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  [No.1141] 即興小説セレクト 投稿者:逆行   投稿日:2013/10/11(Fri) 22:50:45   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

http://sokkyo-niji.com/ 即興二次小説というものがありまして、執筆速度を上げるためにこれをやってまして、書いた小説の一部を推敲してこちらに投稿します。推敲してるんで厳密に言うと即興じゃないです。ややこしい。

1、寓話 2、ザンハブ 3、独白(明るめ) 4、ギャグ 5、伝承 6、独白(暗め)7、ブラックネタ 8、人間×人外


  [No.1142] 1、人の上に立つ者 投稿者:逆行   投稿日:2013/10/11(Fri) 22:52:11   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 人の上に立つ者。それは、周りより力が優れていると、普通は思うだろう。例外もいくつかあるだろうが、しかしながら最低限、人の上に立つ者は、周りよりも威厳が強くなくてはいけない。それだけは絶対条件である。では、威厳とは何であろうか。 



 ここに一人、いや一匹のピジョットがいた。彼は群れのリーダーを務めていた。群れのリーダーは皆をまとめ上げ、同種族同士の小競り合いを静め、敵対する異種族の攻撃から守らなくてはいけない。なので、並大抵のピジョットでは務まらない。
 しかしながら彼は、並大抵以下であった。実力なんて何も無かった。力も対して強く無く、戦闘に至ってはてんで駄目である。飛ぶスピードも微妙で、高度も低い。狩りもあまり上手ではなく、自分より遥かに弱い生物が命を懸けた悪あがきに、思わず体をびくっとさせ、そして逃がしてしまうこともあった。
 そんな彼だが、周りからの支持は高い。彼は皆から称賛され、尊敬の眼差しを向けられている。彼が飛んでいると自然と道を開ける。彼の言葉を真剣に聞く。いったいなぜであろうか。普通なら、そんな弱いピジョットなんか、リーダーから落とされるだけでなく、皆の笑い者になったりもするのだが。
 答えは単純。彼の父親のおかげである。
 彼の父親は非常に強かった。群を抜いて強かった。そして、見かけも威厳があった。羽が通常よりも遥かに大きく、毛並は見とれるほど美しかった。また、彼は性格も良かった。自分で捕えた獲物を、病気で動けない者に分け与えたり、苛められているひ弱なポッポの子供を、苛める側を諭すことで救ったりした。
 このように、彼の父親は非常に優秀であった。周りから尊敬の念で見られ、やがて群れのリーダーになった。しかしあるとき、彼の父親は病気で死んでしまった。そして群れのリーダーは彼が受け持つことになった。彼は特に深く考えず、まあ大変なこともあるだろうがなれるのであればなっておこうか、というあまりにもいい加減な心情をもって引き受けた。彼がリーダになることに関しては、誰も反対しなかった。皆、こう思っていた。父親がこれだけ優秀ならば、その息子もきっと優秀であろうと。誰もがそう思った。いや、そう思っていない者もいたかもしれない。けれども周りに流されて、とても反対意見なんて述べられない状況であった。
 父親が優秀だからというだけで、息子も優秀だと思うのは、あまりにも安直すぎると思う人もいるだろう。しかし、彼らはポケモンであり、人間よりも幾分知能が低いのだ。だから、そんなふうに単純にしか考えられない者が大半でも、仕方のないことであろう。
 群れのリーダーになると、いろいろな特権がある。まず、獲物を自分で取ってこなくていい。刈りが苦手な彼にとって、これは多いに助かった。自分の醜態を晒さずに済むのだ。更に、周りから尊敬の眼差しで見つめられる。彼はこれが非常に気持ちが良かった。これが彼の馬鹿な自尊心を満たしてくれた。そしていよいよ、彼は調子に乗り始めた。
 彼の本当の姿を見抜かれそうになる。そのようなことは幾度となくあった。彼の容姿がしょぼいことに関しての指摘は、「見た目で判断してはいけない」という常套句を持って制圧されるのだが、彼がたまにする失態に関しては、もはや擁護のしようが無かった。彼は飛んでいるときに誤まって、木に思いっきりぶつかるという派手な失着を犯し、それを見ていた子供達の目から若干光が消えて行く。そのようなことが、何度もあったのである。
 けれども、それでも誰も彼を疑おうとはしなかった。時折見せる無様な失態は、たまたまであると考えた。親が優秀なら子も優秀。彼らに内在した先入観の粘着力は尋常では無かった。
 やがて、彼は浮かれに浮かれた。本当は実力が無い。けれども周りから称賛され続け、自分は本当は実力があるのではないかという錯覚が起こった。
 しかし、ここにきてようやく、彼を疑うものが一匹いた。一匹の小さなポッポだった。そいつはひどく体が弱く、もうずいぶんな年なのに進化できずにいた。そいつは浮かれている群れのリーダーの姿を見て、このままではいけないと思っていたのだ。
 


 ある日のことだった。平和な日常を揺るがす集団が現れた。オニドリル達である。彼らはピジョット達の陣地を荒らそうとしてきた。領土を横取りしようとしてきたのである。
 昔からオニドリルたちは、自分達の領土の狭さに不満を抱いていた。そしてオニドリルは気性が激しく、他者を容赦なく攻撃することで知られている。そんな彼らがピジョットの領土の広さに目を付け、攻め入ってくるのは時間の問題だろうと誰もが考えていた。だから皆戦う準備をしていた。懸命に技を磨き、領土争いに負けないようにと頑張っていた。
 さて、群れのリーダーを務める彼が、この戦いから逃れるわけにはいかない。リーダーだからと言って、指示だけするというわけにもいかない。ちゃんと自らも戦ってこそなのだ。彼は困ったことになった。戦うのは嫌いであるし、何より弱いところを晒したくないと思っていた。これから戦いになれば命の危険が伴うのに、彼はそれでも世間体を気にした。これまで積み上げた自尊心が崩れるのを、最も恐れていた。
 彼は技を磨いていなかった。浮かれすぎてて、怠けていた。ただでさえ弱かった彼は、現在更に弱くなっているだろう。
 迷う暇も無く、オニドリル達が攻め入ってきた。ピジョット達は戦った。実力はほとんど拮抗していた。けれども、ピジョット達が少し押されていた。
 彼は戦場に来ていたが、まだ誰も倒していない。彼は逃げることも考えていた。けれども、そんなことをしたら周りになんて思われるか、想像に難くない。そこで彼はあることを思いついた。
 彼は敵の群をじっと見つめた。彼は探した。弱そうな奴を。彼は自分が弱い分、どのような奴が弱いのかを見分けることができた。おどおどしている奴。周りをきょろきょろしている奴。無駄に高く飛んでいる奴。羽がぶるぶると震えている奴。とりあえず周りに合わせて掛声をしている奴。何か無駄に飛び回っている奴。後ろの方で隠れている奴。彼はそいつらを狙った。
 一応最終進化までしているだけの力はあるので、多少苦戦をしつつも、何とか倒せた。周りからどっと歓声の声が上がった。流石だと誰かが言っていた。群れのリーダーである彼が倒したことにより、周りの士気がいっそう高まった。
 彼はその後も弱い敵を見抜き、次々と倒していった。彼は徐々に乗ってきた。
 両軍ともに数が少なくなってきた。そしてついに、向こうのリーダーが動き出した。そいつは、周りよりも体が一回り大きく、硬化の翼をばさばさと激しく揺らしながら、スピアーの針のような鋭い目付きをこっちに向けた。そして、そいつは大声を出して言った。向こうのリーダーを出せと。
 一対一の対決をしようと言うのであった。睨まれた彼の体は震えていた。出来ることなら逃げたかった。けれども、周りの声援がえげつなく激しくなっており、引くに引けない状況となった。
 彼はしぶしぶ前に出た。連戦に続く連戦により、既に彼の体はぼろぼろであった。体中に回転して嘴で傷付けられた跡があった。空を飛ぶのも苦しい状況であった。そんな状況でさらに、相手が群れのリーダーときたもんだ。彼は絶対絶命であった。どう考えても勝てるわけがない。
 それでも、引くに引けないので、彼は攻撃を繰り出した。相手の腹部に向かって、翼で殴ろうと思った。助走を付け、懸命に最大限のスピードを出して、相手の方へ向かった。しかし、だった。何時の間にかそこに相手はいなかった。彼は後ろを取られていた。
 その後、彼は渾身の一撃を喰らい、真っ逆さまに落ちて行った。彼の完敗であった。当然の結果であろう。
 その後、ピジョット達はオニドリル達に敗れた。彼が敗けたことにより、士気が下がってしまったのだ。
 この戦いによる被害を損失は大きい。領土の半分を取られることになってしまった。更に、戦闘による死傷者の数も多かった。



