEpisode-7、完。


  [No.184] Extra-Episode『宇宙ポケモン襲来』 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/02/07(Mon) 21:38:46   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

今回はエクストラエピソード、以前ポケストの方でもちらっと述べていたオリポケが登場するお話を取り上げたいと思います。
時系列の設定はこれを書いている時点での本編のかなり後、ミキのジョウトリーグ・エキシビジョンマッチが終了した後になります。そのため、多少本棚にある作品の展開を先取りしている描写が見受けられることをあらかじめお断りしておきます。そのため、当初の予定では夏頃としていたわけです。
このエピソードは15年ほど前に公開されたある怪獣映画を原案にしています。ですが、テレビでも観たことがないため、ストーリーの進行は私のオリジナル要素も絡めています。
まずこの作品に登場するオリポケ2種類を紹介します。モデルはその映画に登場した宇宙怪獣です。

1:「レグタス」
分類:でんじはポケモン
タイプ:むし・でんき(ソルジャーフォルム)/くさ(プラントフォルム)
特性:でんきエンジン(ソルジャーフォルム)/きゅうばん(プラントフォルム)/めんえき(夢特性:ソルジャーフォルム)/サンパワー(夢特性:プラントフォルム)
高さ:1.5メートル(ソルジャーフォルム)/14.0メートル(プラントフォルム)
重さ:55.8キログラム(ソルジャーフォルム)/960.0キログラム(プラントフォルム)
特徴:ソルジャーフォルムは電磁波を視覚として認識することができる。基本的に大勢の集団で飛び回り、電気を放って相手を攻撃する。
プラントフォルムは高濃度の酸素を生成、花びらが開くと巨大な爆発を起こして種子を打ち上げる。ソルジャーフォルムとプラントフォルムは互いに共存関係にあるとされている。
図鑑では見た目が大きく違うが、それぞれ同じポケモンとして扱われる。
主な技:ほうでん、シザークロス、でんこうせっか、エレキボール(ソルジャーフォルム)/ねをはる、だいばくはつ(プラントフォルム)
種族値(左からHP、攻撃、防御、特攻、特防、素早さ):75-95-135-45-95-95(ソルジャーフォルム)/75-185-135-5-135-5(プラントフォルム)

2:「レギロゴス」
分類:でんじはポケモン
タイプ:むし・でんき
特性:ちくでん/ポイズンヒール(夢特性)
高さ:20.0メートル
重さ:980.0キログラム
特徴:レグタス・ソルジャーフォルムと同様、あらゆる波長の電磁波を取り込んで視覚として認識できる。でんじはを集束して相手に打ち出して攻撃する。
地中を高速で掘り進むこともでき、強烈な一撃を打ち込んで敵に襲いかかる。
今まで発見された中では最も高く、そして最も重いポケモン(とされていたが、後にゲンシグラードンが999.7キロとされたため、2番目に重いポケモンとなった)。980キロとしているが、これは本編で1トンを越えるポケモンが今のところ登場していないため。
種族値合計はアルセウスを上回る740。
主な技:ほうでん、でんじほう、ドリルライナー、エレキボール、あなをほる、しぼりとる、そらをとぶ
種族値(左からHP、攻撃、防御、特攻、特防、素早さ):105-155-125-135-105-115

本作品も前回のスペシャルエピソード同様、一般的な小説形式で展開していきたいと思います。
次回からお話が始まります。


  [No.186] Prologue 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/02/07(Mon) 21:42:02   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ポケットモンスター。縮めて、「ポケモン」。この星に棲息する、不思議な生き物である。
あるものは海に、あるものは空に、またあるものは町の中に。様々な形で暮らしているのである。その数は、300、400、500、そして600を超えるとも言われているが、はっきりと知るものは誰もいない。
人間とポケモン達は、互いに力を合わせて支え合い、またともに協力しつつ、様々な困難を乗り越えていくのである。そして、ポケモンバトルにポケモンコンテストと、様々な形で夢を叶えていくのである。
そしてここにもそう言った中の1人の少年がいた。ホウエン地方・トウカシティ出身のマサト。かつてポケモンマスターとなったサトシと一緒に冒険した少年である。そして彼は、トウカジムのジムリーダー・センリの子供にして、トップコーディネーターであるハルカの弟でもある。
たくさんの仲間達とともに、彼らの旅は続いていくのである。
だが、遙か彼方、遠い宇宙の向こうから、この平和な世界を脅かそうとする存在が近づきつつあるのを、彼らはまだ知らなかったのである・・・。

〈このお話の履歴〉
2011年1月26日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.188] Section-1 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/02/09(Wed) 18:15:45   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ここはホウエン地方・トクサネシティにあるトクサネ宇宙センター。宇宙からの情報を収集するほか、宇宙開発の最先端を行く施設として多くの観光客などが訪れる場所である。
だが、宇宙センターに物々しい警報音が鳴り響いたのである。
「謎の流星雨が観測される模様!」
流星雨。それは彗星が残していったちりなどの物質がこの星の軌道と交わるとき、空にたくさんの流星が降り注ぐことからそう呼ばれているのである。だが、今回の流星雨は、それとは全く性質の異なるものだった。
「どうした!?」
センターの観測員は慌ててモニターに目をやる。
「流星群がこの星に降り注ごうとしています!」
「地表に影響は!?」
「調査を進めていますが、ほとんどは大気中で燃え尽きる模様です。ですが、一部は地表に到達して、被害が出るかもしれません。」
モニターに映し出された映像。それはこの星が流星群を横切ることを表していた。ただの流星群なら、夜空に浮かぶ無数の流れ星として片付けられることだろう。だが、今回はそれとは訳が違う。突如としてこの星に降り注いだのである。
宇宙センターのコンピューターが地表に落下する可能性がある流星群を調べる。すると、ある1つの流星群が地表に落下する可能性があることを示したのだった。
「流星群の1つ、地表に落下する可能性あり!」
「落下予想地点は!?」
オペレーターが画面を操作して流星雨の落下予想地点を調べる。
「・・・落下予想地点、シンオウ地方、シンジ湖周辺。直ちにシンオウ地方南西部に警戒態勢を!」
シンジ湖。フタバタウンの北西にある湖である。シンオウ地方の神話にも語られる、感情の神と呼ばれるエムリットが眠るといわれている湖である。
「シンジ湖か・・・。大至急シンオウ地方に連絡を。それと、ポケモンレンジャーを派遣して、シンジ湖周辺地域からの避難を命じて欲しい!」
「はい!」

その頃、ジョウトリーグとグランドフェスティバル出場を目指して旅を続けるマサト達は、美しい夜空を眺めていたのだった。
「きれいな星空ですね。」
コトミが空にきらめく無数の星々を見つめながら言う。
「お姉ちゃんも、かつてはこの星の下を歩いていたんですね。」
空を見上げながらマサトもつぶやく。
「うん。カントーやジョウト、ホウエンやシンオウ、オレンジ諸島、ナナシマ、そしてイッシュ。地方ごとに星空は違うところもあるけど、でも同じ空の下、たくさんのトレーナーやコーディネーターが、それぞれの目標に向かって進んでいるわ。」
ミキもマサトとコトミと一緒になって星空を眺めながら語りかける。
「あれ、流れ星かなぁ?」
マサトは夜空を横切っていく一筋の光を指さした。
「本当だ!流れ星だわ!」
コトミは流れ星を見つけると、願い事でもしているのだろうか、何か口に出していた。
「待って。あの流れ星、普段と様子が違うわ。」
願い事をしていたコトミに向かってミキが言う。
「えっ?」
「何か知らないんだけど、あの流れ星から妙な胸騒ぎを覚えるの。多分あたしの気のせいかもしれないけど、でも気をつけた方がいいわ。」
マサト達はどことなく不安の色を浮かべてその流れ星を見つめていた。
無数の流れ星は夜空に一筋の光を残して消えていく。その中でもとりわけ大きな一筋の光が、遙か北東の空に向かって飛んでいくのを、マサト達は見ていたのだった。
「あれ、かなり大きな光だ!」
「ずいぶんと大きいわね。」
マサトとコトミはその光が飛んでいった方向を見つめた。
「あれはシンオウ地方の方向ね。」
ミキもマサトやコトミと一緒になって、その筋が向かっていくのを眺めていた。

〈このお話の履歴〉
2011年1月27日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.189] Section-2 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/02/09(Wed) 18:21:10   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

流星雨の落下予想地点と言われたシンオウ地方のシンジ湖。3年前のギンガ団事件のときはこの湖もギンガ団の作戦の舞台となったのだが、現在は以前の静けさを取り戻しつつあるかに見えた。だがその晩、宇宙の彼方からやってきた流星雨の一群がこの湖のすぐ近くに降り注いだのである。
そしてそのうちの1つが、大気圏を突き抜け、この湖のそばに轟音とともに落下したのだった。
その落下音は湖にほど近いフタバタウンやマサゴタウンでも聞くことができた。
そして、隕石落下と同時にシンオウ地方のポケモンレンジャーに緊急出動命令が下されたのである。その中には、ちょうどシンオウに研修に出向いていたアスカとチヒロの姿もあった。
「お姉ちゃん、今回のミッションは?」
「今回はシンジ湖に落ちた隕石を調べるミッションだわ。隕石本体を調べることで、どういった仕組みになっているかというのがわかると思うわ。」
「うん。それじゃ、行こう!お姉ちゃん!」
アスカとチヒロはキャプチャ・スタイラーを手にとって駆け出していった。

シンジ湖の湖畔はジュンサーによる非常線が張られており、一般の人が近寄ることは不可能に近かった。だが周辺の住民が非常線の周りを囲んでおり、湖の方向を心配そうに眺めていた。
「隕石が落下したシンジ湖の湖畔ですが、周辺の住民たちが心配そうに湖の様子を見つめています。ですが、シンジ湖周辺は警察による非常線が張られており、一般人が湖に近づくのは不可能といった状況です。また、現在201番道路はフタバタウンからシンジ湖湖畔にかけて、交通規制が敷かれております・・・。」
テレビのアナウンサーが湖畔から臨時ニュースを伝える。その画面を映し出しながら、アスカとチヒロの乗った車はシンジ湖を目指していた。
と、画面に一瞬ノイズとおぼしき現象が入り込んだ。
「何かしら、今の?」
チヒロがテレビ画面を見つめながらアスカに聞く。
「分からないわ。でも通信状態は非常にいいはずよ。」
アスカがそう言ったときだった。今度ははっきりとノイズが写り込み、画面に一瞬シンオウ地方の地図――それはタウンマップでよく使われる表示だった――が映ったのである。
「待って。これは電磁波の影響があると思うわ。」
「えっ、どうして?」
「ある特定の電磁波はテレビやラジオの放送に影響を与えることがあるわ。今回の隕石にもそう言った物質が入っているのかもしれないわ。チヒロ、これは注意した方がいいかもしれないわね。」
「うん。」
そうしている間にも画面はタウンマップとニュースの映像を交互に映し出す格好となっており、電磁波の影響を強く受けていることが伺えた。

やがてアスカとチヒロの乗った車はシンジ湖湖畔に設けられた検問所に到着した。
「ポケモンレンジャーのアスカです。」
「同じくチヒロです。」
「ご苦労様です。ポケモンレンジャーの方ですね。どうぞお進みください。」
ジュンサーに道を通してもらい、アスカは車をさらに先に進める。そしてたどり着いたのは、隕石が落下したとみられるクレーターだった。
「ここが隕石の落下地点ね。チヒロ、気をつけていきましょう!」
「うん!」
まだ隕石が落下して間もないことは周囲の状況から安易に想像できた。果たして、アスカ達は隕石を見つけ出すことはできるのだろうか。

〈このお話の履歴〉
2011年1月30日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.190] Section-3 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/02/09(Wed) 18:25:31   62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

シンジ湖に落下したとされる隕石。その本体を調べよと言うミッションを受け、ポケモンレンジャーのアスカとチヒロがシンジ湖を訪れた。
すでに夜は明け始めており、アスカ達のほかにも各地から派遣されたレンジャーや警察部隊などが隕石の調査に携わっていたのだった。
「ポケモンレンジャーのアスカです。」
「同じくチヒロです。隕石の調査のために派遣されました。」
「アスカさんとチヒロさんですね。どうぞ。」
そう言っている間にも上空は隕石の落下でおびえていたのだろう、ムックルやズバットなど、この周辺に生息する飛行ポケモンが群れをなしているのが見受けられた。
「空からも探した方がいいわね。」
「うん!」
アスカとチヒロはムックルやズバットをキャプチャする。他のレンジャーもそうした方がいいと判断したのだろう、上空を飛び交うポケモンをキャプチャして状況を判断しつつ捜索を行うのだった。

「昨夜、シンオウ地方・シンジ湖付近に、隕石群が落下したという情報が入りました。隕石本体を確認するべく、現在、警察部隊やポケモンレンジャーがシンジ湖周辺を捜索しています。なお現在、フタバタウンからマサゴタウン付近にかけては厳しい交通規制が敷かれており、とりわけシンジ湖周辺における一般人の立ち入りは、厳しく制限されております・・・。」
グリーンフィールドのポケモンセンター。マサト達はジョウト地方でも有数の観光地として知られるグリーンフィールドに滞在していたのだった。
「ポケモンレンジャーも派遣されてるんだね。」
テレビ画面を見つめながらマサトが聞く。
「そうね。」と、コトミも言葉を続ける。「あ、あれはアスカさんじゃないかしら。」
「本当だわ!アスカさん、それにチヒロさんも派遣されてるわね。かなり大がかりになっているわ。」
ミキも画面を食い入る形で見つめる。
「こうして見ると、隕石ってかなり大きかったのかもしれないね。」
「でもそれだけ大きな隕石だったら、すぐ本体が見つかってもおかしくないはずでしょ?なのに、未だに本体が見つからないって、不思議な気がするわ。」
マサトとコトミがテレビ画面を見つめて言う。確かに、それだけ大きな隕石が落ちたのであれば、本体がどこかしこに残っていても不思議ではない。だが、警察部隊やポケモンレンジャーの捜索の甲斐もなく、未だに隕石本体が発見されたという報告はなされていないのである。
「ちょっと待って!」ミキがマサト達の言葉を遮って言った。「画面の上、妙なものが浮かんでいる気がするわ。注意して見てごらん!」
その言葉に気づいてマサト達は画面を見つめる。
「・・・!!」
マサトとコトミは驚いて息を飲み込んだ。
何と、画面に映し出されたシンジ湖のライブ映像に、緑色のオーロラが映り込んだのである。
「妙だわ。シンオウでもあんなオーロラが鮮明に写り込むなんて言うことはほとんどないわ。」
ミキの言うとおりである。カントーやジョウトと比べれば緯度の高いシンオウ地方とはいえ、この時間帯にオーロラというのはごくまれである。しかも緑色のオーロラと言うこと自体が珍しい話である。そしてミキはさらに続けた。
「確かマサト君って、以前サトシ君達と一緒に冒険してたとき、ラルースシティでデオキシスとレックウザのバトルを目撃してたのよね(注:裂空の訪問者・デオキシスより)。あのときはどうだったの?」
「あのときは、デオキシスは仲間を求めていて、それでオーロラを交信手段として使っていました。ですが、今回のオーロラはデオキシスとは全く違います。少なくとも、ラルースシティのときはこんなオーロラは見たことがなかったです。」
「マサト、それは本当だったの?」コトミも聞き返す。「あたし、ラルースの出来事は小さかったのであまり覚えていないんだけど、復旧までにかなり時間がかかったって言うのは覚えてるわ。だけど、本当にデオキシスのときとは違うの?」
マサトはうなずいた。
「デオキシスではない、となると、どう言ったことが起こるのかしら・・・。」
ミキはどことなく表情が曇っていたのだった。

