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  •   [No.2733] Re: マサポケノベラーさんへ77の質問(3) 投稿者:akuro   投稿日:2012/10/31(Wed) 01:46:49     175clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:これで】 【ラスト】 【お疲れ私】 【どなたか】 【対戦】 【しませんか

    ■おぷしょん1〜マサポケについて〜■
    ●63.いつ頃この『マサラのポケモン図書館』に辿り着きましたか?
    去年の7月。久方様のサイトから飛んできました。

    ●64.『ほびぃすてぇしょん』『おきらく ごくらく』『旧・マサポケ』……何の事だか分かります?
    サッパリ。

    ●65.リアルタイムの親善空間・チャット。行きます? どれくらいの頻度で?
    マサポケは最近過疎ってますよね……めげずに良く見に行きます。

    ●66. 小説コンテスト出た事あります? 出てみたい?
    そんな恐れ多い。

    ●67. ストーリーコンテスト・ベスト他、マサポケの本って持ってる? マサポケで本を出す事になったら参加したい?
    そんな恐れ多い(2回目)。

    ●68.鴨志田さんや鈴木ミカルゲさんの事、どう思う?
    特に何m(だいもんじ)

    ●69.我らがマサポケ管理人、No.017さんに一言贈ってください。
    ぴじょんぴょん!

    ●70.これからマサポケではこれが流行る! これを流行らせたい!
    対戦!

    ■おぷしょん2〜どうでもいいこととか〜■

    ●71.学校好きですか?(学生でない方は、好きでしたか?)
    微妙です。

    ●72.ポケモン以外で好きなジャンル、アニメ・漫画・ゲーム。あります? 何ですか?
    ファイブレイン! ファイブレイン! Eテレ日曜17:30!

    ●73.音楽って聴きます? 好きなアーティストとかジャンルをお一つ。
    クレモンティーヌさんが気になってます。

    ●74.ジブリの名作「となりのトトロ」の主人公って誰だと思います?
    サツキ&メイ。

    ●75.ここでお約束、あなたの恋愛話v 言えるところまで言ってみよう!
    保育園児の頃ラブレターを貰ったことがあるらしく、それを小6位まで引っ張ってました。いや、渡した男子が同じ小学校だったんでからかい続けただけなんですがw
    以後、恋愛には全く興味ナシ。

    ●76.♪なりたいな ならなくちゃ 絶対なってやる〜…… 将来の夢は? 恥ずかしがらなくていいですよw
    未定。

    ●77.さぁ、最後です。……邪魔するものは何も無い。今の想いを込め、好きなことを叫べ!!

    どなたかガチで対戦しませんかーーーーー!!!


      [No.2722] マサポケノベラーさんへ77の質問 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/10/29(Mon) 20:12:03     202clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:77の質問】 【質問

    昔流行った○○の質問。
    ふと思い出して、引っ張り出してきた。
    ちょっと今にあわせて改造しようと思う


    マサポケノベラーさんへ77の質問

    ■あばうと みー■ 

    ●1.My name is ○○○. まずは名前を教えてください。

    ●2.↑とは言いましたが、実は×××とも名乗ってるんです…… HN複数持ってます?またそのHNは?

    ●3.年齢・性別・生息地などなど。あなたの正体プリーズ。勿論言える範囲だけでOK。

    ●4.オールジャンルで(※全てにおいて)好きなもの。

    ●5.オールジャンルで嫌いなもの。

    ●6.あなたの性格。自覚している長所や短所……

    ●7.あなたを一言で表すと? 日本語でも英語でもスワヒリ語でもおっけー。

    ●8.あなたの職業は? 真面目に答えてもボケてもいいですよw

    ●9.国語 数学 理科 社会 英語……学校の教科で得意科目と苦手科目を一個づつ上げるとしたら?

    ●10.持ってる資格とか賞罰。何でもいいから書いてみると……


     

    ■インターネットライフ■

    ●11.インターネット歴。いつからだったかなぁ……今何年になるかなぁ……

    ●12.自分専用のPC(パソコン)って持ってます?

    ●13.ネットで便利だと思うこと。不便だと思うこと。

    ●14.お気に入りのポケモンサイト、教えてくださいw

    ●15.自分のホームページありますか?良かったらここでCMタイム。無論ジャンル問わず。



     

    ■ポケモンライフ■

    ●16.ポケモン歴は何年? また、ポケモンにはまった原因って何?

    ●17.『GB(GBA)ソフト ポケットモンスター』あなたの持っているカセットは何色?

    ●18.こいつが俺のパーティだ!ゲームでのベストメンバー、教えてください。

    ●19.私はこんなコダワリを持ってパーティを選んでいます。なんてのがあったら。

    ●20.アニメ見てるかー?ポケスペ読んでるかー?ポケモンカードやってるかー?

    ●21.一番好きなポケモン!どうしても絞りきれなかったら複数回答も可。

    ●22.一番好きなトレーナー!ゲームでもアニメでもポケスペでも……

    ●23.一番好きな、技? アイテム? 属性? ……何かある?

    ●24.21、22、23で答えた中から好きなお題を1つ、全力をあげて語り倒してください。
    ●   惚気OK。親馬鹿OK。妄想暴走勿論OK。

    ●25.17以外のポケモン関連ソフト持ってます?ポケモンミニとかは?

    ●26.ポケモンファンの聖地、ポケモンセンター。行ったことある?

    ●27.主人公の名前=ゲーム中でのあなたの名前は?

    ●28.あなた自身をポケモンに例えると、何が一番近いですか?

    ●29.ポケモン以外にはまっているモノありますか?何ですか?

    ●30.突然ですが、あなたはポケモンワールドのトレーナーだとします。
    ●   名前、出身、手持ち、職業etc……「あなた」の設定を、参加型キャラメイキングの要領で。



     

    ■ノベラーライフ■

    ●31.あなたが今書いている小説。ズバリタイトルは!!

    ●32.↑のあらすじ・特徴的なところ、ウリ等をどうぞ。

    ●33.あなたの小説の中で、あなた自身が一番気に入ってるキャラは?どんな所が気に入ってる?

    ●34.作者オススメw あなたが今まで書いた小説の中で一番気に入っている話は何話?どの辺のエピソード?

    ●35.一番書きやすいのはこんな感じのキャラ。また、自分の小説の中のこのキャラ。

    ●36.オレの小説、何はなくともコレだけは頑張ってるぜ!ってのを最低でも一つ。

    ●37.逆に、ここんとこ何とかしたいな……これからの課題だ、ってのも一つだけ。

    ●38.小説に出すキャラ(ポケモンも含)の名前、どんな感じでつけます? 例もあげて教えてくれたら嬉しいなぁw

    ●39.ついでだから小説のタイトルの由来や、副題(あれば)のつけ方も教えてもらおう。

    ●40.インスピレーションキタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━!! アイディアが湧いてくるのはどんな時?

    ●41.アイディアが全然湧かない!!?どうしよう……。

    ●42.あなたの小説主人公は、実はあなた自身の鏡?それともどっちかというと、憧れの姿??

    ●43.小説の中の性的描写。あなたの意見を述べてください。

    ●44.小説の中の死ネタ、殺しネタ。あなたの意見を以下同文。

    ●45.小説の中のやおいネタ、百合ネタ。あなたの以下同文。(意味が分からない人はパスOKです)

    ●46.小説の中のオリジナル技、オリジナルポケ。あな以下同文。

    ●47.打ち切り……

    ●48.スランプと、その脱出法について一通り。

    ●49.後の展開に繋がる伏線を結構張る方だと思う。

    ●50.ぶっちゃけた話、やっぱり年齢が高いほど上手い文章が書ける?

    ●51.同人とかサークル……やってますか?

    ●52.語彙(※ゴイと読む。使える単語量のこと)ってどうやって増やします?

    ●53.ムラムラと執筆意欲が湧いてくる……のはこんな時!

    ●54.ポケモンジャンル以外の小説、書いたことありますか?

    ●55.小説を書く者として、一番大事だと思うもの。

    ●56.そういや今更だけど、ノベラー歴は○○年です。○○歳からです。

    ●57.長く険しい人生。いつまで小説を書いていようかな……

    ●58.この人の本があったら絶対読む! 好きなプロ作家さんっています?愛読書でも可。

    ●59.ノベラーをやっていて嬉しかった事、辛かった事を一つずつ。

    ●60.何だかんだ言っても、自分の小説に誰よりハマッているのは自分自身だと思う……



     

    ■おぷしょん1〜マサラのポケモンノベラー〜■

    ●61.いつ頃この『マサラのポケモン図書館』に辿り着きましたか?

    ●62.『ほびぃすてぇしょん』『おきらく ごくらく』『旧・マサポケ』……何の事だか分かります?

    ●63.他のノベラーさんの小説で、好きな作品を好きなだけ上げてください。

    ●64.他のノベラーさんの小説の登場人物で、好きなキャラっています?誰ですか?

    ●65.他のノベラーさんの小説に、感想つけてますか?どんな内容を?

    ●66.最近流行のオンライン通信。実は私も発行してます?

    ●67.リアルタイムの親善空間・チャット。行きます? どれくらいの頻度で?

    ●68.マサポケ誇る最先端技術、本棚アップローダーシステム。思うところを一言。

    ●69.密かにライバルだと思っているノベラーさんはあの人だ! 最低一人は上げてくださいねw

    ●70.我らがマサポケ管理人、タカマサ様に一言贈ってください。


     

    ■おぷしょん2〜どうでもいいこととか〜■

    ●71.学校好きですか?(学生でない方は、好きでしたか?)

    ●72.ポケモン以外で好きなアニメ・漫画・ゲーム。あります?何ですか?

    ●73.音楽って聴きます? 好きなアーティストとかジャンルをお一つ。

    ●74.ジブリの名作「となりのトトロ」の主人公って誰だと思います?

    ●75.ここでお約束、あなたの恋愛話v 言えるところまで言ってみよう!

    ●76.♪なりたいな ならなくちゃ 絶対なってやる〜…… 将来の夢は?恥ずかしがらなくていいですよw

    ●77.さぁ、最後です。……邪魔するものは何も無い。 今の想いを込め、好きなことを叫べ!!


      [No.2711] おぉー! 投稿者:巳佑   投稿日:2012/10/20(Sat) 12:49:51     93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:586さん】 【作業】 【お疲れ様です

    私も便乗してやってみました。
    作品はマサポケにやってきてかなり初期の頃のものです(ドキドキ)

    最初にタグがつくことに感動し、削除キーも入れないとエラーになることを自分も確認しましたですー。
    キーを入れ忘れて、鳩さんにお世話になったときのことを思い出す今日この頃……。
    これで、もうキーの入れ忘れなんて怖くない(キラッ)

    それでは失礼しました。


      [No.2700] ピジョンエクスプレス 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/10/19(Fri) 21:08:38     71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    1.カケルの悩み

     カケルは鳥ポケモンが大好きだ。 十歳になって取り扱い免許をとった彼が最初に捕まえたのは「ことりポケモン」のポッポだった。
     カケルはポッポにアルノーという名前をつけ、アルノーと旅に出た。 旅先でアルノーと一緒に、ホーホーやオニスズメを捕まえた。 次にドードーとネイティを捕まえた。 今度はヤミカラスやカモネギ、デリバード、エアームドも捕まえに行こう。 まだ見ぬ鳥ポケモンたちのことを考えてわくわくした。

     そして、カケルにはもうひとつ楽しみにしていることがあった。
     進化だ。

     ポッポが進化するとピジョンになる。 体が大きくなって力も強くなるし、何よりカッコよくなる。 特に頭の羽飾りの美しさはこたえられない。 それにアルノーはいつも一番に出して戦わせてるんだ。 進化のときも近いに違いない。 カケルはアルノーの進化後を頭の中に浮かべ、今日か明日かとその日を待っていたのだった。

     が、カケルの予想に反して最初に進化したのはオニスズメだった。 首とくちばしがぐんと長くなり、頭に立派なとさかがついた。 背中にはふさふさの羽毛、立派なオニドリルになった。
     次に進化したのはホーホーだった。 体つきは立派になり、貫禄のあるヨルノズクになった。 コイツに睨まれたゴーストポケモンはふるえあがるだろう。
     そして、二つあった頭が三つに増えてドードーがドードリオになった。 以前にも増してギャーギャーうるさくなったのが玉にキズだが、 攻撃力も数段アップしてポケモンバトルではたよれる存在だ。

     と、いうわけで、アルノーより後に捕まえた三羽が先に進化、という結果になった。

     なんだか予定外の順番になってしまったなぁと、カケルは思ったが、「まぁいい、きっと次に進化するのはアルノーさ」と気楽にかまえていた。

     が、次に進化したのはネイティだった。 ネイティオになった彼は、カケルより背が高くなって、ますます異彩を放つ存在になった。 目つきだけは前と変わらない。 進化前と同じようにいつも明後日の方向を見つめている。

     こうして進化を待つ手持ちはアルノーだけになった。

     カケルは待った。 アルノーはまだピジョンにならない。 カケルはその日を待ち続けた。 けれどその日は待っても待ってもやってこなかった。


     ――もしかしたら体のどこかが悪いのではないだろうか。

     ポケモンセンターで詳しく調べてもらったが、どこにも異常は見あたらなかった。 むしろ健康そのものだと言われた。

    「そうあせらないで。気長に待つしかないよ」

     先輩トレーナーのとりつかいはそう言ったが、カケルの心は晴れなかった。

    「何事にも適した時期というものがある。今はまだそのときじゃないんだよ」
    「じゃあいつそのときになるの」
    「うーんそうだなぁ、鳥ポケモンにでも聞いてみたら」

     先輩トレーナーのとりつかいは苦笑いしながらそう言った。

    「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
     オニドリルに聞いたら長い首をひねって「さあ?」という顔をされた。

    「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
     ヨルノズクに聞いたら首を傾げるだけだった。

    「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
     ドードリオに聞いたら、三つの頭が互いに目配せして困った顔をした。

    「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
     ネイティオにも聞いたが、明後日の方向を見つめるばかりで、聞いちゃいなかった。

    「ねぇ、お前はいつ進化するの」
     アルノー本人にも聞いてみたが一言、「クルックー」と言っただけだった。

    「……大真面目に聞いた僕がバカだったよ」
     カケルは自分の言動がばかばかしくなってきた。

     ――何事にも適した時期というものがある。今はまだそのときじゃないんだよ

     先輩トレーナーの言葉が頭の中にこだました。 焦ったってしょうがない、まだ時期ではないのだ。 少々ふっきれなかったがそう思うことにした。 どうしようもない。
     気がつけばもう夕方だった。 オレンジ色に染まった空をヤミカラスが「アーアー」と鳴きながら飛んでいく。 沈んでいく夕日を眺めながらカケルはつぶやいた。

    「…たまには家にでも帰ろうかな」

     …と。



    2.帰宅

     カケルの実家はジョウト地方の大都市、コガネシティにある。 ジムあり、デパートあり、ラジオ局あり、ゲームコーナーあり、ありとあらゆるものが揃って、現在も発達し続けている街だ。 近々、カントーヤマブキシティ行きのリニアも開通予定だった。
    コガネシティにはいくつもの高層マンションが熱帯雨林の高木のように建っている。 カケルはその高層マンションの一つに向かって歩いていった。
     入り口まで行くとサーッと自動扉が開く。 入った先、一階は自由に使えるフロアになっており草木が植えられ、置かれたテーブルを囲んでマンションの住人が話し込んでいる。 その先には久しぶりのエレベーター、カケルは中に入って「10」のボタンを押した。

     数ヶ月ぶりの息子の帰宅を母親は喜んで出迎えた。 夜は食べきれないほどのごちそうが並べられ、手持ちポケモンを総動員して平らげた。 おなかいっぱいになると、母親にみやげ話をせがまれた。 それもひと段落してカケルはソファにゆったりと腰を下ろすとリモコンからテレビをつけた。 ポケモンたちも画面を見つめる。 四角い箱の中で人々がおもしろおかしくやりとりをしているのが見える。
     そういえば、最近テレビなんか見ていなかったなぁ。 自分の膝の上で羽毛をふくらませるアルノーを撫で回しながら、カケルは懐かしさを覚えた。 なんだかんだで我が家とはいいものだ。

    「そうそう、あなた宛にいろいろ届いているわよ」

     カケルとアルノーが目を細めてウトウトしはじめ、 ドードリオとオニドリルがリモコンの操作方法を覚えて主導権を争い始めた頃、 母親が封筒の山をかかえて持って入ってきた。
     目の前のテーブルに母親はバサリと封筒の山を置くと 「もう寝るから、あなたも鳥さんたちも早く寝なさいね」 と言ってあくびをしながら去っていった。
     まさかこの封筒の山、僕が旅立った当時から貯めてるんじゃないだろうな…カケルは眠い目をこすりながら封筒の封をやぶり中身を見始めた。

     ほとんどはくだらないダイレクトメールだった。 カケルは内容を確認してはクシャッと中身を丸くしてゴミ箱へと投げた。 差出人を見ればだいたい検討はつくのだが、ついつい確認してしまうのは貧乏性だからかもしれない。
     丸めた紙は、たまにあさっての方向を見つめているネイティオに当たってしまったが、当のポケモンは気にしていない様子だった。見るとネイティオの横で、ヨルノズクがどこからかひっぱりだしてきた雑誌のページを器用に足とくちばしでめくって、中を覗いては首をかしげている。カケルは作業を続行する。
     そうしてダイレクトメールの山は次第に低くなり、丘になり平地になった。 最後に、茶色い封筒1つが残された。
     それは、ダイレクトメール…というよりはごく親しい友人に宛てた手紙のような封筒であった。 が、宛先は書いてあるのに差出人名がない。
     いったい誰からだろう? カケルは封をやぶいて中に入っていた明るいクリーム色の紙を開いた。 紙にはこう書かれていた。

    “アマノカケル様

     この度は当社のリニアの開通イベントにご応募くださいまして、誠にありがとうございました。”

     カケルはぼりぼりと頭をかいた。

     ――ああ、そういえばそんなイベント応募したっけなぁ。 すっかり忘れていた。 たしかリニアに往復でタダ乗り、さらに有名シェフの豪華なコース料理がふるまわれるんだっけ。 ついでにリニアのフリーパスをプレゼント、とかいう話じゃなかったろうか。
     と、カケルは記憶をたぐりよせた。そして、

     ん? ちょっと待て。もしかして当たったのか? と、カケルは少し期待した。

    “ですが、非常にご好評いただきまして多数の応募をいただいた結果、 残念ながら、あなた様をご招待することができません。”

     …なんだ、ハズレか。カケルは少しがっかりした。

    “そこで当社では抽選にもれた方の中からさらに厳正なる抽選を行い、 カケル様を特別イベントにご招待することに致しました。 下記の日時に同封した切符を持って、西コガネ駅へおいでください。”

     同封の切符? カケルは切符を確認しようと手紙を握る腕をおろした。
     いつのまにか封筒を落としていたらしく、アルノーが落ちた封筒に頭を突っ込んでゴソゴソと中を漁っていた。
     やがて、アルノーは封筒の中から濃いピンク色の切符を取り出した。

    「クルックー」

     アルノーはカケルのひざにピョンと飛び乗ると切符を渡してくれた。

    “5月16日朝6時、西コガネ駅南口集合(雨天決行)。 ただし諸事情により手持ちポケモンの持込は禁止しておりますのでご注意ください。”

    “それでは、カケル様にお会いできるのを楽しみにしております。”




    3.出発の朝

     鳥ポケモンの朝は早い。 昨日の夜あんなに騒いでいたのにもかかわらず、カケルは鳥ポケモンたちの騒ぐ声に起こされた。 目覚まし時計を見ると四時五十分。鳴りだす十分前だった。
     カケルは目覚ましのアラームを解除して、部屋を出るとトースターにパンをセットした。 その間にパジャマを着替える。 ちょうど上着に頭を通したところでトースターが「チン!」と鳴った。
     焼きあがったトーストにミルタンクの乳で作った特製のバターを塗り、朝食にした。 母親はまだ寝室でグーグー寝ている。 カケルはトーストを食べ終わると、リュックからポケモンフーズを取り出し、大きな器に山盛りにした。

    「お前たち」

     カケルが言うとネイティオ以外の六つの顔がこちらを向いた。

    「僕、今日は一人で出かけるから好きに過ごしていて。部屋の窓はあけておくから」

     そしてドードリオに向かってこう言った。

    「君たちは外に出たくなったら、自分らで扉をあけて下に下りること」

     三つの顔がうなずいた。 こいつらは”三匹”で連携してたいていの事はできてしまうのだ。
     そして、カケルは自分の足元を指さすとこう言った。

    「お腹がすいたら食べ物はここ。足りなかったら母さんに言うこと」

     準備は出来た。 すっかり身支度を整えたカケルは玄関で靴紐を結びはじめた。
    そうして、靴紐を結んでいるとアルノーの羽音が近付いてきた。

    「なんだい?」
    「クルー」

     アルノーのくちばしには濃いピンク色の切符が挟まれていた。

    「ああ、これこれ! 大事なものを忘れるところだったよ!」

     カケルはアルノーから切符を受け取ってズボンのポケットにつっこんだ。
     あぶないあぶないうっかり忘れるところだった、とカケルは思った。

    「ありがとうアルノー。それじゃあ行って来るね」

     カケルは扉を閉めた。
     扉の隙間からだんだん細くなっていく玄関の風景とアルノーが見えた。




    4.駅までの道

     早朝のコガネシティは人気も少なく、太陽は昇ったばかりで少々寒い。 ときどき車が行き来したがまだまだ交通量は少なく、お店もひらいているのはコンビニくらいのものだ。 駅までにはだいぶん余裕があったが、カケルは早足で歩いた。 きっと自分は貧乏性だからだろうと思った。
     大通りは静かだった。 新聞配達の自転車とすれ違ったが、他には誰とも会わなかった。
     カケルは道を急いだ。 この大通りは緩やかな登り坂になっており、登りきると三つの道が出現する。 右にまっすぐ進めば西コガネ駅である。
     もう少しで分かれ道だ、カケルがそう思ったとき、坂の上から誰かが言い争う声が聞こえてきた。

    「まっすぐに決まっているじゃないか!」
    「いいや右だね!」
    「…左だと、思う」

     坂を登りきって見てみれば、言い争っているのは三人の少年だった。 自分よりもニ、三歳くらい年下だろうか。
     そして三人の顔を見みてカケルはびっくりした。三人とも同じ顔をしていたからだ。 三つ子ってやつか。

    「ねえ、きみたちどうしたの」

     カケルは同じ顔の三人組に尋ねた。

    「駅に行きたいんだ」
    「どこの駅?」
    「西コガネ駅」
    「こいつは左だって言うんだけど」
    「あいつは右だって言うんだ」
    「…まっすぐではないと思うけど」
    「西コガネ駅には右に行けばいいんだよ」

     カケルは右の道を指差した。

    「ほら! やっぱり右じゃないか」
    「うるせえ! 今度は駅まで走って勝負だ」
    「いいとも! うけてたってやる!」

     二人は駅に向かって走り出した。

    「ま、待ってよう!」

     最後の一人も走り出した。そして、すぐに三人は見えなくなってしまった。なんて足の速いやつらだ。
     カケルは腕時計を見る。時間まであと三十分、ここからはゆっくり行こうと思った。




    5.西コガネ駅

     西コガネ駅に到着すると、そこにはたくさんの人々が集まっていた。
     しかし、まだ駅の門は開いておらず、入り口付近に人ごみが出来ている。 カケルは入り口近くに立っている時計台の下で門が開くのを待つことにした。

    「だから家を出るとき無理やりにでも引っ張ってくればよかったんだよ!」
    「そんなこと言ったって、無理強いしたところでテコでも動かないでしょう。あの人は」
    「これだから協調性のないやつは嫌いなんだ。だいたいいつもあいつは…」
    「それよりさ、来るのかな」
    「来ないかもしれませんね」
    「人が首を長くして待っているって言うのに…もし来なかったらぶん殴ってやる」
    「来なかったらぶん殴れないじゃないですか」
    「おいおい、暴力はよくないよ」

     カケルの前で三人の男達が話していた。どうやら待ち人があるらしい。
     一番背の高い男は待ち人が来ないことにイライラしている様子だ。 真ん中の眼鏡の男は本を読み進めながらそのときを待っている。 三人目の一番小さな男はきょろきょろとあたりを見回している。

    「おい、あと五分だぞ。本当に来るのかァ?」
    「まぁ、期待せずに待ちましょう」
    「あれ、むこうにいるの彼じゃないかな」
    「本当だ。やっと来やがった」
    「よかったじゃないですか。時間に間に合って」
    「おーい、こっちだ!  おーい!」

     一番背の高い男が道の向こうを歩いている男を呼んだ。 聞こえているのかいないのか呼ばれた男は速度を上げることなくゆっくりと歩みを進める。

    「あの野郎、何ちんたら歩いているんだよ!」
    「まぁまぁ、時間通りに来ただけよしとしましょう」
    「あ、僕、三つ子を呼んで来るね」

     小さな男が出て行った。 三つ子ってさっきの子たちだろうか。
     彼らの知り合いだったのか、とカケルは思った。
     そうしている間に三人を待たせていた男が到着した。 一番背の高い男が怒鳴り散らし、眼鏡の男がまぁまぁと怒りを静めた。 遅れてきた男は気にする様子もなく無表情で無反応だ。 なんだかぼーっとした人だなぁとカケルは思った。 そして、一番小さな男が三つ子をつれて合流した。
     するとちょうどよく時計台がボーンボーンと鳴って朝六時を告げた。 同時にギィーと音を立てて駅の門が開く。 どこからかアナウンスが聞こえてきた。

    「皆様、本日は朝早くからようこそお集まりくださいました! 列車はこれより十分後に出発いたします。お早目の乗車をお願いいたします」

     にわかに群集が動き出した。
     駅の構内を見るとそこには黒く光る列車らしきものが見える。 あれがイベントに使う車両なのだろうか。 カケルはもっとよく見ようと背伸びをした。

    「おい、アンタ」

     突然、七人組の一番背の高い男が声をかけてきた。あの怒鳴っていた男だ。
     僕? と言わんばかりに自分に指さすカケルに男は続けた。

    「早くしないといい席とれないぜ」

     そして、男は強引にカケルの腕をつかんだ。

    「な、何するんですか!」
    「お前を見ていてうっかり乗り遅れるんじゃないかと心配になってきた。オレ様がいい席にエスコートしてやるから付いて来い!」
    「ちょ、ちょっと!」

     戸惑うカケルを男は気にも留めない。
     男に引っ張られながら後ろを見ると一番小さな男が申し訳なさそうにこっちを見た。 眼鏡の男はやれやれという顔をした。 遅れてきた男は無表情のまま黙っていた。
     背の高い男が叫ぶ。

    「おい、三つ子! お前らひとっ走りして席とっておいてくれ。一番前八人分な」

     すると三つ子のうちの二人が目を輝かせた。

    「よーし! どっちが早くつくか競争な!」
    「今度は負けないぞ!」

     二人は群集をかきわけものすごい勢いで走り出した。

    「ま、待ってよう!」

     残された一人も走り出した。

    「よっしゃ、行くぞ」

     背の高い男はカケルの腕をつかんだままぐんぐんと群集をかきわけて進んだ。 カケルは抵抗できないままどんどん群集の中を進む。そして、とうとう列車の前に立ったのだった。
     さらに、列車を見てカケルは驚いた。 黒く光って見えていた列車は蒸気機関車だったと知ったからだ。 今どきこんな旧世代の乗り物がコガネシティにあろうとは。

    「最新のリニアに対して、こっちはレトロに蒸気機関車、おもしろい趣向じゃないですか」

     眼鏡の男が納得したように言った。
     蒸気機関車かぁ、写真では見たことがあったけれど…カケルが感心して眺めていると、背の高い男がまだ叫んだ。

    「さあ、乗った乗った! 三つ子が席とって待ってるぜ」

     結局、背の高い男に無理やり席に座らせられたカケルは、この七人組と同席することになってしまった。
     席は真ん中の通路を隔てて二人分ずつ並んでいる形式だ。 さらに、1列目と2列目、三列目と4列目…という風に席が向かい合っている。
     そして、一番前の右側の向かいあった席にカケル、背の高い男、眼鏡の男、そして小さな男、左の向かい合った席には遅れてきた男と三つ子が座った。
     なんだかおかしな展開になってしまったなぁとカケルは思った。 そんなカケルをよそに車内アナウンスが入る。

    「えー、全員ちゃんと乗りましたね?乗れてない人は手を挙げてください。はい、いませんねー。それではこれより出発いたします!」

     マイクの切れる音と同時にプシューっと列車の扉が閉まった。

     ポオォォォッーーーーーーーーーーーーーーーー! 

     威勢よく汽笛が鳴って蒸気が噴出す。

     シュシュシュシュシュシュシュ…

     カケルの席に振動が伝わってきて列車が動き出した。

    「皆様、本日はご乗車誠にありがとうございます」

     ガタンガタン、ガタンガタン。
     ゆれながらどんどん速度が増していく。
     そして、アナウンスが続けた。

    「”特急ピジョン”の旅、どうぞごゆうるりとお楽しみくださいませ」




    6.車掌

     窓は風景を切り取る額縁だ。 車窓はその風景がテレビアニメの動画のようにどんどんどんどん変化していく。
     やがて車窓の風景は市街地から牧場へと変わってきた。若い緑の風景が一面に広がる。 その中にピンクと茶色の点がまばらに散らばっている。 あれはミルタンクとケンタロスだ。

     ポオォォォッーーーーーーーーーーーーーーーー! 

     列車はますます煙をあげて速度を増していく。 一同はしばし、車窓の変化する風景に見入っていた。

    「すっげー!」
    「速いねぇ」
    「僕らとどっちが速いかな」

     席に座ってぼーっとしている遅れてきた男をよそに三つ子は身を乗り出して外の風景を眺めている。

    「こらこら、あんまり窓から頭出しちゃいけませんよ」

     本を読んでいた眼鏡の男がそれに気が付いて注意した。

    「もう、あなたもこの子達と同じ席ならちゃんと監督してくださいよ」
    「………」

     遅れてきた男は無言で無表情だ。聞いていないのかもしれない。

    「…あなたに期待した私がバカでした」

     眼鏡の男はあきらめて、また本を広げて読み始めた。

    「うおーすっげー! 速いなぁ!」
    「速いですねぇ」

     見ればこっちの席の背の高い男と小さな男も窓から身を乗り出している。

    「ちょ、ちょっと、あなたたちまでそんなことやってるんですか。特にそこ、窓から首を伸ばしすぎです。どうなっても知りませんよ」
    「うるせえなァ、だいたいお前はテンション低すぎなんだよ。もっと楽しめよ」
    「余計なお世話です。私は私なりに楽しんでいるのです」

     背の高い男に返されて、眼鏡の男はむっとした様子だったが、また本を開いて読み始めた。
     カケルはカケルで彼らの観察を楽しんでいた。 まったく騒がしい人たちだ。 それによく見てみれば格好もなかなか個性的だ。 眼鏡の男は5月だというのに厚手のセーターを着込んでいるし、背の高い男は髪を赤く染めていた。 来ているジャンパーの襟はふさふさの毛に包まれている。 なんだか旅先でバトルした暴走族みたいだ。 町の裏道でこんなのにからまれたら怖いだろうなぁ…。
     それに比べると小さな男はきわめてノーマルだ。 ニ人が個性的過ぎるのかもしれないが。
     カケルがそんなことを考えていたら、今度は目の前の運転席の扉が開いてこれまた派手な男が顔を出してカケルは驚いた。 耳がやけにとがっていて、濃いピンク色に染まったロングの髪は後ろで一つに結んでいる。 目から頬にかけて歌舞伎役者の隈取のような黒いペイントがしてあって顔のほうもなかなかの美形だ。 ビジュアル系とでも言えばいいのだろうか。
     男はこちらの目線に気が付ついたらしくにっこりと微笑んだ。

    「楽しんでおられますか」
    「…は、はい」

     カケルは緊張しながら返事をした。 同時に車内アナウンスはこの男の声であると理解した。 座席のメンバーも彼に気が付き、注目する。

    「誰だいアンタ」

     切り出したのは背の高い男だった。

    「この列車の車掌をしております」

     男はそう言うと鉄道員であることを示す帽子を頭にかぶった。

    「…ふうん」

     なぜか背の高い男は車掌に興味津々だ。しばし車掌を鋭い目つきで観察し言った。

    「アンタ、なかなかできるな?」
    「あなたのような方にはよく言われます」
    「どうだい、ひとつ勝負してみないかい?」
    「ちょっと! やめてくださいよこんなところで」

     眼鏡の男が慌てて口を挟んだ。

    「冗談だって。そうヒステリックになるなよ」
    「私はヒステリックになってなどいません」

     眼鏡の男はもういいとばかりに読書に舞い戻ってしまった。

    「でも…アンタとひと勝負してみたいのは本当だぜ」

     車掌をにらみつけ、背の高い男はニヤリと笑った。

    「そういう機会がございましたら」

     車掌もにっこりと笑った。営業スマイルであっさりと挑発かわしたようにも見えたが、なぜかカケルには 「いつでもどうぞ。けど、負けるつもりはありませんよ?」 と言ったように見えたのだった。

    「では仕事がございますので」

     車掌はそう言うと奥へと去っていった。
     本当に変なイベントだなぁとカケルは思った。 あんな格好した車掌なんて見たことがない。 そういう趣向のイベントなのだろうか。
     カケルは席の背もたれに隠れるようにしてしばし、車掌の様子を観察した。 車掌は奥の客と挨拶を交わしながら次第に奥へ奥へと進んでいった。 ふと横を見ると、隣に座っている小さな男も席の背もたれから半分顔を出すようにして車掌を熱心に観察しているではないか。 小さな男はカケルの視線に気がつくと一言、

    「…カッコイイ人でしたね」

     と、言った。
     人の価値観は見かけによらないものだと思った。




    7.食事のメニュー

     太陽はずいぶん上に昇って、車窓が切り取る風景は草原から森に変わった。 列車は森の中に立てられた高い鉄筋の線路の上を走っており、濃い緑の風景を一望することができる。 たまに列車の窓際を、ヤンヤンマがすっと横切ったり、遠くにバタフリーの群れが見えたりしてそのたびに三つ子が歓声をあげた。 さらに先に青く光るものが見える。 たぶんあれは海だ。
     カケルは少しばかりおなかがすいてきた。 そういえば朝食はトースト一枚だった。 そこにちょうどよく車内アナウンスが入る。

    「えー、ただいまより車掌が食事を配ってまわりますので、座席に座りましてお待ちください。なお、今回は無料でのサービスとなっております」

     すると車内から歓声が起こった。

    「車掌さん車掌さん、はやくはやく!」
    「こっちこっち!」

     後ろの座席からそんな会話が聞こえてきてやけに興奮しているようだった。そんなに空腹だったのだろうか。

    「くっそー、一番後ろからかよ。早くこっちに来ねぇかなぁ」
    「私たちは一番後になるでしょう。まぁ、ゆっくり待ちましょう」

     背の高い男がぼやくと、眼鏡の男が本のページをめくりながらそう言って落ち着かせた。

    「で、さっきから何を読んでいるんだ」
    「昔、カントーのもっと北に住んでいた作家の作品集です。彼はいい文章を書いた。残念ながら若くして病気で亡くなってしまいましたが」
    「へ、へぇ…」
    「今読んでいるのは銀河を走る列車のお話です。彼の作品ではこれが一番有名ですね。あなたも一度読んでみるといい」
    「……。…いや、オレはいいわ」

     そんな会話をしているうちに車掌がガラガラと料理を乗せたカートを引いてやってきた。 列車の進行方向一番前。 ここが最後のグループだ。 一人を除いて全員がカートに注目する。

    「やあ、みなさん。お待たせしてすみませんね」
    「おう、待ちくたびれたぜ。で、何を食わせてくれるんだい?」

     背の高い男が言うと、車掌はそう言ってくれるのを待っていましたとばかりににっこりと微笑んだ。 そして、

    「本日は世界の豆料理をご用意してございます」

     と、言った。

    「豆料理だぁ?」

     背の高い男なんだそりゃという顔をしたが、対照的に小さな男が目を輝かせた。

    「僕、豆は大好きなんです! 何があるんですか」
    「豆のスープにインドムング豆のカレー、ひよこ豆のギリシャ風煮込み、もちろん豆腐や納豆、他にもいろいろご用意してございます」
    「うわあ、何にしようかなぁ!」

     小さな男は興奮して声をあげるとますます目を輝かせる。 車掌は料理を覆っていたのドーム状の銀蓋をあけてみせた。

    「本当に豆ばかりですね…動物性タンパクはないのですか」

     すかさず中身を覗き込んで、眼鏡の男が尋ねる。

    「動物性タンパクはございませんが、おからでつくったハンバーグをご用意してございます。豆は畑の肉と言われますし、そちらにされてはいかがでしょうか」
    「……」

     こうして各人は思い思いの料理を受けとった。 遅れてきた男だけはうんともすんとも言わなかったので車掌は残った豆腐の皿を彼の横に置いて「それではごゆっくり〜」と言って去っていった。
     去っていく車掌の周囲で他の乗客たちが「うまいうまい」と言いながら食事を取っている。 その様子を通路に体を乗り出して観察するカケルの背後で背の高い男がぼやく。

    「なんでここで出されるのは豆料理ばかりなんだ?」
    「汽車が蒸気を出して走る音を表す語、もしくは汽車そのものを”ぽっぽ”と言います。 それでこの列車には早く走って欲しいとの願いからポッポの進化系である”ピジョン”の名が付けられたそうです」
    「つまりなんだ…ポッポだから豆、そういうことか」
    「…おそらくは」

     背の高い男と眼鏡の男は互いに顔をあわせて苦笑いするとため息をついた。 カケルが体勢を元に戻して隣を見ると、小さな男が他の乗客と同じようにうまそうにギリシャ風煮込みを口に運んでいた。
     カケルも料理に手をつけた。 そして、豆料理を味わいながら、節分の日に撒こうとしまっておいた福豆をアルノーが全部食べてしまったのを思い出したのだった。




    8.切符

     それにしてもおかしな小旅行になってしまったものだ。
     駅では得たいの知れない男に捕まって、これまたよくわからない七人組と同行することになり、乗ってみれば車掌はビジュアル系の変な人だし、食事に関しては世界の豆料理ときたもんだ。 まぁ、味は悪くなかったけれど…と、刻々と変わる窓の外の風景と、列車の走行音を聞きながらカケルは今までの出来事を振り返った。
     そしてカケルにはもうひとつ、気になることがあった。 動向している七人は何も言わないけれど気にならないのだろうか。

    「あ、あのう、」

     眼鏡の男は読書に夢中だし、背の高い男に聞くのは気が引けたので、隣の窓の外を見ている小さな男にカケルは遠慮がちに声をかけた。

    「ちょっと聞きたいことがあるんですけど…」

     カケルの呼びかけに応じて小さな男がこっちをふりかえった。
     が、カケルが話を切り出すよりわずかに早く車内アナウンスが入った。

    「ご乗車のみなさん、これより車掌がお客様の席を回り切符を拝見いたします。お手持ちの切符を準備してお待ちください。これより車掌が切符を拝見して回ります」

     切符……。 カケルはポケットに手をつっこんだ。 すると厚紙に触ったのがわかった。
     今朝、アルノーが渡してくれた切符だ。 あやうく忘れるところだった。

    「そういえば、乗るときはチェックしませんでしたよね」

     本を読みすすめながら眼鏡の男が言った。

    「してないな」
    「してませんねぇ」

     背の高い男と小さな男が相槌を打った。 そう言われてみればそうだ。 いい加減な鉄道会社だなぁ…と、カケルは思った。

    「いいんじゃないの。なくて途中下車でも乗ってる連中は困るまい」
    「それもそうですね」
    「いざとなったら窓から降りたっていいんだしな」
    「…それはちょっと危ないんじゃあ」

     ちょっとどころじゃないだろう…とカケルは思ったが、口には出さないことにした。

    「なぁに、この程度のスピードなら」

     背の高い男は車窓の外を仰ぎながら自分ならできるとばかりに言った。
     一方で眼鏡の男の関心は通路を挟んだ反対側の席に移された。

    「三つ子たち、切符はちゃんと持っていますね?」
    「持ってるよ」
    「持ってる」
    「持ってるに決まってるだろ!」

     三つ子がいっせいにこっちを向いて即答したので、眼鏡の男は遅れてきた男に声をかける。

    「あなたは大丈夫でしょうね?」
    「……」
    「…大丈夫でしょうね?」
    「………」
    「やっぱりいいです」

     眼鏡の男はあきらめて、また読書へと戻っていった。 そして、「ま、いざとなったら窓から下車してもらいますから」と、付け加えた。
     また窓から下車? きっとこの人達共通の冗談みたいなものだと思うが、この人も何を考えているのかわからない。
     遅れてきた男の様子も見てみたが聞いちゃいないという感じだった。

    「やあやあみなさん、お待たせしました」

     そうこうしているうちにまた車掌がやってきた。 アナウンスしたり、食事を運んだりこの列車の車掌は忙しいようだ。

    「それでは切符を拝見いたします」

     車掌がそう言うと、各々が切符を取り出した。車掌は順番に切符に目を通す。 三つ子がピンク色の切符を取り出して見せ、車掌は「確かに」と言った。
     車掌が遅れてきた男を見ると男の膝にいつのまにかピンク色の切符が置かれていた。 眼鏡の男が持っていた本の一番最後のページを開くとそこにはピンク色の切符が挟まっていた。 背の高い男も上着の内ポケットに手をつっこんで、「あいよ」とピンク色の切符を取り出した。

    「あなたは?」

     車掌がカケルを見て言った。 カケルもポケットからピンク色の切符を取り出して見せる。

    「確かに。さて最後はあなたです」

     カケルの切符を確認すると、車掌は小さな男に言った。 小さな男も切符を取り出し車掌に見せた。

    「確かに」

     見ると、小さな男の手には茶色い切符が握られていた。

    「…きみのだけ茶色い切符?」

     思わずカケルは口を開いた。

    「ピンク色と茶色では行ける距離が違うのです」

     と、車掌が答えた。 同乗している七人中六人はカケルと同じピンク色の切符だ。 小さな男の切符だけ特別なのか。

    「この茶色い切符は特別なのですか」
    「いいえ、むしろ特別なのはピンク色のほうです。この列車でピンク色の切符を持っているのはあなたたちだけです」

     そう言って車掌は列車の後方を仰いだ。 後方の席ではその他大勢の乗客たちがしゃべったり、ぼうっとしたり、昼寝したりして思い思いの時間を過ごしている。 そして、この乗客たちはみんな茶色い切符ということらしい。 いったいこれはどういうことだろう。
     カケルはもっていたピンクの切符をポケットにしまうと、仕切りなおした。

    「ねえ、どうしてきみのだけ切符が違うの?」

     カケルが小さな男に聞いたそのときだった。
     突然ガタっと車両が進行方向前のめりに傾いて、カケルはあやうく向かいの眼鏡の男にとっしんしそうになった。 直後、体がふわっと浮かんだような感覚にとらわれた。
     同時に車内からわあっと歓声が起こる。

    「すっげー!」
    「飛んだ!」
    「飛びやがった!」

     三つ子も歓声をあげた。彼らの視線は窓の外、しかも列車の後方に注がれている。 見ると、背の高い男、小さな男、眼鏡の男までが窓の外に注目している。
     みんな何をそんなに興奮しているんだろう。 カケルは体勢を立て直して「ふうっ」と座席に腰を下ろした。
     すると、背の高い男がこっちを向いて叫んだ。

    「おい、お前」
    「はい?」
    「はいじゃない! お前気がついてないだろ」
    「何がです?」
    「何がですって、飛んでるんだぞ」
    「それがどうかしたんですか」
    「どうかしたって、普通なんかこう反応ってもんがあるだろ」

     やっぱりわけのわからない人だ、とカケルは思った。
     切符が無い奴は窓から途中下車とか言ったあげく、ついには列車が飛んでいるとまで言い出すか。 やれやれ…カケルはため息をついた。
     が、次の瞬間、カケルはその考えが"おかしい"ことに気がついてしまった。 それに気がついたとき、カケルはもう窓の外に身を乗り出していた。

    「………、……」

     カケルは絶句した。
     びゅうびゅうと上向きの風が通り過ぎて、カケルの前髪をかきあげる。 列車後方に広がる風景は、キラキラと輝く青い海だった。 そして、その海上に列車の走る鉄橋があるのだが、その鉄橋は途中でぷっつりと切れているではないか。
     今乗っているこの列車はまるでその切れた鉄橋から空に向かって伸びる線路の続きがあるかのように宙を走っている。

    「えー、アナウンスが遅れましたことをお詫び申し上げます。当列車はただいま離陸いたしました」

     カケルのとなりでマイクを持った車掌は平然とアナウンスした。
     ああ、あのさっきの体の浮き上がるような感覚は離陸時のものか。 カケルはそこまで理解するとふらふらと自分の席に舞い戻った。 それに気がついた車掌はカケルと目を合わせるとにっこりと微笑んだ。

    「当列車の名物、離陸は楽しんでいただけたでしょうか」
    「…なんというか、びっくりしています。状況を受け入れるまでもう少し時間がかかりそうです」
    「あなたのような方はよくそう言われます」
    「は、はぁ…」

     あなたのような方ってどんな方だろう、とカケルは思ったが聞かないでおくことにした。

    「まぁ、何かありましたら遠慮なくおっしゃってください。私は常に巡回しておりますので」

     営業スマイルで車掌が続けた。

    「じゃあ一つ聞いてもよろしいですか」
    「何でしょう」
    「さっきから疑問に思っていたことがあるのです」
    「何でもどうぞ」
    「西コガネを出発してからずいぶん経ちますけど、次の駅へはいつ到着するのですか」

     カケルはさっきまで口にできなかった疑問をやっとすることができた。

    「はい、次の駅へは雲を抜けたころに到着いたします」

     車掌はそう言うと再びにっこりと微笑えんだ。




    9.飛ぶ力

     リニアは磁力を利用し推進力を得るという。 N極とS極が引き合う力と、N極とN極、S極とS極が反発する力により車両が前進するのだ。 ようするに磁石がひっついたり、ひっつくのを拒否する力、あれのでっかくしたバージョンだ。 ちょっと正確ではないかもしれないがカケルはそのように理解している。
     それにくらべるとこの空飛ぶ列車は非常に不可解である。 一体どうやって飛んでいるのか。 旧世代の乗り物だと思っていたのにとんだどんでん返しをくらったものだ。 カケルはふたたび窓に身を乗り出して、鳥ポケモンの視点を味わった。 海と陸、陸の上には森や山、草原、そして町が点々と見えた。

    「どういう仕組みで飛んでいるんでしょうか」

     カケルは思わず、となりと向かいの席の乗客たちに聞いてみた。

    「興味ないね」と背の高い男が言った。
    「僕にはよくわかんないや」と小さい男がいった。

    「”揚力(ヨウリョク)”という力はご存知ですか」

     そう切り出してきたのは眼鏡の男だった。

    「ヨウリョク?」

     と、カケルは聞き返した。

    「流れの中に置かれた物体に対して、流れに垂直方向に働く力のことを揚力と呼びます」
    「……は、はぁ」
    「簡単にいえば鳥が飛ぶための力ってとこでしょうか」

     カケルがわかっていないようなので、眼鏡の男は言い換えた。

    「そのヨウリョクで飛んでいるということですか」
    「揚力を使って飛ぶのは鳥、乗り物なら飛行機ですが、揚力を得るには翼が必要です。よって揚力で飛んでいるわけではない」
    「では、どういう力ですか」
    「まぁ、聞きなさい」

     眼鏡の男はそう言うと本のページをめくり、小説を読み進めながら話を続けた。 器用な人だなぁとカケルは思った。

    「鳥はより多くの揚力を得るため翼を大きくし、より羽ばたくために筋肉を発達させます。ですがそれに伴い体重は三乗で重くなり……」
    「………………」
    「……つまり、翼を大きくして飛ぶ力を大きくしようとしても、飛ぶ力以上に体重が重くなるんです。だから、おのずと飛べる体重には限界が出てくる……わかります?」
    「な、なんとか」
    「これで鳥が体重何キログラムまでなら飛べるか、ということを計算すると15キログラムまでだといわれています」
    「ええ!? それじゃあピジョンはどうやって空を飛んでいるんですか!」

     カケルは思わず叫んだ。
     彼の記憶によればピジョンの体重は30キログラム。 鳥が揚力で飛べる体重の2倍だ。 それどころか、ほとんどの鳥ポケモンはこの15キログラムボーダーにひっかかるではないか。 このあたりに生息する鳥ポケモンなら、ひっかからないのはポッポとオニスズメ、ネギなしのカモネギくらいである。

    「つまり、彼らには揚力以外にも飛ぶための力が備わっているということです。それと同じような力でもってこの列車も動いていると思われます」
    「なるほど、で、その力とは」
    「それが何か…と聞かれると私にもうまく説明できないのですが」
    「……はぁ」

     なんだ結局のところよくわからないんじゃないか、とカケルは思ったが口には出さないことにした。
     とりあえずその…ヨウリョクとやら以外の、鳥ポケモンたちが持っているらしいよくわからない力でもってこの列車は空を飛んでいるらしい。
     なんだか鳥ポケモンに化かされている気分になってきた……しかし、化かすのが鳥ポケモンっていうのはいかがなものだろうか…キュウコンならともかく…。
     カケルは自分の額の前あたりで煙とともにピジョンに化けるキュウコンを想像した。 そしてキュウコンは、ピジョンに化けるのにあきたらず、ピジョン姿のままマイクを持って

    「えー、そろそろ雲の中をつっきるので窓を開けているお客様は、窓をお閉めくださるようお願いいたします」

     と、アナウンスをはじめるのであった。もうめちゃくちゃである。 カケルは、そこでハッと想像の世界から抜け出した。 どうやら今アナウンスしたのは車掌らしいということに気が付いたからだった。
     窓のほうを見ると、小さな男が窓を閉めようと手をつまみにかけているところだった。




    10.雲をつきぬけて

     最前列の窓はなかなかの曲者だった。 窓は両サイドのつまみをつまんで上下させるタイプで、開けるときはすんなりと上に上がったくせに、 いざ閉めようとするとちっとも言うことを聞かないのだ。
     小さな男が閉めようとしたが、一センチくらいしか動かせず、 背の高い男と眼鏡の男がああでもないこうでもないと言い合いながら、残り四分の一まで閉めることに成功した。 最後にカケルがやってみたが一センチ上に上がっただけで逆効果だった。

    「仕方ありませんね。このまま行きましょう」
     四分の一と一センチ空きっぱなしの窓から目前に迫った雲を見て、眼鏡の男はそう言った。

    「まぁ、少し寒いかもしれんがガマンしようや」
     そう言ったのは背の高い男だった。

     ようするに二人とも飽きたのだ。
     なんだかんだ言ってこの二人の思考回路は似ているのではないかとカケルは思った。
     小さな男のほうを見たらなんとなく目があってニ人は互いに苦笑いした。

     列車は雲につっこんだ。
     光りが遮られ急に車内はほの暗くなった。 「ひゅごぉおおお」なんて音を立てながら、四分の一と一センチ空きっぱなしの窓から冷やされた湿っぽい風が入りこんでくる。 それは列車の進行方向の逆方向に流れ込んできて、もろにとばっちりを食ったのは小さい男だった。

    「だいじょうぶ? 寒くない?」
    「だいじょうぶだよ」

     カケルが聞くと、小さい男はあまりだいじょうぶでない顔で作り笑いした。

     列車はスピードを上げ、なおも雲の中を走り続けた。
     加速に伴って「ひゅごぉおおお」という音はますます強くなった。 そして、窓の外が光ったかと思うと「ゴロゴロゴロ」という雷鳴が聞こえて、四分の一と一センチ空きっぱなしの窓から、冷やされた湿っぽい風とともに、いよいよ雨粒が入り込んできた。
     カケルが小さな男のほうを見ると、いよいよ両腕をクロスさせて反対の腕を手で押さえ、ぶるぶると震え始めた。 「だいじょうぶ?」とカケルは言いかけたが、どうみても大丈夫じゃなかったのでやめておいた。
     向かい側のニ人もさすがにこのままでとか言うわけにもいかなくなり、再び曲者の窓と対峙することとなった。
     雷がピカッと光った。閉じない窓との戦いが再び始まったのである。



    「クソッ! なんなんだよこの窓は!」
    「ははは、もう私達までびっしょりですねー」
    「なんだか前よりもっとひどくなったような…」

     四分の一と一センチ空きっぱなしどころか、ほぼ全開になった窓を目の前にして、服と髪をぐっしょり濡らした背の高い男、眼鏡の男、カケルはもう笑うしかなかった。
     ちょっと上にしてから下げるのがポイントなんだよ…ああでもないこうでもない…とやっているうちに窓は閉まるどころかますます開いてしまい、ついにうんともすんとも言わなくなってしまったのだ。 小さい男が心配そうに三人を見つめる。
     カケルは窓の外を見た。 雨が吹く込んでくる窓の外は灰色、雲の中だから当然先は見えず、ときどき雷の光があちらこちらから走り去っていくのが見える。
     そういえば、こんな雲の中には伝説の鳥ポケモン、サンダーが住んでいるんだっけ、とカケルは以前読んだ本の内容を思い出した。 そうしてカケルは、また額の前あたりで想像をはじめた。

     ――流れる水蒸気の中にときどき大きな鳥ポケモンらしき影が見えている。 それこそは伝説の鳥ポケモンサンダーだった。 そして、その影は自ら光りだした。 放電したのだ。 サンダーのじゅうまんボルト。

    「あ、いいこと思いつきました」

     カケルはそこで我に返り声を出した。

    「なんです、いいことって」
    「となり側の席の人たちに手伝ってもらいましょう」
    「…あ」

     水滴が大量についてもはや使い物にならなくなった眼鏡をかけた顔で眼鏡の男、 びしょぬれの背の高い男、やっぱりびしょぬれの小さい男はマヌケな声をあげた。 窓の開け閉めの議論に夢中で通路を挟んだとなりの席の連中のことなんてすっかり忘れていたからだ。
     四人はいっせいに彼らの方向に顔を向けた。

    「……」
    「……寝てるな」
    「……寝てますね」
    「……こんなに風がゴウゴウなって雷まで光っているのにのんきな人たちだ」

     向かい側の席の窓はもちろんしっかり閉まっている。 そして三つ子が三人で同じイスに並んでぐーぐーといびきを掻いて、気持ちよさそうな顔をして眠りこけている。 こっちがあんなにギャーギャーさわいでいたのに。
     四人は三つ子の向かいの席に視線を移す。 また雷が光った。 そこに遅れてきた男のシルエットが映し出される。

    「…あ」
    「一人起きている人がいましたね」
    「たしかに起きてはいますけど」
    「あー、やめとけ。そいつには何を言ってもムダ」

     遅れてきた男は微動だにせずただ席に座っていた。 相変わらず明後日の方向を見つめていて何を考えているのかわからない。

    「…大丈夫かなぁ」
    「手伝ってもらいましょうよ」
    「まぁ無理だとは思いますけど」
    「まぁヒマつぶしにはなるか…よし、アンタが頼んでこい」
    「僕が?」
    「いつものパターンから考えて私達が言ってもムダでしょう」
    「そうですね、カケルさんならあるいは」
    「よし、やってみます!」
    「おう、まかせたぞ」

     カケルは遅れてきた男の前に進み出た。 二人が対峙する。 雷がまた光って二人のシルエットを映し出した。 見守る三人はごくっと唾を飲む。

    「あ、あのう…」

     カケルいかにも自信なさげに声をかけた。

    「おいおい、大丈夫なのか?」
    「大丈夫じゃないかもしれませんね」
    「大丈夫だよ。カケルさんならできるよ」

     また雷が光る。

    「ま、窓を…窓を閉めてもらえないでしょう…か」

     カケルは自信なさげに続けた。 遅れてきた男は微動だにしない。 やっぱだめかなぁ…っていうかこの人調子狂うなぁとカケルは思った。

    「やっぱりだめか」
    「まぁだめでもともとでしたし…」

     背の高い男と眼鏡の男はやっぱりという顔をしてがっくりとうなだれた。
     が、次の瞬間、小さな男が叫んだ。

    「あ!  立ちましたよ!!」
    「えっ!?」

     また雷が光った。 二人の男が顔を上げたとき、遅れてきた男がカケルと向かい合って立っているシルエットが映った。
     そして遅れてきた男はぐるんと顔を開いた窓の方向にむけると、身体を翻し、ずかずかと窓の前まで歩いてきて、つまみをぐっと押さえると、ススススーッと窓を降ろしてピシャっと閉めてみせたのだった。
     それはひさかたぶりにカケルたちに平穏がもどった瞬間であった。

    「え〜、みなさまぁ、大変お待たせいたしました。まもなく当列車は雲を抜けま〜す」

     車掌のアナウンスが入ったのはその直後だった。

    「ちっ、お気楽な野郎がここにもいたぜ」

     と、背の高い男は舌打ちした。
     ほどなくして列車は雲を抜け、車内には光が戻ってきたのであった。




    11.空に浮かぶホーム

     列車は雲の上を出て、その上を走り始めた。 さきほどの雷や雨風がうそのようになり、ただ暖かい太陽の光が窓ガラスをつきぬけてカケルたちの元へと届いた。
     カケルは窓の外を眺めた。 青い空の下には地面の代わりに白い雲がどこまでも続いている。
     事情を聞いたお気楽車掌は皆にバスタオルとドライヤーを貸してくれた。 皆はひととおり身体を拭くと、ドライヤーで髪の毛と衣服をかわかしはじめた。 車内にはさっき吹き込んできた冷たい湿った風に代わって暖かく乾いた風の音が響く。
     ドライヤーで髪を乾かしながらカケルはふと思った。 どうして列車にドライヤーやらバスタオルが都合よくあるのだろうと……そしてカケルはひとつの結論に達した。 おそらくここはそういう席なんだと。 だからそういう時にそなえてブツが用意してあるのだろう。 現に客がこんなに困っていたというのに車掌はちっとも運転席から出てこなかった。
     でも、口に出したら背の高い男が怒り出して、 車掌さんに「あなたのような方にはよく言われます」とか言って営業スマイルでごまかされて、 もっと背の高い男がヒートアップすると思ってカケルは言わないことにした。
     ドライヤーはなかなか高性能で、わりと短時間で髪も服もすっかり乾いてしまった。

    「服の乾き具合はいかがですか」

     ほどなくして巡回していた車掌が後ろの車両から戻ってきた。

    「は、はい。とてもいいです」

     と、カケルは答えた。 「それはよかった」と車掌は笑顔で言うと、マイクを取り出しアナウンスをはじめた。

    「え〜、まもなくポッポ〜、ポッポ〜、ポッポ駅に到着いたします。到着前に当列車は再びレール上に戻りますので少々揺れます。お気を付けください」

     ポッポ? ポッポ駅なんて変な名前だなぁとカケルは思った。
     ほどなくして、キキキキィーーッという音が列車の両サイドからして、かすかに火花の飛ぶのが窓ごしに見えた。 列車は少しガタガタと言ってやがて落ち着いた。
     カケルは窓を開けると身を乗り出して進行方向を見た。 すると雲の中にレールが見え隠れしているのが見え、その先に駅のホームらしきものが浮かんでいるのが見えたのだった。
     そのホームに近づくにつれて列車は減速し、ついにホームの横で止まった。 列車の右側の扉が一斉に開き、わらわらと乗客たちが降りだす。

    「みなさま、本日はご乗車くださって誠にありがとうございました」
     と車掌がアナウンスした。

    「ぼくも降りなきゃ」
     と、言ったのは小さな男だった。
     小さな男は座席からひょいっと降りると、出口のほうにむかって走り出した。

    「あ、僕も…」
     カケルもなんとなくつられて席を立ち走り出そうとしたが、ぐっと何者かに後ろをつかまれ止められた。
     振り向くとそれは車掌だった。車掌は、

    「貴方はピンク色の切符です。次の駅までご乗車いただけます」

     と、言った。
     座席を見ると、背の高い男、眼鏡の男、遅れてきた男、三つ子は座っていた。 再び出口の方向を見ると小さな男が、手を振って、

    「カケルさぁ〜ん、心配しないでください。すぐに追いつきますから!」

     と、ホームへ降りたった。  そして、しゅううーと言う音とともに列車の扉が一斉に閉まった。 ゴトゴトッゴトゴトッと列車が揺れだし走り出した。
     カケルは席に戻ると、窓から身を乗り出してホームを見た。 ホームにはたくさんの乗客たちが降りてこちらを見守っていた。 カケルは車掌の言葉を思い出した。

     ――この列車でピンク色の切符を持っているのはあなたたちだけです

     そう、もはや列車に乗っているのはカケルたちだけだった。
     次に小さな男の言葉が思い出された。

     ――カケルさぁ〜ん、心配しないでください。すぐに追いつきますから! 

     あれ? 僕は彼に自分の名前なんて教えただろうか…と、カケルは思った。 すぐに追いつくってどういうことだろう、と。
     そうしている間にも列車はどんどんホームから遠ざかっていった。




    12.風の吹く場所

     ポオォーーーーーーーーーーーーーーーーーーォ! 

     カケルたちだけになった列車は威勢良く煙を噴き、雲の上に敷かれたレールの上を勢いよく走る。 雲の成分が、なみのりをする水ポケモンが上げる水しぶきのように上がった。
     カケルはさっきからあのホームを見守っていた。 小さな男と他の乗客が降りたホームはもう豆粒のようになってしまっていた。
     客のいなくなった車内は静まり返っていた。 カケル以外のメンバーもしばらくホームのほうを見守って、しばらくは誰も話そうとしなかった。 (遅れてきた男はあいかわらずだったが)

    「とうとう私たちだけになってしまいましたね」

     沈黙を破ったのは眼鏡の男だった。
     それを合図に各々は一旦窓から首をひっこめて席に着いた。 それを見て車掌が待っていたとばかりに言った。

    「ポッポ駅以降は、みなさまの貸切となります。今回の旅も残り少なくなってまいりましたが、どうぞ最後までお楽しみください」
    「ふん、いよいよ大詰めか。めんどうなことに付き合わせやがって」

     と、背の高い男が言った。

    「まぁまぁ、この旅は最後が見ものなのです。ここまで来た以上は最後までつきあいましょう」

     と、言って背の高い男をなだめたのは眼鏡の男だった。 なんだかこの二人はこの旅の結末を知っているような口ぶりだった。
     カケルは隣の席を見た。 三つ子たちが窓際で何やら話しこんでいた。 カケルは聞き耳を立てた。 三つ子たちは

    「まだかな」
    「もうすぐだよ」
    「はやくしろよ」

     と、言っていた。三つ子たちもやはりこれから何が起こるかを知っているらしかった。
    そして視線をシフトさせ、遅れてきた男の様子も見る。 男はあいかわらずの様子だったが、おそらく彼も知っているんだろうな、と、カケルは思った。
     そして、カケルは車掌の顔を見上げた。 視線に気が付いて車掌はにっこりと微笑む。 カケルは車掌に問うた。

    「車掌さん、僕たちはどこへ向かっているのですか」
    「おのずとわかりますよ」

     と、車掌は言った。
     カケルはつづけて聞いた。

    「では、これから何が起こるんですか」
    「風が吹きます」

     と、車掌は言った。

    「風?」
    「そう、風です」

     車掌はそこまで言うと、濃いピンク色の長い髪をたなびかせて進行方向を向いた。 そして、

    「窓から進行方向を見てごらんなさい」

     と、続けた。
     カケルは席を立ち窓から顔を出すと、進行方向を見た。 なにやら進行方向に、あの雲に浮かぶ駅のように浮いているものがあることに気が付いた。

    「あれは鳥居です。赤い鳥居」

     車掌が説明する。

    「鳥居…? いったいなんのために」
    「別に深い意味はありません。我々にとっては目印のようなものです」
    「目印ですか」
    「ええ、あそこまで行くと、大きな風が吹く」
    「風が吹いてどうなるんですか」

     だんだん近づいて形があらわになる鳥居を見ながらカケルはさらに問い詰めた。

    「貴方の望みが叶います」

     車掌はにっこりと笑って答えた。

    「望みが叶う?」

     意外な返答にカケルは神妙な顔をして車掌を見つめた。

    「そうです。あなたはずっとこのときを待っていたじゃないですか」
    「待っていたって…何を」

     カケルがそこまで言うと、黙って聞いていた同乗者たちが一斉に口を開く。

    「そう、あなたはずっと待っていた」と、眼鏡の男が言った。
    「なかなかそのときがこないんで、何度も聞かれて困ったよなぁ」と、背の高い男。
    「先輩に、今はまだ時期じゃないって言われてたよね」
    「うん、言われてた」
    「言われてたねぇ」と、三つ子たち。
    「……」と、遅れてきた男。

     カケルはびっくりして皆を見つめた。なんでこの人たちがそんなことを知っているのかと。
     さらに、車掌が続ける。

    「手違いでね、今まで"彼"のもとに切符が届かなかったのです。 だから、今までお待たせすることになってしまった。 カケル様にも"彼"にもとんだご迷惑をおかけいたしました」

     車掌は帽子を取るとそれを胸にあててお辞儀した。

    「この列車には本来、私たちの種族しか乗れないことになっているのですが… せめてものお詫びにカケル様とお連れの方々をご招待いたしました」

     ポォオーーーーーーーーーーーーーーー! 

     列車が鳥居の横を通過したのはその直後だった。
     次の瞬間、カケルの背後、窓の外をぶわっと風が、大きな風が吹いたのがわかった。
     車掌が声を上げる。

    「さあ、風が吹きましたよ! 窓の外を、風が吹いてくる方向を御覧なさい!」

     カケルは再び窓の方向を向くと、窓の外に身を乗り出した。
    急激な、だけどどこか優しい風がカケルの髪をなぜる。風は列車の進行方向と同じ方向に吹いていた。 それは、さっき大勢の乗客を降ろしたポッポ駅のほうから吹いているようだった。

     カケルは風の生まれる方向に眼をこらした。
     すると無数の影が大きな群れをなしてこちらへ近づいてくるのが見えた。 影たちは風に乗って、すいすいとこちらに向かって飛んでくる。
     カケルはその影に見覚えがあった。

     それは、自分がはじめて捕まえたポケモンのシルエットだった。 ずっと一緒に旅をして、バトルにはいつも一番に出して、見慣れたシルエット。
     カケルは叫んだ。

    「ポッポだ! ポッポの群れが近づいてくる!」

     そして影が、ポッポたちがカケルの目の前を通過しはじめた。カケルはポッポ達を目で追いかける。

     そして、先頭のポッポが列車の頭を追い越したそのとき、その身体が光を纏ったかと思うとぐんぐん大きくなって――

    「ピジョーーーーーーーーーーーーーッ」

     と、雄たけびを上げ光を弾いた。
     光を弾いた時に見えたその姿は、もはやポッポではなくなっていた。

     そして、後に続くポッポたちが、次から次へと列車を追い越して、同じように光を纏ってゆく。 さらに、背後から聞き覚えのある声が近づいてきて、カケルははっと後ろを見た。

    「クルルゥッ!」

     声の主は風に乗ってカケルの横を通過したかと思うと、またたくまに列車の頭を追い抜いた。
     それはカケルが旅の苦楽を共にしたパートナーであった。

    「アルノー!」

     カケルが叫んだときアルノーもまた光を纏った。 両翼が左右にぐんぐんと伸び、扇を開くように尾羽が開く。短かった冠羽が笹の葉のように伸びてたなびいた。 そして、ぱっと光をはじいた時には、もうピジョンの姿になっていた。  大きな翼でより多くの風をとらえたアルノーは列車をさらに引き離した。

     そして、なだれ込むように後陣のポッポたちが後に続き、光を纏ってゆく。 光が飛散し、あちらこちらから進化の喜びを表現する雄たけびが上がる。

    「大変お待たせしました。次の駅はピジョン、ピジョンになります」

     列車内に車掌のアナウンスが響いた。
     ピジョンたちが飛び交う列車の進行方向に、雲に浮かぶ次の駅が小さく見えてきた。




    13.次の駅で

     すべてのポッポが列車を追い越したころ、列車は減速しはじめた。 それはまた次の駅に列車が止まると言うことであり、もうこの旅が終わるということを意味していた。
     列車の窓枠はもう駅を切り取っている。それがスローのアニメーションのように動いて、そして止まった。 窓が最後に切り取った風景、それは駅名が書いてある看板だった。

     真ん中に大きく「ピジョン」。
     そして右に「ポッポ」、左に「ピジョット」と、書かれていた。

    「この駅が当列車の終点となります。 本日はご乗車いただきまして誠にありがとうございました。 お帰りの際はお忘れ物などなさいませぬように…」

     列車内にアナウンスが響いた。 カケルが振り返ると車掌の姿はすでになかった。 運転席にでも戻ったのだろう。
     シャーッと音がして列車中の扉が一斉に開く。
     カケル、背の高い男、眼鏡の男、三つ子は席から立ち上がった。 ワンテンポ遅れて、遅れてきた男も立ち上がった。

     一番近い扉の前で、進化したアルノーがカケルの降車を待っていた。 一同がぞろぞろと降車する。 カケルがアルノーに飛びつくのと、列車の扉が閉まるのは同時だった。 カケルは顔をアルノーの羽毛の中にうずめながら、汽笛の音、列車が去っていく走行音を聞いていた。






    「おにいちゃん、おにいちゃん」

     どれだけの時間が経ったろうか。

     突然、そんな声がして、カケルは羽毛にうずもれていた顔をあげた。 顔を上げた先にはカケルより二、三歳下の、手にボールを持った男の子が立っていた。

    「おにいちゃん、なんでさっきからピジョンにだきついてるの?」

     と、男の子は聞いた。
     カケルはキョトンとした。 なぜここに男の子がいるのか理解できなかったからだ。
    男の子はさらに聞いた。

    「おにいちゃん、うしろにいるのも、おにいちゃんのぽけもん?」

     カケルは後ろをふり返った。
     同乗者たちが立っていたはずのそこには、カケルの手持ちであり家に置いてきたはずのオニドリル、ヨルノズク、ドードリオ、そしてネイティオが立っていた。
     男の子は目をかがやかせて、勝手にしゃべり続ける。

    「いいなぁ…おにいちゃんのぽけもん……。……よぅし、ボクもじゅっさいになったらポケモンゲットのたびにでるぞぉ!」

     男の子は一人で勝手に盛り上がり始めた。
     カケルは訳がわからず聞いた。

    「ねぇ君、どこからこの駅に入ったの? それともあの列車に乗ってたの」

     すると、男の子はすごく変なものを見るような目でカケルを見て言った。

    「なにいってんの、おにいちゃん。ここ、"こうえん"だよ」

     ……

     カケルは、あたりを見回した。 ところどころに木が植えられ、ブランコやシーソー、アスレチックなどの遊具が配置してある。 子どもたちのキャッキャッと走る回る光景も見て取れる……たしかに公園だった。
     と、突然ボーンボーンと公園の時計台が鳴って午後三時を知らせた。 なんだか見覚えのある時計台だった。

    「変なことをきくけど、このあたりに西コガネ駅ってないかい?」

     と、カケルは聞いた。
     すると、また男の子が変なものを見るような目で、

    「にしコガネえき? そんなものコガネシティにあったっけ」

     と、言った。

    「そんな、たしかにここは…」

     カケルはそこまで言いかけると、ハッと思い出してポケットを漁った。
     西コガネ駅発のあの濃いピンク色の切符を見せようと思って。

     そして何かが手にふれた。
     カケルはポケットからそれを取り出し確認する――

    「なぁに、それ」と、男の子が言った。

     ――カケルが取り出したそれは、切符ではなく濃いピンク色のピジョンの冠羽だった。



    「じゃあね! おにいちゃん!」

     男の子はしばらくカケルのポケモンたちを眺めて、ひととおりつついたり、ちょっかいを出すと走っていってしまった。
     カケルはふたたび公園を見回した。そこは、雲の上でもなく、ましてや駅でもなく、たしかに公園だった。
     特にやることもなく、疲れを感じてカケルは家に帰ることにした。 鳥たちをぞろぞろひきつれて、公園の出入り口に差し掛かったとき、看板が目に入った。 看板にはこう書いてあった。

     「西コガネ公園」、と。



    「おかえり」

     カケルが帰宅すると、母親が居間のソファに腰掛けて、昼ドラを見ながらぼりぼりとせんべいを食べていた。
     カケルは夕食までに小休止しようと、ひと眠りすることにした。 カケルが自室に戻ろうとしたその時、

    「あなた宛に何か届いているわよ」

     と、母親が言った。
     母親はせんべいをかじりながら、ひょいっと腕を後ろにやってカケルに郵便物を渡した。 受け取ったカケルはすぐさまはびりびりと封筒を破いた。 封筒の口を開いて中を見ると、そこには厚紙に収まった金色のカードが。 そして、お知らせが同封してあった。
     カケルはお知らせを開く。鳥ポケモンたちも注目する。


    “招待状 アマノ カケル様

     この度は、当社のリニアの開通イベントにご応募くださいまして誠にありがとうございました。 厳正なる抽選の結果、ここに当選のお知らせとリニアのフリーパスをお送りいたします。
     尚、イベント当日はお手持ちのポケモンも連れておいでくださればより楽しめるかと思います。 集合場所は以下を――”


     カケルはガッツポーズをした。

    「あら、何かいいことが書いてあったの?」

     カケルの様子を察したらしい母親が尋ねる。
     昼ドラはいつのまにかCMになっていた。

    「そういえばその郵便物、発送方法もなかなか凝ってたわねぇ。 ベランダにね、ピジョンがとまっててね、そのコが持ってたのよ。 新手の配送サービスかしら」

     …………。

     まさか…、な。
     と、カケルは思った。

     けれど、カケルと鳥ポケモンたちは思わず互いの顔を見合わせた。

     カケルは「はは」と、苦笑いをした。
     オニドリルが悔しそうに「ゲェーッ」と言った。
     ヨルノズクが、やれやれと言わんばかりに足でバリバリと頭を掻いた。
     もはやピジョンになったアルノーは間が悪そうに二羽の様子を伺った。

     その様子を見ていたドードリオの頭の一つがネイティオに目を向ける。
     ネイティオは郵便物には無関心だとばかりにベランダの方向をじっと見つめていた。

     ベランダの窓はあの車窓のようにその先にある風景を切り取っている。
     切り取られた空の破片の中にもくもくと広がる白い雲があった。
     ネイティオの瞳に、その雲に向かって上昇する、頭から煙を出す長い物体が映し出される。

     彼は聞いた。
     空に向かう列車の汽笛と走行音を。

     そして列車は、雲の中に突っ込むとすぐに見えなくなってしまったのだった――


      [No.2699] お見通し 投稿者:aotoki   投稿日:2012/10/19(Fri) 20:27:46     111clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:ちょっと怖いのよ】 【キノコはパラセクト派なのよ】 【図鑑ネタ

    僕の友人は、突飛なことを言い出すのが多いやつだった。
    「なぁ…モロバレルって、怖くねぇか?」
    ランチのサンドサンドを片手に持ったまま、友人はぽつりと空を見上げて呟いた。
    「はぁ?」
    「いやさっきのポケモン進化史の時間さ、ちょっと考えたんだよ。あいつら、なんであんなカッコなのかなって」
    モロバレル…ウツギ式タマゴグループでは植物グループ、タイプは草・毒で第一進化体。イッシュ地方にのみ生息する、割とマイナーな草ポケモンを、生粋のカントー人の友人がわざわざ話に出してまで怖がることが、僕には理解できなかった。
    「なんでだよ?モンスターボールへの擬態はオーキド博士の時代から既に確認されてるだろ?そんな怖がる必要性ないだろ」
    僕はライチュウコッペにかぶりついた。カスタードがこぼれそうなのを、慌てて直す。
    「そうだけどさ…アレとは違う気がするんだよな。なんとなく」
    「アレって…ビリリダマだよな?」「そうそうそいつ」
    友人はびしりと指を伸ばした。
    「あいつらは都市部とか工場で暮らしてるだろ?だからモンボに化けて、人間…俺らに生息範囲広げてもらえるから、あぁなってんだろ、多分」
    でもモロバレルは違うと思うんだよ。そう言って友人はサンドイッチを一口かじった。
    「なんでだよ?」
    「モロバレルの住みかは森林……森でわざわざ赤色のモンボに擬態する必要あるか?」
    確かに緑ばかりの森では反対色の赤は目立ちすぎるけど、僕はお茶を一口すすって答えた。
    「そりゃ、トレーナーを騙して捕まえてもらうためだろ。実際あいつらの生息地はそんな密林じゃないし。実際、騙されたトレーナーの例も上がってるんだから、そんな気にするまでもないんじゃないか?」
    それでも友人は納得しなかった。
    「いや、違うね。もし捕まえてほしけりゃもっと小型化するはずだ。バチュルみたいに」
    「タマゲタケなら小さいだろ」
    「そりゃ当たり前だろ。進化前なんだから。俺が言いたいのはなんてかな……最終的な目的なんだよ。意図っていうか、生物としての目的というか」
    「生物としての目的、ねぇ……」
    僕はさっきの進化史の授業を思い出していた。

    様々な姿を持つポケモン、しかしその姿かたちには無駄は一切無くて、きちんとした理由がある。
    例えば、ピカチュウのとがった耳は微細電流の充放電のため。黄色い体は警戒色。バッフロンの頭は衝撃からの保護。エアームドのスキマのある翼は空気抵抗を減らすため。
    一見僕らには無意味に見えるものにも、きちんとした存在意義がある。その目的を、僕らにわかるよう"翻訳"するのが研究者の仕事だ。

    そして今、僕の目の前で友人はまさにモロバレルの姿を"翻訳"しようとしていた。
    「オレ…あいつらの擬態は、トレーナーがいたから生まれたと思う」友人は神妙な顔でうつむいた。
    「あいつら…笠を動かしてポケモンをおびき寄せるだろ?あれって、モンスターボールが人間の使う、安全な道具であることを利用してるんじゃねぇのか?」
    友人は腰から紅白のモンスターボールを外した。つるりとした表面に、歪んだ僕らが映る。
    「つまり…あいつらが僕らの"生態"を…」
    「そう、利用した」

    僕の背中に、何故か急に冷たいものが走った。

    「……おいおいおいおい」
    「…な?怖いだろ?俺らが利用してきた技術が、ポケモンに使われてんだからな。まだあいつらは騙しで終わってるけど…この先、モロバレルの次にどんな奴がでてくるんだろうって考えたら、急にな」
    友人は少しひきつった笑いを浮かべた。
    「…手がモンスターボールとかか?」
    無意識のうちに、僕は冗談を口にしていた。言うべきではないと分かってはいたけれど、口にしてしまった。
    「そうそう。体の中に味方になるポケモンが入ってるとか」
    友人は笑い方をいつものものに代えて言った。
    「そりゃ大変だな。ボールが二ついる」
    「中から別なほうが押し開けてくるとか?」
    冗談を言う僕と同時に、一枚の絵を思い浮かべる僕がいる。


    草むらを走るポケモン。技を受けて怯んだそこに、投げられる赤と白の人工物。揺れが収まったそれを、同じ姿のポケモンが拾う。

    「…そういやそう考えると、イッシュには人間を利用するポケモンが多い気がするな」
    僕は頭のなかの絵を振り払い、努めて冷静に言った。これはあくまでも話を元に戻しただけ。そう思い込みながら。
    「ヒトモシの生命力吸収だって…トレーナーの来訪前提だし、バチュルもさっきのお前の話じゃないけど、くっついて都市で繁殖する点じゃ、ある意味利用してるよな」
    「あぁ。それにイッシュには生物学的に新しいポケモンも多いって聞いたし…」
    斜め上を見上げながら、友人は続ける。
    「………」
    「………」

    しばらく、僕らは沈黙していた。

    「…ま、俺の考えすぎだろうな」
    長話悪かったな、と無理矢理のように言って、友人は残りのサンドを一口で飲み込んだ。さっき外したモンスターボールを腰に戻し、よいしょっと立ち上がる。
    「次の講義ってどこだ?」
    「あ、えっと……B棟ってヤバくね?時間ないぞ」
    僕は慌ててテーブルの荷物をカバンに突っ込んだ。
    「走って間に合うか?」
    「多分な。おい、一個モンボ忘れてるぞ」
    友人の指差すテーブルの足元に、未使用のボールが一つ落ちていた。
    「あ、悪い悪い」
    僕は一瞬ボールに手を伸ばしかけて、ふと、このままボールを置いておいたらどうなるのだろうと考えた。そして、ボールをつかんでカバンに押し込んだ。

    ニンゲンは、考えたくないことを後回しにしたがる。
    この生態も利用されてるのかと思いながら、僕は友人の後を追った。

    "Shallow belief" is the end....


      [No.2688] 語り部九尾―零― 投稿者:NOAH   投稿日:2012/10/17(Wed) 06:47:24     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    千 の 時 を 過ごした 一匹 の キュウコン が いた。

    彼女 は 獣 の 身 で ありながら 各地 を 旅してきた と いう

    今 は 亡き その キュウコン が 私 に 話して くれた

    幾つもの 旅 の 記憶 を 私は ここ に 記そう。


    ○日本史×ポケットモンスター・語り部九尾○
    もしもポケモンが、日本史に出てくる人物にあったり、戦等に参加していたら―…?

    旅好きで人好きだけど、どこか憎めない、生意気で好奇心旺盛な、変わり者キュウコンのお話し。


    【書いてもいいのよ】
    【批評してもいいのよ】


      [No.2687] あげてみる 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/10/16(Tue) 23:44:11     139clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:クーウィさん】 【単行本は】 【早ければ】 【冬コミですね

    先生! 改行の幅をコントロールしたら
    クーウィさんの小説が超読みやすいです!


      [No.2676] 最終話「はじまりの つづき」 投稿者:No.017   投稿日:2012/10/16(Tue) 20:12:54     75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:遅れてきた青年

    ふたつの ぶんしんが いのると もの というものが うまれた
     みっつの いのちが いのると こころ というものが うまれた
     せかいが つくりだされたので さいしょのものは ねむりについた

     ひろがった くうかんに ものが みち
     ものに こころが やどり じかんが めぐったとき――





    ●最終話「はじまりの つづき」





     静かに音を立てて、観覧車が回っていた。ゴンドラを支える鉄筋につけられたいくつものライトがついたり消えたりして、ときに青く、ときに赤く輝き、円の形をした観覧車のシルエットの中で波紋のように広がったり、花が咲くように点灯していた。
     乗り場の前に青年は立っていた。シロナに気がついたらしく、振り返る。
     しばらくお互いの顔を見たまま、何と言っていいか、悩んだ。
    「どうして来たんだ、シロナ。もう知っているんだろ、聞いたんだろ、全部」
     青年は苦笑いしながら切り出した。彼女は困ったような顔をする。よかった。いつものアオバだと思った。
    「いや、言ってみただけだよ。来てくれると思っていた。だからここで待っていたんだ」
     と、青年は続ける。
    「乗ろうか」という青年の言葉に彼女は黙ってうなずいた。


    「さて、どこから、話したらいいかな」
    「まずは質問させて」
     ゴンドラに乗り込んだ青年が本題を切り出すと、シロナが早口で言った。
     会話が始まる。
     手始めに「あなたは誰なの」と聞く彼女に「ミモリアオバだ」と、彼は答えた。
     じゃあ、湖の底で見つかったのは? ――あれもミモリアオバだ。
     矛盾しているわよ――そうだな。説明するのには少し時間がかかる。
     青年は淡々と答えていく。
    「今の俺はたぶん人間とは言い難い。あえていうならゴーストポケモンに近い。さっきノガミさんのポケモンとやりあってね。生まれて初めてポケモンバトルってものを経験したよ」
     ガブ達はいつもああいうことをしているんだな、とも言った。
    「その話なら聞いた。ノガミさん、怪我のひとつもしていなかったけど」
    「そう、鬼火といっても、コケ脅しの幻のやつだからね」
     青年は少し申し訳なさそうに言った。彼にはちょっと悪いことをした、と。
    「何があったの」
     と、彼女は問う。
     今までの会話からもう想像はついていたのだ。けれど、やはり本人の口から確かめなければ納得できなかった。
     受話器越しに聞かされた事実は、彼女にとってあまりにも残酷なものだ。
     それが本当ならば、二週間前に彼はもう……。
    「シロナ、俺は二週間前に、」
     いやだ、やっぱり聞きたくない。
    「いい! やっぱり言わなくていい」
     と、彼女は遮った。
     できることなら、聞きたくなかった。否定して欲しかった。
    「聞くんだシロナ、君は知らなくちゃいけない。俺はお前に、この事実を受け入れてもらわないといけない」
     青年はシロナの腕を掴む。強い調子で言った。
    「シロナ、俺は死んだ。二週間前に」
     観覧車が昇っていく。

     河で流されたんだ。季節はずれのひどい台風の日だった。
     あの日俺は、ポケモンセンターにガブ達をあずけて、やることもなくて、ずっと嵐の空ばかり見ていた。
     その時、俺は見たんだ。一匹の白い小さな鳥ポケモンが、さっきから同じところをぐるぐると旋回している。こんなにひどい嵐なのに……。次の瞬間、悟った。あの下にそのポケモンの主人がいるのだと。
     無謀だった。ポケモンも持たずに俺はそこへ向かってしまった。ポケモンのいないトレーナーなんて、一人じゃ何もできないただの弱い生き物なのに。

     あとは君の知っている通りだ、と青年は付け加える。
     淡々と彼は語っていた。それは自分の死を受け入れた者の口調だ。
    「気がつくと俺は、長い廊下を歩いていた。古代の遺跡のようなところで、音のない暗い場所だった。俺はその場所を下に、下に、下っていって。その一番奥底で会ったんだ」
    「会ったって……何に?」
     シロナが聞き返す。青年が答える。
    「竜だよ」

     六本足の竜だった。ぼろぼろの布のような不気味な翼を生やしていて、長い首を縁取る金色の輪は人の肋骨を思わせた。それが赤い眼を光らせて、暗闇の底に立っていたんだ。
     それを見たとき、「おそろしいしんわ」が頭をよぎったよ。
     そのポケモンの眼を見た者、一瞬にして記憶がなくなる。触れた者、三日にして感情がなくなる。傷つけた者、七日にして何もできなくなる……俺は神話に記されたポケモンの姿を知らなかったけれど、この神話をあてはめるのならば、この竜にこそ、それは相応しいと思った。
     けれど竜は、違うと否定した。それは私ではない。そう云ったんだ。

    『オマエはまず、ひとつ勘違いをしている。おそろしいしんわの者は一匹のポケモンにあらず』
    「一匹ではない……?」
    『記憶を失わせる者、感情を消す者、意志を奪う者。これらはそれぞれ別のポケモンなのだ。シンオウには三大湖がある。そこには普段人の目には見つけられぬ祠があって、そこに一体ずつが眠っている』
    「湖に、そんなものが……?」
    『オマエはよく知っているのではないか? やつらははじまりのはなしにも出てくるぞ』
    「……三つの、命か」
    『そうだ。知識、感情、意志をそれぞれ司る三つの命。そのうちのひとつ、「意志」がお前の魂をここに運んだ』

     青年は自分の髪を結わくものを解いた。
    「竜が言うには、俺は通行証を持っていたらしい」
     彼女に前に差し出して、見せる。
    「この紐はね、ゴースト使いの祖母からお守りに貰ったものなんだ。この紐を作る糸の一本一本に強力な霊力が宿っていて、これを織ったものは、霊界の布と呼ばれているそうだ」

    「では、あなたは? あなたはどこに記されたポケモンだ? 二つの分身か、それとも最初のものなのか」
    『ワタシは……――私はどの書物にも記されてはいない。神話に我が名は存在しない。いや、太古の昔にはあったと言うべきか。まだポケモンと人との間に垣根がなかったころの話だ』
     竜は云った。私は『はじまり』の続きに現われる者だと。
    『ハジメにあったのは混沌のうねりだけだった――』

     すべてが まざりあい ちゅうしん に タマゴが あらわれた
     こぼれおちた タマゴより さいしょの ものが うまれでた

    『最初のものは、二つの分身を生み出した。時間が廻りはじめた。空間が拡がりはじめた。さらに自分の身体から三つの命を生み出した。二つの分身が祈ると物というものが生まれた。三つの命が祈ると心というものが生まれた』

    「はじまりのはなし……」
    「そう。だがこのはなしには削除された続きが存在する」

    『はじまりのはなしには続きが在る。誰も知らない、忘れ去られた続きが』
     竜は語る。はじまりのつづきを。
    『最初のものが眠りについたのち、私は目を覚ました。拡がった空間には物が満ち、物には心が宿った。そこに時間が巡った時、私は生まれた。「死」が目を覚ましたのだ。心宿るものの時間の先にあるもの、それが死だ』
     神話から外れた者。忘れられたのか、忌み嫌われ、消されたのか。
     今では誰も知るものがない。
    『ワタシは死。死そのもの。たとえ、神話から名前が消してしまっても、死は掻き消せない。死はいつも隣に居る。私は今でも世界のすぐ裏側に存在している』
     同時に生の理に叛骨する者。この世には死にながらに生きる矛盾した者達がいる。ゴーストポケモン達がそれだ。竜はその主。死にながらに生き、生きながらに死んでいる。

    「俺は竜に願った。今一度、生の理に叛骨し、約束を果たす為の時間を与えて欲しいと。一年前にした約束、その舞台に立たせて欲しいと」

     神話にいない竜は、願いを聞き入れた。生の理に叛骨し、死にながらにして生きるゴーストポケモンの身体を貸し与えてやろう。昔、人とポケモンはおなじものだったのだから、ポケモンが人になることもできるだろう、と。
    『オマエは、ポケモンの皮を被った人間の話を知っているか?』
     六本足の竜が問う。
     その昔話を青年はよく知っていた。

    もりのなかで くらす ポケモンが いた
    もりのなかで ポケモンは かわをぬぎ ひとにもどっては ねむり
    また ポケモンの かわをまとい むらに やってくるのだった

    『今からお前は、その逆をやる』
    「逆を?」
    『オマエは今より一匹のゴーストポケモンだ』
     竜が云った。青い炎が灯る。
    『見るがいい』
     青年の目の前で、鬼火が変容し、ゴーストポケモンの形を成す。それには、魂を掴み取る太い腕があった。この姿は霊界の布が生んだものだ、と竜が付け加える。
     それは、霊界の布がサマヨールに与えた新たなる器だ。
    『この姿が恐ろしいか? だが、ゴーストは曖昧なものだ。夢とも現ともわからぬ幻を見せ、自らの存在も曖昧。しかしそれ故に何にでもなれる』
     見たことの無い種類だった。サマヨールのそれと同じ色をした一つ目。赤い色が揺らめく。
    『だからイメージするがいい』
     竜は云った。唱えるように言葉を紡ぐ。
    『オマエに問おう。お前は誰だ? 何者になりたい? どうありたい?』
    「俺は……アオバだ。ポケモントレーナーの、ミモリアオバだ」
     青年が心にその姿を描くと、ゆらりと影が揺らめいた。ポケモンはみるみるうちに姿を変容させ、青年のそれとなっていく。
    『さあ、行くがいい。第四の湖を出た所で、意志の神が待っている。約束の地に送り届けてくれるだろう。お前の意志を遂げよ』
     青年の望み、青年の意志、意志の神の導き。
    『……いや、遺志の、と云うべきか』
     青年の形を成したそれがゆっくりと眼を開き、こちらを見た。

     気がつくと、彼の意識は明るい場所に在った。ゆらゆらとのどかに揺れている。月の光が眩しかった。天井では月光がキラキラと反射し、ワルツを踊っていた。光が、揺れている。
     不意に、行かなければと思った。
     もういかなきゃ、と。
     この場所はまるで生まれる前にいたようで、居心地がいいけれど。
     自分には、行かなければいけない場所がある。
     俺には、成さなければならないことがある――――だから!
     光の射す場所に向かって、彼は上り始める。光が揺れるその外に向かって。
     隠された第四の湖。もどりの洞窟の入り口にあるその湖の名を、おくりの泉という。
     水面に顔を出す。世界に飛び出す音が聞こえた。
     飛沫が、上がる。

     月が揺れる水面の上で、金色の目をした青い頭巾のポケモンが待っていた。先端が楓の葉のような形の二本の尾が、風に揺れている。
     青年は、意志の神の手をとった。

     でも、これは賭けだったのだ、と青年は言う。
     なぜなら、記憶は実感として肉体に刻まれるものだから。生まれ持ったものでない器に宿った自分が、記憶の実感を伴わない身体が、約束を思い出して果たせるかどうか、竜にもわからなかった、と。
     案の定、約束の地に降り立った時、彼は記憶を失っていた。
    「でも、君は思い出させてくれた」
     青年が髪を束ね直す。そして今にも泣きそうなシロナの顔を見て、言った。
    「だから、ありがとう。シロナ」

     観覧車が回っていた。
     日が沈み、夜空にイルミネーションが輝く。ゴンドラが回る。上まで上がって、また下がる。まるで太陽が昇っては沈むように、物質が、生と死の循環を繰り返すように。うつむいたシロナの目からぽたぽたと涙が滴り落ちた。
    「泣くなよ、シロナ。今、俺は満足しているんだぜ? それにこんなの早いか遅いかじゃないか。誰だっていつかは観覧車から降りなくちゃいけないんだ」
     そう言うと、モンスターボールを六つ。両手に抱えてシロナに差し出した。
    「だから、昨日の続きだ。俺は先に降りなきゃいけないから、もう好みかどうかに関わらず受け取ってもらうぜ。俺を負かしたお前の言うことだったら、ガブ達だって聞くだろう」
     彼女にも今ならわかる。どうして昨晩、青年はあんなことを尋ねたのか。冷たい手が触れてボールを握らせたのがわかった。
     必死だったに違いない。後悔した。昨晩のことを。
    「ごめんアオバ。私、アオバの気持ちも考えずに昨日……」
    「いいよ、そのことはいい。もういいんだ」
     もうすっかり夜だった。花火が打ちあがる。夜空にいくつも咲いて、そして消えていく。
    「俺のガブリアスはトレーナーの嫉妬をかきたてるらしい。すなわちガブを持つということは敗れたトレーナーたちの怨念を背負うに等しい。けれど君なら、ガブリエルを倒した君なら、そんなもの全部跳ね除けると信じている。だから俺は……シロナ、君に俺のポケモンを託す」
     けれど本当は、昨日シロナの言葉を聞いたときから彼は決めていたのだ。勝ち負けにかかわらず、彼女にポケモンを託そうと。
     だが、彼女は勝ってみせた。彼女は青年の想像のはるか上をいってみせた。
     予定では、自分がしっかり勝って勝ち逃げするつもりだったんだけどな、と彼は思う。
     だって、最後の自分とのバトルくらいポケモン達に花を持たせてやりたいじゃないか。
     彼らは、自分の匂いが変わってしまっても、わかってくれた。主人を見極め、すべてを受け入れてついてきてくれた。……意志の神に、自分を渡すまいともした。
     怒っていないだろうか。自分達を置いて、手放して、先にいってしまうポケモン不孝なトレーナーを怒ってはいないだろうか。けれど、こんな自分をどうか許して欲しい。
    「押し付けておいてなんだが、決勝進出祝いだとでも思ってくれ。強いぜ? 俺のポケモンは」
    「……そんなのわかってる。戦った相手なのよ?」
     シロナが涙声で答えた。
    「ああ、そうだったな」
     花火が咲く夜空を仰いで青年は言った。それはどこか遠くを見るようで、
    「もう、行くの? 行かなきゃいけないの?」
     シロナは尋ねた。聞きたくはなかった。
    「……行かなくちゃ、いけないらしいな。ずっとなりゆきを影から見ていたけれど、もう時間だと言っている。俺をここに連れてきたものが、じきに俺を連れて行く」
     だって、もう約束は果たされたから。ロスタイムは終わったのだから。
    「でも、行かなきゃいけないのはお前も一緒じゃないか。出るんだろ、決勝戦」
    「……こんな場面でもバトルの話なの? あなたって本当に空気が読めないのね」
     シロナが悪態をつく。ふと、彼女の背後に映る夜景の一角に新たな明かりが灯った。
    「見ろよ、スタジアムに照明が入った。お前が来るのを待っているんだ」
     夜景に浮かぶスタジアムを仰いで、青年は言う。
     シロナは黙って、訴えるようにアオバの顔を見た。違う、私の言って欲しいのはそんな言葉じゃない、と。
     いやだめだ、待ってなんかいずに伝えなければ。今伝えなかったら彼は……。
    「アオバ、私は」と、シロナは言いかけた。が、「シロナ、」と青年が遮る。
    「君にとって俺は、ただの超えるべき対象。そうだろ?」
    「違う!」
     彼女は否定したが、青年は首を横に振る。
    「決勝に行くんだシロナ。お前のあるべき場所に。あの舞台はお前の夢だったはずだ。あの場所を夢見てたどり着けなかった者達が何人いるか、夢を追いかけて掴めずに去っていった者達がどれだけいたか、お前だってわかっていないわけじゃないだろう?」
     ぐっ、とシロナは言葉を飲み込んだ。ずるい。そんなことを言われたらタイミングを見失ってしまう。
    「俺もその中の一人になったんだ。だが君は進む。進まなくちゃいけないんだ」
     伝えたい事があるのに、うまく言葉にできない。
    「君は行け。君だったらたどり着ける。四天王にだってチャンピオンにだってなれる」
     夜景を背に青年は言った。確信を持って。
    「言っただろ。俺はもうタイムリミットなんだ。……見ろ」
     青年が自分の腕をかざした。指が、腕が、身体全体が透けはじめていた。
    「目的外のところで、力を使いすぎたんだな」
     先ほどの出来事を思い浮かべながら青年は言う。けれど後悔はしていなかった。
     身体を構成する色が薄くなっていくのがわかった。淡く発光した身体から、光の粒子が舞い散って、だんだんと輪郭が崩れていく。彼は少し寂しそうに笑った。そうしている間にもどんどん身体が消えていって。
    「待ってアオバ! 私まだ……」
     そうシロナが言いかけると、
    「最後くらいさ、俺にしゃべらせてくれよ」
     と、青年は遮った。
     そして、もう半透明になった腕で彼女の上半身を抱くと、
     耳元で何かを囁いた。

     するりと青年の髪を結んでいたものが落ちる。
    シロナは思わずそれを手にとるが、すぐに青白く燃え上がって、消えた。
     そうして、青年はいなくなった。


     それからのことはよく覚えていない。
     ただ彼女は、廻る観覧車のゴンドラの中で、話し相手のいないゴンドラの中で、六つのモンスターボールを両手に抱えたまま、声を上げて泣いていた。
     涙が落ちてモンスターボールを濡らす。遺されたボール達も泣いているように見えた。
     目の前には誰もいない。もう、いない。
     二本の尾を持った影が、暗い空に昇って、溶けて消える。
     こうして、乗客はひとりになった。





     ――なあシロナ、お前はどうしてチャンピオンになりたいんだ?
     あの時、青年はそう尋ねてきた。
     ――どんなに強いチャンピオンでも、いつかは負けるときが来る。その座を誰かに譲るときが来る。観覧車に乗って高いところに行ってみても、いつかは下り始める。いつか観覧車からは降りなくちゃいけないのに。
     ――………………イメージしたからよ。
     と、彼女は答える。
     ――いつか私も自分のポケモンを連れて、この舞台に立つんだって、表彰台に上がるんだって想像したわ。その後に、いつか自分がどうなるかなんて知らない。けれど、そのとき確信したの。私のあるべき場所はここだって。
     ――それだけ?
     ――それだけよ。
     頭の中に声が響いている。
     あの時、青年は安堵したように笑っていた。
     ――それじゃあ、その時のイメージは今でも変わっていないんだね?
     青年は問うた。
     そして、彼女は再び、こう答えていた。

    「…………あたり、まえじゃない……」



     花火が上がって、そして消えていく。
     それは、誰かの夢が消え行く様なのか、それとも誰かの行く先を祝福しているのか。
     観覧車だけが黙って回り続けていた。





    「シロナさん、どこに行っていたんですか」
     スタジアム控え室に戻ったシロナをノガミが待ち構えていて、開口一番にそう言った。
    「一体何をしていたんですか。心配いたんですよ……」
     そう続けるノガミに、彼女は黙って両手に抱えた六つのモンスターボールを見せる。
    「それって……」
     言葉を濁らせるノガミに彼女はただ頷いた。そして、今のボールの所有権の解除、新たな持ち主への登録を依頼した。こういうのは規則上どうなのかとシロナが尋ねると、審査には時間がかかるでしょうが、やりましょうとノガミは答えた。
     ふと、ノガミは彼女の頬をつたう一筋の涙を、見た。
     長い前髪に隠れて表情は見えない。何と声をかけるべきなのか悩んでいる彼に「ノガミさん、」とシロナが切り出す。

    「ノガミさん、私ね………………振られちゃったの……」


     スタジアムが熱気に沸いていた。祭が最も熱気に満ちるとき、その主役である二人のトレーナーを、聴衆は今か今かと待ち構えていた。
     ポケモンを回復に出すと、彼女は宿舎の自室へと赴く。取りにいきたいものがあった。スタジアムの照明に照らされたテーブルに、その紙袋は置いてあった。

    「見てください! スタジアムは超満員です。今宵、シンオウ最強のトレーナーが決まる瞬間をこの目で見ようと、大勢の人々がつめかけています」
     テレビ局のレポーターが、そんなお決まりの文句をカメラの前で叫んでいた。
     すっかりと身なりを整え、決勝用のモンスターボールを持って、シロナがスタジアムに続く廊下に立つ。その長い髪が伸びる頭にはポケモンの耳を模ったらしいかんざしのようなものが二つずつ、対になる形で飾られていた。
    「それ、ブラッキーですか」
     と、ノガミが尋ねると
    「ルカリオよ」
     と、シロナが答える。
    「でもラインが入っていますよ」
    「いいのよ。四つで二対にすればルカリオなのよ」

     戦いの舞台に進む道を、彼女は一人、歩き始める。
    『――よ、シロナ』
     青年が散る間際に残した言葉がリフレインして彼女は嗚咽を噛み殺した。
     ポケモントレーナーとはかくも非情なものだ、と彼女は思う。
     悲しくて、悲しくて、泣きたくて仕方のないはずなのに、もう頭の片隅ではバトルのことを考え始めている。心の準備を始めているのだ。
     勝とうとしている自分がいる。勝ちたい。勝って前に進みたい。
     これは性、戦う者の性。
     私は行く、前に進む。
     欲しかった言葉は、もう聞けない。


     初めにあったのは混沌のうねりだけだった。
     すべてが混ざり合い中心にタマゴが現れた。
     零れ落ちたタマゴより最初のものが生まれ出た。
     最初のものは二つの分身を創った。
     時間が廻りはじめた。空間が拡がりはじめた。
     さらに自分の身体から三つの命を生み出した。
     二つの分身が祈ると物というものが生まれた。
     三つの命が祈ると心というものが生まれた。
     世界が創り出されたので、最初のものは眠りについた。

     拡がった空間に物が満ち、物に心が宿り、時間が巡った時、死が目を覚ました。
     死が生まれたとき、別れが生まれた。
     去るものがいた、残されるものがいた。
     それでも、世界は廻り続けた――


     その足で立ちたい場所がある。
     そのために、越えていかなければならないものが、ある。


     君は行け。
     たとえ負けてしまう時がくるとしても、いつか終わりがやってくるとしても。
     ひと時でも長く夢を見ていられるように。
     一刻も早くその場所へ。
     だから――


    『勝てよ、シロナ』


     最後の言の葉、それは約束という名の呪文。
     そんな台詞を聞きたいんじゃなかった。
     けれどそれは違和感なく耳に響いて、彼女を突き動かすのだ。
     長い廊下を渡り、階段を一歩、また一歩、彼女は登っていく。


     ――それは続き。はじまりの続き。
     出会いと別れを繰り返して、世界は今も廻り続けている。


     扉を、開いた。
     まばゆい光が差し込んで、うねるような歓声が彼女を包み込んだ。
















    遅れてきた青年「了」


      [No.2665] ■マサポケ新掲示板テストに伴う大宣伝祭り実施中! 動作テストをしながら作品を宣伝しよう! 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/10/15(Mon) 23:40:14     126clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:宣伝していいのよ】 【むしろ宣伝してください

    どうも鳩です。
    テスト協力ついでにご自身の作品を宣伝しませんか?

    普段はポケノベさんその他で投稿されてるみなさん、
    マサポケの掲示板テストに乗じて、自分の作品のURLとかぺたぺたはっていいのよ?
    ご自分の作品じゃんじゃん宣伝しちゃっていいのよ?

    どんどん投稿してくださいネ。
    何か気付いたら教えてくれるとすごく助かります!
    テスト期間終わったらリセットしますのでその間はフリーダムにどうぞ!



    (例)

    ●ピジョンエクスプレスポケノベ支店
    http://pokenovel.moo.jp/mtsm/mtsm.cgi?mode=novel_index&id=pij ..... amp;view=1
    ホウエン地方のお話を中心に載せています。
    よかったら読んでくださいネ。

    ●遅れてきた青年
    http://pokenovel.moo.jp/mtsm/mtsm.cgi?mode=novel_index&id=pij ..... amp;view=1
    ポケノベさんにも出張してます。

    ●本家:ピジョンエクスプレス
    http://pijyon.schoolbus.jp/
    ご存じ、本家です。絵とかもたくさん置いてます。
    同人誌通販やってます。


      [No.2648] 【愛を込めて】Happiness 【花束を】 投稿者:NOAH   《URL》   投稿日:2012/09/26(Wed) 13:34:23     160clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2


    「なあ、聞いたか?」

    金髪の男が、フードを被り、顔を隠す男に話しかけていた。ここは、喧騒と欲望の渦に沈むブラックシティ。黒く染まった大都会である。

    「……何かあったのか。」
    「ほら、あの単独で動く女裏ハンター!!名前は確か……。」
    「キャシディ・マーニー?」
    「そう!そいつ!毒蛇キャシディ!!」
    「組んだのか?」
    「らしいぜ。」
    「……厄介なのが増えた。」
    「何か言ったか?」
    「何も……持ち場に戻ろうぜ。」

    フードを被った男は、金髪の男を急かすように先に進む。金髪の男は戸惑いながら付いていく。その中で、フードを被っていた男は焦っていた。 気付けば、金髪の男は居なくなっていたことに気付いた男は、被っていたフードを取って息を吐いた。そしてそのまま座り込む。

    (はあ……警察官も楽じゃねえな……これ終わったら、有給むしり取ってやる。)

    浅く息を吐いて空を見上げた。何時の間にか、エルフーンが頭に乗っていたが、男は気にせず腕に抱いた。この男は、裏取引の情報を嗅ぎ付け、潜入捜査を行っている、国際警察官の刑事、シュロである。腕の中に移動させたエルフーンの♀、フォンは、彼の手持ちの一匹である。

    「フォン、これ終わったら、必ずヒウンアイス食べような。」
    「える!」
    「……約束な。」

    彼女が差し出した右腕に、自身の右手小指を当てて、指切り拳万と呟くと、彼女をボールの中に戻し、フードを被り直した。

    「待って。」
    「…………。毒蛇?」
    「怪しいと思ったら……あなた、ヘリオライト?」
    「あんたにも、俺のコードネームが伝わってるとはね……光栄だよ、キャシディ・マーニー。」

    苦虫を潰したような、険しい顔付きで、現れた女を思いっきり睨み付けた。女、キャシディの隣には、こちらでは珍しいアーボックが威嚇している。キャシディは、アーボックを撫でて落ち着かせると、シュロの方へと向き直った。

    「探している子はこの子かしら?」
    「!あんた、知っててわざと……!!」
    「この子がほしくて取り入ってたけど……興が剃れて、あんたのターゲット、眠らせちゃった。この子はそのお詫びの品よ。」

    彼女がシュロに差し出したのは、一匹の、色違いのヒトモシ。恐らく♀である。福寿草の花が咲く、小さな鉢植えに寄り添って、ぐっすりと眠っていた。花が燃えないと言うことは、恐らく特性はもらいびだろう。お詫びの品と述べた彼女に不信感を募らせたシュロだが、大人しく色違いのヒトモシを受け取った。

    「……辺りが騒がしいわね。起きちゃったかしら?」
    「かもな……さて、暴れ時かな。」
    「逃げないの?」
    「残念ながら、ここの連中を全員しょっ引くつもりさ…………あんたの分の手錠は、残念ながら今回は持ち合わせていないけどね。」
    「そう、それは残念……ああ、そうそう。その福寿草、私からその子への贈り物よ。」

    それだけ告げて、毒蛇、キャシディ・マーニーは、フワライドに掴まり、アーボックをボールに戻すと、ブラックシティのビル群に囲われた空へと、ゆっくりと上昇して行った。シュロはそれをそのまま見つめると、自分が一番信頼する相棒・ワルビアル(♂)のヴィックと共に、黒の街へと舞い戻って行った。




    「痛ってえ!?」

    消毒液が突然、たっぷりと傷口に付けられて、シュロは思わず声を上げた。消毒液を付けた張本人は、彼の弟のようだった。

    「兄さんのばか野郎!なんであんな無茶するのさ!!」
    「ちょっ、リンドウ、うるさい!シンフーが起きる!!」
    「……え?誰のこと?」
    「ん。」

    指さす先には、未だぐっすりと眠る、色違いのヒトモシ。ケージから出されて、椅子に座り込む、彼の相棒のワルビアルの膝の上にいる。そのヒトモシの近くには、ケージの中に一緒に入っていた、福寿草の植木鉢。エルフーンが、ジョウロで水を上げていた。

    「シンフー?」
    「そう。幸福って書いてシンフーね。」
    「へえ……随分と深い意味合いで。」
    「まあなぁ、『色違いは全部私の物だ!!』とか何とか言って、虐待死させたりしてたヤツだったからなぁ。」
    「え……じゃあ、この子も?」
    「おそらくな……まあ、ちょっとずつ、彼女の傷を癒してやるつもりさ。」
    「だからって、父さんの二の舞にはならないでね?ヴィックも何とか言ってやってよ。」

    そう告げたリンドウに、それは無理だと言わんばかりに、彼のワルビアルは首を振って、ヒトモシの顔を優しく撫でた。

    「父親みたいだぞ、ヴィック。」
    「!?」
    「本当だね……兄さんを頼むよ、お父さん?」

    そこで俺のことを言うのは違うだろう、とか、じゃあ誰が兄さんのストッパーになるのさ、とか、いろいろと言い合いを始めた主とその弟を見つめて、ヴィックは福寿草の鉢植えの土に刺さっていた、小さな紙を手にとった。それを見つめて、ヴィックはふ、と笑うと、黄色い愛らしい花の近くにそれを置き、このあと正式に、6匹目の仲間となるであろう、小さな小さなロウソクの霊を愛で始めた。



    「福寿草:キンポウゲ科の多年草 アジア北部に分布。シンオウのテンガン山とジョウトのシロガネ山にも咲いている。季節は2〜5月。花の色は黄色。花言葉は、回想・思い出・幸福を招く・永久の幸福。」


    *あとがき*
    最後はヒウンアイス食べながら終わらせるつもりが違う形になった!
    ですが、結果的にほのぼのになったのでいいです。

    ずっと書きたかった話がようやく書けました。
    福寿草の花言葉を見た瞬間「これだああ!!」 と思いました。

    色違いのヒトモシって可愛いですよね。
    私の書くワルビアルが本当にお父さんみたいですよね。
    他にもツッコミどころ満載かもしれませんが触れません。

    感想、お待ちしております。


    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評してもいいのよ】


      [No.2637] Re: ■チャット会テーマ募集 投稿者:No.017   投稿日:2012/09/22(Sat) 12:27:23     138clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    フミんさん、どうも。
    実はまさにそのあたりなんですよ。相談したいのは。
    詳しくは後述しますね


      [No.2626] 空を飛んで 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2012/09/19(Wed) 21:03:11     140clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     いきなり視界が揺れ、衝撃と共にハルカの体はフライゴンから投げ出された。
     白い雲と同じくらいの高さから落ちていくのを感じる。その感覚にハルカは悲鳴をあげた。フライゴンは自分の視界に入って来ない。
     下は海。けれど運悪くこのスピードではあの顔を出した岩に頭から落ちてしまう。
     散々いろんな人から注意を受けた。それに事故のニュースもたくさん見て来た。ポケモンの技で空を飛んでも、その途中で落ちてしまうことだってあるのだ。落下して死亡するニュースなどたくさん見て来た。
     けれど自分だけは大丈夫だとどこかで思っていた。フライゴンは振り落としたりしないと。
     そんな考えをぐるぐるまわしているうちに岩はどんどんハルカに近づいて来る。
     ああ、もう死ぬ。いやだ、いやだ! 死にたくないダイゴさんに会いたい 助けてダイゴさん いやだよう!