 彼は大けがを負ったが、まだ生きていた。そしてまだ、群れのリーダーを続けていた。あれだけ無様な姿を晒したのに、である。誰も彼を責めなかった。あれだけ戦った後だったのだ。疲労が相当溜まっていたのだ。一撃でやられても無理はない。そう言って彼を擁護した。彼に対して不満を抱くものは少なからずいたが、そいつらも結局世論に流された。
 彼は自らの名誉が守られたことに安堵し、そしてまたしても調子に乗った。
 しかしながら、だった。ここで彼の伸びきった鼻を、たやすく圧し折るものが現れた。一匹の弱い、あの小さなポッポである。ポッポは皆に知らせた。あいつは、オニドリルとの戦いで、ずるいことをやっていたと。
 はじめは誰も信じなかった。しかし、ポッポの話ぶりには、妙に説得力があった。ポッポは力が無い分、話術に更けていた。知識も相当あり、観察力も人並み外れていた。ポッポの地道な努力による成果であった。弱い敵は具体的に、どのような奴かを知っていて、その特徴を話した。そして、あいつが弱い敵ばかり狙っていたことを話した。
 始めは数匹だけ信じた。そして、どんどん彼が弱いことが広まって行った。こうなってしまえば、後は早い。噂はどんどん広がる一方。彼の仮面が剥がれていく。
 やがて、話が殆ど全員に広がった。そして彼らは皆、同じ結論を出した。
 あいつは卑怯。
 その結論から、別の結論も導かれた。
 あいつは弱い。 
 彼は皆に責められた。すぐに群れのリーダーの権利をはく奪された。それだけでは、彼らのいかりは収まらなかった。彼を群れから追い出した。
 彼は必死に言い訳をした。しかし、誰も聞く耳を持たなかった。彼は最後の足掻きで、暴れようとした。しかし、すぐにやり返された。彼はぼこぼこにされた。
 彼は最終的に、群れから追い出され、行くあてがなくなった。自尊心を激しく傷付けられ、死ぬよりも苦しい思いをし続けることになった。

 彼は自分より、弱い奴に敗けたのだった。


  [No.1143] 2、一致団結 投稿者:逆行   投稿日:2013/10/11(Fri) 22:53:19   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ザングース同士の争いは、今日も絶えない。
 何故同種族なのに、争うのか。何故傷を付け合うのか。俺には疑問で仕方が無かった。しかし、その理由は誰も答えてくれない。幼い時に何回も聞いたが、あいつらが憎いからとしか答えなくて、何故憎いのかについて述べる者は、一匹たりともいなかった。
 ザングースは、昔から二つに分かれてある。その二つが、長らく争っている。その二つに、明確な違いは無い。どころか、全く同じであった。
 争いが、単なる喧嘩のレベルであるなら、それは別に構わない。しかしながら、度々殺し合いに発展することがあるから、だから俺は問題だと思うのだ。血で赤く染まった親しい友人が、不敵な笑顔を見せながら、今日は二匹殺したぞと話す様は、背筋どころか体全体が凍る思いをした。
 なんとか争いを止める方法は無いだろうか。考えても考えてもそれは思いつかず、気が付けば俺は諦めかけていた。そして、無意味に争っている奴等を、思いっきり見下すようになった。こいつらは馬鹿だ。もうどうしようも無い。俺は群れを出て行くことも考えていた。ここにずっといれば、俺だって争いに巻き込まれる。俺は争いが嫌いだ。絶対にやりたくない。
 


 争いは終わる気配を一向に見せない。ところがである。ある日、ザングース達の運命を変える、決定的なことが起こった。
 誰かが最初に異変に気付いた。そいつが指を差している方向を見た。すると何やら、ハブネークの群れが、凄まじい形相を浮かべて、こっちに責めてきたのだ。これはいったいどういうことだ。と、思っていたその時だった。全身の血が沸くような感触がした。一回も他人に向けたことが無い鋭利な爪が疼いた。あのハブネーク達を引き裂きたいという感情が、胸の底から湧き上がってきたのである。理由は分からない。考えている暇もない。体が勝手に動く。ハブネークを反射的に睨む。一匹のハブネークと目が合う。そのときに、俺が誰と戦うのか、己の運命を決した。あとはもう、勢いに任せて。そいつの元へと走り、そいつもこっちに向かって走り、やがてその距離が縮まった所で、俺は相手の黒い鱗を剥ぎ取るべく、右手を空高く振り上げた。
 気が付くと、俺はそのハブネークに圧勝していた。意外と自分は強いのだろうか。いや、相手がたまたま弱かっただけであろう。運が良かった。
 周りを見回すと、他のザングース達が懸命に、ハブネーク共と戦っていた。無我夢中でそのことに、俺は全く気が付かなかった。ハブネークと戦闘している彼らは、皆生き生きとしていた。やっていることは殺し合いに違いないのだけれど、それでも傍から見てて不快に思わなかった。同種族のときはあんなに嫌悪感をむき出しにし、挙句の果てに群れから出ていこうとしたのに。いったい何故であろうか。
 戦いは終わった。ハブネーク達は味方が徐々に減ってきたのを見て、そろそろと退散していった。戦争と言うべき争いは、ここにて終結した。生き残ったザングースは、ハブネークが帰っていくのを見届けた後、一気に疲れが来たようで、皆一斉に崩れ落ちた。俺も例外では無かった。体中が激しく傷む。これまで経験したことのない疲労が襲ってくる。
 ザングース達は、傷が酷過ぎて動けなくなった仲間を担ぎながら、それぞれの家路に帰っていった。戦争に勝ったことを喜ぶ元気など無かった。
 それにしても、何故俺は戦ったのだろう。あれだけ嫌がっていたのに。体が勝手に動いた。だとしたらそれは”本能”だろうか。
 俺は調べてみた。仲の良い年配のザングースに聞いてみた。その彼曰く、ザングースはハブネークを見ると、そいつを倒さなくてはいけないとう使命感に駆られるらしい。これは自分の意思でコントロールができない。本能的に、必ずそうなってしまう。
 やはり“本能”だった。なんて厄介な本能だろうか、と感じた。殺し合いとしなくてはいけない本能なんて、そんなもの絶対に要らないと思った。しかし、良く考えてみると、戦っている最中ザングース達は、皆生き生きとしていた。ここでこう言うのが適切はどうか分からないが、楽しそうだった。俺も同じだ。高揚感に満ち溢れていた。ハブネークを倒すことに、無我夢中になっていた。
 ならば、これでいいのだろうか。
 いや、良く無い。これは殺し合いだ。敵も仲間も死んでいくんだ。こんなことがいいわけないじゃないか。しかし、もともと同種族同士で殺し合いしていたのだ。だったらむしろ、この方が。
 などということをずっと考えていた。そうしているうちに、次の波がやってきた。戦争の再発である。ハブネーク達はまたしても攻めてきた。しかも、以前より遥かに多い数で。俺は体が震えた。それは、恐怖からくるでもあるし、武者震いでもあった。
 俺は再び目が合った相手と戦おうとした。しかし、今回はそうはいかなかった。ある一匹のハブネークが、俺の方に向かって、尻尾を叩きつけてきたからだ。もう俺は、そっちと戦うしかない。喧嘩を売られてたのだから。本能がそう告げる。
 そいつはかなりやっかいだった。攻撃の威力はそうでもないが、ねばり強いのだ。幾度なく切り裂いても、また起き上がってくる。相手は必死だった。何故こんなに必死なのか。それは、そいつが戦闘中に俺に向かって、針で刺してくるように睨みつつ、静かに呟いた内容で判明した。
――よくも俺も友達を殺してくれたな。
 こいつは、俺は前回殺した奴の、敵をとろうとしているのだ。必死になるのも、無理はない。だが、俺だって負けるわけにはいかない。俺は手を更に素早く動かし、相手を切り裂きまくった。
 ようやく勝つことができた頃には、俺はもう瀕死寸前だった。ハブネークは尻尾と牙に毒を持っている。俺は二回も噛みつかれ、毒が体中に回っていた。今にも倒れそうだった。体が限界を超えていた。
 辺りを見回す。死んでいるザングースがたくさんいる。まだまだ懸命に戦っている者もいるが、もうじき倒れそうな奴等がほとんどだ。今回はもうこっち側の負けだろう。
 俺だけなく他の奴もそう思ったらしく、あるときを境に皆一斉に逃げ出した。本当は誰も逃げたくなんて無かったのだろう。悔しそうな顔を皆していた。泣いている者もいた。
 