〈このお話の履歴〉
2011年2月6日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.191] Section-4 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/02/09(Wed) 18:29:50   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

隕石落下から数日、シンジ湖周辺では、警察部隊やポケモンレンジャーが賢明な捜索活動を行っていた。だが、活動の甲斐もなく隕石本体は未だに発見できていなかったのである。
「これだけ探しても見つからないって言うことは、隕石は落下するときに全部燃え尽きてしまったのかなぁ?」
チヒロがアスカに尋ねる。
「その可能性も否定できないわ。だけど、この近くに落ちたって言う情報は、たくさん寄せられているわ。だから、探せばきっと見つかると思うわ。」そのとき、上空に緑色のオーロラが光り始めたのである。
「あれは!?」
「オーロラだわ!」アスカが思わず空を見上げる。「シンオウでもオーロラが見られるのはかなり珍しいわ。どうしたのかしら。」
緑色のオーロラ。それはシンオウよりもさらに北の地方――現在のところゲームやアニメでもそれを明示する地方の名前は取り上げられていないが――でよく見かけられる。これは太陽からの磁気嵐を主な起因としているのだが、多くの場合、シンオウで見られるのは微弱な、それも赤いオーロラである。これほどはっきりと緑色のオーロラが見られるのはシンオウ地方ではかなり珍しいことである。
そこにキャプチャ・スタイラーにボイスメールが入る。
「アスカさんとチヒロさんですね。あなた方にお会いしたい方がいらっしゃるそうです。」
声の主は作戦本部のオペレーターだった。
「あたし達に?」
「はい。今回の隕石とオーロラの関係について、詳しくお話ししたいそうです。」

その人物がアスカ達にコンタクトする場所として指定したのは、作戦本部として設営されたテントの前だった。
アスカとチヒロがしばらく待っていると、白衣をまとった研究者とおぼしき人物が現れた。
「初めまして。私はナナカマド博士の助手をやっているコレキヨと言うものです。」
「あたしはアスカ。ポケモンレンジャーです。」
「同じくチヒロです。」
「今回の隕石ですが、どうも通常の隕石とは違う性質があると思うのです。」
「通常の隕石と違う性質・・・?」
アスカがコレキヨの言った言葉に思わず聞き返していた。
「はい。この隕石はこれだけ探しているというのに未だに本体が発見できない。おそらく普通の人が聞かれたら、大気圏に突入するときに本体のほとんどが燃え尽きてしまったと考えるのが筋だと思います。ですが、私はそうとは思いません。」
「と言いますと・・・?」
隕石が燃え尽きたというわけではない。コレキヨの言葉は1回聞いただけでは信じられるものではなかった。チヒロも思わず耳を疑う。
「私は、この隕石は落下した後、自力で移動しているのではないかと思うのです。」
「えっ!?」
アスカとチヒロは思わず互いの顔を見合わせていた。隕石が自力で移動する。そう言う話をこれまで聞いた人が、一体全体どこの世の中にいるというのだろうか。そもそも普通の人が聞いたら、このコレキヨと言う人物は頭でもおかしくなっているのではと考えるだろう。
「このマップを見てください。」コレキヨはそう言って、携えていたシンオウ地方の地図を広げた。「これは、ここ数日間に発生した、怪奇現象とでも言うべき出来事が起きた地点をまとめたものです。」
それは隕石のニュースと平行して、しばしば流されていることだった。――隕石落下と呼応したのか、シンジ湖周辺ではガラス瓶などがあっという間に消失しているという妙な現象が数件報告されていたのだった。ポケモンレンジャーもこの怪現象を解明するべく、一部のレンジャーをこのミッションに回していたのだったが、どういう訳か手がかりをつかむことができなかったのである。
「どう言う訳か知りませんが、おいしいみずやサイコソーダ、ミックスオレ、モーモーミルクなどを詰めるのに使うガラス瓶や、各所との通信に使う光ファイバー網が、なぜか跡形もなく消失するという現象が、ここ数日のうちに相次いで報告されているのです。」
さらにコレキヨは続ける。
「しかも、この地図を見ていただければわかるかと思いますが、消失ポイントが次第にコトブキシティに近づきつつあるのです。」
すでにコトブキシティの郊外にまでそのポイントは広がっていた。しかも不気味なまでにはっきりと方向が一致しているのである。このまま進むとコトブキシティの中心地に達しかねない。
「チヒロ、この隕石はただの隕石ではないかもしれないわ。気をつけようね!」
「うん。でもお姉ちゃん、あたし、ちょっと怖いの・・・。」
チヒロは表情では落ち着いていることを装いつつも、その心はどことなく不安に彩られていたのだった。

〈このお話の履歴〉
2011年2月6日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.192] Section-5 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/02/09(Wed) 18:33:17   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

コトブキシティ郊外にある飲料工場。ここではおいしいみずやサイコソーダ、ミックスオレ、モーモーミルクなど、ポケモンや人間が喜ぶ飲み物を製造している。出荷された飲み物は各地の自動販売機やフレンドリィショップに並べられ、人間やポケモンののどを潤しているのである。
その日も警備員が見回りに当たっていた。この日の当直は2名。場内の見回りはほとんど終わっており、残るは飲み物を詰める瓶を保管する保管庫だった。
「保管庫、異常なし!」
警備員は懐中電灯を照らして保管庫の中をチェックする。誤認を防ぐため、警備員は必ず複数名で警備に当たっているのだった。
「こちらも異常なし・・・ん?」
もう1人の警備員がチェックしていたときだった。
瓶が保管されているケースが、妙にがさごそという音を立てていたのである。
「おい、何だ、あれは!?」
「どうした!?」
ケースが妙な音を立てているのが見られる。中に誰かいるのだろうか。しかしここは工場の中。部外者は立ち入り禁止のはずだが・・・。
と、ケースが音を立てて開いた。そ立てて開いた。その瞬間、警備員は自分の目を疑ったのである。
「!?」
それは、今まで誰も見たことがないものだった。ポケモンなのは間違いない。だが、そのポケモンは未だかつて誰も目撃したことのないものだったのである。
体長はおよそ1メートル50センチ程度。だが、それは異様なほどの甲殻で覆われていた。胴体の中央部に大きな目とおぼしきものがあり、さらに小さな目も2つ、3つと配置されている。
「こんなポケモン、見たことがない・・・。」
警備員の1人がつぶやく。だが次の瞬間、その謎のポケモンは驚くべき行動に出たのだった。
何と、ケースに並べられていたガラス瓶を奪っていったのである。
「何をするんだ!?」
しかし次の瞬間、謎のポケモンはケースいっぱいのガラス瓶もろとも姿を消してしまっていたのだった。
「おい、一体何が起きたんだ・・・!?」
「全く分からない。だが、今のは何だったんだ・・・!?」
警備員が目撃した謎のポケモン。それは、これから起こる悲劇の前兆に過ぎなかったのである・・・。

〈このお話の履歴〉
2011年2月6日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.205] Section-6 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/02/20(Sun) 17:51:39   84clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

隕石落下から5日後。
コトブキシティを中心に路線網を伸ばしている地下鉄・コトブキネットレールの路線の1つ、ナエトルラインのテレビコトブキ前駅では、コトブキシティの南部にあるシンオウ自然公園行きの始発列車が到着していた。
始発列車と言うこともあり、乗客はまだ少ない方である。しかしこれから朝のラッシュ時を迎えると言うことからか、それなりの客がいた。
「次は、コトブキバンギラスデパートです・・・」
次の駅を伝える自動音声が鳴り響く。次の停車駅であるコトブキバンギラスデパートは、トバリシティのトバリ百貨店と並ぶシンオウ地方でも有数のデパートである。
列車は何事もなく次の駅に向かって運転しているかに見えた。だが、運転手は次の瞬間、驚愕の光景を目の当たりにすることになる。
「・・・!?」
全身が妙な甲殻で覆われた、見たこともない物体。ポケモンなのは間違いない。だが、それは未だかつて、誰も見たことがないものだった。正確に言えば、警備員が飲料工場でこれと似たものを目撃していたのだが・・・。
「何だ、あれは!?」
運転手は思わず非常ブレーキを作動させる。瞬間、列車は勢いよく停止して、乗客は勢いよく放り出されてしまう。それとほぼ同時に車内の電灯が明滅した。
「あれは・・・、ポケモンか!?」
その異様なポケモンは窓ガラスに激しくぶつかる。運転台から見て、その数は10匹、20匹といただろうか。群れをなして行動しているのは間違いない。
電灯の消えた車内で乗客達も不安げな表情で事態を見守っている。だがただ事ではないという空気が車内に漂っていた。
「何をするんだ!」
窓ガラスが突き破られ、そのポケモンが運転台に進入した。これほどまで多くのポケモンに襲いかかられてはたまったものではない。
「ぬわーーっっ!!」
運転手の悲鳴が車内にこだました。

それと同時に車両の両側にその無数のポケモンが繰り返し現れる。瞬く間にそのポケモンは窓の外を覆っていく。30匹、50匹、いやそれ以上いるのは間違いない。
「何なんだ、あれは!?」
「ポケモンか?」
ポケモンは見た目からしてむしタイプにも見える。だがメガヤンマなどと同様、空を飛び回ることもできる。そしてそのスピードも桁が違う。
「おい、この中でポケモントレーナーはいないのか!?」
だがそれをかき消すかのごとく、そのうちの1匹が窓を突き破り、車内に入り込んだ。
「何をするんだ・・・!」
それと呼応して次々とそのポケモン達が車内に入り込んでいく。この状況では例えチャンピオンマスターのシロナがいたとしても間に合わなかっただろう。
「ぎょえーーっっ!!」
逃げ惑う乗客達の悲鳴が車内にこだましたのだった・・・。

<このお話の履歴>
2011年2月20日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.206] Section-7 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/02/20(Sun) 17:52:23   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

地下鉄で異常事態が起きていたちょうどその頃、地上でもまた異常な事態が起ころうとしていた。
コトブキシティの中心街にあるコトブキバンギラスデパート。地上10階、地下2階建てで、コトブキネットレール・バンギラスデパート駅とも地下通路で直結している、シンオウ地方有数のデパートである。
まだ開店時間前と言うことから人気もなかったデパート内だが、突如としてデパート全体が大きく揺れ始めたのである。
それは、まるで下から突き上げる地震の縦揺れに似ていた。建物全体が、下から何かの強力な力で突き上げられている感じだったのである。
と、すさまじい音が鳴り響き、地下深くから何かしらの物体が出現し始めたのだった。
それは、何かしらのつぼみにも見えた。ポケモンで言えば、フシギダネやフシギソウ、フシギバナなどの背中に生えている草――進化してフシギバナになると大きな花が開くが――にも似ていた。
だが、それはフシギダネ系統のそれとは似て大きく異なるものだった。むしろフシギダネなどのそれとは全く違う、別物というべきものだった。
そのつぼみのようなものが突き上げるにつれて、建物全体が激しく揺れ動く。そして、そのたびごとに瓦礫が外に飛び散るのが、はっきりと見て取れるのだった。
そして――。
巨大なデパートを突き破って、これまで見たこともない巨大な植物とも花とも区別が付かない、異様な物体が、その姿を現したのだった。
「あれは!?」
「何!?」
道行く人たちはパニック状態になる。今まで見慣れていた光景に、いつもとは全く違うもの、それも異様な物体が出現していること自体、信じられないことだったのだ・・・。

「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします。」
テレビのアナウンサーが、緊迫した面持ちで状況を伝える。
「今朝早く、シンオウ地方・コトブキシティのコトブキバンギラスデパートに、巨大なつぼみと見られる物体が姿を現しました。この物体は、バンギラスデパートの建物を突き破って姿を現したことから、少なくとも高さは50メートル以上あるのではないかと言われています。また、この物体が出現する直前、付近を走行するコトブキネットレール・ナエトルラインの列車が、ポケモンと見られる物体に襲撃されたという未確認報告もあり、現在、確認が進められております。なお、この事態に伴い、コトブキネットレールは全線が始発から運転見合わせとなっています・・・。」

<このお話の履歴>
2011年2月20日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.209] Section-8 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/02/27(Sun) 17:09:24   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

町の中心部に現れた巨大な花のつぼみ。そして未確認情報ながら、地下鉄がポケモンとみられる物体に襲撃されたという情報。さらに情報網が至るところで寸断されていることが重なり、コトブキシティはパニック状態の様相を呈していた。
一方、引き続いてシンジ湖周辺で隕石の捜索に当たっていたポケモンレンジャーのアスカとチヒロは、レンジャーユニオン・シンオウ支部からの緊急の連絡を受け、コトブキシティに向かっていた。
「お姉ちゃん、それってポケモンなの?」
チヒロが心配そうにアスカに聞く。
「分からないわ。だけど、ポケモンにしては大きさが違うかもしれないわ。これまで発見されているポケモンでも、ホエルオーの3倍以上とも言われてるし、桁が違いすぎるわ。」
アスカの言う通りだった。これまで発見されたポケモンの中で最も大きいとされているのはホエルオーの14.5メートル。だが、コトブキシティのバンギラスデパートを突き破った草体は高さが50メートルになると言われていた。ホエルオーなど比較にならないほどの大きさである。
「今回のミッションはこれまでとは違うわ。かなりやっかいなことになるかもしれないわね。チヒロ、気をつけていこうね!」
「うん!」

やがてアスカとチヒロの乗った車はコトブキシティのメインストリートに到着した。
警察による非常線が張られていたが、ここからでも中心街に現れた不気味なつぼみのようなものははっきりと見受けられた。
「警察です。ここから先は立ち入り禁止です。」
ジュンサーに行く手をふさがれる。
「ポケモンレンジャーのアスカです。」
「同じくチヒロです。」
「この先は非常警戒区域です。バンギラスデパートに近づくのは危険です。妙な生物がデパートの周りを回っているのです。」
「妙な生物・・・?」
アスカがそう言ってデパートの方向を見上げる。
そこには、分類ならむしタイプのポケモンになるであろう、昆虫とも甲殻類とも区別のつかない物体が飛び交っているのが見受けられた。その数は10匹、20匹、いや30匹以上はいる。
「あれは・・・!?」
チヒロも息を飲んでその場面を見つめていた。
と、そのポケモンとおぼしき物体がアスカ達に向かって迫っているのが見えた。このままだと大変なことになりかねない。
「奴らが迫っているわ!行くわよ、チヒロ!」
「うん!」
アスカとチヒロは周囲を見回す。と、近くの電灯におびえた表情のムックルが数匹たたずんでいるのが見受けられた。
「キャプチャ・オン!」
アスカとチヒロがムックルをキャプチャする。
「ムックル、あのポケモンかどうかは分からない物体を追い返して!」
ムックル達はかぜおこしやエアカッターを放ってその物体を攻撃していった。

