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作者一覧(入室順・敬称略) きとら・流月・銀波オルカ・リナ・イケズキ・きとかげ・moss・朱雀・ラクダ・巳佑・小樽・スズメ
※全員分写したと思うのですが、お名前が抜けている方がおられたらお知らせ下さい。(筆記者・きとかげ)
ルールは第一部といっしょ。今回期間は18〜19日です。
あくまで「甲斐で判じ物」です。
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遠くの海から日が昇る。
あのあとどうしたんだっけ? ずきずきと痛む頭を抱えながら、あのあとのことを思い出そうとする。
痛みで集中出来ない……。落ち着け自分……黄金色の太陽を見るうちに、心も静まってきた。
ゆっくり、ゆっくり、記憶を辿る。葡萄畑、滴る汗、槍、金髪――お客はん? お客はんだ。確かに私はそう耳にした。昔京都へ修学旅行に行ったときに聴いたことのある方言。一体誰だったんだ? そしてここはどこだ?
次第に記憶を取り戻してきた。そうだ。私はあの時迫ってきた「何者か」に廊下で襲われ、足が凍って動けなくなっていた。確かにそうだった。なのにどうして今、私はベッドで横になっているんだ?
私はベッドから跳び上がり、右足を確認する。……大丈夫だ、凍っていない。窓の外には水平線から段々と昇りゆく太陽。……ええっと、甲斐に海はあったっけ?
しばらく外を見ながら考える。甲斐に海は無かったはずだ。……じゃあこの窓の外に広がる水平線は一体なんだろう?
とにかくここがどこなのかを確認しようと立ち上がるも、不意に力が抜けてその場に転んでしまう。
そうか……まともに飲み食いしてなかったから、体に力が入らなくて当然だ。そう納得してから、ふと疑問が浮かぶ。あの廊下で(恐らく)気を失ってから、いったいどれくらいの時間が経ったのだろう?
とりあえず水を。おぼつかない足取りで水道を探した。しかし、水道が見つからない。というより、馴染み深い電化製品が何一つ見つからない……どういうことだ?
「お気づきになられたようですわね」
突然、凛とした声が聴こえた。振り向くとふすまがいつの間にか開いており、鮮やかな紫の着物を着た女性がこちらを見て微笑んでいる。
その女性はこちらをみて柔和な笑顔を浮かべている。穏やかな声だ。耳慣れないイントネーションに、逆にほっとする。――あっ! 突然ハッとして思い出した。このしゃべり方は聞いたことがあるぞ。そうだ。あれは修学旅行で行った町の、エリカというジムリーダーじゃなかっただろうか?
「大丈夫ですか?」
その女性はこちらに近づいてくるとゆっくり右手を差し伸べてくれた。私がその手を掴むとほんのりと暖かさが伝わってくる。
「どうも、ありがとうございます」
助けてもらいながら、倒れそうになっていた体を起こす。彼女の手の温もりにほっとした。ほっとした瞬間、私のお腹が盛大に鳴った。……これは恥ずかしい。
もしかして昨日から何にも腹に入っていないんではないだろうか。空腹とは気付くと余計酷くなるものである。女性は私の空腹を察したのだろう。
「どうぞこちらへ。食事を用意しております」
柔和な笑みを浮かべ、私の手を取ったまま長い廊下を進む。
手を引かれるなんて子供みたいだ。しかし、彼女の手の感触から離れることもできそうにない。恥ずかしさを誤魔化すように質問した。
「あの、私――夢を見ていたのかもしれませんけど――なぜここに来たのか全く覚えていなくて。あなたが助けてくれたんですか?」
声に出してから、あまりに子供っぽい訊き方になってしまい、私は余計に恥ずかしくなった。
「ふふっ……、お気になさらずに」
そう言って、彼女はどんどん行ってしまう。今の私は、まるでさっきルージュラに連れて行かれた時と同じだった。なにも知らないで振り回されてる。
気がつけば女性と私の間に大きな間ができていた。ときおり彼女はこちらをふりむくものの、その歩みは変わらない。
「すいません。もうすこしゆっくり……」
女性が廊下の角に消えてしまうと、私はまたしても一人取り残されてしまった。慌てて彼女の後を追うも足が思うように動いてくれない。息切れしつつも何と角にたどり着いた時にはもう女性の姿はどこにも見当たらなかった。
まだまだ廊下は続いている。なのに、彼女は煙のように消え失せてしまっていた。おかしい、あの速度で歩いていたなら姿は見えるはずなのに……。そう考えていると、後ろからぽんと肩を叩かれた。振り返ると、そこには。