     トクサネシティにあるダイゴの自宅ではその主が紅茶を飲んでいた。今にも血管が浮き出そうなくらいに目が怒っている。落ち着こうと紅茶をいれても焼け石に水。
     約束の時間を過ぎても一向にハルカが来ない。もう2時間30分も遅刻している。新しい子をもらったから修行してくださいと頼み込んだのはハルカの方なのに。
     これはまず遅刻する時は一報することから叱らなければならない。さっきから一分刻みで記されているハルカへの発信履歴を見て、何をいってやろうか考えを巡らす。そしてまたポケナビに手を取るとハルカへと発信した。1秒、2秒……16秒と表示され、留守番電話サービスにつながる。
     機嫌の悪い主人の八つ当たりの対象にされたポケナビはたまったものじゃない。ダイゴの力で叩かれても抗議の声もあげずに、新たな発信履歴を刻み込んだ。
     紅茶が空になる。カップに注ぐ。少し濃くなった紅茶が満たされるが、ダイゴの心は怒りに満ちたまま。
     あと30分しても来ないなら明日以降にみっちりと説教をする。泣き出しても構わない。約束を2時間以上もすっぽかし、連絡にすら出ないなど人としてあり得ない。


     ふわふわとした感触にハルカは目をあけた。視界がぼんやりしている。見た事もない原っぱに、石碑がぽつんとあった。
     ここが死んだ後の世界? 花畑も川もないけれど、そんな気がした。
    「ダイゴさん……」
     会いたい。死ぬ前に会いたかった。あんな誰も通らないような場所で一人で死にたくなかった。
     けれどこれが現実だった。せめて一言だけでも言いたかった。
    「あまりに強い恋心は貴方の障害になりますよ」
    「誰!?」
     姿は見えない。けれどとても落ち着いた声だった。死後の世界の役人かなにかだろうか。
    「ダイゴサンはどこにいるの?」
     ハルカの問いには答えようとしない。さっきとは別の声がハルカに話しかける。
    「ダイゴさんは、トクサネシティの……」
    「あの家ですね」
     家の形を思い浮かべた瞬間だった。ハルカが何も説明していないのに声は答える。
    「ダイゴさんをどうするの!?」
    「貴方が会いたいと願ったのでしょう。ならばそれを叶えるまでです」
     そんな。まさか。ここに連れてきてしまっては、ダイゴが死んでしまう。それだけはやめて。ハルカが言い終わらないうちに視界が消えた。



     ダイゴのイライラは頂点を通り越していた。あれから30分。紅茶は5杯目、茶葉は3種類目。その他にチョコレートせんべいポテトチップスを並べてるが、ハルカが来る気配が全くない。
     ダイゴは窓に近寄ると、外で日光浴をしているユレイドルに話しかける。主人の声にユレイドルがひらひらを伸ばして来た。遊んで欲しい時にユレイドルはいつもこうする。
    「おせんべい食べる? 1枚だけだよ」
     ダイゴの手からしょうゆせんべいを受け取る。水中で獲物を捕まえたりする触手は器用にせんべいを口に運ぶ。そしてそのままぱっくんと飲み込んでしまった。期待するようにダイゴをみている。もう一枚くれ、といったところ。触手をダイゴの腕にからめて甘える。
    「ダメだよ。ポケモンにあげるには塩分高いんだから。はい」
     かわりにポフィンを出した。あますっぱポフィンはユレイドルの大好物。
    「シンオウ小麦とバターだって。ドライチェリー入りの高級品だよ。こんなことユレイドルにいっても解らないけどね」
     シンオウへ父親の代わりに出張した時のお土産だ。留守中のポケモンの世話を引き受けてくれたハルカには琥珀とソノオの花畑で取れるハチミツ。
     ああまた思い出してしまった。今日はハルカのことを思い出すだけで怒りがぶり返す。満足そうなユレイドルに背を向けてダイゴは紅茶を飲んだ。
     主人の怒りを察知して、ポケモンたちはみな部屋の隅っこの方にいる。ネンドールは気配すら消して部屋と同化している。エアームドはいつでも命令が聞けるよう、ダイゴの後ろにいた。一回も振り向くことはなかったが。
     約束の時間から3時間20分が経つ。
     今日の夕食の買い物に行かなければならない。家の鍵をしめてダイゴは出かける。

     一人分とはいえ野菜は重くてかさばる。そんなときにボスゴドラは荷物を持ってくれるのだ。キャベツにタマネギ、リンゴとカボチャ。牛肉が安かったから多めに買ってしまった。納豆もこれだけあればしばらく料理しなくてもいい。パンは質量の割に場所を取る。タマゴはいつも安いから行くたびに買ってしまう。
     ダイゴが玄関を引いてみた。鍵はかかったままだ。期待などするからこうなる。怒りのこもった手で鍵をあけ、中に入った。
     買ったものを冷蔵庫に入れた。残ったビニール袋をまとめると、後ろからメタグロスがダイゴのことを見ていた。
    「ああ、お腹減ったんだね。今日は何にしようかな」
     メタグロスの金属製のボディを撫でる。この感触がやめられない。固いポケモンの触り心地が大好きなのだ。
     そんな幸せに浸っていると、チャイムが鳴る。さあなんて叱責しようとダイゴはゆっくり玄関に向かう。
    「今何時だと思ってるの?」
     ドア越しに聞いた。その向こうにいるであろう人間に。
    「あ、すみません。夜は遅くないと思ったのですが」
     予想と反する声が返って来る。全く知らない声だ。間違えてしまった。
    「あ、いえ。こちらこそ知り合いかと思ったので。どちらさまでしょうか?」
     強盗でも困る。玄関をしめたまま向こうにいる人に訪ねた。
    「実は貴方に会いたいと言う方に会いました。家がここだと聞いたので来たのです」
    「どういうことでしょうか?」
    「ダイゴサンって人ですよね?」
     違う声がする。声の高さからいって男女二人。名乗らないことも妖しい。玄関の鍵をあけるか開けないか迷っていると、ダイゴの足元にメタグロスがいた。その隣にはエアームドも。何かあったら実力は任せろ、と言わんばかりだ。
    「はい、私はツワブキダイゴですが。その会いたいという人は誰ですか? そしてどちら様でしょうか?」
     チェーンをかけ、鍵をゆっくりと開ける。これで相手から開かれても一回くらいは防げる。
    「この子ですよ」
     隙間から見えた男女二人。頭のキレが良さそうな男と、大きな琥珀色の目が特徴の女。そしてその男の腕の中で眠っているハルカだった。
    「ハルカちゃん!?」
     思わずチェーンを外し、玄関を全開にした。強盗など気にも止めずに。
    「この子とどこで?いやなぜうちに?とにかくお二人とも上がってください」
    「いえ、私たちは帰ります」
    「私たちは長居できません」
     男はハルカをダイゴに差し出す。起きる気配のないハルカを受け取り、二人に上がるよう勧めるがうなずこうとしない。本当にハルカが世話になったのならお礼をしたいし、そうでないならば家の中の方がやりやすい。
     ハルカを腕に抱く。その体は冷たく、長いこと海風に当たっていたかのようだ。
    「本当に何もありませんが、夕食くらいごちそうさせてください。遠慮せずにどうぞ」
     ダイゴは食い下がると、二人はお互いの顔を見合わせて相談している。
    「どうしたらいい?」
    「人間はここで入るのが自然なようです」
     二人はそんな会話をした。ちぐはぐな会話。ダイゴは二人を逃がさないように見る。その目は睨んでるとも言える。
    「ではごちそうになります」
    「ではごちそうになるね」
     家の中に入る二人。ダイゴはハルカを抱いたまま鍵をしめ、チェーンをかけた。すぐには逃げられないだろう。
     ネンドールに二人の世話を頼む。お茶とお菓子を出して、と。ネンドールは解ったと台所にいった。その横にはメタグロスもついている。二人は任して大丈夫だろう。
    「ハルカちゃん、起きて」
     軽く揺すっても叩いてもハルカは起きない。ハルカを寝室につれていく。布団をかけて優しく頬を撫でる。
    「ダイゴ、さん?」
     ハルカが目をあける。
    「ハルカちゃん!? 大丈夫かい?」
    「ダイゴさん!? ダイゴさん!」
     目に涙をためて、ハルカはダイゴに抱きついた。ただごとではない様子だ。ダイゴはなるべく優しくハルカを抱いた。
    「ごめんなさい!私が、ダイゴさんに会いたいっていったから、ダイゴさんが!」
    「どうしたんだい? 何があったの? 嫌な事されたの?」
     泣いてばかりで、ハルカはまともに言うことができない。冷たい背中をなでる。怖いことがあったのだろう。落ち着くまで優しくさすった。
    「ハルカちゃんを送ってくれた人たちがね、今待ってるんだ」
    「ダメ!」
     ハルカは顔をあげる。ダイゴつかむ力が強くなった。
    「ダイゴさん、ダメ……死んじゃう!」
    「どういうこと?」
     かちゃ、と寝室のドアが開く。振り向くとあの二人が立っていた。無機質な表情だ。ダイゴはハルカを自分の後ろへと隠すように向く。
    「起きた」
    「起きましたね、よかったです」
     ハルカはダイゴにさらにしがみついた。二人を見ておびえている。
    「君たち……一体何者なの? 答え次第では実力公使も考える」
     ダイゴは睨む。ひるむとは思っていない。それに二人の背後にはネンドールとメタグロスがいる。合図をすればすぐに動いてくれる。ネンドールはつねにこちらを見ている。
    「それは答えられない。けど私がその子とぶつかっちゃったのだから、その子が行きたいところに送るのは当たり前」
    「小さな子をこんなに泣かすまで何をしたの?」
    「ぶつかったからじゃないでしょうか。相当なスピードでぶつかってしまいましたし、フライゴンもしばらく気絶してましたし。これに関してはこちらが前を見ていなかったからなのです。その子はおろかフライゴンの方に非はありません」
    「それだけ?おかしいだろう?」
    「気に触ったのなら私たちはもう帰ります。すみませんでした」
     あっさりと頭を下げる。二人は足並みをそろえて玄関へと向かう。
    「待ちたまえ!」
     ハルカをこんなに泣かせ、ただで帰れると思うな。ダイゴが男の方を掴む。首根っこを掴んだのだ。
    「……翼?」
     ダイゴの腹には青いものが当たっている。そして掴んでいるのは服の感触なんかではない。目の前にいたのは人間の男であったのに、なにか違う。
    「ラティ……オス?」
     絵本や絵画の中でしか見た事のないポケモン。ホウエンの海を飛び、祝福を与えるポケモンと言われている。ダイゴのつかんでいるのはどうみてもラティオス。赤い瞳が後ろのダイゴを見ている。
    「じゃあ、まさか君は」
     金色の瞳は人間の女と思われていた。正体がバレたと観念してラティアスは本当の姿を現す。ラティオスと対で描かれるポケモンだ。
    「姿消して飛んでたらぶつかった。だからその子とフライゴンは悪く無い。だから送り届けた」
    「人間にしては力が強い方ですね。申し訳ないのですが放していただけませんか」
     ラティオスは穏やかに、そして冷静に言った。ポケモンと話している。その事がダイゴは信じられない。
    「ああ、はい」
    「それでは、改めてすみませんでした。私たちは帰ります」
    「ああ、待って」
     2匹は振り向いた。
    「やっぱり夕食をごちそうしよう。それからでも遅く無いと思う」
     2匹はお互いを見てしばらくだまった。2匹にしか解らない会話をしているようだった。
    「……貴方、ポケモントレーナーでしょう」
    「ポケモントレーナーは私たちを捕まえる。だから一緒にいられない」
     ポケモンとトレーナーが対等というのはあり得ない。それはダイゴが一番よく知っている。
     どんなに仲がよくても所詮は人とポケモン。そしてそのポケモンを理解し、管理するのがトレーナーの役目。上下関係なんてないという青臭い意見をダイゴが持っていた時期もあった。
     違うのだ。あって当然。人はポケモンの状態を見て戦わせる。その逆は決してないのだ。だからこそ一緒にはいられない。どうしても一緒にいるには、ダイゴがラティオスとラティアスを従わせる他、方法はない。
    「待って!」
     ハルカが呼び止める。ラティオスは振り向いた。やや遅れてラティアスが振り向く。
    「あの、海に落ちて死んじゃうって思った時に助けてくれたの、ありがとう!」
    「いえいえ、こちらこそラティアスがすみませんでした」
    「だから、私もお礼がしたい!夕食だけでも!」
     ハルカはラティアスの翼を引っ張る。再び2匹はお互いを見ていた。

    「こんな時間にどうしたんだダイゴ」
     リビングではラティオスとラティアス、そしてハルカがにぎわっている。他のポケモンたちも一緒であるが、フライゴンだけは隅っこの方にいる。ハルカがどんなに呼んでもフライゴンはじっとしている。
     そして台所ではダイゴがポケモンたちのご飯を作っていた。自分のポケモンはまだいい。特にラティオスとラティアスは何を食べているのか不明だ。
    「うん、ドラゴンタイプのポケモンって何を食べてるのか解らなくて。ゲンジなら解るかなあって」
     解らないなら専門家に聞くべきだ。ホウエンリーグの四天王、ドラゴンタイプのゲンジに連絡する。
    「普通のポケモンと同じだ。ポケモンによって好きな味があったりなかったり。ああ、年齢にもよるが人間より味濃くても大丈夫だぞ」
    「じゃあポフィンとかポロックも?」
    「もちろんもちろん。ちなみにボーマンダはゴーヤーチャンプルーが好きだ」
     思わぬ好物に吹き出しそうになる。あの強面なボーマンダがゴーヤーチャンプルーをほおばっているところを想像すると、似合わないところがかわいく思えた。
    「なるほど。ゴーヤはないな。豆腐ならあったかな。ありがとう」
     冷蔵庫の中身と相談して、ラティオスとラティアスの食べるものを作る。そういえばあのまま人間だと思っていたら、今頃はグラタンを食べさせていた。
     ハルカの方は、作ったばかりというポロックをラティオスとラティアスにふるまっていた。おいしいだのまずいだの、三つの味がするとかこっちは五つだとか。


     ダイゴはラティオスとラティアスにすき焼きを振る舞う。甘辛い出し、牛肉、豆腐、ネギ、しらたきの奏でる鍋は誰もが楽しみにする食べ物。2匹はあっという間に平らげ、人間の食べるものはおいしいと感想を告げる。そしてすぐに帰ると言い出した。
     そのままハルカも帰るという。元々今日は夜までには帰る予定だったのだ。ダイゴは2匹と一人を玄関で見送る。
    「ツワブキダイゴ」
     ラティオスは帰り際に言う。
    「全ては縁。過去があったのも今があるのも未来に向かうのも。私たちがツワブキダイゴみたいなトレーナーを知ったのも縁。私たちは興味があります。貴方が今後どのような人生をいくのか」
     靴ひもを結び、ハルカが立ち上がる。そしてフライゴンのボールを開けた。
    「じゃダイゴさん、次に新しい子見せますね!じゃあ!」
     ハルカが一瞬ダイゴを見た時だった。フライゴンはおびえて2枚羽をしまい、ラティオスとラティアスから見えない影に隠れてしまう。
    「フライゴン!? 大丈夫だよ、フライゴン!?」
     ハルカが呼びにいっても、フライゴンは飛ぼうとしない。その羽が震えている。墜落したことがトラウマになってしまったのか、技を命令しても全く言うことを聞かない。
    「ちょっと、フライゴン飛んでよ!そうじゃないとミシロタウンに帰れないよ!」
     いやいやとフライゴンは飛ばない。2枚の羽はトクサネの風にただ吹かれていた。
    「帰る?ハルカの家はツワブキダイゴのところじゃないの?」
     現れたラティアスを見るとフライゴンは地面にうずくまり、起き上がろうとしない。いくら一回墜落したからって、この調子ではフライゴンと共にいることができないではないか。
     そしてラティアスは何を言っているんだ。フライゴンを起こしながら言われた言葉にかみつきたかったが、的確にかみつける材料がない。
    「……フライゴンがその調子なら、私が送って行きましょう。ミシロタウンの、あの家ですね」
     ハルカの考えを読み取ったようにラティオスは言う。そしてハルカが乗りやすいようにラティオスが地面に足をつけた。遠慮しながらもハルカはラティオスの背中に乗ろうとする。慣れないポケモンなのか、中々ハルカも乗ることができない。棒立ちしたままラティオスを見つめてる。
    「ハルカちゃん、早く帰らないと」
    「わかってます、解ってますけど……!」
     フライゴンだけじゃない。空中で衝突し、岩に激突する寸前まで光景を見ていた。そのことがハルカにとってトラウマとなってもおかしくはない。大人ですら二度と乗れなくなる人がいるというのに。
     ハルカの足は震えている。ラティオスの翼を掴むのもやっとだった。けれどすぐに手を放してしまう。
    「ラティオス、ラティアス。せっかくだけど夜も遅いから、明日の朝に方法を考えるよ。君たちはハルカちゃんの恩人だから、またいつでも遊びにきてくれ」
     2匹は顔を見合わせ、そしてダイゴとハルカに一礼すると闇夜に溶け込んで消えていく。
     地面に座り込むハルカに戻ろうと声をかけた。それに気付いてハルカが立ち上がる。
    「しかしどうしようかね。ラグラージはいるのかい?」
     トクサネシティは島にある街だ。ミシロタウンはかなり遠く、空を飛んでいつも行き来していた。空の足が使えないとなると、海なのだが。
    「今日はダイゴさんに新しい子を見せるために、フライゴンとその子しか持ってないんです」
    「その子は水タイプではないのかい?」
    「泳ぎますけど水タイプじゃないんです……」
    「そうか。どちらにしろ今日は帰れないか」
     そして明日の天気は悪い。空を飛べなくなるのがこんなにも不自由など思いもしなかった。
    「じゃあ、せっかくだしその新しい子、見せてくれない?」
     ダイゴがそういうと、ハルカはモンスターボールを取り出した。そして開いたボールから出て来たのは、頭に白い石灰化した兜がある青い竜、タツベイだ。ユウキにもらったタマゴが孵ったのだそうだ。
    「ねえハルカちゃん。タツベイは」
    「知ってます。空を飛びたいポケモンです」
     知ってるなら話は早い。空を飛びたいタツベイが、空を飛べなくなったフライゴンとその主人を、もしかしたら救ってくれるかもしれない。
     そんな勝手な期待をしてはいけないだろうか。タツベイはダイゴをじっと見ていた。

     元気のいい足音の後に鳴るチャイム。玄関を開ける前から訪問者の名前は解ってる。いつもは一人なのだけど、最近は二人で来るのだ。それも仕方ないことなのだけど。
    「いらっしゃいハルカちゃん。ユウキくんも入って入って」
     家の主であるダイゴは小さな友人を迎える。そのユウキは何度きても落ち着かない様子ではある。
    「なんか二人の仲を邪魔しちゃ悪いような……」
     二人の仲を知ってるだけに、なんだか気まずい。ダイゴの友達とかその他の人たちと一緒に遊びに来るのはまだいいのだけど、二人っきりの時間を奪っている。そんな気がするが、ダイゴは気にしないでと笑うだけだった。
     ユウキがそれでもハルカと来る理由。それはハルカの方にあった。
     フライゴンと共に空を飛んでいる時に墜落事故があった。そしてその原因のラティオスとラティアスに助けられた。命は助かった。けれど心に空は怖いという感情を深く刻み込んでしまった。フライゴンもハルカも空を飛ぶ事ができない。
     それをハルカの父親に連絡して迎えにきてもらおうと思ったらなぜかユウキが来たのだ。その理由は、彼の持ってるネイティオ。空を飛んで帰ろうとしたのかと思ったが違った。
    「テレポートで帰ろう。こいつ俺んち覚えてるからそこからなら歩いて帰れるし」
     その手があったのかとダイゴは感心した。有名なオダマキ博士の子供らしく、ポケモンの知識が豊富なのだ。子供ならではのひらめきも。ただその顔は父親に頼まれたから来てやったという顔だった。色々と感受性の高い時期に差し掛かったのだろう。
     そしてその日は二人で帰った。それからというもの二人でやって来るようになったのだ。
     カウンセラーにいってみただの、フライゴンもポケモンセンターに預けてオオスバメと一緒に遊ばせてみただの。そんな報告をしていくが、どれも効果がないことはダイゴにも理解ができる。
     ある有名カウンセラーには、これを機にポケモントレーナーをやめて違う道を選んだらどうかとも言われたと。さすがにそれはないと答えたという。
     
     今日もユウキとハルカはダイゴの家に遊びに来ている。ダイゴは二人のためにお茶をいれている。楽しそうにソファで並んで話しているのが、横目に入った。
     そして同時にわき上がる感情。即座にそれを否定する。僕は何を子供に嫉妬してるんだ、と。
     けれど否定すれば否定するほど、心に入り込んで来る。それはおかしいことだと否定しても。ユウキはハルカの友達であって、父親が知り合いなのだから仲良くても仕方ない。それはダイゴも解っている。それにハルカはジョウトから来た。ホウエンで初めての友達なのだから、特別に仲が良くても当たり前なのに。
     戸棚からスティックシュガーを出した。その瞬間に楽しそうな笑い声が上がる。ダイゴの視線がきつくなった。それに気付かず二人は楽しそうに話している。ハルカのことを言えた義理ではない。ハルカは自分のものではないのだから、仲がいい友達や男の子とか話すのだって彼女の自由だ。そこまで否定する相手とは付き合いたいと思わないだろう。
    「はい、どうぞ」
     紅茶と茶菓子を二人に出す。嬉しそうにハルカはカップに口をつける。俺はこんなもの飲まないけどもったいないから飲んでやるといった顔でユウキも口をつける。
    「ダイゴさん」
     ユウキがいじわるそうな目をしてダイゴを見る。もしや頭の中を読まれたのだろうか。ダイゴは冷静を装って返事をする。
    「バトルフロンティア難しいですよ!」
    「ああ、エニシダさんの」
    「知り合いの息子がチャンピオンだったから、難しさの調整をしてもらったって言ってたけど、皆が皆チャンピオンレベルじゃないんですから! 解ってます!?」
    「そんなこといったって、頼まれた以上はやるしかないさ。結果的にやたら強くなってしまったからね、そこは反省しているけど」
     窓の外からユレイドルが覗いていた。その後ろにはボスゴドラが。珍しい客でもないだろう。ダイゴがなだめようと窓を開ける。
    「ツワブキダイゴ」
    「ツワブキダイゴ」
     同じタイミングで聞いた事のある声がする。それは覚えてる。
    「お久しぶりです。今日は様子みにきました」
     少しずつ姿を現していく。青い翼のラティオスだ。ハルカが墜落した時に助けてくれたポケモンで、隣にはラティアスもいた。こんな昼間に訪ねてくるとは思わなかった。
    「あれ、どうしたの? 一週間前も来たけどお久しぶり?」
    「長いこと会わないと人間はお久しぶりと言うらしいのですが違うんですか? 用件があるのでハルカ呼んでください」
    「ハルカちゃんは今来てるけど、お友達も一緒で……大丈夫なの?」
    「……じゃあ姿かくして様子みますので入ってもいいですか?」
     窓からラティオスとラティアスは姿をまわりの景色に溶け込ませて入って来る。リビングに戻って来るダイゴを、ユウキとハルカは不思議そうに見た。ラティオスとラティアスには気付いていないみたいだ。本格的に溶け込むと、ダイゴですらもうどこにいるか解らない。
    「ああ、いやちょっとユレイドルとね遊んでたんだ」
     軽く言い訳をして逃れた。ユウキは呆れたような目で見ている。
    「ツワブキダイゴ、この子がハルカの友達?」
     ダイゴの後ろからラティアスが小声で話しかけてきた。2匹ともダイゴの後ろにいるようだ。


     ポケモンの話で盛り上がる。ダイゴはうんうんと頷いていた。はきはきと喋るユウキに主導権を奪われっぱなしだ。全てハルカではなくダイゴに話しかけてるような、そんな感じだ。俺はこんなにポケモンのことに関して知識があるんだと見せつけんばかりに。
     専門外となるとダイゴの知識も妖しい。自分のポケモンたちに関しての知識は負けないと思っているが、あまり意識のしなかったこととなると疎い。コンテストは観客でしかないし、ポケスロンとなればテレビで見るくらい。
     そういった弱点を見抜き、次々にあれはどうだ、これはどうだと話しかけて来る。きみの勝ちだよ、と遠回しに言ってもユウキは話す事をやめない。完全に認めるまでやめてくれそうにない。ユウキの隣ではハルカが笑っていた。
     時計は夕方を指していた。ユウキの攻撃も止んでいた。ダイゴに積極的に話しかけるのは変わらない。
    「そろそろ夕飯だね。何食べようか?」
     ダイゴがそういって席を立つ。
    「じゃあその前に挨拶しましょうか」
     今まで黙っていたから寝ていたのかと思ったがそうではない。ラティオスとラティアスは確実にダイゴの後ろで見ていたのだ。そしてユウキとハルカの前に姿を現す。
    「こんにちは、初めまして。ラティオスです」
    「ラティアスです。そしてハルカ久しぶり」
     ユウキは驚いて何も言えなかった。いきなりポケモンが現れれば驚かないはずがない。そしてそれが喋っている。絵本や物語の中でしか語られていないラティオスとラティアスなのだからなおさら。いくら詳しいといっても、実物を見た事がなかった。
    「な、なんで……ダイゴさんちに……」
    「ハルカとぶつかったのが私。そんな仲だけどやっぱり来ない方がよかったかな」
    「とりあえずハルカに用事だけ伝えて帰りましょう」
     ラティオスは光る石をハルカに見せた。真珠のようだけど、全く見た事がない。ダイゴも思わずその石を見た。
    「空を飛ぶのが怖いのは、多分人間じゃ治せません。人間で治るなら、ハルカが空を飛ぶのが怖いとツワブキダイゴに言ったところで解決されてます。これは心のしずくで、生き物の心を浄化することができます。記憶が抜けるというわけじゃないので、空を飛んで怖かったという記憶は残りますが、もう二度と飛びたく無いという傷は回復できます」
    「けどね、もしかしたらなんだけど、ハルカがその前後で思ってたことも普通になっちゃうというか……あっさり言うと、ツワブキダイゴが好きだったっていうことがなくなるかもしれない」
     その場の空気が重たくなった。誰もが声を出す事ができない。
    「どうしますか? この石をハルカの心の傷に当てる事はできます。今までハルカがツワブキダイゴと一緒にいた記憶も残ります。けれど気持ちだけは残るかどうか疑問です。人間のガンの治療で、正常な組織もごっそり取ると聞きました。それみたいなものだと思ってください。そして消えた気持ちは戻りません。これは確実に言えます。その賭けに出るならば、私たちは協力します」
     そのまま空を飛べなければトレーナーとして不自由なことが待っているのは事実だ。交通機関があるけれど、お金がかかる。ポケモンに全ての投資をするトレーナーとしては死活問題だ。
     けれどハルカにはそれ以上に告げられた事実は衝撃的だった。ポケモントレーナーを続ける代わりが、ダイゴと今まで築いた関係を全て捨てることになる。どちらも選べないし、どちらも選びたい。
    「それだけです。人間が人間を好きになってその人が大切なのは知っています。だからこそハルカにはよく考えてほしいです。ハルカにはユウキみたいな仲のいい友達もいますし、ツワブキダイゴのことを忘れるわけじゃありません。そして絶対に気持ちがなくなるわけじゃないです。半分くらいの確率だと思います。あくまでも、最悪の事態の話。そこは間違えないでください」
     ラティオスとラティアスはそれだけ告げると窓を開けた。
    「どうするかまた明日来ます。保留なら保留でいいので、答えを聞かせてください」
     景色に溶け込み、ラティオスとラティアスは消えた。夕方の冷えた風が家の中に入り込む。


     その後の夕食で三人はろくに話もしなかった。話してはいけない雰囲気がそこを支配していた。そのかわりに、つけっぱなしのバラエティ番組がずっと喋っていた。
    「まさかラティオスとラティアスと知り合いとは思わなかったな」
     ユウキが沈黙を破った。食べかけのじゃがいもが箸から落ちる。彼もが動揺していることは解る。
    「僕も最初はラティオスとラティアスだと解らなかったんだけど」
     その後は会話が続かなかった。ハルカはずっと黙ってテレビを見ていた。彼らの話が最初からないかのように。


     夕食の片付けを手伝い、一段落したところでユウキは帰ろうとハルカに声をかける。その言葉にハルカは立ち上がった。
    「あの、ユウキごめん。今日はダイゴさんちに泊まる。お父さんにもそう言っておくから。ごめんね、いつもわがままいって連れてきてもらってるのに」
     ユウキは何かに気付いたようだった。黙ってダイゴに一礼すると、玄関から出て行く。ダイゴはその姿を見送った。
    「ユウキくんの前じゃ言えなかったんだね」
     隣にいるハルカに声をかけた。ずっと何か言いたそうにしていたから。
    「ダイゴさん。私はジムリーダーになって、その街の人たちにポケモン教えたり戦ったりしたいです」
     とりあえず座ろう、とダイゴはハルカを座り心地のよいソファに座らせる。
    「だから、ポケモントレーナーで不自由するのは辛いです。私はラティオスの力を借りようと思います」
    「それがハルカちゃんの決意なら僕は止めないよ。そこまで覚悟しているのは凄いと思う」
    「でもダイゴさんが好きだってことを忘れちゃうのは辛いです。ホウエンに来て、ポケモンもらって石の洞窟で会ってからずっとダイゴさんが好きで……それなのに忘れたくないです」
    「大丈夫だよ。ラティオスの言っていたのはもしかしたら、じゃないか」
    「でもそのもしかしたらが来たらどうしますか? ダイゴさんのことを覚えていても、ダイゴさんが好きだったことはなくなるなんて私には耐えられません」
     ハルカはダイゴに抱きついた。そしてダイゴをソファにそのまま押し倒す。
    「抱いてください。ダイゴさんに抱かれたという記憶を、ダイゴさんが好きなうちに残しておきたいんです」
     逆光にハルカの表情がさらに艶かしく見えた。ダイゴは目の前にあるごちそうに手をのばさないわけにいかない。ハルカの腕をつかんで、自分の方に引き寄せた。そしてもう二度と離れないように強く抱きしめた。
    「ハルカちゃんが好き。それはハルカちゃんが僕のことを好きじゃなくても変わらないよ」
     唇に触れる。やわらかくて、ずっと触れていたい。このまま一緒になれたらいいのに。ちいさな舌を包み込んでも足りない。心がこんなに触れているのに、体は一度たりともつながった事がない。だからこそ忘れないうちに、愛しているうちに。
     ハルカの手がダイゴのズボンを緩めてるのを感じる。彼女の手がダイゴの下着越しに触れているのも感じる。
     熱を帯びていた。いつでもいいと言うかのように。それを解っているからこそ、ハルカはダイゴの下着の中に手を入れた。
    「よく考えて。ハルカちゃんが僕のことを好きじゃないのに、僕としたことだけが記憶残る。好きじゃない人間としたことを後悔してしまうよ」
     ハルカの手を取る。このままさせておきたかった。そして彼女によっていかせてほしかった。けれどそれは二人にはまだ禁じられていること。
    「ダイゴさんは、やっぱり私としたくないんですか?」
    「違うよ。したいからこそできないんだ。もしハルカちゃんと結婚して子供ができてね、その子がまだ14才なのに10も年上の男としているなんて聞いたら、僕はその男をぶちのめしに行くかな。それに僕はハルカちゃんが抱けないからって不満に思ったこともない」
     ハルカの体によって押し付けられている。それだけでまだかと急かされてるようだった。
    「でも、嫌です。ダイゴさんが好きじゃない私はやだ!」
    「大丈夫」
     ハルカの頭を撫でる。冷静を装って。でなければ本当にこのまま押し倒してしまいそうだ。
    「ハルカちゃんが僕を忘れることなんてない。もし僕のことを好きだということを忘れても、僕はきみをもう一度好きにさせる自信がある」
     ハルカは泣くのを必死にこらえていたようだ。目がいつも以上に潤んでる。
    「それにハルカちゃんが僕をこんなに大好きなのに、忘れるわけなんてない。僕はそう信じてる」
     ダイゴにしがみつくように抱きついた。ダイゴの名前を何度も呼んだ。子供が親を探すかのように、ハルカは離れない。
     そんな彼女を今すぐ脱がせ、一方的にでも犯したい。泣いても叫んでもかまうものか。自分のものとして一生閉じ込めておきたい。そうすればこんなに悩まなくて済むことだ。
     ダイゴが性欲につかった思考から我に返ったのは、名前を呼ばれたからだ。
    「一緒にお風呂はいりませんか?」
    「入りたいのはやまやまだけど、先に入っておいで。僕はやることがあるから」
     こんな時に裸を見せるなど、襲ってくれと言わんばかりではないか。ダイゴだからこんな関係を保てるが、他の男だったら骨の髄まで食べられてしまっている気がする。
     それにまだ急かしているものの処理もしなければならない。ここまで熱を持ってしまったら後にひけないのだ。
     ハルカが手袋を外す。モンスターボールを掴みやすいのだそうだ。なんとなく彼女を見ていたが、ダイゴは気付いた。彼女の左手薬指に、自分があげた指輪があることに。あれはそう、ハルカがダイゴのことを好きでいると約束した指輪。
     もしハルカが好きだということを忘れても、二人で過ごしたたくさんの時間までは忘れないと言った。何を恐れているのだろう。過ごした時間に、好きという記憶が残っていないはずがない。
     大丈夫だ。ラティオスの言った通りにはならない。ダイゴは確信した。


    「それでいいのですね?」
     次の日、ラティオスは二人の答えを聞いて心のしずくを取り出した。ハルカの隣にはフライゴンがいる。同じく心が傷ついてしまい、空を飛べなくなってしまったのだ。
    「では、いきましょう。ラティアス」
    「うん、ラティオス。ハルカ、心のしずくをじっと見ててね」
     心のしずくの輝きが増す。白く光ったり赤だったり黄色だったり。緑、青、紫と色を変えて行く。それは光の洪水となって、ハルカの心の中に入って行く。フライゴンはじっと見続けていた。
    「まだ目を閉じちゃダメ」
     耐えきれずに目を閉じたくなる。目をほそめて心のしずくを見続けた。
    「まぶしい……」
     金色の光になった時、ハルカは目を閉じる。同時に心のしずくは元の真珠のような石に戻っていた。
    「どう? ハルカ」
    「これで終わりですが、どうでしょうか? 目をあけてみてください」
     ハルカは目を開ける。隣ではフライゴンがぱたぱたと2枚の羽を動かした。部屋の窓から海風に乗って空へ飛んで行く。
    「飛んだ! フライゴンが飛んだ!」
     ハルカは外に出て、フライゴンを呼ぶ。そしてその背中に乗る。恐怖心はもうない。フライゴンの体が浮き上がっても何も怖くない。エアームドに手伝ってもらったのに、ちょっと浮いただけで吐いてしまったこともあった。タツベイと一緒に段差から降りてみたが、そんなに高くないのにしばらく歩けなくなってしまった。
     そんなことが嘘のように、空の風が気持ちいい。この新鮮な感じは、初めてフライゴンの背に乗った時以上だ。
     ハルカとフライゴンを見上げ、ダイゴは嬉しく感じた。久しぶりにポケモンに乗って空を飛んでる彼女は、本当に生粋のポケモントレーナーらしい。
    「ツワブキダイゴ」
     後ろからラティアスが話しかけた。
    「ハルカの心はどうなったか解らない。けど傷はもう痛まない」
    「そうか。ありがとう、ハルカちゃんのためにしてくれて」
    「元々は私がぶつかったから。ツワブキダイゴとも知り合いになれたし、ハルカは気のいい人間だ。ユウキもポケモンのことたくさん知ってた」
     最初は一緒にいられないと拒絶されたものだった。けれどハルカのこともあって、ダイゴの家に時々来るようになっていた。嫌々のようだったが、いつの間にか友人くらいの親しさにはなっていた。
    「またいつでも来てくれ。留守の時もあるけれどね」
    「意外に楽しかった。また来ると思う」
     ポケモンの友達がいるなど、おそらく誰に言っても信じてもらえないだろう。ダイゴもこんなに話せるポケモンがいるとは思っていなかったのだから。
    「それで、もしハルカがダイゴのこと好きじゃなくなってたら」
    「それはないと思っている。あの話は万が一、ってことだろう?」
    「そうだけど……その確率は半分だよ?」
    「じゃあ賭けようかラティアス。僕はハルカちゃんを信じる」
     ダイゴはフライゴンと共に空を飛んでるハルカに声をかける。戻っておいで、と。



     ミシロタウンのオダマキ博士の研究所で、ユウキとハルカはラティオスとラティアスの話をしていた。実際にいたこと、そして心のしずくと呼ばれる綺麗な石を持っていたこと。それは心の傷を癒す話もした。
    「なるほど、だからハルカちゃんは突然空を飛べるようになったんだね」
     オダマキ博士は何かが解ったように頷いた。
    「はい! すっごく気持ちよくて、怖かったのが嘘みたいです」
     目の前のジュースを飲みながら、ハルカは答える。ユウキと言えばラティオスとラティアスから聞いた話をまとめていた。時折、ハルカのタツベイがかまって欲しそうにユウキを見上げている。
     来客が研究所のドアを叩いている。オダマキ博士は迎えるためにその場を離れた。
    「そういえばハルカ……その……ダイゴさんは?」
     ユウキの問いに、ハルカはそっと左手の手袋を取った。そして薬指にある指輪を見せびらかす。
    「私がそう簡単にあんなイケメン、逃がすはずがないわ!」



    ーーーーーーーーー
    空を飛んでる最中にニアミスとか接触事故とか墜落事故とか絶対あると思う。
    かつてトレーナーだった人たちがやめていくのはそういう事故のトラウマかかえて夢を諦めなければいけないとかあってもおかしくない。
    ダイハルでかいたけれどダイハルじゃなくてもいいよねなんて声は聞かない聞こえない。
    【好きにしてください】


      [No.2615] 【ポケライフ】お客さんの来ない日 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/09/13(Thu) 22:59:08     154clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:ポケライフ】 【冥土喫茶】 【コーヒー1杯450円】 【本日のケーキ400円】 【セットにすると50円引き
    【ポケライフ】お客さんの来ない日 (画像サイズ: 887×682 200kB)

     僕の喫茶店は、通称「冥土喫茶」と呼ばれている。


     別に雰囲気がおどろおどろしいとか、入ったら呪われるとか、ましてや本当にあの世にあるとか、そういうことじゃない。もちろんメイドさんがいるわけでもない。
     赤レンガの壁にアルコールランプの明かりの内装はお客さんたちにも落ち着くって評判だし、庭では奥さんが手入れしている花壇を眺めながらお茶を楽しめる席も用意してある。メニューだって自信がある。コーヒーは自家焙煎だし、甘味も軽食も手作りだ。

     ただちょっと、集まるのだ。ゴーストポケモンが。


     それというのも、僕がこの喫茶店を開いたばっかりの頃だ。
     昔からのささやかな夢で、街の片隅で小さな喫茶店でもやりたいな、って思ってた。
     で、とある町で店舗を借りたものの、喫茶店としてやっていくにはちょっと狭すぎて、しょうがないからもうちょっと広い場所に移ることを夢見ながら数年間、自家焙煎のコーヒー豆を売っていた。
     その頃に後々僕の弟子となる子と会ったんだけど、その時その子が連れていたのがヨマワルだったんだよね。

     しばらくして資金もたまって、長年お付き合いしてた奥さんとも結婚して、晴れて郊外の一軒家に移り住んだわけだ。
     ちょうどその直後、例の弟子が「迷子のヨマワル拾ったんですが育てません?」とか言ってきて。
     まー僕もそれなりにポケモンを育てることには興味を持ってたし? 弟子の様子見てヨマワルかわいいなーとか思ってたし? じゃあせっかくだからってことでもらいうけたわけだ。

     最初は僕と奥さんの2人で喫茶店をやってたんだけど、しばらくして奥さんが妊娠したから、僕ひとりで店をやることになっちゃったんだよね。
     そんなに大きな店じゃないけど、ひとりで注文聞いてコーヒー淹れてお菓子用意して運んで掃除して片付けて、って結構大変なんだよね。自分がまだ慣れてなかったのもあるけど。時期的にもお店を開いてまだそんなに経ってない。常連さんが出来て、お客さんが入るようになって、これからが大事って時だから。

     で、僕は気がついたらヨマワルに「手伝ってくれない?」って聞いてた。ヨマワルの手も借りたいという慣用句はなかったと思うけど、そんな気持ち。
     そしたら意外とあっさり言うこと聞いてくれて、まずは店の掃除を手伝ってくれるようになった。
     教えたら食器を洗ったり、注文されたものを席まで届けたり、注文を取ったり、何かいろいろ出来るようになった。
     しばらくしたらサマヨールに進化して、細かい作業ができるようになって、ケーキをよそったり、ケーキを作ったり、クッキー焼いたり、紅茶を淹れたり、豆を量ったり、豆を挽いたり、コーヒー淹れたり、コーヒー飲んだり、僕のブレンドに文句を言ってきたりした。

     まあ良く働いてくれるもんだから、だんだんお店の評判が広がって、お客さんがたくさん来るようになった。
     で、相方はいつの間にかお客さんたちから「副店長」って呼ばれるようになってた。
     まー確かにそう呼ばれてもしょうがないよね。僕より働いてるような気がしないでもないしね。
     ヨノワールに進化してからというもの、来る人来る人に「店長より副店長の方が威厳ありますよね」とか言われるのが僕としてはちょっと不満だ。


     うん、まあ、ずっと僕と副店長の2人(1人と1匹)体制でお店をやってたんだけど。


     いつの間にか、増えてた。


     いや、僕が新しいポケモン捕まえたとかそういうわけじゃない。
     そもそものきっかけは、副店長が外出した先で、野生のカゲボウズを拾ってきたことだ。
     言葉は話せないし表情も基本ポーカーフェイスだから、身振り手振りで強引に解釈した結果、「何か知らないけどついてきた」……ということらしい。
     まあ別に困るわけじゃないし、暇だったし、せっかくだからとコーヒーを出した。

     そしたら懐かれた。

     いやまあ考えたら野生のポケモンに餌付けするようなものなのかもしれないけど、それを言うならまずは連れて帰ってきた副店長に文句を言ってください。
     ちなみにそのカゲボウズ、進化した今でも常連と化して、よくカウンターに寝転がって新聞読んでます。

     で、それをきっかけに、色んな野生のポケモンがうちに来るようになったんだよね。主にゴーストタイプが。多分副店長が副店長だから。
     勝手に人の店にたむろしてるわけだけど、たまにお店を手伝ってくれることもあるから何とも言えない。
     ゴーストやゲンガーは注文を取りに行ってくれるし、ヤミラミは注文のものを運んでくれる。
     ムウマとムウマージはよくお店の掃除をしてくれる。イトマルやバチュル辺りとは巣の存亡をめぐって仁義なき争いを繰り広げているようだ。
     ユキメノコとその子供のユキワラシは氷が切れた時に用意してくれる。この親子が来るようになってから、夏のメニューにかき氷が増えた。
     ヒトモシの集団は、たまにサイフォンの熱源の代わりになっている。燃料代を節約できるかと思ったら、コーヒーが何だか生気の抜けたような味になったからやめた。
     フワンテはよく、お店に飾る花を摘んでくる。でもこの前店に行ったら花瓶にキマワリが刺さってた。本人(本花?)がまんざらでもない顔だったからそのままにしておいたけど。でも次の日にはいなくなった……と思ったら代わりにチェリムが刺さってた。
     その辺にいっぱいいるカゲボウズやらヨマワルやらゴースやらは……うん、まあ、遊びに来てるんだろうな。気まぐれに手伝ってくれたりするけど、基本的にお客さんにちょっかい出したり、僕にちょっかい出したり、副店長にちょっかい出して追い払われたりしている。
     副店長は副店長で、マイペースかつ確実に仕事をやってくれる。僕はまあ、遊べとせがんでくるちびっこたちを適当にあしらいつつ、適当に仕事をしている。げに頼もしきは副店長だ。全く。


     まあおかげさまで、喫茶店はお客さんたちに「冥土喫茶」とあだ名をつけられ、その筋ではそこそこ有名になっているらしい。
     イーブイやエネコやミミロルみたいな、かわいくて癒されるポケモンと触れ合えるカフェなんかはよく聞くけど、うちはあだ名からして何だか禍々しい気がしてならない。
     話に聞くと、例の弟子の店も僕の店以上にゴーストのたまり場と化しているらしいので、師弟そろってろくでもない店を経営する運命だったようだ。


     さて、と。
     今日は珍しくお客さんが来ないし、ここのところの暑さでだるいし、眠いし、副店長は本読んでるし、相変わらずポケモンたちがいっぱいだし。


     ドアベルが鳴るまで、ちょっと寝かせてもらうとするかね。



    +++++

    「ますたーおきろー」
    「ますたーおきゃくさんきちゃうぞー」
    「どうしたますたー? たいちょうわるいのかー?」
    「どうせ夏バテでしょ。副店長、どうする?」
    「……放っとけ」


    こっそりイラコンに紛れ込ませていただいた1枚。
    塗ろうと思ったところで灰色の色鉛筆が消失していて、別色で無理やり塗った思い出。


      [No.2604] Re: Calvados 投稿者:イサリ   投稿日:2012/09/06(Thu) 13:06:01     86clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     こんにちは。イサリです。

     冒頭の注意書きが曖昧でわかりにくいです。
     マサポケは中高生も見ているサイトなので、

    「男性同士の性行為を暗示する表現があります。
     15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください」

     くらいは書いた方が良いと思います。恥ずかしいのかもしれませんが。


     BL小説の評価についてはよくわからないため、感想は割愛させていただきます。
     失礼いたしました。


      [No.2592] 【ポケライフ】捕獲屋Jack Pot の日常 投稿者:NOAH   投稿日:2012/08/30(Thu) 20:28:16     112clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    Jack Pot(ジャックポット)とは

    ギャンブルにおける大当たりのこと
    ただし、何を以ってジャックポットとするか
    という明確な基準は存在しない。

    語源には諸説あるが、ポーカーに
    由来するとする説が良く聞かれる
    転じて、日常生活においては
    大成功という意味としても使用される
    (出典・ウィキペディアより)


    小さなテーブルを囲む4つの影。
    1人は、黒い髪の少年。
    1人は、その少年の兄と思われる青年。
    1人は、紫の髪に、鋭い金色の目の少年
    1人は、オレンジの髪に赤渕の眼鏡をかけた青年

    そして、彼らの手にはトランプが握られ
    4人の側にはそれぞれ、エネコ・クルマユ・ブラッキー・コロモリの姿

    そのすぐ近くに、紫の髪の少年そっくりの
    桃色の目の少女とエーフィがいた。

    「……いいか、てめえら。」
    「うん。いつでもどうぞ!」
    「俺も大丈夫。」
    「ボクもOKだよ。」
    「……わかってんな?これに負けたヤツは
    ヒウンアイス全フレーバーを自費で買ってきやがれ。」
    「……ただパシリ決めんのに大げさだな、お前ら。」

    鋭い金色の目の少年が、荒々しい口調で
    顔色を全く変えずに罰ゲームの内容を告げた。
    少女の皮肉を無視して、紫の少年は目線を合わせると
    全員、異議無しと頷き、彼の合図でカードを出した。

    「フルハウス!」
    「ボクもフルハウス!!」
    「げ……2ペアだ。」
    「ヴィンデは?」
    「…………。」

    ヴィンデと呼ばれたのは、先ほどから仕切っていた紫の少年だ。
    にやりと笑うと、カードを降ろした。

    「ロイヤルストレートフラッシュ……俺の勝ちだ。」


    ******************


    「あっちぃ……。」

    カードで負けた黒髪の青年は
    クルマユを抱えて、人で溢れるヒウンの中心街である
    モードストリートを歩いていた。

    「ヴィンデのヤツ……あの場でロイヤルストレートフラッシュって……
    リラ姐さんといいヤツといい……さすが双子の悪魔。強運姉弟……。」

    ぐちぐちと人込みの合間をすり抜けて
    青年はアイスの販売ワゴンについた。
    最近、客足が減ったのか、前ほどの賑わいは
    あまりなかった。(買いやすくはなったが。)

    クルマユは早くしろと言わんばかりに
    青年の腕を無言でべしべしと叩いていた。

    「ぼたん、大人しくしろ、財布取辛いから。」
    「…………。」
    「よし……すみません。」
    「はぁーい!」
    「全フレーバーのヒウンアイスをセットで。」


    *あとがき*
    今回はわが子を出しました。
    リラとヴィンデは、だいぶ前から
    皆さんの前に出したかったキャラです。

    ポケライフつけて書いてみたけど
    これからは関係無しに書くかも
    もしかしたら続くかも。

    とりあえず、今回はこれにて。

    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】


      [No.2581] Re: 【書いてみた】201号室:ミズシマ 投稿者:NOAH   投稿日:2012/08/21(Tue) 20:12:58     72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    おお。神風さま!ホウエン居住レポートに
    小説を投稿して頂きありがとうございます!!

    201号室、水嶋兄弟、登録しました(^_^)
    レパルダス可愛い……米粒つけてすり寄ってくるなんて……!!

    これからよろしくお願いしますね(^_^)

    では、続きをば

    ――――――――――――――――――――――――――――

    挨拶周りを終えて、部屋に戻った。
    時計の針は12時を大きく過ぎていた。

    『ヤミィ♪』

    「ふふ……お隣さんのレパルダスとすっかり仲良くなったのね」

    201号室の水嶋大輝さんと、その弟の凛さん。
    大輝さんは礼儀正しい、真面目そうな青年で
    凛さんはどこか、つん、とした、何だかチョロネコや
    ニューラを彷彿とさせる少年だった。

    そして、今はご愛用の止まり木で羽を休ませながら
    日向に当たり、気持ち良さそうに目を瞑るメイプルは
    挨拶周りで出会った、凛さんの足下にすり寄ってきた
    一匹のレパルダスと、楽しそうに、何かを話していた様子だった。
    悪タイプ同士、どこか話が合ったのだろう。
    あの場に姉さんのマニューラがいたら、更に盛り上がっていたに違いない。

    そんなことを思いながら、メイプルを始めとした、私の手持ち達の
    お昼を用意して、私自身も、ここに来る途中で寄ってきた、コンビニで買った
    お握りとお茶をちゃぶ台の上に置くと、残りの五匹をボールから出して
    大量の本や調理器をどうしようか、近くにスーパーでもないだろうかと考えつつ
    エビマヨの入ったお握りを口に入れた。


    *あとがき*
    セリフ少ない;;!!
    書きたいこと纏まらなかった上にお昼ご飯のようすしか書けなかった……。
    でも、これで一旦落ち着きましたので、ゆっくり書けます(^_^)

    カエデちゃんはヤミカラス♀のメイプル含め、6匹の手持ちがいます。
    他の5匹も追々、紹介する予定です。
    あと、彼女のお姉さんもいつか出します。

    *タグ*
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【水東荘新規居住者、及び住人募集】


      [No.2570] このお話、いただき! 投稿者:風間深織   投稿日:2012/08/12(Sun) 20:28:47     84clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    このお話、いただき! (画像サイズ: 480×640 63kB)

     はじめまして、マサポケでたまーに絵を描いたりお話書いたりしている影の薄ーい風間といいます。
     鳩急行のイラコンに、どうしてもここの【ポケライフ】のついたお話を使いたいなぁと思っていたところ、とってもかわいいお話が投稿されていたので、このお話で絵を描かせていただきたいと思います。
     あと、どうしてもグレイシアと主人公を並ばせたかったがために主人公が床に寝そべっていますが、なんだか本当にすいません……

     ちなみに個人的に気に入ってるのはオオタチの顔とグレイシアの肉球です。一応今できている下書きから写真で撮って載せてみました。
     頑張って貼らせていただきますのでよろしくお願いします!


      [No.2559] これはひどいw 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/08/06(Mon) 23:39:20     59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    先生! 怖がればいいのか笑えばいいのかわかりません!

    > 部屋の灯りを消し、代わりにランプラーをちゃぶ台の上に浮かべる。その青紫の弱い灯りは独身向けの狭い部屋でさえ隅々まで照らすには至らず、しかし「こわい話」をするにはふさわしい雰囲気を作り出した。
    怖い話をしながら生気を吸い取られる気がしてならない!
    ん? もしかしたら寄ってきたよくないものを消してくれるのだろうか?

    いや、今回の話の内容だと霊も寄って来ずに逃げるかwww

    とりあえずA、Cの話とBの話の間の温度差が半端ないですね。
    いやどれも怖いんですが。怖いんですがw
    なぜか笑いが止まらないwww

    とりあえず、腐海の森と化していたであろうCの炊飯器に幸あれ。


      [No.2548] 【勝手に】電子携獣奇譚草子【企画】 投稿者:aotoki   投稿日:2012/08/02(Thu) 21:54:16     44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    みなさん、夏ですね。いや、冬でしょうか?

    冬でも夏でも、あなたのそばにはポケモンがいます。
    ポケモンがいれば楽しい話もある。楽しい話があれば悲しい話もある。
    悲しい話には・・・・怖さが”憑き物”ですよね?

    悲しくなくてもいい。怖くなくてもいい。
    電子の世界に広がる未知領域。それが「電子携獣奇譚草子」です。
    さぁ、あなたが垣間見た未知の世界・・・・どんなものでしたか?

    期間は8/15まで。皆さんのお話は一冊にまとめ、おくりびやまに奉納する予定です。
    皆様のご参加、お待ちしております・・・・


    **********
    要するに創作ポケモン怖い話を集めようってことです。はい。

    ですが、ただ怖いだけじゃ味がないのでルールを一つ決めさせて頂きます。

    ズバリ、「ポケモンがした、人間の知り得ない現象」を書くこと。
    ポケモンなんてまだまだ分からないことだらけ。私たちの知らないチカラで、知らないトコロで何をしていてもおかしくないですよね?
    純粋ホラーもよし。じんわりくる温かい話でもよし。ちょっと気持ち悪くてもよし。
    ただし過度のグロ表現はご遠慮ください。あくまで「ポケットモンスター」の範疇でお願いします。


      [No.2535] 無邪気に願おう 投稿者:   投稿日:2012/07/29(Sun) 09:57:49     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     この世界には、ジラーチというポケモンがいる。
     ジラーチというポケモンは、本来ならば千年の内、七日しか活動できないという。とはいっても、個体数自体はそれほど少なくはないため、一年に一度はどこかでジラーチが活動しているというのだが、発見された際はポケモンレンジャーなどにより丁重に保護され、公募で願いを決めるため、運に恵まれない一般人がお目に掛れる機会は少ない。
     だが、そんな俺達でも願いにあやかれるチャンスもなくはないようだ。何でも常に活動し続けるジラーチが、とある場所にいるのだという。
     その場所というのは、ごく普通の観光地の付近。観光地としてのそこは、美しい滝と美味しい空気が味わえる竹藪や、その付近にある戦死者供養のための寺院とそこから見下ろせる俯瞰ふかんが美しい、風光明媚*1な場所である。腕が六本と顔が三つあるゴウカザルの像がここの一つの目玉だが、お目当てはもう一つの目玉。戦死者供養のため、戦死者の魂が宿るというヒトガタが大量に展示された寺の構内は壮観である。
     粘土で作られた物や、兵士たちの防具で作られた物。古くなった鍋や食器で作られた物。木の破片で作られたものもあるし、布で作られたものもある。素材も大きさも無秩序に作られたそれらが、朽ち果てながら戦争が終わった国の行く末を見守っているのだ。

     記録の上では、ここは数百年前にジラーチが目覚めた場所らしく、その当時この地域は豊作に沸き立ったらしい。
     そして、そのジラーチはこの寺院の僧に見守られながら、静かに眠りについたとされているのだが。出所の知れない都市伝説のような噂によれば、ここ。正確にはここの付近にはまだ別のジラーチの個体がいるのだと言われている。
     それが、件の常に活動し続けるジラーチだそうだ。寺院のある山を越え、霧の深い山奥、俯瞰から臨む立ち込めた雲海。ここから先に行くと、リオルの足で一日ほどの距離、人の住む場所はない自然の要塞が立ちはだかっている、広大な土地がある。
     噂の域を出ないこの場所は前々から気になっていたのだが、先日夢の中で『僕はここだよ、誰か僕を迎えに来てよ』と呼ばれた気がしたことが決心したきっかけだ。退屈を打ち壊すには丁度いい。
     ジラーチの願いの力を求めて踏み入る者がいるこの場所は毎年遭難者も出ているという噂で、観光がてらの冒険をするには、素人には少々危険かもしれない。一応、それなりに旅の経験を積んでいる自分なら大丈夫だろう、なんて考えで私は歩みを進めていた。


     ここらへんは地磁気が乱れて方角が分からなくなるとかそんなこともないし、天気が変わりやすい山の中とは言え、嵐や洪水などの天候の変化は起こる季節ではない。食料は予定の滞在日数の倍以上持ってきたし、いざという時のために空を移動できるポケモンだって連れてきている。
     準備を万端にして、自分はジラーチを探し求めた。眉唾物の噂だけれど、こんなところだからこそ冒険心をくすぐられる。リングマ避けの鈴を鳴らしながら、履きなれたブーツで腐葉土を踏みしめ、道なき道を行く。降ってくる蛭ヒルや、蚊との格闘を経て、傷のついた幹のあるマニューラ達の縄張りを迂回しながら、私はあてもなく目的の場所を探す。

     連れてきたエアームドにも協力してもらい、上空から探してもらったりもしたが、生憎それらしき場所は無し。昼や霧が出ていない時は発煙筒、夜は多少空けた場所で指示灯*2を使い、私の元に帰って来る時には、相棒のエアームドは毎回申し訳なさそうな顔をしていた。
    「そんなにしょげるな。私もそう簡単に見つかるとは思っていないさ」
     霧を浴びてしとどに濡れた鋼鉄の体を指で拭い、私はエアームドを労う。目を覆う透明な膜があるから、目にゴミが入ることの無いエアームドだが、流石に膜に水滴がつくとうっとおしいらしい。顔を撫でて水滴を拭ってやると。光沢のある体から伝っていく水滴が腐葉土の地面に落ちて、目を覆う膜も視界がクリアになる。
     視界がクリアになったエアームドは、私に労ってもらえて嬉しいのか、甘い声で鳴いては頬ずりをしてくる。尖った場所で私を傷付けたりなんてしないように、滑らかな曲線を描く部分で優しく、花を愛でるように。
     水で滑る冷たい金属の感触を味わいながら太陽の位置を見る。曇っていて定かではないが、時計を見る限りではもう夜は近い。そろそろ野営の準備を始める時間帯だ。
     なあに、予定の時間はまだまだあるさ。たとえジラーチが見つからなくとも、こうしてポケモンと一緒に過ごす時間が楽しいのだ。旅と冒険の面白さってものは、これだからやめられない。


     そうして、あと二日して何も見つからなければ帰ろうと思っていた日であった。どこかで捕まえたコラッタを咥えて戻ってきたエアームドが、またどこかへ飛んで行ったかと思えば、またすぐに戻ってくる。何事かと思って問いかけてみても、エアームドは喋られるわけがないから答えないが、答える代わりに彼女は私へ背中に乗れと促してきた。背中に乗せるとバランスが崩れやすいので、いつもは嫌うはずなのだが、短距離ならば私としては乗ったほうが楽……つまり、エアームド曰く、近くに何かあるということらしい。
     何を見つけたというのだろうか。まさかと思って、そのまさかであった。
     小さな洞窟。十数メートルも奥に行けば行き止まりにたどり着いてしまった場所ではあるが、不思議と明るいその洞窟の奥には、黄色い衣に包まれた赤子のようなポケモンがふわふわと中空に浮いている。黄金色、星型の頭部から垂れ下がる、青緑色の短冊。雪のようなに真っ白な肌に映える涙模様。ちんちくりんな手足を生やした胴は、今は衣ころもに包まれて見えない。
     それは紛れもなくジラーチであった。そのかわいらしさだけでも見に来た価値はある……けれど、やっぱりこの子を見たからには、願い事をしないと損じゃないかと私は思う。

     私は淡く光るその子(恐らく自分よりもはるかに年上だが)の元に近寄ってみる。洞窟の砂利を踏み締める音、霧によって発生した水滴が滴る音、心臓の音が痛いほどに聞こえてくる。ジラーチに触れてみると、鋼タイプだという事が信じられないほどに柔らかな頬。赤ん坊と同じ、まるで大福をつついているような指ざわりで、餅肌という言葉の意味がよくわかるというものだ。
     その指をたどって金色の頭部に触れてみると、そこは流石に柔らかくないらしい。きちんと金属質であることを感じさせる硬さと質量。ちょっと指で強く抓ってみたが、簡単には変形しそうにない硬さであった。
    「うーん……」
     そんなことをしていたせいなのか、流石にねぼすけのジラーチも起きてしまったようだ。黄色い衣に包まれていた体は露わになり、小さな手足が顔を出す。纏っていた衣はマフラーのように垂れ下がり、そうして腹にある真実の目と呼ばれる第三の目も確認できた。
    「だれ?」
     寝ぼけた口調、寝ぼけまなこでジラーチが問いかける。
    「マルク。私の名前はマルクって言うんだ。よろしくな」
    「マルク……ふぅん、よろしくね。僕の名前は、シャル・ノーテ。シャルって呼んでね」
    「あぁ、よろしく、シャル……驚いた、昔話の通りの名前じゃないか」
     シャルは浮き上がったままこちらに向き直り、まだ眠そうに目を擦って私の存在を認める。名前も覚えてもらったところで、さてどうしよう。

    「ところで君、何の用?」
     そんなことを思っている間に、シャルは私に質問してきた。
    「な、何の用……かぁ。なんというか、ここにずっと活動し続けるジラーチがいると風の噂で聞いたから……ダメ元で探しに来てみたんだけれど……意外といるものだね。幻のポケモン」
    「あぁ、まぁ……僕も、ここにいることはみんなに秘密にしてもらっているからねー。だから、噂が噂の域を出ていないってことは、みんな僕との約束をきちんと守っているっていう証拠なのかなぁ……」
    「そんな約束を?」
    「うん、誰かに喋ってしまえば、願いは叶わなくなるってね……それに、願い事を独占しようとしちゃダメ。僕をゲットしたりしようものなら酷い目に合うよ」
     最後に言い終えると、シャルは目を擦り終え、大きくあくびをして空中で伸びをする。
    「その代わり、誰にも喋らなければ、願いは叶うって。そういう風に約束したんだ」
     あくびを終えたジラーチは、口調もはっきりとして、可愛らしく微笑んだ。
    「だから、君も同じ……」
     そう言って、シャルは空中で宙返り。
    「君には願い事はあるかい? 僕が何でも叶えてあげる」

     そして、シャルは甘えるかのように私に抱き付いてきて、上目遣いをする。幼児性愛の趣向はないが、これは純粋にかわいいと思わざるを得ない、天使のような愛らしい表情だ。こんな目で見ていると、相棒のエアームドが嫉妬しないといいんだけれど。
    「なんでも、いいのか?」
     なんでも、と言われると困る。やりたいことは色々だ……恋人が欲しいとか、長生きしたいとか……あー、でも、やっぱり私はこうやって冒険をするのが性に合っている。そうなると、冒険をするには先立つものが必要なわけで、今の会社の安月給では有給休暇の都合もあるし、あまり回数を期待できないのだ。
     そうなると、そうだな。お金が欲しい……お金が目的になってしまうのはいけないが、お金はあくまで手段である。そうだ、大金を手に入れた暁には、エアームド以外の他のポケモンとも一緒に冒険したいものだ。仕事なんてやめて、自由気ままに諸国を回る……うん、これは夢のような生活だ。
    「そうそう、僕の願い事で出来ないことはね、願いの数を増やすこと。まぁ、これは基本だよねー」
    「確かに、それは基本だよな。大丈夫、私もそんなことを頼むほど強欲じゃないから」
     ベタな話だが、よくある話だと私は笑う。
    「そして、規模が大きすぎる者は無理なんだよね」
    「例えば?」
    「地震を起こせとか、隕石を落とせとか。その現象を起こすのに、多大な力がいる願いも、僕は出来ないんだ……でも、風が吹けば桶屋が儲かるようなことを利用すれば出来ないこともないと思うけれどね。
     でも君が願えば、ポケモンしかいない異世界に旅立つことだって、ポケモンに変身することだって出来る。どんな突拍子もない願いでも言ってみなよ、言うだけならタダだから」
     風が吹けば桶屋が儲かる。他にも、アゲハントが飛ぶと地球の裏側では竜巻が起こるというようなことわざもあるが……ふむ。きっかけを与えれば、大きなことが出来るというような方法ならば不可能ではないのだろうか。よくわからないが、そういう事なのだろう。
    「じゃあ、私が抱えきれないほどの大金を手にしたいって言う願い事を頼む場合は?」
     それだけあれば、体が動くうちは旅道楽にも事欠かないはずだ。ポケモンとずっと一緒に居られるのも楽しみだ。

    「あぁ、その程度の願いなら簡単。でも、その程度でいいの? もっともっと億万長者にだってなれるよ? 自分がポケモンなるとか、そんな夢だってかなえられるさ」
     シャルは私に抱かれながら。上目づかいで問いかける。傍らで佇むエアームドも私の方をじっと見ており、人生を決めるかもしれないこの選択に私は息をのむ。
     億万長者というのは確かに夢のようだ。そういった夢が叶うのならば、その選択肢の方が良い願いなのかもしれないけれど……やっぱり、私はポケモンと一緒に道楽に浸っていたい。
     あんまり多くを望みすぎると罰が当たるし……うん。抱えきれないとかはちょっと贅沢かもしれないな……まぁ、一生冒険するのに困らない程度のお金が手に入ればいいさ。
    「構わないよ。やってくれ。一生冒険するのに困らないくらいでいいから」
    「うん、分かった」
     シャルはそろりと私の胸から離れ、真実の目を開く。その小さな体には不釣り合いなほど大きな目が開かれると、少々グロテスクな容姿に見える。マフラーのような部分や、頭から垂れ下がる短冊は縮れて先端が震えていた。
     シャルが構えた両手の間にある空間にはほのかに光が灯っている。その光は最初こそぼんやりとしたものでしかなかったが、徐々に洞窟を照らすほどの煌めきを得たかと思うと、その光は洞窟の天井をも無視して天空に打ち上げられて消えてしまった。
    「うん、これで大丈夫」
     嫌にあっさりと終ってしまったような気がするが……これで、大丈夫なのだろうか?
    「それじゃあ、僕は寝るよ……」
    「え、ちょ……」
     まだ話したいことがあったのだが、そんなこと知るかとばかりにシャルはそう言って眠ってしまった。私が発見した時と同じように、黄色い衣に包まれた赤ん坊のような姿で眠りこけて……起こそうと思えば起きたのかもしれないが、それは止めた。
    「誰かにこの場所を教えると、願いは叶わなくなるのだっけか……」
     そんなことを呟きながら、私は後ろ髪をひかれる思いで街へ向かって歩き出した。


     数週間たって、私は宝くじを購入して夢を見ながら、日常生活に戻っていた。いまだジラーチにした願い事が叶う気配はなく、日々は穏やかに過ぎてゆく。
    「しかし、なにも起こらないなー……アレは夢だったのだろうか」
     会社の昼休みの最中。弁当箱をごみ箱に捨てながら私は呟く。そんな時、私の元に突然ニュースが流れ込んできた。
     この国が核を含むミサイルの標的となったこと。そして、そのミサイルの行方を見守っていると、対応しきれないほど多くのミサイルによる飽和攻撃で撃墜に失敗して、この国が炎に包まれたと。

     意味が分からなかった。だが、全てのテレビ局がそのニュースを報じ、実質的な被害を受けたと思われるテレビ局のみが砂嵐となって黙している。被害にあった地域の惨状は想像だにしたくない。
     ミサイルを放った国は、当然のように国際社会から厳しく糾弾されたうえ、自国内で大規模なクーデターが発生するなどして、その国は権力のトップに立つものが悉く処刑される。瞬く間に、周りの状況が一変していった。
     結局、相手国の国際的な責任問題や賠償などの問題もうやむやになって(というよりも、払えるわけがなかった)私の住む国と共に、仲良く経済が崩壊してしまうのにも、そう時間はかからなかった。なんせ、こちらは主要都市や港、空港が壊滅し、汚染され、復興は不可能と断ぜられたのだ。あらゆる経済が死に絶えたことで、街は失業者が溢れ、通貨は紙切れになっていた。
     そう、核ミサイルを放つというのは大事おおごとかもしれないが、国のトップの人間の思考をちょちょいと操作するだけでも簡単に出来るのだ。催眠術の才能は必要なのかもしれないが、ジラーチにはそういうことは難しい事ではないのかもしれない。
     数年のうちに、私たちの国は先進国の枠組みから外れ、治安も悪くなった。かつてはポケモンが出現するから危険だと言われた草むらなんて可愛いもので、今や街こそポケモン無しに歩けば、食料か、金品か、貞操か、命か、何かを奪われる危険な時代だ。そして、たびたび起こる過剰なインフレの影響で通貨の信用がなくなった我が国では、電子マネーも機能せず。
     手渡しの給料は、とても抱えきれるものではなかった。


     私はあまりに浅墓だった自分を呪いながら、こんな危険なジラーチを駆除してしまわなければと、私は再びあの場所へ向かう。
     近所の人やポケモンレンジャーに話してみたが、誰も信じてくれなかった。こうなりゃ私達だけでやるしかない。
     だがおかしい、同じ季節のはずなのに、霧が前よりも極端に深いし、一瞬たりと晴れてくれない。
     ここらへんは核の影響を受けていないはずなのに、こうまで気候が変わるはずがない。
     それだけじゃない、コンパスが狂っている。前はそんなことなかったのに。もちろん携帯電話も通じない。
     エアームドが帰ってこない。位置を知らせるための発煙筒も使い果たした。
     食料が半分ほどになった頃には時計が二周しても夜が明けなくなった。
     食料が残り少なくなった頃には、星と月が消えた。
     懐中電灯の明かりで気分だけでも明るくしたが、指示灯の電池を流用しても、電池が尽きた。
     自分の手さえ見えない、目を閉じているのか開けているのかすらわからない無間の闇の中で、私は毎年遭難者が出る意味がわかった気がする。
    「君のお願い通り、一生冒険をするのに困らなかったみたいだね。満足したかい?」
    「誰か……食べ物……」
     そして私が最後に願ったのは、食料が欲しいという願いであった。
    「はい。骨も体表も鋼鉄だから、硬くて鉄臭くて食べ難いかもしれないけれどね」





     ジラーチは、願いをかなえる時に、大量の呪いを必要とする。恨み、嫉妬、嘆き、悲しみ、それらが生み出す呪いの力がジラーチの原動力。それを知った人間は、呪いを集めるまでもなく、最初から持ったポケモンをジラーチに変身させてと、そう願った。
     戦死者の魂を供養するための憑代として、集められたヒトガタに宿った僕を、ジラーチに変身させてと願ってしまった。でも、呪いというのは、大半はジラーチの力だけでも浄化して願いの力に変えることが出来るが、ジラーチだけでは決して浄化できない呪いもある。そういった呪いは、ジラーチが千年眠っている間に魂だけを宇宙に飛ばして強烈な太陽の光に当てて浄化する。そういうものだったんだ。
     僕は、元がジュペッタだったおかげで眠ることも出来ずに、微睡むことしか出来ず、そのおかげでいつでも人の願いを叶え続けることが出来た。
     そして、願いを叶えるごとに体内の綿に染みこんだ憎しみや恨みによって生じる呪いも減らし続け、やがてジュペッタを作ることも出来ないくらいに呪いは枯渇した。しかし、ジュペッタから生まれた僕は、ヒトガタに込められた呪いを受け取ればまた願いを叶えられるようになる。
     そこまでならば、良かった。少なくとも人間にとっては、そこまでは完ぺきだったのだと思う。

     今では、寺院に届けられるヒトガタを盗み、それから呪いを受け取ることでいつでも願いを叶えられる。それと引き換えに、僕の中にある浄化されることの無い大量の穢れが悪さをするのだ。千年待つとか、厳しい試練だとか、そんなものも無しに願いがかなうなんて甘い話は元から無いのだ。
     綿に染みこんだ呪いが全て消えた時、自分は姿を消してしまったほうがいいのかとも思った。けれど、眠ることが出来ず、魂を宇宙に送ることも出来ない僕は、浄化できない穢れを抱えて地上に留まるしかない。自殺するのも怖くて出来なかった。そうこうしているうちに、僕はパラセクトのように、自分以外の何かに突き動かされるようになった。
     僕の中で混沌と渦巻いている呪いという名の穢れは、日の当たらない霧の中で、いつまでたっても宇宙に流せず、太陽の光で浄化出来ず、僕を突き動かすのだ。

     『敵国の人間はみんな死んでしまえ』とか、『私達を地獄に落とした奴らを許しちゃいけない』とか、『どうせ死ぬならお前らも道連れだ』とか。人間も、戦争に巻き込まれた人間以外の者たちも願ったそれは、永遠に消えることなく今も僕の内にある。
     自分でやっておいて言うのもなんだけれど、だんだんと願い後に訪れる災害も悪化している。


     これでまた、どこかで人間に対する憎しみが生まれる。ヒトガタが送り込まれる。そのヒトガタから得た呪いは、浄化出来るものも浄化出来ないものも僕の内に溜まるだろう。もう、人を根絶やしにしなければ収まらないくらいの呪いが、急速に加速し、僕の中で牙を研いでいるのだ。
     その穢れに、呪いに、僕が突き動かされる事を邪魔する者がいるならば、僕を危険視したアブソルだろうと、僕を疎んだ人間だろうと、神だろうと、あらゆる手段を用いて殺してやる。
     脅威が去った後は、また人間をここに誘ってやればいいさ。
    『僕はここにいるよ。だれか、僕を迎えに来てよ』
     誰かの夢に向かって、そうささやきながら。






    ----
    あとがき


    もともとは、例のwikiで『甘い話なんてない』というテーマで書いた作品なのですが、なんと言うか、そのお話の前日談も浮かんできてしまったために、同時期に行われていたオタマロコンテストにも応募してみたという感じです。
    どちらもひとつの物語として成立するように作っているため、『無邪気に願おう』では『霧の中のジラーチ』の内容を復習するような感じになってます。
    主催者様を始めとして、ハッピーエンドだと思った人たちに衝撃を与えることが出来て、私はとても満足です。猿の手、消えたアブソル、眠らないと魂飛ばせないのに眠れないジラーチと、伏線をちりばめておいたけれど、バッドエンドにならないのが不思議に思った人はあんまりいなかったですねw

    参考にした作品は、もちろん猿の手。腕がいっぱいあるゴウカザルの像とか、ジラーチの名前で、オマージュさせてもらいました。


    【何をしてもいいのよ】


      [No.2524] 短編 お題『夏』 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/07/24(Tue) 13:32:41     67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「――ねえ、なにやってるの?」

    イッシュにも田舎はある。ライモンシティから電車で三十分も下れば、そこはカナワタウン。役目を終えた列車が眠る場所として知られている。
    ここにも一般の人間は住んでいて、俺もその人間の一人に飼われているポケモンだ。
    俺の主人はここで仕事をしながら趣味で木の実を育てている。植物だけは自給自足にしようと頑張っているらしい。ちなみに牛乳はミルタンクがいないため週に一度、ホドモエに買いに行く。
    今日がその買出しの日で、俺は朝から主人に頼まれて玉蜀黍の皮と髭を取っていた。
    開始から早一時間半。ここに住む者だけでなく、列車マニアも使う電車の音が聞こえてきた。

    「今年も綺麗にできたな」

    市販の玉蜀黍……そりゃ、パックされているのとそのまま売られているのはものすごい差がある。今ではもう、前者は食べられない。そして後者も、今食べている物の味を知ってしまったら、誰も食べなくなるろう。
    とにかく獲れたて……髭が茶色くなるまでついていた物は、甘い。砂糖入ってるんじゃないかってくらい、甘い。ちなみに玉葱も生で食べると甘いらしいが、うちは育てていない。
    こんな物を食べられるのも、主人が育ててくれているおかげなわけで。

    「――ねえ、なにやってるの?」

    汗を流しながら最後の茎を折り終わった俺の前に現れた、涼しげな色の影。ポケモンの癖に白い帽子を被っている。マリンブルーのリボンが鮮やかだ。
    触れれば何でも切れそうな、鋼の羽。足はその種類独特の形。頭に生えた、王者の風格。目が鋭いのにどこか愛嬌があるように見えるのは、睫が長いからだろう。
    そいつ――エンペルトは、帽子の縁を器用に持って振って見せた。

    「玉蜀黍の皮と髭取ってんだよ」
    「育ててるの?」
    「俺の主人が」

    カナワタウンにある小さなログハウス。そこが、俺と俺の主人の家だ。エンペルトとの距離は、俺が今テラスにいるということで五メートルくらい。階段を探すソイツに、俺は顎でしゃくってみせた。
    二分後、距離が十センチにまで縮まる。

    「観光客か」
    「そうね、そんな感じね」
    「ご主人は」
    「あそこで写真撮ってる」

    あそこ、とはおそらく車庫のことだろう。列車をぐるりと一周するように作られた高台。橋の上は絶好の撮影場所になる。
    新聞紙の上に乗せられた玉蜀黍と、皮と髭。ギッシリと実が詰まったそれを見て、エンペルトは目を輝かせた。

    「形は悪いけど……おいしそうね」
    「そりゃ、採られる寸前までついてた物の方が美味いに決まってる」
    「そうよね。売られている物は悪くならないように早い時期から採られるものね」

    太陽が雲から出てきて、周りの気温が一気に上昇する。遠くから聞こえるのは、蝉だろうか。

    「ねえ」
    「何だ」
    「一本もらってもいい?」

    俺は玉蜀黍を見つめた。今日収穫したのは全部で十本。これを近所に少しずつ分けながら、自分達も食べる。全ては食べきれない。だけど、大地の恵みに敬意を払って、捨てることは絶対にしない。
    分けるか、食べるか。その二択。
    ――だけど。

    「ギブアンドテイク」
    「!」
    「何もしていない奴が、何かしたやつから貰うには、それ相当の何かを預けなくてはならない」

    エンペルトはなるほど、という顔をした。そしてそうだ、という顔をして帽子から何かを取り出す。

    「はい」
    「……これは?」
    「ライモン遊園地、プール無料チケット」

    ライモンシティに巨大な遊園地があることも、そこに多数のアトラクションがあるプールが出来たことも自分は知っている。ただ、行こうと思えばサザナミタウンへ行けるため、ピンと来ない。
    そもそも川の匂いに慣れているため、カルキ臭い、人が多いプールに自ら行く気にならないのだ。

    「ダメ?」
    「……」
    「ダメなら他にもあるけど」

    そう言って帽子の中から色々取り出す。どこぞの四次元ポケットのようだ。だがそれはほとんどチケットや引換券の類だった。たとえば、『マウンテンバイク引換券』『ライモンミュージカル無料観覧券』『リトルコート招待券』『ライモンジム主催・ファッションショーチケット』など、何処から手に入れたんだと突っ込みを入れたくなる物の他に、『ロイヤルイッシュ号年間フリーパス』など、このエンペルトの主人がどんな人物なのか何となく分かるような物まであった。

    「……住む次元が違うな」
    「これとかそうそう手に入らないわよ」
    「使う機会も無いだろうな」

    ため息をついてふと、帽子の影に隠れている一枚に目が留まった。白だったため、持っている本人も気がつかなかったらしい。

    「それは」
    「あ、忘れてた。えっと……『モーモーミルク一ダース無料券』」
    「それがいい」

    即答したことに驚いたのか、一瞬ぎょっとした目を向けられた。だが今俺がしていたことを踏まえて納得したのだろう。コクリと頷いて券を差し出した。
    ついでにこちらも玉蜀黍を差し出す。

    「はい。等価交換、ね」

    微笑むエンペルトを見て、少しだけ自分が見ている世界が広がったような気がした。

    ―――――――――――――――――――

    青の世界。
    肌を撫でる感触は真水とはまた違った物。それは太陽の下に出れば小さな針のように肌を突き刺す。
    目を開ければ、それは時に光を失わせる。

    「……」

    向こうから水色とピンクの群れが泳いできたのを見つけ、ミドリはさっと身を翻した。なるべく波を立てないように静かに泳ぐ。
    足に絡みつくような感触がないことをないことを祈りながら、少しずつ浜辺の方へ戻っていく。二十メートルほど進んだところでそっと振り返れば、二色の影はどこにも見当たらなかった。
    少し安堵の息を漏らし、再び進む。
    やがて、足がつく場所まで来ると、ぷはっと水面に顔を出した。

    「ふう……」

    シュノーケルを外す。空が青い。雲が白い。水は体を押し、時折飛沫を上げる。目を少し凝らせば、ポケモンセンターの赤い屋根が見えた。
    ここはサザナミタウン――のビーチから少し離れた場所。丁度サザナミ湾に面した、下に海底遺跡が沈む、いわゆる『穴場』の浜辺だ。
    ブイはないため、その気になれば何処まででも泳いで行けるが、先ほどのように海難事故につながらないとも限らない。そのため、『自己責任』という言葉がつく。
    ジャローダを連れて来ても良かったのだが、高貴という言葉が相応しい彼にとって、海水は自分の体を蝕む天敵。
    かと言ってフリージオを連れて来ても、水蒸気になるだけで役に立たない。
    そこで、多少の危険を覚悟でボールを預けて一人で来ていたのだ。

    「ユエさん誘ってもよかったんですけどね」

    浜辺に上がり、持参していたサイコソーダを口に含む。脳裏に浮かぶのは、コンクリートで囲まれた街の一角で珈琲を入れる一人の女性の姿だ。
    あのバクフーンもさぞかしへばっているだろう。だが彼女には仕事がある。ミドリは既に手に職をつけているため、卒業してそのままデザイナーの道を進むことにしていた。
    高校三年の夏。思えば、あれから五年ちょっとが経っていた。

    「……暑いなあ」

    パラソルの下は比較的涼しい。風も弱く、波は穏やか。髪から滴り落ちる雫が、砂に跡を作る。

    「水タイプ、か」

    鞄から空のネットボールとダイブボールを取り出し、ミドリは立ち上がった。


    ―――――――――――――――――――――――
    目の前には実が全てこそぎ採られた玉蜀黍。×二本。そして今、三本目に手が伸びた。一心不乱に齧り続ける姿は、さながらネズミのようである。

    「……紀成」
    「ん?」
    「食べれるの?それ」
    「うん」

    紀成の好物。季節によってそれは変わるが、夏は玉蜀黍に限る。祖父が育てているのもあって、夏休みは毎日のように食卓に並ぶ。今日も十本近く収穫し、三本は紀成の腹に綺麗に収まる。
    しばらくして、もう一本茎が皿の上にごろりと転がった。

    「ごっそさん」
    「……はい」

    受験が書類を残すだけとなった夏休み。宿題はゼロに近い。かと言って一人旅もできない。もっぱらペンとキーボードと携帯を相手にする毎日だ。
    音楽選択者なら文化祭のミュージカルの練習があるが、美術選択者はそんな物は無い。
    ……少々退屈である。

    「ポケモンの数匹も描けるようになっとくかー」
    「ダイエットもするんでしょ」
    「してるよ。毎日走ってる」

    家族旅行の予定もある。八月上旬に友人との予定も入っている。
    さて、最後の夏はどうなるのか。


      [No.2513] ありがとうございます 投稿者:aotoki   投稿日:2012/07/10(Tue) 20:38:27     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ご批評ありがとうございます。まさか渡邉さんにコメントをいただけるとは・・・・

    文体やテンポのお話、非常に参考になりました。後半は書いていて自分でもまずいなと思っていたのですが、やはり言われてしまったと赤面しております。
    普段はケータイのメール機能でメモしたものをPCに落として修正してたのですが、これだけはケータイでの確認で終ってしまったので・・・・とこう言い訳するのが一番いけないのですよね。

    重い口調は自分の悪い癖だなと思っていたので、しっかり治していきたいと思います。


    > 面白い話だったから、ねちねちと文章にケチつけてみました。
    > ホントね、小さいころのフライトの話、これいいと思ったんだけどね。

    この二行に完璧なお褒めの言葉を頂けるよう、書き直してみたいと思います。

    本当にありがとうございました。


      [No.2502] 曇天のさらに上空は晴天だと信じてる 投稿者:ラクダ   投稿日:2012/07/07(Sat) 22:33:19     62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     しゃらしゃらと涼しげな音を立てながら、大きな笹が夜風に揺れています。
     その枝葉には、色とりどりの短冊がいくつも結び付けられていました。柔らかな風に踊るそれらには、人とポケモンの祈りや願いが書き込まれています。
     
     道の向こうからくたびれた様子の駱駝が一頭、とぼとぼと歩いて来ました。
     足を引きながら笹竹の前にやってきた駱駝は、大きな溜息を吐いて背中の荷を下ろしました。小さな袋に詰め込まれた短冊の束です。
     あれからもう一年が経ったんだなあ、と呟きつつ、さらさらと手元の用紙に何かを書き付けています。
     肉厚の蹄で器用に――どうやってという疑問は胸にしまっておきましょう――結び付けられたそれには、『藁一本で背骨が折れそうなこの現状を、なんとか打破できますように』とありました。なんとまあ、辛気臭いことです。
     ……それはさておき、自分の分を書き終えた駱駝は、預かってきたらしい短冊たちを次々と結び付け始めました。

    『ブラック3・ホワイト3で主役級に抜擢されますように  風神・雷神』

    『またポケンテンの新作料理を食べられますように  学生A・B』

    『監督の尻をひっぱたいてとっととロケを終わらせて、年内には上映できますように  飛雲組』

    『世界中での百鬼夜行を望む  闇の女王』

    『第三部及び完結編まで続きますように!  甲斐メンバーの一人』

    『今年の夏休みも、あいぼうといっぱい遊べますように  夏休み少年』

    『いつまでも“彼”と一緒にいられますように  名も無き村娘』

    『もう大爆発を命じられませんように  ドガース』

    『今年も美味しい食事にありつけますように。  桜乙女』

    『僕たちが無事に「割れ」られますように  タマタマ』

    『彼らの旅立ちを祝福できますように……  マサラの研究員』

    『この世界に生まれ出ることができますように  未完の物語一同』

     さらさら、しゃらしゃらと笹が揺れています。
     一年分の願いを括り終えて、駱駝はふうと息をつきました。
     しばらくぼんやりと色紙の踊るさまを眺めていましたが、やがて意を決したように首を振ると、元来た道をのろのろと引き返して行きました。

     おや? 駱駝の立っていた場所に、二枚の短冊が落ちています。どうやら、付け忘れてしまったようです。
     仕方がないので、私が結んで締めくくりましょう。


    『受験・就職・体調・原稿その他もろもろの、皆様の願いが良い方向へ向かいますように』

    『自分の思い描くものを、思い描いた形に出来ますように。今後も地道に書き続けられますように』

     七夕の夜に、願いを込めて。


      [No.2491] 【ポケライフ】改造の血 後編 投稿者:akuro   投稿日:2012/06/30(Sat) 02:32:18     76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ひばなは水面に映る自分を見つめていた。コモモの言葉を思い出す度に、涙が流れて頬を伝った。

    「改、造」

     言葉にするにも忌まわしい。どうしてそんな人間がいるんだろう。コモモは悪くない、そう思うのに。誰かを憎みたくて、でも自分は人見知りで、知ってる人間なんてコモモしかいない。コモモは悪くないのに……!

     そんなことをグルグルと考えていたら、足音が聞こえた。振り返るとそこには今しがた自分が考えていた人間がいて。

    「コモモさん……?」

    「ひばな……ゴメン!」

     コモモは地面に膝と手を付いた。土下座の格好になられて、ひばなはうろたえる。

    「そんなことしないでください……!」

    「いや、私はしなきゃいけないの!」

     コモモは目をぎゅっと閉じ、喋りだした。

    「あの時の私はどうにかしてた! どうしても覚えさせたい技があるからって、改造ポケモンに手を出すなんて! トレーナー失格よ!」

    「コモモさん……」

    「GTSであの子が送られて来た時、私はあの子のトレーナーを呪いたいと思った! 人間の勝手な都合で、ポケモンの運命を弄ぶなんて信じられなかった! でも私も同罪よ……! あの時、落ち着いて考えていれば、あの子にもあなたにもつらい思いをさせずに済んだのに……!」

     いつの間にか流していた涙を拭うこともせず、コモモはただ喋り続けた。

    「ひばな……本当に、ゴメン……!」

    「コモモ、さん……」

     コモモもひばなも泣いていた。そのまま暫く沈黙が続く。辺りには、啜り泣く声だけが響く。上空には、言葉を失ったトゲキッスが佇んでいた。


     その時、ガサリと物音がした。思わず振り向けば、そこには6匹目の仲間がいて。

    「ピンキー!?」
    「ピンキー……さん」

     ピンキーと呼ばれたのは、桃色の体にふわふわの体毛を持ち、腹に「たつじんのおび」を締めたハピナスだった。

    「……まったく、あんた達は。さっきから聞いてりゃウジウジウジウジと……!」

    「ピンキー……?」

     すっかり怒り心頭の様子のハピナスは、小さな手を腰に当て、声を張り上げた。

    「確かに改造は問題よ。それに、トレーナーとして誤った選択をしたコモモにも責任があるわ。……だからもう2度と謝らなくていいように、トレーナーとして出来ることをしなさい!」

     びしっと、コモモに指を指すピンキー。
     呆然としているコモモとひばな。
     ピンキーの横に、遠慮がちに足を付くハピリル。

    「ピンキー、決まったとこ悪いんだけど……それ、ボクのセリフじゃ」
    「うるさい! ♂は黙ってなさい!」
    「ひいい……はい」

     まるで夫婦漫才のようなやりとりを見ていたコモモは、クスッと吹き出す。

    「コモモ! 笑ってんじゃないわよ!」

    「ゴメンゴメン。……うん、ありがとうピンキー」

    「は?」

     コモモは立ち上がると、ハピリル、ピンキー、そしてひばなの順に目をやり、口を開いた。

    「私、みんなの笑顔を守りたい。もう2度とこんなことが起きないように、私なりに頑張ってみる!」

    「コモモ……」
    「コモモさん……!」
    「うん、よく言った。それでこそコモモよ!」

    「……じゃあ、みんなも手伝ってね! 1人1人に出来ることは少ないけど……みんなの力を合わせれば、なんだって出来るよ!」



    END









    ーーーーあとがきーーーー

     どうしましょう、ラストが意味不明なことに(汗)ちょっとクサかったかな……?
     えーと、これはほぼ私の実話です。今ガチパにいるキュウコンの親の親の親のそのまた親……くらいの位置に、GTSで手に入れてしまった改造産ガーディがいます。
     Lv58の時にライモンシティで出会ったって改造ですよね……。
     作中でも書かれているように、私はそのガーディを親にしてタマゴを作ってしまいました。タマゴから熱風を覚えたガーディ♂が生まれたら改造の子は逃がし、生まれた子を親にして熱風を覚えたロコン♂が生まれたら逃がし……そんなことを何回かやって生まれたのがひばなです。
     今は後悔しています。2度とこんなことが起きないように、私も頑張るつもりです。



    【書いても描いても批評してもいいのよ】
    【改造、ダメ、絶対】


      [No.2479] ファースト・コンタクト 投稿者:aotoki   投稿日:2012/06/22(Fri) 15:52:36     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    正直言ってこの仕事は辛い。と俺は一人、埃っぽい部屋で思う。

    絶え間ない権力争い、終わりの見えない研究作業、次から次へと舞い込む不確実なデータ、おべっか買い、妙な誤解、それを巡る果てしない論争…
    よほどのバカか物好きでない限り、この職業は勧められないと俺はいつも思う。

    じゃあもし、俺が俺に仕事を勧める機会があったとして、俺は自分にこの仕事を勧められたか、と聞かれると、答えは『ノー』になる。正直言って、何故今もここにいるのか俺自身が一番良くわかってない。
    …惰性?それを言っちゃ何もかもおしまいだろう。



    実の所、その「答え」は出ているのかもしれない。
    ドアの向こうから誰かが走ってくる音がする。
    その音はだんだんこちらに近づいてきて、バン、と部屋の扉が乱暴に開かれて止まった。
    「カイドウ室長!こちらにいらっしゃったんですか!」
    「あーなんだようるせいな…もうちょっと静かにこれないのかよ」
    両手一杯に資料を抱え込んだ部下は、俺の机にカッカッと歩み寄ってきた。明らかに機嫌が悪いが、おおかた俺を捜して小一時間歩き回ってたんだろう。俺が部屋に居るなんて普段なら考えにくいことだろうから。
    「静かに、ってこの状況でどう静かに開けろっていうんですか」
    「言葉のアヤだ」
    「アヤ過ぎます」堅物に定評のある部下は、器用に眼鏡を直した。それくらい器用ならドアだって開けられただろうにと思うが、心内にとどめておく。
    「あーもうそこはどうでもいいよ…それより何だ本題は。お前だってヒマじゃないだろ?」
    不機嫌そうに俺を見下ろしていた部下の顔が、ワンテンポおいてにやりと笑った。そして、抱えた紙の束からガサガサと一枚の紙を俺の前に差し出した。「今日はどうしても室長に見せたいものがありまして」
    紙にはずらずらとした外国語の文章と、一枚の写真が載っていた。
    「・・・・なんだこれは?」俺は答えを知りながらそれを聞く。


    「今日付けで出された新個体の情報です。今度のはかなり面白そうですよ」


    俺の口が、にやりと曲がったのが分かった。
    「場所は?」
    「ten.イッシュです」
    ten.― tentative、つまり仮称。
    「…要するに新しいポケモンって訳か」
    「まだ学内では確定的な意見は出されていませんが、研究者間での非公式見解では十中八九そうだろうと」
    「…よしわかった」
    俺は勢いよく机から立ち上がった。
    「カシワギ!」「はい!」「今ある資料はこれだけか?」俺は部下から資料を全てひったくる。ざっと目を通していくが、まだしっかりとした根拠は出揃っていないらしい。
    「はい。資料科から取れるだけもってきました」
    「もっかい行って探してこい。まだρ-DNA関連のデータがあるはずだ」
    「それは僕も探しましたが、まだ出てないようで…」部下の視線が少し泳ぐ。そこに俺は紙の束を叩きつけた。
    「そんならうちで出すしかないだろ?遺伝子解析室の割り当て見てこい。あとこの公開試料」さらに資料を部下に押し付ける。
    「こいつの個体データも。この辺りだと…イカリ辺りが専門か?」俺は普段おぼろ気な研究員のリストを脳内で引っ張りだす。
    「じゃあρ-DNAについては僕とイカリでまとめておきます」
    そう言って部下は机から離れた。
    「おう、そうしてくれ」俺は資料を漁りながら片手を上げた。部下のいう通り『取れるだけもってきた』らしく、信憑性の高いデータから関係ないジャンクまでよりどりみどり。これをより分けて裏付けするのだけでも一週はかかりそうだ、と何となく見当をつけてみる。
    まぁ学内のレジギガスとまで揶揄される俺のカンだから、果たして当たっているのかどうかはわからないが。
    「…あとカイドウさん」扉の方から、部下の声が聞こえた。
    「なんだ?」俺は手を休めず答えた。
    「…こちらのサポート人員も集めてきます。データの裏付けだけなら外の人間でも平気ですよね?信頼できるツテがあるので辿ってみます」
    俺は首だけなんとか扉に向けた。
    「…悪いな、カシワギ。いつもいつも」
    部屋から出ようとしていた部下も、首だけでこちらを振り返った。
    「だって室長が本気で動くのを見られるのは、こんなとき位ですから。こちらだって数少ないチャンスを無駄にはできませんよ」
    では、失礼します。そう笑いながら、部下は扉の向こうに小走りで消えた。


    「…ったく、よく出来た奴だよ」
    また一人になった部屋で、俺は紙の山から一枚をつまみ上げた。
    蛍光灯の安い光に透けて映るのは、見たこともないポケモンの姿。これから俺達が出会う、まだ見ぬ誰かの"仲間"の一匹だ。
    「…へへっ」
    俺はその輪郭を指でなぞる。
    果たしてこいつは本当に新しいポケモンなのか、それを調べるのが俺達研究者の一番の仕事だと、この世界の片隅に居る俺は少なくともそう思っている。
    こいつを、こいつの仲間たちを、生涯一緒に過ごせるパートナーに出会わせるための仕事。
    星の数ほどの出会いのいくつかが俺の手から、汗から、涙から、生まれる。それだけで、その喜びだけでこの世界にいるだけの価値があるってもんだ。
    …誇大妄想?それを言っちゃ何もかもおしまいだろう。


    「………さて、と」
    俺は紙を山の上に戻す。
    これからこの部屋も忙しくなってくる。多分この手柄を狙って、全ての研究室が動きだすだろう。こういう競争主義な所が俺は一番嫌いだが、まぁこの世界に身を置く以上仕方ない。

    案ずるより生むが易し。

    「…さぁ旅立つとしますかね」
    俺は紙の山をかき分けた。



    ****
    「・・・・ん」
    珍しく新聞を読んでいたら、珍しく友人の名前を見つけた。
    『カント―学会カイドウ博士・新個体を発見か』『「ファーストコンタクター」またもや快挙』
    地方紙にも関わらず四分の一の紙面を割かれたその記事には、友人が見つけたらしいポケモンの詳細と、友人の研究がすこし誇張された文体で書かれていた。
    「ファーストコンタクター、か」
    まぁ確かにポケモン図鑑はポケモンとの出会いのきっかけにはなるけれど、それにしても凄いあだ名だと少し笑ったとき、後ろからヨノワールが覗き込んできた。
    「?」
    「あぁ、これか?俺の昔の友達だよ。大学で一緒だったんだ」

    窓の向こうには広い空。
    今日もどこかで、あいつの作ったファーストコンタクトが生まれてるんだろう。



    "Contacter" THE END!


    [あとがきのようなもの]
    初めましての方は初めまして。
    また読んで下さった方、ありがとうございます。aotokiと申すものです。

    何が相棒との出会い?こっちゃ先に会ってるんだよ!!というポケモン学者のお話。
    作中の単語は全て創作です。スイマセン。
    現代のポケモン図鑑はきっとたくさんの研究者さんが関わってできていくのかな〜とか思っています。
    安全なポケモン・危険なポケモン・生態・能力・習性・・・・それが分かって初めて素敵な出会いが成り立つ。
    縁の下は大事。そんな作者の妄想なのでした。

    ちなみに最後の「俺」は、「日曜は(ry」のお父さん・・・・のつもりです。


      [No.2468] 朽ちて果てゆく 投稿者:teko   投稿日:2012/06/19(Tue) 12:06:38     50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    昔昔、此の場所一帯は葡萄の産地として名の知れた場所でありました。所々に建てられた醸造所では可憐な乙女が実を踏む光景を見ることが出来ました。穏やかな陽射しが降り注ぎ、恵みの雨が降り注ぐ、豊かな土地でありました。

    何故過去の話しとして語るのか。今や此の場所は寂れた寂れた土地。作られた道が僅かに残る程度で畑の跡など見当たりもしません。土地を使いすぎて荒れ地となってしまったわけでも、小川が枯れてしまった訳でもありません。今日も今日とて緑に繁る草ゝが温かな陽を浴び、風にゆらゆらと揺れています。

    原因は不明ですが、あるときからぱったりと葡萄が育たなくなってしまったと云います。いえ、葡萄だけではありません。人の植えた物、人の連れてきた物、全てが突然弱り死に、育たなくなってしまった、と多くの智者が原因を解明してみせようと此の地を訪れましたが、誰一人としてその目的を果たせぬまま去って行きました。そして、また一人一人と去って行き、残されたのは壊されることなく放置された家々達……。

    私が此処にいる理由は何でしょう。それは驚いたことに私にもわからないのです。私が意思を持ち、記憶があるのはそう、此の場所からなのです。気づけば此処にいて、何も持たぬまま佇んでいたのです。


      [No.2457] G-Cis 投稿者:ことら   《URL》   投稿日:2012/06/13(Wed) 21:46:55     67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ああやはりワタクシの不安は的中してしまいました。
     伝説の再現がしたいとNが言い出した時からそんな不安はありましたが、レシラムが負けるなど微塵も思っていませんでした。それにしてもあの子供の仲間たちがこの奥までやってくるとは。
     事前の小細工もあって、なんとかNのイメージは保たれているようですが、時間の問題です。

    「それでもワタクシと同じハルモニアの名前をもつ人間なのか? ふがいない息子め」

     Nの後ろにはレシラムがいます。子供の後ろにはゼクロムがいます。もうプラズマ団の敗北は濃厚なのです。それならば最後のあがきです。
     Nの顔が驚きに満ちていました。そうですね、アナタにはこんなことを言ったことすらありません。むしろ言うわけがありません。けれどもう背に腹は変えられないのです。

    「もともとワタクシがNに真実を追い求めさせ伝説のポケモンを現代によみがえらせたのは『ワタクシの』プラズマ団に権威をつけるため! 恐れおののいた民衆を操るため!」

     その場はシーンとしています。Nはもう反論できないでしょう。負けたショックとワタクシの言葉のショックで。それでいいのです。ワタクシに喋らせなさい。

    「その点はよくやってくれました……だが伝説のポケモンを従えたもの同士が信念を懸けて闘い自分が本物の英雄なのか
    確かめたい……と、のたまったあげくただのトレーナーに敗れるとは愚かにもほどがある! 詰まるところポケモンと育った歪な不完全な人間か……まさかアナタのようなトレーナーが伝説のポケモンに選ばれるとは完全に計算外でしたよ!」

     ゆっくりとその場にいる全員に聞こえるように言います。いいのです、Nに届いてください。Nの心に届いてください。

    「ですがワタクシの目的はなにも変わらない! 揺るがない! ワタクシが世界を完全に支配するため! なにも知らない人間の心を操るため! Nにはプラズマ団の王様でいてもらいます」

     隠れた右目は見えません。けれど左目で見た光景は曇ります。
     子供の敵意はNから完全にワタクシに移っています。ゼクロムと共に睨んできます。ゼクロムほどのポケモンに攻撃されたらさすがのワタクシも蒸発してしまうでしょうか。ああそれでもいいですね。

    「だがそのために事実を知るアナタ……ジャマなものは排除しましょう」

     一歩踏み出します。ゼクロムが庇うように子供の前に出ました。そしてその子供の友達……チェレンとか言う強さを求める子供が鋭い目つきでワタクシを見ます。ひるんだら負けです。終わりです。

    「……支配だって? プラズマ団の目的はポケモンを解放することじゃ……」

     その通りですよ。プラズマ団はその為に集めた組織。プラズマは高音の炎と高い電圧の電気で発生する綺麗な現象です。ああ話がずれましたね。

    「あれはプラズマ団をつくりあげるための方便。ポケモンなんて便利なモノを解き放ってどうするというのです?」

     そうです、ワタクシのポケモンたちを解き放ってどうするのですか。そんなことをしたら、ワタクシに頼って生きて来たこの子たちを見殺しにするというのですか。全くおかしな子供です。

    「確かにポケモンを操ることで人間の可能性はひろがる。それは認めましょうだからこそ! ワタクシだけがポケモンを使えればいいんです」
    「……きさま! そんなくだらぬ考えで!」

     チャンピオンが激昂します。殴り掛かる勢いですね。しかし、今ワタクシが殴られて気絶するわけには行きません。

    「なんとでも」

     マントの中でワタクシはボールを取りました。

    「さて神と呼ばれようと所詮はポケモン。そいつが認めたところでアナタなど恐るるに足らん。さあ、かかってきなさい! ワタクシはアナタの絶望する瞬間の顔がみたいのだ!」

     誰が何をしようと! ワタクシをとめることはできない! ここで止まることなどできない!
     さあ行きなさいデスカーン。あの子供の足止めをするのです。
     N、何をやっているのです。
     ぼーっとワタクシをみていないで
     ぼーっと子供の方をみていないで
     そのレシラムと共に逃げなさい。ワタクシがこんなアナタを道具扱いした親になりきっているのです。
     アナタがプラズマ団の首謀者として裁かれても、ワタクシに洗脳された子供として罪がかなり軽くなるのですよ!
     逃げてください。逃げなさい。そしてワタクシをとんでもない親だと訴えなさい。アナタだけでも逃げるのです!
     なにを、しているのですか! どうしてワタクシが戦っているのか解らないのですか!

    「それぐらい計算済みですとも!」

     この子供は強いです。バッフロンもガマゲロゲもキリキザンもシビルドンもあっという間に倒されてしまいます。残るはサザンドラのみです。ワタクシの持つ一番強いポケモンです。
     サザンドラが倒れる前に逃げなさい。なぜそこで見ているのです!? 早く逃げなさい。アナタはプラズマ団の王様なのですよ!

    「ワタクシの目論みが!」

     倒れるサザンドラは、ワタクシにごめんなさいと言いました。ああすみません、アナタ方にまで悟られて。いえ解っていたのですね、最初から捨て駒になること。全てNのために、プラズマ団の王様のために。

    「……どういうことだ? このワタクシはプラズマ団をつくりあげた完全な男なんだぞ! 世界を変える完全な支配者だぞッ!?」

     サザンドラはもういいよと言いました。よくありませんサザンドラ。確かにアナタから見ればワタクシが悪者になるのは面白くないでしょうが、そうじゃないとならないのです。誰かが首謀者としての責任をとらなければならないのです。
     そしてそれはNではなくワタクシの役目なのですよ。昔からいるでしょう、影武者というのが。本当に上に立つべき人間を守るためには、そうするしか方法がないのです。

    「さてNよ……今もポケモンと人は別れるべきだと考えるか?」

     チャンピオンはNに話しかけます。Nは話しかけられてやっと気付いたようです。
     ああもう遅いのです……今からでも逃げられるところに逃げてください。

    「……ふはは!」

     ボールにサザンドラを戻しました。サザンドラはゲーチスが嫌われるのを見たく無いと言ってくれました。ありがとうございます。ワタクシもサザンドラたちに嫌われたくありません。サザンドラたちに真実を知っていてもらえればワタクシは満足です。

    「英雄になれぬワタクシが伝説のポケモンを手にする……そのためだけに用意したのがそのN!! 言ってみれば人の心を持たぬバケモノです」

     その場にいる人間全てがワタクシをバケモノとしてみる目に変わりました。

    「そんな、いびつで不完全な人間に話が通じると思うのですか」
    「アデクさん。こいつの話を聞いてもメンドーなだけです。こいつにこそ心がないよ!」

     チェレンという子供はワタクシを指差して言います。犯罪者を見るような哀れみの目をしています。

    「そうだな……本当に哀れなものよ」

     ワタクシの手に手錠がかかります。チャンピオンはワタクシを連れて行こうとします。
     最後にワタクシは振り返りました。
     ああ、最後までアナタは逃げなかったのですね。ワタクシが連行される姿を見たかったのですか? アナタを虐待した酷い親の無様な最後を見たい気持ちはよくわかります。
     けれどアナタにはやる事があるのですよ。何をぼーっとしているのですか。
     N、逃げてください。遠くに逃げてください。本当の名前を知られないうちに。
     しかるのち、ワタクシは警察から逃げましょう。しかしアナタがいなければ意味がないのですよ!
     N、逃げないならワタクシを精神的虐待をした親と訴えなさい。その親に異常に育てられたと訴えなさい。

    「Nというのは、ナチュラルのイニシャルです。プラズマ団の王様なので、本当の名前を知られることは不利益となります。今日からアナタはNと名乗りなさい」
    「解ったよ。でもゲーチスはゲーチスのままなの?」
    「ワタクシは王様の摂政ですので、このままでいいのです。影から支えるものは、本当の名前があろうとなかろうと変わりはありません」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーー
    ゲーチスがあそこで本性をつらつら語り始めた意味はこうでもあってると思う。
    間違ってはいないと思う。
    たくさんある説の一つとして。

    【好きにしてください】
    【異論、反論大歓迎なのよ】


      [No.2446] コッペパンが無いならライチュウの手を食べればいいじゃない 投稿者:門森 輝   投稿日:2012/06/05(Tue) 22:06:01     27clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     らい!? らいらい!? ら〜〜〜〜い! 可愛い絵が貼られてるぅ! らいら〜い! 
     ありがとうございます! ありがとうございます! こんな可愛い絵を貼って下さりありがとうございます! らいらーい! 
     コッペパンが無い様なので代わりにライチュウのおてて貰います。ライチュウの手はむはむしたいです。コッペパンチをくらってでも。むしろくらいたいです。ライチュウらぶです。らーい。
     最後にもう一度、貼って下さりありがとうございました!  らいらーい!

    【保存させて頂きました】
    【ライチュウかわいいよライチュウ】


      [No.2435] ありがとうございます。 投稿者:aotoki   投稿日:2012/05/23(Wed) 20:57:35     49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    コメントありがとうございます。感謝感激アメモースです。
    そして拍手をしてくださった皆さんも、ありがとうございます。感謝感激(ry

    >あんな状態であっても活気にあふれている「息子」の行動が良い意味で子供じみていて、微笑ましいです。
    今思ったのですが、デスマスの特性って・・・あれ、おかしいなおとうさん大丈夫だったのか・・・
    ・・・愛と可愛さがあれば特性は乗り越えられる、はずです。

    >あと、観覧車と時間の例えが上手だなあ、と思いました。どうしても止めようがないですものね。そのことを自覚したお父さんが今後どうなっていくかが気がかりです。
    おとうさんは書いているこちらとしても「この後どうするんだろうこの人」となっていました(笑)
    観覧車は本編でも(いろんな意味で)印象強かったので、もうすこし掘り下げたかったのですが・・・あくまで「ポケモンのいる日常」なので割愛してしまいました。
    今度きっちり書いてあげたいです。


    >それでは、また次の作品にも期待しております。
    あ り が と う ご ざ い ま す

    ・・・おやカイオーガがやってきたようだ


      [No.2424] 酔って候 投稿者:クーウィ   投稿日:2012/05/15(Tue) 14:32:28     93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ねぐらから這い出た時、最初に感じたのは肌寒さだった。
     反射的に片眼を上げて空を拝むも、そこにあったのは予想に反し、何時もと寸分変わりの無い、澄み切った青があるばかり。
     天高く馬肥ゆるとかいう言葉そのまんまの、能天気なまでの秋の空。……けれども一方、毛皮を通して肌に染みて来る空気には、一年分の余所余所しさと嫌厭感が、ウンザリするほど滲み込んでいた。
    「そろそろまた冬か……」
     思った事が口を衝いて出る、その事自体にも動かし難い既視感を覚えつつ。俺はかったるい思いを溜息に籠めると、ゆっくりと住処を後にして歩きだした。
     

     物心付いた時から、俺には家族がいなかった。
     何故いないのかは考えた事が無い。事実いなかったし、深く考えるのも馬鹿らしかったから。
     ぬくぬくと森に住んでいるポケモンや、自由にフラフラ飛び回れる羽根の生えた連中なら、「それはおかしい」とか何とか言ってくるかもしれない。だが、『街』に住んでいる俺達の様なポケモンから言えば、そんな甘ったるい感傷に浸っている暇や余裕なぞ、ある訳が無いのである。

     記憶に残っている最古の風景は、ビルとビルの隙間から覗く、目抜き通りの雑踏の様子。どうしてそれが記憶に残っているのかと言うと、痩せ細って小さくなっていた当時の俺が、直後に飛び込んできた食い残しの目立つフライドチキンの残骸で、何とか露命を繋いだからだ。
     人間の臭いがこびり付いた汚らしい鳥の骨に、夢中で武者ぶり付いたガリガリのコジョフー。俺と言うポケモンの、記念すべき出発点である。
     今では街の野生ポケモン達の中でも最も腕が立ち、身軽ではしっこい存在として知られている俺にも、そう言う時代があったってわけだ。

     そんな俺が現在どうやって食ってるかってぇと、これがなかなか洒落たものなのである。
     昔はゴミ漁りなんかで辛うじて凌いでいたが、それもとっくに過去の話。徐々に経験も積んで体が出来てからは、人間相手にかっぱらいもやったが、これはこれで目立ち過ぎて、トレーナー連中に追い回される危険が常に付きまとう。散々に逃げ走り駆けずり回った挙句、追い立てられてドブネズミの如く排水溝に潜り込むのは、如何にも泥臭くて頂けない。
     そこで無事進化も終え、コジョンドとなった俺が選んだのが、力ずくで目当てのものを奪い取るかっぱらいではなく、スマートに獲物を掠め取る、いわゆる掏摸(すり)と言う奴だった。
     実力的には尚の事力ずくが通りやすくなったが、それに頼っていたのではいい加減目立つ格好になったのもあり、本格的に駆除される恐れも無いとは言えない。野良ポケの間でも知られた存在になっていた事だし、何時までも汚い下水道に走り込むよりは、小奇麗にしていた方が格好も付く。
     何より、漸く実力に見合うだけのプライドを保ち、気持ちに余裕を持って生きる事が出来るようになったと言うのが、非常に大きかった。直接食いものを狙うよりもやり甲斐はあったし、『金』と言うものも持って行きどころさえ覚えれば、軽くて嵩張らない分取り回しが良い。
     身なりを整えて出すものを出せば露店の店主ぐらいは動かせたし、路上で憂鬱そうな顔をしている連中に少し多めに持っていけば、それなりの見返りは期待出来た。

     そして、起き出した俺がねぐらにしている排水管の残骸から離れ、今日最初のターゲットとして選んだ相手と言うのが、目下前方で浮付いている、一組の主従と言う訳である。



    「うわぁ、凄い……!」
     両脇に控える彼女らの中央で、引率役である少年は、無邪気な歓声を上げた。目の前にそびえる巨大な駅舎に目を輝かしつつ、年相応にはしゃぐそんな主人に釣られてか、反対側に位置する彼女の息子も、浮付いた気持ちを隠す事無く表に出して、周囲に広がるあらゆるものに、好奇の視線を彷徨わせ続けている。
     そんな両者の有り様に、事実上の最年長者でもある彼女は、溜息半分苛立ち半分と言った思いで、そっと軸足を入れ替えつつ肩を回す。物見遊山に来たような雰囲気の両者と違い、常に素早く、それでいて鋭く視線を移動させている彼女には、何処にも『隙』と言うものが無い。
     道行く人間とポケモンの波に向けられるその視線にも、無意識の内に相手の技量を推し量る武芸者としての本能が滲み出ており、淡く険を交えたその目付きは、即座に動き出せるように配慮された立ち姿と相まって、佇んでいる一匹の雌コジョンドに、自然と周囲を俯伏させる、侵し難い威圧感を与えていた。
     それは同行している両者には日常の一部分に過ぎなかったが、多少の心得を持って此方を窺っている招かれざる客人には、この上なく面倒な代物であった。

     しかし、無論彼女は、そんな事など知る由もない。目下の彼女の一番の関心事は、明らかに早きに過ぎた街への到着時刻と、好奇心にうずうずしつつ落ち着きの無い、二人の若者の動向についてであった。
     案の定、傍らに立っている少年は、駅舎の正面に掲げられている大時計と、自らの腕に装着されたCギアのデジタル表示を見比べつつ、首を傾げ始める。
    「う〜ん…… ちょっと、早く着き過ぎちゃったな。まだ約束の時間まで、3時間近くもあるよ」
     困(こう)じ果てたようにそう口にした少年の表情が、再び明るくなるのに大した時間はかからない。「まぁ」に続いて吐き出されたその意思表示を、彼女自身は渋い顔で、一方反対側に控える彼女の息子の方は、目を輝かせて受け止める。
    「まぁ、じゃあ折角だし、時間が来るまでにどこかへ行ってみよう! スイもサイも、ライモンの街は初めてでしょ? 姉さんからお小遣いも貰ってるし、偶にはゆっくりしようよ」
    「何時も頑張って貰ってばかりだからね」と付け加えられると、流石の彼女も何時までも仏頂面でいるわけにもいかず。時を移さずして一行は、ライモンの象徴である中央駅舎を離れ、主流となっている雑踏の波に乗って、東に向かって歩き始めた。



     駅前広場できょろきょろしていた連中が動き出したのは、間もなくの事だった。
     主人だと思われるガキンチョが腕時計を確認した後、俺と同族に当たる二匹の手持ち達に向け、何やらごにょごにょと話しかける。でかい方が不承不承、チビの方が嬉々として、と言った感じで頷くと、彼らの主人は先に立って、商店街が並んでいる東の方角に向けて進み始めた。
     その際、集団の中で最も長身である雌のコジョンドが、発ち際に鋭い一瞥を周囲に投げ掛け、駅舎の傍の植え込みに蹲っている俺の心臓を、薄気味悪く一撫でする。……無論見つかりはしなかったものの、余り良い気分ではない。正直止めて頂きたい。
     一応俺はこの街の野良の中では最強であると自負しているし、それ相応の実力もあると信じている。が、流石にああ言う手合いにちょっかいを出して、まともに立ち合えるとまでは思っていなかった。
     この街は、人間達によるポケモンバトルが盛んなせいだろう。偶に居るのである。逆立ちしても勝てそうにない様な、キチガイじみた戦闘マシーンみたいなのが。今視線の先にいる同族も、多分そう言った連中の一種であろう事は想像に難くない。
     目付きと言い立ち姿と言い、「私強いかんね、手ぇ出したらボコボコの半殺し確定だかんね」っつー感じの主張が、色濃く滲み出ている。恐らく生まれてからずっと、武辺一筋に生きてきたコチコチのバトル屋で間違いないだろう。そこそこ良い顔してるのに、勿体無い話だ。

     普段なら、ああ言う物騒な奴が関わっている的には、手を出さないのが賢明である。無理にリスクを冒さなくとも、ここは天下の大都会。標的になりそうなとっぽい野郎は、ちょっと探せばそこら中にゴロゴロしている。
     けれども今回、俺は敢えて、目の前の連中の後をつけて行く事に決めた。かなりリスキーな相手であるのは間違いなかったが、それに見合っただけの価値はあると踏んだからだ。
     恐らく、懐具合は温かい筈である。……と言うのも、主人に当たるガキの態度はどう見ても御上りさんのそれであったし、浮付いていて微塵も影の無いその様子から見ても、手持ちに不足があるとは思われない。此処の所余り良い収穫に恵まれていなかった俺としては、そろそろ一発当てて、好物をたらふく味わいたいと思っていた矢先だったのだ。
     俺もこう見えて、結構グルメなのである。昔苦労した分、貫禄が付いてからは反って世の中の楽しみや道楽と言うものに敏感になっちまったらしく、今では揚げ物の油がどれぐらい使い回したものかや、素材の鮮度がどんなものかぐらいは察しが付くようになってしまった。『野良ポケモンと言えば残り物』、と言った程度の認識しか持っていない屋台のオヤジ共から上物を召し上げるには、多少は割高の金額が必要になってくるのは説明するまでも無いだろう。

     そして、更にもう一つ。実は俺、大の酒好きなのである。ビールや焼酎、ウォッカにウィスキーまで、『アルコール』と付くものなら何だって構わないほどに、酒の類に目が無いのだ。
     昔、今の俺のねぐらに一緒に住んでたホームレスの泥鰌髭が、しこたま買い込んで来た酒とつまみで良い具合に出来上がっちまってた時、無理矢理缶ビールを押し付けられたのが、そもそもの切っ掛け。それ以来、俺はぐでぐでに酔っ払った時に来る、あの幸せな酩酊感の虜になってしまっていた。
     一杯引っ掛けて酔眼で周囲を見渡すと、自分の心の中がスッキリ晴れて、世の中の全ての事柄が、笑って許せるような気がして来るのである。舌も普段以上に良く回るようになるし、平素なら恐ろしくて出ていけないような場所にも、積極的に踏み出したくなってゆく。別に飲まなくてもやって行けるが、実に愉快な気分にしてくれるあの飲み物は、ある意味俺の生き甲斐の一つとも言えるものであった。
     ところがここ数年の内、人間達の間で何があったのかは知らないが、街角に立っている自動販売機から酒の類が尽く消え失せて、以前のように気軽に手に入れる事が出来なくなってしまっていた。前はコインを何枚か用意すれば造作も無く買えたと言うのに、今ではそれとは別途の手間賃も伴って、顔見知りのルンペン連中を通してでないと、缶ビール一本傾ける事が出来ないのである。起き立ちに感じたあの憂鬱を吹き飛ばす為にも、俺は是非とも久しぶりに、一杯やりたかった。
     俺は主に酒手を稼ぐ事を目当てに、此処で一勝負仕掛けてみる事にしたのである。



     駅前から出発した三者の内、最も小柄なコジョフーのサイは、今や前方を歩いている主人以上に、浮き立つ気持ちを抑えかねていた。
     歩けば歩いただけ珍しいものが目に入るこの街は、修業に明け暮れている普段の生活からは想像も付かないほどに刺激に満ち溢れており、文字通り退屈する暇がない。街に入った当初こそ、謹厳な母親の存在が頭の片隅にこびり付いていたものの、そんな事がどうでも良くなるのに、然したる時間はかからなかった。
     まだ日も昇り切らぬ未明の空の下、シッポウシティの外れにある小さな道場を出発した時には、こんな楽しい余暇が取れようとは、夢にも思ってはいなかった。それだけに、喜びも一入である。
    「へぇ……! 最新型の加湿空気清浄機だって。『臭いセンサー及びプラズマクラスター搭載、イオンの力で快適な日々を!』かぁ。なんだか良く分からないけど、すごいね」 
     箱形の機械が沢山並んでいるお店のショーウィンドウの前で、少年が感嘆の声を上げる。無論主人にも良く分からない様な代物が、ポケモンである彼に理解出来よう筈もなかったが、例えアイアントの爪先ほどの知識さえ持ち合わせていなかったにせよ、彼の気分が下向きになる様な事はなかった。『ぷらずまくらすたぁ』でも『いおん』でも、何だって良いじゃないか。別に噛みついてくる訳でもないだろうし。

     そうやってワイワイ騒ぎながら、尚も目抜き通りを進んでいく内。不意に先頭を歩いていた少年が立ち止まると、何やら目を輝かせつつ、前方の空を指差した。
     見上げた先にあったのは、鉄製の籠状の物をぶら下げた、巨大な輪っかの様なもの。機を移さず軌道修正した彼らは、遠くに見えるその奇妙な物体に向け、足取りを速めて進み続ける。
    『あそこに見えるのは、何だろう?』 ――期待を込めて弾む足取りで道行く彼には、背後に続いている母親の、不興気な眼差しに気が付くだけの余裕はなかった。



     好き勝手ふらふらしている連中の後をつけ狙いつつ、俺はなかなか手出しが出来ない事に、若干の苛立ちを覚えていた。
     大まかな流れは、当初の想定通り。ガキンチョ二匹はどうにもならない位に隙だらけで、唯一あのコジョンドだけが、当面の障害として立ちはだかっている格好である。
     傍から見る限り、チビのコジョフーの方も足運びや反射神経自体は悪くは無く、年の端の割にはそこそこ出来そうな雰囲気ではあったが、やはりそこはガキの哀しさ。見るもの全てに心を奪われ、主人共々きゃいきゃい騒いでいるばかりで、例え真後ろから髭を引っ張りに行ったとしても、絶対に仕損じる事は無いだろう。
     それに比べると、両者の後ろに影のように付き従っている同族の方は、兎に角薄気味悪いほどに死角が無かった。常に黙りこくって歩を進めているばかりで、必要以上に周りに気を取られる事も無く。時折周囲を鋭い目付きで睥睨しては、その度に物陰に避難している、俺の寿命を削り取っていく。止めろ。
     一度なんかは、ここぞとばかりに忍び寄って行った刹那、まさにジャストタイミングで振り向かれて、もう少しで叩き殺されるとこだった。咄嗟に近くにいたオッサンの傍に寄り添い、手持ちのふりをして事なきを得たが、正直生きた心地はしなかった。……何となく胡散臭そうな目で見られた様な気はしたが、思い過ごしだと信じたい。
     取りあえずその時は難を逃れた訳だが、もうこれで同じ手は使えなくなった。腹いせにケータイに向けてがなり立てているその中年サラリーマンの尻ポケットから紙入れを抜いて、中身を確認した後でゴミ箱にinしてやったのは余談である。スリの俺が言うのもなんだが、耳障りだから余所でやれっての。財布の中も如何わしげな写真入り名刺ぐらいしか入ってねぇし。
     そうやって俺が脂ぎった親父と戯れている間、連中は電機屋の店先で屯しつつ、機械の箱の群れにうつつを抜かしている。店先を通り過ぎる際、ついでにウィンドウの中を覗いてみると、箱の列線の傍にはズラリ並んだゼロと共に、『空気清浄機・加湿器』の文字。カシツキぐらい俺の住処にもあるっつーの。野晒しになってたのを昔の同居人が拾って来ただけだから、別に動く訳じゃないけれども。

     やがてそうこうしている内、不意に進路を変えたターゲットは、そのまま街の外れにある、遊園地の方へと向かい始めた。
     派手なアーチと街路樹の並木を抜け、躊躇いもなく中へと入って行く連中に続いて、俺も偶々同じ方角に向かっていた二組みの家族連れに紛れ、何食わぬ顔で敷地内に踏み込む。互いが互いのポケモンだと思ってちらちらと視線を向けて来る彼らを尻目に、ちょっと気取って大型の花壇を一つ飛び越えてやると、興味深げに見つめて来ていたガキ共が、揃ってはしゃぎつつ歓声を上げた。
     普段ならチラリと振り返って、格好付けて見せてやるのも悪かねぇ所だが、生憎今の俺は忙しい。案の定前方に視線を戻すと、追いかけていた連中は屋台に寄って、呑気にたこ焼きなんぞ頼んでやがる。
     チビ助コジョフーが受け取っているのは、立ち昇る白い湯気も眩しい、アツアツのチーズが乗っかった一品。物珍しげに楊枝をつまみ、嬉しげに頬張っているその様子に、未だ朝飯すら食ってない俺の腹が、虚ろな音色を響かせる。
     隣にいる主人の方は、受け取った自分の食いブチを少しでも冷まして置こうと口を尖らせており、その吹き掛けられた息によって煽られた削り鰹が、忸怩たる思いで見つめる此方の鼻の頭に、得も言えぬ様な香ばしい匂いを運んで来る。
     降って湧いたこの狼藉に、俺はますます逆上しつついきり立ち、戦意を燃え立たせる訳なのであるが――この期に及んでも例によって、空気の読めない同族野郎が行く手を阻む。主人に勧められるも首を横に振った雌コジョンドは、相も変わらず険を交えた表情で、ジロリと周囲を一亘り見回した後、己の前でたこ焼きを食べている、小さな同族に視線を戻す。
     ……何か当初よりも更に目付きが厳しく、ご機嫌斜めになっているように見えるのは、僕の気のせいで御座いましょうか?



     たっぷりの花鰹と揚げ玉が乗った、大粒のたこ焼きを頬張りつつ。少年は次の予定を定める為に、つまんだ楊枝を次の一個に突き立てて置いて、腕に装着したCギアを覗き見た。
     デジタル表示の文字盤は、現在午後1時を回った所。約束されている時刻まで、まだ1時間以上あった。
     ホッと一息吐いた彼の面上に浮かんだのは、勿論零れる様な笑み。傍らに控えている二匹のポケモンに対し、まだまだ時間が余っている事を告げた後、彼はもう一度爪楊枝を手に取ると、食べ良い具合に冷めて来たたこ焼きの更に奥に向け、その切っ先を潜り込ませる。
     手にした白樺の木片が、起点となる堅い蛸の身をしっかりと捉えたのを確認すると、鰹節が上面を覆い隠しているそれをゆっくりと持ちあげ、一口に平らげる。最初の一個で火傷した箇所が少し痛んだが、揚げ玉の歯触りと甘辛く濃厚なたれの味わい、そして主役とも言うべき蛸の切り身の噛み応えが織り成すそれは、そう簡単に飽きが来るようなものではない。
     満足げな表情でトレイの上蓋を閉じた少年は、続いて同じ様に食べるのに夢中になっているパートナーと、此方は中々打ち解けてくれず、何時も通りの雰囲気のままで付いて来ている武術ポケモンに、次なる目的地を指し示した。
     再び動き出した彼らの行く手には、ここに来る際目印となった、あの巨大な観覧車が鎮座している。

    「特定のポケモンについてはお断りさせて頂いておりますが、それ以外のポケモンでしたら、重量制限内なら問題ないですよ」
     一緒に乗れるのかと言う少年の質問に対し、係員の男性は笑顔で答える。念の為、特定のポケモンについて尋ねてみたところ、ダストダスやベトベトン、スカタンクの様な、色々な意味で密閉空間にはそぐわない種族が該当するのだと言う。それなら、格別問題は無いだろう。
    「原則的に二人乗りですが、小柄なポケモンやお子様連れであらば、多少の超過は大丈夫です。ごゆっくりお楽しみください」
    「ありがとうございます! ……だって、サイ、スイ! 大丈夫みたいだし、折角だから乗って行こうよ」
     振り返って声をかけると、二匹のポケモンはそれぞれの反応で、彼に対して意思を示す。……やはり、母親であるコジョンドのスイは、嬉しそうに踊り上がる息子と違って、あまり気乗りがしない様子だった。
     元々彼らがこの街に来たのは、彼女と言うポケモンの情報を、バトルサブウェイの対戦用システムデータに加えたいと言う申し出が、サブウェイの運営側からなされた為であった。言ってみれば、彼女にとっては今日の行程もその内容も、ある意味修行の一環に他ならないのである。
     どうやら謹厳な性格のスイには、今の様な物見遊山に等しい時間の潰し方は、それほど好ましいものではないらしい。少なくとも、そこまでは経験未熟な少年からも、窺い知る事が出来た。……そう、そこまでなら。

     けれども生憎彼には、本来は姉のポケモンであるコジョンドの気性を、完全に見抜く事は出来ていなかった。その為、コジョンドに向けられていた彼の注意は、直ぐに目の前に現れた別の存在へとシフトしてしまう。
     再び前方に視線を移した彼の目に留まったのは、ただ一つだけ他のものとは形状の異なる、妙に装飾の行き届いた籠であった。他の籠の2.5倍はある大きさのそれは、モンスターボールではなくゴージャスボールを模した塗装がなされており、内部には大きなテーブルが置かれていて、数人の大人達が食事を楽しんでいた。
    「あの、あれは?」
     先ほど言葉を交わしたばかりの係員に向け、少年は自分が見た物への疑念を、率直にぶつけていく。それに対し、親切な壮年男性職員は、今度も懇切な言葉と態度で、目を丸くしている子供に向け、笑いながら言葉を返してくれた。
    「ああ、あれはディナーワゴンだよ。あの20番ワゴンだけは特別製でね。予め予約を入れてチャーターすると、あそこで食事をしながら風景を楽しむ事が出来るんだ。君も大きくなったら、一度乗りに来てくれると嬉しいね」
    「へえぇ…… あんな高い所でご飯かー。良いなぁ」
    「まぁ、興味があるのなら、一度親御さんとも相談してみて。取りあえず今日は、ポケモン達と普通のワゴンに乗ってみて、観覧車がどんなものかを体験してみると良いよ」
    「さぁどうぞ」、と乗り場に続く扉を指して、一歩引いてくれた係員に対し、少年は元気良く返事をすると、そのまま次にやって来た籠の中に、二匹と共に乗り込んで行った。



     ガキ共が観覧車に潜り込んだのを見ると、遂に俺は待ちに待ったチャンスが訪れたものと意気込んだ。
     既に、隙をついて目的を達成出来る見込みは無いだろうと、諦めかけていた所である。こうなったら多少強引にでもと思った矢先に、この展開。まだまだ捨てたものではない。
     あんな所に缶詰めになってくれるのであらば、攻める側としては願ったり叶ったりの状況である。狭いあの密室の中では、例え何かが起こったとしても、迅速な対応は望めまい。不意を突いて死角から行けば、あの厄介な同族が暴れ出す前に、取る物盗ってずらかる事も、そう難しくは無いだろう。
     一度勢い付くと、物事と言う奴は考えれば考えるほどに、成算に満ち溢れているが如く感じるものである。雀躍した俺は、今度こそあの連中に目に物見せてやらんと、機を移さずに行動に移った。
     乗り場の手前でおずおずと佇んでいるミニスカートを横目に、同じくゲートに詰めている係員のオッサンの目をすり抜けて柵を乗り越え、回転している巨大な鉄枠の向こう側で身を伏せる。
     連中が乗り込んだ籠が目の前に差し掛かった所で、俺は素早く立ち上がるとそいつに手をかけ、他の人間の目に触れないよう反対側にぴったりと身を押し付けた状態で、遥か上空へと昇って行った。



     狭いワゴンの中は、異様な空気に満ちていた。
     より正確には、単に元々立ち込めていた雰囲気が、密室状態と言うその環境によって、露わとなったに過ぎないのだが……それでも、今までずっとそれに気付かなかった彼にとっては、それは文字通り唐突に訪れた災難以外の、何物でもなかった。
    「あの……母上?」
     無言のプレッシャーに負けて、コジョフーが恐る恐るといった調子で声を上げる。乗り込んだ当初こそ嬉々として目を輝かせ、持っていたチーズたこ焼きの残りをぱく付いていた小柄な武術ポケモンは、今や明らかに危険な雲行きを示している現状況に、完全に委縮してしまっていた。
     果たして目の前の彼の生みの親は、今日この街に着いてから初めて口を開いたと見るや、思わず全身の毛孔が縮み上がる様な低い声音で、目尻を痙攣させつつ声を絞り出す。……この間、彼らの主人は全くこの状況に気が付いておらず、更に外にへばり付いている招かれざる客は、密かにワゴンの扉を固定しているストッパーを緩めて突入の機会を窺っていたのだが、既に我慢の限界に達していた彼女には、そんな事に対して配慮を見せるような気配は一切なかった。
    「一つ、聞きたい。……一体私は、遠く外地に赴く際の心得と言うものを、普段お前にどう教えていた?」
     どう見ても穏やかならぬと言った風情の表情が、爆発寸前の憤怒で彩られるのに然したる時間は掛らなかった。思わず総身の毛を逆立てて竦み上がる息子に向け、あからさまに怒気――もとい、青光りするほどの殺気を放射しつつ、ゆっくりと無意識の内に腰を浮かし始めたコジョンドは、更にその数秒を以て、自らの中に立ち上ってくる憤怒を、言葉の形に捏ね上げて吐き出して行く。
    「卑しくも武芸家ともあろう者が、見知らぬ地にて何処までも腑抜けに気を緩め、一時として夢見心地から戻って来やぬとはどう言う……? あまつさえずっと付け狙われているのにも気付かず、主人の身を案じもしないで享楽にふけるとは……!」
    「……え゛?」
    「いや、あの……その」
    「……? どうしたの、スイ?」
     事ここに至って、流石に彼らの主人も異変に気付き、場違いなほどに無邪気な声で、激高しつつあるコジョンドに向けて尋ねかける。また紡ぎだされたその言葉は、外から中の様子を窺っていた招かれざる客の耳にも、しっかりと届いていた。……しかし、それら全てが既に遅く、また余計な刺激であった事は、誰の目にも明らかであった。
     次の瞬間、凄まじい勢いと剣幕で立ち上がり、「恥を知れ!!!」と怒号したコジョンドの一撃によって、息子のコジョフーは一瞬でワゴンの扉を突き破って外に飛び出し、外部にへばり付いていた客人はその煽りをもろに喰って、木っ端の様に宙を舞っていた――



     籠の中での会話に驚愕するあまり、思わず全身が固まっちまったその刹那――突然ものすごい吠え声と共に何かが炸裂し、鉄板にへばり付いていた俺は呆気無くそこから引っぺがされて、何が何だか分からないまま、中空に向けて放り投げられた。
     胸板を思いっきり打ん殴られた様に感じた次の瞬間には、頭から真っ逆様の状態でフライ・アウェイ。正直その時は、自分の置かれている状態が寸分も理解出来ずに、半ば茫然とした思いで、真っ青な空を見上げていた。
     多分そのまま何も起こらずに落下していれば、俺は正気に戻る前に頭から地面に叩き付けられ、実に詰まらん死に様を晒していたのは間違いなかっただろう。実際余りに唐突だったのと、全身に受けた衝撃がかなりのものだった為、直後何者かに右足を掴まれるまで、俺の意識は完全に上の空のままだった。
     しかし、そうはならなかった。逆さまにぶら下げられた状態で、俺は地上に向けて落下して行く鉄の扉を息を押し殺して見送った後、下界で上がる悲鳴を余所に、顎を引き下げ上を見る。そこには、片手で吊り籠の底部に掴まりつつ、もう一方の手で俺の右足を捉まえて歯を喰い縛る、あのチビ助コジョフーの姿があった。
    「うわぁあああ!? スイ、一体どうしたのさ!?」
     そんな主人の間の抜けた声が響き渡る中、小さな武術ポケモンは咄嗟に掴んだのであろう俺の片足を離そうともせず、表情を歪めて荒い息を吐いている。と同時に、どうやら地上でも事態に慌てふためいたのか、今まで回転していた観覧車の動きがガタンという音と共に停止してしまい、俺達は完全に、この広い空に取り残されてしまった。
    「……離せよ。お前じゃ無理だ」
     顔を真っ赤にして耐えている相手に向け、俺は思わずそう口走った。……正直この高さから落っこちて無事に済むとは思えなかったが、そこは俺も男である。
     義理も面識も無い相手に対し、ここまでに必死になれる様な根性の持ち主を、おいそれと道連れにはしたくない。我が身が可愛いのは山々だったが、薄汚い野良犬にも最低限度の意地はあるのだ。
    「このままじゃどうにもならん。一緒に落ちたかねぇだろう」
     だが、尚もそう呼び掛ける俺の男気にも、頑固なチビは一向に耳を傾ける気配が無い。それどころか、もう一度口を開こうとした次の瞬間、そいつは思ってもみなかった方法で、目下の情勢を是正しようと試みる。
     何とそいつは、大きく息を吸って指先に力を込めたと思いきや、鋭い気合いと共に俺の体を振り被って、一気に吊り籠の上部へと放り投げたのだ。
     流石に微塵も予想していなかった展開に、思わず俺は「ンきゃあああ!?」等と言った感じの意味不明な悲鳴を上げながら、無様な格好で投げ上げられた天井に落っこちる。辛うじて足から接地し、何とか武術ポケモンとしてのメンツは保たれたが、直後視界の内に入って来たのは、一番居て欲しくない相手であった。
    「……ウス」
    「う゛、母上……」
     間を置かず飛び上がって来たコジョフーも、俺と同じく息を呑み。吊り籠の屋根で俺達を迎えたのは、燃えるような瞳で此方を睨みつけている、あの恐ろしい雌コジョンドであった。隣に立っているチビが掠れた声を発すると、そいつはゆっくり足を開いて半身に構え、必死に愛と平和(ラブ・アンド・ピース)を希う俺の気持ちも弁えずに、自らの意思を明確に示す。
     更にそれに応じる形で、傍らに立っているコジョフーの方も雰囲気を一変させ、決意も新たに身構えるに及び、堪らず俺は首を巡らせると、隣のチビに抗議する。
    「おい、ちょっと待て。俺はまだやるとは言ってねぇぞ……!? 大体勇ましいのは結構だが、どう考えても勝てやしねぇだろ!?」
    「どうせ逃げても逃げ切れっこありません……! それなら寧ろ堂々と受けて立った方が、怪我も軽くて済みます。今ならまだ、二、三日呻るぐらいで勘弁してくれる筈……!」
    「ちっとも嬉しくねぇよ!!」
     救いの欠片もない相手の見通しに、全力で突っ込みを入れつつも。結局は俺の方も、前方の同族に向けて相対すると、何が起こっても即座に対応できるよう、重心を下げて軸足を直す。
     逃げようにも逃走ルートは一つだけで、そのたった一つの脱出口は、鬼婆コジョンドに塞がれている。何だかんだ言った所で、所詮は袋の鼠。目の前の相手を何とかする以外、手など無い。
     そして、そう俺が覚悟を決めたその刹那――まるで此方が決意するを待っていたかのように、殆ど微動だにしていなかった前方の相手が突如として動き出し、此処に戦いの幕が切って落とされた。

     俺が片足を引いて半身を下げ、嫌々ながらも戦う意思を示したその直後。いきなり前方で身構えるコジョンドの右腕が翻ったかと思うと、隣に立っているチビ助が、小さく詰まった呻き声を上げた。
     反射的にそちらを振り返って見ると、小柄な武術ポケモンは天を仰いでたたらを踏んでおり、驚愕に目を見張ったその額には、何か細い棒状のものが突き刺さっている。
     眉間の辺りに突き立っていたのは、先ほどまでコジョフー自身が使っていた、あのたこ焼き用の爪楊枝。俺は慌ててコジョフーの右腕を引っ掴むと、そのまま場外に向けて引っ繰り返りそうになっているチビ助を、際どい所で自分の側へと引き戻した。

     ところがしかし、危うい所を救ってやった相手の口から漏れ出たのは、礼では無くて警告の叫び。「気を付けて……!」と絶叫するチビ助の言葉にハッと顔を上げると、そこには既に何かの影が、目の前一杯にまで迫って来ていた。
     既に、回避も何も出来たもんじゃない。次の瞬間、俺はそれによって強かに顔面を打たれ、寸刻気が遠くなると共に、完全に視力を失った。
    「ンがあッ!? 目が、目がぁーーーっ!!」
     顔を押さえてそんな事を喚いている俺の体を、更に何者かが突き飛ばす。無様に金属板の上に転がる過程で何かが勢い良く風を切って頬を掠め、続いて鋭い気合いと共に何かがぶつかりあう衝突音が、「ん目眼めメMEぇ!」と全力で騒いでいる俺の背後から聞こえてくる。

     やがて何とか目をしばたかせつつ顔を上げ、涙ボロボロの状態で視界を取り戻して振り向くと、件の親子は目下盛んに技を繰り出し合って、狭い足場の上で暴れ回っている。顔面に『猫騙し』を喰らった俺がどうにか無事に済んでいるのは、どうやらコジョフーが俺の体を突き飛ばした後、身を持って時間を稼いでくれている御蔭であるらしい。
     しかし、それも長くは持ちそうになかった。
     腕先の毛を鞭の様に振るって攻め立てるコジョンドによって、コジョフーの体はあちこち腫れ上がって痛々しい有り様になっており、このままでは何時均衡が破れてもおかしくは無いだろう。……俺が顔面に一発喰らっただけで転げ回ったほどのダメージだ。あれだけボコボコにされて、平気で居られる訳がない。
     とは言ったものの、ここで俺が奮起して加勢に馳せ参じたとしても、事態が好転するとはバチュルの毛先程も思えない。同じコジョンドとは言え、向こうはもう何年も正統な修業を積んで来た化け物である。闇雲にぶつかった所で、勝ち目なぞあろう筈がない。
     と、その時。思わず絶望の呻きと共に天を仰いだ俺の目に、遥か頭上で泰然と鎮座している、一台の吊り籠が飛び込んできた。
     途端、俺はまるで電気仕掛けの人形の様にガバリと跳ね起きると、頭上に伸びる鎖を掴んで、鋼鉄の籠を吊り上げている、太い支柱によじ登り始めた。まるで何かに憑かれた様な面持ちで懸命に腕を動かす傍ら、未だ争っている二匹の同族の方をチラリと見やって、もう少しだけ耐えてくれよと、祈る様に念を送る。

     ――もうこうなったら、あれの力に頼るしかない。



     倒れていた野良コジョンドが、勢い良く立ち上がった時。コジョフーのサイはまさに藁にも縋る思いで、自分よりずっと長身の、その細身の獣に目を向けていた。
     既に体力は粗方消耗し尽くしており、これ以上孤立無援で戦うのは、事実上不可能に近い状態だった。完全に守りに徹しているにもかかわらず、母親の攻め手は何時も通りに峻烈で、僅かな呼吸の乱れや逡巡が伴う度に、彼の体に鋭い打撃を加え続けて来る。致命的な大技こそまだ貰っていなかったものの、このままの展開が続けば遠からず体が思う様に動かなくなって、『飛び膝蹴り』や『はっけい』辺りで止めを刺されてしまうのは目に見えていた。
     ところが、そんな彼の願いも虚しく――上を向いて起き上ったそのコジョンドは、パッと足元を蹴って飛び上がったと見るや観覧車の鉄枠に掴まって、必死に戦っている彼を尻目に、さっさと戦線を離脱し始めてしまう。
     直後に繰り出された『はっけい』をかわす為、咄嗟に横っ跳びに鋼鉄の板の上を転がるも、彼は見捨てられたと言う事実を前に、空漠たる思いが募って来るのを、如何ともする事が出来なかった。

     やがて万策尽き、体力も残り僅かとなった所で、彼は眉間を狙った一撃を避け損ね、楊枝が刺さって出来た傷を打たれて、「うっ!」と呻いてバランスを崩す。
     すかさず放たれた追撃の『はっけい』が強かに脇腹を捉えると、痛みと麻痺で息を詰まらせたサイは、横様に突き転がされたまま起き上がる事が出来なくなった。
     咳を交えた荒い息を吐きつつも、何とか持ち直そうともがいていたまさにその時――不意に自分の直ぐ隣でけたたましい落下音が轟き渡り、同時に身を横たえている鋼鉄の床面が、ぐらぐらと揺れた。
     痛手を負った体に多いに障ったその衝撃に、思わず顔を顰めている彼に対し、降って来たばかりのその人物は、実に能天気な声音で話しかけて来る。
    「ぃよお! 待たせたなぁ!!」
     声に応じて顔を上げたサイに対し、明らかに目が据わっていないその同族は、見て分かるほどに赤らんだ相貌を綻ばせ、実に愉しげな様子で笑い掛けて来た。



     突然戻って来た同族の様子に対し、今まさに一戦終えたばかりのスイは、今日と言う日が始まって以来最も強い、凄まじいまでの怒りの発作に見舞われていた。
     今目の前に立っているコジョンド――どうやら良からぬ企ての下、ずっと後を付けて来たと見えるその相手の状態は、明らかに普通ではない。視線は全く定まって無いし、上半身は固定されず、ふらふらとだらしな気に揺れている。顔色は傍から見てもあからさまに赤く染まっており、時折ダラリと垂らされる舌が、これ見よがしにペロリペロリと口元を舐める。
     臆面も無しに逃げ出した揚句、事が終ってからノコノコと帰って来たそいつは、どこからどう見ても完全に、『出来上がって』いた。

     普段から謹厳・糞真面目で通っている彼女にとって、それがどれだけ腹立たしい事なのか? ……残念ながらその事実を知っている者は、身に受けたダメージも忘れてポカンと同族の顔を見上げている、彼女の息子以外には誰もいなかった。



     吹きっ晒しの心地良い風に抱かれ、素晴らしい眺めが堪能出来るその場所に戻って来た俺は、最高にハイだった。
     先ほどまで一体何に怯え、何を恐れる必要があったのか? ホンの十数分前の出来事だったと言うのに、もう何も思い出せない。一体この場に、この世界に、何の不都合があると言うのか!