 ハブネーク共は、それから長らくこなかった。どうやら最近攻めてきたのは、この辺に集落を映したところ、たまたまザングースの群れを発見したかららしい。ハブネークの群れが移動しない限り、恐らく戦争は終わらない。そしてたぶん、ハブネークの群れは移動しない。
 ハブネークが来る間、誰かが集会を開いた。どうやったらあいつらに勝てるのか、皆で懸命にそこで考えた。あれこれと意見を出し合った。爪をもっと手入れしようとか。新しい技を練習したらどうかとか。その間、実に皆生き生きとしていた。
 この頃、ザングースの間では、争いは全く起きなかった。小競り合いすらする者はいなかった。皆ハブネークを倒すために、”一致団結”していたのだ。
 それは確かに、俺の望んでいたことであった。しかし、本当にこれでいいのだろうか。犠牲者の数は、激しい戦闘によって、同種族同士で争っていたときより遥かに増加している。傍から見れば、明らかに今の方が悲惨であろう。
 しかしそれでも。きっと、これで良いのだ。これがザングースとしての、”正しい”生き方なのだ。そうだ、そうに決まっている。俺はここで考えを固めた。ハブネークとの戦いを肯定することにした。
 作戦が固まった後、皆で肩を組んだ。今度は絶対に勝とうと誓い合った。

 

数日経って、あいつらがまたやってくる。
 皆必死で戦った。ある者は仲間が殺された恨みを混めて、ある者はだた勝ちたいという本能に任せて。引っ掻くしか使えなかった者は、切り裂くを使えるようになっていた。ただやみくもに攻撃していた者は、相手の攻撃を見切ることを覚えていた。この戦争によって、明らかに皆”成長”していた。ザングース同士で戦っていたときは、こんなことは無かった。あるいは、俺から見て”成長”では無かっただけか。
 一方で俺は、ある大物のハブネークと戦っていた。こいつは明らかに他よりも体が大きく、爪も立派であった。仲間の援護はこっちにこない。俺は一匹で、戦っていた。
 やがて相手の尻尾の一撃が、俺の腹を思いっきり抉る。凄まじい苦痛と共に、俺は地面にひれ伏す。ここらで俺は覚悟していた。俺は今日死ぬのだと。
だがそれでも、絶対に諦めない。死ぬ直前まで、粘ってやる。
 俺は最後の力を振り絞り、思いっきり高くジャンプして、そして右手を振り上げた。そこに、相手の止めの一撃。太い尻尾によって、俺は地面に叩きつけられる。
 もう体が完全に動かなかった。意識が徐々に薄れていく。どうやら俺は、ここで終了のようだ。
 死ぬ間際に、今までの思い出が、走馬灯のように蘇る。ザングース同士で戦っていた日々。ハブネークがやってきて戦っていた日々。比較したときに、後者の思い出の方が明らかに色鮮やかだった。やはり、これでいいのだろう、これが正しいのだろう。俺が死んでも、正しいのだろう。ザングースとして、俺は死ねるのだ。なんの未練もない。これが当たり前なのだから。
 今も皆は懸命に戦っている。今回は勝てそうだった。どうやら、あの作戦会議が役に立ったようだ。皆生き生きとしている。勝つために全力を尽くしている。仲間通しで力を合わせ、敵と戦っている者もいる。
 一致団結している。
 これは俺が望んでいたことだ。
 俺は涙が出てきた。嬉しかった。もう思い残すことは何もない。
 後はザングース達がハブネークに、無事勝利することを願う。
 


  [No.1144] 3、飛べないワタッコ 投稿者:逆行   投稿日:2013/10/11(Fri) 22:54:45   72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 少々の霧に覆い被されつつも、山は幾多の深緑の木々を身に纏って、毅然と広汎にそびえ立っている。山麓から中程度離れた草原には、冬の難儀から解き放たれたタンポポの群れが、大地に根を張りしゃんと胸を張りながら、白いふわふわの綿毛を身に纏っている。
 広大な草原の一角に、私はぽつんと立っていた。空はどこまでも遠かった。透き通った青空が見渡す限りに広がり、中央でぷかぷかと浮かんでいる白く濁った雲が、私のことを冷やかな目で見降ろしている。
 不意に強い風が吹いた。その風の詳細な性質を、私は記載することが出来ない。
 私の種族であるワタッコは、風に乗って空を飛ぶ。遥か遠くの彼方へと旅経つ。行き着いた場所で、両腕に付いた綿奉仕を撒いて子孫を残す。そこで終了。ワタッコの義務は後何も無い。死ぬまで自由に生きて良くて、基本的に子育てはしない。
 ワタッコは飛行タイプでは無いが、風に乗って空を飛ぶことができる。風の軌道等を瞬時に感じ取って、宙を何時間も漂うことが可能になる。私にはできないけれど。
 そう、私にはそれができない。詳しい事情は分からない。あんたはそういう体質なんだとお母さんは言っていた。飛べないワタッコは極僅かだがいるようで、私は極僅かの内の一匹に、どうやら入ってしまったらしい。お母さんは空を飛べて、だから私は誕生していて、けれど私は飛べないから、子孫を残すことが出来無くて、家系を途絶えさせてしまうことになる。そのことに紛れもない罪悪を感じ、更に幾多の罵倒の声があちこちから聞こえてくるから、その感情が風船の如く膨れ上がり、ひどく辛い思いを味わい続けてきた。
 原因は努力不足か。あるいは生まれつきの能力の問題か。お母さんは後者だと言ったが、仲間達は前者だと言い放った。言い放ったその言葉は、大気をゆらゆらと漂うことも無く、私の体めがけて一直線。体内を疾風の如く駆け巡り、五臓六腑をしっちゃかめっちゃか。最終的に心底に沈み込んで、確かな懊悩の火種となって蓄積する。みんなはとっくに自由自在に飛ぶことが出来て、次から次へと旅立ってしまう。自分だけが置いてけぼり。私は誰よりもたくさん練習をした。崖から飛ぶという無茶をして大けがもした。しかしそれでも宙に浮かず、焦り苛立ち情けなさが募るばかり。
 そろそろ飛ばないと、時期的に子孫を残すことが不可能になる。今日私は、今までよりも更に集中力を高め風を待った。じっと耳を澄ませた。そして……
 駄目だった。やっぱり飛ぶことが出来なかった。空を見上げると、青空が更に遠くに広がっていた。雲は中央にやはりあって、冷やかな目で私を見下ろしている。辺りを見渡すと、草原はさっきより更に広大に見え、反してそこにいる自分がひどくちっぽけに思えてきた。
 子孫を残せないワタッコは、幸福になれないと言われている。私は幸せにはなれないのだろうか。
 とりあえず帰ろうと思い振り返った。すると不都合な事象が眼前にあり、最果ての驚愕に目を見開いた。逃げる暇も無く、即座に目の前が真っ暗になった。



