優しげな音色が水面上に響き渡る。
夕凪(ゆうなぎ)を迎えたばかりの海を、ぼくはじっと眺めている。
静かで、心地よかった。潮のにおいも薄い。肌をさする風はまだ少しだけ冷たくて、それでも緑に小さく彩られた森林をかき分けていく。さらさらと、どこかはかなげな風景なのに、夕日を包もうかとしている海の茫洋さはいつも通りだった。
ゆっくりと深呼吸を重ねる。そうだよなぁ、とあいつの顔を空に思い描きながら、顔をほころばせる。耳に淀(よど)む音色のひとつひとつを、できるだけはっきりと聞き分けていく。胸の中が少しだけ落ち着いた。海を見ていたつもりなのに、いつの間にか視線は空に送っている。ぼくの真上を通り過ぎる雲はひたむきに東を進んでいく。目を閉じれば、このまま眠りにつけるような気がする。
サメハダ岩の岬で振り子のように体を揺り動かしながら、何かを待っていた。
だれかを待っているという言い方でも当てはまるだろうし、もしくは時間が過ぎるのをただ肌を伝って、感じているだけなのかもしれない。それでも、待っているという意識が身に沁みついていた。その意識すらもが、今では曖昧になっている。
せわしく立ち上がった。おいおい、と自分に言い聞かせながら、額を一度、二度と強く叩いてみる。じんわりと痛みが頭の中に響いてくる。白く薄れていった音の余韻を、何とか耳に蘇(よみがえ)らせた。
さらさらとしていた。静かで、心地よかった。
これで最後だと言わんばかりに一息落として、夕日の沈んでいく海を眺める格好に戻す。
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コト、と言います。はじめまして。今作「雲の行方(ゆくえ)」はポケモン不思議のダンジョン(時、闇、空の探検隊)の世界を舞台と定め、その中での四季を取り入れた作品となっております。
なお、一季ごとに四話を収録するつもりですので、つまりは全一六話の構成となります。基本的にこの形式を筋として、話を展開するようにしますので、ご理解よろしくお願いします。何らかの事情で変更があった場合は、投稿した一話の中にその内容を明記することとなりますので、あしからず。