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  •   [No.2617] 霊鳥の右目(サンプル 途中まで) 投稿者:No.017   投稿日:2012/09/14(Fri) 00:18:28     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     少年は手を見る。
     固まりきらない血がまだ光を反射して輝いている。地面にはいくつかの血痕があった。
     その目の前では、ごめんなさい、ごめんなさいと、緑色の獣を腕に抱いた少女が必死に頭を下げている。
    「本当よ。普段はすごくおとなしい子なの」
     彼女はそのように弁明する。たぶんそれは嘘ではないし、彼女は何も悪くないのだろう。
     だが、少女に抱かれたラクライは毛を逆立て、牙をむき、眉間に皺を寄せる。フーッフーッと息を荒くしていた。
    「……気にしないで」
     少年は言った。
     ちらりと緑の獣を見る。獣は再びウウッと唸って毛を逆立てた。やはり見なければよかったと思い、急ぎ目を逸らす。嫌われたものだ。
     獣の瞳に映ったのは恐怖だった。忌むべき者を見た恐怖だ。手を出してはいけなかった。望むと望まないに限らず嫌われる者はいる。世の中にははみ出し者や除け者というものが必ず存在し、忌まれる者がいる。
     自分はどうやらそっち側の存在であるらしいと、この日、少年は理解したのだ。


     海の見える学校の、広い敷地の狭い部屋の中で何人かの男達が会合を開いていた。
     右上に小さな写真を貼った書類、そして写真の人物が書いた論文、考査の結果。それらを照会しながら彼らは品定めを行ってゆく。
    「タニグチ君はいいね。卒業論文もしっかりしているし、うちの研究室で貰いたいのだがね」
    「サカシタはどうだね」
    「彼は考査の結果がねえ」
    「だが体力があるだろ?」
    「それは評価に含まれない」
    「だが、フィールドワークでは重要だろ。よく働くんじゃないのかね、彼は」
    「卒論はどうだった?」
    「及第点といったところですかな」
    「まぁいい。うちで面倒見よう」
     そんな風に彼らは学生達をふるいにかけていった。何人かを通らせ、何人かを落とした。
     しかし、ここまでの過程は彼らの予定の範囲内であり、予想の範疇であった。たった一人、最後の一人だけが彼らの本当の議題だった。
    「さて、最後だが」
    「彼か」
    「ああ」
     教授達は選考書類に目を通す。
    「考査の結果は?」
    「……トップですな」
    「卒業論文は?」
    「発表会、聞いていたでしょう?」
    「考古学専攻はみんな聞いていましたな」
    「私は誰一人、質問しないので焦りましたよ」
    「あの後、学生が一人質問しましたな。いい質問だったが、いかんせん彼の切り返しのほうが上だった」
     彼らはそこまで言ってしばらく黙った。誰も先に進めようとしなかった。
    「欲しいのはおらんのかね」
     一人が沈黙を破ったが、誰一人手を挙げない。
    「能力的には並みの院生以上と思いますがね」
    「取るか取らないかは別の問題だよ」
    「分野的には、フジサキ研だと思うが」
    「学士までと約束しました。皆さんもご存知のはずです」
     その中でも比較的若い男が言う。
    「しかし彼を落とすとなると、他の学生も落ちますよ」
    「だから困っている」
    「ようするに合理的な説明が出来るか否かという事だ」
    「学士は所詮アマチュアだ。だが修士はタマゴとはいえ研究者。この違いは重い」
     結論は出なかった。グダグダと議論が続く。
     否、とっく結論は出ているのだ。議題の人物の受け入れ先など、最初から存在しない。後は誰が面倒な役回りを引き受けるか。結果を通知し、合理的説明をするのか。それだけなのだ。だが誰も関わりたくない。触りたくない。それだけなのだ。
    「休憩にしますかな」
     一人の教授がそう言った時、キイと狭い部屋のドアが開いた。
    「お困りのようですな」
     入ってきたのは一人の男だった。コースでは見ない顔だった。だがまったくの知らない顔、部外者という訳でも無かった。
    「オリベ君、」
     一人が男の名前を口にした。
    「民俗学コースの教授が何の用事かね」
     また違う一人が言った。少し不快そうだった。
     彼らの視線の先にいる乱入者はラフな格好だ。ネクタイは緩いし、履物は漁師の履くギョサンだった。大学教授などそんなものかもしれないが、年配には印象がよくない。だが乱入者は気にする様子もなく、
    「例え話をしましょうか」と、言ったのだった。
    「考古学コースには誰もが認める優秀な学生がいる。どの研究室も欲しがっているが、その学生がコースの変更届けを出したなら、皆諦めるしかありません」
    「…………」
     しばらく皆が黙った。いや、食いついた。だが、腹の底で疑念が沸き起こる。
    「オリベ君、何を企んでいるのかね」
    「何も。私は優秀な学生が欲しいだけです。こっちでも院試がありましたがろくなのがいなくてねぇ。ただ……」
    「ただ?」
    「配慮いただけるのであれば、来月のあの件、譲歩いただきたい」
     目配せしてオリベは言った。
    「来月の……」
    「そう、来月です」
     オリベがにやりと笑う。その言葉の真意に部屋のメンバーも気付いた様子だった。
    「つまり取引をしようというのかね。しかし彼が届けなど出すと思うかね」
    「出させてみせます。万が一の場合、今日の事はお忘れくださって結構」
     あくまでひょうひょうとした態度でオリベは続ける。
    「そうですね。とりあえずは院試の選考を今からでも民俗学・考古学コースの合同だったという事にしましょうか。他のコースも巻き込めるなら尚いい。それで責任者を私にするんです。院試に関する質問は全て私を通す事にしましょう」
     なるほど、と教授陣が目配せし合う。例の件はともかく、面倒事をオリベに転化できるのは彼らにとって都合がいい事は確かだった。
    「……分かった」
     彼らの代表格が返事をした。
    「決まりですね」
     オリベが言った。ずり落ちた眼鏡の位置は直さず、レンズを通さずに、下から覗き込むように教授陣を見据えた。そうして彼は二、三彼らに質問やら手続き的な頼み事をすると、部屋を出ていった。
     冬であったが、この日は比較的暖かかった。日光が差し込む廊下をポケットに手を突っ込んで、すたすたとオリベは歩いていく。時折、学生とすれ違ったが知らない顔だ。互いにこれといった挨拶は交わさなかった。
     とりあえず文書作成からかからなければなるまい、彼はそう考えていた。だが、
    『一体何をしようっての』
     途端に声が聞こえて足を止めた。
    「ん?」
     オリベはとぼけた声を発する。
    『とぼけるな。あんな事言って。私は反対だと伝えたはずだよ』
     声が響く。
    「あのなぁ、俺はいつもお前の言う事ばっか聞く訳じゃないぞ」
     面倒くさそうにオリベは言った。いかにもうるさいといった風に。
    『どうして? いつもはあんなに素直なのに』
    「これはこれ。それはそれ。前にも言ったけどな、お前の意見を聞くも聞かないも選択権は俺にあるの。たまたま聞く割合が多いだけだろ。あくまで選ぶのは俺だからな」
    『私が言って、外れた事があった?』
    「お前が勘がいいのは知ってるよ。だが、これはだめだ」
    『だいたいあんなの無理だ。無理に決まってる。夏休み前に相当怒らせたくせに。あの時は本当に危なかった』
    「怒らせるのはいつもの事だ」
    『一緒にいた女の子を覚えてる? あれ以来学校で見かけない』
    「だから? 大方、別れたんだろ? 男女にはよくある事だ」
    『危険なんだよ。ユウイチロウ』
    「お前はいつもそれだ」
    『ユウイチロウは鈍いから分からないのかもしれないが、』
    「うるさいな。あんまり喋るなよ。ただでさえ独り言が多いって言われてるんだ。文句なら部屋に帰ってからでいいだろ?」
     そこまで言うと声が止んだ。やれやれとオリベはまた歩き出した。ポケットに手を突っ込んで、ぺたぺたとギョサンを鳴らしながら、民俗学教授は歩いていった。
     日差しの差し込む長い廊下、そこにはオリベを除いて人は歩いていなかった。




    単行本へ続く


      [No.2493] バルーンフライト 投稿者:aotoki   投稿日:2012/06/30(Sat) 20:06:40     88clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    はじめてフワンテで飛ぶことを知ったのは、まだソノオにいた11歳の頃。


    「なぁ…ホントに大丈夫なのか?」
    「大丈夫だって。向こうから手つかまれても逆に俺らが振り回せるって、兄貴の図鑑に書いてあった」
    「それに俺らも生きてるし、な」

    たまに川沿いの発電所にやってくるフワンテの手を捕まえて、5秒キープする。そんな、田舎町のガキの精一杯
    の度胸だめしがきっかけだった。たしかあの時は仲のいい奴らに誘われて、すこしドキドキしながら川まで歩い
    ていったんだっけ。

    かすれた看板の近くで、紫色のポケモンがふよふよと漂っている。
    「…ほら。今後ろ向いてるからチャンスだぞ」
    「えっ、でも・・・・」
    「ニツキが成功すれば5レンチャンで、タツキたちの記録抜けるんだよ〜。だから、ほら行っちゃえって」
    「う。・・・・うん。じゃあ…行くよ」
    友達の一人に背中を押されて、僕はゆっくりフワンテへの一歩を踏み出した。

    僕の家は何故か妙なところで厳しい家で、その時一緒に行った友達含め、周りの奴らはみんなはじめてのポケモ
    ンを貰っていたんだけれど、その頃の僕はまだポケモンを貰えていなかった。だから友達よりもずっと、フワン
    テとの距離感がやけに大きくて、度胸だめし以前のところで緊張したのを今でも覚えている。
    まだまだ幼かった僕の手が、フワンテの小さな手と視界の上でようやく重なったとき、突然フワンテがくるりと
    こちらを向いた。
    「ぷを?」


    フワンテと目があった瞬間の衝撃は、今でも軽くトラウマだったりする。


    「うっ、うわぁぁぁあ!?」「ぷををを?!」
    悲鳴を上げながら慌てて後ずさる僕に、フワンテも軽く飛び退く。というか明らかに逃げようと浮き上がる。
    「ヤバい!逃げられるよコレ!」「馬鹿!はやく手掴め!!」

    ビビりながらそれでもフワンテに手を伸ばしたのは、僕なりのプライドってやつだったのかもしれない。
    必死に伸ばした僕の手はふたまわりは小さいフワンテの手をがっしりと捕まえて、なんとかフワンテの逃亡は阻
    止出来た。
    「ぷををを〜!!」
    ぐるぐると回りながらフワンテは必死に逃げようとする。でも5秒キープのためには、この手を離すわけにはい
    かなかった。


    「1!」友達のカウントが始まる。


    「2!」体を膨らませて、フワンテがさらに逃げようとする。


    「3!」「ぐうぅぅぅ…」僕は必死に足を踏ん張る。内心、魂を持っていかれるんじゃと思いながら。


    「4!」ずりずりと足が地面を滑りはじめる。なんだよ振り回せるなんて嘘じゃないか!そんな図鑑と友達への
    文句を考えられたのもそこまでだった。


    「5!」

    僕の足が、地面から離れた。


    「・・・・え?」
    上を見上げると、眩しい位の青空。

    下を見下ろすと、一面に広がる花畑。

    「うそ・・・・だろ?」
    信じられないことに、僕はフワンテに掴まって、空を飛んでいた。

    今さらになって考えてみると、飛び降りて怪我しないくらいの高さだったんだからそんな風景見えるはずはない
    んだけど、とにかく11歳の僕には、見慣れたソノオのあれとは違う、もっと別な感じで綺麗な花畑が見えた。
    風もないのに、何故かフワンテは滑るように進んでいって、花畑は僕の足元を過ぎていく。鳥ポケモンで飛んだ
    とき―初めて飛んだのは父親のムクホークだったっけ―とは違う、あくまでも穏やかな、なめらかなフライト。
    「すっげぇ・・・・」

    どれくらい、僕はフワンテに掴まっていたんだろう。

    「ニツキ!いいから手離せ!」「まだそんな高くないから今なら降りれるぞ!」
    その声に反射的に手を離した僕は、無様に花畑…ではなく草の生えた地面に転げ落ちた。

    少し遠くから、友達が走ってくる。
    「おい大丈夫か!?」
    「な・・・・なんとか」
    くらくらする頭で見上げた空には、天高く舞い上がるフワンテ。
    「すっげーよニツキ!お前空飛んでたんだぞ!」
    「うん…ほんと・・・・すごかった」
    友達からの心配と称賛に、僕は上の空で答えていた。


    『3秒間のフライト』。
    この僕の記録はしばらく抜かされることはなくて、タツキがフワンテを追いかけるあまり発電所の機械にぶつか
    って壊してしまい、大人にこの遊びがバレて度胸だめし自体が無くなることで、めでたく殿堂入りとなった。

    あの後僕はもう一度一人で発電所に行ったけど、フワンテはいなかった。


    ****
    あれから12年。

    「よーし、いくぞフワライド!」「ぷをを〜〜!」

    僕はわざわざフワライドで空を飛ぶ、風変わりなトレーナーとなっていた。
    あの時のように手に捕まる訳じゃなくてフワライドに乗っかる形でのフライトだけど、それでもあのふよふよと
    浮かぶ感じ、楽しさは変わらない。今はソノオからノモセに引っ越して、すっかりあの頃を思い返すこともなく
    なったけど、このフワライドと子どものフワンテだけが子どものころの僕を忘れさせないでくれていた。
    トレーナーとしての仕事も上々で、今話題のフリーターになることもなく安定した暮らしを送れている。もちろ
    んパートナーたちも増えて、うるさいながらも楽しい暮らしだ。
    ただひとつ問題なのは――


    『何?またアンタ彼女にフられたの?』

    電話の向こうで、コハルが呆れたような口調で言った。
    「うん……」『もうこれで何回目よ?』
    「3回目…」『嘘。4回目よ。もー、アンタが失恋した月は電話代が上がるから迷惑なのよ』
    「でもさ…こういう愚痴聞いてくれるのも言えるのもお前だけなんだよ」

    コハルはバイト中に知り合った数少ない…というか唯一の女友達で、こんな僕と長々と電話で話してくれる良い
    友達だった。

    『…まぁいいけど。で何?また原因はアレ?』
    「そう…アレ。」僕はフローゼルとじゃれあうフワライドに目をやった。
    『アンタさぁ…そうやって妙に見栄張るからダメなのよ』
    「だってデートに空から颯爽と登場するのは男のロマンだろ?」
    『それでデートに2時間遅れるんだったらロマンもムードも皆無よ』
    それに僕は枕をバンと叩いて応じた。
    「しょうがないじゃないか!フワライドで飛ぶんだから!それくらい大目に…」
    『でもフラれたのは事実でしょ?女からすればデートに遅れる男はサイテーなのよ。分かる?』
    「う゛っ」
    何回も言われてきたフラれ文句を突きつけられ、僕は布団に撃墜される。
    「……でも」『でもじゃない』

    そう、僕のフワライド――というかフワライドのそらをとぶは遅すぎるのだ。それも洒落にならないレベルで。
    飛んだのに遅刻は当たり前。下手すれば風に流されあらぬ方角へ飛んでいき、家に帰るのもままならななくなる

    もう何回『コトブキで待ち合わせね!』と言われて絶望に落ちたことか。
    もし僕がトバリかナギサみたいな都会あたりに住んでいたら、遠出の心配をする回数もぐっと減ってたと思うん
    だけど、残念ながら僕の住まいはノモセ。おまけにここシンオウ沿岸部はわりに風が強い場所で、フワライド乗
    りにはかなりつらい場所なのだと、ノモセに住まいを見つけてから知った。