 次に目が覚めたとき、私がいる何も無い球体の空間と、そこから見える一人の人間が歩いている様子を見て、いったい何が起きたのか、はっきりと理解することができた。私はトレーナーに捕まったのだ。当然の如くしまったと思った。当然の如く最初に抱いた感情は絶望だった。
「あ……気が付いた」
 取り乱して動き回っていたら、ボールがちょっと揺れたので、人間は私が起きたことに気付いた。人間はこっちに向かって、口元に若干の笑みを添えて、
「あと少しで回復させてやるからな。もうちょっと待ってて」
 などといかにも私善い人ですと、アピールしたげな口調で言ってきた
 私は人間が嫌いだった。ポケモンを戦わせ傷つける、そんな連中が大嫌いで際限なく憎かった。落ち込んでいたとはいえ、人間が近づく足音に全く気付かず、何の抵抗もできないまま捕まってしまう。そんな私は愚かで、後悔してももう遅くて、不幸の極限に立たされた思いをして、子孫を残せないワタッコは幸せになれないという迷信は、果たして現実のものとなろうとしていた。
 ポケモンセンターで回復を終えた。腹部にあった傷跡は跡形も無く消えていた。しかし心の傷は消えておらず、ボールの中から人間を思いきり睨んだ。人間はそれを気にも留めず、ポケットから何やら四角いものを取り出し、それに耳を当てて話始めていた。
『分かってるよ』
『別にいいだろう。トレーナ続けてたって』
『彼女とかは、一応いたけど、うん』
 私はこの間暇ができた。四角いものの正体も気になるが、ひとまず私を捕まえた人間の姿を観察した。全体的に顔がしっかりしており、口元に若干のひげを生やし、青年より少し上くらいの年齢に見えた。左目の下には引っ掻かれた古傷がある。靴を見るとひどくぼろぼろだった。トレーナーを長年やっているのだろうか。 
 人間は基本笑いながら何者かと話していたが、時折苛立ちの表情を挟んでいた。長かった対話を終えたとき、彼は深い溜息をひとつ付いた。建物の窓から見た空は雲量を増していた。
 その日から人間の元での生活が始まった。バトルのとき、私は漆黒の雲を常時心に浮かべていたが、しかし私は意外にも戦うのが上手かった。また、彼の指示も相当的確で、こなれている感じがした。私がバトルに勝つと、彼は必ず褒めて、私の頭を撫でてくれた。
 彼は非常に優しかった。私のことを常に気遣ってくれた。彼の魅力に徐々に引きこまれていった。心変わりは早々と訪れた。彼に対する棘が取れていくのが自分でも分かった。あれほど強大だった憎悪と猜疑の念は、既に遠くの彼方へと飛んで行った。代わりに空白になった心の中に、主人を大好きな気持ちが収まっていった。そして彼のことを睨んでいた昔の自分を恥じた。



 ある日のことだった。主人はとある崖の上を歩いていて、突如野生のポケモンが現れて、私をボールから出した。しかし私はそのポケモンの攻撃を受けて、誤まって崖から転落してしまった。私は空を飛べないので、落ちるよりなすすべなかった。私は大けがを負った。昔飛ぶ練習をして崖から落ちたときより更に痛く、傷口を見ると血が大量に溢れ出ていた。もはや死を覚悟した。そんな私を主人は急いで手当した。近くにポケモンセンターが無いというので、彼はたくさんの応急処置の道具の使った。絶対に死ぬなよ、と何回も声をかけてくれた。途中雨が滝のように強く降り、遠くの方で雷も声を轟かせていた。しかし彼は少しも手を休めずに、私の手当をしてくれた。しばらく私は眠った。目が覚めたとき、私は起き上がれるほどに元気になっていた。隣で主人が眠っていた。手が血で真っ赤になっていた。
 気が付くと雨も止んでいた。透き通った眩しい青空の中に、濁った雲はどこにもなかった。
 私は眠っている主人に向かって、にっこり笑ってありがとうと呟いた。
 この日私は、もう完全に確信した。彼は善い人であること。彼の元で暮らしている私は、幸せであるということ。
 子孫を残せないワタッコは幸せになれないという迷信は、紛れもない嘘であったこと。




 更に数日が経過して、あの四角いものの正体が、離れた人と話せる道具だということを、理解できるくらい人間界について熟知した私は、もうすっかりこの生活に慣れていた。
 回復を終え主人の元へと帰ったその時だった。ポケモンセンターにある大きなテレビから音が漏れてきた。何やらモニターには、一人の女性が中心で原稿を読み上げてきた。
 ――続いてのニュースです。近年話題となっている少子化問題ですが、今年更にその状態が悪化していることが統計により発覚していました。統計によりますと、結婚に興味が無いと答えた人は全体の、
 そこまで聞いて彼は少し悲し気な表情を見せた。
 主人のことが分かってきた。結婚しないといけないと思っていること。トレーナーとして旅をしてばかりで、全く彼女を作ろうとはしないこと。やたらとそれを親に言われていること。
 要するに、私と状況がほとんど同じだったのだ。
 ある時に、電話を終えた彼の表情はやはり曇天だった。一つ溜息を付いた後、「結婚しないと幸せになれないんだってさ」と俯きながら呟いた。彼はどれほど厳しく言われているのだろうか。
今日この日ほど、人間との意思疎通が不可能なことを、残念に思った日があるだろうか。別にそれでいいんだって伝えたい。結婚なんかしなくたって、子孫が残せなくたっていいって。だって私は、それでも幸せになっているから。両腕に付いたたくさんの綿奉仕は、いつまでもここから離れないで、もう生きることはできなくて、たまにそれを思い出し心に風穴が空くけれど、主人の優しさがその穴を埋めてくれるから、紛れもなく私は幸福に包まれている。 
 だからきっと、主人だって幸せになれるんだ。 
 主人ははっと我に帰った。回復し終えた私と目を合わせた。暗い表情を見せまいと眩しい笑顔に戻った。私の頭を柔らかい手で優しく撫でた。

 私にはここが青空なのだから――


  [No.1145] 4、マニフェスト 投稿者:逆行   投稿日:2013/10/11(Fri) 22:56:05   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 えーみなさん、本日はわたくしのマニフェスト発表記者会見にお集まりいただき、まとこにありがとうございます。本日、わたくしが発表したいマニフェストは、今までにない画期的なものであると自負しております。仕事に帰りなんかにですねえ、町を歩いていますと、ポケモントレーナーである若者が大いに浮かれ、はしゃぎまわっている一方で、職を失い、生活が困難となっている高齢者の方がいる。この国はですねえ、わたくしが思うに、トレーナーに税金をかけすぎじゃないでしょうか。もう少し税金を平等に回すべきではないでしょうか。そこでですねえ、今回わたしくが提案するマニフェストはこちら、『ポケモントレーナーにかける費用の削減』。これを主軸にしたものとなっております。
 さっそく一つめのマニフェストの発表にまいります。こちらです。「投げたボールを、拾って再度使用することの徹底」。モンスターボールというものは、フレンドリィショップ等で手軽に購入することができるのですが、これには非常に多くの税金が費やされている。すなわちトレーナーは非常に安い値段で購入できるのです。にもかかわらず、大半のトレーナーはポケモンに当たらなかったボールを、拾ってもう一度使用するということを致しません。恐らく、拾うのが面倒なのでございましょう。しかし、これは非常にもったいない。なのでここでこの法令を提案いたします。この法令を破った場合、懲役百年以下の罰金が科せられることも検討しています。
 続いてのマニフェストを発表いたします。「傷薬を一回で使いきることの禁止」。傷薬もですねえ、モンスターボールと同様に多大な額の税金が費やされている訳ですけれども、しかしですねえ、多くのトレーナーが傷薬を一回で使い果たしてしまうのです。自分の大切なポケモンが傷ついているからしょうがないと言い訳をしてですね。これは非常にもったいない。このようなことはあってはならない。なのでここでこの法令を提案いたします。この法令を破った場合、懲役四百年以下の罰金が科せられることも検討しています。死後もあの世で支払っていただくということですね。
 続いてのマニフェストの発表にまいります。「ポケモンセンターの有料化」。トレーナーはポケモンを回復させる際、ポケモンセンターを利用する訳であります。トレーナーにとってポケモンセンターはなくてはならない存在。従ってこれを有料化させない手はない。具体的にどのように有料化するかというと、ポケモンを一匹回復させるごとに十円、状態異常になっているポケモンならプラス二十円、瀕死のポケモンならプラス五百円となっております。しかしこれでは、トレーナーが余りポケモンを回復させず、必要以上にポケモンを苦しめてしまうのではないか、という問題が起こる可能性もあります。そこでですね、このような対策を取ります。「ポイントカード制の導入」。傷ついたポケモンを回復するごとに、ポイントカードにスタンプが一回押される。スタンプが十ポイント溜まったなら、素敵な景品と交換できる。このようなシステムを導入すれば、トレーナーは頻繁にポケモンセンターを利用することと思われます。
 その他にも様々な政策を用意しています。バトルを行い、公共施設を破壊した場合の損害賠償の増額。ジムリーダ及び四天王の給料を八割削減。バトルで勝ったときの賞金をお母さんに少し送らせず、国に送らせる。等がございます。
 


