ズイ農林高等学校、略してズイ農。広大な敷地面積をほこり、飼育するポケモン数は全国屈指。ー次産業に携わることを志した若者が全国から集まってくる農林高校である。
刈り入れ期のライグラスが風にゆれ、伝書ポッポたちが訓練に飛ぶ。遠くでは、のんびりミルタンクたちが放牧されていた。そんなのどかな酪農風景に似合わない悲鳴がとどろいた。
「四号が逃げたぁッ!」
南の放牧場に面する牛舎からだ。
悲鳴に次いで、とどろいた破壊音。壁がゆらぎ、埃がもうもうと立ち上がっている。
「今日の当番、誰だっけ?」
「たしか、ハルだ」
牛舎に近いライグラス畑で刈り取り作業中の生徒が、牛舎をみた。他人事のように、のんきに話し合っている。
「だれが四号に[ころがる]を覚えさせた!?」
叫びと悲鳴と轟音から察するに、今日の牛当番であるハルが、四号に[ころがる]をされているらしい。飼育されているポケモンには、危険な技を覚えさせないようにしているのだが、誰かが覚えさせたらしい。
「ハセ先生だろ」
「あのバネブー男か」
あっけらかんと笑いながら、ライグラスを刈り取っていく。[ふみつけ]だの[とっしん]だの[たいあたり]だのを食らうのは、日常茶飯事だ。
「まぁ、ハルは不運だったってことで」
「あとで忘れじいさん、呼んでもらわないとな」
危なくって、搾乳できやしない。
笑いながら、ふたりはせっせと鎌を動かしてライグラスを刈る。刈ったライグラスは、ケンタロスがひく車で乾燥舎まで運ぶことになっている。
「いやぁ、晴れてよかったな」
「ホントに。雨降ったら、土日返上だもんなぁ」
風が吹きぬけるライグラス畑は、どこまでも広い。ライグラスをつまみ食いするケンタロスの毛が、淡く輝いている。
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《書いてもいいのよ》《描いてもいいのよ》