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  [No.997] SHIFT 投稿者:aotoki   投稿日:2012/06/11(Mon) 19:47:34   27clap [■この記事に拍手する] [Tweet]






それは、「現在」をつなぐ物語。






***
初めましての方は初めまして。
またお会いした方にはありがとうございます。aotokiと申すものです。
初めての長編に恐れ戦きオノノク(ry

長編とかいいつつも全8話構成を予定しております。
更新はツボツボレベルでゆっくりになりそうですが、もしよろしかったらお付き合いください。

[諸注意]
・世界はBWがでる少しくらい前、時間軸は現実時間―つまり「こちら側」での年数を基準にしています。
 時間軸は私のプレイをベースにしたので、すこし発売年月日より遅めです。

 ちなみにうp主の殿堂入りまでの平均プレイ期間は半年、1本で二年は遊びます。
 そして新作と新作の隙間に過去作品を遊ぶ・・・そんな感じです。
 マイナーチェンジ版は一切やっていません。

・ゲーム版のキャラクター主人公ではありませんがが数名登場します。
 性格・言動行動などゲームを参考にしているつもりですが、もし苦手な場合はブラウザバックを推奨します。

・この主人公は「主人公」ですが、皆様のお持ちになっているキャラクター観・性格とは異なるかもしれません。もし苦手な場合はブラウザバックを(ry

・『端末』というオリジナルアイテムを出しています。
 これはゲームでのバトル画面がでるもので、みんなトレーナーは持っている・・・という設定になっています。


  [No.998] #1 at World 投稿者:aotoki   投稿日:2012/06/11(Mon) 19:49:45   33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

2011年 10月  イッシュ地方 ライモンシティ
バトルサブウェイ シングルトレイン7両目  第21戦

チャレンジャー カナタVSサブウェイマスター ノボリ
シングルバトル 3VS3


―否、1VS1。


「ダストダス!サイコキネシス!」「ブォォォォォォォォォ!!!!!」
「ラグラージ!なみのりで流しきれ!」「リャグゥ!!!!!」

チャレンジャー ラグラージ♂
サブウェイマスター ダストダス♂


飛沫の中から、黒衣の男の姿が立ち上る。
「大分、食らってしまいましたね。じこさいせいを覚えていないのが辛いところです」
煙の中から、小柄な少年の姿が立ち上る。
「ゲッホ・・・そんなこといって、まだまだ余裕じゃないんですか?」
「わたくしは敵相手に見栄を張れるタイプではございません。・・・しかし、あなたさまのラグラージもなかなかしぶとうございますね」
男は手元の端末を見る。少し荒いドットで描かれたポケモンの姿と、いくつかのゲージ。
「体力の減りを見るととくぼうはそれほど重んじていらっしゃらないようですが、ダストダスのサイコキネシスをタイプ不一致とはいえ二回も耐えるとは、ブラボーの一言に尽きます」
それを聞いて、少年はにやりと笑う。
「そりゃ、伊達にずっといっしょに旅してきたわけじゃないですから。お世辞でもほめてもらえるとうれしいですよ」
それに男は無表情で答えた。
「・・・まぁしかし。――余裕で耐えたわけではなさそうです」

お互いの背後から、黒い影が立ち上がる。
よろめきながらも、敵を見据える強い闘志の目。
どちらの端末も、赤いゲージと警告音を鳴らし続けていた。

「・・・お互い、次が最後ですね。すばやさならこっちの方が速い」少年が言った。
「そんな単純に倒されるようならば、わたくし共としても屈辱の限り、でございます」男が帽子をかぶり直しながら言った。
深くかぶった帽子の奥から、ポケモンと同じ瞳が少年を見据える。


「このサブウェイマスターの名を預かる限り、そう簡単に負けるわけにはいきません」
「・・・わかってますよ、そのくらい」
「成程。」


すっ、と男の背筋が伸びた。

「本日はバトルサブウェイシングルトレインにご乗車いただき、誠に有難うございました。列車はまもなく終点に到着いたします」

「「敗北の忘れ物、落し物などなさいませんようお気をつけくださいまし!」」
  「「ラグラージ!!!ハイドロポンプ!!!」」「「ダストダス!!!ヘドロウェーブ!!!」」
 「ブォォォォォォォォオオオオオ!!!!!!」」「「リャァグゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウ!!!!!!」」
列車の中央でぶつかる二つの波。それは白煙を起こし、列車の窓を揺らした。