 記者会見が終わったとき、開場から盛大な拍手が沸き起こった。男は意に満ちた表情を浮かべた。
 男は会場から去って行った。外に止めてあった高級車に乗った。運転手に指示を出し、予約した高級レストランへと向かっていった。彼は運転手と談笑していた。やがて、口元に笑みを添えつつ、彼はこのように言ったのだ。
「分かりますよね。高齢者に税金なんか回しませんよ。トレーナーから取りたいだけです」


  [No.1146] 5、迷信とこじつけ 投稿者:逆行   投稿日:2013/10/11(Fri) 22:57:02   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 この橋から食べ終わったポケモンの骨を流すと、肉体を付けて戻ってくる。すなわち生き返る。そんな話を聞いた。しかし、そんなこと本当にあるのだろうか。死んだ者が生き返るなんて、普通に考えればありえない。だが、普通が通用しないのがポケモンだ。私はそれを、これまでの旅で身を持って体感した。だが、肉体を付けて戻ってくるとして、その場合魂はどうなるのだろう。それは依然と同じものか。あるいは別か。肉体がどうやってまた付加されるのか。自己再生の上位互換的なものが、ポケモンには使えるのだろうか。流石にそれは無いか。
 考えても分からない。分からないことを何時までも考えていても仕方が無い。見たいものは見れた。さっさと帰ろう。そろそろ日も暮れる。このあたりは野生のポケモンも多い。暗くなると、どこから襲ってくるか分からない。手持ちの体力も残り少ない。出来るだけ逃げ続けてここから去りたい。
 

 
 ポケモンセンターまで戻った。かなりお腹が空いていたので、ポケモン達をいったん預けた後、直ぐに食事をとった。知っている人が多いと思うが、ポケモンセンターでは無料で食事が食べられる。ただしトレーナーに限る。これには反対の声も多かった。そこまでトレーナーに税金を回すなと。しかし、結局反対の声は黙殺された。私としてはもちろんうれしい。
 少し経って、コイキングを使った魚料理が出てきた。それは美味しそうなにおいを出している。眼玉はあらかじめ取り除かれていた。赤い皮膚は非常に柔らかく、箸がすんなり通った。詳しくは知らないけれど、コイキングは元々固くてとても食べられなかったらしいが、しかし最近は何らかの方法で柔らかくしているらしい。その方法が広まってないことを考えると、あまり気持ちのいいことではないのかなと思われる。
 それはさておき、いつからだろうか。ポケモンが普通に、食事として出されるようになったのは。昔はそんなこと有り得なかった。昔は料理にポケモンは使われず、木の実などの植物を使ったものばかりであった。それではタンパク質が不足してしまうと心配する人もいるかもしれないが、そこはご安心。大豆というたんぱく質豊富な植物がある。肉を食べないので今より少し痩せている人が多かったが、それでも特に問題は無かった。誰も不足していなかった。
 そしてその時代にも、ポケモンは食べられていた。しかし、また一般的はとても無かったのだ。ポケモンを食べていた人達は基本的に嫌われていた。ポケモンを食べない人々にとっては、彼らが残酷な存在に思えたのだろう。とは言え、彼らを文字通り喰い止めようとするものはいなかった。一般の人々は彼らを毛嫌いしつつ、自分は自分、他人は他人と分別を付けていた。
 しかし、ここで転機が訪れた。少し前、プラズマ団という組織が、ポケモンを解放させようとしていた。具体的には、人の集まる場所で演説を行ったり、ある者はチャンピオンを倒して自分達が正しいことを証明させようとしたり、あるいはもっとストレートに、ポケモンをトレーナーか奪い取って逃がしたりしていた。私は何を馬鹿なことを、と彼らの行為を冷めた目で見ていた。しかし、プラズマ団の思想に共感し、やがてその通りにする人も多かった。
 こんな状況の中で、あることが大きく問題になった。ポケモンを食べることについてだ。プラズマ団は、ポケモンを戦わせたり、ボールに閉じ込めたりするのがかわいそうだから、解放しろと主張していた。だったら、食べている人達なんかどうなるのだ、ということである。それはもっと悪なことではないかと。プラズマ団の思想に毒されていた人達は、そう考え出したのだ。ポケモンを食べるのを法律で禁止しようという話も出てきた。世の流れは、確実にそっちへ引っ張られていた。ポケモンを食べる人を嫌うだけでなく、完全に弾圧しようという流れになったのだ。
 ところがである。プラズマ団がポケモンの解放を諦めた。そして解散してしまった。そうなれば、民衆の中に動きが起こる。やっぱりポケモンは人間の傍にいるべき。ポケモンを戦わせることの何が悪い。そんな思想が戻ってきた。しかし、戻っただけでは終わらなかった。ここで新たな思想が湧き出た。
 ――ポケモンを自由に使っていいなら、ポケモンを食べることだって悪くはないだろう。
 これは開き直りというべきか。それとも思想のからくりというべきか。プラズマ団のやったことは、最終的に人々のポケモンに対する憐みの心を、逆方向へと引き伸ばしたのである。
 こうなってくるとそこからは早い。ポケモンを食べても構わない。そう考える人は次第に増えていく。食卓にポケモンの死骸が堂々と並ぶ。そしてついにはポケモンセンターというポケモンを回復させるための施設でも、ポケモンを使った料理が出されるようになったのだ。
 そして私もポケモンを食べるようになった。始めは抵抗があった。箸で刺すことさえ躊躇した。しかし、今では何も考えず食べることができる。私は意外も適応が早かった。私も世に流されやすいタイプなのかもしれない。プラズマ団の思想に洗脳された人々を軽蔑していたが、結局の所私も同類なのかもしれない。
 ポケモンを川に流すと、骨を付けて戻ってくる。色々考えたが、たぶんそれは嘘だろう。しかし、それを本当のこととしたい気持ちも、分からなくはない。ポケモンを食べる罪悪感を少しでも減らすためには、そう考えるのが最適だ。昔の人はそう思ったのだろう。ポケモンと共存すると同時にポケモンを食べる。その矛盾しているんだがしていないんだか分からない行為を正すために、いくらでも迷信を作製する。そしてそれを信じる。それは今でも変わっていない。
 