    デートはおろか、普段の外出もままならない。

    この大問題に、僕は決着をつけられていなかった。

    『いいかげん諦めたら?アンタ、ペリッパー持ってるでしょ?』
    「……ねぇコハル。僕の体質分かって言ってるの?」
    『分かってるわ』
    コハルはしれっと言った。
    『でもそこはもう割りきっちゃうしかないんじゃない?』
    「…確かにデートに遅れる男はサイテーかもしれない。それは認める。でも、デートにベロンベロンに酔ってく
    る男も僕からしたらサイテーだ」
    たしか父親のムクホークに乗せられた時も、酔っちゃって大変だったっけ・・・・僕はぼんやり昔のことを思い
    返す。
    『・・・・まぁね。それもそうね』
    そういえば、とコハルは言葉を次ぐ。
    『アタシの知り合いの医者、そういう体質に詳しいらしいんだけど・・どうする?』
    何回も言われてきた事実を突きつけられ、僕は沈黙する。

    助けを求めるように見た部屋の床には、ふわふわと飛び回るフワライドの影が踊る。その影に一瞬あの青空と紫
    色の輝点が写った。それと花畑も。

    「・・・ゴメン、コハル。」
    僕はあの夢のような、夢だったかもしれない、あのフライトが忘れられないんだ。
    「やっぱ…僕はフワライドで飛びたいんだ」
    『・・・・アンタさぁ』
    「分かってるよ」僕は苦笑いしながら答えた。そうやって意地張るからダメなんだって。
    『・・・・分かった。とにかく愚痴だけは聞いてあげるから、あとは自分でなんとかしなさいよ。いいわね?』
    あと電話代はレストラン払いでね、と言い残し、コハルはブツッと電話を切った。

    「・・・・どうしよう…」
    布団に寝転がった僕を、ぷを?と上からフワライドが覗きこんできた。心なしか心配そうな目をしていて、僕は
    申し訳なさで一杯になる。
    「ん?コハルがななつぼし奢れってさ。電話代の代わりに」
    あくまでも明るくそう言うと、あのレストランの高さを知っているフワライドは、ぷるぷると頭・・・・という
    か顔・・・・というか体を振った。
    「だよなぁ・・・・ちょっとアンフェアだよね」
    ぷぅ、と同意するかのように少し膨らんだフワライドは、開けてた窓から入ってきた夜風に煽られ、部屋の向こ
    うまで飛んでいった。
    「・・・・ホント、どうしよう」
    昔読んだ本にも、こんなシーンがあった気がする。たしか、泥棒になるか否かを延々と悩んで、試しに入った家
    で結論が出る話。
    「・・・・あ、そうだ」
    あることを思い付いた僕は、布団から勢いよく起き上がった。その風に煽られたのか、またフワライドが少し飛
    んでいく。

    ****
    「ん〜・・・・ないなぁ・・・・・・・・」
    かれこれ2時間、僕はパソコンとにらみあっていた。

    要するに決断にはきっかけが必要。そんな訳で僕の背中を押してくれる情報を得るため、僕は検索結果を上から
    順にクリックしていた。

    Goluugに入れたキーワードは、『フワライド』『飛行』『悩み』。

    でも引っ掛かってくるのはそういうフワライド乗りのコミュニティやサイトばかりで、そういうコアなファンは
    僕の悩みを「それがロマン」と割りきってしまっていたのだった。でも残念ながら僕はフワライドのロマンより
    、男としてのロマンや人間としての効率の方をまだ求めたい。

    何十回、薄紫色のサイトを見ただろう。白とグレーを基調にしたそのサイトは、唐突に現れた。
    「・・・・なんだここ」


    『小鳩印のお悩み相談室』。


    見たことのないポケモンの隣に、そのサイトの名前が控え目に記されていた。
    見知らぬ鳥ポケモンはこういう。

    『ようこそ。このサイトはフリー形式のお悩み相談サイトです。僭越ながらこのピジョンが、アナタの悩みの平
    和的解決のため、メッセージを運ばせていただいております。もし、なにかお悩みのある方は、この下の「マメ
    パトの木」に。お悩み解決のお手伝いをしてくださる方は、「ムックルの木」をクリックしてください。
    私の飛行が、アナタの悩みを少しでも軽く出来ますよう・・・・』

    どうやらこのサイトは、何回もでてきた「お悩み」と最後の一行の「飛行」に引っ掛かったらしかった。
    「お悩み相談室・・・・か」
    最近はこういう体裁を装って個人情報を盗むサイトがあるらしいけど、緊張しながらクリックして現れたフォー
    ムには、ニックネームと悩みを書く欄しかなくて、どうも犯罪の匂いはしなかった。
    「……やってみる?」
    僕は画面の明かりに照らされるフワライドの寝顔を見る。ただのイビキかもしれないけど、ぷふぅとフワライド
    は答えてくれた。
    「・・・・よし」
    僕はキーボードに指を当てた。
    ニックネームは少し迷ったけど、『小春』にした。


    ****

    そらをとぶが遅すぎます

    フワライドのそらをとぶは遅すぎてまともな移動手段になりません。
    デートで颯爽と空から登場、のようなことをしたかったのですが、フワライドに乗っていったところ約束時間を
    かなり過ぎてしまいました。彼女に振られました。気分が沈んだのでそらをとぶで帰ったのですが、夕暮れ時に
    ぷかぷか浮いているのが心にしみました。
    リーグ戦でも空から颯爽と登場がしたかったのですが、あまりにもゆっくりすぎるそらをとぶで遅刻しました。
    不戦敗で夕日が心にしみました。

    フワライドに乗り続けたいです。でも遅すぎます。フワライドをそらをとぶ要員にしている方は、どんな対策を
    とっているのでしょうか?
    お答え、よろしくお願いします。

    補足
    鳥ポケモンに乗ってそらをとぶと酔います。

    ****


    「・・・・お?」
    意外なことに、返事はすぐ帰ってきていた。


    『もしあなたが鳥ポケモンをお持ちなら、「おいかぜ」と「そらをとぶ」を覚えさせることをお勧めします。
    おいかぜをしてもらいながら併走(併飛行?)してもらえば、かなり早くなるかと思います。
    あなたを乗せて飛べなかったポケモンも、きっと満足してくれるはずです。
    ・・・・ただし飛ばしすぎにはご注意を。』


    「そうか・・・・おいかぜ、かぁ」たしか効果は『味方のすばやさをしばらく上げる』、だったなと僕はおぼろ
    気な記憶を思い出した。
    というかリーグに再挑戦しようとしている身なのにこんな技の記憶がテキトーでいいのだろうかと一人思う。
    そういえばフワンテ時代に「覚えますか?」と聞かれて、どうせダブルバトルはしないからとキャンセルした覚
    えがある。

    そこでもうひとつ、僕は思い出したことがあった。

    この間引っ越してきたオタク風の男。たしか技マニアとか言っていた気がする。なんか技を思い出させるとか、
    させないとか言っていて・・・・
    「……よし」
    僕は一つこの作戦にかけてみることにした。
    Goluugのワード欄を白紙に戻す。新しく入れたのは、さっきみたフワライド乗りのコミュニティサイトの
    名前だった。

    ****
    「よし・・・・行きますか」

    僕はバックパックのバックルを締め、天高くボールを放り投げた。
    「フワライド!フワンテ!飛ぶよ!」「ぷををを!!」「ぷぉっ!」

    僕はフワライドの頭に飛び乗り、空へ舞い上がった。
    冬だというのに暖かいシンオウの空。けどテンガン下ろしの風は冬のままで、僕らに吹き付けてくる。案の定フ
    ワライドの進路がやや東に逸れた。
    僕はあの小鳩の言葉を慎重に思い出す。
    「フワンテ!右舷に回れ!」「ぷお!」
    フワライドより小さい体のフワンテは機動力が高い。テンガン下ろしに煽られながらも、なんとか僕らの右斜め
    前、指示通りの位置についてくれた。
    「よし!そこで『おいかぜ』!」
    内心上手くいくかと思いつつ、僕はフワンテにやや鋭めに命令する。
    すると―

    「ぷおわ!」

    ごうとフワンテから信じられないくらいの強風が吹き出してきた。
    「うおっ?!」僕は一瞬風に浮いた体を掴み戻し、なんとかフワライドに掴まり直す。おいかぜってこんなすご
    い技だったっけ?そう思ったのもつかの間、視界がぐんと上に煽られた。

    「お?」
    下を見ると、僕は空を飛んでいた。
    今までにないくらい、高く。今までにないくらい、速く。
    遠い街並みの中にも一瞬、花畑が見えた気がした。

    「お・・・・おおおぉ!!」

    おいかぜに乗って、フワライドはテンガン山にぐんぐん迫っていく。風に流されるのではなく、あくまでも乗っ
    て。フワライド乗りのサイトで知ったんだけど、フワライドの持つあの黄色い四枚のひらひらは風の流れを捕ら
    えるためのもの、つまり翼に近いものらしい。僕にとっては風と恋への敗北旗でしかなかった翼は、今飛ぶため
    に意思をもってはためいていた。

    「ほんとに・・・・ほんとに空飛んでるぞフワライド!」
    僕はフワライドの紫の体を思わず叩いた。
    「ぷを〜!」
    少し不機嫌そうな、でも楽しそうな声をあげてフワライドはさらに速度を上げる。昔感じたムクホーク羽ばたき
    とは違う、水面を滑るようなフライト。
    「ぷぉ〜♪」
    僕らの脇を、フワンテが楽しそうに回りながら追い越していく。
    あの日の僕が掴まっている気がして、僕はしばらくフワンテの手を目で追いかけていた。

    ****
    「よし・・・・見えてきた」「ぷぉっ!」「ぷををー!」
    遠くのテレビ塔を見つめながら、僕は嬉しさを噛み殺していた。ここまで2時間。今までの最高記録、いやもう
    別次元の速さだ。
    途中一回PP補給でヒメリの実を使ったけど、これくらいなら二人にも負担を掛けないだろう。


    フワライドと一緒に、飛び続けることが出来る。


    それだけでもう、涙が出そうだった。いやもう出てたのかもしれない。けどこれからのことを考えると、泣き顔
    をつくる訳にかいかなかった。
    「・・・・じゃあ後少しだし、おいかぜ使い切っちゃうか!」
    「ぷぉぉっ!」
    勢いよく吹き出す風に乗って、僕らは塔の立つ街を目指す。
    幸せの名前がつけられた、僕にとっては不幸の街。でも今日からは幸せを受け入れられるかもしれない。

    街の広場が見えてくる。その時、僕の頭に一抹の不安がよぎった。



    (――止まるの、どうしよう)



    「危ない!」
    その声に反射的に振り向いた僕は、無様に花畑・・・・ではなくタイルの地面に転がり落ちた。僕が落ちたおか
    げでフワライドは地面に激突しなくてすんだけど、僕は盛大に顔を擦りむくことになった。
    少し遠くから誰かが駆け寄ってくる。

    「ちょっと何・・・・・・アンタ何してんのよ!」
    顔を上げると、コハルが呆れたような顔で僕を見下ろしていた。

    腕時計を見ると、10時を少し過ぎた位置を指している。

    「・・・・ゴメン、遅れちゃった」地べたに転がりながら、僕は曖昧に笑う。
    「遅れすぎよ、バカ」
    フワライドがコトブキのビル風に揺れる。少しお洒落をした君は、やれやれと笑ってくれた。


    "following others without much thought" THE END!


    【あとがきと謝辞】
    初めましての方は初めまして。
    また読んでくださった方はありがとうございます。aotokiと申す者です。
    ねぇこの話って長編?短編?どっちなの!!この中途な長さをどうにかしてぇぇ(ry

    ・・・・まず、この話の原案となる素敵な悩みを下さった小春さん、そしてお悩み相談企画を立ち上げて下さっ
    たマサポケ管理人のNo.017さんに感謝の意を述べたいと思います。
    お二人がいなかったらこの物語は出来ませんでした。本当にありがとうございます。
    果たして私の愚答が小春さんの悩みを解決出来たかは分かりませんが・・・・


      [No.2371] よみがえるきずな 投稿者:メルボウヤ   《URL》   投稿日:2012/04/08(Sun) 23:06:39     99clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     日に日に暖かさを増す麗らかな四月の、とある日曜日。
     タチバナ家では朝早くから『イースター』のための飾り付けや、ご馳走の準備が着々と進んでいます。

     イースターとは、簡単に言えば“春の到来を祝うお祭り”です。
     クリスマスやハロウィンに比べると知名度は低く、これをお祝いしている家庭を見たことのあるひとは、そんなにはいないのではないでしょうか。事実、ここカナワタウンでイースターをお祝いしているのは、この家一軒きりでした。

     そんなタチバナ家には、ナズナと言う名前の、九歳の女の子が住んでいます。
     ポケモンブリーダーのお父さんと、元ポケモントレーナーのお母さん。そして二人の仲間ポケモンたちと一緒に、毎日仲良く暮らしています。

     ……元気に幸せに、暮らしているはずでした。






    「よおし。そんじゃ、そろそろ始めるぞ!」
    「ぐぐぅん!」

     ナズナのお父さん、コウジが、明るく大きな声を上げました。彼の足下では、イッシュ地方では珍しい豆狸ポケモン、ジグザグマが、ぴょこんぴょこんと跳ねています。

     色とりどりのチューリップが咲き誇るタチバナ家のお庭にて、今年も『エッグハント』が開催されようとしています。

     エッグハントは、お庭の色々な所に隠されたイースター・エッグ――色付けや飾り付けを施した茹で卵のことで、とても大切な意味を持つイースターのシンボルです――を、子供たちが競って探し出すゲームです。
     ご馳走を食べるお昼までの時間にこのゲームをするのが、タチバナ家で祝われるイースターの、毎年の恒例行事なのでした。


    「……うん」

     コウジとジグザグマ(皆はジグちゃんと呼んでいます。ジグちゃんは幼い女の子です)に遅れて、ナズナも同意します。しかしその声は消え入りそうなほどか細く、元気がありません。
     そのことに気づかない振りをして、コウジはふたりの前に小さなバスケットを置きました。ナズナの方はピンク色、ジグちゃんの方は水色で縁取りがされた白地のハンカチが、中に敷かれています。

    「制限時間は二十分。より多くの卵を見つけた方が勝利! 豪華賞品をゲット出来るぞ!」

     例年と殆ど同じ言い回しですが、これを聞くと、今年も始まるのだなと気が引き締まります。
     まだ幼くて知らないこと、解らないことだらけのジグちゃんですが、豪華賞品という言葉が素敵なものを意味することは理解しているのか、箒の先端に似た尻尾を、やる気充分といった風に振り回します。
     対するナズナはと言うと、足下のバスケットを持ち上げようともせず、視線を明後日の方向に投げています。
     そんな上の空な娘を、コウジはやはり気にかけていない様子。

    「よーい、スタートッ!!」

     賞品の内容を一頻り述べ終わると高らかに声を上げ、手をパァンと一つ、打ち鳴らしました。

     さぁ、卵狩り競争の開幕です!

