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  [No.520] 風物詩シリーズ 投稿者:   投稿日:2011/06/10(Fri) 01:22:58   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

初投稿です、鶏です。

なんとなくだらだらと書いてみました……。
たぶん更新するとしたら、これからもそんな感じで更新します。
なのでクオリティは期待しないでください!

時季を先取りしたノベルになってたらいいなって思います。


【書いていいのよ】【描いていいのよ】【批評していいのよ】

一応つけておきます!


  [No.521] 夏の風物詩 三色バニラ 投稿者:   投稿日:2011/06/10(Fri) 01:26:58   85clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 暑い。テッカニンがぶんぶんいってる。隣んちのガーディも鳴いてる。ポッポなんてもう鳴いてすらねえよ。
 縁側に寝そべって涼しいかって、いやまあ、もちろんそんなことはない。
 庭には池がある。アメタマが沈んでる。
 木もある。ミノムッチが暑さで地面まで垂れてる。
 ポケモンが暑がってるんだから人間のおれなんか溶けちまう。人間のおれが溶けるんだから、氷タイプのポケモンは間違いなく溶ける。
 
 そこで俺はがばっと起き上がった。汗が飛んだ。
「……溶ける」
 思わず口から漏れた呟きは溶けかけていた。
 暑さにもかかわらず、俺は縁側から庭に飛び出した。つっかけなんて履かないで、身体が覚えていた走り幅跳びを自然とやってしまう。池の横に着地。飛び込みたい衝動を抑えて蔵まで走る。
 つっかけがなきゃ涼しいかって、いやまあ、そんなことないんだってば。
 地面は熱い。この辺は昔、海だったから砂が海のものだ。柔らかいし細かいし、でもすぐに熱くなっちまう。俺はこの炎天下で足を思いっきり上下させて走る。
 蔵の裏まで来ると、マメパトが倒れていた。きっと屋根裏に巣くっていたやつが暑さで落ちたのだろう。そいつをまたいで扉の前にまわってみると、今度はスピアーがいっぱい落ちている。よっぽど熱いらしい。軒下に見える巣にしがみついているスピアーまでいる。あ、落ちた。
 重い扉を押して、蔵の中に入る。
 さすがにちょっとは涼しかった。今日一日ここで過ごしたいくらいだ。でも俺にはやることがある。
 トラクターが並ぶのを避けて、精米器の横を通って、野菜が入ったダンボールの林を抜ける。そこには冷凍庫があった。
 業務用の大きな冷凍庫だ。蓋を持ち上げて開けるタイプの。さあ、開けよう。夏はこれで攻略できる!
 俺は両手を使って冷凍庫を思いっきり開け放った。
「ばにりっちいいいいいいい!!」
 中にいたバニリッチに汗が垂れた。びっくりしている。汗がついてちょっと嫌な顔もした。
「さあ来い!」
 意外とでかいこいつを両手で抱え込んで蔵を飛び出す。
 少しだけ周囲が涼しくなった。地面に倒れていたスピアーがむくりと起き上がる。前方でも後方でもスピアーが復活し、なんと俺は囲まれた。
 やつらはバニリッチを見て目を輝かせている。
「こ、こいつは渡さねぇぞ……!」
 スピアーが一斉に飛んだ。
「バニリッチ、こごえるかぜ!」
 俺は走りながら指示を出して、前方にいるスピアーたちを一掃する。ついでにすずしいいいいい!
 蔵の裏側に回ると倒れているマメパトはいつの間にか増えていた。バニリッチを見たマメパトが次々と起き始めて、たった今横を通った俺を追いかけてくる。バニリッチは渡さない!
 池だ。池からはアメタマが恐ろしい形相で浮かび上がってこようとするのを、れいとうビームでなんとか阻止した。これでやつも夏を乗り切れるだろう。
 さあ縁側に突入、しかし、そう簡単にはいかないようだ。
 隣の家のガーディが塀を跳び越えて、俺の前に立ちはだかった。舌をべろんと出して、目をどろんとさせて、ほとんど地面を抱くような形で、俺が腕に抱えたものを凝視している。こいつ、らりってやがる。
 作戦変更。裏口から台所に入ってやる。
 後ろからはマメパトとガーディが追いかけてきている。いつの間にか横にはテッカニンが併走していた。いきなり高速移動を開始するし、今度こそ俺はだめかもしれないと思ったが、バニリッチを手にした俺には死角なんてものが存在しない。
「ふぶきだ!」
 テッカニンアイスが庭に転がった。
 家の角を曲がってもうすぐ裏口だ。暑さのせいで追いかけてくるポケモンたちはそんなに速くない。これならいける!
 そう思って振り返ってみると遙か後方からもの凄い勢いで走ってくるやつがいる。
 砂埃を上げて異常な速さで足を動かしている。
 やつはミスターちどりあし! あまりの暑さに朝七時の鳴き声をサボったやつだ! よだれを垂らしたポッポ! やつは速い!
 俺は口を開けたままほんの一秒ほど固まった。
 やつは白目を剥いているんだ。よだれをだらだら垂らして、あほみたいに羽をばたつかせて、それなのにめっちゃちょこちょこ足が動いているんだ。その姿を見たら誰だって一秒は止まる。
「バニリッチ、れいとうビーム!」
 ……。
 バニリッチがポッポを見て怯んでいる!
「おいばか、吐け!」
 思いっきり頭を叩いた。手がぶにゅっとめりこんだ。ひんやり気持ちいい。
 仕方なく走り出す。大丈夫だ、裏口まではもう少し。既に開いていた戸口にダイブ。そして閉める。
「ふー、巻いたか……」
 床に腰を下ろして、靴を思いっきり脱ぎ捨てる。
 台所を這って進み、居間に出た。