  [No.1147] 6、わるあがき 投稿者:逆行   投稿日:2013/10/11(Fri) 22:58:19   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 夜空に輝く星達は、体を燃やして輝いて、それでも悲鳴を一切上げず、ひたすら無言で点在する。いや、違う。彼らの悲鳴は、ここまで届かないだけだ。本当は激しく喚いていて、周りの燃えていない星共から、憐みを視線を浴びされている。同情するなら火を消して。そう言いたいのは山々なのに、彼らは言うことを許されない。だって、そんなことを言ったら、途端に視線の色が反転し、批難の視線を向けられるから。星は光を届かせるのに果てしない時間を使うから、その星は既に消えている。死んでいる。なんて報われない死に方だろう。星が綺麗だなんて、あれは嘘だ。彼らの苦痛までは知らないから、みんなにっこりと笑いつつ、人差し指で正座を結べるのだ。
 もうすっかり夜だ。早く帰りたい。暗いとあいつらの、姿が見えずらい。夜は危険だ。どのくらい危険かと言うと、それは明確に数値化できない。分からない。そんなに心配しなくでも実はいいような説も、自分の中で立てている。しかし、用心するに越したことはない。私は、歩く速度を少し早めた。走りはしない。そこまでじゃない。私は中途半端に心配症であった。
 しかしながら、だった。どうやら帰るのが遅くなりそうだ。と言うか、それどころでは無い。目撃してしまった。白一色である筈の雪のカンパス。しかしそれの数カ所が、濃い赤でべっとりと塗られているのを。赤い絵の具の正体が血であることは、誰の目から見ても明らかだ。束の間に感じた絶望。平穏な日常をまた破壊される。私は駆けた。血が続いている方向へ。あふれる汗を飛ばしながら。暴れる心臓を抱きかかえながら。
 不意に、痛い程冷たい風が吹いた。丁度その時、見つけた。血によって創造された道。その行き止まり。そこには、予想通りの光景があった。寸分の狂いも無く、呆れる程に。不幸な予想はだいたい当たる。感覚的にも。種族の特性的にも。それでも、予感を裏切ることが起きて欲しい。そう願わずにはいられない。
 率直に言うと、仲間が倒れていた。息の無い状態で。
 体中は切り傷だらけ。特に足の傷からは、激しく流血。血は今も止まって無く、雪を只管に溶かしていく。白い毛皮はぼろぼろで、顔は醜い痣だらけ。そして、種族の象徴であり、惨劇の元凶でもある長い角。それは丁度真ん中で、ぽっきりと折れている。今まで何匹もの、仲間の死体を見てきた。けれども、これだけ悲惨なのは初めてかもしれない。痛め付けられて殺されたか。あるいは激しい抵抗の結果か。どちらにせよ、酷い。目を背けたくない。死体からも。現実からも。


 
私たちの種族の名は、アブソルという。
 結論から言うと、アブソルは人間に嫌われてる。しかも、尋常でないレベルで。人間はアブソルを見つけたら、すぐさま殺してしまう。何も躊躇も情けもない。彼らは残酷だ。彼らは怪獣だ。彼らは銃を持っている。遭遇したら、それで殺す。哀しむ余裕もないほどすぐに。
 なぜアブソルが、嫌われているのか。アブソルは、災害を余地する力を持っている。地震や津波などの災いが起こると、角が勝手にピクピク反応する。昔、とある一匹のアブソルは、災いが起きるのを人々に知らせていた。人々は、山から降りてきたアブソルを見て、慌てて避難を開始する。そうして人々は、被害を最小限に抑えられた。それは、何回か繰り返された。彼は災いが起きる度に、人間の集落に行って吠えた。いかなるときでも、それを怠ることはなかった。彼には良心があった。彼は良心の塊であった。
 問題はここから。惨劇の前兆を伝えたアブソルは、人間たちから称えられる。普通ならそうなると考えるだろう。しかし、そうならなかった。人間は勘違いをした。アブソルのせいで、災いが起こったと思った。アブソルには、災いを起こす能力があると考えた。そして、彼らは災いの元を消そうとして、アブソルを殺し始めた。知らせたアブソル意外も。やがてアブソルは、全滅した、と人間は思った。けれども、まだ残っていた。生き残ったアブソルは、山の中でひっそりと繁殖し続けた。
 それから、百年も経った今。まだ誤解は解けていない。人間たちは依然として、アブソルを殺し続けている。それでもたいぶ、落ち着いてはきたらしいけれど。
仲間が殺される度に、次は我が身なのでは無いかと、怯える気持ちが倍増する。しかしそれと同時に、もうどうでもいい。死んだってかまわないという気持ちも芽生えてくる。何をやっても無駄だ。仮に生き残れたとしても、逃げ続けるだけの生き方なんて、死んだ方がましだ。じゃあ人間を倒せばいい? どうやって人間と戦えばいいのだ。私一匹の力ではどうにもならない。仲間と協力? アブソルは連帯感の弱いポケモンだ。一匹オオカミだ。強力なんてできるわけがない。
 どうしようもない。もうどうでもいい。こういう感情を、虚無と言うらしい。一種の病気見たいなもので、心の中が空っぽになり、周りの景色が灰色に見える。そして死にたくなる。
 恐怖と虚無。この相反しているようなしていないような二つの感情が、自分の中でひしめき合っていた。
 

 
次の日。太陽の日差しが眩しい昼ごろ。何やら外が騒がしかった。雪道を激しく駆けて行く音が、幾多にも重なって聞こえてくる。早くしろ! と誰かが叫んでいた。私は住んでいる洞窟から出た。すると仲間がみんな、北へ向かって必死の形相で逃げていた。何があったのだろう、と単純な疑問を持つことなく、私は状況を瞬時に理解した。人間が襲ってきたのだ。予想はしていた。そのうち人間はやると。アブソルを一斉に駆除してくると。
 つい最近、大規模な地震が発生した。この地震では津波が発生し、多くの家が流されていた。山の上から見て、思わず息を飲んだのを覚えている。仲間のアブソルの一匹は、ざまあみろと笑っていた。流石に私は笑えなかった。笑うのが正しいのかもしれないけれど、笑えなかった。そして、また別のアブソルは、ひどく不安気な顔をしていた。人間たちはいずれ、この地震をアブソルのせいにし、やがて一斉駆除をしてくるかもしれない。彼は仲間たちにそう言っていた。彼の言葉に、みんなが震えた。笑っていたアブソルも、表情を急に引き締めた。
 私も同じく不安に思った。最近、殺される数が増えてきたのは、その前兆であることは分かっていた。試しに何匹か殺してみようと思ったのだろう。だから、今日までそれなりに用心してきた。でも、それなりの用心だった。徹底はしなかった。
 後悔しても、もう遅い。
 すぐに私は逃げた。みんなに合わせて、北の方角へ逃げた。こっちに逃げるのが、最善なのだろう。人間は、南から追ってくるのだろう。いよいよか、と思った。体がぞくぞくした。心もぞくぞくした。果たして私は、生き残れるだろうか。
 人間は、すぐ近くまで来ているようだ。その証拠に、銃を打つ音が聞こえてくる。しかも音が大きい。逃げる途中、全身から汗が滝のように沸く。怖かった。これまでに一度、似たようなことが起こったことがある。しかしそのときは、私は早めに逃げており、人間は遠くの方にいたので、死への恐怖は小さかった。それに、私はそのとき幼かったので、死というものを良く知らなかった。今回はまずい。死が近くにあり過ぎる。今は死について良く知っている。いや、まだ大丈夫。このまま逃げ切れば大丈夫。人間は足が遅いから。そう自分に言い聞かせ、恐怖から逃れようとした。果たして効果はなかった。やっぱり、怖い。私は足が震えないことを心から祈った。私の恐怖感は、足に伝わりやすい。足が震えたら、走ることなんてとてもできない。
 しばらく走った。すると、何やら不可思議なことが起きた。銃の音がうっすらと、北の方から聞こえてきたのだ。まさか、もしかしたら。嫌な予感がした。その後すぐに、何匹かのアブソルが、北からこっちに走ってきた。しかも、必死の形相で。
 どうしてこう、嫌な予感は的中するのか。
 人間は、北からも追いかけてくることが判明。私はパニックになるのを、必死でこらえた。板挟みになってしまった。逃げる場所がない。数匹の仲間たちは、既にパニックに陥っていた。同じ場所を、行ったり来たりしている。無視をして先に進んだ。今度は、西の方角に逃げた。東はなんか嫌な予感がした。西から人間が来る可能性。それも十二分にある。だとしても、もはや運命に委ねるしかない。
 しかし、だった。運命は信仰を遮った。数匹のアブソルが、道端に倒れていた。血だらけの状態で。そのほとんどが、死んでいた。助けて、と掠れる声で言ってくる者も一匹いた。
 いよいよ、絶望の淵に立たされた。死はもうすぐ隣で遊んでいる。東に逃げればよかったか。自分はもう、囲まれている。どうやって脱出しようか。
 数秒経つこともなく、一人の人間が現れた。同時に、私の恐怖が頂点に達する。人間が手に持っている物は銃。それは、黒一色に光っていた。恐怖感に拍車を駆ける色合いだ。
 即座に逃げようとした。けれども、それはできない。できないできない。恐れていた事態が、きた。私の足は、震えていた。私は、銃口を見上げられるだけ。一歩も動けない。
 私は泣き叫んだ。泣けば人間は、見逃してくれる。そんな、馬鹿な期待をした。もちろん人間は容赦ない。すぐに私に銃を向けた。迂闊な迷いも見せなかった。
 いやだ。いやだ。いやだ。死にたくない。死にたくない。死にたくない。私は死を覚悟出来なかった。最後まで見っともなくもがいた。泣き叫んだ。そして、弾を打つ音が聞こえた。
 
