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  [No.902] 闇の王と光の姫君 投稿者:紀成   投稿日:2012/03/15(Thu) 20:03:14   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

こんにちは、紀成です。そろそろ改名しようかと思ってる今日この頃。あんま変わらないけどさ……
時越えの懐中時計編が全くネタが出てこないので、先にこちらをはじめようかと。
きちんと終わるかどうか怪しいところだけど、お付き合いいただけたら嬉しいです。

メインキャラ

・レディ・ファントム

語り手。マダムの理不尽な欲求で進化の石を集めていたら、地図にない街に出てしまった。
本人は興味ないが、かなりの美女である。

・ルーチェ

地図にない街、フォールダウンの街娘。外見がレディに瓜二つである。性格は正反対。
あと三日で今年の『光の姫君』となる運命にある。

・闇の王

フォールダウンの昔話に登場する。絵本では化け物のように描かれているが、はたして実態は……
一年に一度街に現れ、生贄となる娘を攫っていく。


  [No.903] プロローグ むかしばなし 投稿者:紀成   投稿日:2012/03/15(Thu) 20:28:40   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

むかしむかし なんびゃくねんもむかし きみのおじいさん おばあさんが こどもだったころよりむかし
やまのなかに うつくしいまちがあった ちずにのることのない ちいさなまちがあった
ひとびとはまわりのやまから きのみやみずをとってきて しずかにくらしていた
ときどきべつのまちにいき じょうほうをもらうこともあった

あるとき そのまちにびょうきがりゅうこうした
こどもたちがたおれていく ふしぎなことにこどもしかかからなかった
ちょうどそのじきに ほかのまちからたびびとがやってきた
たびびとはいった 「わたしのもっているくすりをつかってください」

そのくすりを かれらはみたことがなかった
それもそのはずだ かれらがつかうのは じぶんでつくったものだけ
かがくがはったつして カプセルいりのくすりがとかいではつくられていた
たびびとのくすりによって こどもたちのびょうきは あっというまになおった

だがまちのひとびとは たびびとにおれいをいうどころか ぼうりょくをふるった
こわかったのだ えたいのしれないなにかで こどもたちをすくわれたじじつが
なぐる けるをくりかえし とうとうたびびとはしんでしまった
だがさいごにかれはいった

「かならず かならずわざわいがおきるぞ!こうかいしてもおそい!」

そのことばがかれらのみみに こびりついた

それからふつかご ひとりのむすめがあくむにうなされた
てのほどこしようがなく たったすうじかんでしんだ
ひとびとはそのとき はじめてことのじゅうだいさをしった
あのたびびとが ひとではなかったとかんがえた

それからそのまちでは いちねんにいちど かならずひとりのむすめがしぬ
きのうまでげんきだったものでも そのひになると かならずしぬのだ
やがてかれらはそれを やみのおうとよぶようになった
このまちにわざわいをおこさないために むすめをいけにえにする

そのむすめを ひかりのひめぎみとよんだ

だれももう ていこうしなかった
ていこうしようにも えたいのしれないなにかがあいてでは なにもできない

だが ひそかにしんじていた しんじていたかった
いつのひか だれかがまちのそとからやってきて こののろいをおわらせてくれると



そして そのひはやってくる――


  [No.904] Re: 闇の王と光の姫君 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2012/03/15(Thu) 20:47:12   30clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

プロローグ読みましたよ。昔話っぽい感じが出てて良いですね。

しかし、本編が始まる前に登場人物の紹介があったのはちょっともったいなかったですね。親記事から読む人にとってネタバレになっちゃうのが……。連載板のガイドラインにも「人物紹介は本編が始まってから」とありますし、これらは伏せといた方が良いと思います。

とはいえ、紀成さんの看板キャラクターによる連載は大変楽しみです。本編が来るのを期待してます!


