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※暴力表現注意。苦手な方は閲覧を控えて下さい
スリムストリート。
ヒウンのセントラルエリアへと続く狭く暗い道
その道の一角に、うずくまるたくさんの人影。
その中心には、男の胸ぐらを掴んで威圧する紫の少年がいて
近くに、オレンジの髪に赤渕メガネだった物を持っている青年がいた
「あーあ、どうしてくれちゃったのよ。……弁償してくれる?ねえ。」
「あ、あく、ま、が……!」
「はあ?そっちから喧嘩吹っかけといてそりゃないでしょう……弁償しろよッ!!」
「ぐっ……ぅ、……。」
「……ウィル。」
「チッ……。」
オレンジの髪の青年は、そのままタバコを取り出した。
あとは少年に任せるらしい。
「……おい、てめえがリーダーか?あ゛ぁ?」
「っ、ちげーよ……俺ァ、あんたを潰せって頼まれただけだ……。」
「そうかよ……なら、そいつにこう言っとけ。
『いつかぶった切ってやる』ってよお!!」
「ぐぅっ!?」
鳩尾に思いっきり拳を叩き込むと、相手はそのまま気絶した
それからまるでタイミングを計らったかのように、雨が降り出して来た。
「……あ、結構ひどくね?そういや、さっき雷が鳴ったような……。」
「……どうだっていいさ。戻るぞ、ウィル。」
「はいはい……結局、尻尾は掴めずか……いい加減ムカついてきた……。」
「それは俺もだが、まあなんとかなる。」
「そのうち痺れ切らしてヤバイ連中けしかけてきたりして。」
冗談にしては、かなり怖い事をさらりといいのけたウィルだが
ヴィンデは寧ろ、笑って賛同していた。
捕獲屋Jack Pot。たった6人の最強の捕獲屋。
だからこそ、裏の人間に恐れられると同時に
今回みたいに因縁吹っかけられて狙われる。
「夕立。ひどくなったね。」
「ああ……メガネ。どうすんの。」
「同じタイプのを買うよ……金掛かるけど。」
本格的に強くなった雨に打たれ、鳴り響く轟音にぜめぎられながら
2人は帰るべき自分たちの居場所へと、ゆっくりと戻って行った。
*あとがき*
誰も書いてくれないって正直寂しいですね……。
今回は喧嘩組の話し。案外短く終わった……。
ヤバいよ。ネタが尽きそう……!!
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【批評してもいいのよ】
皆さんの話を踏まえて息子と話したところ、「一週間考える」と留まってくれました。
でもいっしょに遊んだりしているところを見る限りだと、大丈夫なようです。
ラグラージの姿は見せていないので、また同じようなことを言われるかもしれませんが、
そのときもまた皆さんの話をしようと思います。
ありがとうございました。
【ありがとうございましたなのよ】
【ラグラージはかわいいのよ】
そこは人里のはずれ。山林との境目にある1つの小屋。
人の目なら傍らの休耕地から農家の物置であることが、そして壊れ具合から長らく使われていないことが予想できたろう。
持ち主は農業から離れて長いのか。もはや立ち入る人もいないだろうその小屋に、1匹のエルフーンが立ち入ろうとしていた。
畑を耕し、作物を実らせ、収穫する。そのために使われていた道具の数々を納めた物置は、エルフーンにとっての恰好のおもちゃ箱であった。
鍵のかかっている扉を無視し、1つだけある窓をエルフーンは目指す。本来あるべきガラスはとうに砕け、用をなさなくなっていた。
壁際に積み上げられた肥料の袋をよじ登り、汚れたガラス片の残る窓枠にエルフーンが足をかける。
「……ぃっくし!」
くしゃみが出た。埃とカビの臭いにムズムズする鼻をこすりながら、エルフーンは顔をしかめる。毎度のことだが空気が不味い。取る物取ったらオサラバしよう。
「……んぁ?」
はたと疑問を抱く。ひどいひどいと思っている小屋の中の空気だが、今日はいつにも増してひどい。うすら黒いガスが漂い、背筋が寒くなるのに腹の中が熱くなるような、気色の悪い感触があった。
「ぉお? なんだい、坊主。ここはお前さんの縄張りだったか?」
見れば、1匹のジュペッタが小屋の隅に腰を据え、窓際のエルフーンを見上げていた。
「……おっちゃん、なにさ?」
「俺は見ての通りさ」
「見てもわかんないんだけど」
「そうかぃ? そいつぁ悪いなぁ、ヘッヘッ……ジュペッタがひとり、ちょっと息抜きしてるところさ」
そう言うジュペッタが呼吸をする度、黒い煙が吐き出される。このガスの原因はお前か。不埒な不審者にエルフーンは刺々しい視線を向けるが、しかし当のジュペッタは気にするでもなく、ブハァと黒い息を吐いた。
「息が臭い」
「おー、そりゃまた悪い。よく言われるよ。
そーだな、もう数日で消えるつもりだから、それまで辛抱してくれねぇかな」
「数日ぅ?」
「長旅で疲れちまってなぁ。勝手で悪いが、ここで休ませてくれや。ぬいぐるみの俺にゃぁ、雨風しのげる場所ってなぁありがてぇんだ」
「……好きにしなよ」
どうせ僕の家じゃないし、とエルフーンは不機嫌に言いつつ小屋に立ち入った。
棚に並ぶ農具の数々には目移りするというものだが、悩んでいる暇はない。その暇を奪った汚染の原因は「あぁ、好きにするぜ」と悪びれもせず、笑うと共に黒い息を吐いた。
「また……」
「ハッハァ、ほんとすまねぇな。俺も止められるならそうしてるとこなんだが、な。お前さんの綿に染みねぇ内に、さっさと出てった方が良いぜ」
「言われなくても……!」
しばらくの辛抱だ。それがどれだけ続くかわからないのが腹立たしいが、こんなジュペッタの近くにいるぐらいなら、とエルフーンは小屋を飛び出した。その際に肥やしを一抱え持ち去り、その日のいたずらの事に頭を切り替える。
そうだ、今日はキュウリのプランターにこれをまいてやろう。もう少しで食べごろのキュウリが、予想以上に早く育ちすぎるんだ。浅漬けやサラダに使おうと思っていたのが、瓜の味噌汁や炒め物にしか使えなくなるんだ。
それが良い、それが良いとエルフーンは自分に言い聞かせた。
*
次の日、農具の小屋はいつになく賑やかだった。何かがザワザワと音を立ててるようだ。何事かとエルフーンが近づけば、軒先にずらりと並ぶカゲボウズが一斉に振り返った。
「え、ぇ…………え?」
招くでなく、追い返すでもなく、カゲボウズたちはエルフーンを凝視する。まるで見せ物を前にしたかのような態度で。
一斉に浴びせられた好奇の視線はエルフーンを慄かせ、しかしそれ以上に不快感を覚えさせた。
「な……なんだいなんだい、カゲボウズが驚かせやがって、気色の悪い! そのトンガリ頭、つるっと丸めてハゲボウズにしてやろうか、えぇ!? いきなりジロジロと! なんの用だってんだ!」
“しびれごな”をまき散らしながら、エルフーンが怒りにまかせて吠える。その様はまるで子供のようだったが、効果ばかりは一丁前の“しびれごな”にカゲボウズたちはボトボトと落ちていった。
「いい気味!」
フンと鼻を鳴らし、改めてエルフーンは小屋に立ち入る。しかし近づいたところで足が止まった。
「……なに?」
見れば、窓から漏れ出る黒い煙が軒下に漂っていた。
火事か? エルフーンは考える。火の気のない場所だが、ひと気もない。悪ガキがタバコにチャレンジして、消火の不完全な吸い殻を投げ込めばこうもなるだろう。普段からイタズラのことを考えている身として、充分に有り得ると思っていた。
ここはもうダメか。逃げるか。しかし火事と言うには、煙の割に火の臭いも音も無い。カゲボウズたちが何故か集まっていたこともあり、なにやら不自然に思えた。
見てみるか。好奇心に駆られてエルフーンは窓に近づき、黒煙の中を覗き込んだ。
「うわ……なにぃ?」
小屋中に火事かと見紛うほどに黒い煙が立ちこめている。そこに火の熱や臭いがないから火事ではないとわかったが、しかし天井が見えなくなるほどに煙は濃く、いったい何事かと思わせた。
「よぉ、坊主。今日は虫の居所が悪いみたいだな」