 その刹那。
 白い影が現れた。
 それは、私を突き飛ばした。
 私の変わりに、銃弾を喰らった。
 
 何が起きたのか。すぐには、理解できなかった。私は生きている。そして、私の上には、一匹のアブソル。そこで分かった。私は庇われたのだ。
 そのアブソルはまだ死んでいなかった。弾はかすっただけで済んだらしい。しかし彼の腕から血がポタポタ垂れている。彼はすぐに立ち上がって一言、
「早く逃げろ!」
 私はそのとき、何て思ったのか。嫌だ、逃げたくない。庇った人を見捨てて、私だけ助かりたくない。そう思うのが、普通なんだろう。しかし、そうは思わなかった。

 白状。
 卑怯者。
 私は逃げた。

 逃げる途中で私は、凄まじい罪悪感に襲われた。せめて逃げてもいいから、もう少し悩むべきだった。私はすぐに決断してしまった。怖かったから、反射的に逃げた。それだけだった。
 その後私は、罪悪感に耐えきれず、すぐにあの場所に戻った。しかし、少し戻ってまた逃げようと思っていた。少し体ごと迷わせることで、多少罪悪感を減らそうとした。やっていることは、結局同じである。
 彼はいた。まだ人間と戦っていた。はひどく雄叫びを上げ、勇敢にも銃という危ないものを持っている人間に立ち向かっていった。彼は凄まじかった。もう死ぬ直前なのに、体の至るところから血が噴き出しているのに、彼の闘争心は消滅しなかった。最後まで、銃で打たれ体が完全に動かなくなるまで、抵抗していた。体が動かなくなってからも、彼は叫んだ。徹底的に、最後まで、人間に、いや人間達に抵抗した。
 私はそれに感銘を覚えた。文字通り覚えた。目に焼き付けた。
 私がやるべきことが分かった。最後まで人間に足掻く彼は美しかった。彼のようにするべきなのかもしれないと思った。
 私に内在していた、虚無感が消えた。彼には助けてもらっただけでなく、大事なことを教えてもらった。 
 
 

 数日後、私は人間から逃げていた。
 目の前の人間は、凶暴な獣型のポケモンを数匹つれながら、自らも銃を所持していて、私を容赦なく殺そうとしていた。途中足を撃たれてしまった。今もなお体に激痛が走っている。体力も尽きてきた。
 逃げ場が完全に無くなった。周囲を囲まれた。人間は銃を構えている。私は人間を睨み付けた。思いっきり睨み付けた。そして吠えた。精一杯の憎み、哀しみ、辛さ、全ての感情を篭めて吠えた。全力の悪足掻き。人間はそんな私に躊躇がない。私はまた打たれた。今度は腕だ。あまりの痛みに思わず悲鳴を上げる。しかし、まだ抵抗はやめない。最後の力を振り絞った。流血している足に力を入れた。全身の毛を余すこと無く逆立てた。鼓動が嘗て無い程速くなった。風を切るように思いっきり、人間の顔面に向かって飛び掛かった。


  [No.1148] 7、連帯責任 投稿者:逆行   投稿日:2013/10/11(Fri) 22:59:04   76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 薄暗くて汚い所で、僕は目を覚ました。
 ゆっくりと辺りを見回してみる。どうやらここは、ゴミ捨て場のようだ。思わず鼻をつまみたくなるぐらい臭いごみ袋が、電池が切れかけている蛍光灯に照らされている。後ろを振り返るとごみ袋の回収日が書いてある看板があった。
 自分の体を見てみると、全身真っ黒だった。口にチャックが付けられている。一・.五頭身くらいの大きさだろうか、。手足は短く、尻尾は黄色い。
 僕の頭の中には、何故このような姿になったのか、それに関する知識が自動的にインプットされていた。僕は昔人形で、人間に扱われていた。しかしあるとき、人間に捨てられてしまった。ごくまれに捨てられた人形は、ジュペッタへと姿を変え、意識を得ることがあるのだ。
 ジュペッタになった僕の心に最初に蹲った感情は、捨てた人間に対する恨みの感情だった。すぐさま人間に復讐する行為に出ようとした。記憶の深みを探ってみた。人形であった時期の思い出が、徐々に引っ張り出されていく。やがて僕は、誰が捨てたのかをはっきりと思い出した。僕は一人の女の子に扱われていた。その子の父親の会社が転勤になり、引っ越すことになった。そのときに、引っ越すときの荷物をなるべく減らそうとし、僕は捨てられることになったのだ。既に僕という存在に飽きていた女の子は、特に反対することはなかった。
 僕の中に負の感情が泉のように沸き上がり、復讐を躊躇う気持ちを掻き消していった。僕はシャドーボールが使えた。これを使って復讐しようと決めた。人間を痛め付け、あわよくば殺してしまおうと思った。
 一度決めたらもう揺るがない。迷わない。まっさきにゴミ捨て場から出て、その家に向かった。道のりは全て覚えている。人形であったときの記憶は、既に完璧にインストールされていた。
 歩いていくこと五分。家が見えてきた。現在夜ということもあり、家の周りは静かで人気もポケモン気も全くない。集中して復讐ができる環境が整っていた。復讐する人間以外には、被害を出したくない。悪いのはあいつらだけなのだ。
 家の前に立った。ジュペッタの身長ではドアノブに捕まることはできず、しかたなくドアを破壊することにした。脳と手に集中を混めて、黒い球体を作り出した。それをドアに思い切りぶつけてやった。
 しかしながら、それはわずかな爆風を巻き上げるのみで、ドアを破壊するには至らなかった。どうやら僕のシャドーボールは、そこまで威力がないらしい。
がっかりしている暇は無く、すぐさまどうするか考えた。ここでしばらく待っていようと決めた。朝になれば、人間は向こうからドアを開けてくる。
 僕はそのままドアの近くで眠ることにした。本来夜行性であるがゆえ、あまり眠りたくなかったが、少しでも体力を蓄えとこうと思ったのだ。



 夜明けより少し早く目覚めた僕は、待ち伏せを開始した。さあ早く来い。我が復讐心は頂点に達している。
しかし、いつまで経ってもドアは開かない。家の中から声もしない。おかしい。
 太陽が真上まで上った頃、僕は自らの恐ろしく間抜けな過ちに気が付いた。奴等は引っ越していたのだ。ここにはもういない。出て来ないのは当然だ。何故今まで気が付かなかったのだ。アホか。アホだろう。時間を大幅に無駄にしてしまった。
 困った。これでは復讐することができない。非常に悔しく感じ、負の感情が更に高まる。このままでは収まらない。負の感情をどこかで吐露しないと苦しい。そこで僕はあることを思いついた。
 別にこの人間でなくても構わない。誰でもいいのだ。僕がこうして捨てられたのは、物を大切にしない人類全体のせいだ。すなわち、僕は人類であれば誰に対してでも復讐する権利がある。そうだ。そうに決まっている。
 僕は隣の家の前に行った。その家の人達に復讐しようと決めた。ドアが開くまでしばらく待った。数分経過し、いよいよ現れた。一人の人間が。その人はひょろりとした男性で、明らかに弱そうだった。これならたやすく倒せるだろう。僕は再び、脳と手に集中を込めた。
 数分後、ボロボロの体を引きずりながら、僕は暗い夜道を歩いていた。死んでもおかしくなかった。明らかに奴は殺すつもりだった。目が本気だった。
 シャドーボールを放とうとした瞬間、僕の存在に気付いた人間は、瞬時にボールからポケモンを取り出した。ヘルガーというポケモンで、そいつは口から灼熱の炎を吐いた。僕は焼かれた。黒こげになった。元から黒いから、色は変わっていないが。次にヘルガーは僕の体を噛んだ。鋭利な歯は僕の体に深く食い込み、僕は凄まじい苦痛により叫んだ。もうやめてくださいと懇願した。けれどもヘルガーは止めなかった。一瞬の隙を突き、なんとか僕は逃げ出せた。奴等は追ってきたが、しばらくたって諦めたらしく、家に帰って行った。 
 駄目だ。人間は強すぎる。否、彼らが強すぎるのではない。彼らのポケモンが強すぎるのだ。
 どうしよう。これでは人間に復讐できない。このままでは膨れ上がった負の感情に潰されてしまう。そこで考えた。別に人間じゃなくてもいいのではないだろうか。復讐の対象をポケモンに切り替えるのもありか。そうだ、それもいい。だってポケモンは、人間のいいなりになっているのだから。ポケモンは人間の仲間なのだ。僕が捨てられたのは人間のせいであり、人間の仲間であるポケモンに復讐するのは、決しておかしいことではないだろう。そうだ、そうに決まっている。
 