     あの後、俺は『何故か』必死になってこの大きく美しい観覧車の鉄枠をよじ登り、丁度俺達が今居る籠の斜め上に止まっている、一等馬鹿デカイ籠の中へと入り込んだ。
     そこで何が行われているかを知っていた俺は、突然扉が開いて驚き慌てる正装した男女を尻目に、真っ白いテーブルクロスの敷かれた中央にある食事台から、お目当てのものを取り上げてラッパ飲みにする。その瓶はワインであった。
     一本終えるとまた一本、更に選んだ最後の一本は大当たり。料理の仕上げにも使われる香り付け用のブランデーを飲み干したところで、俺はいよいよ今までの義理を果たすべく、勇躍その場を後にして、下方に見えるこの籠に向け、一っ跳びに帰還して来たという訳である。
    『行きは良い良い帰りは恐い』とは人間達の言うところであるが、よじ登るより飛び降りた方がずっと早いのだ。全く世の中、悲観的な考えが多くて困る。

     ところがこれほどまでに幸せな気持ちで一杯で、いっそ殴り合うよりも肩を抱き合って歌でも歌いたいぐらいの俺に対し、目の前に立っている同族は、到底そんな気分にはなれないらしい。
     どう見ても表情が引き攣ってるし、目元はピクピクして今にも耳から湯気が出そうな按配である。……よせよせ、そんな面。まだ若ぇだろうに皺になっちまうぞ。
     そんな心配を密かにしてやっていたのであるが、困った事にどうやらそれが、口を衝いて出てしまったらしい。いきなり相手の顔色が変わったとみると、瞬時に恐ろしい形相で地を蹴って、喚き叫んで突っ込んで来た。
     思いもかけない展開で、しかも動きがヤバいぐらいに速い。呆気にとられて目を見張る内、相手は一瞬で距離を詰めて来ると、低い軌道で地を蹴って、『飛び膝蹴り』をかまして来た。
     無論そんな物喰らえば、幾らなんでも平気では居られない。腹に入ればゲロッぱするだろうし、顎に当たれば宙を飛んで、ケンタロス座辺りまでぶっ飛んでしまう。流石にそれは頂けない。
     なので当然俺の方は、全力を傾けてそれをかわした。……いや、かわそうとしたと言うべきか。
     後ろに素早く足を送って、体を開いて避けようとした。ところがここでアクシデントが勃発し、後ろに足を送った所で、上半身が後ろにのめって流れてしまう。
     慌ててバランスを取ろうと手足を総動員してバタつかせたところ、あろう事か持ち上げた左膝が、突っ込んで来た相手の胃の辺りに、まともに突き刺さってしまった。相手の膝の方は俺がのけぞったので此方まで届かず、丁度カウンターが決まった形だ。
    「げッ……ほ!」と苦しげに呻き、ぐらりとよろける相手に対し、俺は何とか渾身の力で体勢を持ち直して、ふら付きながらも衝撃を受け止め、倒れないように踏み止まる。一方相手の方は、息を乱しながらも素早く立ち直り、俺が支えてやろうと手を伸ばす前に、サッと飛び退って再び距離を取った。
     尚も敵意を込めて烈しい視線を向けて来る雌コジョンドを呆れた思いで見詰めている内、俺はその強情さに辟易しながらも、今までは全く気が付かなかった、彼女の容姿に目を奪われる。多少怒りとダメージに青ざめながらも、顔の道具の配置や作りは俺好みであったし、厳しい修行に耐えて来たのであろう痩身は、力強く引き締まっていて誠に美しい。
    「良く見たら、あんた美人だなぁ……! こりゃ驚いた!」
     ――思った事がついつい口を衝いて出てしまうのが、飲んでる時の俺の悩み。特に今回は久しぶりだった事もあり、ちょっとハメを外し気味だった事は認めよう。

     だが、しかし……。気分良く褒めた心算だったのに、何故この台詞で怒るのであろうか?

     一瞬目を丸くしたように見えた相手は、直後今度こそ完全にぶち切れて、憤怒の塊みたいになった。
     顔は『赫怒』と言うのはこう言う状態を指すのだなと思えるばかりに紅潮し、最早赤いを通り越してドス黒く見え、口元は歯を食い縛っているのだろう、口辺が上がって尖った犬歯が覗いている。その余りの剣幕に、此処までずっと大人しくしていた、足元のコジョフーまでが悲鳴を上げ出した。
    「う……うわぁ!?」
    「何でここまで怒る必要があんだ……?」
    「そりゃ怒りますよ! どうする気なんですか!? もう此処まで来たら、一体どうすれば良いのか……」
     実の息子ですらこれである。となれば、赤の他人である俺なんぞに、有効な手立てが思いつく訳もない。
     流石にこの期に及んでは、続けてラブコールなぞ送れるもんではない。この状態で生まれて初めて、おぼろげながらも恐怖を感じた。これは本格的にヤバい。
     最早こうなってしまったからには、何とかして『良いところ』を見せ、少しでも怒りを解いて貰うより仕方ない。そう思った俺は、ここで普段でも滅多に見せない取って置きの大技を、彼女に対して披露する事に決めた。

     思わず竦み上がる様な形相で殺到して来た相手に対し、俺は平手で一発自分の顔を叩くと、真正面から一歩踏み出し、迎え撃った。
     初撃の『猫騙し』はしっかり引き付けて『見切り』でかわし、咆える様な気合いと共に打ち込まれた『はっけい』は、『はたき落とす』で軌道をずらす。
     一歩踏み込まれれば迅速に退き、振り上げられた鋭い蹴りを、体を反らして寸前で外す。更に止まらず三歩引き退く俺に向け、彼女が青白い波導を弾丸状に練り始めたところで、初めて俺は構えを改め、自分の方から攻勢に出た。
     両足に全身の力を込め、姿勢を沈み込むように下げた俺に向け、彼女は裂帛の気合いと共に、『波導弾』を解き放つ。高度な技量と豊富な修行量をして初めて可能となる必中の妙技は、青白く渦を巻きつつ凄まじい勢いで、俺を目掛けて突っ込んで来る。
     それに対する俺の方は、眦を決して覚悟を決めると、「はっ!」と短い気合いを上げて、思いっ切り後ろに向けて地面を蹴った。空中に浮かび飛び行く先に存在しているのは、このバトルフィールドとなっている吊り籠を支える太い鋼鉄の鎖と、それを固定している鉄骨の支柱。地を蹴りながら捻りを加えていた俺の体は、支柱に激突する頃にはほぼそれと相対する形となっており、接触した俺はそこに叩き付けられる代わりに、更にそこから手と足を使って壁を突き放し、三角跳びの要領で空へと駆け上る。
     流石の『波導弾』も、この急激な運動には対応し切れなかった。尚もしつこく俺の体を捉えようと追尾して来たものの、更に上を飛び違えるその軌道には付いて来れずに、何処までも高く澄み切った、遥か蒼空へと消えて行く。一方流麗な弧を描いて宙を舞う俺の方は、下方で茫然と目を見張り、今己が見た物を信じかねている雌コジョンドに向け、一直線に降下して行く。
     俺の奥の手・『アクロバット』。身軽で敏捷な特質を持った性格で、尚且つ高い身体能力を持った者だけが体得できる、飛行タイプの大技である。

     ……ここまでは上手く行っていた。そう、『ここまで』は。
     予定では俺は彼女の隣に着地して、とびきり爽やかな笑みを浮かべてこの技の感想を仰ぎつつ、あわよくば良いムードにでも持ち込む腹ですらあったのである。
     しかし、俺は酔っていた。……どの道酔いでもしてないと殆ど出さない大技ではあったが、それでもやはり素面の時に比べれば、多少は精度が怪しくなるのは致し方ない事である。

     軌道を僅かにずれていた俺の体は、そのまま彼女の手前ではなく、直接相手の頭の上までオーバーランして、盛大な浴びせ蹴りを、その美しい顔に叩きつけたのである。

    『こうかは ばつぐんだ !』



     満天の星空の下、俺はすっかり良い気分になって、自分の住処に帰って来た。
     片手に握った紙袋の中には、更に追加の缶ビールが何本か。つまみの類もしっかり買い込んで来て、抜かりや不足は更にない。

     あの後、俺は目を回している雌コジョンドや丸くしているコジョフーと共に、乗客の救助に当たっている係員等の飛行ポケモン達によって、他の乗客らと同様地上へと下ろされた。
     白昼堂々施設をぶっ壊した事もあり、かなり面倒な事態になりかかっていたものの、偶々例の大きな吊り籠(ディナーワゴンと言うらしい)に乗っていた客達が、俺と雌コジョンドの試合を大層気に入って取り成しや尻拭いをやってくれた御蔭で、大事には至らなかった。
     全部終わって釈放されると、ガキの奴はあんな目にあったと言うのに馬鹿なのか能天気なのか、事態が丸く収まったのは俺の御蔭だと言う結論に至ったらしく、一日連れ回される破目になった代わりに、実に良い思いをさせてくれた。
     彼らは俺の案内で街のあちこちを回り、礼と称して俺が目を付けたものは全てその場で買って分けてくれた。……ただあの雌コジョンドだけは、回復してからも塞ぎ込んじまって、自分のボールに閉じ籠っちまったきり、出て来ようとはしなかったのだが。

     別れ際、小僧は最後まで俺について来ないかと誘いをかけ、断り切るのに骨が折れたが、それは何とか振り切る事が出来た。
     そしてその時だけ、何故かあの雌コジョンドは自らボールを揺らして外に出る意思を示すと、巣に向けて戻って行く俺の背中を、刺すような視線で最後まで見送って来た。……御蔭で、折角の締めが幾分心臓に悪かったと言う事を、付け加えておかねばなるまい。ああ言うシチュエーションは二日酔い以上に性質が悪い。


     そして、今俺は独りねぐらに座り込んで、静かに星を見上げつつ酒を飲んでいた。……既に十分に酔い、この上もなく良い気分になっていたと言うのに、何時の間にかあの高揚感は消え去って、飲めども飲めどもちっとも盛り上がらなかった。
     昼間にかけられたある言葉が、ずっと頭の中にこびり付いて離れないのだ。

    「僕も大きくなったら、あなたや母の様な、強いコジョンドになりたい」
     二人きりになっても畏まった言葉ばかり使うチビ助に茶々を入れ、『ワタクシ』だの『母上』だのはねぇだろ、と突っ込んでやった時。はにかむ様に笑って言葉を改めたチビコジョは、からかう様にニヤ付く俺の顔を真っ直ぐに見返して、澄んだ瞳でそう告げたのだ。
     あの時の、嘘偽りの一切ない、真っ正直な告白。それが何か奇妙なうねりを、俺の心の底に植え付けてしまっていた。
    「あなたの様に」。『貴方の様に――』。これは果たして、適当な言葉なのだろうか……? こうして飲んだっくれている、しがない都会暮らしのスリを相手に。

     奴はまた、こうも言っていた。
    「僕も頑張って修業を積んで、何時か母に負けない位強くなります。何時かまた、出会えた時……その時は、僕もあなたに挑ませてください」、と。


     更に一頻り喉を鳴らすと、持っていた缶は空になった。
     次を出そうと袋の方へ手を伸ばすも思い直し、空き缶をヒョイと背後に投げ捨てた俺は、ふと思い出した事柄につられ、ぶっ壊れてただの粗大ゴミ以外の何物でもない、錆びついた加湿器に目を向ける。
     ――それを拾ってきた奴を、記憶の底から思い起こす為に。

     俺に酒の味を教えた相手。ガラクタを拾って来ては弄り倒し、暇にかまけて俺に人間の文字を教えたその男は、ある時奇妙な道具を自作して、このねぐらから出て行った。
    「もう、此処には帰らねぇ」
     そう言い捨てたその時は、『まーた始まりやがったか』としか思わなかった。……しかし、結局奴が戻って来る事は無かったのだ。
     数年後、その男が作ったガラクタが、『締め付けバンド』と言う名前でヒット商品になっているのを破れた古新聞で確認したのは、ある秋の終り頃の事だった。
    「そろそろまた冬か……」。そう呟く俺に合わせる様に、「そろそろまた冬が来るなぁ」と毎年の様にぼやいていた、物臭な同居人。寝場所を取り合い身を寄せ合い、酔っ払っては絡んで来たあの鬱陶しい居候が、心の底に空虚な穴を穿って行ったのに気が付いたのは、果たして何時頃の事だったろう――?

     そこまでの回想が終ると、俺はつと立ち上がり、紙袋を手に歩き出した。
     先程放り出した空き缶を蹴っ転がし、月を見上げて間延びしたおくびを一つ洩らした所で、漸く鬱々とした思いが吹っ切れ、何時もの調子が戻って来る。
     めっきり少なくなって来た虫達の声を掻き分けながら、俺は紙袋から干し烏賊の切れ端を摘まみ出し、端っこを一口齧り取ってから、口先に咥えてニタリと笑った。
     鼻先のスルメをピコピコさせて調子を取りつつ、鼻歌と共に上機嫌で進む俺の後ろには、縦に長細く引き延ばされた二重の影が、躍りさざめき付いて従う。

     やさぐれイタチ酔って候。
     気儘な夜風に背中を押され、過ぎ行く我が家にウインク一つ。小洒落たネオンに背中を向けて、足の向くまま気の向くまま。
     ……この酔いが醒めた時、果たして自分はどこにいるのか――? 今は全く分からないが、恐らくもう二度と、此処に戻って来る事は無いのだろう。

     それだけは、何処かではっきりと理解している気がしていた。





    ――――――――――――――――――――

    またもやお久しぶりになってしまいました(汗)
    何かとゲーム方面が忙しくて書き物が進まなんだとです。対戦脳もほどほどにってね……
    ジャパンカップは70戦以上やりましたが、レートは1500以上を維持するのが精一杯で残念、伸びませんですたorz まだまだ修行が足りませんね。 まぁ、リオルとカイリューが活躍できたから良しとして(ry

    言い訳はほどほどにして…… 此方は、ポケノベさんの所で開催された『文合わせ 冬の陣』にエントリーさせて頂いたものです。
    残念ながら、期間ぎりぎりだった上にテーマ不備で採点対象から外れる事となってしまいましたが、個人的に書きたかったものが書きあげられたのもあって手直ししてみました。あちらで評価して頂いた方々にも精一杯のお礼を込めて――

    尚、このお話の原案はtekoさんから頂きました。チャットで「最近ろくに書けなくて……」と愚痴ってたら、気分転換にとショートストーリーを提供して下さって、それが骨格となりました次第。
    故に、個人的にはこの作品は、tekoさんに捧げたいと思います。 有難う御座いました……!


      [No.2413] 血桜舞う季節 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/05/06(Sun) 22:47:47     72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    すっかり桜は散ってしまいましたが感想を。

    ヒロイン(と呼んでいいのか……)の窪田さんは、一見勇敢で生き物への思いやりを持つ少女のような印象を受けますが、
    その実態はとんでもない性質を持つ、狂人と呼ぶに相応しい存在だった、という展開が面白かったです。

    欲を言うなら、

    >植物に向かって謝らせたり。それだけでも十分変人なのに、彼女は死んだ生き物ーーつまり死骸までもを大切にした。あの事故の多い電信柱の前を通ったとき、車に轢かれた可哀想なポケモンの死骸を見つけると、彼女は駆け出して僕に埋めてあげようと言いだす始末である。

    上の文のある段落で初めて窪塚さんの名前が出てくるわけですが、結構早い段階で「変人」というネガティヴな印象を与えるワードが出てきています。
    これは読者に「窪塚さんは普通じゃ無さそうだ」と警戒心を与える結果になっているので、後半の狂気的なシーンのインパクトが若干薄れているように思います。

    また、

    >だが窪田結衣はとある事件を引き起こし、小学五年生のときに転校してしまった。それ以来彼女に会ったことは無いし、何の噂も聞かなかった。

    同じ段落にこの文も入っていますが、これは別の段落へ移動させて、かつ引っ越した理由をぼかしてみると、より面白い展開になると思います。

    上二つで言いたかったのは、後半の窪塚さんの狂気染みたシーンをさらに活かすために、直前まで窪塚さんをまっとうな人間に"偽装"しておいた方が面白いんじゃないか、ということです。

    参考になれば幸いです(´ω`)


      [No.2402] 桜の木の下には 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/04/22(Sun) 19:32:41     35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    色々埋まりすぎてて怖い。

    > 俺の目と鼻の先で、ダグトリオが地盤を掘り返している。

    > そういえば彼女も、ダグトリオじゃないけどモグラのポケモンを持っていたっけ。
    > それを知ったのは、彼女と別れた直前のことだったけど。
    最後二行でここらへんの意味が分かるのがすごい。すげー怖い。

    雑多な感想ですが、失礼します。


    即興……だと……。

    【その位置からダグトリオの下半身が見えるはずだ! さあどうなっている!?】


      [No.2391] それぞれの持論 投稿者:akuro   投稿日:2012/04/17(Tue) 01:34:25     43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ※会話文のみ



     あなたにとって、ポケモンとはなんですか?





     〜カントーの場合〜

     「愛すべき存在! どんなポケモンにだって、いい所はある! はず!」

     「はずって! じゃあシオンタウンで戦線離脱したぐれんはどうなんだよ。 アイツのいい所は?」

     「うっ……! え、えと……め、目が覚める色!」

     「それなんか違うだろ!」



     〜ジョウトの場合〜

     「うーん、仲間……かな? 一緒に冒険して、一緒に強くなる仲間!」

     「さすがヒバナさん! すばらしい答えですね!」

     「そうかなー? じゃあトモカは?」

     「友達……ですかね、一緒にいると楽しいですし」

     「あはは♪ 友達友達〜♪」

     「ヒバナさん!?」



     〜ホウエンの場合〜

     「……ポケモンはポケモンでしょ」

     「……」

     「……」

     「……え、終わりか?」

     「……はづき、まだキャラも決まってないのに出ていいの?」

     「そういうことは言っちゃダメだろ」



     〜シンオウの場合〜

     「家族かな。 一緒にいると、リラックスできるんだよねー ね、らいむ!」

     「うん! らいむもシュカと一緒にいると楽しい!」

     「らいむー! あたしのロメのみ食べたでしょー!」

     「あ、うみなだ〜♪ に〜げろ〜♪」

     「あ、コラ、待ちなさーい!」

     「あっはは。 今日も平和だね……」



     〜イッシュの場合〜

     「未知の生き物かしら。 知れば知るほど、もっと知りたいと思えるのよね……」

     「イケメンと一緒にいると、イケメンのイケてる度120%アップする存在!」

     「……」

     「特にカイリューとかと息ピッタリでバトルしてたらもう……キャーキャーキャーキャー!」

     「……今日もモモカは通常運転ね……」





    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


     風呂の中で思いついて深夜テンションで書き上げた。 

     新キャラをちょっとだけ説明。

     はづき ジュカイン♂

     エンジュの手持ち。 性格未定。



     トモカ

     ジョウトのトレーナー。 新SS(データ削除後のSS)主人公。 ヒバナを尊敬している。

     てか、キャラ多いな……でも、全地方の主人公+手持ちポケだし仕方ないか。

     [書いていいのよ]


      [No.2380] コミュニケーション・前編 投稿者:リング   投稿日:2012/04/12(Thu) 21:05:00     38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「あーあ……読書感想文とか面倒くさい……」
     夏休み前のうだるような暑さの中、図書室の中で俺はため息をつく。ここは自然に囲まれた町だからか夏でもわりと涼しいと評判だが、涼しいとは言ってもそれはあくまで『比較的』というレベル。なので、汗が鬱陶しいほど暑いことには変わりない。
     周りにはテッカニンの鳴き声がやかましく響き渡り、容赦のない日差しが上空から降り注ぐ。鮮やかな青い空は真っ白な雲を浮かべて晴れ渡り、木陰に隠れなければ肌を焼かれてしまいそうだ。日中、日常に生きる人間達は心なしかみんな元気がないか、空元気。祭りのときや水遊びの時だけ本気ではしゃぐといった様子である。
     そんな風に、人間は暑さに参っているというのに、外を飛び回るポケモン達は元気なものである。ハハコモリは体を一杯に広げて光合成し、ヘラクロスは木の幹を傷つけて樹液を吸う。
     ストライクは草原で忍んで獲物をせっせと狩っており、アゲハントは美しい模様を見せびらかして飛び回る。

     こんな暑さの中ではしゃぎ回っている虫ポケ達の元気さをうらやましく思いながら、俺は夏休みの課題である読書感想文で読む本を探す。この宿題に課題図書なんてものはなく、活字が主体であればどんな本を読んでもいいという緩いものではあったが、それはそれで逆に何を借りればいいのか悩みが増える。
     とりあえず、適当に図書室を回っているうちに見つけた本が、俺の目を引いた。
    「『手話をポケモンに教える方法』。へぇ、こんなものがあったのか」
     興味を持って適当に目次からパラパラとめくる。目次では前書きから始まり、そこから先はポケモンに対して手話を教える方法が事細かに乗っている。ポケモンは三本指の種が多いので、それに対応したアレンジされた動作や指の形がそれぞれ乗っているあたりも、ポケモンに教えると銘打った本ならではといった所か。
     どんな本でも感想さえかければいいという課題だけに、こういう本でも構わないのだろう。ポケモンに手話を教えるというこのコンセプトならば同時に自由研究の宿題も消化出来そうだし、一石二鳥じゃないか。
     それに、こういう内容ならば姉ちゃんも好きそうだし、家族の協力を得ればそれらしい研究結果だって出るだろう。
     こいつを借りようと、軽い気持ちで俺は手に取った本を借りる。


    「ただいまー」
     我が家のドアを開け、廊下を抜けて居間に行く。母さんはファッション雑誌を読んでソファに座っていた。
    「お帰りー、キズナ。ちゃんと夏休みの計画立てたー?」
    「ちょっと、母さん。帰って来るなりそれはよしてよー……」
     母さんはいつもこんな調子である。口を開けば宿題だ勉強だと。やっていない自分も悪いけれど、これではやる気も無くなるってば。
    「一応、夏休みの宿題二つ分はテーマも決めたよ。自由研究と読書感想文」
    「あら、珍しい。……と言っても前例が二回しかないから、めずらしいというのは早計かもだけれど」
    「そうだよ、前例が二回しかないんだから……珍しいとか言わないでよね」
     母さんはこれだから一言多くって、思わず漏れるため息。
    「で、何をやるのかしら?」
    「えーと……これだ。これ見てよ」
     俺がランドセルを漁り、中にあるハードカバーの本を取り出す。
    「なになに……『ポケモンに手話を教える方法 堀川一樹著』? なにこれ、これで読書感想文と自由研究やるの?」
    「そのまさかさ」
     と、俺は母さんに答える。
    「いや、『まさか』って言っていないけれど……」
    「だから母さんは一言多いってば……」
     全く、これだから母さんは。呆れながら頭を掻いて、俺は言う。
    「とにかく、ポケモンが挨拶だけでも出来るようにすれば、それなりに先生への言い訳にもなるでしょ」
    「先生への言い訳って……楽する気満々じゃないの。宿題なんだからまじめにやりなさいなー」
     母さんは本をぱらぱらとめくりながら困った顔を作って、ため息交じりにそう言った。
    「いいじゃん。夏休みはやりたいことをやらなきゃ損だよ。自由研究も読書感想文もぱっぱと終わらせられるに越したことないでしょ?」
    「まぁ、やらないよりはましね。わかったわよ。がんばりなさいな。で、その宿題いつから始めるの?」
    「うーん……ぼちぼち」
     答えをわかって聞いているんじゃないかと思うような質問をするもんだね、母さん。
    「夏休み前に始めたほうがいいわよー。アンタの事だからどうせ、終わり近くになって焦るんだから」
    「えー……時間のある時にやりたいよ」
    「そう言って2回ほど宿題をギリギリまでやらなかった貴方がよく言うわね。ま、それでもきちんと仕上げるのが貴方のすごいところだけれど」
     痛いところを……もう、これだから母さんは。
    「ほ、褒めるか貶すかどっちかにしてよ……」
    「どっちもよ。貶されたくないのなら今日からやりなさい。まずはそうねぇ……夕食までに、手話で『いただきます』と『ごちそう様』を覚えておかないと夕食出さないわよ? 指南書には、『まずは日常の挨拶から覚えましょう』って書いてあるし……『家族がいる場合は家族みんなで同じ動作を取ることで、比較的早めに言葉を覚えてくれます』らしいから、私も覚えておくわ。だから、貴方も頑張ってね」
    「ふあい……じゃ、じゃあ……道場に行って来る」
    「行ってらっしゃい。みんなが勉強できるようにコピーをたくさん取っておくわ」
     母さん、無茶苦茶やる気になっているし……もしかして俺は、間違った選択をしてしまったのだろうか。

     ◇

    「と、いうわけなのよ。キズナったら、面白いものを宿題に選んだわねー」
     本を見せられながら、私はそんなことを言われた。妹の宿題に付き合えとか、なんでそんな……冗談じゃない。いや、一応私にも自由研究の宿題はあるから、共同で研究すれば宿題の手間を掛けなくてもいいと考えられるかもしれないが。
    「それにしても懐かしいわね、アオイ」
    「な、何が懐かしいの?」
     夏休みを邪魔されたくないという物思いにふけっていると、母さんが私に言う。
    「ほら、貴方は昔、プラズマ団のNに憧れていたじゃない?」
    「あー……無名だったのにあっという間にチャンピオンになって、格好良くってしかも強かったからね」
    「あら、アオイったら憧れた理由も忘れちゃったの?」
     母さんは笑って痛いところを突いてくる。
    「あと、ポケモンと話が出来るところ……」
    「でしょう? あんた、幼稚園のころから何度も何度もアキツに話しかけて、アキツ困っていたじゃない。果ては野性のポケモンにまで手を出して……出来の悪い娘だとは思ったけれど……あそこまで馬鹿だと、今でも話が止まった時の笑い話に困らなくって助かるわねぇ」
    「あーもう、言わないでよぉ。それに、Nに憧れていた時期はもう、ポケモンと話すことなんて諦めていたでしょ?」
    「はいはい。でも、諦めていたけれど、憧れは捨ててなかったじゃない? 他の女の子が格好いいから会いたいと言うNに向かって、貴方はうちのポケモンと会話をしたいからNと逢いたいだなんて言っちゃって……テレビの前で」
     図星、図星。顔から火が出そうに恥ずかしい。私の考えていることなんてみんなわかっていて、嫌になる。親はこうなのかなぁ?
    「どーせそうですよ。夢見がちな乙女ですよ。いいじゃない、女は夢見がちな方が素敵よ」
    「お、アオイちゃんはロマンチックなのね」
    「もういいから!! もう!」
     私は母さんからそっぽを向ける。だが、なんだかんだで私はキズナが持ってきた本が気になって、それを手に取る。キズナの前には誰も借りていなかったその本には、ブルーレイディスクが閉じこんであり、紙面だけでは伝えきれない色んな物を丁寧に教えてくれる代物のようである。
    「アオイちゃん、今はテレビ空いているわよ?」
     じっとそのディスクを覗いていると、何がしたいのかさとったらしい母さんがそう語りかける。
    「見ておく」
     このディスクに出てくるポケモンは成功例だろう。その成功例が、どんなふうに会話ができるのか。期待しながら私は見ることにした。

     そのディスクの中にある『実際に会話してみた様子』を撮ったプロモーションムービーに出てきたイツキという男は圧巻であった。滑舌の良い発言と一緒に身振り手振りでポケモンと話し、ポケモンの動作に合わせてポケモンが言わんとしていることを口ずさむ。
     このムービーの中では、口頭による指示を出せないバトル施設、バトルパレスに於いてこの方法で指示を下した思い出を語る。彼はその反則ギリギリな方法によってバトルパレスで優秀な成績を残し、そしてパレスガーディアンの称号を勝ち取ったという。
     その際に活躍し、なおかつ今も傍にいるサーナイトとの会話は本当に取り留めもない苦労話や自慢話ばかりであるが、まるで人間と語るようにスムーズに会話を交わす様子には、思わず目が釘付けになる。
    「そうそう、『この子』は『自分』が『覚え』た『手話』を『他の子』にも『教えて』くれたんだ。そしたら『いつの間にか』、『みんな』が『挨拶』『出来る』ようになってね」
     スムーズに手を動かしてイツキが語ると、次はサーナイトが手を動かし、それをイツキが訳す番だ。
    「『みんな』、『貴方』と『話し』たかったんです……だって。いやぁ、『嬉しい』ですね」
     サーナイトの手話を観察しながら、イツキは照れた様子で語る。このサーナイトの特性はシンクロであるらしく、手話では伝わりにくい微妙なニュアンスまで彼は把握しているとのこと。カメラの前だからというのもあるだろうが、本当に楽しそうに会話している。
    「この人本当に……完璧に話している……のね」
     私は母親に言われたことを思い起こす。このホワイトフォレストは自然が多い分、多種のポケモンが生息している。思えば、幼いころの私はポケモンも持たずに草むらに入り込んで、どこかで自分と話が出来るポケモンがいないかと探し回ったものだ。
     その時は幸いにも野性のポケモンに襲われるようなことはなかったけれど、山で迷子になったところをアキツに助けてもらったんだっけ。アキツはあまり感情を表に出さないから、何を考えているのかよくわからなかったけれど、あの時お礼を言った私の言葉は、きちんと届いていたのだろうか?
     この動画を見ている限りでは、ポケモンに対して言葉が通じているようにも思えるが、相手の感情を読み取れるサーナイトが相手だから、他のポケモンにもこの認識が通じるのかがいまいちわからない。けれど、もしアキツが言葉を話せるようになるのならば……
    「アキツに、私の思いが伝わるかもしれないわね」
     画面越しでもポケモンと話すことの面白さは十分すぎるほど伝わってくる。そのおかげではやる気持ちが抑えられない私は早々にプロモーションムービーを終え、初歩の初歩のプログラムである挨拶の章を選択し、流した。


    「ただいまー」
     キズナが道場の講習を終え、まだ夕日がさす帰路を走って帰って来た。いつもよりも早い午後6時の時間帯で、こんな時間に帰ってくるのは珍しい。いつもはあと30分遅い。
    「お帰りー」
     すでにして、キッチンと一つの部屋にまとまっているリビング・ダイニングキッチンからは良い匂いが漂っている。香ばしい香りに加えてじゅうじゅうと油のはじける音が食欲をそそる。いつもより早めとはいえ、疲れて帰って来たキズナにとっては食欲を誘う匂いだろう。
    「母さん、本はどこにやったの?」
    「あらぁ、今日は宿題をやる気なのね。お母さん感心」
    「飯抜きにされちゃあたまんないからね……」
     キズナはため息をついていた。なるほど、母さんそんな縛りを設けていたのか。
    「で、なんでそれに私までつき合わされなきゃならないのかねー」
     本を持って手を動かしてぶつぶつと挨拶を唱えながら私は言う。自分で言うのもなんだけれど、言葉とは裏腹に私のやる気は満々である。
    「姉ちゃん、別に手伝ってくれなんて言っていないだろ? というか、本返せよ」
    「母さんが手伝えって言うのよ」
    「ていうか、どーせねーちゃんノリノリなんだろ? 俺が3歳の時に迷子になって、家で一人お留守番させられたこと、今も忘れてないんだからな? あんときゃ不安で怖くて泣いちゃったからなぁ……わたくし可哀想な妹ですわオホホ」
    「ぐっ……痛いところを……」
     この生意気なガキめ。でも、何も反論できない自分があまりに悔しい。
    「本の内容なら母さんがたーくさんコピーしてホッチキスで止めているから、それでも見れば?」
     悔しさ混じりに顔をゆがめないよう注意して、私は印刷された紙のある方向を指差す。というか、母さん家族の人数分コピーする必要までは流石になかったんじゃ?
    「ところで、父さんは?」
    「今日は特に連絡がないから7時には帰って来るんじゃないのかしら?」
     キズナが母さんに尋ねると、母さんはフライパンを振るいつつ軽い口調で答えた。
    「そっかぁ……じゃあ、アキツに言葉を教えるのもその時だね」
    「そうよ、キズナ。だから挨拶くらいはきちんと覚えておくのよ?」
     アキツは父親が毎日の出勤に使っているポケモンだから、父さんが帰ってくるまでは教えることは出来ない。それまでに、キズナにも挨拶だけでも覚えてもらわないとね。
    「本当にねーちゃんノリノリだし……」
    「いいじゃない、キズナ。私も、夏休みの自由研究の議題にさせてもらうわ」
    「え……なんか、アイデアの流用とかズルい」
    「いいからいいから」
    「よくねーよ」
     なんとでも言え、優秀な妹よ。図々しさなら私のが上だ。
    「いいから、さっさと挨拶を覚えましょ? まずは、帰ってきてすぐにご飯を食べるわけだから、『いただきます』と『ごちそうさま』を覚えなさいよー? それ覚えないと食事抜きなんでしょう?」
     私が命令すると、うんざりしたのかキズナはため息をつく。
    「勘弁してよ……楽しようと思ったのにこれじゃあ、束縛が厳しいじゃないか……」
    「夏休みの宿題に対してそういう心掛けだから、神様が罰を当てたんじゃない」
    「それだとねーちゃんが神になってしまっているんだけれど」
     あら、キズナってば上手いことを言う妹ね。
    「いいから」
     私はぴしゃりと言って、無言の圧力をかける。
    「わかったよ……」
     先ほどまで文句を垂れていたキズナも、ようやく私が本気であることを悟ったのか、しぶしぶながらに服従した。
    「私も協力するから。真面目にやらないと許さないんだからね? まずは……『いただきます』から覚えなさい」
    「へいへい」
     『いただきます』を表す時は、両手を合わせてお辞儀をする。一応、似たような動作を日常生活でもやっているので、これは簡単に覚えられたし、キズナも簡単に覚えてくれた。
     声に出しながら何度か繰り返し、次は『ごちそうさま』を。『ごちそうさま』は右手のひらでほほを軽く2回か3回叩き、両手のひらを上に向け、少し曲げる。その体勢から両手をすぼめつつ、下におろして、『ごちそうさまでした』。
     テレビ画面を見ながら何度か巻き戻しと再生を繰り返すことで、ようやく体に染みついてきたそれを終えて、私はついでとばかりに『おやすみなさい』や『お帰りなさい』や『ただいま』を覚えるようにキズナへ強要する。
     なんだかんだで、やり始めてみるとキズナ自身嫌々やるというようなことも無くなり、手話を覚えることにまじめに取り組んでいる。母さんも料理にひと段落つくと一緒に参加したのだが、私と母さんが好きな男性タレントが主演の番組が始まることでようやく作業は中断された。
     バラエティ番組なので、あまり興味のないキズナはとりあえず画面を見るが、手元には手話の本を持って片手間に暗記している。私も同じことをしていたので、母さんには二人揃ってご苦労さんねと笑われたのが、ちょっとだけ照れ臭かった。

    「ただいまー」
     しばらくして、父さんが帰ってくる。母さんはすでにキズナ(と私)の宿題の事を父さんに連絡していたらしく、いつもは家に着くと同時にボールの中にしまうウチのポケモン、アキツを外に出したままの帰宅である。
     父さんはアキツに付けたおんぶ紐を取り外し、取り外したゴーグルとヘルメットを片手に扉の前に立っている。
    「『おかえり』、なさい」
     右手を上から下に振りつつ、その手で左手首を叩く。いつもよりも大きな声で、そして動作に合わせてゆっくりと。私は手話を交えてそういった。
    「ただい……ま?」
     そして、父さんは二回目のただいまである。大事なことでもないし、二回言う必要はないと思うが、こうして戸惑うのも仕方のないことなのかもしれない。
    「本当に、手話をやるつもりなのか」
     後ろを見れば、キズナも私の隣まで駆けてきた。
    「まあね。アキツ、よく見ておけ。『おかえり』、なさい」
     父さんがいつも通勤のお供にしているポケモン、アキツを見上げて俺は手話を教え込む。玄関の外、アキツはきょとんとして二人を見下ろしていた。
    「本当はもっと近くでやりたいんだけれどなー……」
     でも、出来るわけがない。首を傾げるだけで、地響きのような重厚な音が響くこのポケモンは、ゴルーグというポケモンで、その大きさたるや平均身長で2.8mもあるのだから、ボールでも使わなければ玄関から家に入るのは難しい。
     通勤用のバイクが欲しいという父さんの願いと、ポケモンが欲しいという私の願いが超融合した挙句にこのポケモンなのだから、通勤用のポケモンを飼えばいいという結論に至った母さんのセンスは流石であると思う。いつもゼブライカとかの方がよかったんじゃと思っていたが、庭仕事なども手伝ってくれるし、今回の事もあるので案外これが正解なのかもしれない。

    「アキツ……見てた?」
     と、私が語りかけてみるが、アキツは黙して語らない。無表情で、自分の感情を表に出したがるようなポケモンではないことは知っているが、そもそも挨拶自体を理解しているのかどうか気になってくる。
     しかし、もう遠い記憶ではあるが、アキツが小さいころ。ゴビットのころは、私達の真似をして浜辺でカイス割りなんかをして遊んでいたこともあったし、遊びといった非生産的な活動に興味がないわけじゃない。だから、挨拶の意味を理解する希望がないわけではないはずだ……と、思う。これ、一応自由研究の考察に書いておこう。

     問題は、人間の真似を、意味が分かってやっているかどうかなんだけれど。そんなことを考えているうちに、母さんも玄関までやってきた。
    「アキツ、おかえり、なさい」
     なんだかんだで母さんまでもが乗り気で、私と同じように大きな声でゆっくりとやってくれる。アキツはと言えば、巨大な手の平を頭に当てて、どうすればいいのかわからず混乱している。
    「はい、お父さん」
     そう言って、私は父さんにコピーした紙を渡して、『ただいま』の動きを強要する。ゴーグルとおんぶ紐を玄関のフックにひっかけた父さんは、紙の前で一時停止して、数秒後に動き出す。
    「『ただいま』……二人とも」
     肋骨の境目あたりの高さで両手は物を押さえるように動かし、次いで右手を右目の前に置き、指の先をくっ付けつつ体の外側へ向けて斜め下に手を動かす。
     本日3回目の『ただいま』である。ゴルーグが空を飛ぶ際に発する熱気のせいか、ゴーグルが曇るほどの汗だくで帰ってきた父さんは、いきなりこんなことに付き合わされてげんなりしているのか、ため息をついていた。
     私は色々と済まない気持ちになった。キズナや母さんも済まない気持ちになっただろうか?



     ◇

     自分が物心ついたころに読ませてもらった本は、人間とポケモンが普通に話している本だった。
     ポケモンが貧しい人間のお願いを聞いて回るお話で、そのポケモンが病気になった時に今度は村の皆がポケモンを助けるという、王道過ぎるストーリーだ。他にも色んな物を見せてもらったが、シキジカが森の仲間と一緒に成長する物語や、コリンクが親の敵を討ちとる話など、ごく普通にポケモン同士が会話をするものばかり。
     そんなお話を見ていたせいか、自分はポケモンと人間が話せるもんだと思って、アキツがゴビットである内はアキツに向かって何度も何度も話しかけた。母親や友人に諭され、馬鹿にされて、うすうす無理だとわかっていてもやめなかったけれど、人間に近い形であるポケモンならば大丈夫だと信じて居たかった。

     アキツが進化した時は、その巨体ゆえに私は彼を恐れ、避けるようになってしまい、そして5歳の私はものすごい無茶もしたものだ。世の中には人間とテレパシーで通じ合える伝説のポケモンがいると聞いて、野山に繰り出し伝説のポケモンを探しに行ったのだ。案の定迷子になり、両親はキズナを一人留守番させて、近所の大人総出で探しに出るような大騒ぎとなった。

     私が一人泣いていたその時、色んな人が探しに来てくれた中で真っ先に駆けつけてくれたのはアキツであった。当時ゴルーグに進化したばかりの彼は、自転車に変わって父さんの通勤手段になっており、空を飛ぶ能力で上空から私を探していたのを今でも覚えている。
     彼を避けるようになってからは嫌われていると思っていたのに、アキツは助けを求めて叫ぶ私を見つけると、優しく手の平に乗せ肩車で野山を下ってくれた。その時アキツが何を思っていたのかは知らない。けれど、それを知りたい。

     思えば、その一件で私は余計にポケモンと会話することに対して憧れを強めたのだと思う。会話したいがためにテレパシーが使えるポケモンを探して大目玉をくらったというのに、懲りない奴だと自分でも思う。
     アキツの事が怖くなくなった私が、再びアキツに話しかけたのもそのころだ。その際は無表情なアキツでさえは困っていたことがわかるくらいに話しかけていたと思う。
     さすがに小学校に入るころにはポケモンと会話することも諦めたけれど、それでも憧れだけは強く残った。ポケモンと話すことが出来たらどんなに素敵なことだろうとか、そんなことが出来ればきっと楽しいだろうとか。
     二年前、元チャンピオンのNが登場した時も同じことを考えて、冗談交じりにアキツに話しかけたりもした。しかし私はポケモンと話すことはついぞ叶わなかった。けれど、手話という方法なら……あのサーナイトのように、話せるのかもしれない。ある意味、最後の希望であるこの方法。キズナが偶然持ってきたこの方法に、私はまじめに取り組まざるを得なかった。

     なにより、これが出来れば妹にはない、私だけの取り柄にもなるしね。




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    『ゴルーグは蚊に刺されることもないので、アキツは外で眠らせても特に問題はないという。実際、彼はモンスターボールから出して庭で眠らせても(しゃがんだ体勢で眠っているので周囲の人に驚かれるが)嫌がる様子はなかった。流石に雨が降ったときはモンスターボールに入りたがるのだが、基本的にモンスターボールの外に居られるほうが嬉しいらしい。
     手話を始めるにあたって、アキツに挨拶しやすいようモンスターボールの外に出して生活させるのは正解のようだ。おはようからお休みまで、とにかく手話漬けの生活を送ると、一週間もしないうちにアキツは手話であいさつを返すようになった。
     『空を飛ぶ』、『下す』、『おんぶする』、『物を持ち上げる』、といったような単語も覚えてくれて、手話のルールもきちんと理解できたらしい。

     さて、困ったことが二つある。まずは一つ。人間の手話には、5本の指で文字を表す指文字というものがあるが、これを覚えることは難しいと書いてあった。
     音を文字であらわすという事が理解させるには相当苦労し、幼いころからきちんと教えていないと覚えるには時間がかかるんだとか。一番記憶力のいいフーディンは人間の五本指に対応していないので、特別な指文字を人間が覚えなきゃいけないのだと。その『特殊な指文字』というのは、参考にした本の著者が勝手に考え作ったものを参考程度に乗っけられているだけだから何とも言えないんだけれど……。
     と、とにかくそれならそれで、指文字なんて後まわしだ。もう一つの困ったことというのは感情の教え方だ。感情について教える方法があればいいんだけれど……どうすればいいんだろう?

      借りてきた本には、ポケモンと気持ちを通じ合わせるために、感情を教える方法というものが書かれている。基本的な喜怒哀楽から、羨ましいとか、怖いとか。
     楽しいという感情を教えるのは難しくない。楽しい時に『楽しい』という単語を教えれば済むことで、すでにその単語の意味は覚えている。夏休みも始まり、父さんが休みで通勤にアキツを使わない日、彼を連れだし河原で遊んでいる時に、簡単に覚えてくれた。
     ただ、手話では『嬉しい』と『楽しい』は一緒くたにされているから、『楽しい』という単語は『面白い』という単語で代用している。具体的には両手をグーにして、両手の小指側でお腹を2回程、叩く動作で表させている。
     どれもそれぞれ意味やニュアンスが違うけれど、嬉しいと楽しいはやっぱり違うと思う。テストで百点とっても、嬉しいけれど楽しくはないし……

     『怒る』という単語も、教え込んだ。これは、私が妹のおやつを勝手に食ってしまったというシチュエーションで喧嘩の演技をしているところをアキツに見せただけだが、どうやら演技はバレることなく伝わったらしい。流石に一回では覚えてくれなかったけれど、以降も自然に発生した『怒り』の光景に合わせてその言葉を教えてやれば、自然に何らかの反応をするようになった。『怒る』という単語は、鬼の角を意識して指を立てる動作をするのだが、それをするゴルーグは何というか……新鮮だった。

     さて、上記にある通り、嬉しいという単語は『楽しい』という単語を使って表現した。具体的には両手のひらを左右の胸にあて、左右の手が上下対称になるように上下に動かすという動作である。『嬉しい』という単語を教えると、まず最初にアキツは『自分、嬉しい、ありがとう』と伝えてくれた。アキツ自身、表情の変わらないゴルーグという種族柄、自分の感情を伝えることも出来ずにもどかしさを感じていたのだろう。不十分ではあっても、こうして感情を伝えられることを嬉しく思い、そして感謝してくれるのならば、私もやってよかったと思う。
     問題は『悲しい』という気持ちを教える機会がないという事だ。怒ることのめったにない仲良し家族な俺達でも演技さえ駆使すれば、『怒る』という言葉の意味を理解させるくらいは出来た。出来たのだけれど、『悲しい』演技なんてものは、さすがにシチュエーション作りも難しいから、実際にその言葉を教える際に作者である一樹さんも悩んだそうだ。
     とりあえず、この本によればポケモンもテレビの内容はきちんと理解できる(らしい)という研究結果をもとに、映画を見せながら言葉を教えたらしい。上手くすれば、登場人物が泣いているシーンにポケモンが同情することもあるそうだと……でも、近所にはビデオ屋なんてないんだけれどな……』



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     私はそこまで書き終えて、自由研究のノートを閉じる。
    「まだ、会話を自由自在にできるようになるには程遠いわね」
     私はため息をつくが、それでもアキツの賢さは目を見張るものがある。この一ヶ月であいさつするだけならば全く困らないし、彼が表せる言葉はもう200を超えているんじゃないかと思う。
    「はー……これで1ヶ月分は何とかなったわけだけれどなぁ……というか、楽に終わらせようと思った自由研究で夏休み終わっちゃう……全然楽じゃねえ」
     後ろすぐ隣で私のレポート用紙を見ながら作業しているキズナは、そう言って鉛筆を置き、ため息をついた。

     ともかく、沢山の言葉を覚えたわけだが、細かい言葉を教えることももちろん大事だけれど、やっぱり基本的な言葉を覚えるのはとっても大事だと俺は思う。
     『嬉しい』、『楽しい』、『憎たらしい』、『悲しい』。無表情なアキツが、感情を伝えたがっていたことは、先日の会話ですでに分かっているんだ。きっと、悲しいなんて感情でも、いつかは表現したいと思う時が来るし、私はそれを教えたい。
     そう思って、本を捲って読んでみて出会った、『映画を見せればいい』という記述には希望が見いだせた。しかし、今度は新たな問題が浮上する。それは適当な映画や映像作品が無いということだ。ここ、ホワイトフォレストはドがつくほどの田舎である。しかも、そのホワイトフォレストの中でも僻地のここは、道路状況も悪いおかげで、街まで自転車で1時間かかるし、バスは2時間に1回あればいい方だ。
     結局、いつも街へ仕事に行っている父さんにDVDを借りてきてもらうことになった。

     私は、キズナと一緒に事前に一度映画を見る。それで映画の内容を把握してみると、なるほど悲しい話だと思う。キズナは普通に見ているというのに、私は涙ぐんでいて、無様に鼻水まで流しているのが姉として、見た目の面で悔しい。これを見て、アキツはどういう風に解釈するのだろうか? 悲しいという事を、テレビ越しに感じ取ってくれるのだろうか?
     いや、むしろ……今までの事も理解して『くれていた』のだろうか?
     こうして手話を覚えたことで、色々な感情を表せるようになったことで分かったけれど、ポケモンも人間と同じように考え、想う心はあるんだ。それがどこまで同じなのか、もっともっと知ってみたい。5歳の時のあの夜、私が怖かったこと。アキツに見つけてもらって嬉しかったこと。そしてアキツが大好きなこと。
     全部伝わっているといいし、相手も同じように思ってくれればいいのだけれど。『ありがとう』は教えたけれど、どこまで意味を分かっているのかなぁ? プロモーションビデオで見た、まるで本当に人間であるかのように喋っていたサーナイトの姿を思い浮かべて、私は思う。
     きっともっと、心を通じ合わせることが出来るよね、アキツ。

     ◇

     私達は二度目の映画を見る。二回目だというのに不覚にも涙ぐみそうになるのを必死でこらえ、私とキズナはアキツに手話を教え込む。
    「アキツ。これが、『悲しい』って『気持ち』なのよ」
     アニメーションの中で、母親を失った少年が泣いている。評判のいい作品だけに、父さんのセンスは悪くないと思うが、実写でも通じるかどうか不安なことを、アニメでわかってくれるのかどうかが不安だった。
     窓の外から固唾をのんで液晶画面を見守るアキツに身振り手振りで単語を教えてみるが、どれほど理解してくれているだろうか。
    「そう、これが悲しいって気分なの」
     キズナも、一緒になって教える。しかし、むずかしいことに、ここにも手話の問題点が立ちふさがる。『悲しい』という言葉を表現するための動作は、『泣く』という動作と似ている。『泣く』という単語は、アキツと一緒に近所の森で遊んでいる最中、盛大に転んでひざを擦りむいて泣いている子供を見ながら教えて、すぐに覚えてくれた。
     目の下に、涙をつまむように手を当てるのが『泣く』。そのまま下に手を動かすことで、涙が滴り落ちる様子が『悲しい』。一応、動作に違いは存在するけれど、勘違いするんじゃないだろうかと思うと心配だ。
     『悲しい』という言葉を二人掛かりで教えると、アキツは一瞬考える。
    『悲しい、泣く、同じ?』
     予想通りだった。アキツは、泣くことと悲しいという言葉を一緒くたにしている。一応、『泣く』と『悲しい』の動作に変化は付けているものの、その違いについては理解が及ばないらしい。
    「『違う』よ。『泣く』から、『悲しい』、わけじゃない」
     手話を交えて、私はアキツにそう教える。
    「『泣く』のは『悲しい』『とき』だけじゃない。『痛い』や、『嬉しい』でも、『泣く』ことは『ある』さ」
     ポケモンはめったに涙を流さないというし、ましてやゴルーグが涙を流した話なんてもちろん聞いたこともない。むしろ、このアキツに対して何をどうすれば涙を流すのかがまずわからない。
     涙を流したことがないアキツには、人間が涙を流すという事がどういう事かを理解していない節があったが。やはり生態の違いによる感情表現の違いが何とも難儀しそうである。

     まずは『死んだ』ら『悲しい』という事を教えようか? 何度も何度も死ぬシーンを見せて、繰り返し教えてみれば意味は理解するだろう。他の映画でも同じようなシーンを見せて、死を理解して、そこでやっと死ぬと悲しいことを理解するのだろうか。
     『胸』が『痛い』と、説明したいところだが、物理的な痛みならばともかく、心の痛みなんてもの、アキツは簡単に理解してくれるだろうか? これは説明も難しそうだ。
     そうやって考えていると、アキツは私達に何かを訴えてくるではないか。
    『ずっと、眠る、悲しい?』
     死ぬ、という言葉を、彼は『ずっと眠る』と表現して訪ねてきた。無表情な彼の顔からはどんな感情も読み取れはしないが、彼は首を傾げているので、疑問を表現していることがわかる。
     ポケモンはカートゥーンなんかでよく見かけるな、喋るポケモンのような賢いポケモンはいないと思っていたけれど……なかなかどうして、ポケモンは思った以上に賢いようだ。
     そう。『死ぬ』って良く考えれば『ずっと眠る』ことだもの。アキツの表現は非常に的を射た表現である。
    「『ずっと』『眠る』は……」
     そう言えば、自分はまだ『死ぬ』という単語を手話で表す方法を知らなかった。私は慌てて『死ぬ』という単語を本から捜し、それを教える。
    「『ずっと』『眠る』って言うのは……『死ぬ』って言うのよ」
     顎の前で合わせた両手を右に倒すことで『死ぬ』と表現をする。
    『死ぬ、悲しい?』
     すると、アキツは早速『死ぬ』の動作を真似て尋ねる。ゴルーグは古代では労働力として重宝されたというが、この記憶力の良さも労働力としての売りの一つなのかもしれない。
    「そう。『死ぬ』のは『悲しい』ことなのよ」
     そんな風に私が教えると、再びアキツは考える。
    『わかった、ありがとう』
     『悲しい』という単語を理解したのか、アキツは嬉しそうに手刀てがたなを切り、ありがとうと言う。
    「『どういたしまして』」
     そう言って返すと、アキツは嬉しそうにギュイーンと鳴いた。
    「おー、ねーちゃんスゲーな。ブリーダーに向いているんじゃね?」
    「なに言っているのよ。私はただ……ポケモンと話してみたいだけで……」
    「別に、ポケモン育てるのが好きで、それなりに実力があるならブリーダーなんてそれでいいんじゃねーの? ポケモンと話すってのも、夢物語でもなさそうだし」
    「あー……っていうか、そんなことより……続きを見ようか、アキツ?」
     すっかり映画の雰囲気をぶち壊してしまい、うるんだ涙も引っ込んでしまい、微妙な気分だ。会話がうまく成立したことによる満足のせいで悲しい気分もどこかへ行ってしまったが、アキツは律儀に庭の外から映画の内容を見守っていてくれた。
     どれくらい映画の内容を理解してくれているのかよくわからないが、なんとなく雰囲気を理解して楽しんでいるから良しとしよう。終わった後に、アキツは『楽しい』と言ってくれた。それが何よりも嬉しかった。

     ◇

     結局、夏休みの自由研究は途中結果のみの発表となったが、それでもかなりの評価を受けて全校集会で発表させられる羽目になる。夏休みが終わってからも手話を教え続けていると、ポケモンは予想だにしないほど多くの感情や言葉を理解していることにも段々と気づいてきた。
     意味を理解させるのに苦労させたことや、言葉の動作を忘れてしまって上手く言葉が出てこないこともある。しかし、基本的に物覚えも理解力も高いアキツが相手ならばイライラすることはなく、なんで言葉を覚えてくれないのかと躍起になることはなかった。
     もちろん、私が一番頑張ったとはいえ、その陰では家族全員が予想外なほどに協力してくれたことが成功の主因である。特に母さんに至ってはもう一人子供が出来たみたいで嬉しいと、嬉々として言葉を教えている。
     キズナも最初は楽するつもりだったというのに、いつのまにか自主的かつ真面目に手話を学び、そして会話に手話を混ぜてアキツに教え込んでいた。父さんこそまだたどたどしいものの、この自由研究のおかげで家族全員が手話を使えるようになってしまい、アキツとの会話もスムーズだ。
     まぁ、私が一番上手くアキツと話せるんだけれど。

     他の家でも真似する人はいたんだけれど、家族の協力を得られなかったり根気が続かなかったりで全員挫折。
     そう言った報告を聞く限りじゃ、うちの家族の団結力も高いと思うし、つくづくアキツは賢いポケモンだと思う。それこそ人間とほとんど相違ないんじゃないかと思うほど、アキツは賢くふるまってくれた。
     今では流暢に手を動かし、生意気なくらいに喋って来るから鬱陶しいくらいだ。父さんの職場でも、ゴルーグに興味がなかった女性にまで人気が出てきたとかで、アキツはそれに対して鬱陶しいと思いつつもまんざらではないと、手話でコメントしていた。


     月日は過ぎ、暑かった夏の面影も消え去り、今はもう町には冷たい風が吹きすさんでいた。ただでさえど田舎であるこの町は空気も澄んでおり、冬という事もあって宝石を散りばめたように満天の星空が煌めいている。町は目前まで迫ったクリスマスのムードに包まれており、私の家がある所はそうでもないけれど、繁華街に行けば煌びやかなイルミネーションがあたりを光で包んでいる。
     アキツは驚くほどの勢いで手話を覚え、あのブルーレイのサーナイトほどではないものの流暢に話す姿は目覚ましい。今なら聞きたいことも聞けるだろうかと思って、私はアキツを外に連れだし、散歩する。
    「ねぇ、アキツ?」
     顔を上げて、私はアキツに語りかける。
    「『昔』ね、『私』が……『家』に『帰られ』『なかった』の、『覚えて』るかしら?」
     まっ白い息を吐きながら私は尋ねる。迷子という言葉を知らなかったので回りくどく言ってしまったが、きっと伝わることだろう。アキツは、少し考える。
    「『飛んだ』『探す』。『夜』『お前』『泣く』」
     そう言ったアキツは数年前の夜にあった出来事をきちんと覚えているようである。
    「そう、『貴方』が『空』を『飛ん』で『探して』くれたわね。『あの時』ね……『何度』も『ありがとう』って『言った』けれど……『それ』が『貴方に』『伝わった』のか……『わからない』から『心配』だった。でも、『貴方』には……『ありがとう』の『気持ち』『伝わって』いるのかな?」
     手をひとしきり動かし終えて、私は真っ直ぐにアキツを見つめる。
    「『ありがとう』『聞いた』『嬉しい』」
    「ありがとうって言われて……嬉しかったのね?」
     私は問い返す。
    「『当然』『理由』『お前』『家族』」
    「そう……」
     どうやらアキツには何もかも伝わっていたようだ。それだけじゃない……小さいころから何をやってもダメで、迷惑ばかりかけてきた自分だけれど……こういう風に、ポケモンだって私を必要としてくれるんだ。
    「『嬉しい』」
     それを言葉にしてみると、全身に暖かいものが駆け巡るような、そんな感覚が私を包んだ。
    「『貴方』に、『手話』を『教え』て……『今日』『一番』『嬉し』かった……」
    「『私も』『嬉しい』『手話』『楽しい』」
     そして、アキツも答えは一緒。こんなに嬉しいことはない。きちんと伝わっているのかどうか怪しかったあの時のお礼はきちんと伝わっていたんだね……それがわかっただけでも嬉しいけれど、アキツもそういうことを伝える手段が出来て、喜んでくれている。
     無表情で、何を考えているのかもわからないようなゴルーグだけれど、彼だって人間のように何かを考えているし、それを伝える手段を探している。むしろ、無表情だからこそ、伝える手段を探していたのだろう。恐らくは今まで自分の想いを伝えられなくってもどかしい思いをしたこともあったのだろう。
     でも、今なら伝え合えるのよね。Nのように、目を見るだけで伝わるようなことはないけれど、でも十分。嬉しい。そう、嬉しいんだ。
     家族だって伝えられて、ありがとうって伝えられて、そして分かり合える。
    「ねぇ、アキツ。『手』を『繋い』で」
     私が頼むと、『了解』と言ってアキツは優しく私の手を握る。歩幅を合わせるのがとても大変そうだけれど、きちんとアキツは私に付き合ってくれる。こんな時でも無表情なアキツだけれど、その表情の下に渦巻く感情があるのを私はしっかりと知っている。それがわかるだけで、私は誰よりも幸せになれた自信があった。

     家に帰って私は、放置されっぱなしで埃の被ったレポート用紙に書き加える。

    『この研究のおかげで、私は家族と今まで以上に親密になれました。これを持ちかけてくれた妹も、付き合ってくれた家族も、何より一緒に喜んでくれたアキツにも。皆、ありがとう。』


      [No.2367] レベル50 投稿者:くろまめ   投稿日:2012/04/08(Sun) 21:38:24     50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「すみません。バトルタワーにエントリーしたいんですが……」
     
    「ああ、新規の方ですね。本日はまことにご利用いただきありがとうございます。ご不明な点がございましたら、お気軽にお尋ねください」

    「はい……実は僕のポケモン、50レベルを過ぎてしまっているんですが……」

     どうにも落ち着かないのか、まだ若いトレーナーは腰につけてあるモンスターボールを左手でいじっていた。

    「大丈夫ですよ。バトルタワーではポケモンのレベルを調整できるように整備されていますので」

     トレーナーの緊張を和らげるためなのか、営業スマイルなのかは分からないが、社員が作る笑顔を見て、彼は安心したように息をついた。

    「そうなんですか。レベルを調整できるだなんて、驚きです」

    「正確にはレベルを調整するわけではなく、能力値を調整するんですよ」

     彼のふとした疑問にも、社員は笑顔を崩すことなく答える。

    「それはどのように?」

    「例えば、タウリンやインドメタシンなど、ポケモンの能力値を上げる薬品がありますよね? そのベクトルを逆に応用し変化させ、体内のたんぱく質を分解し筋肉量や技のキレ具合を下げるんです」

    「それはすごいですね。どうしてそのような薬品が、一般店で販売されていないんでしょう?」

     初めから変わらぬ笑顔で、社員はにこやかに答えた。



    「ポケモンのホルモンや新陳代謝を乱す有害な薬品が多量に含まれているので、一般販売はされておりません」


     トレーナーはバトルタワーを後にした。


      [No.2356] オレとアイツと焼き鳥と 投稿者:akuro   投稿日:2012/04/04(Wed) 20:09:16     38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「あかね、かえんほうしゃ!」

     オレの横を、あかねが放った真っ赤な炎が通り過ぎて行く。 その炎はバトルをしていた野生のオニドリルに見事にヒットし、焼き鳥が出来上がった。 ……って、オイ。

     「あかね、もうちょい手加減できねーのか?」

     オレは一仕事終えたあかねに問いかけた。

     「バトルに手を抜くなんて、有り得ない」

     ……同情するぜ、焼き鳥、もといオニドリル。

     「そうだよらいち! バトルはいつでも真剣にやらなくちゃ!」

     あかねの後ろにいたモモコがうんうんと頷きながら言った。 まあ、その気持ちは分かるが……。


     オレたちは今、まだまだ弱いワタッコのあおばにバトルを見せて、経験値を稼がせている所だ。 当のあおばは空中に浮かび、炎が当たらないギリギリの所でバトルを見物している。 ……器用だな、アイツ。

     そんなことをしていると、焼き鳥の匂いにつられたのか、草むらからゴマゾウが出てきた。 ああ、ご愁傷様です……。

     「あ、ゴマゾウ発見! あかね!」
     「了解」

     モモコがあかねに指示を出し、あかねは炎を吐き出す為に息を吸い込んだ。

     ゴマゾウは臨戦体制をとっていたが、怖いのかその瞳は潤んでいる。

     「……」
     「モモコ? 準備オッケーなんだけど」

     あかねのそんな声が聞こえてモモコの方を見ると……固まってんのか? あれ。


     「……」
     「オーイ、モモコー? どうしたんだー?」
     「……か、」
     「か?」





     「か、可愛いいいーー!!」

     いきなり叫んだかと思ったら、モモコはゴマゾウに飛びついてぎゅうーっと抱きしめた。 その速さといったら、カイリューもびっくりだ。

     「……モモコ? どうしたのよ」
     「可愛すぎるー! この子とは戦えないー!」
     「……」

     ……オイモモコ、お前さっき「バトルは真剣に」とか言ってなかったか?

     「あ、あそこにヤドン発見! あかね、最大パワーのかえんほうしゃー!」
     「了解」


     ……ヤドンはいいのかよ!



    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     ほぼ実話。 ゴマゾウ可愛いよね

    [なにしてもいいのよ]


      [No.2345] 生態系が乱れるとか(笑) 投稿者:音色   投稿日:2012/04/01(Sun) 16:56:21     82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ポケモン死んだりします。ワンクッション。



     大量発生の原因究明はしなくても、ポケモンを逃がすトレーナーは諸悪の根源とか(笑)
     ポケモン解放を謳う宗教団体に対しては特に何もしないのに、バトルの強いトレーナーには反発するとか(笑)
     あー、後者はあれか。多少の規制っぽいのはしていたけど?廃人に対する風評よりはマシっていうか?
     それにしてもメディア素晴らしすぎるワロスwww。
     見事に元々はただの過激な少数意見を煽ってあおって膨らまさせていかにも『世論は廃人撲滅運動を推進している』だwwとwwかww。
     なんかさ、全体的に馬鹿ばっか。
     ニュースのいうこと真実だとさ。新聞に書いてあること正しいってさ。ゴシップ記事こそ疑うっていうのにそこそこまともそうな雑誌に書いてあったからきっとそうなんだとかさ。
     そうやって俺達追い詰めて何が楽しいの。世間が無難なことばっかりだから何か憎むべき悪っていう対象を常に祭り上げておかないと気が済まないわけでしょう?
     ひゃっはぁぁ!
     そしてあっさりそれに流されちゃう国会もどうかしてるよ―。流石、立法行政司法に次ぐ第4の権力マスコミwww。
     小さなポケモンを野に放つのはかわいそうとか(笑)
     生態系が乱れるとか(笑)
     世間様の目を気にしてそれなりにおざなりの事を言う学者とwwかww。
     専門家とかいう肩書って便利ですよねー、はいはいワロスワロス。
     

     え?俺?
     ごめん廃人とかじゃない。あと別に廃人目指してるとかでもない。
     俺はそうだな、特に何を仕事としてるわけじゃないし。強いて言うなら狩人か、適当に食ってやっている。
     いやでもさー、ここまで派手に情報がピックアップされてると笑えちゃうわけよ。俺はシンオウの山出身でさ、ポケモン食うのとか皮剥いだりするのが普通だったしさ。
     大体、都会の人間とか自分が食ったり使ったりしてる原材料知ろうともしてないんだもんww。
     原材料表記規制法?地味な法律の名前でポケモンの名前を極力漢字とかに書き変えてるんだもんねwww。そりゃ知らないかww。
     出稼ぎでイッシュとやらに来たんだけども、ここも派手だねww。プラズマ団とか俺吹いたもんww。故郷に宇宙人いたけどこっちにも宇宙人とかww。
     とりあえずポケモンはその辺にいた角材運びを蹴ったおしてボールに入れたのでこいつと一緒に森で狩りしてます。
     ドッコラ―って得物を持ってるだけあって手際が良いしね。昨日も森に適当に放たれた茶色いウサギを仕留めてくれたし。
     適当に皮剥いで肉は美味しく頂きました。皮はしばらくほしておいて良い感じにたまってきたら適当に売りさばいてます。
     この間までは廃人がガンガン逃がしてくれてたから食うのに困らなかったのにな―。最近はムカデの毒抜きとかそんなのばっかりなんだよね。
     政府の人も早い所撤回してくれねぇかな。っと、そろそろ日が暮れるから帰るわ。じゃ。


    ――――――――――――――――――――――――――――――――
    余談 全力でふざけ倒してみた。後半は若干クーウィさん所のパロディです(設定が)

    【なにが書きたかったのかもカオス】
    【好きにさせていただきました】
     
     


      [No.2334] サクライロノヒミツ 投稿者:ラクダ   投稿日:2012/03/31(Sat) 23:06:51     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ねえ知ってる? 桜の花ってね、元々は全部白だったんだよ。大昔に桜の名所で大きな戦いがあってね、そこで流された血を吸って赤く染まってしまったんだって。その木の子供たちが色んな所に散らばったから、今の桜は全部うすーい赤なんだよ。
     それでね、時々、濃い赤の花が咲く木があるらしいんだけど……それはね、新しい血を吸っているからなんだって。根元を掘り返すと、死体がたくさん出てくるんだよ……。

     満開の桜の木の下で、私に囁きかけた女の子は小さく笑った。特別な秘密を教えてあげる、彼女のきらきら光る瞳がそう語っている。有名な“桜の下には死体が埋まっている”という都市伝説、正しくは小説の一文そのままの話だけれど、あんまり楽しそうに話すものだからこちらも素直に乗ってあげる事にした。
    「そうなんだ、そんな怖い話知らなかったなあ。それ、どこで聞いたの?」
     問えば、お兄ちゃんがこっそり教えてくれたのだと胸を張る。絶対に秘密だからなって言ってた、だからお姉さんも他の人に言っちゃ駄目だよ。大真面目に語る彼女が可笑しくて可愛らしくて、私は笑いを堪えるのに必死だった。
    「分かった、誰にも言わないって約束するよ。でもいいの? そんな大事な秘密、私に話しちゃって。お兄ちゃん怒らないかな?」
     途端に女の子は表情を変えた。頬をハリーセンのように膨らませた彼女の話を要約すると、些細な喧嘩の挙句に自分を公園に置き去りにしたお兄ちゃんの事なんて知らない、とのこと。なるほど、それで一人寂しくベンチに座り込んでいたのか。哀愁漂う姿が不憫で声を掛けてみたらすっかり懐かれてしまった。まあこちらとしても、話し相手が出来ていい退屈しのぎになったけれど。
     しかし、お兄ちゃんは知ってるのかな。今この辺りにはとても危険なものが……うん?
    「ひょっとして、あれがお兄ちゃんかな? ほら、あのフェンスの向こうの」
     私が指した方を振り向いて、女の子は小さく声を上げた。公園を囲むフェンスの陰に隠れるようにして(目の粗い網だからほぼ丸見えなんだけど)、少年が一人こちらの様子を窺っている。バツの悪そうな顔でもじもじしている彼に、女の子はなんともいえない視線を向けた。許してやろうか、まだ怒っておこうか。彼女の迷いが手に取るように分かる。
    「ね、もうそろそろ日も暮れるし、お兄ちゃんと仲直りしておうちに帰りなよ。暗くなったら野生のポケモンも出てくるかもしれないし」
     実際、夜になって人通りが少なくなると、ポケモン達も大胆に草むらから出てくるようになる。夜行性で闇に目の効くポケモンを相手取るには彼も彼女もまだ幼すぎるし、二人ともトレーナー免許を得ていないなら尚更だ。それに万が一、夜道でアレに出くわしでもしたら大事になる。少しでも明るいうちに帰ってもらいたい。
     野生という言葉に怯んだのか、ううーんと唸った女の子はちらちらと少年を盗み見る。迷いに迷ってから、意を決してベンチから飛び降り少年に向かって歩き始める……前に、彼女はこちらを振り返ってお姉さんはどうするのと尋ねてきた。
    「私? うん、ちょっとここで待ち合わせしててね。ちゃんとポケモンは連れてきてるから大丈夫よ。気にかけてくれてありがと」
     ひらひらと手を振ると、女の子は安心したように笑って一直線に少年の元へ駆けて行く。ここからじゃ声は聞こえないけれど、身振り手振りのやりとりで何を話しているかは大体想像できる。おっ、お兄ちゃんが謝った。申し訳なさそうに両手を合わせて頭を下げる少年を前に、女の子がやたら満足気な顔をしているのが可笑しくて、私は今度こそ声をあげて笑った。  
     夕暮れ時を柔らかに吹きゆく春の風。ほんのり赤みを帯びた花弁が、仲良く手を繋いで歩き去る二人を追うように飛んで行った。

     
     
     
     彼女が帰ってきたのは、もうとっぷりと日が暮れた後だった。
     ベンチ後方の草薮から、かさこそと密やかな音が聞こえてくる。続いて、鈴を振るような軽やかな声。
    「おかえり。首尾はどうだった? ちょっと顔を見せて」
     振り向いて声を掛けると、彼女は了承の印に体を震わせた。くるりと回転しながらの“日本晴れ”、辺りが一瞬にして明るい日差しで満たされる。と同時に顔を覆っていた蕾を跳ねのけて、彼女は美しい五つの花弁を露わにした。ああ、何度繰り返してもこの変化の瞬間を見飽きることはないだろう。桜色よりもっと濃い、どちらかといえば赤に近い大きな花弁。額の二つの玉飾りと同じ、綺麗な深紅のつぶらな瞳。華やかな姿へと変わった彼女は、つやつやした黄色い丸顔に笑顔を浮かべて囀りかけてくる。
    「ふうん、見つけたけど物足りなかった、と。確かにいつもより赤みが少ないね。まだお腹すいてる? そう。じゃあ場所変えようか」
     嬉しそうに体を揺らして同意する。彼女の踊るような足取りに合わせて、私も立ち上がって歩き始める。
     静まり返った公園を出て、人気の無い路地へと入り込む。先ほどの“日本晴れ”の効果はまだ続いている、もうしばらく話をする間は持つはずだ。
    「今日、あなたを待っている間に新しい友達が出来てね。小学生くらいかなあ、小さな女の子。懐かしい話を聞かせてくれたよ、ほら『桜の下には』っていう……駄目よ、その子は絶対駄目。子供には手を出さない約束でしょ」
     不満そうに花弁を震わせて口を尖らせる。全く、本当に食欲優先なんだから。ため息を堪えて、上目づかいにじっとりした視線を送る彼女に妥協案を提示する。
    「ね、知ってる? この辺りに最近、通り魔が出るんだって。夜道を急ぐ若い女性や塾帰りの女の子を狙って、覆面男が刃物を持って追い回すらしいよ。もう何人も大怪我しててね、皆怖がって夜出歩かなくなってるみたい」
     深紅の瞳が怪しく輝き始める。私の意図をすっかり理解しているらしい。興奮して体を揺らし、きゃあきゃあと笑い声を立てて跳ね回る。ひどく嬉しそうなその様子に、見ているこちらの頬も自然と緩んできた。
     そう、それでいい。なるべく無邪気に、愛らしく、か弱く振舞えばきっとそいつは引っかかる。傷付けられる獲物が減って飢えているはず、そこへ私たちが無防備に通りかかれば――――。
     これで決定ね、と問えば、彼女は大きく頷いた。期待に満ちた表情に、私もとびっきりの笑みを返した。

    「それじゃ、食事に行きましょう! 沢山食べて、もっと綺麗にならなきゃね」





     
     ふっ、と眩い光が消えた。真昼から真夜中への転落に、しかし女とポケモンは動じなかった。広がる闇に怖じもせず、僅かな月明かりだけを頼りに動き始める。
     新鮮な「食料」を求めて、若い女と血色のチェリムは夜を往く。公園の桜の古木だけが、妖美な一組を静かに見送っていた。






    ----------------------------------------------------------------------------------
     

     
     お題、「桜」。見た瞬間に『桜の木の下には死体が埋まっている』『血吸いの桜』という件の話を思い出し、思いつくままに書いた結果が「人食いチェリム」。……なぜこうなった。
     とりあえず、チェリム好きの皆様に全力で土下座。ごめんなさい、しかし後悔はしていない!!
     
    【読了いただきありがとうございました】
    【何をしてもいいのよ】


      [No.2321] 【ポケライフ】硝子の浮き玉 -携帯獣九十九草子 増補- 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/03/26(Mon) 01:00:24     114clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    【ポケライフ】硝子の浮き玉 -携帯獣九十九草子 増補- (画像サイズ: 580×756 75kB)

    ●硝子の浮き玉


     浮き玉はガラスを吹いて作った玉です。
     ガラスを吹いて丸い形を作り、冷めないうちにガラスの封をして工房の印を押します。空気を密封したそのガラスの玉は水に浮きます。だからそれは浮き玉と呼ばれるのです。
     私は小さい頃、浮き玉が大好きでした。祖父の工房にも家にもたくさんの浮き玉がぶら下がっておりました。小さいもの大きいもの。色の変わったものや、模様をつけたもの。様々ありました。
     私はそれを眺めるのが好きでした。編んだ紐で玉を包み、それをいくつもぶら下げた様が好きでした。

     私の育った町はガラスの町でした。いくつも、いくつものガラス工房がありました。
     祖父はガラス工芸の名人でした。形の良いきれいなグラスも作りましたし、透明な器も作りました。熱を帯びた飴のように伸びるガラスを自由自在に引き伸ばして、様々なポケモンを作りました。翼を広げた鳥ポケモン、嘶く火の馬ポケモン、うねる海蛇ポケモン、まるで魔法のように火と風を操って、祖父は様々な形を練り上げるのでした。そんな祖父の隣にはいつも何匹かの炎ポケモン達が寄り添っていました。ひょっとこのような口から火を吹くブーバー、燃え盛る炎の尻尾を持つリザード、木炭を食う茶釜のようなコータス、ふかふかとしたマフラーをしたブースター。それぞれに得意な炎があって作るガラス工芸によってパートナーが違うのだと祖父は語っていました。
     祖父はいろいろな作品を作りましたが、私は浮き玉が好きでした。丸いだけの最もシンプルなガラス工芸ですが、その球体がわずかに閉じ込める空気、空間が好きだったのだと思います。祖父はいくつもガラスを吹いては浮き玉を作って私にくれました。通常は種類ごとに手伝わせるポケモンを変えるのですが、浮き玉だけは別でした。今日はブーバーの炎で、今日はコータスの炎でという具合に順番に手伝わせては作っていました。祖父は浮き玉の蓋にポケモンごとに違う印を押しました。
    「名人がな、硝子の玉を膨らますとその中には硝子の精が宿るんだ」
     祖父はよく、こんな話を致しました。
    「よく命を吹き込むって言うだろう? 職人の息吹、その相棒の炎(いぶき)が交じりあってな、硝子の精になるんだよ。浮き玉が美しいのは中に硝子の精がいるからだ。だからそいつが逃げていかないうちにこうして蓋をするんだよ」
     だから私は浮き玉が好きだったのだと思います。たとえその中に何も見えなくても、ここには何かが居るのだ。何かが宿っているだと考えるだけでワクワクしたのです。
     そんな祖父の話を聞いて育った私は、いつか自分もガラス職人になるのだ。そう思っていました。現に工房の子の多くはガラス職人になっていましたから。
     
     けれども、町はいつまでも同じ姿をとどめませんでした。
     他の地方や外国が安い製品を次々に作り始めて、ガラスの町は次第に傾いていったのです。一つ、また一つ。工房は数を減らしていきました。
     そんな中、私が初めの学校を卒業する頃、祖母が亡くなって、あとを追うように祖父が他界してしまったのです。その頃にはこの町からずいぶんな数が無くなっていたと思います。目の前の工房から人がいなくなり、隣の工房は看板を変えました。そうして祖父がいなくなった時に、後を継ぐ気の無かった父は工房を畳んでしまい、私達家族は他の町に移ったのでした。
     遺っていた祖父の作品は多くが人手に渡って、あるいは処分されました。祖父の仕事を手伝っていたポケモン達もまた、トレーナーや職人に引き取られたりしたのでした。私達家族の下に残ったのはブースターの一匹だけでした。残されたブースターは仕事が無くなってからすっかり老け込んでしまいました。私と散歩に行ったり、ご飯を食べたりする以外はリビングの陽のあたる場所でずっと眠っております。
     そうして他の町に渡り、学生生活を送っているうちに、私は次第にガラスのことなど忘れていったのでした。

     それからの話は暫くの月日が経ってからになります。
     進学か就職か、そんなことを考えなくてはいけない時期に差し掛かっていた年の暮れでした。そのような岐路に立たされた逃避の結果だったのでしょうか。今年は徹底的にやろうなどと意気込んだ私の姿は、普段の年の大掃除では手をつけない倉庫にありました。この際、いらないものは徹底的に整理しようと思ったのです。
     埃を被って灰色に汚れたダンボールをいくつもいくつも出しては開きました。昔取った授業のノート、教科書、色の褪せたおもちゃ。思いがけず懐かしいものを発見しては手を止めました。けれど多くは捨てることにいたしました。とてもとても懐かしかったけれど、私にはもう必要の無いものでしたから。住むところも、持ち物もいつまでもそのままではいられないのです。私は書類を縛り、そうでないものは袋に詰めて口を縛ると家の外へと運び出しました。今の時期の日暮れは早いもので、その時には随分と暗くなっていました。
     そうして何往復かを繰り返し、倉庫に戻った時、なにやら倉庫の中で動く影があることに気がつきました。父か母が入ってきたのだろうかと、倉庫の入り口に足をかけた私が見たのはくすんだ赤い毛皮のブースターでした。私は少々驚きました。時が経ち、ますます年老いたほのおポケモンは、最近散歩にも行かず眠ってばかりでしたから。ブースターはかつての鮮やかさと膨らみを失った尻尾を揺らしながら、一つの箱をしきりに引っ掻いています。この年老いたポケモンが惹かれるようなものがこの中にあるのだろうか? 私はテープ止めされたままのその箱にカッターを入れ、扉を開くように開けました。中にはくしゃくしゃに丸めた黄ばんだ紙が何かを守るように詰められております。私は手を突っ込んで中のものを取り出しました。紙に包まれて出てきたそれは、丸い丸い、ガラスの浮き玉でした。大きさはぼんぐりやモンスターボールほどです。にわかにほのおポケモンの瞳が小さな明りを灯したような光を宿しました。
     丁寧に編まれた紐で包まれたそれは持ってぶら下げることが出来ます。見上げるようにして封を確かめると甲羅の紋章が見えました。コータスだ、と私は思いました。まるで、水底に沈んでいたものが浮かんでくるように、祖父がコータスと作った時に使う印であると思い起こされたのです。
    「もしかしたら、お前のも」
     私は箱に詰められた浮き玉をひとつひとつ取り出しては、確かめ、一つ目の玉に掛けていきました。二番目に取り出したのは二つ並んだ火の玉の目立つブーバーの印の玉、次に見つけたのが伸びた尻尾の先に炎が灯ったリザードの印を押した玉でした。そして最後に、ブースターの横顔とえりまきを象った印の玉を取り出したのでした。
    「わうっ」
     私が四つの浮き玉を吊り下げたその時、ブースターが小さく鳴きました。
     透き通る球体にふんふんと鼻を近づけ、また小さく、今度は二、三度鳴きました。その様子はまるで彼が四つの浮き玉に話かけているようにも見えました。
     年老いたブースターは何度も、何度も、ガラスの浮き玉に呼びかけ続けました。
    「そうだよな。久しぶりだもんな……」
     その様子はなんだか私の胸を締め付けました。
     私は今の今までガラスのことなどすっかり忘れていたのに、彼はずっとこの時を待っていたのではないかと、そう思ったのです。それなのに私は、今の今まで開きもしないでずっと暗いところに仕舞いこんでいたのですから。
    「わうっ! うわう!」
     ブースターが一際大きく声を上げました。
     すると、気のせいでしょうか。一瞬、浮き玉の中の一つがまるでランプに火をつけたように炎を宿したように見えて、私は目をぱちぱちとさせました。炎が生まれ、玉の中で宙返りするとフッと消えたように見えたのです。それは私が、最後に取り出した浮き玉でした。
     すると、まるで呼びかけに答えたかのうように残り三つの玉にも炎が宿りました。最後に取り出した最初の一つが再び燃え上がって、残りの三つが応えます。そうして四つの炎は会話をするように玉の中でそれぞれが躍り、揺れました。
     宿った炎はそれぞれがそれぞれに違っていました。ガラスの壁にぶつかっては弾ける、落ち着きの無い炎、ゆっくりとけれどこうこうと燃える炎、まるでグラスの中で揺れる果実酒のように玉の中を滑る炎――今はもういないブーバー、コータス、リザード。その炎の揺らめきはとうの昔に別れてしまった祖父の相棒達を思い起こさせました。

    『名人がな、硝子の玉を膨らますとその中には硝子の精が宿るんだ』

    『命を吹き込むって言うだろう? 職人の息吹、その相棒の炎(いぶき)が交じりあってな、硝子の精になるんだよ』

     躍る炎が私達、一人と一匹の影を伸ばして揺らめかせます。
     陽が落ちて暗くなっていた倉庫はにわかに明るくなりました。暖かな光が作り出す陰影が、音の無い賑わいを生み出しました。
     ああ、名人であったのだ、炎の眩しさに目を細めながら私は思いました。
     祖父は――いや、おじいさんとそのポケモン達は本当に名人であったのだ、と。
     炎が踊って、影が躍り続けています。
     私はその光景に、いつまでもいつまでも見入っておりました。

     年老いたブースターが静かに息を引き取ったのは、それから数週間後のことでした。



     硝子の浮き玉。
     その中に躍る炎を見たのは、今のところその時が最後です。
     四つの浮き玉は未だ私の手元にありますれど、あれから炎は二度と現れませんでした。まだこの中にいるのか、見えていないだけなのか、あるいは、祖父の相棒と共に旅立ってしまったのか、それは私にはわかりません。

     ただひとつはっきりとしているのは、私がその光景を忘れることが出来なかったということです。
     水に浮かんだ硝子の玉は、もう沈むことがありませんでした。


     今、私には相棒がいます。
     まだ小さな炎しか吐けませんけれど、今の私には十分です。
     いつかおじいさんとその相棒達のようになれたら――そう私は思っています。









    2012年3月18日 配布


      [No.2310] リセット 中編 投稿者:紀成   投稿日:2012/03/17(Sat) 15:26:07     77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    財閥会長の孫娘が失踪した。至急探すように。
    俺たちに託された事件の内容は、簡単に言えばこんな物だった。財閥会長の孫娘・失踪。この二つの単語を組み合わせれば、いくら素人でも理由を予測することくらい可能だろう。シックス・ナインズに近い確率で、

    『悪い遊びをしていて、巻き込まれた』

    こういう台詞ではなくとも、自業自得に近い出来事に巻き込まれたのではないか、という答えが返ってくるだろう。警察組織に身を置いているのであまりこんな言い方はしたくないが、ふと考えてしまうくらい今の子供達は危険を知らない。たとえ補導しても未成年であれば逮捕することすら出来ない。軽く説教して返さなくてはならない。
    そんな事件を扱う日が続いていた時、それは起きた。

    未成年とはいえない、幼い子供が失踪する事件。

    初めは誘拐の線から当たっていた。だが親、友人、教師。そしてその子供が住む家の近郊にある交番全てを当たっても不審者は全く見受けられない。そして更に遠く離れた場所で再び失踪事件が起きた。ただしその被害者は中学一年生だったので、てっきり事件にでも巻き込まれたのではないか、と皆が思った。
    だが話を聞いて、再び的外れな考えだったと分かった。その子供は通っている学校ではトップクラスの成績を誇り、しかも家が遠いため毎日のように母親か父親が送り迎えをしていた。これでは、事件に巻き込まれる理由も時間の隙間もない。そして何より重要なことは、失踪したのは家で部屋は完全なる密室状態だったということだ。
    『娯楽にあまり興味を示さない子でした』と、見るからに教育してますという母親はハンカチで目を押えながら言った。これでは振り出しどころか二つの事件を未解決という名の谷に落とすことになってしまう。共に取り調べをしていた上司と頭を抱えていると、そういえばと母親が立ち上がった。

    『それでも、これだけは面白いと言って息抜きにやっていたようです』

    現場保存せずに証拠を移動させ、しかも隠していたこと事態捜査の妨げとなるのだが、その時はそれがどれだけ重要な意味を持つか分かっていなかった。一応確認してみましょうと言い、それを受け取って署に戻った。
    そしてそこで、もう一つの失踪事件との共通点を見つけることとなる。

    『あの子、よく友達とこれをやっていたんです。交換したり、バトルしたり。勝った時にはよく嬉しそうに話していました。私はそういうのに詳しくないんで、ただ相槌を打つだけだったんですが……』

    シルバーのボディにはめられた、メモリチップのような小さなソフト。何のプログラムが入っているか分かるようにシールが貼られている。ロゴは宝石を思わせるデザイン。サブタイトルまで宝石の名前だった。
    ゲーム。DSでプレイできると誰かが言っていた。俺はゲームをしないから分からないが、認識だけはしていた。テレビで大々的に宣伝していたからだ。
    今やこの国が誇る、巨大なタイトル。

    『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』

    失踪した子供達はこれに夢中になっていたらしい。彼らのDSに差し込んでデータを見てみると、見たことの無い名前の生き物……ポケモンが六匹動いていた。手持ちというらしい。プレイヤーはポケモンを捕まえ、育て、戦わせる。そしてシナリオには各地の『ジム』の主将『ジムリーダー』との対戦、ポケモンを使って悪事を働く謎の集団を壊滅させること、そしてポケモンバトルの最高峰、『ポケモンリーグ』にいる『四天王』『チャンピオン』を倒すことで成し遂げられる『殿堂入り』など、挙げればキリがないほどの要素が盛られていた。
    「最初に登場したのが十五年かた前ですから、大分ゲーム機が進化してプログラムも綺麗になっているんですよね」
    詳しい後輩がそう言って器用にゲーム機をいじる。十五年前……俺はまだ小学生だ。だがゲームを遊んだことすらなかった。せいぜい頭の体操としてチェスやモノポリー、将棋をやっていたくらいだ。
    「だが今回の失踪事件とそのゲーム、何か関係あるのか」
    「ただの偶然ということも考えられます。中学一年生とはいえ、世間的にはまだ子供です。とにかくこのゲームのことも頭の片隅に入れつつ、地道に聞き込みをしていくのが重要かと思われます」
    「よし、頼んだぞ」


    そんな会話をしてから早一ヶ月が経過していた。その間にも失踪者は増え続け、必ず被害者がハマっていた物として『ポケモン』があった。もう間違いない。彼らはそれに関する何かに巻き込まれ、失踪したのだ。
    だがそれが分かったところで何も手がかりは掴めなかった。発売元の会社にも行ってみたが、開発チームの人間にそれらしき人間はいない。
    そんな時、その事件は起きた。先ほど前述した事件。

    『財閥会長の孫娘が失踪した』

    今度こそ普通の誘拐事件かと思い、早速友人である少女の家に向かい事情聴取をした。だが彼女の話を聞くうちに、最悪の予想が当たった。その孫娘はゲーマーで、ポケモンをプレイしていたという。
    そしてその友人の言葉。何か事件の手がかりになるようなことを知っているかのようだった。詳しく聞こうとしたところで、連絡が入った。捜査会議をするから戻れと言う。
    意味がない、と思った。いくら会議をしても情報が無ければ警察は動くことすらできない。歯がゆい思いで会議室に向かい、会議を始めかけたところで―― 新しい失踪事件が出た。
    まさか、と思い通報先に行けばそこは、


    「刑事さん達が帰った後、思いつめたような顔で二階に上がっていったんです。朝ごはんまだだったから、早く来なさいよ、って叫んだんです。でも返事がなくて…… おかしいなと思って部屋に行ったら、この有様で」
    彼女の部屋は散らかっていた。だが母親に聞けば昨日帰って来て見た時には綺麗に片付いていたという。一晩でここまで散らかすことは、まずない。だがまた被害者を出してしまったことは紛れもない事実だ。
    あの時、捜査会議の電話が入らなければ。
    「で、やっぱりこの子もポケモンをやってたんだな」
    警部が厚いシルバーカラーのDSを取り上げた。電源は落ちている。入っているソフトは、パール。ふと目の隅に引っかかる物があり、ベッドの上の掛け布団をどけた。
    携帯電話だった。どうやら彼女は消える直前、これを見ていたらしい。母親に許可を取り、メールボックスを開く。
    一番最近のメールは、昨日の夕方だった。差出人の名前にも驚いたが、その内容にはもっと驚いた。

    『ごめーん。何かあの裏技、私の勘違いだったみたい。帰ってからもう一度見たら、下手すればゲームそのもののデータが消去されちゃうって書いてあったから。
    だから忘れてね』

    裏技。時々テレビでやっている裏技とは全く別物だ。慌ててそれより前のデータを見たが、裏技に関することは何も書いていない。だがこれは大きな進歩だ。ゲームに関することを知ったことが進歩なのか、と言われるかもしれないが、そもそも被害者の共通点が同じゲームにハマっていたことだけなのだ。
    これには必ず、何かある。俺は携帯電話を取り出すと、先ほどポケモンについて教えてくれた後輩に連絡を取った。自分達が戻るまでに出来るだけ、ネットのポケモンに関する裏技のサイトを探ってくれ。その中に興味深い内容の裏技があったら、コピーしておいてくれ。
    後輩は何も言わずに『分かりました』と言ってくれた。どんな形であれ事件の捜査が進むのは嬉しいのだろう。ましてや、それに自分が関わったとしたら。
    「俺にはゲームの類は分からんが……本当に関係あるのか」
    戻る途中、助手席で警部が訳が分からない、という顔をして聞いてきた。ゲームなんて俺にも分かりません、ただ、と続けた。
    「せっかく掴んだ被害者のメールなんです。調べないわけにはいかないでしょう」
    「まあな」
    「それにその裏技の内容が気になります。下手すればゲームのプログラム自体が駄目になる……それほどのリスクを持つような裏技って、何なんでしょうね」
    覆面パトカーは、ビルに囲まれた道路を静かに走っていく。


    「事件が表沙汰になっているせいもあり、すぐに見つかりました。彼らの情報網には驚かされます」
    そう言って後輩が見せてくれたのは、ある掲示板のログを印刷した物だった。記号を使った顔文字など一般人には分からない世界が広がっている。よく考えれば、ゲームもそうなのかもしれない。誰にも邪魔されず、時には気の合う仲間と共にいられる正に理想の空間。
    「ここ、見ていただけませんか」
    赤ペンで印を付けられた場所に、こんなことが書いてあった。

    『251:何かポケモンが事件の中心らしいぜ

     252:まじか

     253:裏技で、ポケモンの世界に行けるーなんてヤツがあるらしい ほんとかどうかは知らんどな
     で、そいつらは試していなくなった、という噂

     254:そして だれも いなくなった!

     255:ウソだろww 誰が信じるんだよそんなんww
     
     256:中二乙

     257:でも実際にサイトあるらしい 俺みたことある

     258:うp希望  』


    読みにくい。ひたすら読みにくいが、大体の内容は分かった。そして、と後輩が続ける。
    「ひらすらログを追っていったら、一度だけこのサイトのURLが出てたんです。これが裏技の内容です」
    背景は黒。そして文字は白。別の意味で読みにくい。そこにはこうあった。

    『タイトル画面で特定のボタンを押し、マイクに向かって『全てのプレイヤーのリセットをわが身に委ねます』と言う』

    「リセット?」
    「本当はどうか怪しいですけどね。一応これが妥当かなと思って印刷したんです」
    「リセット……」
    黙ってしまった私に、後輩が慌てて付け加えた。
    「結構普通なんですよ。特に初心者は一匹だけメインに育てちゃって、その一番強いやつがやられたら後は袋叩き状態ですから。それでレベル上げする気力もなくて、もう一度初めからやり直しとか。あとは能力値が高いポケモンを欲しがるとか、弱くてもいいから色違いが欲しいとか」
    「ほー。そのポケモンとやらには能力の違いもあるのか」
    「ええ。高ければ高いほど、育てていくうちに差がはっきり分かれてきます。そういえばエメラルドのファクトリーは辛かったなあ。自分のポケモン使えないんだから」
    自分の後ろで通な話をしている二人に、私は叫んだ。
    「彼女のソフトがどうなっているか、リセットしたとしたらどうやってそのようにしたのか調べることは出来るか」
    「え……それは難しい、というか無理です。前作のデータはリセットしていたら完全に消去されてますから」
    そう言われながらも私はDSの電源を入れ、パールを起動させた。手持ちはなし。後輩があれ、と疑問の声を上げた。
    「おかしいな。発売されてから既に半年以上経ってるはずなのにほとんど序盤の話だ。まだ最初のポケモンすら貰ってない」
    「この後ろに差さっているのは何だ?これもソフトか」
    「お、懐かしいな。サファイアだ。そうか。パルパークで連れてこようとしてたんだな。もしくは連れてきた後、リセットしたか」
    「おいおいどういうことだ。ちゃんと分かるように説明してくれよ」
    「分かりました。えっと……」

    後輩の言葉をまとめると、こういうことだった。
    ・ダイヤモンド、パールの前にもポケモンはソフトをだしていて、それはルビー、サファイア、エメラルドの三種類だということ。
    ・ダイヤモンド、パールはある特定の条件を満たすと、その三つのソフトからポケモンを連れて来ることが出来るということ。
    ・ただし連れてくるには少なくとも殿堂入りしなくてはならないため、おそらく今のデータは殿堂入りした後何らかの理由で消去した後の物だろう、ということ。
    「そうそうリセットすることなんて無いんですけどね。何か変な裏技でも使っ……あ、もしかしたら」
    「裏技!?この掲示板に書いてある以外にもあるのか」
    「ええ。あんまり言うとマネする馬鹿がいると思うので詳しくは言いませんけど、『壁の中から出られなくなる』っていうのがあるんです。黒いドットの無い世界で何をしても動けなくなるんですよ。普通ならセンターに連絡して直してもらうのが一番ですけど、時間もかかるし。この子はやらないままリセットしたのかも」
    「……」
    理解出来ない。手塩にかけて育てた仲間を、何の思いもなしに消去するなんて。それがゲームだとしても、あまりにも軽すぎる気がした。
    変な胸の取っ掛かりを覚えた時、彼女の携帯履歴を調べていた方から連絡が来た。一つだけ非通知があったという。しかもそれは彼女が消える直前に掛けていた内容らしいのだ。慌ててパソコンの前に行くと、スピーカーから声が流れ始めた。クリアにしているため聞き取れることは出来るが、それにしても酷く聞き辛い。
    「フィルターかけてるな。何処からかは分からないのか」
    「それが……コンピュータからなんです」
    「コンピュータ!?プログラミングされてるってことか!?」
    会話の内容は十秒ほどだった。俺はその中にある言葉の一つが気になった。

    『二つの世界は繋がった』

    二つの世界。ここまで調べたら、分かる。分からなくてはならない。不要な物を排除していき、最後に残った物。それがどんなに信じられない事でも、それが真実――
    「警部」
    「何だ」
    「彼女達の居場所が、分かった気がします」
    警部は驚かなかった。俺より低い位置にある頭をこちらに向けて、いつもの通りの口調で喋る。
    「言ってみろ。お前なりの意見を。もしかしたら俺と同じ意見かもしれないし、違うかもしれない。だがどちらにしろ、これは俺たち警察組織の手に負えるような事件じゃなくなってる。俺たちは技術者じゃないからな」
    俺は一気にまくし立てた。

    「彼女達は、プログラムの……『ポケットモンスター』というゲームの一部にされています」

     
    「つまり、その『リンネ』っていうキャラこそが、失踪したお嬢ちゃんそのものなわけだ」
    一度捜査本部を出た俺と警部は、喫煙室の中と外に分かれて話をしていた。警部は愛煙家だが、俺は煙草を吸わない。何とも奇妙な光景だが、両方が満足することが出来るのはこれだけなのだ。
    「フィクションとかSFを苦手だって言ってたお前がそんな突拍子もない発想が出来るとは、成長したな」
    「俺をからかっている暇なんてありませんよ。早く何とかしてプログラム化された子供達を助けなくては」
    「馬鹿言うなよ。ここはリアルの世界なんだ。ゲームでもアニメでも、ましてや映画でもない。リアルに生まれた俺達は、リアルが『限界だ』っていう場所までしか捜査は出来ないんだ。第一、憶測だけで上が動くと思うか?」
    「ですが……」
    「俺はな、ヒメヤ。『どうやって』プログラム化したのかっていう理由より、『どうして』そんな事件を起こしたのか……それが一番引っかかってるんだ」
    久々に苗字を呼ばれた。いつも『お前』としか呼ばれないからだ。『どうやって』より『どうして』忘れがちだが、取調べの際には大切なことだと聞いた。『何故』も後者に入る。『何故こんなことをしたのか』『何故誰も止めることが出来なかったのか』『何故助けてやれなかったのか』『何故……』
    この仕事を始めてから、数え切れないほどの『何故』『どうして』を繰り返してきた。時勢が時勢なのか、繰り返しても繰り返しても足りないくらい、同じような事件が起きていた。それと同時に、リアルな『リセット』も数え切れないほどあった。
    「人生リセットか。ゲームに慣れすぎてるんだろうな。失敗作が生まれても、ボタンを押せばリセットできる。……分からないが、プログラム化された子供達はどれくらいゲームをリセットしてきたんだろうな」
    「少なくとも彼女は、一度はリセットしています。今までの思い出が積み重なった、前のデータも一緒に」
    「だよなあ。――俺はあの子らの気持ちが分からないのさ」
    微妙な空気が、二人の間を流れていく。だが、と警部が付け加えた。
    「もしかしたら、プログラム化された子供達もはっきり真実に辿りついてはいないかもしれない」
    「は?」
    「何故自分達が取り込まれたのか。自分達ではないといけなかったのか。無自覚は恐ろしいな」
    カランと缶コーヒーの空き缶がゴミ箱に落ちていった。

    「マスコミには何も言うなよ。まあ言ってもあちらさんも何も出来ないだろうが…… プログラムにされて連れて行かれたなんて夢物語みたいな話、報道できると思うか?
    警察共々、世間の笑いものになるだけだ」
    子供達のソフトは今も保存されている。DSの電源を入れた、プレイできる状態で。ゲームの中に取り込まれた『彼ら』は、自ら動くことは出来ない。プレイヤーが動かしてやらないと、何もできない。バトルも、買い物も……動くことすらできない。
    「何とかできませんかね」
    「あくまで希望的観測ですが」
    後輩が言った。


    「このゲームのシナリオは、主に二つに分かれます。チャンピオンを倒して殿堂入りする前に、悪の組織を壊滅させるのです。
    だから、もし僕達がそれを倒す手助けをしてやれば……戻って来られるかもしれない」

    ………………………………………

    気が付けば、真っ暗な世界にいた。右も左も上も下も分からないくらい、真っ暗闇。自分の姿は見えるから、光が皆無というわけではなさそうだ。
    だけど、私の格好は普通ではなかった。普通とは言えなかった。頭に白いニット帽。トップスは黒いタンクトップ。スカートは今にも下着が見えそうな超ミニのピンク。そして同じ色のブーツに、マフラーと黄色いボストンバッグ。
    それはどう見ても、昨日までやっていたポケモン『パール』の女主人公と同じ服装だった。それと同時にここがどこか理解した。記憶が蘇ってくる。ノイズだらけの電話と、白い光。
    ここは、ゲームの中だ。

    『ようやく気付いたか』

    何処からか声がした。いつの間にか、横に私と同じ服を着た少女が立っている。……いや、多分彼女が本当の主人公なんだろう。だけど声と話し方に違和感があった。なんというか、私だけじゃない、全てを恨んでいるような声。
    「貴方は」
    『自分が今何処にいるか分かれば、分かるんじゃない?』
    歳相当の声になった。何処からコピーしてきたのか、女の子の声。真っ暗闇の空間。何処が何処かすら分からない、不気味な空間。ずっといたら発狂してしまいそうな――

    『私達、ずっと一緒だったじゃない』
    その子が言った。

    『どうして、リセットしたの』


      [No.2299] Re: 【告知】3/18(日) HARUコミックシティ打ち上げ会 投稿者:巳佑   投稿日:2012/03/13(Tue) 23:51:36     56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     こんばんは、巳佑です。

     ちょっと週末の予定が分からなかったので、見送ろうかと思っていたのですが、なんとか今日、予定が分かり、18日に空きができましたので、参加したいと思います。(ドキドキ)

     ギリギリでの参加表明となって、すいませんでした。

     当日、楽しみにしております。
     バチュルみたいに緊張していると思いますが、よろしくお願いします。(ドキドキ)

     それでは失礼しました。


      [No.2288] ディスプレイボード1 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/03/11(Sun) 17:29:47     72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ディスプレイボード1 (画像サイズ: 1200×850 283kB)

    掲載作品決定の流れとかです。


      [No.2277] ふらふら効果につき――。 投稿者:巳佑   投稿日:2012/03/08(Thu) 13:27:45     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ふらふら効果につき――。 (画像サイズ: 383×550 81kB)




    > >  ぷち模様に渦巻き一つ乗せたそれはパッチールの耳カチューシャ。
    >
    >  言い値で買おう

     遅くなってすいません。
     音色さん、お買い上げありがとうございます!(ドキドキ)

     ただし、ふらふら効果プラスにつき、自動車や自転車などの乗り物を運転するのは危険ですので、着用の際には運転禁止でお願いしま(以下略)

     それでは失礼しました。


      [No.2266] 場所は浜松町or新橋付近? 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/03/01(Thu) 07:04:01     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    記事立て乙です〜
    場所は浜松町か新橋付近ですかね。

    HARUコミの場所自体は東京ビッグサイトです。
    http://www.akaboo.jp/event/0318haru17.html
    入場に1300円かかりますので、他の同人誌(ポケも出てますし、他ジャンルもあります)を見て回りたい人以外は
    打ち上げだけ あるいは しめしあわせてどっかで遊んでいるといいかも。


      [No.2254] 空を望む人影 投稿者:夏菜   《URL》   投稿日:2012/02/20(Mon) 03:57:13     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     僕が生まれて初めて見たものは高い高い空をかけて行く大きな生き物だった。

     気がつくと荒野に一人たたずんで空を見上げていた。守ってくれる親や仲間などいるはずもなく、
    身を守るすべや生きるすべを知ることもなかった。
     のこのこと歩いていたら怖い目にあう。これだけは理解するのに難しくなかった。
    ひ弱な体をふらふらさせ、一匹で歩く姿は恰好の的なのだろう。
     こそこそと物陰で寝泊まりし、細々と食いつなぐ生活……
     頭の中にはただ一つ。 あの空を自由に駆け回るんだ!
     どうすればあの空を走れるようになるのか、全く分からないけど前へ進むことしか頭になかった。
    あの生き物が進んでいったほうへ……それがきっと空に繋がっているはずだから……
     ただただ前に進んだ。前へ前へ。空へ空へ。


     そうしてどれほど進んだのかわからなくなっても、さらに歩き続けてたどり着いた森の入り口。
     木に片足をかけた鳥が不思議そうに首を曲げ、ただただ空を見上げ前へ進む僕を見ていた。
    「お前はどうして空を望んでいるのかな?羽がないものは地に足跡を付けながら生きるしか術がないだろうに。」
     そう何気なく言った鳥は、木にかけた片足を外し僕が願ってやまない空へと軽々と、飛んで行った。

     しばらく鳥が去った方を呆然と見ていた。
     なぜ気付かなかったのだろうか……確かに空を駆ける者はすべて羽を持っていた。
     そしてそれは僕にはついていないものだった。
     ふと冷たいしずくがほほを伝った。悲しくて悲しくて。ただただ空を夢見て前へ歩いてきた心に、ぽっかりと大きな穴が開いたようだった。
     涙の足跡を作りながら、とぼとぼと森を進む。
     もう少しで広い広い空を遮る鬱蒼とした木々もなくなりそうな気配がしてきても、僕は一向にうつむいていることしかできなかった。

     高くて手の届かない空の元に出ていくのが悲しくて、ゆっくりゆっくり森の中を進んでいたとある晩。
    目の端にかすかにきらきら光るものが見えた気がして、そっと光のほうへ近づいてみた。
     木の陰から光を覗くと、どうやら森でよく見かけた木や地面にひっついて動かなかった者たちが光っているようだった。
     その光がだんだん強くなっているみたいで、あたりは月の光が地面を照らすよりももっと明るくなってきていた。
     綺麗な光景に声をなくししばらく眺めていると、木に張り付いていた者たちから羽が生え、木から、地面からふわりと、足が離れたのだった。

     飛んだ……。

     彼らは最初こそ頼りなくふわふわしていたものの、次第に羽をひらりひらりと躍らせて一匹、そして一匹……と夜空へと舞って行った。
     初めて目にした進化に僕の興奮は止まらなかった。
     今はひ弱で羽のない小さな体でしかないけど、僕たちには進化がある!!いつかきっと力強くなってあの空だって駆けまわれるようになるに違いない!!!

     そうだ。まだあきらめるには早い! まだまだ。前へ!前へ!
     森を抜け、地を駆け、もっともっと先へ!
     そしてあの空へ! あの果てしなく広がる広大な空へ!!



     ……そうして歩き続けてるうちに僕は大きくなっていた。
     手足が大きくなり、体は逞しくなって、しっぽだって見違えるくらい太くなった。そうして……羽は……。

     僕はいまだに空から遠く、あの者たちのようには舞うことができず、地面にへばりついて足跡をつける毎日。
     結局僕はあそこに行くことができなかったのだ。
     それでも……と僕は歩きだす。

     僕は大きくなった。逞しくなった。
     ひ弱な体で歩き回り恰好の的になっていた僕は、今や返り討ちができるほどに強くなった。
     空には手が届かなかったけれど、それなら僕は僕のやり方で空に挑戦してやろうじゃないか。
     この地面にたくさんの足跡を残して、あの大きな空からでも駆けまわる僕が分かるように。

     僕は僕のやり方であの空を目指そう。


    **********

    コンテスト参加した小説を修正しました。
    多少はましなものになった!!はず!!ですwww
    けど、厳しい評価大募集ですwww

    タグは 素敵にしてくれてもいいのよ っていう感じで。


      [No.2243] 塔と鐘 投稿者:櫻野弥生   投稿日:2012/02/14(Tue) 00:59:47     79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ガサ、ガサ。

    子供はおろか、背の低い大人ならすっぽりと隠れてしまうような草むら.
    その湿った中を掻き分けて進む一人の男がいた。
    彼が背負っている革色のリュックはリズムよく踊る。
    空にはどんよりとした雲が浮かび、今にでも大きな雨粒を落としてやろうと言っているかのようである。
    男は、煙たい匂いが鼻の奥を刺激するのを感じた。

    お香か。
    男は、思う。
    匂いの風上を頼り、草むらを抜けると、その元はあった。
    高く聳える塔。


    タワーオブヘブン。


    イッシュ地方最大の、ポケモン用の墓地だ。
    各地のポケモンの御霊がこの塔で供養されている。
    塔の頂上には大きな鐘があり、それを鳴らすことでポケモンたちが安らかに眠ることが出来るといわれている。
    内部の各フロアごとに墓石があり、お参りへ来る人が毎日いる。
    しかし、天気があまりよくないからか、あたりに人の気配はなさそうだ。
    男はキョロキョロとあたりを見回すが、薄暗い影の中の草木しか視界には入らない。


    男は、この塔に鐘を鳴らしにきた。
    ただ、鳴らしたいと思っただけだ。
    それ以外に理由なんてない。


    漠然とした理由で来た男は塔を眺めた。
    見上げ、霞の向こうにある頂上が透けて見えるかのようにじっと見つめる。
    その先の、なんとも形容しがたい魅力を感じる。
    男は、すっかり心を奪われていた。


    「あの」


    という透き通った声が聞こえるまでは。
    その刹那、男は体を震わした。
    何者なんだろう?
    声の主に意識を向けた。
    「はい?」
    男は振り向いて、その姿を瞳に焼き付ける。


    少女が、いた。


    ぴゅう、と吹いた風に栗色の髪はさらりとなびく。
    栗色のワンピースを着た少女は男をじっと見つめていた。


    「おにいさん、塔にのぼるの?」


    透き通って、消えてしまいそうなその声は、どこか悲しげだと男は思った。


    「そうだね、今から塔の頂上に行くんだ」
    ふぅん、と少女は言った。


    「あのさ、あたしも、ついて行っていいかな?」
    「君もかい?」
    「うん」
    少女はうなずいた。
    「一人で行くの、こわいから」




    塔の中は昼間だというのに薄暗い。
    壁にかけられた蝋燭の灯はぼんやりと光、墓石を、床を橙に染めている。
    中には人はいないようだ。


    だが、何かが見つめている。
    そんな感覚に襲われた。


    「おにいさん、きをつけて。このあたりはヒトモシがすんでいるの」
    「そういえば、そんなことを聞いたことがあるよ」
    この塔にはヒトモシが生息している。
    彼らは人の魂を好んでいるため、下手な行動をすると命取りになりかねない。
    そんな話を昔聞いた覚えがあった。
    「あの蝋燭もヒトモシよ」
    「えっ?」
    男は壁の蝋燭を見つめた。
    ゆらゆらと炎が燃えている。


    蝋がにやりと笑った。


    「!?」
    男は正体の顔を見たと同時に、腕を引っ張られる感覚に襲われた。


    右腕をつかんでいたのは、少女だった。
    「はやく行きましょう。こわいでしょ」
    少女は足早に歩き始めた。
    男は崩しかけた体勢を整え、付いていく。
    「危なかった……。しかし、よく知ってるね。ここ何回か来たことあるのかい?」
    男の質問に症状はビクッと体を震わした。
    もしかして、聴いちゃいけなかったかな。と男が考えていると、
    「……うん、何回か」
    消え入るような声が答えた。
    「一人で来たら危ないから、だれかいないかさがしていたの。そしたら、あなたが来たからたすかった」


    少女の手はひんやりとしていた。
    塔の薄暗さがそのまま体に出ているかのように。
    少女に引きつられて、螺旋階段までたどり着いた。
    一段踏み出すごとに、こつん、こつん、と音を響かた。
    ヒトモシの灯に映し出されたひとつの影は、鐘へと近づいていく。




    長い長い階段の先を超えると鐘があると期待した男は墓が並ぶフロアが続いたことに肩を落とした。
    「まだまだ先よ」
    少女の発した言葉に重なって、
    「……ぼう……」
    という声が聞こえた気がした。
    「なんだ?」
    と男は振り返ったが、人がいる様子は無い。


    「ヒトモシのしわざよ。はやくしなきゃせいめいりょくをすい取られるわ」
    少女は声の方向に目もくれず、次の階段に向かっていた。
    「おにいさん、いそぐわよ」
    少女は、駆け出した。
    おおっと、と男は声を漏らした。
    駆ける少女に引っ張られながら、次の階段へと向かっていく。
    彼女の冷え切った手につかまれながら。




    幾段もの階段を上り、規則的に並ぶ墓石を目にし、進んだ。
    そして、最後の階段にたどり着いた。
    「もうすこしで頂上よ」
    「ああ、そうかい」


    最後の階段の先から光が屋内に差し込んでいる。
    一歩、一歩階段を踏みしめる。
    外気は少女の手のようにひんやりとしてきていた。
    間違いなく、頂上が近いんだ。
    男は思った。
    「君のおかげでヒトモシに襲われることもなかった」
    「そうね……ありがとう」
    少女はぽつりとつぶやいた。


    階段を踏みしめるごとに、体の重みが男を苦しめた。
    ずっと歩き続けたからだろう、男は痛みを堪える。
    視界は次第に明るくなっていく。
    そして、最後の一段を踏んだ。




    頂上は、ぼんやりと霞がかっていた。
    その中にうっすらと大きな鐘が見えた。
    「これが、頂上か…」
    男は鐘へと歩み始めた。
    一歩足を踏み出すたびに重くのしかかる感覚を堪える。
    そして、鐘の前に立った。
    鐘から垂れた紐を手に取り、引っ張った。


    ごおおん、ごおおん。


    鈍い音がん響き渡った。
    遠く、深くまで。
    男の心の奥底にまで染み込む。
    重い体から何かが離れていくような、そんな感覚に包み込まれた。


    目的を達成してすっきりした男が鐘に背を向けると、少女が立っていた。
    「もう、かえるの?」
    「ああ、やりたいことは終わったしね」
    少女は拳を握った。


    「……つまんない」


    少女は、拳を振り上げた。
    「つまんないつまんないつまんないつまんない! もっとあそぼうよ!」
    「お、おい……落ち着け!」
    少女は体を震わせて睨み付けた。
    「あそびたいんだよ? この子たちもあそびたいんだよ?」


    刹那、男の肩に重みを感じた。
    視線を右肩に向けると、いた。


    白い体に、赤いともし火。
    ヒトモシだ。


    「なっ……」
    男は、意気揚々としたヒトモシの姿を見て、頭にぐるぐると何かがめぐり始めた。
    「なっ、なんで……ヒトモシがいるんだ……?」
    渦の中から拾い上げた言葉を発した。
    「あそびたいんだよ? ミ……ンナ、アソビタ……インダ……ヨ?」
    少女の顔は、ゆがみ始めていた。
    口は左頬の位置まで伸び、鼻は斜めに、目は右頬に傾いている。
    口から、目から、鼻から、緑色の液体が流れ始めた。
    男は、息を呑んだ。
    瞬きをすると、歪んだ少女は消えた。
    そこに、一匹のポケモンがふわふわと浮かんでいた。


    灰色の体に大きな頭。お腹の4つのボタン。
    オーベムである。


    「あ、あぁ……」
    そこに、少女などいなかったんだ。
    最初から幻影だったんだ。


    男は、体中の力が抜けきってしまった。
    ぺたり、とつめたい地面に尻をついた。
    肩のヒトモシはぴょこん、と降りた。


    ……遊びたいんだよ?


    「……やめてくれ……頼む……」
    男の体はすっかり冷え切っていた。
    次第に近づいてくるオーベムが大きく、そして恐怖に感じられた。


    ……なんで、遊んでくれないの……?
    「やめろ……やめるんだ……この化物……!」


    ぴたっと、オーベムの動きが止まった。
    ……化、物……?
    体をぶるっと震わせた。


    ……ボクって、化物なの……?
    悲しそうな瞳で男を見つめた。
    潤んだ瞳の奥には何か、淋しげな感覚があるように見えた。


    ……そうだよね、怖いよね。
    オーベムはがっくりとうな垂れた様子だった。
    さっきの一言が重くのしかかったらしい。


    ……ボク、ただ遊びたいだけだったんだ……
    「オーベム……」
    男は膝をついた。
    「酷いこと言っちまってごめんな」
    男はオーベムの頭をなでた。
    オーベムは驚いた様子で男を見つめる。
    潤んだ瞳に男の顔が映りこんだ。


    ……許してくれるの?
    「こっちこそ酷いこと言ったしな。お前はただ遊びたかっただけなんだろう」
    オーベムはコクリと頷いた。
    「そうだな、ちょっとだけ遊んでもいいぞ?」
    ……え? 本当に?
    オーベムは目を丸くした。
    男はああ、と言った。
    オーベムは踊るように喜んだ。
    ……やった、ありがとう!
    その姿を見ながら、男はにっこりと笑った。
    後ろから、ヒトモシがぴょこんと肩に乗った。
    そして、にやりと笑った。


    「次のニュースです。フキヨセシティ郊外のタワーオブヘブンそばで男性の遺体が発見されました。
    遺体は死後数週間が経過したものと思われ、警察が身元の確認を行っています。
    近辺には革色のバッグがあり――」



     ――――――――――――――――――

    お久しぶりです。名前のとおりのものです。
    最近ご無沙汰だったので、リハビリがてら。
    ところで、書いていくうちにオーベムが可愛く見えてきたんです。
    あのくりっくりとしたおめめ。なにこれ可愛い。
    もっと怖いってイメージだったんですが、気づいたら抱きしめたくなってました。
    そんなノリで無理やり乗り切りました。


    【好きにしていいのよ】【オーベム抱きしめてもいいのよ】


      [No.2232] リセット 前編 投稿者:紀成   投稿日:2012/02/01(Wed) 19:50:50     114clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「げ」
    私はディスプレイを眺めていた。中には真っ黒い空間に一人取り残された少女。ドット絵だが、白いニット帽と黒いタンクトップ、巨大な黄色いボストンバッグが目立つ。おまけとして膝上十五センチのギリギリミニスカートは、ちょっとやりすぎなんじゃないかと付け加える。
    十字キーを押しても、ABボタンを押してもウンともスンとも言わない。一応動くことは動くんだけど、それでもそこから出ることは敵わない。彼女の目の前にはひたすら闇が広がり、決して終わることのない空間が続く。まあ、ドット絵である彼女にそれが映っているかどうかは分からないんだけど。
    数日前にネットで見かけた、表にはまだ出ていないポケモンの遭遇、捕獲方法を試してみたところだった。私は製作者側じゃないからアレだけど、よくこんな複雑なプログラム作る気になるよね。
    見た時の私の気持ちは、『ダメだ』という気持ちと『好奇心』という気持ちが半々になっていた。でも何も面白いことがない退屈な日常。たまには、そういう『危ないこと』をしてみたい。
    そう思っているうちに、DSにソフトを入れて電源を点けていた。サイトで見た通りのことをして、一体どうなるのかをちょっとドキドキしながら見ていた。
    だけど、間違えた。
    緊張だかなんだか分からないけど、手が震えて十字キーを押し間違えた。おかげでバグが発生して、この有様。
    彼女は永久にこの部屋から出られないらしい。
    「参ったなー」
    私は頭を掻いた。せっかく図鑑完成して、他地方からの受け入れも出来てたところだったんだけど。手持ちもほとんどレベル100に達してたのにねえ。
    「仕方ないか」
    前からのソフトから経由していなかっただけでも、有り難いと思おう。そう自分に言い聞かせて、私はレポートを書いた。これ書いたら一生……本当に一生彼女はこの空間の中に閉じ込められる。でもまあ、プログラムだし。それに。
    「リセットすれば、また会えるし」
    私は電源を切ると、再び最初の画面になったのを確認してボタンを押した。黒い画面と白い枠が出現する。白い画面の文字が踊る。私は迷わず『はい』を選択した。
    データを消去していると、ケータイが鳴り響いた。開いて確認する。ゲーム仲間からだった。
    「なんだなんだ」
    こんな内容だった。

    『図鑑完成したよ!ニコッ (゜▽゜)v(゜▽゜)v o(゜▽゜)o イェーイ!!』

    その下に添付ファイル。見れば、カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ四つの地方のポケモンを集めたという図鑑のデータの写真があった。記念すべき最初のポケモン、フシギダネが永久に続く笑顔で飛び跳ねている。
    「いいなあ。私もがんばろ」
    私は返信した後再びDSのディスプレイに目を向ける。とっくにデータは消去されていた。はじめからを選んで博士を迎える。
    「また会ったね博士」
    博士はプログラムの通りに私に話しかけてくる。ナナカマド博士。歴代博士の名前はほとんど全員が植物らしい。じゃあ彼の名前も植物なのか。意外。
    そう考えているうちに主人公の性別を決める画面になった。迷わず女の子をチョイス。名前。名前は……

    リ ン ネ

    巡る、ってイメージでつけた。博士の激励と共に彼女の体が縮み、さっきのドット絵までになる。そこから先は、前にもやっているからスラスラいけた。
    主人公のライバルの少年に急かされ、湖へ。
    忘れていったカバンを調べて、ムックルとの戦闘へ。
    緊急事態ということで中に入っていたボールを一つ選ぶ。前はヒコザルだったけど、今度はポッチャマ。
    戦闘終了後、博士とその助手の少年に会うところまでで本日は終了。目が痛くなった。丁度夕食に呼ばれたところだったし、いいだろう。


    「裏技?」
    次の日、私は学校で昨日のメールを送ってきた友達と話していた。彼女も相当のゲーマーで、新作ゲームを彼女に与えれば必ず二十四時間以内にクリアしてくる。
    そんな彼女を私はすごいと思うだけでもなく、ちょっと嫉妬していた。どうやったらそんなに早くクリアできるんだか。一つのゲームをじっくりかけて遊ぶのも醍醐味だと思うのだけど。第一そんな簡単にクリアしてたら次のゲームを買うお金がすぐ無くなってしまう。
    しばらく前まではそう思っていたけど、彼女が何処かの財閥会長の孫娘だという話を聞いてからは、もうどうでもよくなった。彼女の脳と財力にかかれば、どんなゲームもすぐにクリアされてしまうのだ。
    「そう!この前掲示板で見たんだけどね」
    彼女はその愛くるしい顔をグッとこちらに近づけてきた。初対面の男は大体これに引っかかる。こんな可愛くてスタイルもいい、おまけに性格もいい彼女がゲーマーなんて、誰も思わないだろう。
    「サイトを回ってたら、何か掲示板……というか、チャットをみつけたの。そこに色んなゲームのバグがあって。面白いなーって思って見てたら、最後の方にポケモン関係のバグがあったの」
    「また変なのじゃないの?下手したらデータ消し飛ぶとか」
    私は昨日のことを思い出した。電源切ってどうにかなるならいいけど、プログラム自体が変になるバグがあるような裏技は辞退したい。
    「ううん。むしろすごく楽しそうな感じだった。耳貸して」
    こういう昔の少女漫画のようなことを平気でやってのけるのが彼女だ。続く言葉に、私の目は点になった。
    「……は?」

    『ゲームの中に、入れるらしいの』

    「ただいまー」
    帰宅途中でコンビニで買ったキャンディーを舐めながら私はドアを開けた。両親は共働きで深夜まで帰ってこない。最近二人と顔を合わせたのは、いつだっけ……
    テレビを点ける。午後五時のニュース番組だった。最近幼い子供が急に失踪する事件が相次いでいるという。何処かの誘拐魔の仕業だろうか。評論家の『最近は子供をきちんと見ない親が増えていますからね』という言葉で私はテレビゲームに切り替えた。PBR。ポケモン・バトル・レボリューション。
    リモコンを持ってコロシアムをチョイスする。さて、今日は何処のマスターを倒そうか。
    (……)
    BGMが右耳から左耳を突き抜けていく。口の中のキャンディーは舌の上で甘味を出していた。飲み込むと喉が痛くなる。
    彼女の言葉。その裏技を使うと、ゲームの中に入れるらしい。嘘だろふざけんな、と言いかけたところで始業のチャイムが鳴ってしまった。去り際に彼女が呟いた。
    『後でメールでやり方教えるわ。暇ならやってみて』
    そのメールはまだ来ていない。忘れているのか、習い事で遅くなっているのか。お嬢様というのは色々苦労が絶えないのだといつだったか言っていた。何不自由ない暮らしで何を言っているんだ、と周りに突かれていた。
    昨日消したデータのエンペルトが、相手にハイドロカノンを出した。元データは消えても、こちらに移したデータはこちらをリセットしない限り消えない。一つに何かあっても複数あれば、支障はない。
    もしかしたらこの世界も同じなのかもしれない、と思い始めた時。ケータイが鳴った。慌てて手に取る。差出人は彼女だった。

    title:裏技の件

    少しドキドキしながら本文を見て…… あれ?