煙の向こうにて、その出所は壁に背を預けたまま何食わぬ顔をしていた。窓から覗くエルフーンに、昨日と同じように「ヘヘヘ」と笑う。
「昨日のおっちゃん? なに? これ、おっちゃんの仕業?」
「おー? みてぇだなぁ。だいぶん息抜きも進んだってとこだが、そんなにひどかったか?」
「……火事かと思ったよ」
「そりゃ驚かせたな」
草ポケモンだけあって火事が怖いか、とぬいぐるみが笑った。
他人事みたいに言ってからに、と呆れつつ、エルフーンは小屋に飛び込んだ。こんなところ入りたくもないが、しかしこのままじゃあんまりだろう。
ひとまずは換気だ。そう思い、エルフーンは本来の出入り口を開錠すると開け放ち、窓から扉までの風の通り道を作る。そして身体を震わせると「ちょあーっ!!」と“ぼうふう”を巻き起こした。それはたいして得意ではない攻撃技だが、煙を流すには充分な威力だった。
同時に、煙とともに外へ飛び出した風は、哀れにも“しびれごな”をあびて動けないカゲボウズたちを襲った。風にあおられキャーキャー悲鳴を上げるカゲボウズたち。しかし風の音が鳴り響く小屋の中までその声が届くことはなかった。
やがて部屋の空気は改められ、慣れない技を使ったエルフーンばかりがぜいぜいと肩で息をする。それを微笑ましく思いながら眺めるジュペッタに、軽い風が吹き付けられた。
「ぅっぷぁ……!」
「なんだよ、ニヤニヤと」
「……ホンっトに機嫌悪ぃな。表でも騒ぐし。なんかあったのか?」
「おもて? なに、聞いてたの?」
盗み聞きまでするか、と咎める視線を向けるが、「坊主の声がデケェだけさ」とジュペッタは何食わぬ顔で受け止める。
「つっても、わかるのは坊主がなんか騒いでたってだけだがな。あんまチビども、いじめんなよ?」
「いじめてなんかないやぃ。あっちがガン飛ばしてきたんだよ」
「そうかぃ。いや、そいつは災難だったな、どっちも」
「どっちもぉ? なにさ、それ」
「ハッハァ、わかんねぇか。だったら わからんままにしといてくれ。ヘッヘ、ェ゛ホッ! ゲホッ!」
ごまかすように笑い、むせる。その咳に乗ってまた、ひと際大量に煙が吐き出された。せっかく改めた空気が汚れ、エルフーンが顔をしかめる。
「きったないなぁ、おっちゃん」
「ぁー……ほんと悪いな。どうもノドが落ち着かねぇってか……はー、恨み辛みで動いてきたが、腹黒い真似はしたことないんだがねぇ」
「こんな黒いの、垂れ流しといてよく言うよ。……げほっ! 僕も気分悪いや」
「いやぁ、こんな俺でもやってることは大人しいもんだったぜ? せいぜい元の持ち主を探して西へ東へ。ブラブラしてるだけだったよ」
「その黒いのをまき散らしながら?」
「いんや、こいつは最近になってからさ」
そう言ってジュペッタは天を仰いだ。その「最近」を思いだし、ハァ、と息を吐く。
「……この辺に来たあたりからだ。なんだか腹の中が窮屈になってな。ちぃと一息吐いてみたら、スッと軽くなったんだよ。今まで腹ん中に押し込んでたものが、この黒いのになって吐き出された。そんな感じだったな」
言葉にあわせて黒い煙が口から漏れる。エルフーンにしてみれば空気が汚れるからやめてほしいのだが、こうまで言ってなお聞かないのなら、いっそ諦めてしまおうかと考えていた。
エルフーンの様子も気にかけず、独り言のようにジュペッタは続ける。
「それからだな。急にいろいろ、気が長くなったっつうか、やる気が失せたっつうか。
……そうだ、坊主。お前さんもエルフーンなら、やっぱりイタズラは好きか?」
「好きか、って……なんだよ、いきなり」
「なに、ちょっとしたオッサンのお節介さ」
いきなりの問いかけにエルフーンは戸惑う。なんのつもりかと怪しむが、ジュペッタは相変わらず笑うだけだ。
「……そりゃ、僕もエルフーンだし? イタズラは好きだよ。楽しいよ? それがなにさ」
「そうだよなぁ。エルフーンっていやぁ、イタズラが生き甲斐みたいなもんだ。ま、お前さんならエルフーンでなくてもイタズラ好きだったろうがな」
「どういう意味さ」
「いやいや、なんつぅか、な……今を楽しめよ、と。イタズラがつまらないと思うようになったら、お前さんも……アレだ。おしまいだ」
それはオッサンの、若者へのアドバイスのような物言いだった。しかし「おしまい」と言われてエルフーンは眉間にシワを寄せた。
「おしまい? なにさ、えっらそうに。
確かにエルフーンはイタズラ好きだよ。けどそれだけで生きてるわけないじゃんか。
イタズラがつまんなくなったら、そん時ゃきっと、別の事を始めるさ。
おっちゃんは、あれだ」
エルフーンが苛立たしげにジュペッタを睨む。その口から出るのは、心からの拒絶。
「大きなお世話なんだよ」
「…………ハッ」
しかしジュペッタは笑った。
「アッハッハー、そっかー!」
前向きなエルフーンだ……いや、自分が後ろ向きなだけか。そう嘲って。
「……そーだなー」
そして訝しがるエルフーンに「悪かった」と詫びる。
「んー?」
「や、ゴーストが偉そうな事言っちまったからさ。年齢と経験だきゃ若いのにも負けてね、ってつもりだったんだが……恨み辛みだけで生きてちゃーダメだな。頭が固くなって仕方ねぇ」
言いながらジュペッタは頭をワシワシと掻いた。綿が詰まっているであろうそれは柔らかそうに見えたが、そうじゃないだろう、とエルフーンは黙っていた。
「まー、なんだ。老いぼれの戯言と思って、忘れとくれや。こっちは身の程ってやつがよくわかったし、もう余計な事は言わねぇからさ」
「よけーな事ねぇ」
「そーさぁ、いらんこと言って若者を惑わすわけにゃいかねぇ。老いぼれは静かに隠居して、己の死期を待つってな」
「…………思ったんだけど」
老いのせいか、はたまた。やけに多弁なジュペッタが、何か思うところがあるのかと若者の目には映った。
「偉そうに生き方を語るヤツってさ、たいていそいつ自身が生き方に悩んでるんだよね。いわゆる自己紹介ってヤツ?」
「おーっとぉ……」
返答に窮する。図星をつかれてジュペッタが黙り、エルフーンもまた察した。
「おっちゃんはさ。元の持ち主を探して旅してたんだよね」
「……あぁ、そうさ。つっても、持ち主の顔も声も、思い出せやしないがね」
「は?」
肝心なところが抜けてないか、とエルフーンは自分の耳を疑った。しかしジュペッタはいたって平然とした態度で続ける。
「いやー、もう何十年も前だからなぁ。
いつの間にか自力で歩いてたし、思い出せるのは……カエセ、カエセって喚いてた事ぐらいかな」
「いや、それってゴーストポケモンとしてどうなの? なんか、すんごい危うい気がするんだけどさ」
「そう言われてもな。サッパリなんだな、これが」
「自分のことじゃんよ……」
その呑気ぶりにエルフーンは呆れ果てるが、当のジュペッタは「なんか取られたんだと思うね、俺は」と笑うばかりだ。記憶喪失のような状態だというのに、幽霊が未練を忘れかけているというのに。
「ったく、ホントよく続けられたもんだね、何十年も」
「ハハ、言ったろ。恨み辛みだけで歩いてたんだって。
どうして俺がこうも汚れてまで歩かなきゃならないんだ。俺を捨てた持ち主め。夢枕に立って恨み晴らしてくれるわー……ってな」
ジュペッタはおどけて言った。だが直後に軽いため息をつき、目を伏せる。まるで「もう終わったことだ」と懐かしむように。
「……って言うけど、ねぇ、おっちゃん」
「おぉ。もう無理だ。疲れた」
エルフーンに話したことと同じ。全てをかけた生き甲斐を失い、在り方を忘れた幽霊の姿がそこにあった。若いエルフーンにはそれがとても痛ましく見え、いたたまれなく思えた。
「……後ろ向きなこと言って、しんみりさせちまったかな」
「まぁ、仕方ないさ。おっちゃん、ゴーストポケモンだもん。
……あーでも、ダメだ。今日はイタズラもする気も失せた! こんな日はひなたぼっこと昼寝に限るや!」
「おぉ、ひなたぼっこかー。いいなぁ。俺も虫干しするかな、たまには」
「ヘヘ、日焼けしない程度にね。お天道様は平等だからさ。