    「ぐぐーーっ!!」

     電光石火のごとく飛び出したジグちゃん。そのまま庭を囲む生垣に激突しそうな勢いですが、すぐに直角に左へ折れて、直後、今度は右へと素早く折れ曲がります。

    「そら、おまえも行って来い!」

     競争相手に抜け駆けされたというのに、ぼんやりと突っ立ったままのナズナに、ようやくコウジが声をかけました。バスケットを両手持ちにさせて、その両肩を掴んで後ろへと、彼女を振り向かせます。

    「……うん」

     またもや元気のげの字も無い返事でしたが、父親は満足げに笑うだけ。
     気が進まないとはいえ、いつまでもここでこうしていても仕方がないので、ナズナもジグちゃんの後を追って春の陽光の下、卵狩りへと出掛けることにします。

    「ぐーん♪」

     そうしてナズナが玄関を離れるため一歩踏み出した時、ジグちゃんがジグザグと方向転換をしながら戻って来ました。
     口には卵が一つ。早速イースター・エッグを探し当てたようでした。
     ジグちゃんは、落とさないように大切に卵を咥えて来ると、玄関先に置いてある自分のバスケットに入れました。薄紫色のお花が描かれた卵。ムンナ柄の卵です。

    「ジグちゃんもう見つけたのっ」

     開始から一分も経たない内に卵を発見する偉業を成し遂げたのは、これまでの、数々のエッグハンターの中でもジグちゃんが初めてです。

    「さすがジグザグマ、早いな!」

     ジグザグマというポケモンは、独特のジグザグ歩行で、物陰に隠れている宝物を見つけるのが得意なのだと、コウジは説明しました。昨夏に生まれたばかりのジグちゃんでも、それは生まれ以ての能力、ジグザグマの本能です。
     ジグちゃんは歴代の競争相手の中で一番幼く、実は一番手強いポケモンなのです。

     こうなってくると、本気を絞りに絞らなければ、ナズナが今年の豪華賞品を手にするのは難しそうです。
     今年こそは……いえ、今年だけは絶対に勝たなければならないのです。強く望んでいた物が、春一番で手に入る大チャンスなのですから。

     そうだ、とナズナは心の中でひっそりと自分を奮い立たせます。
     待ち焦がれていた春と、イースター。
     こんな無気力な状態では、去年の自分に、何やってるのと怒られてしまうでしょう。

     それにきっとあの子だって、ナズナに頑張って欲しいと、思っているはず。


    「…………」

     ふとそうした考えが浮かんで、折角勇み始めていたナズナの気持ちが悄々と、元に戻ってしまいました。前進していた両足も、ぴたりと止まってしまいました。
     彼女はまた、あのことを思い出してしまったのです。


     再び心が沈むナズナの傍らを、春風とジグちゃんが通り過ぎます。

    「…………」

     何気なく玄関を振り返ると、コウジが家の中へ入って行くところでした。他に用事があるのでしょう。彼に何か言いたげな顔をしたナズナでしたが、呼び止めはしません。ガチャンと扉が閉まるのを見届けるだけでした。

     ついと視線をずらして、ナズナはベランダから見えるリビングと、その奥にあるキッチンに目を凝らします。そうするとナズナのお母さんと、彼女のお手伝いをしている二匹のポケモンの姿を見ることが出来ました。
     お母さんがトレーナー修行の旅をしていた頃からの仲間ポケモン、ハピナスとドーブル。イースター・エッグとして彩色した茹で卵は、二匹が『タマゴうみ』と『スケッチ』で用意してくれたものです。
     彼女たちはナズナとジグちゃんが卵狩りをしている間に、お祝いのご馳走を作ってくれています。そう考えればなんとなく、いい香りが漂って来る気がします。皆、にこにこ頬笑んでコンロに向かっていました。

     ナズナは続いて玄関近くの水道と、隣にあるベンチを見ます。

     お父さんのマラカッチが、ゼニガメじょうろにお水を注いでいました。自らも二つのお花を頭に咲かせている彼は、花壇の世話がお気に入りです。飛沫を立てて水を満たしていくじょうろを手に、頻りに楽しそうに体を揺らしシャカシャカ、シャンシャンと軽やかな音色を奏でています。
     水道の隣のベンチにはお母さんのミミロップが座り、優雅に毛繕いをしていました。他の皆と同じく目元と口元を和らげて、優しい風に長い耳をそよがせています。ちなみにこのミミロップは“彼女”ではありません。喧嘩上等な男の子です。

     一通り皆の様子を眺めて。
     ナズナは密かに溜息を漏らし、呟きました。


    「……みんな、楽しそう」


     温かな陽射しと、柔らかなそよ風。
     咲き誇る花々に、皆の明るい笑顔。

     ナズナは歓喜が、色々な場所から溢れ出るような、この華やかな季節が大好きです。
     小さな幸せを沢山運んで来てくれる、春。その訪れを祝うイースターも大好きです。

     だけど。


    「まだ悲しいのは私だけ、かな」


     歓喜の溢れる春なのに。
     笑顔の満ちる春なのに。


    「私、だけ……」


     ナズナだけが、深い悲しみの底に沈んでいました。
     一人だけ、心から、春の到来を歓べずにいました。






     ナズナの父親タチバナコウジは、優れたポケモンブリーダーです。
     今も現役ですが、若い頃――ナズナのお母さんと結婚する以前は、様々な地方で幾多の大会に出場しては高得点を叩き出し、上位入賞を逃すことの方が稀だと言われたエリートブリーダーでした。
     彼の手にかかればどんなポケモンでも、内面から放たれる生命の輝きで、その身を華々しく煌めかすことが出来ました。
     中でも、彼の一番のパートナーだった花飾りポケモン・ドレディアは、かつて、他の追随を許さないとブリーダー界で騒がれたほど、それはそれは美しい花のティアラを挿頭していました。

     紅色の花飾りと萌黄色のドレス。御伽話に登場するお姫様のようなドレディアが、その姿に相応しく心優しいドレディアが、ナズナは今よりもっと幼い頃から大好きで、とても慕っていました。
     一緒にお母さんのお手伝いをしたり、遠い街までふたりきりでお出かけしたり、言葉が解らないながらも沢山たくさん、楽しくおしゃべりしたり。
     ナズナにとってドレディアは、優しい優しいお姉さんでした。
     ドレディアもナズナを、可愛い可愛い妹だと想っていました。


     ナズナは、今年のエッグハントの賞品には『自分のポケモン』が欲しい、とリクエストしていました。
     ドレディアに限らず、他のポケモンたちとも家族同然に打ち解けている彼女ですが、やはり彼らは両親のポケモン。自分と特別仲良くなってくれる自分のポケモンが欲しいと、近頃はそればかり考えていました。

     彼女が自分のポケモンを欲しがる理由は、もう一つあります。

     少しでも世話を怠れば萎んだり枯れたりと、すぐに傷んでしまう、気難しいドレディアの花飾り。それをいとも容易く常に鮮やかに、瑞々しく保っていた父親の腕前。
     ナズナはお父さんと同じポケモンブリーダーになり、ゆくゆくは彼のドレディアに負けないくらい魅力的なポケモンを育てたいと思い、自分のポケモンを欲しているという訳なのです。
     ですから、この勝負には負けられません。このチャンスを逃す手なんてないのです。

     けれど……けれど。

     どうしても今のナズナには、去年のような元気が沸いて来ないのです。



     


     白いお皿の上には緑色のポロックが四つ、黄緑色のポフィンが二つ乗っていました。どちらも苦くて美味しい、ポケモン用のお菓子です。
     木製のローテーブルにそれを置いたコウジは次に、お花のお香を焚きました。春の温もりを思わせるふくよかな香りが、ふわりと周囲に広がります。

     お皿とお香の他に、薄汚れたモンスターボールと、金色のトロフィーが幾つか並ぶ机上を、陽射しが照らしています。
     コウジはそこへ更に一輪挿しを据えました。
     煌びやかに輝くトロフィー群より眩く目を引くそれは、見事に花開いた、紅色のチューリップ。

     モンスターボールへ、そしてチューリップへ向けて彼が何か言おうと口を開いた途端。
     庭から一層賑やかな声が聞こえて来たので、コウジはつられて、窓の外へ視線を移しました。






     あれからナズナはお庭をぶらぶらとしながら、ジグちゃんには発見出来なさそうな場所にあった卵を四つ、左腕にかけたバスケットへしまいました。

     ペリッパーポストの中から、ハート柄の卵。
     自転車の籠の中から、青空を描いた卵。
     窓辺のプランターの中から、トゲピー柄の卵。
     生垣の間から……何をイメージしたのかよく解らない、芸術的なタッチの卵。 

     他にはどこにあるだろうかと辺りを見渡したナズナはお庭の隅で、なんだか不思議な動きをしているジグちゃんを見つけて、歩み寄りました。


    「ぐぐぅーん!」

     ズルッどしゃっ。

    「みみ、みみみ」

    「ぐぐっ! ぐぐうぅーっ!!」

     ズルズルどしゃっ。
     ズルズルズルズルどしゃっっ。

    「みみみみみっ!!」

    「ジグちゃん…それは取るのむずかしいと思うよ?」

     ナズナが歩いて行った先には、つやつやした葉っぱをどっさりと茂らせた一本の木がありました。タチバナ家の一階の屋根より、ちょっとだけ背の高い木です。
     その根本で蹲るジクちゃん。幹をよじ上ろうと何度かチャレンジしたのですが、途中で勢いが続かなくなってずり落ちてしまい、身体中を満遍なく土で汚していました。
     何故そんなことをしているのかと言うと、一番地面に近い枝――とは言っても、ナズナが背伸びして目一杯腕を伸ばしてもぎりぎり届かない距離――の付け根に、ピンク色の卵を見つけたからなのです。ジグちゃんはこれを取るために奮闘しているのでした。
     愛らしい見た目に反して好戦的な性格のジグちゃんは、これしきでは諦めません。暫し休んで力を取り戻すと、再び幹を駆け上り……ズルどしゃっと音を立てて、またまた地面にお尻を打ちつけました。

    「みみみみみっ!!」

     一所懸命頑張っているジグちゃんを、ナズナも心の中で応援します。しかし、その後ろで水を差すかのように笑っているポケモンが一匹。
     ナズナはジグちゃんの代わりにそちらへ冷たい眼差しを寄越しましたが、それくらいなんのそので“ジグちゃん頑張れムード”をぶち壊しているポケモン……ミミロップは、笑い声を僅かすらも緩めません。彼がちょっぴり意地悪なのはタチバナ家の誰もが知る事実ですので、ナズナは、あとは呆れたように息を吐くだけでした。

     敵とは言えあまりに健気なジグちゃんを前に、ナズナは手を貸そうかと考えつきます。が、彼女が動き出すより早く、その場に新しく現われた者がありました。

    「ラッチ!」
    「ぐぐ?」

     シャカシャンシャンと体を鳴らしながら、マラカッチがジグちゃんの傍にやって来ました。
     彼が何やらちょいちょいと腕を振って指示をしますと、ジグちゃんが木から遠ざかって行きます。

    「カチッチ!」

     幹に対峙したマラカッチの合図で、ジグちゃんがジグザグ走行でそちらへ走り出します。マラカッチの背中から頭を踏み台にして、目的の枝へ一気に駆け上り……そしてついに、ピンク色の卵を口に咥えました。

    「みみっ…」

     いいのかソレ? とでも言いたげに二匹を見つめるミミロップに、ナズナは「あなたがあんな所にかくすからしょうがないでしょ」と、ジグちゃんのいる枝を指しながら言いました。
     そう、あそこに卵を隠したのは他でもないミミロップなのです。
     毎年最低でも三個は、ナズナたち子供が見つけられない、取れないような場所に卵を隠してしまうのが彼の癖。結局誰にも取れず後片づけが面倒なので、再三コウジが注意して来たのですが、ちっとも懲りていないのでした。


    「ぐぐぐっ!!」

     するすると幹を伝って地面に降りたジグちゃんは、すぐさま玄関先のバスケットに新しい卵を置きに行きました。
     目つきの悪いピンク色。タマタマの顔を描いた卵です。
     無理難題に果敢に挑んだジグちゃんは、しかし休む間も無く、次なる標的を求めて再度お庭へ駆け出します。物を探す競争というのが、彼女には楽しくて堪らないのでしょう。

     役目を終えたマラカッチは、ミミロップの耳を棘の手で掴んで家の中へと回収します。二つの意味で痛い痛い、と言う風にミミロップが大声で抗議していましたが、扉が閉まったことで音量は小さくなり、やがて聞こえなくなりました。

     タチバナ家のお庭に流れる音は、ジグちゃんの足音と、ゆるやかな春風に揺れる草花の音だけになりました。


    「…………」

     ナズナは先程のことを思い出します。

     一心に卵狩りに精を出すジグちゃん。
     彼女の真摯な姿に、ナズナは申し訳が無いような気持ちになりました。
     ジグちゃんはあんなに頑張って、自分との競争を純粋に楽しんでいる。それに比べて自分は他の事に気を取られて、真剣に勝負をしようとしていない。
     ナズナは自分が、冗談みたいに無気力な自分が、情けなくなって来たのでした。


     元気を出さなきゃいけないのは解っています。
     いつまでも悲しんでいたって、何も変わらないことだって解っています。

     でも、頭で解っていても、心がそれを受け付けないのです。


     どうして、あの子はここにいないのでしょう?






    「…………えっ」

     さわさわと草木を揺らして吹き抜ける風。その中に、自分の名を呼ぶ声が聞こえた気がして、ナズナはぱっと振り返りました。
     一本木とは正反対の場所。生垣の前に赤茶色の煉瓦で、半月を画くように造られた花壇がありました。赤、白、黄色、ピンクに紫と、色とりどりに咲き匂うチューリップで溢れています。

     とても綺麗です。
     とてもとても綺麗なのです。
     それはもう、悲しくなってしまうほどに。


    「…………」


     この花壇は昨秋、妻から注文を受けてコウジが造りました。
     チューリップの球根はナズナとドレディアがふたりきりで、快速列車に乗って三十分ほどの、ホドモエシティのマーケットで買って来ました。
     来春、そしてイースターの日曜日に満開になってくれるように願いながら、ふたりで植えたのでした。

     そして今日。
     チューリップたちは狙い澄ましたかのように一斉に花開き、花壇を輝かせています。
     まるで彼女が、ここにいるよと伝えているかのように。


     ナズナは吸い寄せられるようにチューリップの方へと足を運びます。
     本当は見たくない。思い出してしまうから見たくないけれど、それ以上に美しく可愛らしいので、一度視界に入れてしまうと、見入らずにはいられませんでした。
     ゆっくりゆっくり、近づきます。

     と、その時。

    「わっ」

     ナズナは驚いて、思わず足を止めました。花壇の中央、緑色の茎と茎との隙間に――何やら大きくて丸い物が置いてあるのを、見つけたのです。
     見間違いかと思い、手の甲で両目を擦ってみましたが、やはりそれは消えたりせず、そこにありました。
     おっかなびっくり、歩み寄るのを再開します。
     あっと言う間に到着した花壇。果たしてそこにあったのは……赤いリボンでラッピングされた、大きな大きな卵でした。
     ナズナは驚愕に目を瞬かせつつ、それに手を伸ばします。恐怖心よりも好奇心が勝りました。

     卵はナズナの頭と同じくらいの大きさで、全体的に薄い緑色、下部が僅かに白くなっていました。堅い殻の内側から、じんわりとした温もりと微かな鼓動が伝わって来ます。

     初めて見た、初めて触れたけれど、ナズナにはこれが一体なんの卵なのか、瞬時に理解出来たようでした。
     そして、これがどうしてここにあるのか、どうすべきかを両親に相談するため、家へ取って返そうと思いました。

