ポケモンストーリーズ!投稿板
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  •   [No.1347] 【改稿版】 こちら鏡屋メタモンでありんす。 投稿者:巳佑   投稿日:2011/06/21(Tue) 16:36:59     55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5


     前置き:これは改稿版です。
          今編まではちょこちょこ変わっていますが、過去編では大幅に書き換えています。
          それと、過去編では暴力的な表現があるかもです。閲覧にはご注意を。(汗) 

     

     【宣伝編】
     
     この世には色々な生き物がおる。人間という生き物や、そして、わらわっちのようなポケモンという生き物もおる。ポケモンと言ってもその種類は一言で表すことはできぬ。紫色の柔らかい体を持つわらわっちはメタモンというポケモンじゃ。
     わらわっち、メタモンと呼ばれておる者はその身を自由自在に変えることができるのじゃ。そうじゃな……例えばピカチュウという電気ネズミのポケモンとか、化け猫ポケモンと呼ばれておるニャースなど、実に様々じゃ……不思議であろう? 一目見たものであれば、ほぼ完璧にそのものに『へんしん』することが可能なのじゃ。
     わらわっちはこの能力をもっと活かそうと、色々なところに旅をして、様々な経験を培って、あることを始めてみたのじゃ。カガミの森のわき道をまっすぐ進んでみよ。その先にある一本の大木の下にわらわっちがおる。
     
     お主は何が見たい? 
     
     お主が見たいものを申せば、わらわっちがどんなものでも見せてやろう。
     よいか? カガミの森のわき道をまっすぐ通って、一本の大木のところまで目指せ。そうすれば、紫色のゼリー状の体に、そうじゃな……手には昔もらった、キセル、という物……まぁ、とりあえず、何か持っている奴がおるから。
     それと、自分のことを『わらわっち』と呼んでおるし、これも特徴的よのう? 

     ん? 何故、自分のことを『わらわっち』と呼んでおるか,じゃと?

     旅をしているときにのう、艶やかな着物を着ている人間達が自分のことを『わらわ』や『わっち』と呼んでおる者がおってな、二つとも可愛かったから繋げてみたんじゃ。
     それで……ええぃ!! 話が長くなるぞ!? わらわっちのことはどうでもよいから! あっ、言い忘れておったが報酬を忘れぬように、じゃが……わらわっちは人間じゃないから、銅貨や銀貨や札束を持って来られても困るでありんす! 
     そうじゃな……食べ物じゃ。特にわらわっちは甘い物には目がないからのう! モモンの実とか……とにかく甘い物は大歓迎じゃ! 
     ……さて、話が長くなってしまったが、宣伝は今の言葉をお主にうまくまとめて欲しいのう。帰り道には気をつけてくりゃれ? 
     
     鏡屋メタモンは、お主が見たいものをなんでも映してやろう。


     【未来編】

    「ねぇねぇ! つぎはグレイシアにへんしんしてみてよ!」
    「しょうがないのう、ほれ!」
     カガミの森の奥にある大木の下で、わらわっちはグレイシアに『へんしん』した。紫色の体が水色に染まっていき、額に氷柱のような形をした、蒼い飾りをつけた四足歩行のポケモンになった。
    「わぁ〜! かわいいなぁ! ひゃう、つめたい!」
    「グレイシアは氷のポケモンじゃからな」
     グレイシアの姿に興奮した依頼者が面白そうにわらわっちに触っては、はしゃいでおる……うむ、童(わらべ)じゃし、お触りは大目に見といてやるでありんす。 
     
     ここは鏡屋メタモン。『へんしん』という技で、依頼者の見たい姿を映すといったものをやっておる。依頼はそうじゃなぁ、例えば自分が進化したときの姿を見せて欲しいというのがあるのう。
     今、目の前にいる、茶色の体にクリーム色の毛を首から生やしておるイーブイというポケモンもその一匹じゃった。
    「う〜ん、メタモンおばちゃんにぜんぶ、へんしんしてもらったけど……なやむなぁ……」
     イーブイが小さな前足で「う〜ん」と頭を抱えた。
     そう、今朝からわらわっちはイーブイに進化系を見せて来たわけなのじゃが……。
     