    『ごめーん。何かあの裏技、私の勘違いだったみたい。帰ってからもう一度見たら、下手すればゲームそのもののデータが消去されちゃうって書いてあったから。
    だから忘れてね』

    なんだ。彼女の早とちりか。まあいいや。しかしゲームそのもののデータが消し飛ぶくらいの裏技って、どういう弄りかたしたらそうなるんだろう。ちょっと気になったけど、そのことはそれっきり忘れてしまった。

    (でももし…… もしもゲームの中に入れたら、どんなことになるんだろう。この世界とは全く違った世界。普通では不可能なことも簡単にできてしまう。空を飛んだり、戦ったり、巨大な陰謀に立ち向かったり――
    そうだ。ポケモンゲームの中に入れたら、ポケモンと旅をすることだってできる。彼らの背中に乗って空を飛ぶって、どんな感じなんだろう。伝説のポケモンって実際に目の前にしたらどうなるのかな。ルビサファのグラードン、カイオーガ、レックウザ。レジ三体。
    彼らが本当にバトルしたら、世界が終わるどころじゃない。この世が終わる気がする……)


    次の日は休日だった。朝九時くらいに起きようと思って布団の中で丸まっていたら、いきなり下からドンドン音がした。慌てて飛び起きると、部屋のドアが勢いよく開いて、母さんが入って来た。流石の母さんも、休日は仕事が休みだ。
    「大変!大変よ!」
    母さんは慌てると、文に主語が無くなってしまう。何が大変なのか。眠い目を擦り、私は布団からのそのそと起き上がった。
    「何。休日くらい遅起きさせて……」
    「大変なのよ!アンタの友達がいなくなっちゃったのよ!」
    「は」
    「今テレビでやってるから、早く来て!」

    スリッパを履く余裕もなく、私は一階のリビングへ転がるように降りてきた。テレビは朝のワイドショーだった。普通なら芸能人の結婚や離婚を面白可笑しく報道するんだけど、今日は様子がおかしい。左上の画面に文字が並んでいる。

    “財閥会長の孫、突如消息不明”

    額を冷や汗が伝った。さっきから同じニュースが流れているらしく、アナウンサーが事件の概要を話し出した。頭が真っ白であんまり読み取れなかったが、こういうことらしい。
    昨日、彼女は帰った後に両親に挨拶した後自分の部屋に閉じこもったらしい。夕食もそこで摂るということで、メイドは彼女の部屋の前に夕食を置いた。二時間後に食器を回収しに来た時はドアの前に空の皿があったことから、その時はまだ部屋の中にいたらしい。
    だが、朝になってメイドが起こしにドアを叩いても返事がない。鍵がかかっていて手動では開けることができない。心配になって両親を呼びに行き、二人が呼んだが変わらず。最終手段ということで壁を斧で割って入った。
    だがそこには誰もいない。彼女がいつも使っているパジャマが脱ぎ捨てられた状態で散乱していたが、当の本人の姿はなかった――
    財閥会長の孫娘と言えば、誘拐の線も考えられる。だが抵抗した跡はなく、警察は知人の犯行から捜査を進めるという。
    「……」
    「大変なことになっちゃったわねえ」
    「お母さん」
    「何よ。どうしたの?顔色悪くして」
    「いや、」
    私がそう言いかけた時、玄関のチャイムが鳴った。はいはい、と母親がボタンを押す。話していくうちに状況が変わったことが分かった。私に向かって目配せをする。ついでに自分の服を引っ張る。
    すぐに分かった。上へ行き、玄関の方を見る。見慣れない車が一台。見慣れないスーツの男が二人。片方はスラリ、もう片方はずんぐり。
    私は一先ず簡単に着替えた。

    「――さて」
    スラリとした人の方が手帳を取り出す。横にしてメモする。彼らはメモする時、手帳を横にするという話を昔聞いたことがあった。
    「君は、失踪したお嬢さんとは友達だったんだよね」
    「はい」
    「最近、何か変わったことなかったかな。どんな些細なことでもいい。例えば、変な男が彼女の近くにいたとか」
    彼らは思った通り、刑事だった。知り合いから当たっていくというマスコミの話は本当だったらしい。
    「いえ……。あの子は送り迎えは自家用車だったし、言い寄る男なんて沢山いました。でもあの子は男遊びとかするタイプじゃありません。自分の趣味の方が大事みたいな子で」
    「趣味?」
    「はい」
    ずんぐりした方が身を乗り出してきた。思わず顔が引きつる。
    「どんな趣味かな」
    「ゲームです」
    「ゲーム?そのお嬢さんはゲーム好きだったのかい?」
    驚いた声。無理もないだろう。彼らの中の彼女の像が、ガラガラと崩れ落ちた瞬間だった。
    「私もよく一緒にやってたんですけど、彼女はどんなゲームも簡単にクリアしてしまうんです。それに関しては、無敵でした」
    「ほー……」
    理解できない、という顔をしている。この世代の刑事さんを寄越したこと自体が間違いだったんじゃないのかな。
    「ちなみに、最近ハマっていたゲームは?」
    「ポケモンです」
    「ポケモン!」
    二人が顔を見合わせた。その色にはっきりと確信の色が浮かぶ。焦りも入っているような気がした。その顔色を見て、私はある一つの可能性を思い出していた。昨日、帰ってきた時に見たニュース。その後の彼女のメール。話。
    まさか…… 
    「刑事さん、あの子の部屋にDSはありませんでしたか。ピンク色の、シールが沢山ついているやつ」
    「悪いけど、一般の人に捜査内容を話すわけにはいかないんだ」
    「あったはずです。せめて、その中に入っていたソフトだけ確認させてください。

    ……ポケモン、なんですよね?」


    刑事さんは苦い顔をして帰っていった。私はケータイにメールや着信が入っていることを確かめるために二階へ行った。床にDSが置いてある。一番古いタイプ。厚くて今の型に慣れている人は使いにくいだろう。だが私にとってはこれが一番使いやすい。ポケモンやるときはいつもこれだった。
    ケータイのメール履歴を見る。あの子の最後のメールが頭の中に浮かんだ。裏技の件が大きなバグを引き起こすことになりそうなこと。だから私に教えることはしない、そう言われた。

    ――本当に、そうだったの?

    ケータイが鳴っている。私は無意識に通話ボタンを押し、耳に当てた。ディスプレイに表示された文字が『非通知』であることも知らずに。
    「……はい」
    ザー、ザーというノイズの音が聞こえた。電波状態が悪いらしい。私は窓際に行った。だけどまだノイズが晴れない。というか、一体誰がかけてきてるの?
    「もしもし?誰ですか」

    『二つの世界は繋がった』

    ゾクリ、と寒気がした。甲高い声。よく事件の証言とかに使われる、フィルターが掛けられた声に似ている。
    「え?」
    『賽は投げられた。お前達の過ちだ!』
    ケータイのディスプレイが光りだした。白い光が私の視界に広がって……


    何も、聞こえない。


      [No.2221] Re: 【意見募集】本棚設置に関して 投稿者:わたぬけ   投稿日:2012/01/24(Tue) 01:54:25     61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ひと通り議事録に目を通させて頂きました。
    私どもが使ってるのをご覧になったのがきっかけになったというのなら、それは大変に幸いなことです。
    自分も初めてまろやか投稿小説ぐれーとのことを知ったときはまさしく「これだっ!」と思って導入に至りましたからね。
    ただ、ツイッターのほうでも少しばかりリプライさせて頂きましたが、機能的には大変優れているこのシステムですが、その分細かい所で小回りがきかない点がありますのでそのあたりをどうかお気をつけて。
    特に気になるものを挙げますと以下の三つになります。

    1感想を投稿すると管理側から操作しない限り編集・削除ができない。
    2「小説家になろう」にあるような、話と話の間に一話挟む所謂「割り込み投稿」の機能が無い。
    3投稿形式を「読切小説」にしてしまうと基本流れっぱなし。

    3につきましては議事録にもありましたように、どの作品も最終的には流れてしまうので仕方のない話ではありますが。


    今回の議事録を読ませて頂きまして、現行で使用させていただいている自分にとっても参考になるような意見がたくさんあって今一度考えさせられるきっかけにもなりました。
    特にタグなどももっとバリエーションがあってもいいかもしれませんね。自分はただ事務的に分けるみたいな感覚でしか設置してなかったきらいがありますので。
    もちろん猿まねするようなことはするつもりありませんが、ここでの意見を参考にしたタグが増えるかもしれません(笑)


      [No.2209] プロットの皮を被ったプロット 投稿者:音色   投稿日:2012/01/20(Fri) 23:45:39     79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     鏡嫌いがプロットといってもちょこちょこ手直しちゃあるので完全にプロットとはいえないかもしれないので。
     実は投稿した奴以外含めると5パターンあった。


     もりのなかで くらす ポケモンが いた
     もりのなかで ポケモンは かわをぬぎ ひとにもどっては ねむり
     また ポケモンの かわをまとい むらに やってくるのだった

     そんな時代から長い年月経過

     ひとの中で暮らすポケモン
     ポケモンは、ひとのかわをかぶり ぬぎかたを忘れたまま、ひととして暮らす
     こいつ視点が基本。人間としてまぁそこそこ。
     
     ポケモンの中で暮らすひと
     ポケモンのかわをかぶり ぬぎかたを忘れたまま ポケモンとして暮らしていた
     俺様フィーバーな奴がいい。ポケモンライフエンジョイ。

     ポケモンがゴーストライターで人間の名前で持ち込み→そこそこ売れてりゃいいけど
     二匹が出会う適当な場所。草原とか。

     人間駄目だし。ポケモン唸る。ポケモンが書いた話の一節を場面ごとに挟む。鞄とおんなじ感じ。
     ポケモン作家の信念語る。あらすじ話したらその話書いたってお前、初めてのわくわく感がなくなるだろーが。
     
     人間過去。ジュカイン。実験のあれ。
     ポケモン過去。天才。実験のあれ。

     一人称無理。面倒なのでゲームっぽくやたらと改行する、一文字開けの奴に変更。
     やりたいことを箇条書き。
    ・街に眼鏡買いに行かせる。
    ・ゲームの宣伝
    ・文房具
    ・お話の話
    ・過去の奴とか
    ・最高の傑作だよね
    ・ぶっ壊す
    ・鏡殴らせる、割る、嫌い、鏡嫌い
    ・一人と一匹どこかに行く
    ・ナイフ


     没パターン1

    『鏡はいつだって虚実を映しだす。 しかしそれは紛れもなく現実で、しばしば真実を突き付けるものである』

      
     俺の目の前に俺がいた。何のことはない、ただの鏡だろうと思った。
     俺はうつ伏せに倒れていた。だから真下にある俺の像は仰向けに映っていた。
     俺は手をついて立ち上がろうとした。しかしそこで奇妙なことに気がついた。
     ぐにゃりとした感触が手を伝わる。俺の虚像はどうも鏡の向こう側にあるものではないらしかった。
     そして俺はとんでもないことに気がついた。
     目の前の俺は、死んでいた。


     確かにそれは俺だった。頬の傷も、右腕の欠けた得物も、紛れもなく鏡に映った俺だった。
     しかしそれは、俺が鏡に映った俺を見たときに見える俺だった。その俺が、現実で、冷たくなっていた。
     何がどうなっている。そう考えて、俺は俺の記憶が混乱していることに気がついた。
     ここはどこだ?俺はどうしてこんなところにいる?そして、目の前の俺は何故死んでいる?
     溢れ出る疑問に対して、俺は嫌に冷静だった。落ち着け、まずは一つ一つ思い出してみるべきだ。
     ここがどこなのか、俺は知っているのか。俺は俺に問いかける。
     答えは出てこない。目の前にあるのは俺の死体―――だけではなかった。
     俺は俺の上に立っていた。しかし、死んでいる俺も、誰かの、いや何かの上に折り重なっているのは確かだった。
     それは無数の死体だった。知っているポケモン、見たことがない奴、元が何だったかも分からないもの。そして、青白い肌の……人間。
     ニンゲン、という言葉に引っ掛かりを覚える。
     そうだ、俺は人間に捕まったんだ。


     そいつらは森にやってくるなり、手当たりしだいにポケモンを捕まえ始めた。
     普通の人間が使う赤と白の丸い奴ではなく、なんだかよく分からん機械を使って、網やら籠やらにポケモン達を押しこんでいく。
     俺は自慢の両腕の獲物で数回、それらをぶち壊そうと試してみたが、全く歯が立たなかった。
     躍起になって逃げようとしているうちに、白い煙みたいなものが流れ込んで来て……意識を、失った。


     鮮明に思い出せたのはそこまでで、俺はそれからあとどうなったのかがよく思い出せない。
     

     絶対入れるセリフ
     
    「“人間がポケモンの皮を被ること”を目的とした研究で、“人の皮を被ったポケモン”ができてしまうとはな!こいつは傑作だ!」
     そうだ、人がポケモンの皮を被ることができるなら何故その逆が起こり得ないと言いきれる?


     没パターン2

    『いつかあの空を飛べる日が来ることを信じていた。
     そのための翼がひらく日がいつか来ることを知っていた。
     透明な翅、紅い複眼、憧れと期待は幾度の夏の夜と共に過ぎ去っていった。
     そして、待ちに待った日がやってきた。太陽が昇る前のほんのわずかな時間に、僕は地面から這い出した。
     背中がむずむずする。そう、窮屈な皮を脱ぎ棄てるんじゃない、ついに翅をひろげるんだ。
     そうして僕は、日の出と共に、進化した。』


    「……」
     二百字詰め原稿用紙の一枚目を読んで、俺はとりあえず書いた本人を眺めた。
    「どーよどーよ、今回は出だしから格好良いだろ」
     そいつは自慢げな顔をして俺を見上げてくる。
    「いや、割とフツーだけど?」
    「んなことぁないだろ!? なんかこー、ぐいぐいっと引き込まれるものがあるだろ!?」
     ねーよ、と切り捨てる。
     それに、感想は最後まで読んでもらってから聞くのが主義じゃなかったのか?俺の言葉に、作者様は押し黙った。



    『私が持っている記憶は以上だった。
     ―――気がつけば私は温かな木漏れ日を体いっぱいに浴びていた。……浴びて、いるはずだ。
     それなのにこの寒さはなんだ。今は初夏ではなかったのだろうか。
     体内時計は狂っていない。では一体何が起こったのだろうか。
     ……そうだ、進化したのだ、私は。きっと進化したてで、感覚が少し鈍くなっているのかもしれない。
     だとすれば時間ともに回復するかもしれない。私は少し安心した。初めての進化は、どうも慣れないことが多いようだ。
     
     
     
     没パターン3

     もりのなかで くらす ポケモンが いた
     もりのなかで ポケモンは かわをぬぎ ひとにもどっては ねむり
     また ポケモンの かわをまとい むらに やってくるのだった

    「シンオウの むかしばなし」より

     
    「結局さぁ、こいつの本当はどっちだったんだろうな」
     図書館で(無断)拝借してきた本を眺めながらそいつはメガネをずりあげた。
    「本当?」
     それは、姿という意味なのか。皮をかぶりポケモンになり、皮を脱いで人に戻る、はたしてどちらが本当の姿か。
     いやさ――、これって逆もアリかも知れないわけじゃん?ポケモンが人になって人がポケモンになって。
     ポケモンが人になると言う記述はどこにもないぞ、と突っ込む前にこいつの口が開いた。
    「ん?となれば、本当は人なんだけどポケモンの皮かぶってポケモンのふりした奴が話していた相手が実は人の皮をかぶったポケモンだったとかってアリなわけだよな?」
    「……あり、だろうな。お前の理屈でいくと」
     このネタもう誰か書いちまったかな――とそいつは天を仰ぐ。書く前に、ここに実物がいるだろうと言うべきか。
     
     

     皮をかぶった人は、鏡をのぞきこんだ時、そこに映るのは、人か、皮か。
     はたしてどちらが本当か。
     俺もお前も、どっちが本当か。


     元人間、のそいつは超絶人気モノの皮をかぶっている。ネコではなくネズミだが。
     どっかの初代チャンピオンの相棒として全国的に有名になってから電気ネズミフィーバーは訪れ、今でも不動の人気を誇っている。
     もっとも、こいつは注目されることを嫌う。他人に撫でられるのも抱き締められるのも、何より多数の視線を浴びることを嫌う。
     そんなこいつの野望が『ポケモン初のベストセラー作家』なのだから、矛盾しか生じない。
    「作者じゃなくて本が注目されるのなら良いんだ!」とは本人の主張だが、本が注目されれば自動的に作者も注目されると思うんだが。
     まぁ、こいつの書いた話は全て、俺の名前を使って持ち込んでるんだけどな。



     元ポケモン、の俺。人間歴約四年。だいぶ慣れた。体も習慣も言葉も。
     この姿に馴染んだか、と言われたら、馴染まない。どうやっても馴染まない。鏡を覗き込むたびに目の前の虚像をたたき割りたくなる衝動にかられる。
     これは俺じゃない。俺の本当、じゃない。何回現実を否定してきたか分からない。その度に鏡は砕け皮は傷ついた。
     鏡は本当を映さない。映すのは、皮だ。


     まぁ、結果的に投げ込んだ奴が一番書きたかった事を書けたから、良いんだけどね

    【続きかない】


      [No.2195] ともだち 投稿者:紀成   投稿日:2012/01/13(Fri) 20:33:40     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    そいつは、突然僕の影に現れた。一人ぼっちで泣いている僕の影で、あの独特の赤い目を浮かび上がらせて口を裂けんばかりに横に広げ、ニヤリと笑った。
    周りには誰もいない。理由は分からないけど、数日前から誰も僕と遊んでくれなくなったのだ。それどころか何かにつけ暴言を吐かれ、殴られ、蹴られる。おかげで僕の体は痣だらけになった。
    でも何も言えなかった。僕には両親はいなくて、孤児院で育ったからだ。でもそれを理由にしたって皆今までは何の偏見もなしに遊んでくれていたのだ。
    どうして。どうして。
    そんな単語を何百回も繰り返し吐き続けていたら、そいつが現れたのだ。そいつは僕の表情を見てまた笑うと、よっこらせとでも言うように影から出てきた。一頭身。顔と体の境目が分からない。目は黄昏時の太陽よりも赤かった。
    僕は必死で頭の中を穿り返し、四文字の答えを出した。いつだったか教科書で『危険なポケモン』として学習した覚えがあった。こんな説明文だったと思う。

    『やまで そうなんしたとき いのちをうばいに くらやみから あらわれることが あるという』

    最初に言っておくけど、そこは山ではない。遭難もしていないし、夕方であって真っ暗でもない。それでもそいつは僕の前に現れた。短い手を差し出され、訳も分からないまま僕は涙で濡れた手でそいつの手を握った。


    それからそいつと僕はつるむようになった。どうやら他人には見えないらしく、やりたい放題、し放題。花と水が入っている花瓶を持ち上げるわ、給食のクリームシチューを一匹で全部食べ尽くすわ、全く掃除していない黒板消しをブン投げるわ。
    数え切れないほどの悪事をやらかした。先生もクラスメイトも何もできずに、ただおろおろするばかりだった。僕はそれが可笑しかった。いつも威張っているばかりの先生が、僕を苛めるクラスメイトが何もできない。
    ざまあみろ。
    そんな言葉が『どうして』の替わりに何重にも折り重なっていった。

    成長するにつれ、僕は周りのことをあまり気にしなくなっていった。どんな事を言われても、自分は自分だと思えるようになったからだ。そしてその気持ちはそいつにも向くようになった。元はと言えばそいつが勝手に自分の影にひっついていただけで、手持ちと言うべきポケモンではなかったのだ。
    そう考えるようになった時は既に、僕は親切なお金持ちから孤児院に送られてきたイーブイやその進化系に夢中になっており、そいつのことをほとんど忘れかけていた。

    ある日、久々にそいつのことを思い出して名前を呼んでみた。だが返事はなかった。おかしいなと思ってもう一度呼んでみたが、やはり返事もないし現れることもなかった。
    孤児院の周り、学校、更には町内を一周してみたけどそいつの姿はどこにもなくなっていた。初めて出会った時と同じ、黄昏時の光が全てを赤く照らしていた。

    その後、僕は孤児院を出て高校に入り就職した。未だにそいつには会えていない。消えたのか、また別の影を求めてどこかにいるのか。
    残業中、ふと一人の影を見つめるとあの笑いが頭に響いてくるような気がするのだ。


      [No.2184] Re: 相棒 投稿者:イケズキ   投稿日:2012/01/09(Mon) 10:19:57     66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    なんともツボにはまってしまった、イケズキです。


    すっきりとしたストーリーで、しかもおもしろい! 本物の“オチ”がある!
    幼いころから親に「ボケに対するツッコミは最低限のマナーだ」と、厳しくしつけられてきた自分には、ちょっとした懐かしさを感じる程、完成された噺(あえてこの字を使わせていただきましょう!)に思われましたw


    「笑いとは緊張と緩和」という、某師匠のお言葉を思いだします。
    こんな基本を大切にした漫才を最近見てない気がする……とかちょっと寂しくもなったりw



    本当におもしろかったです。こういう作品大好きです。
    今後もこういう噺書いていただけたら幸いです。
    ありがとうございました。
    ではでは……。


      [No.2173] なにこれかわいい 投稿者:紀成   投稿日:2012/01/04(Wed) 09:59:35     34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    読んでてこの曲が頭の中でループして止まらなくなったのだよ http://www.youtube.com/watch?v=6TQl6wcrs5I

    ゴルダックの関西弁の違和感が全くなくてどうしよう
    お正月から笑わせてもらいました。


      [No.2162] ギラティナと会った 投稿者:音色   投稿日:2011/12/31(Sat) 22:42:56     80clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     年明けまでもう少し。あー、今年1年でどんだけうちにゴースト増えた。初詣はあれだな。ゴーストホイホイがこれ以上酷くならねぇ様に祈るしかねぇな。
     もう治る気がしない。何故だ。分からん。まぁ、いいか。
     コタツでゲンガーがミカンを剥いてくれた。ありがとー。平和が染みいる。
     来年もいい年だと良いよなー。とか思いながら、だんだんぼんやり眠くなる。
     いかん、コタツで寝ると風邪をひく。そろそろ寝るわ―、初日の出は出来たら一緒に見ようぜ、と声をかけて夜が本場のゴーストたちを置いていく。
     もそもそと布団にもぐった。ごろんと寝がえりを打つと、何気なしに壁にかけてある鏡を見た。ゆらり、波打ったように見えたか、見えないかで、寝た。




     妙な夢を見た。
     水が下から上に昇ってく。宙に岩が浮いている。明るくも暗くもない。全体ぼんやりとした水色。
     えーと、どこだ、ここ。何だこの謎の世界。年の終わりに変なもの見てるな、私。
     空中をすいすい泳ごうとするがうまくいかない。夢なんだからもっと都合よくいきゃいいじゃないか。
     なんかのはずみで地面(?)に足がついた。あー、歩ける。ちょっと安心。
     てくてく素足で歩く。これって、布団の中で実際に足もばたばたしてんのか?想像して笑う。
     誰もいない空間。普段やかましいゴーストポケの一匹も夢の中に出て来ないのか。ていうか、あいつら確か夢の中に入ってこれる奴とかいなかったか?まぁ、どうでもいいか。
     しかし寂しいな、ここ。なんでもいいから生き物に会えればなーとか思ってひょいっと下を見てみれば。


     ・・なんぞあれ。
     でっかい影が過ぎていく。いやいやいや、なに、あれ。生き物、か?多分そうだよな。夢とはいえ想像力たくましいな、私。
     怪獣というか、ドラゴンもどきというか。えーと、まぁ、いいや。
     追っかけてみるか。どーせ夢だし。待てぃ!走ってみる。風にように・・・とはいかない。通常スピード。えらくリアル思考だなぁこの夢!ちょっとは都合よくいけばいいのに。


     見失った。全然ご都合主義じゃないわこの夢。つまらん、どこ行った。
     適当に座りこむ。遠目からじゃ全然姿が分からんが、あの黒いの何なんだ。どっかで見たことあるポケモンかなんかか?
     いや、見たことあるかどうかなんて知ったこっちゃないんだけども・・・。ん、なんか急に暗くなった。
     真上をあのでかいのが通って行った。・・ぶっちゃけ、ムカデっぽい。
     いきなりビビらすんじゃねーよぉ―!思わず叫んでみた。ぐるんと、頭の先あたりが反転した。
     ・・え。
     こっちきた。


     思ったより、つーか、かなり、でかい。えーと、黒いムカデもどきドラゴン(っぽい何か)。
     何か挨拶でもしたほうがいいんだろうか。
     とりあえず、明けてないけど「明けましておめでとうございます」と、言ってみた。
     ・・無反応。正月の概念があるかどうかもわからねーからなー。
     適当にしゃべくる。お前ここで一人なの?一人っつーか一匹か。寂しくね?あー私は夢とはいえ結構心細かったな―。あれだよ、同じ夢がまた見れるかどうか分かんねーけどまた会えたら会おうぜ。な。
     オール無反応。これはこれで、きつい。まぁ、一人よりはマシ、か。
     なぁ、お前なんて言う名前だよ。通訳いないから通じるかどうかわからんが聞いてみる。夢だし!
     はじめて、そのドラゴンもどきの口が開いた。

    「     」


     そこで目が覚めた。
     あり?
     なんか、えらいはっきりした夢見てなかったか?
     ・・・。
     まぁ、いいか。時計は朝の4時50分。ちょっと早いけど、初日の出を見るんだからもう起きとくか。

    「ギラティナ、だっけ?あれ」


    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    余談   シンオウゴースト勢終了―――!
    イッシュの皆様は年明けです。というか、ここでゴーストシリーズ第1部は終りっす!


    【意地でも〆切に間にあわす】
    【来年も頑張るぜぃ!】


      [No.2151] たった三時間、でも本格的な即席ツリー 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2011/12/25(Sun) 21:25:24     48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    『クリスマスはまだ終わっちゃいねぇ!! 今日が当日なんだ! 幸いアイツは午前中いっぱい居ないし!』



    『おまえら、三時間で仕事完了させやがれえぇぇ!!』


      *


     一匹のシュバルゴが、目の前に生える沢山の針葉樹を、まるで品定めするかのように見渡していた。

    「ったく、リーダーのアシガタナの方がこの仕事には適任なんじゃねえのかよ…」
     ぼやきながらも、彼はだいぶ小ぶりな若木に近づいていく。

    「あなたが木を切らないと、始まらないわよ? あなたのお姫様だって待ってるし」
    「そうだな、早く戻ってやるか」
    「リーダーの事だから、もし遅れると人質…ポケ質にされても知らないわよ?」
     彼は若木の前に立ち止まった。隣のウルガモスからクスクスと笑い声がする。

    「そん時は、リーダーであっても俺のメガホーンでぶっ飛ばす」

     ナイト――騎士と呼ばれたシュバルゴがため息を一つ吐いた刹那、彼の背後でドサリと音が立った。

    「ナスカ、後は頼んだ」
    「サイコキネシスって本当に便利ね」
     ピンクの光に包まれた針葉樹は、いとも簡単にふわりと浮遊する。


      *


    「……と、パイ生地と、お菓子を沢山に、シャンメリー。あとはサイコソーダ…」
     メモをそこまで読み上げた女性は、はあっとため息をついた。反対側の左手には、すでに膨らんだ買い物袋が下がっている。
    「全くもって子供っぽいわねぇっ! 今日になって突然言い出すなんて!!」
     ターン! と八つ当たりをするかのように、今いた家の屋根を蹴ると、そのまま数メートル近く跳躍し次の屋根へと飛び移る彼女は、すでに黒い毛皮の狐、ゾロアークだった。


      *


    「シザークロスのPPが切れた」
    「あまりの冷たさに角の感覚が無い、だと…」

     周りには、クリスマスツリーに飾り付ける透き通った天使、球、プレゼントボックスが転がっている。
     無論、今ぐったりと床にへたり込んでいる彼ら…ペンドラーが氷塊を砕き、シュバルゴがシザークロスで形を作ったのだった。冷たい氷を使った細かい作業に、二匹の体力と精神力は限界に来ていた。

    「私も熱風がもう出せないんだけど」
     ウルガモスは氷の表面を薄く溶かして、つるっと滑らかにしていた。溶かしすぎては駄目なので、火力の調節がこれまた絶妙、上の二匹と同様の状態である。

    「もう気力が限界なんだけど、まだ作るの?」
    「これ以上やったら身がもたないでござる」
    「…エネルギー切れです…」

     隣の三匹、コジョンド、アギルダー、ドレディアはそれぞれ波動弾、エナジーボールを使って氷に細工をしていた。
     氷の中に光が閉じ込められ、とても美しく光るのだが『気』とか『波動』を使った特殊な細工のため、量産すれば疲れる事この上ない。
     六匹が何故ここまで凝った“クリスマスツリーの飾り”を作っていたのかといえば、全ては『リーダー』と呼ばれるダイケンキ――シェノンの命令である。
    「リーダー今頃何してんのかなぁ…」


      *


     そのダイケンキは、今彼らとは別の場所で、ツリーに別の作業を施しているのだった。
    「後から考えれば、氷技を使えるのが俺だけだったっていう…」
     冷気を枝に吹きかけるのを一時中断すると、代わりに口から出たのはため息だった。自業自得というのだろうか、こちらもれいとうビームを使いまくって、クリスマスツリーに霜を降ろして白くする地道な作業に、本人もへとへとになっていた。
    「あいつらも多分辛いと思うから、差し入れでもしてやるか…」

     普段子供っぽい彼は、彼らしくない言葉を発した。疲れでどうにかしてしまったのだろうか、それとも、心の底には皆から慕われるモノがあるのだろうか。
     少なくとも、彼の口の端が持ち上がったのは確か。


      *


    「先生! てっぺんに飾る大きな星がありませんっ!」

    「ナ、ナンダッテー!?」
    「もうPP切れでござるよ…」
    「でも、星がないと多分クリスマスツリーにならないと思う!! それにリーダーがなんて言うか…!」
     六匹がぎゃあぎゃあ言っていると、ガチャンと部屋の扉が開いた。

    「シェノンリーダーからの差し入れだってー!」
     疲れ果てた六匹の元にやってきたメラルバが背に乗せてきたのは、籠に入ったいくらかのPPマックス。それと、少し大きい氷塊。
     絶妙すぎるタイミングと、それらが意味する事に、彼らは言葉を失った。

    「要するに…もっと頑張れって事か…」
     笑顔のシュバルゴの顔は、妙に引きつっていた。

    「わが子の笑顔が眩しく、そして胸に痛いわ」
     ウルガモスとペンドラーは、複雑な表情をしている。

    「アポロン君、重かったでしょ? お疲れさま!」
     一人だけ笑顔のドレディアはメラルバの頭を撫でながら、内心どんな事を考えていたのだろうか……。

    「あ、そうそう、ツリーのてっぺんに飾れそうなもの見つけたんだよ!」
    「おお! でかしたぞアポロン!」

     思わぬ展開に賞賛の声が上がった。

     メラルバが黒い手でドレディアに差し出したのは、クリーム色っぽい星型……ではなく三日月型の物体。中心の辺りから、クチバシの様なものが飛び出している……。見るからにルナトーンそのものだった。しかし、こいつはただのルナトーンではない。


    「「「それは噂に聞く『スケベクチバシ』だあぁぁぁぁ!!!!」」」


     六匹の絶叫が響き渡り、PPの残っている技が一斉にスケベクチバシに放たれた。
     シュバルゴからメガホーン、ペンドラーからポイズンテール、ウルガモス、アギルダーからむしのさざめき、コジョンドからドレインパンチ、ドレディアからはなびらのまいが“何もしていない”スケベクチバシに炸裂し、どこかへぶっ飛ばしたのであった……。
     不憫だ。今回に限っては不憫すぎるスケベクチバシであった。吹っ飛んだ先で、また誰かにツイートされたりはしたのだろうか?


      *


     黒い狐――ゾロアークは買い物袋を両腕に提げ、お昼過ぎに家に戻ってきた。彼女を出迎えたのは見事に飾り付けられた輝くツリーと、飾り付けを終え死屍累々の如く転がる七匹だった。メラルバがゾロアークに駆け寄る。

    「どうしよう…みんな疲れちゃってて……」
     彼女はメラルバに頷くと、袋から一本サイコソーダを取り出した。ダイケンキが瞬間的に飛び起きる。
    「お昼ごはんの後ですよー」
     物を言わせぬうちにゾロアークは意地悪な笑みを浮かべながら答えた。

    「なかなか立派なクリスマスツリーね。……てっぺんの星は?」
     気付いた他の六匹が、あっと声を出した。

    「ヤバイ…忘れてた」
    「でも今からじゃアイツが帰って来ちまうな…どうする?」

    「全く……わたくしティラにお任せあれ!」

     ゾロアークが右手の爪を立て、くるくるっと魔法使いのように回した。
     ツリーのてっぺんに輝きが生じ、直後にポンっという音と共に大きな金色の星が現れた。

    「幻影、か?」
    「そのとおり。これで大丈夫でしょ?」
     そこに居た全員に笑みが浮かんだ。



     ………ガチャッ
    「ただいまぁー」

     彼らの主人を迎えたのは、仲間たち全員で作った即席ツリーだった。



    ――――
    うわぁグダグダ。もんのすごいグダグダ。前のダークライさんの記事が台無しだねwww
    クリスマスは何が何でも二つ書こうとか決心した結果がこれだよ!
    ケーキを争奪したり喧嘩したりもするけど、彼らも時には協力して何かをすることがあるんですね。ほとんどはシェノンの我が侭だと思うけど!
    あとスケベクチバシを勝手にお借りしました。…いろいろな意味ですみませんリナさん…

    【書いてもいいのよ】 【描いてもいいのよ】 【クリスマス終了まで約三時間前なう】


      [No.2140] With Heart and Voice 2 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2011/12/24(Sat) 00:26:08     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     すれ違う度、それには気付いていた。

     垣根を軽く乗り越えて、いつものように元気よく。窓から見る彼女は外で見るよりもずっと暗く見えた。
    「ハルカ!」
     顔をあげるけれど、やはりいつもの彼女ではない。そんなことは解っていた。
    「ユウキ!」
     庭先にも関わらず、ユウキは話しだす。
    「今は暇? 今度バトルフロンティアっていう施設が出来るんだけど、その先行公開でバトルタワーのチャレンジチケットがもらえたんだ。行こうよ」
    「悪いけど……」
    「んじゃ、ミナモシティなー! 先いって待ってっから!」
     言うが速い。ユウキはすでにオオスバメの翼を大空へと広げ、その身軽な動きで飛んで行ってしまう。残されたハルカはオオスバメが消えていく方向を見て、ためいきをついた。
    「そんな気分じゃないのに」
     庭にモンスターボールを投げる。緑色のしっぽを振り、フライゴンはハルカに寄ってくる。その無邪気な行動も、今のハルカにとってどうでもいいこと。二枚の羽が作り出す微風が肩にかかる。いつもフライゴンはそうやって甘えてくる。
    「ミナモシティに行くよ」
     フライゴンの風を手で払いのける。戸惑いながらもフライゴンは主人の言う通りに空を飛ぶ。


     近づくに連れて、潮風が強くなる。そしてミナモデパートのアドバルーンも見えてきた。あの時とは違う宣伝が上がってる。
    ーきみのこと、いいと思うよー
     活気のある街。夜になれば灯台の光が海を照らし、道しるべとなる。キャモメの群れが港を飛んで行き、旋回して海へと突っ込む。そうして海面に出たキャモメは、嘴に魚をくわえていた。
    ー修行を続ければ、いつかはポケモンリーグのチャンピオンにだってなれる。僕はそう思うなー
    「うるさい!」
     ミナモシティに降りると同時に、ハルカは誰に向かってでもなく怒鳴った。フライゴンはおそるおそるハルカの顔色を伺う。そして機嫌を取るように、二枚の羽を動かした。しかしフライゴンの微風よりも潮風の方が強く、かき消されてしまう。
     フライゴンの気遣いはハルカに届かない。前は些細なことでもほめてくれたし、かまってくれたのに。何が起きたか解らないフライゴンは、そのままボールに戻される。


    「でさー、この前は釣りしてたらイワシとホエルコの追いかけっこ見たんだよ。野生のホエルコの狩りって映像でしか見た事無いからさあ」
     ユウキは船着き場の前からずっとこんな調子でハルカに喋りかけていた。当のハルカは生返事でひたすら聞き流している。さっきからユウキにしては話題がくるくると変わっている。聞いてる方も今、彼が何を話したいのかもよくわからない。
    「ハジツゲタウンにまた隕石が降ったっていうから、調査で……」
    「ユウキ、さっきから何?」
    「え、何って何?」
    「うるさいよ」
     それ以降、ユウキは黙ってしまった。ハルカはというと、そんなユウキの方を見向きもせずに、海の方を見ていた。


     まだ建設中のバトルフロンティアだけど、建物の形はそれなりに見えた。そしてその中で一番早く出来たバトルタワーは、青い空を突き抜けるほどの高さだ。船を降りた二人はしばらく上を見上げ、そして人の波に促されるように入って行く。
    「がんばれよハルカ!」
     人ごみに消えていくハルカの後ろ姿に声をかける。振り返ることもなく、ハルカは彼らの中にまぎれていった。
    「なにがあったんだよ、ポケモンリーグで」
     笑わなくなったのはその時から。ポケモンに構わなくなったのはその時から。誰ともまともに話してくれなくなったのも。何か聞き出そうとしても、ハルカは誰にも話さない。
     その前は、朝会おうが夜中に電話しようがずっと嬉しそうだったのに。ポケモンの話ならすぐに返ってくるし、戦ったトレーナーの話も飽きずに。


     オオスバメがはばたく。戦ったあとの昼食は格別だと言うように。隣には主人のユウキが向かい合ってテーブルについてる。ただならぬ雰囲気を察したのか、オオスバメはそれ以降ユウキの方を見ることもなく大人しく食事していた。
    ーなるほど、君の戦い方面白いねー
    「七連勝おめでとう」
     目の前のハンバーガーにかぶりつきながら、ハルカに言う。何も言わず彼女はストローをくわえていた。その行動に、意味があるわけがない。視線がチーズがたくさんのハンバーガーでも、ユウキでもない。どこか宙を漂っている。
    「いやー、ハルカはすげえよ。やっぱチャンピオンを倒しただけあるよ。俺なんて五勝目がつらくて、そのあとずっとギリギリで……」
     ユウキは黙る。ハルカがさらに黙りこんでしまったように見えた。
    ー大丈夫!君と君のポケモンなら、何が起きても上手くやれる。僕はそう信じているー
    「残念だよな、チャンピオンになれなくて。ホウエンで誰よりも強いのに、年齢制限なんてさ」
    「実力主義とかいいながら、結局は年齢とか、意外だったよなあ」
    「今頃チャンピオンだった人はどうなってるんだろうなあ。地位が守れてよかったとか、そんなこと思ってんのかなあ」
    「ダイゴさんはそんなこと思う人じゃない!」
     テーブルがひっくり返る勢いで、ハルカが拳を叩き付けた。ジュースの紙カップが握りつぶされている。まわりの客が何が起きたと言わんばかりにこちらを一斉に見た。
    「ユウキに何が解るの? ユウキに何が解ってそんなこと言えるの? 何も解らないのに勝手なことばかり!」
    「そんなこと思ってたらとっくにダイゴさんは帰ってきてる。何も言わないでいなくなったりしない!」
     テーブルにこぼれたジュースが広がっている。ユウキもハルカもそんなものに気がついてない。時間が凍り付いていた。いきなりハルカから溢れ出す悲しい感情に、ユウキも言葉が出ない。なぐさめようにも、何も言えない。
    「チャンピオンなんて欲しくない! 私がならないことで帰ってくるならそんなものいらない!」
    「いらない。だから、帰って来て欲しい」
     ハルカの声がだんだんと小さくなる。その願いがかなわないことは、何も解らないユウキでも容易に想像がついた。
    「ハルカ……」
     少しの間を開けた。一呼吸おくと、うつむいてる彼女に話しかける。
    「その人のこと、好きなの? ハルカらしくない」
    「どんな環境だってそのまま入っていけるのに、なんで出来ないの?」
    「同じポケモンの道を通ってる人なのに、永遠に会えないわけないだろ!? ここで俺に言うよりも、やる事あるんじゃないのかよ」
     ハルカがユウキを見た。今日会ってから初めて目が合う。
    「会いたいなら、同じ道を通り続けろよ。その人が残した足跡を辿り続けろよ。それでたどり着けなかったら、もう一度俺に言えばいいだろ。本当に、ハルカらしくない」
    「どうやって? どうしたらいいのかなんて解らないよ!」
    「俺なんてもっと知るか。その人のこと知らねえのに、言うことなんで出来るか」
    「言うは簡単に決まってる。出来るか出来ないかが問題なんじゃないの!」
    「だからハルカらしくないっていってるんだろ!」
     ポケモンを使わない実力行使の取っ組み合いに、道行く人は思わず足を止める。オオスバメはどうやって止めようか外からずっと見守っていた。ポケモンが尻込みしてしまうくらい、二人の殺気が凄かった。
     やがて警備員の人が来て二人を引きはがす。なぜこうなったのか解らないほど、二人の主張は変わり過ぎていた。


     帰りの船で、おたがいの頬には赤い跡や青い跡。そして近くにいるのに二人は絶対に顔を見ようとしなかった。同じことを思っていたのだ。先に謝るなら許してやると。手を出したのはお互い様で、悪いことだと認識しているのに、どうしても先に謝ろうとは思えない。
    「あのな」「だから」
     視線を感じて振り向いたのに。二人は同じタイミングで話しかけていた。それがおかしくて、思わず笑い出す。その笑いが落ち着いた頃、ハルカが話しかける。
    「ユウキの言う通りだよ」
    「何が?」
    「ダイゴさんがいなくなって動揺してた。そうだよ、ダイゴさんだってトレーナーだもん。いつかこの道を辿っていけば、また絶対会える」
    「だろ? どう考えてもそんな強い人なんてそうそういないんだからさ」
    「うん、だから明日からちょっとまた出かけてくる! 次会う時はまた私が勝たせてもらおうっと」
     着岸のアナウンスを流す。ハルカが跳ぶように出口へと駆ける。
    「だから今日はミナモデパートで買い物するから先に帰ってて! じゃあね!」
    「お、おう……立ち直り早いなぁ……」
     いつものハルカに戻った。ユウキはため息をつく。

    「なあ、こんなことってないよなあ、オオスバメ」
     引っ越してきた当日に、ポケモンを貰って、大喜びで見せて来た。目指すものが違うとしても、同じトレーナーとして何度か戦って来た。
     ポケモンに指示する時の凛々しい声、プレゼントしたときの嬉しそうな声。
     勝った時の嬉しそうな表情。進化したと報告してきた時の電話。
     ずっと前から気付いてたんだ。それなのにハルカは気付かない。気付かないどころか……。
    「初恋が実らないのは、本当だったんだな」
     ユウキはミシロタウンへと帰る。オオスバメの翼に乗って。



    ーーーーーーーーーーーー
    ウィズハートメモ(プロット?)
    テーマ「ダンバルと手紙」
    読む対象:マサポケの人たち中心(恋愛描写は極力避ける)
    3−1−3もしくは3−3−3
    カプ厨を避ける。ギリギリまでうすくする
    ダイゴとハルカのキャラを濃く描写せず、読む人の想像に任せる
    「初恋は実らない」ダイゴハルカ以外の誰かに言わせる

    ウィズハートについて。
    原曲:With Heart and Voice(デイヴィットギリングハム作曲)参考音源http://www.youtube.com/watch?v=05n35_VUEG4
    フルートソロに当たるハルカの描写を重視。二回目のフルートソロまで。2回目のフルートソロに入ってくるアルトサックスはユウキにあてる。
    メインテーマを好きだと自覚するあたりにする。
    クラリネットとフルートのは戦闘シーンに持ってくる→はじけるところは手紙をみたあたりに。


    その他テーマ候補。
    ハピナスの送り人(ポケスコ没としていつか投稿した)
    送り火やま
    オーレからホウエンへ、ダークポケモン

    こんなメモをしたらこんなのできたよ!
    2は、2回目フルートソロからラストまで。
    チャンピオン戦後にユウキが出せない理由その1
    人間関係ってどうしてこうすんなりいかないのか、不思議なもんです。


      [No.2129] お気に召していただけるかどうか 投稿者:音色   投稿日:2011/12/18(Sun) 22:09:24     86clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「遅くなって申し訳ありません」

     メラルバを引き取りに来たカクライは何やら包みを抱えて戻ってきた。のすのすとバクフーンがが近づいてくる動作は、進化前となんら変わらない。
     視線が高くなったものの、カクライは彼の善意に笑みを浮かべて、寝入ってしまっている炎の幼虫をそっと抱きとった。

    「ありがとうございます」
     お礼を兼ねてなんですが、そんな風に言葉を濁しながらバクフーンに包みを渡す。
     受け取った彼はそれが一体何なのだろうと恐る恐るといった様子で匂いを嗅ぎだす。
    「進化のお祝いですよ」
    「そんな・・わざわざありがとうございます」
     美しい店長は恐縮したのか、看板息子から手を伸ばして包みを受け取ると、丁寧に包装紙をとき始めた。
     
    「あら!」
     ユエは意外そうな声を出した。
     中からは朱色の鮮やかな紋様が映えるバンダナが入っている。
    「丁度、ホウエンの物産展をやっておりまして。彼の邪魔にならないような装飾品はそれくらいしか思いつきませんでした」
     苦笑しながらカクライが述べる言葉を、店長はそんなことはないと否定に入る。

    「それでは、本日はもう遅いですから」
     一礼してカクライはドアをくぐって出て行った。
     次の日、彼は例のバンダナが学生たちが好き勝手にバクフーンを飾り付ける様子を見てまた苦笑を浮かべたという。


    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――
    余談   バクフーンへのプレゼントに悩み過ぎて長いこと放置してしまっていた。

    【紀成様へスライディング土下座】


      [No.2118] Re: 自分の単行本を妄想するスレ 投稿者:マコ   投稿日:2011/12/15(Thu) 16:09:36     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    じゃあ、私はロングのシリーズを。

    「ポケリア〜ポケモンがリアル世界にやってきた!」

    (帯)舞台はオオサカ。そこで巻き起こる、主人公とその友人、そして彼らのポケモン達による日常、悪党とのバトル!

    これまでの連載に加え、「書いてみた」シリーズでのスピンオフ版、番外編、さらに書き下ろし作品も数本!

    皆様、是非お買い求めください!


      [No.2107] 水の外 投稿者:きとかげ   投稿日:2011/12/07(Wed) 22:51:10     82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「ただいま」
    「おかえり。外の世界はどうだった?」
     擦り切れそうなスニーカーを脱いだ私は、幼なじみの手元を見つめながら旅の話をする。
     見たことのないポケモン、苦戦の末ゲットしたバッジ、なかなか勝てないライバル、遠い地方で行われるポケモンコンテスト、へんぴな島に住む変わり者の博士。進化した私の相棒を見せた時には「へえ、そんな姿になるんだ」と軽い歓声を上げた。
     その間に、幼なじみの手の中で新しいアクアラングが形を成していく。できた、という声と共に掲げられたそれは歪で、パーツのすき間からどんどん水が入ってきてしまうだろうどうしようもない代物だった。
    「まだまだ、親父のにすら追いつけない」と彼は言う。
    「……旅に出てみたら?」私は言った。
     彼は歪んだアクアラングを見つめながら、首を横に振った。

     私は古ぼけたスニーカーを履き、幼なじみの家を出る。小さな段差を飛び降りながら、南へ向かった。

     幼なじみの父親も、祖父も、ずっとアクアラングを作ってきた。きっかけは、この先にある小さな町。かつて、私たちが生まれるよりずっと前には、高い塀の中にあったというその町。今は水に、堀の中に沈んでいる。
     理由は、知らない。隣の地方にいる海の神の仕業か、あるいは遠い南の神が海を広げようとしたか。両方の地方に行って伝承を調べてみたが、そんなのは知ってるの範囲内に入らないのだと思う。

     ただ、事実として町は水底に沈み、それをきっかけに彼の家はアクアラング作りを始めた。堀の中から出られない町の人たちに、堀の外からアクアラングを投げ入れる為に。そしてこれからもずっとアクアラングを作り続ける。父親も、彼も、きっと彼の子どもも、子々孫々ずっと、ひたすら、堀の中へ送る為に。

     草むらから飛び出してきたポッポを、ボールから出てきた私の相棒が吹き飛ばす。
     ピジョットに進化した私の相棒も、昔はここいらをうろちょろするレベルの低いポッポだった。小さなポッポだったこいつが、立派な冠羽を持ち、大きな翼を手に入れ、その翼で空高く飛んで広い世界を見た。私の幼なじみは町から一歩も出ないまま、相変わらず下手くそなアクアラングを作り続けることに満足している。ポッポがピジョンを経て、立派なピジョットに進化することも、何も知らないまま。

     草むらを抜けた私の目の前に、高い堀の壁が立ち塞がった。
     今ならあの堀の中からだって、町の人を連れ出せる。
     けれど、そんなことはするなと、私の幼なじみは言う。堀の中にはゲームも、テレビも、本も、漫画も、最新のパソコンだってある。ポケモンが生きられない堀の中は安全だし、満ち足りているのだから、だから、私が彼らの幸せに手を出す必要はないのだ、と。

     でも、と私は思う。

     この堀の壁を超えたくないのは、――今の生活に満足していたいのは、
     堀の外にいる彼の方じゃないだろうか。


     灰色の空から落ちた滴が、私の古いスニーカーに染みを作っていく。
     この冒険が終わったら、新しい靴をおろして彼と一緒に堀の外に行こう。
     私のピジョットが大きく翼を広げた。


    〜〜
    生まれた時からアクアラングということは新生児用アクアラングに冠婚葬祭アクアラング(ry
    一言で言うと、勢いが余りましたすいません。
    【まずかったら消します】
    【続きをイケズキさんが書くに違いないと期待して】


      [No.2096] 人生のゴンドラ 投稿者:リナ   投稿日:2011/12/04(Sun) 06:31:13     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     今日もいつもと変わらない街並みが流れる。ゴンドラは、ゆっくりと水の上を滑っていく。

     太陽は朝からオレンジ色の光をこの世界に浴びせていた。のんびりと下流へ流れてゆくみなもに乱反射したその光は、レンガ造りの壁に複雑な模様を描く。自然が織り成す儚い芸術は、忙しさで目が霞んだ人々には全く気付かれず、今日も現れては消えてゆく。
     街は少しずつ賑わい始める。木彫りのハクリューをあしらった大きなゴンドラが白い尾を引いて運河の中央を横切っていく。幾重にも重なって広がる波が水面を伝い、岸に着けられていた小さなゴンドラをゴトリゴトリと揺さぶった。
     その船上で仰向けになって寝ていた彼は、それで目を覚ました。日射しが強いせいで、すぐに顔をしかめる。目を擦りながらゆっくり立ち上がり、首を鳴らして、肩を回し、しまいに大きなあくびをした。一日三十分だけと決めている休憩時間を、もう五分も過ぎてしまっている。彼はぽかぽかと暖かい陽気の中、ついうとうとしてしまい、文字通り"舟を漕いで"しまっていた。
     慣れた手つきでオールを握ると、岸辺にそのオールをあてがい、ゆっくりと運河の中央へゴンドラを押しだす。午後からは観光客のかきいれ時だ。彼はいつも客待ちをしている大通り沿いへとゴンドラを進めた。
     運河の張り巡らされた要塞都市。大昔、戦火の最中に造られたこの街は、もともと対立する二つの宗派の片一方が、もう一方による攻撃から自分たちの身を守るためのものだった。その証拠に街はその周囲を「輪壁」と呼ばれる石の壁がぐるりと一周している。長い長い時間をかけ積み上げられたその壁は、当時鉄壁の防御力を誇った。しかしそれは戦争の終結と同時に不用なものとなり、今ではレンガ造りの美しい街並みと共に世界遺産に登録され、旅行パンフレットではお馴染の指折り観光スポットとなっている。
     彼は大聖堂にほど近い、観光客で賑わう大通り沿いにゴンドラを停めた。空気はどんよりと停滞して、生温かった。ほんの数十メートル漕いだだけでひたいに汗がにじむ。夏日の太陽は老体にも容赦がない。彼は被っていたハンチングを一度脱いで風を通した。
     彼はこの街で生まれ、今日までずっとこの街で生まれ育った。今年でちょうど七十を迎える。つまり、七十年間もこの壁の内側で暮らしてきたのだった。今の水上タクシー「モストカーフィ」の船頭の仕事を始めたのは、四十年以上勤めてきた大聖堂の職員を定年退職してからのことだったが、土地勘なら同業者の連中のあいだでも負ける気はしない。迷路の如く入り組んだこの街の地図が完璧に頭に入っていることは、彼のささやかな自慢だった。
     しかし、彼が手元に残っているのはそれくらいのもので、あとはほとんど全て、失ってしまった。


     ◇ ◇ ◇


    「すみません。水上タクシーってこちらですか?」男性の声で、尋ねられた。

     岸辺に若い男女がいた。手を繋いでこちらを見下ろしている。

    「いらっしゃいませ――さようでございます。ご利用になりますか?」

     この街の船頭は一概にして無愛想な連中ばかりだが、彼に限っては礼儀正しい接客態度を守っていた。大聖堂で解説員をしていた頃の癖みたいなものだった。男性は「ほら見ろ、合ってたじゃないか」と女性に白い歯を見せる。「別に疑ってないよー」と、可愛らしく唇を尖らせる。女性の左手の薬指に銀色のリングが光ったのが見えた。

    「あの、どこか景色の良いところに行ってみたいんだけど――案内とかしてもらえませんか?」

     男性は丁寧にそう言った。それならば、お安い御用だ。

    「ええ、もちろん。そうですね――やはり大運河『カナル・グランデ』の中流から見渡す街並みなどは、格別でございます」

     女性の方が先に「素敵! ねぇ行こうよ!」と男性を見上げて言う。どうやら主導権は彼女の方にあるようだ。ゴンドラに乗るときも、男性が先に乗って、彼女を立派に――少し慇懃すぎるようにも見えたが――エスコートしていた。女性は「お願いしまーす」と、気の抜けた声で船頭に言った。彼はロープを手繰り、オールで器用に川底を押して、大運河へとゴンドラを滑らせた。
     ほとんど円形をしているこの街の中心にそびえる大聖堂から南東の下流は、そのまま海に続いている。膨大な流量を誇る大運河「カナル・グランデ」は、この街のすべての運河が最後にたどり着く終着駅だった。
     しばらく行ったところで、女性が思い出したようにバッグに手を入れ、中からモンスターボールを一つ取り出した。

    「こんなに天気が良いのにボールの中じゃかわいそうだよね」

     ボールから飛び出したのは、ラッパのような口とゼンマイのような尻尾を持った水属性のポケモン、タッツーだった。タッツーは飛び込みの選手さながら、元気よく運河に飛び込んだ。小さな水飛沫が上がり、タッツーは意気揚々とゴンドラの周りを泳ぎ始めた。

    「気持ちよさそう。あたしも泳ぎたいな」

     時々口から水鉄砲を吹き出すタッツーを嬉しそうに眺めながら、女性は言った。

    「明日も天気が良かったら、海水浴に行こうか」男性が女性の肩を抱き、提案する。

    「ホント? あ、でもあたし水着持ってきてないや」

    「買ってあげるよ。せっかくの新婚旅行だ、ケチケチしたらもったいないだろ?」

    「ありがとう! 嬉しい!」

     二人は唇を重ねて、また微笑み合う。彼はゴンドラの前方を悠々と泳ぐタッツーと目があった。「いつもこんな感じさ、やれやれだよね」と、その目が言っていた。彼は口元で微笑み返した。

    「お客様、まもなく大運河の中流になります」

     お互いに夢中になっていた夫婦は、その美しい街並みに無邪気な歓声を上げた。


     ◇ ◇ ◇


     朝はこの町に住む人々の通勤ラッシュ。けたたましくさえずる鳥ポケモン達の鳴き声の中、彼らもまた忙しなく上着を羽織り、髪を整え、革靴に疲れ切った足を突っ込む。昼過ぎからは観光客が主な乗客だが、急ぎ足で勤め先に向かう彼らもまたゴンドラで移動する場合が多い。

    「レネオノラ銀行のドルソドゥーロ通り店だ! 急いでくれ!」

     大聖堂で客待ちをしていた彼のゴンドラにバタバタと靴音が転がり込んだ。

    「かしこまりました」

     真夏だというのにしっかりとネクタイを締め、グレーの背広を着た中年の男性は禿げあがった額に大量の汗をかきながらゴンドラに乗り込んだ。

    「八時半から取引先と打ち合わせなんだ! 最短距離で頼む!」

     唾を飛ばしながら男性は声を上げた。言われるまでもなく、ゴンドラ乗りは頭の中で地図を開き、目的地までの最短距離を割り出す。ただこの時間帯、その道を通れば渋滞に巻き込まれる可能性が極めて高かった。迂回路を通った方が確実に目的地へたどり着ける。彼はオールでゴンドラの向きを変え、左側に見える細い水路に入った。

    「おい! 本当にこの道なのか? いままでこんな道入ったことないぞ?」

     彼は渋滞に巻き込まれる恐れがあることを男性に説明した。男性を表情を曇らせたままではあったが、一応納得したようで、「とにかく急いでくれ」と念を押した。
     男性は携帯電話で何度も話した。時には丁寧な口調で慇懃に、時には部下に対する電話なのか、割れんばかりの声で怒鳴った。きっと会社についてからも、そして会社から家に帰るその時まで、彼は一日中こんな様子なのだろうと、彼は思った。

     予想外のことが彼に起こった。渋滞を避けるために迂回したその道が、一隻のゴンドラで塞がってしまっているのだ。どうやら近くの建物を改装しているようで、そのゴンドラには木材やレンガが積み上げられていた。その道は非常に細く、彼のゴンドラはどう考えても通り抜けることができない。

    「おい! どういうことだ?! 通れないじゃないか!」

    「――申し訳ございませんお客様、こればっかりは」

     水路や運河が主な交通機関のこの街では、このような事態は日常茶飯事だった。大抵の客はこういうときも「仕方がないね」と、ゴンドラ乗りを責めることはしない。皆、何事もうまく、完璧に行くことばかりではないことは分かっているのだ。
     しかし男性は違った。顔を真っ赤にし、口元を震わせて怒鳴った。

    「貴様どうしてくれる?! もう間に合わないだろうが! 全く使えん年寄りだ!」

     男性はそう吐き捨てると、ゴンドラを降り、悪態をつきながら走り去っていった。


     ◇ ◇ ◇


     街は今日も夕暮れを眺めていた。
     真っ赤に輝く太陽を反射し、運河はゆっくりと下流へ流れていく。ヤミカラスの鳴き声が遠くから響き渡る。それに示し合わせたように、大聖堂から午後五時の鐘が歌い出す。

    「今日はもう終わっちゃったかしら?」

     鐘の音が終わる頃、人通りもまばらになったカンナレージョ通りでのんびり煙草をふかしていた彼は、ふいに声をかけられた。

    「ああ、申し訳ございません。ご利用ですか?」

     彼はあわてて煙草の火を携帯していた灰皿にねじ込んだ。
     彼女はちょうど彼と同じ年齢くらいの年配の女性だった。ウグイス色のロングスカートが風にはためき、その傍らには豊かな毛並みを蓄えたヨーテリー。

    「いいのよ、煙草の匂いは嫌いではないから――じゃあ、お願いしようかしら」

     彼女の優しい笑顔が夕暮れに照らし出された。

    「ありがとうございます」

     ゆっくりと彼女は船底に脚を下ろし、ゴンドラを傾ける。ヨーテリーが少しためらった後、勢いよく飛び跳ねて、彼女の隣りに収まった。

    「どちらまで?」

     いつも通り、彼はお客に尋ねる。彼女はゴンドラにしゃがみこみ、ヨーテリーの頭を撫でて言った。

    「今は自分で行き先を決める気分じゃないの――ゴンドラ乗りさんにお任せするわ」

     彼はオールの手を止め、驚いて彼女を見た。彼女はただ儚げに微笑んだ。

    「――そうですね。ここから下流へ向かうと、十分ほどで海岸沿いの運河へ出ます。この時間ですと、夕焼けが堪能できるかと」

    「素敵ね。じゃあ、そこまで」

     船頭の仕事をしていると、時々目的地を持たない客が現れる。この女性のように一目でワケありと分かるような様子の客も珍しくはなかった。彼はゴンドラの先端を下流へ向けた。

     家路を急ぐ人々で、大通りの人も運河のゴンドラの数も多かった。海岸へ向かう道すがら、二度も他のゴンドラと側面を擦った。揺れが大きくなり、彼女のヨーテリーが驚いて二、三度吠えた。彼は乗客に頭を下げたが、彼女自身は、その揺れを楽しむかように、ただ微笑んでいた。

     ほどなくして、ゴンドラはオレンジ色に輝く夕日を浴びつつ、海岸沿いに到着した。

    「――とってもきれいね。船の上から夕焼けを見るのは、もしかしたら始めてかもしれないわ」

     彼女は目を細めて、水平線に沈んでゆく太陽を見つめていた。明るく照らし出された頬や首に刻まれたしわは、どこか憂いを帯びているように見えた。
     彼自身、この時間は大抵帰宅途中の人々を乗せているので、こうしてゆっくりと夕焼けを眺めるのは実に久しぶりのことだった。ゴンドラを漕ぐのも忘れ、船の先端で棒立ちになったまま、しばらくその景色に見とれていた。

    「先日、夫に先に逝かれましてね――ひとりの時間が増えると、何していいものやら分からなくなるものなのね」

     彼女はヨーテリーの頭を撫でながら、静かにそう言った。

    「――左様でございましたか。御主人は、何をされていた方で?」

    「駅員でした。あの人の口癖があってね、『電車を降りた旅行客の、この街の第一印象は何で決まると思う? おれが笑顔でいたか、いなかったかだ』って。家でしかめっ面しながら煙草をふかす様子からは想像つかないほど、仕事中はにこにこしてたのよ」

    「御主人のおっしゃること、共感いたします。接客業をよく分かっていらっしゃるお方だったんですね」

     もしかしたら、自分も何度か顔を合わせたことがあるかも知れないと、彼は思った。年に数えるくらいしか、駅には行かないのだが。

    「ふふ、そうなのかしらね。そういうあなたも、素敵な笑顔でゴンドラを漕いで、乗っていて気持ちがよかったわ。ありがとう」

    「ゴンドラ乗りなんて仕事、船の操縦に慣れた後は、笑うことぐらいしかできませんから」

     彼女はまた小さく笑い、オレンジに染まった海を見つめた。
     気付けばもう太陽はほとんど水平線に隠れてしまっていたが、そのぎりぎりの光でさえも、彼の目には眩しかった。


     ◇ ◇ ◇


     変わり映えのない夏の蒸し暑い日が続いている。彼はひたいに汗を滲ませて、毎日ゴンドラを漕いでいる。

     遠い昔にはあった。ずっとそばにいた最愛の人も、熱意や地位、プライドも、心を通わせたパートナーも。今は何ひとつ残っていない。彼は今、一人で毎日同じことを繰り返しているだけの人生を送っている。

     彼はこの街が好きだ。この街の建物、空気、景色、そして人々も、好きだ。
     彼は今、満ち足りた人生を送っている。

    「パトリおじさん、サンタ・クローチェまでお願い!」

     見なれたオーバーオール姿の少女が紙袋を抱えて彼のゴンドラに飛び乗った。後ろからロコンが一匹ついてきて、ぴょんとジャンプしたかと思うと、その少女の後ろに着地した。

    「お、メグじゃないか。今日もお使いかい?」

     ゴンドラの上であぐらをかいて座っていた彼は、よっこらせと立ち上がった。

    「うん、コナのコーヒー豆が切れちゃって」

    「はは、それは困る。私はいつもそれだから。今週中にはまた飲みに行くとルイスに言っといてくれ」

     そして彼――パトリは岸にオールを押し当て、ゴンドラを滑らせた。


     ――――――

     【何しても良いのよ】


      [No.2085] プロットとは呼べないものですが・・・(汗 投稿者:クーウィ   投稿日:2011/11/24(Thu) 15:01:58     56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ハブザン  真面目なハブネークとガサツ者のザングース  赤い月  阿蘇山(フエンタウン)  赤と青  神主とその娘  温泉郷  背後から奇襲  ずっと負け無し殺すならオマエ


    『赤い月』のプロット(?)です。・・・プロットっつーかメモだけどね(汗)
    物語の骨格は大体5分ぐらいで出来たので、その時思い付いた大まかな設定を一行のメモとして残したもんです。

    後は空いた時間に思い出して直書き。 ・・・基本何でもこのスタイルですので、ちゃんとプロットを用意出来る方には頭が上がりませんです(汗)
    もっと修行しねぇと・・・


      [No.2074] 飽食のけもののプロット 投稿者:乃響じゅん。   投稿日:2011/11/17(Thu) 00:12:04     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    B6のノートに手書きしたものです。


    (1ページ目)

    主人公:スージィorロコ(※結局ロコに決定)

    家に閉じこもり気味だが、たまたまお茶会へ。
    人食いが出る、というウワサを聞く。

    帰り道、林道に入ると、ウワサの人食いに出くわす。(3mのウインディ)
    用心棒倒され、馬車も倒れてしまったところを一人の男に救われる。

    ディドル・タルト(※スペースの都合上ドドがあだ名であるという設定はカット)
    占い師であり、妖しい屋。(※最終的にまじない師)
    金髪赤目の男、キュウを従えている。(※スペースの都合上キュウは人間に化けずじまい)
    名前を見抜かれたウインディをぎょっとさせ、逃げさせる。←仮
    ウインディをどう逃げさせるか(※結局逃がさなかった)
    キュウを戦わせる?

    帰ってみると、屋敷全体が異臭を放っていることに気付く。
    手紙を送る。窓から投げて。
    その夜、着替えて眠ろうかという頃、窓を叩く者が現れる。
    不審に思いながら開けると、ドドが部屋に入ってくる。
    驚くロコ。「なるほど、確かにひどい」
    キュウもそれに伴ってついてくる。


    (2ページ目)

    キュウの嗅覚を頼りに or 妖力を頼りに 屋敷内を探し回る二人。(※結局手法については明言せず)
    みな寝静まるころに行動。
    2階の隠し階段。1階通り越して地下へと続く。
    そこで見たのは、紫色のヘドロの塊。
    『ベトベトン』という人食いだという。

    ベトベトンとの問答。
    誰の差し金?
    何を食べているのか。人間のシミやほくろ、くすみなど。
    ロコ、動揺。キュウの炎で燃やそうとした時、クラウディア夫人到着。
    部屋に入られた時、知らせるシステム。(※没設定)
    ドド、名乗る。夫人、「私のものだ」と主張。
    どこでこの人食いを手に入れたか。
    →行商から買った。
    説得を試みる。どれだけの人に迷惑がかかっているのか。美しさを過剰に求めることに、意味はあるのか。
    ロコの一言で、クラウディア夫人は決断する。
    「この子を、燃やして下さい」


    (3ページ目 ある程度書き終わった後、内容に幅を持たせるための追加シーンを考える)

    ・「でも、どうして私、こんなにひどいにおいに気付かなかったのかしら」
    「こいつは、人間の老廃物を食うたびに副産物として少しずつこのヘンな匂いを吐き出すんだ。だからあんたは、少しずつ増えて行くにおいに気付かなかったんじゃないのかな」とキュウ。
    確かにロコはここ数ヶ月間、屋敷を出たことがなかった。

    ・クラウディア夫人
    「こんなところに勝手に入るなんて……さては泥棒ね? 人を呼ぶわよ」
    「お待ち下さい。私は街のまじない師。こちらのロコお嬢様の依頼により、異臭の原因を探りに参ったのです」
    「ロコが……?」
    夫人、動揺。
    「お母様、このひどい臭いに気付きませんか。このヘドロを、一体どこから手に入れたのです」
    「ヘドロだなんてとんでもないわ。だってこの子に浸かるだけで、私の美しさは保たれる。まさに魔法の薬よ。すばらしいものなのよ」
    「でも、あれは日に日にひどい臭いを出している。私は耐えきれず、吐いてしまった。耐えきれないの。このままでは、私のような人が増えてしまう」

    ・キュウをもう少し出番増やすべし(※増えた)
    ・ドドは何故お嬢様と最初から呼んでいたのか
    →服。ただし説明は省いてもよい。
    「うわさ」をひらがな漢字統一のこと。(※確か漢字に統一したような気がする)


      [No.2063] リハビリってみるだけ 投稿者:音色   投稿日:2011/11/13(Sun) 23:16:30     66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     テレポート 6/20

     …やっふぅ。
     ヤバいっすよ、何がヤバいって考えてみてくださいよ。俺ってば今まで人様のお話しに土足で踏み込んで、いや転がってきましたけどさ。
     マイワールドに一回もぶち当らないってどういうことですか。作者だから門前払い。うん、なんか納得できるようでできない話じゃないですかそれ?
     噂じゃイーブイに変化したあと洗濯機に揉まれるという荒療治で自分の小説世界に飛べたという作家さんもいるそうじゃないか!・・・冷蔵庫とどっちがマシか分かんないけど。
     そんなわけで一回分テレポートしました。森です。いや、どこのですか。
     森が舞台・・うん、幽霊がダメなガールは出てきたけどなんか違うな。もっとこう、爽やかな感じで。
     うん、お猿とかがいそうな・・ヤグルマの森とか。ヤグルマの森と言えばお猿だ。三色お猿と言えば。
    『なんだこれ』
    『おっきなモンスターボール?』
    『・・・いや、さすがにそれはないでしょ』
     りょくちゃ、アセロラ、サイダー・・・って、俺ワールド来たぁぁぁ!よっしゃぁぁぁ!
     ・・・うん、俺ワールドにきたは良いけど、どうしようか。
     だってこのお猿たち、お馬鹿だもん。そういう設定だもん。難しいことを考えられない子たちなんだよ!お猿だから!
     このままコクトウの所に興味半分で持って帰ってくれないかな―と念を送ってみる。いや、迂闊に喋ったら厄介なことになりそうだし。

     アセロラの もやしつくす!
     ビリリダマの もっていた ヒメリのみは もえてしまった! ▼

     ・・・あるぇ――!?なんで俺いきなりアセロラに燃やされてんの!?頼みの綱のヒメリの実も無くなっちゃったよ!?

    『無反応ですねぇ』
    『やっぱただのでっかいボールか?』
    『もう一回やる?』

     もしかしてポケモンかどうか確かめるために火を噴きかけたのかこいつら・・。
     いや、お馬鹿たちのやることだ。ちょっと黒こげに近いけど納得。どうしよう、地味に痛い、辛い。
     とりあえず、もっかい燃やされるのは勘弁!テレポ!

     つづけーしぃ
    ――――――――――――――――――――――――――――――――
    余談  ついばむや虫食いじゃ人様のネタになっちゃうので燃やした。

    【上手く続かないののが悲しい】
    【べ、別に拍手はくれなくったっていいんだからね!】


      [No.2051] 久々に 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/11/11(Fri) 10:29:22     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    笑いに満ちた作品を読ませてもらいました。最後がちょっぴり寂しいですが。

    ロコンモテすぎワロタ。


      [No.2040] ■ありがとうございました 投稿者:No.017   投稿日:2011/11/06(Sun) 15:22:33     114clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    第三回ポケスコ結果速報チャットが終了しました。
    夜遅くまでお付き合いいただきました皆様、ありがとうございました。
    批評は順次発表して参ります。

    尚、第四回の開催は未定となっております。
    ・ポケスコベスト発行準備に入る為
    ・自作品に集中したい
    というのが主な理由です。

    皆様、持ちネタがあると思いますので、ぜひそちらに励んでいただければと思います。

    ありがとうございました。


      [No.2028] 電球咥えた電気ポケモンって可愛いと思うんだ 投稿者:海星   投稿日:2011/10/31(Mon) 23:04:10     58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     久し振りに徹夜をした。
     寒いし静かだし寂しいのでCDでもかけようかと思ったが、ちょっとカッコつけてラジオにしてみる。
     選局ボタンを長押しして適当に電波をキャッチしてみると、滑らかなピアノの旋律が流れてきた。
     だがしかし聞いていると眠くなってきたのですぐ消した。
     これぁ駄目だぁ。
     デジタル目覚まし時計を見ると日付が変わって随分経っていた。
     もう寝よっかなぁ。
     明日はテストである(しかも結構大事)。
     勉強スイッチが入ったのは昨日の夜である(テスト二日前の夜)。
     まだプリント終わってないけど寝ちゃおうぅう……。
     仕方ないので社会の教科書片手に布団に潜り込む。
     が、電気に悩む。
     のろのろと這い出て机の蛍光灯を片方点けたまま部屋の明かりを消すと、想像以上に明るかった。
     これでは寝られない(普段は真っ暗)。
     試行錯誤の末、要らない紙を蛍光灯に貼りたくり、何とかぼんやりさせることに成功した。
     まだ明るめだが……妥協しよう。
     もごもごと口の中で教科書を読みながら温まった毛布に戻り、寝心地を追求する。
     ああ……眩しい。
     持ち上げた腕が痛くて教科書を投げ捨てる(訳にもいかず枕の下に忍ばせる)。
     ああ……電気タイプのポケモンがいたらなぁ。
     ふと、テスト一週間前のくせにダイヤモンドのポケトレに目覚めたあの日を思い出す。
     四十連鎖ちょっきりで飛び出てきたあいつ。
     あの桃パチリスが蛍光灯代わりに机で寝そべっているのを想像する。
     確か性格きまぐれだったな、ふふ。
     桃『何か眠くなってきた……電気消していい?』
      『ええ、どうせ勉強してないじゃん。この明度、微妙だから疲れるんだよね』
      『ていうか尻尾ピリピリしてきた』
     Me「あああ! カフェイン(紅茶)! カップ倒すなぁあノートがぁああ!」
     ん、そういや♂だった。
     桃『え? 電気エネルギー? ふっ、気が向いたら教えてやるよ』
     あのオレンジほっぺにもキザな笑窪はできるのだろうか。むふふ。

     ……何て考えていたらいつの間にか朝だった。
     いつの間に寝ちゃったんだろう、ていうか目覚まし時計を止めた記憶なんてない。
     あああプリント終わってない!
     慌てて布団から跳ね起きる、そんな日常。


    ―――――――――――――――
     
     お久し振りです。
     もうポケスコ速報チャットの季節ですか。
     何とかして見に行きます。

     ※この作品はノンフィクションです。

     【なにしてもいいのよ】


      [No.2017] まだ覚えてくれたとは!!!!11 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2011/10/21(Fri) 19:20:06     24clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    > わーツグミだぁ!
    まじっすか!覚えてていただけましたか!
    もう忘れられたかと思い、いまさらどうなんだと思いましたが、覚えててくれた人がいるなんて、書いた甲斐がありまくりです!!!
    >
    > 久しぶりに彼女の話が読めて嬉しい、イケズキです。
    > しかも、ゾロア進化してた! これは……いいw!
    >
    > 机の中のゾロアと、カボチャランタンの中のゾロアークでは大きな違いっすねw
    > ツグミちゃん泣いてしまって、ゾロアークの高い鼻が……
    きっとゾロアも進化して、少しツグミに甘えてしまってるんでしょうな。
    そして少しのイタズラ心がw

    >
    >
    > 黒蜜が灯夢ちゃんに振り向いてもらえる日はくるのか……
    > なんなら池月がアドバイスを……違うか
    池月「いいか黒蜜。まず女の子を口説くにはもふもふをほめろ」
    黒蜜「も、もふもふなのか!?」
    池月「そうだ。もふもふだ。ロコンの毛皮は炎と相まってもふもふ度がアップしている。そこをほめて口説き落とせ!そして最後はこういうんだ『貴方のもふもふに乾杯』」
    黒蜜「……もふもふに乾杯……」
    池月「そうだ!そしてウインクすれば落ちる!もうもふもふは手の中だ!」
    黒蜜「お、おう!」
    >
    >
    >
    > 【アトランティックジャイアントぅす!】
    【アトランティックジャイアントぅす!!!!】


      [No.2005] Re: ■ポケストお題募集 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2011/10/17(Mon) 22:01:55     43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    せっかくなので、「電気タイプ」を提案してみる。ロトムのこたつフォルムはまだですか。


      [No.1993] 金と黒 投稿者:???   投稿日:2011/10/16(Sun) 01:15:00     125clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     それはは誇り高く生き、何よりも仲間思いの黒の話――。
     


     丘の頂上へと至る道。その道の両脇には見事に育ったイチョウの木が植えてありました。秋になると、全てのイチョウの葉が黄色く黄色く染まります。それは山に金色の筋が出来たかのように美しいものでした。
     けれど、その景色を見たことのある人は多くありません。積み重ねられた石段はあるところは崩れ、あるところは埋もれ、徐々に道としての機能を放棄しつつあります。そう、ここはかつての道。

     この道はずいぶんと昔に作られたものでありました。まっすぐな道でありながら傾斜が険しく、不便な場所へ位置していたため、新しい道が作られました。平らに舗装され、銀色の手すりがつき、夜には足元を照らす街灯があり――。当然のことですが、人々は以前の道よりも新しい道を使うようになりました。それ以来、この道は忘れ去られた道、旧道となったのです。

     それでも私はこの道を、忘れ去られたこの道を歩くのが好きでした。かつての人々がこの道を愛した跡がそのままに残っているように見えるのです。ある一点だけ磨り減った石段や、修理するかのように不自然に積み重ねられた木の枝や――。
     流れてしまった時間の積み重なりが目に見えるようで、時間は流れているということがよくわかるのです。


     そして、私がこの道を訪れるもう一つの理由がありました。それは――


     青々とした緑の葉の間から、私を静かに見つめる赤い瞳。それは老いた鴉でありました。


     彼は老いてなおも、誇り高く、気高く、その丸々とした体を覆う羽はいつ見ても、美しく整えられていました。胸を覆う白い羽は、かつて一族を率いた権力者の証です。もうずいぶんと私と顔を合わせているにも関わらず、私に気を許さず、必要以上に近づこうとすると大きく体を膨らませて威嚇するのでした。

     
     

     私はこの鴉が好きでした。貫禄を持ちつつも、どこか謙虚さを持っていました。いくら権力者の座を退いたといっても元の権力者。彼のもとには毎日、小さな鴉が何かしら贈り物を持ってやってきていました。それは食べ物であったり、光るものであったりと様々だったようですが、彼は決してそれらを受け取りませんでした。絶対に受け取らず、むしろその小鴉に突き返しているようにも見えました。
     普通の権力者であれば、持ってきたものは全て受け取り、溜め込み、さらに持ってこいと命じそうなものですが、彼は決してそんなことはしませんでした。恐らく、彼は『自分に持ってくるくらいなら、今の権力者に持っていけ』と言っていたのではと思います。今の権力者とよくしておけば、群れの中での地位もあがるだろう。と。子鴉が飛び立った後には、鋭い眼光のなかに感謝の意のようなものを感じ取ることもできました。そういうところが私は好きでした。




     彼は今年の春からこの銀杏の小道に住み着いたようでした。私はそれまで、月に1、2度季節の変りを感じるため、軽い運動のためにこの場所を訪れていました。
     最初に彼と対面したとき、私はその鋭い眼光に射すくめられてしまったかのように動くことができませんでした。それはまるで、メドゥーサに睨まれた人間のように、本当に体が石化してしまったかのように、動きませんでした。
     しばらくの間、彼は静かに私の目を睨み続けました。赤い瞳がまるで血の色のようで少し不気味とも、宝石のようで綺麗だとも思いました。彼は納得したように鼻を鳴らし、ケケーと鳴きました。その鳴き声と同時に私の体もかなしばりからとけたかのように動くことができるようになったのでした。つまり、彼は私に何らかの術を使っていたということです。
     よくよく考えれば、あの鴉からしてみれば動けない人間など格好の餌でもあるのです。もしかすると、私はあそこで彼に殺されていたのかもしれないのでした。普通の人であればならばもう二度と近づかないと思うのでしょうが、私は逆に彼に近づきたいと思いました。


     
     それから月日は過ぎ、夏になりました。彼は相変わらず銀杏の小道に住み着いていましたが、立派な羽毛はあまり夏をすごすのには適していないらしく、いつも木陰でじっとしていました。それでも目の厳しさは全くの衰えを見せませんでした。私は彼の体調が不安になり、いくつかの木の実を持っていったりもしたのですが、同属から受け取らない彼が、人間である私の与えたものを受け取るはずがありませんでした。

     そんな中、始まったのが小鴉たちの襲撃でありました。

     珍しいことではありません。きっと今の権力者は小鴉が彼に物を贈っていることを知っていたのでしょう。それはやはり権力者である鴉からしてみれば、元の権力者である彼は邪魔な存在であることはまちがいありません。そこでその鴉は小鴉たちに、彼を殺せと命じたのでしょう。

     彼は襲ってくる小鴉達に反撃も威圧もしませんでした。繰り出される攻撃は全て受け、鳴き声一つもらしませんでした。小鴉達もその彼の様子にひるんでなかなか本気では攻撃してきませんし、何より彼らだってこんなことはしたくないのでしょう。かつての権力者に、権力者の座を退いてからも物を送り続けていた彼らなのです。その忠誠心たるものは相当なものであったと思います。けれど、誰も今の権力者に逆らうことができないのでしょう。悲しく歪んだ顔で、彼を襲い続けました。そして反撃せず耐える彼。その光景はとても悲しいものでありました。


     そしてまた月日はたち、秋になりました。

     彼は今まで以上にじっと動かず、いつも鋭い光を放っていたまなざしも時々、どこか遠くを見るように濁っていることがありました。小鴉達の襲撃は夏の終わりにすっと、なくなりました。

     おそらく、今の権力者はもうすぐ彼が死ぬと見たのでしょう。


     群れの権力者は一人いれば十分なのです。群れの中に白羽は一羽でよいのです。今の権力者が小鴉から、鴉へ進化したときに、彼は追い出され群れにいらない存在となるのです。

     けれど、何故でしょう。
     小鴉達の襲撃は止みました。けれど、小鴉達は毎日、毎日ひっきりなしに彼の元へ訪れるのです。果物、木の実、草、様々なものを持って彼の元へやってきました。彼は相変わらず、それらの贈り物を全て突き返していました。しかし、小鴉達も前回とは違ってそう簡単には食い下がりません。頼むから、頼むから食べてください。そんな雰囲気がありました。

     元気のない彼に、小鴉達は毎日、毎日ものを持ってきました。それはまるで、病院に見舞いにくる人のようでした。小鴉達は彼に死んでほしくないというのでしょう。生きてくれと、物を贈るのでしょう。ばれたら今の権力者にどうされるか分かりません。群れを追い出されるかも知れません、殺されるかもしれません。それでも小鴉達は彼に贈り物を続けるのです。

     どれだけ、彼が優れた権力者であり、指導者であったのか――彼らの姿を見れば、分かりすぎるほどに分かりました。

     
     銀杏の葉が色付き始めた頃だったでしょうか。夕方頃、私が自室で昔の文豪の小説を読み漁っていたとき、窓際で羽ばたく音が聞こえました。それはポッポやピジョンといった小さい鳥のものではありませんでした。驚いて振り向くと、そこにいたのは彼でした。

     あっけにとられる私を赤い瞳でにらみ付け、彼は口にくわえていたものをポトリと落とし、去っていきました。なんだろうと近づくとそれは扇の形をした銀杏の葉でした。まだまだ、端の色が変りかけたくらいのものでした。

     また次の日、まったく同じ時間に彼はまたやってきました。そしてまた、にらみつけて銀杏の葉を一枚落としていきました。前回のものよりも、黄色の部分が増えていました。

     これは一体どういうことでしょう。
     彼から私への贈り物なのでしょうか?

     そして、毎日、その行為は繰り返されました。毎日毎日、同じ時間にやってきて、銀杏の葉を一枚落としていくのです。私はわけが分かりませんでした。

     一週間がたちました。今日も彼はやってきて、銀杏の葉を落としていきました。その葉は見事な黄色でありました。彼はその日、初めて会ったときと同じように高く高く鳴きました。





     翌日、彼は時間通りにきませんでした。待っても待っても、きませんでした。あんなに時間通りにきっちり来ていた彼が三十分たっても姿を現しませんでした。なんだか、毎日恒例化していたので、さびしくなった私は自分から彼の元へ訪れることにしました。

     風は冷たさを増し、虫が所々で鳴きだしていました。その日の夕暮れはいつになく美しい橙をしていました。

     散った葉を踏みしめ、訪れたその道は金色に染まっていました。一本の線が山にひかれたようでありました。そして――


     金色の柔らかな絨毯の上に、ぽつりと夕日に照らされた――黒。



     あぁ――。

     彼は、私に、これを求めていたのか。

     

     私はゆっくりゆっくりと彼へと近づきました。少し近づいただけで威嚇してきた彼も今はただ横たわっているだけです。しゃがみこみ、彼の体へそっと触れました。少しだけ、あたたかく感じました。それが本当に彼の体温の残りだったのか、陽に照らされていたからか、それとも私の気のせいだったのかは分かりませんでした。

     羽の付け根に置いた指先を、頭のほうへと滑らします。柔らかな羽毛の感覚、硬いくちばしの感覚、彼の知らなかったことを知ったようで、私は少し嬉しくなりました。閉じられた瞳はもう二度と開くことはないでしょう。血のような、宝石のような、あの彼の瞳をみることはもうないのです。



     ……。 
     風が巣に帰る鴉達の鳴き声を運んできます。




     おやすみなさい。

     私にまかせて、いきなさい。

     他人のことを第一に思い生きた彼は、最後までその生き方を通し生きた。
     残された彼の仲間がどう思うかまで考えて。


     おやすみなさい。

     あとは私がやりましょう。



     おやすみなさい。

     

     +



     ポケスコ未提出作品。
     評価してくださる方いたらよろしくお願いします。 (作者当てもお待ちしております。

     


     





     
     


      [No.1982] Coming soon 投稿者:CoCo   《URL》   投稿日:2011/10/11(Tue) 00:32:52     77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ※青年のぼんくら頭が現実を読み込み中です。一拍お待ちください。

    「……で? なんだって?」
    『だから! もうすぐ来るの! 来るのよ! 来て!』
     夜中に彼女から電話がかかってきた。彼女というのは僕の親戚の友人のいとこの双子の妹の知り合いの姪で、去年の今頃ハンバーガーショップにて邂逅した。注文を伺う僕に対して、丁寧な自己紹介の後「タダ券をください」と言ったので、追い返した。後で気がついたが彼女はスーパーシングルトレイン常連の、ライモンでも名の知れたトレーナーだった。サインを貰っておけばよかった、というちょっとした後悔をよそに、彼女は翌日もやってきた。僕がサインをねだる前に彼女は「あなたの心をください」と言ってきた。あげた。そして僕は彼女のマネージャーになった。
     彼女の通り名はタイフーンという。毎度傍らで暴風を繰り出し記者陣やしつこいファンを吹き飛ばしているエルフーンはほとんど公式試合には出場しないが、タイフーンという名は彼女によく似合っていると思う。なぜなら彼女自身がとても暴風な女性だからだ。友人には「あの淑やかな人が?」と惚気の裏返しを疑われるが残念ながら事実なのである。どの辺りがというと、こういうところがだ。
    『起きてる? 起きてないなら今すぐ起きて。もうすぐ来るの。だから早く来て』
     受話器は彼女の声で早口に言った。ベッドルーム兼PCルーム兼リビング兼キッチンの六畳間は真っ暗で蛍光時計は零時付近を指していた。頭ががんがんした。
    「今起きた。もうちょっと落ち着いて話せないかな……」
    『ごめんなさい、夕御飯食べるのが遅かったせいで落ち着けないの』
     今期一番の落ち着いた声で彼女は言った。
    『ほんともう、来ちゃうの。目の前なの。はやく来て!』
     危機迫る声で言うが、ポケモンがいる限り力ずくで彼女に勝てる奴なんてそうそういないと思う。危険はないんだろうがだんだん焦ってきた。僕は首で受話器を押さえ、寝巻きを適当な普段着に着替え始めた。手元にあった青緑ストライプのYシャツを羽織る。
    「なにが来るんだ? 今どこにいるの?」
    『来るの! 世界中に! ええと……今はサンヨウシティのサンヨウじゃないところにいる』
     どこだよ。
    「とりあえずサンヨウのあたりにいるんだね? 行くけどいい?」
    『早く来て! ほんとに、あと四十秒ぐらいで』
     そりゃ無理だ。
     携帯に掛け直すように伝えてから受話器を置き、靴下を履いて外へ飛び出す。ガレージへ行って自転車に鍵を差そうとしたところで気がついた。
     青緑のマウンテンバイクが真っ黒になっている。
     しかもなんだかひしゃげている。
    「なんだこれは……」
     自転車は真っ黒こげだった。触ったら崩れそうなぐらいだ。
     とっさに旧友の顔を思い出した。先週、やつに貸したものだ。なかなか返さないので催促したら、あとでガレージに戻しておくと言われたっきりだった。あのしどろもどろの原因はこれだったのか。
     電話すると、ガヤの向こうから陽気な奴の声が「やあ!」と聞こえた。
    「どうしたんだい、辛気臭い声なんか出しちまって。いい夜だぜ、ライモンは……」
    「黙れよクソ野郎。誰が自転車をウェルダンに頼むなんて言った?」
    「ああ、あの自転車か。ハクがついたろ?」
     絞め殺してやろうか。
    「俺の新しい相棒が気にいっちまってな。遊んでたら、いつのまにかああなってた」
     このままだと思わず非合法な方法で友人を失ってしまいそうだと思ったので黙って切った。
     しょうがない。タクシーでも取るか。と思って飛び出した表の道路は脅威の大渋滞だった。警官がひっきりなしに笛を鳴らしていた。
    「どうかしたんですか、この車の数は……」
     声を掛けると、警官はため息をついた。
    「この通りを真っ直ぐ行って、二つ目の信号を曲がったところにあるポケモンセンターの前に案内板がある。それで分からなきゃとりあえずあの、見えるだろ、あのドームのところまで歩いていきなさい。あとは人の流れに乗れば会場に着く。だがしかしだね、君のような若いやつには言ってもわからんと思うが、ルールとは守るためにあるものだよ。本来徹夜で列をつくるのは禁止されているんだ。それがなんだ、君らはまるでルールに基づいて市民を守ろうとする我々を説教臭い親父を見るような目で――」
    「あの。すみません。この渋滞はいったいなにがあったんです?」
     警官は目をぱちぱちする。
    「なにって、そりゃ、ライモン万博さ。明日から一週間やるんだ。半年も前からニュースでやっていただろう?」
     そういえばそうだった。あんまり頻繁にテレビで見るもんで結局のところ開催がいつなのかよくわかっていなかった。
    「開場は朝の十時だってのに、このザマだよ。まったく、非常識な人間が多すぎるんだ。いったい何人いるんだ? え? ライモンの人口超えるんじゃないのか。どれ数えてみるか、ひー、ふー、み」
     僕は警官に背中を向けて携帯を取り出した。いま流行りのアイフォンだ。生みの親を亡くした彼は哀悼の色をしている。創始者のスピーチはすばらしいと評判だが、多くの成功者が語ったこととあまり相違ないような気がする。
     画面をスライドさせてニュースを見る。万博開催まであと十時間。トップニュース、地下鉄では総勢十五匹のマルマインによる自爆テロか。スーパーマルチでもなければ死者が出ていたな。おっと、スカイアローは封鎖されているじゃないか。カビゴンなんか誰が置いてったんだ。ポケモンの笛なんて持ち合わせがないぞ。
     僕はすっかりまいってしまった。なにせ八方塞りだ。彼女がほんとうにサンヨウに居るなら、もうどうにもしようがない。地下鉄は線路が吹き飛んで封鎖されているし、南部へ向かう橋は封鎖を食らっているし、道路は大渋滞だし、あとは空を飛んでいくぐらいしか方法がない。しかし飛行機は論外だし、僕はトレーナーではないからポケモンでの飛行を許可されていないし、そもそもポケモンを持っていない。唯一手持ちに居たヨーテリーは素質があるとかなんとか言われて彼女に強奪されてしまった。今はムーランドとして砂パでの活躍を期待されているそうだ。
     アイフォンが震えた。天の声だ。
    『遅い! もう来ちゃった!』
    「いったい何がだよ」
    『いいの』
     何が何なのか知らないが、彼女は少しふてくされたようだ。
    『いいから早く来て。いまさら来たって遅いのよ』
     頭がこんがらがってきた。
    「でも、行きたいのはやまやまなんだけど、行けないんだよ。自転車は黒こげだし、道路は渋滞してるし、地下鉄は大爆発してるし、僕は空を飛べないし」
    『じゃあ手配するわ。ちょっと待ってなさい』
     電話を切られた。手配するったって、何をだ、いったい。
     彼女が何を手配したのかについて考えながら、薄曇りの夜空を見上げ、しばらく壁に寄りかかって貧乏揺すりをしていると、ふいに視界へ黄色いものが割り込んできた。目前の空間へ物理法則を越えて滑り込んできたのだ。
     そいつはケーシィだった。ケーシィは座り込んでこっちを見ている。
     そうか、彼女が手配したのはこいつか。テレポートでサンヨウまで呼び寄せようって言うんだな。
    「よしきた!」
     ケーシィを抱き上げようと傍に寄ると、突如、彼は目に見えて慌てだし、ヒュンとテレポートした。
     あれっ、と思って見ると、閉じたガレージの前に移動している。
    「おい、待てよ」
     捕まえようと手を伸ばすとまたぎくっとしたような感じで、今度は街灯の下だ。
    「待てってば!」
     何がしたいんだお前は! トレーナーがトレーナーなら、ポケモンもポケモンだってんだ!
     僕はケーシィを必死に追いかけた。彼はクラクションが大合唱する表通りをヒュンヒュンとテレポートしていく。焦っているのかうまく移動できていないらしい。そんなに長い距離をワープしていないし、ともすれば【ケーシィはくるまのなかにいる!】となりかけている。具体的には体が半分ボンネットの中とか。
     そしてついに移動距離が2mもなくなり、30cmになり、最後にはぐったりとしてしまった。PP切れだ。
     ライモンの交差点は昼間のように明るい。歩道で力尽きているケーシィを抱き上げると、僕はほっとしたが、すぐに大変なことに気がついた。PPが切れてしまったら、僕が移動できないぞ!
     すぐさまフレンドリーショップに駆け込む。
    「すみません、ピーピーエイドは」
    「当店ではお取り扱いしておりません」
     そうでした。
     しょうがないので家へ戻って、彼女の荷物の中からきのみ入れを漁った。彼女のポケモンなんだから彼女のものを使ったって構いやしないだろう。たしかPPを回復するのはヒメリの実だ。僕はちょっと大げさなサクランボみたいなそいつをケーシィにやった。ケーシィは喜んで食べた。
     すると、にまァーッ、と笑った。
     さて、僕はとても平々凡々で、BMIからルックスまで平均から外れない特筆することもない人間だが、ひとつ人に負けないことがある。それは”むしのしらせ”とでも言えばいいのか――、とにかく、予感が当たるのだ。
     この能力というか、なんというか微妙なシロモノは、主に彼女に対して発揮される。彼女の脈絡のないおねだりや厄介ごとを判別するのには非常に有効だ。悪い予感がするときはなるべく理由をつけて避ける。僕の鞄にはそのための屁理屈ストック帳なるものまで入っている。
     その予感が、すさまじい勢いで警鐘を鳴らしていた。ケーシィの微笑みに。
     僕はものすごい速さで部屋を飛び出した。しかしケーシィは空間を飛び越えて玄関に先回りしてきた。口もとからヒメリの汁が滴っている。悲鳴が喉に凍りついた。
     途端、目の前が真っ暗になった。周囲の空気が粘質になってぐにゃりと歪むような感覚があった。エレベータの動くのに似た浮遊感を感じた。なんらかのサイコパワーが働いていることは間違いなかった。やばい、僕はまだ死にたくないぞ!
     すると僕は、どこかの屋上に立っていた。
     見渡す限り闇に沈んだ森と、石づくりの屋上。間違いなくライモンシティではない。ここはどこだ。足を滑らせかけて思わずアウティッみたいな声が出て内股になってしまった。と、どこからかヘンな音が聞こえる。ヒュラララーッ。空気を震わす音で全身に鳥肌が立った。だめだ、夜にこんなところにいたらいけない。振り向くと、ケーシィ。
    「このやろう! ここはどこだ!」
     叫ぶと彼はまたにィーッと笑う。なんなんだいったい。なんなんだお前は。あんまり苛立ったのでぶん殴ってやろうと、助走をつけて飛びかかった。拳が奴の頬をとらえる、と思った瞬間奴は消えた。ちくしょう貴様テレポートか!
     アッ、と足を踏み外し、落ちる。落ちる、落ちる――
     眩暈がした。熱い。まだ落ちてる。あれ、そんなにむちゃくちゃ高い場所から落ちたわけでもないはずなんだ、が。
     凄まじい風が吹き上げた。熱風だった。熱い、ヤケドする、無理やりに目を開く、すると。
     見渡す限りの溶岩。
     ドロドロに溶けた灼熱の土が大地から滾々と湧き出し、ゆるやかな川をつくっている。
     なんだこれ。なんだこれよ!
     やめろ! まじ ほんとに
     おい
     焦げるとかもはやそんな話じゃ
     ね
     おい








    ***


    1.ポケスコ〆切一時間前。
    2.突然「いま書いてんのこれおもろないんとちゃうやろか……」という疑念に襲われる
    3.というかまだ1000字ちょっとしか書いてない。
    4.しょうがないので30分前に突然即興で書き始める。(血迷った)
    5.10分前に「これじゃマズイ」と正気を取り戻してもともと書いてたのに取り掛かる。
    6.間に合うはずがない。
    7.やけっぱちでポケストに投げる。 ←イマココ!


     即興で血迷った結果がこいつです。今は反省している。
     続きは あたまのなかから にげだした!


      [No.1969] Link1のひどいプロットを発見 投稿者:風間深織   投稿日:2011/10/05(Wed) 16:25:17     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    私はいつも絵でプロットを書くのですが、なんだこのひどいプロット……


      [No.1955] まみや 投稿者:けいと   投稿日:2011/10/01(Sat) 23:41:26     57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     恋をすれば日常はがらりと変わる。誰かが言ってた。誰かって俺の叔父さんだけど。恋ってのは麻薬みたいなものだ。一度知れば、普通の日常は送れない。そんな叔父さんは職業ギャンブラーでいつも新しい恋とギャンブルに手を出してはいつも酷い目にあっていた。俺が中1に時に遂に行方知れずになった。
     叔父さんの迷言を俺は覚えてはいたが、それだけで、普通に毎日を送っていた。

    「彼女に振られた」
    「そいつはおめでとう」
    「何故祝うんだ親友。あんなに俺に彼女ができた事を喜んでくれたのにいざ俺が彼女に振られるとその態度なんだ」
    「うるさい。誰がいつお前に彼女ができたことを喜んだ」
    「リア充死ねリア充死ねと笑いながら祝福してくれたじゃないか」
    「してねーよ。全く祝福してねーよ。あー清々した。お前が彼女に振られて清々した」
     昼さがり、弁当を食ってうとうとしていたら前の席でそこそこ大きな声で会話しだした。あぁ、誰かと思ったら勇次と健太か。二人とも俺の小学校時代からの腐れ縁だ。この間、勇次の奴が『彼女できましたメール』を送りつけて着て健太と二人で『この抜け駆け野郎』と呪いの言葉満載の祝福メールを送り返してやった記憶がある。そのあと『窓を見たらカゲボウズが張り付いていた!マジビビったww』と健太からメールが来た。さすがポケモンは敏感だなぁと感心した。
    「嘘だ―。拓郎だって俺の事祝福してくれてたよなぁ」
     俺に話題が降られた。とりあえず「黙れお前なんか全国の彼女無し男にリンチにされてしまえ」と健太の援護射撃をつとめる。
    「ひどい、拓郎まで俺の傷に塩と唐辛子をすりこんでくるぅぅ」と泣き真似をしながら笑っている様子を見ると、立ち直りが早いのかそれとも演技なのか、多分演技だ。演じる余裕があるなら大丈夫だろう。
    「で、何故振られた」
    「やっと聞いてくれたな。分からんのだ」
    「なんだそりゃ」健太と同じ感想を持った。なんだそりゃ。
    「実はな、昨日、はじめてデートしたんだよ」
    「死ね」健太は容赦ない。
    「いきなりそれか」勇次は苦笑している。
    「まぁいいや、続けろ」
    「で、振られた」
    「だからそれだけだと分かんないって。結果じゃなくて過程を話せ」
     そこでチャイムが鳴った。また後でな、勇次が離れていく。前の席の健太と顔を見合わせた。
    「原因なんだと思う?」
    「多分デート中に別の女の子でも口説いたんじゃないの」俺の叔父さんみたいに。
    「そりゃないだろう」
    「やっぱり?」
     先生が教室に入ってきて会話はそこで終わった。

     好きな女ができたらまずは贈り物を用意する。なるべく相手の意表をついて且つ好みを抑えた奴が効果的だ。頼みもしていないのに叔父さんはよくポケモンと恋の手ほどきをしてくれた。女って言うのはサプライズに弱い。バトルも一緒だ。どんな奴だって自分の予想していない事態には判断が遅れるもんだ。意表をつけば隙ができる。そうやって俺は勝ってきたんだ。げらげら笑ってそう締めくくっていた。別にその様子は格好よくはなかったがやたらと印象には残った。
     恋のアドバイスは全く活用する機会がないが、バトルのアドバイスは俺のポケモンバトルに大いに影響を及ぼして、そこそこの成績を収められるようにはなっている。

    「ぶちまる」
     相棒であるパッチールは名前を呼ばれてこっちに来た。相変わらずどこを見ているのかさっぱり分からない渦巻き模様。じっと見つめると気持ちが悪くなってくる。車酔いする感じで。ぼふぼふと耳に軽くジャブを打つとぐらんぐらんと揺れる。おもしろい。
     放課後のバトルクラブで勇次の失恋話の続きを聞こうと待ち構えていたのだが、肝心の勇次が掃除を連続でサボった罰として居残り掃除をさせられているらしく姿が見えない。健太の奴は塾があるといって先に帰った。後で俺にメールで経緯を教えてくれと念を押してさっさと自転車で去っていった。そんな健太の頼みがあるため俺は帰るに帰れない。早く勇次の掃除が終るのを待つだけというまことに無駄な時間を持て余していた。ていうか、部長も顧問もいないこの運動場の隅のバトルフィールドで俺一人ぶちまるにジャブをかますだけのこの場でどうしろというんだ。暇だ。
     構ってくれるのが嬉しいのか、ぶちまるはされるがままにジャブを受け続けてぐるんと後ろ向きにそっくりかえった。あ、やりすぎたか。手を止める。ぐるんは一回きりですぐに立ち上がった。体柔らかいなこいつ。そのままこちらに歩いてきて元の位置までやってきた。何が面白いのかへらへらしている。こいつの表情はぐるぐる模様の目とへらへら笑いばっかりで、時々ぶちまるは何かを本気で考えることなんかあるのかと思ってしまう。多分ない。きっとない。あっても俺には分からないだろう。恋とかするのかな、こいつ。それ以前に俺は恋ができるのか。
     勇次の彼女できましたメールに対する呪いの祝福メールはぶっちゃけてしまえば健太の悪乗りに便乗して適当に恨み辛みをそれっぽく送りつけてやっただけに近い。現に、健太の所にカゲボウズは来たらしいが俺の所にはただの一匹だって来なかった。奴等の好物である怨念がこもってなかったからだろう。だって、俺は彼女欲しいかと言われたらよく分からないとしか言えないからで。そりゃいたら幸せなんだろう。ただその幸せという奴が恋という感情を挟んで得られるものだとしたら現時点で恋をしていない俺には彼女が出来ても幸せかどうかという自信がない。いや、自信とかいう問題じゃないと思うけど。要するに、俺は叔父さんが語る恋というものがなんとなく気にくわないわけで。あー上手く言えない。ぶちまるに対して延々とそんな感じの愚痴もどきをこぼす。
    「なにやってんの」
     後ろから声をかけられた。振り返ったら田代さんがいた。

     リードされるかリードするか。基本的に女はリードされる方が多い。それが何故か判るか。昔からレディーファーストの精神があるからだ。女心は繊細かつ気難しい、時に嫉妬深く扱いに苦労する。女を怒らせたらいつも恐ろしいだろう?昔の男どもはそれを知っているから何事も女性に対して紳士的にふるまっていたんだ。嘘か本当か、半分は多分その場の思いつきであろう叔父さんの自論によると女の子というものは丁寧に扱うべきものだという事らしい。決してこちらからあれやこれや押し付けるべきではない。ちなみにこの自論は「要するにバトルは自分の流れに巻き込んだ方が勝ちだ!」という締めくくり方をされた。レディーファーストとバトルの流れがどこでつながるのかは未だによく分からない。

     スポーツドリンクを片手に帽子をかぶった田代さんは「日陰にくれば」と言って俺とぶちまるに手まねきした。秋が近いにもかかわらず残暑厳しいこの時期に日向でぶちまるをジャブしている俺が奇妙に映ったらしかった。お言葉に甘えて立ち上がる。ぶちまるがふらふらしながらついてきた。
     木陰は確かに涼しかった。
    「誰もいないバトル場で何してたの」
    「ぶちまるをジャブしながら愚痴を聞いてもらってた」
    「なにそれ」
     くてんとさながらぬいぐるみのように木にもたれかかっているぶちまるをちらりと眺めた田代さんは「まぁ、ぽかぽか殴りたくはなるね」とジャブに関して同意してくれた。そんな田代さんのポケモンは確かクロバットだった。最終進化しているポケモンを連れている様子が珍しくて一時期クラブ内で噂になっていた。
    「ニックネームなんだったっけ」
    「カ―ミラ」小説知ってる?俺にそう聞いて、答える前に俺の反応を見とったらしい。「吸血鬼の小説」とざっくりとした説明をしてくれた。要するに、ズバットやゴルバットが『きゅうけつ』を覚えることから性別を含めて名前を頂いたらしい。
    「物騒だな」
    「こけおどしにはなるよ」意味を知っている人にしか効果ないけどね。けらけら笑っていた。
     その点、俺のぶちまるなんて見たままのぶち模様から取っただけでウルトラ安直だ。そう言ったら「分かりやすさが一番だよ」と田代さん。そうかもしれないとすぐ思いなおす。
    「前田は絶対、特性は『たんじゅん』だね」
    「かもしれない」
    「否定はしないんだ」田代さんは楽しそうだ。そういう田代さんの特性は何だろうかと考える。思いつかなかった。
     本人に聞いてみる。
    「『あまのじゃく』とか?」
     別に天邪鬼な要素が見つからなかったので多分違うと言っておいた。
    「えー、なんか憧れがあるけどな。天邪鬼」
    「どこに」
    「響きに」不思議な憧れだ。感心してしまった。
     ぶちまるがいつの間にか俺の後ろに来てぐいぐいと服のすそを引っ張ってきた。なんだよ、と言うと田代さんを指差す。
    「これ欲しいの?」
     ほとんど空っぽに近いスポーツドリンク。あぁ、喉が渇いたのか。そういえば俺も何となく喉が渇いた。自販機がここから少し遠いのが面倒くさい。
    「買ってこようか?」
    「え」
     田代さんの申し出に面食らう。
    「向こうまで買いに行くのが面倒くさいって顔に出てたよ」やっぱり単純だ。帽子をかぶり直す田代さんをおもわずまじまじ見てします。
    「でも、それはちょっと」
    「スポドリの1本や2本、おごったげるよ?」
    「いや女の子に買いに行かせるって」
    「いーのいーの、ご褒美だと思いなさい」いつも頑張ってるんだからさ。ぽーんと肩を叩かれて、田代さんは走りだした。
     へ。
     ご褒美って、どういう事。

     誰かの知らないところで誰かが誰かのためになることをしていたとする。学生のお前に分かりやすく例えるなら、当番が運んで行かなかった提出物を全然関係ない人が親切で運んで行ったり、他人が捨てたゴミを当たり前のように拾ったり、そんなところだ。で、そんなことをする奴らってのは基本的にその行為が誰にも知られてないと思ってる。だから、いざその事を褒められると慣れてないからこれが女だったらここから先はちょろいもんだぜー、とここから先の叔父さんの教育上よろしくないと思われる女性の口説き方は聞いていなかった。どうでもいいし。

     木陰でぼんやりとぶちまるの耳を引っ張っていたら普通に田代さんが帰ってきた。
    「あれ、ジャブじゃないんだ」
    「飽きたから今度はどこまでこいつの耳がぶよぶよするか遊んでるんだ」
     嫌がっている様子は見られないので思いっきり引っ張ってから手を放してやるとみよよよんと妙な効果音がした。田代さんが口で言っていた。
    「はいこれ」
     ぺと、といきなり首筋に冷たいものが当てられて「ひやぁぁぁ」と変な声を出してしまった。「ぴやぁぁぁ」とぶちまるまで似たような声を出す。同じことをされていた。
    「あっはっは、そっくりだねぇ」
     元凶は声を出して笑う。冷たいスポドリをこんどこそ手で受け取る。ぶちまるは気持ちが良かったのかもう一回やってくれと頼んでいるらしかった。
    「ぴやぁぁ」
     田代さんが爆笑した。たぶん、ツボに入った。「飼い主にそっくりー」失礼なことで笑っていた。
    「ポケモンはトレーナーに似るって本当だねー」
    「じゃあ、田代さんのクロバットは」思いついた事を言ってみる。「後ろから噛みついてきたりして」
     吸血鬼みたいに、と付け加えると「それはないない」と軽く否定されてしまった。
    「もしかして、さっきの怒ってる?」申し訳なさそうな声になった。「いや、そういうわけじゃないけど」と言ってから、手の中の開けてないペットボトルにようやく意識が回った。
    「やっぱり、おごってもらうのは悪いよ。金出す」
    「だ―めだって。日頃から頑張っている人にはおごられる義務があるのだ」
     そんな義務聞いたことないよ、ぼやいてから「頑張ってる人?」聞き直す。「そういえば、ご褒美とか言ってたけど」
    「ほら、前田っていっつも最後まで残ってバトル場ならしたりしてるじゃん。他にも審判の数が足りなくなったらすすんでやったりとか。そうやって頑張ってるんだから、今日は素直におごられなさい」
     妙な説得力のある言い回しで押し切られた。俺は「はぁ」と間の抜けたような声を出した。別に俺のやっている事は別段特別なことではないし、俺以外の人もやっているんだが。そう言ってみた。
    「うん、その人たちにもおごったことあるよ」余裕の笑み。死角はないらしい。けど、その返事に何故かちくりとした。
     そっか、俺だけじゃないのか。安堵すると同時に、妙なざわつきも覚えた。なんというか、よく、わからないけど。
    「じゃあ、頂きます」そう言ってスポーツドリンクに手をかけた。「それでよろしい」田代さんは満足そうだった。

     特別って思わせる事が大切だ。人間ってのは不思議なモノで、チビッ子の頃は何だって『あれも俺の』『これも俺の』って自分の、自分だけの、ってこだわる。大きくなっても心のどこかにはこれがしっかりのこってるもんだ。相手は自分だけには優しくしてくれる、とか、二人だけの秘密、とか要するに微妙なバランスの独占欲の満たし合いなんだな。で、恋っていうのはこれに気付いたら始まってるもんなんだ。叔父さんがそのバランス感覚が敏感だったかどうかは知らない。けど、少なくとも俺は意識した事はない。

     そのあと、田代さんは「今日は多分誰も来ないと思うよ―」といって去っていった。妙に、清々しかった。
     ぶちまるはすっかりスポドリを飲みつくし、のんびりしている。俺はまだすこしきつい日差しの方に目をやった。木陰から見る日向はどうしてこう眩しいんだろうとぼんやりしてみる。
     早く勇次の奴が来ればいい。そして振られた原因を聞きだしてとっとと帰りたい。ぶちまるの耳を引っ張る。「ぷぎゃ」変な声を出した。
     家に帰ったら健太にメールで報告して、飯食って、課題して、テレビでも見て、寝よう。日常っていうのはそういう事だ。別に今は恋はいらない。いらない、とかいう問題じゃないかもしれないけど。
     ペットボトルを握りしめた。これも、特別ってわけじゃない。ただの、そう、彼女流にいうなら「ご褒美」って奴。
     何故か帽子をかぶった田代さんの後姿がずっと脳裏にある。俺はこれから普通の日々が送れるのか。ちょっとだけ、心配になった。

     ぺし、とぶちまるが寄ってきて膝を叩いた。
     悩みなんてなさそうなうずまきがこちらを見ている、多分。
     ……まぁ、心配したところでこれが叔父さんのいう恋とやらを自覚したのかどうか、それすらも分からない。ただ、田代さんから普段俺が当たり前だと思ってやっている事を思いがけず褒められて、叔父さん流に言うなら『慣れてなくて』嬉しかった、だけだ。まさに『たんじゅん』だ。。
     きっと叔父さんにあれこれ言われ過ぎて俺が勝手に気にしてるだけだ。心配になってどうする。もはや、こう考えることもある種の言い訳にも見えてくる。思考までぶちまるのふらふらな動きのせいで混乱してきた気がする。気持ち悪い。日々の送り方に悩むとか、わけわからん。
     
     いまのところ、それだけ。考えるのをやめる。
     むぎゅうとぶちまるを抱っこしてみる。
     暑苦しい。早く来い、勇次。
     ペットボトルの中身はまだ半分くらい残ってた。


    ――――――――――――――――――――――――――――――――
    誤字脱字等が見つかりましたらご報告よろしくお願いします


      [No.1944] 居候、空を飛ぶ 投稿者:no name   投稿日:2011/10/01(Sat) 17:59:13     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    間違い等ございましたら。




    居候、空を飛ぶ




     僕がその黄色い生き物を見つけたのは、メタングに似た掃除機と共に母が二階から引き上げていった後だった。
     電源の少ない僕の部屋で掃除機をかけるには、パソコンプリンタのコンセントを引き抜かなくてはならない。そこで掃除機をかける時になると、一旦、僕がそれを引き抜くのが暗黙のルールだった。かといって母がコンセントを戻すかというとそんな発想は無いらしく、部屋に戻った僕は再びコンセントを豚鼻に刺すことになるのだ。黄色い生き物を見つけたのはそんな時だった。
     毛の生えた黄色饅頭。それが第一印象だった。
     そこにいたのは五匹。五匹のもさもさ饅頭が、コンセントの豚鼻に争うように群がっていた。
     サイズは手の平に収まる程で、四本の足には青い爪があった。最初はポケモンだって分からなかった。僕が「ポケモン」と認識している大きさは、膝乗りサイズからだったから。
     だから最初はぎょっとした。この生き物を脳内で「虫」カテゴリに放り込んでしまったからだ。この場合の「虫」とはもちろん、台所に生息する主婦の黒い敵とかを指す。だから、思わず声を上げてしまった。
    「うわッ」
     すると饅頭の青い眼が一斉に僕を見た。そうして文字通りクモの子を散らすように逃げていったのだった。一匹は部屋の壁を走ってカーテン裏に逃げ、二匹は争うように机の裏に逃げ込んだ。後の二匹は追いきれなかったが、ベッドの下とかタンスの裏だろう。
    「……なんだ今の」
     気がつくと僕はコンセントを指すのを忘れ、机のパソコンキーボードにワードを打ち込んでいた。少々机の裏に警戒しながら。そうして「黄色 クモ 大きい」で検索した所、正体はすぐに分かった。
     饅頭の名は、バチュルと言うらしかった。
     いわゆる「虫」ではなく「ポケモン」の一種ということも分かった。タイプは「むし」「でんき」。平均サイズ十センチ。エサは電気。家庭の電源から盗み食いするのだという。
     なるほど。豚鼻に群がっていたのはそういう訳だったのか。僕は納得した。
     たぶん母が掃除していた時にでも入ってきたのだろう。
    「くっつきポケモン。見た目はかわいいので虫ポケにしては女性にも人気、ね」
     僕はリンクを順々に流し見した。そうして、彼ら正体を知り、おおよその知識を得て落ち着くと、コンセントを指し忘れていた事を思い出したのだった。
    「あ」
     僕は再び声を上げた。豚鼻に視線を戻すと、一匹のバチュルが近づいてきていたが、声に驚き逃げ出したところだった。

     窓に映る空が暗くなった頃、僕はSNS〔pixi(ピクシー)〕の日記に書き込んだ。
     居候がやってきました、と。
     七月が半分過ぎた頃だった。


     次の日になった。
     遅い午後に寝返りをうった僕が見たのは、豚鼻に群がる黄色饅頭達だった。音に気がついた彼らはやはり一斉に逃げていった。
     僕はむくりとベッドから起き出し、パソコンの電源を入れた。日記の反応が気になっていたからだ。
     そして僕はその結果に満足した。反応は上々だった。複数のレスがつき、[うp希望][さあ早くバチュルをうpる作業に戻るんだ]などと書き込まれていた。そうして最後に一番の友人――HNロックが[そういうクラスタの為にこんなコミュあるらしいよ]とのコメントと共にURLを貼り付けていた。
     クリックしてみると「居候バチュルの会」というpixiコミュニティだった。トップ絵はてんこ盛りのバチュル。バチュルに居候された人々が集っているらしい。とりあえず入会ボタンをクリックしておいた。ざっと掲示板を見ると住人達がたくさんの写真をアップしていて、なかなか盛り上がっている様子だった。
     そっと横目に豚鼻を見る。バチュルが一匹、近寄ってきていたが、そそくさと退散した。
    「お腹、減ったな」
     僕はパソコンをスリープさせると、一階ダイニングに降りることにした。テーブルに用意されたタマゴ焼きを口に入れながら、彼らもまた食事を再開しているのだろうかと考えた。


     居候が転がり込んで二週間が経った。
     パソコンに映る動画を確認し、机の上に広げたノートにシャープペンでカリカリと音を立てながら、文字の羅列を量産する"日課"をこなす僕は、チラリと部屋の隅に目をやった。バチュル達が豚鼻に群がっていた。
     ここ最近、僕が見ているだけと学習したのか、逃げ出さなくなっていた。尤も、机から動くとダメだ。クモの子を散らすように逃げていく。けど、初めて出会った頃より、少しだけ距離が縮んだ気がして嬉しかった。
     再びこっそり視線を投げる。ふさふさとした黄色い塊がおしくら饅頭をするように蠢いている。対になって並ぶ大小四つの青い眼が見え隠れして、稀にバチっと火花が散った。下のコンセントが心配ではあるが、今の所トラブルは無い。
     僕はそっとペンの動きを止める。父の部屋から持ってきたデジカメを手に取ってシャッターを押した。が、大きな動きとフラッシュに驚いたのか、逃げられてしまった。プレビューで不意打ちの結果を見てみたが、黄色いぼんやりしたものが写っただけだった。
     ちえ、と舌打ちする僕を尻目に動画が終わり、テロップが流れ始めた。僕は動画の停止ボタンを押すと、椅子の背にもたれかかる。右腕が持ち上げるデジカメを見上げて、溜息をついた。


     数日が経った。デジカメにぼんやりとした黄色を溜め込む僕に、情報が入ってきた。
     バチュルの会会員達がうpする写真を恨めしく見つめ、黄色饅頭フォルダに蓄積する日々を過ごすうち、その一人に注目するようになったのがきっかけだった。彼(たぶん彼だろう)はHNナロウと名乗る人物で、バチュル歴十数年だという。上げる写真がとにかくかわいいのと、コメントが毎回ユニークで僕はすっかりファンになってしまった。
     その彼曰く、なんとバチュルは餌付けおよび、手乗りが可能だというのだ。餌付けすれば撮影もしやすくなるらしい。
     彼の弁はこうだった。バチュルは電気だけでなく、普通の食物も摂取する。身体をつくるためには電気だけではだめなのだそうだ。動物性タンパクを好み、肉や魚を与えると喜ぶらしい。
     ちなみに一番好きなのは昆虫類で、ゴキ○リが大好物なのだそうだが見なかったことにした。
     早速僕は次の日に試すことにした。いつもの時間に下りていくと、まるで空気を読んだかのようなものがラップした皿に乗っかっていた。ベーコン付き目玉焼きだった。
     僕は目玉焼きの部分だけを口に運び、最後に残った縞模様の肉切れをラップに包み、二階の自室に持ち帰った。
     土産を置き、距離をとる。すると情報通り。バチュル達がやってきて争うように食べ始めた。一匹が脂身の一部を素早くくすね、そそくさと机裏に退散したが、残りのバチュル達は残った切れを口にくわえ引っ張り合っている。小さな四足で必死に踏ん張って、身体を震わせ、同居人に取られまいとしていた。
     かわいい。
     僕はじっとその様子に見入った。その時間はあっという間だった。
     そして決心した。僕とバチュル達の間は直線にして二メートルと少し。けれど今に必ず縮めてやろう、と。いつかはナロウ氏の様に直接の手からごはんをあげて、手に乗せよう、と。
     それ以来、母が作り置きする朝食兼ランチのみならず冷蔵庫も注意して見るようになった。彼らが好みそうなものがあればラップに包んで持ち帰る。それが僕の日課になった。


     そうして一週間後、遂に当初の目的が達せられる時がきた。
    「やった」
     プレビューの鮮明な画像に僕は声を上げた。
     ウインナーに舌鼓を打つバチュル達。あらかじめ床に固定したカメラのシャッターを押し、僕はついにくっきりと写る黄色饅頭らの撮影に成功したのだった。 
     撮影成功! そんな報と同時に添付された黄色写真ににpixi日記とバチュルの会は沸いた。
    [かわええ]
    [バチュルたんまじ電気]
     様々なコメントが寄せられた。
     友達のロックからもお祝いの書き込みがあった。
    〔撮影成功おめ〜!〕
     装飾文字付きでそう書き込んできた。

    〔お前、バチュルが来てから楽しそうだよな〕
     その晩にチャットした時、そんな事を言われた。
    〔一時は心配したけどさ〕
    〔なんか安心したわ〕
     そのように彼は書き加え、他愛の無いおしゃべりが一時間程続いた。


     母が仕事に行ったを確認すると、僕はいつもの様に降りていった。
     今日は何だろうと期待しながら、ダイニングのドアを開き、テーブルを見る。魚のフライが三つほど並んでいたので、一つ持っていってやろうと決めた。
     そうしてキッチンの炊飯器からご飯をよそい、隣の冷蔵庫から野菜ジュースを取ろうとした時にふと気がついた。
     冷蔵庫には一枚の紙が、モモン型マグネットでくっつけてあった。

     "――祭、開催"
     "保護者の皆様も是非お越しください"

     そんな文句が目に飛び込んできた。
    「…………」
     数秒の間、その紙に目を奪われた。けど、すぐにテーブルに戻って、淡々と食事を始めた。
     バチュル達が居候してから一ヶ月と半分が経とうとしていた。


    「最近、電気代が高いのよねえ」
     不意に母が呟いてドキリとした。
     あれから数日、ひさびさに家族揃っての夕食の時だった。普段はカントーに行っている父が珍しく帰ってきていた。
    「冷房のかけすぎじゃない? 今年の夏、暑かったろ」
     グラスのビールを片手に父が言う。ぐびぐびと一気に飲み干した。
    「そんな事ないわよ。そりゃカントーは暑かったでしょうけどこっちは全然。蝉が鳴き出したと思ったらすぐ聞こえなくなっちゃったし」
     それにね、と母は続けた。
    「仕事の途中に林の近く通るでしょ。いつもなら大きい蝉が、夏の間十回くらいは自転車の横を飛んでくもんだから、ぎょっとするんだけど今年は全然会わないのよ。ま、会わないほうがいいんだけど……えーと、あの大きい蝉なんて言うんだっけ。ほら、忍者みたいな名前の……」
     テッカニン。
     僕は心の中でそう唱えながら味噌汁をすすった。
     懐かしい響きだ。まだ「あいつ」がこっちに居た頃で、僕らが小さかった頃、よく雑木林で追っかけまわしたっけ。どんどん加速をつけて飛んでいくもんだからちっとも捕まらなかったけど。
     確かに今年の夏は涼しかった。冷房をかけることはほぼなかった。家に一番長く居て"日課"をこなすだけの僕がそう思うのだから間違いない。
    「買い替え時じゃないの? 冷蔵庫とかだいぶ使ってるだろ。旧い家電は電気代高いから」
    「そうかしら」
     二人の問答は続く。そしてとうとう僕に回ってきた。
    「ケイスケはどお? パソコンをつけっぱなしにしてない?」
    「してないよ」
     僕は答えた。まぁ嘘は言っていない。電気を食う饅頭だったら五匹ほど居るが。
    「そう……ならいいけど」
     母は含ませ気味に言った。
    「でもケイスケ、勉強は大丈夫なの? ちゃんとやってる? 今度テストでしょ?」
    「順調だよ」
     冷めた調子で僕は答えた。これもまあ本当だ。バチュル休憩は挟んでるけど、義務は果たしている。通販で買った参考書。パソコンで見る動画。この国の教育制度が求める学力は自室でつけられる。
     だが、母は一言多かった。
    「本当に大丈夫? 動画の先生じゃあ、分からない事聞けないじゃない」
     イラッとした感覚が襲った。
     ああ、もう。また始まった。
    「問題ない。この前のテストなら全部見せたじゃん」
     と、答える。少し声に震えが混じった。
    「そうだけど……」
     ああ、また始まった。学習しない人だ。一言、二言で終わらせておけばお互いに嫌な思いをせずに済むっていうのに。
    「母さん」と、父が止めかけたが、母は続けてしまった。
    「でもね、お母思うのよ」、と。
     ああ、うざい、うざいうざいうざい。この先は分かってる。決まってる。
    「やっぱりテストだけ受けに外に出るっていうのは……」
     それで張り詰めた糸がぷちんと切れてしまった。
     僕はかちゃんと持っていた箸を器の上に置き、立ち上がった。
    「問題ないじゃないか。必要な点はとってるだろ。必要以上にとってるだろ! 学校はそれでいいって言ってんだろ! 何がいけないんだよ! 点はとってる!」
     部屋がシンと静まり返った。ブブブという冷蔵庫の音だけが聞こえた。
     僕は背を向けると、逃げるようにその場を飛び出し、階段を駆け上った。
     部屋の前まできた時に、少し落ち着きを取り戻して、同時にまたやってしまったと後悔した。せめて、居候達を脅かさぬよう部屋のドアはそっと開いた。
     暗い自室。机の上でカリカリと音がする。大小の二対の目が光っていた。
     壁のスイッチを押して照明をつける。居候の一匹がカリカリと講義DVDのケースを爪で引っ掻いていた。
    「それ、食えないよ」
     僕はそう言うと、再び照明を落とす。毛布を持ち上げベッドに潜り込んだ。

     コンコンと音がした。あれからどれ位経ったのだろうか。音が耳に入って僕はうっすらと目をあけた。
    「ケイスケ〜、もう寝ちゃったか?」
     ああ、このとぼけた声は父だ。
    「ちょっと待って」
     僕は答えた。
    「おう」と返事が聞こえ、急いでベッドから飛び起きた。照明をつけると部屋を見渡した。バチュルが二匹ほど、豚鼻にたかっていたが、机の裏に隠れてもらった。放置されていたラップもくずかごに丸めて入れた。
    「いいよ」
     そう言うと、カチャリとドアが開き、父の顔が覗く。父は手にぶら下げた袋を持ち上げてみせ、
    「タマムシデパートで買ってきた。うまいぞ」
     と、言った。
     袋の中から出てきたのは、モーモー牧場の木の実入りミルクタルトといういかにもありそうなお菓子だったが、これが存外に美味しかった。昔からだが、父はこういうのを見つけてくることに関しては天才的だ。タルトをつつきながら他愛の無い会話をぽつぽつした後に父は言った。
    「お前、テストの順位、いいんだってな」
    「うん、まあ」
     タルトを付属スプーンでつつきながら、僕は答えた。
    「大したもんだ。俺の息子にしては出来がいい」
     父はそのように続けた。
    「学校つまらんのか」
    「……まあ。その……うん」
     曖昧な返事しかしない僕に、父は「そうか」とだけ言った。
     こういう生活を始めてもう十ヶ月くらいになるだろうか、と僕は回想した。
     家に引き篭もっても勉強できる。必要な点をとれば卒業できる。だから、その算段が整った時に僕は外に出なくなった。例外は年に何度かだけ。学校の指定する外部の学力検定テストを受ける時だけだ。
     別にいじめられたりした訳ではない。理由を語るのは難しい。ただなんとなく人との関るのが億劫になり、あの空間にいる必要を感じなくなった。
     きっかけはたぶん、「あいつ」が他地方に引っ越してしまったことだと思う。「あいつ」がいなくなった時、僕はふと思ってしまったのだ。
     ああ、これでここに通う理由は無くなったな、と。
     幼い頃からリアルの世界で「あいつ」とばかり過ごしてきた僕は、他の人間との付き合いに価値を見出せなかった。外に出るのだって、誰かと何かするのだって「あいつ」が行こうやろうと言うからだった。
     会話はできるし、生活に支障も無い。だが、ただひたすらに億劫だった。リアルの人間は僕にとって面倒くさいものでしかなかった。オンラインですれ違うくらいが丁度いい。
     もちろん「あいつ」とは未だに連絡をとりあっている。どこにいても今はインターネットで繋がりがもてるから。「あいつ」のネットでの名前はロックという。
     引き篭もっているのを彼の所為にはしたくないので、この事は黙っているけれど、最近どうもバレている気がしていた。
    「……義務は果たしてるよ。果たしてると思う」
     僕はぼそりとそう言った。
    「まあ、な」
     と父が苦笑する。
    「まぁでも、母さんも母さんなりにさ、心配してるんだからな? そこはわかってやって欲しい」
    「……うん」
     僕は生返事した。
     分かってはいる。けれど母が思い描くあるべき学生生活に僕は価値を見出せない。外に出るって事にも。
     それから会話は途切れてしまって、父も僕も黙ってタルトをつついていた。
    「まあ俺はさ、どうこう言う気ないから。お前の好きにしたらいい」
     食べ終わった頃に父はそう言った。
    「いつかくるさ。誰が何を言わなくてもここを出なきゃいけない。自然にそう思う時がさ。その時になれば身体が動く。俺はそう思ってる」
    「その時になれば?」
    「お前がいつかはわからんけどな」
     無意味なオウムがえしをする僕に、父は困ったように笑い、言った。
     その時。その時なんて本当に来るのだろうか。ちょっと想像がつかなかった。
     父はデパートで買ったいくつかのお土産を冷蔵庫に突っ込んで、次の日の夕方にカントーへ戻っていった。


     日課がまた始まった。休日に母が掃除に入るたびにバチュルを隠しながら、朝食兼ランチを残しながら、僕は彼らとの距離をつめていった。
     そうして居候から三ヶ月という頃、待ちに待った時は訪れた。
     ついに豚鼻の五十センチ前まで距離をつめた僕は、今日の馳走で彼らを釣った。
     今日はエビフライだった。
     バチュル達が机の裏から、ベッドの下から顔を出して、品定めする。僕は場所を動かない。饅頭らを辛抱強く待った。警戒しながらも、彼らは距離をつめてくる。ついに豚鼻前に正座する僕の前までやってきた。青い瞳は思案しているようだった。僕はひたすら怖くないですよオーラを醸し出すことに専念した。
     そして来た。一匹のバチュルがじりじりと歩みより、ぱっと僕の手からエビフライを奪い去った。すると残りの四匹がぴじょんぴょんと跳ねてきて一斉に飛びついた。
    「……やった」
     手からとった。僕の手からエサを。僕は感動に打ち震えた。
     夜になって早速ロックに報告をしたら、呆れながらも祝福してくれた。
    〔お前も飽きないね〕
     彼はコメントした。
    〔でもあまり慣らすのもどうなのかな。居候とはいえ野生なんだろ?〕
    〔それともボールで捕まえるの?〕
     そのコメント妙な感覚を覚えつつ、返事をする。
    『いいや。母が許可するとも思えないし』
    〔だよなーお前の母ちゃんあんま好きじゃないもんな〕
     今になって思えば彼は知っていたのかもしれなかった。


     一週間経った。
     すっかり手からエサを貰うことに慣れたバチュル達だったが、僕の部屋には異変が起こっていた。
     天井の隅、椅子、机などいろんな場所にバチュル達が糸を吐いて飛ばすようになったのだ。
     母に見つかってはまずいので、クモの巣が出来る度、僕はそれを処分した。手を伸ばして触れた糸はビリビリした。
     同時にバチュルの会にも同様の書き込みがなされるようになった。
    [ビリビリする]
    [キリがない]
    [上に向かって飛ばすよね]
    [なんだか練習をしてるみたい]
     次々に書き込みがなされる。
     するとコミュの古株達が待っていたかのように書き込みを始めた。
    [今年もきたかー]
    [もうそんな時期か]
    [早いもんだ]
     さすがベテラン、余裕がある。その中にはナロウ氏の名前もあった。そうして少し時間をおいた後にこんな書き込みがなされた。
    [今年もあのスレ立てますか]
    [えー寂しい]
    [でもしゃーない]
     あのスレ? あのスレって何だ? 僕は首を傾げる。
     そうして一時間ほど経った時、コミュに新規スレが立った。
    『居候バチュルお別れスレッド』
     お別れ? お別れってどういうことだ?