数日後、ようやく傷が治った僕は、いよいよ復讐を実行しようとしていた。街から飛び出し、草むらの中をひたすら歩き回った。復讐がしたい。その一心で、目を鬼のようにして、ポケモンを探し続けた。そして、ようやく見つけた。
 コラッタという小型のポケモンがいた。よし、これなら僕にも勝てそうだ。心の中でガッツポーズをとりつつ、いつものように脳と手に集中を込め、シャドーボールを放った。復讐心が限界まで溜まっていたせいで、以前よりもシャドーボールは大きなものになっていた。そのままコラッタの所まで飛んで行った。
 しかしだった。
 予想外の事態が起きた。
 シャドーボールはコラッタをすり抜けた。そのまま飛んで行って、やがて木に衝突して爆風を起こした。コラッタは、ダメージを受けたような素振りは見せない。ただ不安そうな表情をしつつ、体を震わしている。僕は目を丸くした。チャックが開いていたら恐らく口がポカーンと開いていただろう。
 違う技も試してみた。ナイトヘッド。舌でなめる。全部駄目だった。何故だ。何故だ。何故だ。
 とうとうコラッタは逃げ出してしまった。僕は途方に暮れていた。
 気が付くと、大勢のポケモン達に囲まれていた。その中には、さっきのコラッタも含まれていた。皆、攻撃的な目をこちらに向けてきた。僕には逃げ場がなかった。一斉に攻撃を受けた。僕は目の前が真っ暗になった。



 目を覚ました。僕はなんとか生きているようだった。体を見るとひどい傷だった。しかし痛みを感じない。恐らく、もうすぐ死ぬのだろう。
 溜まりに溜まった負の感情は、涙となって外に溢れだしていた。もう屈辱しか残っていない。僕は完全なる敗北者だ。
 捨てた人間に復讐しようとしたけどできず、別の人間に復讐しようとしたけどできず、別の生き物に復讐しようとしたけどできず、まったく散々である。
 このまま死ぬのは嫌だった。誰でもいい。誰でもいいから、復讐がしたい。ここから動くことはできないが、まだなんとか、最後にシャドーボールを放てる力は残っている。
 僕は考えた。最後の手段を思いついた。ポケモンに復讐できないのなら、自分に復讐すればいい。僕だってポケモンの一部なのだ。僕が捨てられたのは人間のせいであり、人間の仲間であるポケモンに復讐するのは、決しておかしいことではなく、そしてそのポケモンの一部である自分に復讐することもまた、おかしいことではないだろう。そうだ、そうに決まっている。
 僕は残った力を振り絞り、脳と手に集中を込めて、黒い球体を作り出した。それはひどく小さかったが、瀕死の獲物に止めを刺すには十分過ぎる代物だった。
 さあ、シャドーボールよ。愚かなこの生き物に征伐を加えてやってくれ。そして僕の復讐心を存分に満たしてくれ。
 シャドーボールは放たれた。すぐに真近の獲物に直撃した。

 効果はばつぐんだった。
 


  [No.1149] 8、光沢体の心情 投稿者:逆行   投稿日:2013/10/11(Fri) 23:00:04   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 彼の傍に居られるのは、後どれくらいだろうか。
 それについて思考を巡らす度に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。ような感じがする。だから出来るだけ、思考を止めるようにしている。それでもやっぱりたまに、思考が疼いてしまう。暴れてしまう。
 もうすぐ私は捨てられる。そう予想している。たぶんその予想は的中する。捨てられるのは嫌だ。私はあの人と、ずっと一緒にいたい。もっとあの人を見ていたい。
 あの人は、とっても優しかった。私の丸い体を、汗を拭いながら磨いてくれた。ピカピカにしてくれた。私が壊れてしまわぬよう、大切に扱ってくれた。あの人はもうおじさんだけれど、私はあの人のことが大好き。
 あの人は、近所の人から嫌われている。彼が出かけると同時に、数個の笑い声が聞こえてくるのだ。何故近所の人は嫌うのか、分からない。あんなにいい人なのに。恐らく、嫌っている方がおかしいのだろう。狂っているのだろう。 
 あの人は、いつも朝早くに起きて出かける。そして、夜遅くまで帰ってこない。いったい何をしているのだろう。仕事だろうか。だとしたら、どんな仕事をやっているのだろう。全く情報が入ってこない。彼は帰ってくると、すごく疲れ切っている。すぐに蒲団に入ってしまう。私のことなんか、見る暇もなく。私はあの人のことが大好きなのに、ほとんど一緒の時間を過ごせない。
彼と話せるようになりたい。私はそう考えて、一生懸命話す練習をした。彼の話している言葉を聞いて、それを真似することから始めた。けれどもなかなか声が出なかった。やっとの思いであるとき、声を出すことができた。しかし、彼は気が付かなかった。一瞬振り返っただけだった。声が小さすぎるのだと知った。大きい声を出そうとしたけれど、これ以上無理だった。
私には、私と同じような状況になっている仲間がいた。私達は玄関に並べられていた。仲間はたくさんいたけれど、徐々に減っていってしまった。あの人は出かけるときに、仲間を持ち出していくのだ。そして持ち出された仲間は、二度と帰ってこない。 
 あの優しかった彼が、仲間を捨てるなんて。最初は信じられなかった。けれども、その悲劇は幾度となく繰り返されるから、結局信じるしかなかった。
 次に捨てられるのは自分じゃないかと、毎朝怯えていた。あの人が、私意外を持ち出すのを見て、正直毎回ほっとしていた。しかしどの道、いつか捨てられる日はやってくる。
 私は必死に叫んだ。彼は振り向いて、何やらびくびくした。彼は私が話しているとどうしても気が付かない。
 どうしたら捨てられないか、必死に考えた。あの人に好かれればいいんだと結論を出した。私がもっと輝けばいい。しかし、輝ける方法は分からない。自分で自分の体を磨くことは、出来なかった。私は無力であることを悟った。
 気がつけば、仲間はみんないなくなっていた。私独りになっていた。最後に残されたということは、一番あの人に好かれていたのだろう。それはうれしかった。けれども、これから起こる悲劇を考えると、とても喜ぶことは出来なかった。
 今日はあの人が、早めに帰ってきた。あの人が私の前に来た。磨いてくれることを期待した。けれどしてくれなかった。変わりに彼は話してきた。「ようやくこれで最後か」。やはり私は捨てられるのだ。特別扱いなんてなかった。
 次の日、彼は私を連れて出かけた。胸が苦しくなった。ような感じがした。泣きたかった。けれども、涙は出なかった。一滴も零れることはなかった。
 終わる。終わるのだ、彼との時間が。
 少し経って、私が取り出された。「ふう。あと一つか。最近変な声がこいつらからたくさん聞こえて来たし、幽霊にでも憑りつかれているのだろう。まったく恐ろしい。捨てたら余計呪われそうだし、はやく誰かにあげなくては」。小さな声で呟いた。
 やがて彼の近くに、十才くらいの男の子がやってきた。彼はその男の子に向かって、私を差し出しながら、にっこり笑い、良く分からないことを説明した後、大きな声でこう言った。



「これはおじさんのきんのたまだからね!」