 なんか、みんないた。

 追っかけてたポケモンたちがみんな居間で待っていやがった。さすがにテッカニンとアメタマはいない。スピアーも代表が一匹いるだけだ。こいつらそんなにバニリッチをごにょごにょごにょたいのか。仕方のないやつらだ。
「んじゃあ、まずは何味にするか決めようぜ」
 俺は台所から三色のシロップを取り出した。バニリッチが哀しそうに首を横に振っている。周りのポケモンたちは目を輝かせていた。
「はい、じゃあ、多数決を取る。イチゴがいいやつ」
 ガーディが跳ね回った。バニリッチの首の動きが早まった。
「一票ね。じゃあ次、レモン」
 これには俺も手を上げて、スピアーとマメパトが続いた。バニリッチは目を思いっきり見開いて、抗議をするばかりだ。
「じゃ、最後。ブルーハワイ」
 ミノムッチが畳を転がり、ちどりあしのぽっぽが忙しなく畳をむしる。
 これなら三票入ったレモンに決定――そう思ってバニリッチの方を見ると、やつはとろけるような笑顔で頷いていた。
「てめっ、ミーハーか!」
 その意味の分からないネーミングと、化学が生み出した不思議な味に惚れ込む者は少なくない。そんなブルーハワイを頼むのは小学生か中学生と相場は決まっているのだ。高校生以上は黙ってレモン。イチゴなんてもってのほかであるはずだった。イチゴは論外としてもバニリッチがブルーハワイ!
 バニラにブルーハワイをかけるなんて、ヒトカゲをサーフィンに連れて行くようなものだ。
 あ、俺は呟く。
「三色全部かければいいんじゃね?」
 これは妙案だった。バニリッチの首の動きが止まって、それなら悪くないかな、というまなざしを向けている。
 シロップの瓶を三つ持って、バニリッチと向かい合う。
 いただきます。俺が頭を下げると、周りのポケモンたちも頭を下げた。バニリッチがにこにこと、ここにきていやらしい笑みを浮かべている。
「バニリッチ、俺はお前のことが好きだった」
 イチゴシロップをかける。
「そのソフトクリームなフォルム。夏に喧嘩を売る体温」
 レモンシロップをかける。
「んで、美味しそうな見た目」
 ブルーハワイをかけた。
 青い液体が頭から垂れて、目のあたりを通り過ぎる。水色になって残った線が、涙の跡に見えた。
「あぁ、バニリッチ!」
 ガーディがバニリッチの顔に食らいつく。
「俺はお前をわすれな――って、ガーディてめえ先に食うなばかやろう!」
 堰を切ったようにポケモンたちがバニリッチに群がる。バニリッチが飛び散って、俺の顔にかけらがついた。手で取ってなめてみるとブルーハワイの味がした。
 舌打ちをする。ポケモンたちに埋もれて見えなくなったバニリッチを眺めて、ため息をつく。
 はぁ。
 俺の好きなソフトクリームは、レモンバニリッチなんだよ。