     巣立ち。一言で言うならそういうことだった。
     バチュル達は一定期間を民家で過ごした後、ちょうど今の季節に旅立っていくのだとスレッドにはあった。風の強い日を見計らって彼らは屋根に上っていく。そして、空に向かってエレキネットを飛ばし、風に乗る。風を捕まえ上昇した彼らは、"運び手"を得る。
     画面の文字を何度も何度も追いながら、僕の目の前はぐらぐらと揺れていた。

     そんな。そんな。せっかく仲良くなったのに。
     これからなのに。これからだと思っていたのに。

     それからしばらくは日課が手につかなかった。


    「お前達も行っちゃうのか? あいつみたいに」
     豚鼻に群がるバチュル達に問いかけた。彼らはしばしこちらを向いたが、すぐに電気代を増やす作業に戻ってしまった。

     ああ、どうしてなんだろう。
     どうして僕に近しい者はみんな離れてしまうのだろう。
     人も。ポケモンも。 いやロックのことはまだいい。連絡はとれているし、会うのだって全く不可能じゃない。
     けれど彼らは違う。このバチュル達は違う。確率からしたってもう僕らがこの先出会うことは無い。
     ああ、風なんか吹かなきゃいいのに! "運び手"なんて来なければいい!
     いっそボールで捕まえようかとも考えた。だが、母が許すとも到底思えなかった。

     ああ、そうだ。
     巣立ちを阻止すればどうだろう? 窓を閉め切って出れないようにすれば?
     けれど週に一度は母が掃除に入る。そうしたら窓は開いてしまう。
     ならば掃除を自分でしたら? いやだめだ、怪しまれかねない。

     追い討ちをかけるように部屋にクモの巣が増えていく。
     彼らは訓練している。"運び手"を得るその訓練を。
     日増しに巣が増えていく。取っても取ってもキリが無い。母に見つかるのももう時間の問題だ。

     ……行かせるしか、無いんだ。
     悩みながら一週間を過ごした僕は、一面クモの巣だらけになって電気を帯びる部屋の惨状を目の当たりにして、とうとう認めざるを得なかった。
     バチュルの会に巣立ちの報が書き込まれ始めていた。


     その休日は風の強い日だった。
     母が上がって来る前に急いでクモの巣を片付けた。痺れるとかそんな事は言っていられない。
     そうして僕は観念するように窓を開けた。母に引導を渡されるくらいなら自分でと思ったのだ。
     何より予感があった。外の天気がよく風が鳴っていた。巣立つならば今日こそがタイミングのように思えた。
     それに掲示板に書き込みがあった。昨日"運び手"を見たって書き込みが。投稿者の住んでいる街はここから北へ数十キロ地点。北から南へ渡る"運び手"は今日この町を通過する可能性が高い。
    「たぶん、これが最後だ」
     僕は昨日深夜、冷蔵庫からくすねてきたハムを一枚、机の引出しから取り出した。バチュル達が寄ってくる。バチュルの体毛が僕の手に触れた。
     いよいよ風が強くなった頃に母が階段を上ってくる音がして、
     それが合図だった。

    「入るわよ」
     そう言って、母がドアを開けたとき、もうバチュル達の姿は消えていた。
     壁をつたい窓から彼らは出て行った。
     あっけない別れだった。
    「掃除機かけるわよ」
     母が言った。


     ダイニングに下りても落ち着かなくて、大きな窓から空を見上げ続けていた。
     風が強い。上空の雲がすぐ上を流れて、通り過ぎていく。
     母が降りてきた。それでも部屋に戻ろうとせず窓に張り付いている僕を見て、窓に映り込んだ顔が怪訝な表情を浮かべた。
     その時だった。
    「あっ」
     思わず僕は叫んだ。北から無数の鳥影が、V字の隊列を組んで現れたのだ。
     しかも一つじゃない。隊列が三つ、四つ、五つ。高度はそれぞれ異なるが相当の数だ。
    「あら、スワンナじゃない。秋も終わりねぇ」
     同じように空を見た母が言った。ついに運び手がやってきた。

     行くんだ。
     あいつらが、 飛ぶ。

     飛ぶんだ。

     窓を開いてもいないのにびゅうっと風が吹いた気がした。


    「母さん、自転車貸して欲しい」
     気がつくと僕はそんな事を口走っていた。そして母の返事を聞かぬままに靴を履いて、家を飛び出していた。
     この時期に南へ渡るしらとりポケモン、スワンナ。
     その白い白い大きな身体につかまってバチュル達は遠く遠く旅をするのだという。
     僕が家を飛び出したその時、隊列が上を通り過ぎた。

     ――いつかくるさ。誰が何を言わなくてもここを出なきゃいけない。自然にそう思う時がさ。

     不意に父の言葉が蘇った。


     びゅうびゅうと風が顔を撫で、通り過ぎる。
     自転車に乗った僕は、ペダルをがむしゃらに漕いで追いかけた。距離はどんどん離れていく。
     居候の姿は見えない。けれどこのどこかに彼らがいる。

     走った。
     ペダルをがむしゃらに漕いで、僕は走った。
     走って、走って。もうペダルが漕げなくなるまで走って。
     街のはずれの河川敷に到達したとき、僕は自転車を止め、草むらに投げ出した。
     服は汗でぐっしょりで、風が吹いて身体を冷やしてくれた。

     南を仰ぐ。
     空の向こうにまだ小さく鳥影が見えていた。





    『今日だった。見送ってきた』

     すっかり暗くなってから戻った僕は、そうロックに伝えた。
     豚鼻に目をやる。もうそこには何も居なかった。僕は続けてタイプする。
    『実は俺、あれからずっと家に居た』
    〔知ってる〕
    『出る必要も感じなかった』
    〔うん〕
    『でも今日は出た』
    〔ん、そうだな〕
     画面の向こうの彼は全部分かってると言いたげに、短い返事をただ返し続けていた。


     随分と寒くなってきた。
     居候が旅立った空には冬の星座が輝き始めていた。


      [No.1933] 画用紙に描かれた憧憬 投稿者:tyuune   投稿日:2011/09/28(Wed) 21:26:34     121clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     男は絵を描く。真っ白なキャンバスに筆が色をつける。踊るように筆は動く。白い部分が様々な色彩に埋められてゆく。一人きりの部屋で、筆が走る音だけが響く。
     彼の背はひょろ長く、もやしのように頼りない。年の頃、三十半ばに見える彼の髪はぼさぼさで手入れの跡がなく、無造作に後ろに結ばれている。服は様々な絵の具の色が染み付いた、元は白であっただろうTシャツ、そして、これまた色が染み付いたベージュのカーゴパンツを着ていた。
     部屋は画材で占められており、足の踏み場も無い。描きかけの絵は壁に荒っぽく立てかけてあり、どれも縦一メートル程の大きな絵ばかりだった。山、花、人物、河など、多種多様な絵は、一つの共通点があった。どれも一様にして、見ているだけで悲しみが伝わってくる、という共通点。それは、雑然としている部屋の印象を、薄暗い物へと変化させていた。
     そんな部屋、その壁際の一角、綺麗に整理整頓された場所があった。散らばった絵の具もバケツもそこには無い、まるで、その場所だけがきれいに切り取られたかのように。
     そこには絵が飾ってあった。他の絵のように無造作に置かれているのではない、きちんと額縁に飾ってある絵。しかし、どこにでもある画用紙に描かれた絵。
     絵の中では少年と一匹のポケモンが、共に並んで、嬉しそうな笑顔で絵を描いていた。その背景は、今男が絵を描いている部屋と同じ間取り。絵はその部屋で描かれたことは間違いないだろう。だが、現在の男の隣にそのポケモンはいない。一人だ。一人きりで一心不乱になって筆を振る。鬼気迫った顔で、何かに取り憑かれたように。
     男は筆を振るう。彼の落ち窪んだ瞳から、涙が零れ落ちた。二滴、三滴、床に滴る。
     今の男とは対照的に、絵の中の一人と一匹は、なごやかな空気の中、筆を自由気ままに走らせていた。本当に楽しくて仕方がないといった風に、笑いながら。



     
     少年は物心ついた時からドーブルと共にいた。ドーブルはいつも絵を描いていて、少年はその横で絵を描く姿を眺めていただけだったが、いつからか少年も絵を共に描くようになった。一人と一匹、並んで絵を描く。それが彼らの休日の過ごし方だった。
     ドーブルの絵は独創的で躍動感溢れるものであった。今にも飛び出して動き出しそうな絵を見て、少年はいつも『僕も、ドーブルのような絵を描けるようになりたい』と思ったものだ。
     それに対して少年の絵は、お世辞にも上手いとはいえないものだったが、感情が多分に篭っていた。喜びを絵に閉じ込めるのが上手かった。
     一人と一匹は並んで絵を描いていた。大きな画用紙に向かって。競う事も無く、難しい事も考えず、ただ、筆の進むままに任せて。
     ドーブルは幸せだった。少年も同じく、幸せだった。
     

     十年が経ち、少年は青年に成長した。青年の絵画の技量は驚くほどに上がっていた。絵のタッチは繊細かつ大胆。細かな塗りむらも無く、色の発色はまぶしいほどに輝いていた。彼はその技術を買われ、小さな美大に通っていた。
     だが、技術の代わりに失われた物があった。感情だ。絵に込められた感情。子供の頃、絵に込められた喜びが、現在の絵からは殆ど見えなくなっていた。
     彼は絵を描くことが、昔ほど好きではなくなっていた。
     純粋で、何も知らなかった子供の頃とは違い、今の彼には絵を描くに際し、邪魔な物が多すぎた。両親の期待、同級生の嫉妬、将来の不安……。それらに押されて、喜びは影を潜めていた。絵を描く事が億劫になったのもそのせいだった。
     ドーブルは、いつでも尻尾の先に付いた筆で、変わらず絵を描く。長年描き続けたせいか、絵を描くことを定められた種族に生まれたせいか、若しくはその両方か……ドーブルの絵は既に、数少ないプロと肩を並べられるほどに成長していた。
     そんなドーブルの絵を見て、青年にある感情が芽生えた。嫉妬だ。労せずして秀逸な絵を描くドーブルに対し、青年は嫉妬を覚えた。嫉妬は、青年の消えかけていた喜びを、完全に押しつぶした。


     それから、青年の絵は上達しなくなった。いくら小手先の技術は上がろうと、彼の武器であった喜びが消え去った今、青年の絵は薄っぺらで、誰も見向きもしなくなった。
     美大での成績も右肩下がりに落ちてゆき、ついには、あわや留年直前とまで追い詰められていた。彼は焦っていた。次のコンクールで一次審査を通らないと、留年する事が確定してしまったのだ。将来への不安は、その姿を徐々に肥大化させていった。
     そんなある日。彼はある愚かな選択をする。

    「なあ、ドーブル、頼むよ」
     青年はドーブルに、手を合わせて頼み込んだ。
    「お前の絵なら、コンクールの一次審査なんて余裕だから、な、頼む!」
     彼はドーブルの絵を、自分の絵であると騙ってコンクールに提出しようとしたのだ。
     初めのうちは頑なに首を横に振っていたドーブルだったが、青年の強い押しに耐え切れなくなってきたのか、少しずつ首を振る力が弱まって。
    「頼む!」
     青年の声に、ドーブルは悲しげに頷いた。


     それから数週間後、コンクールの結果が届いた。青年は狂喜した。
    「やった! やったぞ! 入賞だ!」
     青年は賞状を嬉しそうに見せびらかしながら、ドーブルに結果を話した。
     彼はドーブルの絵を提出した。その結果、入賞。ドーブルの絵は、一次審査を余裕で通り抜け、二次、三次審査を軽く突破し、他の作品を大きく引き離しての入賞。
    「俺が必要なんだってよ! あのお偉いさん方!」
     さらには、彼はその入賞で、とある有名美大にスカウトされた。誰もが羨む程の輝かしい経歴を持つ美大。そこを卒業できれば、将来は安泰であるといえた。
     青年の嬉しそうな顔とは対照的に、ドーブルの顔は暗く落ち込んでいた。


     そして、青年は深く考えず、有名美大に転入した。それだけで青年は喜んだが、そこがゴールではない。卒業するためには、青年の絵では明らかに力不足だった。
     当然、青年の絵は成長していない。ドーブルの絵を借りただけである彼の化けの皮は、すぐさま剥げそうになっていた。 
     転入したはいいものの、青年は授業の内容についていけない。実技テストでは散々な結果に終わった。
     必然的に……
    「お願いだよドーブル、もう一度だけだからさ」
     青年はドーブルに再び頼み込んだ。ドーブルは嫌だと首を横に振ったが、前回と同じく、最終的には首を縦に振る事となった。



     かくして青年はドーブルの絵を提出した。無論、一度だけで終わろうはずも無い。何度も何度も、青年はドーブルに頼み込み、同じ数だけドーブルは頷いた。
     青年は絵を描く必要が無くなった。自分が絵を描いても、教授には溜息を吐かれ、大学の友人には嘲笑される。だが、ドーブルの絵を見せればたちまち評価は一変する。天才だと持てはやされ、コンクールには当然、入賞。苦労して描いても嫌な思いをするだけだというのに、どうして描く必要性があろうか。
     そうして、青年が絵を描く事は無くなった。
     新品に近い青年の画材を、ドーブルは横目で見、次に、昼間だというのに寝転んでいる青年の背中を見た。
     ドーブルは、絵を描くことが好きだった。だがそれは、少年がいたから。少年がドーブルの絵を見て感嘆符を漏らす事に、喜びを覚えた。そして共に肩を並べて絵を描くことが、彼は心の底から好きだった。
     少年が青年となり絵を描かなくなっても、ドーブルが絵を描き続けている理由は、過去への憧憬に他ならない。いつかきっと、いつかきっとまた、あの頃のように共に絵を描ける日が来る、そう信じていたからだった。
     だが、ドーブルは気付いてしまった。自分が絵を描き続ける限り、青年が絵を描くことは無い、という事に。
     ドーブルは絵を描いている少年が好きだった。嬉しそうな顔をして画用紙に筆を走らせる少年の姿が。
     ドーブルは自分と共に並んで絵を描く少年が好きだった。画用紙いっぱいに描いた空を、河を、樹を見せ合いながら描くのが何より好きだった。
     だが、そんな少年はもう、どこにもいなかった。目の前にいるのは、自分を利用する事しか考えていない醜い青年。絵を描く事をやめ、ただ怠惰に生きる愚かな青年。
     ドーブルが好きだった、幼い頃から共にいた少年。彼はもうドーブルの空想の中にしか存在しなかった。  
     だから、ドーブルは……。




    「んー、ふああ」
     青年が目を覚ます。ひょろ長い身体を大きく伸ばして、上体を気だるげに持ち上げた。
    「ドーブルー?」
     青年は相棒の名を呼んだ。だが、声は部屋の中に反響するだけで、返事は聞こえなかった。
    「ドーブルー、毎度悪いが、頼みがあるんだー」
     立ち上がり、相棒の姿を探す。だが、探せど探せど姿は無い。
     青年は怪訝に思いながらも、そのうち帰ってくるだろう、と結論付けて、ベッドに入り、二度寝する事にした。


     数日が経った。しかし、いつまで経ってもドーブルは帰ってこなかった。
     コンクールの日は近い。青年は焦燥感に冷や汗をかいた。
    「糞っ! どこに行ったんだ! ドーブルの奴!」
     早くドーブルに絵を描いて貰わなければ、大変な事になる。自分の絵ではダメだ。ドーブルの絵でなければ、入賞どころか門前払いされるに違いない。
     彼は自分の事しか考えていなかった。
     青年は家中を歩き回った。もちろんドーブルはいない。そんな中、部屋の片隅に、ある物が目に付いた。
    「画用紙……?」
     青年もドーブルも、キャンバスかスケッチブックに絵を描いていた。画用紙を使っていたのは、はるか遠い昔。技術も知らず、ただ筆の赴くままに描いていた頃。
     彼は何の気なしに画用紙を拾い上げ、裏返した。
     瞬間、息を呑んだ。
     そこに描かれていたのは幼き頃の少年とドーブル。西日が優しく窓から照る中、少年は筆を、ドーブルは尻尾を持ちながら、大きな画用紙に向かって絵を描いていた。夕日の赤が少年とドーブルの横顔を、朱色に染めあげていた。
     彼らの表情、在りし日の彼らは、笑っていた。絵を描くことが嬉くて、楽しくて、幸せだったあの頃。絵を描ける。それだけが全てだったあの頃。あの瞬間が、時間を越えて画用紙の中に閉じ込められていた。
     ありったけの喜びと幸せを詰め込んだその絵に、滴る物があった。それは、涙。
     青年はいつの間にか泣いていた。涙が瞳から溢れて止まらなかった。
     彼は理解した。ドーブルの喜びを、幸せを、悲しみを。今まで自分の事しか考えていなかった青年自身の愚かさを。そして、ドーブルがもう戻ってこないという事を。
     青年の嗚咽は部屋の中に空虚に響いた。同じ部屋の中、画用紙の中にいる少年とドーブルは笑っているのに、青年は泣いていた。後悔に打ち震え、悲しみにむせび泣いていた。


     青年はかつて純粋だった。純粋ゆえに、喜びが大きかった。だが、成長するにつれ、純粋ではいられなくなる。優越感、劣等感、不安、そして嫉妬。それらを目の当たりにした彼の喜びの割合は押され、小さくなってゆき、終には自らの嫉妬によって消え去った。
     代わりに彼を支配したのは怠惰。怠惰により、彼は楽な方へ、楽な方へと流れ落ちた。相棒であるドーブルを利用した。ドーブルの喜びも幸せも知らず、ただ自分が楽をするために利用した。
     その結果、彼の前からドーブルが消えた。遠い思い出の彼方にある、少年とドーブルとの幸せだった日の情景を絵に書き残して。物心付いた頃から共にいたドーブル、自らの半身とも言える相棒を失った青年の心に、芽生えた感情は……。


     青年は茫然自失として、ベッドに腰掛けていた。その目は虚ろで、何も写してはいない様。食事ものどを通らず、もう何日も飲まず食わずだった。
     彼の心にはぽっかりと穴が開いていた。もう考えるのも億劫で、このまま死んでしまっても構わない、という思いが去来した。
     そんな彼だが、瞬きした拍子に、ある物が目に入った。絵だ。テーブルの上に置かれた、大きな画用紙いっぱいに描かれた、ドーブルが残した絵。
     その絵を見て、青年の心にある感情が芽生えた。後悔、自己嫌悪。そして、何より一番大きな感情、それは、悲しみ。
     悲しみに背を押されるようにして、彼は立ち上がり、筆を手に取った。



     青年の悲しみは絵に現れた。自らの過ちにより、相棒を失った。その苦痛、絶望、悲しみ。彼の絵は負の感情に満ち満ちていた。彼の長所であった、感情を絵に現す力。幼き日は喜びに溢れた絵を描いた。楽しくて仕方がないといった気持ちを、絵に閉じ込めた。そして、今は悲しみに淀みきった絵を描く。悲しくて胸が張り裂けそうな気持ちを、青年は絵に刻み込む。
     皮肉にも、その絵は評価された。入賞とまではいかなかったが、最終審査まで残った。
    それからも、青年は一心不乱に絵を描き続けた。いくら絵を描いても、胸中の悲しみは薄れる事は無い。だが、彼は絵に吐き出すことをやめなかった。
     昼夜問わず青年は絵を描き続けた。一日の大半をキャンバスの前で過ごす。血反吐を吐くような日々。いくら肉体が悲鳴を上げようとも、心の痛みよりははるかにマシだった。
     画風がいきなり変わったこともあり、一時は才能が枯れた、などと噂された。だが、徐々に彼の描く悲しみに魅せられる人間は増え、彼はドーブルが築いた地位を取り戻した。しかし、今の彼には、それはどうでもいい事だった。
     彼は、ドーブルが描き残した画用紙に目を遣る度、胸を引っかくような悲しみに苛まれた。そして、在りし日に憧憬を覚えた。過去への憧憬。それは、かつてドーブルが抱いた物と同じだった。
     ひたすら絵を描いていた幼き日、ドーブルと共に絵を描いていたあの頃。嫉妬も悲しみも知らず、喜びに満ちていた幸せな日々。青年は、過去に対し、気が狂うほど恋焦がれた。
     青年は絵を描く。絵を描き続けたら、いつかドーブルが戻ってきてくれる。そして、あの頃と同じように、笑いながら絵を描ける日が来る。そんな淡く儚い期待を、胸に抱きながら。




     暖かい夕日が窓から差し込む。雑然として散らかった部屋に、一人の男がいた。キャンバスに向かって筆を振る男の顔には、年月を感じさせる皺が深く刻まれていた。
     男は絵を描いていた。かつて青年だった男は、変わらず悲しみに浸りきった絵を描く。
     ドーブルが出て行った日から、二十年が経っていた。あれから男は大学をトップの成績で卒業し、画家となった。それでも慢心せず、男は朝から晩まで絵を描き続けた。
     絵を売って出来た金は、最低限の生活費を残し、殆どを宣伝費に使った。タダで美術館に寄付した事もあった。小学校、市役所、ありとあらゆる公共の機関に、自分の作品を展示してもらうよう頼み込み、幾度となく無料で個展を開いた。それらの目的は、ドーブルに自分の絵を見てもらうため。そしてあわよくば、自分の下へ帰って来てもらうため。
     だが、それは二十年間叶う事は無かった。しかし、それでも男は絵を描き続けていた。彼は諦める事を知らない。色褪せる事の無い悲しみを絵に叩きつける。
     ドーブルが帰ってきた後のことを、男は幾度となくも思い描いた。悲しみは、きっと喜びに変わるだろう。不安も嫉妬も悲しみも、強い喜びによって見えなくなるだろう。そうするならば、きっと、悲しみが無い彼の絵は売れなくなる。だが男は、それでもいい、ドーブルが帰ってきてくれるなら。そう思っていた。
     彼にとって、絵は既に欠かせない存在である。現在の地位も、名誉も、全ては絵によって培われた物である。だが、男には、それよりも遥かに大切なものがあった。
     かつて男は自分の選択により、最も大切なものを失った。何者にも変えがたい大切な相棒。彼が自らの元へ帰ってくるならば、他の全てを投げ打ってもいい。命を棄てようと、構いはしない。だから、帰ってきてくれ。男はそう願い続けた。
     男はキャンバスいっぱいに悲しみを描く。差し込む夕日の朱が、男の横顔を照らす。額縁に入ったドーブルの絵も一緒に照らし出され、額縁にあるガラスの装飾が光を乱反射した。男は眉間に皺を寄せながら、筆をパレットに押し付け、色を染み込ませた。
     そんな時、物音が後ろの方から聞こえた。
    「おい、私が絵を描いている時は、入ってくるなと言った筈だが」
     男は苛立ちつつ、吐き棄てるように言った。
     また絵を高く買いたいとか言う画商でも来たのだろう。それか、記者か。彼らは遠慮を知らない。こちらの思う事など知らず、ずかずかと家の中に踏み込んでくる。
     大抵はアポイントを取っているのだが、たまに飛び込みで取材に来る者、営業に来る者もいる。 そういった輩なのだろう。彼は溜息をついた。
     ひたひたとした足音が、彼の後方にある廊下から響く。
    「おい! 聞いているのか!」
     息を吸い、もう一度怒鳴りつけた所で、男は違和感に気付いた。
     彼の家は土足である。リノニウム製の床は、カツカツと靴の硬質な足音を響かせるはずだ。だが、今聞こえている音は何だ。ひたひたという音が耳に届く、まるで靴を履いていないかのように。
     もしや……。
     後ろから、ゆっくりとドアの開く音がする。懐かしい香りがした。足音は止まる。
     男は、破裂しそうな自らの心臓の音を、まるで他人事のように聴いていた。早鐘のように心臓が鼓動をうるさく刻む。筆を握る手が、凍えているかのように震えた。
     彼は期待と不安、悲しみがない交ぜになった表情で、振り返った。
     そこには。


     
     ある画家がいた。彼の絵は、見る者に深い悲しみを与える。一目見るだけで、涙が溢れるほどの悲しみに包まれるのだ。彼の絵は反響を呼んだ。彼の家に記者が詰めかけ、その理由を聞いた。画家は、理由を頑として答える事は無かった。
     画家は数え切れないほどの多くの絵を世に発表した。何としてでも、絵を大衆に見せるよう働きかけた。
     だがある日を境に、画家の絵は喜びと幸せを見る者に与えるようになった。彼の絵は驚くほど暖かくなり、悲しみは姿を消した。彼の絵を見ると、穏やかな気持ちになり、ついつい頬が緩んでしまう。
     彼は、一番大切なものを取り戻せたのだ。


     窓から入る西日の光が部屋を朱色に染める。部屋は相変わらず画材で散らかり、独特の饐えたような匂いが漂う。
     男は絵を描いていた。キャンバスに向かい、筆を走らせる。夕日で朱色に染まった横顔は、何とも嬉しそうで、口元が緩みっぱなしだった。
     その傍らにはドーブルがいた。ドーブルも尻尾の筆を自在に操り、自身の背丈と同じくらいの高さを持つ、広いキャンバスいっぱいに尻尾を踊らせる。ドーブルは目を細め、幸せそうに尻尾を握る。
     一人と一匹の絵には、ある共通点があった。喜びだ。喜びが波の奔流の様に、絵の中でざわめいている。
     ふと、男の瞳から涙がこぼれる。二滴、三滴、床に滴る。ドーブルはそれに気付き、筆を止めて心配そうに男の顔を見上げた。
     男は何でもないよ、と言うようにドーブルの頭を撫でた。彼の涙は、嬉し涙。幸せすぎて、感情が瞳から溢れだした。
     その時、微風が窓から吹き込んだ。風は一人と一匹を優しく撫で、部屋の一角へ辿り着いた。そこには画用紙に描かれた憧憬があった。少年とドーブルがにこやかに笑いあい、並んで絵を描いている。喜びに満ち溢れた表情の一人と一匹。過去の情景。彼らが恋焦がれ、あこがれ続けた姿。幾年もの悲しみを経て、ついに今の彼らと重なった。
     一人と一匹は、なごやかな空気の中、筆を自由気ままに走らせていた。本当に楽しくて仕方がないといった風に、笑いながら。


      [No.1922] 幾度とない好機を 投稿者:戯村影木   投稿日:2011/09/25(Sun) 09:39:00     87clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ああ、なんということだろう、夜明け前、私の最愛の妻がこれから産卵するというのに、目の前には、野生ではほとんど見ることはない鴻鵠がいた。虫である私たちには天敵であるし、力が違いすぎる。捕食する側と、捕食される側。狩人と獲物。その明確な力関係があって、私の頭は、絶望で満たされていた。夜明け前、産卵の前ということで動揺していたのもあって、姿を晒しすぎたのだ。上空から、見つかってしまった。さらに始末が悪いのは、この鋭く長い嘴をした鳥は、私を見るなりすぐにこう言ったのだ。
    「なんだお前か、随分と久しぶりだな」
     天敵に見つかってしまった、というだけでひどく焦っていた私だ。最初は何を言われているのか分からなかった。しかし次第に、彼に、どこか面影を見つけることが出来た。そう、彼は、幼い頃私と共に育った雀であったのだ。
    「君……なのか」
    「ああ。まさかこんなところで出会うとはな」
     私と彼は、元々は人間に飼われていた身だった。いや、飼われていたというほど、恵まれた形ではなかったかもしれない。ただ、同じ空間、同じ時間を共にしたに過ぎない。彼と私は、卵から孵ってすぐに野生に放り出された。私たちの中ではよくある、『野生帰り』のそれだ。お互い赤ん坊であったが、不思議と力は強かった。私も、圧倒的な成長差があるにも関わらず、この森で生き残り成長することが出来たし、幸いにも、蛹を経て、蝶になることが出来た。群れの中では一番強いと言われていたし、事実そうなのだろう。それから万事が上手く行き、美しい妻を娶り、もうすぐ子どもが生まれるという、そんな時期だった。
    「君……どうしてこんなところに」
    「別に、飯を探しに来たんだよ。腹が減ったからなあ」
     彼は羽を休めて、木の枝に留まった。私たちの家は一番背の高い木の上にあり、木の洞では、妻が寝込んでいるところだった。
    「そ、そうか……良かった、来たのが君で良かった」
    「ん、どうしてだ」
    「それがね、もうすぐ私に子どもが生まれるんだ。初めての子でね。私には友達というような相手がいなかったから、君に祝ってもらえるならこれほど嬉しいことはないよ」
    「へえ、がきが生まれるのか」
     彼は羽を少しだけ動かして、溜め息をついた。
    「そのがきを食えばいいのか?」
    「え?」
     私は彼の瞳に光を見出せなかった。
    「だから、言っただろう、俺は飯を食いに来たんだ。まあ、食う相手は誰だっていいんだ。お前だっていいし、お前の妻だっていい。そのがきだっていいんだ。とにかく腹が減っているからさ、何かを食わなきゃ」
    「ば、ばかなことを言うなよ……君は何を言ってるんだ。食べちゃだめだよ。せっかくこれから生まれるんだ」
    「だけど、俺だって何かを食わなきゃ、死ぬんだ」
     私は彼を特別よく知っているというわけではない。一緒に過ごした期間は、どれくらいだろう。お互いが一人立ち出来ないような非力な頃に、少しだけ力を合わせて生き延びた。たった数週間のことだったかもしれない。彼は飛ぶことを覚え、この森を出て行ってしまった。私は空を飛べるようになっても、この森の天井を抜けるほどの大きな羽は持たなかったので、ここに留まっていた。
     再三言うが、私は彼をよく知らない。彼がとても気の良いやつであるとか、彼が愛情に満ちているとか、そういう過去があるのかどうかを知らない。だというのに、なんという愚かなことだろう、私は彼が旧友だと知った時、良かった、見逃してもらえる、などと馬鹿げた考えを浮かべた。溘焉として自分が死ぬことなど考えてもみなかった。それがどうだ、彼は鳥でしかなかった。弱い虫螻を狙う、ただの鳥でしかなかったのだ。
    「だがしかし、死ぬと言っても、食べてすぐに死ぬわけじゃないだろう」
     私は話を遷延させることに決めた。そうすれば彼の気が変わるかもしれないと思ったのだ。少なくとも、すぐに取って食われることもないだろう。彼の鋭い嘴に注意しながら、私は言葉を続けた。
    「君に啄まれたら、私たちはすぐに死んでしまう。でも、君は私たちをすぐに食べなくても、まだ生きていられる。ここは何とか見逃してくれないか」
    「そりゃあ、お前の言うことも分かるよ。だけど、そうやって俺が全員見逃して行ったら、いつか野垂れ死ぬんだ。だったら、そんなこと深く考えずに、ぱっと食いたいもんを食った方がいい」
    「でも……私と君は知り合いだろう? 見逃してくれてもいいんじゃないか」
    「他にも俺みたいな鳥はたくさんいる。そいつらに食われるくらいなら、知り合いの俺が食った方が良い、って考え方もある」
     いや、こんな話をしたいわけではなかった。枢機は死なないためにはどうすればいいか、である。最終的には、彼と戦うこともあるのだろうか。しかし勝ち目があるとは思えない。虫は鳥に無力だ。一矢報いて死ぬのがせいぜいだろう。
    「お前はこの森に閉じこもっていて、世界を知らないんだな」
     彼は唐突に話を変えた。まるで諭すような言い方だった。
    「俺たちみたいな生物はさ、俺たちなりに世界を構築しているんだよ。人間に捕まるか捕まらないか、っていう二択で生きてるわけじゃない。俺たちには俺たちの二択がある。生きるか死ぬかだよ。なあ、お前が抵抗しないなら、俺はお前を食うよ」
    「どうしてそんなに私に拘る!」
     私は思わず激昂していた。
    「他にも虫は大勢いるだろう! 知り合いだからか? それとも、君はわざわざ知り合いの幸せを壊すっていう、そんなに酷薄なやつだったっていうのか?」
    「逃げたっていいんだぜ、別に」
     挑発だったり、慈悲であったりするわけではなかった。彼は事実をただ事実として、私に告げた。逃げたっていいんだ、と、背中を押すように、淡々と言った。まさにその通りだった。逃げても良いのだ。野生生物同士の対峙というものは、本来、そうした逃走が許される。
    「逃げるなら、俺はなんとか追いかけようとする。だけどその途中に食いやすい虫がいれば、そっちに標的を移すよ。たったそれだけの、簡単な話さ。至って単純だろう。そら、逃げろよ」
    「でも、私には家族がいる」
    「ああ、そうだな。お前が逃げたら、残った家族を食らうよ」
    「戦わなければならないのか」
    「まあ、それが普通なんだよ」
     彼は瞳に悲哀の色を浮かべていた。そこに、多少の慈悲を感じ取る。
    「俺たちは死ぬんだ。いいか、俺たちは死ぬんだ。寿命が来るまでとか、病気になるまでとか、そういうことじゃなくてな、いざってときに足踏みするやつは、その時死ぬんだ。野生生物はもっとそうさ。仮にも、人間に飼われていたんだ、分かるだろう? 生きるっていうのは、勝ち続けることなんだよ。お前がここで負ければ死ぬ。逃げられなければ死ぬ。そういうことなんだよ」
    「でも、そんなの理不尽じゃないか! 私だって必死に生きてきたんだ。必死に生きて、親も身よりもない野生帰りの私が、やっと幸せを掴もうとしている時に……理不尽じゃないか! どうやったって君に敵うはずがない! 相性が悪すぎる! そんなので負けることも逃げることも許されずに、どうしろって言うんだ!」
    「だが、お前は一瞬でも勝者たり得たんだろう」
     彼は私を睨み付ける。
    「この森の中で、一番見晴らしの良いところに住んでいる。妻もいる。それはつまり、勝者だったってことだ。お前は勝者だった。では何故勝ってきた? それは、お前が優れた素質を持って生まれた個体だったからだよ。ある程度なんでも出来た。ある程度勝ち残れた。そうだろう?」
     私は言葉を失った。私が今言った理不尽という言葉は、まさに、私にこそ相応しい言葉だった。絶句だった。彼はさらに、私の心を抉っていく。
    「俺だって、努力をしてお前の天敵になったわけじゃないよ。天敵ってぐらいだ、生まれつきなのさ。俺の力が強いのも生まれつき。運良く生きてこられたんだ。でも、俺が最強ってわけじゃないんだよ。俺にだって天敵はいる。そういう、不思議な関係なんだよ、俺たち生き物ってのはさ」
    「……じゃあ、私は、ここで死ぬしかないのか」
    「勝てばいいんじゃないのか」
    「勝ち目なんてない」
    「はあ……まあ、そうだな、そう思うのも無理はないかもしれないな。じゃあ、古い馴染みのよしみだ、いいことを教えてやるよ」
     彼は大きく胸を張った。
    「諦めたやつは、いつだって負け組なんだ」
    「しかしっ……諦めるしかないんだ!」
    「俺たちには運良く素質があった。お前がもしがむしゃらに強さを求めていたら、俺にだって勝てたかもしれない。いや、まだ負けたと決まったわけでもない。挑戦してみろよ。出来ませんとか、相手が凄すぎてとか、場違いだとか、甘ったれたこと言うんじゃねえよ。それはお前の都合だろ。それを世界のせいにするんじゃねえよ。お前が諦めた。お前が努力を怠った。お前が戦意を喪失した。全部がお前のせいだ。そのせいで、お前の夢は叶わない。お前の幸せは掴めない。お前の家族は守れない。そうして敗者になるんだ」
    「でも……でもっ……」
     言い返すべき思想が私の中にはなかった。彼の言うことが全てだ。野生生物としての私には、それ以上の意見がない。弱肉強食の世界。そこで生き延びたのは、運。慢心していたのだ。私は、努力をしなかった。彼のような鳥がいつ狙ってくるか分からないと、憂慮すべきだった。怠った。怠っていたのだ。なんて悲しい。なんて愚かしい。それに気づくのが、今なんて。
    「挑戦して、負けて、初めて分かることもある。例え死の間際でも、気づけることもある」
     彼はそう言って、大きく羽を広げた。
    「それに、運が良ければ、全員助かる」
     それが野生生物同士の戦いだった。
     人間同士の、規律や、制約や、道具のあるようなものではなく、ただ殺し合い、生き延びるための戦いが、そこにあった。静寂の中、圧倒的な力の差の中で、鴻鵠と、虫螻は、向かい合った。
     慢心を、余裕を、希望を、尊厳を、羞恥を、憎悪を捨て、ただ純粋に、勝ちたい、勝ってみたい、己の全てを認めるために、駄目で元々などではなく、誠心誠意、勝利だけを目指し、あるいは、自分の価値を改めて認識させるために、初期衝動のまま、一縷の望みなどではなく、全身全霊の野望のままに。
     幾度とない好機を、捨てないままで。


      [No.1911] Re: コットンガード 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2011/09/23(Fri) 11:20:22     71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    うわああああ、ホントにガッチリプロット組んでるよコイツ!
    エアームドの鋼並にガッチリだよ!


      [No.1900] 陰から覗く日向 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2011/09/22(Thu) 21:37:38     64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     私の腕を木の枝がかすり、手を木の葉が切り裂いていく。
     ――気にした事ではない。もうすでに、私は体中傷だらけなのだから。



     これまでに、何度かポケモンハンターに追われた経験はあった。自分が比較的珍しい種族であると自覚していたし、なにより普段からハンターではなくとも追われる事は多かった。トレーナー、そのポケモン、野生のポケモン。そしてその原因が自分の能力――“ナイトメア”という、私達ダークライのみが持つ特性にある事も知っていた。
     この特性のせいで、一ケ所に長く留まることもできない。各地を転々とし、時には追われ、生きてきた。

     すさまじい恐怖感から逃れたくて、ただひたすらに森を突き進む。追ってきてはいないだろうか? 体力の限界が来れば、もういつ動けなくなってもおかしくない。できるだけ遠くへ。受けた傷の痛みと、疲れからのだるさ、眠気で、少しずつスピードが落ちているような気がしてくる。ふと、恐ろしさが心に触れてまたスピードを上げる。……何度繰り返しただろうか?

    『ゼイ……ハアッ』

     息が苦しい。どこかで休みたい。
     今回の相手はどうやら、最初から私を捕まえるために追ってきたようで、手持ちのポケモンやその本人もまた、相当な熟練だった。つけられていた事自体、迂闊だったのだろう。不意に襲われ、ぎりぎりのところで撒いてきたが、ダメージが半端でない。

     身体に降りかかる陽の光を感じ、急停止する。上を向くと、木の葉が無く、昼間の青空が見えた。森の中のちょっとした空き地に出たのだ。そこには長い下草も無く、木が一本生えているのみ。反射的にその木に寄りかかる、というよりも身体が言う事をそこまで聞かず、根元に倒れこんだとする方が正しい。しばらくたったらまた逃げなければいけないだろう。だが、ずっとこうしていたいという思いが心の片隅にあるほど、自分が疲れきっているのを感じた。

     どれくらいそうしていただろうか。もしかしたら、少し寝てしまったりもしたのかもしれない。
     目の前の草むらから聞こえる物音で、私は現実に引き戻された。刺すような恐怖感に襲われ、無意識に身体が震えてしまう。攻撃してこない相手であることを祈るしかない。この状態で攻撃などされたら、まず勝ち目などあるわけないのだから。動こうとしたが、無駄だった。力を入れても、鈍い痛みが身体のあちこちに響くだけ。もう本当に動けなくなってしまったのだ。頭の中が痺れたように真っ白になった。草むらが揺れる音は確実に近づいてくる。そして、ついに目の前の草むらが揺れ、現れたのは――
     一匹の、ロトムだった。

    『――ッ!』

     頭が痺れたようになって、全身に緊張が走る。ポケモンなら、選択肢は二つ。襲い掛かってくるか、私に恐れをなして逃げるか。そのロトムは私に気付き、驚いた顔になった。

    (え……キミ、大丈夫? 傷だらけだよ!?)
    『……?』

     今、彼は何と言った? 

    (待ってて、ナツキを連れてくるから!!)

     そう言うとロトムはあわてた様子で、今出てきた草むらにまた飛び込んでいった……。
     身を心配する言葉をかけてもらった事など、今の今まで一度もない。彼は……私の特性を、種族を、知らないのか?もしかしたら、これは私が浅く眠って見ている、夢なのではないだろうか?それとも、ただ逃げるための嘘だったのか。
     さまざまな考えが、頭の中を駆け巡った。

     突然の足音が、自分が考え忘れている事を気付かせる。“ナツキ”というのは、人名なのか? さっきのロトムは、トレーナーの手持ちなのだろうか。トレーナーによっては、私を殺す指示を手持ちに出す事もありうる。

    「……本当に、こっち?」
    (こっちだよ!!)

     少女の声だろうか。女のやや高い声と、さっきのロトムの声。おそらく、ロトムがその女性を案内しているのだろう。
     目の前の草むらから現れたのは、ロトムと、日に焼けた少女。薄めの茶髪の髪が、頭のてっぺん近くで短く一つに束ねてある。年は十、十一くらいだろうか。少女は私を見ると何も言わずにかがみこんで、倒れている私を見下ろすような姿勢をとると、手を伸ばした。すっ、と突然腕を取られ、身体がびくっと反応する。が、気にも留めない様子で私の傷だらけの腕を持ち見つめながら、彼女は肩を動かし背負っていたリュックサックを地面に下ろす。隣のロトムが、赤い十字の印の付いた白い箱を中から取り出した。

    「えーと、消毒液と包帯とって」

     少女が言った言葉はそれだけ。ロトムからそれらを渡されると、あっという間に私の両腕を消毒した後包帯でくるくると巻き、必要な事をてきぱきと全てやってしまった。
     手当てが終わるころには、もう殺されるとか、そんな警戒心は持っていなかった。――私の特性を知られるまでではあるが。どうやらこの少女たちは、ダークライという種族を本当に知らないようなのだ。まあ、彼女のおかげで助かったのは事実。礼は言っておくべきだろう。少女はうーん、と曲げていた膝に手を当て、伸ばした。

    「もう大丈夫だよ。あ、私ね、ナツキっていうの」

     にっこりと微笑む少女。

    『すまない、手当てまでしてもらって』
    「あれ、日本語話せるんだ? 珍しいね」

     私の言葉は、人間に通じる。まあ、話し相手になる人間は、これまで会ったことは無かった。

    「ま、ダークライ自体珍しいからかなー」

     ナツキは笑顔のまま言ったが、私は身体が硬直する思いだった。周囲の空気が、凍りついたような気がする。彼女は、私の種族を知っている……? なら、特性は……? 無意識のうちに身体に力が入り、腕につきん、と痛みが走る。

    「あ、動いちゃ駄目!! ……ちょっと、いいかな」

     驚く私に対して、ナツキはさっきのようにもう一度かがみこんだ。

    「あなたの特性も知ってるよ。でも、私は知ってて助けたんだよ? いまさら襲う必要なんて無いじゃない」
    『…………』

     確かに彼女が言う事は、考えれば普通の事。だが――
     本当のことを言うと、信じられなかった。というよりも、信じたくなかった。裏切られたくなかった。彼女は、私の特性を知っている。知っていても、私に手当てをしてくれた。……なら、一緒にいたとして、本当に悪夢を見せてしまったら、彼女はどうするだろうか……。悲しい事に、私が生きてきたのは、信じるということを許されなかった、暗い陰の中の世界。

    「ハンターに襲われたんでしょ? その傷、治るまで一緒にいてあげるよ。ポケモンセンターには行きたくないでしょ、人の沢山居る所には」

     確かに、人目に付く所には行きたくない。しかし、それよりもこの彼女自身が一番心配だった。私に初めて、優しく接してくれた少女が。
     まだ浮かない表情をしているであろう私に、ナツキはもう一つ言った。

    「私ね、ホウエン地方から、旅をしてるんだけど」

     ホウエン地方。ここから遠く、南にあるという一年中緑が絶えない場所であると聞いたことがある。彼女は、そこからはるばるこのシンオウまで旅をして来たと言うのだ。

    「あなたを、連れて行きたい所があるんだ」
    『連れて行きたい、所…?』

     つい、私は好奇心に負けてしまったのだった。



     周囲は森だった。

    「見つけたぞ」

     ハッと振り向くと、無精髭を生やした男。何かバイクのような、変わった形の乗り物に乗っている。

    「数ヶ月、追ってきた甲斐があったなぁ。まあそれだけの価値があるだろ。捕獲、しくじるなよ」

     男は、手に取ったボールから、数匹のポケモンを繰り出す。……価値? 捕獲? ふざけるな。身の自由を奪われるなんて、どんな形でもごめんだ。両手からダークホールを繰り出す……が、瞬時に相手の技に相殺される。逃げるしかないと確信し、振り返るとそこはもう森ではなかった。無機質な壁に囲まれ直線に伸びた、暗い道。この道を逃げろと、直感が告げた。
     後ろから幾つもの技が飛んでくる。直前で避けたりもしたが、背中に命中する。腕をかすっていく。しかし私は止まらなかった。進むうちに光――出口らしきものが見えてくる。しかしその直後、すさまじい電撃が私の動きを止めた。身体が重力に逆らえきれなくなった私は、なすすべもなく墜落した。後ろから飛んでくるのは、私の意識を無くすための最後の一撃。



     がばっと、文字通り飛び起きた。
     心臓が落ち着いてから、記憶をゆっくりとたどる。――ここはナツキの張ったテントの中だ。昨日、あの空き地にナツキはテントを張って、そこで野宿をしていたのだ。記憶が戻るにつれ、冷えた身体が徐々に温まっていくような感覚だった。悪夢を見せるもの自身が悪夢にうなされるとは。少し自嘲的な笑みが漏れる。
     外は薄明るい。ナツキは隣でまだ寝ている。その顔はうなされているような顔でも、なんでもない寝顔だった。ナイトメアは、はたらいていないのか? まあ、考えるのは後でもいいと思った。眠気もあの夢のせいで覚めてしまったので、外に出てみることにする。

     外に出て、少しの間動けなくなった。まず目に入ったのは、黄金色の光。眩しいが、でも昼間の太陽よりは弱い、日の出の初々しいような光。空は淡い水色。入道雲は、朝焼けの光で朱鷺色に染まっていた。……なんとなく、その透き通った風景に見入ってしまっていた。

    (ふあぁ……ダークライって早起きなのねー)

     隣にいたのはメスのアブソル。ナツキの手持ちの一匹だと、昨日紹介された。空に見入っていて、喋られるまで気付かなかった。なんとも眠そうな様子。なんというか、緊張感がまるで無い。悪夢にうなされて起きてしまった、と答えるのも流石にどうかと思ったので、いつもこうなんだ、と答えておく。

    (ねえ、ダークライって空を見るのが好きなの?)
    『いや……今日はたまたま綺麗だったからな』

     いつも、景色を眺める事などめったに無い。というよりも、気にする事が無かった。自分でも、今朝の空の色に惹かれたのは不思議だと思う。しばらく黙って、二人で空をそのまま見つめていた。

    (幸せな時の風景って、綺麗に見えると思わない?)

     アブソルは、ぽつっと呟いた。その目は、何を思っているのか遠い風景を見ている目だった。
     彼女の言葉が合っているのなら、私は今、幸せを感じてでもいるのか。その感覚自体、馴染みが無い。むしろ違和感さえ覚えるかも知れない。

    (そういえばさ、ダークライって悪夢をみせるんだよね?)

     不意にアブソルが聞いてくる。私の心の内を思ったのか、別に私は見なかったよ、と付け足す。

    『お前は、災いを感じ取るんだろう?』
    (そうだよ)

     アブソルという種族は、耳にしたことがある。なんでも、姿を現すと災いが起きるというので、人間に毛嫌いされているというのだ。

    (私はこの能力のせいで、両親を殺されたの。最近はまだ、人間もそれほどでも無くなってきたんだけどね)

     この、親しみやすいような、緊張感の無い喋り方と性格のアブソルが、過去にそんな目に遭っていたとはとても信じがたかった。彼女の気持ちを思うと、まともに表情を見ることができない。

    (あなたの方も、けっこう酷い話じゃない? 悪気は無いのに、防衛手段として身についた能力で、人に悪夢を見せては嫌われるなんてさ)

     アブソルは、似たような境遇にいる私を理解してくれている。本当のことを言えば、アブソルという種族は人間には嫌われても、ポケモン達から見ればそうでもないのだろう。災いをいち早く感じ取り、身の危険を知らせてくれる存在なのだから。そのことはアブソルは口にしなかった。私も、正直そんな事は本当にどうでもよかった。人に忌み嫌われ、辛い思いをしてきた事はどっちにせよ、同じなのだから。なら、彼女も、私も一番信頼している人間の……

    『ナツキとは、どういう風に出会ったんだ?』

     アブソルは、うーんと唸って、何か悩んでいるようなそぶりを少し見せた。

    (出会った……っていうと、なんというか、幼馴染なのよね)

     ナツキが生まれたのは、ホウエン地方の、山奥の村。古い習慣が残るそこで暮らしていた彼女は、早くに両親を亡くし、親戚に助けられながら暮らしていた。幼いころから山に入っては、ポケモン達と遊んでいるうちに友達になったのが子供のアブソル。当時の彼女は、村のおきてなど知るよしも無かった。……アブソルは、退治しなければならない。災いを呼ぶのだから。おきてを知ってからは、彼女にとってアブソルは“秘密の親友”。幼いころのナツキとアブソルは、こういう関係だったらしい。

    (私たちが村を出たのはね……)

     ナツキが九歳のときの事。人前に出て吼えれば、即座に鉄砲で撃ち殺されてしまうアブソルの一族は、もうこの一帯にはほとんど残っていなかった。唯一の生き残りであった、彼女の友達、そしてその両親のアブソル。
     ある日、その両親は災害を感じた。――この一帯に雨が降り続き、大規模な土砂崩れ、酷ければ山崩れが起きる。
     しかし、人前に出れば自分たちはすぐ殺されてしまう。せめて、娘だけでも生かしたい。そう思ったその両親は、子供を彼女に託した。アブソルを見ても人々が撃ち殺したりしない遠い所へ、連れて行ってほしいと。
     彼女は、故郷を捨てて、アブソルと一緒に逃げ出した。もともと、父母もいない。親戚からは、年頃になれば嫁に出されて、用済み。大きくなるにつれて、辛い現実も分かるようになっていた。どこか広いところへ行きたかった。そう、ナツキはアブソルに語ったのだ。
     土砂降りの雨が降りしきる中、村に背を向けたアブソルとナツキが最後に聞いたのは、両親の遠吠えと、二発の銃声。



     話を聞くと、想像していた以上に酷い過去だった。そんな古い習慣を持つ村が、まだあるのか。ただ、話を聞くと、気になるところがある。

    『ナツキは、お前の言葉が分かったのか?』

    (伊達に幼馴染やってるわけじゃないもん、気持ちはちゃんと通じるよ。もちろん今もね)

     友情で、相手の心が分かる。なんという羨ましい関係だろう? 出会った相手に心が通じた事など無かった私は、そう思ってしまった。いくら言葉が人間に通じても、である。

    『……友情、か』
    (大丈夫、ダークライにもきっと分かるよ)

     笑顔のアブソルは、確信した口調で私に言った。

    「ふあ……おはよー。あれ? アブソルとダークライ早いねー」

     テントからナツキと、ロトム、そしてジュゴンが出てきた。このジュゴンも、彼女の手持ちのようだ。ポケモンと飼い主……もといトレーナーは似る、とはこういうことだろうか。彼女と、さっきのアブソルの仕草がそっくりで、私は笑ってしまった。

    「……何笑ってるのよぉ」

     ナツキもポケモンも、みんな笑い出した。“笑う”という事自体、ずいぶん久しぶりな気がする。心が暖かい。彼女らといると、陽の光に当たっているように心が暖かくなっているのが分かる。
     朝日はすでに昇りきって、辺りは明るくなっていた。



     テントを片付け、簡単に朝食を食べた後、少し歩くと小さな町に出た。アブソル達は、もちろんボールの中。私はどうしたかというと、ナツキの足元の影に隠れた。雑踏の中を、ナツキは進んでいく。どうも人ごみの中を進むのは苦手なようで、町のポケモンセンターに着くころには、彼女はフラフラになっていた。とりあえず今夜の宿、センターの個室を借り、ベッドにぼふんと倒れこむナツキ。個室は小ぢんまりとした、ベッドと机と椅子がある程度の一人部屋だった。

    「暑苦しいし……疲れたぁ……眠…い」

     それだけ途切れ途切れに呟くと、すぐに寝息を立て始めた。長く旅をしているだけあって、いつでもどこでも眠ることができるようだ。そのままにしておいてやることにする。その時私は気付いていなかったが、やはり彼女はうなされていなかったのだ。
     彼女の腰のボールから突然、音を立てて光と共にポケモン達が全員出てきた。それでもナツキは目を覚まさない。

    (ボールの中よりもやっぱ外の方がいいわ)
    (まあ、あの人ごみだったし……いくら私達外にいるのが好きっていっても、しょうがないと思う)

     ナツキは普段、あまりポケモン達をボールに入れることはしないらしい。その彼女が寝ている時に、彼らに聞きたいことがあった。

    『ナツキが私を連れて行きたい所があると言っていたんだが、知っているか?』

     彼らはお互いに顔を見合わせた後、私を見て言った。

    (知ってるよ)
    (でも、私達からは言えないわ)
    (ダークライもきっと気に入るよ。素敵な所だもん)
    『素敵な所……』

     呟くと、ニッコリした顔でアブソルはうんと頷く。

    (その時までの、お楽しみにしといて!)



     ナツキの横顔に、目を落とす。
     ――何故、お前は私のことを助けてくれたんだ?

     その問いかけは声になる事も無く、私の心の中にとどまった。まだ彼女に聞いていないこと、聞きたいことが沢山ある。何か彼女の中に、訳がある気がした。それこそ単なる同情などではなく、もっと深い、それこそ私が長く味わったような深い闇を。…罪、という言葉が自然に浮かんだ。
     その考えを私は振り払った。今まで見た彼女の表情が浮かんだとき、暗い顔をした表情は無かったからだ。知らないだけかもしれない。が、やはり暗い顔のナツキは思い浮かべる事ができなかった。彼女には、明るい顔が一番似合う。単に自分が疑い深いだけだろう。
     そう自分に言い聞かせても。伸びをしたナツキが目覚めるまで、私は物思いから覚める事ができなかった。



     町に少し出て昼食を食べてから、ポケモンセンターに戻ってきた。
     センター内のレストランで夕食を食べた後、私達は部屋に戻り、ゆったりとくつろいでいた。私以外のポケモン達は、もうボールの中で眠っている。昼間、気になった思いを素直にナツキに聞いてみた。……一瞬彼女の顔に陰がかかったような気がして、少しどきっとした。

    「私がね、ずっと昔、村で暮らしていた時の話なんだけど…」

     するとナツキは、自分の生い立ちを突然語り始めたのだ。アブソルからも聞いた、あの話を。

    「アブソルと仲良くしてたのね。ずっと秘密の友達でいるはずだった。なのに、バレちゃったの。私が、災いを呼ぶポケモンといつも遊んでるってことが」

     ……秘密の友達という関係は、外にばれてしまったのか。
     災いポケモンと、遊ぶ子供。同じ世代の子供達の目には、どう映るか?
     ――「あのおねえちゃん、ポケモンなんでしょ?」と指を差される幼いナツキが、容易に想像できた。


    『――お前は、本当に人間か?』

    『この辺りに、まだアブソルが残っていたのか!』

    『どうして言わなかったんだ! まさかお前も、災いを呼ぶんじゃないだろうな!!』


     いつの間にか私は、数人の大人に囲まれていた。唾を飛ばすほどの大声で、私を罵っている。
     …違う、罵られているのは、私の足元にいるナツキだ。ずいぶんと容姿が幼い。でも、一目で彼女だと分かる。これは、ナツキの記憶なのだ。私のナイトメアが、彼女の記憶を映し出しているのか。あるいは、私自身が夢を見ているのだろうか。夢にしては、随分とはっきりしている気もするが。
     私の足元にいるナツキとは別に、今のナツキは私の一メートルほどの所にへたり込んで、顔を手で覆っていた。

    「私がばらさなければ、アブソルのお父さんとお母さんは……っ」

     “ばらした”のは、彼女自身なのか!?

    「死なずに済んだかもしれないのに……!」

     泣きながら言うナツキ。……体が、今にも消えてしまいそうに透明になっている。今まで見たどの表情とも違う彼女に、驚くしかなかった。普段は、あんなに明るい顔で笑っているというのに。私自身はというと、頭が混乱するばかりだった。

    『でも、彼らが撃ち殺されたのは、災いを知らせるために人前に出たからじゃないのか?』

     アブソルから聞いた話では、そうだったはずなのだ。

    「それもあるけど、違う。それより前に、私がアブソルが生き残ってるって事を、言っちゃったから。一番の友達だった、幼馴染に」

     ナツキは、手で涙を拭いながら答えた。すると突然、場面が変わった。どうやら、彼女の意思によって風景が変わるようだ。
     幼いナツキと、隣を歩くもう一人の女の子。その女の子が、幼いナツキにたずねた。

    『ねえ、なっちゃんさぁ、いつも山に行ってるよね、何してるの?』
    『友達とね、遊んでるの』
    『山に友達がいるの…?』

     その女の子は、いぶかしげな顔になった。

    『うん。これね、他の人には秘密だよ。…私の友達はね、アブソルなんだ』
    『アブソル!?』

     ナツキの、恐々といった感じの返答に、文字通り飛び上がる幼馴染。

    『でもね、全然怖くないよ。優しいもん』
    『そうなんだぁ…。分かった、言わないよ。約束する』

     ほっとする笑顔を見せながら、指きりげんまんをするナツキ。…これか。
     “裏切られたこと”それ自体、彼女には信じ難い事実であっただろう。それに、自分自身が親友を“知らせて”しまったこと……。

    『こいつに知らされたんだな、お前の友達がアブソルだと』
    「そう……裏切られてたの、最初から」
    『最初から?』
    「その子の親はその子に、私に近づくように言って、私のことを探ろうとしていたの。両親のいない、ポケモンの子のことを。アブソルがまだ生き残っている事を大人達に知られて、結局アブソルのお母さん達は撃ち殺されるしかなかった」

     ……やはり、彼女は暗い影を感じたことがあったのだ。それも、私よりもっと酷いかもしれないほどの。だから、私の心も理解してくれた。そして、今だ消える事のない、裏切られた憤り、罪悪感……。
     思わずナツキに近寄り、肩を掴んだ。透き通って消えてしまいそうな体だが、触れることができて多少安心した。

    『でも、アブソルの母親達が助けられなくても、ナツキは私を助けただろう!?』

     私の目からも、涙がこぼれていたかもしれない。
     はっとした様に、ナツキは顔を上げ、そして、涙で顔を濡らしたまま、微笑んだ。

    「…ありがとう」



     気が付くと、床に寝ていた。窓から差し込んでくるのは、朝日。……夢、だったのか?
     起き上がると、ナツキはすでに起きていて、髪をとかしている最中だった。目を合わせると、いつものような笑顔になった。

    「おはよっ」

     昨夜の出来事は、やはり現実だったのだ。微笑む彼女を見て、直感だが、でもそう確信した。
     ナツキは笑顔のまま、私に言った。

    「なんかね、報われた気がするんだ……ダークライのおかげだよ。ありがとう」

     あの夢(だったのだろうか)の中のように、もう一度言われた。
     身支度を整えた後、ナツキはセンターの個室を出て、目的地へ出発するよと言ったのだった。



     薄暗い雑木林を、無言で進んでいくナツキ。私は後に続く。細々とした、人が二人ほど並んで歩けそうなほどの道をゆっくりと。時折、ナツキの足元の落ち葉や枝がパチパチと音を立てた。それ以外の音は聞こえない。鳥ポケモンのはばたきや、何か別の気配を感じたりもする。が、何故かその音さえも沈黙を深くしているように思った。
     その沈黙が、これから何かが起こるであろう事を示しているようで、なんとなく胸騒ぎがした。私の心を感じたのか、ボールから勝手にあの三匹が飛び出した。ナツキは、もうすぐだもんね、と言っただけ。
     気が付けば、小道の先に見えているのは、白い光の差し込む出口。

    (ダークライ先に行けば?)

     アブソルにうなずき、ナツキを追い抜いた。白い光が、身体に近づいてくる。雑木林の出口の向こう――



     やっと、出られる。



    『……! ここは……』


     ――そこは、一面の向日葵畑。

     背の高い、向日葵が咲き乱れているのだった。
     一面の黄色は、陽の光でまるで黄金に輝いているようにも見えた。暗い林を抜けてきたせいで、眩しくも感じる。それほどの黄色。

    『ナツキ! ……?』

     目を疑った。疑わざるをえなかった。

     私がナツキ達の方を振り向いたとき、ナツキと、アブソル、ロトム、ジュゴンの身体は――透き通っていた。ナツキが、夢の中で泣いていた時のように。身体の向こうに、今さっき進んできた林の木々が見えているのだ。
     彼女が地面を蹴ると、その身体はふわっと、まるで重力を感じていないかのように“浮き上がった”。

    「黙ってて、ごめん」

     宙に浮くナツキが、語りかける。向こうに透けているのは、夏の青空と、入道雲。彼女の身体を通して見ているのに、いつかの朝焼けのように鮮明に、美しく見えた。きっと今私は、驚きで目を見開いた表情のままに違いない。

    「私はね、今から二十年前死んでるの。それから、姿かたちは変わってない」

     今の彼女を見れば、一目で人間ではない何かであることが分かる。が、目の前の光景を見ても、その自分が見ている事の理解に苦しんだ。ただこれで、一つ納得がいくことがある。私のナイトメアがナツキ達に効かなかった理由だ。彼女達は、すでに生きてはいなかったのだ。だから、夢も見なかった。そう考えれば、説明が付く。死んだのが……二十年前。アブソルが古い風習で狩られていたのは、そのもう少し前になる。

    『おまえは……幽霊なのか?』

     ナツキは浮いたままクスクスと笑う。

    「この世に未練があった訳じゃないよっ。私達はね、“向日葵前線”なんだ」
    『向日葵前線?』
    「毎年夏になると、南から北へ上っていって、向日葵を運ぶんだ。南風を引き連れて、ね」

     南から北へ、というあの言葉。あれは、ナツキの生前の旅と、向日葵前線、二つの意味があったのか。

    (今年は、ちょっと遅れ気味になっちゃったかな? 普段はけっこう飛んだりするんだけど)

     隣で同じように透き通ったロトムが言う。

    「ううん、異常無し、だから大丈夫」

     しかし、何故ナツキが?

    「それが、今でも分からないの。でもね、何でなっちゃったのかも分からないけど、別に後悔なんてしてないよ」
    『後悔してない、か……』
    「だって、ダークライみたいな、素敵ポケモンとたくさん出会えたもんね」

     周りのポケモンたちが、笑顔で頷く。

    『……罪滅ぼしだと』
    「?」
    『罪滅ぼしだと思えば、楽じゃないか? 他人を悲しませた分だけ、他人を喜ばす向日葵を運ぶんだと思えば』

     少し言葉に戸惑ったが、言わずにはいられない何かがあった。

    「ダークライって、本当に優しいよね」

     ナツキは目の前に降りて来ると、私の手を握った。もう透明な、すかすかした手で。彼女を見上げると、その身体の色が、徐々に薄くなっていた。シンオウは、北の地。彼女達の旅もここまで、ということなのだろう。

    『……またいつか、会えるか?』
    「大丈夫、約束する。あ、私の“ナツキ”って名前はね“夏希”――夏の奇跡って書くんだ」

     その言葉を最後に、握っていた手が、身体が――彼女達はふっと、わずかな光を残して消えてしまった。
     奇跡を、信じたい。またいつか、彼女達と出会える奇跡を……。ポタッと、自分の腕にしずくが落ちる。初めて、自分が泣いていたことに気付いた。



     風に揺れる向日葵畑を眺める。黄金に輝く、向日葵畑。陽の光の下へは出られぬ私。出口へ連れ出してくれたのは、向日葵前線ことナツキ。彼女もまた、暗い陰の中から出る事を望んでいたのだ。

    『日陰の中からだとさぁ、日向って明るく、綺麗に見えるよね』

     ナツキの言葉が、頭の中に響いた気がした。
     そう。でも、陰の中から見る景色はただ見ているより、その場に行った方がずっといいのだ。冷たい陰より、暖かい日向がいい。夏の日差しのように暑くとも、向日葵のように堂々と花開けばいいのだ。明るいということは、とてもありがたいものなのだから。








     向日葵の花言葉を知ることになったのは、それから随分後だった。

     ――『あこがれ』



    ――――
    はい、無茶振りを受けてからどれだけ経ったでしょうか。11111字完成です。流月さん本当にお待たせしました。

    ・紀成様から『向日葵前線』を書かせていただく許可をとったのに、もう九月終わるよー
    ・中二病バリバリダーどころの話じゃないと思う

    実は、「明るい少女とダークライ」の構図は、ポケモンの小説を読んで間もない頃の小四くらいの時の私が、一番初めに考えた自分の小説の構図でもあるのですw。超大幅に改造して、やっとここに投稿できました!レベルとかはまあともかく。好きに書かせていただき、流月さん本当にありがとうございました。


    【書いてもいいのよ】 【描いてもいいのよ】 【どうか感想をください】


      [No.1889] アーカイヴ掲載しました。 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2011/09/19(Mon) 22:36:54     24clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    載せると言ってからだいぶ経ってしまいましたが、アーカイヴ掲載いたしました。
    修正版をあげる、修正箇所がある等がございましたら遠慮無くどうぞ。


      [No.1878] GJ! 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/09/17(Sat) 21:28:25     41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ポケダンやってて、ポケモンにも表情筋ってあるのかなあと思ったけど、あってほしい!
    お前のものは俺のもの!なトレーナーもいるはずの中、いい人だなあ


      [No.1867] GJ! 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/09/16(Fri) 20:38:31     14clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    GJ!
    その昔、ドラベースというドラえもんで野球のマンガがあったような。
    そして、ポケモンで野球をするという内容は前にも見た事ありますが、その人はかなり難しいっていってました。
    そもそも人間ポケモン混在なのか、分けるのかも不明!
    ライモンシティの音楽にあわせたコンクリート柱に響くボールの音が聞こえるようです。


      [No.1854] ■第3回ポケスコ 審査員募集 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2011/09/13(Tue) 02:18:46     50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    第3回ポケスコ 審査員募集!

    【条件】
    提出された作品をすべて読み、100文字以上の感想もしくは批評をつける。
    投稿経験等がなくてもよい。
    自分の感覚でもって感想をつけてください。

    現在名乗りを上げているのは……

    ●No.017
    ご存じ、マサポケの管理人こと首謀者だッ!
    集まりが悪いので焦ってるぞ!
    いや、なんか執筆中って声はちらほら聞くけどね。
    みんな、ポケスコ出してくれよな!

    ●CoCo
    第1回の大賞、カレー屋さんことCoCoさんが審査員をやっちゃうらしいぞ!

    ●クーウィ
    チャットでおどしたらやるって言ってくれたよ!

    ●タクティス
    クーウィさんのご紹介。
    正体不明だけどなんたってクーウィさんの紹介だからねっ!
    クーウィ氏いわく「自分が二次創作の世界に関わった正統な動機を齎してくださった方」らしい。
    はたしてどんな批評が飛び出すのか??

    ●音色
    自称クーウィさんの弟子。
    ポケスコ審査員はクーウィ一派が多い?

    ●586
    キーワードに定評のあるゴーヤロックこと586さんが三回連続で審査員をやっちょうよ。
    鳩に脅されて強制参加させられたかわいそうな人。
    トトロに似ているというウワサがある。



    今のところ意志確認したのはこれくらい。
    前回審査員の方も新規の方もぜひ名乗りをあげてくれるとうれしい!
    名乗りがあり次第、随時更新していきまする……!


      [No.1843] 物思い 投稿者:ふに   投稿日:2011/09/12(Mon) 18:54:47     56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     生きること
     それは、喜びを知り、楽しむこと
     生きること
     それは、悲しみに耐えて、進むこと
     生きること
     それは、怒りを抑え、許すこと
     生きること
     それは、自分のために、戦うこと
     生きること
     それは………………

     ________________________________________
     私にとっての、生きること
     それは、未来を向いて、歩くこと
     それは、未来を目指して、歩くこと
     例え、道は、狭くても
     未来を探して歩き出す

     たくさんの笑顔に支えられ
     たくさんの涙に支えられ
     たくさんの怒りに支えられ
     たくさんの命に支えられ
     
     今、私はここに居る

     支えられることは、支えること
     支え、支えて、生きている
     
     いつも支えられて、ばかりだけど
     支えれるように前を向き
     道を探して歩き出そう
     未来へ向かって歩き出そう

     それが、私の生きること
     それは、私の生きること
     
     
     
     
    ______________________________________
    「どうした? そんなにぼーっとして………」
    「ん………あ……ちょっと、考えごと……」
    「どこか病気かー? 何か変だぞー?」
    「大丈夫だって!」
    「ならいいんだがなー まぁ、調子悪かったら、言えよ? な?」
    「……………ありがとう………いつも……」
    「ん?」
    「なんでも無い………」
    「やっぱどこかおかしくないかー?」
    「大丈夫だって言ってるでしょう!」
    「冗談だって! まぁ……とやかく考えるより、元気出して、な!」
    「ふふ………そうね……」

     ありがとう

     いつも、いつも、支えてくれて………
     いつか、いつか、返すからね…………
     
     いままでも 
     これからも 

     ずぅーっとずっと ありがとう

     


    ______________________________________
     生きること
     それは、互いに支え、支えられること
     





     -------------------------------------
     急に書きたくなったから書いた。後悔している。こんなことなら寝ていればよかった
     でぃえすあいで書いたため、ヨクワカラナイ出来になっております。
     下手くそでゴメンナサイ(ぷぎゃっ
     誰の話かって? 誰だろう………
     しかし、たまーに物思いにふける事があるっぽいんで、(某I.Sさんによる)こんなこと考えてるのかもなぁ………ってことで、書いてみた。
     どうやら、心改めたようです。ヨカッタネ! 池月君!
     もう死にたいなんて言わないと思うよ。タブンネ。

    [書いても描いても文句言ってもいいのよ]
    [誰の物語か隠す気はないのよ]
    [でも、おおっぴらに言う気もないのよ]


      [No.1832] Re: 世界一かわいい あ・た・し 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2011/09/06(Tue) 18:26:39     41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

    よ ん だ。

    うわあああああああああああああああああ。

    orz




    ええと、マジレスすると、
    鏡の前でポーズを決めるムチュールの絵と一緒にするとさらに威力が上がると思う。

    まんだらけに古いフィギュアを売り飛ばそうとしてる自分がよぎったなどとは…


      [No.1821] ダイバクハツ 投稿者:ラクダ   投稿日:2011/09/01(Thu) 21:33:13     20clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    > 金銀ロケット団のアジトにある地雷には苦労しました。

     ありましたねえ。いつも、嬉々としてペルシアン像に引っかかりに(遠回りして)行ったので、あまり地雷原については知らないんですが……あれも、今考えると怖い仕組みですね……。アジトを損なうことなく、侵入者と共に吹き飛べと強制しているわけで……。ヤドンの尻尾切り取りといい、ギャラドスの電波の件といい、真面目に考えると結構エグいことやってる。個人的には、それくらいやっててこそ“悪”と呼ばれるんだろうなー、と納得はしているのですが。(正直、未だにギンガ団がよく分からない……)

    > 途中まで、ヘルガーだと思っていたのは秘密。

     私としては嬉しい限りです。最後の、大爆発を命じる場面まで正体を伏せておきたかったので、あえて名前や特徴を省きました……って、その前に一回「ドガース」って言っちゃってるよ! ミスったー、いつも詰めが甘いorz
    ……後でこっそり直しておこうっと(

     感想をいただきまして、どうもありがとうございました!


      [No.1810] ヨーヨー、顔文字、オムライス【第0稿】 投稿者:久方小風夜   投稿日:2011/08/29(Mon) 17:47:39     89clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:結局】 【ここでは改稿せずに】 【ベストに載せていただきました】 【ありがとうございます】 【オムライス食えよ

    ※2011年9月29日現在、まだ改稿していません。




     じわじわ、じわじわと、テッカニンの鳴き声が止むことなく響いている。
     俺は窓を開けた。吹き込んだ風は蒸し暑くて、部屋の温度を下げてくれる効果を期待できそうにはない。それでも閉め切っているよりはましだろう。クーラーは電気代が怖くてつけられない。この夏は、何とかうちわと扇風機で乗り切りたい。
     こういう時はトレーナーが羨ましい。水や氷のポケモンがいればきっと涼しいだろう。
     でもまあ、俺はポケモンを持っていないから、我慢するしかない。あとはパソコンが暑さでやられてしまわなければいいのだけれど。

     大学一年生の夏休み。やることがなさすぎる。サークルにでも入ればよかったなぁと少し後悔したけれども、それはそれで面倒なので諦めた。
     八月の頭から、九月の末。大学の休みは長い。

     よし、何もやることがないならば、書くか。俺はスリープ状態だったノートパソコンを開いた。


     俺の名前は『トレイン』。とは言っても本名ではない。ネット上の名前……いわゆるハンドルネームだ。本名が『鉄男』だからという理由で適当に決めた。
     三年ほど前からずっと、ネットの片隅で、小さなサイトをやっている。よくあるトレーナーものの小説サイトだ。ごく普通の少女がトレーナーとして旅をする、まあ言ってしまえばありきたりな話を掲載している。自分のサイト以外では、トレーナー小説を書く人が集まっているコミュニティサイトの掲示板に投稿している。そこで感想を言ったり、感想をもらったり、他の作者さんたちとチャットをしたりしている。
     そのサイトのほとんどの小説書きさんたちは、トレーナーを兼業しているらしい。旅の中でのあるあるとか、ちょっとした小ネタとか、誰もが半分くらいは自分の経験から書いているとか。
     俺はトレーナーじゃないけど、でも完全に想像で書いているわけでもない。俺の小説の主人公にも、モデルはいる。


     インターネットのブラウザを開いて、コミュニティサイトに飛び、備えられているチャットに入ると、すでに四、五人が会話をしていた。さすが夏休み、昼から盛況だ。
     ヌオーを抱き枕にして寝ると涼しくて最高だとか、サーナイトがついにキーボードの打ち方を覚えただとか、ポッポが小説の主人公のセリフを真似するようになっただとか、ピカチュウにせがまれてヘリウム風船を十個も買ってしまっただとか、窓の外を見るとカゲボウズが並んでてびっくりしただとか、この暑さでフリージオが蒸発したとか。どうやらトレーナー同士、ポケモンの話で盛り上がっているみたいだ。
     残念ながら、トレーナーじゃない俺はこの話題にはついて行けない。チャットへの入室は諦めて、俺はメールボックスを開いてみた。


    「……ん?」

     新着メールが来ていた。どうせダイレクトメールだろう、と思ったのだけれど、知らない個人アドレスからだった。
     トレインさんへ、というタイトルから、どうやらサイト経由で送られてきたものらしい。
     開いてみると、文面は顔文字だらけだったけれど、大体こんなことが書かれていた。


    『初めまして。私はヨーヨーといいます。

     いつもトレインさんの小説を読ませてもらっています。ナツキちゃんは私の友達にそっくりです。

     これからも頑張ってください。応援してます!』


     一応サイトはやっているものの、所詮は個人でやっている小さなもの。感想メールもこれまでにきたことはあるけれども、本当に数えられるくらいだ。素直に嬉しい。
     この『ヨーヨー』という人は初めてだ。コミュニティでも見たことがない。文面からすると女の子だろうか。
     ヨーヨー。そういえば昔流行ったことがあったっけ。俺の周りでもみんなやってたなぁ。懐かしい。


     メールに書いてある『ナツキ』は、俺の書いている小説の主人公。
     どこにでもいる、普通のトレーナーの女の子で……俺の幼馴染がモデルになっている。





    「テッちゃん」
    「どうしたんだ? ハル」


     ハルと俺は、ハルのお父さんと俺の親父が大学の先輩後輩だったこともあって、物心つく前から一緒にいた。きっと俺たちは、生まれる前からの縁なのだろう、と思っていた。


    「私は絶対に将来、世界一強いトレーナーになる!」
    「そっか、頑張れよ」
    「テッちゃんもトレーナーになればいいのに」
    「俺は生き物そんなに好きじゃないから、いいの」


     幼い頃から、何度このやり取りを繰り返したことだろう。ハルはしつこく誘ってきたけど、結局俺はトレーナーにはならなかった。

     ハルは小さな頃からポケモンが大好きだった。トレーナーになるという夢は、生まれて初めて将来のことを考えた時から、ずっと変わることがなかったように思える。
     好きなものは、と聞かれれば、ポケモンとオムライス、と答える。小さな頃から、俺はハルがそれ以外の答えをしたのを聞いたことはなかった。





     ハルによく似た友達、か。俺も会ってみたいな。
     懐かしい記憶を思い出しながら、俺はヨーヨーさんへの返事を書いた。
     感想を送ってくれたことに対する感謝を書いて、似たような友達がいるなんて奇遇ですね、というひと言を添えた。

     そう言えば、ハルからのメールも、いつも過剰なほど顔文字だらけだったなあ。



     それから、ヨーヨーさんは度々メールを送ってきた。
     二日に一回は、メールボックスに顔文字いっぱいの新着メールが届いていた。小説を載せると、必ず感想を送ってくれた。あの言葉にはとても感動した、とか、あそこでのナツキの気持ちを考えたら切なくなった、とか。シンプルだけど、細かいところまでよく読んでるなあ、と思える文章だった。
     感想が来ると、俄然やる気も出る。大学受験でほぼ停止していた去年の分を取り戻すように、俺はひたすらキーボードを叩いた。


     時は流れて、外の景色は、少し秋らしさを帯びてきていた。日中はまだまだ暑いものの、朝晩の風はだいぶ涼しくなった。
     昼間のテッカニンの鳴き声は小さくなって、夕暮れの空にはヤンヤンマの影が見える。日が落ちてから耳をすませば、コロボーシやコロトックの鳴き声も聞こえるようになってきた。

     夕暮れ時に窓から外を見ていると、アパートの前の道を、虫取り網を持った小学生くらいの男の子たちが走っていったのが見えた。小麦色に焼けた顔や手足は、少年たちがこの夏休み、太陽の下を走り回っていたことを見るものに伝えている。
     少年たちが過ぎ去った道を、今度はもう少し年上の、中学生くらいの男の子が歩いてきた。
     大きなリュックサックに、幅の広いベルト。泥と汚れだらけの服。ぼろぼろのシューズ。さっきの小学生たちに負けないくらい、真っ黒な顔。

     ああ、そうか。もうそんな時期か。
     八月の末。夏の終わり。
     長い長い夏休みの間、ポケモンを連れて旅に出ていた少年少女が、普通の学生に戻る時期だ。





     俺やハルが通っていた中学校では、夏や春の長期休暇中、ポケモンを連れて旅に出ることを許されていた。もちろん、ポケモン取り扱いの免許の取得と、定められた講習を受けることが絶対条件だったけれども。

     与えられた時間は、七月中旬から八月終わりまでのおよそ四十五日間。免許を持っている学生のほとんどは、夏休みにポケモンを連れて旅に出る。大抵はひとり旅だ。みんな旅に出たいのか、クラスメイトの半分以上は、中学に入る前に免許を取っていて、残りのほとんどは夏休み前に取得していた。ちなみに当然のごとく、俺は持っていなかった。


     ハルももちろん、旅に出た。相棒のポケモンたちを連れて、俺は行ったことのない遠くの町や深い森、高い山へ。

     夏の終わりが近づいて町に戻ってきたときのハルは、真っ黒に日焼けして、どろどろの格好をしていたけれど、すごく楽しそうに笑っていた。そして、仲良くなったポケモンや、きれいな色のバッジを色々見せてくれた。

     そしていつものように、オムライスが食べたい、と俺に言ってきた。





     すでに暗くなりつつある東の空を見て、随分日が短くなったな、と俺は思った。
     時計を見ると、六時半を示していた。そろそろ夕食の準備でもするか。

     冷蔵庫を開けると、鶏肉とピーマン、卵が目に入った。ご飯は冷凍庫にあるし、流しの下にはタマネギもある。
     ……そうだな。久しぶりに、オムライスでも作ろう。





     中学校に入った頃から、ハルの両親は海外出張が多くなった。だからハルは、しょっちゅう俺の家に夕飯を食べに来た。俺の両親も共働きだったから、大体は俺とハルの二人だけだった。ハルは残念ながら料理が下手くそで、どんなに頑張っても上手にならなかった。だから必然的に俺がつくることになった。

    「ハル、何食べる?」
    「私、オムライスがいい!」
    「また? ハル、いっつもそればっかりだな」
    「だってテッちゃんの作るオムライス、すっごくおいしいんだもん!」

     ハルがオムライスしか頼まないものだから、俺はオムライスを作るのだけは上手くなった。しかも、薄焼き卵で包むのじゃなくて、チキンライスに半熟のオムレツを乗せる奴。


     みじん切りのタマネギとピーマンと鶏肉を炒めて、ご飯を入れて、塩コショウとケチャップで味付け。それをお皿に楕円形に盛りつけて置いておく。
     卵を二つボウルに割って、塩、コショウと、少しの生クリーム。隠し味に砂糖を少々。
     熱々に熱したフライパンにバターをひとかけら入れて、卵液を一気に入れる。素早くかき混ぜて、まだ半熟の間にフライパンの隅に寄せる。
     火を弱めにしたら、フライパンをほんのわずか傾けて、柄の付け根を軽く叩く。そうすると、卵は勝手に回転して、きれいなオムレツ型になる。焼けたらすぐに作っておいたチキンライスの上に乗せて、真ん中に包丁を入れる。
     とろとろの中身が流れだして、チキンライスをすっぽりと覆ったら、完成だ。


     ハルはいつも幸せそうにオムライスをほおばった。あんまり嬉しそうに食べるから、俺もついつい頑張って作ってしまう。
     二人だけの食卓で、俺とハルは色々な話をした。
     今日の英語の小テストは難しかったとか、数学の先生のおでこがまた広くなったとか、部活で先輩に変なあだ名をつけられそうになったとか、長座体前屈でつま先に手が届くようになったとか、講習が難しいけど、乗り越えないと旅に出られないのだとか。
     ハルが旅から帰った後には、森の中で大きな虫に襲われただとか、ポケモンでの波乗りは船より揺れないのだとか、どこそこのジムでは苦戦しただとか、エスパーポケモンがいると物の持ち運びが楽だとか、自動販売機で三回も連続で当たりが出たこととか。
     数え切れないくらい、色々なことを。

     オムライスがなくなっても、俺とハルはまだまだしゃべり続けていた。
     俺にとっても、ハルにとっても、幸せな時間だった。





     オムライスを食べた晩、小説を一気に書きあげてサイトに乗せた。
     更新した小説は、ナツキとその幼馴染の男の子であるアキヒロが、二人でオムライスを食べながら会話をするというもの。昔あったハルとのやり取りを思い出して、懐かしくなった勢いで書いたものだった。

     翌日の昼過ぎ、ヨーヨーさんからメールが来た。相変わらず文面には、たくさんの顔文字が踊っていた。
     メールには、オムライスを食べるナツキがとても幸せそうだった、と書いてあった。いつも通り、シンプルな感想だった。

     だけど、その文をもう一度読み直して、俺は思わずディスプレイを凝視した。



    『テッちゃんの作ったオムライスを食べるナツキちゃんが、とても幸せそうでした。』



     俺はわけがわからなくなった。背筋がぞうっとした。


     小説の中でオムライスを作ったのは、アキヒロ。

     現実に『テッちゃん』の作ったオムライスを食べたのは、ハル。

     ハルはナツキのモデルで、『テッちゃん』の幼馴染。

     そして『テッちゃん』とは、俺のこと。

     俺のことを『テッちゃん』と呼ぶのは、ネット上には誰ひとりとしていない。ましてや、俺のことを『テッちゃん』と呼んでいたのは、この世でたった一人しかいない。



    「……ハル……?」



     俺は夏休みに入ってから来た、ヨーヨーさんのメールをもう一回全部見直した。
     文末に、文中に、これでもかと顔文字が使われている。
     その全てが、ハルがメールで好んで使うものばかりだった。


     サイトの掲示板にも、コミュニティにも現れない、『ヨーヨー』という名の人物。
     ハルと関わりがある人なのか。でも、そうだとしたら誰なんだ。

    「ヨーヨー……ようよう……え?」


     思い出した。
     俺は生まれてからずっと『ハル』って呼んでたから、すっかり忘れていた。
     そうだ。確かにあの時、オムライスを食べながら言っていた。



     ハルの本名は、『陽世』。


     そして、部活で先輩につけられそうになったあだ名が、『ヨーヨー』。



     ヨーヨーは、ハルだった。


     すうっと、全身から血の気が引いた。

     だって、ありえない。そんなこと、絶対にあり得ない。

     だって、ハルは。ハルは。





     とっくの昔に、この世にはいないんだから。





     そうだ。ハルがこの世からいなくなって、もう四年も経つんだ。
     
    四年前の、ちょうど今頃。夏がもうすぐ、終わるころ。


     長期休暇中、ハルは毎年と同じように、旅に出ていた。ポケモンを連れた、四十五日間の冒険の旅に。

     あの年の夏の終わり。数年ぶりと言われるほど、大きな台風がやってきた。
     上陸した台風は、田を荒らし、屋根瓦を吹き飛ばし、川をあふれさせ、そして。

     ハルが泊まっていた宿舎の裏の崖を、崩壊させた。


     前の晩、顔文字をいっぱい使って、俺に『オムライスが食べたい』というメールを送ってきたハルは、二度とオムライスが食べられない体になって戻ってきた。
     生まれる前から一緒だった俺の幼馴染は、手が届かないほど遠くへ行ってしまった。

     顔文字が山ほど使われたメールは、もう二度と、届かない。



     届かない、はずだったのに。



     俺はノートパソコンを閉じて、ベッドに倒れ込んだ。混乱していた。頭が痛い。
     だって、ヨーヨーはハルで、ハルはもういなくて、だけどメールが届いて。

     考えてもわからない。わけのわからぬ疲労感。
     俺はぐったりと目を閉じた。





     気がついたら、日が沈んでいた。
     俺はのっそりと起き上がって、ノートパソコンを開いた。インターネットのブラウザを開いてみても、今までと何ら変わりはない。


     俺はふらりと、いつものコミュニティのチャットをのぞいてみた。
     閲覧者は俺だけで、入室者は一人だけ。『ミラージュ』さんという、このコミュニティで小説を投稿している一人だ。確か、俺と同い年のトレーナーさんだったかな。

     入室すると、ミラージュさんはいきなり、「ちょうどよかった」と書きこんできた。


    「トレインさんに伝えたいことがあるの」

    「何ですか?」

    「実は、私の使ってないサブアドレスから、いつの間にかトレインさん宛てにメールが送られていたみたいなの」

    「えっ?」


     ミラージュさんの書き込みに俺は仰天した。
     俺宛てに、メール? ミラージュさんのサブアドレスから?


    「もし必要なら、スクリーンショットをアップするけど」

    「お願いします」


     ミラージュさんがアップしたメールのスクリーンショットを見ると、間違いなくそれは、俺に届いたヨーヨーさんからのメールだった。
     ヨーヨーさんのメールは、ミラージュさんのパソコンから送られていた。これは間違いないことのようだった。


    「これは確かに俺のところに来ていたメールです」

    「おかしいわね。私、このアドレスはずっと使ってないのに」

    「ミラージュさんじゃないんですね?」

    「違うわよ。トレインさん、私がいつも使ってるアドレス知ってるでしょ?」


     確かにそうだ。ミラージュさんとは何度かメールのやり取りをしたことがあるから、ヨーヨーさんのものと違うのは分かる。

     でも、じゃあ誰が?
     やっぱりハルが?
     でも、そんなわけ……。


     ……いや、待てよ。


     まさか、そうだ、もしかして……!
     うん。もしそうなら、全部納得できる。

     俺はすぐにチャットに書き込んだ。


    「……ミラージュさん、あの、明日何か用事がありますか?」

    「明日ですか? 特にないです」

    「ミラージュさん、どこにお住まいでしたっけ」


     尋ねると、ミラージュさんはそっと教えてくれた。
     電車でおよそ二時間といったところか。不可能な距離じゃない。


    「あの、もしよかったら、明日お会いできませんか?」

    「明日ですか? うーんそうですね、まあ、いいですよ」

    「ありがとうございます。それで、その時に……」





     駅近くのビルの前に着いたのは、約束した時間の三分前だった。
     辺りにはまだ誰もいない。俺が先に着いたみたいだ。

     俺は待ち合わせの目印にしていたビルのそばに立ち、ガラス張りの壁をじっと見つめた。今日は人がいないようで、中は暗い。まるで鏡のように、ガラスに俺の姿が映っている。
     足音が聞こえてきた。ビルのガラスに映る俺の後ろに、白い服の影が見えた。

    「あの、トレインさん、ですか?」
    「そのままで、聞いてください。ミラージュさん」

     急な呼び出しですみません。でも、どうしても確かめたくて。いいえ、構いません。言われた通り、連れてきました。ありがとうございます。
     俺はミラージュさんに背を向けたまま、顔をうつむけて、しゃべり始めた。

    「俺の幼馴染に、ハル……陽世という女の子がいました。そいつはトレーナーだったんですが、四年前、事故で死にました」
    「……」
    「俺、最初はメールを送ってきたのは、ハルだと思ったんです。文体も、名前も、ハルでした。他にはいないと思ったんです」
    「……」
    「でも違った。いたんです、他にも。ハルのことを知っていて、俺のことも知っていて、ハルの文章を真似できる奴が」

     それで、ミラージュさん。
     続ける俺の声は、間違いなく、震えていた。


    「教えてください。あなたのサーナイトは、元々……ハルのポケモン、ですよね?」


     俺は顔を上げた。
     ビルのガラスには、黒いワンピースを着た女性と、白い服をまとった、緑髪のポケモンの姿が映っていた。

     ハルが一番最初に出会ったポケモンは、ラルトスだった。
     それからずっと、キルリア、サーナイトと進化してからも、彼女はハルの一番のパートナーだった。
     ハルの手持ちの中で一番、ハルの近くにいたのが、彼女だった。

     ミラージュさんは、小さくため息をついた。

    「……私は四年前、事情でトレーナーをなくしたポケモンを引き取りに、施設へ行きました。この子とは、そこで会いました」
    「やっぱり、そうだったんですね」

     俺はふっと全身から力が抜ける感じがした。

     トレーナーが亡くなった時、手持ちのポケモンは、大抵の場合は遺族に引き取られる。
     しかし、遺族がポケモンを扱う資格を持っていなかったり、経済的な事情やその他何らかの理由でそのポケモンを引き取れない場合、ポケモンは施設を介して、他のトレーナーにもらわれていく。そういう制度があることは前から知っていた。

     ミラージュさんはため息交じりに続けた。

    「親のトレーナーさんは、事故で亡くなってしまったと聞きました。同い年の女の子だったって聞いて、いてもたってもいられなかったんです」

     ハルが死んだ後、俺はハルの手持ちのポケモンがどこに行ったのか知らなかった。だからきっと、誰かにもらわれていったんだろうな、とは思っていた。
     まさか、こうやって再会するとは夢にも思わなかったけれども。


     今回の騒動のそもそものきっかけは、ミラージュさんがサーナイトに、俺のサイトの小説を読んで教えたことだった。
     サーナイトは知能が高く、人の言葉も大方理解するらしい。何より、意識をシンクロし、感情を読み取る力のあるサーナイトは、ミラージュさんの心を介してより深く感じ取ることができたのだろう。そしてその話の内容から、ミラージュさんの言う『トレイン』が俺であること、ハルの幼馴染だった『テッちゃん』であることも理解したのだろう。
     それからサーナイトは、努力してキーボードの打ち方を覚えた。俺が気がついたのも、いつぞやのチャットで、ミラージュさんが「サーナイトがキーボードの打ち方を覚えた」って言っていたのを思い出したからだ。
     そして文字の書き方を覚えたサーナイトは、ハルがいつも打っていたメールを真似して、俺にメールを書いた。


     サーナイトが本当にきちんと言葉を理解していたかはわからないけれど。

     ハルがどんな気持ちの時に、その文字を書いていたか。
     ハルがどんな思いを込めて、その文章を打っていたか。

     それは誰よりも、彼女がわかっている。



     ミラージュさんが声をかけてきた。

    「トレインさん。この子が何か伝えたいことがあるみたい。少し聞いてあげてくれないかしら?」
    「もちろん、いいですよ」

     ミラージュさんはカバンからノートパソコンを取り出して、サーナイトに渡した。サーナイトは少しためらいがちにパソコンを開き、たどたどしい動きでキーボードを押した。
     打ち終わって、画面を俺に向けた。やっぱり、無駄に顔文字が多い。


    『テッちゃん、お久しぶりです。』

    「うん、久しぶり」


     ハルは、生き物がそんなに好きではない俺の前では、手持ちのポケモンを出すことはあまりなかった。だけど、このサーナイトはハルの一番のパートナーなのだから、さすがにお互い面識はある。
     サーナイトはまたかちかちとキーボードを叩いた。


    『最後まで、伝えられなかった言葉があるの。

     何度も何度も、書いては消して、書いては消して。でも、伝えられなかった。

     だから、私が代わりに伝えます。』

    「……うん」


     サーナイトは微かに笑った。


     ああ、そうだ。俺も、最後まで伝えられなかったことがあったんだ。
     伝えなきゃ伝えなきゃ、と思って、最後まで伝えられなかった言葉が。


     サーナイトは俺に画面を向けた。

     顔文字は、ひとつも入っていなかった。



    『テッちゃん、いつもありがとう。

     テッちゃん、大好きだよ。』



     ああ、参ったな。
     名前以外、一語一句違わないなんて。


     目の奥がじわりと熱くなった。堪えようと思っても、次から次からあふれてくる。
     それなのに、言いたい言葉が、喉の奥から出てこない。届ける先を失って、飛びだすあてが見つからない。



     俺の言葉は、伝えられないんだ。

     もう、ハルはいないんだ。





     ひとしきり泣いて、俺はようやく落ち着いた。ミラージュさんはじっと待ってくれるどころか、俺に濡らしたハンカチを貸してくれた。すみません、とありがたく受け取った。
     サーナイトはそっと頭をなでてくれていた。赤い瞳が濡れているのは、感情をシンクロする能力によるものなのだろう。

     ミラージュさんが明るく笑って、俺に言った。

    「さ、トレインさん。笑って笑って。そう言えばもうすぐお昼時ですよ。お昼、ご一緒にどうですか?」
    「はい、ありがとうございます」

     ハンカチで涙をぬぐって、俺は無理やり笑顔を作った。
     この辺りなら、おいしいお店たくさんありますよ、と地元民のミラージュさんが言った。


    「トレインさん、何か食べたいもの、あります?」


     ミラージュさんが尋ねてきた。俺は軽く笑って言った。



    「オムライスが食べたいです。薄焼き卵で包むのじゃなくて、オムレツが上に乗っているタイプの」





    【2011.08.29:未だ手つかず】


      [No.1799] Re: なんか絵です 投稿者:moss   投稿日:2011/08/27(Sat) 20:24:49     53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     感想ありがとうございますです!!



    > ◆大半の他のキャラクターはサザンドラ(てこさん)に乗っている中で自力で飛行(我が道を行くスタイル)
     トトロは乗らなくても自分で飛べるのです! (爆)

    > ◆でかい図体(見たまんま)

     トトロですから!

    > さすが風間さんの後輩(になる可能性が高い)mossさん! 既にセンスが素晴らしいです(´ω`)

     センスが素晴らしいなんて……ありがとうございます、照れますおw
    後輩には何が何でもなるです! 意地でもなるです! (爆)

    > 素晴らしい絵をありがとうございました!

     お褒めいただき大変恐縮です! 見ていただきありがとうございました!!


      [No.1786] 地上に海。 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/08/25(Thu) 18:21:23     83clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    その日、私は旅行帰りだったのである。船旅で、9時半頃下船の予定。船では散々遊び、ルーレットなんて覚えて帰ってきやがった。
    そして、スーツケースを親に預け、一人集合場所というかポケセン東京のある駅に向かった。
    そのため、事前に遅れると連絡していたのだが、10:30集合だったのだが、到着は10:15頃。
    普通に集合間に合ってますよ奥さん。

    ゴーヤさんに掛川の借金を返し、
    るっきーには夏コミあつかったねーーーと返し
    クーウィさん登場してエアコンの効き過ぎた屋外でべらべら喋っていたりして。

    そのうち。
    「レイニーさんと鳩さんは遅刻だそうです」あれ、前回も・・・・?


    誰が誰だか解らないため、点呼とられて、ポケセン東京に向かう。
    ポケセン東京についた目的はただ一つ。
    ブラックシティを廃墟から脱出すること!誰かホワイトフォレストの住民をゆうk、じゃなくて連れてこようと入り口前でがんばっていた。
    この頃、現マサポケチャンピオンのりえさん登場。

    そして、昼はカレー。
    となりにいたもっすんは、大学の時の後輩にとてもよく似ていて、いじり方まで同じで良かったとはおもわなかっt

    前にいたみーさん、辛さ50倍を注文する。なぜかと聞けば
    「長老に挑戦したかった」
    長老・・・・・
    味見させてもらいましたが、舌がしびれて、辛さがずっと残ります。それを完食したみーさん、やはり長老の弟子。

    実は、茶色さんとこまさんの区別が微妙につかなかったのですが
    両替してくれたいい人で、インターネットつながらないと嘆いていたのが茶色さん。
    すげえプログラマーなのがこまさん。
    で、あってるだろうか


    そして、昼食終わってラウンジのようなところでわいわいがやがや
    ここでひさかたさんからぱちももこ(パチリス)とぱてぃ(ムックル)、それぞれ色違いを貰う。
    きとら「うひょひょ、ありがとうございます!」
    ひさかたさん「ポケトレ好きなだけですから」
    ポケトレで粘れる根性は素晴らしいです。

    わいわいがやがやしていると、見慣れた男性がいる。
    しかしいつもと違う
    そう、それは和服を着たマックスさんであった。
    その渋さと顔つきで、異常なほどマッチしていたのである。というか、成仏屋(脱出ゲームのキャラ。当日のマックスさんそのもの)にしかみえない。

    あと誰かにドイツ語夢イーブイ雌をあげた気がするが、その後がたがたしていたのであんまり覚えてない非道。
    あの時、うちのブラックと通信した方は、ユナイテッドタワーのオーストリアのところが開いてるはず。


    それからカラオケに行くのですが、男性陣が恐ろしいことになっていました。
    でも、みおくんはとても似合っていたのです。
    そしてマックスさんも似合っていたのです。
    後の人は、申し訳ありませんが記憶にございません。
    見たい方は写真とってた人が何人かいるから見せてもらおう!誰がとっていたかまでは把握していない!

    カラオケで、ゴーヤさんと趣味が一緒なことが判明。
    カラオケで、クーウィさんに「まさにこんな世界観ぴったり」と言われた歌。うーん
    私の世界は ちゅうにせかい のようです。漢字は好きに当てはめてください。
    マサポケオフは歌うまがかなりいる。
    久方さん
    みおくん
    みおりん
    この人たちの歌は聞かないと損だ。そう思った。
    そしてレイニーさんは期待を裏切らない人だと確信した。

    もっすんを見送って、飲み屋にうつったらそこはりえさんの天下だった。
    もう、ついていきます姉御!
    と思ったら、私より年下だったorz

    てこりん、かわいいギャルなのだが、始まってからかなりおかしい。
    あれ、まだ2杯目?3杯だっけ?でも早くないか、からみはじめるのは!!!!
    そして、クーウィさんが鳩さんとゴーヤさんに囲まれて、まさかの本を出す作戦を!!!!
    買うよ!出たら絶対買うよ師匠!
    けれどクーウィさんに断わられてしまった。

    さらに衝撃事実が二つ発覚するのだが、それはオフに出ていた人たちの秘密にしておこう。

    最後に。
    「明日ひさかたさんと有楽町の焼き鳥屋行くけど誰か行くか!?」
    の声に集まったるっきー、みーさん、りえさん、てこりん、マックスさんで、有楽町のガード下へ行くこととなった。


      [No.1775] 噂話 上 投稿者:moss   投稿日:2011/08/21(Sun) 21:54:22     40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5


     始まりはただの噂話。


    「知ってる? 火曜日夕方に町の外れのごみ捨て場にごみを捨てに行くと、おっきなごみ袋が
    置いてあって、そのまま知らんぷりして捨てて帰ると、後ろからそいつに食べられるんだって」

    「いやあきらかにおかしいでしょその話。食べられたのになんでそんな話が広まってんのさ」

    「んー、誰かが見たんだって。ていうかウチも友達に聞いただけだからよくは知らないし」

     ほら。所詮噂話なんて友達に聞いたとか、友達は友達の友達に聞いたんだってとか曖昧な情報だけ
    じゃない。あたしは曖昧なものが嫌いだ。白黒はっきりして欲しい。
     ようやく授業も四時間目が終わり、昼休みに突入したばかり。あたしはいつもと同じように、
    クラスメイトの七瀬朱美とお弁当を広げていた。窓側の一番後ろの席。夏にここの席だと窓から
    風が入ってきて涼しい。それでもまだ暑いけど。
     ひょんなことから今朝からクラスで妙な噂話があちこちで飛び交っていた。朱美によると、
    どっかのクラスの女子生徒が噂話と同じような光景を見たのだという。
    あたしは自分でいうのもなんだが、現実主義者だから、そういう噂話や都市伝説といった曖昧な話を
    信じない。というか信じることじたいがあほらしいと思えるのだ。

    「後ね、こんなのも聞いた。えっと、学校から出てすぐに交差点あるじゃない?あそこを右に
    曲がると公園あるのわかる?」

    「あぁ。あの大きい滑り台とかブランコがあるところでしょ? 確か双葉公園だっけ」

    「そうそう、そこなんだけど。その公園の入り口に小さいどぶがあるんだって。で、そこから
    ヘドロの手が伸びてるのを見たんだって。掴んだらどうなるかとかは知らないけど」

    「ヘドロの手って、嫌だわぁ。つーかそんなの誰も掴もうとしないし、掴まれたら腐りそうだし」

     適当に相槌を打ってお弁当の中から卵焼きを箸でつまみ、口の中に放り込む。
    どぶからヘドロの手って……どうせ誰かがゴム手袋かなんかを棒に引っ掛けておいたのを見間違
    えたんじゃないの?どう考えてもあほらしい。うん、卵焼きうまし。

    「でも実際誰かが見たんだってばぁー。いい加減信じなよー、そのうちクラスの男子が見たって
    騒ぐかもしんないよぉ」

    「男子の言うことなんて信じられっかっつーの。あんなびびり集団が噂話を検証できると思う?
    それに誰かって誰よ。はっきりしなさいよっての」

     言い捨てた勢いで弁当を突く。ぶすぶすと突く。穴だらけになった可愛そうなたこさんウィンナー。

    「もー、あんまりそういうこと言わないのー。可愛そうでしょお、男子が」

     ぷーと頬を膨らませてサンドイッチをかじる朱美。彼女の容姿はどちらかというと、かわいい分類
    に……っていうか明らかに誰が見ても愛らしいといえる幼い顔立ちだ。
    いかにも良いところで育ちましたよという雰囲気を漂わす波打った栗色の髪。実際彼女はなかなかよい
    ご家庭で育ったようで。たしかパパかママが弁護士だとか公務員だとかなんとか。
    背も学年平均よりはかなり小さめ。平均よりも少し高いあたしと並ぶと姉妹のようだと言われる。
     それと同時にこのほんわかしたマイペースすぎる性格である。ここまでお嬢様要素がそろっているの
    もなかなかあることではない。めずらしいっちゃめずらしいが、やはりお嬢様要素のせいで世間知らず
    なところが多々あり、正直危なっかしくて困る。まあ、もう慣れてしまったけれど。

    「あんたその顔で男子に可愛そうとか言わないであげなよ……」

     すっと人差し指で斜め前を指す。指を指すことはいけないけど気にしない。
     向かい合っていた朱美は「えー?」と言って、お嬢様らしく優雅に振り返る。
    そこには何とも言えないような顔でこちらを見つめている。中にはぽかんと口をあけたままの者もいる。
     朱美が振り返る。

    「ねぇ、有紗ぁ。なんで男子はこっち見てるの? きしょくわるーい」

     忘れてた。朱美は男嫌いだった。

    「……あのさ。」

    「え? なーに?」

     再びサンドイッチを頬張り始めた朱美。頭に? がたくさん浮かんでいる。こりゃ何言っても意味が
    なさそうだわ。ため息をつく。

    「……やっぱ何でもない。早くご飯食べて屋上でも行こうね」

    「えぇー、何よそれぇ。もぉー」

     朱美が不満げな声をあげる。あたしはそれを聞かないフリ。

     穏やかに昼休みが過ぎていく。





     いや、別に信じたわけじゃない。気になっただけ、気になっただけよ。そう自分に言い聞かせる。
     朱美から聞いた話が気になって、部活をサボったのだ。今来ているのは例の公園の入り口。
    入り口の横の、溝のようなどぶが異臭を放って、異様な威圧感を出していた。覗いてみると、何かどす
    黒い物体がところどころに詰まっていた。汚い。
     公園には、小学生と思わしき男の子たちがサッカーボールを蹴り、走り回っている。滑り台では、小
    さな子供が滑り、近くで親が見守っている。何の変哲もないこの公園。果たして本当にヘドロの手なん
    て伸びるのだろうか?

     「……あるわけ無いわ、ありえないわよ。ヘドロの手なんて、ありえない」

     でも、そのあるわけ無いを信じてしまったからここに来たという事実は変わらない。気になっただけ
    と言いつつ、やっぱり本当は気になるのだ。仕方ない。それが人間というものだと、再び自分い言い聞
    かせる。
     三分くらいそこで立っていたが、今は手は伸びていないので、とりあえず中に入り、目に付いたベン
    チに座る。入り口に近いので、ここからでも辛うじて見える。ただ手が見えるかどうかはわからないが。
     一応、普段部活が終わる時間まで座って待ってみることにした。あと一時間程ある。それまでは携帯
    でもいじっていれば、いずれ何かしらの変化はあるだろう。きっと。別に無かったらやっぱりそれはそ
    れで寂しいとか無くて、ただ自分の考えが当たってただけ。別に信じてるわけじゃないし。
     座りながら足を組む。時折携帯をいじりながら、ちらちらと入り口のほうを覗く。変化は無い。
     七月でも半ばになれば、そりゃむしむしするし、ねっとりとして暑い。蝉も五月蝿い。座っているだ
    けでこんなにも暑いのに、サッカーボールで遊んでるあの男の子たちはどんなに暑いだろう。しかし、
    額から滴る汗はそんなことを感じさせないのか、彼らの表情は楽しそうだ。
     息をつく。携帯を閉じる。入り口を見る。変化は無い。
     時計を見ても、時間はさっきから五分ほどしか経っていなかった。暇な時間ほど長いものは無いわ。
    再び深く息をつく。
     汗が顔を伝った感覚に、あたしは鞄からピンク色のタオルを取り出した。軽く顔を拭き、暑い暑いと
    文句を垂れながら、もう一度携帯を開こうとしてなんとなくどぶの方を見た。
     その時だった。

    「え? うっそ。……えぇ?!」

     どぶに、何か手のようなものが突き出ているではないか。色はここからじゃはっきり見えないけど、
    確かに何か、ある。
     そこからの行動は早かった。ベンチに放っておいた鞄を引っつかみ、携帯を片手に走る。何故携帯を
    持ってるかというと、証拠を写メる……のもあるけど、都市伝説みたいな珍しいものを撮りたいという
    好奇心もある。ともかくまずはこの目で見ることが大切だ。入り口まで一気に走る。
     だが、しかし。

    「……あれぇ?」

     どぶを覗く。しかし、求めていたものはそこには存在しなかった。あるのはひたすらに伸びるどぶのみ。
     あった! そう確信に近い感情を抱いていたのであまりにも……というのは大げさだが、ショックは
    大きかった。ショックというよりも、喪失感の方がしっくりくるか。なんというか、こう、体から力んだ
    力がふっと抜ける脱力感。
     あたしは笑う。

    「なぁんだ……やっぱりヘドロの手なんてないじゃない……。さっきのは気のせい。所詮噂程度でしか
    ないんだわ……。ふん、やっぱ噂は嘘ね」

     踵を返して歩き出す。黒い鞄を肩にかけ直す。どぶは見ない。見たってどうせ嘘なのだから意味が無い。
    だから早く帰ろう。帰って夜ご飯を食べて、お風呂に入って寝よう。そして明日学校に
    行ったら朱美に言ってやろう。昨日のどぶの噂は嘘だったって。絶対に言ってやる。
    そして噂話なんて嘘だってことを証明してやるんだから。……証明なんてできないと思うけど。
     夕日が傾き始め、子供が家に帰る姿が見受けられる。普段部活から帰る時刻よりもだいぶ早いが、
    まあ、別にいいだろう。親も何も言わないだろうし。


     足早に去っていく少女。その少女は振り返らなかったために知ることができなかった。
    彼女の後ろで、例のどぶから何か手のようなものが伸びていることに。
      



    ――――――――――――――――――
    久々に書いた。一ヶ月以上前から溜まってたネタ。

    上ってことは下とかもあるの?って感じですが、下まできちんと書き終えられるか……。

    少なくとも今年中には書き上げたいですが、まあ遅くても一年以内には(爆)

    誤字脱字等ございましたらどうぞお気軽に。


      [No.1762] 冷蔵庫を開けたらそこに 投稿者:CoCo   《URL》   投稿日:2011/08/18(Thu) 04:49:09     71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     カゲボウズ。


     日差しに焦がされた万年床で目が覚めて、強烈な喉の渇きを覚えたので張って向かった冷蔵庫が、このザマである。
     自炊もテキトーで済ませるせいか、実家から仕送りと一緒に送られてくる漬物と酒と麦茶とアイス程度しか駐在していない冷蔵庫は基本的にすっからかんなのだが、なぜかチルドの下の段に四匹ほどがかたまって置いてある。
     もはや居る、とかそういう表現ですらこのダラけ具合には生ぬるい。置いてある。カゲボウズが置いてある。しなびたレタスのようになよなよっと置いてある。微笑んでいるようですらある。
     俺は顔面に冷気を浴びながら溜め息をついた。

     俺の職場はポケモントリミングセンターであるのだが、夏場は獣類の毛の処理を中心に仕事量がどっと増える。水浴びさながらにシャワーを浴びせるとどことなく心地よさそうだ。マグカルゴは冷えて一つの岩石のようになっていたが、これに関しては依頼主が悪いとしか言いようがない。

     たまの休みとなった途端これだよ。

     この古アパートの売りは主に安さと繁華街の近さだが、近所ではまったく別の理由で有名になっている。
     このカゲボウズたちである。
     彼らは宿付きカゲボウズだそうで、ご丁寧にも借りた部屋とセットでもれなくついてくる。
     そういえば俺と彼らの付き合いもそろそろ一周年である。
     大家さんが言っていたから間違いない。

     カゲボウズは冷蔵庫の中を転がっている。
     ひらひらした布の身体をプラスチックの横板にぺったりくっつけ、つまんでみるといやにひんやりしている。
     涼しいか。涼しいのかそこは。
     俺はいまにも干からびそうだってのに。

     そうだ飲み物だ。乾きに急かされ麦茶麦茶、と見上げてみると。
     刺さっている。
     カゲボウズが刺さっている。

     ポケットについた卵のホルダー、カゲボウズが逆さまになって刺さっていた。
     普段はふわりと空中に浮いている体はべろんと垂れ下がり、その隙間から黄色い目がじっ、とこっちを見ている。
     やつは他のカゲボウズどもよりひとまわり小さいように見えた。

     とりあえず、つまみあげてみる。
     ぺろんとした身体が俺の指にくっついた。よく冷えているので思わず両手で包んでしまった。あー、冷える。これは冷える。親指と親指の間から黄色い目がこっちを見ている。
     額にあててみる。ぺったりしている。ひやっこい。頭が冴えていくのを感じる。

     しばらくは無抵抗で生ける冷えピタと化していたちびボウズは、すこしぬるくなってくるともぞもぞと動き始め、不安定に浮遊しながら冷蔵庫の中へ戻っていった。
     そして兄貴分たちのいるチルド下ではなく、やはり卵ホルダーのあるポケットのほうへと横たわる。しかし、なにぶん身体が小さいので、そっと扉を閉めようとしたらコロンと転がって頭がホルダーに埋まり、またさっきのような逆さまになってしまった。

    「お前、そこやめとけよ」

     しかしどうやら、ホルダー部分が気に入っているらしい、直されれば横に戻るが、また刺さってしまっても決して動こうとしない。
     寝ぼけた頭で考える。どうやったらはまらずに済むだろうか。
     ――ああ、そうだ、卵を買ってこよう。

     思い立ち、寝巻のまま下だけジーパンに着替えて外へ出る。
     とたんに熱気が足元からむんと全身に絡み付いてきた。一歩を踏み出すだけでまるで見えないどろ沼を進んでいるかのようだ。ジーパンにしたのは失敗だった。暑い。かなり真面目に暑い。

     アスファルトの向こうに逃げ水を見たあたりから記憶がない。
     頭が茹で上がって視界はまるでネガフィルムだった。気が付いたらスーパーの前だった。
     大家さんに会った。

    「大丈夫ですか?」

     しかしその時俺は自分の状態に気が付いていなかった。大家さん曰く、水揚げされたばかりのオクタンのような顔をしていたらしい。むくんで真っ赤。そういえば水分もとらず、扇風機程度の冷房しかない部屋で十時間睡眠だった。それなのに、ヤバいかもしれない、と気が付いたのは大家さんの問いに「う、ああ」しか声が出なかったときが始めてだった。

     とりあえずダッシュで(とはいえ走れなかったので、腰を丸めて早足で)スポーツドリンクを買ってきてあおった。久しぶりにこんなに貪欲に水分を取った。喉から全身の細胞の一片にまでに水分が行き渡るのを感じた。素晴しい! 生きてるって素晴しい!

     スーパー前、木陰のベンチに座って猛省した。冷静になって考えればアホである。しかも寝起きの一番ヤバい顔を大家さんに見られた。俺は両手で顔を覆った。だめだもう廊下で大家さんとすれ違ったときに斜め45度で挨拶をキメるとかできない。だめだもう。

     放心していると、ふいに額に冷たいものが触れた。
     大家さんが「だーれだ?」なんて可愛らしいことを! という幻想は三秒で打ち砕かれた。目の前には見覚えのあるミカルゲ顔が現れたからだ。
     彼は御影先輩、俺の大学の先輩であるが、髪型セットで顔がミカルゲにとてもよく似ている。108の奇行も評判である。

    「暑いな」
    「先輩が視界に入った瞬間気温が上昇した気がしたんですけど」
    「気のせいだ」
    「そっすか」

     先輩はベンチを立っているのに額は冷たい。
     なにごとかと手を顔にやると、黒いかたまりが乗っていた。

    「そいつを追ってきたんだ。突然お前の部屋の窓から出てきたんで気になってな」

     ちびボウズはかわらない黄色い視線で俺をみつめている。
     まさかお前、俺のことを追ってきたのか……。

     しばし冷えたカゲボウズを頭に乗せ、休息を取ることとなった。
     けれど安息の時間は長く続かない。
    「あっついねー」「チョーあっちぃ(笑)」と話題がそれしかないなら会話すんじゃねえと突っ込みたくなるようなアベックが現れ、ベンチを占領したのだ。男のケツが俺を追いやった。カゲボウズが額から転がり落ちた。
     女のほうは夏まっさかりだというのに洒落こんだセーターなんか着ながら、足は丸出しである。けしからん。あついあついいいながらベタベタくっついてんじゃねえ見てるこっちが暑くなるわ! 離れろ! お前ら二人の間に必要なのはその心地いい木漏れ日じゃない永遠のダイアモンドクレパスだ! 涼しくなるぞ!