そんじゃーね、おっちゃん」
陰気臭い空気を払うようにことさらにエルフーンは声を上げ、小屋を出て行く。
その背中へ軽く手を振り、ジュペッタもまた声を投げる。
「おう、そんじゃあな、坊主」
開きっぱなしのチャックの口は、呼吸の度に黒い煙を吐き出していた。
*
虫の音ばかりが遠くに響く深夜のこと。眠らぬジュペッタは、長い夜をエルフーンの言葉と共に過ごしていた。
自分はどうして、ジュペッタになったのだろうか。
思い出せる最も古い記憶は、何かが無性に恨めしかったことと、そして何かを強く求め焦がれていたことだけ。
何かがなんだったか、何故だったか。それは思い出せない。
久しく思い出してなかったからか。それなら、そう重要な事ではなかったのだろうと思い、無性に悲しくなった。
ひどく、ひどく悲しく感じた。
わずかな明るさを感じ、ジュペッタは窓を見た。
ガラスのない窓から明かりが差し込んでいた。月明かりか。思ったが、しかし小屋の窓から月が見えないことは最初の夜から知っている。
不思議に思い、明かりの下に歩み出る。
その目に映る窓の外は、やはり星空しかなかった。
星空が、あった。
「そこにいるのか?」
星空にジュペッタは声を漏らす。
「そうか! そこだったのか!」
歓喜に目を見開き、叫ぶ。
「やっと見つけた! 今、行くから! 俺もすぐに行くから!」
その口からは、声だけが。
「俺、帰ってこれたんだな!」
そして、だから、気づいた。
カエセは、帰せ、だったんだ、と。
*
翌日、人里にエルフーンの姿があった。もちろん、イタズラ目的である。
手ごろな家に目をつけると、その軒先に立ち、綿毛の中から汚れ切ったぬいぐるみを取り出した。
それは今朝のこと、いつもの小屋には今日もカゲボウズが群がっていた。
エルフーンはうんざりする。また気色悪い視線を向けられるのか。がしかし、エルフーンに気づくやカゲボウズたちはクモの子を散らすように飛び去っていった。
なんのつもりか。事情は分からないが、とりあえずやることは変わらない。釈然としないながらもエルフーンは小屋の窓までのぼり、そこで黒い煙がなくなっていることに気づいた。
窓から中を覗き見れば、ボロボロのぬいぐるみが仰向けに、まるで窓から空を見上げるように倒れていた。
全身黒く汚れているが、もとは桃色のウサギか。長い耳は右が無く、残る左耳も半ばからちぎれていた。手足は付け根の糸がほつれ、先端は擦り切れて綿がはみ出している。そして口は左右に裂け、泥の染み付いた綿があふれ出ていた。
不気味なぬいぐるみだ。そう思うと同時にひらめく。こいつを人間の家の前に置いておけば、きっと驚かすことができるだろう。ならばイタズラの道具にと、ぬいぐるみを綿毛の中に仕舞い込んだ。
そのぬいぐるみを、エルフーンはある民家の軒先に置き去りにする。何故そこなのか、そうするのか、特に理由は無かった。ただ、そうしたほうが良い、となんとなく感じただけだった。
だから、同じようにただ感じただけの行動をする。
「……どーいたしまして」
ぬいぐるみから「世話になったな、坊主」と聞こえた気がしたから。
* * * * *
長らく考え続けていたお話、ようやく形になりました。
考えていた当初は、ジュペッタの綿にあった呪いがエルフーンの綿に移り、エルフーンが「わるいポケモン」になる、というオチを考えていました。
ところが先日、「盗まれた曰くつきのシロモノが、盗まれた先で呪いをバラ撒いて戻ってくる」というオカルト系の話をネットで見かけまして、心惹かれて方針転換と相成りました。
もし興味がおありでしたら 「どろまま ちょっと分けてみた」 でグーグル検索をどうぞ。オカルトパワーって、すげぇ。
以上、MAXでした。
【批評、感想、再利用 何でもよろしくてよ】
知恵袋に寄せられた相談:
先日、私のリオルがルカリオに進化しました。その時、嬉しくて嬉しくて強く抱きしめてしまったんです。
その際にルカリオの胸の棘が私に刺さりました。傷は数針縫う程度で済みましたが、責任を感じているのか、それ以来ルカリオがあまり近寄って来なくなってしまいました。
この怪我は私の責任ですし、私自身気にしていません。寧ろルカリオを抱きしめて死ねるなら本望です。
しかし、気にしていない事を伝えても、怖がって近寄って来ません。ルカリオにこんな思いをさせてしまった事をとても反省しています。
どうすればルカリオと今までの様に普通に過ごせるでしょうか?
そして、今後もつい抱きしめてしまうかも知れないので、棘に刺さらない抱き方がありましたら教えて下さい。私では後ろから抱きしめる方法しか思い浮かびません。
皆様宜しくお願い致します。
【答えが出なかったから丸投げするのよ】
【ルカリオを抱きしめたいのよ】
ダグトリオA「なぁ、今朝からBの姿が見あたらないけど、どこ行ったか知らないか?」
ダグトリオC「さぁな。どっか行っちまったんだろ。あいつ気まぐれなところあるしな」
ダグトリオA「んなこと言ったって、ご主人困ってるよ。あんなにオロオロしちゃって……」
ダグトリオC「まあまあ、そう言わず。ダグトリオにはピンになりたい時ってのがあるもんだ。お前にはまだわかんないだろうけど」
ダグトリオA「いやいやいや、どうしてお前に先輩風吹かされないといけないんだよ! お前と俺は進化したときから一緒だろ!」
ダグトリオC「これだからお前は……。いいか、お前がディグダからダグトリオに進化したのはな、ちょうどピンのダグトリオやってた俺とBがたまたまお前んとこに来たからっていう、ただそれだけの話なんだ」
ダグトリオA「……ええっ!? それどういうことだよ?」
ダグトリオC「つまり、お前がディグダだった頃、俺はもう既にピンのダグトリオだったんだよ」
ダグトリオA「……ちょっと待って。ピンのダグトリオって、それはつまりディグダじゃないのか?」
ダグトリオC「……これだからお前はお子ちゃまなんだよ。いいか、ピンのダグトリオが何たるかがわかってこそ、俺たちダグトリオは一人前になれるんだ。それまでは三匹で一人前のただのダグトリオさ」
ダグトリオA「……ええっと。つまりCは俺らと出会う前に、別の奴らとダグトリオやってたってこと?」
ダグトリオC「いいや、実際にダグトリオになったのはお前らとが初めてだ」
ダグトリオA「……へ? じゃあピンのダグトリオってのは? 結局何なの?」
ダグトリオC「まあ焦るなって。お前にもそのうちわかる時がくるようになるさ」
ダグトリオA「……はぁ。(別に焦ってるわけじゃないんだけどなぁ)」
ダグトリオC「いいか、ディグダとピンのダグトリオの違いはソウルなんだ! 生き様なんだ!」
(この後、ダグトリオCのディグダとピンのダグトリオの違いの話、数時間続く)
ダグトリオC「……おっ。そうこう言ってたらあいつ帰ってきたか。おかえりー」
ダグトリオB(?)「ただいまー」
ダグトリオA「ああ、帰ってきてくれて助かったよ。これでやっとCの話が終わ……ってお前、ダグトリオBじゃないな! 末尾に(?)ついてるし! 何者だ!」
ダグトリオD「ご、ごめんなさい……。ちょうどピンのダグトリオやってるのに飽きてきた頃で、どうしたものかとさまよってたら、空きがあるの見つけたのでつい……」
ダグトリオC「まあまあ。Aもそうカッカするなよ。Bだっていつ帰ってくるかわかんないし、ダグコンビでいるのもきついだろ、精神的に」
ダグトリオA「……まあ確かにどうも真ん中がいないと落ちつかないよな」
ダグトリオC「いいか、A。さっきも言ったように、ダグトリオがピンのダグトリオになるっていうのはよくある話だ。しかし、残されたダグコンビはどうだ。理論上ピンのダグトリオとダグコンビは同数になる。しかしお前、ダグコンビ見たことあるか?」
ダグトリオA「……ううん。多分ない気がする」
ダグトリオC「そうだろ。ダグトリオがダグコンビでいることは滅多にない。それはダグコンビという状態は、俺たちダグトリオにとってものすごく落ち着かない状態だからだ。だからダグコンビは仲間を捜し、一刻も早く落ち着きたくなる。そういうものなんだ」