 ○ ○ ○

こんな感じで一話完結っぽくだらだらいきますばにら


  [No.615] チャレンジ・ザ・トリプル 投稿者:   投稿日:2011/07/31(Sun) 01:20:42   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 暑いったらありゃしねえ。
 むんむんとした熱気が襲ってくる縁側で、おれは中庭に広がる惨状を眺めていた。
 池でアメタマがひっくり返って浮いている。池の周りでは、マメパトが暑さで羽を広げて寝ていたり、スピアーがぐったりしていたりする。ここからは見えないが、たぶんテッカニンは池の底に沈んでいるだろう。大丈夫、あいつは死なない。死んでもヌケニンになるからいいや。いや、あれはツチニンからだったか……。
 と、そんなことはどうでもよくて、今の問題はなぜか隣んちのガーディがうちに上がり込んでいて、おれの隣にいることと、夏を乗り切るための最強の武器であるバニリッチを切らしてしまったことだ。
 暑い。
 そう、バニリッチがいないと暑い。
 動く気も起きない。どうせ全国の皆さんは冷房でぎんぎらぎんと冷やした部屋に引きこもり、バニリッチを貪りながらテレビでも見て、夏のくせに暑さとか苦しさとか理不尽さとか、その他諸々を味わわずして秋を迎えようとしているのだろう。
 そして、うちには冷房がない。これも理不尽な世情の一つと言っていい。
 しかもこのご時世であるから、やれ節電だ、やれエコだ、などとのたまった挙句にそういうのを気にする人に限って冷房施設完備の室内に引きこもっている。
 おれはと言えば、見ての通り、暑さで溶けかけている。
 ここまで苦しんでいるおれが電力を消費しないで、節電節電言ってるやつが平気な顔して消費しているのだから、その悔しさを紛らわすにはおれも電力を消費する以外方法がないではないか。
 
 その決意から点けたテレビは、夏だというのに熱血な芸能人が出ていたりして、完全に冷やしたお茶の間仕様だった。クーラーで冷えた身体に熱血だ。そりゃあ、ちょうどいいことだろう。
 チャンネルをぴこぴこ動かして、やっとこさ涼しげなものを発見。番組かと思ったが、それはCMだ。
 夏になるといつもやってるやつだな。溢れ出る涼しさにおれは目が釘付けになる。
 アイスのCMだ。確か1301と書いてサーティーンアンドワン。メニューの数が店の名前だとかいう話を聞いたことがあるけれど、いくらなんでもそれは多すぎじゃねえか、と思う。
 今はキャンペーンをやっているのだとか。可愛げなバネブーが頭にカラフルで真ん丸なアイスを三つも乗っけて、『チャレンジ・ザ・トリプル』なんて宣伝をしている。
 なんて美味しそうなんだ! そしてバネブーが可愛すぎて、夏の暑さなんて吹っ飛ぶかと思ったけどそんなことはない! 暑い!
「おい、ガーディ。お前の名前を教えてもらおうか」
 おれはテレビを消して立ち上がる。ガーディが一吠えしてだるそうにおれの足下を歩き始めた。
「そうか、ストロベリーか」
 噛まれた。
「いってえ! いいじゃねえか、ストロベリーおいしそうだろ」
 庭にいたポケモンたちが、ストロベリーと聞いてぴくりと反応したのは気にしないことにしよう。今からおれは言わねばならないことがある。
 おれは、今夏最大の決意を胸に抱いて、高らかと宣言してやったのだ。
「ストロベリー、これからチャレンジ・ザ・トリプルにチャレンジしてやろうと思う! 依存はないな?」
 中庭のやつらが一斉に起き上がった。



