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  •   [No.1048] 幻影夜想曲 投稿者:紀成   投稿日:2010/12/19(Sun) 08:38:14     61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

    期末試験の時、私はずっと勉強以外のことを考えていた。
    勿論、ちゃんと勉強はしていたけど。残り時間、ずっとあることを考えていた。
    そっと後ろを見てみると、彼女は机に突っ伏して寝ていた。
    成績はわからないけど、きっと真面目な方なのだろう。


    図書館で勉強するついでに調べた、カミヤの姓に関する歴史。
    かなり古く、二百年前くらいから続く家柄だと言う。それぞれの時代に合った商売と振る舞いをしてきたおかげで、今では五本指に入るほどの財力を持っているらしい。
    だが、それが書いてあった本は十年前の物。
    それにあった住所の本家に行ってみたが、既に広々とした空き地になっていた。
    近くにいた同年代の人間に聞いてみたが、何も教えてはくれなかった。
    ・・まるで、なにかに怯えているかのように。

    私は近くにあった交番のお巡りさんに聞いてみた。カミヤの本家は何処に移動したのか、と。
    だが返ってきたのは意外な答えだった。
    「カミヤの家?あそこは火事で焼けちゃったんですよー」
    「え!?」
    お巡りさんは辺りを見回しながら、私にボソッと言った。
    「実は、ここだけの話なんですけどね」


    カミヤ。漢字で書くと、火の宮。
    この家は、二百年以上続く歴史が古い家だという。
    最初、火宮の家はこことは違う、地方の広い土地にあったそうだ。様々な商売と動きで瞬く間に大財閥にのし上がったらしい。
    だが、家を建てようとした土地には、祠があった。それよりずっと昔、この土地が飢饉に見舞われた時に、何処からともなく現れて村人達を救ってくれた、魔獣を奉った祠が。
    当然、そこに住んでいた人々は猛反対したが、火宮の頭領はその土地全体を治める者に大金を送り、祠を壊させるように言ったという。
    そうして、人々の反対も虚しく、祠は壊され火宮の屋敷が建てられた。
    火宮財閥はそれを皮切りにますます大きくなっていったのだが・・

    それは、家が出来てから三年ほど建った時だった。
    深夜、突然ドーンという音がした。驚いた人々が表に出てみると、火宮の家の方が赤く染まっている。
    火事だ。
    近づいて見れば、屋敷が赤い炎に包まれて瞬く間に燃え尽きていくのが見えた。
    「魔獣の祟りじゃ」
    一人が、そう言った。祠を壊したせいで、魔獣が怒ったのだと。
    結局、その火事で当時の火宮の頭領が亡くなった。頭領を失った火宮の生き残りは、その土地から出ていくことを余儀なくされた。
    だが、これだけでは終わらなかった。

    別の土地に家を建てた後も、再び火事で家と頭領を失い、次もまた・・
    それの繰り返しだった。いつしか、火宮は『火の呪いの一族』と呼ばれるようになる。

    「ここに来てからは、そんなことは無くなったらしいんですけどね・・」
    「というと?」
    お巡りさんは真っさらの土地の方を見た。
    「また、出たんですよ。祟りが」

    ・・それは、今から一年前のクリスマス前日だった。
    家族と過ごしていたそのお巡りさんは、外が騒がしいことに気付いて表に出た。
    そこには、煙と何か焦げるような嫌な臭いが充満していた。
    そして、煙が漂って来る方向に・・
    火宮の屋敷が、燃えていたのだ。

    (小説家の端くれとして、そういう祟りみたいな物に興味はあるけど、流石に現代にはなぁ・・)
    学校からの帰り道。期末試験が終わったということで皆浮足立っているが、私には喜べなかった。
    話し掛けてくる友達をあしらって、そのまま市立図書館に向かう。
    平日の午前中とあって、あまり人はいなかった。近くの机に座って、本を数冊取ってくる。
    お巡りさんの最後の言葉が、脳裏に浮かんだ。

