赤ん坊の頃の君はまだ小さくて、そしてとても無邪気で。
僕の黄色くて先端が黒い長い耳をグイグイ引っ張っちゃって。
僕の赤いほぺったを強くつかんだりして。
『これが本物だったら今頃君は電撃でシビれてるんだぞ』
と目で訴えかけても伝わることもなくて。
けれど、遊び疲れて心地良さそうに寝息を立てる君の姿に自然と微笑んでしまいそうな自分がいた。
人形なんだけどさ。
もふもふしてくれた。
愛してくれた。
君が将来、素敵な人になりますように。
君の背丈は僕の背を抜いてしまっていて。
ちょっとだけ悔しかったけど、君の成長が何よりも嬉しかった。
この頃から君は僕を庭に連れて行っては遊んでいたよね。
「そこで十万ボルトだぁ！！」
僕を泥まみれにしてはよく君のお母さんに怒られたよね。
もふもふしてくれた。
愛してくれた。
君の無邪気さがいつまでも続きますように。
僕の頭よりも遥か上に伸びていく君の体。
一緒にテレビを見てたりしたよね。
ドラマもバラエティも、そしてアニメも。
「どうして君はいつも、つかまっちゃたりするの？」
それを僕に言われても困るな……。
いいじゃないか、ロケット団にもイイところを見せてあげても。
悪役も大変なんだよ？ ……きっと。
もふもふしてくれた。
愛してくれた。
君の素直な心がどこまでもまっすぐでありますように。
いつの間にか君も結婚して子供も産んで。
それで僕はいつもその子に引きずられ遊ばれたっけ。
その子は君に負けないくらい無邪気で。
僕も年をとったからかな、すぐに綻びとかができてしまって。
でも、その度に君が繕い直してくれたんだよね。
「いつもウチの子を相手してくれてありがとね、相棒」
僕の顔も笑えてたら良かったのに。
もふもふしてくれた。
愛してくれた。
君の優しさがいつまでも温かくありますように。
しわも増えて。
白髪も増えて。
君はおばあちゃんになっていた。
よく孫と一緒に遊んでいたよね。
「あー！ また負けたぁ！！ おばぁちゃん強すぎぃー！ そこでボルテッカーは反則だよう！」
「おっほっほ。若モンにはまだまだ負けないよってのう」
僕に向かってピースを送っていた君のゲーム画面には、
僕と同じポケモンを使っていた。
昔もそして今も君が代えずに使っている、
ポケモンの人形になれたことを僕は誇りに想ってる。
もふもふしてくれた。
愛してくれた。
君の活気よさがどこまでも明るくありますように。
更に時は流れ続けた。
君は天国へと旅立ってしまった。
更に時は流れ続けた。
僕も天国に旅立って行った。
ねぇ、もし生まれ変われるとしたらまた君に逢えるかな？
ねぇ、もし生まれ変われるとしたら僕は声が出るだろうか？
ねぇ、もし生まれ変われるとしたら、
一緒に旅をしたりとか出来るかな？
「ポケモン図鑑に、きずぐすり、いいつりざお、なんでもなおしでしょ？
……うん、これでよし！！ 後は出発するだけっと！」
「ピカピカッピ！」
「よし！ それじゃあ、行こうか？ ピカチュウ」
「ピッカァ！！」
[書いてみました]
ポケモンの人形を覗いて考えてみた物語です。
多分、これからもずっとポケモン好きでいるだろうなぁ、と思いながら（笑）
ありがとうございました。