<このお話の履歴>
2011年2月27日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.254] Section-9 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/03/27(Sun) 17:13:21   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

アスカとチヒロはムックルの群れをキャプチャ、現れたポケモンと見られる生物をかぜおこしやエアカッターで牽制した。だが、そのポケモンと見られる生物に対しては思ったほどの効果は見られない。
「どうして・・・?」
チヒロがムックルの群れを見つめながら言う。ムックル達はそれでもなおそのポケモン達に対して攻撃をかけていく。
「あれは間違いなくポケモンだわ。だけど、あたし達が知っているポケモンとは違う。明らかにあたし達を敵と見なしているわ。」
アスカの言葉通りだった。そのポケモンは勢いよく技を繰り出した。エレキボールだ。
「ムックル!」
ムックルの群れはエレキボールをよけきれず、強烈な一撃を受けてしまった。効果は抜群だ。ムックルはそのままリリースされてしまった。
「あのポケモンはまともな手段では太刀打ちできないわ。」その様子を見ていたジュンサーがアスカとチヒロに言う。「確か、あの草体が現れたとき、この近くを地下鉄が走っていたと思うわ。デパートはまだ開店前だったから人はいなかったんだけど、地下鉄があのポケモンと似た生物に襲われたって言う報告もあるの。」
「地下鉄が!?」
アスカが驚いて尋ねる。
「ええ。ネットレールの方から時刻表をお借りしてきたわ。」
ジュンサーはそう言うと時刻表をアスカとチヒロに見せた。――バンギラスデパートを草体が突き破る少し前、バンギラスデパート駅に差し掛かろうとしている1本の列車があるのが見受けられた。
「この列車にも乗客が閉じ込められているかもしれないわ。警察の方が乗客の救助に向かうことになっているから、よかったら協力して!」

警察隊の一団はバンギラスデパート駅の入り口に集結していた。アスカとチヒロもそれに加わろうとしたが、警察官に制止された。
「ポケモンレンジャーのアスカです。」
「同じくチヒロです。地下鉄の乗客の救助に向かいたいのです。」
「だめだ。今のキャプチャを見ていたが、あの生物は並大抵のことでは太刀打ちできん。君たちはしばらく地上で様子を見ていてくれないか。」
「ですが・・・。」
アスカは必死で食い下がろうとする。だが警官の答えは絶対だった。
「あの生物は我々の知識が通用しない。ポケモンだとしてもやっかいな存在になる。地上に残ってジュンサーさん達を手伝ってくれ。・・・総員、戦闘配備!」
そう言うと警察隊は地下鉄構内に向かって降りていった。
アスカとチヒロは手にキャプチャ・スタイラーを握りしめながらデパートの方向を見つめていた。

<このお話の履歴>
2011年3月27日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.255] Section-10 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/03/27(Sun) 17:14:34   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

警察隊はバンギラスデパート駅から地下鉄構内に入っていった。
草体が生えた影響か、駅は至る所天井がはがれ落ち、壁が崩れているなどのダメージが見受けられていた。
ホームに降り立つと、向こうに暗闇の中、怪しく光るいくつかの点が見られていた。さっきのポケモンが地下鉄の中でも活動しているのは間違いない。
「総員、戦闘配備!」
警官達は持っていたモンスターボールから次々にポケモンを繰り出す。出てきたのは全員ガーディだった。
「目標、向こうの謎のポケモン。慎重に行動して乗客達の救助に向かえ!」
警官達は懐中電灯やヘルメットのライトで周囲を明るく照らしつつ線路を進んでいく。やがてそのむしタイプともでんきタイプとも区別のつかないポケモンが警察隊に向かって迫ってきた。
「ガーディ、かえんほうしゃ!」
ガーディ達が一斉にかえんほうしゃを放つ。だがそのポケモンはかえんほうしゃをものともせず、警官隊に向かってエレキボールを放った。
「エレキボール!?ひるむな!ガーディ、ほのおのうず!」
ガーディ達が続いてほのおのうずを放った。だがエレキボールはほのおのうずを突き抜け、警官隊に向かって迫ったのである。
「何なんだ、あのポケモンは・・・!」
「むしタイプなのか、それともでんきタイプなのか!?」
その間にもそのポケモン達はちょうおんぱを放ってガーディ達の行動を封じる。ちょうおんぱの影響からか、一部のガーディには混乱してしまっているものもいた。
「だめだ、らちがあかない・・・!」
1匹でも手こずっているというのに、奥にはまだ無数に赤く光るものがある。それらは全部がこのポケモンの仲間なのは間違いない。
「無念だ。総員、撤退!かえんほうしゃを放ちつつ、駅まで後退せよ!」

駅の入り口から警察隊が方々の体で出てきたのは、それから間もなくだった。
「あのポケモンは私たちの概念が通用しない。我々のガーディがいとも簡単に敗れてしまった・・・!」
自分たちの知識が通用しない。それはこの警察隊がアスカとチヒロの参加を止めたときにも言っていたが、まさかそのまま自分たちにも跳ね返るとは思っても見なかっただろう。
「じゃあ、あのポケモンはどうすれば倒せるの・・・?」
チヒロが困惑の表情でアスカに聞く。
「あたしにも分からないわ。あのポケモンは警察隊のガーディ達でも歯が立たなかった。この戦い、今まで以上に苦しいものになりそうね・・・。」

<このお話の履歴>
2011年3月27日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.319] Section-11 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/05/01(Sun) 17:36:20   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

コトブキシティ中心街に現れた巨大な草体。それと対をなすかのごとく出現した虫状のポケモン。地下鉄の乗客を救出するべく出動した警察隊は、地下鉄構内に現れたそのポケモン達を相手に手も足も出ず、やむなく撤退せざるを得なかった。
「ここはやはりポケモンレンジャーであるあなた方に向かってもらいたい。」
警察隊のリーダーがアスカとチヒロに向かって言った。
「あたし達に・・・ですか?」
「ああ。私たちではどうにも手に負えなかった。もちろん、あなた方だけでと言うわけにもいかないだろう。レンジャーユニオンのシンオウ支部にも連絡は取ってある。あなた達だったら地下鉄に取り残された乗客達を救い出すことができると思う。」
「お姉ちゃん、あたし達にできるんだったら協力しよう!」
チヒロがアスカの方を向いて言う。
「(今回のミッションはあたしとチヒロがこれまで経験してきたのよりももっと厳しいと思うわ。だけど、こういった緊急事態に立ち向かうのが、あたし達ポケモンレンジャーだと思うわ!)はい。よろしくお願いします!」
アスカは大きくうなずいた。
「分かった。本当は、あなた達も最初から救出に同行してもらいたかった。だが、あのポケモンの行動は私たちの想像以上だ。あのポケモン達は私たちがこれまで知っているポケモンとは全く違う行動をとっている。気をつけてミッションを遂行して欲しい!」

シンオウ支部から派遣されたポケモンレンジャーも合流、アスカとチヒロはいよいよバンギラスデパート駅から地下鉄構内に入っていくことになった。
「テレビコトブキ前駅とバンギラスデパート駅の間に、地下鉄の列車が1編成取り残されているという報告がネットレールから寄せられている。レンジャー諸君、地下鉄構内に集まっている未知のポケモンに気をつけつつ、地下鉄の車両に入り、乗客達を救出して欲しい。」
号令をかけたのはレンジャーユニオン・シンオウ支部長のセイゾウ。自身はコトブキシティのポケモンセンターを総司令本部として、今回のミッションの総合的な指揮を執ることになった。
「警察隊の報告によると、未知のポケモンはエレキボールなどのでんきタイプの技に加えて、その外見や特徴などからむしタイプの技を使うものと推測される。十分に注意して向かって欲しい。」
「はい!」
レンジャー全員が敬礼の姿勢をとる。
「では、ミッション開始!」
アスカやチヒロをはじめとするポケモンレンジャーの一団が地下鉄構内に足を踏み入れていく。果たして、謎のポケモンの大群が迫る中、アスカ達は取り残された乗客達を無事に救出することができるのだろうか。

<このお話の履歴>
2011年5月1日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.491] Section-12 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/06/04(Sat) 14:08:39   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

アスカとチヒロを始めとするポケモンレンジャーの一団は、セイゾウの指示のもと、バンギラスデパート駅の入り口からネットレール線内に降りていった。
「チヒロ、あたし達のまだ知らないポケモンが襲いかかるのは間違いないわ。注意しましょう!」
「うん!」
ホームからテレビコトブキ前方向を見ると、さっきのポケモンが多数群れをなして行動している姿がいやでも目に入った。あの奥に地下鉄、そして避難し損ねた乗客が残っているのだろう。
「あの妙な物体はポケモンと見て間違いない。キャプチャ・スタイラーを使えばキャプチャも可能だろう。だがエレキボールやちょうおんぱと言った技で私たちを混乱に陥れると見ていいだろう。気をつけるんだ!」
と、キャプチャ・スタイラーの光に引き寄せられたのか、そのポケモンが1匹、2匹と群れをなしてアスカ達のもとに近づいてきた。
「あのポケモンね!チヒロ、行くわよ!」
「うん!」
同時にほかのレンジャーもキャプチャの体制に入る。
「キャプチャ・オン!」
アスカ達は一斉にキャプチャ・ディスクを飛ばしてキャプチャの体制に入った。だがそのポケモンはエレキボールを放ってキャプチャを妨害にかかる。
本来であれば適当なポケモンをキャプチャしてポケアシストを放てばいいのだろうが、地下鉄構内にそう言ったポケモンはいない。ディスクを操って攻撃をかわしつつ心を通わせなければならないだろう。
未知のポケモンを相手に、レンジャー達も果たして無事にキャプチャできるのか、不安の色を隠せなかった。だがしばらくポケモンを囲んでいくと、いつもポケモン達をキャプチャしているときと同じく白い光の輪が描かれ始めた。やがて光の輪はそのポケモンに取り込まれていき、無事にキャプチャできた。
「キャプチャ完了ね。・・・だけどこのポケモン、やっぱりこれまで見てきたどのポケモンとも違うわ。」
アスカの言う通りだった。異様なまでに黒く光る外郭。そして大きな目に小さな目。さらに羽根までもが妙な生え方だった。これまでに存在が知られているポケモンの総数は600種類以上と言われているが、それらのどのポケモンとも構造的に違うものだった。いや、むしろポケモンと呼べるものなのだろうか。キャプチャ・スタイラーが作動したと言うことを考えると、やはりポケモンと言うことになるのだろうが・・・。
「そうね。明らかにあたし達が見たポケモンとは違うわ。落ち着いたらしっかり調べてもらわないとね!」
「うん。次はいよいよ地下鉄の車両に行くわ。みんな、気をつけましょう!」
アスカがほかのレンジャーに呼びかける。ばらばらに行動していてはさっきの警察隊と同じ運命をたどりかねない。ここはリーダーシップをとれる人間が必要だろう。
そしてアスカ達は乗客が取り残されていると見られる列車に近づいていく。果たして、このポケモン達に襲われた乗客は、無事なのだろうか。

<このお話の履歴>
2011年6月4日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。


  [No.545] Section-13 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/06/24(Fri) 02:32:48   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

アスカやチヒロを始めとするポケモンレンジャーの一団は、地下鉄線内に現れた謎のポケモン達をキャプチャしつつ、乗客達が取り残されていると見られる車両にたどり着いた。
「大丈夫ですか?」
アスカ達はヘルメットに取り付けていた電灯を照らして内部の様子を探る。
「お姉ちゃん、見て!」
チヒロが運転席を見つめながら言う。
「うう・・・。」
運転手とおぼしき人物の呻き声がした。
「生存者がいるわ!総員、運転席に!」
アスカの声と共に他のレンジャー達も運転席に駆け寄る。
「あのポケモン、まるで・・・これまで見たことのない・・・やつだった・・・。」
「運転手さん、しっかりしてください!」
「早く運転手さんを安全なところに運んで!あたし達は列車の中も見てみることにするわ。みんなも手分けして探して!」
「はい!」
運転手はどうにか自力で脱出したものの、まともに歩けるほどではない。レンジャー達に両脇を抱えられて駅の方向に向かっていく。それを見ながらアスカ達は車両の中に入っていった。

車両内部もさっきのポケモン達に襲われた爪痕が至るところに残っていた。電灯は消え、あちこちから火花がほとばしっている。
「誰か・・・助けてくれ・・・。」
「ううっ・・・。」
車内はあちこちから乗客達の呻き声が聞こえていた。とっさのことだったらしく、ポケモンを出してバトルする暇もなかったと見ていいだろう。
「落ち着いてください。あたし達はポケモンレンジャーです。乗客の皆様を救出にまいりました。」
「ポケモンレンジャーさん?私たちを助けに来てくれたのですか!」
電灯に照らされた乗客達の顔。それらの1つ1つに未知のポケモンに対する恐怖と怯えの表情がありありと浮かんでいた。
「お願いです。まだ奥にたくさんの乗客のみなさんがいらっしゃるんです。」
「あのポケモン達が私たちを襲った後、後ろの車両にも行ったんです。」
乗客達は口々にその体験を告げる。いつもと何不自由ない生活を送っていたのが突然未知のポケモンに襲撃されたのである。恐怖どころの問題ではないだろう。
「(・・・?)」
チヒロが電灯に照らされた乗客達の姿を見て、ふと疑問に思った。
「皆さんは、これから順番にレンジャーの方達の指示のもと避難してもらいます。さっきのポケモン、もしかしたらポケモンではないかもしれないですが、それらはまたいつ襲いかかるかもしれません。お怪我をなされた方がいらっしゃいましたら、病院で診察を受けてもらうことになります。・・・チヒロ、どうしたの?」
「お姉ちゃん、乗客の人たち、大丈夫そうな人もいればかなりぼろぼろの人もいるよ。さっきの運転手さんもひどくやられてたみたいだったわ。」
言われてみればそうである。薄暗くてよく分かりにくいが、ひどくやられた人もいれば、まだ大丈夫そうな人もいた。この違いはどこにあるのだろう。どこが被害の程度を分けたのだろうか。
「今はそれどころではないわ、チヒロ。確かに気になるところだけど、まずは列車に取り残された人を救出しなきゃね。・・・皆さん、指示に従って列車の外に出てください!」
そう言ってアスカが乗客達に避難を促す。乗客達も、ある者は自力で、またある者はレンジャーに支えられる形で車外に出ていく。
レンジャー達も車内を探して回りつつ、乗客達の救助を行っていく。5両編成の列車、始発列車と言うことからか乗客もさほどいなかったと見られるが、車内のあちこちから助けを求める乗客の声がしており、アスカ達もさっきのポケモンが飛来していないかと言った周囲の状況に気を配りつつ、それに呼応して乗客の救助に当たっていた。
救出された乗客達は順次救急車に乗せられて病院に搬送されていく。コトブキシティの市内は危険と言うことからか、郊外の病院に搬送されていった。
最後部の車両まで見て回り、乗客を残らず救出していくと、さらに後ろは妙なつるでがんじがらめになっており、向こうの様子をうかがい知ることはできなかった。
「(あれがデパートを突き破った草体の根っこね。)」
根っこの回りはあのポケモンが無数に飛び回っており、近づくことは容易ではない。今のアスカ達が近づいたら二次被害が甚大なものになってしまうだろう。
「(あれをどうにかできる方法はないのかしら・・・。)」
アスカは巨大な根っことそれの回りを飛び回るポケモンの姿を遠目で見つめながら思っていた。