 そんなわけで外に出たおれは、暑い。ひたすら暑い。暑かった。
 照りつける日光はディスプレイに点るライトの如く。日光を浴びるおれたちは店先に出されたかき氷の気分だった。
 なぜか後ろをついてくるのはガーディだけじゃない。テッカニン、アメタマ、スピアー、マメパト、ミノムッチ、ポッポ。お前ら、バニリッチ食べたやつらだろ。
 こいつらの好みのかき氷を記憶していたおれは、瞬時に名前を考えた。スピアーはレモンだ。マメパトがレモンだと被るので、ユズにしてやろう。ユズ味のかき氷なんて美味しそうだ。ブルーハワイはポッポにしておこう。ハードボイルドな千鳥足、彼の名は、ブルーハワイ。完璧だ。ミノムッチには代わりにアイスの称号をくれてやる。そういえばガーディが好きなのはイチゴだ。
「ガーディ、やっぱお前イチゴだわ。ストロベリーなしな」
 そしたら喜びやがった。
 テッカニンとアメタマの好みは知らないからまた今度でいいか。
 今決めたことを堂々と宣告してやったら、一同は盛り上がりを見せた。テッカニンとアメタマは残念そうにしていたが、こんな適当な名前でも羨ましいと思うのかお前らは。
 などと暑さを忘れたいけれど忘れられずに歩を進め、ようやく1301についた。幸運なことに並んでいる人はいない。ここは人気があるからこの時期なら数人並んでいてもおかしくないのだが、開店直後だったからか、並んでいる人はいなかった。
 店先に貼ってあるポスターでは、頭にアイスを三つ乗せたバネブーが可愛く写っている。なんて素晴らしいマスコットキャラクターだろう。おいしそうだ。
 店に入って、注文をしようとしたのだが、アイスを選ぶときにはさすがに苦労した。なにせ1301もメニューがあるらしい。適当におすすめを選んでもらって、チャレンジ・ザ・トリプルのアイスを三つ買う。
 一つはおれのだ。残りの二つは適当にポケモンたちで分けろ。
「さぁ、食っていいぞ!」
 ポケモンたちはアイスにかじりついた。おれもいただくとしよう。店内は冷房が利いていて最高の環境だ。
 まずは、顔を近づけるだけで漂ってくる冷気を堪能する。ふんわりと漂ってくる甘い香りが続く。これぞアイスクリームの醍醐味だ。かき氷とはまた違った良さがある。
 食前の楽しみをたっぷりと堪能してから、ようやくおれは食すことにする。
 思わず口の中に唾液が満ちた。さぁ、いただきま――。
「って、おいイチゴ! お前の分はこっちじゃな、ああああああ、ばか、食うなこのやろう! うわあああああ」
 コーンから上を丸々掻っ攫われた。
 こいつらを連れてくるなんて間違いだったのだ!
 ポスターのバネブーが微笑んでいる。おいしそうだ! くそう、おいしそうだ!
 どうやら店員さんがこの悲しき大事件を見ていたらしい。黒髪の長髪で清楚な雰囲気しか感じない女の店員さんだ。名札にはイノウエと書いてある。小顔で目がぱっちりしていて、手にチャレンジ・ザ・トリプルを持って、笑顔で近づいてくる彼女は女神のようだった。
「いりますか?」
 夏の暑さも忘れてしまいそうな、おれの心臓を確実に一秒は止められるような、それくらい最高の笑顔だった。これが営業スマイルでないと、おれは信じている。
「ありがとうございます、いただきます」
 その施しをいただいて、食べたはいいのだが、頭はぽーっとしていて味がよく分からなかった。