     が。


    「タイムアーーップ!!」

     大きな卵を抱えて玄関を振り返ってみれば、いつの間にかコウジが家から出て来ていて、しかも出し抜けに大音声を張り上げたので、ナズナは卵を取り落としそうになりました。

    「そこまで!! ふたりとも戻って来ぉい!」
    「ぐぐーーっん!」

     家の影になっているお庭の隅っこから、ジグちゃんが帰還。ナズナも、とりあえず大きな卵を持ったまま父親の元へ向かいます。
     ジグちゃんはぱたぱた尻尾を振ってご満悦です。コウジはジグちゃんを宥めるように背中をわしゃわしゃ撫でながら、双方のバスケットに入っている卵を数えます。

    「ナズナは四つ。で、ジグは九つか。ということは……今年のエッグハント、勝者はジグだっ! おめでとう、ジグ!!」

     コウジが喜色満面で拍手して、娘もそれに従います。
     分かり切っていた結果なので、ナズナは悔しがったりしません。今はそれよりも、この大きな卵が気になって仕方がありませんでした。

    「ぐぐぐーっ!」

     ジグちゃんは自分が勝ったと理解すると、待ち切れないとばかりに父娘の足下をぐるぐる周ります。

    「賞品は家ん中だ!」

     玄関の扉が開かれると、ジグちゃんはコウジに足を拭ってもらうことも忘れて、家の中へ飛び込んで行きました。





    「お父さん。これ、野生のポケモンが落としたのかな?」

     ジグちゃんへの豪華賞品を渡して一息ついた父に、ナズナは大きな卵を差し出しました。コウジは娘のとぼけた台詞に、少し笑ってしまいます。

    「落とし物じゃない。それはドレディアから預かった、ドレディアとマラカッチと俺からの、おまえへのプレゼントだ」
    「え?」

     意味が解らず、頭上に疑問符を幾つも浮かべるナズナ。
     しょうがないなと呟き、コウジは娘を、一階の南側の部屋へ招きました。あの日から、ナズナが一度も入りたがらなかった空間です。でも今は父の発言の意味を知りたい気持ちの方が強く、中に入るのに今までのような躊躇いはありませんでした。





     お花のお香と陽光が満ちた部屋。
     彼女が、最期の時を迎えた場所。

     コウジの最初のポケモン、ナズナの掛け替えの無いお姉さんは、今年の始め、タチバナ家から居なくなりました。

     寿命だと、町のポケモンドクターは言いました。
     怪我や病気が原因なら治療は出来るけれど、寿命ならば、周りに出来るのは「ありがとう」と笑って見送ることだけなんだと、コウジは言いました。

     人もポケモンも、いつかは「さよなら」を言わなければならない時が来ることは、ナズナも知っていました。解っていました。

     けれどこんなにも早くその時が来るなんて、思っていなかったのです。





     部屋の窓際にあるローテーブルの前へ、父と娘は座りました。

    「おまえ、自分のポケモンが欲しかったんだろ? 本当はおまえとジグと、どっちかにしか賞品はやれないルールだけどな。今年は特別だ」
    「……?」

     まだピンと来ていない様子の娘に、父はこう問います。

    「ナズナ。イースター・エッグに込められた意味、覚えてるか?」

     イースターをお祝いすることに決めた年に、ナズナはコウジにそれを教わりました。
     けれども当時のナズナはたったの四歳。聞いたことは薄らと覚えていますが、内容までは覚えていません。
     素直にそのことを伝えると、父はもう一度教えてやると言って、ゆっくりと語り始めました。

     昔々ある国に、神の御子と崇められていた救世主がいました。
     彼は磔にされて亡くなった三日後に、奇跡の復活を果たしました。
     彼の信者たちは救世主の復活を祝うため、あるお祭りを始めました。
     それがイースター、すなわち『復活祭』なのです。
     イースター・エッグは、救世主が死という殻を破って蘇ったこと。そして、冬が終わり草木に再び生命が蘇る春の喜びを表わしているのだと、コウジは言います。


    「だけど神の御子と違って、人もポケモンも、一度死んでしまったら絶対に蘇らない」

     その言葉にナズナは悲しげな顔を伏せました。
     理解していても人から改めて言われると、やはりつらいものなのです。

    「でもな。命は蘇らなくても、残された者が生きてる限り、いつだっていくらだって、蘇るものがあるんだ」

     続いた台詞に今度は不思議な顔をして、ナズナは父を仰ぎます。

    「思い出とか、絆とかな」

     娘を安心させるように、コウジはにっと笑顔を作ってみせました。そして、ナズナの腕の中にある卵に視線をやります。

    「今度はおまえがそいつの姉ちゃんになってやれ。ドレディアの時と同じ強さで、そいつと仲良くなるんだ」

     そうすればドレディアとの絆も繋がり続けるだろうから。
     そのようにコウジは続けました。

    「…………」

     ナズナはドレディアの遺した卵を見つめます。
     大きくて温かな卵です。


     そこでふと、ナズナは閃きました。


     ナズナはここ数日、ずっと憂鬱でした。
     それはドレディアを亡くした悲しみから立ち直れずにいたからだけではなく、自分以外の皆がとても楽しそうに笑っていたから。
     数日前までは自分と同じように悲しみ、寂しさを露わにしていた皆が、今日はもうすっかり笑顔になっていることが、ナズナの悲哀を助長させていたのです。

     ドレディアを悼む心を無くし、彼女の命が失われたことに対する嘆きから解放される代わりに、愛し慕った彼女自身のことすらも忘れてしまうのではないかと……そんな風に考えていたのです。

     しかし、きっと、そうではなかった。

     皆が嬉しそうなのは悲しみを忘れたからではなく、ナズナが、卵から生まれるポケモンと出会って笑顔になる瞬間を、楽しみにしてくれているからではないかと、ナズナは思い至りました。


    「ドレディアを亡くす前にも、俺は何回もポケモンを亡くしてきた。事故、病気、寿命…死因は色々だ。その都度もうポケモンなんて育てない、と思った。別れはつらいもんな」

     コウジがしみじみと、部屋中に飾ってあるトロフィーや表彰状を見て言います。

    「でもやっぱりまた育てちゃうんだよ。別れのつらさより、一緒に過ごしてる時の楽しさの方が何百倍も強い所為で、さ」

     亡くなった者を想う限り、思い出はいつでも蘇る。
     亡くなった者と同じ強さで新しく生まれた者を想えば、絆は何度でも蘇る。

     コウジはそうして、沢山のポケモンを育て続けました。
     その意思を絶やさないためにと、イースターを祝うようになったのでした。


    「おまえもそういう風に考えてみろ。そうすりゃきっと、ドレディアも喜ぶぞ」

     最後にそう言い残し、コウジは頬笑みを掲げたまま部屋を出て行きました。



     一人残されたナズナは、じいっと卵を見つめます。


     この中に宿る命が、あの子との絆を蘇らせてくれる。

     心の中で唱えてみると、不思議と元気が沸き起こって来るように感じられました。


    「今度は私が……」

     静かな、決意の声。



     ――コトッ。

     応えるように卵が、微かに揺れました。






    「ナズナーそろそろご飯よー」

     暫くしてリビングから、お母さんの声が聞こえて来ました。
     弾かれたように壁掛け時計を見ると、もうお昼に近い時刻を指しています。

    「はあーい」

     返事したナズナの表情と声色は、もう悲しみも寂しさも帯びていませんでした。
     優しく強く、卵を抱え直して起き上がり、部屋を出ます。



    「ぐぐ〜ぅ」

     廊下に出るとジグちゃんが、エッグハントの賞品なのでしょう、赤いポロックやポフィンが沢山入った袋を咥えて待っていました。
     すっきりとした面持ちのナズナを見て、尻尾をぶんぶん振って喜びます。

    「行こう、ジグちゃん!」

     豆狸に微笑みかけ歩き始めるナズナ。その隣を、ジグちゃんは弾んだ足取りでついて行きます。



     リビングには既に皆が集まっていて、ご馳走を取り囲み、今日一番の満面の笑みでナズナたちを迎えてくれました。
     ナズナも負けじと、破顔一笑。
     もうすっかり、元気なナズナに復活です。





     今日はイースターの日曜日。
     そしてカナワタウンに、ポケモンブリーダーの卵が生まれた日です。








     春の陽射しが皓々と降り注ぐ、チューリップの花壇で。
     私はその日、歓喜に満ち溢れたタチバナ一家の団欒を、いつまでもいつまでも、眺めていました。





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    初投稿です。メルボウヤと申します、以後お見知り置きを!

    マサポケへは一昨年の夏頃(BW発売前ですね)から度々訪問、閲覧させて頂いておりました。普段は専ら絵を描いているのですが、皆さんのお話を読んで、自分ももう少し文章が上達したらいいなぁと思い、まずはポケストに投稿するべくヤドンの歩みでぽつぽつ書いておりました(^v^)ゞ

    今回投下させて頂いた話は、コンテスト第二回のお題【タマゴ】をお借りして書きました。案自体は作品募集時に既に出来ていたにも関わらず、なんやかやで完成はその約一年後という; 今月に入ってもまだ絶賛グダグダ状態だったのですが…今年のイースターである本日(西方教会と東方教会で日にちが違う年もあるようですが)に、なんとか間に合わせることが出来ました。今年を逃したらもう書けない気が致しましたので…!
    ポケスコ第二回の締め切り延長前の投票開始予定日(だったかと…うろ覚えです;)が去年のイースターだったというのは、ここだけの秘密です(?

    一万字以内に収める予定でしたが微妙にオーバーしました。もう少し削れる所がありそうなものの、私のレベルでは今日中に間に合いそうにないので、とりあえずこのまま投稿させて頂きました。
    文字数以前におかしな点も大分あると思いますし、追々修正したいです^^;

    文章を書くのって物凄く難しい。でも絵や漫画では表現出来ないこともあって、上手い具合に組み立てられるととても楽しいです*´▽`*
    第一回・第三回のお題でも考えた話があるので、そちらもBW2発売前には投稿したいなと思っております。またお会い出来ましたら、その時もどうぞよろしくお願い致します^^

    ここまで読んで下さり、ありがとうございました!

    -------------------------------------------------------------------

    2012.4.8  投稿
         4.30 修正

    よく考えずに削ったら益々おかしくなっていたので、投下直前に削った部分も元に戻しました。もう文字数なんて気にしない。(どうなの


      [No.2245] 二人のバレンタイン 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/02/15(Wed) 04:10:18     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     某月某日。
     女性が男性に愛でとろけたショコラを送り、愛の言葉を囁き合う、そんな日。
     女性は恋の行方に一喜一憂、男性は貰ったチョコレートの数に一喜一憂、いや、チョコレートを貰えるかどうかに一喜一憂している。
     お菓子屋ならずとも、店という店にチョコレートが並び、町は数日前から独特の甘い匂いに包まれる。
     数年前までそんな日だったはずなのだが、いつの間にやら友チョコとか逆チョコとか自チョコとかが出てきてなんかよく分からなくなった。しかし、町が嗅覚的な意味で甘い匂いに包まれているのは変わらない。

     目の前の彼女も、非常に甘い匂いをさせていた。確か、事務の仕事をやっている子だったか。
    「はい、どうぞ。エルフーンちゃん」
     そう言って、腕に抱えた甘い包みのひとつを、足元のフワモコで可愛いと巷で人気の草羊に渡した。
    「ココロモリくんにも」
     彼女は机の上で丸くなっていたハート鼻の蝙蝠にもチョコレートを渡すと、今は持ち主が留守の机の上にも包みを置いて、部屋を出て行った。
    「……僕の分は?」
     ひとりチョコレートを貰えなかったキランは、彼女が去っていった方向を見つめて僻みたっぷりに呟いた。

     エルフーンはそんな彼の様子は気にせず、貰ったばかりの包み紙を短い手でビリビリと引き裂いている。ココロモリはチョコレートの包みを足で押さえながら、キランの方を気にしていた。
    「食べていいよ」
     その言葉に安心したようで、ココロモリは風技と念力で器用に包み紙を切ると、箱を開けた。

     キランは上司の机に目をやった。そして、見なければ良かったと後悔した。彼女の机の周囲は甘い有様になっている。

     机にはまるでチョコレートしかないように見えた。もしかしたら、机もチョコレートかもしれない。隣り合った机や足元の床にまで、彼女の机に乗らなかったり、崩れたり落とされたりしたチョコレートが積み上がって、甘ったるい山を形成していた。今にも蟻が集ってきそうだ。
     朝、キランが出勤していない時間帯からチョコ責めに遭い続けて、昼休みでこれだ。夜には家の一軒ぐらい建つだろう。今はチョコ攻勢から逃亡を図っているが、彼女、帰ってきたら胸焼けで倒れるんじゃなかろうか。

     視線を感じてそちらを見ると、トリュフチョコを咥えたココロモリと目が合った。
     くい、と顎をしゃくるようにしたココロモリに、キランは手を差し出す。噛み跡の付いたチョコが手の中に転がった。
    「……ありがと、ノクティス」
     心優しいココロモリは気弱そうに笑うと、エルフーンと貰ったチョコレートを交換する作業に入った。
     つきそうになったため息を堪えた。自チョコならぬ自ポケチョコって何だよ。いや、いいんだ。自分を気遣ってチョコレートをくれるポケモンなんて最高じゃないか。うん、そう思うことにしよう。きっとそうなんだ。そうに違いない。

    「……はあ」
     堪えていたため息が出た。
     ハート型チョコはそんなに美味しいのか。せめて向こう向いて食べてくれよ。
     という指示をポケモンたちに出すのは空しかったので、キランの方が部屋を出ることにした。廊下に出ると空気が清浄に感じられた。あの部屋はよっぽど甘かったのだ。三回深呼吸して肺の中の空気を入れ替えると、気分がずいぶん良くなった。別に大量のチョコを貰うことが幸せではないと気付いたからではなく
    。そして、息抜きついでにご不浄に行って用を足していると、真上の換気扇からエルフーンが出現した。

    「そんな所から出るなよ」
     換気扇から頭上に落下してアフロみたいになったエルフーンを離しながら文句を言う。しかし、エルフーンはキランの言葉も耳に入らない様子で、短い手足を振り回して酷く慌てている。顔はいつもと同じだが。
    「分かった。分かったからズボンの裾引っ張らないで」
     キランがそう言うと、エルフーンはひとまず安心したようで、握っていたズボンを離した。そして、キランたちの居室の方向へ走り出す。
     しかし、エルフーンは背負った綿に風を受けて、少し走っては舞い上がり、少し進んではまたフワフワ……。
     真面目に移動して欲しいが、こいつが本気で移動すると、白い綿だけ残って本人が行方不明になるので、それはそれで面倒である。

     仕方ないので、エルフーンを両手に抱えてダッシュした。


     見たままを言うと、蟻が集っていた。アイアントが。

     部屋の壁を破壊して、鉄蟻の行列がチョコレートの山から外まで続いている。色とりどりの包みを鋼鉄の顎でガキッと挟み、回れ右して壁の穴から外へ這っていく。行列の先頭に出た次の鉄蟻がまたガキッとチョコレートを咥えて回れ右、そのスペースにまた次の鉄蟻が進み出て。
     ココロモリが困ったように天井付近を旋回していた。キランも困った。

     チョコレートが無くなれば彼らはお帰りしてくださるだろうが、それまで壁は半壊、吹き曝しのままというわけにもいくまい。
     それ以前にライモンシティにアイアントはいないのだから、飼い主を見つけてポケモン管理義務違反で注意しに行かなければならない。仕事が増えた。それと、いつの間にか白い綿を残して姿を消したエルフーンも後で探さなければ。
    「ああもう」とぼやきながらボールを手に取ったキランを押し退けて、ひとりの女の子が現れた。