〈このお話の履歴〉
全編書き下ろし。


  [No.559] Section-14 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/07/01(Fri) 12:54:19   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

アスカやチヒロ達をはじめとするポケモンレンジャー達が地下鉄に取り残された乗客を救出するミッションに携わっている一方で、レンジャー達がキャプチャした未知のポケモンの研究と、その生態の解明が進められていた。
アスカがキャプチャしたポケモンは、キャプチャされたことからか幾分落ち着いており、人間やポケモン達に対して危害を加えようとはしていなかった。ポケモン研究員のコレキヨが地上で待機していたレンジャーにポケモンの搬送を依頼する。
「このポケモンはどう言った生態なのだろう。研究のためにポケモンを運んでもらいたい。」
「ですが、また暴れ出したら・・・。」
研究員が言うのも無理はない。キャプチャされたとは言え、地下鉄の乗客を襲撃したポケモンである。人体に危害をまた加えないとも限らないのだ。
「そうだな。マサゴタウンのナナカマド研究所に運ぶのは時間がかかりすぎる。このポケモンはコトブキ大学のポケモン研究室に運ぶことにしよう。私は生態を調べてみることにする。・・・あのポケモンと巨大な花はどうも何かしら関係がある風に見えてならないのだ。」
コレキヨの言うとおりである。件のポケモンが地下鉄を襲撃したのとほぼ同じ時刻にあの巨大な花が現れ、デパートを突き破ったのだ。無関係と考える方がおかしいだろう。
「分かりました。早速研究に回すことにします。コレキヨさん、どうかお気をつけて。」
そう言うとレンジャーの乗った車にあのポケモンが乗せられ、やがて車はコトブキシティ郊外にあるコトブキ大学に向けて走り出していった。

その晩、コレキヨが中心となってこの未知のポケモンの生態の解明が行われた。だが、それはあまりにも衝撃的な内容だったのである。
「報告によると、草体が出現して以降、デパート周辺の酸素濃度が上昇しているという情報が寄せられている。あの花が周辺の酸素濃度に何かしらの影響を与えているというのは間違いないだろう。」
普通、人間は呼吸することで酸素を取り入れ、二酸化炭素を放出している。逆に植物は二酸化炭素を取り入れて酸素を放出する、いわゆる「光合成」と呼ばれるシステムがある。これは植物系のポケモンにも言えることで、例えばフシギバナは太陽エネルギーを取り入れてあのような大きな花を咲かせるのである。事実、くさタイプのポケモンの多くはこうごうせいの技を覚えることができ、それで体力を回復することもできる。だが、酸素濃度の上昇はフシギバナや植物が放出する酸素の比ではないのだという。
「ここ数日の一連の活動を分析してみると、あの隕石がシンジ湖に落下して以降、周辺では緑色のオーロラが現れ、飲料工場の飲料用の瓶やコトブキシティ周辺の光ファイバーの消失などと言った怪現象が立て続けに発生していた。さらに今朝、コトブキネットレールがむしタイプとみられるあのポケモンに襲撃され、ほぼ同時刻、バンギラスデパートにあの巨大な花が出現した。私はこう思うのだが・・・。」
コレキヨはそう言って話を続ける。言っていることは事実ありのままなのだが、展開それ自体が衝撃過ぎるものなのである。
「あのポケモンと巨大な花は、明らかにシンジ湖に落下した隕石と一緒にこの星に到達したものとみていいだろう。そして、あの花は成長する過程で私たちの生態とは比べものにならないほどの酸素を必要とするのだろう。」
この星に生息している生き物は、人間・ポケモンを問わず、普段から呼吸しており、酸素濃度が薄すぎても濃すぎても生態に影響を与えるのである。
「草体は生育のために大量の酸素を必要としている。そのためには酸素の元となるものが必要になるだろう。ガラス瓶は元々は土からできている。そして土に含まれているケイ素、このケイ素、すなわちシリコンこそがあのポケモンの生態に大きな役割を果たしているのだろうと思う。」
ケイ素。それは半導体や光ファイバーにもよく使われている。コトブキシティ周辺で発生した光ファイバーの消失と突き合わせて考えれば、このポケモンがケイ素、すなわちシリコンを主食としているのは間違いないだろう。
「それで、このままあのポケモンがシリコンを摂取し続ければ、どうなるのです?」
机を囲んでいた研究員の1人がコレキヨに聞く。
「このまま進むと、あの巨大な花が放出する高濃度の酸素がこの星を覆うことになる。その高濃度の酸素の下では、私たち人間はもちろん、この星に生きるポケモン達もその大部分は生存できなくなるだろう。」
「人間やポケモン達が生きられなくなる!?」
それは文字通り死活問題だった。この星が滅びてしまうかもしれないという事態に直面していることを、今初めて思い知らされたのである。
「そうだ。シンオウリーグやレンジャーユニオンなどにも連絡を取って、今私たちが直面している危機を広く知らせなければならない。このまま手をこまねいていると、私たちは滅びる。」
「そして、あの花はどうなるのです?」
さらに別の研究員が尋ねる。だが、コレキヨが言ったことは、さらに驚くべき内容だった。

<このお話の履歴>
全編書き下ろし。


  [No.563] Section-15 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/07/03(Sun) 17:53:23   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ナナカマド博士の助手・コレキヨから謎の花とポケモンの共生関係が述べられる。だが、その後の展開はその場にいる誰もが凍り付くものだった。
「あの花が開花すると、やがては周囲の高まった酸素に呼応して、あのポケモンたちの、いわば種子とも言うべきものを宇宙に向かって打ち上げるのだろう。そうならないうちにあのポケモンを退治しなければならない。・・・あのポケモンは私たち人類と共生することは不可能だ。」
「そうかもしれないですね。・・・ですがコレキヨさん、そのポケモンの種子を宇宙に打ち上げると、どうなるのです?」
「・・・あの種子を打ち上げるのはただではすまない。種子を打ち上げるとき、周囲の高まった酸素が大爆発を起こす。その威力はこの星に生息するポケモンが引き起こすだいばくはつの比ではないだろう。」
高濃度の酸素が大爆発を起こす。しかもポケモンの技としてのだいばくはつとは威力が比較にならないと推測される。その言葉が発せられた瞬間、その場にいた誰もが凍り付いた。
「これからあの花が今後どうなるか、シミュレートを行いたい。」
そう言うとコレキヨはプログラムを立ち上げた。――バンギラスデパートに発生した巨大な花のつぼみが、やがて花を開き、種子を打ち上げる。そのとき想像を絶する規模の大爆発が起きるのだという。
「爆発が起きると、その威力はたちまちこの一帯を飲み込む。メタグロスやギガイアスが放つだいばくはつなど、とても比較できない規模になるだろう。」
そしてシミュレートが種子打ち上げのときの大爆発の様子を映し出した。どこまでの範囲が被害を受けるかを示すため、タウンマップとCGによるコトブキシティ周辺の映像の2つが映された。だが、その被害はその場にいた研究員たちの想像を遥かに上回るものだった。
タウンマップとCGの画面に赤く塗りつぶされた円が引かれ、CGの画面では爆発が天をつくばかりに高く上空まで広がっていくのが見受けられる。その被害はたちまちのうちにコトブキシティ中心街ばかりか、テレビコトブキやポケモントレーナーズスクール、ポケッチカンパニー本社など、コトブキシティの主だった施設を次々に破壊していき、やがてコトブキシティのほぼ全域が見るも無惨なクレーターと化してしまった。
「・・・この通り、コトブキシティ中心部8キロ四方の範囲は間違いなく壊滅する。今後、あのつぼみが花を咲かせたら、それは種子発射のため花が活性化を始めた証拠だ。何としても種子発射とそれに伴う大爆発だけは避けなければならない。」
「だが、それにはどうすれば・・・?」
コレキヨがディスプレイを操作すると、画面に地下鉄の線路が映し出された。あの花の根がびっしりと張り巡らされており、それを破壊するのは容易ではなさそうである。だが・・・。
「この根っこを破壊すれば、花の活性化は幾分か抑えることができるのではと考えられている。」
「しかし、それにはどうすれば・・・?」
「ポケモンレンジャーを派遣して根っこを破壊することになるだろう。ただし、あのむしポケモンをどう対処するかにもよるだろう。報告では地下鉄に残っていた乗客を救出したとき、あのポケモンをキャプチャできたという。現在、このポケモンをコトブキ大学に送っており、調査が進められている。果たしてどこまで対処できるか・・・。」
この星の人間やポケモンが文字通り危機に瀕している。そればかりか、草体に手をこまねいていてはコトブキシティが全滅してしまうのだという。果たして、この危機を食い止めることはできるのだろうか。

<このお話の履歴>
全編書き下ろし。


  [No.828] Section-16 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/12/25(Sun) 13:14:18   50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

草体の破壊に手をこまねいていてはコトブキシティが壊滅してしまう――。ナナカマド博士の助手・コレキヨが衝撃的な事実を発言した翌日、その言葉を裏付けるかのごとく、コトブキバンギラスデパートに出現した草体が、恐るべき変化を遂げたのだった。
「あれは!?」
警戒に当たっていたアスカは思わずキャプチャ・スタイラーでデパートを覆う草体を指し示した。
「間違いない・・・!草体が花を咲かせようとしているわ!」
チヒロもその異様なまでの光景を目の当たりにしようとしていたのだった。
まがまがしいオレンジ色のつぼみ。そのつぼみが次第にふくらんでいき、やがて渦を巻いたかのごとく規則正しい20枚ほどの花びらとなって花開いたのだった。
花びらの真ん中には異様なまでに長く、そしてとがったものがある。おそらくここに種をため込んでいるのだろう。
「アスカさん、チヒロさん!」
そこに警察隊が駆けつける。
「昨夜、ナナカマド博士の助手でコレキヨさんっていう、ポケモン研究者の方が中心となってあのポケモンの生態を解明するべく緊急会議が開かれたのですが、あの草体、放っておくと大変なことになるんだそうです!」
「大変なこと?」
アスカが思わず警察隊に聞き返す。
「はい。草体が花を咲かせると、このあたりの酸素濃度はさらに高まります。そして濃度が極限まで高まると、あの草体は種子を宇宙に向けて打ち上げるんだそうです。そのとき、この一帯の酸素が大爆発を起こすのですが、今私たちが知っているポケモンのだいばくはつの威力など、とても比べものにならないんだそうです・・・。」
「それで、爆発するとどうなるんですか?」
チヒロも尋ねる。
「・・・コトブキシティは壊滅します!」
「えっ!!」
アスカとチヒロは互いに困惑の表情を浮かべる。事態は予想していた以上に深刻だということを改めて突きつけられることになった。
「それで、草体はどうなっています!?」
「あれを見てください!」
「!!」
アスカの声に警察隊は驚いてデパートの方向を見上げた。――毒々しいオレンジ色の花びらが、まるで地上にいるアスカ達を威圧するかのごとく咲き誇っている。まるで破壊できるなら破壊してみろと言わんばかりの異様である。
「これは・・・!もはや一刻の猶予も許されません!アスカさん、チヒロさん!私たちに協力してください!すぐにでもあの草体の活性化を抑えなければ、コトブキシティは何も残らなくなります!」
「分かったわ。行きましょう、チヒロ!」
「うん!」
ついに恐れていた事態が起きてしまった。草体が花を開くと言うことは、すなわちコトブキシティ壊滅のカウントダウンが始まったと言うことを意味している。それも、針の刻まれていない時限爆弾という代物である。
一刻も早く次の手を打たなければ想像以上の大惨事が起きてしまう。果たして、巨大な花を破壊することはできるのだろうか。

<このお話の履歴>
全編書き下ろし。


  [No.829] Section-17 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/12/25(Sun) 14:42:30   75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「番組の途中ですが、ここでコトブキシティに出現した巨大な草体に関する続報が入ってまいりましたのでお伝えします。」
マサト達が滞在しているグリーンフィールドのポケモンセンター。そこで流れていたテレビのニュースが、草体に関する臨時ニュースを流し始めた。
草体発生以降、シンオウ地方一帯に注意を喚起する情報が多く流されており、ニュースもL字テロップで情報を流していた。その中でアナウンサーが淡々とした表情で続ける。
「先ほど、バンギラスデパートに出現した草体が、巨大な花びらを咲かせたという情報が入ってまいりました。花びらは渦巻きの形状となっており、高さはデパートの屋上から計算して、およそ5、6メートルとされています。」
アナウンサーの声と共にその異様な花びらが画面に映し出される。
「これは・・・!」
「見たこともない花びらだわ!」
マサトとコトミがテレビの画面を見つめながら思わず言葉を漏らす。
「ナナカマド研究所やコトブキ大学の調査によりますと、この花びらはこの星に自生している花びらと同様の生命サイクルと考えられていますが、その過程で周囲の酸素濃度を高め、極限まで高まった段階で種子を宇宙に打ち上げると言うことです。そのとき周囲の酸素が大爆発を起こすとされており、シミュレーションの結果、コトブキシティが壊滅するほどの威力だと言うことが明らかになりました・・・。」
「コトブキシティが・・・壊滅・・・!?」
テレビを見ていたトレーナーが呆然としながらつぶやく。
「繰り返します。草体の破壊に失敗した場合、コトブキシティは壊滅する可能性が高まってまいりました。コトブキシティ周辺にお住まいの皆さん、落ち着いて行動してください。現在のところ、すぐにでも草体が種子を打ち上げるといった兆候は確認されておりません。ですが最悪の事態に備えて、自主的な避難を呼びかけます・・・。」
「マサト君、コトミちゃん。あたし達が今置かれている状況は予想以上にひどいものだわ。」
ミキがマサトとコトミの肩に手を置いて言う。
「あたし達もすぐにでもあの草体を破壊しに出向きたいところだけど、ジョウトからシンオウはかなり離れてるし、それに行けたとしても今の状況ではコトブキシティに近づくことはできないと思うわ。だから、今のあたし達にできることは、アスカさんやチヒロさん達、ポケモンレンジャーや警察隊の皆さんが草体を無事に破壊できることを祈るだけだわ。」
「僕だってアスカさんやチヒロさんを手伝いたいです。だけどあの花、上手く破壊できるんでしょうか・・・。」
「あたしにも分からないわ。だけどアスカさんやチヒロさん達だったら、きっと上手くやれると思うわ。」
だがそう言っているミキの表情も、心なしか険しいものだった。いつもマサトやコトミに対して見せている笑顔も消えている。見たこともないポケモン。そして見慣れた町が壊滅してしまうかもしれないという緊迫した状況。そう言った状況が、彼女の表情を険しくしていたのだろう。