 でも、うむ、最高だ。チャレンジ・ザ・トリプル。もとい、三段バネブー。



 ○ ○ ○

 私は1301の回し者ではありませんばにら。


  [No.788] 秋の風物詩 半額ドーナツ 投稿者:   投稿日:2011/10/23(Sun) 22:12:34   67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ふむ、なかなか涼しくなってきた。
 秋というものは不思議なもので、町にはお得な話が流れ始める季節だ。
 そう例えば、食欲の秋。そこかしこで食い物が安くなって、美味い物を求めるおれなどは嬉しさのあまり、歓喜歓喜、庭のポケモンたちと一緒に仮装パーティーを開いてもいいくらいにココロオドル。主に食い物のためにだ。
 それからそうだ、食欲の秋。それと、食欲の秋。それから……、
「だぁ! お前ら、食欲の秋だァ! 食べたいだけ食べることを許された最高の季節がやってきたぞ!」
 茶の間で両手を挙げて、だぁ! とやったら縁側から見える中庭で、がさがさとやつらが動き出す。
 テッカニン、アメタマ、スピアー、マメパト、ミノムッチ、ポッポ。それから、お隣さんちのストロベリー。
「今日はおれのおごりだ。ついてこい、野郎ども」
 様々な雄叫びが中庭に響いた。
 ただしストロベリー、お前だけはダメだ。


 そういうわけで、おれがある筋から仕入れた情報によると、なにやら素晴らしい催し物が行われているらしい。家を出て空を見上げればそこに見えるアドバルーン。ドーナツ半額! 半 額 !
 おれたちはその二文字に導かれてドーナツを食すというわけだ。いいか、半額だぞ。おまえら分かっているか、半額なんだぞ。二個買っても通常一個分の値段にしかならないってことだぞ。ポケモン一匹掴まえたと思ったら首が二個ついてたみたいな、そういお得感に溢れた催し物だ。
「で、お前ら、なんて名前だっけ」
 おれとしたことがポケモンたちにつけた名前をすっかり忘れてしまった。確かそうだ、かきごおりの味にちなんだ名前をつけたような気がするけれど、残念ながらもう季節外れだ。名前剥奪。ストロベリーだけはきちんと覚えていてしまっているが、何故だろう。でもお前のその素敵な名前も今日限りでおしまいだ。
「ざまあみろ!」
 って言ったら前後の文脈もなしにストロベリーが噛みついてきやがった。こいつ、心を読めるのか。
 おれはストロベリーにつける新しい名前は最低な物にしてやろうと心に決めた。
 電気屋の前を通ったら、何の因果か、タイミングよくドーナツ半額のCMをやっている。

 ――ミミスタードーナツ♪

 首の周りに大きなドーナツを巻いたミミロルがぴょっこぴょっこ跳ねている。
 草原に花柄のベンチシートを広げて飛び乗り、その上でちょこちょこ踊るとヒトデマンが回転しながら降臨してきて、ミミロルの方は一回転してカメラ目線、くいっと身体を傾けてヒトデマンと一緒にポーズを決める。