     先程やって来た事務職の女の子だ。
     オコリザルも吃驚なぐらい目を血走らせ、ドン! と部屋の床を踏みしめて仁王立ちになると、ボールを取り出して手の血管が浮き出る程強く握り締めた。触れたら火傷しそうな程、怒っている。

    「アンタたち……私がレンリ先輩に渡したチョコレートに汚い顎で触るなあ! 始末なさい、クイタラン!」
     ひび割れた声でそう叫んだ彼女が繰り出したのは、縞模様のアリクイ、クイタラン。アイアントの天敵とされるポケモンで、
    「ああっ、クイタラン!」
     アイアントのストーンエッジで倒されるのはご愛敬である。

     アイアントは人に教えられないとストーンエッジを覚えないから、彼らは人飼いであることが確定したわけだが、嬉しくも何ともない。厄介だと再認識させられただけだ。ついでみたいにココロモリも撃ち落とされてしまったし。
     そう、後、厄介と言えば、この子も。

    「何よ! 他のはいいけど、私のだけでも返しなさい!」

     彼女は倒れたクイタランを戻すと、懲りもせずに鉄蟻の群れに向かって行く。無謀だ。
     食料の運搬を邪魔されたアイアントたちが、彼女に不気味な鉄顎を振りかざした。
     一斉に鋼色の蟻たちが下顎を傾ける様は、見ていて恐ろしい。事務職の女の子もそれは感じたようで、アイアントたちのはるか手前で足を止めた。

     シャン、とアイアントたちの顎が同時に鳴る。そして、同時に顎を開いた。次には攻撃が来る。が、その時キランはこいつら息ぴったりだなと全くバトルに関係ないことを考えていた。それから、つい癖でペンドラーのボールを選んでいて、室内でどでかいムカデは出せないと気付き、ならばとドリュウズのボールを探して非常時に限って必要な物は見つからない、つまり詰みだ。


     と思ったその時、
    「ウィリデ、コットンガード」
     いつの間にか戻って来た草羊が、綿の大玉となってアイアントたちの前に立ちはだかった。
     先陣を切っていった鉄蟻の顎の脅威をモコモコの綿が吸収する。アイアントの攻撃に思わず立ち竦んだ彼女がホッとした様子でキランを見た。しかし、指示したのはキランではない。

     黒髪に紅色のメッシュを入れた女性がキランを押し退けて現れた。キランの上司であり、チョコレートを売る程貰っていた当人、レンリである。
    「ウィリデに引っ張られたんで慌てて来たんだが、こりゃ酷いな」
     そう述べながら左手で事務の子の肩を掴んで部屋の外に出し、右手でモンスターボールを掴むと、彼女のポケモンを呼び出した。大きな紅色の花を頭に乗せたドレディア。

    「ウィリデ、身代わり」
     彼女は当たり前のようにキランのポケモンに指示を出すと、続けてパンツスーツをパン、と払った。
     それを合図に、ドレディアがわざとリズムの狂ったダンスを披露する。それを見たアイアントたちは、次々と何かに感染したかのようにおかしな行動に移った。アイアント同士で頭をぶつけあったり、チョコレートの包みを粉々に砕いたり。
     混乱したアイアントたちを花びらの舞で部屋の外に追い出すと、レンリはいつも肩に乗せているバチュルを使って大穴を蜘蛛の糸で覆わせた。
     網の隙間から鉄蟻の恨めしそうな顔。しかし、バチュルの巣は電気が通っているから、いくらアイアントと言えども簡単には突破できないだろう。レベルも違うし。

     ほっとするのも束の間、
    「これ、修理するの大変そうだな」
     上司のひと言で、キランは現実に引き戻された。
     穴から吹き込む風が、冷たい。


     通りすがりのローブシンに頼んで壁の穴を塞いでもらった。アイアントの持ち主も探してしょっぴいた。それが終わった時には日付が変わっていた。
    「疲れた」という間も惜しく、上司は貰ったチョコレートの分類作業に入っていた。ただ単に部屋の隅にチョコを投げてるだけに見えるが。ホワイトデーにお返しをする気はなさそうだ。そう思って見ているキランの目の前で、上司が「あった」と声を上げた。嬉しそうだが、歓声と言うには大人しい声で。

    「アイアントに持って行かれたかと思った」
     そう言って、彼女は小さな箱を持ち上げた。飾り気のない白い箱が、彼女の白い手の中に包まれていた。そういう風に扱うのは、一体誰からの贈り物だろう。投げ打つ程にチョコを貰う彼女に選ばれるのは――それは、幸運に思えた。
     彼女から選ばれる可能性があるのなら、じゃあ何か渡せば良かったと思って、その直後にその考えが嫌になった。上司の姿を視界に入れないよう、キランはそっぽを向いた。その肩が叩かれた。

     キランの手に、白い箱が押し付けられた。白い手から。

     引っ込められた白い手を追って、キランは肩越しに彼女を見上げた。目が合うと、彼女は髪をかき上げながらも目を伏せて、
    「ほら、こういう日だから」
     静かに言った。

     戻ってきたエルフーンと顔を見合わせて、キランは箱を開ける。紙を一枚敷いた上に、ちょこんと丸いチョコレートが乗っていた。もう一度上司の方を窺うが、彼女はもうキランに背を向けて自分のチョコの山に取り掛かっている。

     キランも彼女に背を向けた。慎重に箱の中から甘い塊をつまみ出す。手の平に転がすと、ココアパウダーがチョコを中心に散らばった。小さなトリュフチョコは体温で溶けて消えてしまいそうで、そうなる前にとキランはチョコレートを飲み込んだ。
     甘さだけで出来た塊が舌の上で溶け



     舌に激痛が走った。
     反射的に口を手で覆い、出すのはまずいと思い切って飲み込んだ。すると喉が痛い。辛さが喉の中を上って鼻に回って涙腺も刺激して涙が出てきた。
     口を開けて息をした。新鮮な風が当たると、少しだけマシになる。でもまだヒリヒリと、痛い。涙を堪えて上司の顔を見たら、いつもの悪ぎつねみたいな笑みを浮かべている。彼女はそういう人だということを忘れていた。
    「ひっかかったな」
     そう言って、風のように去って行く。

     大量のチョコレートと一緒に部屋に取り残されたキランは、口の中のヒリヒリが収まるのを待つことにした。手持ち無沙汰なので、貰った箱を捨てる前に畳もうかと指先を動かす。底に敷いた紙を引っ張り出す。と、その下にまだもう一枚紙が入っていることに気が付いた。二つ折りになっていたそれを開いたキランは、やれやれとため息をつく。
    『いつもありがとう』
     そして、唐辛子爆弾を仕掛けた彼女と、これを書いた彼女と、どっちが本当なのかと思い悩む羽目になるのだ。


      [No.2120] Re: 自分の単行本を妄想するスレ 投稿者:リナ   投稿日:2011/12/16(Fri) 01:38:40     65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ● タイトル「世界と日本の名作集」

     ◇目次:
      1.イソップ寓話より、北風と太陽
      2.浦島太郎
      3.桃太郎

     ◇背表紙:
      嘘じゃない! ホントなんだ! 一体どこにルナトーンが出てるってい(ry


      [No.1995] 受けて立つ(二部) 投稿者:りえ   投稿日:2011/10/16(Sun) 16:35:28     64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    肩をたたかれて目が覚める。窓にはカーテンがかかっている。
    今度は知らない冴えない服でぼさぼさの頭のおっさんが目に入る。お前誰。
    無精ひげと肌荒れとメガネ。薄汚い。

    「あ、おつかれさまです、発電所の……」あ、発電所の人か。うんうん、理系って感じ。
    「ニシカワです、主任です。凍傷もちょくちょくありますけど、何よりあんな速さでつっこんできたんですから」


    「フィルとちゅちゅは無事ですか」自分の声がかすれてるのに驚いて、今日は何月何日なのかが気になる。

    「リザードンはたらふくたべて眠ってる。ニビから飛んできたからね。
    バチュルとサンダースは放電室にいるよ」力が抜ける。

    「発電所の皆様は無事ですか」一般人の見舞もエリートの仕事だからね。

    「地震の影響で通常の5割しか送電できてない。人は無事」
    「復旧の見込みは……」
    「部品があるものはチームを組んで交代で交換中。
    メーカーがジョウトに多いから、そのうち届くと思う。食べ物と水はたくさんあるよ」
    運ばれてくるおかゆとりんごと水。あるんならさっさと出せよ、研究員。

    聞きたいことはまだあるけど、まあどうでもいいわ。その前に、飯。
    スプーンの暖かさ。舌のぬくもり。鼻に入るでんぷんのにおい。命が体に入ってくる。
    お粥を流し込み終わった。足りない。リンゴをしゃりしゃりかじりながら「もっとありますか」と聞くと、少し待っててと言われ、一人になる。
    旅する時間が長いエリートトレーナーをなめるな。
    壁の電波時計で日付と時間を観る。3月12日21時。3時間強の睡眠。


    っていうか、なんで、ちゅちゅも、テトも、私の指示無しで放電室にいるの? え、おかしいし。途端に足元からぞわっと心細くなる。
    内線を切り終わったニシカワがこちらを向く。

    「わたしのポケモンを返してください!」予想に関して大きな声が出てしまう。
    「ちょっと待ってくださいヨウコさん」
    「勝手にポケモン使われるなんて聞いてないです、聞いてたらこなかったです」
    このときはじめて部屋の隅に、ゴアテックスのレインコートが干してあるのが見えた。どうでもいい。
    「なんで呼ばれたのか教えてください」あ、だめだ、涙声になってきた。

    ニシカワさんはおろおろしながらうろちょろしている。無様。

    「ヨウコさん落ち着いてくださいええと、あの、ここは安全ですから!」
    「外にサンダーもいるしそんなの聞いてないですよ!」もう導眠剤くれ。それで寝るから。起きたら働く。

    ところがニシカワはぴたりと止まった。
    そして「うへえあ」などと奇声を発して椅子にガタンと音を立てて座った。おいどうしたニシカワ。
    しっかりしろおっさん。サンダーがそんなにまずいのか。そして私はやっと理解した。サンダーを捕まえて発電させるために、私は呼ばれたのだ、と。
    大地震で北の地域が大変なことになって、カントーでも主要施設が止まって、
    買占めとか暴動寸前とか、津波とか、野生ポケモンとかの暴走とか
    とにかく心配しなきゃならないものしかないようなときに、ジム所属のそこそこのトレーナーをわざわざ呼び出して、
    こんなところまで休憩も無しにブッつづけで飛ばせるわけがない。
    ニビシティも被害がひどかった。博物館デートしてたのに! 相手ほっぼりだして、避難誘導して、ジムで眠った。
    エリートなんだからもう少しマシなところで寝かせろと思った。

    はつでんしょのまわりにサンダーが住んでるのは有名な話で、
    この建物が無人発電所になる前から、このあたりではサンダーの目撃情報が耐えなかったらしい。当然、それを狙うトレーナーもごまんと来た。
    だからあんなところにポケモンセンターがある。
    落ち着きを取り戻したニシカワがぼそぼそ言う。

    「なんにも無いときに、リーグの四天王も、その上のチャンピョンも呼んでるんです。
    でもどんな技もボールも“かみなり”で蒸発させられてしまって」物理的にはありえないことでもできてしまうのが、伝説系のおそろしさよね。

    「今まで誰がどうしても、サンダーを捕獲することができなかったんです。いままではそれでもよかったんです。
    でも、今現在のような状況が長く続くと、死者も出かねません。
    そこで、ヨウコさんとヨウコさんのサンダースに協力を要請できないかという話が持ち上がりました」
    確かに私とテトにしかできないわね。

    「わたしとテトのコミュニケーション能力で、なんとかサンダーにタービン回してもらえないかって話?」
    「そうです!それです!!」

    “捕獲されなくていいんで人間の役に立ってもらえませんか”とお願いしにいく役だ。
    私たちにしかできない。面白いねえ確かに、四天王だってできないよ。
    ドアががちゃりと開いた。醤油ラーメンのにおいがする。
    持ってきたのはメガネの研究員。と、足元にテトとテトの背中に乗ってるちゅちゅ。ちょっとみんな疲れてるな。
    ラーメンを奪って食い始める。旨い。

    「おつかれ、ありがと、戻って」

    ちゅちゅはボールに戻る。ラーメンをすする。おっさんとメガネの会話を聞いても意味が分からない。
    テトに「みんな知ってるからしゃべっていいよ」と声をかける。驚いてる。

    「今日のわたしらの仕事は、表にいるサンダーになんとか発電してもらうことです」
    「無理だろ」麺がなくなった。

    テトの声質は普通におっさんなのでちょっと引かれる。サンダースなのにね。
    最初に会った時からおっさんのイーブイ(ただしレベルは低い)だったので私はなんとも思わないけど、たぶん、引く。

    「ていうかマチスはどこだ」
    「地震でクチバから出られないって。で、かわりにそこのサンダー捕まえて発電室に入れる簡単なお仕事です」
    「さてはお前じゃなくて俺になんとかしろという話だな フッフーン」
    「……ヒーローはわたしよね。優秀なポケモン育てたトレーナーだし」
    「ヨウコさんが呼ばれるのはたいてい俺のおかげだもんな! 俺いなかったらただのでんきタイプ使いのおんなのこだもんな!」
    「うっさい死ね」
    「ハッハーン
    ハッハーン
    そんな口のきき方してもいいのかな、俺に。今日、わざわざ!ヨウコさんは糞寒い思いしてニビから飛んできて!
    そう、俺をわざわざ運ぶために!ここまで!糞寒い思いしてタクシーしたんだね、ヨウコ。ドンマイ」
    「今はやってるじゃん、タッグ組んでるヒーロー」

    超めずらしいしゃべれるポケモンが、わたしの手元にいる理由はもう一つ。
    こいつは廃人の手元にいるとき、唖のフリをしていた。
    廃人の手元にいたとき、イーブイを買いに来る客を観察して心底キモいと思ったそうだ。
    だから、客以外のトレーナーに使われたくて、鳴き声ひとつあげなかった。そして廃人の好物のソフトやりいかと柿ピーだけを食べていた。あと焼酎。
    唖でおっさんじみた嗜好の雄のイーブイ。
    そしてそれでも買い手がつきかけたので、テトはストレスでハゲた。そして、私のところへ来た。

    「ヨウコ、お前作戦あるのか」
    「んー」
    「本当に喋るんですね…… 頭も悪くないですね……」メガネが好奇心あふれる表情でテトを見ている。テトがんばれ。
    「コンニチハ ボク サンダース!!」妙に甲高い声でテトが話し始める。オカマっぽく。キモい。
    「初めて見ました。外のサンダーより珍しいかもしれませんね、テトさんは。研究機関とかに回収されないんですか」
    このへんの事情は割愛したい。曖昧に笑う。身の回りはキナくさいけど、テトはわたしのポケモンだ。

    テトがこちらをちらちら見ている。おしゃべりするなら女の子(できればage嬢)だっていつも言ってるよね。
    話すなら若い女の子がいいと言ってやまないガチおっさんなテトは、自分以外のおっさんが嫌いだ。
    よって研究員のメガネもおっさんも嫌いなはずだ。テトのSOSは無視する。すこしは苦労しろ。





    やっぱ山の中は寒い。借りた冬登山用のもこもこジャケットが暖かい。たいてい暖かいものはゴアテックスだ。
    いつもの三倍ぐらいの胴回りのわたしをテコは爆笑する。息が白い。クソ寒い。マスクしてきてよかった。
    なぜかニシカワとメガネもついてくる。てか研究所のいろんなところから視線を感じる。