<このお話の履歴>
全編書き下ろし。


  [No.928] Section-18 投稿者:あゆみ   投稿日:2012/03/25(Sun) 16:40:53   50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

コトブキシティの中心街に出現した草体。それはついにまがまがしい花びらを開いたのだった。
その花からは野に咲く花びらにある美しさなどみじんも垣間見ることはできない。不気味な毒々しい色が見るものを威圧している。それはまるで、この星に与えられた針のない時限爆弾のカウントダウンを意味しているかのごとくそびえ立っていたのだった。
既に中心街からの避難は進んでおり、草体が万一爆発した場合の威力半径の目安となる半径8キロの範囲は、既に民間人の立ち入りは制限されていた。
そして、警察隊やポケモンレンジャーが合同で対策本部を置いているコトブキグリーンパークでは、いよいよ草体爆破のための準備が進められていたのだった。
「・・・この通り、コトブキネットレールのテレビコトブキ前とバンギラスデパートの間が、とりわけ草体の根っこに当たるものが根を張っていると考えられる区域である。ここに張っている根っこを破壊して養分の吸収を抑えることができれば、あるいは草体の種子放射、それに伴う大爆発は避けられるかもしれない。」
作戦部長を務めるのはレンジャーユニオン・シンオウ支部長のセイゾウ。総合指令本部が置かれたポケモンセンターを出て自ら指揮を執ることになった。
「既にコトブキシティとシンオウリーグはこの草体を爆破することを決定している。だが、まず準備段階として、この草体の根っこを破壊して養分の吸収を抑えなければならない。草体の爆破はその後の問題になるだろう。」
アスカやチヒロを始め、レンジャーや警察隊も固唾をのんでセイゾウの指示に耳を傾けている。
「作戦開始は今晩だ。それまでにしっかりと準備してもらいたい!」
「はい!」

そしてその夜、重装備に身を固めた警察隊とポケモンレンジャーが、バンギラスデパート駅の入り口に集結していた。
準備を進めている間にも、草体の活性化は進んでおり、いつ巨大な爆発を起こしてもおかしくないほどになってしまっていた。早く手を打たなければ最悪の事態は免れない。
「・・・配置につけ。諸君、これから草体の根幹部を爆破して、活性化の抑止を行う。だが、この爆破が上手く行くという保証はどこにもない。それでも根幹を破壊しなければ、最悪の事態が起きるのは言うまでもない。だから諸君、今回のミッションは一層の奮闘を要する。そこでだ、レンジャーの方々には今回特別なスタイラーを用意してある。」
そう言ってセイゾウは運ばれた箱からスタイラーを取り出した。――ポケモンレンジャーが使うスタイラーは、普通のキャプチャ・スタイラーのほか、主にアルミア地方に配属されたトップレンジャーが扱うファイン・スタイラーと呼ばれるものがある。だが、セイゾウが取り出したキャプチャ・スタイラーは、ファイン・スタイラーと形は似ているものだが、どこか違う。
「このスタイラーは、ファイン・スタイラーに改良を加えたアルファ・スタイラーと言うものだ。今回、未知のポケモンに対抗するため、コトブキ大学の協力を得て開発されたのだ。使い方は従来のスタイラーと同じで、キャプチャ・ディスクを操ってポケモンをキャプチャしていくことができる。だが、まだ試作段階と言うこともあり、用意されているのは3つだけだ。そこで、後の2つのアルファ・スタイラーを与えるレンジャーをこれから発表する。」
レンジャーたちに緊張した空気が漂う。
「まずはアスカ。」
「はい。」
アスカがセイゾウの元に歩を進め、アルファ・スタイラーを受け取る。
「続いてチヒロ。」
「はい。」
チヒロも続いてアルファ・スタイラーを受け取った。
「・・・2人には、今朝の地下鉄に残された乗客を救助するミッションにおいて尽力してくれた。だから今回はこの2人にアルファ・スタイラーを貸し与えることにする。そのほかの諸君も、今回の任務、しっかりと遂行してもらいたい!」
「はい!」
警察隊とレンジャー達が一斉に答えた。
「・・・では手順を発表する。改札からホーム、そして線路に降り、草体のところに向かう。途中、あの未知のポケモンが現れるかもしれないが、現れた場合は適宜キャプチャしていくこと。そして草体のもとにたどり着いたら、爆弾をセットして離れること。起爆装置はホームに設置されている。全員がホームに戻り次第起爆装置のスイッチを押せ。」
「はい!」
「では、ミッション開始!」
そう言うや警察隊とポケモンレンジャー達は一斉に階段を下りて地下鉄構内に入っていった。果たして、アスカとチヒロはアルファ・スタイラーを上手く使いこなすことはできるのだろうか。そして、草体の活性化を防ぎ、コトブキシティを壊滅の危機から救うことはできるのだろうか。

<このお話の履歴>
全編書き下ろし。


  [No.1013] Section-19 投稿者:あゆみ   投稿日:2012/07/20(Fri) 13:56:15   78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

多忙につき4か月近くほったらかしていましたが気にしないでください・・・(汗
では本文。

アスカとチヒロを始めとする、総勢30名の警察隊とポケモンレンジャーの集団は、バンギラスデパート駅からコトブキネットレール構内に入っていった。
この駅とテレビコトブキ駅の間に、未知のポケモンの張り巡らした無数の根っこが埋まっており、そこからあの未知のポケモンが現れるのだろうと考えられていた。
「お姉ちゃん、あのポケモンはどこから現れるか分からないから、慎重に行こうね!」
普段はいつも笑顔のチヒロも、このときばかりは表情がきわめて厳しい。それは渡されたアルファ・スタイラーの重みだけではない。あの草体を破壊しなければ見慣れたコトブキシティが壊滅してしまう。それだけは阻止しなければならないという表情がありありと見て取れた。
「ええ。――皆さん、これから草体を爆発させる起爆装置を取り付けに行くことになりますが、あの未知のポケモンが私たちに襲いかかる可能性も十分に考えられます。もしものときに備えて、ポケモンたちをボールから出しておいた方がいいかと思います。」
アスカが集団を見回して言う。――警察隊は一度地下鉄に取り残されていた乗客を救助しに行こうとして断念したことがある。それだけにアスカの説得は十分なものだった。
「進言ありがとうございます!」
警察隊の1人が答える。その声に応じたのか、警察隊はモンスターボールからポケモンを繰り出した。
ボールから出てきたのはウインディだった。前回のときはガーディだったが、あの未知なるポケモンに全く歯が立たなかった。ほのおのいしで進化したウインディだったらある程度渡り合うことができるだろう。
「それでは、行きましょう!作戦開始!」

一団はレールを伝ってテレビコトブキ駅方向――無数の根っこが道をふさいでいて駅の姿を目視することはできないが――に向かっていく。
だが、警察隊はもちろん、アスカやチヒロもさっき踏み入れたときとは明らかに状況が異なっているのを肌で感じ取っていた。
「チヒロ。どこかおかしいわ。感じない?」
「・・・そう言えば、あのポケモンが出している羽音。あれが聞こえないわ。」
未知のポケモンは、トンネルを飛び回りながら羽音を出していたのだが、今はその羽音が全く聞こえない。これは何を意味しているのだろうか。
「もしかしたら、あのポケモンは昼行性で、夜間は活動していないのかもしれないわ。だけど油断してはいけないわ。チヒロ、羽音が聞こえないからと言ってあまり深入りしてはいけないわ!」
「分かったわ、お姉ちゃん!」
そうこうしている間にも一団はポケモンに襲撃された列車の脇を通り過ぎていく。乗客を救助するので必死だったが、改めて見てみると、ポケモンに襲撃された跡がまだ生々しく残っている。窓ガラスは砕け散っていると言うよりは跡形もなくなっている。そして車体もかなりへこんでいる。そして車内の広告も至る所に散乱しており、ポケモンが繰り出した技が尋常なものではなかったことを改めて感じさせてくれた。
車両の脇を通り過ぎていくと、もうすぐ目の前まで草体の根っこが迫っていた。だが・・・。
「お姉ちゃん、あれを見て!」
チヒロがアルファ・スタイラーで指し示して見せた先に広がっていたもの、それは驚くべき光景だった。
何と、あの未知のポケモンが至る所に倒れ込んでいるのだった。だがどうも様子がおかしい。単に寝ているだけなのか、それとも隙あらば襲いかかろうとしているのだろうか。
「ここはあたしに任せて!キャプチャ・オン!」
アスカが早速アルファ・スタイラーからキャプチャ・ディスクを操り始めた。
果たして、ぴくりともしない未知のポケモンは何を意味しているのだろうか。そして、アスカ達は草体を破壊することはできるのだろうか。


  [No.1072] Section-20 投稿者:あゆみ   投稿日:2012/12/06(Thu) 12:08:04   40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ついに草体の根っこにたどり着いたアスカ達ポケモンレンジャー。だがそこでアスカ達が見たものは、根っこを前にしてぴくりともしない謎のポケモン達の異様な姿だった。その姿を目にしたアスカはアルファ・スタイラーを取り出してそのポケモンをキャプチャし始めたのだった。
「お姉ちゃん。あのポケモンは何をするか分からないわ。慎重にね!」
後ろからチヒロも心配そうに声をかける。
「分かってるわ。だけど今はキャプチャに集中させて。」
ポケモンレンジャーはキャプチャ・スタイラーを操ってポケモン達と心を通わせる。だが、今見ているポケモンは、全く微動だにしないとは言え、これまで人類が見たことのないポケモンである。新種発見となればポケモン界の歴史が大きく塗り変わることになるだろう。だが、一歩間違えればアスカ達の身の危険も伴うものである。ましてや地下鉄を襲ったともなれば事は重大。それだけアスカもスタイラーを操るのも緊張を伴っていたのだろう。
やがてスタイラーは白い輪を描き始め、輪がその未知のポケモンに取り込まれていく。
「キャプチャ完了!・・・皆さん、ほかのポケモンもキャプチャしてみてください!」
「了解!」
アスカの指示のもと、チヒロやほかのレンジャーも一斉にキャプチャに取りかかっていく。未知のポケモンを目の前にして隊員達も緊張の色が見受けられたものの、幸いにしてポケモン達が活動を始めることはなく、無事にキャプチャすることができた。
「総員、キャプチャ完了!」
チヒロの声がトンネル内に響き渡る。
「分かったわ。残るはあの草体の根っこね。」
アスカがスタイラーで根っこを指し示す。――根っこは幾重にも取り巻かれており、トンネルの向こうに見えるはずのテレビコトブキ駅など、とうてい見えるはずもない。だがこの根っこを破壊しないことには草体の活動は収まりそうもなかった。放っておけばコトブキシティは間違いなく焦土と化すだろう。
「これから草体の爆破作業を行います。総員、爆弾を根っこにセットしてください!」
アスカの声がかかり、警察隊が慎重に根っこに爆弾をセットしていく。セットする間にも根っこは不気味に小刻みな震動を繰り返しており、活動を活発化させていると言うのがいやでも見て取れた。
セットされた爆弾は、モンスターボールほどの大きさでメタグロスやギガイアスと言った攻撃力の高いポケモンのだいばくはつにも匹敵する威力を搭載しており、計算上、草体の活発化を抑えることは十分に可能と見られていた。しかしその威力が災いしてか、暴発を防ぐためレンジャー自身が携帯することは禁じられていたのだった。
「セット完了!」
警察隊の声が響く。後はホームに戻って起爆スイッチを押すだけである。

数分後、バンギラスデパート駅のホームに設置されていた起爆スイッチにアスカが手をかけた。
「これより爆弾の爆破を行います。総員、爆破時の衝撃と轟音に備えてください!」
声に従ってチヒロをはじめとするレンジャーや隊員達が耳栓を装着して防護体制をとる。アスカも声を発した後に耳栓をはめた。
「3、2、1、爆破!」
そう言ってアスカは起爆スイッチを押した。その瞬間、強烈な爆発音が響き渡り、トンネル内に繰り返しこだましていった。それとほぼ同時に強烈な爆風が風圧となって襲いかかる。
果たして、根っこを破壊して草体の活動を抑えることはできたのだろうか。


  [No.1190] Section-21 投稿者:あゆみ   投稿日:2014/09/06(Sat) 16:33:08   67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

諸事情で2年近く放置してしまいました。覚えていらっしゃらなかったら大変申し訳ありません・・・(おい!
では長らくお待たせいたしました。続きをどうぞ。

アスカが起爆装置のスイッチを押した瞬間、耳をつんざくばかりの轟音が響き渡った。
そしてしばらくの後、トンネル内に静寂がやってきた。
「・・・お姉ちゃん、草体は?」
チヒロが不安そうな表情で聞く。
「・・・見てごらん!」
アスカがアルファ・スタイラーで草体が生やしていた根っこのほうを指し示した。
するとどうだろう。草体の根っこは強烈な爆風の影響を受けて無数に引きちぎられていた。これで草体の活性化は収まったと見ていいはずである。
「こちら、地下鉄構内のアスカ。草体の根っこ、爆破に成功しました!」
アスカが無線で地上の作戦本部を呼び出す。
「こちら、作戦本部。デパートの草体を中心に発生していた緑色のオーロラも消滅を確認した。今後、草体から発せられる電磁波の影響も少なくなっていくだろうと考えられる。総員、直ちに作戦本部に帰還を命ずる。」
「はい!」
そう言ったアスカの顔には、一瞬だが安どの表情が映っていた。これでコトブキシティが壊滅する可能性は低くなる。だが、この草体自体をどうにかしないことには根本的な解決とはならなかった。──それを思うと、アスカの表情は再び険しくなっていた。
「お姉ちゃん、まずは草体の活性化が収まったから、第一段階は突破だね。」
交信を終えたアスカにチヒロが話しかける。
「・・・でも、今度はこの草体自体をどうにかしないことには問題は解決しないわ。爆発の危険はなくなったかもしれないけど、いつまでもあの花がここにあると言うことはよくないことだと思うわ。言い換えればこれからが本番なのよ。」
あくまでも活性化が収まっただけ。この不気味な花をどうにかしないことには根本的な解決にはならない。それに、花と一緒にいたあの未知のポケモンもどう分類していいのだろうか。
さっき、一瞬見せていた表情は消えており、アスカは再び険しい表情を浮かべていた。


  [No.1203] Section-22 投稿者:あゆみ   投稿日:2014/09/27(Sat) 14:39:07   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