  [No.905] 第一章 投稿者:紀成   投稿日:2012/03/15(Thu) 21:22:35   36clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

キラキラ光る、溶けない氷。いや、溶けない氷っていう道具があるのは知っていたが、それよりもずっとその表現が似合うと思った。石と呼び名がついているのに、それは薄暗い洞窟の中で自ら輝いていた。
ピッケルをツナギのポケットに押し込むと、ファントムはそっとそれを引っ張り出した。サクッ、といういい音がして右手に納まる。スコープで状態を確かめる。間違いなく、水の石だ。
ふう、と息を吐いて洞窟の中を見渡す。前方五十メートルほどにカゲボウズ達が集まって、ナップザックを漁っていた。やる気あるのかと思わず頬が引きつる。
『ファントム、こちらもあったぞ』
「何?」
「炎だ。ほら」
モルテが差し出した手の中に、オレンジ色の透き通った硝子のような塊がごろりと転がっていた。何度見ても硝子という表現が相応しいと感じてしまう。石なのに。まあ普通の石とは比べ物にならないくらい、貴重な品だが……
ゴーグルを外し、髪をかき上げる。オールバックにした姿が新鮮に見えた。
「ゴビット達を連れてこなくて良かった。あの二匹がいたら、洞窟が崩れる」
『しかし驚いたな。イッシュの外れにこんな場所があったとは』
「見つかってもそうそう来れないだろうね。何せ、常識人なら来る気も起きないだろうから。こんな……
天然の迷路なんて」
彼女の頬を冷や汗が流れた。モルテが悲しそうにうつむく。そう。一人と一匹+αは現在道に迷っていた。
出口の見えない洞窟の中で……

始まりは、四時間ほど前に遡る。黄昏堂の使いがファントムの元に突然やってきた。『頼みたいことがあるから至急来てくれ』わざわざ使いを出さなくても、丁度今から向かうつもりだったのだ。鍵を使わなくても入れる時間だったし、最近面白いことがないからパズルでも戦わせてみようかと考えていた。
だが、来た途端に道具一式と服一着を渡された。状況が飲めない自分に、マダムは言った。
『ツナギのポケットに入れた地図の場所に行って、進化の石を掘って来てほしい。知る人ぞ知る名所で、透き通った石なら何でも手に入る。水、炎、雷、闇、光。そしてめざめ。別に悪い話ではないはずだ。
あまった分はお前が持っていてくれて構わない』
自分の利益になるなら構わないか……と珍しくあっさり承諾してしまったことが、運の尽きだった。というよりあのマダムがこちらに利益のある話を持ってくるはずがないのだ。
石は見つけた。マダムが前述した石のうち、四種類――闇の石と光の石以外は簡単に見つかった。岩壁を掘れば簡単に出てくるのだ。どれも純度が高く、ブラックシティに持って行けば高値で売れることだろう。
そんな不純な思いが洞窟に嫌われたのだろうか。
ケースがパンパンになった頃、ファントムは連れて来ていたポケモン達と共に道に迷ってしまったのだ。だが彼女こそ馬鹿ではない。きちんと壁に道しるべを付けてきていたのに、いくら歩いてもその壁にたどり着かない。
腕時計を見ると、とっくに深夜を回っていた。だが一体現在地が何処なのか分かるまで眠るわけにもいかない。モルテに支えられながら、ファントムは眠い目を擦りひたすら洞窟を歩いていた。発狂しなかっただけ、彼女の精神力がどれだけ高いかが分かる。ナップザックの中で石同士がぶつかり合い、ごつごつと音を立てていた。
次にきちんと意識が戻った時、彼女はモルテにおぶられていた。慌てて降り、何がどうなったのかを聞いた。
『二時間ほど前か。流石に限界だったのか、崩れ落ちてな。そのまま土の上に放っておくわけにはいかないからおぶって移動していたんだ』
「モルテは大丈夫なのかい。……けっこう重いよ、私」
『残業に比べればかわいいものだ。それに、道は見つかったぞ』
あっけなかった。モルテの指差す先に、連れてきたポケモン達が群がっていた。鼻を動かしてみる。微かに……ほんの微かに、空気の匂いがした。どうやらここだけ壁が薄いらしい。
『この壁の向こうが外らしい』
「こんなことなら、片っ端から壁を壊していけばよかったな」
軽口を叩けるだけあって、彼女の体力は大分回復していた。モルテのきあいだまと、ゲンガーのシャドーボールで少しずつ崩していく。隙間から冷たい空気が入って来た。
全員通れるくらいの大きさになった時、彼女は一体ここが何処なのか分かった。山の岩壁から出てきたらしい。足元には花や草が咲き乱れ、頭上を木々が覆っていた。
「変な場所まで来ちゃったな」
『私もこんな場所は見たことがないぞ。どうする』
「……!」
ニ.〇の目が、木々に隠れた灯を見通した。見ればその灯の周りにも同じように灯が集まっている。村だろうか。どちらにしろ、有り難い物が見つかった。空と時計を見れば、もうじき夜が明ける時刻だ。
「一先ず行ってみるか。運が良ければ宿と場所の名前が見つかるだろ」
『ああ……』
モルテの声に、ファントムが振り返った。
「どうした」
『妙な気がしてな。灯が集まっているということは、少なからず人が多い場所――村や街のはずだ。だがこんな場所、私は一度も来たことがないし、ギラティナの情報網にも引っかかったことがない。
どういうことだろう……』
「君がそこまで言うなら、尚更行ってみたくなったよ」
好奇心を刺激してしまったらしい。モルテは頭を抱えた。