     額に赤い宝石みたいな物をつけているエスパーポケモン、エーフィ。
     漆黒の体に黄色の模様が映える、悪ポケモン、ブラッキー。
     オレンジの体にモコモコとした毛をつけた炎ポケモン、ブースター。
     毛が針のように逆立つこともある電気ポケモン、サンダース。
     頭の上からなびく葉っぱが魅力的な、草ポケモン、リーフィア。
     首回りのエラみたいなものが特徴的の水ポケモン、シャワーズ。
     
     そして、今のグレイシアに繋がったわけなのじゃが……御覧の通り、イーブイには進化系が豊富に分かれておるのじゃ。優柔不断になるほど、分岐がたくさんあるのは……ある意味うらやましいかものう。色々な可能性を秘めておるのがそこから目に見えるわけじゃからな。
     さて、イーブイの悩みの種でもある進化じゃが、今のところ、この世界のポケモンは進化後、進化前の姿に戻ることはできないそうじゃ。
     だから、わらわっちのところに来る者で、進化後の姿を見せてくれと頼みに来るのはそういうわけなのじゃ。

     進化後の姿はどうなのだろうか? 
     受け入れられるものなのか? 
     姿が変わって……その先の生活にはどのような影響が?

     それぞれ色々な悩みを持ちながら、わらわっちに自分の進化後の姿を見せてくれと頼みに来ておる。このイーブイも何かきっとワケありなのじゃろうが……誰だって訊かれたくないことの一つや二つ、あるじゃろう? 
     わらわっちはあくまでその者の見たい姿を映しているにすぎん。本当ならその後のことはその者の責任じゃが……まぁ、どうしても相談に乗って欲しいことがあるというのならば、してやってもよいがのう。
    「……メタモンおばちゃん。おねがいがあるんだけど」
     今まで小さな前足で頭を抱えていたイーブイが顔を上げて、わらわっちのことを見る。『おねがい』という言葉から察するに、わらわっちが相談役を買うかもしれんな、これは。
    「ひとばん、ここにとめてほしいんだ。もちろん、きのみをいっぱいメタモンおばちゃんにあげるから、おねがい!」
     まさかの『おねがい』にわらわっちも一瞬、困ったでありんす。しかし、帰れと言っても退かぬような眼差しがわらわっちに刺さって来る……負けた、これだから童は恐ろしいのじゃよ。
    「分かったでありんす……けど、おぬし、本当に木の実をそんなに持っておるのか?」
     お返しとばかりに意地悪な質問をわらわっちが投げかけてみると、イーブイは横に置いてあった無地のふろしきを引っ張って、わらわっちの前に示すと、結び目を解く。
    「だいじょうぶだよ! いっぱいあるから!」
     ふろしきからゴロゴロと可愛げな音を立てながら木の実が転がっていく。
     ……わらわっちの負けじゃな、これは。

     どこかでホーホーが鳴いとる夜空の下。大木の根元にわらわっちとイーブイが座っていた。イーブイからもらった木の実をたらふく食べて……う、動けん。
    「メタモンおばちゃん。ボクはなににしんかしたらいいのかな?」
     イーブイがふと声を上げた。まだ、悩んでおるようじゃな……まぁ、進化系が七つもあるから当然か。
     グレイシアに『へんしん』した後も、イーブイはわらわっちにもう一度、ブースターやサンダースに『へんしん』をして見せてくれと頼まれてしまってのう……かれこれ、日が沈むまで続いたわ。
    「……わらわっちはイーブイの見たいものにしか『へんしん』して見せることしかできん。あくまでわらわっちがしているのは、イーブイの背中をちょっとだけ押すようなものじゃ。この先、どうしたいかというのは、全て、お主次第じゃ」
     このイーブイもやがて大人になるじゃろう。今は恐らく、親元で暮らしていると思うが、巣立った後、自分のことは最終的に自分で決めていかねばならん。
    「そうか……むずかしいんだね。あ、そういえば、みんなはどんなことをかんがえて、しんかしたのかな……」
    「みんな?」
    「うん。ボクのかぞく」
     イーブイはどこか遠くを見つめるような眼をした……いかん、つい『みんな?』とオウム返ししてしまったわ。嫌なことを思い出させてしまったかもしれんな。
    「ボクね、もともとすてられていたみたいなの。たおれているボクをたすけてくれたのが、ようこママで、それからボクはそのかぞくにおせわになってるんだ」
     イーブイが語り始めた家族の話。
     ようこ、というのはエーフィのことらしい。確かにポケモンの中では自分に名前をつけて混乱しないようにしている者もおる。わらわっちはメタモンのままじゃがな。ようこの他にもイーブイが家族を語り続ける。
     