マサゴタウンのさらに南の海上。
カントーとシンオウを結ぶ船も数多く行き来する海域であるが、流星群の落下以来、船舶の航行は厳しく規制されていた。さらに、このカントーとシンオウの間の海域にも流星群の1つが落下したと言う情報が寄せられており、カントーとシンオウから捜査隊が派遣されていた。
「こちら、観測チーム1。周辺海域、異常なし。」
見たところ、チョンチーとランターンの群れが泳いでおり、暗い海を明るく照らしている。しかし、それ以外に何も変わった気配は見られない。
「・・・?」
と、そのチョンチーとランターンの群れが一斉に左右に分かれていったではないか。おそらく、海中から現れる「何か」を感じ取ったのだろうか。
「観測チーム1、海中から何かしらの物体が出現します!」
それを言うのとほぼ同時だった。
海面を破って1匹のポケモンが姿を現した。白い体色に、まるで車輪のごときものが胴体についている。足は4本、さらに尻尾と思しきものもある。そして、頭の後ろから長い突起が伸びていた。
「あれは・・・!?」
「観測チーム1、応答せよ!」
間違いない。シンオウ地方の伝説に伝えられる、何もない場所に置かれていたタマゴから生まれ、1000本の腕を使って世界を創造したと伝えられるポケモン、アルセウスだ。
「観測チーム1。マサゴ南方の海上から、ポケモンが現出!――間違いありません。シンオウ地方の神話に語り継がれるポケモン、アルセウスです!」
「アルセウス!?」
かつて、ミチーナ遺跡で繰り広げられた、ディアルガ、パルキア、ギラティナの争い。それをアルセウスが鎮めたという話が知られているが、果たして、このアルセウスはそのときの個体と同一なのだろうか。いや、世界を生み出したとされているポケモンである以上、果たして複数の個体がいるのかどうかも定かではない。しかし、ミュウを基にして作られたとされるミュウツーが、かつてニューアイランド島にいたとされる個体と、ニュートークシティで赤いゲノセクトと激闘を繰り広げた個体の2体が確認されたと言う情報もあることから、もしかすると・・・。
アルセウスは高く一鳴きすると、北の空を目指して飛び立っていった。北。それは間違いなく、コトブキシティの方向を目指していたのである。
「シンオウ南方沖に現出。アルセウスはコトブキシティ方面に向かって飛行中。繰り返す、アルセウスはコトブキシティ方面に向かって飛行中!」
観測隊が交信している間にも、アルセウスはますます速度を上げて北の空を目指して飛んでいった。果たして、アルセウスは何を目的としてコトブキシティに向かおうとしているのだろうか。草体の破壊か。それとも・・・。


  [No.1207] Section-23 投稿者:あゆみ   投稿日:2014/10/04(Sat) 14:42:24   53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

マサゴタウンの南の沖合いに現れたアルセウスは、そのまま一直線にコトブキシティを目指して飛んでいった。――その様子は、フタバタウンでヒカリの母・アヤコ、そしてマサゴタウンでナナカマド博士も目撃していた。
アルセウスが降り立ったのは、コトブキシティの中心街にあるアーケード街だった。草体が出現したバンギラスデパートをほぼ真正面に見通せる場所である。
「アルセウス・・・!?」
降り立ったアルセウスを見てアスカが思わずつぶやく。
「シンオウ地方の伝説に語られている、この世界を生み出したとされているポケモン・・・?」
チヒロも声に出していた。ポケモンレンジャーとして各地でミッションをこなしてきたアスカとチヒロだったが、アルセウスの姿をこの目で見るのはもちろん初めてだった。
アルセウスは特徴的な鳴き声を挙げた。その視線はまっすぐにあの草体を見つめている。草体はまがまがしいまでの花を咲かせており、花からは酸素が噴出している。いつ爆発してもおかしくないほどになっている。
と、アルセウスは大きく力をため始めた。あの草体を攻撃しようと言うのだろう。
「アルセウス、攻撃態勢!総員、可能な限り防御体制をとってください!」
セイゾウが周りにいたポケモンレンジャーや機動隊に呼びかける。アスカやチヒロも頭を手で覆って攻撃に備えた。
次の瞬間、アルセウスの口から強力な炎が放たれた。かえんほうしゃだ。草体から噴出されている酸素の影響で威力がかなり高くなっている。
かえんほうしゃは草体に命中した。――だが、草体は花びらの一部が破壊されただけで、まがまがしいまでの姿ははっきりと見て取れていた。そして、花びらの真ん中にある種子ははっきりとその姿を残している。花びらが破壊されてもこの種子を破壊しなければ大爆発は防ぐことはできない。
それを見たのか、アルセウスはおもむろにバンギラスデパートを目指して進み始めた。
「アルセウスが草体を破壊しに向かっているわ!」
アスカはデパートに向かうアルセウスを見ながら言った。
「でも、どうやって草体を攻撃するのかしら。かえんほうしゃの直撃を受けてもあれだけ残っているみたいだし・・・。」
そう言ってチヒロは息を飲んだ。
「まさか、デパートごと!?」
その通りだった。アルセウスはデパートの建物を前足2本で破壊し始めたのである。建物を壊して瓦礫をかき分けて行く格好で草体の元までたどり着いたのである。
そして、アルセウスは草体に4本の足をかけると、一気に持ち上げて行った。と同時に、町の中に張り巡らされていた草体の根っこが姿を現したのである。
「きゃっ!」
ちょうどチヒロが立っていた真下にも根っこが張っていたのだ。
「チヒロ、危ない!」
アスカがチヒロの手を引っ張ってその場を逃れる。
アルセウスは草体を引きずり倒した。だが、草体の出現とアルセウスが草体を引きずり倒した関係でバンギラスデパートは崩れ落ちてしまったのが見て取れた。
そして再びアルセウスは力をためる。と思う間もなく、口から強力なビームが放たれた。はかいこうせんだった。
次の瞬間、コトブキシティの中心街に大きな爆発と黒煙が立ち上った。爆発とともに草体は粉々に粉砕されたのだった・・・。


  [No.1212] Section-24 投稿者:あゆみ   投稿日:2014/10/11(Sat) 17:43:50   36clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

アルセウスの放ったはかいこうせんで草体は粉々に破壊された。破壊されると同時に爆発と黒煙が舞い上がり、風に乗って黒く焼け焦げた草体の破片があちこちに降ってきた。
「これって、あの草体の・・・?」
チヒロが手のひらに落ちてきた草体の破片を見ながらアスカに聞く。――アスカはその声に無言でうなずいた。
アルセウスは高々と雄たけびを上げる。シンオウ地方の伝説に語られるポケモンは、コトブキシティを襲った前代未聞の脅威を、1発のはかいこうせんで消し飛ばしたのである。
と、そのときだった。
「チヒロ、何か聞こえない?」
アスカがふと声を上げる。
「えっ?・・・何も聞こえないわ、お姉ちゃん。」
チヒロは首を横に振った。――だが、それは確かに起きていたのだった。
アルセウスの足元から、何体、何十体と言う、あの地下鉄構内に潜んでいた、ポケモンなのかそうでないのかも判別できない生物が、無数に現れたのである。アスカ達がキャプチャしただけではなかったのだ。まだ地下鉄構内には、あの生物が何体も息を潜めていたのだ。
その生物はアルセウスに近づくと、二重、三重にアルセウスにまとわりつき始めた。そして、何かしらの技を放ってアルセウスを攻撃し始めたのだ。
「何!?アルセウスが・・・!」
チヒロはその様子を見ながら思わず声を上げる。――だがアスカは、あることを考えていたのだ。
「あの生物・・・、いや、あれはキャプチャ・スタイラーが通ったからポケモンだと言ってもいいと思うわ。あのポケモンは、考えられないほどの大勢で群れを成しているわ。」
生物――いや、アスカの言葉を借りれば未知のポケモンと言って差し支えないだろう。未知のポケモンにまとわりつかれたアルセウスは、徐々にではあるが着実に体力を消耗している。そして、まるで麻痺や混乱でも受けたかのごとき行動をとっており、まっすぐに進むことができなくなっている。
アルセウスは未知のポケモンに攻撃を受け続け、右に左にと大きく進路を曲げられてしまう。その度ごとに、アルセウスがぶつかったビルの看板やネオンが、衝撃を受けて崩れていく。
「その名を何と言うか。群れを成すポケモンに向かって問いかけると、そのポケモンは答えた。『我が名はレグタス。私たちは、大勢であるが故に。』と・・・。」
アスカは、アルセウスを攻撃しているポケモンを見ながらつぶやいた。
「群れを成すポケモン、レグタス・・・?」
チヒロがそう言ってアスカの方を向いた。――アスカは、チヒロの言葉を聞いて大きくうなずいた。


  [No.1215] Section-25 投稿者:あゆみ   投稿日:2014/10/31(Fri) 17:40:16   42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

レグタス。アルセウスにまとわりつき、ダメージを与えていたポケモンの名前だった。レグタスの群れに攻撃されたアルセウスは、まっすぐ進むことができず、右に左にとふらつきながら進んでいる。
「何、あれ!?」
「ポケモンなの!?」
コトブキシティの中心街はまだ立ち入りが制限されていたが、その非常線の張られたエリアのわずかに外側には多くの野次馬が集まっていた。中にはカメラやスマートフォンを持って撮影しようとしている人もいる。
アルセウスはレグタスの群れに攻撃されながらもどうにか歩を進めていたが、まとわりついたポケモンに攻撃を加えるのは並大抵のことではない。やがて攻撃を受けてか、足を取られてその場に崩れ落ちてしまった。
「アルセウス、大丈夫なの・・・?」
チヒロが心配そうな表情でアルセウスが飛んでいった方向を見つめる。
「あたしにも分からないわ。だけど、あの方向って、確か・・・。」
そう言ってアスカはアルファ・スタイラーでその方向を指し示した。――そこには、コトブキシティとその周辺地域に電気を送る送電所が建っていたのである。
と、レグタスの群れが送電所の方向を向いて、何かを感知した。
すると、どうだろう。送電所に何かを感じ取ったのか、レグタスの群れは一斉にアルセウスから離れ、送電所を目指して群れを成して向かい始めたのである。
「送電所・・・?」
チヒロがアスカの方を向く。
「きっと、レグタスの群れは送電所の何かに引き寄せられているのだと思うわ!」
レグタスの群れがアルセウスから次第に遠ざかっていく。――それを見たのか、アルセウスは自らに絡みついたレグタスの群れを降りほどかんとばかりに勢いよく飛び上がったのである。
急に飛び上がったアルセウスに対応できなかったのか、レグタスの群れが1匹、また1匹と振り落とされていく。そのダメージが強烈だったのか、振り落とされた衝撃で戦闘不能になるレグタスの数も少なくなかった。
レグタスの群れもなおも上空で抵抗し続けていたが、アルセウスは残ったレグタスの群れが自らを攻撃しているのも構わず、勢いよく上空を目指して飛んでいったのである。
「アルセウス、かなりダメージを受けていたわね。あたし達もポケモンをキャプチャして追いかけたほうがいいかしら?」
チヒロの言葉にアスカは首を横に振った。
「今あたし達がむやみに追いかけたら、あのレグタスに逆に攻撃されてしまうかもしれないわ。レグタスの生態については、あたし達はまだ何も知らないのと同じなのよ。」
「でも、あれは?」
チヒロがアルファ・スタイラーで送電所を指し示した。――そこには、たくさんのレグタスの群れが送電線にまとわりついていたのである。
送電線にへばりついたレグタスの群れは、何の行動も示さない。戦闘不能になっているのだろうか。
「レグタスの群れが・・・?送電所の電線に?」
そこまでアスカが言ったとき、すぐ近くの地面が突然勢いよく盛り上がった。
「きゃっ!」
思わずアスカが叫び声を上げる。――盛り上がった地面からは1匹のレグタスが現れたのである。
「何をするの・・・!?」
アスカは心なしかアルファ・スタイラーを強く握り締めていた。もしも襲い掛かろうものならキャプチャしなければならない。そうしなければ更なる被害が出てしまうだろう。
だがそのとき、レグタスの全身が突然青白い光に包まれ始めたのだった。
「何!?」
「レグタス、進化するの・・・?」
思わずアスカとチヒロもお互いの顔を見合わせる。
青白い光に包まれたレグタスは、やがてやはり誰も見たことのないポケモンに姿形を変えていったのである。――暗くてよく分からないが、灰色の不気味な体色に異様ないくつもの突起。そして、暗闇の中でも青白いその瞳が、異様に光っていたのである。
「レグタスが進化した・・・?」
チヒロはささやくほどの小さな声で言った。
すると、レグタスが進化したそのポケモンは、背中の薄い羽を高速で羽ばたかせながら、アルセウスを追うかのごとくその場から飛び去っていったのである。
「1匹のレグタスは進化して、レグタス達を束ねるものになったんだわ。」
アスカはそのポケモンが飛び去っていった方向を見つめながら言った。
「レグタス達を束ねるポケモン。名前は、レギロゴス・・・。」
「レギロゴス?」
レギロゴス。そのポケモンは、この星に何をもたらそうとしているのだろうか・・・。


  [No.587] SpecialEpisode-8(1) 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/07/17(Sun) 13:15:42   82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

エクストラエピソードの執筆と並行して、スペシャルエピソードの第8作に取りかかってみたいと思います。
今回スポットを当てるのはジョウトリーグの四天王・ルリカです。ミキやユカリの親友にしてライバルでもある彼女は、既にいくつかスペシャルエピソードでも主役を務めていますが、彼女が今回足を運ぶことになったのは、シロガネ山から少し離れたところにある霊峰・セイリョウ山です。
当サイトに起きたトラブルの関係で本棚の作品にも影響が出ており、他のサイト様の方が作品の展開が早くなっていますが、収録はジョウトリーグ・エキシビジョンマッチ開始の直前を予定しています。
今回も一般的な小説形式で話を展開していきたいと思っています。


SpecialEpisode-8「セイリョウ山!伝説のトレーナー現る!!」

(1)