    そしてやっぱり、研究所の中庭に、ドンと、サンダーは居る。
    1.6メートルの53キロ。威圧感とぴりぴり震える空気のせいだ。正直帰って寝たい。無理。
    だって、ゲットされるどころか、餌付けすら嫌がっているサンダーがなぜここから動かないのかがまったく分からない。
    サンダーには翼がある。どこへだって行けるはずなのに。なんでここにいるんだろう。ああ、寒い。帰って酒飲んで寝たい。

    「ヒーロー、がんばってね」
    「え、俺ひとりなの」
    「最初は、人間いないほうがいいよ、こういう時」

    離れたところでテトとサンダーを見つめる。テトがサンダーに話しかけた。サンダーも無視はしてない。
    当然か、いままで話しかけてくるトレーナーなんかいなかったはずだから。会話らしきものは続いてる。うまくいかせてよー。
    ただ飯ただ宿は肩身が狭いのよー。

    こうなると私は暇なので、うろうろしている。
    発電所の裏手に回る。ぎりぎり人が通れるくらいの隙間が岩肌との間にある。「ちゅちゅおいで。フラッシュ」
    バチュルを頭の上に乗せて、前を照らす。狭い。わたしも入れない。
    奥の方で何かがきらりと光った。ちゅちゅも気になったらしく、建物の壁に張り付いて、カサカサ進む。
    きれいなガラスとか好きだもんね。宝物増えるといいね。寒い。ほんっとに寒い。
    サンダーもテトもあったかいところで話し合いしてくれないだろうか。

    光が突然私の顔に当たる。顔をそむける。「きゅー!!」って嬉しそうな声が聞こえる。きらきらした素敵なものなんだろうね、きっと。
    とりあえずフラッシュをわたしの顔から外してくるとうれしいけどな。ちゅちゅが近づいてくると光はだんだん足元だけを照らすようになる。
    きゅっきゅ言いながらごきげんなちゅちゅは私によじ登ってくる。いいからフラッシュを私以外に向けて。お前の新しい宝物を見せて。
    きれいな雷の石、だ。雷の石はたくさん見たけど、こんなにきれいなのは初めて見た。
    あ、中に何か入ってる。羽かな? ちゅちゅのフラッシュに透かして見る。えーっと…… 羽の入った、雷の石、だ。
    何の羽だろう…… ポケモンの羽だと思うけど、よくわからない。
    建物の影から体を出して、サンダーとテトの方を向く。テトがこちらに走って来ていた。

    「ヨウコ!」
    「なによ」
    「サンダーはそれとりに来たんだって」
    「え」私はテトを見る。サンダーも見る。そして手元の雷の石も見る。
    「なんでも、その羽、サンダーの昔の、ほんとに昔のつがいの羽らしくて」
    「あの石欲しさに、この発電所が壊れてなくなるのを、ずっとぼんやり待ってたんだと」意外とかわいいところがあるサンダーさん。
    「グェッグェッ」
    「ずっとって、この建物って、建ってから150年は経ってるよ。それに雷の石の中に入ってるよ、羽」
    「だから、本当にこの建物が邪魔で、でも人がいるし、ずっと待ってたんだと」テトが寄ってきた。

    サンダーの性格…… おっとり、だね。いくら寿命が長いポケモンとはいえ、150年間待ってるなんて。
    あたらしいつがいは見つからないのかな。そうなのかな。あれ、つがい?

    「サンダーって性別無いんじゃないの」
    「無くてもつがいはつくるんだよ、さみしいから」そうか。
    「てかサンダーってどうやって増えるの」
    「竜の巣で生まれ変わるんだって」「アニメ脳め」

    「ギャッ」
    「クワァッ グァッ」テトとサンダーが何かを話している。

    「あのさ」ギヤゴギヤゴ会話しているテトとサンダーが私を見る。

    「あ、わたし、テトのトレーナーのヨウコです。寒いから中に入りませんか」
    「ギャァァァ」
    「いいよって言ってるぞ」
    「ちょっと待ってて」

    ここは山の中だ。寒さが限界だった。サンダーのために窓を少し開けておくとしても、ここよりか部屋の中の方が暖かい。
    研究所の一階角部屋の仮眠室。さっきはいろいろ考えたり食べたりで忙しくて気が付かなかったけど、
    ベッドが四台ある。窓を開けて、サンダーに入ってもらう。テコが棚をあさってる、手伝ってよ。ベッドを少しずらして、サンダーの居場所を作る。
    イノリウムの冷たさが気に入ったらしく、サンダーはへやの隅っこで、座っている。


      [No.1869] 【書いてみました】飛んで来てみたら(後編) 投稿者:マコ   投稿日:2011/09/16(Fri) 22:05:14     70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    派手に雷ぶっ放して悪党を沈めて(というが、俺は雨乞いをしただけだ)少し経ってから、会話することになった。
    けど、人間にポケモンの言葉なんぞ通じねえから、話っつってもどうすんだ?


    とか思っていたら、女が何かピンクの獏みたいなポケモン、ムシャーナを出していた。
    「テレパシーで通訳できるみたいだから、話せるよ、多分ね」
    じゃあ、折角だから、俺がこうなった経緯を話して、悩み相談でもしてみようか。


    〈俺は名前のないビリリダマなんだ。元はお前らと同じ人間だった。けどある日、ある怪しい喫茶店に迷いこんで、そこから帰る途中に長老とかいうキュウコンにもふもふされて、こうなったんだ!〉
    「訊きにくいこと、訊いていいかな?」
    女が質問してきたから、取り敢えず聞いてみる。
    「もふもふってどんな感じなの?」
    〈それかぁ。それは……出来るなら、二度とされたくねえ。気持ち悪い。地獄だな〉
    「もし俺らが食らったらどうなんねん?」
    〈物好きだな。多分、まともにロコンかゾロア辺りになるんじゃねえのか。俺が特殊なだけで〉
    「……お前は人間に戻れるん?」
    〈そんな話は聞いたことねえ。多分、無理だ〉
    こいつら食い気味に訊いてくるな。
    すげえ、カンサイの人(女は違うけど)。


    そして、暫く話した後、俺は切り出した。
    〈皆、俺の悩みを聞いてほしい〉
    「どんなもの?」
    「俺らでよかったら聞くで」
    〈どうすれば俺は強くなれる?〉
    『……』
    あ、皆黙りこんだ。


    しばらく時間が止まった感じになったけど、男の一人が口を開いた。
    「簡単やろ。戦って、相手を倒せばええやんか」
    〈そうなればいいんだけど、のっぴきならない事情があるんだよ。これ見てみろ〉
    俺は紙を投げた。長老からもらったやつを。
    「……ええ!?」
    「ホンマかこれ?」
    「悲惨やなぁ……」
    それは俺の技リストだ。
    嫌な音、テレポート、雨乞い、充電。
    「……お前、どうやって攻撃すんねん」
    「悪あがきとかかな?」
    〈85ターン耐えられるか!〉
    そんなことは無理だ。
    どんなに強い、伝説的存在の奴でも無理だ。
    〈だから、俺に攻撃技を教えてほしい。何でもいいから!〉
    「10万ボルトがいい?それとも、雨乞いがあるから雷?」
    おお、どっちも嬉しい!
    「命中に重きを置くなら10万ボルト、雨乞いを活かしたいなら雷がオススメやな」
    〈雷がいい!〉
    「じゃあ、雷の技マシンを当てようか……」
    黄色いディスク型の機械を俺に当てようとした女だったけど……、

    バチッ!!


    「嘘っ!?」
    「何で拒絶されんねん!」

    何故か弾かれて、雷を覚えられない。
    その時、俺の頭の中に声が聞こえた。
    《甘いぞ、ビリリダマよ。お主は技マシンを使えぬ。》
    長老!!何てことしてくれる!
    〈じゃあ、他人の補助しか出来ねえのかよ!?〉
    《その場合、経験値はほっとんど貰えないがな。》
    〈うぎゃあああ〉
    7人が憐れんでる……。


    〈ごめんな、何か迷惑掛けっぱなしで……〉
    「い、いいよいいよ。何も悪くないし」
    「せやで。お前に責任はないやろ」
    そして、さよならの時になって、女が何かを俺に渡す。
    これは……ヒメリの実?
    〈貴重だろ?いいのか?〉
    「トモダチのしるし。これを見て食べて、私達を思い出してね」
    「お前、色々あるやろうけど、負けんな!」
    「強くなったお前とまた再会したいわ」
    久し振りの優しさに心が温まった。
    俺は嬉しさと共に、テレポートをした。




    マコです。
    これにて完結です。
    しかし、長老は悪いですね。
    研磨して、更に変なオプションをつけるとは。
    音色さん、ありがとうございました。
    【コラボ万歳】


      [No.1742] 黄昏夫人と三人の胡乱な娘 投稿者:紀成   投稿日:2011/08/12(Fri) 16:19:34     58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    紀成と旅行に行ってから数日後。私はマダムに言われていた物を預けに黄昏堂のドアの前に立っていた。本人が望んでいた物かどうかは分からないが、私の想像力ではこれが限界だ。
    夕暮れだが夏なので暑い。ジリジリと太陽の光が髪を焼いてくる。
    私は深呼吸すると、ドアを一気に開けた。

    「…」
    「…」
    一人の女と目が合った。マダムじゃない。下手すれば十もいかないんじゃないかと思うくらい、幼い子供だ。白黒ボーダーのマフラーに、セミロングの髪。色は銀のような、白のような。
    高級感溢れる絨毯に寝そべり、ドアの邪魔になっている。目は虚ろで、何も映していない。簡単に言えば、目が死んでいる。
    だが体自体が死んでいるのではないことは、すぐに分かった。目玉が時折動く。そして何故か彼女の周りには皿が散らばっていた。割ったような跡がある物もある。
    ―いや、これはどう見ても『歯型』だ。まさか齧ったのか?
    このまま考えていても埒が明かないので、私は彼女を移動させた。意外に重い。力を抜いているからだろうか。
    そうしてやっとドアを閉めた私の目にもう一人、異様な行動をしている人影が入って来た。商品のサンプルが掛けられている壁に向かって、ずっと鼻をつけている。全く動かずに。右手にはステッキとそしてさっきの女と同じマフラー。
    「なんだよこいつら」
    「…」
    案の定、返事がない。面白いこと好きのカゲボウズがそっと様子を伺おうとしたが、どうやら変な雰囲気を感じたらしい。気味悪そうに戻って来た。君が言えたことじゃないと思うんだけど。
    「何?生きている感じがしない?」
    デスカーンが黒い腕をニュッと伸ばして彼女の頬を突いた。推理漫画ならここでドサッという音と共に仰向けに倒れるものだけど、全く倒れない。ちゃんと力は入っているようだ。
    「生きてるよ。多分」
    多分、と付け足したのはここが普通の場所では無いからだ。マダムの術と扱う薬にかかれば、錬金術や神の前で禁忌とされてきた人体練成や死者蘇生も簡単に出来てしまう。
    そして最後に私が見た物は、いつも通り椅子に座り紅茶の味と香りを楽しむマダムと、その側でやはり寝転がって大量のタオルに囲まれている女だった。こちらも目が死んでいて、ボーダーのマフラーをつけている。
    「よく来たな」
    「…マダム、とうとう壊れたかい」
    「安心しろ。世間一般から見れば、私は既に壊れている」
    「ああそう」
    ゾロアークが椅子を持って来た。言われるがままに座れば、そのままテーブルまで運んでくれる。飲み物は、という素振りを見せたので普通にダージリンを注文した。
    「持って来たと言えば持ってきたけど」
    私はマダムにそれを渡した。銀細工の結晶。ネックレスになっている。マダムが目を細めた。喜んでいるようだ。
    「普通の溶けない氷で作られた物よりずっといい。感謝するぞ」
    「礼はいいから教えろ」
    「…お前の血を何に使ったのか、か?それならもう答えを見ている」
    私はハッとした。慌てて足元を見る。タオルに顔をうずめながらこちらを伺っている女。目は死んでいるが、髪の色は三人とも同じだ。そして、私とも。
    「最近エドワード・ゴーリーにはまってな。『うろんな客』からヒントを得て作ってみた」
    三人がのろのろと並んだ。左からステッキを持った女、皿を齧っている女、そしてタオルを持っている女。
    「紹介しよう。私の胡乱な三人娘だ。ステッキ、ディッシュ、そしてタオル」
    三人揃ってお辞儀をした。ギギギという音がしたような気がした。
    「作った意味は」
    「材料収集、情報収集。私が指示を出さない限りは動かないが」
    マダムが手を叩いた。すると突然空気の抜けた風船のように三人ともその場に倒れこんだ。完全に目が死んでいる。何も映していない。
    「悪趣味」
    「だがお前はその悪趣味に血を渡した本人だ」
    首が痛痒くなってきた気がして、私は思わず爪を立てた。

    「本当は少年が良かったんだがな。合った人形が見つからなかった」
    「見つかったらまた血をよこせとか言うなよ」
    「伝説のポケモンの血を入れたらどうなるのか…」
    完全にマダムは一人妄想の世界に入ってしまったようだ。ゾロアークに手を振ると、私は誰も寝そべっていない絨毯を踏みしめ、ドアを開けた。

    ――――――――――
    [書いてもいいのよ]


      [No.1619] クイタラン、やっぱり喰い足らん。 投稿者:音色   投稿日:2011/07/20(Wed) 23:28:55     44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    クイタラン、喰い足らん。減らしたお腹はペッタンコ。
    クイタラン、喰い足らん。とうとう洞窟を出ていった。
    クイタラン、喰い足らん。鋼鉄蟻は喜んだ。
    クイタラン、喰い足らん。今日も何処かで喰い足らん。

    ※95字


      [No.1498] 熱いですからね 投稿者:海星   投稿日:2011/07/07(Thu) 16:16:23     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    あんな頭巾かぶってたら、熱中症になりますよね。
    ん、その前に溶けるか。
    泳いでいる内に頭巾が波に流されて、気付いたら無かった! なんてことになったら可愛いですね。


      [No.1377] あめあめふれふれいにー 投稿者:巳佑   投稿日:2011/07/01(Fri) 19:07:45     50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    レイニーさん、コメントありがとうございます!

    > >  あめあめふれふれいにー、れいにー。
    > >  あめあめふれふれいにー、れいにー。
    > >  もっとふれいにー、れいにー。
    >
    > 呼ばれて飛び出て参上!
    > ……え? お呼びでない? そりゃ失礼。

    「計 画 通 り (・ω・☆)」
     ……というのは冗談です。(笑)
     ただ、当初、後書きのところに「ちなみに『あめふれいにー』はレイニーさんとは関係ありません。(笑)」と書こうと思ったのはここだけの話です。(笑)



    > ちなみに、私が「レイニー」名乗ってるのは、単に響きの綺麗さで決めたという理由だったり。
    > もちろん英語表記は「Rainy」です。

     おぉ、そのような由来があったのですか!
     ちなみに私の場合は巳年生まれから来ています。

     響きって、大事な要素の一つですよね。
    『わらわっち』という一人称も響きが可愛くて気に入りましたし。(笑)



    > ……ほとんど感想でなくて自己語りですみません。
    > でも呼ばれた気がしたから、不可抗力だったんだ!(爆)

    「ふふふ、計 画 通 り(・ω・☆)」 (笑) 


    > 可愛い作品、ありがとうございました!