     優しくて、けれど時々ドジを踏む、父のブラッキー、ゲツヤ。
     大人の話を教えてくれる長男のブースター、コウタロウ。
     ケンカ腰だが、自分のことを守ってくれる二男のサンダース、ライガ。
     色々なことを知っていて、勉強してもらっている三男のリーフィア、ジュラ。 
     物腰が柔らかくて、品が良い長女のシャワーズ、みなも。
     恥ずかしがり屋だが、根はとても優しい二女のグレイシア、つらら。
     
     このような感じでイーブイの家族話は止まることを知らんかった。最初の『すてられた』という話以降、この家族の話でのイーブイの顔はとても活き活きとしておった。どうやら、幸せな暮らしを送っておるようじゃな。わらわっちは少しほっとしたでありんす。
     どれ、そんな童にもう少しだけ背中を押してやろうかのう。
    「……のう、イーブイ。お主は将来、何をしたい?」
    「え?」
    「さっき、お主自身で言ったではないか。家族の皆はどんなことを考えて進化したのかって。お主が将来やりたいこと……それに向けて選べばいいのではないかのう?」
     一度、進化をしてしまったら二度と元には戻れない。まぁ、人間が変な機械を作って、進化前の姿に戻れる装置やらなんやら作れば話は変わってくるのかもしれんが、仮にそんな物を作られても、わらわっちは嫌じゃな。
     自分の決めたことには、とことん進んでいって欲しいからのう。この道が嫌じゃったからこの道にしようの繰り返しでは、強くはなりんせん。自分の気持ちに嘘をついて欲しくはないんじゃ。
     自分と向き合って考えられるような機会を与える……それがこの鏡屋の真意だったりするのじゃ。
    「じぶんのやりたいこと……」
     イーブイは何かを考えるかのようにしばらく黙ってしまったが、このイーブイが今、自分とまっすぐ向き合っている証拠でもあった。このイーブイがどんな答えを出すのか、楽しみでありんす。
    「…………」
    「……ん? ほほ、どうやら考え過ぎて眠ってしまったようじゃな。お休み、イーブイ」
     そういえば、イーブイの名前を訊いてなかったのう。明日、訊いてみるとするか。
     わらわっちにも眠気が襲いかかって来たようなので、静かに目を閉じた。
     どうか、イーブイの選ぶ道に幸あれ、と願いながら。

     翌朝、目が覚めると、そこには昨日の悩み顔とは違って、明るい顔のイーブイがそこにいた。
     何か答えを出したかもしれんな。そんなイーブイの想いをくみ取れるかのような、底なしに明るい笑顔でありんす。
    「メタモンおばちゃん! ありがとう! ボク、決めたよ!」
    「ほう」
    「ボク、ママみたいにだれかをたすけてあげられるようなエーフィになりたい! ママみたいにあたたかいものをあげられるようなエーフィに!」
     イーブイはそこまで言うと、「じゃあ、またね!」と言いながら、きびすを返そうとした。
    「ちょっと待つのじゃ」
    「な〜に?」
    「お主はなんという名前なのじゃ?」
     イーブイがはにかみながら答える。
    「ななる、っていうの」
    「そうか、ななる、か。よい名じゃな。また来て、ぜひエーフィの姿を見せてくりゃれ?」
    「うん、もちろん! ほんとうにありがとう! メタモンおばちゃん! またね!」
     イーブイ――ななるが勢いよく走りだした。
     その姿は自分の進みたい道にとことん入っていくという意志が伝わって来た。尻尾が可愛げに揺れている、ななるの後ろ姿を見送りながら、わらわっちは呟いた。

    「ふふ、将来は素敵な、おなごになるんじゃろうな、きっと」


     【今編】

     本日も鏡屋メタモンは営業中なのじゃが……これまた、騒がしい客が来たもんじゃと、ため息が漏れそうでありんす。
    「ねぇ! わたくしは本当に進化しないんですの!? ねぇ! ねぇってば!」
    「だ〜か〜ら! 何度も言うようにお主に進化系はないと言うておるじゃろうが!」
     わらわっちに泣きながら訴えかけて来るのは、黄土色の平たい体に、黄色の尾ひれ、その背中にはビックリマークのような黄色の模様があるポケモン――マッギョじゃった。
     このマッギョ、かなり勢いのある性格でな、わらわっちを見るや否や、いきなり目の前まで跳ねて来よって、これでもか! というぐらいに思いっきり跳ねて顔を近づけながら、こう尋ねたのじゃ。