「・・・・・・・・・・・・・・・」「ゲホッ!ゲホッ!・・・・・・・・」
真っ白な静けさの中に、いくつかの影が見えてくる。中央で相対する大きな影。
「・・・・・・ラ・・・・リャグ?」「・・・・・・・・・・・・・ダスゥ」
どさり、とその影の一つが倒れた。その風圧で、煙がその周りだけ一瞬晴れる。


倒れていたのは、ダストダスだった。


「・・・ダストダス、戦闘不能」ピッと端末を落とし、男はため息を吐きながら言った。「わたくしの負けでございます」
「・・・ありがとうございました!」笑顔で礼をする少年の隣で、ボロボロになったラグラージが笑っていた。


***


帰りの列車、傷だらけの座席に、男と少年は並んで座っていた。
「これで、8連敗でございます」
「もうそんななんですか?はやいなー」
無邪気にそう言ってのけた少年に、男は小さくため息をついた。
「スーパーシングルでならば、全力であなたさまのご相手をできるのですが・・・なにせあなたさまはノーマルトレインしかご乗車になりませんゆえ」
皮肉交じりの男の言葉に、少年は苦笑しながら答える。
「スーパーはホント強すぎるんですよ。正直7人抜き出来るかすらギリギリで」少年はひざの上のボールを撫でた。
半透明の金属の向こうに、丸まったポケモンの姿が映る。ラグラージもそのなかで小さく丸まっていた。
赤いボールを見つめながら、少年は言葉を続けた。
「・・・それに」
「それに?」
「ノボリさんと戦うのすんごく楽しいし」
男は大きくため息をついた。
「まったく・・・そのような理由で毎回倒されていては、わたくしも困ります」
「冗談ですよ」全く冗談を言う気のない笑顔で、少年は笑った。

「しかし・・・あなたさまのラグラージは本当にお強い。わたくしが今まで見てきた中でも、十本、いや五本の指に入ります。」負けを惜しみながらも、男はすこし嬉しそうに言った。
「わざの強さは勿論ですが、全体をよく見ていて、あなた様の指令にもきちんと答えている。自らの判断で動くときも決して間違った事はしない。やはりずっとご一緒に旅してきただけありますね。」
そう言って男は少年を見た。が、
「・・・どうかなさいましたか?」
少年は何故か不思議そうな顔をしていた。
「あ、いや・・・・僕、そんなこと言ってましたか?」
「ええ。わたくしの聞き間違いでなければですが・・・」
「そう・・・・ですか」急に、少年の顔が思いつめたものになった。

タタンタタン、とリズミカルに列車は走る。何回、それが繰り返されただろうか。

「・・・・ノボリさん」少年が、ポツリと言った。
「?・・・なんでございましょうか」
「ノボリさんは、僕がこれから言う事、笑わないでくれますか?」男は少年のほうを振り返った。少年は、真剣な面持ちで、男を見つめていた。

「・・・勿論、でございます。お客様の話を笑うなど無礼なことは、一切致しません」
少年は、少し安心した表情になった。「じゃあ、聞いてくれますか?」
「えぇ」
「・・・実はこのラグラージ、・・・・おととい貰ったばっかりなんです」
男の目が一瞬、大きく見開かれた。
「おととい・・・でございますか・・・!?じゃあ先程おっしゃっていた事は・・・」
「無意識で言ってた、ってことになりますね」
「つまり、ほとんど実戦経験は無いと。・・・それであのバトルとは」男はかなり驚いているようだった。
「僕も驚いてるんです。おととい貰うまで、ラグラージの存在すら知らなかったんですよ?でもなんか戦い方、っていうんでしょうか。あのポケモンのクセを掴む感じとか、わざの間合いとか、何故かそういう感覚を覚えていて」
「それは・・・まさしくブラボー、ですね」男は椅子にもたれ、列車の天井を呆然と見つめた。天井には戦いの跡の水飛沫が、まだ張り付いている。
「どなたさまに、頂いたのですか?」男は少年に顔を向けた。
「それが・・・・ここが一番信じられない事なんですけど・・・」少年は少しだけうつむいた。
膝の上で列車のリズムと同期するように揺れる一つだけの赤いボール。蛍光灯の明かりを受けて照り返すその殻の中で眠る、青とオレンジの影。




「別の世界の・・・・自分らしいんです」