街が全て見渡せるような場所に来た時、夜は明けていた。朝日が向こう側の山から昇り、建物を照らしていた。
煉瓦造りの建物だった。道は石畳。早朝の馬車が、街中を走っていく。ギャロップを使っていた。キンと冷えた空気が、ファントム達を包み込んでいる。
「随分古風な街だね」
『とりあえず、降りれる場所が何処にあるのか探さないとな』
「ああ」


時に、十二月二十九日。早朝六時。
人知れず時を歩んできた街へ、一人の女が入り込んだ瞬間だった。


  [No.907] 第二章 投稿者:紀成   投稿日:2012/03/16(Fri) 15:38:43   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

少し霧が出ていたが、街中は比較的明るかった。丘の上から街を見下ろし、入り口を探すこと数十分。一行は石で造られた橋の前に立っていた。先ほどの場所から約二キロ。橋の前に、かつて細工されていたのであろう看板のようなものがポツンと置かれていた。それはたった一人で幾百年もこの街の前の道を見つめ続けて来たのだろう、と思わせる物であった。
何度もタールのような物で塗りなおされた、街の名前。
「……『faldown』フォールダウン、か」
『聞いたことがないぞ』
「多分電子機器の類を持ってても使えないだろうね」
変な場所から出たにも関わらず、後ろの道は石だらけだった。風雨に晒されていたにしても足跡の類が全く無い。雑草は生え放題、完全に自然の状態になっている。
「誰も来ていない。まあ来ようにも来れないだろうけど」
『地図にも載っていないようだ』
ほら、とモルテが差し出したのはつい最近更新された紙の地図だった。開発などで土地の移り変わりや古い街が消えていく現代では、五年に一度くらいは地図を書き直さなくてはならないらしい。まあ最も何百年も昔の話じゃあるまいし、今はコンピュータという便利な物があるのでそこまで苦労はしないらしいが……
「マダムに頼まれて来た洞窟がこの辺り。マダムの地図にも載っていないな。
『あの』マダムが知らない場所なんてあるのか」
『彼女が外へ出た話なんて聞いたことがないぞ』
「趣味の悪いペットは飼ってるけどね。何処から手に入れてきたんだか」
本人がいないのをいいことに好き勝手言う一人と一匹。
橋の下を覗き込むと、川が流れていた。川底まで見えるため水が透き通っていることが分かる。ここにはポケモンは生息していないようだ。
「一先ず入るか。休める場所とかあればいい。ホテルがあればもっといい」
『地図に無い街にホテルがあるか?』
「希望的観測だよ」
ファントムは歩き出した。穿いているブーツの踵がコツコツと音を立てる。そこでふと思い出した。
「まだツナギとゴーグルのままだった」
『着替えるわけにもいかないだろう』

