R‐zero
6月X日 雨
今日からミライシティの中等学校へ転校することになった。お父さんにはとても申し訳ない。
自分はもう転校には慣れてしまったが、そんな事に慣れたということが悲しい。
取り敢えず、いじめられないよう頑張ろう。
自分は問題児で暴れん坊だという話が転校先でも伝わっている。
が、実際大人しすぎるくらいだと自負している。
それどころか、性格や雰囲気のせいでいじめられ易い体質である。
だから、いじめられたらアイツが目醒めない事を願うしかない。
取り敢えず、眼帯は外れないようしっかり身に付けるように注意し直そう。
新しい学校にもすぐに馴染めるよう努力しよう。
それに、この街は近代化が進み始めているので今までのなかで一番ポケモンが多い。
困ったら近くに大きな病院があるから診てもらえるし、カウンセリングもしてくれるだろう。
これ以上走ったら止まらなくなりそうなペンを止めてパタンと日記帳を閉じる。日記帳の表紙の真ん中にはアルクと書かれ、端っこにはイーブイと書かれている。
アルクは憂鬱だった。毎日欠かさず書いている日記はルーチンワークとなってきた。転校初日は街並みについてとか、馴染めるよう頑張るとかいじめられないようにするとかそんな事を書いて二、三日のうちは日常を書き綴る。しかし二、三日経つといじめられ……結果、また転校する羽目になる。
それに、とアルクは考える。――この不気味なオッドアイとアイツには困る。もうそろそろ何とか和解して早く普通な生活を送りたい……
そう言って、新たな家のドアを開けるのだった。
「行ってきます」
アルクが挨拶をしても家には返事をしてくれるポケモンは何処にもいないのだが。
アルクには母がいない。ブラッキーの父と二人で暮らしている。その上生まれつき目の色がおかしいのだ。
通常目には二色の色がある。角膜と結膜の二色。アルクの右目は普通のイーブイと同じ黒を基調として、真ん中に白目がある。が、左目はそれが逆だった。つまり広い範囲が白色で、ポケモンたちからすれば異様なものである。
詳しい事はまだ解明していないが、その目のせいでアルクは大変な思いをしてきた。だからアルクは自称悲劇の主人公だ。
因みにアルクは眼帯をしているが、何故か通常色の目を隠して異常色の目を晒している。そうなると勿論、
いじめられる。
また今日から長い長いルーティンワークの一部が始まる。そして、一見ループしているようで終おわりのある物語の幕を開けるのだった。
彼は、終の見えない道を歩き始める。