ダグトリオA「そ、そうなのか……?」
ダグトリオC「そうだ、そしてこの時の心の持ち方の違いがディグダとピンのダグトリオの大きな差となってくるのだよ!」
ダグトリオA「はぁ……(話また戻ったよ……)」
ダグトリオC「ま、とにかく、この新入り君にとっても、俺たちにとっても、これは悪い話じゃないってことだ。そしてよくある話でもあるんだ」
ダグトリオD「よろしくお願いしまーす」
ダグトリオA「……なんか上手く丸め込まれた気もするけど、まあいいか。よろしく」
ダグトリオB「ただいまー。フワライドツヨシライブ最高だったぜ! ……ってええっ! ちょっとそいつ誰だよ!」
ダグトリオA&D&C「お前の席ねーから」
ダグトリオB「な、なんだってー!!」
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どうもこんにちは。
> はぐれディグダ もとい ピンのダグトリオが何処で何をしてたのかとか、
> もしかしたら別の個体が何食わぬ顔で混じってんじゃないのかとか、
> 色々想像してたら収拾がつかなくなりました。
小春さんの小説だけでも腹筋崩壊させていただいたのに、イサリさんの上記のコメント見ていたら収拾がつかなくなった深夜。その結果がこれだよ!(感謝)
おでんさん勝手にネタ使わせていただいてすみません。(事後報告)
……そういえば、台本形式で本格的に書いたのって初めてかもしれない。
【どうしてもいいのよ】
【むしろごめんなさい】
最近毎日がつまらない。
うちのマスターはどうにも最近やる気がない。たまに思い出したように電車に乗って僕たちを戦わせるけれど、連勝が止まるとそれからしばらく休んでしまう。かと言って、冒険に出かけるわけでも、他の仲間を育てるわけでもない。ただただぼーっとしていることが増えた。レポートを書くことも少なくなってきた。
おかげで僕たちは時間があって、仲間内でお喋りをする時間なんかが増えた。結構古くから仲が良いメタグロス君が暇そうにしていたので、今日は彼に話しかけてみることにする。おーい、メタグロス君。
「なんだゲンガー」
なんだか最近暇だよね。面白いことでもないかな。
「ない」
メタグロス君はいつもさばさばしてるなあ。ねえ、マスターになんとか遊んでもらう方法はないかな。
「話しかけてみればどうだ。反応はないだろうが」
メタグロス君はそう言って、目を閉じてしまう。あんまりお喋りが好きなタイプではないのだ。けれど、最低限の会話はしてくれるから、きっと優しい性格をしているのだ。臆病者の僕とは違って、メタグロス君は言いたいことははっきり言うし、ちょっといじっぱりなところがあるけど、優しい子だと思う。
でも、うーん、マスターは話しかけても返事をしてくれない。心ここにあらずという感じ。きっと頭の中ではどうしたら勝ち進めるかということを考えている気がするんだけど、それにしてもちょっと気味が悪いレベルだ。僕は次に、僕らの中でリーダー格のガブリアス君に話しかけてみることにした。おーい、ガブリアス君。
「んー? なんだー?」
なんか最近暇だよね、と思ってさ。
「ああ、そうだなあ。俺も腕が鈍りそうで心配だ」
何か面白いことでもないかな?
「組み手でもするか? 俺とお前ならいい勝負だろ」
確かに相性の善し悪しあんまりないもんね。でもお互い力押しだから、すぐに勝負がつきそうだよ。
「それもそうだな! んー、つっても戦うために生まれた俺たちには、暇の潰し方も分からんよなあ」
そうなんだよねえ。せめてマスターがもう少し戦いの場に出してくれればいいんだけど。あー、今日も何もしないまま一日が過ぎていくのかなあ。なんだかつまらないね。
「そのうちまた電車に乗せてくれるって。それまでの辛抱だよ。頑張ろうぜ」
ガブリアス君は陽気に笑う。この明るさが彼がリーダー格である秘訣だった。僕のような臆病ものや、メタグロス君のようないじっぱりな性格をしていると、ちょっと難ありだ。と、そう言えば、まだ話をしていない子がいた。パーティの紅一点、というか、メタグロス君には性別がないから、単純に雌というだけなんだけど。とにかく僕は、ミロカロスちゃんに話しかけてみることにした。ミロカロスちゃーん。
「なあに?」
なんか最近暇だよね。
「そうね。何かして遊ぶ?」
うーん、でも、何をしようか思いつかないんだ。
「それもそうね。じゃあ、どこか遊びに行く?」
えっ?
「ここにいてもやることがないもの。遊びに行くのもいいんじゃないかしら」
いつも穏やかなミロカロスちゃんなのに、たまにこういうびっくりするようなことを言い出すから驚いてしまう。本当は結構図太いんじゃないかと僕は最近思っている。
「何話してるんだ?」
僕とミロカロスちゃんの話に、ガブリアス君が割って入ってくる。その後ろにはメタグロス君の姿も見えた。
「今、ゲンガーと、外に遊びに行かない? って話をしていたの」
「はあ? 外に?」
「そう。こんなところにいても、つまらないでしょう? だから、遊びに行かないか、って。あなたたちも行く?」
「マスターはどうすんだよ。勝手に行っていいわけないだろう?」
「でも、話しても応じてくれないのだし……あなたが行かないならいいわ、ゲンガーと行ってくる」
「いや、私も行くぞ」
声を上げたのはメタグロス君だった。以外な応対に、僕は驚いてしまう。メタグロス君、そういうことしそうにないのに、マスターも驚いちゃうよ。
「だが、少しくらいは驚かせた方が良いだろう。最近の気の抜けようは目に余る」
「んー……まあちっと分からんでもないかな。最近、身体鈍ってるしなあ……地下鉄じゃろくに動けないし、戦う相手もいねーし。あー、ちょっくら外行くか?」
ガブリアス君まで……だめだよ……。
「あら、じゃあゲンガーはお留守番?」
えっ? みんなは行っちゃうの?
「行くわよね?」
「ああ」
「一度決めたからには行くぜ! ゲンガーも来いよ!」
でも……。
「じゃあ、ゲンガーはお留守番ね。私たち行ってくるから、マスターをよろしく」
あっ、待って待って! 僕も行くよ! 置いて行かないで!
「そう。じゃあ、一緒に行きましょう」
でも、外に出て大丈夫かな……外の世界は危ないって聞いたことあるし、強い子がいて、襲われちゃうかもしれないよ?
「俺たちなら大丈夫だろ」
「ガブリアスの言う通りだな。私たちのレベルなら、少なくとも野生で出てくるような者たちに負けることはない」
「それもそうね。ゲンガー、安心した?」
え、うん……じゃあ、行ってみようかな……。
「そうと決まれば出発だ! 何、今日中に帰れば大丈夫だろ。マスターだってあと何日ぼーっとしてるか分からんしな!」
ガブリアス君の発言で、僕たちは地下鉄を出ることになった。実を言えば、僕たちが外の世界を見るのは、ほとんど子どもの頃以来だった。僕とメタグロス君はこの世界に来た時、少しみんなの成長のお手伝いをしたけれど、ガブリアス君やミロカロスちゃんに至っては、本当に、子どもの頃以来のことだと思う。
僕たちは、こっそりとマスターの元を離れて、地下鉄を出て行くことにした。
どきどきする。
でも、なんだかとても楽しい気持ちだった。
地下鉄を出た僕たちを待っていたのは、とても賑やかな外の世界だった。
「さて、どうすっか」
「何をするかを決めるべきだな」
「んー、俺は戦いがしてえなあ! どっか、草むらに行こうぜ」
「その前に、この辺の地理が分からないわ。ゲンガーは分かる?」
うーん……ちょっとだけ覚えてるよ。最初に来た時に、連れてこられたから。メタグロス君も分かるよね?
「ああ、記憶しているぞ。他に覚える景色もないからな。こっちだ」
僕たちはメタグロス君についていく形で、場所を移動し始める。多分これが、南下っていうやつだ。
「確か……ライモンシティだったかしら」
うん。そんな名前だったよね。あ! そう言えばここ、遊園地もあるんだっけ!
