「……ほう」
「どうかしましたか?」
5月14日の金曜日、午後。試験は午前中に終了し、自主勉強をする一部の殊勝者を除いて皆帰ってしまった。残ったのは教師一同で、試験の採点や雑務、授業の準備などを行っている。俺はこうして採点というわけだ。
そんな中、ナズナが俺の顔を覗き込んだ。机が隣だからそういったことも容易なのだ。俺は1枚の紙を示し、説明した。
「平均点が上がっている。半分をようやく超えてくれた」
「どれどれ……ほんとだ。先生が担当したクラスだけやけに高いですね」
紙にあるのは試験の結果だ。本当は見せるべきではないらしいが、同じ学年を受け持つから大丈夫だろう。問題はそこではなく結果で、俺の指導するクラスは他より10から15点ほど上を行っているのだ。俺は、さも当然といった口ぶりで話す。
「まあな、独り立ちした生徒が1人現われるだけで随分変わるもんさ。それがまさかターリブンになるとは思わなかったが」
「へえ、何点だったんですか?」
「俺の口からは言えんな、個人情報の流失になる。……おっと、点数が見えていたな」
俺は先ほどの紙を裏返しにした。あいつは学年でもトップクラスの87点だったが、お調子者のターリブンのことだ。あちこちに言いふらすから俺が言う必要もあるまい。……そう言えば、忘れないうちに伝えとくか。
「ちなみに、あんたは60点だったぜ」
実は、彼女にも同じ問題を受けさせていたのだ。今回は少し辛口に作ったから上出来、と言いたいところだが、仮にも教師だからな。まだまだ、こんなものでは困る。
「う、道は険しいですね」
「まあな。一朝一夕で結果が出たら他の奴らの立場がねえ。そのことはあんたもよく分かっているだろ?」
「そうですね。それにしても、生徒の成績向上には何か理由があるんですか?」
不意に、彼女が俺に尋ねてきた。おいおい、飯の種をそう簡単に言いふらすとでも思ったのか? まあ、1つくらい教えてもまだまだノウハウは残るし、教えとくか。
「簡単な話よ、編入をちらつかせただけだ」
「編入?」
「そう。この学校、成績優秀者を進学クラスに編入できるようになっている。俺はただ、『編入できれば、誰かさんはお前を見直すだろうよ』と言うだけで十分だったさ」
「……すごく欲求に忠実なんですね」
あまりに単純な話に、ナズナも困惑気味だ。こんな物語のキャラみたいな奴なんてそうそういねえし、ある意味正しい反応だ。
「だな。だが、動機は不純でも構わんさ。あんたもしっかり勉強してくれよ」
「もちろんですよ。テンサイさんがぎっくり腰になるくらいの成果、すぐに出してみせますから」
「はっは、そりゃ楽しみだぜ」
俺はひとしきり笑うと、また仕事に戻るのだった。今日は早く帰れそうだし、一気に仕上げるか。
2学年1学期中間試験 数学 解答
1.以下の問いに答えよ(各6点)
(1)X=1,(-1±√3i)/2
(2)0
(3)5
(4)X=-3
(5)X^2+(Y-1)^2=8
(6)-2X+4Y=20
2.
条件より、-(α+β+γ)=0,αβ+βγ+γα=1,-αβγ=10
この時、求める方程式の解は1/α,1/β,1/γだから、
-(1/α+1/β+1/γ)=1/10,1/αβ+1/βγ+1/γα=0,-1/αβγ=1/10
よって、求める方程式は
10X^3+X^2+1=0
3.
Pの座標をpとすると、
p={3*(-5)+5*11}/(5+3)=5
Qの座標をqとすると、
q={(-11)*(-5)+7*11}/(7-11)=-33
よって、PQの中点の座標は
(5-33)/2=-14
4.