     ハッとしてカゲボウズを拾い上げると、今度はこいつ、にっこりと笑っている。
     体感温度はますます蒸すばかりだが、心の熱量が急激に失われていくのを感じた。
     溜め息をこぼいたアスファルトにアベックの片割れの男がガムをなすりつけた。
     先輩は「うどん喰いてえなー」とぼやいていた。



     おわってやろうよ


    ***
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評していいのよ】


     冷やしカゲボウズはじめました。
     洗濯日和を投稿して一年が過ぎたそうです。どうも長らく居座らせていただいてありがとうございます。
     タイトルはパロディです。パクリじゃないです。
     


      [No.1751] 絵をつけたい…! 投稿者:風間深織   投稿日:2011/08/15(Mon) 10:31:21     43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     セリフとヤドンの心境のみの作品なのに、読んでいるうちに情景が浮かんできました!
     とっても可愛らしい作品だと思います!
     できることなら絵をつけたい…と思ってしまいました。私の絵は可愛くないですけどね…(^^;


      [No.1740] ホウセンカボムwith不発ボール 投稿者:音色   投稿日:2011/08/11(Thu) 22:40:34     88clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     テレポート 14/20

     真っ白なブラウス、真っ赤なロングスカート。
     全身を包む淡い光。対照的な黒髪がまた光を際立たせる。

    「ふ、ふ、ふ。もう誰にも会わないと思ってたのに、こんなところでがっちゃんこされる前のバクダンボールに会っちゃうなんて。おもしろすぎるよ」

     こんな不思議な事、なかなかないよ。淡く光るその人は、なんか楽しそうだった。
     俺の目の前には爆発前の、紅白まんじゅうさんがいた。

    「反攻して、脱線して、ここに来たのに、どうして君がいるのかな?」

     いや、いるのかな?と言われましても。
     この場合、俺の言葉は通じるんだろうか。人とポケモン、がっちゃんこの場合は。分からん。

    「ふ、ふ、ふ。まぁ、いいよ。最後の最後に、話し相手がおんなじバクダンボールなんて。傑作だよ。よくできてるよ」

     しゃがみこまれた。俺はどうすればいいのか分からない。
     テレポートした場所が、コガネのラジオ塔の隅っこなのか、と見当がつくだけで。

    「君を巻き込みたくはないんだ。私がどかん、したら、君もどかん、じゃすまないよ。多分、どかんとする前に、木端微塵だよ」

     それはさすがにご遠慮したい。ごろごろごろ、紅白まんじゅうさんの周りを一周してみる。

    「私ね、さっき、生まれて初めてたくさんしゃべったんだ。ジャージちゃんって言うんだけどね、その子のおかげでここに脱線したんだけど」

     ホウセンカそっくり、を自称するお嬢さんは、おんなじ爆発物にたいして短いお話をする。
     簡単な仕組みで、どかんと一発。人をたくさん巻き込めるように作られた、怖い怖い、恐ろしい才能。でも、使い捨ての才能。

    「リサイクル不可能、ってあたりが素晴らしいよね。威力を大きくして、自分も吹っ飛んで、証拠隠滅。作った方は安全安心。拍手喝采だね」

     本来のポケモンは、自分の体力の全てを使って爆発する。まさに『じばく』で『だいばくはつ』。
     でもそれは、あくまでも衝撃とかエネルギーを周囲に放出するだけで、自分は、そりゃ激しく傷つくけど、生きてはいるわけで。
     入れ物を吹き飛ばす、自分の体が壊れることをお構いなしで爆発すれば、威力なんて、それじゃない。

    「さて、私の最後のお話はこれでおしまい。なんか、聞いてもらってほっとしたよ。やっぱりおんなじバクダンボールだからかな?」

     ふ、ふ、ふ。笑って、すっと立ち上がる。

    「それじゃあ、バイバイだよ。ちゃんと遠くに離れるんだよ。いいかい?わかった?」

     まんまるな体だと、肯定と否定はどう表せばいいのか、よく分からんけども。
     とりあえず、くるりと背を向けた紅白まんじゅうさんを見て。
     俺は、テレポートした。


     つづけっきんぐ
    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    余談  ビリリダマ、爆発、ホウセンカ、紅白まんじゅうさん。
    これだけそろってるんだから書かないわけにいかない。

    【大好きですホウセンカ】
    【はーくーしゅ!はーく(殴】


      [No.1729] ひっこし 投稿者:   《URL》   投稿日:2011/08/11(Thu) 15:16:11     78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     お家におばさんが来ました。
     お兄ちゃんはおばあちゃんとお家にのこるけれど、わたしはタマムシのおばさん家に行くそうです。
     わたしはそこの学校にかようそうです。とかいの空気は体にわるいので、お兄ちゃんは行けないそうです。
     タマムシで友だちできるかな。ちょっと不安です。

     今朝からずっと、おばさんとおばあちゃんが話していました。
     お父さんとお母さんのいひんをどうするか、話していました。
     この家にはお父さんとお母さんが作ったけんきゅうきざいがたくさんあるので、それをどうするか、話しているみたいでした。
     おばあちゃんは、しきりに、べんごしさんを呼んだ方がいい、と言っていました。
     お父さんとお母さんのものは、すてないでおいてほしいな、と思いました。

     今日はウパくんをどうするか、お兄ちゃんと話し合いました。
     お兄ちゃんはつれて行っていいよ、と言ってくれました。
     わたしはいいの? とききました。お兄ちゃんはいいよ、と答えました。
     ウパくんがいれば、タマムシのあたらしいお家に行ってもさびしくありません。
     ウパくんみたいに体がじょうぶなら、お兄ちゃんもタマムシに行けるのになあ、とお兄ちゃんが言ったので、お兄ちゃんも行けたらいいのにね、とわたしは言いました。

     ウパくんをつれて家の中をたんけんしていたら、おばさんにこらっとおこられました。
     お父さんとお母さんのけんきゅうしつに入ってはいけないよ、とおこられました。
     なんでも、けんきゅうしつに入ったら、ポケモンといしきが合体するそうです。人のいしきをポケモンにうつす、そういうけんきゅうを、お父さんとお母さんはしていたそうです。でも、まだ、ポケモンと合体したいしきを元にもどすことができないから、いちど合体したらそのままで、とてもあぶないのだそうです。
     ちょっとこわいけど、ウパくんになるのならいいかな、と思いました。でもやっぱり、もどれないのは困ります。

     今日はおばさんに手伝ってもらって、わたしのにもつをまとめました。
     お洋服と本をつめたら、はこがいっぱいになりました。
     お気に入りのププリンの手さげかばんに、ハンカチとティッシュと、ウパくんのモンスターボールを入れました。
     ボールがあるけれど、ウパくんが入っていなかったので、ウパくんをさがしに行きました。
     ウパくんは、けんきゅうしつの前でたおれていました。コンコンとせきをして、くるしそうです。ウパくんはびょう気になったみたいです。
     ぼくはウパくんじゃないよ、お兄ちゃんだよ、とウパくんが言いました。コンコンせきをしているのは、お兄ちゃんのびょう気がウパくんにうつったからだそうです。
     わたしはコンコンせきのウパくんをつれて、おばさんの所に行きました。おばさんはけんきゅうしつに入って、まっ青な顔をして出てきました。
     その日は夜中までずっと、おばさんとおばあちゃんが話しこんでいました。

     わたしは今日、タマムシに行きます。
     お気に入りのププリンの手さげかばんに、ハンカチとティッシュと、水とうを入れました。わすれものはない? とおばさんにきかれました。わたしはないよ、と答えました。
     おばあちゃんが見おくりに来てくれました。お兄ちゃんも見おくりに来てくれました。ウパくんがいないと、あたらしいお家でさびしくなるかもしれないけれど、だいじょうぶです。
     タマムシで友だちできるかな。今からたのしみです。



     〜おわり〜


    という夢を見たんだ。
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【煮ても焼いてもいいのよ】


      [No.1718] とある夏のカレーより 投稿者:moss   投稿日:2011/08/09(Tue) 01:26:22     57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    道端でであった、白い子犬みたいなソイツ。
    断然猫派である私は、それを見たとき「うわ、犬かよ。ってかなんで犬が道端に転がってるんだし」と、
    顔をしかめて通り過ぎようとした。
     が、そのときであった。
     私は見てしまったのだ。
     その白い子犬の腕に、羽が生えているのを。
     気になった私は子犬の隣で足を止めた。しゃがみ込むと、ゆっくり観察する。
     ふさふさの白く艶やかな毛並み。メガホンのような形をした尻尾。両耳からつながる二つのたてがみ
    は、地面にへばりついているためぺたりと垂れている。
    よく見ると、やはり両手にはその体躯に似合わぬ翼がついており、そこから鋭い爪が覗いていた。
     じぃと見つめているとその視線に気付いたのか、ソイツはうっすらと目を開けた。
    吸い込まれるような深い蒼色だった。
     見惚れる私にこう言った。

    「腹減った」

     その後、私がソイツを抱えて家まで走ったのはいうまでもない。
     そのときの季節は丁度夏だったので、家に着いたころにはもう汗だくだった。髪の毛もプールに入っ
    た後みたいになってた。おかげで次の日くらいに背中に汗疹ができてそれはもう、かゆかった。
     これ以上無いというくらいのスピードで靴を脱ぎ捨てキッチンに向かう。
    そしてそこに置いてあった昼ごはんの夏カレー、冷たくて暖めないでも食べられる夏限定のインスタン
    トのキーマカレーを少量やったところ、素晴らしい速度で平らげた。
    口の周りを盛大に汚していて、まぁそれはそれで可愛かったのだけど。
     満足そうな表情を見せるソイツに、私はとりあえず一番気になっていたことを聞いてみた。

    「君は誰?……」

     くわぁと欠伸をした。見た目に反して鋭い犬歯がちらりと覗く。
     子犬は気だるげに答えた。

    「知らない。でもずっとこう呼ばれてた。“レシラム”って」

     そこで始めてソイツがドラゴンであることを知った。



     
     ただいまが言えるってことはいいことだ。あとおはよう、おやすみ、いってきますも言えたらいい。
    一人が寂しいわけでもないけど、何か、こう、一人だと足りないものがある。
    まだ世間を知らない子供の私が言うのもなんだが、それでも家に帰って誰もいないのは、夏でも体の何
    処かが冷える気がするのだ。

    「ただいま」

     玄関を開ける。

    「おかえり」

     低いような、学校でよく聞く声とはまた違った響きをもつ独特な声が私を迎える。
    そして、とことこと廊下を走ってこちらに走ってきた。傍らにはちょいふとめのブラッキー。
    通称でぶらっきーのルゥくんである。

    「飯、はやくな。腹減った」

     であったころと全く変わらない大きさで同じ言葉を言い、すたすたと奥に戻っていく。
    ルゥが足元に擦り寄ってきた。丸い瞳が可愛らしい、というか猫すぎて困る。もう十分なおじさんな年
    であるが、まだまだ可愛い。

    「さてしょうがない。お昼食べようか。私もお腹が空いたんでね」

     ルゥが離れる。私はすぽすぽと靴を脱ぎ捨てる。この癖は急いでてもそうでなくても変わらない。
    幼いころからの癖だ。スリッパを履いて歩き出す。途中で自分の部屋に寄り、学生鞄を放り投げる。
     蝉が騒ぎ始めたこの季節。とにかくじめじめしていてねっとりと暑さが体に纏わりつくような不快感
    がひどい。去年とはまた違った暑さだなとしみじみ思う。暑い。
     リビングにつながる畳の部屋でむさ苦しい制服を脱ぐ。そのままの姿で扇風機の前に行く。

    「すーずーしーぃ」

    「変態。何やってんだ。早く服着ろ、そんで飯」

     あー、とかワレワレハウチュウジンダ、とか言っていたら睨まれた。 
    うるさいなぁ。少しぐらい涼ませてくれたっていいじゃん。こっちは部活帰りで暑いんだよ。
    そう目で訴えたが一瞥されただけだった。仕方ないので扇風機から離れてパジャマ代わりに今朝着てた
    赤いワンピースをすっぽり被る。あちぃーと文句を垂れながら洗面所へ向かう。
    そこで適当に髪を束ねて、よし昼ごはんの準備をしよう。
    といってもたいしたことは何もしないのだが。
     キッチンへ移動し、流しにおいてあるラップされた皿を手に取り電子レンジの中に突っ込む。ぼん。
    そんなに温めなくても平気かなと思い、直感で一分にセット。そのあいだに扇風機に当たりに行く。
    あー、やっぱり冷房より扇風機のほうがすずしーとか、絶対冷房のある場所に行ったら撤回する発言を
    し、そういえばあいつらはどこに行ったのかと部屋の中を軽く見回す。
     空腹で不機嫌そうに窓際で寝そべるソイツを見つけた。
    そんなところにいたら暑くないか?と疑問に思う。
    そしてでぶらっきーがいないと目を走らせる。さすがこの家の年長者ってほどでもないけど。
    なんとまあ以外なところに潜んでいた。こないだ親が買ってきた水のダンボール箱の中だった。
    果たして涼しいのだろうか? 彼らの考えることは私にはわからない。
     チーンと電子音が鳴った。彼らの耳がぴくりと動く。暑さでだれていても、飯のことだけは忘れない
    ようだ。
     扇風機から名残惜しくも離れ、電子レンジから皿を出す。
     そして流しの上に再び置くと、カレーのルーを温めずにそのままかける。
    これぞ夏のカレー。キーマカレーなのである。
     臭いにつられた者たちがやってくる。はいはい。そんな這い上がったゾンビみたいな顔をするなよ。
    怖いよ。空ろな目で見るな、こっちを。
     彼ら専用の食器を並べ、みんなが平等になるように慎重に盛っていく。この集中力を受験勉強に使っ
    て欲しいと誰かに言われる。誰だっけなー?

    「はいできた!」

     とてつもなくきれいに盛れた三人分のカレー。我ながらすごいと思うよ、うん。写メでも撮りたかっ
    たが、ゾンビみたいな顔をして見上げてくる彼らを見ればせざるおえなかった。
     せっせと食卓の上までそれらを運ぶ。すでに彼らは指定の位置にお行儀よくお座りしている。
     さて、おまたせいたしました。

    「じゃ、いただきまーす」

     三者一気にがっつき始める。一番ぼたぼたとこぼすのがルゥで、口の周りを汚しながら食べるのが
    ソイツ。私はスプーンでお上品に食べます。嘘です。

    「ルゥ、ぼたぼた垂らしてるよ。あと――」

     そう言いかけて思い出した。コイツとであってから、もうだいたい一年たったのか。
    あのとき名前を聞いて無いと言ったから、家に帰ってから一晩中名前に悩んでやっと、次の日の昼に
    付けたんだっけか。

    「――シャル! 口の周りが汚い。どうにかして」

     そして一年前もこんなことを口にした気がする。
     本名はシャルレット。長いから略してシャル。意味は無い。

    「ほっとけっつーの、どうせきれいに食えないんだから。なー、ルゥ」

     ぶにゃーと肯定したように鳴く。
     蝉の騒ぐこの季節、暑さを凌げるのはこの何気ない日常であったりする、かも。
     少しピリ辛なカレーを頬張りながら、一昨年はルゥと二人っきりだから、こんなふうに喋って過ごす
    とこなんてなかったなぁ。ルゥは喋れないし。

    「おかわり」

     器を差し出す真白き片翼に、ねぇよと一言。

     さて、こんな受験真っ只中な作者でありますが、どうぞよろしくおねがいします。




    【何してもよろしいですわよ】
    ―――――――――――――――
    はい。ほんとはちゃんとした短編を書くつもりだったのですが、はい。
    何をしたのか、何故かこんなのになってしまったです、ごめんなさい。
    しかも深夜に書いたので意味が不明すぎる。
    モデルはうちのでぶ猫と空想の産物です(爆)


      [No.1707] 8月21日東京オフ 投稿者:Teko   投稿日:2011/08/08(Mon) 12:47:47     44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     よろず板だと更新がわかりにくいので、短い時間ポケスト板をお借りします。


      [No.1694] NOT もふパラ 投稿者:音色   投稿日:2011/08/05(Fri) 23:41:56     97clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     扉を開けたらそこは、普通の路地裏だった。
     ちっ。これで俺の家のリビングじゃないのか。握っているのは変わらずにカフェの扉。決してうちの冷蔵庫ではない。
     ・・裸足で歩きたくないのだが、そこはしょうがない。日陰のコンクリートが冷たい・・ちっちゃい石踏んだ。地味に痛い。
     マスターに頼んだら靴貸してくれるかなぁ。・・んなわけないか。ていうか店出てすぐ振り返ったらどれだけ即効アウトだよ。
     さすがにそれでいきなり霊界に連れていかれたくない。・・ていうか、俺何も悪いことしてないよ。本当。もしかして一時タワーオブヘブンでヒトモシ倒しまくったからそれでとか。いやいや、あくまでゲームの話です。
     倒しまくってた理由が『色違いのヒトモシ欲しぃぃ!』だからなぁ。途中で飽きたけど。
     ところで、路地に出たは良いんですがどこに行けばいいんですか。右ですか左ですか。
     ・・仮にどっちかに言って大通りに出たとしよう!その時の俺の格好はどうだ!部屋着だぞ!しかも裸足だぞ!
     おまけにあこがれのポケモンワールドとは言え、逆を言えば俺は住所不明国籍不明(当たり前だ、この世界の住人じゃないんだから)の不法侵入者として扱われませんか?可能性大。
     こちらの世界のジュンサーさんがどの程度のモノなのか、アニメ見る限りじゃ優秀なのかそうでないのか(大変失礼だが)よくわからん。
     いやしかし、もしも『コマンド』に出てきてしまう超絶美人警察のレンリさん(俺の認識上)いたらどうしようか。ここがイッシュ地方ライモンシティではないという可能性は捨てきれません一応。
     いやだって大通りといえばまずは華やかなライモンシティでしょう。・・あ、でもシンオウ地方かもしれないなぁ。妙にがっかり。
     まぁいいや。
     どうにかなるでしょう多分。

     以下俺の都合の良い妄想。
     仮に、仮にだ。住所不明国籍不明の不法侵入者と認識されたとしよう!しかし家族もいないしまともに考えればトレーナーカードらしき身分証明書も無い。
     となったら、どうなる?そう!こちらの世界での身分証明書っぽいモノをつくってもらえるかもしれないわけだ!こうなったら偽名を名乗ってしまおう。そしてポケモントレーナーとしての人生を歩んでしまうのも一興だ。
     いやだって、別に問題ないよね?俺のいた現実世界(いやここも現実と言えばそうだけど)でも時間が進んでいたら俺は失踪と言う形になるだろうが、俺が悪いんじゃない。全てはこの世界に繋がった冷蔵庫が悪い。うんうん。
     有名な博士達の誰かに巡り合えたりしたらいいじゃない。最初のポケモン何にしよー。いまからちょっとわくわくが止まらないぜちくしょー!パーティ構成とかも考えたいしな。
     こうして俺のバラ色の未来が目の前に広がろうとしていた・・・!

     ずごしゃ、っとなんか踏んだ。つんのめって前に倒れた。
    「いってぇぇ!?」
     なんだよ何踏んだんだ?ずっこけた元凶を見ようと、倒れたまま体を回転させて後ろを見た。
     あ。
     これって、あれですか。振り返った判定に入るんですか?

    「……振り返ってはいけませんと言ったのに、振り返ってしまいましたね」

     判定に入りました―――!
     やっちまった・・グッバイ、俺のバラ色の未来。マスターの声が響く。

    「ちょ、ちょい待ってください!」
    「ダメです」
    「たんま!」
    「だめです」
    「いや、だって俺、なんもしてないじゃないですか!」
     戻りの洞窟行ってないし別に人生に悲観しているわけじゃないしそんな運が悪すぎる人間じゃないしていうかポケモンもってないしトレーナーですらないしついでを言っちゃえばこの世界の人間でもないんどぅえしゅ。
     最後噛んだ。
     
     ヤバいやばいやばいやばいリアルな意味でマスターが怖いぃぃしかし良い男である。って、俺は本当に何処をみとるんだ!
     だって体格いいし、脚も長いし・・マスター足あるし。え、足あるしぃ!?

    「・・あんた誰です?」
    「ワシの尻尾を踏んでおいて言う事がそれかぃ?」

     尻尾ぉ・・、と言いかけたら、溢れるマスターの背後から金色の尻尾が1本2本・・ってちょっとまったぁぁ!

    「ここはもふパラじゃないはずだぁぁあ!」
    「ほぅ?お主、その言葉を知っておるのか?ならば話は早いのぅ、もふもふの刑じゃぁぁ!」
    「うそーーーん!?」

     こうして俺はマスターの忠告を守らなかったばっかりに、長老にもふパラに連行されることとなった。
     ちょ、ま、苦しい!ガチな意味でい・・息が・・・がくっ。


     つづけいこうお

    ―――――――――――――――――――――――――――――――
    余談  もふりーんもふらーんもふろーん

    【カオス万歳】
    【さぁ、続きを書いて欲しいんなら遠慮なく拍手を(略】


      [No.1683] なにこの魅力的過ぎる書店 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2011/08/03(Wed) 21:01:17     59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    > 自分のポケモンから雑巾の匂いがしたら 著コトネ 1480円

    某マリルちゃんですね、わかります。

    > 破壊光線は人に撃っても大丈夫☆ 著ワタル 1980円

    …多分大丈夫ですよ、週に一度は手持ちにメガホーンで串刺しにされてる私オルカが言います(嘘

    > おいかける    著ミナキ 1200円
    > グラードン愛   著マツブサ 1500円
    > カイオーガ愛   著アオギリ 1500円

    一緒に愛を叫びましょう!あのポケモンに!!
    特に下の二つにいろいろと突っ込みが追いつかない件。
    でも一番読んでみたいのはここら辺。ポケモン愛いいわポケモン愛。

    > あきらめましょう  グリーン

    なんかこれが一番意味深だった。マコさんのようにレッドさんとの実力のことなのか!?
    それとも、レッドさんの消そk(

    以上、ありがとうございました〜


      [No.1672] キュウ! 投稿者:Teko   投稿日:2011/07/31(Sun) 21:38:46     41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    返信遅れました。感想ありがとうございます。

    > サザンドラは見た目一匹狼な感じですが、仲間を求めているサザンドラからは哀愁を感じる。
    > 種族的なものから、仲間が出来たとしても仲良くやっていけるのだろうか。
    > むしろ ともg(省略されました

    そうですよね……さらに、進化するのがかなり遅く、進化するまでかなり弱いので相当個体数は少ないんじゃないかと思いました。
    凶暴だけど、さびしがりや。仲間がいてもうまくいくとは限らない。なんだかかわいそうですよね
    まぁ、たくさんいても、それはそれでダメな気がするのですがw

    > そういえば、サボテンも過酷な環境のために、周囲をからす毒を巻くようで。時には自分の子孫も殺すとか、自然は厳しいもの。


    そうなんですかΣ
    やっぱり、生存競争っていうのは激しいものですよね……

    > サザンドラが飛んできたら普通の人は何か来たわーーーーになるのだろうかなあ

    山から何か来たぞぉおおおおおおおおおおおお!!にもなりそうですし、
    起こしてはならない神として奉ってもいそうですね

    きとらさん、感想ありがとうございました!


      [No.1661] コインは表裏を持っている  投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/28(Thu) 20:04:26     19clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    数字がかいてある方、絵が書いてある方。
    どちらもコイン。けれど同時には見れない。

    そんな世の中の真理です。
    けれどそれが解っていたら、きっと喧嘩はない。


      [No.1650] ドーブルの筆で返信を。 投稿者:巳佑   投稿日:2011/07/27(Wed) 22:54:42     43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ドーブルの筆で返信を。 (画像サイズ: 343×498 58kB)

    遅れて申し訳ありません。コメントありがとうございます!

     
     ★やわらかいものさん

     そうですね、何事も続けることが大事だと思います。
     でも、続けることに疲れたり、
     辛くなったときには、
     その事から距離を離して休むことも、時には大事だと個人的には思っています。

     例えば、アーティストさんや芸能人さんが充電期間ということで、 
     休養などを取ったりするように、
     一旦、休んで、また好きなことに対して恋しくなってきたら、
     戻ってくればいいと思います。

     ……22の若造がこのような偉そうな意見を言ってしまい、すいません。(汗)
     一個人の意見として受け取って下さったら光栄です。




    ★風間さん

     過去絵キターーー( °∀°)ーーー!
     バトンを受け取って下さって、ありがとうございます!(ドキドキ)
     幼稚園の時に描かれた、ポケモンの絵ですか! 
     色々な種類のポケモンが描かれていますなぁ……私の場合、小学校の頃は殆ど、ピカチュウでしたです。(汗)


    > 写真に私の右手がうっかり写っていますが、なんという残念な指。マステをいじるせいで爪がはがれたりして、すごいことになってます。みなさん、マステをいじるときは気をつけましょう。

     そして、指の傷跡……マスキングテープでの作業、いつもお疲れ様です。
     風間さんのマスキングテープの絵、とても魅力的で素敵です!
     これからも楽しみにしております!(ドキドキ&個人的に一番気に入っているのは『桜咲く絵』です)
     
     
    > いつか、水彩画みたいな淡いマステ絵が描けたらいいなと思っています。
    > その前に、受験がんばります(^^;

     楽しみにしております!(ドキドキ)
     受験、ファイトです!(みすけの『てだすけ』!)




    ★イケズキさん

     是非、イケズキさんも絵を始めてみませんか?(ドキドキ)と勧誘しておきます☆


    > ロマンだなぁw 精霊さんのロマンを予感させる最後でした。  
    > 少女のロコン絵を期待してます!   …………違うかw

     ありがとうございます!(ドキドキ)
     
     そして、少女のロコン絵、描いてみましたよ!
     ……まぁ、具体的に言うと最後のシーンを想像してみて描いてみたのですが――。

     1・まずは少女とロコン、それとおばちゃんを描く。
     2・「……ん? 何か、物足りない感じがあるんだよな〜」と、ふと思う。
     3・もっとポケモンを描こうか! ということで色々と追加。
     4・結果、賑やかな公園になりましたとさ。(笑)

     個人的には、ここは少女とロコンとおばちゃんだけだよなと思いつつも、上記のような結果になりましたです。(笑)


    > 六冊! すげー!!

     いやいや、まだまだですよ。(汗)
     量の方は増えていくのはもちろんいいのですが、『質』の方が……!(汗)
     これからも楽しくイラスト描きつつ、精進していきたいと思います。



     
     それでは失礼しました!


      [No.1639] 【書いてみた】昔話 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/25(Mon) 21:50:06     51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     それからね、金色の綿鳥は死者を呼ぶ不幸の鳥だと、うまれてから殺されてしまうようになったんだ。
     そして決して歌うことを覚えさせたまま殺してはいけないと。

    でもこの子は違うもん。死者を呼ぶ不幸の鳥なんかじゃないもん!

     そうかもしれないね。けれどここで生まれたチルットはそうする定め。さあ、そのチルットを渡しなさい。
     でなければ。
     一生呪われてしまうのだよ


      [No.1628] うおー!!! 投稿者:リナ   投稿日:2011/07/22(Fri) 23:43:47     41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ついに、ついにキター!!w

     感想遅れて申し訳ありません汗
     無茶ぶりに答えてくれた巳佑さん、本当にありがとうございます。

     さすがわらわっちや長老様の生みの親! 世界観の展開がとてつもない!


     1:同時並行でツイッター罰ゲーム生中継……だと? 臨場感☆☆☆

     2:エースが出てきた時は「やりおった……」と思いました汗 ふう、ただの海族かぶれだったかw

     3:フェモ――相変わらずw

     4:オチがすっきり! いやいや、ここでビキニ出てくるとは。

     5:白状すると、最初暗号が読み解けませんでした泣 犯人はやっぱこいつか。

     6:欲を言えば、スケベクチバシは最後殺ってもよかった (ちょ


     とにかく、感無量です。ありがとうございました!!


      [No.1617] 創るということ 投稿者:イケズキ   投稿日:2011/07/20(Wed) 15:40:17     108clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     なんて不快な絵だろう。今朝もまた「彼」は壁に絵を描いていた。
     しかし、それを落書きと呼ぶにはあまりに描き手の熱意が篭り過ぎていた。丁寧に線が引かれ、大きさにしてもアパートの壁にでかでかとある。それが人間の画家のものであれば、ひょっとしたら、その画家にとっての力作と呼ばれるくらいの作品かもしれない。けれど、どれだけその絵をじっくり見ても、ともすれば目を覆いたくなるほどの不快感しか感じない。べったりと白の壁を覆い尽くす、貧血状態の唇みたいな不健康な紫は、重なりつつも反発し、隣り合いながら戦争しているみたいだ。全くと言っていいほど、その絵には調和というものがない。
     ――ベタ、ベタ、ベタ。
     「彼」は今、一心不乱に描き続けている。
     ここから徒歩十分の所に地下鉄の駅があるので、アパートの前の道は結構人通りが多い。しかし、通り過ぎるどの人もポケモンも、皆顔をそむけて足早に通り過ぎていく。誰もこんな絵を見たいと思わないのだ。
     かわいそうだとは思ったが、私も一旦家に戻ることにした。これ以上は見ていられない。


     ドーブルとはなんと因果なポケモンだろうか。
     「好きこそものの上手なれ」とは言っても、あのドーブルに絵の上達は到底見込めない。加えてあの毒々しい紫。ドーブルの尻尾から分泌される色はドーブルごとに決まっていて、その色は日によって微妙に違っても、基本的な色合いは一生変わらないという。そう、つまりあのドーブルには生まれた時から才能が無い。
     つまり、彼は「ドーブル」であるばかりに絵が好きでたまらず、どれだけ描きつづけた所でそれは誰にも見向きすらされないのだ。――全く皮肉な話だ。
     私は彼――ドーブルがカンバスにしているアパートの大家をしている。何故かここに毎朝絵を描いていくドーブルのせいで、壁の掃除を日課にしている。いつまでもあんな絵を残していては見苦しくてしょうがない。
     それでも私がドーブルを追い払ったりしないのは、彼が不憫でならないからだ。
     私は若い頃、画家を目指して美術大学へ通っていた。親に大枚の借金を背負わせて入学したが、才能がない事はずっと分かっていた。成績は常にどん底で、周りの人間からは常々退学を薦められた。それでもなんとか卒業までこぎつけ、デザイン関係の事務所に勤めたこともあったが、半年もたたずにクビになった。それからはプロになることを諦め、再就職した広告代理店で金を貯め、一昨年このアパートを買った。できるものなら母をこのアパートに迎えたかった。父は5年前に亡くなっていた。しかし、到底無理な話だった。広告代理店に勤めると話した日、私は勘当を言い渡されていた。
     才能はこれっぽっちも無い。それどころか絵の為に人生をむちゃくちゃにしてしまった。
     それでも、だ。いつだって絵を描くことが好きでしょうがなかった。今だって好きだ。時々だが描くことだってある。描き終わったら、捨ててしまうが。
     描いて、描いて、描いて、それで出来上がったら、捨てる。油絵も水彩画も、風景画も人物画も、ビリビリに破いて捨てる。
     自分の絵が不快だった。学生の時分からどんな絵を描いても、完成を見ると虫唾が走る。さらに、その絵を描いたのが自分だという事実に憎しみのような感情を感じる。だから絵を破った。自分を破けないから、絵を破った。
     描きたくてしょうがない。それはきっとあのドーブルも同じ気持ちだろう。そして、描いた自分の絵が大嫌いという事もまた、きっと。

     以前、私がいつものように絵を消していた時の事。
     さすがに描いている途中から消すわけにいかないので、私はいつもあのドーブルがいなくなってから作業を始める。
     ――ゴシ、ゴシ、ゴシ。
     このアパートは直方体をしていて、道路から見て左の大きな面には、一階の部屋への入り口と二階へ上がる階段がついている。正面の小さい面と道路の間にはスペースがあり、その場所にドーブルは立っていつも絵を描く。私も同じ場所に立って作業する。
     今年60になる身で、モップを持ち上げての作業はしんどい。だが、まわりに手伝ってくれるような人はいない。店子ですら知らぬ顔して私一人に任せきりだ。
     ――ガウ、ガウ、ガウ!
     ふと作業を止めて休んでいると、右側のベランダからポケモンの吠える音がした。あれは103号室で一人暮らしのお婆さんが飼っているガーディだ。毎朝欠かさずにお婆さんはガーディを散歩に連れていく。この時間には出ているはずだが、何故か今日は部屋にいる。おかしい。どうしたのだろうか。もしやお婆さんに何かあったのでは――ガタンッ!
     あっ、と思った瞬間には遅かった。私は片足をバケツに突っ込んでしまっていた。
     チッ。
     小さく舌打ちをし、モップを壁に立てかけて服を着替えに行こうと振り返った。
     その時、通りの向かい側にあのドーブルが立っているのが見えた。私の背後では、さっき描いたばかりの彼の絵がごちゃまぜの色だけ残って垂れていた。
     私は少しの間、気まずい思いで立ち尽くしていた。これでも画家の端くれという意識がある。自分のアパートに描かれた物とはいえ他人の作品を、それも目の前で壊してしまった罪悪感で心が痛い。
     とうのドーブルと言えば、じっとこちらを見るだけだった。いつから見ていたのかも知れない。ドーブルはまっすぐこちらを見ていた。
     どうしてあのドーブルは、自分の絵が消されていっているというのに、何もせずに見ているのだろう。あれだけの力作だ。勝手に消されて腹が立っていてもおかしくない。
     私がそのままじっと立っていると、ドーブルは突然動き出した。人ごみの中をぴょんぴょん跳ねるようにして器用に素早く進んでやってくる。不思議なことに尻尾からでる絵の具の代わりの液体は一滴もこぼれなかった。
     私はサッと身構えた。ドーブルの様子を見る限り、怒っている風ではなかったが、いつどう変わるか分からない。
     とうとう足元までやって来た。正面から見るとなかなか愛嬌のある奴だ。ベレー帽のような頭に、筆替わりの尻尾を手に持って、こういうポケモン独特の「ハァハァ」という荒い息遣いをして私を見上げている。
    「な、何か用かな?」
     見た感じあまり強そうではなかったが、ついつい声が引きつってしまう。
     大学時代に、自分はポケモンの表情が分かると言う奴がいたが、私に今のドーブルの表情は分からない。そいつだってきっとホラを吹聴していただけに違いない。目立ちたがり屋の子供が、思い込みの才能を自慢していただけの事だ。
     ドーブルは一度足元から私を見上げると、倒れたバケツに近づいてそれを私の元へ持ってきた。
    「水を入れて来て欲しいのか?」
     確かに私がさっき倒してしまったので、今バケツの中に水はほとんど残っていない。しかし壁はまだまだ色が残っている。
    「いいのかい? これはお前が頑張って描いた絵だろう? もうだいぶ消えてしまっているが、それでも、消してしまっていいのかい?」
     ドーブルは私の問いかけにも、ぐいぐいとバケツを押し付けるだけだった。
     ――消して欲しいんだな。
     このドーブルは自分の絵を消したがっている。表情なんか分からなくたって、それ位分かる。きっと彼は自分の絵が嫌いなのだろう。
     そして、私がズボンを履きかえて水を汲んでくると、今度は彼自らモップを手に取り壁をこすり始めた。私がやるよ、と言ってブラシを取り上げようとすると、ブンブン尻尾を振ってその手を追い払った。どうやら自分で消したいらしい。
     頭上から再びガーディの吠える音がした。私はお婆さんの様子が気になっていた事を思いだした。目の前ではドーブルがゴシゴシ壁を擦って、自分の絵を消している。
     私は彼を置いてアパートへまた戻った。

     結局の所、お婆さんは寝坊していただけだった。前日の夜に仲間うちで飲み会をしたそうで、すっかり潰れていたのだ。その事を玄関先で真っ青な顔して話していた。いい年して元気なものだ。その元気の半分でも使って私の掃除を手伝ってくれたっていいものを。
     ドーブルは、私が戻った時には既にどこかへ行っしまっていた。バケツに入れた水は殆ど消えて、モップは無造作に転がされていたが、アパートの壁に散らかった色は跡形もなく洗い流されていた。

     それからドーブルは毎日自分の絵を自分で消すようになった。
     昼ごろに私がバケツとモップを持って現れると、たいてい彼の絵は完成している。以前なら私が彼がいなくなるのを待って、消し始めるのだが、ドーブルの方から私からバケツとモップを取っていって自分で消す。消した後は、きちんと道具をアパート奥にある物置に立てかけて置く。物置の鍵は私が持っているので、私は夕方ごろにそれらをしまいに行くだけでいい。
     本当は最初からそうしたかったのだと思う。しかし、ドーブルは私と関わるような事をしたくなかったのだろう。その気持ちは分からなくもない。毎日勝手に人の家に絵を描いて、その掃除を任せきりでいるのだ。普通の大家ならとっくに怒り心頭の所だ。今まで黙認されていたことは不可解に感じていただろうが、それでも、直接関わるのは気が引けたのだろう。ポケモンにしては今時の若い人間よりとっぽど立派な神経をしている。
     私にしてみればどうでもいい事だった。私が彼の絵を消しているのを見られたときは確かに少々気まずい思いだったが、自分で消すことについては勝手にすればいいと思った。むしろこっちの負担が減って有難いくらいだ。

     それから一年が経った。ドーブルは相変わらず毎日描きに来る。
     私の所には、母が来ることになった。

     父が死んでから、私は何度も一人暮らしの母をアパートに呼んでいた。しかし、母は一度として首を縦には振らなかった。
     それだけ私が両親から嫌われていたということだ。
     自業自得とはこのことだろう。
     子供のころ絵描きになると言ってから、親には「絵描き教室」に通わせてもらい、刺激を与える為と言っては何度も旅行へ連れて行ってもらった。所詮、子供の夢語りでいつ心変わりしてもおかしくないというのに、一生懸命に私の夢を叶えようとしてくれた。人並みどころか、感謝してもしつくせない程、私は父にも母にも世話になった。
     その結果が普通のサラリーマン。ふっ、勘当されて当然だ。

     それでも今回やっと折れて、私の所に来ることになったのは、訪問介護を頼めるほど余裕のない母が、いい加減一人暮らしが大変になったからだ。「勘当」では、役人に補助金を出させることはできない。


     ドーブルの絵に見かねた私が部屋に戻ると、母は一人で昼のニュースを見ていた。

    「母さん、今夜は何が食べたい?」
    「…………」
     母がこの同じ部屋に住むようになってから、一週間。一度も私は母と口を聞いていない。
     私はまた黙々と夕飯の構想に取り掛かった。昨日は和食だったから、今夜は中華にしよう。ラーメンはダメだ。麺類は七十後半の母には食べづらい。そうだ、麻婆豆腐にして、ご飯にかけよう。油と肉は控えめにして、豆腐は細かく切って。それなら母にも食べやすい。
     母が来ることが決まって以来、私は毎日料理の練習をしてきた。栄養バランス、食べやすさ、味、どれをとっても満足してもらえるように毎日勉強した。

     夕飯を作り終え、母と一緒に席に着いた。テレビは消してある。
    「どう? おいしいかい?」
    「…………」
     向かいに座った母に聞いてみたが、何も答えない。視線を合わせようとすらしない。私の声が空しく部屋に響く。
     母は一口だけ食べると、すぐにスプーンを置いてしまった。

    「もしかして……不味かった?」
    「…………」
     母は黙ったまま自室へ戻って行ってしまった。
     実のところ、母はこの家に来てから一度もまともに私のご飯を食べてくれていない。どれも一口食べるだけで終わってしまう。
     それは悲しくもあり、また心配なことでもあった。
     そこで私はスーパーで市販のミニケーキや焼き菓子を買ってリビングの机の上に常備しておくことにした。
     初めに置いた翌日から、ケーキと焼き菓子がいくつか消えていたので安心した。食欲がない訳ではないのだ。
     しかしいつまでもこんなお菓子ばかりでは体に悪い。出来ればきちんと私の料理を食べて欲しいのだが、母にその気はないようだ。
     ――仕方ないか……。
     私は翌日から、三食、母と別に取ることにした。
     食欲は確かにあるみたいだし、自分で言うのも何だが味だって悪くないはずだ。だから、問題は私だろう。私がいる所で、私と一緒に、私と同じ釜の飯を食べるのが、母にとって苦痛だからいけないのだ。だったら別々で食べるくらい大したことじゃない。
     食事が出来上がると私は毎回、リビングでぼんやり座って母が来るのを待つ。母が来たら食べ終わるのを待って、自室へ戻って行ったら自分も食べ始める。
     こんな調子で毎日が進んだ。

     母が来てしばらくたった頃、母が膝を悪くした。医者に見せたら「変形性膝関節症」だと診断された。今一つどんな病気なのか分からないが、年をとれば自然となってしまうもので、仕方のない病気らしい。それを聞いて私はホッとした。私の健康管理が悪かったせいではないのだ。
     母は翌日からリハビリに通うことになった。ろくすっぽ外に出ることのなかった母にとってその事自体は、むしろいい事だったかもしれない。
     ところが私は少し不安だった。あのドーブルの事だ。
     リハビリは週一回、毎回一時間する。どの時間になるかはまちまちで、朝からだったり夕方からだったりする。夕方からなら問題ないのだが、朝からだとどうしても母がドーブルを見かけることになる。
     初めてドーブルを見た時、母は一瞬立ち止まっただけだった。
     何を思ったかは知らないが、母があのドーブルが気になっているのは確かだ。それはあの絵が不快だったからなのか、「絵描き」そのものに対してだったのか分からないが、私はさらに母との関係が悪化する原因にならないかと不安だった。
     母が来てからも私は毎日彼の絵を消しに行っていた。と言っても、私は道具を用意するだけだけだが。
     私はドーブルを追い払うことを初めて真剣に考えた。


    「母さん……あのドーブルの事なんだけど……」
    「えっ……」

     その日の夜、母が食事を終えて部屋に戻ったのを追いかけて、扉の前で話しかけた。まだ、私はこの部屋に入ることを許されていない。

    「その……母さんはどう思っているのかなって思って……。その……もしかしてあんまり気分良くないかな……」
    「…………」

     黙ってしまった。初めはいい感じに話が出来そうだったのに、うまくいかないもんだ。

     次の日は朝からリハビリの予定が入っていた。
     母は今、珍しく朝刊を読んでいる。老眼の進んだ母に、新聞は相当見ずらいだろうにやたら熱心に読んでいる。
     私は朝食の準備をしながらその様子を見ていた。

    「母さん、ご飯できたよ」
    「…………そう」
     コクリと頷きながら小さく返事をしてきた。最近はやっとこれくらいの口は聞いてくれるようになった。
     私はいつものように食卓にやって来た母とすれ違うようにしてリビングへ入った。
     リビングの机の上にはさっき母が読んでいた新聞が置かれていた。
     ――何を読んでいたんだろう……?
     気になった私は折りたたまれていた新聞を広げ、ざっと斜め読みしてみた。
     どこかの国で紛争が始まったらしい。一面に人間とポケモンの兵士たちが市街に繰り出している写真が出ている。それに、この国の財政問題。ポケモンリーグの赤字がさらに膨れているそうだ。
     ペラペラと新聞をめくっていくと気になる記事を見つけた。

     ――カントー出身画家、ヤマシタユウゾウ氏の個展開催!

     今度ヤマシタユウゾウの個展がタマムシシティで開かれるらしい。
     ヤマシタユウゾウと言えば現代美術の“オーソリティ”だ。彼が描いたものであれば、落書きのような線画でさえ目玉の飛び出るような高額で取引される。間違いなく、世間から認められた最高の画家だ。

     ――悔しい……。

     どうして、こんな若造が認められて、私のような本当に絵に心血を注いできたものがただのサラリーマンなんだ。不公平だ。私にも才能があったらなぁ……。
     私はイライラと新聞を畳んだ。食卓の方を見るとすでに母は食べ終え、皿を片づけようとしていた。

    「あぁ、いいよいいよ。やるから、早く他の準備してきて」
     母の手を払いのけるようにして皿を奪った。
    「…………」
     今度は黙ったまま、母は行ってしまった。

     その日、私がこれからのことを思案しつつドーブルの所へ行くと、ちょっとした騒ぎが起きていた。

    「やだー! 僕はここにいるぅ!」
     子供の声がする。
     その様子を私は壁の横から見ていた。
    「ダメです。お母さんの言うことを聞きなさい! こんなところでいつまでもいたら周りの人の迷惑でしょ!」
    「いやだぁー。僕はもっとこの絵みたいんだよぉ……」
     子供の方は今にも泣きだしそうだ。
    「こんな気持ち悪い絵……」
    「気持ち悪くなんかないもん!」
     母親がぼそっと漏らした言葉に、子供が怒る。

     子供の年は7〜8歳と言ったところだろうか。学校の制服らしきもの着て、いかにも「お坊ちゃま」という感じがする。母親も母親で、ピッチリとした黒のスーツに派手なコサージュを着けて、さしずめ授業参観の帰りといった所だろうか。
     そんな親子のやり取りのそばで、ドーブルの様子が変なことに気付いた。絵はもうほとんど完成してる。
     なんだかそわそわしている。普段なら完成まで一心不乱に筆替わりの尻尾でペタペタ塗りたくっているというのに、どうしたことだろうか。

    「あら……」
     母親の方がこちらを向いている。やっと、私の事に気付いたようだ。
    「あなたはこの家の方で……?」
    「そうです。ここの大家をしている者です」
    「それは……お見苦しい所を見せてしまい、お恥ずかしい」
    「いえいえ……。お子様はこのドーブルの絵が、とても気に入っているようですね」
     ドーブルの絵が好きだと言うこの子供の事が気になっていた。
    「うん! 僕ドーブルの絵、大好き!」
     母親の横で子供が嬉々として言う。
    「こら! またこの子は。すみませんねぇ、うちの子、こんな変な絵が好きだって言って聞かないんですよ」
    「変じゃないもん!」
     子供が憤慨して言う。
    「ちょっと黙ってなさい」
     母親はにべもなく一喝する。
    「今から、この絵の掃除をするんですよね?」
     母親が私の持ったバケツとモップを見て言う。
     私がそれにコクリと頷くと、
    「ほら、このおじさんの邪魔になるでしょ。早くいきましょう」
    「おじさん、この絵、消しちゃうの……?」
     悲しそうに子供が聞く。
    「ほら、ぐずぐずしないの! 早く行くわよ」

     子供を半ば引きずるようにして、母親はまた道路の中へ戻って行った。
     連れて行かれた子供は、最後まで悲しげな目でドーブルの絵を見ていた。


     その日もドーブルはバケツとモップを取りに来た。
     あの親子が去ってから、数分の後に絵は完成し、直後にドーブルは私から道具を持って行った。

    「お前……」
     思わず近づいてきたドーブルに声をかけた。
     しかし、何と言ったら良いのかわからず、私は黙ってバケツとモップを渡した。
     黙々とモップを動かすドーブルを見て、私はその日初めて、彼の絵をとても惜しく感じた。
     部屋に戻る間、私の中で彼を追い払うなんて考えはサッパリなくなっていた。母と私の問題より、彼の絵が、私には惜しかった。


    「あのドーブル、どうかしたの?」
     母の声。夕飯の準備をしている時の事だった。

    「えっ……」
     まさか向こうから声をかけられるとは思わず驚いた。

    「いつもきれいに消えているのに、今日はあちこち色が残っていたから……」
     ここに来て初めて母から聞かれたことは、あのドーブルの事だった。
     母があのドーブルの事を気にかけていたこと。ドーブルが絵の掃除を怠っていたこと。私の頭はそれらの驚きで、思考停止してしまった。
     ――ジュウジュウ。
     あ、思った時には遅かった。フライパンの中の肉は焦げてしまっていた。
     私は慌ててコンロの火を消すと、エプロンを脱いだ。

    「母さん、ちょっとこっち来て」
     私は母をリビングまで連れ出して詳しい話を聞きたかった。
     しかし、
    「知らないならいいわよ」
     そそくさと行ってしまおうとする。
    「ちょっと待って」
    「何?」
     イライラとした口調で言う。
    「ドーブルの姿は見た? どんなふうだった?」
    「そんなこと知らない。分からないから聞いているんでしょ」
    「頼むから教えて。ドーブルはどんな感じだった?」
     何故か気になって仕方ない。人の家に勝手に絵を描いてポケモンの事なんて、私の知ったことではないはずなのに、どうしたことだろう。
     必死に頼み込む私に、母は渋々と言った様子で話し始めた。
    「私が帰ってきた時に、またドーブルが掃除していたのよ。見てたらなんかいつもと違うっていうか、モップを重そうにして動かしていたし。……今になって、声でもかけてあげたら良かったんじゃないかって思って……。もういい?」
     答えも聞かずに母は行ってしまった。


     その後、私は夕飯を食べながら考えていた。
     ――きっとドーブルはあの子供の事が気になっていたに違いない。
     私が見ているそばでも、ドーブルの様子は明らかにおかしかった。
     そして、あの時の彼の気持ちを、私は容易に想像できる。
     ――自分の作品を「好きだ」と言う人がいる事。
     これまでどれだけ絵を描いても、誰にも見向きすらされなかったドーブルにとって、それがどれだけ嬉しかったか。
     あの子供のような存在をどれだけ待ち焦がれていたか。
     私には分かる。私も待っているから。


    「ちょっと……いいかしら?」
     不意に声をかけられた。
    「どうしたの?」
     さっきまでと様子の違う母をいぶかしげに見た。
    「さっきの事なんだけど、もう一つ思い出したことがあるの」
     そう言って、テーブルの向かいに座った。
    「え、何?」
    「あの時ね、ドーブル泣いていたのよ」
    「えっ!」
    「泣きながら絵を消していたのよ……。でも、辛そうな感じじゃなかった。嬉しそうな顔していたの。……あ、母さんね、ポケモンの表情が分かるのよ」
     ちょっと得意げに付け足した。久しぶりに見る、穏やかな母の顔だった。
    「そうだったのか……。ところで、なんでその事を急に……?」
    「アンタ見て思い出したのよ。分かってる? アンタ今、泣いているのよ」

     言われてみて気が付いた。目の前のカレーは一口も手を付けられず、私の頬は濡れていた。
     何故泣いていたのか、理解するのにしばらく時間を要した。母は椅子に座ったままこちらを見ている。

     ――私も嬉しかったんだな……。

     あの皮肉な特性を持って生まれてきたドーブルに、やっと「見てくれる」人ができたこと。それがたまらなく嬉しかったんだ。
     私とドーブルは似ている。
     絵が好きで、でも才能はこれっぽちも無い。描くのが好きで、描いた絵は大っ嫌い。
     そんなドーブルに、私は自分自身を投影させていたのだ。だから、ドーブルの喜びが、まるで自分の事のように感じている。

     でも、私はドーブルじゃない。
     それに気づくと、私はいてもたってもいられず、話始めた。

    「母さん、僕の絵ってどうなのかな?」
    「どうって?」
    「その……なんていうかな……下手なのかな……」
     初めて私は、自分の絵の評価を親に聞いた。今まで、子供のころから私は一度も、自分から聞いたことは無かった。

     ――ドキドキドキ。

     心臓が破裂するのではないかと思うほど高鳴っている。同時に私は激しく後悔した。
     聞くんじゃなかった。馬鹿なことをした。答えなんて分かっているはずなのに、何てことを私は……。

    「下手ね」
     一言。あっさり、私の60年は否定された。

    「でも、好きよ」

    「へ……?」
     思わぬ続きに言葉を失った。

    「母さんも父さんも、あなたの絵が大好きだったのよ。まぁ……子供のころから、あんまり下手すぎてよく父さんとは苦笑してたんだけどね。鍛えればどうにかなるかと思ったけど、結局いつまでも下手クソだったわね」
     そういって、昔を思い出したのかニヤリと笑う。
    「父さんも母さんも分かっていたの……? 僕に才能が無いって……?」
    「当たり前でしょ。誰だって、アンタの下手な絵見てまともな画家になれるなんて思わないわよ」
    「じゃあどうしてあんなにいろいろ……大学まで……」
     私は混乱でどうにかなってしまいそうだった。体が震える。声も震える。
    「バカ者! アンタが、絵が好きだったからに決まってるでしょ!」
     何を聞いているんだと、いきなり母は怒った。
    「父さんも母さんもアンタの絵が好きで、何より絵を描いているアンタがどんな時より幸せそうだったから、ずっと応援してきのよ!
     それをアンタは……」
     どんどんヒートアップしていき、言葉につまってしまっている。
    「それをアンタは、『才能が無いので、まともな職に就きます』なんて、大バカ言って……!」
     それは私が勘当された日に、両親に言った言葉だった。
     父も母も、私の絵が好きで、それを諦めたことに激怒していたのだ。

    「そんな……そうだったのか……」
     私は頭を抱えた。全て私の誤解だった。
    「あの日どれだけ私達が悲しんだか……」
     母は泣いていた。
    「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
     私も泣いていた。

     それでも私は嬉しかった。やっと両親の思いが分かったこと。亡き父があの日どうしてあんなに怒っていたのかを、やっと知ることができたこと。
     そして何より、私の絵が好きだと言ってくれる人が、この世界にいる。
     その事がどうしようもなく嬉しかった。


     翌々日の朝、私は母を連れていつもより早く、あの壁の前に来ていた。
     手に持っているのは、バケツとモップじゃなく、さっき部屋から取ってきた絵筆とパレット。それに、絵の具の入った箱と水を入れた筆洗代わりのコップ。
     母は横で、シルバーカーに座って、ニヤニヤ笑っている。
     昨日から私たちは、今日の“イベント”のために計画を練ってきていた。

    「お、来た来た」
     私達が来て数分後、ドーブルが道路の向こうからやって来た。
    「ふっふっ。驚いてる、驚いてる」
     母がニヤニヤを一層強めて言う。
     ドーブルは、私達と壁の前に置かれた画材道具を見て、目を丸くしている。私にもそう見える。

    「なぁ、ドーブル」
     私はいろいろな道具を見て回るドーブルを呼びとめた。今日のイベントには彼の協力が必要不可欠なのだ。
    「今日の絵、あと少し待ってくれないか?」
     ドーブルは首を傾げてこっちを見ている。こちらの言葉が通じたのか、その場にペタンと座るとまたあの「ハァハァ」という息遣いをしている。これからの事を思うと、いっそうこの顔がかわいらしく感じる。

     この“イベント”は、私とドーブルが、ゲストの為だけに絵を描くものだ。カンバスにするのは、この壁。今日のゲストは母と、あともう一人。
     私は腕時計を見た。さっき見た時からまだ三分しか経っていなかった。


     今日は例の、ヤマシタユウゾウの個展開催の日だ。だから、通りにはいつもより多くの人たちが歩いている。
     でも、もう私はその様子を見ても、何とも思わない。
     ――私には私の絵を待つ人がいるから。

     まだかまだかと、もう一人のゲストの到着を待っていると、
    「あら! 珍しい! 親子おそろいでどうしましたの?」
     威勢のいい声がした。103号室のお婆さんだ。ガーディを連れている。
    「いや……ちょっとね」
     私はごにょごにょと、お茶を濁した。
     この人が関わると、計画が台無しになってしまう。今日ばかりは、「招かれざる客」は困るのだ。
     母と言えばご機嫌で、あたふたする私を面白げに見ている。――これからイベントだって分かっているのだろうか……
    「あ! これって!」
     お婆さんが画材道具を指差して叫ぶ。
    「大家さんこれから絵、描くの?」
     目をキラキラさせて聞く。いよいよ面倒くさくなりそうだ。
    「あ〜、おばあちゃん? ガーディの散歩はいいのかい?」
    「いいのいいの。それより大家さんの絵、一度見てみたいと思っていたのよ」
     昔“うっかり”彼女に絵を学んでいたことを話してしまったのがまずかった。
    「そんな……。私の絵なんかより、個展に行かれてはどうです? あのヤマシタユウゾウの個展が今日からやっていますよ」
     どうにか自分の絵から話題を逸らそうと頑張ってみた。
    「え〜、ヤマシタユウゾウ? 私、あの人の絵、好きじゃないのよねぇ。なんて言うの、主張が強すぎるっていうか、あの人の絵ケバケバしくない? 見てて疲れるのよねぇ」
     目の前で多くの人たちが、彼の絵を見に歩いているというのに、ずけずけと物を言う。
     私は内心ヒヤヒヤしつつ、こういう人もいるんだなぁ、と少し驚いた。
     “オーソリティ”を受け入れないたった一人が目の前にいた。
    「あはは……あんまりそういうこと大きな声で言っちゃだめですよ。あの人たち、みんな彼の絵を見に行く人たちなんですから」
    「そうなの……」
     おばあちゃんは少し寂しげに言った。
    「まぁまぁ。私の絵は、おばあちゃんが帰ってくるまでには出来上がっていると思いますから、先にガーディの散歩行ってやってくださいな」
     お婆さんは最後までぶつぶつ言っていたが、結局は散歩に出て行った。


     お婆さんが行ってから数分後、やっと待ち焦がれていた人物が現れた。ドーブルが急にそわそわしだす。

    「おお! やっと来たね。待っていたよ」
    「おはようございます!」
    「おはよう じゃ、君はそこのイスに座ってね」
     子供ならではの元気な挨拶に、思わず笑みを浮かべつつ、“客席”へ案内した。
    「このおばあちゃんは……?」
     案内されたイスの隣で座っている母を見て言う。
    「初めまして」
     母が挨拶した。
    「この人は、僕のお母さんだよ。君と同じ、今日のお客様だ」
     私がそう説明すると、パッと顔を輝かせ、
    「はじめまして、おばあちゃん。これから楽しみだね!」
    「えぇ、そうね」
     母も嬉しそうに答えた。
     この子は、あのドーブルの絵を好きだと言った子だ。昨日の夕方、学校帰りを見計らって、このイベントに招待した。

    「お母さんはよく許してくれたね」
    「うん。まぁ絵を見ることは別に悪い事じゃないし、休みの日に出かけるくらいの事良いってさ。それに、おじいちゃんは、いかにも『コーコーヤ』だからね!」
     恐らくは受け売りだろう、彼の言を葉聞いてクスクス笑いたくなるのを必死で堪えた。
    「ふふっ、それはよかった。じゃあ、お客さんもそろったことだし、始めますか!」


     右手に絵筆、左手にパレットを持つ。水の入った缶を作業しやすいようにセット。


    「ドーブル。それじゃ、私と一緒に描こうか!」
     ドーブルは一瞬目を細めて、
    「ドブッ!」
     パッと表情を輝かせて短く吠えた。
     イベントの始まりだ!


     ――ペタリ、ペタリ、ペタリ。
     ――シュッ、シュッ、シュッ。
     短い線、長い線。それぞれが入り乱れる。
     私は記憶の風景を描き、ドーブルのは、何か幾何学的な模様に見える。

     ――シュウ、シュウ、シュウ。
     ――ペタ、ペタ、ペタ。
     太い線、細い線、形の中に色が入る。
     風景のおおよそが出来上がって、ドーブルの方も、まとまりのある形が見えてきた。

     ――ベタリ、ベタリ、ベタリ。
     ――サラリ、サラリ、サラリ。
     曲線、直線、仕上げが進んでいく。
     海の見える街と、ペーズリーと六芒星が合体したような形が出来上がる。

     ――シュシュッ!
     ――ペタッ!
     最後に私はサインを、ドーブルは自分の足型を、絵の右下に残して完成。


     一人と一匹は、並び、一心不乱に描いた。
     自分の絵を好きだと言ってくれた、たった一人の為に描いた。
     道行く多くの人は彼らの絵に顔をそむけて通り過ぎたが、そんなこと彼らには関係ない。
     才能がなくたって、オーソリティでなくたって、彼らには自分の作品を好きだと言ってくれる人がいる。
     その大切な人だけで、彼らには十分だ。


    「あぁ、やっとできあがったな」
     私はドーブルと顔を見合わせた。ドーブルは笑っていた。
     大学時代のアイツの言葉が分かる気がする。
     ポケモンだって、こんな幸せな顔をするんだ。
     ――そりゃ嬉しいよな。
     私は、後ろを振り返った。

     ――自分の作品をこんなにも喜んでくれる人がいるんだから――




     イベントの絵はその日のうちに消された。
     もちろん、「見てくれる」人のできた彼らはもう、自分の絵が嫌いなんて思わない。
     しかし、彼らは何より、またその場所に描きたいと思ったのだ。

     描いては消し、描いては消し。
     時には“イベント”もして。
     描くことが好きで、それで――

     ――好きだよ――
     あの日の言葉が耳に残っている。


    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

    マイノリティが書いた、マイノリティへ送る、マイノリティの話。
    私はオーソリティにはなれないですから。


    自分の話を読んでいただけた方には本当に感謝しています。ありがとうございます。


    【書いてもいいのよ】【描いてもいいのよ】【批評してもいいのよ】


      [No.1606] ステンドグラスみたいだ 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/14(Thu) 21:14:56     60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    教会のステンドグラスにありそうな一枚。
    ノアの箱船に救いを求めて。


      [No.1595] 実はドヤ顔の意味が解ってない 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/13(Wed) 20:23:44     50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    オタマロさんは、困り眉だと思ってる。
    水タイプで池がないといきていけないっぽいのに草むらから出てくるところが、もう困り顔だと思ってる。
    ガマゲロゲになっても困り顔の面影が残ってる


      [No.1584] 汗、なにより手に汗 投稿者:しじみ   投稿日:2011/07/11(Mon) 11:09:19     51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    はじめましてしじみです。

    猛暑のためすでに全身に汗をかいていたのですが、
    レースの展開によりいっそう手に汗をかきました!
    読ませる文才とスピード感があいまって、
    一気に読めるのに、読んだ後、息をついてしまうような充足感がありました。

    あまりのリアリティに、レースが実在しないのが不思議なくらいです。
    ここまで作りこめるのってすごいなあと思います。

    とにかくこの手の汗をどうにかしたい。


      [No.1573] 【書いてみた?】吠える。 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/09(Sat) 16:11:32     22clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    そして、地球の70%が海という決着は、一体どこでついたのだろう。
    海のが深いので、やはり勝ったのだろうか。
    いやしかし。

    地球の表面が70という数値だけで、実際の質量からみたら陸や固まってない陸ばかりではないか。
    「めーんどくせ☆」
    緑の竜は考えることをやめて空へと飛んでいった。


      [No.1562] 投書 投稿者:スウ   投稿日:2011/07/09(Sat) 00:11:35     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    冷遇されている虫ポケモンにも
    もっと愛の手を!



    せっかく水技も使えるのに
    何であんなひどいことを!



    もうあんな無意味な進化をさせるのは
    絶対にやめてください!



         『ホウエン地方・アメモース復興委員会一同』


      [No.1551] Re: 断り書き 投稿者:クロトカゲ   投稿日:2011/07/08(Fri) 23:57:08     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    なんだろうとスクロールしたら、これはやられた!

    こういういちげきひっさつ!なオチ、すごく好きです。


      [No.1540] 七月八日 投稿者:Teko   投稿日:2011/07/08(Fri) 13:12:09     51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     今日は七月八日。今日は七月八日。今日は七月よう……八日?


     ……あっ。


     年をとると行事を忘れやすくなってしまう。子供の頃はあんなにも七夕七夕って騒いでたのに。町の笹にどきどきとしたものを感じて、短冊に願いと名前を書いて、それから七日の夜は晴れるようにっててるてる坊主作ったりしたっけ。
     それが今ではどうだ……こうだ!何もしないだけでなく、忘れて、翌日に思い出す始末。あぁ、もう年かな年かなぁもう……!ん。


     ……どうやら、遊び人が帰ってきたようだ。最近、どこにいってるかは知らんがやたら出歩く。といっても、気づいたらいなくなってるし、玄関のドアは閉まっているしで、この部屋は三階だというのに、どこから外に出ているかも謎である。飛べるのか?なんにせよ最近ちょっとさびし


     がたーん。

     遠くから響いてきた何かを思いっきり倒したような音。相当何かを派手に倒したに違いない。何しやがったあいつ。重い身体を起こし、音の方へと足を進める。そこに広がっていたのはぶっ倒れた洋服かけと青い、青々しいにおい。そこにいたのは、霊の、いや例の俺の相棒である。いや、待て、この青いにおいのもとはなんだコラ。

    「あのな、ジュペッタ……これは笹じゃない。竹だ」

     ジュペッタが不思議そうに俺を見上げている。どこも違わないじゃない、そんな視線で俺を見ても、これは竹だ。笹じゃない。よくこんな大きい竹抜いてきたなお前。さすが馬鹿力だけはあるなおい。根っこ残ってるぞ。……それからもう一個言う。短冊は枝に突き刺すんじゃない、かけるんだ。

     とは言うものの、多くの短冊が笹……じゃない竹に突き刺さっていた。色も様々。形も様々。文字も様々。実に個性豊かな短冊が笹につきささっていた。ジュペッタが文字を書けるはずはないし、こいつは裁縫以外の細かい作業はほぼ絶望的なほどに苦手なのだ。一体どうしたというのだろう、この短冊たちは。なんかトースト刺さってるし。

     しょうがないし、もったいないから、ベランダに立てておくことにした。意外と大きくて、物干し竿に縛り付けた。斜めに手すりにもたれかかってるそれは、若干情けないような感じもしたが、それはそれでまぁ、七夕っぽくもあるかと思った。もっとも、もう七夕は終わってしまっているのだけども。

     いや、それにしても人の願い事っていうのは様々だなぁ……うん。中にははっ倒したくなるような願い事もあれば、お前こんなこと書くなよ悲しすぎるだろなんて願い事もあったりして、読んでてちょっぴり面白い。
     

    『新しいスプーンが欲しい』

     スプーン……?

    『普通の女の子に好かれたい』

     どういうことだ。

    『にーさんの世間知らずがいい加減直りますように』

     にーさんおい。

     
    「む」
     一つだけ、真っ白な短冊が突き刺さっている。裏にも表にも何も書いていない真っ白な短冊。俺はそれをそっと竹の枝から引き抜いて、手にとった。……うーん、何を書くべきか。他人の短冊を見渡して、俺は考え込む。どの願いも個性的過ぎて俺のアレとは結びつきそうにない。うーん。そんな中、竹の下のほうにひっそりとある短冊があった。文字は小さくひかえめに、それでも、流れるような美しさのある文字だった。

    『彼氏ができますように』

     ふ。
     ちょっと、さびしくやないかい。そう思って少し、少しだけ笑ってしまった。

    「ま、俺も人のこと言えたもんじゃねぇか」

     机の上に転がっていた、鉛筆を手に取り、『彼女ができますように』そう書いて、さびしい短冊の隣にかけた。誰の短冊かはわからんが、こうしておけば、願いがかないそうな気がした。傷の舐めあいっつうわけじゃねぇけどさ。

     昨日の夜はあんなにも曇っていたのに、今日の天気は快晴快晴。
     天の川だって一日くらい残ってはいるだろう。7日だけしかないわけじゃねぇしさ。宇宙はもっと広い心を持ってるだろうさ。願いの一つや二つかなえてくれたっていいだろ。七夕たなぼたたなばた。


     
    ――――――――――

     最近忙しくて何もかけてないてこです。たなばたくらいはかこうと思っていたら、とっくにとおりすぎました。のでこうなりました。いぇーい。


    『ポケストのにぎやかさがいつまでも続きますよう』






     


      [No.1529] 将来の夢はウルトラマンだった人って結構いるよね 投稿者:音色   投稿日:2011/07/07(Thu) 23:39:34     66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    とある深海での親子の会話。
    父「大きくなったら私みたいなハンテールになりたいかい?」
    母「それともお母さんみたいなサクラビスになりたいの?」
    子供「ぼくはね、大きくなったら格好良いパルシェンになりたい!」



    ※99字詐欺


      [No.1518] タイプの受難 投稿者:紀成   投稿日:2011/07/07(Thu) 21:14:16     35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「ジョーイさん!助けてください!私のフリージオがただの水になってしまいました!」
    「まずいな…ユキメノコが夏バテで何も食べないよ」
    「マスター大変!ドレディアの顔が赤くなってる!おまけに何かそれっぽいポーズをしてる!」
    「水風呂をいれようか」

    イッシュ日報発 2011年 7月7日 夕刊 『ポケモンによる熱中症 各地で相次ぐ』

    本日のイッシュ地方は猛暑日となり、人だけでなく、ポケモン達まで熱中症で倒れ始めた。午後二時の時点でポケモンセンターに運ばれたポケモンはおよそ五十匹を超えるという。
    節電の影響でクーラーを使わずに過ごしたり、炎天下でむやみにバトルをさせたことが原因だと思われる。ポケモンセンターは、各地のトレーナーにポケモンにも水分補給と、こまめに休憩させることなどを呼びかけている。
    運ばれたポケモンのタイプで一番多いのは、氷タイプ。あるトレーナーのコメントは『暑いのでフリージオにふぶきを使わせようと思ったら、床で水になっていた』『マニューラが倒れた』『ウリムーがわけの分からない鳴き声をあげた後に目を回した』など。
    草タイプ、炎タイプなども同様のようで、『草タイプは水風呂などに入れてあげてください』『炎タイプはなるべく扇風機などを使って、水分をよく摂らせてください』などのアドバイスがある。

    「あらら…マグマラシがヘタレになってる。いや、元々かしら」
    「カクライさんのメラルバは大丈夫なの?」
    「そーいや今日来てないわね。ま、大丈夫でしょ。殺しても死なない気がするもの、彼」
    「いや、トレーナーじゃなくてね」

    「シャンデラは大丈夫?え?何も食べる気がしない?…ヒウンアイスが食べたい?その前にスタミナつく物を食べないと。…なんだその顔」
    『炎が変な色になって直らない。ヒウンアイス食べないと治らない』
    「ガキか!…暑いな」

    『速報 道の真ん中でヨノワールが倒れているのが見つかる』

    今日午後五時ごろ、シンオウ地方コトブキシティで一匹のヨノワールが倒れているのが見つかりました。すぐにポケモンセンターに運んだので、命に別状は無いということです。
    あ、たった今入って来た情報…え!?ポケモンセンターからいなくなった!?

    ――――――
    毎日暑いですね。


      [No.1507] なんと一撃使いだったのか 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/07(Thu) 20:09:02     58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    おらっ、書けげしげし効果ですね!(多分違う
    乱闘を書くのは結構難しいっす。けどすっごい楽しそうな乱闘ですね。
    オルカさん絶対零度使えるとは思ってなかった。


      [No.1496] 星に野望を 投稿者:風間深織   投稿日:2011/07/07(Thu) 13:18:28     88clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     今日は曇り。
     毎年思うのだけど、これは雲が「リア充爆発しろ」って思ってワザと曇りにしてるの?よくわからないけど…

    「ふゆーん(フユンテ)」
    「フユンテが風車に引っかかりますように(フユンテ少女)」
    「ディスタンスをどうにかしてほしい(葡萄)」

    では、私も…
    「マステの値段が下がりますように(深織)」

    ---+*---+*---+*---
    ちなみに、私の通う学校は毎年実際に笹をかざるのですが、学校の短冊には「世界人類が平和になりますように」って書きました。
    その笹には友人の書いた文字ででっかく「影…(事情により省略)」がかかっているのは言うまでもないですよねw


      [No.1485] 明暗 投稿者:音色   投稿日:2011/07/06(Wed) 23:56:00     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    うっかり、昼間に目を覚ましてしまった。眩しい。こんなにも世界は明るいのか。この感動を他の奴等にも伝えなければと声をかけた。
    「馬鹿言うな。明るいとか暗いとかわかるわけないよ」ズバットはそっけなかった。


    ※これも99字詐欺


      [No.1474] Re: どちらをあきらめたか 投稿者:イケズキ   投稿日:2011/07/06(Wed) 21:16:36     43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    感想ありがとうございます!

    実はこれ自分でもあまり詳しく状況を設定していません。主人公と「アイツ」が友人同士であること、どちらもピザ好きであること、あのバカが約束をすっぽかしてしまったこと、ぐらいしか考えてないのです。

    100文字で話を作るということで、そいういう所をわざと省きました。(書けなかっただけかもw

    正直、キトラさんの感受性が乏しいとは、自分は微塵も思わないのですが・・・・・
    ここ最近の感想の量しかり・・・、自分の方こそ残念な状態・・・・けどもう諦めました。

    久しぶりに感想いただき本当にうれしかったです。ありがとうございました


      [No.1463] Re: 流行には乗るべき。 投稿者:moss   投稿日:2011/07/06(Wed) 18:01:49     24clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    コメントありがとうござます!流行には乗ってみるものですねww


    > そんな不思議な夜の風景が出ていていいなあと思いました。

    とりあえず百文字でどう書き表そうか試行錯誤したもので、
    とりあえず情景だけでも伝わってもらえたのなら幸いです、という投げやりな気持ちで
    投稿したので少し不安だったのですが(オイ

    なんにせよ流行はいいですねww


    【もっと広がれ百文字ブーム!】


      [No.1452] むかしむかし、あるところに。 投稿者:ラクダ   投稿日:2011/07/06(Wed) 16:16:29     132clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     昔々あるところに、怠け者の男が一人住んでおりました。

     村一番の怠け者と名高い彼は、毎日毎日、家でごろごろ寝てばかり。周りの人々がせっせと働くのをのんびりと眺めつつ、のらりくらりと日々を過ごしていました。
     時折、男の怠惰な態度に苦言を呈する者も居りましたが、そんなものはどこ吹く風。家の手入れもせず汚れれば汚れるまま、壊れれば壊れるまま。両親から継いだ田畑はほったらかしで草ぼうぼう、鋤を引く三つ尾の猛牛の世話もろくろくしません。あげく怒った猛牛が柵を壊して逃走すれば、やあ餌やりの手間が省けて助かった、と暢気に呟いて昼寝を続ける始末。村人達は呆れかえり、もう誰も男の事を相手にするものはいませんでした。
     
     そんな生活を続けて幾年月。とうとう、食べる物にも事欠くようになった男は、ようやく重い腰を上げました。もう男の家には何一つとて財産と呼べるものは残っていません。
     困ったなあ、まいったなあ、と全然困っていない顔で呟きながら、彼は辺りをぶらぶらと歩き回ります。しかし村人達は見てみぬふり。皆暮らしはかつかつで、働かない男にやる余分な食料など持ち合わせていないのです。
     誰も相手にしてくれないので、男はそのまま散歩を続けることにしました。ひょっとしたらどこかに大判小判でも落ちているかもしれない、などと都合のいい夢想をしながら、てくてくと村中を歩き回ります。
     そうこうしているうちに村の外れまで歩いてしまった彼は、疲れて道端の切り株に座り込んでしまいました。

    「やれやれ、親切な村人にも大判小判にも出会わないなんて、私はなんて運がないんだろう」

     ぼやく男を、夕暮れ時の強い風がびゅうびゅうと嬲ってゆきます。思わず身を縮めた男が、風の去った後に顔を上げると――村を囲む雑木林の中に、ぽっかりと口を開いた不思議な通路があるではありませんか。
     近付いてしげしげと眺めてみると、それは林の奥へ奥へと続く薄暗い小道でした。そういえば、確か村外れに小さな祠があると聞いたな。年に一度、村の外から坊主を呼んで祭礼をするとか言っていたか。乏しい記憶から情報を引っ張り出し、ふむふむと頷く男。そうだ、と突如手を打って、彼はにっこりと笑いました。
     つい最近、村長が祭礼をするから手伝えと言ってきたことがありました。もちろん面倒だったので断ったのですが、それがおそらくこの先の祠のお祭りだったのだろうと考えたのです。
     そういう行事にはお供えが付き物。まだ祀られたまま残っているかもしれない、それを頂戴して腹の足しにしようという罰当たりな事を思い立った男は、夕暮れの暗さも何のその、うきうきと林の中へ入ってゆきました。
     
     残念ながら、今まで碌に村に関わらなかったせいで、男の記憶はあやふやでした。同じ村外れでも、祭礼を行う祠は北の端。ここ南の端は禁域の森だということを、彼は全く知らなかったのです。



     
     細い小道の突き当たり、周囲より一段と暗く見える場所に、その石塚はありました。盛り上がった土の上に一抱えもある大きな石を、更に上に行くごとに順々に小さくなる石を幾つも積み上げたそれは、なんだか古い墓のようにも見えました。
     流石の男も、少しばかり気味が悪くなりました。想像していたものと全く違い、これはとても村人達に祭られるような代物ではないと気付いたのです。
     骨折り損のくたびれもうけ、こんな所からはとっとと退散するに限る。そんな事を考えながら、男が背を向けた瞬間。

    『もうし、そこの旦那様』

     突然、か細い女の声が聞こえたのです。どこにいるのかと見回してみても、男の他には誰もいません。不思議に思っていると、再び呼びかける声がしました。

    『そこの旦那様、わたくしはこの石塚の中に住まうものでございます。どうかお話を聞いては下さりますまいか』

     男はぎょっとして石塚に目を向けました。確かに、声はここから聞こえてくるようです。なんと気味の悪いことだ、と震え上がった彼の心を見透かしたように、女の声は悲痛な調子を帯びて語りかけます。

    『突然のご無礼をお許し下さい。誰も訪れることのない場所ゆえ、寂しくてたまらなかったのでございます。そこへ旦那様がいらしてくださったので、嬉しくて……つい身の程知らずな真似をいたしました』

     それを聞いて、男は少しばかり声の主が不憫になりました。怠け者でも根は優しい男は、ついつい石塚の声に情けをかけてしまったのです。
     あれこれと話をしていくうちに、石塚の主は百年の昔にこの地に葬られた娘であることが分かりました。幼い頃より不思議な力を持っていたせいで周りに忌み嫌われ、果てに殺されて埋められてしまったのだと彼女は語ります。この石塚は、バケモノとされた娘を封印するためのものなのだと。

    「それはまた、酷い話だねえ」

     憤る男に、女はお気遣いありがとうございます、と殊勝に答えます。次いで、こんなことを言い出しました。

    『ああ、久しぶりに話が出来て、随分と寂しさが紛れました。わたくしと話をしてくださった御礼に、旦那様の願いを一つ、叶えて差し上げましょう』

    「そんなことが出来るのかい?」

    『はい、造作もないことでございます。ただ』

     一旦言葉を切って、彼女はしばし沈黙しました。先が気になって仕方がない男を焦らすように間を置いてから、彼女はこう言いました。

    『残念ながら、わたくしは法力で封印された身。今はまだ大した願いは叶えられないのです。何か簡単なことを一つ、願ってみてくださいませんか?』

     簡単な願い、と言われた男は頭を捻りました。しばらくうんうん唸ってから、はたと当初の目的を思い出しました。

    「そうだ、私は食べる物を探しに来たんだった。何か、そういう物を用意できるかい?」

    『かしこまりました、旦那様。…………さあ、そろそろ家にお帰り下さい。家の中に、貴方様の求める物があるでしょう』

     半信半疑ながら、男は石塚の主に別れを告げて家路に着きました。
     暗い夜道をえっちらおっちら歩き、ようやく我が家にたどり着いた彼は、戸を引き開けて仰天しました。粗末な囲炉裏端に山と積まれた食料の数々。干魚に干果、山菜、真っ白な米、桶に詰まった味噌、醤油。その他にも色々と、一人では食べ切れないほどの量でした。
     男は狂喜し、存分に飲み食いした後は残りを床下に隠して、その晩は幸せな眠りに落ちました。翌日もいつも通りのらりくらりと過ごし、夕暮れ迫り闇鴉が鳴き交わす頃、男は家を出て例の石塚へと向かいます。
     相も変わらず薄暗い小道を通り抜け、突き当りの石積みまでやってくると、やはり女の声が語りかけてきました。

    『昨夜はご満足いただけたでしょうか?』

    「ああ、腹いっぱい食って満足だよ。ありがとう」

    『それは宜しゅうございました。……かわりに、と申すのも何ですが、旦那様に一つささやかなお願いがございます。聞いてくださいますか?』

    「いいとも。なんだい?」

     男の気安い返事を聞いた石塚の主は沈黙しました。周囲が一層暗くなったような気がしましたが、なあに完全に日が暮れただけさ、と楽天的に考えて、男は彼女の返事を待ちます。
     再び話し始めた女の声は、なんだかおもねるような響きを持っておりました。

    『本当にささやかな、簡単なお願いでございます。わたくしの上に置かれているこの石を一つ、取り除いてはくださいませんでしょうか?』

    「そんなことでいいのかい。よし、すぐにやってあげよう」
     
     あまりにも単純な願いに拍子抜けし、早速石塚に手を伸ばします。と、一番上の石に手をかけた瞬間、背中をぞわりと冷気が駆け抜けました。触った右手がびりりと痺れ、驚いた男は慌てて石を払い落としました。
     なんだい、やけに気持ちの悪い石だなあ。そう呟く男の耳に、女の歓喜の声が届きます。

    『ああ、軽くなった! ありがとうございます、旦那様。法力の縛りが緩んで楽になりました』

     続けて、彼女はこう持ちかけます。法力が緩むごとに彼女の力が戻り、願いを叶える力も増すのだと。毎日一つ石を落として貰えたら、かわりに男の願いを一つ、どんな願いでも叶えることができるようになるのだと。どうか、後生だから毎日通ってきてはくれまいか、と言うのです。
     それを聞いた男は、嬉々としてこの提案を受け入れました。双方共に得のある、良い話だと思ったのです。そこでふと、思いついたことを石塚の主に尋ねます。

    「どうせなら今、全ての石を落としてしまうというのはどうだろう? お前さんも楽になるし、私としても一気に願いを叶えてもらえると思うんだが」

    『それはなりませぬ。強い法力が込められた石ゆえ、一度に触れると貴方様のお体に障りが出ます。……それに、わたくしとしても少しずつ力を取り戻すほうが良いのです。一日に一つ、これを決まり事と致しましょう』

     そしてこう続けました。この場所の事は絶対に他言しないこと、誰にも見られないよう、日暮れの後に尋ねてくること、と。でないと妬んで邪魔をしてくる者がきっと現れるから、と言うのです。元より、困っている自分を助けてくれなかった村人達に教えるつもりなど無かったので、これも二つ返事で受け入れました。
     こうして、男と石塚の主の間に秘密の約束が交わされたのです。
     毎日毎日、男は石塚に通います。石を一つ落とし、願いをかけると、石塚の主は必ずやそれを叶えてくれました。すっかりみすぼらしくなった家を直して欲しい。謎草や未蕾が群れはびこる田畑を綺麗にして欲しい。良い着物が欲しい。米蔵をいっぱいにして欲しい。櫃いっぱいの黄金が欲しい。自分の代わりに働く人手が欲しい。
     あれよあれよと言う間に、男の家は栄えてゆきました。今では村一番の長者となった彼に、村人達は驚くやら怪しむやら。しかし何を聞いても笑ってはぐらかすばかりなので、誰も男の秘密を知ることは出来ませんでした。
     
     豊かになればなるほど、男の願いは大きくなってゆきました。叶えば叶うほど、男は傲慢になってゆきました。もっと、もっと沢山の願いを叶えたい。全てを自分の手の内に納めたい。
     願えば願うほど、石は減ってゆきました。一つ減り、二つ減り、三つ減り……とうとう、最後の一つを残すだけになりました。

     村人達が寝静まった夜中。男は小道を通り抜け、石塚へと急ぎます。いいえ、もう「石塚」ではありません。掠れて読めなくなった文字の書かれた、大きな石ころが置かれているに過ぎません。
     置石までたどり着くと、男は勇んでこう言いました。

    「今日は最後の願いにやってきた。この石をどかせば、私達の約束も終わりなんだろう?」

     以前と比べて、力強く……妖しげになった女の声が答えます。

    『はい。旦那様、よくぞここまで頑張ってくださいました。この一つでとうとう最後でございます』

    「そう、これで最後だ。だから、この願いはしっかりと考え抜いてきたんだ」

     言いながら、大きな石に手をかけます。触った瞬間の寒気も、体の力が抜けるような感覚も、今はもう慣れたもの。うんうん唸りながら石を押す男に、女の声は囁きかけました。

    『どのような願いをなさるのですか? これが最後、本当に最後でございますよ? もう後戻りは出来ないのです』

     ねっとりとした笑いを含んだ声に、押す力を弱めぬまま答えます。

    「後戻りなんざしないとも。今日の願いは……お前を嫁にすること、だ」

     言い終わった瞬間に、大きな石が転がり落ちました。辺りを支配する沈黙に構わず、男は意気揚々と続けます。

    「石が無くなってしまえば、お前との関係もそれで終わりだ。だが嫁にして手元に置いておけば、いつでもお前の力の恩恵に預かることが出来る。何、不自由はさせないさ、金なら唸るほどあるからな。さあ石塚の主よ、最後の願いを叶えてくれ!」

     女は答えません。果てしない沈黙に、どうしたのだろうかといぶかしむ男の周りで、突如哄笑が弾けました。足元の土盛から紫がかった霧が噴出し、ぎょっとする男を取り囲むように漂います。やがて一箇所に収束したそれは、歪な人の形を成しました。
     鮮血の様に赤い、大きな瞳。可笑しくて堪らないというように開かれた、裂けた様な口。ずんぐりした体にそのまま顔が張り付いているようなその姿を見て、男の脳裏には古い物語の一節がよぎります。

    “カゲビトには気をつけよ。人に似て非なるモノ、陰に潜み温もりを奪うモノ、闇夜に命を奪うモノなり。ひとたび狙われたなら逃れることかなわず、故に夜中出歩くべからず”

     今まで男が相手にしていたのは、不思議な力を持った人の娘などではなく、邪なる想いに染まった影人だったのです。
     響き渡る絶叫を聞きながら、影人は楽しげにけらけらと笑いました。ずいと男に近付き、恐怖に震えるその体を睨め回しながら、ゆっくりゆっくり言葉を吐き出します。

    『どうされました、旦那様? わたくしを、嫁にしてくださるのでしょう? ええ、ええ、もちろん側に居りましょう。貴方様の温もりをいただきながら!』

     言うが早いか、影人は男に覆いかぶさりました。靄のようなその体に包まれて必死にもがくも、その中から出ることは出来ません。体中を恐ろしいほどの冷気が駆け巡ります。体温が、鼓動が、全て吸い取られていくかのようです。思考の芯まで侵されるような寒さの中で、絶望した男はもがいて、もがいて、もがいて……。

     やがて、動かなくなりました。
     温もりを失った体を放り出し、影人はげらげらと笑います。

    『よくもまあ、わたくしを嫁にしようなどと言えたものよ。まあ、こういう欲深い輩がいるからこそ、わたくしも夜を謳歌できるわけだが』

     いつしか、彼女の周りには沢山の妖達が集まっておりました。ふわりと舞い飛ぶ紫煙の靄、はためく目無し蝙蝠に大口蝙蝠。赤い六尾の子狐と、金毛九尾の大狐、小さな小判猫と赤玉の化猫。
     爛々と輝く瞳を見回して、影人は満足そうに頷きました。

    『出迎えご苦労、夜の子ら。強力な力を持った人間に封じられて百年の屈辱を舐めたが、その封印を解いたのもまた同じ人間。人は衰えるもの、自由の身になったわたくしを止められるものは、今の世にはもうおるまい』

     同意するようにさざめく妖達。大きな口をにたりと歪ませ、影人は高らかに叫びます。 

    『さあ、愚かなる人間どもに、目に物見せてやろうぞ! 集え、闇に棲む者達よ! いざ行かん、百鬼夜行へ!』

     おどろおどろしい歓呼の声が轟きます。無数に膨れ上がった妖を連れて、彼女は封印の地を離れます。
     空を行く者、地を駆ける者、影を伝う者。全ての者が見つめる先には、一際禍々しい光を放つ影人の姿がありました。

     妖しき者ども、大地を巡る。

     永きに渡って語り継がれる、恐るべき闇の女王の復活でありました。




    ――――――――――――――――――――――――――――――――


     昔話を書きたいな、という思いと、ホラー書いてみたいな、という思いが一緒になった代物。なんだか中途半端な出来だと思いつつ、個人的にはお気に入りだったり。
     えぐい話が、結構好きです。
     古い昔話として書くために、ポケモンの名を漢字で表してみました。舞台はカントー、登場するのは第一世代に登場するポケモンのみに限定。
     
     三つ尾の猛牛・ケンタロス、闇鴉・ヤミカラス、謎草(なぞくさ)・ナゾノクサ、未蕾(いまだつぼみ)・マダツボミ、影人・ゲンガー、紫煙の靄・ゴース&ゴースト、目無し蝙蝠・ズバット、大口蝙蝠・ゴルバット、小判猫・ニャース、赤玉の化猫・ペルシアン、狐達は言うに及ばず。
    ……しまった、第二世代のヤミカラス入ってるorz ええと、カントーに帰化したということで(

     上記「妖」達の中でも、ゲンガーは特別な存在です。ゴーストポケの中で一番怖いものを挙げよ、と言われたら、ダントツでこのヒト。初めてポケモンをやって以来、その姿が、図鑑説明が、密かにトラウマでした……。
     マサポケで、達筆のパティシエゲンガーさんに出会ってからは恐怖も随分払拭されましたが(笑)
     
     思う存分、陰気な話がかけて満足しました。読んでくださった皆さん、どうもありがとうございます。

    【なにをしてもいいのよ】
    ※2011.12.28 行間及び漢字一部修正、小判猫・赤玉の化猫追加。


      [No.1441] では願ってみましょう 投稿者:海星   投稿日:2011/07/05(Tue) 21:43:44     92clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    海星「DSiがネットに繋がりますように。
        受験上手くいきますように。
        ポケストにもっと来れますように。
        ジュカイン愛してる。         」


    ――――


     今年もまた星の上では、織姫と彦星が再開するのだろうか。
     
     まあ知ったこっちゃないが、なんて溜息をつきながらそっと指だけ動かしてヒトデマンを撫でた。

     赤いコアが嬉しそうに点滅し、不思議に柔らかい身体を擦り付けてくる。

     四角い窓に区切られた夜空はあまりにも小さい。

     だけど窓際に椅子を運んで、こうしてヒトデマンと戯れていたりなんかすると幸せだなあ。

     そういやヒトデマンって海の星なのかな。

     じゃあ私に届いた彦星からの流れ星かもね、なんちゃって。


    ――――

     決して、私の名前から書いた訳じゃないです。
     でも書いてる途中で意識したのは否定できません(どっちやねん

     追記:「織姫」が「乙姫」になっていましたので修正いたしました。
         海の中じゃないですよねあはは
         失礼しました;;
         ちなみに、シンオウ地方は快晴なので天の川が見れるそうです! >7月7日


      [No.1430] うちのは「クロミ」という 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/05(Tue) 20:41:16     25clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    うちの飼っていた犬は黒かった。赤いところはないけど、腹が白い。そういう犬種らしい。
    そいつはとんでもなくバカ。犬のくせにキャベツの芯が好き。あとキュウリとか

    というわけで、そんな犬を思い出した、スイカ。

    スイカおいしいよ!うちでは誰も食べないから、一人で買って一人で食べてる。


      [No.1419] 【書いてみた】 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/05(Tue) 20:10:05     45clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     アタシはミミロップ。いい男を探して旅してる。

     そしてアタシは今、物凄いイケメンに出会った。吹き渡る北風をイメージした体、美しい青、彪のような模様。

     そう、スイクン様!性別不明だけれども、その凛々しい顔からは良い男にしか見えない!早速メロメロをかけるわよん。
    「はーい、スイクンさまっ!アタシといいことし・な・い?」
     性別不明ってねえ、中々難しいのよー。それでも、アタシは諦めずにスイクン様にアタックした。 
    「悪いな、俺には心に決めた人がいるんだ」
     きゃーーー!言うこともしぶーい!もうアタシがメロメロ。スイクン様ぁっ!アタシを下僕にしてっ!
    「はっ、来たっ!クリスちゅゎん!!」
     は?何いったこの男。あの人間の女の子にクリスちゅゎんだと?しかもさっきまでの凛々しい顔が、鼻の下伸ばしてる顔に早変わり。
    「いゃーん!その膨らみかけのおっぱい、見えそうでみえないあんよ、重力に逆らってる綺麗な御髪、全部萌えー!!」
     バカスイは女の子を追いかけていってしまった。当然、女の子は逃げる逃げる。伝説のポケモンから逃げる人間、初めて見たわ



     アタシはミミロップ。どこかにいい男いないかな


      [No.1408] 1パーセントのひらめき 投稿者:キトラ   投稿日:2011/07/05(Tue) 18:58:44     18clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    天才はどこか才能が違いますね。
    私、この道10年程度やっているんですが、もっと歴の浅い方々の言葉の選び方、文章の構成力のすごさは、努力とか年数では追い抜けなくて、くそーって思ってばかりです。
    というか今も思ってます。
    某ギャップの人とか
    某昔話(嘘)の人とか
    某骨折仲間とか

    みんな才能あって、本当に


    【うらやましいのよ!!!】【すいません言いすぎましたのでその才能わけてください】【努力はしました多分しました】


      [No.1397] 街 《百字で》 投稿者:リナ   投稿日:2011/07/05(Tue) 10:08:15     72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     狭い路地裏で死んだコラッタを見た。表通りは気付きもせずに急ぎ足。広告塔は鼻高々に残業、街路樹は電飾を振り払おうと体を揺する。今夜も君は駅前でギターを鳴らす。死骸を見て見ぬふりをして、私もまた街に戻る。

     ――――――――――

    【百字で書いてみた】
    【後に続くのよ】


      [No.1386] 一本300円 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2011/07/03(Sun) 18:18:57     69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    高いビルの隙間から、曇天の空が見える。
    主の腰から見上げていると、俺が入っているボールの表面に、ぽつり、と水滴が当たった。

    「…雨?」

    とたんに主が駆け出し…
    『がんっ』
    俺はボールの壁にぶつかった…。
     
    『ごんっ』
    (へぶっ)
    どうやら隣のシュバルゴ、ナイトもぶつかったらしい。
     
    『びたんっ』
    (きゃっ!?)
    あ、今のはゾロアークのティラだな。
     
    主の腰が振動するたび、ボールも激しく揺れる。上下左右に揺れ動くボールの中で、俺たち手持ち六匹は自分の体を守るのに必死だった。
    (十字ボタン操作荒いんじゃああぁ!!)
    ボールの中だから主に聞こえるはずも無いが、一声吠えてみる。
     
    土砂降りになる寸是で間一髪、主はポケモンセンターに駆け込んだ。そのままソファーに疲れて座り込む。
    一方、振動地獄から開放されたボールの中では、それこそ六匹の苦情が雨のように降り注いでいた…。

    (頭打ったんだけど…)
    そう言うのはレッセ。コジョンドで、身のこなしも軽い彼女が頭を打つ位だから、相当な揺れだったのだろう。

    (マスター、人にぶつかってましたよね…)
    (ここヒウンシティだからかなり迷惑だったと思うんだけど。)
    ドレディアのサワンとウルガモスのナスカ。この二人、怒らせると辛口である。

    (リーダー、大丈夫だったの?)
    (…少し背中を打った。)
    (めずらしいわね。リーダーってああいう揺れには一番慣れてるんじゃない?ミジュマルの頃からの付き合いだし。)

    流石ナスカ、鋭い。俺があの揺れに対応できなかったのは、考え事をしていたからだ。
    俺はダイケンキのシェノン。

    (…その顔は、思い出を懐かしんでたって顔ね。)
    (どうやったらそこまで俺の気持ちが分かるんだよ。)

    ウルガモスであるナスカは、無表情、というか表情が顔に出ない。
    ハッキリ言って無表情で自分の感情を読まれると、とても恐ろしいのだが。

    (ま、どんな事かまでは干渉しないけど。)
    (…頼むからそこまでにしてくれ。)
    (リーダーの思い出かぁ、きっと初めてここに来たときのことだよね。)
    (ティラまで何なんだよ。)
    (だって、リーダーその時フタチマルだったわけでしょ?今よりずっと可愛かったのかな〜って。)
    (こら。)

    女って本当怖い。こういう話になるとどうしてそこまで敏感になるのか…。分からない…。
    ナイトも、少し理解の出来ない様子で何も言わずにこちらを見ている…。正直目線が痛い。

    (ヒウンシティっていうと、やっぱアイスとかの??)

    そしてなぜこうも推測が当たっているのか。アイスではないが。


    ビルの間の空を見ていると、進化したてだった頃の自分も、こう空を見ていたな、と思い出す。

    そして、自動販売機の前に立つ主。進化した祝いに買ってくれた『サイコソーダ』。

    確かスカイアローブリッジで、遠い入道雲を見ながら飲んだはずだ。

    このメンバーの中で知っているものはいない。恥ずかしいが、一つ大切に取っておいた思い出だ。

    当たってもう一本出てきて、喜んだりもしたっけか。

    そろそろ夏だな、と思っていたら、モンスターボールの振動地獄が来たのだった。
    今度、主に頼んで、またスカイアローブリッジの上で飲もうか。

    主が外に出ると、さっきの土砂降り嘘のように午後の金色の陽が降り注いでいた。
    ビルの表面の赤い文字の広告が目に映る。

    『しゅわしゅわはじけるサイコソーダ!お手持ちのポケモンちゃんといかがですか?』


    というわけで、俺の好物はサイコソーダなのだ。



    お題:雨

    書いてみましたあぁ初小説です。うん、いろんな意味でやばい。やばすぎる。素人ですのでお許し下さい。
    オルカ は 深海の 奥底に ひきこもって しまった…。イケズキさんごめんなさいティラの出番がっ

    【描いてもいいのよ】【書いてもいいのよ】
    【批評は超緩めにお願いします】


      [No.1375] す、すみません…… 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2011/06/30(Thu) 21:32:58     33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    呼ばれた気がしました。
    ゲーチスも同じことしてるだろというツッコミをしたくなっちゃいました(ゲーチスのポケモンは6V)。


      [No.1364] しんかのきせき中編 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2011/06/25(Sat) 09:25:26     31clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     さて、そうとは知らずにアッカはイッシュ地方へと旅立ったのです。彼は1人で海を越えて飛んでいけるほど体力がなかったので、森にいたスワンナ(97)の背中を船がわりにして乗せていってもらいました。道中、スワンナはしみじみとアッカに話し掛けます。

    「中々久しぶりだよ、あの石を目指すポケモンがいるなんて」

    「そんなにすごいものをですか?もしかして、知ってるポケモンが少ないのですか?」

    「んー、少ないのもあるのだが、別の問題もある」

    「別の問題?」

    「そうさ。しんかのきせきは非常に効果が高いだけあり、奪い取ろうと思ったらかなりの力がいるわけだ。まあ、特殊な技でもあれば別だがな。すると、どんどん強いやつが奪い合うこととなり、今では強いポケモンの勲章みたいになっちまった。もう、俺が手に入れた頃とは比較にならないくらい強いやつが持っているだろうよ」

    「なるほど……あれ?スワンナさんは昔持っていたんですか?」

    「おう。これでもかつては、イッシュの伝説のポケモン達をまとめて足蹴にしていたこともあったさ。確か24代目の所持者だったよ。」

    「24代目……」

    「アッカ、これだけは言っておくぜ。弱いやつには弱いやつなりの戦い方がある。それを見つけるんだ。それと、決して泣くな。男が泣くのは、全てが終わった時だけだからな」

    「スワンナさん……いえ先生!」

    「ははは!先生はよかったな。さて、そろそろイッシュの玄関ホドモエシティだ。ここからは自分で飛んでいきな」

    「はい!先生……自分、なんとしてもしんかのきせきを持ち帰ります!」

    「おう、楽しみにしてるぜ!」

     こうしてアッカは、イッシュ地方の大地へと足を踏み入れるのでした。

    「……やはり言っておくべきだったか、『しんかのきせきは進化しないポケモンには効果がない』ことを。いや、あいつが本当に手に入れる頃には必要ないものだろうな」








     さて、イッシュ地方のホドモエシティに降り立ったアッカは、町中のポケモンから話を聞きました。慣れない土地で、しかもイッシュ地方では珍しいポケモンという立場からの聞き込みは大変でしたが、なんとか関係のありそうな話を聞きました。「フキヨセのほらあなにいる伝説のポケモンが持っている」、この話を聞いたアッカは、すぐに飛んでいきました。


     フキヨセのほらあなは真っ暗でした。アッカは壁伝いで進んでいきました。しばらくすると明るい場所に出て、大きなポケモンを見つけました。

    「むむ、何者だ貴様は」

    「僕はアッカ。あなたは?」

    「我輩はコバルオン、イッシュ地方の伝説のポケモンの1匹だ」

    「伝説のポケモン……!では、あなたがしんかのきせきの所持者ですか?」

    「しんかのきせき?我輩はもう持ってないぞ」

    「え」

    「少し前にな、同僚のビリジオンという野郎に持ってかれちまった。『リーフブレードが駄目でもインファイトなら!』なんて、かっこつけやがって。そりゃ俺がテラキやあいつと勝負したらどちらにも負けるのはわかるが、あの態度だけは……」

    「あ、あのー」

    「おっと失礼、つい愚痴をこぼしてしまった。とにかく、しんかのきせきならヤグルマの森にいるビリジオンが持っている。欲しけりゃいってみることだ」

    「あ、ありがとうございます。それではこれで……」

    「待ちな。その程度の力で挑むつもりか?やめておけ、やるだけ無駄だ」

    「な!やってみなければ……」

    「それがわかるのが賢くて強い我輩というやつの凄いところよ。とりあえず我輩くらいは倒してまろ、そうでなければやつとの挑戦など認めん」

    「はあ、強いポケモンにしては優しいですね」

    「まあ、女の子にもてるための言い回しがうっかり出ただけだ。別に心配などしとらんからな」

    「そうですか、それでは勝負!」

     こうして、アッカはコバルオン(42)に挑むのでありました。はじめ、アッカはコバルオンに近づくこともできないまま攻撃を受けていました。アッカのレベルが低く、素早さで明らかに劣っていたからです。これに気付くと、コバルオンはだんだんゆっくり動くようになり、アッカが攻撃しやすくなりました。アッカはお得意のネギ攻撃をくりだしますが、中々効きません。一方コバルオンは聖なる剣を取り出し、ネギに対抗します。初めこそコバルオンがアッカを追い詰めていましたが、徐々にアッカも押し返し、最後の頃には互角の戦いをしていました。




     こうした戦いが何日も続きました。コバルオンは日を追うごとに手加減をしなくなり、一月もする頃には全力でアッカの相手をするようになっていました。アッカもコバルオンに食い下がり、長い長い戦いをこなしました。そして……




    「我輩との勝負を最後まで戦い抜くとは……。しかも力のない種族でだ。アッカ、貴様の根性は本物のようだな」

    「コバルオン……けど僕はあなたに勝ってない。ビリジオンに挑戦するわけには……」

    「本当にそう思うのか?ならば自分のレベルを見てみることだ」

    「レベル?相変わらず24のままじゃ……こ、これは!」

     なんということでしょう。アッカ(24)はこの戦いを通して、アッカ(60)へと強烈な変貌をとげていたのです!すでにコバルオンのレベルを上回っているではありませんか。

    「どうだ、これでも自分が弱いと思うか?」

    「いや、確かにこれなら……」

    「これは我輩の考えだが、今のお前ならビリジオンの野郎に一撃を与えるくらいはできるだろうよ。いや、やってもらわねば困る。我輩が鍛えてやったのだからな」

    「は、はい!ありがとうコバルオン。それじゃ、そろそろいってくるよ」

    「おう、達者でな!」

     コバルオンに別れを告げると、アッカは次なる目的地、ヤグルマの森へと飛び立っていきました。


      [No.1353] 【かいてみた】 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/21(Tue) 22:31:59     64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    もうお前のステータスは見れない。
    いやいや、性格は知ってるよ、きまぐれ。
    そのリボンの数だって覚えてる。
    けれどね、もうお前のコンディションは見れないんだ。

    適当に生まれたフシギダネ。ソーラービームの迫力に圧倒されてコンテストをいくつ勝ち抜いた?
    読みが外れてビリなんてこともあったね。

    けれどここにはヒスイの思う勝負はないんだ。
    解るかな、もう必要ないわけじゃない。
    活躍できないんだ。

    だから、君はそこにいて。
    シンオウのコンテストで輝いて。
    ルールは全く違って、思うように優勝できないかもしれないけど。

    ポフィンっていうんだっけ、あれもおいしいみたいだよ。
    全てのコンディションがマックスなお前には関係ないかな。


    私はそのつぼみが好きだからずっとそのままだけど
    ここでは咲かせるかい?
    フシギバナに


      [No.1342] 素敵ダグトリオ 投稿者:   《URL》   投稿日:2011/06/20(Mon) 01:35:47     38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    こんなに可愛いイラストが……!!!
    植木鉢に入ったダグトリオってこんなに可愛かったのか!と目から鱗です。インテリアにしたい。
    特に真ん中ダグ。目がつぶらで愛くるしいです。

    ダグトリオ鉢を挟んでの二人の会話が見えてくるようです。
    そして右側が! 右側が地味に気持ち悪い!(※褒め言葉です)

    素敵なイラスト、ありがとうございました!

    【この植木鉢はどこで売っていますか?】


      [No.1331] Re: 君の長さは地下百キロ■感想です■ 投稿者:スウ   投稿日:2011/06/16(Thu) 23:32:42     48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    はじめまして。想像力が刺激されてめちゃくちゃ面白いです。ダグトリオのことでこんなに考えたことは今までありませんでしたね。

    >「ハイスピードカメラで映しても、爪らしきもの影も形も見えない。テッカニンも真っ青のスピードだ」

    この箇所が一番傑作でした。
    こいつらのきりさくには、なにか、スピード以外の要因でもあるのでしょうか……?


      [No.1320] あまつぶ 投稿者:巳佑   投稿日:2011/06/13(Mon) 12:44:41     60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     あまつぶ ひーとつ のみこんだ
     なんだか ちから が わいてくる

     あまつぶ ふーたつ のみこんだ
     できなかったこと が できるよう に なった き が する

     あまつぶ みーっつ のみこんだ
     なんだか からだ が きゅうくつ に なって きた

     あまつぶ よーっつ のみこんだ
     きゅう に じぶん の からだ が  ひかり だして


    「あ! コラ、ハッスー!! また勝手に『ふしぎなアメ』を食べたでしょ!!」


     あたらしい すがた で すいすいっと にげました

     だけど さびしくなって すいすいっと もどってきて おこられました


    【書いてみました】

     お題『雨』にて、ポンっと思いついたものを書いてみましたが……あめはあめでも、『雨』じゃなく『飴』というオチに。(笑)
     
     ちなみに、ハッスーはハスボー(最後はハスブレロに進化してますが)のことです。
     そして、最後の一文の『すいすいっと』は特性の『すいすい』から来てます。(笑)


     
     ありがとうございました。


    【何をしてもいいですよ♪】
       


      [No.1309] 口に出して読む 投稿者:渡邉健太   《URL》   投稿日:2011/06/10(Fri) 22:46:23     60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    落語で思い出したんだけど、ポケストの出品作品の朗読会とかやりたいねえ。
    たぶんさ、口に出して読んで/聞いてしたらさ、もっと何を描写しなきゃいけないか分かるような気がするんだよねえ。

    それはともかく、落語いいじゃないですか。
    落語って台本はないものだけど、仮にそういう文体で書いてみても面白いと思います。
    そうしたら話し言葉に「 」はなくなるだろうし、逆に仕草を( )で入れたりね。
    __

    制作過程がどんなものであれ、人の目に触れるのは完成した作品だから。
    結果として「鏡嫌い」はよかったんじゃないかと思いますよ。

    なんかここの掲示板で、初めてたくさんお喋りできて嬉しかったです。
    ありがとうございます。


      [No.1298] かわいいコとは旅をせよ 投稿者:クロトカゲ   投稿日:2011/06/08(Wed) 01:34:25     118clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ――スキンヘッズと目が合った――


    おう、そこのアンタ。

    そう! アンタだよ。目が合ったよな?

    金?

    ああ、置いて行け。ただし、アンタがバトルに負けたらな。

    そうだよバトルだよ。あんたが買ったら俺が金を置いてく。当たり前だろうが。
    早く出せよ、ポケモンをよ。



    何そのポケモン、 超かわいい!



    ちげーよ! そんなこと言ってねーし! えーと、あっ! あれだあれだ! 超可愛がってやるぜって言ったんだよ!

    俺様のピィだって負けてねぇ! 負けてねぇからな!
    でもあれだな。見たことないけど珍しいポケモンなのか?

    普通に? そんなにいるわけ?!
    よし、じゃあこうしよう。俺が勝ったら金はいらねぇから、そいつをどこで捕まえられるのか教えろ!

    え? ウソ?! シンオウ地方にはいないのそのポケモン?!








    おう。また会ったな。元気してたか?

    バトル? ああ、バトルしてーならするけどな。

    ああ、礼を言っておこうと思ってな。
    確かにシンオウにも、他の地方にもまだまだ可愛いポケモンがいたよ。
    でも色々探したけど、こいつが一番だった。もう、運命だよ。運命感じるね。

    当ったり前だろうが。うちのブルーが一番可愛い。もう、絶対!

    よせよ。似てねぇって。こいつはすげー可愛いし。まぁ、ちょっとワイルドなところは俺に似てるかもな。
    ほら。見てみろよ。このスカジャン。うちの子の顔が入ってるんだぜ。いいだろ。

    おう! 世辞でも悪い気はしねぇな。

    他にもほら。ミミロルだろ、ヒメグマだろ、当然ピィもいるし。

    そうそう。こないだのポケモン、チラーミィだっけ?

    ほら。チラーミィのスカジャン。

    知らねーの? こういうのだよ。背中とかに見事な刺繍が入ってるジャンパー。
    ああ、その、なんだ。たまたま譲ってもらったんだけどよ。女モノだし、いらねーからアンタにやるよ。

    あー、どこでも売ってるだろ。いや、ほら、あれだ。あそこだ。……どこだっていいだろ!
    どこでも売ってるっつったら売ってるんだよ!

    おう、似合ってるじゃねーか。やっぱり女の子だからピンクだなピンク。

    え? 進化した?! じゃあえーと……。

    そうチラチーノ! チラチーノになったのか! 見せてくれ! おおーっ! いいなぁ! いい! すげーいい!

    そりゃあ、チラチーノのスカジャンも欲しくなるよな。
    探しといてやるよ。見つかったら俺が確保しておいてやるから。

    おいおい、そんなにすぐ作れねーよ!

    あ、いや、そんなにすぐに見つからねぇって意味だよ。それにほら、人気あるだろうし! 売り切れたらすぐには店には並ばねぇだろうし。そうだろ?! な?!

    え? 交換してくれるの?

    捕まえてきてくれたのか?!
    何でもいいのか? っつっても交換できる手持ちいねーし……。

    そうだ! 今そこらへんで適当な奴捕まえてくるから待ってろ! すぐ捕まえてくるからな! マッハで! だからそこを一歩も動くんじゃねーぞ! 絶対だからな!


    ------------------------------------------------------------------------
    シンオウのロストタワーにいるスキンヘッズがピィを出してくるせいで、スキンヘッズのイメージがツンデレになってます。
    ツンデレが過ぎて、ポケモン以外にまで愛が溢れ出てるとかそんな感じ。

    【異論は認める】


      [No.1287] 看板かけて 投稿者:音色   投稿日:2011/06/04(Sat) 23:52:30     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     戸締り良し、ガス良し、食料も大丈夫だな。あとは、工房に看板引っ掛ければオッケーか。
     んで、あんみつ良し、しろあん良し、小猿ども・・は、みんないるな。クーラーボックスの中のかくざとうも良し。
     それじゃあ、ライモン向けて出発しますか。


     事の始まりは一通の手紙。
     足を無くしたシキジカ用の義足の微調整が済んで、トレーナーの女の子ともども送り出してから三日もたたずに投函されていた。
     ダイレクトメールにしては随分と丁寧で、おまけに某有名デザイン会社からなので興味に負けた。

     しろあんが珈琲をついでくれた。
     小猿どもはめいめい好きなモノを飲み始める。
     庭であんみつはごろんと日向ぼっこ。かくざとうは冷蔵庫。


     中身は簡単にすると、イベントに参加してくれないかというものだった。
     3カ月にある、ライモンシティでのデザイナーズイベント。つまるところ、人間とポケモンのファッションショーみたいなもんだろう。
     ただ、今回のテーマが『ヒトとポケモンのあり方』・・なんか、最近騒がれてるプラズマ団みたいだな。
     人に傷つけられているポケモンが増える中、俺みたいなのを呼んで世間にもっと知ってもらおう、見たいなことらしい。
     そりゃ、イッシュに俺以外にポケモンの義手義足をつくってるモノ好きはいないからなぁ。
     何処で俺のうわさを知ったか知らないが、なんだか、悪い話ではなさそうだ。

     ただ、まぁ、行くとなると結構な長期滞在になる、という事が示唆されている。
     金は出るらしいけど、その間こいつらどうするべきか。
     あんみつやしろあんは連れて行くとして・・小猿たち。

     だって、なぁ。
     りょくちゃもアセロラもサイダーも、俺のポケモンじゃないんだから。


     まぁ、こっそり荷造りして猿たちは俺がいない間森に帰るよう説得するのに大騒動が起きたのは別の話なんだけど。

     結局のところ、猿たちも強引についてくることになって。


     そんなわけで、しばらくシッポウシティは留守にして。
     ライモンシティにいきますか。


    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――
    余談  紀成様コラボ用フラグ。
    いい加減にライモンに行かせないとコラボることもできそうにないので

    【さーて、どこまでいけるかな―(笑】


      [No.1276] MONK 投稿者:乃響じゅん。   投稿日:2011/06/03(Fri) 23:02:35     62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     1

    「お、俺の負けだ、食い物ならいくらでもやる、だから許してくれぇ」
     私との勝負に敗れたリングマは、しりもちをつき慌てて逃げ出した。約束通り大小様々な木の実を大量に残して。
     だけど、許すも何も、負けたら持っている食べ物を差し出すという以外は何のルールもない。
    「慌てて逃げることもないのになぁ」
     私はそう呟いた。たまにそういう奴がいるのだ。特に、ガラの悪い奴。一撃で倒されてしまったことがそんなにショックだったのだろうか。
     脇で見ていた一匹のエーフィが、身体を躍らせながら私に寄ってくる。
    「いやーさすがライ先輩! 相変わらずお強いですねぇ」
     フィオーレと名乗るこのお調子者は私のことを褒めつつ、私より先に木の実をがっつき始めた。あんたは何もしていないだろうが。きっと睨んでみても、こいつは意にも介さない。エーフィは空気の流れを読めると聞いたが、こいつの図々しさを見ていると嘘なのではないかと疑いたくなる。
     リングマから勝ち取った木の実を近くの木まで運び、寄りかかったところでようやく一息ついて、木の実を口に放りこむ。運動をした後の木の実は、普段より格段に美味しい。
    「私が強いんじゃなくて、周りが弱すぎるんだよ」
     私はフィオーレに言い返す。
    「そんなことないですよ。あのリングマも結構やる方だったと思いますよ」
    「そうかなぁ」
     私は首を傾げた。あのリングマだって、多分に漏れず、一撃で倒れてしまったではないか。
    「それにしても、ライ先輩ってやっぱり有名なんですねぇ。この集落に入った時も、みんなすぐにライ先輩だって分かってたみたいですし。カントー、ジョウト辺りで知らない野生ポケモンのグループはいないんじゃないですかね。バトルで負けなし、最強と呼ばれた旅ライチュウのこと」
     ふん、と私は言ってやった。
     私は自分の力を試すべく、強い相手を求めて各地を旅している。相手のやる気を引き出すために、布に巻いて持ち運んでいるポロックと、相手方の食料を賭けて戦うのだ。今のところ、私は負けたことがない。どいつもこいつも弱すぎるのだ。考えてみれば、生きるだけでほぼ精一杯の野生界で競技としてのバトルなんか楽しんでいる余裕はない。
     ふと上に動くものがあったので、そっちに顔を向けた。何かと思えば、木の枝にしがみついていたコラッタが、一瞬脚を踏み外したらしい。急いで枝につかまり直し、両手両足に力を込めてこちらをじっと見つめる。非常に警戒している。私たちが彼らにとってどういう存在なのかを考えたらすぐに分かることだ。言わば、暴力的な力を持った侵略者。私たちが怖くて降りられない、と言うのは想像がつく。
     周りをよく見ると、コラッタだけではなかった。葉の陰から、木の陰から、私たちに視線が向けられている。このライチュウは、どんな危害を我々に加えるのか分からない。そういう疑いと恐怖の視線だ。
     私は小さな木の実を一つ選び、木の枝の上に投げて乗せた。
    「それ、あげるよ。怖がらなくていいよ」
     そう言って、私は立ち上がる。まだ木の実は沢山あったが、両手に一つずつ持つだけにして、私はその場を去る。
    「あれ、もう食べないんですか?」
     後ろからついてきたフィオーレが言う。
    「あんなに視線あったら、気まずくて食べてられないよ。もうお腹もいっぱいだし、これ以上はいらない」
     振り返らずに、私は答える。いくら勝ち取ったとは言え、こちらが貰い過ぎても、野生のポケモン達が困るだけだ。一介の旅ライチュウには、重すぎる。
    「まぁライさんの噂は『負けたらコミュニティ内の食べ物を全部盗られて、小さなポケモンもさらわれる』っていう広がり方までしてますからねぇ」
    「はぁ?」
     私は振り返った。そこまでしたことは一度たりともない。あってたまるか。
    「噂って怖いもんですよ」
     これじゃあ本当にただの暴君じゃないか。私はため息をつく。
     本当にこんな生活を続けていても、意味はあるのだろうか。ただただ悪名を広げて回るだけの旅で、私は何を得られると言うのか。私はここのところ、この旅路の先が見えなくなってきた。

     ジョウト地方からカントー地方へ、シロガネ山のふもとに沿って南下していく。そろそろ真南はトージョウの滝だろうか。日は沈みかけている。あっちは西。太陽を右手に、空を見上げた。
     太陽が沈み、山に隠れる。鳥ポケモンが頭上を飛び交い、私もフィオーレの姿も影に近くなる。人間の手の入っていない森の中には、電気は一切通っていない。日が落ちれば真っ暗だ。
     今日の旅はここまでだ。私たちは手頃な樹のそばで眠ることにした。
    「そう言えば、ライ先輩」
     フィオーレが口を開く。
    「何」
     私は目を閉じて言った。
    「ライ先輩って、どうして旅をしてるんですか」
     私は返答に困った。それだけは、思い出したくない嫌な思い出なのだ。
     フィオーレの言葉を聴こえなかったことにして、無視を決め込んだ。
    「ねぇ、ライ先輩」
    「私知りたいんですよ」
    「ねぇ、教えて下さいよ」
     フィオーレは一呼吸置きに言ってくる。うるさい。ここまで騒がれては、さすがに眠れない。何だかんだ言いつつ、私は結局このエーフィのわがままには逆らえないのかもしれない、と肩を落とした。
    「しょうがないなぁ。話すからさ、黙ってくれないかな」
     眠りの世界と現実の狭間で、私の頭はふらふらだった。眠い目を擦りながら、私は何から話そうか考える。
     フィオーレは、黙ってくれという言葉を忠実に守っていた。その調子の良さに、妙に腹が立つ。一つため息が漏れた。
    「私もね、元々は人のポケモンだったんだよ」
     私は一呼吸置いて、話し始めた。


     2

     私はトキワの森で生まれた、ごく普通の野生のピカチュウだった。
     元気にあちこちを走りまわるようになり、そろそろ自立しようかという時に、ヒトカゲを連れた人間と出会った。彼の名前を、レッドと言った。赤い帽子がトレードマークで、いつも深く被って、あまり自分の目や表情を見せない人だった。マサラタウンから来た、と彼は言う。
     つい最近旅に出たばかりで、これからポケモンリーグに挑戦するためにジムバッジを集めに行くそうだ。私はそのヒトカゲに次ぐ、二番目のパートナーとなった。
    「これからもよろしくな」
     入れられたボールから出されて、もう一度握手を求められた。ピカチュウは尻尾で握手する。私は尻尾を出して、彼につまませた。彼の顔は良く分からなかったが、口元の笑みを浮かべたのを見て、この人と一緒ならきっと楽しくなるだろう、と予感していた。
     仲間のしるしだ、と言って、レッドは小さな首飾りを私にかけてくれた。レッドの手持ちには、全て同じ首飾りがぶら下がっている。
     レッドは勝利に貪欲な男だった。と言うより、負けるのがとことん嫌いだった。
     彼の頭の中にはありとあらゆるポケモンの知識が入っていて、勝負の前には緻密な戦略を練り、考えられる全ての状況を考えてから戦いに挑む。そんな彼のやり方が功を奏し、一度たりとも負けることはなかった。
     レッドに鍛えられた手持ちの中で、とりわけバトルの腕を上げたのは、ヒトカゲと私だった。ヒトカゲは彼の最初のパートナーでもあり、レッドの考えをいち早く見抜いて忠実に実行することに長けていた。私は私で、戦闘や電撃の扱いのセンスがずば抜けていることに気付き、バッタバッタと相手をなぎ倒していった。
     やがて、私とヒトカゲ(二匹とも進化して、ライチュウとリザードンになった)の間にも、力の差が見えてくるようになった。リザードンが少しつまづくようなバトルでも、私は平気な顔して勝つことができた。強い敵と戦い勝つことが、私の喜びだった。身体を動かすことは好きだったし、何よりレッドが褒めてくれるから。「レッドと言うトレーナーに、ライチュウを使われたら勝ち目はない」。カントーのトレーナーの間に、そんな噂が流れ始めた。
     最後のジムに挑む頃だっただろうか。私はあるバトルのアイデアが浮かぶと同時に、ふと疑問に思った。ポケモンはトレーナーの指示に従い、自らを鍛え、戦う。――本当にそれでいいのだろうか。
     レッドのトレーナーとしてのやり方は、ポケモンの全てを管理しきっている。裏を返せば、ポケモンに自分で考える自由が与えられていない、と言うことにはならないだろうか。
     そう思った瞬間、私は何もかもが急に息苦しく感じられた。私は縛られている。このまま、彼の行く道を、黙ってついていくだけ。私が勝負に勝つんじゃない、レッドが勝負に勝つんだ。私でなくても、きっとレッドは勝利を掴むだろう。じゃあ、私って一体何なんだろう。急に全てが分からなくなった。
     一度、自分にバトルの全てを任せてほしい、と言ってみようと思ったが、すぐに諦めた。どうせ、彼は受け入れてくれないだろう。自分が全てを管理しなければ気が済まない。旅をしていくうちに、彼のそんな性質が浮き彫りになっていく。私にはそれが嫌で嫌でたまらなかった。
     出来る限り気付かれないように、バトルに影響しないように、私は隠し続けた。相変わらず、負ける事はなかった。
     カントー地方のナンバー1を決定する、ポケモンリーグ。チャンピオンロードを抜け、会場のセキエイ高原に辿り着いた。大会が始まって、会場が盛り上がっても、レッドも私たちもさほど緊張せずに一回戦をあっさりと勝ち抜いた。
     その晩、思い切って私はレッドに、自分の思いを打ち明けてみた。一度だけ、自分の考えた通りにバトルさせてくれないかな? そう、彼の神経を出来るだけ逆なでしないように言ったつもりだった。
    「俺が一度でも間違ってたことがあるのかよ」
     だけど、レッドは私を怒った。馬鹿なことを言うなと、ぴしゃりと言いつけられた。
     事実、彼は間違わない。彼の言う通りにしていれば、負けはしない。その正しさが、彼の強さであると言うことは、誰もが認めるところだった。しかしそれが、私の心を締め付ける。
     2回戦。3回戦。私はレッドの指示通りに行動し、相手のポケモンを翻弄し、撃墜していく。
     そのたびに、身体の底から苛立ちを感じた。違う、私がやりたいのはこんなことじゃない。こんな戦いじゃ、何にも楽しくない。倒れてモンスターボールに戻っていく相手のポケモンを見ながら、そんなことを考えた。戦いが終わり、控室に戻るたび、自分の思う通りにやらせてくれと、同じことを頼もうとして諦める。きっと何度頼んでも、同じなのだろう。一度でいいのに、一度でいいのに、一度でいいのに!
    「今日の動きは、粗っぽかったぞ。勝てたからよかったけど……もっと丁寧に動いてくれよ。分かったか?」
     レッドがこの一言を放った瞬間、私の中で怒りの糸が切れた。心の中がどうしようもない気持ちでいっぱいになり、行動を決意する。
     準決勝の前夜、全員が寝静まった頃、私はこっそりモンスターボールから抜け出し、ポケモンリーグから脱走した。かばんの中から取り出した、どこかで貰ったポロックケースを布に包んで。
     その後、レッドがどうなったのか、私は知らない。それから一切、彼と関わることもなく、思い出すことさえしなかった。


     3

    「……まぁ、こういういきさつで旅をしてるってわけ」
     意外と、細かいところまで思い出せてしまったことが、私は悔しかった。レッドの仏頂面を思い出すだけで、ポケモンリーグ前のあの怒りが甦ってくる。
     一人旅を始めてから、身の上話を聞いてくるポケモンなんて誰もいなかった。だから心にふたをすることは簡単だったし、毎日バトルのことだけ考えていれば良かった。
     あれから3年が経過している。今もし、レッドに会ったら何と言われるだろうか。想像しようとしたが、さっぱりだ。逆に、レッドに会ったら何と言ってやろうか。それを考えても、特に何も思いつかなかった。実際に会ったら、何か言うことが見えてくるのかもしれないが、会うなんてことは万が一つにもないだろう。
     そう言えば、途中からフィオーレの相槌は一切なくなった。私は彼女の方を向く。
    「ねぇ、聞いてる? って、寝てるし」
     横にいるフィオーレは、身体を丸めて完全に眠っていた。話に夢中になって、全然気付かなかった。いつから寝ていたのだろうか。もしかして、これは話し損か?
     仕方がない。暗い気持ちを晴らすためにも、私はさっさと寝てしまうことにした。

     次の日の朝、日の出と共に目が覚める。大きなあくびを一つして、フィオーレを踏み起こし、また歩き始めた。
    「あれ」
     ふいに、フィオーレが空を見上げて呟いた。私もそれにならう。
     雲の少ない青空に、大きな鳥が飛んでいる。その影は段々大きくなり、それは鳥ではないことに気付いた。鳥と言うより、竜に近い姿をしている。
    「リザードンですかね」
     本当だ。リザードンを野生で見る事は殆どない。あれはきっとトレーナーを乗せているのだろうと推測した。
     そんな様子を眺めているうちに、気付くことがあった。そのリザードンは、明らかにこちらに向かって飛んできている。顔の形でさえ判別できるほど近づいたところで、彼のぶら下げてる首飾りに気付いた。

     まさか、このリザードンの背中に乗っているのは。

     瞳孔を開き、全身の毛が逆立つ。全身を電気が走り、一瞬にして一触即発の身体になる。
     リザードンが私たちから数メートルのところに着陸すると、背中から一人の男が降りた。赤い帽子を深く被った、私の良く知る姿。
    「レッド」
     私は口から、彼の名前がこぼれた。彼はリザードンをボールに戻すと、私の方に一歩一歩近づいてきた。お互いの目が合う。私は彼を睨みつけた。
    「どうしてここが……ってか、今更何をしにきたのさ」
     強い口調で、私は言う。睨んでみても、彼はまるで応えない様子で、一歩一歩歩みを進めてくる。
    「昨日、連絡があった。お前がここにいるから、今すぐ来いって」
     記憶よりも、ずっと低い声でレッドは語りかける。心なしか、背も伸びている気がする。
    「誰から」
     私は威嚇の姿勢を崩さず、聞いた。レッドは、すっと指をこちらに向けた。いや、私のほうではない。私の隣にいる、フィオーレを指さしている。
    「フィオーレ」
    「はーい」
     彼は名前を呼び掛けた。手を開き、彼女を招き入れるポーズを取る。
    「こいつのこと、知ってるの?」
     フィオーレは、彼の呼び掛けに応えて、しっぽをぴんと立てながらレッドの元へ駆けよった。
    「そりゃあ、俺のポケモンだからな」
     レッドは不敵な笑みを浮かべてみせた。私は驚きを隠せなかった。レッドがエーフィを持っていたことなんて、これっぽっちも知らない。
    「お前がいなくなった後、仲間になった。テレパシーが使えるから、お前の居場所を調べてもらっていたんだよ」
    「幸いライ先輩の名前は広まっていましたから、探し出すのにはそれほど苦労しませんでしたよ」
     フィオーレはレッドの脚に頭をこすりつけた。
     道理で、こいつが私のことを先輩と呼ぶわけだ。私の話は、大体知ってると言うわけだ。
    「昨日ライ先輩のお話を聞いて、あなたがマスターの探しライチュウだって確信したんです。それで連絡させて頂きました」
     とどのつまり、私の口からレッドの名前が出るかどうかで、最後の確認をしたかったということだったのか。ぺらぺらと必要以上に喋ってしまって、恥ずかしい。
     問答をしているうちに、何だか怒りが冷めてしまった。それはとてもばかばかしいことのように感じてしまう。こいつらの策略にまんまとはまってしまったようだと、私は肩をすくめた。
     全身はち切れんばかりに溜まった電気は徐々に周囲に漏れて、逆立った毛並みも次第に元に戻っていた。
    「それで、私に何の用があって来たの」
     私は投げやりな口調で聞いた。もしまた仲間に戻れと言われたら、困る。レッドと一緒に居たら、また私は彼に媚び、辛い思いをする気がする。かと言って、この生活を続けていても、先は見えない。
     そんなことを考えて嫌な気分に浸っていたが、彼の答えは全く別のものだった。
    「ライ、俺とバトルしてくれないか」
     モンスターボールを一つ取り出して、彼はもう一度私に真剣な眼差しを向ける。

     私は彼を真っすぐ見つめ返して、頷いた。バトルなら、迷うことは何もない。


     4

    「全力を尽くすよ。持てる手段を全部使って、お前を倒す」
     レッドは宣言する。極度の負けず嫌い。そう言うガツガツしたところは、改めてやはり少し嫌な感じを受ける。だけれど、勝負を挑まれる立場になって、何となく分かった。バトルに一切手を抜かないことは、相手に対する最大の敬意なのだ。私は、全力で戦いたい。レッドの言葉は、私に高揚感を与えた。
    「……やってみなよ」
     私は口元にだけ、笑みを浮かべた。レッドを見据えて、一挙一動を見逃さない。
    「いくぞ」
     ずっとレッドの隣にいたフィオーレが先発かと思ったが、どうやら違うらしい。レッドはボールを投げ、一匹目のポケモンを出す。光がシルエットとなって、私より小さな黄色い姿が現れる。そこにいたのは、ピカチュウだった。首から、何やら黄色い石のかけらのようなものをぶら下げている。
    「初めまして、ライ先輩。ピカって言います」
     私の知らないうちに、レッドも新しい手持ちを増やしていたようだ。ピカは私に挨拶をして、不敵な笑みを浮かべた。
    「うん、初めまして。宜しく」
     私は笑った。頭の中で、戦いのゴングが鳴り響く。私は再び、全身を電気の力で満たす。
    「ピカ、かげぶんしん!」
     レッドが指示を出す。ピカの姿が二重にぶれ、三重にぶれていく。その数は加速度的に増え、三百六十度を同じ姿に囲まれた。レッドは指をさして、すかさず次の指示を送る。
    「ボルテッカー!」
     全てのピカチュウが、私に向かって突撃してくる。なるほど、何処から来るか悟らせない戦法か。電気エネルギーをまとったピカチュウに、黄色い光が見える。全ての方向をぐるりと見渡して、本物を見破るほどの時間はない。前方に迫り来る黄色いエネルギーの塊を見据えながら、後ろの空気を感じ取ろうとした。
     だが、何か様子がおかしい、と思った。たかだかピカチュウの身体で、ここまで強い電気を出せるものなのか? 全身に、悪い電流が走る。私は補助技、こうそくいどうを使う。感覚を研ぎ澄ませ、一時的に身体能力を強化する。強化された脚力でもって、近寄ってくるボルテッカーの輪を飛び越えた。勢い余って、草はらの上を転がった。
     私が避けたことで、包囲するための分身は消滅した。相手の姿は一つに戻る。ピカは振り返って、私とまた対峙する。
    「どうしてこんな強い電気を出せるかと、疑問に思ってるみたいですね。これですよ、これ」
     ピカは胸にぶら下げた黄色い石をを持って、前に出した。
    「でんきだま、って言って、ピカチュウの電気の力を二倍に増幅させる効果があるんですよ。これさえあれば、ライチュウの電撃にだって劣らない」
     ピカは自信満々に言って、にやりと笑む。なるほど、道理でエネルギーが多いわけだ。
     レッドが自分の手持ちに与える首飾りには、それぞれのポケモンの良さを増幅させる道具がつけられている。私の場合、状態異常を治すラムの実だったが、使う機会は少なかった。道具持ちは、相手にとって厄介なものとなるのが普通だが、私には関係ない。それ以上の力でねじ伏せる。
    「起き上がる隙を与えるな、ピカ! 追いかけ続けろ!」
     はいよっ、と答えると、ピカは再び私に向かって突進してくる。
     ピカがどう思ってるかは知らないが、彼の動きは私からすればそんなに早くない。私は前方に、ひかりのかべを張った。オレンジ色した半透明の板が、私の目の前に現れる。ピカは自信満々に叫ぶ。
    「ひかりのかべじゃ、僕の技は止まりませんよ!」
    「知ってるよ」
     私は答えた。
     ひかりのかべは、水や火や電気の進行を妨げるが、物理技などの固体は一切貫通する。ボルテッカーは物理技だから、身を守るにはミスマッチだ。だが、私の狙いはそこにはない。
     ひかりのかべは、一瞬のうちに長い槍状に変化した。生成された半透明の長い槍が、目の前に現れて、それを右手に巻きつける。自分の身体と密着させることに、意味がある。
     私はピカより速い速度で飛び込み、ひかりのかべの槍を強く振り抜いた。
     ピカの身体に触れた瞬間、ドン、と雷が落ちたような重たい音がする。通電。強い電撃を喰らわせた時に発生する音だ。
    「が……ッ!」
     ピカの動きが、空中で止まった。そのまま勢いを失い、地面に倒れる。草の上に落ちる音が、ひどく無抵抗に響く。ピカの方を見なくても私には分かった。戦闘不能だ。
    「戻れ、ピカ」
     ボールをかざし、レッドがピカを戻す。私はもう一度、軽く光の槍を振った。レッドは右腕を顎に当て、寸分の後に口を開いた。
    「……なるほどね。ひかりのかべは物体を貫通してエネルギーは貫通しない。だけど、エネルギー自体の伝導率は高い。だから、ひかりのかべに電気を流せば、相手の身体を貫いて身体の中から電撃を浴びせられる」
    「そういうこと」
     レッドの言葉に、私は笑みを浮かべながら頷いた。どんなに電気に耐性があるポケモンでも、身体の中から攻撃されてはたまらない。
     それに、電気技は強力なもので無ければ空気を伝って行かず、多くの場合近距離で攻撃するしかない。
     ひかりのかべを操れば、電気の弱点を二つも克服できるのだ。
     胸を張って言える。これこそが、私のやりたかった戦法。自分の感じたように作り上げた、私だけのバトル。
    「さぁ、次は誰を出してくるんだい?」
     私はレッドにひかりのかべの電気槍の矛先を向けた。