「遊園地ぃ? おいゲンガーお前ほんとガキだなあ。そんなことより戦おうぜ。そっちの方がおもしれえって」
でも、遊園地も面白いと思うよ?
「どっちにしても、私たちが遊べる施設ではないと思うわ。人間のために作られた場所だもの」
そっかー……残念だなあ。
「ぼさぼさするな。こっちだ」
メタグロス君の一喝を受けて、僕らはまた歩き出した。賑やかでキラキラしているライモンシティから、僕たちはあまり面白くなさそうな場所に出た。砂嵐が吹いている。歩いている道も、近代的なところから、だんだん、自然に還っていくようだ。
「こっち側に、たくさん敵がいた気がするな」
「へー、よく覚えてんなあ。俺の覚えてる景色なんて、すっげーザコの犬がいるところか、湖だけだぜ」
「私はもうあんまり覚えてないわね。ほとんど電車の中のことだけ。新鮮でいいわね……出て来て良かった」
メタグロス君のあとをつけて歩いて行くと、砂嵐が一層強まった。辺り一面砂漠のようで、砂嵐の向こうに、少し、生き物の気配を感じた。
「この辺に沸くはずだ」
「……ちょっと砂嵐が強すぎない? 私、歩いているだけで辛いわ」
僕もだよ……こんなところじゃ、戦いにくい。
「これでかあ? 全然気にならんけどなあ。メタグロスはどうだ?」
「影響はない」
僕たちは、ガブリアス君とメタグロス君を先頭に、進んでいくことにした。時折現れる敵がいても、ほとんどガブリアス君が一人で倒してしまった。ガブリアス君の威力は驚くほど強かった。電車の中では負けてしまうこともあるガブリアス君なのに、この野生の世界では、敵なしだった。ばっさばっさと薙ぎ倒して、ざっくざっくと進んでいく。僕はそれがなんだか頼もしくって、思わず笑ってしまう。
「なんだ、てんで歯ごたえがねえな……野生ってのはもうちょっと獰猛なんじゃなかったのか?」
「私たちが育てられすぎたのよ。戦闘に特化しすぎているの」
「へえ? そういうもんなのか。これじゃあ面白くねえな。電車で戦ってた方がまだマシだぜ」
ねえ、あれなんだろう。
「ん?」
僕は砂嵐の向こうに見える建物みたいなものを指差した。建物というより……なんだろう、大きな岩みたいなものだった。
「あれは……遺跡のようだな」
遺跡?
「大昔に人間が作った、家みたいなものだろうか。あの中に、もう少し歯ごたえのある者がいるかもしれないな」
「お、そいつは良さそうだ。おいミロカロス、ゲンガー、大丈夫か?」
「あの中なら砂嵐も防げるのかしら? それなら、あそこに入った方が良さそうね……」
僕たちはいそいそと、遺跡とやらに向かって歩き出した。途中に出てくる敵を、ガブリアス君が簡単になぎ払う。僕たちはとっても強いんだってことが分かって、なんだか面白かった。
「歯ごたえなんかねーじゃねーか」
「まあ、強すぎるんだ、お前が」
メタグロス君が呆れたように言った。
ガブリアス君の前には、惨劇が広がっていた。砂嵐に隠れて気づかなかったけれど、今まで歩いてきた道にも、こういう景色が広がっていたのかもしれない。僕は少しだけ、怯えてしまう。臆病な僕は、こんなものを見るだけで、怖くなるのだ。
「それにしても、外はあんなにひどい砂嵐なのに、中は結構静かなのね」
「そうだなあ。でも中まで砂だらけってことは、風向き次第で中にも砂が……うおっと!」
え!
次の瞬間には、ガブリアス君は僕の視界から消えていた。慌てて僕たちはガブリアス君のいた場所に駆け寄る。そこには、大きな穴が空いていた。
ガブリアス君! 大丈夫!
「いってて……なんだ、穴が空いていやがったのか。ああ、大丈夫だ! でも、どうやって登ればいいか分かんねえぞ」
「多分、階段があるはずだ。私たちも、こちらから降りられる階段を探す。そこで待っていろ」
「待っていろって言われても、俺が登ればいいだけだろう? お前こそ待ってろよ、すぐ行くから」
そう言うと、ガブリアス君は僕たちの視界から消えてしまう。なんとか顔を穴に突っ込んでガブリアス君の動向を探ろうとしたけれど、床が砂だらけだから、つるっと滑りそうであぶなかった。
「ゲンガー、ミロカロス、そこで待っていろ。ガブリアスを連れてくる」
「一緒に動いたら、危険じゃないかしら」
「どうせ階段も一つだろう。私が探してくるから、お前たちはそこにいるんだ」
メタグロス君は少しだけ強い口調で言って、遺跡の奧へと向かって行った。僕とミロカロスちゃんは、ガブリアス君の落ちた穴の前で、じっと待つことにした。
「やっぱり外は私たちには危なかったかしら」
え、うん……僕、ちょっと怖いな。なんだか、早く帰りたくなってきちゃった。地下鉄の方が安心だし、楽しくはないけど、外に出てもみんなと一緒にいるだけなら、あんまり変わらないや。
「それもそうね。やっぱり私たちには、あの場所が似合っているのかしら」
なんかね、操り人形みたいに、僕たち、操られてるんじゃないかって思ってたんだよね。ううん、マスターだって、そうなのかなって。ほら、たまに電池が切れたみたいに、マスター、動かなくなっちゃうでしょう? だから、マスターも、僕も、実はそうなんじゃないかって思ってたんだ。でも、そんなことないんだね。僕たちは、僕たちなりにこうやってここまで冒険出来たし、それは似合ってないんだって思ったんだ。
「そうね。私たちには、野生は似合わないのかもしれない」
ガブリアス君とメタグロス君が帰ってきたら、すぐに地下鉄に戻って、マスターにごめんなさいしなきゃ。勝手に出て来ちゃったんだからさっ。
僕はそう言って、すくっと立ち上がった。
「ええ……あっ、ゲンガー、危ない!」
えっ?
ミロカロスちゃんの視線を追って後ろを振り向くと、そこには敵がいた。僕は咄嗟に後ろに退いて、ミロカロスちゃんがさっと僕の前に出た。それがいけなかった。僕の前に滑るように現れたミロカロスちゃんは、あろうことか、そのまま身体を滑らせて、穴に落ちてしまったのだ!
ミロカロスちゃん!
「ゲンガー、私はいいから、その敵を!」
僕の目の前にいたのは、見たことのない敵だった。電車で会うことのない敵。僕が見たことのない敵。何かの進化前の敵なんだろうか。形状からはまったく想像がつかない。顔みたいなものがあるけれど、鋼で出来ているってわけじゃなさそうだ。
ど、どうしよう……。
何が効くんだろう。
僕はマスターの指導で、攻撃しかすることが出来なかった。力尽きる前に相手を道連れにすることは出来るけど、マスターも、仲間もいない今それをしたら、ここで野垂れ死ぬだけだ。
敵が何か攻撃をしようとしている! 僕は咄嗟に両手で気弾を練った。そして、シャドーボールを、その敵目掛けて放った!
先に攻撃出来たのは僕だった。マスターに速く動けるように育てられていたからだ。そして、僕のシャドーボールは敵に命中して、敵はその一撃で倒れた。
良かった……。
とっても怖かった。僕は思わず尻餅をついた。でも、たまたま運が良かっただけだ。次の敵にも同じ攻撃が通るとは限らない。
ミロカロスちゃん!