    「マッギョの進化系はありませんの!?」

     残念ながらマッギョの進化系はない。この世界を知るわらわっちが言うんじゃ。ないと言ったらないんじゃ。たまにいるんじゃよ……進化系のポケモンを見て、自分も進化したいと思っておるポケモンが。気持ちは分からんこともないがのう……。
    「うぅ……進化して美しくなっているポケモンがいますのに……! 幼なじみのミミロルちゃんとキルリアちゃんが進化できて! なんで! わたくしだけが進化できませんの!? 説明してちょうだいな!!」
     マッギョがまた跳ね上がって、わらわっちの顔すれすれに近づいて来た。膨らみのある唇が、イ、インパクト大なのじゃ……。
     それにしても、ミミロルの進化系はミミロップで、キルリアはサーナイトじゃったか……これはマッギョが嫉妬に燃えるのも仕方がないことかもしれんのう。
     じゃが――。
    「わらわっちは学者でもなんでもありんせん!」
    「そ、それなら……わたくしはどうすれば……! このままでは結婚も乗り遅れて……しまいには一生、生涯、独身で、孤独のままに……! う、うぅ……!」
     そこまで言った途端、マッギョが泣き崩れてしまった。確かに美しいとか可愛いとか、姿を示す言葉は大事かもしれんな。おなごも男も、皆。
     わらわっちはため息をつきながらも、このまま放っておくわけにもいかんので、『へんしん』を使った。姿はもちろんマッギョじゃ。
    「マッギョ、わらわっちを見てみろ」
    「……ぐっすん……な、なんですの?」
    「わらわっちのこの姿はなんじゃ?」
    「え? マッギョに決まっているじゃありませんの」
     当たり前だというようにマッギョが答えた。何を今更という感じがマッギョの声音から伝わって来るのう。確かにマッギョの答えは間違えておらん。じゃが……違うんじゃ。わらわっちが「違う」と言うと、目の前のマッギョが訝しげな表情を見せた。
    「答えはわらわっち……つまりメタモンじゃ」
    「……! そんなにわたくしのことをバカにしたいですの!?」
     おちょくられたと思ったのじゃろうな……マッギョが憤慨しそうな顔を向けて来た。
    「勘違いするでない。こんなときに冗談が言えるか、たわけ」
    「なら……なんだって言いますの?」
    「わらわっちはあくまで、お主の姿を映しただけでありんす。中身まで映すことは叶わん」
     わらわっちのメタモン特有である『へんしん』は確かに相手の姿になるだけではなく、相手の持っている技まで使うことができるのじゃが……残念ながら、性格といったようなものまで映すことはできん。
    「どんなに姿形を変えようとも、わらわっちはわらわっち。お主はお主なんじゃ……中身を変えること……それも進化の一つじゃないかのう?」
     鏡というのは表面を確認するだけのものではなく、内面も映しているということ、自分自身を見つめるものでもあると、わらわっちは思うておる。
     自分と同じ姿を見て、何かに気づくことができたのならば、鏡屋として嬉しい限りじゃ。
    「…………そうですわね。外見ばかりがこの世を決めているわけではありませんよね」
     少しばかり黙っていたマッギョが静かに声を上げた。涙はもう止まっていて、何かに気がついたような顔をしておった。
    「中身を変えていくこと……それも進化の一つ……素敵な言葉ですわ! そうですわよね! 外見ばかりを気にしていた自分が恥ずかしいですわ」
     マッギョがはにかみながら言った。もう大丈夫そうじゃな。よい笑顔をしておる。
    「そうと決まったら、早速、自分探しの旅に出て、自分を磨いてまいりますわ!」
     中々よい意気込みじゃが……このマッギョ、時々勢いがありすぎなような気もするのう。どこかで問題を起こさなければよいのじゃが。まぁ、仮に問題が起こったとしても、それはマッギョの内面が一つ磨かれる機会かもしれんしな。後はわらわっちがとやかく言うことではありんせん。
     またマッギョと逢えたとき、彼女がどのように進化したのかが楽しみじゃ。
    「ありがとうございました、メタモンさん!」
     跳ね去ろうとするマッギョに、わらわっちは慌てて声を上げた。
    「待て! お主、報酬は!?」
     やっぱりこのマッギョ、ちょっと心配じゃ。
    「あら! ごめんなさい、わたくしとしたことが。えっと……ありましたわ、これを!」
     マッギョの傍にあった木製のバスケットから顔を出したのは……なにやら、赤い液体が入っている謎の一本のビン。
    「それを飲みますと、美容に効果がありますのよ! それではごきげんよう!」
     マッギョは大きく尾ひれを振りながら去っていた。
     やれやれ……今回はかなり疲れたような気がするのう。あの勢いは類まれにみるものじゃったな。
     さて、マッギョがくれたこの謎のビン……どうやら飲み物のようじゃが、早速、頂くかのう。わらわっちはまだまだピチピチなのじゃが、まぁ、普段からのケアは大事だと言うしのう。どれ、ふたを開けて、と――。