     こちらこそ、ありがとうございました!


     それでは失礼しました。


      [No.1256] ドーブルの筆がくれたモノ。 投稿者:巳佑   投稿日:2011/05/31(Tue) 13:57:18     99clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ドーブルの筆がくれたモノ。 (画像サイズ: 1032×2505 442kB)

    「坊やにコレをやろう」
     ある日の学校帰り、公園でクリーム色ベレー帽をかぶったおばちゃんが上着のポケットから取り出したのは一本のクリーム色の毛筆。
     これはな〜に? とオレが尋ねると、おばちゃんはニッコリと笑いながら答えた。
    「それはドーブルの筆、というものなんだよ。坊やは絵を描くのは好きかい?」
     まぁ、好きか嫌いかと言われたら、好きだけど。
     少なくともいい時間潰しにはなるかな。
    「そうかそうか。なら、このドーブルの筆を坊やにやろう。これはな、絵が上手に描けるようになる魔法の筆なんだよ」
     ん〜、まぁタダでもらえるんなら、もらおうかな。
     
     でも、おばちゃん、だれなの?
     
     オレの手に乗る一本のドーブルの筆を見やった後、オレはそう尋ねながら顔を上げると――。
     
     そのおばちゃんはどこにもいなかった。
     
     何事もなかったかのように風が吹き抜けていく。
     傍から見たら、きっと急な出来事にポカンと呆然しながら立ち尽くしているオレが一人。
     手に持っているのはおばちゃんからもらったドーブルの筆が一本。

     それにしても、あのおばちゃんの顔もとても印象的だったなぁ。
     縁が茶色で丸い眼鏡。

     あの微笑みは忘れられなかった。


     
     家に帰って二階にある自分の部屋に行くと、我が家のポケモンであるピカチュウがサッカーボールをポンポンと柔らかい音を立てながら、リフティングをしていた。
     頭にボールを跳ねさせてからの、尻尾でポーンって飛ばして、頭で受け止めて、今度は足でポンポンとボールを巧みに操る。
     相変わらず器用なやつだな。
     オレはビリリダマ柄のショルダーバックを適当に放り投げ、あのときから握り続けていたドーブルの筆を見た。

     ちょっと、ピカチュウでも描いてみるかな。

     窓側にある勉強机の上に散乱していた、学校からもらったが特段に必要のないプリントの何も書かれていない裏側にピカチュウを描き始めようとする。
     筆の先端を紙に当てて……そういえば、これ、このまま使って大丈夫なのかぁ……と心配していたが、スイスイと黒い線が描ける描ける。
     あ、間違えちゃった……消しゴムで消えるかな……おぉ、きれいに消えたぞ。
     使い心地は鉛筆みたいな感じかな……毛筆のはずなんだけど、とにかく不思議だった。
     よし、もう一回書いてみて……長い耳に、ほっぺたを……また間違えた、消し消し……と、もう一回書いて……更に……と。

     できた!

     オレはできあがった絵を眺めてみた。
     う〜ん……なんか全然上手いようには見えないんだけど、まぁ、ピカチュウに見せてみるか。
     お〜い、ピカチュウ、とオレは声をあげた。

    「ピカ?」

     ピカチュウが頭から跳ねたボールを手で止めて、床にボールを置くと、オレのところまでトコトコと寄って来た。
     お前を描いてみたんだけど、どうだ? と、オレはピカチュウにできあがった絵を見せてみた。ピカチュウの目が一瞬丸くなって…………あれ? なんか一瞬、ピカチュウの赤いほぺったが光ったような――。

    「ピ〜カ〜チュ〜!!」

     あで!
     あででで!!
     あでででででででで!!!
     し〜び〜れ〜るぅぅぅぅぅぅうう!!!! 

    「ピカッ」
     ピカチュウは鼻を鳴らしながら、オレのことを一回にらむと部屋を出て行ってしまった。
     ピカチュウの怒りの『10まんボルト』を受けたプリントは見事に消し炭になっていた。
     そしてオレはビリビリとマヒしちゃって、動けない。

     ……ピカチュウめ。
     プライドが許せなかったというのか。
     そりゃあ……下手だったことは認めるけどさ、だからって『10まんボルト』はねぇだろう、『10まんボルト』は。



     やっぱり、あのおばちゃん、ウソついてたのかな?
     しびれが抜けた頃、オレはベッドの上に寝転がっていた。
     その右手にあるドーブルの筆を眺めながら。
     
     ……確かに、下手だったのは下手だったけど、不思議とこのドーブルの筆に嫌みとか、憎いとかそういった負の感情はわいてこなかった。
     むしろなんか、もっと描いてみたいなぁ……って、あんな痛い目にあって、トラウマになってもおかしくなさそうなのに、もっと、もっと、描いてみたいなぁって。

     ………………。

     オレは勉強机に向かうと、そこに置いてあったポカブ型の貯金箱からいくらか取り出すと、そのまま部屋を出て行き、一階へと降りた。
     玄関に着くと、ちょうど、多分買い物と井戸端会議から帰って来た母ちゃんにばったり会う。
    「あら、けんた。どこ行くの?」

     ちょっと文房具屋さんまで。

     灰色のスニーカーをはいて、勢いよく玄関を飛び出した。
     なんだか、楽しくなってきているオレがそこにいた。


     その後、オレは購入した大きなスケッチブックに色々なものを描いた。
     ポケモンであったり、別ジャンルのアニメやゲーム、小説のキャラクターを描いてみたり、まぁ、オリジナルのものを描いてみたりした。
     好きな音楽のイメージ画っぽいものを描いてみたりもしたなぁ。
     ドーブルの筆を片手に描きたいものを描いてきた……そして、あれから十年以上経った今でも描き続けている。

     大して上手くないかもしれない。
     自分でもまだまだだと思っている。
    「またお絵かきしている」ってなんて馬鹿にされても、描き続ける。
     だって、描くのが大好きだから!

     ある日、描きながら、思う。
     あ、もしかして、あのおばちゃんがくれたものって――。

     そのときだった。
     オレの手元からドーブルの筆が光を放って、そして、消えていったのは。

     まだ、下手かもとは思う中でも、昔に比べたらちょっとは上手くなったと自分でも思える瞬間ってあると思うんだ。

     あのおばちゃんはウソなんかついてなかった。

     でも、おばちゃんがくれたものって、きっと、きっと――。

     ドーブルの筆とおばちゃんに感謝しながら、学校の授業で使っている水色のシャーペンを取り出した。
     さぁ、次は何を描こうかな?
     
     オレのシャーペンが楽しそうに踊り始めた。



     
     ある日の放課後、一人の少女が膝にロコンを乗せて、公園のブランコで遊んでいた。
     
    「お譲ちゃん、絵を描くのは好きかい?」

     縁が茶色の丸い眼鏡をかけ、ベレー帽をかぶったおばちゃんが微笑んでいた。
      



    【書いてみました&さらしてみました(笑)】

    ★イラスト話 

     というわけで、過去絵をさらしてみました。(笑&汗)
     上から順に歴史が流れています。(汗)

     一番上は恐らく、小学校の頃の絵です。
     今のところ、発掘できたなかで一番古いと思われるものです。(ドキドキ)
     ピカチュウにソーナンスに……後はなんだろう、この謎の生物は。(汗)
     多分、ラッキーか、ハピナスを描こうとしたのかもしれません。(汗)
     その後も色々と描いていき……オリジナルキャラとコラボってみたりとかしました。(汗)
     一番下の真ん中の子もオリジナルなのですが、某診断メーカーで思いついたイラストです。
     某診断メーカー恐るべし。(汗) 
     個人的にあのメーカー、インスピレーションを刺激してくれると思ってます。(汗)
     ちなみに一番最近の絵である、巫女さんと仲間達ですが……畳が変なことになっていると思われますが、ドンマイということで。(汗)

     私自身、絵画教室に通っていた時代がありまして……。
     そのときは水彩画を描いてました……ずっと下手っぴだった気がしますが、楽しかったです。
     今は色鉛筆中心ですが、機会があったら久しぶりに水彩画で一枚描こうかなぁ……と思っている今日この頃です。
     
     昔はスケッチブックとかに描いていたのですが、今は無地のノートに『落描き帳』と銘打って描き続けています。
     ポケモンだったり、オリジナルキャラだったり、その他、少し。(汗)
     あっという間に5冊溜まりました。
     ちなみにマサラのポケモン図書館に通い始めてからは更に刺激をもらい、ポケモン率が上がり、6冊目ももう少しで終わりそうです。(キラーン)
     


    ★今回の物語

     よく「どうして、そんなに上手いのですか?」という質問があると思われますが……。
     まぁ、私自身、そんなことを言われたことがないもの&まだまだですから、答えていいのか戸惑っているのですが、私自身としての答えは……。
     やっぱり『続けること』と、それと『大好き』であることが、ありきたりな答えかもしれませんが大事かなと思っています。

     下手でもいいんです。
     もちろん上手でもいいんです。

     要は趣味とどう付き合っていくか……それが大事だと思っています。

     もちろん積み重ねもね!(キラーン)

     ちなみに、あのおばちゃんは人間にふんした、ドーブルの精霊さんみたいな方です。(汗)



    ★最後に 
     
     処女小説もあったから、過去絵もいいかなぁ、と思って投稿してみました。
     さぁ、皆様もぜひ、過去絵を!(キラーン)
     
     ありがとうございました。


    【過去絵出しちゃってもいいのよ】
    【ドーブルの筆でバトンタッチ!】


      [No.1131] 【再掲】コーヒーはブラックで 投稿者:   《URL》   投稿日:2011/05/04(Wed) 00:08:57     55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     コンコン。ノックの音に応じて女性が顔を上げた。
    「はい、どうぞ」
    「失礼します」
     女性――カフェGEK1994のオーナー兼マスターであるユエの呼びかけに応じて、面接室のドアが開かなかった。そして、バイト希望者が室内に入り、ユエに向けて一礼した。

     現れたのは紫の大きなウィッチハットを被り、紫のケープに紅玉のネックレスを身に付けたお嬢様。ユエが向かいの椅子に手の平を向けてから、彼女は椅子に腰掛けた。ケープの下に体がないとか、ドアをすり抜けて部屋に入ったとか、そもそも彼女はムウマージだとかつっこむのは野暮というものである。

    「はじめまして。お電話差し上げましたリリ・マードックと申します。お目にかかれて光栄ですわ」
     リリと名乗る女性、もといムウマージ♀は、面接室の机に肘(ひらひらしていて詳細不明だが、曲がっているのだから肘)を付け、手を顎の下にやって、無邪気そうな笑顔を見せた。そしてハッと何かに気付いたような表情をしてから、大判の茶封筒を取り出した。どこから? ケープの下からである。
     カフェのオーナーの女性は、つとめて笑みを返しながら茶封筒の中身を取り出した。封筒はリリに返した。当たり前のように、リリは封筒をケープの中に戻した。
     封筒の中にあったのは、ありふれた履歴書だった。
    「わたくし、写真うつりがとても悪いんですの」
     ユエの視線が写真に向けられる前に、リリは素早くそう言った。
     その言葉で、ユエは履歴書の写真をとっくり眺めてみる気になった。写真には、どこかのスピード写真の箱の内側だろう、薄汚れた味気ない白い壁が写っていた。よく見てみると、中心と外側で白の色合いが違う。内側の、薄紫の混じった白い影をじっと見つめていると、それが目の前の面接に来たムウマージに見えてくる……気もしないではない。
     フラッシュがだめで、と言うムウマージの言葉を遮って、ユエが質問をした。
    「まず、ここで働きたいと思った理由を聞いてもよいですか?」
     ムウマージは笑みを深くした。そうすると右頬にえくぼらしきものが出来る。中々チャーミングな娘さんである。
    「わたくし、ほんの何週間か前に、この町に流れ着いたのですけれど……」
     ムウマージの話ぶりに気を配りつつ、履歴書にも目を走らせる。名前――リリ・マードック。住所はライモンシティの某所。携帯電話の番号が書かれてある。携帯電話をどこにしまっているかは考えないでおこう。学歴――千九百年頃、師○○に教えを乞う。ユエは年月日をもう一度見直す。やはり学歴欄は二十世紀初頭から始まっている。
     このお嬢様、否、ご婦人はずいぶん色んな場所を旅して、様々な人・ポケモンと親交を深めてきたらしい。そして、二千××年、シンオウの某所で進化、とある。
    「素晴らしい町ですわね。わたくし、ミュージカルにすっかり夢中になってしまって」
     趣味――ポケモンミュージカル、映画鑑賞、ポケモンバトル。特技――シャドーボール。
    「ずっと流浪の旅をしてきたんですけれど、ここに腰を落ち着ける気になったんですわ。それで、このカフェーを見つけて……ひと目ぼれしてしまったのです」
    「ひと目ぼれ?」
     リリはこっくり頷いた。「なんと言ったらよろしいのでしょうね」と、数刻目を宙にやった。
    「にぎやかで、コーヒーが美味しくて。お洒落で、かわいらしくて。それでいて、いつでも誰でも、静かに受け入れてくれるような。たとえ、悪い噂のあるゴーストポケモンでも」
     リリはそこまで話すと、照れくさそうに笑って「今のは忘れてくださいまし」と言った。
    「こんな素敵なカフェーで働きたいと、かねがね思っていたのですわ」
     さっきの言葉を打ち消すように、リリは声を張り上げた。
     そうしてにっこり笑った。えくぼが浮かんだが、なんだか寂しそうな笑みだった。
     勤務時間の希望を聞くと、「お日様ががんばっている時間帯は好みじゃありませんの」それから、「日焼けしますもの」そう付け足した。

     それからまた少し話をしてから、面接は終了となった。リリは、給仕でもレジでも何でもやる、と述べた。
    「決まったら、こちらから連絡します」
     リリはひらひらした紫の裾をつまんで、カーテシーのような仕草をした。そして、来た時と同じようにドアをすり抜けて帰っていった。

     日はまだ照っていた。
     リリはケープの中から赤いパラソルを出した。黄金色の、煮詰めた蜜のような甘い黄昏時。ネオンがパチパチと点滅して、灯る。カラフルな飴のような明かり。この町の夜が目を覚まし出す。
    「甘い夢の後には、とびっきり苦いコーヒーがいいわ」
     ムウマージは誰に言うともなくそう呟くと、薄暗い路地の向こうへ溶け込んでいった。

     カフェの看板息子がその後ろ姿を見送って、店内に戻ってきた。
    「あのポケモン、雇うかな?」
    「さあ、どうだろう」
     常連のピカチュウと数語交わし、奥へ進む。話し相手を探すポケモンがいないかどうか、店内の様子に気を配る。窓の外にムウマージが見えた気がした。ガラスに映った自分だった。

    「あ−、次のバイト志望者の面接まであと五分しかない! ライザくん、三番テーブル片付けて!」
     ユエは従業員たちにテキパキと指示を出しながら、厨房に回る。仕込みを手伝い、時間を見て再び面接へ。今度のバイト志望者はドアを開けて入ってきた。面接を終え、「忙しい」と口走りながら店に出る。
     カフェ『GEK1994』は今日もにぎわっている。


    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【本文は大丈夫だけどタグと後書きは再現できないのよ】


      [No.1004] 硝子が生まれた日 投稿者:紀成   投稿日:2010/12/04(Sat) 00:00:13     69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    幼い記憶―

    母さんは料理ベタだった。チキンを焼けば脂っこくなり、ケーキのクリームはいつも甘すぎた。
    それでも、欲張って食べていた。たとえ次の日の朝、胸やけで起きることになろうとも・・
    父さんは毎日仕事が遅くて、帰ってくる時間は大体日付を過ぎてからなんだけど、その日だけは六時くらいに帰って来てくれた。
    大きな荷物を抱えて。