僕は慌てて穴の中を覗き込む。でも、そこにミロカロスちゃんの姿はなかった。もしかして、階段を探しに行ったんだろうか。僕は慌てて、メタグロス君が向かった遺跡の奧へと走って行った。けれど、階段なんてどこにもない。
え。
え……。
どうしちゃったんだろう。みんな、どこに行っちゃったんだろう。あの穴に落ちるしかないのかな? それとも、みんな敵に倒されちゃったのかな……。
僕は不安になって、けれどあんなに高い穴から落ちる勇気もなくって、穴の前に座り込んで、ぼーっと誰かを待つことにした。
じっとしていれば、敵が近づいてこないことが分かった。
短い足を抱えて、僕は誰かが迎えに来てくれるのを待つことにした。壁によりかかって、じっと待つことにした。穴を落ちて行く勇気もない。一人で帰る勇気もない。みんなを探す勇気もない。だから、出来るだけ無茶をしないように、じっと片隅に座り込んで、待つことにした。
あ。
まるでマスターみたいだ。
糸が切れたお人形さんみたい。
そう気づいたけれど、
そう気づいた頃には、もうほとんど遅かった。
僕はまるで最初からいなかったように、影に潜んでしまった。あの明るかったガブリアス君の声も、メタグロス君の落ち着いた声も、ミロカロスちゃんのおっとりした声も、聞こえてこない。僕は膝を抱えて、じっとみんなを待っていた。
人の言うことを聞くしか能がない操り人形。
でも、糸が切れたところで、何も出来ない。
言われるがままに生きてきたから、言われた通りにしか、生きられなかった。
操り人形の糸が切れたら、床に真っ直ぐ落ちていくだけだったのに。
ヨウスイ高校 運動会
日付:9月20日
場所:ライモン体育館(裏に地図記載)
プログラム
1、開会式
2、応援合戦
3、選抜100メートル走
4、ミルホッグ飛び(ミルホッグをそれぞれ繋げて縄にして回し、クラス対抗でどれだけ飛んだかを競います)
5、タブンネ割り(タブンネ型の風船にひたすら物を投げつけ、最初に割った組の勝利)
6、騎馬戦(男子のみ。万が一落馬した時のためにシママに乗ってやります)
ーお昼休みー
7、格闘ポケモン引き(女子のみ。ダゲキやナゲキなどのポケモンを真ん中に置き、それぞれの組の女子が引っ張り合う。多く陣地に引っ張って行った方が勝利)
8、フシデ棒倒し(高一のみ。大量のフシデを使って相手が守っている棒を倒す。先に倒した方の勝利)
9、ホイーガ転がし(高二のみ。ホイーガを二人一組で転がし、一周してバトンタッチする。毒に侵されないようにゴム手袋着用)
10、ペンドラーロデオ(高三のみ。ペンドラーに選抜五名が乗ってロデオをする。暴れまわるペンドラーから先に全員落ちたチームの負けとする)
11、オタマロ投げ(全学年対象。ひたすらオタマロを投げ合う。うぜえとか言ってはいけない)
12、全学年選抜リレー
13、閉会式
「…年々競技が激しくなってる気がするわ」
「今はリレー選抜の子達がサザナミタウンで合宿中です」
「この『格闘ポケモン引き』毎年必ず可愛い子がいる組が勝つのよね」
「使うポケモン全部♂ですからね」
「『ペンドラーロデオ』確か私がやった年に骨折者が出て、次の年は無かった」
「七年ぶりに復活したって先生言ってました」
「『オタマロ投げ』やる意味あるの?」
「無いと思いますよ」
―――――
ちょっと早いけど。これしかネタが思い浮かばなかった。
煮詰まるとネタに走る癖をそろそろ直した方がいい。
[何をしてもいいのよ]
芸術というジャンルで、私は楽器をやっていたけれど、私は私自身の音が物凄く不快で嫌いだった。
音楽は残らないというが、録音という事態でめっちゃ目立つのである。ソロなんてあろうもんならもうド派手。
それでも最後まで自分の音と付き合って、これが自分の音だと主張していかなきゃならんのですよ。
芸術的センスがないのに、よくもまあやってきたと思います。
さらには、ドーブルのようではなく、聞いてもらえても、私自身の音がいいというわけではなく、メロディラインの方々の音が綺麗という感想しか来ないから。
やっていたのはバリトンサックス、主に低音パートを担当しているから、目に見えて美しいとか上手いとかいうわけじゃないので、上手くなってもしかたねえやって思ってたのも事実。今もそう思っている。
いやいや愚痴になってしもうた。
私が勝手に全レスすると決めたのも、誰かが見ているから観客の目は気にせんで書き続けろという意味もこめて。
残りの2割程度は、読んで思ったことを適当に書いている。それでも喜んでくれる人がいるなら、私は全レスをやめない。
とある深海での親子の会話。
父「大きくなったら私みたいなハンテールになりたいかい?」
母「それともお母さんみたいなサクラビスになりたいの?」
子供「ぼくはね、大きくなったら格好良いパルシェンになりたい!」
※99字詐欺
「仕事、夏コミともに無事終わってください」 No.017
ガクッ
こうやって書いておいてなんですが、幼い頃の経験上、兵隊さんの幽霊は礼儀正しくて優しい人多いですよフヒヒ
>クーウィさん
>幾らなんでも早すぎるでしょう。 これは酷ぇ・・・(白目)
>ツイッターで呟かれてたのを見たのが4時間前だというのに、帰ってきてみたらもう出来ていた罠。 しかも面白い・・・
書き始めから書き終わりまで3時間、昼飯抜いて正味2時間強ってとこでしょうか。
研究室で先輩の目を盗んで書いた甲斐がありました。
勢いって大事ですね(・∀・)フヒヒ
>最後の、この部分が結構意味深。
>素直に読み飛ばして終われないのがまたミソ。
(・∀・)ニヤリ
>No.017さん
>えーとつまりこれは兵隊さん悪霊化ということでおk?
>兵隊さんは予感していたのかなー。
(・∀・)ニヤニヤ
>もしかしてその雨粒……色は赤だったりしないよね?
>しないよね!!!
さあどうでしょうね(・∀・)フヒヒ
感想ありがとうございましたー。
(URL? 何の話ですかな?)
紫の帽子に紫のケープ。赤いパラソルを差したムウマージ、リリ・マードックはアルバイトの為、駅前のカフェに向かっていた。リリは肩からパラソルを浮かせてくるりと回し、再び肩に乗せる。彼女は心持ち暗い、裏通りと言える道を選んでいた。しかし、それでもこのライモンシティは明るい。眠れない程に。
白く眩い光は砂糖菓子、暖かな橙の光はカラメル。曲がりくねったネオンの文字が色とりどりの飴細工なら、向こうに見える観覧車は何かしら? カラースプレーのたっぷりかかったホールケーキ。黒っぽいチョコレートに覆われて、柔いスポンジが眠っている。
観覧車は様々な色に光りながら、ゆっくり回転していた。様々な色、様々なパターン。観覧車は目まぐるしく衣替えして、まるでそこだけ季節が早回しで過ぎていくみたいだ。
あの観覧車は夜中じゅうずっと回っている。観覧車だけではない、この町では多くのものが――不休を売り文句にする店や、娯楽施設、誰かが働いているビル、家までもが――夜遅くまで起きている。丑三つ時、草木が眠ってしまってもこの街は起きている。
必然、夢を見る時間も、少なくなる。
なら、この街の人たちは現(うつつ)を生きているのかしら、とリリ・マードックは呟いてから、古い呪文を口ずさみ始めた。
昔々、百年以上前のことだ。リリ・マードックはイッシュ地方から海を越えた遥か向こうの、とある深い森で生を受けた。その頃はまだ、リリでもマードックでもなかった。
彼女たちの一族は、少し変わっていた。普通のムウマよりも、夢に対する造詣が深い、とでも言おうか。夢魔としての属性を強く持ち、人やポケモンに夢を見せることを慣わしとしていた。悪夢に迷い込ませて、その恐怖を自らの生きる糧とする者もいれば、わざと明るく楽しい夢を見せて、夢から覚める時の一瞬の寂寥を捕らえて食す者もいた。
どんな夢を見せ、いかに心を負の側へ、虚軸の上へ触れさせるか。彼女の一族はそういうことばかり研究していた。
そんな彼女らの中で、リリは特に変わっていた。夢を追う一族の中で、彼女だけは現を追い求めた。彼女だけが故郷の森を離れ、旅に出た。旅に出て、色々なものを見聞きすれば、自分の見せる夢は色彩豊かで豊潤なものになると考えたのだ。
そうして、世界中を回って、五十年後に戻ってきた時。故郷の森は消え、一族の血脈はほぼ絶えていた。生き残った数少ない仲間は四散し、深く暗かった森は明るく、すぐ傍まで人家が迫っていた。もう、リリを知る者もいなかった。
そして、リリは再び旅に出た。
各地を回り、人やポケモンの夢の中に入り込んで、様々な夢を見せた。リリの作る夢は好評だった。まるで旅行に行ったみたいだ、と喜ばれもした。いつか、夢で見た景色を現実に見に行きたいとも。一方、そうした明るい希望の裏側に去来する寂寥は、この上なく美味であった。
彼らの中には思い通りに行かない現実に嫌気が差して、リリが作る夢の中に逃げ込んだ者もいた。ただ、自分の記憶にないものを夢に見るのはエネルギーを浪費するし、リリもひと所に留まることはなかったので、彼らの逃避はすぐに終わりを迎えてしまったのだが。
そうやって、長いこと、夢を見せて回っていた。リリはムウマージに進化し、いつの間にか、夢を見せることも少なくなっていた。
夢魔――リリスの末裔と言われる彼女たちの存在を知る者が減っていったこともあるかもしれない。けれど、それ以上に、世の中がバトル主流になっていったことが影響していたように、リリには思えた。
ムウマやムウマージはもう、夢に入り込んだり、人の寂しさ切なさを食らうポケモンではなく――バトルで使われうるポケモンの一匹、トリッキーな技で相手を撹乱したり、そこそこの火力で相手を攻撃するポケモン。ポケモンを摩訶不思議な隣人として捉える人もいたが、それでもリリの一族のみならず、ポケモン全体への見方がどこか変わっていくのは、逆らえない時代の流れのように感じられた。
だからだろうか。
リリは明るすぎる、街の明かりに目を凝らす。
ネオンサインが、ミュージカルホールの英文字綴りを蒼い夜に描き出す。戦うでもなく、競うでもなく、ただ軽やかな音楽に乗って拙い舞を舞うだけのポケモンミュージカルにひと時の安らぎを覚えた。惹かれるようにここに居着いた。
それに、この街は明るいから、とリリは小さく呟いた。
「光が強ければ強い程、影も深くなる」
この言葉は、古い言葉で呟いた。古より続く理。
カフェGEK1994に着くと、真っ先にカウンターの上で客の寵愛を独り占めにしている小さなポケモンが視界に入った。
白い体に、赤い角が五つ生えたポケモン。太陽の子どもとも称されるメラルバだと、すぐに思い当たった。ただ、このメラルバは平均サイズより遥かに小さい。恐らく生まれたてだろう。カフェの看板息子であるマグマラシの体温が心地いいのか、しきりに彼に擦り寄っている。
けれど、とリリは首を傾げる。
このカフェにメラルバはいなかったけれど、どこから来たのかしら?