     数秒後、わらわっちの口から『だいもんじ』が出おった。
     
     まるでマッギョの旅立ちを盛大に祝うかのような激しい炎じゃった――。

    「……って、そんなわけあるかい!」

     わらわっちのノリツッコミこそが、マッギョの背中を押すかのように響いていった。


     【過去編】
     
     水色の体に白い羽毛のポケモン――チルタリスの上に紫色のタマゴが一つ。
      
     ……今朝、散歩しておったら、紫色のタマゴが一つ落ちててのう、近くに親がいる様子はなく、捨てられた可能性が濃厚じゃった。
     とりあえず、そのままにしておくわけにもいかぬから、タマゴを例の大木に持ち帰って……タマゴは暖めさせるのが一番よいから、その役目に叶う羽毛たっぷりのチルタリスに『へんしん』して……今に至るわけなのじゃ。
     
     タマゴか……あの頃を思い出すのう。

     その昔、わらわっちがまだ旅を続けていた頃じゃった。
     空は雲一つない快晴、心地よい温かい風も吹いておって、まさに順風満帆な旅の途中であった。
     いきなりのう、後ろから誰かに襲われてな……あまりの唐突ぶりに流石のわらわっちも遅れを取って、そのまま口元に白い布を当てられ何かを嗅がわされて――意識を失ったのじゃ。
     
     次にわらわっちが目を覚めた場所はどこか建物の中じゃった。
     木製の板で造られた一室で、広さは五、六匹のカビゴンが余裕で寝転がれる程じゃった。物一つなく、窓もなかったが、隙間風が時折入ってきておった。
     ここは一体どこなのじゃ……わらわっち以外誰もおらんし……そう呟きながら辺りを見渡すと、部屋の出入り口であろう戸が思いっきり開かれ、そこから漆黒に染まったポケモン――ヘルガーが現れた。
    「よう、気分はどうだい? メタモンさんよ」
     ヘルガーが舌舐めずりしながら、わらわっちに近づいて来る。何か嫌な予感しかならない――と、わらわっちが身構えた瞬間じゃった。
    「ヒャッハァ!」
     刹那――ヘルガーが飛び出し、わらわっちを襲い、押し倒した。何をする――と開こうとした口にヘルガーの口が重なる。生臭い匂いがわらわっちの口の中に広がると同時に、わらわっちは違和感を覚えた。
     なんだか体が熱くて仕方ない、疼いて仕方ない――ヘルガーの口が離れたとき、わらわっちの吐息は甘いものを帯びておった。
    「へへへ。親分のビヤクが効いているみたいだな。よくとけた顔しやがって」
     媚薬、じゃと? もしかして意識を失っているときに一服盛られたのか? だ、駄目じゃ、体の自由が効かぬ……このヘルガー、一体これから、わらわっちに何を――。
    「さぁて、楽しませてもらおうか? ぐへ、ぐへへへ!」

     何度、声を上げては腰を振ってしまったのじゃろう。 
     嫌じゃのに、あのヘルガーに求める自分が惨めで情けなかった。
     しかし、その代わりと言ってはなんじゃが、行為の最中、調子に乗ったヘルガーが口走らせたおかげで今回の経緯を知った。
     