長い廊下。さっき曲がったはずの角がなくなり、私の前も後ろも延々と直線が続くのみとなっていた。さっき肩を叩いたはずの誰かも、いない。ふと寒気を感じた。
ぴちゃりと一滴、ぽちゃりと二滴、ぴちゃっと三滴、ぽちゃっと四滴……寒気の原因となったものが私の目に映る。鉄のような匂い漂う、真紅の水溜り。
「アナタ、サス、ヤクソク、シタ」
ひとときの休息に葬ったはずの戦慄が舞い戻る。さあっと血の気が引いていくような感覚、――本当に血が抜けていっているなんてことは……? 停止しかけた思考に追い討ちをかけるように、黒々と煌く金属のような冷たさが頬に触れた。
とっさのことだった。私は右手をポケットに差し込んだ。それは身体に染みついた、トレーナーの動き。何かまるい物が手に当たった。
「ムダナアガキネ。ボーイ」
ルージュラが私をあざ笑う。
いやいやお前カードゲームの創始者だ。あまりの見事さにそう突っ込むことしかできない。ていうか、ポケモンなら普通に技を使えってんだ。舌打ちすら許してもらえなさそうな状況でできることはそれだけだった。
〈無駄なあがき〉今は思い出せないが、ずっと昔どこかで聞いた言葉だ。腹が立って、突然全身がかぁーっと熱くなった。全身の細胞がその言葉に反発しているみたいだった。私は首元に迫る槍もお構いなしに、まるで初めから決まっていたことのように、その「丸いもの」を放り投げた。
それは赤く熟したマトマのみであった。目にもとまらぬ剛速球。だてに586年生きている私ではない。あざ笑うルージュラの頬にべちゃりと音を立ててマトマのみが張り付いた。一瞬遅れて、光と共に相棒が出現。後ろを振り向けば、フライパンを持ったエリカさんっぽい人影がいた。
「ニギャアァァァァァ」
前方に、尻尾を踏まれたブニャットのような悲鳴を上げる槍ルージュラ。
「そうそう、あなたの相棒をお預かりしていたのを、すっかり忘れていましたわ。何かお食事をお出ししようと思って、焦っておりましたのね」
後方には、フライパン片手におっとりと微笑む彼女。私は彼女達に挟まれて、身動きならない状況だった。
ドンッ。槍が床に刺さる。ルージュラは肌に付いたマトマの実を落とそうと躍起になっていた。
「ハダガッ! ハダ、アレル!!」
しかし、擦れば擦るほどマトマの果汁は広がり、ルージュラの肌に損害を与える。先の女性がフライパンを片手に微笑みながら
「ご不浄はあちらですわよ」
と天井を指さした。
女性の指さす、天井から黄色い小さな蜘蛛みたいな者がルージュラの胸の上に降りてきた。
「汚れを電気で浄化でちでち!!」
刹那――電気の飛び跳ねる音が辺りを埋め尽くし……って、いた! イタタ!! イタタタタタタ! しびれるうううううう! ルージュラと彼女の間に入っていた私はとんだとばっちりを受けてしまった。
飛び散ったマトマの鼻を突き刺すような辛い香りが、明滅する視界から私を引き戻す。ほとばしった電撃は味方と受け止めるべきかも分からない。女性はくすくすと笑い声を上げる。私は振り返りもせず、再びポケットに手を突っ込んだ。
マトマの実は分かった。分かったから、このわけのわからない状況を打開することのできる何かが欲しい。無我夢中でポケットを探ると、なにやら「もふっ」としたものに触れた。まさか、そんな――
それはポケットではなかった。触れたのは自分の“体毛”だった。ああ、やっとわかった。人間の恰好をしていながら、586という人間にあるまじき歳である訳も、あのルージュラの言葉が分かる訳も。それは俺がゾロアークだったからだ!
「やっとお気づきになられましたね」
女性は静かに微笑みながら、天井にぶら下がる電気蜘蛛を呼び寄せる。
「草使いといえど、他のタイプも持っておりますのよ」
正直に言って自分が聞きたいのは、そんな手持ち云々の些末事ではなく、自分を取り巻く環境全てに対しての説明をしてほしい。夢なら覚めてくれと思ってるこの荒唐無稽な状況全てに納得のいく説明を。目の前のジムリーダーにそう告げると、彼女はその質問を待っていたとでもいうように、華が咲いたような笑みを浮かべた。
「ならば説明いたしましょう」
女性は小さな電気蜘蛛を手の平に乗せ、こちらに向ける。
「しかし、それはあなたに手錠をかけてからですわ! 覚悟なさい、怪盗モフリティー!」
怪盗モフリティー? 聞き慣れない単語に俺が一瞬戸惑ったのが仇となった。彼女から命令を受けた黄色い蜘蛛が出す電気を帯びた糸に絡まって、身動きが取りづらくなると、たて続けに彼女が手錠をかける……あのぉ……なんでフライパンにムチなんか持ってるんですか、この人は。それと、いつの間にか、露出度の高い服になってるし。あぁ、俗にいう女王様っていうやつ――って!? 何をされるんだ!? 俺!?