ここはシロガネ山の麓、シロガネタウンにあるジョウトリーグ本部。ジョウト地方で8つのバッジを集めたもの同士が繰り広げるバトルの舞台・ジョウトリーグを統括している。
ジョウトリーグは、チャンピオンのワタルを筆頭に、4人の四天王が君臨している。そのうちの1人が、この女性、カントー地方・クチバシティ出身のルリカ。全国初のくさタイプを扱う四天王としても知られている。
「さあ、もうすぐワタルさんとのチャンピオン防衛戦ね。この前みたいな展開にしないためにも、しっかり特訓しなきゃね!」
ルリカはそう言ってポケモン達に声をかける。ポケモン達もワタルとの防衛戦を間近に控えており、やる気満々と言った表情だ。
「メガニウム、はっぱカッター!」
メガニウムが勢いよくはっぱカッターを放つ。
「リーフィア、リーフブレード!」
それをリーフィアがリーフブレードで打ち落としていく。前回の防衛戦のときはワタルにほとんど歯が立たなかったが、今回はそうはいかない。それだけに今度こそは負けられないという意思が、ポケモン達にもありありと表れていた。
と、ポケギアに通信が入る。
「(あら?誰かしら・・・?)はい、ルリカです。」
ルリカにポケギアの通信を入れたのは、同じジョウトリーグ四天王のヒデアキだった。
「ヒデアキです。ルリカさん、ポケモン達の調子はどうでしょうか?」
「ええ、ポケモン達はばっちりよ。でも油断してたらワタルさんには勝てないわ。だからしっかり特訓しておかなきゃって思ってるわ。」
「そうですね。ところでルリカさん、最近こういうお話を聞いたことはないでしょうか?」
「どういうお話かしら?」
「シロガネ山の近くに、セイリョウ山って言うポケモントレーナーの修行の場として知られる山があるのはご存じですよね。」
「うん、知ってるわ。あの山は手強い野生ポケモンがたくさん生息してるけど、環境も整ってるし、ポケモンの修行の場としては最適だって聞いてるわ。」
「そのセイリョウ山に、最近有名なポケモントレーナーが現れているって言うのを耳にしたんです。何でもかつてカントーリーグを優勝したほどの実力の持ち主だそうです。」
ルリカの出身地であるカントー地方で行われているのがカントーリーグである。ジョウトリーグと同じく8つのバッジを持ったもの同士がカントーリーグを戦うというシステムだが、並の実力では到底勝ち上がることは難しい。あのポケモンマスター・サトシでさえ、初めて出場したカントーリーグは当時まだリザードンを完全に扱い切れていなかった影響か、ベスト16という成績に終わっているのである。ましてやカントーリーグはチャンピオンリーグの本部のお膝元。それだけに優勝したトレーナーはかなりの実力の持ち主と言うことが伺えるだろう。
「カントーリーグを優勝した実力、ね・・・。そのお方って、どういう感じかしら?」
「どうもこうもないです。見かけた人も少ないですし、どう言ったポケモンを使ってるかと言うのもあまり聞いてないですね。ですが、相当な実力だと言うことは言っておきます。」
「うん。それならますますお会いしてみたいわ。それに、私もセイリョウ山に一度行ってみたかったの。」
「ルリカさん、生半可なレベルでは太刀打ちできないかもしれないです。ですが挑戦してみる価値はあると思います。どうぞお気をつけて!」
そう言うとヒデアキは通信を切った。通信が切れると、ルリカはポケモン達の方を向いて言った。
「今のお話、聞いたわね。これからセイリョウ山で修行してるって言うトレーナーの方に会いに行くことにするわ。行ってみる?」
ルリカのポケモン達も大きくうなずく。
「それなら話は早いわね。行きましょう!」
こうしてルリカは、ポケモントレーナーが修行を積む霊峰・セイリョウ山に向かうことになった。
果たして、そこで待ち受ける、カントーリーグを優勝したトレーナーと言うのは、どう言った人物なのだろうか。

(2)に続く。


  [No.591] SpecialEpisode-8(2) 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/07/23(Sat) 17:56:51   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-8「セイリョウ山!伝説のトレーナー現る!!」

(2)

ルリカは、カントーリーグを優勝したトレーナーがいるという情報を聞きつけて、ジョウト地方でもシロガネ山と並んで霊峰として知られるセイリョウ山に足を踏み入れていた。
セイリョウ山は、年中深い霧が立ちこめており、洞窟の中は明かりがないと暗い。さらに山肌の道はごつごつしており、所々ロッククライムでもしないと登れそうになかった。
「(さすがはポケモントレーナーが修業のために訪れる山だけのことはあるわね。シロガネ山もそうだけど、この山も人を寄せ付けない何かがあるわ。)メガニウム、ロッククライム!」
メガニウムはロッククライムでルリカを崖の上に運んでいく。
「メガニウム、この山の道は普通の山道とは違うわ。だから気をつけて進んだ方がいいわ!」
メガニウムも大きくうなずく。
そして周りを見ると、野生のポケモンが至る所に生息しており、それはさながらポケモン保護区域と言った感じである。――ルリカの視界に入るだけでも、ゴルバットにクロバット、ビブラーバ、フライゴン、そしてリングマにドンファンと、シロガネ山と似た環境と言うことも手伝ってか、野生ポケモンもとても手強そうに見えた。
さらに山を登っていくと、外は絶えず雪が降り続く空模様となっていた。
(今の私の服だと、風邪を引いてしまうかもしれないわ。)
ルリカの服装は高い山にはきわめて不向きといえる薄着であり、このままでは風邪を引いてしまう。そのため、用意していた上着を羽織ることになった。
「(これなら心配ないわね。)メガニウム、これから山頂に行くに従って寒くなっていくから、気をつけてね!」
メガニウムもルリカの声にうなずいて答えた。

さらに洞窟を抜けていき、いくつかのごつごつした崖をロッククライムを駆使して駆け上がっていくと、洞窟の出口に出た。
(ここが洞窟の出口。これを抜ければ山頂も近いわね。)
ルリカは洞窟から外に出た。
そこは、降りしきる雪で視界がふさがれているが、セイリョウ山の山頂と言っていい場所だった。
(ここがセイリョウ山の山頂ね。ほぼ毎日雪が降っている場所だけど、はれていたらきっといい眺めだと思うわ。)
ジョウトでも有数の霊峰として知られるセイリョウ山。そこの山頂から見る景色は、いつもは降りしきる雪に閉ざされてほとんど期待できないが、晴れていればシロガネタウンの町並みはもちろんのこと、フスベシティとワカバタウンやヨシノシティを結ぶマウンテンロード、遠くカントーのお月見山やグレン島、そしてセキエイ高原まで見渡すことができるのだと言う。
(そう言えば、ここで修行しているトレーナーって、どう言う方なのかしら・・・。こんな寒いところなのに、大丈夫かしら。)
ルリカはそう思いながら周りを見渡す。と、雪の中に人影が見えたではないか。
「あなたがここで修行しているトレーナーかしら?」
人影はルリカの声に気づいたのか、ルリカの元に足を進める。積もった雪を踏みしめる音が響く。
やがて人影がはっきりと姿を現した。
その人物は、ルリカとほぼ同じ年頃か、もしくはやや年下という感じの女性だった。――背丈は1メートル65程度と、女性にしてはやや高い部類に入るが、それでも1メートル80近くあるルリカよりはかなり低かった。服装は緑のコートに深緑色の長いスカートという出で立ちだった。
「(確か、この方って・・・。)私はジョウトリーグ四天王のルリカ。あなたは?」
「シオリ・・・。」
ルリカにとって聞き覚えのある名前だった。――3年前、それはサトシが出場したすぐ後のカントーリーグに出場、圧倒的な実力で優勝を手にした女性トレーナーだった。チャンピオンリーグでも初回の相手に勝利を収め、2回戦進出を果たしたのである。一時期は「伝説のトレーナー」とも呼ばれていたが、その後は音沙汰がなくなり、トレーナー界でも一線を退いたものと見られていた。だが、まさかここで修行していようとは・・・。
「シオリさん。あなたのお噂はかねがね聞いていたわ。是非バトルしましょう!」
「・・・。」
シオリは無言のままモンスターボールを投げた。中から現れたのはジバコイルだった。
「(ジバコイル。相手にとって不足はないわ。)行くわよ、リーフィア!」
ルリカはリーフィアを繰り出した。
果たして、ルリカは伝説のトレーナーとまで言われたシオリを相手に、どう言ったバトルを繰り広げるのだろうか。

(3)に続く。


  [No.593] SpecialEpisode-8(3) 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/07/24(Sun) 10:17:56   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-8「セイリョウ山!伝説のトレーナー現る!!」

(3)

セイリョウ山の頂上で修行していたのは、かつてカントーリーグを優勝、伝説のトレーナーと言われたシオリだった。ルリカはシオリとのポケモンバトルに挑むことになった。ルリカの最初のポケモンはリーフィア、シオリの最初のポケモンはジバコイルだった。
「リーフィア、リーフブレード!」
リーフィアがリーフブレードを放つ。だが元々はがねタイプも併せ持っているジバコイルにくさタイプのリーフブレードはあまり効果がない。そしてジバコイルが光を1点に集めてリーフィアめがけて放ってきた。ラスターカノンだ。
「(ラスターカノンだわ!)リーフィア、穴を掘ってかわして!」
リーフィアがとっさに穴を掘って地中に潜り、ラスターカノンをかわす。だがジバコイルはそれを見透かしたかのごとくいくつにも分身に分かれた。かげぶんしんだ。
「(どれが本物か分からないわ。だけどやってみなきゃ!)リーフィア、今よ!」
地中から飛び出たリーフィアが攻撃をかける。ジバコイルはどうやら本物に命中したらしく、そのまま吹っ飛ばされていった。効果は抜群だ。
しかしジバコイルも体勢を立て直しつつ強力な電撃を放つ。10まんボルトだろう。
「リーフィア、かわして!」
リーフィアがジャンプで10まんボルトをかわす。
(シオリさん、何も技の指示を出してないのに強力な技を出してるわ。それだけポケモンと心を1つにできると言うことなのかしら。さすがはカントーリーグを制しただけの実力はあるわね。)
ルリカはシオリが技の指示を出さないのにポケモン達が強力な技を出すのを見て思っていた。こう言うポケモンバトルでは多くの場合、ポケモンが技を出すときはトレーナーの指示がものを言う。だがシオリはポケモンに指示を出さずしてポケモンが的確な技を出しているのである。ここまで卓越したポケモンさばきができるトレーナーはそうはいない。
「(シオリさんはポケモンと心を1つにすることで、より的確な技の指示ができるのね。)だったら私たちだって負けないわ!リーフィア、リーフブレード!」
リーフィアがリーフブレードを放った。さすがに2発目のリーフブレードは耐えることができず、ジバコイルは戦闘不能となっていた。
シオリはジバコイルをモンスターボールに戻す。そして無言のまま、次のポケモンを繰り出した。バタフリーだ。
「(シオリさん、次はバタフリーね。それなら私だって!)戻って、リーフィア!」
ルリカはリーフィアをモンスターボールに戻す。
「次はあなたの番よ!行くわよ、トロピウス!」
ルリカはトロピウスを繰り出した。
バタフリーはトロピウスの姿を見るや、いきなり色鮮やかな粉をばらまいた。ねむりごなだ。
「(まずいわ!バタフリーの特性はふくがん。ねむりごなを受けたらほぼ確実に眠ってしまうわ!)トロピウス、かぜおこしでねむりごなを跳ね返して!」
トロピウスがかぜおこしを放つ。かぜおこしはねむりごなを一気に吹き飛ばしていった。だがバタフリーはそれを見るや、空気の刃を集めて一気に放っていった。エアカッターだ。
「(エアカッターだわ!)トロピウス、かわして!」
トロピウスが飛び上がってエアカッターをかわそうとする。だがエアカッターは一気に向きを変えてトロピウスに襲いかかったのだった。
「トロピウス!」
さらにバタフリーが勢いよく鳴き声を上げる。むしのさざめきだろう。
「(むしのさざめきね。向こうがそれなら私たちだって!)トロピウス、のしかかり!」
トロピウスがバタフリーにのしかかり攻撃をかけた。バタフリーはトロピウスの攻撃をかわすことはできず、大きなダメージを受けてしまった。だがまだまだ戦えると言ったところだろう。そしてバタフリーは至近距離から再びエアカッターを放ったのである。
「トロピウス!」
至近距離からエアカッターを受けて勢いよく吹っ飛ばされたトロピウスはそのままフィールドに叩きつけられ、戦闘不能となった。
「トロピウス、よく戦ったわね。ゆっくり休んでね。」
ルリカはトロピウスをモンスターボールに戻した。それを見てシオリも無言のままバタフリーをモンスターボールに戻す。
(シオリさん、次はどのポケモンを出すのかしら・・・。)
ルリカがこれまでバトルしたバタフリーとジバコイルは、いずれもカントーリーグで活躍したポケモンとして知られている。カントーリーグのときはまだレアコイルだったが、修行を重ねてジバコイルに進化したのだろう。
そしてシオリは次のモンスターボールを投げた。ボールから出てきたのはガルーラだった。
(ガルーラだわ!)
ガルーラ。それはシオリの一番のパートナーとして語られており、カントーリーグの決勝戦は今に至るまで語り継がれる名勝負となっている。シオリは残り1匹まで追い詰められていたのだが、そのとき最後のポケモンとして繰り出したのがこのガルーラであり、相手のトレーナーのポケモンを一気に3匹倒して優勝を手にしたのである。それだけ強力なポケモンと言うことが伺えた。
「(シオリさんの一番のパートナーね。それなら私も!)行くわよ、メガニウム!」
ルリカはメガニウムを繰り出した。
互いに一番のパートナーを繰り出して挑むことになったこのバトル、果たして勝利を収めるのは、ルリカか、それともシオリか。

(4)に続く。


  [No.594] SpecialEpisode-8(4) 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/07/24(Sun) 11:15:21   91clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

SpecialEpisode-8「セイリョウ山!伝説のトレーナー現る!!」

(4)