     カビゴンのゴンは相変わらずのんきに構えてのしかかってきたが、素早い動きでかわした。技は喰らわなかったものの、種族自慢の体力はすさまじかった。首から下げられたたべのこしの効力もあって、槍を四回振るわねば倒せなかった。
     フシギバナのフッシーは厄介で、あらゆる植物を操って、近接を妨げてくる。一発入れるのに何度転んだか分からない。フッシーもその巨体によく似合う耐久力の持ち主で、植えつけられたやどりぎのたねに体力を奪われながら、三度目の槍でようやくギブアップしてくれた。するりとやどりぎは解けてくれたものの、これでもまだ半分だ。先は長い。
     カメックスのメックスには、苦労した。殻にこもって身体を守られると、槍が折れてしまった。全ての技を防ぐ技、まもる。何度も槍を生成し直し、攻撃するもまた槍の方が甲羅に負けてしまう。本当のところ、この技を連続で成功させるには相当な技量が要るらしい。二連続成功すればいい方だ。それなのにメックスは連続六回も成功させてしまった。
     攻撃しているのはこっちなのに、相性でも勝っているはずなのに、逆に追い詰められているような気分になるのはどうしてだろう。痺れてひっくり返ったメックスの姿を前にしながら、心の中に焦りが生まれる。
     今までレッドと戦ってきたトレーナーは、こういう思いを味わってきたのか。攻撃にも防御にも、一片の隙も見せないレッド。かつて出会ってきた対戦相手の強さの槍は、彼にちょっと動かれただけでことごとくへし折られていく。私も、今多くのトレーナーと同じ脅威を感じている。
     レッドは最初に言った。持てる手段を全部使う、と。彼は、手持ちの六匹を全部使うつもりなのだろう。ならば、これは根競べだ。心がくじけた方が負けなのだ。

     ラスト二匹。先に出たのは、リザードンのリザだった。
    「よう、ライ。元気か」
    「君達みんなタフすぎて、そろそろバテて来ちゃったかもねー」
     私はおどけて言ってみた。リザはふっとため息をつくように笑った。事実、そろそろ身体から電気を作るのが辛くなってきた。同じ威力で、せいぜいあと一、二回が限界だろう。私は深く息を吸い、乱れた呼吸を整える。全身から溢れんばかりの熱を感じる。冷たい空気と肺の熱気が混ざり合うのを感じる。
    「飛べ、リザ!」
     レッドからの指示を受けると同時に、リザは羽ばたいて一気に空へと舞い上がった。
     空中に逃げれば手出しできないと踏んだか。かみなりのような巨大な電気を扱う技を使えば、遠く離れた相手にも電撃を当てることは出来ただろう。だが、あいにく私はそういう技を持ち合わせてはいない。電気技は10まんボルト一本だ。
    「だいもんじ!」
     レッドが空に向かって叫ぶ。リザは口を開く。喉の奥から光があふれ、弾けそうになったところで口から高音の火球を放った。火球は私の方へととんでもないスピードで迫ってくる。瞬きするほどの刹那、こうそくいどうで出来るだけ遠くに跳んだ私は何とか直撃は免れた。
     だが、だいもんじという技はこのままでは終わらない。二段階の攻撃。地面に触れた瞬間、炎は五方向に広がる。炎の腕の一つが迫りくる。私はもう一度跳び避けるが、転倒してしまう。炎は自分の背丈よりも遥かに高く激しく燃え盛る。起き上がってみたものの、炎の方は熱に目を開けていられない。長く残る炎は、大技ならではのもの。直撃していたらと思うとぞっとする。
     私は空を見上げてリザの姿を探した。空中を大きく旋回している。
     もう一度攻撃される前に、こっちから攻めるしかない。攻め手はある。
     私は右手から、ひかりのかべを糸のように細く、細く、生成した。ある程度のところまでは生成にとても神経を使うので、大きな隙が生まれてしまう。炎で自分の身体が隠れている今しかできないことだ。
     細い糸を自分の身長の半分ほどまで作ったところで、一気に生成は楽になる。人間の言葉で例えるなら、スピードの乗ってきた自転車だ。後は加速度的に伸びていく。
     このオレンジ色の光の糸は、完全に私の思い通りに動く。蛇のように伸縮自在の糸だ。
    「行け!」
     小さく叫んだ掛け声と共に、糸が空へと伸び飛んでいく。リザの飛ぶ方向へ、一直線だ。
    「リザ、何か来てる! 急降下しながらエアスラッシュ!」
     あともう少しのところで、レッドが叫ぶ。この糸の存在に初見で気付かれるなんて。今まで想定もしていなかったことに、軽いショックを覚える。すぐに気を取り直し、糸に集中する。
     リザは頭を地面に向けて、高度を強引に下げる。私は糸を操り、更に伸ばしながらリザの姿を追った。高度を充分下げたリザは私の姿を捉えたらしく、鋭い爪で空気を切り裂き、刃を放つ。
     糸を操るのは集中力を要するため、高速移動との併用は今の私には出来ない。かと言って、折角作った糸を解除する訳にはいかなかった。空気の刃が迫る中、私に閃きが生まれる。
     伸ばした糸は、今もなお空中に残り続けている。今まで伸ばした軌道が全て固定されているのだ。そして今リザは、最初に一直線に伸ばした糸の真下にいる。つまり、これ以上糸を伸ばす必要はない。
     私は、糸を全て下に落とした。その軌道上にいたリザに、糸が触れる。その瞬間、私は思いっきり糸に電流を流しこんだ。通電。パァン、と弾ける音が響いて、くるくるとリザは地面に落ちていく。私は素早く糸を解除し、高速移動でその場を離れた。空気の刃が、元いた場所の地面を切り裂く。
     リザが地面に触れる前に、レッドはリザをモンスターボールに戻した。戦闘不能だ。
    「あと一匹」
     私はひかりのかべを、再び槍の形に戻した。

     レッドは一切表情を変えなかった。まだ負けたとも、勝ったとも思ってはいない。そういう緊張感に溢れた顔をしていた。
     六匹目。ずっとレッドの足元にまとわりついていたフィオーレが、ついに前に出る。
    「フィオーレ。後は頼んだぜ」
     紫色のしなやかな体が、ゆったりとした動きで近づいてくる。
     ある程度の距離で、フィオーレは立ち止まって腰を下ろした。
     その距離は、公式試合のフィールドに描かれているモンスターボールの図形を思い出させる。

    「さすがライ先輩、本当にお強いですねぇ」
    「そういうの、いらないよ」
     フィオーレには申し訳ないけれど、ジョークに笑えるほどの余裕は無かった。フィオーレは普段のように飄々とした顔をして、私の方を見つめた。
     まっすぐに行こう。相手の技を一度も受けはしなかったものの、持久戦により体力はもうあとわずか。自分の体力の無さを恨みつつ、少ない選択肢の中で懸命にシミュレートする。
     次の一発に賭けるしかない。私の心が、信号を出す。
     息を吐いて、こうそくいどうを自分にかけた。二度その場で飛び跳ね、確かに感覚が研ぎ澄まされたのを感じる。そして三回目、私はフィオーレの方へと跳んだ。風を切り、フィオーレの方へと駆ける。疲れのせいか、彼女の姿を捉えようとしても大雑把なシルエットしか見えない。彼女の姿はその場から動かなかった。それだけを確認して、私は気にも留めなかった。
     自分の身長大に伸ばした槍を、思いっきりフィオーレに突き出す。
     しかし。槍はフィオーレの体をするっと通り抜けた。勢い余って足がもつれ、天地がひっくり返る。一瞬、何が起こったか理解できなかった。
     電気の弾ける音と衝撃がない。電気が、流れていない!?
     フィオーレはその場から一歩も動かず、ただ胸を張って私の槍をただ受け入れていた。あたかも、攻撃は失敗すると知っていたかのように。
    「今だ!」
     レッドの声が飛ぶ。いや、フィオーレの行動はそれよりも一歩早い。振り返って、紫色の目を光らせると、私の体は地面につくことなく、見えない大きな力で空に放り投げられる。無理やり加えられた加速度に体がついていかず、空気抵抗の洗礼を受けて自由を失う。
     視界は、虹色の光線が迫ってくるのを捉えた。しかし成す術無く、直撃してしまう。頭の中がぐるぐるとかき混ぜられて、脳が捻じ切れそうだ。ああ、目が回る。
     そして、自由落下。私は何の覚悟も出来ないままに、地面に叩き付けられた。ぐえっ、と今まであげたこともないような声が漏れる。
     あぁ、もう力が入らないや。ゆっくりと大の字になって、空を見上げた。形の崩れそうな綿雲が、目に見える速さで流れていく。
     戦闘不能。私の、負けだ。

     そのうち、レッドとフィオーレが駆けてくる。
    「大丈夫ですか」
     心配そうにフィオーレが尋ねる。
    「全身がすごく痛いや。やりすぎだよフィオーレ」
     私は文句のように言葉を投げた。
     だが、納得いくまで身体を動かせたせいか、やりたいことを全てやりきれたせいか、私の心は妙に満ち足りていた。
    「ポケモンセンターまで連れてくよ。立てるか」
     レッドが手を伸ばす。にっ、と口を上げて笑った。彼がこんな顔をするのも珍しい。何となく、昔より表情が豊かになっている気がした。私は右手を伸ばす。茶色い手はがっしりと掴まれて、力強く引き上げられた。


     5

     最寄りのポケモンセンターに着くまでに、途中何度も休憩を取った。川の水を飲んで、歩ける程度には回復した。リザもげんきのかけらで体力を戻してもらったものの、本調子ではなさそうだ。空に橙と青が混ざる頃、ようやく辿り着いた。
     レッドはモンスターボールを六個、トレーに乗せてカウンターに持っていく。
    「お願いします」
    「かしこまりました。そちらのライチュウはどうなさいますか? 随分疲れてるみたいですが」
     受付がレッドはこっちを向いて、聞いてくる。ポケモンの体調を一発で見抜くのは、プロなんだろうなぁとぼんやり考えた。
    「どうする?」
     私は首を振った。レッドに会えた今日だからこそ、話したいことがたくさんある。治療に当てるのは勿体ない気がした。
    「構わないみたいです。こいつと会うの、凄く久しぶりなんですよ」
     レッドはそう伝えた。
    「かしこまりました、それでは、こちらのモンスターボールだけお預かりしますね」
     そう言って、受付はトレーを持って裏手へと戻っていった。

    「これ、飲むか」
     レッドが、ミックスオレの缶を私に差し出した。私の好きな味だ。両手で受け取ると、ひんやりとした鉄の感触が懐かしい。飲むのは随分久しぶりになる。
     ラウンジのベンチに腰掛けて、私とレッドは並んでいた。レッドは手に持っている缶コーヒーのふたを開ける。私も、歯を上手に使ってプルタブを空ける。かこっ、という音を聞くと、何だか彼と一緒に旅をしていた時のことを思い出す。
    「やっぱりおいしいなぁ、これ」
     オレンジ色した甘いミルクの味が、口の中に広がる。タマムシシティの屋上で飲んで以来のお気に入りで、自販機を見つける度に同じものが売っていないかと期待していた。ポケモンセンター内ではよく見かけるが、道中では殆ど見ないということに気付いて、私はポケモンセンターに着くたびにレッドにせがんでいた。激しいバトルの後なら、必ず買ってくれた。
     しばらくの後、レッドはぼそりと呟いた。
    「強くなったな、ライ」
     私はレッドの顔を見たが、レッドの視線は前のままで、その続きを話す。
    「ひかりのかべと10まんボルトの複合技。それに、こうそくいどうによる身体強化。面白い戦い方を考えたな。俺じゃ絶対思いつかないし、仮に思いついたとしてもあそこまで完成度の高い技にはならなかっただろうなぁ」
     レッドは素直に感心しているようだった。私を見て、目を輝かせていた。でしょ、と私は胸を張る。
    「でも、負けちゃったけどね」
     と付け加えて、苦笑する。
    「そうだな。弱点はまだまだ沢山あるだろう」
     彼は私の言葉をくそまじめに解釈した。私がふてくされるよりも早く、レッドは言葉を続けた。
    「今回俺が弱点だと思ったのは、回数制限だな」
     そう言われて、フィオーレに技が決まらなかった時のことを思い出す。そういえば。
    「最後、フィオーレとバトルした時、私の技が上手く決まらないって分かってたの?」
     私自身、電気を放てるかどうか分からなかったと言うのに。レッドには確信があったのだろうか。私の疑問に、レッドは答える。
    「普段バトルって長丁場になるものじゃないからあまり気にならないんだけど、ポケモンの技には使える回数に限度がある。10まんボルトの攻撃回数はどのポケモンも十五回までなんだよ」
    「そうなの!?」
    「逆に言えば、自分の電気の力を十五等分するようなパワーで打つのが10まんボルトって言う技なわけ。本人の意識に関係なく、ね」
     私は驚きを隠せなかった。初耳だった。六連戦なんて初めてのことで、今まで気にも留めたことのないことだった。
     それで、守りを中心にした戦いをしていたのか。私に技をたくさん発動させる為に。
    「まさか、フィオーレと戦う時に十五回になるように調節してた訳じゃ……?」
    「それは流石に、まさかだよ」
     私の疑いに、レッドは笑った。
    「でも、技のエネルギーが消費された回数はしっかりカウントしていた。出来る限り早く技を十五回出させるようにはしたけれど、思ったよりお前の電撃が強かったから、全部使い切らせるのに五匹もかかった。正直間に合わないんじゃないかと、ヒヤヒヤしたよ」
     それでも、レッドは強い。彼のポケモンと戦略は難攻不落だと言う事を、相手にしてみて初めて実感した。

    「そう言えば、レッド。ポケモンリーグはどうなったの」
     私はふと思い立って、三年前のことを聞いてみた。私は準決勝前日に逃げ出したから、結末を知らない。あぁ、と思い出したようにレッドは言う。
    「準決勝で負けたよ。ドラゴン使いのワタルって奴に。ドラゴンタイプのポケモンの強さはケタ違いだったな。お前無しじゃ歯が立たない相手だった。打つ手なしさ」
     レッドは肩をすくめた。
    「あの時はライがいなくなったことがショックで、三位決定戦にも全く身が入らなかった。それも負けてしまったよ」
     そう言って、コーヒーをすする。
    「で、そのワタルをグリーンが倒して、グリーンがチャンピオンになった。でも、あいつはやりたいことが他にあるからってチャンピオンの座をワタルに譲ったのさ。それから三年間、ワタルがチャンピオンの座を守り続けているらしい」
     グリーンとは、レッドと同時期に旅に出たライバルだ。道中たまに勝負をしかけてきて、一度も私達に勝つことはなかったが、彼の中にはただならぬ強さを感じた覚えがある。話を聞いて、私は納得した。
    「それで、レッドは三年間何してたの?」
    「殆どシロガネ山に籠って修業してたな。俺のトレーナーとしてのやり方は、本当に正しかったのかが分からなくなって、さ」
     少し俯いた様子で、レッドは語る。レッドの戦いは、緻密に戦略を組み、それをポケモン達が忠実に実行するやり方だ。
    「本当はもっと、ポケモン達に判断を任せるべきじゃないのか。その方が、よっぽど楽に戦えるんじゃないのか。そう思い始めたら、止まらなくなった」
     レッドの迷いの原因は、間違いなく私にあるのだろう。確かに、彼のやり方が気に入らなかったのは事実だった。でも、立場のせいだろうか、今ならあの戦い方を認められる気がしていた。それだけに、話を聞いているととても後ろめたい気持ちになった。
    「俺は新しく、ピカとフィオーレを育てた。自由な発想を持って育ったポケモンが、バトルでどんな風に活躍してくれるのか。ピカは、あまり柔軟なタイプじゃなかったから途中で今までのやり方に戻したけど、フィオーレはまさに自由な発想をしたがるタイプだった。俺が指示を出さなくても、何をすればいいかは直感で分かってしまうらしい。だからこいつに関しては、具体的な指示をせずに自分で考えてもらうスタイルを取らせた」
     そう言えば私と戦った時も、レッドが出した指示はたった一言、「今だ!」だけだった。
    「それでも十分、フィオーレは強かった。その時初めて分かったんだよ。そう言う奴もいるってこと」
     レッドは私を見て微笑んだ。私は思わず、目を逸らしてしまう。

    「それから、結局俺はお前抜きだと何にもならない、ただのトレーナーだと言うことを思い知らされたよ。カントーとジョウトのバッジを全部集めたっていう男の子が来て、俺と勝負したんだけどさ、俺より年下なのに、かなり強くてな。ギリギリ、ラスト一匹の差で負けてしまった」
    「うそ!?」
     私は思わず叫んでしまった。ポケモンリーグのことならともかく、レッドが普通のトレーナーに負けるところが、いまひとつ想像出来ない。私からすれば、彼は非の打ちどころのない完璧なトレーナーなのだ。一体どんな男なのだろうか。私は想像したが、レッドと似たような姿しかイメージ出来なかった。
    「お前をもう一度探そうと思ったのは、それからさ。お前ともう一度会いたいと思って、フィオーレに探させた」
    「そうだったんだ」
     私は言った。ずっと一直線に進んできた彼を、私のわがまま勝手で迷わせ、ひどく傷つけてしまった。そう思うと、胸が痛い。
     会話はここで途切れ、知らない人達の絶え間ない話し声が混ざって流れるだけになった。
     その時、私は自分の気持ちをはっきり自覚した。私はレッドのことを好きとか嫌いとかいう言葉で語れないほど尊敬しているということ。そして、レッドに対する怒りが、実は私自身への怒りだったということ。

    「ねぇ」
     周囲の雑音の中、私は改まった。とても恥ずかしいけれど、言わなければいけないことがある。
    「何」
    「勝手に出て行って、ごめん」
     私は、言葉を噛みしめるように言った。
     言わなければ、いつまでもレッドに対して怒りを抱き、自分自身を許せないままになってしまうことが分かっていたから。きっとこれが、旅の途中で感じていた閉塞感の正体だろう。どんなに忘れようとしても、心の奥底で後ろめたさは消えていなかったのだ。
     一体、レッドに何を言われるのだろうか。どんな罵声だろうと、私は構わなかった。
     だけど、レッドの言葉はそうではなかった。親指を唇に当て、恥ずかしそうにしながら、
    「俺の方こそ、悪かったな」
     と言った。
    「お前がどれだけあのバトルをやりたかったか、今日手合わせして良く分かったよ。あの時、一度でもお前に任せたらよかった……いや」
     レッドは言葉を切って、少し考え込んだ。
    「きっと、あれは俺の手を離れる時だったんだ」
     その言葉に、後ろめたさは全くない。そうかもしれない、と私は思った。きっと、一度試したところで私は満足しなかっただろう。もっとやりたい、という欲を募らせて、同じことを繰り返していただろう。
     彼の手を離れて自立することが、私には必要だったんだ。
    「これでよかったんだよ。これで」
     彼は笑った。心の深い奥底にある栓が、ぽんと音を立てて抜けた。感情の流れが、一気に溢れ出しそうになる。私は俯いて、それを必死にこらえた。さすがにみっともなくて、レッドには見せられない。
    「これで、よかったのかな」
    「あぁ」
     レッドは頷いた。多分、私の声は震えていたかもしれない。だけど、レッドは見逃してくれた。
     ミックスオレの最後の一口は、特別甘い味がした。


     次の日の朝。ポケモンセンターで一泊し、出発の準備を整えて建物を出た。レッドはバッグからポロックケースを取り出して、お前にはこれが必要なんだろう、と大きな布に包んで渡してくれた。
    「そう言えば、ライ、お前はこれからどうするんだ?」
     レッドは尋ねた。目的地は決まっている。
    「最近知ったんだけど、ハナダの洞窟ってところに強いポケモンがいっぱい住んでるって聞いてさ。そこで力を試そうと思う。レッドは?」
    「俺は、そうだな……いっそこの地方を離れようかと思ってる。今行こうと思ってるのはシンオウ地方だな。そこで、イチからトレーナーとしてやり直す。今の手持ちも全部預けて、全く新しい仲間と一緒に旅をしたい」
     それを語るレッドの目は、輝いていた。朝日のせいかもしれない。そうだ、と、私の中に一つ閃きが生まれる。
    「全部預けるんだったらさ、フィオーレを貸してよ」
    「フィオーレを?」
     レッドは聞き返した。私はゆっくりと頷く。
    「うん。一人旅ってのも何だかさびしくってね。それに、いざって時は頼りになるかもしれないし。それに」
     言葉を切って、レッドを見上げ、いたずらっぽく笑う。
    「いつかまた、あんたと勝負したいから。テレパシーで居場所が分かるんなら、いつでも会いにこれるでしょ」
     レッドは少し驚きの表情を見せたあと、ぷっ、と噴き出し、大きく笑った。私もつられて、笑い声を上げた。
    「それもそうだな! よし分かった。こんな奴で良かったら、連れていけ」
     レッドはボールからフィオーレを出した。大きく伸びをする。
    「フィオーレ。ライと一緒に旅をしろ」
     フィオーレは急に言われた言葉に驚いた様子で、えぇ!? と言葉を漏らした。
    「今までずっとついて来たんだから、今更文句言うことでもないでしょ」
     と私は語気を強めて言ってみる。
    「分かりましたよう、お供しますとも」
     呆れたようにフィオーレは言った。そんな彼女を見て、私とレッドは笑っていた。

     旅の途中なのに、何だか新しく旅を始めるような気分だ。お互い、それほど急ぎの用事ではない。気楽なものだ。
     レッドはリザをボールから出した。
    「送って行こうか」
     レッドは聞く。私は首を振って答える。
    「いいよ。自分の足で歩きたいんだ」
    「そうか」
     レッドは言った。リザの背中に乗って、リザに羽ばたきを指示する。
    「それじゃ、またね」
     私が言うと、レッドは歯を見せて笑った。
    「次会う時は、三体だけでお前を倒す」
     言ったことは本当に実現してしまいそうなのが、この男の怖いところだ。
    「……やってみなよ」
     私はレッドと同じ顔をしてみせた。
     リザが一気に上空へと浮かび上がっていく。そして、青空の中へとゆっくりと消えていった。
     旅の先にはレッドがいる。その先にも、きっとたくさんの強者がいる。
     私は、まだまだ強くなりたい。いつかまた会うその日まで、光の槍を折る訳にはいかないのだ。




     おわり。



    ―――――――――――
    ポケスコではお世話になりました( ´▽`)乃響じゅん。です。こちらには初投稿なので、ドキドキしてます。
    http://www.youtube.com/watch?v=-tgkoLiQMcQ
    元ネタ楽曲、VivivenのMonkという曲です。この歌を聞いた時、ポケモンの話という解釈も出来るなぁと思い、書かせて頂いた話です。
    こんなに長いのを読んで頂き、ありがとうございました!

    【何をしてもいいのよ】
    【誰かの声を聞かなくちゃ歩けないのは嫌なのよ】
    【金銀のレッドは幽霊じゃないと信じたいのよ】


      [No.1265] ぽつりぽつりと雨粒が 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2011/06/02(Thu) 19:55:19     79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    えーとつまりこれは兵隊さん悪霊化ということでおk?
    兵隊さんは予感していたのかなー。

    > 道端の色褪せた紫陽花に、ぽつりぽつりと雨粒が落ちはじめた。

    もしかしてその雨粒……色は赤だったりしないよね?
    しないよね!!!


      [No.1253] 可愛い… 投稿者:しじみ   投稿日:2011/05/31(Tue) 11:51:32     25clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    はじめまして、しじみです。
    同じく初心者ではありますが、文才の違いに恐れおののいております。

    情景描写や、説明も丁寧で親切で読んでいておもしろかったです。
    何より3体のやりとりが微笑ましくて…。
    ラン君もヨル君もラキちゃんもかわいい…。
    お昼寝できるトオルくんがうらやましいですー…。

    ゴドラ対ウルガモスラ・アバゴメラの件に吹きました。


      [No.1242] [再投稿]タイム・リミット 投稿者:紀成   投稿日:2011/05/29(Sun) 09:58:33     32clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「本当ミコトって、恋愛とかしないよね」
    クラスメイトによく言われる言葉だ。そう言う彼女らは、しすぎだと思う。数ヶ月前に好きだった男は、今はクラスメイトというレッテルを貼られている。付き合ったと思ったら、別れている。『いい男がいない』は、常套句。
    「僕はポケモンさえいてくれれば、それでいいよ」
    これは本当の話。男に時間を取られるより、ポケモンに時間を取られる方が良い。というより、取られたい。
    「何でミコトってあんなごついポケモン選ぶの?」
    「好きな物は好き。それだけだよ」

    高校時代、ミスミ以外の子と話す内容はこんなだった。我ながら恥ずかしい。だが思い返そうとするだけ、マシな方なんだろう。
    「中学の時とか無かったの?」
    「さあね」
    ここで話のネタにされるくらいならば、ワルビアルに全て噛み砕いてもらおう。
    あの話を知るのは、当時の僕だけでいい。

    青すぎて、純粋すぎた女の、哀れな恋の話を。

    時は、丁度三年前に遡る。当時ミスミとはまだ知り合っていなかった僕は、普通の公立中にいた。成績も運動も並み。ただ力だけが異様に強くて、皆怖がって近づかなかった。元々バスケ部に入ってたけど、ダンクしただけでゴールネットのリングを破壊し、三日で退部した。
    先生すら、僕にプリントを渡す時は手が震えていた。自分が何故こんな力を持って生まれてきたのか。少し考えたこともあったが、結局今でも分かっていない。
    「恨むよ、神様…本当にいるならだけど」
    時々ベランダに出ては呟いていた。思春期ならではの行動といえよう。
    そしてもっと悪いのは、その感情を持ってしまったこと。彼はディベートの授業で相手の論を全て打ち返し、否定に持っていった。別にスポーツが出来るとか、イケメンとか、性格がいいとかじゃなかった。むしろ性格はかなり悪い。根拠の無い夢物語は真正面から打ち砕く。先生の話も何処かおかしければ一刀両断する。
    痛い話だけど、そんな彼を僕は好きになった。そしてそれはいつしか担任にばれていた(何故か))
    女性だったから…というのは理由にならない。でも時々職員室でインスタントコーヒーを淹れてくれたりした。
    「力が強いのは、砂神さんの個性。それを使って何が出来るのか考えてみたら?」
    綺麗にネイルされた爪を机に立てて、その人は笑った。
    「…本音を言っちゃうと、その力がいつか私に向けられそうで怖いだけなんだけどね」
    「僕は、怒ると周りが見えなくなるみたいなんです。親からも、小学校時代からのクラスメイトにも言われました。カッとなって意識が飛んで、気付いたら黒板が真っ二つに割れてて、掃除ロッカーを持ち上げていた―
    なんて話が実際に起きていたんです」
    まるで何処かの漫画みたいだが、本当の話だ。何年か経った今でもその異常な怪力は健在で、(やったことは無いけど)車をスクラップ状態に出来るような気がする。
    先生はそんな僕の話を面白そうに聞いていた。多分彼女なりに僕のストレス解消に付き合ってくれたのだろう。
    だから、その話を聞かされた時は、嫌でも信じてしまった。
    信じなくてはいけなかった。

    「彼は、二日後に転校するの」

    彼がクラスで苦手意識を持たれていることは、先生もよく知っていたらしい。だからいきなり皆の前で言うよりかは、彼を思っている僕に一番初めに聞かせた方が良いと思ったようだ。
    「親の仕事の都合だって。お母さんから電話があったの」
    「…そう、ですか」
    僕はコーヒーを飲みながら呟いた。少女漫画みたいな展開になってしまったと思いつつも、まだ言われたことの意味が掴めなかった。

    昼休みが終わる前に教室に戻ると、クラス委員の子が怯えた様子で話しかけてきた。プリントを持つ手が震えている。ここまで来ると、逆にこちらが被害者に見える気がした。
    「砂神さん、えっと、今度の生徒会選挙のことなんだけど」
    『えっと』や『その』が入ってて分かりにくかったけど、とりあえず内容は分かった。うなずいて終わらせようとした時、彼が入って来た。インテリ眼鏡がキュウコン目によく似合っている。
    「あの、七尾くん」
    彼の名前は七尾 千秋といった。眠そうだった。気持ちよく寝ていたところを予鈴に起こされたようだ。
    「今度の生徒会選挙の投票…」
    「皆同じだよ。口で綺麗事を言っている奴ほど、皮を剥けば馬鹿で何も考えて無い。誰かに二つ入れてもらって」
    「えっと…」
    相変わらずの毒舌だ。目が合ったが、いきなり逸らすのも変なのでしばらく窓の外を見つめる振りをしていた。

    帰り道、一人で歩いていると、コンビニ前から嫌な声がした。聞き覚えがあるが、誰かは分からない。
    横を見ると、二、三人のうちの男子生徒が七尾に絡んでいた。その三人の制服がぐちゃぐちゃに着崩されているのに対して、彼の方はシャツを第一ボタンまでしめ、セーターはベストタイプ、ズボンも何もつけていなかった。
    相手はこちらにまだ気付いていない。おおかた、コンビニ前でたむろしていた三人が、真面目な彼が通りかかった所に目をつけた、というところだろう。その気になれば走って逃げることだって出来ただろうに、彼は逃げなかった。
    相手を論破しようとしたのだろうか。どちらにしろ、危険な状態であることには違いない。
    「何してんの」
    四人がミコトを見た。男子の一人の目が恐怖の色に染まる。
    「お、おい、コイツ、砂神じゃねーか。俺達と同い年の」
    「女だろ。何ビビッてんだ」
    「お前しらねえのかよ!?コイツ、めちゃくちゃ怪力で、その気になればあそこにあるゴミ箱さえ片手で投げられるって―」
    いつの間にか噂に尾びれが付いていた。多分本気になれば投げるどころかスクラップにできる、とミコトは思ったが黙っていた。
    一番ガタイのいい男が前に出た。
    「面白れえ。ならオレが直接やってやらあ!」
    「…」
    話の状況が読めていない七尾は、ミコトと不良三人を交互に見つめていた。ミコトはため息をつくと、鞄を七尾に渡した。
    「え?」
    「持ってて」
    両手を胸の前で合わせる。深呼吸。ゆっくり吸い、吐く。
    「男が女に守られるのは素敵な響きなのに、男が女にやられるのは、どうして哀しいんだろうね?」


    数分後。
    ミコトはスカートの埃を払っていた。目の前で不良達が伸びている。七尾は目を丸くしていた。
    「鞄、ありがとう」
    「砂神さん、だよね」
    苗字を呼ばれた。微妙に嬉しい。
    「…ありがとう。僕、本当はポケモン持ってるんだけど、まだバトル慣れしてなくて。強いね」
    「…」
    どう返していいのか分からず、ミコトはベルトに付けたモンスターボールをギュッと握り締めた。そして慌てて離す。壊れたら大変だ。
    「ねえ、今度ポケモンの育て方教えてくれないかな。砂神さんなら、きっとポケモンも強いと思うんだけど」
    「…ごめん」
    ミコトは走り出した。後ろから七尾の声が追って来たが、気にする余裕が無い。恥ずかしいという思いと、嬉しいという思いがゴッチャになって、よく分からない鼓動を醸し出していた。
    「今更教えてって言われても…」
    彼はあと二日でいなくなる。その前に、何か進展があれば少しは気持ちの整理もつくだろうか。


    次の日。
    「…彼、休みかい?」
    学級委員の子は、ミコトを見た途端震えた。だがきちんと内容は話してくれた。
    「なんか、家の用事だって」
    「そう」
    荷造りでもしているのだろうか。いずれにしろ、今日は何も無いだろう。いや、何も出来ないの間違いだろうか。
    自分がこうして授業を受けている間にも、タイムリミットは刻一刻と迫っている。昨日、彼は自分のことをどう思ったか。怖いと思っただろうか。強いと思っただろうか。
    色々考えて頭がゴチャゴチャになったミコトは、放課後に職員室へ行った。
    「恋は盲目。砂神さんを見ていると、本当にその通りだと思うわ」
    「何か他の教科の先生から言われましたか」
    「うん、数学の時間にずっと机に突っ伏してるから、具合が悪いんじゃないかと思ったそうよ」
    すみません先生。多分貴方にとっては下らない病気です。でも僕にとっては重要です。…多分。
    「砂神さんのポケモン達って、今の貴方をどう思ってるのかしらね」
    三匹を思い浮かべた。(一匹を除いて)厳つい奴ら。頼りになるし、良いポケモン達だ。ただ最近はバトルには出していない。食事をあげる時、僕の表情の変化に気付いていたような気もするが、ポケモンが人の感情に入ることはまず無い。
    「…先生」
    「何?」
    「僕は、勉強もスポーツも並みの人間です。いやに怪力なことを除けば、普通の人間なんです。別に少女漫画のヒロインみたいな涙を誘うような考えも持ちません。
    …でも、何ででしょうね」

    僕、彼のこと、泣きたくなるほど好きなんだ。誰かが彼を悪く言ったとしても、彼が元々性格悪くても、それでも彼が好きなんだ。
    好きになった時から…晴れの日も雨の日も、僕は視界の隅で彼を見ていた。馬鹿らしいと頭を振って考えを否定しようとしても、それでも必ず最後はその感情が頭を支配していた。このままだと僕はおかしくなるかもしれない。そう考えたりした。
    「僕は…馬鹿ですかね」
    グダグダになった僕は、先生から見れば使い古した雑巾のようだっただろう。

    頭を抱えた僕は教室に戻った。教室には誰もいなかった。…一人を除いては。
    「…」
    七尾が何故が自分の席に座っていた。休みと言っていたのに、きちんといつもの通り制服を着ている。
    「休みじゃなかったの」
    「ちょっと用事があって」
    七尾は立ち上がった。僕は何故が足が竦んで動けない。
    彼は言った。

    「砂神さん、僕のこと―好きだよね」

    頭の中が真っ白になり、そこから否定とも肯定ともいえない言葉があふれ出してくる。多分パニックを自分なりに押えているんだろう。何だよこの少女漫画みたいな展開は。昔あったぞこんな話。僕はヒロインか。どっちかって言うと少年漫画のサブキャラにして欲しいんだけど。
    「…僕、砂神さんが好きだ」

    時が、止まった。



    「ずっと前から好きだった。ずっと僕は、特異な力に悩む君を見てた。皆に怖がられていても、君が影で誰にも相談できずに苦しんでいるのを知ってた。
    でもそんなことは関係無い。好きになった後だった。力を知ったのは。でも止めることなんて出来なくって―」
    駄目だ。もう聞いていられない。恥ずかしい。恥ずかしくて死にそうだ。黙ってくれ黙ってよ黙って黙れだまれダマレ―

    バキン、という音がした。右手の甲が赤く染まる。驚く七尾の顔が、僕の目に映っていた。
    「砂神さん!?」
    窓ガラスが飛び散る。そのまま教室を出た。畜生神様なんて大嫌いだ。何で僕の体にこんなオマケをつけたんだ。


    結局、僕はガラスを割ったことで三日の停学をくらった。校長はまたかという目で僕を見た。もう慣れっこだ。
    次の朝に、先生から電話があった。七尾の転校を皆に伝えたらしい。教室がざわめいたという。
    それが普通の反応なんだろう。

    で、夕方。

    ワルビアル達と一緒に散歩から戻ると、玄関で誰かが母親と話していた。
    「あ、ミコト。この子、アンタをたずねて来たのよ。表で話しておいで」

    七尾はうちの学校の生徒がいないところまで僕を連れ出した。不安になったのか、ポケモン達も付いてきた。
    「いきなりごめん。元はと言えば僕がいきなりあんな事言ったから」
    「いいよ。慣れてるし」
    「砂神さんの好みがよく分からなかったんだけど…」
    そう言って七尾が取り出したのは、紫と黒色のピン止めだった。そしてもう一つ。
    「これ、僕の引越し先の住所と電話番号。携帯はまだ持ってないんだ。高校に合格するまでって」
    「電話、すると思ってるの」
    「そう思ったから、渡したんだ」
    紙を受け取った。何故か破りたい衝動に駆られるが、耐える。
    「大丈夫だよ。砂神さん強いし。きっとこの先何があっても大丈夫だよ」
    「希望的観測かい?」
    「ううん」


    「確信してるんだ。だって、その目が少年漫画の主人公みたいだから。澄んでて、中が燃えてる。
    比喩表現を使うのはあんまり好きじゃないけど、本当にそう見えるんだ」


    彼はタイムリミットなしで、僕の本心を見抜いて行った。あれから何年も経つけど、連絡を取ったのは数えるだけだ。
    僕は青かった。そして寂しがりやだった。寂しがってちゃこの世界は生きてはいけない。
    それを知ったのは、皮肉にも本当に愛するべき者を知った後だった。

    僕は、愚かだろうか。


    だがそれは、きっと別の意味で愛になるのだろう。


      [No.1231] 一ミリ下さい 投稿者:エイティ   投稿日:2011/05/25(Wed) 23:24:10     69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    『さあ、新チャンピオン就任の後は皆さんお待ちかね、新旧チャンピオンによる、デモンストレーションバトルです!』

     夜空に咲く炎の花、観客に埋め尽くされたスタジアム。ひでり並みのスポットライトで照らされるのは、中央にモンスターボールのマークが大きく描かれた、シンプルで広大なバトルフィールド。長方形のフィールドの両端に一人ずつ人影が現れると、数百匹のマルマインが一斉にだいばくはつしたかのような歓声が上がる。
     数年に一度あるか無いかのチャンピオン交代に伴うバトル。ポケモントレーナーの頂点、二人のチャンピオンとそのポケモンが技巧を凝らしあい、互いに全力でぶつかる対決は、見る者の心を揺さぶらぬ筈は無い。――例えそれが過去のもので、画面越しに見るビデオであっても。だが、今回の観客は違ったようだ。

    「なあ、他のビデオねえの?」

     木の温もり溢れるログハウスのリビングで、一人の少年がバトルビデオを見ていた。テーブルに数冊のノートを広げた少年の傍らには、一匹のニドキング。

    「ラン、眠かったら先に寝てていいよ」
    「お前が寝るまで寝ない」

     ランと呼ばれたニドキングは、如何にも怪獣を主張するような牙の生え揃った大口を開け、欠伸を一つ。
     ニドランの名残を残した大きな耳、薄紫色の皮膚に逞しく太い手足。手の先には鋭い爪が三本ずつ生え、長い尾は先に行くにつれ細くなっている。背丈は発育不良気味な少年と対して変わらない、図鑑に載る平均身長ギリギリだ。
     時計の針が両方真上を向き、ランは顎をテーブルに乗せる。かれこれ二時間に渡り延々と同じバトルビデオを再生され続け、眠気と傾いてきた機嫌でランの声は何処かぼんやり間延びしていた。

    「うー……トオル、明日にしねえ?」
    「ごめんね。このビデオ明日返さなきゃいけないし、もうちょっとだから」

     少年、トオルはノートから目を離さず言い、バトルビデオを一時停止しテーブルに置いてあった分厚いポケモン図鑑の冊子を広げる。ポケモン図鑑といえば電子辞書サイズの端末が想像されることが多いが、一般的なのはこの紙の図鑑である。端末であるポケモン図鑑を手に出来るのは、ポケモン研究者に才能を見出だされデータ収集を依頼された、ごく一部のトレーナーだけなのだ。
     バトルビデオと図鑑を交互に眺め、トオルは手元のノートにペンを走らせる。
     ランはトオルに気付かれないよう、細く息を吐き出した。大きな耳が気持ち萎れ、尾はゆっくり揺れる。トオルは勤勉であるのはいいのだが、集中し過ぎて時の経過を忘れてしまうのが玉に傷だ。いつも彼に就寝を促すのは彼の両親の役目であるが、生憎、トオルの両親は出張で家を空けている。つまり今日この家にいるのは、トオルの他はランを含めたトオルの手持ち三匹だけ。そろそろ就寝したいが、熱心なトオルを見ていると邪魔をする気が引けるのだ。
     他の手持ちであるブラッキーのラキはラン達から少し離れたリビングの床に寝そべっており、ヨノワールのヨルは彼女にブラシをかけていた。口には出さないものの、ラン同様、トオルが作業を終えるまで今日は付き合うつもりらしい。
     こういう時、言葉が通じないというのは不便なものだとランは思う。
     人間は、ポケモンの言葉を理解出来ない。鳴き声や唸りにしか聞こえないのだ。ポケモンは人間の言葉を理解出来るし、ポケモン同士会話が出来る。一部の力量が高いエスパーやゴーストタイプのポケモンは、テレパシーで人間と意志疎通が可能らしいが、ここにはその存在は無い。だが、生活を共にするうちに何となくではあるが、トレーナーは自分のポケモンが何をいいたいのか、表情や仕草でうっすら分かるようになるものだ。
     夜の帳が降りた町は静かだ。バトルビデオが一時停止されている現在、部屋には時計の秒針が進む音と子気味良いブラシの音、そしてトオルの捲る本とペンの音。そろそろランも眠気に負けそうになってきた時、空を見上げていたラキが呟いた。

    「あ、流れ星」
    「え?どこ?」

     耳を跳ね上げたランはガラスの引き戸に駆け寄り、夜空を見上げる。ランはラキのルビーにも似た紅い視線の先を辿るが、天駆ける星は見あたらない。
     黄色の輪模様に黒く艶やかな毛並み、ラグビーボール状の耳と尾をしたラキは、イーブイ進化系に共通した愛らしい外見に似合わぬ冷めた目と口調で床に伏せる。

    「もう行っちゃったわよ」
    「そんなあ」

     眠気を吹き飛ばしたランは、引き戸の鍵を開け外に出た。多くの技を使いこなす種族柄か、ニドキングであるランは爪が三本であるにも関わらず、手先が非常に器用だ。
     ひやりとした夜気がリビングに流れ込み、身震いしたラキが立ち上がる。

    「やめなさいよ、寒いじゃない」
    「一回来たんだろ?もう一回位来るって」
    「何よその根拠の無い自信」

     何だかんだでもう一度流れ星を見たいのか、ラキも伸びをしてランの後に続く。ブラシを腹の割れ目に放り込んだヨルが、壁をすり抜けた後、開け放された引き戸をゆっくり閉めた。

    「うおおお……」

     三匹は夜空を見上げ、感嘆の声を上げる。
     濃紺のヴェールが空を覆い、砕いたダイヤモンドと真珠をばらまいたかのように瞬く、一面の星。ぽっかり浮かぶ金色の満月は明るい。
     此処はズイタウン。テンガン山の東側に位置する、自然と小さな牧場の町だ。人工の明かりの少ない地理と、シンオウ地方の凛と澄んだ空気がよりこの空を引き立てている。

    「これは……凄いですね」

     ヨルが呟いた。月光を浴び、体の各所にある輪模様が淡く発光し始めるラキと同じく、ヨルも頭部と両腕、腹部の顔に似た模様が明滅する。楕円形の弾力ある巨体に丸太のように太い両手、頭頂部にアンテナのある灰色の顔面には横にスリットが走り、朱い一つ目が闇夜に浮かぶ人魂の如く浮かぶヨルは、おどろおどろしいヨノワールでありながら物腰も雰囲気も穏やかだ。
     ヨルの隣でランは拳を撃ち合わせ、期待の眼差しで夜空を見上げる。

    「よし来い!いつでも来やがれ流れ星!」
    「りゅうせいぐんでも当たればいいのに」
    「来い!来い来い来い来い来い!」
    「アンタ聞いてんの?」

     ランは引っ掛かる筈のラキの言葉も聞かない。苦虫を噛み潰したように顔をしかめ、ラキは暫し間を開けた後に口を開いた。

    「……ねえ」
    「ん?」
    「もし、もしよ。これはあくまでも仮定の話だからね」

     絵に描いた餅、とらぬジグザグマの皮算用を強調してから、ラキはランを見やる。口は相変わらずへの字だ。

    「流れ星がもう一回来たら、アンタは何お願いするの?」

     自分の願いは教えたくないが、他のポケモンの願いは気になるものである。ついでに言えば、先程からランは星を妙に真剣に見上げていた。

    「ヒミツだ、ヒミツ」
    「教えなさいよ」
    「教えたらヒミツじゃないだろ」

     隠せば隠す程、興味はそそられる。周りをグルグル回るラキから、ランはひたすら目を反らす。

    「そういえば……」

     いたちごっこを続ける二匹を見たヨルは、明後日の方向を向き、人間で言えば顎に位置するであろう部位をさすりながらどことなく呟く。

    「流れ星が通った後、お願いを叫ぶとそれが叶」
    「図鑑サイズになりたああああああいッッ!」
    「スケールちっさ!」
    「ちょっとラン!」

     ラキが思わず叫び、ヨルが灰色の大きな手で慌てて二匹の口を塞ぐ。辺りを見回し、ラン達は揃って後ろを振り返る。
     変わらずトオルはノートと格闘しているようで、三匹は内心胸を撫で下ろした。
     ヨルはそれを見計らってから手を放す。

    「今は夜中ですよ、近所迷惑になったらどうするんですか」
    「だってヨル、お前が叫べって言うから」
    「いや、まさか本当に叫ぶなんて」
    「何してんのよこのおバカ」
    「うっせえ!」

     ヨルの呆れに、ラキの容赦ない追い打ち。しかしランの願いには、独身が持つ結婚への渇望にも似た切実さがあった。危機感を一蹴されたランは、自らの種族における身長の重要性を訴える。

    「いいか、お前らは百四十センチと百三十九.八センチの差なんて分かんねえだろうけどな!他のニドキングなんか、二メートルもあるんだぞ!」

     ポケモン研究の権威・オーキド博士がかつて発表したニドキングの平均身長は百四十センチ。だが最近ニドキングは種族自体に巨大化傾向があるらしく、トレーナーが育成した個体は勿論、野生個体ですら二メートルを越える。かつてセキチクシティにあったサファリパークで飼育されていたニドキングは、最大で六メートル近くあったという記録すら残っていた。
     それに対して、ランの身長は図鑑平均ギリギリの百三十九.八センチ、子供のトレーナーサイズである。ランは相当に小柄なのだ。

    「俺だってなあ、毎朝モーモーミルク一瓶飲んでんだぞ!」

     そして、本人(?)の努力にも関わらず、その二ミリは一向に埋まる気配が無い。

    「見てろよお前ら!」

     ランは拳を握り締め、高らかに宣言しようとする。

    「お前らは俺のことチビチビ言うけど、いつか俺はコガネのラジオ搭位でかくなってだなあ……」
    「いいんですか?そんな巨大化して」
    「何が」

     腕を組んだヨルが、ランに水を注す。スリット奥の朱い一つ目がランを見下ろした。

    「あなたがゴドラ対ウルガモスラとかアバゴメラみたいな大怪獣になりたいと願うのは別に止めませんが」
    「お前懐かしい映画引っ張って来るな」
    「人の話は聞きなさい」

     ヨルは元々ポケモンでも大柄な部類に入るヨノワールだ。ヨノワールという種族は壁をすり抜けることが出来、体格差が大して意味を持たない。従って、この部類の悩みを持つ者の心情が理解し難いのだ。

    「とにかくですね」

     ヨルは言葉を切った。

    「あなた、そんな大きくなったらトオルとお昼寝出来ませんよ」
    「よしやっぱ図鑑サイズだ!」

     ランの実に速い変わり身と同時に、ラキは一歩後退る。

    「昼寝って」
    「いいだろ!」
    「威張ってどうすんのよ!」

     ラキは深く嘆息した。ランは確かにニドキングだ。だが進化しても中身はニドラン並みの単純お気楽思考で、その自覚に大きく欠けていた。

    「アンタね、あのガキンチョを毒まみれにしたい訳?それとも尻尾で叩いてミンチにしたいの?」
    「そんなに寝相悪くねえよ」
    「カーペットは涎まみれですけどね」
    「…………」

     ランは閉口する。

    「……じゃあ、ブースターに寄りかかってる人間はどうなんだよ?あいつら体温九百度あるってトオルが言ってたぞ」
    「アンタね」

     ラキは言葉を濁すランを真顔で見上げた。

    「自分のビジュアル見て出直してきたら?」
    「…………」

     ラキはあっさり答え、心底つまらさそうに背を向ける。
     ランはぐうの音も出ず黙り込んだ。頭も語彙も貧相なランは、それでも何とか反論を捻り出そうとした。此処で手を出せば、敗北も同然なのである。
     ランは目の前のブラッキーの背中を睨みながら鋭い牙の揃った頑丈な顎で歯軋りし、電柱もマッチ棒のようにへし折る尾を空回りさせ、頭を抱えて考えて。

    「ヨル!何かコイツに言ってやってくれ!」

     パンクした。

    「そこまで勿体つけたら自分で反論しましょう!?」
    「俺にそんだけの頭あると思うか?」
    「失礼しました」

     ヨルとランが話す間に、ラキはリビングを振り返る。ノートを畳み、目を擦りながらテレビを消すトオルの姿が見えた。ポケモン達がリビングにいないことに気付いたトオルは、引き戸を開けラン達を呼ぶ。

    「ラン、ヨル、ラキ、お待たせ。寝よう」
    「今いくぜ、トオルー!」
    「分かりました」
    「はいはい」

     三匹は各々返事を返し、少年のいる自宅に戻る。トオルは自室に本を片付けに行った。


      [No.1220] B面【数え切れないほどの「嫌い」は、どうしたらいい?】 投稿者:リナ   投稿日:2011/05/23(Mon) 22:30:40     70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    1.死ねばいい。音楽が好きな奴はコンプレッサーに潰されたベースラインと一緒に。酒が好きな奴は四十七度を一リットルふっかけて。女が好きな奴は卑猥な下着と聴くに堪えない壁越しの声にまみれて。ポケモンが好きな奴は――ああ、もう死んでるようなもんだ。


    2.アンテナはとうの昔に折れてる。違和感に気が付いたのは十年も前だったけど、全員が見て見ぬふりをした結果がほら、メルトダウンは目前だ。汚染されてるのは何もそこだけじゃない。ハナっから世界が泥だらけ。まあでも大丈夫だ。「直ちに健康に影響を及ぼす値ではない」からな。


    3.あの子みたいにスタイルがよくなれたらきっと視界が激変するわ。もしウチがあの子だったら、グラエナみたいに息荒く近寄ってくる男どもの鼻先から、欲しいものだけかすめ取ってカジノでベットしてやるの。


    4.歯車。ギシギシと耳障りな音を響かせてかろうじて噛み合って回ってる。この街の片隅の、ほとんどだれも見向きもしないボロアパートには歯車にさえなりきれなかった鉄屑がいると聞いた。ギアルの方が存在価値がある皮肉。


    5.もうバーチャルとリアルはイコールで結んで良い頃でしょう。ウェブ上の権限と現実の地位の境界線など、これからの時代、経済発展の妨げになるだけです。分からないんですか? イライラしますね、あなたと話していると。


    6.嫌い? アタシのこと。アタシじゃだめなの? ねぇ答えて――直すから、ちゃんとあなたが望んでる通りになるから。お願い――


    7.百五十一匹だったんだ、お父さんが子供の頃はね。どんどん新種が発見されてもうついていけないな。そうそう、おまえのタブンネ、昨日テレビで紹介されていたぞ。かなり人気の種類なんだな。たぶんね――なんちゃって、あ、おいおいそんな冷めた目で見ることないだろ―― 


    8.腹立つんだ。ボクを馬鹿にするやつは。みんなボクの凄さを分かってない。将来ボクは世紀の大発明をするんだ。転送装置なんて、時代遅れにしてやるんだ。教室の前でヘラヘラ笑ってるあいつらなんか一生たどり着けないレベルにボクは立つんだ。


    9.ははは!!! ポケモンマスターって本気かよ! この時代に? 冗談だろ?! 笑い死ぬ!! 大体そんな名前の職業あんのかよ。いや、悪い悪い。ないよな。免許皆伝ってことは、そうなった頃には仕事なんて選び放題だから、そんなの関係ないよな――はっははは!!!!


    10.そろそろ二足歩行に限界を感じてるんだが、おれだけか? そんなことないはずだ。朝起きて仕事のことが頭によぎった瞬間吐き気をもよおすようなら、残り少ないライフ使って精神科へ行け。


    11.なにコイツ、キモい。さっきから自分のくだらない自慢ばっかり。しゃべり方からして生理的に受け付けない――まあでもお金持ってるなら、寝てもいいけど。


    12.バトル――よく分からないんだ。人にポケモンを戦わせる権利がどこにある? 平気で技を指示する連中の気持ちが分からない。まるで「スポーツ」みたいに言ってるけど、傷つくのは君じゃないから言えるんだ。


    13.サッちゃんがね、いっしょにあそぶって言ってたのに、かえりの会おわったらすぐミチコちゃんとかえっちゃったの。やくそくはやぶっちゃいけないってお母さん、言ってたよね?


    14.もう何年も前になるかのう、わしのニョロモは車にひかれてこの世を去った。飲酒運転じゃったよ。今は感情など消えてしまったが、当時は怒り狂ったもんじゃ――


    15.嫌いなんだ。別に理由なんてない。















    ∞.私、気付いちゃったんです――その瞬間、ものすごく怖くなって、身震いがしました。おかしいんです、この世界。そうです、この、私たち人間と、ポケモンと、いろんな生き物が暮らしているこの世界です。 
     正直、知らない方が良かった。だって、こんなこと知りさえしなければ――

     あなたのことも嫌いにならずに済んだのに。
     もう、どうしようもありません。








     ◇ ◇ ◇









    ∞.私、気付いちゃったんです――その瞬間、ものすごく怖くなって、身震いがしました。おかしいんです、この世界。そうです、この、私たち人間と、ポケモンと、いろんな生き物が暮らしているこの世界です。 
     でも、知ることができたから、理解できたから――

     あなたのことも嫌いにならずに済みました。
     怖くて手も足もすくむけど、それ以上に、知ることは嬉しい。














    1.死のうとか考える前に、ちょっと思い出せよ。音楽が好きな奴はコンプレッサーに潰されたベースラインと一緒に。酒が好きな奴は四十七度を一リットルふっかけて。女が好きな奴は卑猥な下着と聴くに堪えない壁越しの声にまみれて。ポケモンが好きな奴は――もう一度、そいつの目、見てみろよ。おい、見えるか? 分かるか? 感じるか?





     ――――――――――


     病み過ぎ――と自分に突っ込む。

     【なにしてもいいのよ】


      [No.1209] You can do! 投稿者:でりでり   《URL》   投稿日:2011/05/20(Fri) 19:57:50     140clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     きっかけはとある春の日の体育の授業だった。
     たまたま風邪をひいてて見学していた私は、アクティブさが微塵も感じられない女子のバレーから目を背けて、男子のサッカーを見つめていた。
     ……いや、気付けばいつの間にか私の目線は薄汚れたサッカーボールから一人の男子を捉えていた。
     走り回りながらも決してしんどそうな顔を見せず笑顔でグラウンドを軽い身のこなしで駆け抜け、チームの皆に指示を出すあの男子。
     確か大和っていう名前だったかな。中学二年生に上がったばかりだから、クラスメイトとはいえクラス替えしたばかりだし、そもそも異性の名前というものは覚えにくいものである。
     とにもかくにも不思議な引力が働いて、私は彼から目が離せないでいた。
     相手のディフェンスをフェイントでかわし、ゴールネットにボールを突き刺してはしゃぐ彼。私もつられてガッツポーズして、ちょっとしてから何やってるんだろうと思ったけれども、それは沸き立つ感情からしたら些細なものであって、咎める気にはならなかった。
     気付けば体育が終わってからのその日の授業も、黒板や見飽きた教師ではなく、斜め前の席に座る彼の後ろ姿ばかり眺めていた。
     学校が終わり日が暮れて、家に帰っても上の空。家族も訝しげな目で私を見ていたけど、どうも何にも身が入らない。心配する家族をよそに唯一じゃれてきた弟のニャースには、げんこつもといミニアームハンマーをしたらその日は寄ってこなくなった。
     もちろんこの上の空の理由は分かる。寝ようとベッドに転がりこんでも、昼の出来事……いや、彼の姿が頭から離れない。
     こういう気持ちは少女漫画とかドラマとかで知っている。
    「恋……ってやつなのかな」
     と自分に言い聞かせたつもりでぽつんと呟いたのだが、ベッドの隣でソーナノ! と私の唯一な手持ちが大声を出した。馬鹿にされてる気がして腹が立つ。手の届く範囲にあったぬいぐるみをなげつけると、小さな悲鳴があったがすぐに黙った。ほがらかポケモンなんだ。どうせまた笑顔をこちらに向けるに決まっている。



     翌日は朝からひどくブルーだった。
     今日は授業でポケモンバトルの実習がある。実習自体は好きだ。体力に差があるから男女別に分けられる体育と違って、男女合同でこの実習は行われる。私からしたらとろくさい女子と生ぬるいことをしなくていいし、……何より勉強が苦手だからこういう授業はおお助かりなのだ。
     が、そのポケモンを忘れて来てしまった。
     と私は右手にモンスターボールを持ちながら思った。
     これに入ってるあのバカソーナノはこれっぽっちもバトルに向かない。バカバカいいながらそれなりにきちんと可愛がっているのだが、ソーナノがする受身なバトルはせっかちな私には向きやしない。だから大概は喚く弟の頭をはたいてニャースを連行する。あのニャースは甘いものさえ与えればちゃんと言うことを聞いてくれるのだ。
     しかし上の空の弊害で、実習のことを思い出したのは登校してきてからだった。ああ、弱った。他にも頭の中でぐちゃぐちゃ考えていたけど、もちろんどうにもなりそうになかった。



     どうしようなんて答えのでない考えを放棄して、相変わらず大和君の背中を見ているとあっという間に授業は進み、三時間目に実習が入る。
     うちのクラス四十人がゾロゾロとグラウンドまで出ると、思い思いにポケモンをモンスターボールを繰り出す。イシツブテやらコロモリやらケムッソチョロネコマグマッグ……、あとソーナノ。
     このソーナノを実習どころか他のポケモンがこんなにいっぱいいるところで出したのは初めてで、ぴょこぴょこ飛び回りながらあちこち走り出す。
    「あ、ちょっと!」
     まだ子供のソーナノは、物珍しさからか他のいろんなポケモンの方へ駆け寄り様子を見てはまた別のポケモンを見る。それを追いかけていると、ソーナノは終いには他人のポケモンとぶつかってしまう。ぶつかられたバルキーも、ぶつかったソーナノも別にケガをするでもなかったが、迷惑なのは迷惑だ。ソーナノを抱き抱えてトレーナーに謝る。
    「うちのソーナノが迷惑かけてごめん!」
    「ん? 全然大丈夫だよ」
     テンパりながら謝ってから気付いた。バルキーのトレーナーは大和君だった。意識してしまったせいか、なおさら申し訳なくなる。
    「なかなか可愛いソーナノだね」
    「そっ、そうかな……」
     それに反応して、ソーナノ! と足元から声が聞こえてうるさい黙れ、いつも通りはたこうと右手を振り上げたが、ここは彼の手前、あははと誤魔化して右手で後頭部を撫でる。
    「えー、今日はマルチバトルをします。適当にペアを見つけて、他のペアと自由に対戦してください」
     やや年老いたおばさん教師がにこやかに言い放つと、他のクラスメイトたちは思い思いにペアを組み始める。どうしよう、そう思ったときすぐそこから声がかかる。
    「ねぇ、よかったら俺と組まない?」
    「えっ!? わっ、私でいいの?」
     大和君が声をかけてくれた。しかし彼は私が驚いたことが想定外だったのか、困惑した表情を作る。
    「ダメ……かな?」
    「ソーナノ!」
    「あんたうるさい! ……じゃなくて、むしろこちらこそ!」
    「良かった、それじゃあ行こうか」
     私と彼の優しげな目が合うと、なぜだかまっすぐ見ていられなくて視線を逃がし、彼の問いかけに対して自分で言ったか言っていないかわからないくらいでうんとしか答えれなかった。
     対戦相手は大和君とよく一緒にいる男子の友人ら二人組。対戦する前に、大和、女子と組んでるのかよーと冷やかされて、彼の評価に悪影響を与えたかと思い、うつむいてしまったが、彼はそんな友人の言葉を軽く流して私に頑張ろうな、と優しく声をかけてくれた。
     でもソーナノで頑張れるのだろうか。先行きの不安から、苦笑しつつうんとだけ返す。足を引っ張るのだけは避けよう。彼の面子のためにも、私自身のプライドのためにも。
     先生の合図によって一斉にマルチバトルがあちこちで始まる。私たちもそれに続き、早速声が飛び交った。私たちは無論ソーナノとバルキー。向こうはブビィとクルミル。上手い具合に物理攻撃も特殊攻撃も出来そうなコンビじゃないか。ただただ投げやりにカウンターかミラーコートを指示するだけじゃどうにもなりそうにない。だったら!
    「体当たりだクルミル」
    「ブビィ、睨み付ける!」
     来た! その指示を待っていた!
    「ソーナノ、ブビィにアンコール!」
     そして私は大和君の方を向いて、また目が合ってややドキリと心臓が大きく鐘を鳴らしたが、クルミルをお願い、と早口で伝えたいことが言えた。でもそれが上ずった声だったから、その声が自分の耳に入ったとき恥ずかしさから顔まで赤くなって、誤魔化そうと再びポケモンたちに視線を向けた。
     彼の指示と共にバルキーがクルミルに猫だましをしかけ、怯んで動けない横をソーナノがぴょこぴょこ跳ねて場を睨み付けるブビィの元に向かい、アンコールを仕掛ける。決まった、これでブビィは封じた!
     陽は高く影は伸びていないというのに、狙ったかそうでないかは知らないけどソーナノが良いポジションにいる。
    「ブビィ、火の粉だって! 睨み付けるじゃなくて!」
     あの男子は相当バカみたいだ。鼻でふんと笑って、ソーナノにそこから動かないでと指示する。するとこちらを向いてソーナノ? と首をかしげたもんだから、ああバカばっかりだと思う。なんとか足踏みするジェスチャーで伝えたら、ソーナノは頭を縦に振る。
    「バルキー、クルミルにバレットパンチだ!」
    「クルミル、後ろに下がって避けろ!」
     猫だましから続けて一撃喰らわそうと右手を振りかぶるバルキーの攻撃を避けようとする指示だろう。しかし、クルミルは動けない。バレットパンチを受けても動かないクルミルを、バルキーはぼこぼこにする。さすがに可哀想になってきた。
    「もういいよ、ソーナノ」
     トリックは簡単、特性影踏みは、影を踏んだ相手の動きを任意である程度は抑える効果。これでクルミルをサンドバッグにしたのだ。すっかり動けなくなったクルミルをボールに戻した男子をよそに、ブビィはようやく動けるようになったらしい。
    「ブビィ、今度こそ火の粉!」
    「ミラーコート」
     油断だらけだ。さっきから火の粉火の粉って言っていたら、こう対処すればいいだけで、ソーナノが受けたエネルギーの倍のエネルギーをそのまま返せばあっさりブビィは動けなくなった。
    「ふぅ……」
     ほっと胸を撫で下ろす。大和君の足を引っ張るとかそんなこともなく無事に勝てた。そうのんびり余韻にひたる間もなく、大和君がやったな! と声をかけてくれる。そして彼は右手を顔の横くらいに持ち上げる。それが何を意味してるか分からないでボンヤリしていると。
    「ハイタッチ」
     と彼に言われて慌てて右手を彼のと重ねる。
     パシィンと響かせて、彼の肌に触れたんだなぁと思うと、右手が感じる温もり以上に顔が熱くなって真っ赤になる。
     またまたうつむいてしまうと、大丈夫か? 保健室行く? と尋ねられて慌てて首を横に振る。
     あぁ、保健室の先生が恋の病とか直せたなら喜んで行ったのになぁ。



     それからと言うものの私の上の空具合は加速して、上の宇宙(そら)まで行ってしまった。
     当然他の授業に身が入ることもなく、なんと大和君の背中を見るだけで顔が赤くなる! これにはダルマッカもビックリ間違いない。
     なんとかしなくちゃいけない。このままではたぶんぼんやりしすぎて帰り道に事故にでも遭いそうだ。
     じゃあどうしろと。
     十歳年が離れていて去年結婚をした従兄弟は、恋愛は恐ろしいぞがははとこの前言っていた。恐ろしすぎてどうにかなりそうだった。
     そんなことを考えてる帰りの道中である。ついでなのでソーナノを連れながらぼんやり歩いていると、背後から私の名前を呼ぶ声がした。
     もしかしてと振り返れば、大和君が駆け足でこちらにやってきていた。
    「ど、どうしたの? そんなに慌てて!」
    「気になることがあってさ……」
    「気になる……こと?」
    「バトルの実習からずっとぼんやりしてたから、やっぱり何かあったのかなって思って……」
     貴方のせいだなんて言えない。
    「もしかして俺のせい? 何かしてたなら謝るから!」
     なんて急所に当たる一撃。て、適当に誤魔化して帰ろう!
     そう踵を返そうとしたら、足がコンクリートとひっついたかのように動かない! まさか。こいつめ!
     どうやら上半身はある程度動くようなので、首を動かしてこいつ、ソーナノの方を見れば……予想通りだった。
     私の影を踏んでいやがる。
     私に何を期待しているんだまったく!
    「と、とりあえずごめん!」
    「あ、謝らないで。何もないし、あったとしても私のせいだし」
     そう言った途端ビターン! と、かなり派手な音がした。発生源はまたもやソーナノ。恐る恐るソーナノを見れば、またもやしっぽを持ち上げてアスファルトに叩きつける。ビターン。ソーナノのこの習性は怒ったときにするものであって、つまりこいつは今絶賛お怒り中なのだ。大和君も呆気に取られている。
     私をこのタイミングで影踏みした挙げ句怒ってるとなると……。
    「ごめん、嘘ついた。実は大和君のせい」
     ほら止んだ。ソーナノは険しい表情からいつものようなニコニコ笑顔に戻った。
    「おっ、俺何かしたかな。責任取れるなら取るから!」
     こうなったらやけだやけ! 顔だけじゃなく、身体中まで熱くなって、今の私は茹で蛸と区別がつかないだろう。でもソーナノのせいでどうすることも出来なくて、ええいままよ! 大和君ごめんなさい!
    「大和君のことばっか考えちゃってて、いろんなことに身が入らないから……。だから、責任取って私と付き合って!」
     ふわりとした感覚とともに、下半身の自由が効くようになった。もう何言ってんだ私! このまま蒸発するかダッシュで逃げたい! ほら大和君だって戸惑って……あれ?
    「お、俺でいいなら……」
     うっそだー。まさかの展開に逃げることを忘れていると、脇からソーナノ! と聞き飽きた声がする。
     何であんたが返事すんのよ、それが可笑しくって笑い出すと、つられて彼も笑い出す。
     春の空に二つの笑い声がこだまする。


    ───
    【好きにしていいのよ】

    チャットでもらったネタ「影踏みとか黒いまなざしとかその辺で書け」というお題を消化。
    ただ普通にやるだけじゃつまらないので奇をてらしてみました。
    書いててソーナノ可愛いなとか思ってたんだけどこいつ60cmもあるんだって!
    でかい!!
    ちなみにこの一カ月の間にこんなイチャイチャものを三作書いてて非リアなわたしはめげそうです。


      [No.1198] P@SSION☆プリカちゃん 投稿者:586   《URL》   投稿日:2011/05/17(Tue) 21:30:48     276clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     「きぃぃぃぃーっ! あんの泥棒猫ぉ〜っ!」

    かたかたと歯を震わせながら、プリカちゃんがおもむろに口走りました。トレードマークである桃色のふわふわボディを目いっぱい膨らませつつ、全身でもって昂ぶる感情をアピールしています。

    プリカちゃんは今、身を焦がすような猛烈な怒りと嫉妬に燃えていました。

     「何とかして、マリカちゃんからあの泥棒猫を引き離さなきゃ……!」

    すっかり伸びきったハンカチを噛み締めながら、プリカちゃんは誓いを新たにするのでした。






    プリカちゃん。ちょっと大人っぽい黒いリボンがチャームポイントの、おしゃまさんのプリンです。得意技はもちろん「うたう」。相手を眠らせるための「技」としても得意だし、そうでなく普通に歌うことも大得意です。むしろ、綺麗な歌声を披露することのほうが多いくらいです。

    マリカちゃんはプリカちゃんの親で、プリカちゃんがタマゴの頃から面倒を見てきてくれた大切な存在です。普段からモンスターボールに入れたりせず、大切なパートナーとして心を深く通わせています。

    そんなマリカちゃんとプリカちゃんの大好きなこと、それは。

     「プリカちゃん、歌うよ!」
     「うんっ!」

    もちろん、歌うことです。正確には、マリカちゃんが楽器を演奏して、プリカちゃんが歌うという構図になります。マリカちゃんはどんな楽器でも弾きこなし、一度聴いた曲はすべてのパートを完璧にコピーできる天才少女でした。そこへ、小さな頃(具体的にはププリンの頃から)から地道に歌う練習を積み重ねてきたプリカちゃんが美声を重ねる。これぞ、最高の組み合わせです。

    小さな頃から特訓してきたので、プリカちゃんは普通に人間の言葉を話すことができます。それもかなり流暢だったりします。言葉の意味やつながりもしっかり理解していて、マリカちゃんと正確に意思疎通ができるほどです。おかげで、プリカちゃんはマリカちゃんの家族からも「家族の一員」として認識されていました。

    二人は町内の催し物や小さなイベントに出ては、美しい演奏技術と歌声、そこから紡ぎだされる絶妙なコンビネーションを披露していました。プリカちゃんはそれが楽しくて仕方ありませんでした。浴びせられる歓声、鳴り止まない拍手、そして何よりマリカちゃんと一緒に歌えること。そのすべてがプリカちゃんの喜びでした。

     「ねーねープリカちゃん! わたしまた新しい曲作ったよ! 一緒に歌おうよ!」
     「もちろん! あたし全力で歌うわ!」

    二人をつなぐKEY WORD。それが歌でした。マリカちゃんと一緒に思いっきり歌を歌う、楽しい毎日がずっと続く。マリカちゃんのパートナーを努められるのは、自分一人だけ――プリカちゃんは、そう信じて疑いませんでした。






    ――おかしくなったのは、マリカちゃんとプリカちゃんの元に、一人の女の子がやってきてからです。

     「マリカちゃん……その人、誰?」

    日課の散歩から帰ってきたプリカちゃんの目の前には、マリカちゃんより一回り背の高い、ミニスカートの女の子が立っていました。マリカちゃんは女の子に親しげに寄り添って、いつもプリカちゃんに見せるような満面の笑みを浮かべています。一体、誰なんでしょうか。

    戸惑いつつも、プリカちゃんは問題の女の子の特徴を整理し始めました。さっきも言いましたが、背は高いようです。少なくとも、マリカちゃんより一回りは高いです。髪型はかなり独特です。先端から二手に分かれて、地面に付きそうなほど長く伸びています。例えるなら――そう、ミミロップに似ています。カラーリングをミントグリーンにすれば、ほぼ完璧です。髪留めはひし形のダークピンク。耳にヘッドセットを付けているのも確認できました。

    左腕には、液晶パネルのようなデバイスが装備されています。スペクトラム・アナライザー(スペアナ)でしょうか? そこから上へ辿ると、素肌に「01」という印字が見えます。衣装自体はノースリーブで、デバイスを装着するために黒いアームカバーを着用しています。中央には髪の色と同色の長いネクタイ。黒いタイピン二つで留めているのが分かります。足回りはブラックのロングブーツで武装。生地は薄いようです。見た目から得られる情報は、大方こんなところです。

     「えへへっ♪ びっくりしたでしょ! すっごい人気で、うちに来てもらうまで大変だったんだよ〜」
     「初めまして! 貴方が、マスターのパートナーのプリカさんですね!」
     「ち、ちょっと……あたしの名前、知ってるの?!」
     「わたしが教えてあげたんだよ! これから、一緒に歌うパートナーになってくれるからね!」
     「なんですと?!」

    プリカちゃんがカッと目を見開きました。前方に身を乗り出して、マリカちゃんと謎の女の子に目を向けます。二人はプリカちゃんの様子が変貌したことに気付かぬまま、仲睦まじげに会話を続けます。

     「今までできなかった曲も、これでできるようになるよ〜♪」
     「あわわわわわ……」
     「はいっ! マスターのために、私、頑張ります!」
     「はわわわわわ……」
     「うん! わたしもうんといい曲を作って、いっぱい歌わせてあげるからね!」

    うんといい曲を作って、いっぱい歌わせてあげる。この言葉に、プリカちゃんはガチで石化しました。一体どういうことだ? マリカちゃんがこのぽっと出のどこの馬の骨とも皮とも知れない正体不明のミミロップ似の女の子と歌う? しかも曲を作ってあげる? どういうことなんだ? と。

    プリカちゃんが石化している間に、マリカちゃんとミミロップ似の女の子が楽しげに話しながらリビングを発ちます。

     「じゃ、早速練習しよっか! 今から大丈夫?」
     「もちろんです! 歌わせてください!」
     「――ち、ちょっと……」

    マリカちゃんの自室に向かう二人を、プリカちゃんはただ見つめ続けることしかできませんでした。

     「……………………」

    ばたん。マリカちゃんの部屋のドアが閉まってしまいました。プリカちゃんは口を半開きにしたまま、右腕を中途半端に前に突き出した状態で固まっています。呆然とした表情のまま、閉じてしまった部屋のドアをしばし凝視します。

    プリカちゃんはおよそ二十秒ほど同じ体勢で硬直した後、ようやく動き出しました。

     「な、な、な……な、なんなの〜! あいつ、一体なんなのよ〜っ?!」

    ――これが、プリカちゃんの苦悩の始まりでした。






     「落ち着こうよあたし……焦っても仕方ないわ。あんなぽっと出のヘンなヤツに、マリカちゃんがパートナーを任せるはずないもの……」

    ぶつぶつ呟くプリカちゃん。口では余裕を装っていますが、態度・口調・表情に余裕はちっとも感じられません。自分の部屋で――プリカちゃんには専用の部屋があてがわれています――うろうろうろうろ落ち着きなく動きながら、次にどう動くべきかを懸命に思案していました。

     「Yo! プリカ、Do-したんDai?」
     「あ、ゲロッパじゃない」

    懊悩するプリカちゃんの前に、ゲロッパと呼ばれたポリゴン2が現れました。丸いサングラスをきらりと光らせ、ボリューム満点のアフロヘアーを揺らしながら、ふわふわとプリカちゃんに近づきます。どちらもゲロッパの趣味です。

    ゲロッパはマリカちゃんと一緒に作曲を担当していて、マリカちゃんが愛用するキーボードタイプのシンセサイザーの調整を主な仕事にしています。他にも、マリカちゃんの楽曲にリアルタイムでリバーヴ・コーラスなどのエフェクトを付加したり、内蔵された音源を駆使して別パート(主にドラムパート)を担当することもあります。彼の位置付けは、マリカちゃん・プリカちゃんに続く三人目のメンバーといったところですね。ですから、プリカちゃんとの関係も深いんです。

     「どうしたもこうしたもないわよ。見た? あのミミロップみたいなよく分かんない女の子」
     「見たYo! なかなかイカしたCuteな娘だと思うZE!」
     「ちょっとゲロッパ、それ本気で言ってんの?! 冗談じゃないわ! このままじゃ、あたしが歌えなくなっちゃうじゃない!」

    プリカちゃんの危惧はそこにありました。例のミミロップ似の女の子が自分に成り代わってボーカルを担当して、自分がお払い箱にされること。それだけはなんとしても避けなければなりません。プリカちゃんの切実な思いが、そこにありました。

     「So-So。さっきマリカChanの部屋で二人がTrainingしてる最中の風景を撮影してきたZE!」
     「練習風景を? ねえゲロッパ、あたしにも見せて!」
     「いいYo! Let's Play!」

    ゲロッパはプリカちゃんの依頼を受けて、フラッシュメモリに記録した二人の練習風景を収めた動画を、目から壁に向けて投影し始めた。

     「よーし! じゃ、まずは肩慣らしにこの曲から! 行くよ〜! せーのっ!」
     「さーいーたー♪ さーいーたー♪ ちゅーりっぷーのー はーなーがー♪」
     「ふ、ふん! た……ただ、ただのど、どどっ、童謡じゃないっ!」
     「あの娘は童謡、プリカは動揺ってKANJIだけどNEー」
     「う、うるさいっ! とにかく、あたしがパートナーなのは変わらないもん! あんなの、す、すぐにお払い箱だわ!」

    マリカちゃんの唯一人のPrivate Service。それがプリカちゃんの誇りでありアイデンティティです。そう簡単にパートナーのポジションを取られるわけがない。いやいや取られてなるものか。プリカちゃんにだって意地があります。

     「すぐに……すぐに元通りになるわ……!」

    腕組みをしながら言うプリカちゃんですが――やっぱり、どことなく余裕が感じられませんでした。






    ――マリカちゃんとミミロップ似の女の子が行う練習は、その後も続いています。

     「いい感じっ! その調子っ!」
     「サイコパワーを 心に 秘めて♪ はてしない道を 走る♪」
     「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……!」

    思いのほか上手にたたかうアイドルの曲を歌いこなすミミロップ似の女の子と、とても楽しそうなマリカちゃんの声。こっそり部屋の中を覗き込みながら、プリカちゃんはしきりに歯噛みしていました。単刀直入に言うとすごい悔しい。そんな状態です。

     「くっ……! 焦っちゃダメ! すぐになんとかして見せるんだから!」

    自室に戻ると、ベッドの上で寝転がっていたミミロップ人形(原寸大)をさっと拾い上げ、怨念をこめて握り締めます。ぎりぎりと首を締め上げながら、プリカちゃんが呪詛の言葉を口にします。

     「すぐに分かるわ! マリカちゃんには、あたししかいないってことが!!」

    ぎゅっ、と手に力をこめると、ミミロップ人形(原寸大)の体が歪んで、変わらないはずの表情が心なしかちょっと苦しそうになった――ような気がしました。

     「ここにいても仕方ないわ……外で対策を考えなきゃ」

    ミミロップ人形(原寸大)をベッドに放り投げると、プリカちゃんは部屋から出て行きました。






    さて、外に出たプリカちゃんでしたが、これといってあのミミロップ似の女の子を追い払う名案が思いつくわけでもなく、ただ難しい顔をして歩くばかりでした。プリカちゃんは今、近くにある商店街にいます。

     「どうすればいいかしら……」

    実力行使に打って出るか、はたまた搦め手を駆使して頭脳プレーで追い出すか。いろいろと考えをめぐらせるものの、焦りと苛立ちが先に立ってしまい、うまく考えがまとまりません。こんな状態で何かアクションを起こしても、きっと失敗するだろう――プリカちゃんは自分にそう言い聞かせるのが精一杯でした。

    晴れぬもやもやを胸の中で弄繰り回しながら、プリカちゃんがぽてぽて歩いていた時のこと。

     「ねえ、ユンゲラーさん! スプーン曲げ見せてーっ!」
     「ぼくも見せてーっ!」

    通りがかりの紳士、もといユンゲラーさんが、子供のナゾノクサちゃんとサンドくんにせがまれて、得意技の「スプーンまげ」を披露しようとしていました。その様子を見かけたプリカちゃんが、すっとその場に立ち止まります。

     「よかろう。私のサイコパワーを君たちに見せてあげよう」

    ユンゲラーさんが「サイコパワー」という単語を口にした瞬間、プリカちゃんの脳裏に、あのミミロップ風の女の子の姿がふつふつとよみがえってきました。マリカちゃんと楽しそうに練習する光景も、合わせて一緒に。

     「……………………!」

    プリカちゃんの行動は、別の意味で迅速でした。

     「サイコパワーですってぇ?」
     「……なぬ?!」

    スプーン曲げを披露しようとしていたユンゲラーさんからスプーンをひったくると、プリカちゃんがユンゲラーさんに思いっきりメンチを切りました。スプーンをひったくった手がかたかた震えています。ユンゲラーさんと取り巻きの子供達が、何事かとプリカちゃんを見つめました。

     「見せてあげるわ……腕力(ハンドパワー)>超能力(サイコパワー)ってことを!」
     「ち、ちょっと……」

    両手でスプーンを持つと、プリカちゃんはありったけの力を込めて――

     「ぜりゃああぁあっ!!」
     「わぁ?! スプーンが半分に折り畳まれちゃった?!」

    スプーンを豪快に二つに折り畳んでしまいました。ビビるくらい半分に折り畳まれています。見ていた子供達が、目を真ん丸くします。

     「ぜーはーぜーはー……い、いつか、あいつもこんな風に折り畳んでやるんだから……!」

    鉄クズと化したスプーンを放り投げ、息を切らせたプリカちゃんがその場から立ち去りました。

     「すごいすごい! スプーンが折り紙みたいになっちゃった!」
     「す、スプーンが……」

    プリカちゃんの馬鹿力に興奮する子供達を尻目に、大切なスプーンを使い物にならない状態にされたユンゲラーさんがその場で絶望していました。






    ――プリカちゃんの悩ましい日々は、まだ続いているようです。マリカちゃんの部屋では、女の子が楽しそうに歌っています。

     「GO MY WAY♪ GO 前へ♪ 頑張って ゆきましょう♪ 一番 大好きな……」
     「タワシにでもなってなさいよぉおおぉぉおーっ!!」

    ミミロップ人形(原寸大)にハイタッチという名前のウェスタンラリアットをぶちかましながら、プリカちゃんが部屋でキレていました。ハイタッチ(ウェスタンラリアット)を食らったミミロップ人形(原寸大)が壁に叩きつけられて、ぐったりとその場に崩れ落ちました。

    ぶっ飛ばされたミミロップ人形(原寸大)を見つめながら、プリカちゃんがぜーぜーと肩(?)で息をしています。プリカちゃんの肩はどこって? それは聞かないお約束です。

     「はー、はー……いけないわ、このままじゃおかしくなっちゃう……」

    ここのところ、プリカちゃんはこんなことばかり繰り返しています。ぶんぶんと頭を振って、一旦気を取り直します。プリカちゃんの頭はどこって? それも聞かないお約束です。

     「上手上手! この調子で頑張ってね!」
     「はいっ! プロデューサーさんっ!」
     「いつの間にかマスターからプロデューサーにクラスチェンジしてんじゃないわよーっ!!」

    怒ったプリカちゃんが風船のような体を膨らませて、ベッドの上でぽよんぽよん跳ねています。燃え上がる感情はBurn on to Karie。燃え滾るような思いが身を包みます。

    と、そこへ。

     「あっ、プリカちゃん! トランポリン遊び? わたしも混ぜて〜!」
     「せっかくですから、私も一緒にっ!」
     「だぁーっ!! 違うわよーっ!!」

    プリカちゃんの部屋へやってきたマリカちゃんと女の子が、同じようにベッドの上でバインバインと跳ね始めました。

     「プリカちゃん! これ楽しいですね!」
     「あたしは楽しくなーいっ!!」

    全体的に有耶無耶にされたまま、結局三人でトランポリン遊びを続けたのでした。

     「ちくしょーっ! 二月と三月のバカヤローっ!!」

    陰暦の二月は如月(きさらぎ)、三月は弥生(やよい)と言います。覚えておいてくださいネ☆






    プリカちゃんの、とほほな毎日は続きます――。

     「私 ついて行くよ♪ どんな辛い♪ 世界の 闇の 中でさえ♪ きっと あなたは 輝いて♪」
     「あたしの苦しみはエンドレスなのよぉおおっ!!」

    こんな日もあれば、

     「曖昧3センチ♪ そりゃぷにってコトかい? ちょっ!」
     「あんたにあげるニーソックスはないわーっ!!」

    こんな日もありますし、

     「ワンダーランド! ようこそ君には♪ フェアリーランド! 愛の魔法なの♪」
     「なんで飛ぶのおおおぉぉん!!」

    こんな日もありました。

     「うぬぬぬ……気が変になりそうだわ……」

    プリカちゃんの気が休まることは、しばらく無さそうです。






    ――それから、また少し後のこと。

     「うがーっ! ハイパーテキストテンプレート(※拡張子が「.HTT」のファイル。昔のWindowsで使われていました)がなんだってのよーっ!!」

    開幕早々、プリカちゃんは怒っています。切れ方がだんだんマニアックになってきました。ゴーゴーマニアック!

    例によって、あの女の子とマリカちゃんが楽しそうに練習している光景を見たプリカちゃんは、顔を思いっきり膨れさせて外へと飛び出してしまいました。二人が何を歌っていたかは、多分想像が付くことでしょう。ええ、皆さんの予想通りです。ちなみに、今日のプリカちゃんのお昼ご飯はカキフライでした。

    近くの青と白のストライプが目印のコンビニで買ったペットボトル入りの紅茶を握り締めながら――プリカちゃんはとても賢いので、自分で買い物もできます――、プリカちゃんは公園を闊歩しています。

     (いったい、どうすればいいのよ……)

    心はふわふわFloated Calm。風船のように安定しません。あっちへ行ったりこっちへ行ったり、気が散って仕方ないのです。

     「生麦生唯生あずにゃん、生律生澪生あずにゃん……」

    そんな情緒不安定気味のプリカちゃんが若干、いや相当壊れた早口言葉を無意識のうちに呟きながら、公園を歩いていたときのことでした。

     「……ぷわわ〜♪」

    ベンチに座……失礼、座っていなくて浮いていますが、とりあえずベンチでくつろいでいるフワンテさんが一人。ホッチキスで止められたような「バッテン」の口と、紐に結び付けられたハートマークが特徴です。

    フワンテさんの傍らには、プリカちゃんと同じペットボトル入りの紅茶が置かれています。ついでに、筆ペンとボールペンの入った透明なペンケースも。多分どこかの学校で講義を終えて、一人で放課後のティータイムを楽しんでいるのでしょう。とてもへいおん! な光景と言えるでしょう。

     「……………………」

    くつろぎモードのフワンテさんの声を聞いたプリカちゃんが、うつろな目でフワンテさんを見つめます。

    プリカちゃんの目に見えたもの、それは――ゆったりとしたふわふわな時間を過ごすフワンテさん・ホッチキスで止められたバッテン・汚れの無いピュアなハートマーク・放課後のティータイム・そして筆ペンにボールペン――まるで狙い済ましたかのようなアイテム群です。

     「……!!」

    プリカちゃんは、大方の予想通り速攻でブチ切れました。

     「ふわふわしてんじゃないわよーっ!!」
     「ぷわ?!」

    突然叫ばれたフワンテさんが、とてもビックリした表情でプリカちゃんを見つめます。プリカちゃんはずかずかとフワンテさんに近づくと、しっかとそのヒモを握り締めました。

     「なぁにが『ふうせんポケモン』ですってぇ?! なんなのよその分類は! 風船なのかポケモンなのかハッキリしなさいよ!! あぁん?!」

    ※プリカちゃんもふうせんポケモンです。

     「ぷわわー!」

    突然因縁をつけられてあわてたフワンテさんが、その場から飛び立とうとします。すると、思いのほかあっさり空に浮いてしまいました。プリカちゃんは体重が軽いので、フワンテさんでも簡単に持ち上げられたようです。

     「ち、ちょっと! 待ちなさいよーっ!!」
     「ぷわわー!」
     「あたしをどこに連れて行く気なのよおおおおぉぉっ!!」

    プリカちゃんはノーサンキュー! とばかりに体を振って抗議しますが、それも空しく、フワンテさんは順調にぐんぐん上昇して、空高く浮いていきます。

     「ぷわわー!」
     「ウボァー!」
     「ぷわわー!!」
     「ウボァー!!」

    そしてそのまま、プリカちゃんはフワンテさんに天高く空の果て(※一般的に「あの世」と呼ばれている場所です)まで連れて行かれてしまいました。きっと、そこから戻ってくることはないでしょう。

    めでたし、めでたし。






    ――さて、その後死に物狂いであの世から舞い戻ってきたプリカちゃんですが……。

     「いいよー♪ 子供っぽさと大人っぽさがうまく出てて、すごく可愛いよ〜♪」
     「まだまだ! 芸能界はそんなに甘くありませんから!」

    マリカちゃんと女の子の楽しい練習は、まだ続いているようです。ご覧の通り、二人は毎日とても楽しそうに練習をしているのですが、一方でプリカちゃんはと言うと。

     「あたしは世界一不幸なポケモンだぁああぁーっ!!」

    ミミロップ人形(原寸大)に怒りのメガトンパンチを何度も叩き込みながら、自分は世界一不幸だと嘆いていました。どう考えてもプリカちゃんに意味なく絡まれたユンゲラーさんやフワンテさんの方が不幸だと思うのですが、今のプリカちゃんにそれを言っても無意味でしょう。

     「きぃぃぃいいいぃっ! ココにいるのはおジャ魔虫だってのよぉぉおおおぉっ!!」

    全力メガトンパンチを三十発ほど叩き込んだプリカちゃんがミミロップ人形(原寸大)を投げ捨て、ベッドにぽふっと腰掛けます。ミミロップ人形(原寸大)が壁にバシっと叩きつけられ、首からぐったりと下へ落ちていきました。無惨です。

     「マジョリカマジョリカ……落ち着くのよ。あたしだって歌えるんだから……きっと、必ず元に戻るわ……!」

    不安を振り払うかのように体を震わせて、プリカちゃんが呟きます。とはいえ、何か根拠があるわけではありません。振り払っても振り払っても、不安は募る一方です。

     「Hey! プリカ、さっきミミロップDollが吹っ飛んできたけど、何があったんDai? いつものプリカじゃNAIみたいだNEー」
     「ゲロッパじゃない。どこ行ってたの?」
     「HAHAHA! どこって、マリカChanのところSA! SynthesizerのTuningを終わらせてきたところだZE!」
     「うぐぐぐぐ……」

    ゲロッパは自分で歌を歌うわけではないので、今も変わらず出番があるようです。そんなゲロッパをうらやましげに見つめながら、プリカちゃんはしきりに歯噛みしました。

     「いいわね、ゲロッパは。あたしはもうどうにかなっちゃいそうよ」
     「So気にすんなTTE! またすぐにマリカChanと一緒にCoolでCuteなMagical Stageに上がれるSA!」

    相棒のゲロッパから励まされますが、プリカちゃんはいまいち元気が出ないようです。

     「はぁ……あたし、ちょっと出掛けてくるわ」
     「OK! たまにはEscapeすることもTAISETSUだZE!」

    ハンカチを振るゲロッパに見送られ、プリカちゃんはいつものように出かけていきました。






    ――で、プリカちゃんは今日どこにやってきたかと言うと、近くにある小さな池でした。

     「よーし、今日は歩く練習だぞ! お父さんの後に付いてきなさい」
     「はーいっ!」

    池の周りでは、お父さんのニョロトノに連れられた、子供のニョロモが歩いています。仲睦まじい親子の、微笑ましいふれあいの様子ですね。

     「ニョロモね……」

    そんなニョロモの姿を、プリカちゃんがじっと見つめています。

     「……………………」

    ところで皆さん、「♪」マークを良く見てみてください。下の丸い部分がニョロモの体、残りの旗の部分がニョロモの尻尾に見えませんか? ニョロモはおたまポケモンです。ゲームや映像作品でも、オタマジャクシが「♪」マークの暗喩や比喩として使われることは多いですよね。

    さて、お父さんのニョロトノの後ろについてよちよち歩く、まるで「♪」マークのようなニョロモを見ていたプリカちゃんが、虚ろな表情でぼそっと呟きました。

     「……カエルになっちゃえばいいのに」

    ※なります(ニョロゾに進化させた後おうじゃのしるしを持たせて通信交換)。

    ぶつぶつと呪文、じゃなくて呪詛の言葉を吐きながら、プリカちゃんは池を後にしました。






    ――プリカちゃんの受難は、まだまだ続きます。

     「交わした 約・束 忘れ・ないよ♪ 目・を・閉じ 確かめる♪ 押し寄せ・た闇 振り払って・進むよ♪」
     「そう! 悲壮感の中に力強さを! 気高さの中に心細さを!」

    練習を重ねるマリカちゃんと女の子。二人はまさしくin a merry mood。とってもいい雰囲気です。楽しい中にも真面目さが垣間見える、そんな親しい二人の関係が伺えます。

    で、我らがプリカちゃんはというと。

     「あんたなんかもう何も痛くも怖くもないのよぉぉぉぉおっ!!」

    体をいっぱいに膨らませ、ミミロップ人形(原寸大)の頭に大口を開けて噛み付いていました。クチートちゃんもびっくりの噛み付きっぷり。ミミロップ人形(原寸大)の首から上がすっぽりプリカちゃんの口の中に納まっています。どえらい光景です。

     「カット……カットカットカットカットカットカットカットカットカットォ!!」

    がぶがぶがぶがぶ繰り返し繰り返し頭に噛み付くプリカちゃん。その様子はまさにワ……なんでしたっけ? とにかくワなんとかの夜そのものです。何かこう根本的に取り違えているような気がしてなりませんが、ここは敢えて気にせず進みましょう。

     「うぬぬぬぬ……! 血だまりでスケッチでもしたい気分だわ……!」

    噛み付いていたミミロップ人形(原寸大)をペッと文字通り吐き捨て、腕組みをして考え込み始めました。なんとかして二人の関係に亀裂を入れたいのですが、そうそう上手くいくものでもありません。

    困ったプリカちゃんは――






     「……考えるのよ。あいつとマリカちゃんの関係を終わらせる方法を……!」

    ――いつもどおり、散歩に出かけました。困ったことがあると散歩に出かける。これはプリカちゃんの癖でした。今日も今日とて、あの女の子を追い払う方法を考えます。

    けれどもやっぱり、そう簡単には思いつきません。マリカちゃんの楽しそうな様子を思うと、あまり無茶なことはできない。プリカちゃんはプリカちゃんなりに、そこまで考えていました。

     「時間は待ってはくれない……握り締めても、開いたと同時に離れていく……!」

    眉間に皺を寄せ、どこかの魔女さんのような台詞を吐きながら歩くプリカちゃん。おもむろに時間圧縮でもおっぱじめなければいいのですが。

    と、そんな彼女の前に。

     「はぁ〜あ……」
     「……あら、タブンネちゃんじゃない。どうしたのよ」
     「あっ、プリカちゃん……」

    プリカちゃんの親友の、タブンネちゃんが現れました。何やらお悩みの様子です。悩んでいるのはプリカちゃんも同じですが、ここは先輩のプリカちゃん。後輩の悩みを聞いてあげるのもお仕事でしょう。

    というわけで、プリカちゃんが早速タブンネちゃんに尋ねます。

     「何かあったの? 元気ないみたいだけど」
     「うん……最近、いろんなトレーナーさんに狙われるようになっちゃって……」
     「そういえば、タブンネちゃんって『経験値』が多いのよね」

    タブンネちゃんをやっつけると、何故だかやっつけたポケモンがいつもよりぐーんと成長すると言われています。なので、ポケモンを連れ歩いているトレーナーたちに付けねらわれて、困っているとか。

     「ふぅーん。そうね……あっ、いい考えがあるわ」

    これを聞いたプリカちゃん。何か閃いたようです。

     「そういうときは、相手を撃退すればいいのよ」
     「でも、私攻撃技覚えてないし……」
     「心配いらないわ。今流行の撃退法を教えてあげるから」
     「撃退法?」

    首をかしげるタブンネちゃんに、プリカちゃんがレクチャーします。

     「まずは、目の色を赤に変えてみてくれる?」
     「うん、それならできるよ」

    プリカちゃんの指示通りに、タブンネちゃんが自分の顔にお化粧をしていきます。

    ――で、数分後。

     「僕と契約して、魔法少女になってよ! ……これでいいのかな?」
     「かーんぺきっ! 出会った瞬間にそれを言えば、そこらのトレーナーならさっさと逃げ出すはずよ」

    そこには、色白で血のように赤い円らな目をした、可愛いけれど無表情なタブンネちゃんがいました。何を吹き込んだのかは分かりません、というか、言うまでもありません。これぞまさしくMask of Guilty。みんな逃げ出すこと間違い無しです。丸くカールした耳毛? がとてもそれっぽいです。

    こんなの絶対おかしいよ。

     「他の友達にも教えてあげるといいわ。必ず上手くいくと思うから」
     「うん。プリカちゃん、どうもありがとう!」

    何だかんだでタブンネちゃんも喜んでいるようです。走り去っていくタブンネちゃんを見送って、プリカちゃんが一息つきます。

     「はぁ……あたしも早く何とかしなきゃ」

    自分自身の問題も解決しなければと、プリカちゃんは再び歩き始めました。

    ちなみにこの後、各地でタブンネちゃんをやっつけようとしたトレーナーが、タブンネちゃんの姿を見て恐慌状態を起こしたり、揺れた草むらからタブンネちゃんが飛び出してきた瞬間に泣いて謝罪するトレーナーが続出したり、挙句の果てに心臓発作を起こすトレーナーまで現れたりしたそうです。おかげで、タブンネちゃんの生息数はうなぎのぼりとか。よかったですネ☆

    わけがわからないよ。






    とまあ、タブンネちゃんの問題を解決したプリカちゃん。

     「小さい 頃は♪ 神様が いて♪ 毎日 夢を♪ 届けて くれた♪」
     「明るい曲も上達してきたね! すっごいよ!」

    おちこんだりもしたけれど……

     「があああぁぁあぁーっ!! にしん(鰊)ーっ!!」

    あまり元気ではなさそうです(別の意味では元気そうですが)。

    ミミロップ人形(原寸大)におうふくビンタを炸裂させ、今日も今日とてプリカちゃんが行き場の無い恨みをぶつけます。これだけ恨みが鬱積していれば、カゲボウズくんの一匹や二匹やってきてもよさそうなものですが、プリカちゃんがあまりに恐ろしいせいか、全然近寄ってくる気配がありません。ま、カゲボウズくんだって命が大事ですよネ☆

     「はぁーっ、はぁーっ……おのれミミロップ娘……ただじゃ置かないわ……」

    くたくたになったミミロップ人形(原寸大)を放り投げて、プリカちゃんが息も絶え絶え呟きます。これはもうよっぽど怒っているようです。うつぶせに倒れたミミロップ人形(原寸大)が哀愁を誘います。

     「こうなったら……実力行使よ!!」

    今まで我慢していたプリカちゃんですが、ついに動くようです。何故か部屋に立てかけておいたデッキブラシを手に取り、臨戦態勢に移ります。デッキブラシ装備! そんな装備で大丈夫か? 大丈夫だ、問題ない。

    さあ、死闘は凛然なりて。例の女の子と直接対決に打って出るようです。プリカちゃんの怒りは膨らむばかりでFABLED METABOLISM。いよいよ限界です。武器のデッキブラシ片手に、プリカちゃんが部屋を出ようとします。すると……

     「あ、プリカちゃん! お掃除するの?」
     「えっ?!」

    偶然前を通りがかったマリカちゃんが、プリカちゃんに声を掛けます。傍らには、あのにっくきミミロップ風の女の子の姿も。

     「ちょうどいいよー♪ わたしもお掃除しようって思ってたところ!」
     「いや、あの、これは……」
     「それなら、私も手伝います! マスター、お手伝いさせてください!」
     「うん♪ みんなでやれば早く終わるよね♪」
     「ち、ちょっと……違うんだけど……」

    マリカちゃんがどこからともなく掃除機を持ってくると、女の子の方も三角巾にマスク、ついでにゴム手袋まで装備して、お掃除の準備を万端整えてしまいました。

     「レッツ・お掃除ターイムっ!」
     「はいっ! 任せてください!」
     「ち、違うよ! これは……!」

    結局また有耶無耶にされて、プリカちゃんはマリカちゃん・女の子と共にお掃除をする羽目になってしまうのでした。

     「違うって言ってるのにーっ!!」

    プリカちゃんの叫びは、楽しくお掃除をする二人の前に空しくかき消されてしまうのでした。






    すっかりピカピカになった家で、マリカちゃんと女の子はなおも練習を続けます。

     「だんご♪ だんご♪ だんご♪ だんご♪ だんご・だ・い・か・ぞ・く♪」
     「うんうん♪ いい感じいい感じ! 子供の歌みたいに歌うといいと思うよ!」

    いい曲ですね。とても和みます。暖かい気持ちになれます。家族、いやひいては「人生」をテーマにしたあの作品に相応しい、優しさと大らかさに溢れた曲といえるでしょう。

    一方、プリカちゃんは。

     「ヒトデライズドーっ!!」

    和みも暖かさも優しさも大らかさもへったくれもなく、いつものようにミミロップ人形(原寸大)に情け容赦なく連続キックを打ち込みまくっていました。目指せ64HITコンボ! 顔面が変形するほどの破壊力です。

     「ぜーはーぜーはー……い、一体どうすればいいのよ……マリカちゃん、あたしのこと忘れちゃってるんじゃ……」

    ミミロップ人形(原寸大)の顔面をむんずと踏みつけながら、プリカちゃんが息を切らしています。相当追い詰められているようです。この前いっしょに家のお掃除をしたので、忘れられているということはないはずですが。

    とはいえ、こんな毎日が続くとプリカちゃんも参ってきます。お気に入りのマイクもサイン用のマジックも、最近はすっかりご無沙汰。気分が浮かないのも無理はありません。

     「……出かけようっと」

    なんだかいつものパターンの繰り返しですが、とにかくプリカちゃんは出かけることにしたのでした。






    ぽてぽて歩くプリカちゃんですが、その心中はもちろん穏やかではありません。ざーざー五月蝿いBlue Noiseが、プリカちゃんの心に溢れています。ため息をひとつ吐くたびに、プリカちゃんの憂鬱は深まります。

    なんとかしてあのにっくきミミロップ娘を追い払って、もう一度マリカちゃんと一緒に歌いたい――そのためのプランを懸命に練ってみますが、やっぱり妙案は浮かんできません。できるのは、頭の中であの娘をぎったぎたのぼっこぼこにすることくらいです。ミミロップ人形(原寸大)にしていることと同じように。怖すぎですネ☆

     「くっ、ホントになんとかならないわけ……?」

    行き交う人やポケモンでにぎわう商店街を、プリカちゃんが一人寂しく歩んでいたときのことでした。

     「お父さーんっ! 待って待ってー!」
     「あたしも置いてかないでーっ!」
     「はっはっはっ。心配しなくても、すぐに追いつけるさ」
     「あらあら。二人とも、そんなに焦らなくてもいいのに」

    六人連れの家族のタマタマ一家が、楽しそうに歩いて(?)いるのが見えました。そんなタマタマ一家を目撃したプリカちゃん、つい反射的にこう一言。

     「だんご……」

    ※タマタマはたまごポケモンです。

     「いけないわ……幻覚が見え始めてる……」

    タマタマがだんごに見え始めたプリカちゃん。いよいよ本格的にヤバくなってきたようです。とりあえず、幻覚が見えているのはマズいでしょうね。

     「落ち着くのよ……見えているものに惑わされちゃダメなんだから……」

    そう自分に言い聞かせて、プリカちゃんは再び歩き始めました。

    その後、海でくつろいでいたヒトデマンさんを見て「ヒトデ」と呟いたり(※合っています)、プラスルちゃんとマイナンちゃんの姉妹を見て「双子」と呟いたり(※合っています)、うしおのおこうをもらって嬉しそうにしているマリルリさんを見て「うしお」と呟いたり(※合っています)、お昼寝をしていたウリムーくんを見て「ボタン」と呟いたり(※合っています)しつつ、プリカちゃんは家に帰るのでした。

    タマタマ以外全部合っているのは気のせいですヨ☆






    身も心もちょっとずつ蝕まれてきているプリカちゃんですが、そんな彼女の家では相変わらずマリカちゃんと女の子が、明るく楽しく元気よく練習を続けています。

     「消える飛行機雲♪ 僕たちは見送った♪ 眩しくて逃げた♪ いつだって 弱くて♪」
     「いいよいいよ〜♪ これが歌えるようになったら、本番も大安心だよっ!」

    切れ味のいいマリカちゃんのシンセサイザーの演奏と共に、女の子がとっても美しい歌声を披露します。二人とも絶好調です。で、その声はもちろん、お隣のプリカちゃんの部屋にも聞こえているわけで……。

     「死ねヘンタイゆうかいまッ!!!」

    大方の予想通り、プリカちゃんはミミロップ人形(原寸大)のみぞおちにメガトンキックをぶち込んでいました。まあ、マリカちゃんをさらった「誘拐魔」という見方は、無理をすればできなくもありません。かなり無理やりですけど。

    ベッドに打ち上げられたヘンタイゆうかいま(ミミロップ人形(原寸大))を虚ろな目で見つめながら、プリカちゃんが大きな大きなため息をつきました。相当悩んでいるようです。

     「あれはあたしの持ち歌なのにっ……!」

    ぎりぎりと歯を食いしばるプリカちゃん。今まで女の子が練習に使っていたほとんどの曲は、もともとプリカちゃんの持ち歌でした。それをあの女の子が歌っているというだけで、もうハラワタが煮えくり返りそうです。今なら口からだいもんじも撃てます。対鋼用のサブウェポンです。

    何も上手くいかない現実に、プリカちゃんは頬を膨らませて怒るのでした。






    ――とまあ、ストレスを溜め込んだときのプリカちゃんの行動なんて、皆さんご存知のように一種類しかないわけで。

     「はぁ〜あ……マリカちゃんと歌いたいなぁ……」

    今日は海辺に足を運んだようです。傍らに紙パック入りのジュースを置いて、海を飛んでいくキャモメくんやペリッパーさんをぼーっと眺めながら、プリカちゃんは物思いに耽ります。プリカちゃんだって歌いたい。けれども、マリカちゃんという大切なNavigator無しじゃ歌えない。プリカちゃんの悩みは募る一方です。

    プリカちゃんが砂浜に座り込んで何の気なしに「の」の字を書きながら、あれこれととりとめもない考えをこねくり回していたときのことでした。

     「ママ! そこで待っててね!」
     「いいわよ。さあチルチルちゃん、ママのところまで飛んでらっしゃい」

    砂浜の右手に、近くに住んでいるエアームドさんと、チルットのチルチルちゃんの姿がありました。チルチルちゃんはエアームドさんの子供です。どうやら、これからチルチルちゃんが空を飛ぶ練習を始めるみたいですね。

    ふわふわ羽をぱたぱた動かして、チルチルちゃんがゆっくり空へと浮かびます。

     「ママ、いくよ! それーっ!」
     「そうよ! チルチルちゃん、こっちこっち!」

    よろよろとふらついていますが、チルチルちゃんは確かに宙へ浮いて、ちょっとずつエアームドさんの元へ近づいていきます。エアームドさんは前へ踏み出したい気持ちを抑えて、チルチルちゃんが自分のところまで来てくれるのを心待ちにしています。

     「その調子よ! チルチルちゃん! ちゃんと飛べてるわ!」
     「ママ! ボク、ママのところまで飛ぶよ! ママがゴールだからね!」

    懸命にふわふわ羽を動かして空を飛ぶチルチルちゃん。そんな健気で可愛いチルチルちゃんと、愛に溢れたエアームドさんの様子を、プリカちゃんはじーっと見つめています。

     「よいしょっ、よいしょっ……!」
     「あと少し、あと少しよチルチルちゃん! さあ、ママのところへいらっしゃい!」

    大きなはがねのつばさを広げ、エアームドさんがチルチルちゃんを出迎えます。チルチルちゃんは必死に羽ばたいて、ママであるエアームドさんのところへ飛んでいきます。

    あと三メートル、二メートル、一メートル……

    ……そして!

     「ゴールっ……!」

    チルチルちゃんは、「ゴール」である大好きなママの胸へと飛び込みました。エアームドさんがチルチルちゃんをしっかり抱きしめて、愛しげに頬ずりします。

     「ママ! ボク、ママのところまで飛べたよ! ちゃんと飛べたよ!」
     「えらいわチルチルちゃん……! もう、こんなに飛べるようになったのね……!」

    エアームドさんもチルチルちゃんも、とってもうれしそうです。血のつながりのない二人ですが、その姿はもう親子そのもの。チルチルちゃんのママはエアームドさん以外、考えられません。

     「がんばったわね、チルチルちゃん。ほら、ごほうびのきのみジュースよ」
     「ありがとう! ママも一緒に飲もうね!」
     「うふふ。チルチルちゃんったら、甘えん坊さんなんだから」

    二人は、れっきとした親子なのです。

     「みすずーっ!!」

    親子愛に溢れるチルチルちゃんとエアームドさんの様子を見て、プリカちゃんは隣に置いてあった紙パック入りのジュースを盛大に握りつぶしながら、感動の声を上げるのでした。

    どんな叫び声やねん(関西弁)。






    プリカちゃんの憂鬱は、いよいよもって深いものになっていきます。

     「あ・き・ら・めずに♪ 消えるあ・し・ば・に・挑戦するけどす・ぐ・に・し・たに落ちるよー♪」
     「ミミロップ娘が倒せないーっ!!」

    プリカちゃんの動揺――。

     「キラキラー♪ ダイヤモンドー♪ 輝くー♪ 星のようにー♪」
     「バーカバーカ! バーカバーカ!!」

    プリカちゃんの憤慨――。

     「わら人形に♪ わら人形に♪ わら人形に♪」
     「ごっすんごっすん五寸釘ーッ!!」

    プリカちゃんの暴走――。

     「どうにかしなきゃ……このままじゃ、ホントにあたしがお払い箱になっちゃうわ……」

    このまま、プリカちゃんは消失してしまうのか……危機感だけが強くなっていく日々が続きます。






    ――さて、今日も今日とて女の子は練習を重ねるのですが、ちょっといつもと違う調子の曲を練習しているようです。

     「Estuans interius ira vehementi(激しい怒りと苦い思いを胸に秘め)」
     「Estuans interius ira vehementi(激しい怒りと苦い思いを胸に秘め)」

    エストゥアンス・インテリウス・イラ・ヴェーヘメティ、エストゥアンス・インテリウス・イラ・ヴェーヘメティ……

     「田代ース!!(田代ース!!)」

    女の子の歌うあまりにも有名なラテン語歌詞の歌に、同じくとっても有名な替え歌の歌詞を重ねながら、プリカちゃんが釘バット(模造品)を装備してミミロップ人形(原寸大)を撲殺していました。とても生々しいです。

    ぐったりして動かなくなったミミロップ人形(原寸大)を見下ろしながら、プリカちゃんがよろよろとよろめきます。

     「いけないわ……その内本当に手を出しちゃいそう……」

    最近のプリカちゃんの悩みっぷりはホンモノでした。この間なんて、マイクが包丁に、油性マジックが注射器に見えたほどです。「中に誰もいないじゃないですか」。最近のプリカちゃんの口癖です。そろそろここに病院を建てたほうがいいかも知れませんネ☆ 誰かそろそろ彼女にQuender Oui!

     「くぅーっ……! なんであたしがこんな目に遭わなきゃいけないのよ! 世の中間違ってるわ!」

    とりあえず物騒な釘バット(模造品)を立てかけて、握りこぶしを作ってわなわな震わせます。本当にどうにかしないといけない。何とかして、マリカちゃんのパートナーの地位を取り戻さなければ!

    プリカちゃんは肩を落としながら、部屋を後にしました。






    例によっていつも通り散歩に出かけたプリカちゃんが本日やってまいりましたのは、町外れにある小さな教会です。普段は訪れる人も少なくひっそりした場所なのですが、発した声がとても美しく響くので、プリカちゃんは一人で練習する目的で、ときどきここを訪れていました。

    プリカちゃんが教会に足を運んでみると、中から声が聞こえてきます。どうやら先客がいるようです。

     「誰かいるのかしら?」

    扉を押し開いて、プリカちゃんが教会内部へ進入します。すると……

     「〜♪」

    いつの間にか教会内部に設けられた小さな花畑の中央で、キレイハナちゃんが一人祈りをささげていました。何故内部に花畑があるのかは分かりませんが、美しい光景であることは間違いありません。

    プリカちゃんの目には、教会の花畑で祈りをささげるキレイハナちゃんの姿が映ります。なんかもうアレですね。狙い済ました構図とは多分このことなんですね。タブンネ☆

     「約束の地よぉぉぉぉーっ!」
     「あっ、プリカちゃん!」

    大ジャンプから刀を真下に突き立てながら落下していく例の技の台詞を発しながら、プリカちゃんがキレイハナちゃんにのしかかりを敢行しました。キレイハナちゃんはプリカちゃんの声で存在に気付いたようで、さっと後ろへ振り返ります。

     「遊びに来てくれたんだね、プリカちゃん!」
     「きいぃいーっ! あいつに絶望を送ってやるぅーっ!」

    会話が成立していません。キレイハナちゃんはプリカちゃんがじゃれてきたものと思い込んで、彼女を空中でキャッチしました。プリカちゃんは軽いから仕方ありませんね。

     「プリカちゃん、今日は英雄さんになりきるお遊び? 楽しそう!」
     「あたしは神になるんだからーっ!!」

    でもキレイハナちゃんは楽しそうなので、問題は無いでしょう。

     「アクアブレス!」
     「きゃっ♪ プリカちゃん冷たーい♪」

    ※バブルこうせんです。

    こうして、プリカちゃんはただ単にストレスで暴れているだけとも知らず、キレイハナちゃんはプリカちゃんが英雄さんごっこをしていると誤解したまま楽しく遊ぶのでした。微笑ましいですネ☆

     「あたしは思い出になんかならないわーっ!」

    ちなみに、今のプリカちゃんの切実な主張でもあったりします。






    何だかんだでキレイハナちゃんと遊んだ(プリカちゃんは暴れていただけですけど)後の、帰り道のことです。

     「はぁ……」

    ため息交じりのプリカちゃんが歩いていると、何やら前からやってくる影が。

     「〜♪」

    長いネギを携え、鼻歌交じりに川原を闊歩するのは、カモネギくんでした。カモネギくんは武器兼非常食として、いつもネギを一本持ち歩いています。ご機嫌な様子を見ると、今日は活きのいいネギが手に入ったようです。

    プリカちゃんの目に、ネギを持って歩くカモネギくんが映ります。

     「ネ、ネギ……!」

    カモネギくんにとっては、今プリカちゃんに会ってしまったのは不幸以外の何者でもありませんでした。だってプリカちゃんは今、ネギを見ただけであの女の子を思い出す状態になってしまっているからです。

    ちょっと前に、マリカちゃんが女の子のためにと、模造品の長ネギを作ってあげていました。なんでも、その女の子のイメージアイテムだとか。マリカちゃんが手作りしたネギをうれしそうにかざす女の子を見て、プリカちゃんは一際ジェラシーを燃やしたものです。

     「いやー、やっぱりネギは新鮮なのに限るなァ!」
     「……!!」

    歩いてくる不幸なカモネギくんと、あの女の子の姿がピッタリ重なるのは、時間の問題だったのでした。

     「ネギがどうしたってぇ?!」
     「……え?」

    いつぞやの時と同じように、プリカちゃんはカモネギくんのネギをぱしっとひったくりました。カモネギくんは目を点にして、突然の暴挙に打って出たプリカちゃんの目を見つめます。

    ……で。

     「ちっくしょーっ!! お前なんかぁああああーっ!!」
     「う、うわぁーっ!! ボクの採りたてがぁーっ!!」
     「あたしは生のネギでも構わず食っちまうんだぜーっ!!」

    速攻で怒り心頭に発したプリカちゃん、カモネギくんのネギをガジガジと食べ始めてしまいました。ガジガジグシャグシャガリガリ。すっごい食べっぷりです。

     「うおりゃああぁああっ!」

    半分ほど食べた後、プリカちゃんはネギの残った部分を地面に叩きつけました。カモネギくんは突然の凶行に、ただあんぐりと口を開けて見ていることしかできませんでした。

     「はぁ、はぁ……い、いつか本当に食ってやるんだから……」

    プリカちゃんは口元を拭うと、すたすたとその場から歩いて立ち去ってしまいました。

     「ボ、ボクのネギが……! い、一体ボクが何をしたのさ……」

    あとに残された災難なカモネギくんが、半分だけになってしまったネギをとても悲しそうな目で見つめていました。

    どう見てもやつあたり(威力102)です。本当にありがとうございました☆






    ――とまあ、プリカちゃんはプリカちゃんなりに、現状を打破しようとしていたのですが。

     「どうすれば、いいんだろ……」

    くたびれたミミロップ人形を相手に一人きりの大立ち回りを繰り広げたのも、ミミロップ似の女の子があのラテン語の楽曲を練習していた日が、最後でした。

     「……………………」

    マリカちゃんはあれからずっと、女の子と練習を続けています。こんなどうにもならない現実を前に、プリカちゃんはすっかり気が滅入ってしまったようでした。

     「あたし……いらなくなっちゃったのかな……」

    本当に――マリカちゃんは、自分のことを必要としなくなってしまったのではないか。

    プリカちゃんの心は、折れる寸前に達していました。






    外はあいにくの雨模様。今日のプリカちゃんは壁に寄り添って、生気の抜けた表情を見せています。

     「……はぁ」

    マリカちゃんはあの女の子に付きっ切りで、プリカちゃんが入る余地もありません。ずっと練習を続けているようです。プリカちゃんはどうすればいいのか分からず、ただ力なく壁にもたれるしかありませんでした。

     「さあ、始めるよ……! 今日のが終われば、一つの区切りだからね!」
     「……はいっ!」

    そんな彼女の思いも露知らず、マリカちゃんと女の子の練習は、何やらいよいよ大詰めを迎えつつあるようです。

    本日の楽曲は――。

     「――今 動き始めた――加速する奇跡――」
     「そう……その調子。その調子だよ……」
     「ナゼか ナミダが 止まらナい……」
     「あなたの”ココロ”、マイクに、リズムに、曲に重ねて!!」

    これまでと少し毛色の違う、ドラマティックで詩的な楽曲でした。プリカちゃんは隣の部屋で、女の子の声に導かれて描き出される楽曲の世界に、ふわふわ漂っていました。

    それはあたかも、風船のように。

    聞き覚えのある楽曲でした。少し前にマリカちゃんがインターネットの動画投稿サイトで見つけて、即座にプリカちゃんと一緒に練習を始めた記憶がよみがえります。

     「ナぜ 私――震える? 加速する鼓動――」

    とてもいい曲だったことも、一緒に思い出しました。胸が熱くなって、鼓動が高鳴ります。

    よみがえる記憶――。

     (プリカちゃん! 柔らかいだけじゃ足りないよ! 芯の強さを見せて!)
     (大丈夫! プリカちゃんならきっとできるよ! わたし、信じてるから!)

    あの時マリカちゃんに言葉をかけてもらっていたのは自分。

     「まだ! 少しピッチを上げて! 気持ちを伝えるには、もっと強さがいるよ! きっとできる! だから頑張って!」
     「これが大詰め! これを歌い切れたら、新しい世界が見えるよ!!」

    けれども、今そこにいるのはあのミミロップ似の女の子。

    女の子の自信に満ちた声と、プリカちゃんの消え入りそうな声が、一つにシンクロします。別の色の声のはずなのに――それは、不思議と一つに交わってゆきました。

     『フシギ ココロ ココロ フシギ』
     『私は知った 喜ぶことを』

    歌を通して、プリカちゃんは喜びを知り――

     『フシギ ココロ ココロ フシギ』
     『私は知った 悲しむことを』

    ――そして今、歌によって悲しみを味わっています。

     『フシギ ココロ ココロ ムゲン』
     『なんて深く 切ない……』

    堰き止め難い切なさに、プリカちゃんはただ翻弄されるばかりでした。

    (あたしの隣に……マリカちゃんがいない……)

    プリカちゃんは生まれてからずっとマリカちゃんと一緒で、ひとときも離れたことはありません。マリカちゃんが、プリカちゃんの誕生に立ち会ったのですから――プリカちゃんは、マリカちゃんに生んでもらったといっても過言ではありません。

    今になって、プリカちゃんはやっと気が付きました。

    自分は、マリカちゃんと一緒に歌うために生まれてきたんだ、と。

     『今 気付き始めた 生まれた理由を』

    だから、プリカちゃんはマリカちゃんに放っておかれて、独りになるなんて考えたこともありませんでした。

    そんなことはありえないと、決めて掛かっていたのです。

    独りぼっちがこんなにも寂しいなんて、今まで全然知らなかったのです。

     『きっと 独りは 寂しい』

    生まれてすぐ、プリカちゃんは「うたう」ことに目覚めました。マリカちゃんの演奏するおもちゃのピアノに、プリカちゃんが拙いけれど綺麗な声を重ねる。たったこれだけのことが、プリカちゃんには本当に楽しかったのです。

    マリカちゃんがエレクトーンを買ってもらって、自分でお小遣いを溜めてシンセサイザーを買って――プリカちゃんはマリカちゃんの奏でる曲に合わせて声を重ねて、歌を紡いで。

    歌と音と声に彩られた無数の記憶が、プリカちゃんの心を流れていきます。

     『そう、あの日、あの時 全ての記憶に』

    プリカちゃんが心の宝箱にしまっておいた、大切な記憶に。

    マリカちゃんと歌った、すべての記憶に――。

     『宿る「ココロ」が 溢れ出す――』

    歌うことへの喜びと幸せ。あたたかい心の欠片が、一つ一つ宿っていました。

     「……………………っ!」

    壁にもたれかかった、プリカちゃんの青く丸い瞳に、大粒の涙が溢れます。

     「今 言える 本当の言葉――」
     「――捧げる あなたに」

    もう、プリカちゃんは歌うことができませんでした。揺れた小さな体を伝って、涙がカーペットへと落ちていきました。

     「マリカちゃん……ごめんね。あたしじゃダメだったんだよね。歌えない曲があったんだよね。あの女の子の方が、歌、上手だもんね。ごめんね、ごめんね……」
     「でもね……」






     「でもね、あたし……感謝してるよ。ここに、あたしを生んでくれたことを」
     「一緒に歌った曲、一緒に過ごした時間……マリカちゃんがあたしにくれたもの、みんなずっと大切にしてるから」
     「あたし、ずっと……独りになっても、歌うよ……マリカちゃんが、あたしに教えてくれたから……」
     「マリカちゃん、ありがとう……」






    ぽつぽつ呟きながら――プリカちゃんが顔を伏せました。涙がぽろぽろこぼれて、前が見えなくなってしまいました。

    脳裏によみがえるのは、マリカちゃんと過ごした楽しい日々の記憶ばかり。そのすべてが美しくて、今も色あせぬ輝きを持っていました。

    ――それはもう戻ってこないのだと理解しているつもりでも、プリカちゃんは思い出さずにはいられませんでした。






     「……………………」

    ……無言のまま、歌詞を幾度となくリフレインさせながら、プリカちゃんが独りで泣いていたときのことでした。

     「Yeahhhhhh! KOKOROに響くDramaticでImpressiveでFantasticなMusicだったZE! SOREGASHIも思わずExe先輩のことを思い出してNAMIDAが出そうになったYo!」

    一仕事終えてきたばかりのゲロッパが、扉をすり抜けて現れました。沈んだ様子のプリカちゃんに声をかけます。

     「Hey! プリカ! 今日はやけにSilentだNE! Do-したんDai?」
     「ゲロッパ……」

    すっかりおなじみになったアフロヘアーにサングラスが、今日はやけに輝いて見えます。ゲロッパのいつものノリのいい声が、プリカちゃんには眩しく映りました。

     「向こうはもういいの? まだ、練習あるんじゃないの?」
     「HA-HA-HA! それならもう済んだところだZE! What? プリカ、泣いてたのKai? OnionならKitchenで刻みなYo!」
     「馬鹿言わないでよ……タマネギの涙だったら、もうとっくに止まってるはずだわ……」
     「Oh-Oh、なんだかプリカらしくNaiじゃNai! いつものプリカだったら、ここで『あんたにPatchを当ててゲロッパZにしてあげよっか? それとも火事のHouseに投げ込んであげるのがいい? 注射器型Missileで追いかけられるのも選べるけど?』って言いながらSOREGASHIの首をSIME上げてるところだZE!」

    明るいゲロッパの調子に、プリカちゃんはいまいちついていけません。酷く沈んだ気持ちを抱えたまま、プリカちゃんは弱弱しく頭を振るのがやっとでした。

     「今はそんな気分じゃないの……お願い、放っておいて」
     「No-No-No! そういうわけにはいかないZE! 何せ、SOREGASHIにはプリカをマリカChanのところまで連れていくっていうMissionがあるからYo!」
     「あたしを……? どういうことなの?」

    ゲロッパはプリカちゃんの手を取ると、隣のマリカちゃんの部屋まで連れていきます。プリカちゃんは、マリカちゃんやゲロッパが何をしたがっているのか、よく分かりませんでした。

    連れられるまま、プリカちゃんがマリカちゃんの部屋まで入りました。

     「Yeah! Mission Complete! カワイコChan達! Main Heroineをお連れしたZE!」
     「来てくれたね! 待ってたよ! プリカちゃん!!」
     「マリカちゃん……」
     「待ってました! 来てくれてありがとうございます!」
     「……………………」

    歓迎ムード一色のこの雰囲気に、プリカちゃんは戸惑いを隠しきれません。なんとなく、プリカちゃんの考えていた光景とは違って見えます。どういうことなのでしょうか。

    それでも疑いを晴らせないプリカちゃんが、思わず声を上げます。

     「ど、どうしたの……? これから、あたしの引退セレモニーでもしてくれるの?」
     「HA-HA-HA! Jokeがキツいぜプリカ! これから、新しいCoolなUnitの立ち上げだってのにYo!」
     「新しいユニット……?」
     「そうだよ、プリカちゃん! プリカちゃんがリーダーの、新しいユニットだよ!!」
     「なんですと?!」

    一番最初とまったく同じ驚きの声を、プリカちゃんが上げました。ぐっと前に身を乗り出し、けろっと言ってのけたマリカちゃんの目をまじまじと見つめます。

     「い、いいい一体、どういうことなの?! あ、あたし、全然分かんないんだけど?!」
     「ふふふっ。プリカちゃんには言ってなかったからね。ゲロッパ! 見せてあげてよ!」
     「OK! Let's Play!」
     「……!」

    以前と同じようにゲロッパが壁に映像を投影すると、そこには俄には信じられない光景が映っていました。

     「いい調子だよ! 順調順調っ!」
     「はい! でも、プリカちゃんにはまだ及びません! もっと練習させてください!」
     「もちろん! 二人で一緒に歌うためには、たくさん練習しなきゃね! じゃ、行くよ!」

    女の子とマリカちゃんの練習風景。そこで交わされていた会話に、プリカちゃんは目をまん丸くしました。

     「プリカちゃん、デュオの曲が歌いたいみたいなんだ。でも、わたし楽器は弾けても歌はヘタだから……」
     「任せてください! プリカさんとマスターが好きな曲を思いっきり楽しめるように、私、お手伝いします!」
     「頼もしいよ! プリカちゃんも、きっとすっごく喜んでくれるよ!」

    大きな瞳をパチパチと瞬かせて、プリカちゃんが映像と二人を交互に見やります。

     「じゃあ、プリカちゃんの持ち歌で練習しよっか! プリカちゃんの声はわたしがいっちばんよく知ってるから、それに合うカタチを目指すよ!」
     「分かりました、マスター! どんな声でも歌ってみせます!」
     「うん! でも、無理をさせるつもりはないよ! 二人がお互いに、フルパワーで歌えるようにするからね!!」

    プリカちゃんの前で繰り広げられる、マリカちゃんと女の子のやり取り。「<プリカちゃん>の声に合うようなカタチを目指して」女の子に指示を出すマリカちゃんと、「<プリカさん>が思いっきり楽しめるように」練習を重ねる女の子。

    二人の目的はただ一つ。「プリカちゃんと一緒に歌うこと」でした。

    女の子の持つポテンシャルを生かしつつ、プリカちゃんの声と合うように調律していく――自分の才能を存分に発揮して、マリカちゃんは素晴らしい歌声を生み出しました。

     「……これ、ホントなの……?」
     「Yes! That's True! Cut編集以外、SOREGASHIは手を加えてないZE!」
     「じゃあ……まさか、二人とも……」
     「そうだよ! プリカちゃんが新しい曲を歌えるように、ずっと練習してたんだよ♪」
     「はい! 私、プリカちゃんと一緒に歌いたくて、たくさん練習してきました!」
     「あたしの……ために……!」

    プリカちゃんの中で、抱いていたわだかまりがすーっと解けて、風に舞って空へと消えてゆきました。マリカちゃんが女の子と付きっ切りで練習していたのも、女の子がひたすら歌う練習を続けてきたのも――

    すべては、プリカちゃんのためだったのでした。

     (そういえば……すごく、声がシンクロしてたような……)

    先ほど、部屋にいたときのことを思い出します。プリカちゃんが、聞こえてきたあの楽曲に対して無意識のうちに合わせた声は、女の子の声と驚くほどシンクロしていました。それが引き金になって、プリカちゃんの心をより強く衝き動かしたのです。

    それこそ、大粒の涙を流して泣いてしまうほどに。

     「よかっ、た……あたし、もう、お払い箱になっちゃうんじゃないか、って、思って……」
     「ごめんね、プリカちゃん。ビックリさせてあげようと思って、ずっと黙ってたんだよ」

    プリカちゃんの目に、また涙が溢れました。けれども、それはさっきの涙とは、全然、全然違います。

    まったく――違うものです。

     「マリカちゃん……あたし、また歌っていいの……?」
     「もちろん! プリカちゃんがいなきゃ、始まらないよ!」

    マリカちゃんの力強い言葉が、プリカちゃんの気持ちを空飛ぶJETの如く、一気に高く高く引き上げます。Take me Higher! もう何も恐れることなどありません!