私は――いや、俺は怪盗モフリティー。そうだ、人間から食料を盗み、弱い立場のポケモン達に分け与える裏の世界の英雄、それが俺だ。やっと思い出した。しかし今は――
「うふふ、このまま回復装置のスイッチを切れば、確実に息絶えますわ」
いつの間にか彼女のそばには厳つい機械と、衰弱したイーブイ。
「さて、あなたはわたくしの命令に従わなければならない。まずは――」
彼女の口から、驚くべき単語が聴こえた。
「五年前にアナタが会った、セレビィの事について教えてもらおうかしら。知らないとは言わせないわよ。アナタとセレビィの事は、ちゃんと裏がとれているんだから」
そう言って彼女はさらにスイッチに手を近づける。
待て……彼女は何を言っている? たしかにセレビィというポケモンは知っている。しかし、それはあくまでも知識としてだ。そんなポケモンに出会ったことなどない。知らないことなど答えられない。しかし、彼女は俺の沈黙をどう取ったのか、イーブイへ憐みの視線を向けると
「残念です」
そう一言だけつぶやくとスイッチへと手を伸ばす。
やめろ、やめてくれ。言葉が出ない。拘束された手足は役立たず。そして――そして、気が付けば、エリカもイーブイも消えていた。あったのは私の体を柔らかく包む布団、そして
「お客はん、気がつきなはれましたか」
私の額へとタオルを載せてくれる喋るユキメノコだった。
「えらいうなされてはりましたえ。大丈夫どすか?」
彼女の表情の機微は分からないが、口調から心配してくれていると感じる。
「大丈夫です」
私は長く息を吐き、起き上がった。なにげなく目をやった窓の外に、水平線はない。
試しに自分の頬をつねってみた――夢ではない。では……あれは夢だったのか……? そうだよな、アレは夢だよな。そう心の中で呟く私。だが、何故だろう、夢だったのならば安堵の息が一つぐらい漏れてもおかしくないのに。漏れている息は少し焦げているような気がした。
「おきゃくはん、喉かわいてますやろ。ちょっと水を切らしてもうたので、持ってきますわ」
ユキメノコはそう言って、一旦部屋を出ようと――
「あ、そうそう……おきゃくはん。『アレ』は 夢やったと思うておると、痛い目見ますで?」
何故だか背筋が凍った、ような気がした。
訛りユキメノコが部屋を出ていく。外では太陽がギラギラと自己主張し、ジージーというテッカニンの合唱がとても耳障りだった。
「夢――だろ、どう考えても」
私はそう言葉にし、自分に言い聞かせた。大体ここに自分がいる経緯も理由も分からないのだ。あんな非現実的な話、夢にしておかないと頭が狂いそうだ――そう思った瞬間だった。
「やれやれだね。連れてきた矢先、ぶっ倒れちまうなんて」
振り返ると、そこには羽根と触角のついた、鮮やかな緑色をしたポケモンが退屈そうにふわふわと浮かんでいた。
「まあ、時間をまたぐと初心者は大抵一度は気が違っちゃうからね。仕方ないか」
そう言って彼はケラケラと笑った。
「あっ!」
思わず声を上げた。なんと言うことだ、目の前にセレビィがいる。あの伝説のポケモンが、当たり前のような顔して自分の目の前を飛んでいるではないか。それに“時をまたぐ”ってどういう意味だ。
「そんな驚くことじゃないだろ。君、さっきあの人間から僕との事聞いただろ?」
鈍い奴を相手にしていかにもかったるいという様子で言う。突如、私の目の前でセレビィが動きを止めた。そして、一つ大きなあくびをしてみせると、その吐息とともに驚きの話を続けた。
「……五年前に僕と会ったってさ」
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ここで第二部は終了です。第三部も無事開催できればよいですね。
夢の中の出来事と、第三部の“判じ物”に関係が……!? と引っ張っておきます。
【これが超次元チャットだ!】
【書いていいのよ】
【描いていいのよ】
【参加して欲しいのよ】
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