 ――ミミスタードーナツ♪

「せめて半額らしさを出せよ」
 って言ったらストロベリーに噛みつかれた。こいつはミミスタードーナツの回し者か。それとも画面に映ったミミロルに惚れてしまったのか。これぞ雄の性というやつか。しかし残念だったなストロベリー、やつは絶対雄だ。
「ってええ、だから何故かみつく!」
 こいつ、とりあえず噛みつけばいいと思っていやがる。これだから最近のポケモンは。とりあえず厨ポケ入れてれば勝てるだろ、とか思ってる姑息なガキの方がまだかわいげがある。
 ミミスドに着く間で五回くらい噛まれて、スピアーに一回刺されたおれだったが、首の皮一枚繋がる程度のライフでどうにか生きている。しかし店の行列を見た瞬間、おれは息絶えた。
 というのは冗談だ。
 これくらいは十分に予想できたので大人しく並ぶこと十五分弱。さあ、おれたちの食欲を解放する時が来た!
「お前ら、おれに対する感謝の気持ちを忘れずにドーナツを選べ! 慎重にだ! お願いだからあんまり取りすぎないで!」
 やつらは早速器用にトレイを持ち、ドーナツをぽんぽんぽんと次々に積み上げていく。いくらなんでも半額だからってそれは……!
「あんまり財布をいじめないでくれ!」
 とか言いつつおれも自分の食べたいものは回収。フエンチクルーラーにコールドパッション、ソン・デ・リオル、ハニーヒヤップ、そうだ、これを忘れてはいけない。D−ポッポ。
 いくらなんでも買いすぎかもしれないと思いつつレジに三つものトレーを並べて、さあ、おれたちの秋は始まる!
「いらっしゃいませ。店内で……あら?」
 店内であら、とはまた何だか新しい試みだなあ、と思って店員さんの顔を見れば、まさしくあらだった。
 スマイル〇円とはよく言うが、この人のスマイルに〇円というのは申し訳ない。というよりこれは何の奇跡だ、1301の店員さん、あの、イノウエさんが何故ここにいる!
「あ、あなたは……あの時の……いてえ!」
 感動的な場面において何故ストロベリー、お前はかみついてくるんだ! 早く食べたいのは分かるが今は待て、待つんだ。人の恋路を邪魔するやつはコールドパッションの食い過ぎで死んでしまえ。
「今日も騒々しいですね、うふふ」
「ええ、まったく、騒々しいやつらで。ははは、ほんと、申し訳ないです」
「いえ、微笑ましい光景が見られるので嬉しいです。それじゃあ、お会計しますね」
 嬉しいですなんて言われてしまうと、こっちも、へへ、嬉しいです。
 会計を済ませて店内のテーブルにトレイを運んで、さあて、食べようかと意気込んだところで、なぜだかイノウエさんがやってきた。
「私もご一緒していいですか?」
「いいですとも!」
 おれは即答した。
 ちょうど上がる時間だったらしい。制服を着替えてたら帰ってしまうと思ったのか、制服のままやってきた。ちょっと私服を見てみたいような気もしたが、彼女は何を着ても似合うから大丈夫。
「あ、あの」
 我ながら情けない声が出た。ミミスドのドーナツを食べながら、ちょっとずつ話す。
「今度、カフェにでも行きませんか」
 ストロベリーにハニーヒヤップを奪われた。
「いいですよ。ご一緒させてください」
 ああ、これぞ秋だ!
 秋というものはまったく不思議で、お得な話に溢れている。ようやくおれにも秋がやってきたのだ。違う、春だ! でも秋だ!
「その時はそのガーディをだっこさせてもらってもいいですか?」
「えっ、は?」
 何を言うてらっしゃる。
「あら、ポケモンたちと一緒に行くんですよね?」
「あ、はは、そう、そうですね。ポケモンたちと、一緒に」
「楽しみです」
 笑った顔はとても可愛いわけですけれど……こいつも連れて行かなければいけないのか、ちらりとストロベリーの顔を見る。
 めちゃくちゃむかつく顔をしていた。でれっと垂れた目にいやらしく持ち上がる口の両端。しかも今食べているのはおれが買ったはずのD−ポッポだ。
「ところで、このガーディはなんて名前です?」
 ああ、こいつ、こいつの名前ね。

「とってもかわいい名前ですよ。ゲーチスちゃんって呼んであげてください」
 
 そう言った喜色満面のおれに、ゲーチスがもの凄い勢いで噛みついてきた。ざまあみろ。



 ○ ○ ○

 秋と言えば、ひきこもりの季節ですわね。


  [No.790] ドーナツ食べたい 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2011/10/23(Sun) 22:59:27   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


思わずふふふと笑っちゃいました。やはりコミカルな作品は良いですね。冬も期待してますよ。

余談ですが、誤字を1箇所確認。「俺が勝ったD-ポッポ」は「俺が買ったD-ポッポ」ではありませんか?


  [No.792] レスありがとうございます! 投稿者:   投稿日:2011/10/23(Sun) 23:56:51   50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


読んでくださってありがとうございます!
確かに誤字でした><
ご指摘どおり修正しておきました。

今日でミ○ドの半額キャンペーンが終わりました。ドーナツ好きの私としてはもっと続けてほしかった……。
私も冬の商戦に期待しています。キャンペーンがあると美味しいもの食べられて、なおかつ風物詩も更新できる、一石二鳥ですからね!