    中学に入るまでは、毎年そうだった。
    でも、今は違う。家族が一つの場所に集まるなんて、絶対無い。
    なぜって、母さんも父さんも外国にいるから。いつもスケジュールがパンパンだから。
    特にこの時期は年末のため、休みを取るなんて不可能に近いこと。
    だから、時々他の月の子が羨ましくなるんだ。

    寒さを感じて、私は目を覚ました。ベッドの上でツタージャが丸くなっている。
    どうやら、ステンドグラスの歴史の本を読んでいてそのまま寝てしまったらしい。窓が開いている。
    私は窓を閉めると、暖房を入れた。続いてツタージャに毛布をかけてやる。こんな時期に何もかけないで寝たら、風邪を引いてしまう。
    「・・」
    窓の外を見る。闇に包まれた空に、星が少し。
    空がいやに遠く見えた。

    小さな館で知り合ったツタージャは、最近では私の家で一緒に過ごすようになっていた。
    私もそれが嬉しかった。一人は流石に寂しかった。誰にも言ったことはなかったけど、話し相手がいないことは、なかなか辛いものがある。
    今日学校であった出来事も、嬉しいことも悲しいことも誰とも分かち合うことが出来ないのだから。
    でも、ツタージャに出会ってからはすごく楽になった。寂しくないし、温かいし。
    何より、話し相手がいるのが幸せだった。

    携帯電話にはメールも着信も入っていない。両親が外国に行くときに買ってくれた物だ。ほとんど登録していないけど。
    そんなディスプレイを見つめていた時だった。
    「!?」
    手の中で携帯電話が震えた。着信だ。メロディは、チャイコフスキーの『弦楽セレナード』。
    ディスプレイに出された文字は、六つ。

    『カミヤ カオリ』

    カミヤカオリ。漢字で書くと『火宮香織』うちの私立学校の高等部一年生だ。私は中二なので先輩に当たる。
    とにかくミステリアスな人で、意味深なことを言っては周りの人を疑問の渦に叩き込む。だけど悪い噂も多い。彼女に悪意を持って接した人は、必ず学校を去るらしいのだ。
    「はい」
    冷静な声が聞こえてきた。
    「ハロー。元気?突然なんだけど、今から家の前に来てくれないかな」
    カミヤ先輩の家は、この街の外れにある。知る人は少ないが、大きなお屋敷だ。
    「今から、ですか?」
    「寂しいならポケモン連れて来てもいいよ」
    この時間に一人で行くなんて無理がある。電話を切った後、私はツタージャを起こした。
    そして鍵をかけ、家を出た。


    「デスカーン、ヒトモシ達を呼んで来て」
    カオリは電話を切った後、指示を出した。側に置いてある袋には大量のクラッカーが入っている。
    『人を呼ぶなんて初めてじゃないのか』
    「普通なら呼ばないよ。でも、何か放っておけなくて。親がいないのは同じだし」


    一人で寂しくそれを向かえる点が、共通していた。
    共通していないのは、ゴーストタイプを扱えることと・・

    親に会おうと思えば会えることだろうか。

    「喜んでくれるといいんだけど」
    カオリの手には、小さなステンドグラスがあった。
    端っこの方に名前が書かれている。
    『MIDORI』
    と。

    ミドリがカオリの家に来るまであと一時間。
    ミドリがカオリの家のドアを開けるまであと五十分。
    カオリがミドリをクラッカーで迎え入れるまであと四十分。

    ミドリの驚く顔が笑顔になるまで、あと・・

    [HAPPY BIRTHDAY MIDORI!]

    ーーーーーーーー
    12月4日。
    ミドリの誕生日のついでに、紀成の16年目の歴史も祝ってやって下さい。


      [No.880] Re: 語り部九尾 其ノ二 「鬼若」 投稿者:こはる   投稿日:2010/10/29(Fri) 20:51:40     62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     わ、わわわわわっ。
     人の子、何度でも九尾様の御許に足を運びますとも!! まさか、催促が通るなどとは夢にも思わず、ちまちま書いていたりしてたのに! 歴史全般を好む私としては、いつの時代が来てもOKです。膝を揃えて、おとなしくお話をお聞きします。

     ……ちまちま書いていたの、載せてみてもよろしいですか?

    ◇◆◇◆◇◆

     語ることは生きることだとのたまう朋友がいた。ときおり、私のもとにまで足を運んでは、人間たちのことを語っていく。他の獣たちにも、語ってやるらしい。
     変わった九尾だと笑えば、八尾のほうが変わっていると笑い返された。寂しくはないかと訊いてみれば、寂しいのはおまえだろうと言い返される。
     飄々とした老狐のごときと思っても、興味心は子狐のままだ。千年も生きていそうだし、十年しか生きておらぬようにも思える。

     風はきな臭い。世は乱れはじめている。人の子が争いを始めている。
     なに、あの九尾は易々とは死なぬ。語るために生まれてきたような狐だ。此度の争いすら、後生に語り残すだろうさ。


      [No.523] 幸薄荘トーホク支店 投稿者:ピッチ   《URL》   投稿日:2010/08/26(Thu) 20:40:07     82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    トーホク地方は寒いものである。
    そんなことをナギサシティ出身のわたしが言おうものなら何を言っているのかと思われるのだろうが、シンオウの寒さとトーホクの寒さは質が違う。
    外に出れば寒く中にこもっていればなんとかなるのがシンオウの寒さだが、トーホクの寒さはむしろ家にいると凍みるものだ。外に出て陽光を浴びている方が暖かいなんてインドア派の代表例のようなわたしへの挑戦にも等しい。
    春に越してきた時はこの寒さに甚だ驚いたものだ。念願の南下だと思っていたらむしろ北にいるより酷かったのだから。
    ……そんなことを、周りにいるトーホクの友人に言っていたら絶縁されかけた。
    何故だろうか。わたしが「シンオウは寒すぎて人の住むようなところではない」などと言われてもそこまではしないと思うのだが。
    まあいい。今現在のわたしに必要なのは友人ではなくコートである。家の中でコートを着込むなんてシンオウではあり得ない話なのだが、トーホクでは必要になるのだ。何しろ壁がやたらに薄い。
    しかしこれで断熱材でも仕込まれていようものならわたしは7月で既に溶けて消えている。初めて経験した猛暑日というものは、できればもう二度と経験したくなかった。夏休みいっぱいを帰省に当てていたのは、単に運転免許のためだけではない。
    そんなことを思い出してもまったく室温は上がらない。ひとまず今はコートが先決である。
    八畳間備え付けの箪笥を開けば、クリーニングから受け取ってそのままのコートが――

    ……おや。
    わたしはこの箪笥に、こんなにたくさん服を詰め込んでいただろうか?
    黒が多いのは分かる。入れていたはずの、今探しているコートも、入学式以来しまいこみっぱなしのスーツも、ついでにそれっきり使っていないベルトもすべて黒だったはずだからだ。
    それにしても量がおかしい。わたしがこの箪笥に入れていたのはその三つだけのはずだ。しかし今開いてみれば、頭の方だけ白っぽいてるてる坊主が何十と……
    いや、ちょっと待て。
    そもそもてるてる坊主が何故箪笥の中に吊るしてある?
    そんなことを考えていた間に「てるてる坊主」の一つが、黄と藍と水色、三色からなる目をじろりとわたしに向けた。
    ……思いは確信に変わった。カゲボウズだ。




    それからわたしは、カゲボウズたちを箪笥の天井からむしっては投げむしっては投げ、やっとの思いでコートを引っ張り出すことになった。
    コートを着込んで一心地、と思ったが別の意味で寒気がする。床に転がされたカゲボウズたちが「うらみ」のこもった目線をこちらに何十と投げつけてきているからである。これを受けてPPだけの減少で済んでいるポケモンたちは実に強靭な精神をしているのがよく分かる。小心者のわたしはこれだけでHPまで0になりそうだ。
    こういう場合はどうしたらいいのだろう。わたしに除霊のできるような知り合いはいないし、この辺りの神社やお寺はそもそもどこにあるのかわからない。
    この下宿の大家さんなら一喝でカゲボウズなんて追い出してくれそうなものだが、それはそれで更に恨まれそうである。
    ここは除霊とかによる強制退去ではなく平和的撤退を願うのが筋であろう。しかしそのためには何をすればいいのかさっぱりわからない。カゲボウズの好きそうな呪いグッズなんて当てはないし、食べるのかわからないが木の実もうちにはない。下宿の先輩でも頼ればいいのかも知れないが、何せこの数である。足りるかどうか心配だ。
    あれこれと思案しながらカゲボウズたちを眺めているうち、彼らがみんなホコリで汚れていることに気が付いた。
    わたしはあの箪笥を数ヵ月は開いていなかったのである。いつ彼らがうちの箪笥に居座り始めたのかはわからないが、月単位であそこにいたなら汚れて当然だろう。
    目についた一匹のカゲボウズに声をかけてみた。言葉が通じることを祈って。

    「……君たち、えっと……すごく、汚れてるよね?」

    そこまで言うと、カゲボウズは頷いてくれた。わかってくれたらしい。
    その際に頭の上のホコリが舞ったのか、小さくくしゃみをする。……あ、ちょっと可愛いかもしれない。
    いかんいかん、わたしは彼らに退去してほしいのだから。

    「……じゃあちょっと、お風呂……入らない?きれいにしてあげるから、それからよそに移ってもらえたら……」

    そこまで言ったところで、カゲボウズはわたしから離れていく。やっぱりダメか、なんて思ったのも束の間だった。カゲボウズは仲間たちと、まるで会議でもするように話し込み始めたのだ。
    わたしに彼らの言葉は理解できないが、布が擦れるような微かな音は確かに彼らの言葉であるようだった。
    急に声を荒げるようにしたものに、そっと寄り添って宥めるもの。それを尻目に、全体に向けて話をするもの。反論を始めた複数のものに順番をつけて、場を取り仕切るもの。
    まるきり人間顔負けの議会である。カゲボウズがこんなに社会的なポケモンであるとは知らなかった。うちの大学に人獣比較学の教授がいないことが惜しくなってくる。研究してみたい気はするのだが。
    そうこうしているうちに意見がまとまったようで、先程と同じカゲボウズがわたしに近寄ってきて頷いた。
    時計を確認する。いつの間にか日付変更辺りになっていた。今の時間なら、誰かと行き合う可能性は少ないだろう。

    「それじゃ行こう、ついてきて」





    深夜族で有名な先輩の部屋はまだ明かりがついていたようだったが、それ以外は特に人の動いている気配はしなかった。カゲボウズたちが静かについてきてくれたのも好都合だった。ゴーストポケモンなのだし、あまり騒ぐ方ではないのかもしれない。
    脱衣場にたどり着くと、まず備え付けの洗面台に栓をする。人肌程度、なるべく本物のお風呂に近い温度のお湯を張ってみた。冷水だと何より洗うわたしが寒い。
    カゲボウズを数匹入れてみれば、狭い洗面台はすぐいっぱいになった。後から後から入りたがる他のカゲボウズを押し留めて、残りは風呂場の方に連れていく。
    何故か二つある洗面器に同じように湯を張ってカゲボウズを放り込む。
    ……足りない。カゲボウズの方が悠々余ってしまった。
    またあの恨みのこもった視線がわたしを刺す。やめてわたしのHPはもうマイナスだ。
    どうしたものかと考えつつ一旦脱衣場の方に戻ると、先程洗面台に入れておいたカゲボウズが角や体のひらひらした部分を使って、器用にお互いを洗いあっている。人間のような手足はないのに、実に手慣れたものだ。
    野生のポケモンであっても、川なんかに入って体を洗ったりするのだろうか?……やっぱり可愛いかもしれない。
    それにしても、これではわたしの手はいらないだろう。きれいになったカゲボウズとまだ洗っていないカゲボウズを入れ替えるくらいしかわたしの仕事はない。
    カゲボウズたちはお湯の中がよほど心地いいらしくなかなか出ようとしないのだ。温泉地のマンキーの如く温泉を占領するカゲボウズの姿が一瞬脳裏に浮かんだが、流石に怖いので想像するのはそこでやめた。
    上がってきたカゲボウズたちをタオルで拭いてやる。元が布っぽい体をしているので絞った方がいいのではとも考えたが、最初の一匹に手をかけた辺りで恨まれそうになったのでやめた。

    そんなこんなですべてのカゲボウズはきれいな真っ黒の体に戻った。こう言うと妙な気もするが、本当にそうなのだから仕方がない。
    部屋の窓を開けると、カゲボウズたちは一匹ずつ外に飛んでいく。濡れたからか少し動きの鈍いものもいれば、軽快にそれを追い越していくものもいる。
    ポケモンと言えどもやはり人間と同じく千差万別であることがよく分かる。
    それにしても無事に出ていってもらって良かった。時計を見ればもう深夜一時を回っている。自覚したところで急に眠くなってきたので、さっさと布団を敷いて寝ることにした。明日は一コマ目から講義だ。憂鬱。




    ……妙に外がうるさい。
    誰かが叩いている。うちを。恐らく窓。声も聞こえる。

    「――ちゃん!起きて!起きて!」

    しかもはっきり私の名前まで呼ばれている。こうなれば起きる他ない。
    枕元の目覚まし時計は午前五時過ぎを指している。いつもなら思い切り寝入っている時間なのに。
    寝ぼけ眼をこすってカーテンを開けると、窓の外で慌てた様子の隣人が必死に窓の上方を指している。寒いから窓は開けたくないなあ、などと思いながらその先に目を向けた。

    窓は開けていないのに凍り付きそうになった。
    窓の端から見える黒いひらひらは、まさしく昨日のカゲボウズたちではないか。
    これでは気の弱い隣人がわたしを叩き起こしにかかるのも当然だろう。これは少々恨みを買ってでも、きちんとここから出ていってもらわなければ。
    寝間着の上からコートを羽織って、一気に窓を開ける。今日の寒さは一段と身に凍みるような気がするが負けてはいられない、さっさとこのカゲボウズたちをうちの軒下からひっぺがさなければ――!


    カゲボウズが異様に固い。しかも素手で触りたくないほど冷たい。
    違和感に数瞬固まっていたわたしの耳に、隣人の声がようやく届く。

    「起きて自転車取りに来たら、――ちゃんの部屋の外でカゲボウズがみんな凍ってて――」




    その後わたしは、隣人と協力してカゲボウズを軒下から引き剥がしてストーブを最強モードで焚いた部屋の中に入れる作業を涙ながらに行うこととなった。一コマ目は返上で。
    それからカゲボウズたちは暖かなわたしの部屋がずいぶん気にいってしまったらしく、いっこうに出ていく様子がない。
    だから今でもタンスはおちおち開けられない。彼らの安眠を邪魔しようものなら、すぐさまあの「うらみ」のこもった視線が飛んでくるからである。
    今のわたしの希望は、春になって外の方が暖かくなったら彼らは出ていってくれるだろうか、ということだ。


    ――――
    Q:何故トーホクにしようと思ったんですか?
    A:この小説の半分以上は私の実生活でできているからです(←シンオウからトーホクに転居しました)

    カゲボウズが大好きなので便乗しようと思いましたら、何か形を間違えた気がしました。
    削除キーは入れてありますので勘弁して下さい。

    【描いてもいいのよ】
    【批評していいのよ】
    【好きにしていいのよ】
    【増やしてもいいのよ】


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