オーダーを受ける合間を縫って、カフェのマスター兼オーナーであるユエに話しかけた。
「ああ、あのメラルバはカクライさんのよ」
いつもと変わらず、屈託のない笑顔で客をさばいていく彼女に、リリは剣呑さを隠した声音で質問を重ねる。
「カクライさん、とおっしゃいまして?」
「うん」
そこで会話は終わった。
短い十分休憩の間に、リリはメラルバの持ち主の「カクライ」について考えた。
マスターは「カクライさん」を「コーヒーが似合う人」だと言っていた。……ということは、少なくとも彼女には――いや、普通の人間には「カクライ」は「人」に見えるらしい。
しかし、カクライと呼ばれる家は、もう血が絶えていたはずだ。数十年前の、火事によって。
ならば、このカフェに来た「カクライ」は、何者だろう。幽霊だろうか。
「まあ、実際に会ってみたら分かることですわ」
休憩を終え、リリは再びカフェの表側に出た。注文を取りながらテーブルを回っていると、カウンターにいるマグマラシに呼び止められた。
「どうなさいました?」
マグマラシは無言で、自分に身を摺り寄せる小さな子どもを見下ろした。
さっきのメラルバだ。マグマラシに背をさすられながら、しきりに泣きじゃくっていた。
「急に寂しくなったみたいでさ」
母親であろうウルガモスに体温が近い、という理由で子守を任されたマグマラシは、対処に困っているようだった。
「失礼」
マグマラシの腕の中にそっと手を伸ばし、メラルバの額に手を近付ける。
そして、古い呪文を使ってメラルバを眠らせると、片目だけ閉じてメラルバの夢を覗き込んだ。
メラルバの夢の中には、淡く輪郭のぼやけた色彩と、ムウマージのリリには暑いくらいの熱が存在していた。
狭い夢の世界の中心に、形をなさない意識がひとつ。言葉にはなっていないが、寂しさを感じているらしい。リリは胸の宝玉を光らせ、メラルバの寂しさを吸い取ると、小さなメラルバの見る夢の世界を軽く探った。
幼さゆえ自我も、それ以外の認知もはっきりしていない。しかし、嗅覚は大体のポケモンで発達している。リリはメラルバが好ましく感じている匂いを二つ、記憶の中から引き出して、メラルバの夢の中に満たした。と同時に、夢の中心にいる意識が少し、安堵したようだ。
リリは目を開けた――
しばらくメラルバに手を近づけていたリリは、そっとその手を離し、マグマラシに向かってとりあえずは大丈夫だと頷いた。
リリはまた給仕の仕事に戻った。
しばらくして起き上がったメラルバは、先程と変りなくマグマラシとじゃれ合っているように見える。
リリはその様子を横目で見ながら、先程覗き込んだメラルバの夢の意味を考えていた。
認知の乏しい、ぼやけた夢の世界であっても、見方を知っているリリにははっきりと意味をなすものになる。それに、リリはそれなりにキャリアもある。夢に入り込めば、直結する記憶の領域にアクセスすることなど、朝飯前なのである。
それによると、メラルバはバトルトレインで生まれ、主のカクライの所用の為にカフェに一時預かりされたらしい。所用、の内容が気になるところだ。リリは空いたテーブルを拭き上げて、入り口を見た。
「ありがとうございました」
まだカクライの姿は見えない。
それから二人程の客を見送って、夜の客の波が収まった時――
やっとリリのお目当ての人物が現れた。
マグマラシが小さなメラルバを抱き上げ、その足元に走る。
彼はこのカフェの常連らしく、ユエもリラックスした笑顔を向けていた。
「リリちゃん、こっち来て! ――こちら、うちの常連のカクライさん。メラルバの人よ」
「はじめまして。リリ・マードックと申します」
リリはいつものようにカーテシーの仕草をしながら、じっとカクライを見る。そう、そういうことですか。
「カクライと申します。こちらこそ、以後お見知りおきを」
魅力的な笑顔を浮かべ、リリに挨拶する男性。
彼は、人によっては歳若い青年にも、年老いた翁にも見えるのだろう。けれど、リリはその奥の、儚い炎でしかない彼の姿をはっきり見てとっていた。
リリはえくぼを浮かべた。
「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
小さなメラルバを受け取った彼の隣で、シャンデラがクルクル回る。
二三、言葉を交わして、カクライは店を出た。
あの姿では、到底夢は見られまい。
その背中を見送って、リリは残った仕事を片付け始めた。
飽きる程に明るい街に、今宵も砂糖の光が灯る。リリ・マードックは赤いパラソルを差し、薄明かりのライモンの裏路地を通る。
リリの一族しか知り得なかった古い言葉で呪い(まじない)を紡ぎながら、進む。
旭はずっと遠いのに、この街は目を開いている。
「このくらいの明るさがちょうど良いわ。なんとなく、眠れないくらいの方が」
と、リリは小さく呟いた。
それにしても、とリリは独りごちる。カクライのあの状態を維持するのは、少々骨折りのはずだ。恐らく他人の命を食らっているのだろうが、昨今の失踪事件と、何か関係があるのだろうか。
まあ、それはそれ、とリリは思う。カミヤやカクライの家につくことにも毛程の興味も覚えないし、もうしばらくは傍観者でいようか。誰かリリの大事な人が傷付けられる段になったら腰を上げるだろうが、カミヤにしろカクライにしろ、GEK1994の若いマスターに危害を加えるようなことはあるまい。今まで通り、カフェの仕事と夢魔としての仕事を続けていけばいい。
帰り着いたアパートの、薄いカーテンの向こうから日が差し込む。リリはひと息にカーテンを引くと、明るい太陽の光を浴びて、思いっ切り伸びをした。
「光が強ければ強い程、影も深くなる」
古の言葉で呟きながら、いつまでも眩い陽光を見つめていた。
【何してもいいのよ】
【ムウマージは催眠術覚えないとか言っちゃいやなのよ】
【お題:眠りと偶然合ってたのよ】
リリさんはこんなポケモンに違いないと書いてみた。眠たくなった。
しばらく前,私は一人の人間と出会った。魂の回収をしていたら,あちらから話しかけてきたのだ。
彼女は,私が見えていた。見えていた上で,驚きもせず,怯えもせず,私に話しかけてきた。
驚く私に,彼女は言った。
『私,見えるんだよね。それだけじゃなく,懐かれるの』
その言葉の通り,彼女の背後には沢山のゴーストタイプが集まっていた。
それから数ヶ月経って,私は海辺の街へ仕儀とに来ていた。高台にあり,歩いて数分すれば海岸にたどり着く。
別に都会ではないから少量の魂だったが,それでも人ある場所に迷う魂はある。人がいなくならない限り,魂が無くなることはない。
そこへ行ったのは,ほとんどの魂を回収し終わった後だった。海上で命を落とした者の魂が無いかどうか調べるためだ。そんなに海岸自体は広くなく,人もいなかった。
ただ一人を除いては。
異様な雰囲気を漂わせていた。普通の人間には分からないだろう。だが,霊感が強ければ分かるはずだ。彼女の周りに纏わりつく,沢山のゴーストタイプの気配が。
だが,それも見ることはできない。見えるのは,おそらく・・
私とその主人のギラティナ,そしてやぶれたせかいのレントラーだけだろう。
彼女は砂浜に座って海を見つめていた。かなり海の方に近いため,履いているスニーカーが白波に濡れているが,全く気にしていない。
不意に。彼女の後ろで砂をいじっていたジュペッタがこちらを見た。赤い目が大きく見開かれる。彼女の着ているセーターを引っ張る。