セイリョウ山で修行していた伝説のトレーナー・シオリ。ルリカは彼女を相手にポケモンバトルを挑んでいた。ルールは暫定的ながら――シオリが無言のままバトルを進めるため必ずしもこう言うルールではないとも考えられるが――1匹ポケモンが倒されるごとに交代というもので、3回のうち2回勝った方が勝利というものになると見られていた。
ルリカは最初にリーフィアを、シオリはジバコイルを出したが、リーフィアの着実なバトルが功を奏してジバコイルを下していた。だが続く2匹目、シオリの出したバタフリーにルリカのトロピウスは対処しきれず、トロピウスが倒されていた。そして恐らく最後の1匹と言うことになるのだろう、シオリは長年のパートナーであるガルーラを繰り出していた。対するルリカも一番のパートナーであるメガニウムを繰り出して勝負に挑むことになった。
「メガニウム、はっぱカッター!」
メガニウムが先制攻撃とばかりにはっぱカッターを放つ。はっぱカッターは勢いよくガルーラに命中したが、さすがはシオリのガルーラ、まだまだこの程度でへこたれるわけがない。
そしてガルーラも反撃とばかりに強烈なふぶきを放ってきた。くさタイプのメガニウムにとってこおりタイプのふぶきは効果抜群。しかも雪が降っていることから、ふぶきの命中率は格段に上がっていた(※)。
「メガニウム、エナジーボール!」
メガニウムもエナジーボールを放って迎え撃つ。エナジーボールとふぶきが激しくぶつかり合い、大爆発が生じた。
爆発が収まらないうちからガルーラはさらに強力な力をこぶしにためる。恐らくきあいパンチだろう。
「(あれはきあいパンチね。集中力を高めて一気に技を繰り出すつもりね。)メガニウム、つるのムチよ!」
メガニウムもつるのムチを放って応戦する。つるのムチは勢いよくガルーラの足に巻き付いたが、ガルーラはムチを引っ張ってじりじりとメガニウムをたぐり寄せていく。
「(メガニウムが引っ張られていくわ!)メガニウム、エナジーボールでガルーラを振りほどいて!」
メガニウムがエナジーボールを放つ。だが集中力が極限まで高まったガルーラはそのまま一気にきあいパンチを放った。きあいパンチはエナジーボールを打ち砕いたばかりか、そのままメガニウムに命中してしまったのである。
「メガニウム、しっかりして!」
メガニウムはそのまま高く吹っ飛ばされたが、まだ戦えそうだ。
「うん!メガニウム、もう一度エナジーボールよ!」
メガニウムが再びエナジーボールを放った。エナジーボールはガルーラにクリーンヒットしたが、ガルーラもまだやれると言った表情を浮かべている。
「メガニウム、続いてげんしのちから!」
メガニウムがげんしのちからを放つ。だがガルーラは身を翻すと、いきなりずつきでげんしのちからを打ち砕いたではないか。そしてそのままガルーラがメガニウムに突っ込んできた。
「メガニウム、もう一度つるのムチ!」
メガニウムもつるのムチをガルーラの頭に巻き付ける。メガニウムに突っ込もうとするガルーラとそれを受け止めるメガニウムとの間で力比べが続いていたが、ガルーラはつるのムチを勢いよく振りほどき、そのままピンクと黄色の光をまとって突撃していったのである。ギガインパクトだ。
「(ギガインパクトだわ。さすがはシオリさんのガルーラね。あれをまともに受けたら大ダメージは免れないわ。だったら私たちだって!)行くわよ!メガニウム、ハードプラント!」
メガニウムもハードプラントを放って迎え撃った。ハードプラントとギガインパクトはそのまま勢いよくぶつかり合い、降り積もる雪をも吹き飛ばす衝撃となって跳ね返っていった。
衝撃と爆発が収まると、メガニウムとガルーラは辛うじて立ち上がっていたが、もはや立っているのもやっとと言う状況となっていた。・・・そして1匹のポケモンがゆっくりと崩れ落ち、戦闘不能となった。ガルーラだった。
「・・・。」
シオリは無言のままガルーラをモンスターボールに戻した。
「シオリさん、あなたは本当に素晴らしい実力の持ち主ね。でも、どうしてこの山で修行してるの?」
ルリカはシオリに尋ねる。だがシオリは無言のまま、何も語ろうとしない。
「シオリさん・・・?」
すると、シオリは別のモンスターボールを投げた。ボールからはピジョットが出てきた。
「待って、シオリさん!」
シオリはルリカに向かってにこやかな笑顔を浮かべた。そしてピジョットにまたがると、雪がちらつく中を空高く飛び上がっていき、そのまま消えていった。
(シオリさん。その実力、確かに私が認めたわ。またいつか、バトルしましょうね・・・。)
ルリカはシオリとピジョットが飛び去っていった方向を見つめながら思っていた。

「そうか。セイリョウ山で修行してたのはシオリさんだったんだね。」
ポケギアを通じてヒデアキが答える。
「シオリさん、以前カントーリーグを制したときと同じ、立派なトレーナーだったわ。」
「そうか。今度のことはルリカさんにとっても、有意義な経験だったと思うよ。もうすぐワタルさんとのチャンピオン防衛戦だし、その意味では自分の実力を改めて知るのにいい機会だったかもしれないね。」
「はい。」
「ルリカさんは、ポケモンを回復させたらいよいよグリーンフィールドに向かうんだったね。」
「そうなるわ。ワタルさんは手強いし、前回はほとんど歯が立たなかったけど、今度は負けないわ!」
「ルリカさんならきっとワタルさんに勝てると思うよ。くさタイプの四天王としての実力、ワタルさんを相手に存分に披露して欲しい!」
「はい!」
そう言うとヒデアキは通信を切った。――通信を切ると、ルリカはポケモン達に語りかけた。
「みんな、もうすぐワタルさんとのチャンピオン防衛戦ね。ワタルさんはドラゴンタイプの使い手、その実力は以前バトルしたときに経験して知ってると思うけど、生半可なレベルではかなう相手ではないわ。最後までしっかり特訓しましょう!」
ルリカのポケモン達も大きく声を上げた。リーフィア、トロピウス、ロズレイド、モジャンボに加えて、ワタルが使うドラゴンタイプのポケモンに有効なこおりタイプを兼ね備えたユキノオー、そして一番のパートナーでもあるメガニウム。ルリカはこの6匹を使ってワタルに挑むことになるのだった。

セイリョウ山で出会った伝説のトレーナー・シオリ。彼女の実力は今もなお衰えていないと言うことを、ルリカは改めて実感することができた。
そして次にルリカが向かうのは、ジョウトリーグ・エキシビジョンマッチが行われるグリーンフィールド。そこで行われるチャンピオン防衛戦に挑むためである。そしてルリカの前に立ちはだかるのは、エキシビジョンマッチを勝ち抜いたトレーナー、そしてジョウト地方のチャンピオンにしてドラゴンポケモンの使い手、ポケモンGメンのワタル。
果たして、ルリカはどう言ったバトルを繰り広げるのだろうか。

(※)「雪が降っているときのふぶきの命中率について」
現在のところ、天候を変える技はにほんばれ・あまごい・すなあらし・あられ・ダークウェザー(XDにおけるダークポケモンが使用していた技)の5つであり、天候を雪にする技は現段階では存在しませんが、ポケダンシリーズでは(少なくとも探検隊においては)天候が雪になることがあることから、ここでは雪の天候も存在することにします。また、ふぶきの命中率についてはあられ状態の効果がそのまま雪でも反映されるものとします。

SpecialEpisode-8、完。


  [No.1062] SpecialEpisode-9(1) 投稿者:あゆみ   投稿日:2012/11/07(Wed) 12:53:02   46clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ずいぶん間が空いてしまいましたが、スペシャルエピソードの第9作に入りたいと思います。
第9作の主人公は、ナナシマ編でマサトやコトミと一緒に旅をしたトモヤです。ナナシマ・バトルチャンピオンシップス閉幕後、ナナシマリーグの四天王・ヘッドリーダー候補に選ばれることになり、マサト達と別れることになりました。今回はトモヤのその後、ナナシマリーグ・四天王選考会にスポットを当てていきたいと思います。
今回も一般的な小説形式で話を進めていきたいと思います。
本棚収録は(可能であれば)コガネシティ編の後を想定しています。本作の後に今執筆しているエクストラエピソードを収録と言う構想としています。


SpecialEpisode-9『ナナシマリーグ!ヘッドリーダーは誰の手に!!』

(1)

ナナシマ・バトルチャンピオンシップスが終わり、トモヤはジムリーダー候補に選出されたことを報告するため、母親が待つ2のしまに向かっていた。
(お母さんに会いに行くのも久し振りだな。)
トモヤの頬を心地いい潮風が撫でる。その表情は、ナナシマの冒険を終えたと言う達成感、そしてこれから訪れるナナシマリーグの四天王選考会に対する面持ちで、複雑な表情を浮かべていた。
「ニドキング、どうだ?海風は気持ちいいか?」
ニドキングは大きくうなずく。
「そうか。・・・ニドキング、久々の長い旅だったな。お母さんに会いに行ったら、また今度は四天王選考会がある。それまではゆっくり羽を伸ばせるな。」
しかしニドキングは首を縦には振らない。
「はっはっ。そうか、やっぱりニドキングは修行がしたいんだな。もっと強くなって、いずれはマサト君にも勝てなきゃいけないもんな。分かった。帰ったらまた特訓だ!」
ニドキングはトモヤの声を聞いて、大きく鳴き声を上げた。

航海は順調に進み、数日後、船は2のしまの港に到着した。
「(久し振りの2のしまだ。)行くか、ニドキング!」
ニドキングはトモヤの声に勢いよく応える。そしてトモヤも自然と歩を早めていき、ニドキングもまたトモヤの歩に合わせて自然と駆け出していくのだった。
そして2のしまの町を抜けていくと、きわのみさきの民家が見えてきた。トモヤの実家だ。
「ただいま!」
「トモヤ、お帰り!ずいぶんとたくましくなったわね。バトルチャンピオンシップス、テレビで見ていたよ。」
「ありがとう。だけど今度は四天王選考会があるからね。そうもゆっくりしていられないんだ。」
「聞いたよ。トモヤ、ジムリーダー候補に選ばれたんだってね。さすがは私の子供だね。トモヤだったらきっとヘッドリーダーにだってなれると思うよ。」
「母さん・・・。」
「トモヤ、またこれから忙しくなるんでしょ?ところでジムリーダー選考会って、いつ行われるの?」
「4か月半後、場所はバトルチャンピオンシップスのときと同じ7のしまだよ。」
「じゃあ、それまでゆっくりできるんじゃない?」
「いや、それまで特訓しないと上を目指すことはできないと思うよ。だから、特訓して一回りも二回りも強くならないと、ヘッドリーダーになることはできないと思うんだ。」
「そうなんだね。トモヤ、ヘッドリーダーになるんだったら相当な努力が必要だね。だけど、トモヤだったらできると信じてる。やってごらんなさい!」
「はい!」

「ニドキング、どくづき!」
「ドクケイル、ヘドロばくだん!」
「ドクロッグ、ふいうち!」
「クロバット、エアスラッシュ!」

「トモヤ!マサト君達から電話が入ってるよ!」
「マサト君から!?・・・おお、マサト君、コトミちゃん。久し振りだね。」

こうして4か月近くにわたる特訓の日々はあっという間に終わりを迎え、トモヤの次なる挑戦、ジムリーダー選考会に向けて出発する日を迎えた。
「トモヤ、いよいよ出発だね。今日までの特訓の成果、他のジムリーダーの候補の方にもしっかりと見せてきなさい!」
「はい。」
「だけど、ジムリーダーと言うのは単に勝つだけがジムリーダーではないの。どうすれば納得のいく勝ち方ができるかと言うのもジムリーダーだと思うのよ。」
「そうだね。母さんの言う通りだよ。」
「じゃあトモヤ、しっかりと自分の実力を発揮してご覧なさい!ベストウイッシュ!いい旅を!」
ベストウイッシュ。遠く離れたイッシュ地方でよく使われている、旅立つ人に対する幸運を願う言葉だ。
「ありがとう。では、行ってきます!」

こうして、トモヤはジムリーダー選考会が行われる7のしまに向けて旅立っていった。
トモヤと同じくジムリーダー選考会に名を連ねたのは、ユミコ、マサヤ、ノブテル、ミリコの4人。これにトモヤを加えた5人が、ナナシマリーグのジムリーダー、そしてその上に位置するヘッドリーダーの座をかけて争うことになる。
果たして、トモヤはどこまで勝ち進むことができるのだろうか。今、トモヤの新たな挑戦が幕を開ける。

(2)に続く。


  [No.1246] SpecialEpisode-9(2) 投稿者:あゆみ   投稿日:2015/04/11(Sat) 16:58:20   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

エクストラエピソードやすっかりほかのサイト様メインになってしまった本編やらあれやこれやでだいぶほったらかしになってしまいましたが、約2年半ぶりとなってしまったスペシャルエピソード第9作の続きです。もう本棚のこともすっかり過去のお話になってしまいましたが・・・。
こほん。前置きはこの程度にしまして、では早速。なお当時はXYはまだ出ていなかったため、作中のポケモンのタイプの相性はブラック2・ホワイト2までのものに準じているほか、登場するポケモンは本編の執筆時期を踏まえて、イッシュ地方までで発見されたポケモンとしています。


SpecialEpisode-9『ナナシマリーグ!ヘッドリーダーは誰の手に!!』

(2)

ナナシマリーグ設置に伴って行われることになったジムリーダー選考会。トモヤのほか、ナナシマ・バトルチャンピオンシップスで優秀な成績を収めたトレーナーが選出されていた。
「ではこれより、ナナシマリーグ・ジムリーダー選考会を始めます。ジムリーダー選考会は、参加者5人の総当たり戦で行われ、最も多くの勝利を収めたトレーナーが優勝、ヘッドリーダーに就任することになります。2位以下の選手につきましては、勝ち数の多い順にどこのジムリーダーになるかを選択することができます。」
ポケモンリーグのケロ会長が壇上に立って選考会の流れを説明する。トモヤ、ユミコ、マサヤ、ノブテル、ミリコの5人はそれを一言も漏らさんとばかりに聞いていた。
「なお、バトルにつきましては6VS6のシングルバトル・フルバトルで行います。どちらかのポケモンがすべて戦闘不能となった時点で試合終了となります。なお、試合中、ポケモンの交代は自由です。それでは参加される選手の皆さん、正々堂々としたバトルをお願いいたします!」
「はい!」
「ではこれより対戦の組み合わせを発表します!」
オーロラヴィジョンにジムリーダー選考会のスケジュールが映し出される。――まず初日となる今日は、これからトモヤとユミコ、マサヤとノブテルのバトルがそれぞれ開催される。参加者が5人なのに対してバトルは4人となるため、今日はミリコは試合が組まれていない。
続いて2日目はトモヤがマサヤと、ユミコがミリコとバトルを行うことになっており、ノブテルは休み。3日目はノブテルとミリコ、ユミコとマサヤのバトルが組まれており、トモヤは休みとなっていた。4日目はトモヤとノブテル、マサヤとミリコのバトルが行われてユミコは休み。そして5日目はトモヤとミリコ、ユミコとノブテルのバトルが行われ、マサヤが休みということになっていた。
「それでは、対戦される方はご準備をお願いします。」
トモヤは言われるままにバトルフィールドに向かおうとする。そこに声をかけてきた人物がいた。
「あなたがトモヤさんですね。正々堂々、どうぞよろしくお願いします。」
トモヤの初日の対戦相手となったユミコだった。バトルチャンピオンシップスではバトル大会に参加、予選トーナメント3回戦でミキに敗れており、決勝トーナメントに進むことはできなかったが、バトルチャンピオンシップスのときにジムリーダー選考会はバトル大会に出場したすべての選手から抽選で参加者が選ばれるとアナウンスされており、予選トーナメントで敗退した選手からもジムリーダー選考会に選出されていたのである。ユミコはそのケースと言うべきだろう。
「ユミコさんとおっしゃっていましたね。バトルチャンピオンシップスでのミキさんとのバトル、とても素晴らしいものがありました。お互いに正々堂々、全力でバトルしましょう!手加減はしませんよ!」
そう言ってトモヤは深々と一礼した。

「ではこれより、ナナシマリーグ・ジムリーダー選考会初日・第1試合、ジョウト地方・ラフォールタウンのトモヤ選手と、シンオウ地方・トバリシティのユミコ選手のバトルを始めます。使用ポケモンは6体、ポケモンの交代は自由。どちらかのポケモンがすべて戦闘不能となった時点で、試合終了となります。」
審判の声がバトルフィールドに響き渡る。
「ではトモヤさん、よろしくお願いします!」
「こちらこそ!」
「それでは、バトル開始!」
トモヤのジムリーダー選考会、最初の試合が幕を開けた。相手はバトルチャンピオンシップスでミキを相手に互角以上の勝負を繰り広げたユミコ。それだけにレベルの高い相手になるのは間違いない。
果たして、トモヤはどう言ったバトルを繰り広げるのだろうか。

(3)に続く。