    「燃え盛る屋敷に行った時には、既に消防隊が消化活動を行っていました。その時、聞こえたんですよ」
    「何が?」
    「歌ですよ、歌。確か・・」

    『幻影の蝋燭は人の命を吸い
    青い灯を燈していく

    幻影の人形は人に捨てられ
    捨てた相手を探しさ迷い歩く

    幻影の仮面は醜い姿に変わり果て
    過去を思って血涙を流す

    幻影の坊主は妬みを食らいつくし
    また新しい妬みを求めていく

    人も同じなのです』

    童謡集を調べてみたけど、そんな歌は載っていなかった。
    おそらく、オリジナルだろう。誰が歌ったのかは分からないけど、その火事に重要な何かな気がする。
    私はメモを取ると、その図書館を後にした。


    冬は日が暮れるのが早い。
    私は家への道を急ぐ。息を切らせて走って、角を曲がって・・

    ドンッ

    「きゃっ」

    何かにぶつかった。尻餅をつかないで済んで良かった。
    「す、すみませ・・」
    「カゲネコミスミさん」
    聞き覚えのある声がした。顔を上げる。
    焦げ茶色のセミロングに、細いとも丸いとも言えない目。
    「カミヤさん!?」
    そこには、アンティークのように古めかしいデザインのランプを持った火宮さんが立っていた。

    「・・そう、図書館の帰りなんだ」
    結局その後は立ち話になった。ランプの火がユラユラと揺れる。
    「ちょっと調べたいことがあったから」
    「何を?」
    言っていいのだろうか。
    「あのね、」

    隣町で一年前に起きた、火事の事件。

    「・・そう」
    火宮さんの表情は何も変わらない。怯えることも、驚くことも。
    「どうして調べてるの」
    「えっ」
    冷たい風が吹き付ける。彼女の視線も冷たい気がする。何か、咎められてるわけじゃないんだけど、何もかも見透かされてるような気が。
    「しょ、小説の資料にならないかなぁと」
    「ふぅん」
    また沈黙。気まずい。
    「実際に」
    「へ」
    「実際にあった事件をモデルに小説を書くのは、その事件の被害者や遺族に失礼だと思うよ」
    きっぱり綺麗に言われて、私はしばらくフリーズしていた。まさか火宮さんに言われるとは思わなかった。
    おかげで反応が少し遅れた。気付いた時には既に彼女の姿は夕闇に紛れて見えなくなっていた。
    私は何だか心細くなり、走って家に帰った。


    深夜。私は今日写して来た歌を見ていた。かなり意味深だと自分でも思う。幻影という単語が何回も出て来て、不気味な感じもするし。
    第一、これかどういう歌なのかが分からない。悪魔の手鞠歌じゃあるまいし。
    「・・」
    気のせいか、外に吹く北風が強くなってきた気がする。雲一つなく、綺麗な三日月なのに・・


    「潮時、かな」
    カオリの言葉に、デスカーン達が凍りついた。♀のプルリルが落ち着きなく動きはじめる。ジュペッタは焦り顔になった。
    『何があった』
    デスカーンが言った。カオリが部屋の壁を見る。白い半分だけのマスク。オペラ、『オペラ座の怪人』でファントムが付けていた物と同じデザインだ。
    「・・クラスメイトで小説家の子が、隣町で起きた一年前の火事を調べてる」
    『また家を替えるつもりか』
    白い仮面を手に取り、右目に付ける。不気味な雰囲気が醸し出される。
    「ずっと表舞台には出なかった。噂だけで人を震えさせる、そうやって火宮のことを調べさせないようにしていた」
    仮面を外し、床に置く。
    「いつか、火宮の真相が分かる時が来る」
    『カオリがファントムだとしたら、私達のポジションが無くなるぞ』
    「私はヒロインの歌姫じゃない。勿論、ラルフでもない。表舞台にはいざという時しか出て来ない、ファントム」
    影とか幻影という意味だ。裏の世界で動く者。
    「デスカーン達はこれ。右目の仮面。私の正体を隠してくれるから」


    あれは、静かな夜だった。
    こっそり部屋を出て、私服に着替えて家の門から道に出た。
    ゆっくり深呼吸し、吐く。
    パチン、と指を鳴らした。
    一瞬の間を置いてー

    四方向から一斉に、赤い炎が上がった。

    確かに、静かな夜だった。
    全てを無に返した、焼き尽くした夜だった。
    ーーーーーーー
    『ファントムノクターン』


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