頂点の座標をそれぞれA(a,b),B(c,d),C(e,f)とする。また、中点の座標をそれぞれP,Q,Rとし、これらがそれぞれAB,BC,CAの中点であるとする。この時、
(a+c)/2=-1,(c+e)/2=0,(e+a)/2=2,
(b+d)/2=-1,(d+f)/2=1,(f+b)/2=-2
となる。これらを解くと、
a=1,b=-4,c=-3,d=2,e=3,f=0
ゆえに求める座標は(1,-4),(-3,2),(3,0)
5.
3X-2Y+4=0…1 aX+3Y+c=0…2とする。これらを変形すると、
1式はY=(3/2)X+2、2式はY=(-a/3)X-c/3となる。
(i)ただ1組の解を持つ時、直線の傾きが異なればよい。
よって3/2≠-a/3すなわちa≠-9/2
(ii)無数の解を持つ時、直線が一致していればよい。
よって3/2=-a/3,2=-c/3すなわちa=-9/2,c=-6
(iii)解を持たない時、直線の傾きが等しく切片が異なればよい。
よって3/2=-a/3,2≠-c/3すなわちa=-9/2,c≠-6
6.
(1)
直線の方程式を変形すると、X=(-3/4)Y+5/4となる。
これを円の方程式に代入して解くと、X=(32±15√3)/40,Y=(6マイナスプラス5√3)/10
よって、弦の長さは(5/4)√3、中点の座標は(9/5,6/5)である。
(2)
円の中心の座標は(-2,1)である。これと直線の郷里dは
d=|4*(-2)+3*1-5|/√(4^2+3^2)=2
また、直線との交点と中心の距離は√6である。
この時、弦の長さを2mとすると、
m=√(6-4)=√2
ゆえに、弦の長さは2√2である。
まあた、弦の中点は、円の中心を通る直線4X+3Y-5=0の法線と、直線の交 点である。
法線はY=(3/4)X+5/2である。これを解くと、
X=-2/5,Y=11/5である。
よって、中点の座標は(-2/5,11/5)である。
7.点P(X1,Y1)と直線aX+bY+c=0の距離dはd=|aX1+bY1+c|/√(a^2+b^2)であることを証明せよ。(15点)
まず、原点と直線mの距離を求める。
原点Oからmに垂線OHを下ろすと、OHはmに垂直な直線である。この直線の方程式は
bX-aY=0
これらの2直線の交点がHであり、座標をH(X0,Y0)とすると
X0=-ac/(a^2+b^2),Y0=-bc/(a^2+b^2)
よって、OHの距離は
OH=√c^2(a^2+b^2)/√(a^2+b^2)^2=√c^2/√(a^2+b^2)=|c|/√(a^2+b^2)…1
次に、点pと直線mの距離dを求める。
点Pと直線mをそれぞれ-X1,-Y1平行移動させると、点Pは原点O、直線mはそれと平行な直線m'と一致する。
直線m'の方程式は
a{X-(-X1)+b{Y-(-Y1)}+c=aX+bY+(aX1+bY1+c)=0
この時の距離は、1式より
|aX1+bY1+c|/√(a^2+b^2)
ゆえに、点P(X1,Y1)と直線aX+bY+c=0の距離dはd=|aX1+bY1+c|/√(a^2+b^2)である。
・次回予告
さて、俺達は他校との練習試合に赴いたわけだが、相手のエースは随分優秀みたいだな。とはいえ、勝負は1人でするものではない。ちったあ力を見せつけろよ、お前さん達。次回、第50話「練習試合」。俺の明日は俺が決める。
・あつあ通信vol.114
頭が爆発しそうです。私は今まで携帯電話でちまちま書いていくスタイルを採っていたのですが、機種変更でそれが難しくなったのでパソコンで書くことにしました。ところが、集中して長時間執筆にあたる経験が少ないため、とても落ち着きませんでした。執筆そのものは大丈夫でしたが、もう少し辛抱強くならないといけませんね。
あつあ通信vol.114、編者あつあつおでん