     なんでも、ここは雌のポケモンにたくさんのタマゴを産ませ、そして孵化した中で能力の高い者を高額で客に売りつける人間がおるらしい。
     その人間は雌ポケモンを捕まえる度、この部屋に監禁し、死ぬまで快楽漬けにさせながら、タマゴを産ませておって……この前、その雌ポケモンが死んだから、代わりの雌ポケモンを探しておって、わらわっちは運悪くそやつの目に止まったということじゃった。
     メタモンは相手のポケモンに合わした子を産むことが可能じゃからのう。極論を言えば、全てのポケモンの子を産むことが可能なんじゃ……その能力に目をつけられるのもおかしくなかった。 
    「お前はただ、快楽をむさぼって、タマゴ産んでりゃいいんだよ! 雌なんてのは、どうせそれぐらいしかできねぇだろ!? ハハハハハ!!」
     ヘルガーの下品な笑い声がわらわっちの心に刺さる中、また、わらわっちの中で胎動が起きた。
     お腹が苦しい……この苦しみから抜け出すには産む他ない――わらわっちは踏ん張って、お腹に力を込め、時間をかけて押し出すかのようにタマゴを産んだ。
     ポトリと透明な液体を被ったタマゴがわらわっちの中から転がり落ちると、ヘルガーはそれを尻尾で器用に巻きつけ、恐らく親分とやらの元に――ここで、いつもわらわっちは産卵後の半端ない脱力感で気を失い、そして間もなく起こされ、行為がまた再開された。

     一体、何個のタマゴを産まされたのじゃろうか?
     
     終わりが見えぬ快楽漬けとタマゴ産みの地獄にわらわっちの心も折れかけそうになった。
     しかし、あるときのことじゃった。初回以外、毎回行為の際、ヘルガーに飲まされていた媚薬の効果が弱かったときがあった。
     ヘルガーとの行為の際、なんとか快楽に歯を食いしばって反抗し、悪タイプのヘルガーが苦手とするコジョンドにわらわっちは『へんしん』すると、ヘルガーの腹に思いっきり一撃をお見舞いしてやった。
     効果は抜群で、ヘルガーが意識を失ったことを確認したわらわっちは部屋から脱出し、廊下のような場所に出て、適当に進んでみると、階段を見つけ、昇っていく。
     今までのヘルガーとの行為で体力を奪われていたわらわっちの歩みは少々おぼつかなかったが、立ち止まるわけにもいかぬ。
     また捕まったら……地獄の再来だけはごめんじゃった。
     長くて暗い階段を昇ると、また廊下に出た。とりあえず進んで行くと……襖が見えてきた。中からぼんやりと明かりらしきものと一つの声が漏れた。
    「また……低固体か……駄目じゃけんのう。コイツもいらんわい」
     その後、聞こえてくる何かが思いっきり刺される音にわらわっちは嫌な予感がし、すぐさま、その部屋に入った。

     そこには、大量の血を流して倒れておる何匹もの黒い子犬ポケモン――デルビルの姿と、太った人間の男がいた。
     その男の手にある血まみれの小刀、そして顔には返り血、それと恐らく致命傷を受けてしまったデルビル達――。
     
     あれが、わらわっちをあんな目に合わせた人間なんじゃな……?
     それと、あの子達は、わらわっちが産んだ子じゃよな? 
     確かに望まない子じゃったかもしれん。
     だが、あの子達は確かにわらわっちの中で芽吹いた確かな命のはずじゃ。
     その命を塵屑のように扱ったじゃと?
     何様のつもりじゃ?
     
     わらわっちの中で何かが切れた。

     刹那――驚きの顔を見せるその男の元へと、マルマインに『へんしん』したわらわっちは転がった。
     男からは鼻を塞ぎたくなるような獣の臭いが漂う。
    「ここまで、花を咲かせた人生を送ったのじゃろう? なら、派手に散るのもまた一興よのう?」
     怒りを込めた笑みをわらわっちは男に向けた刹那――。

     目の前が真っ白に染まった。 

     次にわらわっちが目覚めたときには、そこは焼け野原で、あのヘルガーも、あの男もいなかった……渾身の『だいばくはつ』をお見舞いしてやったのじゃ、恐らくは木端微塵に散ったのじゃと思う。
     それで、わらわっちが体力を使い切って動けずにいたところ、一人の青年が現れてのう――このわらわっちが今持っているキセルはその青年から親友の証としてもらったものなのじゃ。
     他者不信に陥っていたわらわっちを助けてくれた奴でな……それで……ん?

     かすかに羽毛にくるまってるタマゴが揺れた。
     
     少々、過去にひたりすぎておったかのう。
     ……大丈夫じゃ。お主はわらわっちが責任を持って育ててやるから。
     
     タマゴに詰まっておるその命に、わらわっちは微笑んだ。

    「力強く、生きてくりゃれ」

    (10000字 前置き除く)


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