甲高い声が、明けたばかりの空に響き渡る。バサバサと羽音がして、頭上をマメパトとハトーボーの群れが山に向かって飛んでいく。朝食だろうか。
歩いて分かったが、この街は四つの色の石畳によって分けられていた。先ほど見た丘のから真正面に向かって、右下が住宅街の白。右上が市場の赤茶。左下が入り口の灰色。そしてその上……というより左下までほとんど占めているのが、廃墟のように見えるゴミ置き場だった。馬車に付いていたであろう車輪、破れた布、煉瓦や瓦のような物が積まれている。ヒウンシティの裏通りとまではいかないが、少々臭かった。ちなみに石畳の色は物が置かれすぎているせいで見えない。
「どこの街もあんまり変わらないもんだね」
ファントムが廃棄物の中の車輪を持ち上げた。ツナギとゴーグルのせいで似非発明家のように見える。
『使えそうな物はないな』
「こんな閉鎖された街に住んでるんだ。別の場所から何か仕入れることもできないし、汚れても壊れてもまた直して使うんだろ」
歪んだ車輪を元に戻した時、後ろでガシャンという音がした。続いてカゲボウズの一匹がふんふんと鼻を動かして叫ぶ。
『ワインのにおいがするぞ』
振り向いて――理由が分かった。紫色のボトルが落ちて粉々に割れ、中身であるワインが石畳を伝って広がっている。その側には紙袋とフランスパンであろう細長いパンが落ちていた。
そしてその側に立ち尽くしている女。女というよりかはゴムマリと言った方がいいかもしれない。かなり太っている。首が身体に埋まっているように見えた。
だが気になったのは、その女が言った言葉だった。『どうして――』 何がどうしてなのか。一体全体何をそんなに驚いているのか。顔面蒼白になっているのか。
「……どういうこと」
『分からん。分からんが……』
内容は読めないが、どのような状況に置かれているのかは嫌でも理解できた。コンマ数秒で石の礫が自分のゴーグルに直撃したからだ。幸いにも目に突き刺さりはしなかったが、それでもゴーグルは粉砕した。
ゴーグルを外し、周りを見ればそこに住んでいるのであろう人間達に囲まれていた。恐怖、畏怖、怯え…… どんな言葉を並べても言い尽くせないくらい、視線は突き刺さるものだった。だがそんな状況下においても一つだけ分かったことがある。
若い娘が、いない。
「モルテ」
『何だ』
「逃げるぞ」
あっという間の出来事だった。走り出した途端、石や物が飛んでくる。いくらかかわしたが、それでも当たる物は当たった。そして走っていて分かったこと。この街は見かけより入り組んでいて、ちょっとした路地が変な場所に繋がることがあった。だから、路地の側を走っていていきなり右腕を掴まれて引き摺り込まれたことも…… この場合、引きずり込んだ相手に感謝するべきなのかもしれない。
「いった」
「早くこっちに。大丈夫。この地下道は誰も知らないの」
言われるがまま屋内に入れられた。民家の一つのようだ。路地側に入り口があり、自分が逃げてきた方にドアが開くようになっている。自己紹介をしないまま、相手はキッチンの床にある蓋を開いた。そこから階段になっていた。
「足元に気をつけて」
『いいのか』
モルテが口を出してきた。私も少し考えた後、首を振った。
「いいわけないだろ」
『じゃあ何故』
「理由がよく分からないままなのは、両方同じだ。追いかけられるよりはこちらの方が断然いい」
『……』
納得いかない顔のモルテを無視して歩いていくと、灯が見えてきた。蝋燭の乏しい灯だが、地下道の一部分を照らすには十分だった。
側に石のテーブルと椅子があった。きちんと背もたれも備え付けられている。相手が座るように促した。
「色々あるけど、とりあえず一番初めに聞きたい。
……君は何者?この街の住人なんだろ」
灯が目の前の人間の顔を照らした。影がそっと被っていたローブを外した。その時驚いたのは、モルテ達だけではない。目の前に鏡があるのかと思っただろう。

その顔は、ファントムに瓜二つだった。