「どうしたの」
ジュペッタの指す方向を見た彼女の目が驚きの色に変わった。丸い目がさらに丸くなる。
が,それも一瞬だった。すぐに落ち着きを取り戻した彼女は,私に言った。
「また会ったね」と。
ゴーストタイプが波打ち際で遊んでいる間,彼女・・カオリは私と砂浜に立っていた。塩辛く冷たい風が吹き付けても,彼女は表情一つ変えなかった。
「ちょっと驚いたよ。いきなり後ろにいるんだもん」
「私の気配なら分かるんじゃないのか?」
彼女は首を横に振った。
「集中してる時とか,夢中になっている時は後ろまで気が回らない。特に本を読んでいると,なおさら」
カオリはジーンズのポケットから棒つきキャンディを二つ取り出した。片方を私に持ってくる。
「食べる?」
「いや,いい」
私が食べるとなると,少々むごい姿になる。何せ,私の口は腹にあるのだから。
「キャンディは嫌いってこと」
「そういうわけではない」
行き場所を失ったキャンディを見て,一匹のムウマージが飛んできた。片方を口にくわえて,また波打ち際に飛んでいく。
「あの子,甘いものが好きなんだ。チョコレートとか食べてると,必ず寄ってくる」
「区別がつくのか」
「うん。同じ種類でも個性はあるから。カゲボウズとかも全く違うし」
確かに,同じでも性格は全く違う場合が多い。そしてそれによって伸びやすい能力や伸びにくい能力の差が出てくる。
「それで,ゴーストタイプ達と一緒にいればそれで良かったんだけど・・」
またポケットを探る。薄いようで厚い,キラキラ光る何か。
それはどう見ても,硝子の破片だった。
「それがどうしたんだ」
「鏡にして,毎晩話しかけてるの」
鏡。その言葉を聞いた途端ゾクッとした。彼女のしていることの意味が,分かりかけている。
「・・何故」
「会いたいポケモンがいるから」
確信した。
彼女は。カオリは。
「何に会いたいんだ」
「やぶれたせかいの王,ギラティナ」
時間が,止まった。
「何故会いたい」
声が震えないようにして話す。
「ゴーストタイプで伝説って,あんまりいないでしょ。別に手持ちにしたいわけじゃない。彼は王様なんだから。人間が従えていいものじゃないでしょ」
硝子の破片を太陽に翳す。反射して,虹が砂の上に出来る。
「私は,彼とトモダチになりたいの」
「共通に近い目的を持った子を,この前図書館で見つけた。そのこはルギアを探していた。アルジェント・・銀って名前を付けて,そう呼んでた。どうして会いたいのかって言ったら,こう言われた」
『私,彼を愛してるの』
「アルを見つけるためなら,何だってするって感じだった。馬鹿にする人は皆,手持ちのポケモンで氷漬けにしてきたって。
・・歪んだ愛って,こういうことを言うんだよね。きっと」
どことなく冷めた口調だ。自分が思うことの意味を分かっているのだろうか。
「私は歪んだ愛を捧げるつもりはないよ。人間なんだから。ならせめて,トモダチってポジションにいるくらいはいいよねって思うの」
カオリの言葉に,嘘も何も無かった。本音を言っていた。
私は,どう答えればいいのだろうか。
「・・会えると思う」
「いつか?」
「いつか,のいつかは永遠に来ない。ただこの場合は,いつかと言った方がいいのだろう」
「そうだね」
カオリは満足げに笑った。やはり,嘘ではなかった。
「私,そろそろ帰るね」
夕日が海を照らしかけた頃,カオリは言った。既にポケモン達は集まっている。今日は特に増えてはいないようだ。
「きっとまた会うんだろうね。何処かで」
「・・そうだな」
カオリが背を向けた。ポケモン達も続こうとして・・止まった。
「彼女に何故ついて行く」
全てのゴーストポケモンがこちらを見ている。さっきも言った通りの面子,ゲンガー,カゲボウズ,ヨマワル,サマヨール,プルリル,ブルンゲル。etc,etc。
そして,彼女のパートナーのデスカーンが言った。テレパシーのような物で。
『お前にはカオリの気持ちなんて分からない。二つの壁に押されて,潰されかけたカオリの苦しみなんて分かりはしない』
二つの壁。その言葉が引っかかった・
「どういう意味だ」
『その壁を壊すためなら,俺たちはどんなことでもする。
・・たとえ,人間に危害を加えることになろうとも』
そのまま,ポケモン達はカオリの後に付いて言った。その姿が,夕闇に包まれて溶けていくように,私には見えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
[ツイッター始めたんだぞ]
[kinari73なんだぞ]
初めましてです。 ・・・しかし、今は時間がヤバイので・・いきなりで失礼ではありますが、兎にも角にも感想に・・・(汗)
先ず『ひとがた』は、短いですがとても実感の伴う作品でした。
・・・自分は以前は、『カゲボウズ』や『ジュペッタ』といったポケモン達について、それほどフューチャーする事はなかったのですが・・・
このサイトにおいて巳佑さんや管理人さんを始め、てこさんやCoCoさんら大勢の方の作品を拝見していく内に、かのポケモンが思いもよらぬほど深くて大きな可能性と要素を含んだ存在であることを、つくづく思い知らされました。
更にまた一つ、新しいものの見方を頂けた作品。
どうも、ありがとう御座います。
・・・そして遂に、『豊縁昔語』シリーズの続編が出現してくれましたですね。
しかも、待望の『飽咋』の続編・・!
とにかく、先ずは目出度いと!()
待ってたぞあの男・・!
あのインパクトのあるキャラクター性から、何時かは再登場してくれるんじゃないかと期待してましたが・・・ここで来たか。
しかも、下級貴族であるだけじゃなくて呪術師でもあったのか・・・
人の身で『身代わり』を司り、生み出す術・・・
『身代わり』という技は、バトルシーンを描く時には非常に便利な技ですが、いざ具体的な描写や説明を用いようとすると、とにかく手強いんですよね・・・(苦笑)
でもこうやって意味付けをされたものを拝見していると、まさに『人形』本来の意味や来歴にもピッタリと当てはまっていることが、改めて理解出来ました。
ネタや思考の土台としても、今回のお二人の作品は非常に有益で、得る所が多かったです。
楽しませて頂き、ありがとうございましたです〜
> 貧乏学生たちの間で噂のカゲボウズ憑きアパートだったらしい。
不動産屋さん!
私にその物件紹介して!
> たらいの水を替えようとした矢先、カゲボウズが動いた。
> 「うぉっ、動いた」
> ふわりと浮かんで、俺に向かってくるカゲボウズ。俺にぶつかるかと思ったが、たらいの中に落下する。じぃっと俺を見つめたまま、動かない。ぽっちゃんと二匹目のカゲボウズがたらいにおちた。
> 「洗えってのか……?」
ちょwwww
誰かさんのせいで習慣化してるじゃんかよwww
住み着きたい
いや
住み憑きたい
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
『【書いてみた】Landry に興奮気味に感想をつけていたら、いつのまにか新しいカゲボウズがぶら下がっていた』
な…何を言ってるのかわからねーと思うが(ry
とりあえずCoCoさん偉大すぎるだろ
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