    みんな、プリカちゃんのことを待っていたんですから。

     「プリカさん!」

    そして――あの女の子が、プリカちゃんの前に立ちます。プリカちゃんが彼女の目を見つめます。そこには、戸惑いも敵意も、怒りも悲しみも微塵もありません。

    あるのはただ――






     「一緒に――一緒に、歌わせてください!」
     「……分かったわ! あたし、全力で歌う! 一緒に歌いましょ!」
     「はいっ!!」






    ――一緒に歌えることの、喜びばかりです。

     「Hey! プリカ! SOREGASHIも忘れてもらっちゃ困るZE!」
     「分かってるわよ! あんたがいなきゃ、音に厚みが出ないもの!」

    プリカちゃんはさっと涙を拭うと、お気に入りの黒いリボンを結びなおして、張りのある声で言いました。

     「Yahoooo! Castは揃ったZE! ここらでそろそろ、Unitの結成式と行こうじゃないかYo!」
     「そう来なくっちゃ! わたし、もう名前も考えてあるんだよ!!」
     「何々?! 聞かせて聞かせて!」
     「私も教えてくださいっ、マスター!」

    得意げに胸を張るマリカちゃんが、すっ、と息を吸い込んで――

     「わたしたち四人で作る、楽しくて素敵なステージ――だから!」






     「――わたしたちは、『Stage 4』<ステージ・フォー>! 『Stage 4』だよっ!!」






     「四人で作るステージ、だから『Stage 4』……それしかないっ! それしかないよマリカちゃん! あたし、すっごく気に入った!!」
     「マスターと、プリカさんと、ゲロッパさんと、私で作るステージ……! 最高です! 最高に素敵です!!」
     「So Cooooooool!! マリカChanのセンスにはDATSUBOUだZEEEEEEE! SOREGASHIもExcitingなStageに一役買わせてもらうYo!!」

    マリカちゃん、プリカちゃん、ゲロッパ、そして女の子。みんなが揃えば、きっと素晴らしいステージを描けることでしょう。

     「みんなーっ! すっごく楽しいステージにするよーっ!!」
     『おーっ!!』

    決意も新たに――「Stage 4」が今ここに誕生しました。

    こうして、プリカちゃんは新しい仲間を得て、今までよりももっと楽しく歌を歌えるようになりましたとさ。

    めでたし、めでたし。




































     「とほほ……あれ、すごく気に入ってたのになァ……」
     「そこのカモネギ君、何かお探し物ですかな?」
     「あれ? ユンゲラーさん。いやァ、いいネギが見つかったんですけど、食べられてしまって……」
     「ほうほう、それはまた災難だ。私もお手伝いしましょう」
     「あっ、ありがとうございます! 助かりますよ……おやァ? ユンゲラーさん、その鉄クズはなんです?」
     「いや、これはね……いざこざがあって、折り畳まれてしまったんですよ」
     「もしかして……スプーンですか?」
     「察しの通りですよ。とほほ……」

    ――その代償は、ちょっと高くついたようですけどネ☆






     「……ぷわわー」
     「僕と契約して、魔法……あっ、フワンテさんだったんだね。ごめんごめん。トレーナーさんかと思ったよ」






    閑話☆休題。


      [No.1187] 【閲覧超注意】チャンピオンのシロナが勝負をしかけてきた!【超閲覧注意】 投稿者:   《URL》   投稿日:2011/05/14(Sat) 22:23:56     166clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    【閲覧超注意】チャンピオンのシロナが勝負をしかけてきた!【超閲覧注意】 (画像サイズ: 322×470 74kB)


    チャンピオンのシロナが 勝負をしかけてきた!▼

    ガブ「あ゛? じろじろ見てんじゃないわよ」


    言い訳をしよう。四方八方から「描け〜描け〜」と怪電波が飛んできて描かざるを得なかったんだ。

    【だから閲覧注意って言ったでしょ!】
    【色々ごめんなさい】


      [No.1176] しがない物書きとアラハバキ 投稿者:   《URL》   投稿日:2011/05/11(Wed) 08:22:16     60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     私はしがない物書きだ。どのくらいしがないかって言うと、カーテン開けるとカゲボウズがぞろーっ。冷蔵庫は電源抜いてるからただの箱。中に入ってるサイコソーダは炭酸が抜けてただの砂糖水。ってかいつのだよ、これ。

     その位しがないんで、ネタが浮かばない時は近所の公園へ散歩に行く。ってか普通に家の中より外の方が涼しいしな。「おーいアム行くよー」と声掛けしてモンスターボールを一個手荷物に外へ。いやあモンボって便利だね。この中に入れとけばポケモンお腹すいたりしないからね。その分エサ代とか浮くしね。便利便利。

    「かがくのちからってすげー」と呟きながら近所の公園に到着。公園のベンチに座ってからアムを外に出す。理由は分かるな? 分かるな、そういうことだ。
     久しぶり(ほんとに久しぶり)に外に出たアムは、嬉しそうに尻尾をふりふり、隅にある砂場へと一直線に駆けていった。あーかわいー。長い耳とか大きい尻尾とか、けもけもしてて尚且つもふもふしてるとことかまじかわいー。襟巻きもふもふできるし肉球ぷにぷにできるし、三十センチと手頃な大きさで六キロ半って抱くのにはちょっと重たいが愛があればそんなことは気にならない。呼べば振り向き、つぶらな瞳でこちらを見る。破壊力ばつぐんのメロメロ。ついでにアムはこの種族では珍しい女の子。性別で見た目が変わる種族じゃないけど、女の子だと思って見るとまたかわいいんだこれが。

     目の保養がてらアムを眺めた後は、(ずっと目の保養してたいなあ……あ、カゲボウズ)イッツシンキングタイム。小説のネターネターと念じつつ目を閉じる。ネタ。ネタ降ってこないかなあ。
     しかしネタどころかネタのネの字すら、このところ大絶賛晴天中の空からの雨粒よろしく、私の頭からは降り出してこない。ええいいつから絞りっかすになったんだよこの頭は。振っても投げても何も出てこねえ。
    「おーい、ネタ降ってこーい」
     困った時の神頼み。私は天を仰いでネタを所望した。完全不審者だけど気にしない。だってこの公園他に人いないし。主に私の所為だけどなっ!


     ひゅーっ、どごーん。

     ありがちな音を立てて、ネタが降ってきた。いやネタというかこれは、
    「アラハバキ?」
    「ネンドールと言え、ネンドールと」
     降ってきたネタ……自称ネンドールは、離れた手をばしゅっばしゅっと何もない空間に向けて打ったり戻したりしながら、私に抗弁した。目がなんかやたらめったらいっぱいあるが、その半分はめんどくさそうに閉じられている。じゃあそんなにいらんだろ、目。
    「いやだってどっからどう見てもアラハバキじゃん。似てるよ激似だよあんた」
    「ネンドールと言え、ネンドールと。他のゲームのキャラ持ってくんな」
    「別にいいじゃん別に。ところでそのゲームってめ」
    「あああああああああ」
    「……がみてんせいのこと?」
    「伏字の意味がなかった」
    「別にいいじゃん」
    「まずくね?」
    「伝承が元ネタって言えばいいよ」
     私がそう主張するとアラハバキはふうっとため息を付いた。見るからに土偶です、という感じのフォルム。その割には足が短い気がするけどさ。ところでどうやって息してるんだろう。
    「ねーアラハバキー」
    「俺の名前それで決定かい」
    「アラハバキはなんで空から降ってきたの?」
    「無視かい。お前が『おーい、ネタ降ってこーい』とか言った所為だぞ、マジレスすると」
    「嘘、じゃああんたネタなの?」
    「かもな」
    「じゃあネタと呼ぼう」
    「マジで」
    「アラハバキの方がよかった?」
    「それは少し考えさせてもらおう」

     アラハバキは丸い土笛みたいな両手を組んで考えるポーズをとった。いや組めてない。組めてないよ。でもネタは必死で腕を組んでいる振りをしていた。

    「……なあ、お前」
    「なんだいネタ」
    「俺の名前それで決定かい。いや、ちょっとコアルヒーのことを考えててな」
    「何故そこでコアルヒー」
    「まあ聞け。コアルヒーは似てると思わないか……その、あれに」
    「あれ? ああ、似てるかもしんないね。なにせモデルが一緒だし」
    「そうだ、そして……ドナルドというのは一介の男性名のはずだ」
    「そうですね」
    「そしてダックというのは普通名詞のはずだ」
    「ですね」
    「何故つなげると存亡の危機に関わるのだろう」
    「知らないよそんなこと」
     何考えてんのアラハバキ。いやネタ。
    「いや俺アラハバキって名乗っていいのかなって思って」
     迷ってたんだ。
    「ところでお前のイーブイ、誘拐されたよ」
    「えっうそっ」
     喉が裏返ったかのような不快な悲鳴を上げて、私は砂場を見た。アムがいない! 本当にアムいないし!
    「いやー、さっき別の目で見たら黒ずくめの三人組が無理矢理押さえて連れてってさ」
    「あんたそれすぐ言えよ!」
    「ごめん、ちょっと著作権について考えてた」
    「ああもう!」
     ネタを放っておいて、私はアムが連れ去られたと思しき方向へ走りだす。暴れた跡っていうか、ポケモンバトルの跡みたいのがばっちり残ってるからね。それを辿ればよし。
    「おーい、俺(ネタ)を置いていく気か!」
    「んなもん、アムが帰ってくるまで用無しだあ!」
     アムなしで執筆というか生命活動できるかこのやろおおお! って叫んだけど、後ろ振り返ったらアラハバキがばっちり付いて来てた。



     アムが暴れた跡を追ってくと廃工場に着いた。何と言うか、RPGゲームの序盤から中盤あたりに出てくる微妙に強いけど考えがセコくていつまでも三下扱いされる敵がアジトにしてて主人公たちが町の人の頼みで乗り込むような、いかにも! な廃工場。
    「さて、どうする?」
    「乗り込むしかないっしょ」
     アムがいるのに二も三も躊躇いもない。廃工場を取り囲む草茫々の地面に足を踏み入れる。工場の扉は蝶番が錆びて外れかけていて、誰でもいらっしゃいませ状態。
     私は迷わず中に踏み込む。埃がぶ厚い絨毯のようになってたり、蜘蛛の巣が張ってたりということは特になく、剥がれた天井の欠片が邪魔くさそうに廊下の隅に寄せられてるぐらい。誰かいるんだなー、と確信。捨てられた建物にしては綺麗すぎる。まあそれにしたってやっぱり汚い。こんな所にアムを連れ込みやがって、犯人ども見つけたらただじゃおかねえ。
     焼き物の先っぽみたいなのが私の背中の真ん中をくすぐった。
    「ちょっ、くすぐったいからやめて」
    「あそこだ」
     くすぐった張本人アラハバキは私の反応を見事にスルーして、ドアがなくなった一室を指差す。そこにアムがいるらしい。そろーりそろーり、足音を忍ばせて部屋の入り口に近付いた。
    「なんだかスパイアクションっぽくてくすぐられるね、冒険心が」
    「ばれるから黙ってろって」
     折角さっきの“くすぐったい”とかけたのに、文筆家心の分からんアラハバキめ。
     まあそれはそれとして部屋の中を覗くと、そこには黒ずくめのベビーカーとその中でぐずるこれまた黒ずくめの赤ん坊と

    「キモクナーイ」

     そう言っていないいないばあをする……ラグラージの姿があった。

    「キモクナーイ」

     赤ん坊の反応がないと見えて、もう一度いないいないばあをするラグラージ。今度は反応があった。耳に突き刺さるような泣き声。

     赤ちゃんに泣かれてしまって、ラグラージは目に見えてオロオロしだした。助けを求めるような視線の先には、これまた黒ずくめの男女が、ベビーカーから離れるようにしてつっ立っている。
     黒ずくめの男女は互いに顔を見合わせて頷くと、腕の中のものをラグラージに手渡した。
    「アム!」
     飛び出そうとした私を、ネタの念力が押し留める。
    「何してくれてんの! アムが……」
    「あれを見てみろ」
     アラハバキがそっと顎で示し……分からんわ。あんたの顎どこだよ。とにかく私は室内をイライラしながら黙って覗くことにした。

     黒ずくめの男女はじたばたするアムをラグラージに押し付けた。ラグラージは心得た風で小さなアムを手の平に乗せるように抱きかかえると、そっとベビーカーの中の人にアムの顔を見せた。その途端。さっきまで工場を倒壊させんとばかりにわんわん響いていた赤ん坊の泣き声が、止んだ。
    「どうやら、赤ん坊を泣き止ませるためにイーブイを誘拐したらしいな」
    「む、誰だ!?」
     したり顔で解説したネタに、当然のごとく黒ずくめのツッコミが入る。
    「怪しい奴め!」
    「お前らの方が怪しいわ!」
    「それは言わないでもらおう!」
     そこまで言うと、黒ずくめの男は一つ、黒ずくめの女は二つ、計三つのモンスターボールを取り出し、投げた。
    「我々の崇高な目論見をガン見するとは……見逃すわけにはいかないな! 永久に黙っててもらおう。行け、ヒューイ!」
    「あなたたちも手伝いなさい。デューイ、ルーイ」
     ボールから飛び出したのは、揃いも揃って同じマヌケ面を披露したコアルヒー。
    「やれ」
     三羽のコアルヒーが私とアラハバキに飛びかかってきた。
    「危ない!」
     ここでネタが機敏な動きを見せた。さっと私の前に回ると、リフレクターを繰り出してコアルヒーたちの燕返しを受け止めたのだ。
    「やるねぇアラハバキ。じゃなくてネタ」
    「だろ? これからはアラハバキって呼んでくれ!」
     ネタ改めアラハバキとコアルヒー三匹が距離を取った。アラハバキがコアルヒーたちから見て後ろ側の目で私に目配せする。
    「あのコアルヒー、只者じゃないぞ」
    「そうかなあ?」
    「名前的に」
     そっちかい、とツッコム間もなく、次のターンが始まる。バタバタと飛び回るコアルヒーたちに、ネタがサイケ光線を連打する。しかし、的が小さくちょこまか動き回るから中々当たらない。
    「もう、何やってんの。水飛行だからジオやりなさい、ジオ」
    「だからゲーム違う」
     そう言いながらサイケ光線をチャージビームに切り替えるネタ。ノリいいじゃないか。

     なんだかんだ言いながらジオでデューイとヒューイとルーイを撃破。
    「さて、アムを誘拐した罪、どうあがなってもらおうか……」
     黒服の男女は正座して俯いている。いかにも反省してますというポーズ。隣でラグラージもなるたけ小さくなってた。その奥のベビーカーでは赤ちゃん安眠中。
    「ところでアラハバキ。黒ずくめの三人組って言ったけど」
    「うん、三人組だろ」
     男と、女と、
    「赤ちゃんも入れたら三人」
     まあ、何も言うまい。
     アムは私の足元で毛づくろいなんかしてる。もうこの場面でもかわいいなあこいつは。後足をほいって上げて耳をカショカショ掻いてんだよもうかわいい以外何も言えねえ。こんなにかわいいアムを砂埃まみれにしてくれた罰。
    「砂埃まみれなのはそいつが砂場で遊んでたから」
     抗弁しかけた黒男を一睨み。それで男は黙る。
    「いや、こいつの方が一理あると」
    「アラハバキは黙って」
     さあ、どうしてくれようか。
    「まず、なんでアムを誘拐したか、その理由は」
     私の声にビビったのか、男の肩がビクリとなる。ついでにいくらか萎んだみたいだ。全くこのくらいで、情けない。
    「実は……」
     同じく小さくなっているラグラージを横目で見てから、話し出す。
    「あの子の世話をラグラージに任せているんですが、ラグラージにあやされても全然、泣き止まなくなって」
     うん、そりゃ、赤ん坊泣くわな。目の前に怪獣が迫ってきたらな。
    「夜泣きも酷くなってきて……妻とどうしようか、対策を話し合ったんです」
     男が黒女を見、彼女が話を引き取った。
    「ラグラージはちょっと強面だから赤ん坊には刺激が強すぎるんじゃないか、イーブイみたいなかわいいポケモンがあやしてくれれば、夜泣きも治るんじゃないかって……」
    「ちょっと待て」
     急にアラハバキが話を遮った。土笛に似た手を落ち着かなげにばしゅんばしゅん虚空に飛ばしている。
     アラハバキはいくつもある目をカッと見開いて、夫婦(だろう)黒ずくめに向かって言った。
    「ラグラージがさっきからどうこうって、お前らのガキだろ? お前らがいないいないばあすればそれで収まるんじゃね?」
     夫婦は黙り込んだ。アラハバキの手が撃ち出されるぱしゅっという音だけが廃工場の内側に反響していた。

    「だって……」
     気不味い沈黙を破ったのは、黒ずくめの男だった。

    「うちの子は! うちの子は闇の帝王なんだよ! ポケモンに囲まれて育って、人間の干渉は受けないんだ! そうやって特殊な生い立ちで人の同情買ってゆくゆくは世界を背負って立たせようって魂胆なんだ! どうだ参ったかパンピーには真似できまい血の気が引くだろうあっはっはっはっは」
     どん引きです。
    「というわけで! うちの子には人様が近付いちゃいけねぇんだよ!」
     某Nさんもびっくりな子育て法ですね。
     男が急に立ち上がった。目が妙に情熱的で純粋に恐い。その手には青と白のボールがあった。
    「俺様たちの崇高な計画を邪魔されてたまるかあ!」
     男がボールを投げる。光に包まれて姿を現したのはスワンナ。
    「いけ、ドナルド! 奴らを追い払え!」
     ドナルドの癖に白鳥かよ。
     廃工場の狭い一室の中を、暴風が荒れ狂う。アムを庇いながら後ろに下がる。承知した、とばかりにアラハバキが進み出た。
    「頼むよ。一番いいジオをお願い」
    「チャージビームだ」
     アラハバキはそう言って、雨と風の嵐の中へ突っ込んでいった。私の方に向けてた目が、心なしか笑ってるように見えた。



    (死闘が展開されております。しばらくお待ちください)



     もうもうとバトルでモロモロになった建材のくずが立ち込める。汚い霧が晴れた時、立っていたのは

    「アラハバキ!」
     私はダッシュ&ジャンプでアラハバキに飛び付いた。土偶ポケモンはいくつもある目を細めて、勝負に勝てた喜びを示した。ああ、もうボロボロじゃないか。でもよく頑張ったね、アラハバキ。
     と思ってたらアラハバキの体がガクンと傾いた。
    「くそっ、俺ももう限界みたいだ」
     無駄に多い目を細めてあはは、と笑うアラハバキ。くそっそんなこと言うなよ死亡フラグじゃねえか。
     こん、とアムがズボンの裾におでこを当てた。何? と言いかけてハッとする。
     ズボンのポケットに入れたままの……
    「アラハバキ! サイコソーダだよ。ほら、これで体力回復して」
    「そりゃありがたい。ごきゅごきゅ……って何だこりゃ! ただの砂糖水じゃねえか!」
     ガン、とサイコソーダを投げ捨てるアラハバキ。体力は回復しませんでした。
    「アラハバキ……」
    「こんな時に不味いもん飲ませやがって……」
     甘いもの嫌いでしたか、ごめんなさい。
    「まあいい」とアラハバキは言った。その顔はスワンナに向けられていた。
     訂正。その顔は三百六十度全方向に向けられていた。
    「お前とのバトル、楽しかったぜ。……最初はヒューイデューイルーイときてドナ(事情により印字できません)ックじゃねえのかよ白鳥かよなんて思ったけどな……」
     アラハバキの体が淡い光に包まれる。私の脳裏にアラハバキの言葉が蘇る。
     ――ドナルドというのは一介の男性名、そしてダックというのは普通名詞のはずだ。
     ――何故つなげると存亡の危機に関わるのだろう?
    「消えんな、アラハバキ!」
     私は必死に叫んだ。
    「消えんな、根性出せよ! うっかりドナなんとかアヒルとか言った所為で消えるなんて、そんなの格好悪すぎだろ!」
    「悪いな、俺の特性は浮遊なんだ」
    「笑えないよ」
    「なあ、物書きよ」
     アラハバキのたくさんある目が私を見る。ああ、こいつってこんな優しい目をしてたんだ。
    「短い間だったが、楽しかった……俺はお前のネタになれたか?」
     涙を堪えながら、私はアラハバキの手を握る。あっ取れた。
     私は首を振った。
    「アラハバキは……ネタなんかじゃない。私の大事な――」
     光に包まれて、消えた。
    「アラハバキ!」
     アムが足元で、きゅう、と鳴いた。
     手の中に土笛みたいなあいつの手が残った。



     廃工場の外の方から、パトカーのサイレンの音が聞こえる。
     ふらふらと立ち上がりながら「警察が来た。もう逃げられないぞ」とお定まりの台詞を吐く。
    「ちくしょう!」
     男はスワンナが入ったボールを床に叩きつけ、罵詈雑言をいくつか叫んだ。そして、私に飛びかかってきた。
    「危ない!」
     コアルヒーの時のように、私を庇ってくれたアラハバキはもういない。しかし、その時とは別の影が私と男の間に立ちふさがった。
     それは、あの黒ずくめ女だった。
    「あなた、もうやめて!」
     女のありがちな台詞が放たれると同時に、男が拳を振り上げた格好のまま固まる。女は頭を振ると、後を続けた。
    「こんなこと、やっぱり間違ってるのよ……あの子をポケモンの子として育てようなんて。あの子は人間よ、私たちの子よ! 私たちが愛して育てるのが一番なのよ! それがパセリのためよ!」
    「え、パセリ?」
    「そうだな。俺が間違っていた」
    「ちょっと待てパセリってなんだ」
    「あなたなら分かってくれると思ってたわ……! そう、あなたは本当は優しい人だもの」
    「パセリって赤ちゃんの名前ですか」
    「そうと決まったら心を入れ替えて、パセリを育てていこう。俺と君とで……」
    「あなた……!」
     ひしと抱き合う黒ずくめ共。あーあ、今日は暑いな。
    「帰るか」
     アムを抱いて帰ろうとした矢先、警察の人と鉢合わせする。
    「使われていない工場で何やら騒いでいると通報がありました。事情をお聞かせ願えますか」
     活劇のヒーローじゃあるまいし、現実なんてこんなもんである。はい、と警察手帳に頭を垂れて、いそいそと取り調べに向かいました。



    「あーあ、今日一日疲れたね、アム」
     警察署を出ると、もう夕日が差していた。アムはそんなことはお構いなく、ボールの外に出られるのが嬉しいみたいで、尻尾をハチャメチャに振っている。
    「アムったら」
     口の端に笑みを浮かべつつ、もう一匹、今頃ここに一緒にいたはずのポケモンのことを考える。
     ポケットに手をやる。大きめの土笛が入っている。
    「あ、目にゴミが」
     わざとらしくそう言いながら目をこする。違う今のは本当に目にゴミが入ったんだ嘘じゃないよ。
    「アラハバキ……」
     夕焼け空を仰いだ。もう蒼くなり始めている。
    「あんな消え方しやがって……もっぺん降ってこい、ネタ」

     ひゅーっ、どごーん。

     ありがちな音を立てて、降ってきた。
    「えっ」
    「えっ、じゃねえよ。手ェ返せ手」
     片方の手がないネンドールが、残った手をビシビシ夕焼け空に撃っている。私がポケットから大きめの土笛を出すと「そうこれこれ」と言って肩に装着した。どこだよ肩。
    「あの、なんで戻ってきたの?」
    「もっぺん降ってこいって言ったじゃん」
    「だからって本当に降ってくるか!? しかもこんなに早く!?」
    「まー、それは言いっこなしで」
     アラハバキもといネタはケタケタと笑う。アムがビビってるよ尻尾下がってるよちょっと。
    「あ、そういえば」とアラハバキが言った。
    「何?」
    「お前さあ、あの時なんて言おうとしたの?」
    「どの時?」
    「俺が消えそうになった時」
     そこまで言われて、はたと思い当たる。あの時、私はアラハバキの手を握りながら、
    (私の大事な――)

    「ええい知るかそんなこと! 忘れた!」
    「まあそう言うなよ。私の大事な――何?」
    「だから知らねえって!」
     意味のない言い争いを続けながら、当たり前のように同じ道を辿って帰る。
    「でもさあ、あの時半泣きで」
    「ああもう、タネ!」
    「タネ?」
    「そ」
     私はいくらか走って、アラハバキとの距離を開けた。そして振り返り、
    「形になりそうな、大事な話のタネだって言おうとしたの!」
     私は走り出す。アムも一緒に。そんでもって振り返ったら、アラハバキがばっちり付いて来てた。



     後日、『パセリの冒険』というポケモンに育てられた黒ずくめの男の子がネンドールをお供に闇の帝王(実は父親)をやっつけに行く話を書き上げたが、それはまた別のお話。


     おわりっ!

    【何してもいいのよ】


      [No.1164] 風のつよい日には 投稿者:イケズキ   投稿日:2011/05/09(Mon) 22:02:45     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     風のつよい日には


     母さんのワガママにはまったく困らされる。
     父さんも父さんだ。自分の通勤が大変になるって分かってたはずなのに、どうしてこんな所に住むのを許しちゃうんだ。
     おかげで俺は毎朝、五時起きして学校に通わないといけない。
     今じゃもう寝不足には慣れたけど、舟を使えない日の苦労は到底「慣れ」なんてもので片づけられそうにない。

     引っ越しは今年でもう三度目になる。
     今度の家は、シンジ湖のほとりにある。
     それも、入口から対岸の方にあるから、学校のあるフタバタウンまでは湖を越えてい行かないとならない。普段なら、父さんが買ってきた舟に一緒に乗って行けるのだけど、風が強かったりして波の高い日にはぐるっと回っていかないとならなくなる。
     もちろん歩いて行ったのじゃ、とても間に合わないから、あのデカい炎ポケモンに乗って行くことになるのだけど、アイツに乗るのはホントこりごりだ。
     いくら炎ポケモンだからって、風のつよい日にああも全速力で走られては凍えてしまう。しかもガクンガクン揺れるせいで乗り物酔いが絶えない。時々、腹の底から盛り上がってくるモノにこらえきれず、オエッってことも……。当然そんな日には授業なんてサッパリ頭に入らない。
     朝起きて、ドアの向こうに舟があるかアイツがいるか。これは今や、俺にとって死活問題とすら言えるのだ。


     ――シンジ湖周辺、明日の天気は……北東の風14m……。
     うぅ……結構強い……。こりゃ明日はアイツに乗って行くことになりそうだ。

     毎夜毎夜、七時のゴールデンタイムにバラエティ番組でなく、陰気くさい公共放送の天気予報を聞くようになったのも、こんな所に来てからだ。
     予報を見たって天気が変わるわけでない事はもちろん分かってるけど、風邪を引いた子供が何度も熱を測りたくなるのと同じで、気にし出したら止まらない。
     明日の事を思うとさっそく気分が重いがいろいろ準備をしなければ。
     一通り授業道具をそろえると、まずは、ウインドブレーカーをとってきてハンガーにかけて置いた。こんなんじゃ全然足りないんだけど、あまり厚着をすると湖から先を汗だくになって学校に行くことになる。アイツに乗って行く日は個人的な寒暖の差が激しくなるのが悩ましい。
     次に、ボールからカゲボウズを出してカーテンの桟にちょこんとくっつけた。
     前はちゃんとてるてる坊主を作っていたんだけど、ゴミばっか増えるって、母さんが代わりに一匹くれた。別にわざわざ用意してくれなくて良かったんだけど、まぁ結構おもしろい奴だしよかったのかな。

     ――かげかげぼうず〜カゲボウズ〜あ〜したてんきにしておくれ〜。
     もちろん、実際には喋らないよ。恥ずかしいし。心の中で呟くだけ。
     どうせ効果なんてないんだけど、げんかつぎ、げんかつぎ。


     目が覚めた。ベッドから起きる。カーテンは開けない。まだ希望を持っていたいから。
     窓がガタガタいってる気がするけど、まだ分からない。もしかしたらまだ舟でいけるくらいの風かもしれない。
     リビングには誰もいなかった。父さんはもう出たみたい。母さんはまだ寝ているのだろう。

     顔を洗い、歯を磨き、軽く朝食をとって、もう六時。そろそろ出ないと。

     運命の時。ドアを開けた先に、舟が泊まっているか、アイツがいるか。

     緊張の瞬間…………。

     どうだ!!









     「あぁ……今日はウインディ……」

     10歳の秋、空はどんよりと曇っていた。


    ---------------------------------------------------------

    すみません、ダジャレです。風がつよいとWindy(ウインディ)で……

    この間、きとらさんに炎の石をいただき自分所のガーディが進化して、ウインディで一つ書きたくなった結果ですww

    この話の中でウインディは少々、嫌な日の象徴みたいになってしまってますが、私、イケズキはウインディが大好きです。えぇ、そりゃもう、心底。

    あと、この話の主人公は「手に入れるということ」の、ぼんぼんです。やたら贅沢なのは、彼ら家族がメチャクチャ金持ちだからですw


    【書いてもいいっす】【描いてもいいっす】


      [No.1152] 月光蝶 投稿者:MAX   投稿日:2011/05/06(Fri) 01:05:40     66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     旅の男の言うとこじゃ 言うとこじゃ



     月夜の森のさまよう折に ぐるりひらける土地を見た
     月の夜空のまぶしきことよ のぞむ月輪 望月か


     ひらり
     しゃらり

     月夜にあってまたたく星や
     見れば月夜に蝶が舞い 四方に八方にと蝶の舞


     ひらり 舞うなりしろがねの
     しゃらり 舞い散るしろがねの

     月夜にあってまたたく星の
     蝶の羽より銀の風 四方に八方にと銀の風

     舞い散る星の輝きや 飛び交う蝶のうるわしや


     げにうつくしき げにうつくしき



     月の野原のさまよう蝶に ひらり舞い飛ぶ羽を見た
     色のまだらの妖しきことか 舞うは鱗粉 毒虫か


     ひらり ひらり
     しゃらり しゃらり

     月夜にあってまたたく星や
     見れば毒虫 月に舞い 四方に八方にと蝶の舞


     ひらり 舞うなりドクケイル
     しゃらり 舞い散るモルフォンの

     月夜にあってまたたく星の
     毒虫 踊る銀の風 四方に八方にと銀の風

     舞い散る銀の輝きや 飛び交う毒のうるわしや


     げにおそろしき げにおそろしき




     旅の男の言うとこじゃ 言うとこじゃ


     毒虫舞い飛ぶ 月夜の森に
     舞い散る銀のうつくしさ

     されど 毒虫おそろしき
     なれど 銀星うつくしき


     男 倒れて さもありなんか
     毒に倒れて それみたことか

     男 つぶやく 月夜の晩に
     舞い散る銀のうつくしさ

     されど 毒虫おそろしき
     なれど 銀星うつくしき




     月見てはねる 蝶の舞う
     銀の風ふく ほろびの歌う
     男 語るは月夜の森の
     男 月夜に息を引き取る




    ――――――――――
    【批評していいのよ】【書いてもいいのよ】【描いてもいいのよ】


      [No.1140] 縫い逢わせる。 投稿者:巳佑   投稿日:2011/05/05(Thu) 05:51:37     59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ある西洋風の都はずれにある高原には、空家が一軒あった。
     私はその高原で散歩をしているとき、いきなりの通り雨にあって、その空家に雨宿りさせてもらうことにした。
     中に入ってみると……ほこりが溜まっているのが分かる、というか、家具とかはそのままだったのか。
     居間の方に入ってみるとほこりが積もっていて若干、白く染まった机が目に入った。
     ……この空家、いつからの物だろうか?
     私がこの都に来たのはつい最近だ。
     事情を知っているはずがない。

     とりあえず、この家が空家だということは高原を散歩しているときに知った……だが、知っているのはそれだけで、後のことは知らなかった。

    「ねぇ、おじさん……裁縫できる?」

     ――刹那、そんな声が耳に届いて、私はとっさに振り返った。
     そこには、黒い人形みたいなものがふよふよと浮いていた。
     赤い瞳に金色ファスナーの口……確か、本で見たことがある、ジュペッタというポケモンだ。
     名前を知っているのだが、後のことは覚えていない。
     ジュペッタという名前と姿、後はぬいぐるみポケモンとしか分からない、生憎、私は物知りではないものでな。

    「裁縫……?」
    「……うん、ここにボロボロになっちゃった人形が四つあるんだけど、縫い直して欲しいんだ。道具はここにあるし、指定とかも僕がするから」

     うむ……雨宿りをしてもらっている身としては断れない。
     私は引き受けることにした――いや、引き受けざるを得ないといったところかもしれないが。
     
    「だが……私は人形師でもなんでもない。裁縫は人並み程度だが、大丈夫なのか?」
    「大丈夫だよ。ありがとう」

     ジュペッタが早速、その四つある人形のところに案内してくれた。
     居間の入り口側にある机ではなく、奥の方の窓が近くにある小机の上にその人形は置いてあった。
     確かに一つ一つがボロボロだ。綿とかむき出しになっているのが分かる。辛うじて……人型というのだけは分かったが。
     ジュペッタが早速、木製の裁縫箱を持ってきてくれた……中には糸や、針がそろっている。
     毎日手入れされているのだろうか、この裁縫箱の外見も中の物もほこりがあまりかぶってなかった。
     まぁ、とりあえず、雨宿りのお礼に一縫いしてみるか。

     まずは一つ目。
     人の下半身部分に青い布の注文が入る。恐らくジーパンみたいなものなのだろう。
     それを縫い終えると、次は上半身、白い布の注文が入る。無地のTシャツといったところか。
     後は靴の部分と思われるところは黒、そして、肌色の注文で人の皮の部分を縫っていく。
     髪にも黒の指定。
     目は黒のボタンの指定が入った。
     あ、もちろん、綿もしっかりと詰めている。
     ……これは、大人の男、か? とにかく体つきが良さそうな男ができた。

     次に二つ目。
     下半身は緑の布が注文に、更にロングスカートみたいにしてという注文が入る。
     上半身は黒色の布の注文の後、桃色の注文が入った。エプロンをつけて欲しいのことだった。
     靴の部分は赤色、肌の部分は茶色が入った……褐色系だったのか。
     髪は白色が指定された、人間で言うとももの辺りまで白い布が伸びていく……長髪なのだろう。
     目には青いボタンを入れて……もちろん綿を入れるのも忘れずに。
     完成したのは……言うまでもなく女性だろう。
     一つ目とそんなに大きさは変わってないから大人の女性だろう……とても優しいそうな女性ができた。

     更に三つ目。
     下半身は桃色の布が注文に、更にミニスカートみたいにしてという注文が入る。
     上半身は赤色の布で、長袖の服を縫っていく。
     靴の部分は白色、肌の部分は茶色が入った……この子も褐色系のようだ。
     髪は灰色が指定された。ツインテールみたいにしてという注文がここで入る。
     目には青いボタンを入れて、綿も繰り返しになるが、忘れずに、と。
     完成したのは……先程の二つよりも小さいことから……恐らく、子供。
     可愛らしくて、なんだか恥ずかしそうな少女ができたような気がする。

     最後に四つ目。
     下半身は青色の布が注文に、更に短パンみたいにしてという注文が入る。
     上半身は黄色の布で、半袖の服を縫っていく。
     靴の部分は緑色、肌の部分は再び肌色に戻った。
     髪は黒で、目には黒色のボタンが取り付けられた。
     完成したのは……これも最初の二つ同様小さいことから……子供だろう。
     活発そうでやんちゃそうな少年ができた。  

     これで、全て終わった。
     専門的な技術は持っていないので、できあがり具合はそれ程でもないが、まぁ、とりあえず人に見えるし、大丈夫だろう。
     振り返ってジュペッタを見ようとした。
     だが、近くに浮いていたはずのジュペッタがいない。
     はて、どこに行ったものかと辺りを見渡してみると、すぐそこの床にジュペッタはたたずんでいた。
     どうしたものかと尋ねようとして、ジュペッタを見ると、ジュペッタは体を重たそうにしていた。

     自分の涙で自分を重くしていたのだろうか。  

     ジュペッタの体は何かに――涙が染みこんでいるような感じだった。

    「ごめんね……僕を抱いて、もう一回、人形を見せてくれる……?」

     言われた通り、ジュペッタを抱き上げた。
     肌に濡れた物があたる。
     ジュペッタは四つの人形の方を見つめていた。

    「ありがとう……パパもママも……妹も……そして僕もいる……やっと家族がそろったんだ……ありが、とう。おじ、さん……もう、だいじょうぶ、みたい。僕は……独り、じゃ、なかったんだね」
     
     嗚咽(おえつ)をだしながらもそこまで言うと、ジュペッタは徐々に光っていき――。

    「本当に、ありがとう、おじさん」

     跡形もなく消えていった。
     最後には涙を見せながらも微笑んでいたのが心に残った。




     この摩訶不思議な出来事の後、私はこの家の者について調べさせてもらった。
     あの家には四人の家族が住んでいたらしい。
     豪快な父親に、物腰の柔らかい母親に、恥ずかしがり屋な娘に、元気活発な息子。
     今から約七年前のある日、どうやら、その息子が悪戯をした罰として家に留守番をさせられていたという。
     その息子の父と母、そして妹の三人はその日、息子を置いて出かけたのだという……しかし、その三人は道中、不慮の事故で亡くなってしまった。
     そして、何も知らない息子は、帰りが遅くてイライラしていたのだろう、勢いよく家を飛び出して、やがて、事故に巻き込まれて、死んでしまったという。

     その日は皮肉にも息子の誕生日だった。
     その息子の父と母と妹が握っていたというものが――。

     あの家族の人形という誕生日プレゼントだった。

     その事故に心を痛めた一人がせめて人形だけでも、ということでその四つの人形は家に置かれたらしい。
     
     恐らく、年月が経っていく度にボロがでてしまったのだろう。
     家のカギは開いていたから、恐らく、野生のポケモンが私と同じく雨宿りで家に入り込み、人形に手を出してしまったのかもしれない。



     散歩コースに定めた高原を歩きながら、私は青空を見上げる。
     ……あのジュペッタは無事、家族に再会できただろうか?
     いや、大丈夫だろう。
     何故なら――。


     あの家族の人形はいい笑顔をしていたのだから。




    【書いてみました】

     GW中は昨日で終わりかと思っていたら、まだGWマジックは終わっていませんでした。(汗)
     まさかのGWマジック三連発。(汗)
     今年のGWは充実しましたです。
     
     深夜チャット中に色々と話に花が咲き、色々と路線が爆発したりした中、(笑)
     カゲボウズやジュペッタの話が盛り上がったときに産まれた物語です。
     恐るべしチャット、そしてカゲボウズやジュペッタの魅力に更にドキドキしました。

     チャットではお世話になりました。
     あの場に居合わせた方々に、この場を借りまして……ありがとうございました!

     
     今回の物語のイメージカラーは個人的にセピア色……。
     皆様にどうか温かいものと、ジュペッタの魅力が伝わりますように。




     ありがとうございました。


    【何をしてもいいですよ】
     
     


      [No.1129] ・・・ぽかーん。 投稿者:スズメ   投稿日:2011/05/03(Tue) 23:14:47     28clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    たまたまチャットのときに書いた即席物体が、こんな立派なものになるとは・・・
    ありがとうございます!!
    未だに、開いた口がふさがらずぽかーん・・・
    え、グレイシアかわいい。こんなにかわいい子だったとは・・・。
    リーフィアもかわいい、二匹ともいつの間にこんなに・・・。
    ほんとうにありがとうございました!
    感謝してもしきれないです、ありがとうございました!!


      [No.1117] 【再掲】携帯獣師少女ハルカ☆マギカ 投稿者:レイニー   投稿日:2011/05/02(Mon) 22:34:54     55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ホウエン地方に単身赴任している父親の元に、母親と共に引っ越すことになったハルカ。
    夢見ていた家族3人でのありふれた日常がついにやってくる。――そのはずだった。

    ハルカはホウエン地方に向かうトラックの中で、希望に満ちた平穏な日常を想像しているうちに、うたた寝してしまう。
    そこで見た夢は、見たことのない犬型のポケモンに襲われるおじさん、そしてやはり見たことのない水色のポケモンの姿であった。

    そして、ミシロタウンに到着したハルカを待ち受けていたのは、犬型のポケモンに襲われるおじさんという、見覚えのある光景。
    おじさんに、モンスターボールからポケモンを出して助けてくれといわれたハルカは、言われたとおりポケモンを出す。
    そこに現れたのは、夢で見たあの水色のポケモンだった。
    そして、そのポケモンはハルカにこう語りかける。
    「僕と契約して、ポケモントレーナーになってよ!」

    そしてハルカはこの後、ホウエン地方全土を揺るがす、非日常的な大事件に巻き込まれることになるのである――



    ※タイトルは「トレーナーしょうじょ」と読んでください。


    ポケスト再掲作品の頭がこれなんて、こんなの絶対おかしいよ!


    【どうしてもいいのよ】
    【もう何も怖くな……ログ消失怖い】


      [No.1105] 一夜の夢の思い出 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/12/28(Tue) 16:15:40     25clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    年末は一番忙しい時期。  …しかし、余暇の手は緩めない(笑)

    きとかげさん、管理人さん、感想ありがとう御座いますです。
    …御返事が遅れて、まことに申し訳ありませぬ……(爆)


    >きとかげさん


    >字数オーバーとは……しかし、その分読み応えが非常にありまして、楽しませていただきました。

    字数オーバーですね(苦笑)
    …兎に角、短く纏めるのが苦手でして…(汗) 気がつけば、相当書きたい事抑えた筈なのに、この体たらく……(爆)

    取りあえず、暇潰し位にはなっているのなら幸いです。  …やたら長いので、単なる時間殺しになった場合はかなり…ね……(汗)

    主人公は、お察しの通りアイツです。  …昔死にかけたくせに、またああやって崖から落っこちてるんですから、相当悪運が強いのでしょう。
    もうちょっと危機管理面で進歩しような、と(苦笑)


    >まずこの一文に惚れました。
    こういう、世界が伝わってくるというか、上手く言えてませんが、そんな描写で、引き込まれてしまいました。

    俗に言う『マタギ文学』と言うヤツを、時たま読みますので…… その辺りから引っ張ってきた描写方法ですね。
    山の民俗や習慣に関する書籍も好きですから、そう言う所から妄想を膨らませて書きました。

    ああ言うのは面白いですので、結構お勧めです(笑)


    >過去から培ってきた知恵には素晴らしいものがあるのに、それら全てを切り捨てる時代に進んでしまう。
    もう戻れないのは自明ですが、改めて言われると、考えてしまいますね。
    >分業を進めて、システム的には優れているはずなのに、何かおかしい。捨てたものの中に、捨ててはいけなかったものがあるんじゃないか。そう思いました。

    『捨てる』と『変わる』――これが、この文の中で取り上げてみたかった、キーワードです。

    …自分は普段、店舗で廃棄なんかにも携わるパートで働いておりますが…毎日毎日ドシャドシャと捨てられていく期限切れ商品や、製品化の過程での端材を眺めていると、どうしてこれだけ無為に廃棄出来るのかと、何時も空恐ろしく思うんです。
    それに以前、TVで国が貯蔵していた余剰米を、大量に海に投棄してたりしてるのも見たりして…… 農作業もやってますから、ここでも大ショック。
    食べたくとも食べられない立場の者が如何に多いかを考えると、本当にえげつない……

    それらを生み出す際に下敷きにされている存在が如何に無為に見られているかを、元虫取り少年としては、どうしても書いてみたかったのです。

    …後、以前あちこちを回っていた頃、偶々訪れた所でお世話になったアイヌの方に、ダムについての御意見を伺った時の心情も、この作品を書く上での、大きな指針となりました。
    その方は、ダム建設の強引な理屈を指して、こう仰いました。
    「水害の防止の為にダムが要るといわれたって、我々にはそうは思えない。 …元々アイヌは、洪水になる様な所には住まないんだから」――と。
    長く住んでいた場所を強引に追われたりして、結果的にそんなものを必要とさせている現状を考え直してもらう方が大切だと、その方は仰いました。

    …変えないと、生きていけないような世代――そんな時代に生まれた人間の自己矛盾と苦悩、それにその理不尽さについてを、一度書いてみたいと思った訳ですね。  上手く行きませんでしたが……(大爆)


    >そうだといいですねえ……

    ですねぇ……(遠い目)
    …まぁ、この先の事はこの先の者が決める事ですから、まだ望みはありますよ、きっと――

    ミミロルも何れ大人になって、自分の与えて貰った物を精一杯の愛情として、次の世代に伝えていくでしょう。  …あの節には、そんな隠喩をかけています。


    >No.017さん


    > ちょwwww
    > それはあれですか中の人が( いやなんでもない。
    > あとたまに表示が暴走しますが、たぶんリロードすれば直ります。

    いえいえ…!? 決してそんな心算では!?(汗)

    単純に、二つ窓開いて作業してた所――片方が一段落したので、「さぁポケスト覗くか!」と画面を見た所で、ミカルゲさんがですね……
    『ポケモンストーリーコンテスト!  お題は足跡!――』……という呟きで、ツイッターの中身を埋め尽くしていたのです(爆)

    これは祟りでは無いだろーかと驚き恐れ、慌ててスマヌスマヌとメモ帳を立ち上げて書き殴ったのが、このお話という訳ですな(苦笑)

    クオリティが高く見えるのは完全に気のせいです。  …お疲れなんですよ、激務で――
    御自愛なすってください……


    > さ、さすが各自中毒を辞任するだけはある、これがちゃんとした考証に裏打ちされたhsどqwshふじあq;そj

    活字中毒はすごいぞー  なんせ、パクれるネタや表現が幾らでもあるからなっ!(笑  オイコラ)


    > 字数オーバーでコンテストに掲載できないのが惜しいorz

    こんなのより、他の方の未発表作の方がずっと惜しいですよー……
    審査する側としては大変だけど、そう言った作品を一つでも多く読みたかったです……(寂)

    ここに投稿して頂け無いかなぁ…巳佑さんみたく……  …あれも実に惜しかった……


    > どうでしょう。
    > ちょうど、ロスタイムに間に合わなかった足跡もあることだし、
    > コンテストが終わってアーカイヴ掲載になる際には一緒に掲載する形では。

    自分は別に構いませぬが……(汗)
    …こんなもんで良ければ、どうぞお納め下さいませ〜(平伏)

    取りあえず、アーカイヴ掲載と言う事で、少しでも未発表作品で日が当るものが増えたら嬉しいなぁ……


    …では。  どうもありがとう御座いました…!


      [No.1094] これおもしろいですね! 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2010/12/26(Sun) 20:39:15     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    これおもしろいですね。
    いろいろつくれそうだ。

    誰かクリスマス中止のお知らせ系で!(もう期限切れ?w


      [No.1083] 飛行訓練 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/12/26(Sun) 05:17:29     42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     五月十四日。

     ライモンシティの中心部から外れた閑静な住宅街、その上空を、遠目にも色鮮やかな鳥が翼を打ち振るって飛んでいた。
     鳥の背中には人影。おそらく、自身のトレーナーを乗せて飛んで

     バランスを崩した。


     トレーナーが体勢を立て直すよう指示するが、空中で左に傾いてしまった体は元の姿勢に戻る術を知らず、更に大きく傾き、首を下に向け、きりもみ回転を始めた。
     そうなると、体勢の戻しようがない。
     一組のトレーナーとポケモンはそのまま重力に従って、住宅街の固い地面にぶつかるものと思われた。

     しかし、ひとりと一匹の体は、空と地面の途中で透明な網に受け止められた。
     網はひとりと一匹分の運動量を受け取り、網が伸び切る限界、地面すれすれの、高さニアリーイコールゼロの地点まで伸びると、伸びた分を弾性力に変えて、今度は上昇を始めた。
     上昇し、最高点に着くと、今度は下降を始める。暫くそれを繰り返して、網の動きが微小な振動へと収束した時、空から落ちてきたポケモンとそのトレーナーは地面に降り立った。


     トレーナーの方は女性で黒いコートを着ており、真っ黒な髪の中に一房、紅色に染めた髪をいじっている。
     続いて降り立った、青黄の原色の羽に飾られた爬虫類と鳥の狭間のような姿をしたポケモンが、気難しそうに髪を触る女性を見上げて、謝るように鳴いた。

    「中々上手くはいかないもんだな、ロー」

     落下のショックを吐き出すように、女性は胸に手を当て、長い息をついた。そしてすぐ笑顔になると、

    「今日は随分長く飛べたな。どんどん上達してるよ」

     そう言って、原色のポケモンの、鱗に覆われた長い首を撫でた。
     ポケモンは嬉しそうな、けれどやはり申し訳なさそうな眼差しで女性を見た。

     女性の目の中には、隠し切れない、空への希求が輝いていた。



     五月十五日。

    「……どうしたんですか、その怪我」
    「落ちた」
    「ええっ!?」

     職場に出勤した女性は、後輩兼部下の質問に、必要最小限の言葉で答えつつ、自分のデスクについた。
     額と右頬には大きめの白い布が当てられている。色白で、他者から常々「美人だ」と評される顔に傷が付いているらしい。
     彼女はそんなことを爪の先ほども気にせず、左手の指先で左頬を掻く。
     そちらの手は無傷だが、右手の方は指の付け根まで包帯に覆われている。
     服の下もきっと傷だらけに違いない。
    「どこから落ちたんですか」
     と呆れた調子で部下が質問した。

    「ロー……アーケオスの背中からだ」
    「また落ちたんですか」

     いつものように淡々と、静かな声で答えた上司に、部下はやるせないという風にため息をついた。
     またですかと言うべきか、気を付けてくださいよと言うべきか、そもそもアーケオスに乗るのが危ないと言うべきか、部下が迷っていると、彼女の方が先に口を開いた。

    「安全対策はばっちりだったんだが、肝心の網が切れた」

     ばっちりじゃないですよね、と部下が嫌味を込めて言うが、彼女はどこ吹く風といった様子で、部下の言葉を丸ごと流した。
     彼女は肩の上に左手を伸ばすと、そこからポケモンを取り出してきて机の上に置いた。
     肩に乗るサイズの、小さなポケモンの代名詞であるバチュルが、酷く疲れた様子で彼女を見上げていた。

     通常、ポケモンの飛行訓練をする時は、テレキネシス――体を浮かせる技――を使えるポケモンを用意するか、下に安全ネットを張っておく。
     そのネットには丈夫で弾力性に富む虫ポケモンの糸を使うことが多いのだが。

     机の上に置かれたバチュルは、心なしか痩せ細って見える。

    「酷使するからですよ」
    「かもな」
     本当にそう思っているのかどうか、推し量り辛い調子で部下の言葉に答える上司。
     その彼女はデスク上に置かれたパソコンをいじっていたが、急にマウスを投げると、部下に顔を向けた。

     顔を輝かせ、いつになくはしゃいだ様子で上司は言った。
    「そうだ! ノクティスも空を飛べるだろう? ちょっと訓練に付き合ってくれ、キラン!」
    「ええ!? なんでですか、それより仕事してくださいよ!」
    「ローが飛べるようになったら、いくらでもやるからさ」

     彼女は有無を言わさず、一度は脱いだコートを手に取ると、バチュルを手に持って、部屋から職場に隣接した青空道場へと駆けて行く。
     その速いことといったら、特性の早足が発動したグラエナのようだ。

    「もう、レンリさんは全くもう……」
     部屋に残されたキランも、仕方なく自分の上着とモンスターボールを持って、道場へ向かった。


     アーケオス、さいこどりポケモン。
     大昔に生きていたとされる始祖鳥のポケモンで、地を駆ける恐竜から、いざ飛び立たんとする鳥へ進化する、その途中の行程を保存したような姿をしている。
     前脚の翼は鳥のそれだが、現代に生きる鳥や鳥ポケモンの姿とは異なって、大胸筋は未発達であり、代わりに地を駆ける恐竜の名残である後脚が発達している。
     太い腕の筋肉で翼を動かしていたと考えられるが、原生の鳥たちと比べればその羽ばたきは力強いとは言えない。
     羽ばたきで積極的に上昇することはせず、後脚が生み出す優れた初速を利用して飛んでいるのだろう。
     翼の力が弱く、旋回や速度調整は不得手なので、低く直線的に飛ぶのが彼らアーケオスである。


     にも関わらず。
     ライモンシティにある警察署の上空を高々と、アーケオスがひとりの女性を乗せて飛んでいる。
     大型の鳥ポケモンのように、翼を広げ風を受けるような真似はしない。
     墜落を恐れているかのように、必死に羽をばたつかせている。
     ポッチャマ一族の泳ぎを“飛ぶように”と比喩するならば、さしずめあちらは“溺れるように飛ぶ”といった感じか。
     道場の地面からアーケオスと女性を見上げる山吹色の髪の青年は、ハラハラしながら、青い顔で彼女に呼びかけている。

    「だーかーらぁー! 危ないですってレンリさん! 頼むからもうちょっと低い場所を飛んでください!」

     そう叫ぶ部下の近くで、同じく青い顔で、ハート型の鼻の蝙蝠が心配気に空を見上げている。
     ココロモリは元から青い顔だが、その顔がさらに青くなっている。

     レンリはそんな地上の部下の様子など毛ほども気にせず、空を飛んで楽しそうに笑っている。
    「大丈夫だよ、キラン。ほら、こっから遊園地が見える」
    「高く飛び過ぎですよ!」
     早く降りてください、と震える声で言うキランに笑いかけ、レンリはアーケオスに「そろそろ降りるか」と伝えた。
     色鮮やかな原色の始祖鳥は翼を更に激しくばたつかせ、道場の敷地の端をなぞるように旋回する。

     そして、旋回で傾いた姿勢を地面と平行な位置に戻せないまま更に傾いて、向きも方向も無茶苦茶になりながらアーケオスの体は地面に向かった。

    「レンリさ……ノ、ノクティス!」
     キランは傍らのココロモリに呼びかけた。
     ココロモリは頷くと、滞空位置からアーケオスと地面を結ぶ線分上へと鼻先を向ける。
    「テレキネシス!」
     ココロモリの鼻から出た桃色の念波が、アーケオスとその背に掴まる女性に当たった。
     彼女たちに働く重力だけが消え失せたかのように、ひとりと一匹の落下速度が弱まって見えた。
     そのまま下向きの速度は落ちていき、彼女とアーケオスの体は人間が走るぐらいの速度で地面にぶつかった。
     始祖鳥はすぐに立ち上がったが、レンリの方は暫く地面に突っ伏していた。

    「……レンリさん?」
     青年は恐る恐る、地面に倒れたままの上司に近付いた。アーケオスが翼のある前足でレンリに触れた。
     と同時にレンリは起き上がると、額のガーゼに手を当てた。
     それを力任せに剥がす。傷口が開いていた。

    「まあ、また練習だな」
     レンリが無事でほっとしたのか、アーケオスが嬉しそうに鳴いた。



     五月十八日、雨。

     上司は寂しそうに外を見ながら、時折パソコンをいじっていた。
     部下の青年は、ほっとした様子でそれを眺めている。
     昨日、一昨日とレンリの無茶な飛行訓練に付き合わされ、ココロモリの青い顔は更に青くなり、キランの寿命は十年分ほど縮んだ。
     テレキネシスやバチュルの糸の安全装置があるので、墜落してもポケモンの方は大事に至らない。
     乗っている人間は生傷が絶えないが。

     レンリは肩に乗せたバチュルにポケモン用の駄菓子を与えながら、左手でマウスをカチカチ鳴らしていた。
     パソコンのモニタにはイッシュ地方の地図と天気図が映されている。

     キランは上司が座っている椅子の後ろまで行くと、
    「仕事してくださいよ」
     と声をかけた。
     彼女は残念そうに地図と天気図を閉じて、文書編集プログラムを起動した。

     高性能低速度のプログラムが起動するまでの時間、レンリは髪の紅く染めた部分をいじっていた。
     右手の包帯は取れたが、左手に包帯が巻かれている。
     アーケオスの体力が減って弱気になるまで止めないので、付き合わされるキランとココロモリは散々だった。
     そもそも、羽ばたきと念力で空を飛ぶココロモリに、飛び方の全く違うアーケオスの指導なんて出来ないのだ。
     長時間の訓練で集中力は落ちて、テレキネシスの発動タイミングは遅れ、正確性は落ちる。
     しかし、ココロモリのノクティスが何度も彼女たちを受け止め損ねて怪我をしても、彼女は自分が納得するまで訓練を止めない。

     何故そこまで執着するのか。

    「レンリさん」
    「なんだ?」
     やっと開いた文書ファイルから目を離して、レンリが後ろを向いた。
     キランは手近な空席に座って、肩のバチュルがこちらを睨んでいるのを気にしながら、レンリに話し始めた。

    「どうしてそこまで、空を飛ぶことに執着するんですか?
     町へ移動するだけなら真っ直ぐ飛べば十分だし、大体、アーケオスは空を飛ぶのが苦手なんだから、別のポケモンを育てるっていうのも……」
    「それは駄目だ。ローが飛ぶのが苦手だからって、鞍替えするような真似は出来ない。何匹も面倒見る程器用じゃないし」
    「でも」

     でも、危ないですよ、と言おうとして、止めた。
     キランが言ったところで、レンリが止める筈がない。
     頑固で、思い込んだらまず聞かない。彼女はそういう人物だ。

    「空を飛べば、速く移動できる」
     レンリが呟いた。苦しそうに目を伏せて。

     レンリが手を組んだ。
    「私が警察になったきっかけは、話したっけな」
     キランは不器用に頷いた。
     正確に言えば、レンリが話したわけではない。何となく、噂になっているのを聞いてしまったのだ。
     彼女のパートナーのゾロアーク、その母親がポケモンの密売組織に誘拐されてしまった。
     レンリはゾロアークの母親を探すために、警察になったらしい。

    「あの時」
     レンリは寂しそうにため息をつく。
    「母さんが誘拐された時、追いつくことが出来ていたら、ってさ」
     誘拐された当初、当然警察が動き、犯人を追跡した。
     しかし、突如として怒った大嵐とそれによる土砂災害で、道は閉ざされ、犯人には逃げられてしまった……らしい。

    「それに、高い所から探せば、きっと見つかる。そう思うんだ。子供っぽいな」
     レンリは自嘲気味に笑うとくるりとパソコンの方を向いて、文書の編纂作業を始めた。
     左手が時々髪を触った。
     まだ、レンリは全てを話していない気がした。
     けれど、キランにそれを聞き出すことは出来なかった。


     外ではまだ雨が降っている。今日は一日、降り続くらしかった。


    「あ、そうだ、キラン」
     パソコンから目を離さずに彼女が言った。
    「次の二十四日が誕生日だったな。何か渡すよ。訓練にも付き合ってもらったし」
     別にいいですよ、と答えて、キランも仕事に戻った。



     五月二十一日。

     レンリは警察署には来ていない。
     アーケオスの飛行訓練が一段落し、後脚の羽と長い尾を利用しての安定した旋回が出来るようになったところで、彼女は数日間の休みをとった。
     どうやら、ホドモエやフキヨセの辺りに行ったらしい。
     これでキランも羽を伸ばせる、と思いきや、彼女はやるべき仕事をメールと電話とファックスでキランに指示してきた。

    「あと、お前、シビシラスとヒトモシを連れてたな」
     仕事内容を伝える電話の最後で、彼女は急にそんなことを聞いてきた。
    「はい、ルーメンとテネブラエですよ」
    「そうだな。分かった」
    「あの、レンリさん」

     何が分かったなのか。疑問に思ったが口には出さず、キランはもっと聞きたかった別のことを聞く。

    「レンリさんって誕生日いつですか?」
    「誕生日? 親がいないからな。知らない」
    「すいません」
    「いいよ。記憶にも残ってないんだから」
     レンリは明るくそう言って、電話を切った。

     せめて直に会って聞けば良かった。
     キランは後悔した。



     五月二十三日。

     レンリはまだホドモエかフキヨセの方にいる。
     キランが仕方なく今日も慣れないパソコンに向き合っていると、机に置いていた携帯電話が鳴った。

    「はい、カシワギです」
     反射的に電話に出て、ついでに離席して窓の側へ行き、ブラインドを開けた。
     外は晴れている。

    「はい、職場の上司ですけど。え? はい、すぐ行きます」

     電話の向こうの人の言葉を聞き終えたキランは、すぐさま上着とモンスターボールを手に取り、外へと走り出した。


     フキヨセシティに着くと、キランはここまで飛んできたココロモリにお礼を言ってボールに戻した。
     柔らかい、春の雨が降っていた。
     キランは濡れるのも構わず、目的の白い建物を見つけると、一直線にそこへ走っていった。

     フキヨセ総合病院。

     キランは開け放たれた扉を躊躇なく潜ると、曲がったパイプで作られた四つの簡易ベッドの内、一番奥に寝かされた女性へと近付いた。
     点滴のパックを取り替えていた看護師の女性が、キランの姿を見ると一礼して、慌てた様子で部屋を出て行った。
     それから一分も経たない内に、別の看護師がやって来た。さっきの人よりも少し年配に見えた。

    「カシワギキランです」
     キランは看護師が来るまでの間、レンリが眠っているベッドの横にしゃがみこんでいたが、看護師が来ると立ち上がって頭を下げた。

    「手持ちのポケモンに乗っていて転落したそうです」
     開口一番、レンリの状態の説明を始めた看護師に、一寸どきりとしながら、キランは一言一句も漏らすまいと必死に耳を傾けていた。
    「幸い、手と膝の擦り傷だけで済みましたが、軽い栄養失調も起こしていて」
     看護師は点滴のパックを確かめるように手に取って見た。
    「それから、ずっとあんな調子なんです」
     キランは眠っているレンリを見た。

     まるでお伽話の眠り姫のようだ、とキランは思った。
     色白で、綺麗で。切れ長の目は今は閉じられているが、それでもその双眸の美しさは隠せない。
     黒い髪は枕に向けてさらさらと流れている。長く伸ばせばもっと綺麗になるだろう。メッシュを入れない方が綺麗なのに、勿体無いと思う。
     点滴の針が刺さった左腕は細く長く、その先にある手の指もほっそりとしている。
     薄い掛け布団に大方覆われている痩身は力強いのに、儚げだ。
     控えめに形作られた唇から、苦しそうな悲鳴を漏らしていなければ、彼女が生きている人間だなんて忘れてしまうかもしれない。

     レンリはうなされていた。

     看護師はキランに彼女の家族の連絡先を聞き、キランが首を横に振ると、残念そうに出て行った。
     なんだよ、とキランは思った。
     レンリのことを大切に思っているのに、自分では駄目なのか。
     ただの異性の部下ではなくて、せめて恋人の位置まで上らないと、好きな人を見舞うことも出来ないのか。

     キランは点滴の管に気を付けながら、レンリの左手を握った。
     こんなの、ずるいけど、と思いながら。

    「母さん……」

     レンリの口から、求めて止まない幼子のような声が漏れた。
     苦しそうに、震える声で。まるで雨の中に置いていかれたみたいに。

    「母さん……母さん……」
     それしか言葉を知らないみたいに、そればかり繰り返す。
     記憶にないはずの母親を探しているのだろうか。
     怪我自体は軽くても、アーケオスから落ちて少しの間は雨に降られていたに違いない。
     凍えた体が記憶を引き戻したのだろうか。

     レンリの左手が、キランの右手を強く掴んだ。
     はっとする。
     いつの間にか目を開き、紅色の濁った瞳が見えていた。

     レンリさん、と呼びかけようとした。

     握っていた筈の右手が乱暴に振り払われた。点滴の針が外れて、振り子みたいにこっちからあっちへ放物線を描いた。
     レンリはキランに背を向けて、体を叩きつけるようにベッドに横になると、簡易ベッドの薄いシーツをきつく固く握り締めた。

    「かあ、さ、……」

     言葉はどんどん切れ切れの切れっ端になり、それでも母親を求める声だと察しが付いてしまった。
     声を邪魔するのは、レンリ自身の喉に吹き込む呼吸だった。
     空気を遮断されたかのように息を呑むのが、かえって苦しみを増すのだが彼女の意志ではそれを止められない。

     暫くそれを馬鹿みたいに棒立ちになって眺めていて、やっとのことでナースコールの存在を思い出して、キランはベッドの頭側に取り付けられたボタンに手を伸ばした。
     その手を色白の指が掴んでいた。

    「平気だ」
     まるで亡霊のように虚ろな目。でも半分だけ現実に戻って来ていた。

     レンリが瞬きして、掴んでいた手を離す。
    「すまないな。大丈夫だ。ちょっと夢見が悪かっただけだから」
     首を横に傾げて笑うレンリの仕草に、思いも掛けずキランは胸を突かれた。
     レンリはそんなキランの様子には気付かず、ベッドから立ち上がった。
     ベッド横のパイプ椅子に置かれたコートを手に取って、
    「帰るぞ」
     とキランに声を掛けた。もうすっかりいつものレンリだった。


     彼女のアーケオスはレンリを背中に乗せると、後脚でフキヨセの滑走路を蹴って速度を上げ、ある瞬間、翼の向きと地を蹴る角度を変え、勢い良く空へと飛び出した。
     相変わらず羽ばたきは激しく、溺れているようにしか見えないが、フキヨセからライモンへの航路を取る時は翼を真っ直ぐ広げ、後脚の羽を立て、尾を円運動の外側に振って体勢を整えた。
     そのまま大きめの円を描いて旋回すると、再び羽ばたきを始めてライモンへ向かう。
     空の上で、レンリの顔が綻んでいた。



     五月二十四日。

     あの後、ライモンシティには戻ったものの、レンリは職場に顔を出していない。

     アーケオスの飛行は上手かった。
     きっと昨日は、フキヨセの風に驚いて離陸を失敗してしまったのだろう。
     そこに栄養失調で貧血気味だったのが重なって、気を失ってしまったのだ。

    「それだけなら、良かったんだけど」
     キランは終わらない文書の打ち込みを諦め、パソコンに背を向けて、背もたれに顎を乗せていた。
     もう日は暮れてしまっている。夜の中で、部屋の明かりだけが煌々と部屋の中を明るく照らしていた。

     レンリは母親と、どういう別れ方をしたのだろうか。
     その上ゾロアークの母親まで奪われ、パートナーにも寂しい思いをさせ、贖罪の思いを抱いたのかもしれない。
     そして、彼女の空への希求は、そのまま母親を探すことに繋がるのだ。

    「だからって、あんな無茶な訓練に付き合わされちゃ、こっちはたまんないよ」
     キランは回転椅子を回しながら、空いた椅子に座って丸くなっているココロモリに同意を求めた。
     その時、机の上の携帯電話が鳴った。

     メールを確認し終えると、キランは上着を取り上げた。
    「行こうか、ノクティス」
     椅子の上の青蝙蝠は、嬉しそうに鳴いてキランを先導した。


     ライモンシティは広い。
     キランは町の西にある警察署から、横方向にライモンシティを突っ切って飛んで来た。
     町の東、存在を主張するかのようにチカチカ光るゲートの手前でココロモリをボールに戻そうとすると、ココロモリが鼻先をキランに押し付けてきた。

     まるで、頑張れとでも言うように。
    「ありがと、ノクティス」
     鼻がハート型の蝙蝠をボールに戻すと、キランはゲートを潜った。

     途端に、辺りは異世界に迷い込んだかのように一変し、騒々しく、光り輝く世界へと変貌する。
     売り子たちがかしましく叫ぶポップコーンやアイスクリームの売り文句の間を通り抜けて、キランはある場所へと向かう。

     それは、規則正しい動きでもって、人間たちを空高くまで運ぶ乗り物だった。

     その付近にいたレンリに、手を上げて自分の位置を知らせた。
    「呼びつけてしまったな」
    「いいですよ、別に」
     どうせ仕事しないですし、と言ったキランの腕を、レンリが引っ張った。
     そのまま目的の建物、観覧車へ向かって行く。

    「一度、乗ってみたかったんだ」
     そんなことを言うと、普通の女の子に見えた。
    「ゾロアークに化けさせれば良かったじゃないですか」
     キランがそう言うと、レンリは口を尖らせてこう言った。
    「それじゃ、つまらないし、有難味が薄れると言うか。兎に角つまらないだろ」
     円形の枠組みの最下点に来た丸いゴンドラに乗り込む。
     作り付けの低い椅子に、レンリが長い脚を邪魔そうに折り曲げて座った。

     キランはその向かいに座った。
     そういう作りだから、仕方がないのだけれど。
     真正面から目が合うと、レンリは照れ臭そうに笑った。


    「これ、誕生日プレゼント」
     そう言ってレンリが両手に余るぐらいの大きさの箱を差し出したのは、ゴンドラが四十五度ほど上がった時、全行程の四分の一が終わったところだった。

     受け取った箱は飾り気の無い白の紙箱だった。
    「開けてもいいですか?」
    「いいよ」
     のやり取りの後、キランはテープで簡単に止められただけの蓋を上げる。

     中には薄緑色をした、透き通った石。
     石の中心を通るように、黄色い稲妻模様が描かれている。

    「雷の石? あ、ありがとうございます」
     イッシュ地方では、進化の石は手に入れ難い。
     法外な値段で売られているところもあるが、それ以外では、各地にある洞窟で探すしかない。

     胸が詰まって何も言えないキランに、レンリはお道化た調子で「気に入らなかったか?」と問う。
     やっとのことで首を横に振る。
     レンリの表情を見られなかった。

    「キラン」
     彼女は窓の外を指差した。
    「意外と綺麗だ」

     キランが窓の外を見ると、そこには限り無く広がる光の海があった。
     街の灯りが視界を埋めていた。
     東の方を見ると、ぽっかり穴を空けた暗い空間の向こうに、立派な橋が見えた。
     キランがその橋をずっと眺めていると、不意にレンリと目が合った。

    「こうやって、高い所から探せば、母親も見つかると思っていた」

     寂しげな表情をしたレンリに、何か言おうとしたが、言葉が見つからなかった。

     キランが黙っているのを見て、レンリは話を続けた。


    「流石に、もうあの時からじゃ遅すぎるか。でも、これからは何が起こってもそこへ飛んでいける」
     困ったらいつでも呼べよ、と言うレンリにキランは「あの」と切り出した。
     急に改まったキランに驚いたのか、レンリは目を丸くして、けれど姿勢はそのままで。

    「僕は、レンリさんのことが好きです」

     その後に、気の利いたことを言う筈が、脳みそが熱にやられて動かなくなったみたいだった。

    「付き合ってくれませんか?」

     それだけ言うのが精一杯だった。

     下げてしまった顔を上げる。
     窓の外では夜景が移ろう。
     光の群れを見つめるレンリの顔が、窓ガラスに映っていた。

     間があって、レンリが口を開く。

    「ゾロアークに育てられた人間がいた」

     目を動かさないまま、言葉だけが動いた。

    「そいつは、自分のことをゾロアの仲間だと思い込んでいたらしい。
     お前はそんな奴の相手は嫌だろう。私も願い下げだな」
     そこまで言って、レンリは笑みを作った。いつものように、不敵で、有無を言わせない笑みを。
     そして真顔に戻った。
    「すまないな、キラン」

     キランに出来たのは、「いえ」と小さく呟いて首を振ることだけだった。

     観覧車は、落ちて行く方向に向かっていた。



     結局、要するに、自分にレンリの恋人なんて無理で、釣り合わなくて、彼女を支えることなんて出来ないのだ、とキランは思った。
     一緒に観覧車に乗って、夜景を見て、浮かれた自分の行動を恨みたかった。軽率だったと思った。
     せめてあの時、もっと何か言えれば良かったのに。
     しかし、どんなに後悔しても、逃した好機は帰って来ない。

     それに、今は彼女の過去を受け止める自信がなかった。
     病院のベッドで垣間見ただけのそれにさえ、キランは身動き出来なかった。
     もっと強くならないと。
     ルーメンがシビルドンに、テネブラエがシャンデラに進化した時になれば、あるいは。

     キランは扉を開けた。

     五月二十五日。

    「お早う、キラン」
    「お早うございます」

     何も変わらないまま、今日も一日が始まる。

     キランはデスクにつき、鞄の中の物を机の上に置いた。
     コトリと何かが当たる音がした。バサバサと羽音がして、青蝙蝠が机の上に飛び乗った。

     ノクティスが薄緑色の綺麗な石に鼻先をくっ付けていた。




    【煮てもいいのよ】
    【焼いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評してもいいのよ】

    クリスマス小説を書いたんですが、ポケモン成分少ないのでサイトに置きました。
    でも折角のクリスマスなのだしと思い、もっとポケモンが出てきて、キランくんが誕生日プレゼントもらって幸せになる話を書こうとした結果がこれです。
    一日遅れですが、メリークリスマス……あ、でも、クリスマスって中止でしたっけね。


      [No.1071] 図鑑っぽくしてみた 投稿者:こはる   投稿日:2010/12/24(Fri) 22:46:22     44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    デリバード はこびやポケモン

    いつも背負っている白いふくろには、いろいろなものが詰まっている。あぶないので、よい子は触らない方がいいだろう。中身はどこから集めてきたのか、わからない。

    12月の終わり頃になると大量に発生する。
    デリバードの生息地域周辺では、犯人不明の窃盗事件が多発していることを忘れてはならない。

    数少ない目撃者の証言では「赤い鳥のようなものが白いなにかを背負って目の前を横切ったと思ったら、腕をつつかれていた。鳥は鋭い眼でこちらを睨んで、せっせと走り去った」とのことだ。

    ◇◆◇◆◇◆

    100文字規定でしたよね。239字あるから大丈夫かしら?

    【悔しかったら書いてみやがれ!(笑)】とのこと。
    悔しかったので書いてみました(笑) お目汚し、すみません(^^;)


      [No.1059] Re: そろそろお題変えようか 投稿者:スズメ   投稿日:2010/12/23(Thu) 22:28:58     48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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      秘伝技だったので、技つながりで技マシンなんてどうでしょうか?


      [No.1047] とある寸劇。 投稿者:巳佑   投稿日:2010/12/18(Sat) 21:40:56     48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    [ミッション前にて]

    よう! オレの名前は『プラズマ団のしたっぱ』だ!
    『プラズマ団のしたっぱ』以外、何者でもないからな!!

    …………………。
    ……………。
    ……。

    しょうがないだろ!?
    だって組織の一員なんだぜ!? 
    簡単に名前なんか教えられるわけねぇじゃねぇか!

    …………オレだってカッコイイ名前があるのによ。
    ……それを言えなくてプチブルーなんだぜ?

    ……。

    ま、まぁ、それはさておきだなっ!
    今回はオレは大事な仕事を任されてるんだよ。
    実はな……最近、我がプラズマ団の邪魔をしているヤツがいてよ、
    そいつの資料を見せてもらったんだけど……。

    白い半そでにシャツ黒いノースリーブのベストをかけていて、
    あれってホットパンツっていうのか? まぁ、なんか短いジーパンをはいてて、
    つばの部分が赤みかかったピンク色をした帽子に、
    ポーニーテールで少しウェーブがかかっている髪を持っている、

    …………少女。

    ……って!
    コイツ、まだガキじゃねぇか!
    なんだよ、こんな弱そうなヤツが我がプラズマ団の脅威だっていうのかよ!?

    そう!
    オレの仕事とはコイツに痛い目を合わせること……なんだけど、
    本当にコイツが……!? というくらいオレには信じられねぇぞ!
    ……しょうがねぇ。オレも大人だ、一応な。
    まずはターゲットの情報をもう少しだけ得ようと、
    オレはターゲットと戦ったことのあるやつから話を聞いてみることにした。


    それから数時間後……とりあえず結果報告するとな…………。
    ポケモンとのコンビネーションが抜群すぎて強いかもしれないということが分かったぞ。
    ……このオレが負けるわけないはずなのだが、うーん、どうやってターゲットと戦えば効率よく……。

    ポケモンとのコンビネーション…………それだ!!

    オレはターゲットに接触するために準備を始めた。

    後輩を一人、連れていくか…………。



    [ミッションにて]

    電気石の洞穴にて、オレのミッションがスタートした。
    ターゲットが現れた……がオレはまだ隠れている。
    そしてオレの後輩がターゲットとポケモンバトルを始めた。
    そのバトルの様子を眺めながらタイミングを…………。

    ……………………今だ!

    実はオレの後輩の真の役割は囮(おとり)なのだ!
    オレのミッションはターゲットに痛い目を合わせ二度とプラズマ団の邪魔をさせないようにするのであるから、
    ターゲットを――あのガキに直接攻撃をすればいいのだ!
    このオレの拳でな!!

    オレは後ろからターゲットに迫る。
    静かに、抜き足、差し足、忍び足で距離を縮めていく。
    よーし、ターゲットは依然、バトルに集中しているなぁ……このまま!!

    「せんぱーい! 今です! やっちゃってくださーい!!」
    「あっ!!?? このバカ!!」

    相手は気が付くこともできずにオレの拳に殴られる予定だったのに……!!
    あのバカのおかげでターゲットが気付いちまったじゃねーか!!
    ターゲットが急いで振り返るが、まぁいい、オレの拳はもうお前に向かって――。

    次の瞬間、

    何かがめり込むような鈍くて重い音が鳴り響いていて、

    そして倒れていたのは

    オレだった。



    「……卵ふ化作業で鍛えた足を甘く見ないでよっ!」



    ……どうやら、オレはこのガキの足技で一撃必殺をくらっちまったらしい。


    プラズマ団したっぱの目の前がまっくらになった。

    無論、そのプラズマ団したっぱの財布が少しだけ寒くなったのは言うまでもない。



    教訓:卵ふ化作業で生まれた足腰の力は半端(はんぱ)ない。




    【書いてみました】
    一つのボックスをゾロアで埋めてみよう!
    という作業中に、ふと思ったこと……

    『卵ふ化作業をかなりしているトレーナーの足腰はもしかして強いかも!?』

    『すると、足技なんか強そうかも!?』

    という考えから、今回の寸劇(ギャグともいう?)を書いてみました。

    ……四コマで使われそうなネタかな……? と個人的に思いながら。


    ありがとうございました。


      [No.1036] Re: 私信 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/12/14(Tue) 14:28:47     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

    > 【私信】クーウィさん
    > 例のメンバーにカウントしても、大丈夫か?
    > 最終意思確認のためメールもらえるとありがたいです。
    > pijyon☆fk.schoolbus.jp(☆→@)までお願いしまっす。


    OKですよ〜

    と言うことで、送信いたしましたが……名前入れるの忘れてました(爆)

    発信者不明のヤフメ来てたら、多分自分のっす
    ……文面から、推察はして頂けるとは思いまするが、一応御詫びと共に……(汗)


    御返事遅れて御免なさいです……


      [No.1025] 散歩中にて 投稿者:紀成   投稿日:2010/12/10(Fri) 22:14:17     37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

    小説のネタが詰まると、私はよく二匹を連れて散歩に出かけた。休日なら、たとえ朝だろうが昼だろうが、深夜だろうが、とにかく歩くのだ。
    スラリと長い二本脚を持つバシャーモと違い、脚が無いと言っていい(こんなこと言ったら持ってる人に殺されそうだ)ダストダスは、私達の後を転がるようについて行く。
    まるで運動会の大玉転がしだ。


    歩きながら私はとにかく話す。この前ミコトがワニ二匹を引き連れて他校の不良男子生徒をカツアゲして、先生に怒られたとか。
    あと・・カオリちゃんがなんか最近変だとか。元々不思議な子だったんだけど、最近それが増してるとか。
    後輩のミドリちゃんのこともよく話す。前に聞いた話では、眼鏡だったのを中二になってからコンタクトに変えたらしい。
    まあ、学校のことばかりじゃないんだけどさ。
    たとえば。


    「この世界には、人の手で造られたポケモンがいるらしいの。悪人が金儲けのために、色々なポケモンの細胞を組み替えて作ったんだって」
    前読んだ本に書いてあったことだ。ショックと同時に、体が震えた。
    「本当はポケモンの方が私達より強いはずなのにね・・」

    私の頭に入っているプロットは、ザッと分けて四種類くらいある。
    一つは、前にカオリちゃんに言われたギラティナの話。
    二つは、面白い本を求めて全国を旅する少年の話。
    三つは、ストレートに恋愛もの。苦手だからこそ、練習しないとね。
    で、四つは・・


    「人工のポケモンが、傷ついたまま逃亡して、どこかの廃墟に身を隠していたところへ、主人公が来て・・」


    私の頭の中にプロローグみたいな台詞が浮かんでくる。


    『それを愛したことが罪ですか

    それに愛されたことが罪ですか

    それとも

    私達が出会ったことが罪だったのですか』


    「って感じなの!どう!?」
    「勝手にしなよ」
    「恋愛、恋愛っていうけど相手が人間とは限らないわよね」
    「何で僕に同意を求めるの」
    「氷漬けにされたミコトに聞くのが手っ取り早いかと」
    「今すぐワルビアルがカラカラにしに行くから」


    ミスミ。
    小説を書くにあたり、素晴らしい才能を持つ。

    ただし、暴走すると話が百八十度回転するという・・

    ーーーーーーーー
    [モエルーワ]byミスミ
    [ババリバリッシュ]byミコト


    明日のチャット楽しみです。


      [No.1013] Re: 歌に誘われて… 投稿者:   投稿日:2010/12/05(Sun) 00:10:21     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    セピア様、感想ありがとうございます!

    >感想ですが、悲しい別れの中に少女とラプラスの温もりを感じられる作品でした。
    最初の出会いから、別れの時までが一定のリズムで書かれ、
    その後は季節の移り変わりで時間の流れを速く見せているところも良かったです。
    特に語り口調ならではの最後の“オチ”の部分が秀逸でした。

    な、何と……! ほめていただいて幸いです。
    何というか、物語風に書いてみたいなぁ、と思ったので。
    季節の移り変わる場面は自分でも少し淡々とし過ぎてるかもしれないなぁ、と思ってみたりもしたのですが、気に入ってもらえて何よりです^^

    >なぜラプラスの声が再び聞けるようになったのか。
    ラプラスが一度洞窟から去って、再び戻って来たのか。それとも全く別のラプラスの声なのか。
    続きを考えたくなりますね^^

    そう言ってもらえて何よりです。
    あ、自分も続きが書きたくなってきた……(うずうず

    >アドバイスとしては、少女の心中の台詞の上下で行間が空いていると読み易かったかもしれません。
    『()』ではなく『――――』を使ってみては如何でしょうか?
    ありきたりなアドバイスで申し訳ないのですが…

    た、確かに……後から見直してみると我ながら見づらいですね(汗
    修正してきます、アドバイスありがとうございました!

    それでは、感想ありがとうございました!

    PS
    そういえば、昨日これを投稿しようとしていたらミスをして全部消滅したんですよね……。泣きながら直しました。
    くそ、自分の馬鹿、何で上書き保存してなかったんだよぉお!!(←
    ふと叫んでみたくなりました(爆


      [No.1002] 呼び歌 投稿者:   投稿日:2010/12/03(Fri) 14:19:30     44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    遙か昔のこと。
    西の地の南端に、山に囲まれた村がありました。村はひどく貧しく、人々は木々を木炭にする仕事で生計を立てていました。ある日、村の東にある洞窟を、1人の少女が背にかごを背負い、片手で松明を掲げ帰路を急いでいました。
    少女は村の北にある町で木炭を売り、その金で木の実や野菜を買って帰る途中でした。
    少女は寒さで身震いしました。少女の着ている服は薄手でひどく汚れ、おまけにそこかしこに穴が開いていました。
    着物の隙間や穴から冷気が潜り込み、時折洞窟の天井から滴り落ちる水滴が、むき出しの腕にひどく冷たい感触を残します。
    少女が両手をこすり、掌に白い息を吐きかけた時でした。
    何か音が聞こえた気がして、少女は立ち止まりました。洞窟の風鳴りとは違うようでした。
    どちらかといえば生き物の声のようです。
    しかしよく洞窟にいる蝙蝠や鼠の鳴き声ともまた違った感じです。
    それに、聞く者の心をかき乱すような悲しい声でした。
    少女の脳裏を腹をすかして自分の帰りを待つ家族の姿がよぎりました。しかし素通りするのにも何やら気が引けて、ためらった末に少女は音の聞こえてくる方へ向かいました。音が聞こえてくるのは細い岩の割れ目でした。少女は岩の割れ目に身体を潜り込ませました。


    ……どれほど闇の中を歩いたでしょうか。不意に目の前が開けました。
    少女は思わず歓声を上げました。目の前には岩に囲まれた地底湖が横たわっていたのです。
    手に持った松明の光が黒々とした水面に反射し、ゆらゆらと波打っています。
    好奇心に駆られ、驚くほど透き通った冷たい水に手を差し入れ、少女は1口飲み……慌てて吐き出しました。塩水だったのです。

    ―――――この湖、海と繋がっているのかな。

    そう思って立ち上がった時、またあの音が聞こえてきました。しかも今度ははっきりと。
    それは旋律でした。この世のものとは思えないほど美しく、そして悲しみに満ちた声。
    少女は音の聞こえてくる岩陰からそっと顔を出し、目を見張りました。
    背に甲羅を背負い、4つのひれを持つ1頭の海獣が水際に横たわっていたのです。
    あの旋律は、この獣が出していたのです。しかし、海獣が苦しげに喘いで歌はふっつりと途切れました。
    よく見ると首筋に傷があります。血が流れていました。あの歌声は、仲間に助けを求めてのものだったのでしょう。
    少女は憐みの念に駆られて岩陰から出ました。その途端、海獣は恐ろしいうなり声を上げ始め、少女を睨みつけました。

    ――――食べられる……。

    一瞬そんな事を思い、少女は足をすくませましたが、獣の唸り声はゆっくりと小さくなっていき、遂には力尽きたように身体を岩床に横たえてしまいました。少女は慌ててその傍に駆け寄りました。首筋の傷は深くはなかったようでしたが、ひどく出血しています。このままでは命に関わるかもしれません。その時、ふと少女は思いついて背中のかごから1つの木の実を取り出しました。黄色く、真中がくびれた木の実です。この木の実は獣の治療に使われる薬の元となるものでした。少女は木の実を片手に一瞬迷いました。この木の実は効き目が強い分なかなか見つけにくく、貴重品として重宝されていました。その薬を今ここでこの獣に与えてしまっていいのかと。
    しかし、少女が次に顔を上げた時、もうその顔に迷いの色はありませんでした。


    「おはよう、元気だった?」
    聞きなれた声に、海獣は喉を鳴らして答えました。甘えるように身体をこすりつけてくる海獣の首に、少女が嬉しそうに抱きつきました。
    獣の首の傷はかさぶたのようになっていて、もうほとんど治りかけていることが分かります。
    少女をこの不思議な獣が出会ってから4カ月が過ぎようとしていました。7日に1回怪我の具合を見に来る少女に最初の内は警戒心をあらわにしていた獣も、徐々に心を開いていき、今では心が通い合う仲となっていました。
    少女は水際に腰掛けて、裸足で水面を蹴りながらいつものように最近起こった出来事を話し始めました。
    「この前ね、村に旅芸人が来たんだ。ほら、この前の祭りの時。それでさ、その一行の中に歌い手がいたんだけど、その歌がすごくきれいだったんだ!」
    少女は無邪気に笑いながら語る姿を、獣は目を細めて見ています。
    「でも、歌い手っていいよね。あぁ、あたしも大きくなったら歌い手になりたいなぁ。それで、国中旅して、歌って回るんだ」
    そう言った時の少女の笑顔に、陰りはありませんでした。幼い子供が叶わない夢だとは分からずに夢を語る時の晴れやかな表情でした。
    海獣は何も言わずにその横顔をじっと見つめていました。
    その時、少女が獣に顔をむけ、あのね、と少し恥ずかしそうに切り出しました。
    「それで、もしあたしが歌い手になったら一緒に行こうよ。2人で、歌ってさ」
    海獣は少し瞬きした後、こっくりとうなずくように首を振りました。それを見て少女が弾けるような笑顔になりました。
    「本当?! じゃあ、約束だよ!」


    ―――――しかし、別れは突然でした。
    その年の秋、国中をひどい飢饉が襲いました。
    あちこちの村で凶作が相次ぎ、米は病で黒く腐り、道のあちこちに骨と皮だけになった死骸が転がるようになりました。
    やがて家族を養うことすらできなくなった大人達の中に、自分の家の娘を売るものが次々に現れ始めました。
    あの少女も例外ではありませんでした。


    少女がいつも洞窟に来る日が来ました。
    海獣は日がな一日ずっと待っていました。少女の姿は見えません。声もなかなか聞こえてきません。待っていれば来ると思ったのでしょう、
    いつもならその日の内に湖を抜けて自分の暮らす海へ戻るはずの獣は、岩床に身を横たえて眠りにつきました。


    海獣はひどくやせ細っていました。もうどれほどの時間が経ったのでしょうか。水苔や、小魚を食べて命をつなぐにも限界が来ていました。
    しかし獣は動こうとしませんでした。
    澄んだ瞳から、涙がこぼれおちていきます。
    『約束だよ』
    海獣は横たえていた身体を起こし、首をもたげると美しい声で歌い始めました。
    哀惜を帯びた旋律が大気を震わせ、こだまします。
    その日、歌声はいつまでも止みませんでした。


    冬が去り、春が来ました。歌声は止みません。
    夏が過ぎ、次第に秋に近づいてきました。歌声は続いています。
    冬が終わりに近づいたころ、ぱったりと歌声は止みました。
    やがて春が来て、鳥達がさえずっても、洞窟から歌声は聞こえてきませんでした。


    あれからどれほどの歳月が過ぎ去ったでしょうか。人は変わり、山も、村も変わりました。
    あぁそうそう、いつからかは分かりませんが、再びあの洞窟から決まった日に美しい歌声が聞こえてきているそうですよ。


    ―――――ほら、耳を澄ますと聞こえませんか?


    ―――――――――――――――――
    お久しぶりです、柊です。今回はつながりの洞窟の裏話を妄s……ゲフンゲフン。想像で書いてみました。
    決まった曜日になると鳴くのは何故かな、ということで。ちなみに海獣というのはもちろんラプラスです。分かりづらいかもしれませんが(汗

    PS:一部修正しました。セピア様、アドバイスありがとうございました!

    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評していいのよ】
    【アドバイスくれたら嬉しいのよ】


      [No.991] カゲ充みちづれしろ+ややおまけ 投稿者:CoCo   投稿日:2010/11/24(Wed) 19:44:46     69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     みなさんお読みいただき本当にありがとうございます。
     41拍手を見た瞬間なにかの空目かと思って五度見ぐらいしてしまいましたありがとうございます。

    >久方小風夜さん
     全力で笑っていただいてウヒヒ! という感じです。ありがとうございます。
     リアボウズ爆発すればい……くそうあんな可愛い生命体に爆発なんて! うおおおおおおおおジレンマ
     自分は小枝派です。

    > ついに人間以外にまでストライクゾーンが広がってしまったか毒男さん。
     人間と過ごすよりポケモン(とくにカゲボウズ)と過ごす時間のほうが長いことが原因かと思われます。

    > 1冊ください。
    御影「創刊号とフヨウ特集号は普段用、保存用、書き込み用、応募用、予備用まで揃えてあるよ。二倍の値段で良ければ譲るけど」

    > サラダ味のちゅうをしてるカゲボウズに胸がキュンキュンした。
    > 大丈夫だ毒男! 11月11日は「ポッキー&プリッツの日」だから!

    カゲボウズ「ふゆーん」

     カゲボウズが プリッツゲームを いどんできた!▼
     どうする どうするよ おれ!

    【妥協】
    【挑戦】
    【男のプライド】

    →続きはWEBで


    >No.017さん
     常時笑っていただきまったく嬉しい限りです。感想ありがとうございます。

    > とりあえず週刊「GHOST」のバックナンバーどこで買えますか。
    > カゲボウズ特集号が欲しいのですが。
     御影先輩によればカゲボウズ特集号はカゲボウズ達にとられてしまったそうです。グラビアでもあったんでしょうか。

    >カゲボウズ・オン・ザ・プリッツ、それは禁じられた遊び……ブラッククロニクルwww
     ブラック☆ロリコン

    > うちの誰かさんといいカゲボウズトークが出来そうです。
     あの量を洗うのは彼でも大変でしょうね。


    >てこさん
     静電気さえ止まらないロマンティックに変えてしまう、それがリア充の真髄。とりあえず静電気がゴースに引火して爆発しろ。
     楽しんで読んでいただいてありがとうございます。

    > 週刊ghostも非常に気になりますが、カゲボウズ、カゲボウズ……。なんだろう、なんか愛したいのに憎らしいみたいな微妙な気持ちで一杯です!
     きっとその微妙な気持ちを糧に彼らは生きていくのです。

    > え?ポッキーゲーム?いやいや、僕はいつも魔獣の役でしたようふふ(混乱中
     うえたけもののような……ということですk(ry なるほd(ry



    ややおまけ


    > というか、なんか見たことのある名前がいるんだけど。 いるんだけどwww
    > 次の活躍が楽しみだな〜♪




     朝一番の仕事。
     笑顔で出迎えた俺の前に、眼鏡の女性がムーランドを連れてきた。

    「しばらく遠出していたので汚れてしまって……家だときちんとケアもできないですから、うちのハナちゃん、痒がっちゃって。あとちょっとここらへんが伸びてきてるので、カットもお願いしたいんですが……」

     まず大きい。
     図鑑では1.2mと書かれていたのでまあ小学生ぐらいの大きさかなと踏んでいたのだが一回り大きい。俺が想像していた小学生が三人ぐらい背中に乗れそうだ。
     あとネットで出回ってた写真より体毛が長い。とかく長い。めっちゃ長い。腹あたりのふさ毛はマルマインも目をまんまるにしかねない爆発を引き起こしており、背から伸びる毛ももっふもふ、床をセルフで掃除している。髭の部分はもう引き摺るとかいうレベルじゃない。コイキングがギャラドスを目指してひた昇ると言われる登竜門の滝を思わせる。しかもただ冗長に長いわけではない、毛並みがものすごくいい。切り取ったあと業者に売れそうな感じ。立派だ。立派すぎる。まさに威風堂々。

     しかし飼い主さん、その「ずいぶん伸びちゃって……」って触ってる尻尾の毛より、もっとカットするべき部分たくさんあると思うんですが。

     果たして俺はこの質量を、洗えるのか。というか本体どこだ。地肌どこだよ地肌。実は掻き分けても毛しかなかったとかいうオチじゃないだろうな?

    「それじゃ、よろしくお願いしますー」
     そして俺は一人、洗い台の前に残された。
     台の上には実家のおじいちゃんみたいな目をしたムーランド。下には収まりきらない彼女の体毛が流れ落ちている。

     どうすんの?  どうすんの、俺!?


    →続きはWEB(ry


      [No.978] ぼくの奮闘記(上) 投稿者:海星   投稿日:2010/11/19(Fri) 23:52:22     26clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     一匹のジグザグマが岩の陰で丸くなっていた。暗く、じめじめと湿った気持ち悪い場所。普段なら日向ぼっこを好む彼がこんなところにいるのは非常に珍しい。ロコンは不思議そうに首を傾け、そうっとジグザグマに近付いた。

    「…誰?」

     前足を伸ばせば触れられそうな距離まで来たとき、不意にジグザグマが警戒した低い声で呟いた。ロコンはぎょっとして飛び退く。

    「今、ぼく、体調が悪いんだ。だからねむって体力を回復してる。起こさないでくれるかな」

    「うっうん。体調…ってどこが悪いの? 痛かったりする? 薬草でも探してこようか」

    「君はロコン君だね。起こさないでって言ったのにすぐにおしゃべり。優しいんだかおせっかいなんだか」

    「えっあっごめん」

     慌てて必死に言葉を取り繕うロコンに背を向け続けながらため息をつき、ジグザグマは呆れた声を出す。

    「薬草なんか要らないよ。言葉だけ受け取っておく。じゃ、悪いけど帰ってもらえる?」

     冷たい響きが隠された言葉に、ロコンはしょ気る。それに雰囲気で気付いたのか、ジグザグマは少しロコンが可哀そうになって、仕方なくさっきから欲しいなと思っていたものを口に出すことにした。

    「強いて言うなら…“キノコのほうし”が欲しい」

    「“キノコのほうし”? なに、それ」

    「絶対安眠の薬だよ。でも、どこでも売ってない。手に入れるなら、キノガッサに頼まなきゃ無理なんだ」

     落ち着いた調子でジグザグマは喋ったつもりでいたが、どうやらロコンはそれを、本当に欲しくて堪らないのに手に入らなくて悲しんでる、様に受け取ったらしく、鼻息を荒くした。

    「ぼっぼく、その薬もらってくる。大丈夫、すぐに戻ってくるから!」

    「え、ちょっと…」

    「キノガッサだね? 待ってて、今“ヒノコのほうし”を持ってくるからね!」

     いや、ヒノコじゃなくてキノコ…言い掛けた時には既に、ロコンの軽やかな足音は遠ざかっていった。ジグザグマは急に不安になる。あんなおっちょこちょいにこんなこと頼んで良かったのだろうか。この先の森の奥に、キノガッサは住んでいる。しかし、その森には色々なトラップが仕掛けられているのだ。

    「はぁ…あいつが無事に戻ってくるまでは寝れないなぁ」

     とりあえず楽な姿勢を探して丸くなる。浅くても良い、眠るために、ジグザグマは目を閉じた。





     ロコンは、森の前までは来れたものの、そこからどう行けば良いのか分からずにうろうろしていた。元々カントー生まれカントー育ちなので、ここの土地には慣れていない。勿論この森も入ったことが無い。そっと入口から覗くと、茂った葉が誘うようにゆらゆら揺れていた。ジグザグマの寂しそうな背中を思い出す。そうだ、あいつは今風に言うとツンデレって言うか、普通に言うと天邪鬼っていうか。とにかく、痛くても何も言わないし、大抵のことは自分でカタを付けてしまう。ほっとけない奴だ。

    「よ…ようし、行くか」

     勇気を出すための独りごとは虚しく消えていく。ロコンの隣を、虫取り網を持った少年が楽しそうに歩いて行った。そうか…土地に慣れていなくても、今の少年がどんな存在なのかは知っている。奴は俗に言う『虫取り少年』だ。三度の飯より虫ポケモン。きっと彼の姿に変化すれば、森の中でも虫ポケモンに攻撃されることはないだろう。ロコンはキレの良い自分の頭を誇らしく思いながら、弾みをつけて宙返りを一回した。途中でバランスを崩して尻を地面に強か打ったが、そんなに痛くなかった。おお、人間の身体はまるでクッションのようにできている。坊主頭を恐る恐る触ってみると、思っていたよりゾリゾリしていた。そういえば、虫取り少年には必需品の虫取り網を持っていない。ロコン少年は辺りを見回したが、良いものは無かった。仕方なく近くに落ちていた木の枝を掴む。ジグザグマのために早くしなければ。慣れない2足歩行でよちよちと、ロコン少年は森に入っていった。





    「おい」

     上から降りかかってきた声にはっとして目を開けると、長い髪の毛を無造作に縛り上げた主人が岩の上から視線を落としていた。どうやら自分は眠っていたらしい、とジグザグマは内心驚く。

    「もうそろそろジムに行きたいんだけど。傷、治りそう?」

     お前のせいで自分は怪我したんだ、と唸りたくなるが、止めておく。主人は、今風に言うとツンデレと言うか、普通に言えば天邪鬼と言うか。それを一番良くわかっているのは自分なのだから。ジグザグマは、痛くても何も言わないし、大抵のことは自分でカタを付けてしまう主人を見上げ、フンと鼻を鳴らした。

    「んん、随分生意気になったじゃないか」

     人間からすると、膝ほどまでしかない小さな岩だ。主人はパっと飛び降りると、ジグザグマの横に寝そべった。

    「うっわ湿ってる。お前良くこんなとこで寝てられるな」

     誰だっけ、小さい頃にジョーイさんに本気の告白して振られて、それがトラウマになってポケモンセンター入れなくなっちゃった悲しいトレーナー。それでポケセンの回復システムを利用できず、怪我したら自力で回復しなきゃならないパートナーって。あれ、あれれ、誰だったかな。

    「まー良いや。お前意外とふかふかしてるのな」

     主人が腕を伸ばしてジグザグマの腹に頭を乗せてきた。うぐっ傷口の真上だった。刹那、爆音と悲鳴が町中に響いたのは言うまでもない。





    ―――――――

    海星 が 這い出て きた! ▼


     【描いてもいいのよ】
     【書いてもいいのよ】
     【批評してもいいのよ】


      [No.967] 愛する者と求める者 投稿者:紀成   投稿日:2010/11/15(Mon) 17:54:27     40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    気付かないうちに、堕ちていく。
    周りに止めてくれる人がいないから。

    それでもはい上がろうとしないのは、

    それが、生きる意味だから。


    カオリは学校の図書館にいた。授業の宿題で、各地方の伝承を調べているのだ。
    カオリは本棚まで来ると、迷わずシンオウ地方を選ぶ。まさか学校で個人的にギラティナのことを調べられる日が来るなんて、思ってもいなかった。
    隣にいたブルンゲル二匹の手の上に本を数冊置く。ふよふよ浮きながら端っこの机に移動していく。
    全て持たせるのは悪いと思い、あとの数冊は自分で抱えることにする。持ち上げたその時、威嚇するような声がした。
    足元を見ると、一匹のブラッキーがカオリに向かって牙を剥き出しにしていた。
    カケボウズ達がブラッキーの周りに集まる。口を大きく開ける。
    「ストップ」
    カオリが言うと、カケボウズ達はこちらを見た。
    「ダメだよ、図書館で暴れたら。守ろうとしてくれたのは嬉しいけど」
    「ココア!」
    別の声が遠くから聞こえた。女だ。カオリと同じ背丈の、同い年くらいの。
    「ごめんねー。急にボールから出てきちゃって」
    「・・別に」
    カオリは戸惑う。人と話したことがあまり無いからだ。
    「私も伝承を調べに来たの。ジョウト地方」
    「ジョウト?」
    「そ。二匹の鳥ポケモン」
    カオリより数センチ低いと思われるその人物は、ブラッキーを抱えて言った。
    「ライ。よろしくね」


    それからのライの話を、カオリは興味深く聞いていた。人の話にここまで夢中になるのは初めてだ。
    「私は彼のことをアルって呼ぶの。アルジェントのアル。銀色って意味。
    私だけが多分そう呼んでる。銀色の翼を持つ鳥ポケモンなの。
    聞いたことないかな、ジョウトに伝わる伝説の話。あれに出てくるうちのポケモンの一匹。
    私は、それを探してるの。
    初めて見たのは十年くらい前。凍りついた海の上を飛んでいくのが、私にとっては・・
    神様に見えた。


    「それからずっと彼を探してる。何回もジョウトの海に潜ったりした。でも見つからなかった」
    ライの話が続いている。カオリはそれを聞きながら、ギラティナのことを考えていた。
    自分はギラティナとトモダチになりたいと思う。では、同じような立場のライはどうなんだろう。
    「ライ・・」
    「?」
    「ライは、アルに会って何がしたいの?」
    しばらくの沈黙。ライがぼそっと言った。

    「会いたい」
    「!?」
    「会いたい。会いたいの。話してみたい。幼い時最初に見てから記憶の真ん中にアルはずっといた。だから、」

    「私はアルに・・ルギアに会いに行く」

    目の色は変わっていない。何かが変貌したわけではない。
    それでも、カオリには分かった。

    同じだ、と。
    自分と同じだと。
    ギラティナという存在を求めている自分と、アルという存在を求めているライ。

    「私も、そういう存在がいる」
    ライがカオリを見る。
    「何処にいるかは分かってる。でも会えない」
    「どんな?」
    「ギラティナっていうの。ゴーストタイプのポケモン」
    「それを調べてるの?」
    頷くカオリ。
    二人はしばらく図書館の椅子に並んで座っていた。


    「不思議な話」
    暖炉の側でカオリは今日借りてきた本を読み漁っていた。
    シンオウの始まりの話、湖に住む伝説のポケモン、そして、やぶれたせかい。
    別れる時、ライはこう言った。

    『今まで、アルを見つけたいって宣言した人はカオリしかいないわ。
    だって、普通の人に少し伏線を貼った話をしても笑われるんだもの。
    まぁ、そう言った人達は皆・・」
    ライがボールを取り出した。よく見えないが、かなり大きい。
    「この子が凍り付けにしちゃったから」
    ライは冷たく笑った。
    「私がここまでしてアルを探してる理由、分かる?」
    何となく分かったが、あえて首を横に振る。

    「私、彼を愛してるから」


    カオリは硝子の破片を見つめた。
    もし、ギラティナ側からこちらが見えていたとしたら。

    ギラティナは、どんな思いでカオリ達のことを見ているのだろう。

    ファントムガール、塀の上。
    ファントムガール、座ってる。

    ファントムガール、まだ落ちない。


      [No.955] ヨノさんはきっとぷにぷに 投稿者:久方小風夜   投稿日:2010/11/12(Fri) 03:03:56     18clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    とりあえず一言。
    カオリさん、そこ代わってくださいお願いします。

    それはともかく。
    カオリさんシリーズ、不思議な雰囲気が漂っていますね。
    何故カオリさんがそれほど人間を嫌うようになったのか、そこのところを詳しく聞きたいものです。


    あとそれから、カオリさんそこ代わってくださ(略
    大事なことなので2回(略


      [No.944] 7番手。砂糖水、逝っきまーす! 投稿者:砂糖水   投稿日:2010/11/09(Tue) 00:04:05     55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    処女作、という言葉の定義に悩みました。
    というのも、初めて書いたポケモン小説は誰にも見せることなくお蔵入りしたので…。
    ちなみに長編(中編?)で完結済み。人生で唯一完結させた長編です。
    とりあえず、データになっている初投稿作を晒すことにします。

    以下、軽くデータ。

    それまでのストーリー創作歴:
    中学時代にオリジナルの長編を書こうとして挫折。
    高校に入ってからは短編をちらほら。

    ちなみにポケモン小説の存在自体は中学から知っていましたが、書こうと思ったのは高校入ってから。
    『ウバメの森の図書館』様を発見してから書きたいと思うようになりました。
    でも間もなく受験生になったので、投稿は先送り。
    あと投稿できそうなものもなかったし。
    とか言いつつ、お蔵入り作はこの頃に書いてました(笑)

    書いた時期:大学1年初夏? うろ覚え…

    執筆の背景:
    大学に入ったし、何か書こう! と思い立って2週間くらいで仕上げたもの。
    最初に考えたネタが頓挫(継続中)し、何かないかなと思いつきで書いた。
    ノーパソの前でうんうん唸りながら下書きなしでぽちぽち打ってました。
    なお、この時のあまりの書きづらさにこれ以後は紙に下書きするようになった。


    まあ、大体こんな感じです。
    ということで本文逝きます。
    ちなみに文の最後に「。」がないのは仕様。



    −−−−−−−−−−−−−−−−−



    気づくと、君の声が聞こえた
    ぼくの名を呼ぶ声
    ねえ、ぼくはさっきまで夢を、見ていたんだ
    とても、幸せな夢だよ
    君とぼくが出会った時の夢
    ねえ、覚えてる?あの時のこと


    名前を呼んで


    ぼくが君と出会う前、ぼくは人間が大嫌いだった
    いまでもあんまり好きじゃない
    君にそんなこと言ったらなんて顔、するのかな?
    悲しそうな顔?
    だろうなぁ、きっと
    君は優しいから
    でも、ぼくと君は話せない
    君は人間で、ぼくはポケモンのグラエナ
    もし話すことができたらどんなにいいだろうね?
    そうしたらぼくは君にありがとうって言えるのに
    君は特別なんだ。だって君は
    大丈夫って言ってくれたから
    手を差し伸べてくれたから
    抱きしめてくれたから
    だから

    冷たい都会の路地の隅っこで
    ぼくは一匹のポチエナとして生まれた
    親なんて記憶の片隅にしか存在しない
    覚えているのはぼくを護ろうとしている汚れた背中
    泥やいろんなものがこびりついて
    何色なのか表現できない、その背中
    兄弟もいたはずなのにぼくは気づいたら一人ぼっち
    ぼくはたった一匹であそこにいたんだ

    あの頃ぼくは人間に傷つけられてばかりいた
    ぼくは動くものにすぐ噛み付いてしまうから
    それがたとえ人間であっても
    だからよく人間に敵視されてはいた
    でもそれがだんだんエスカレートしていった
    ぼくは無闇に噛み付かないようになっていったのに
    人間はぼくを攻撃するようになった
    ぼくが何もしなくてもぼくを見つけると
    ぼくを攻撃するんだ
    足で蹴られたり踏まれたり棒で叩かれたり
    ポケモンをけしかけられることもあった
    笑いながら、楽しそうに
    ぼくはいつも傷だらけだった
    最初は抵抗していたんだ
    でも、諦めたんだ
    反抗してももっと傷つくだけ
    逃げてもまた捕まって余計痛い思いをするだけ
    だからやがてぼくはされるがままになって
    泣きもせず、逃げることもせず、ただなすがまま
    でもね、本当は
    痛かった、苦しかった、つらかった
    心はずっと悲鳴を上げていたんだ
    助けてってずっとずっと叫んでいたんだ
    あの時、そうあの時、君が現れるまでずっと

    あの頃はもう、人間なんて信じていなかった
    人間なんて皆同じ。ぼくを傷つけるもの
    そう思っていたんだ
    だから君に攻撃したんだ
    せっかく手を差し伸べてくれたのに
    優しさなんて信じられなかったんだ
    本当はずっと救いを求めていたくせに
    誰よりも心から
    なのにぼくはその手に噛み付いてしまった
    あの時君は「大丈夫?」って声をかけてくれたのに

    ぼくはその時薄汚れた路地で怪我をして動けなくなっていた
    通り過ぎる人間はぼくに気づかないか
    薄汚いものを見るように目を背けるだけで
    誰一人、ぼくを気にかけてくれやしなかった
    君の声は優しい声だったけど、ぼくは攻撃されるって思ったんだ
    すごく怖かった
    君は絶対そんなことしないのにね
    体が弱ってて力なんてほとんど入ってなかったけど
    ぼくは君の手に噛み付いた
    君は驚いて手を引っ込めた
    ぼくは君がいなくなると思った
    もうぼくに近づかないと思った
    もしかしたら本当に心配していてくれたのかもしれない
    そう後悔したけど、でも人間は敵だからこれでいいんだって
    自分に言い聞かせて、それで終わりだって思った
    だけど君は「大丈夫だよ」って言いながら手を伸ばした
    ぼくはもう一度噛み付こうとしたけど、できなかった
    だってぼくは動けなかったから
    その手に縋りたいと願ったから
    でも、一度拒んだものを受け入れるのは難しい
    君にすべてを預けることも、逃げることもできずに
    素直になればいいのに、ぼくは動けなかった
    君はぼくのそんな気持ちを見抜いていたの?
    差し伸べられた手を取りたいと望みながら
    その手を取れない臆病なぼく
    それら全部を掬い上げるように君はぼくを抱きしめてくれた
    君の腕の中は痛いくらいに暖かで、ぼくは泣いた
    嬉しくて悲しくてぼくは泣いた
    「つらかったんだね、苦しかったんだね
    分かるよ、わたしもそうだったから
    痛いよね、悲しいよね
    でも、もう大丈夫。わたしがいるから
    だからもう」
    そう言っている君は悲しそうで
    今にも泣きそうで
    「泣かないで」
    そう言っている君のほうこそ泣きそうなのに

    君は優しいから、いっぱいつらい思いをしたんだね
    君がぼくの心を救ってくれたように護ってくれたように
    今度はぼくが君を護る、そう誓ったんだ
    君がぼくに名前をつけてくれた時に


    黒い刃、黒牙(くろは)


    それがぼくの名前
    ぼくがどんなに嬉しかったか言葉に表せないくらい
    本当に嬉しかった
    誰もぼくをぼくとして認めてくれなかった
    誰一人、ぼくを生きていて心があるって認めてくれなかった
    でも君はぼくをぼくとして認めてくれた
    ぼくを生きている、心があるって認めてくれた
    その証に名前をつけてくれた
    名前を呼ばれる度に嬉しいんだ
    それだけなのに幸せなんだ
    ずっとずっとつらかったけど君に逢えて本当に幸せだよ

    ああ、君の声が近づいてきた
    何度も何度もぼくの名を呼んでいる
    でもぼくは聞こえない振りをする
    しばらくして君はぼくを見つけた
    「どこいってたの?心配したでしょ」
    ぼくは今起きたと言う風に目を開けた
    口では怒っているように言ってるけど
    本当は安心したように笑っている君が見える
    「行こう?」
    君がぼくの頭をなでる
    ぼくはあの頃と違って大きくなったし
    毛並みもずっと良くなって君に褒めてもらえるくらいになった
    でも君はあの頃と変わらないままの笑顔でぼくの名前を呼ぶ
    「黒牙」


    君を護るよ
    あの時の誓いは変わらないまま
    でもたった一つだけ願いを言わせて
    それだけでいい、それだけで幸せだから
    だから、

    名前を呼んで




    −−−−−−−−−−−−−−−−−


    これは酷い厨二。
    特に名前。それに読みづらい。

    内容は進歩してないし。いまだに似たようなの書いてるっていうね。

    ちなみにこの後トレーナー視点と、ちらりとも出てこないもう一匹の仲間の話を書きました。
    いつかリメイクしてここに投稿予定。



    それから冒頭書いたお蔵入り長編はミュウツーの話。
    もし読みたいっていう奇特な人がいたら晒そうかな…。
    もう絶対書かないんで。




    【みんな晒せばいいと思うのよ】



    最後に一言。
    クーウィさん処女作なのにレベル高すぎ。





    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



    (以下12月12日追記分)


    げに恐ろしきは夜中のテンション……。
    勢いで晒すって書いたはいいものの、改めて読み返してその黒歴史っぷりにへこみました。
    すごい勢いで後悔したものの、まさか誰も読みたいだなんて言うと思っていなかったから半分安心してたんですが……。
    まさかまさかのご要望をいただいちゃいました。
    なんというかこのスレも埋もれかかっているんですが、晒します。



    高三のころに書きました。第一志望? 落ちましたが何か。




    なお、この話はミュウツーの逆襲に追加エピソードがあったことも、続編があったことも知らずに書きました。
    そのあたりを頭に入れてお読みください。





    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






     自己と他者、夢と現の区別もつかないまま一体どれだけの時が過ぎていったのだろう? 私と仲間たちはただそこにあるだけだった。
     やがて一人、また一人と仲間は脱落していった。力の大きさに耐え切れずにしんでいくもの、自らの体が崩壊していくもの、失敗作とみなされて消されるものと様々だった。
     見たわけではない。感じたのだ。

     私が初めて見たものは人の顔。顔はどれも緑がかっていて歪んでいた。私が『水槽』の中にいたせいだ。緑色の液体とともに私はいた。
     私はまた、周囲の音を聞き言葉を覚えていった。

    「ミュウ」「実験」「成功」「失敗作」「できそこない」

     そんな言葉がよく交わされていた。誰に教えられるわけでもなく私は言葉の意味を理解していった。
     やがて私は何のために作られたのかを知った。そのころには仲間の数はかなり少なくなっており、そして私ほど明瞭な意志をもつものはいなかった。
     だが、おそらく人間たちは私のような存在を予想していなかったに違いない。奴らが欲しかったのは従順な人形だったからだ。


     私は一体何のために生まれてきたのだ。


     軍事目的。兵器として私は生まれた。それは分かっていた。だが私は、私は違うと言いたかった。


     絶対に違う! 私はそんなことのために生まれたんじゃない。
     私は、私は……。


     どんなに否定しても事実は変わらないのに私は違うと思い続けた。我々に植え付けられた殺意は微睡みと共に私の中にもあったというのに。
     だがしかし、仲間たちは私のように思い悩むことはなかった。彼らは人間の操り人形でしかなかった。



     人の声が聞こえた。

    「『ミュウ・チャイルド』ちゃん達〜。もうすぐ、お目覚めですよ〜」

     こういう声をなんというか私は知っている。別の人間が言っていたから。『甘ったるい猫なで声』だ。
     こういう声を聞くだけで気分が悪くなってくる。『イライラする』とでも言うのだろうか?

    「ねぇ」

     我々ではなく、他の人間に話しかけたようだ。

    「『ミュウ・チャイルド』って長くない? 呼びかけづらいんだけど〜」

    「ああ、それならもう決定しているぞ」

     一体、どんな名前だというのだろう? 生物兵器に着ける名前というのは。

    「ミュウツー、だ」
    「『何それ〜。ずいぶん安直じゃあない?」

     『ミュウツー』、第二のミュウ。

    「物事というのは得てして、単純なものの方がいい。それに分かりやすいだろう?」

     相手を馬鹿にするような言い方だ。きっと心の中ではもっと馬鹿にしているに違いない。ここの人間は皆そうだ。

    「それに私が決めたのではないのだから、私に言っても無駄だ」

     先ほどの馬鹿にした言い方は『ぷらいど』を傷つけられたからのようだった。
     その後、人間達は別の場所に行ってしまい、話は聞けなかった。


     我々は第二のミュウ。


     そう、我々はミュウの遺伝子を基に造られた。そして同時に人間の遺伝子をも組み込まれた。
     人間のこういった話は嫌でも耳に入ってきた。だから私は知っていた。
     我々は第二のミュウだ。扱いやすく、戦闘能力を強化されたミュウミュウの代わりであり、生物兵器だ。
     毎日考えてきた、だがしかし、考えたくないことを突き付けられた。

     私は一体どうすればいいのだろう?

     悩んでいる暇はあまりないようだった。間もなく我々は目覚めさせられる。その前に行動を起こさなければならない。
     そして、その時。私の中で微睡んでいた獣が目覚めた。



     殺せ……、殺すんだ……。全て壊してしまえ……。



     私は、その獣の言うままに行動した。








     気付くと辺りは炎に包まれ、血と何かが焦げるような臭いがした。生きているものはなく、ただ火のはぜる音がした。
     私がやったのだ。この目の前の惨状は。



      ――残酷表現につきカット――


     施設内のすべての生き物と機械を破壊した後、私は我に返った。しばらく呆然としていたが、徐々に自分のやったことを理解した。
     私は自分のやったことに恐怖を感じ、逃げ出した。




     燃えさかるそこを抜け出し私はただ当てもなく彷徨った。
     何も考えたくなかった。己のした行為に、自らの力に怯えていた。だが私が最も怯えたのは自分自身だった。
     自分の中に潜む獣に身を任せ、すべてを破壊する時、私は楽しんではいなかっただろうか? 命を奪うことに喜びを感じてはいなかっただろうか?
     私はこんな、命を奪うような生物兵器として生まれてきたのだ。そのことを突き付けられ、私はただ自分自身に怯えた。





    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



    その後
    疲れ果てたミュウツーは洞窟で眠りに就く。長い長い眠りから覚めたミュウツーは声なき声に導かれ山奥のとある施設にたどり着く。
    そこにいたのはミュウツー同様に遺伝子をいじられ生み出された生き物たち。
    実はミュウツーが破壊した研究施設に残ったわずかな資料から生み出された存在だった。
    そのことに責任を感じるミュウツー。
    彼らはミュウツーにその施設の破壊を頼む。そして同時に人間にしか見えない、けれどミュウツー同様に生み出された少女を連れ出してほしいと頼んだ。
    迷うミュウツー。けれどこれ以上の悲劇を生みださないために施設の破壊を決意する。

    で、まあ最終的にはどこぞに隠れ住む。みたいな内容でした。


    少女の役どころが正直自分にも分らない。女の子出したかっただけです。
    ただ、アイツーは無関係です。



    精根尽き果てました。
    クーウィさんに捧げます。


      [No.933] Re: こう言う感じの短編が好き 投稿者:海星   投稿日:2010/11/07(Sun) 21:50:41     41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    感想ありがとうございます^^*
    カツノリちゃんについては、特性が『メロメロボディ』だということしか判明していません(待
    ひでんわざの中でもなみのりが特に好きなので、そういえばミオシティってなみのりしなきゃ行けなかったっけ…と書かせていただきました。
    題名から「こう言う感じの短編が好き」だなんて、もう、嬉しすぎて眩暈しちゃったじゃないですか!(


      [No.922] 理想と現実(挿絵) 投稿者:イケズキ   投稿日:2010/11/03(Wed) 19:21:30     60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    理想と現実(挿絵) (画像サイズ: 600×450 74kB)


    友人のじゃぽいより、挿絵を描いてもらいました。僕は描けません。
    [06:00]の窓からの景色です。


      [No.911] Re: ここが楽園か 投稿者:スズメ   投稿日:2010/11/02(Tue) 20:09:15     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     感想ありがとうございました。

     >砂糖水@携帯さん

     >【批評していいのよ】タグが二つありましたが、私では力不足なので感想だけにしておきます。

     あわわわわわ、ごめんなさい、手違いでした。
     ご指摘ありがとうございます。
     力不足なんてとんでもないです!
     よろしければ、シャンデラでもなんでもお持ち帰りしちゃってください!


     >こはるさん

     >そのまま、シャンデリアでいてもらいましょう。ここは。

     そのままだと、上から鬼火やらはじける炎やら、危ないものが降ってきそうですね・・・。見栄えはしますが。

     >そういえば、うちの大学にもカボチャのランタンが転がってるよ。……あれは、あつまるとかなり異様な風景になります。はい。

     あのかぼちゃたち、一個だけだったら怖いというよりかわいいですよ。
    でも、三つ以上集まるとその場の感じが変わるというか。
    この話では普通にスルーしていますが・・・

     >[ここに住んじゃうのよ?]

     ?! ありがとうございます!
     よろしければ、どうぞどうぞ。
     ただし、(カビと)雨漏りはすごいですが・・・
     ついでに、ゴーストたちもどうぞ! 


     >CoCoさん

     どうぞどうぞ、住んじゃってください!
     ゴーストたちも好きにしちゃってください!
     ただし、くりかえしになってしまいますが、(カビと)雨漏りだけはご勘弁ください・・・。


     >久方小風夜 さん

     >これは!!
    何という理想郷!!
    すみません自分もその家住みたいんですけどっ!!
    家賃ならいくらでも払う!!

     な?! ぼろぼろ屋敷ですよ? とても人に貸せるような代物でもないですよ? (ちゃっかり歓迎しますが)
    家賃は、ただ同然です。
    調度品は使い物にならないところにも注意してください・・・
    ヒトモシとヨノワールさんは、かぼちゃとセットでどうぞ!
    野生ですから、何の問題もありません(反撃に注意)

    >一般的にはジャックランタンかジャック・オ・ランタンですかね。
    でも自分もそんなに詳しくはない(´・ω・`)

    これも、人によって答えがかわったりするんですよね・・・
    ウィキペディアによれば、ジャック・オ・ランターンらしいですよ。
     

     感想ありがとうございました!

     ちゃっかりと・・・【入居者募集中】
     


      [No.900] Re: 語り部九尾 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2010/10/31(Sun) 21:49:26     43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    No.017でっす!
    語り部九尾読ませていただきました。
    思えば歴史の語り手としてこれほど適したポケモンもいないかもしれませんね。

    欲を言うとやはりポケモン小説だからポケモンの出番が欲しいかなぁ。
    たとえば伊能忠敬とか松尾芭蕉にして、測量してたり旅してたりしてたらポケモンが襲ってきた! さあ大変! とか。
    ペリーが見たことのないポケモンを連れてきた、とか。
    キュウコンが物語中に乱入する回とかあってもおもしろいかもしれませんね。
    まだロコンだったころ、宮廷でエロ小説(笑)書いてた女官がいたとか。
    あるいは空海の乗ってた船で一緒に海を渡ってきた、とか。
    (九尾の狐は天竺→中国→日本 と移動してたハズ)

    あくまで一案ですが。

    では!


      [No.889] Re: まとめ更新しました。 投稿者:   投稿日:2010/10/31(Sun) 00:56:37     62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    パソコンの調子が悪かったせいで、返信遅れてしまいまして申し訳ございませんでした(汗

    まとめ更新ありがとうございました。
    全然問題ありませんよ! むしろ掲載していただいてもらって感激です!
    それでは、本当にありがとうございました。


      [No.878] 語り部九尾 其ノ二 「鬼若」 投稿者:NOAH   投稿日:2010/10/29(Fri) 18:17:26     44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    おや人の子、またこの九尾の話を聞きに来たのかい?
    ならば話そう、これはある豪傑の僧の話。

    その僧が生まれたのは城都はエンジュの地
    彼は赤子のはずだが、見目は数え年で2つか3つで、髪は肩を隠すほど長く、前歯と奥歯、共に既に生え揃っていたという。

    赤子の父はその姿を見た途端、「鬼子」と呼んで殺そうと思い立ったが、それは叔母に止められ、彼女が赤子に幼名を名付けた

    その赤子は「鬼若」と名付けられ、名付け親であった叔母に育てられたそうな。

    その「鬼若」だが、かなりの暴れん坊でな、エンジュの今は跡地のみとなった寺に入り僧となったが、乱暴が過ぎたために追い出され、播磨国はアサギの地へと赴いたが、そこでも問題を起こしてしまったのだ。

    アサギの地に、エンジュにある「焼け落ちた塔」に酷似した建物を見たことがあるか??それは「鬼若」によって炎上した堂塔の後でな、そこでも追い出された「鬼若」は、またエンジュの地に戻り、そこである悲願を立てた。

    その悲願とは。千本もの刀を集めるということであった。
    それから「鬼若」は、行商人から刀を奪い、帯刀の武者と決闘をし、ついには999の刀を集めた。

    そして「鬼若」は最後の一太刀を探し、ある大きな橋の上に辿りついた。

    その時の月は見事な眉月(三日月)であった。
    「鬼若」の姿を一目見ようと、我は橋の下に流るる小さな川岸から、こっそりと覗いていた。

    そして男が橋の上で人を待っておると、遠くから見事な笛の調べが聞こえてきたのだ。

    そして現れたのは見目15ほどの、女とも見てとれそうな男であった。

    そやつの腰に佩びた見事な太刀を一目見た「鬼若」は、その者と刀を巡り挑んで行った。

    しかし相手の男は笛を吹きながらひらりひらりと、まるで揚羽の如く舞い、橋の欄干を飛び交い「鬼若」翻弄しておった。

    「鬼若」もそやつの身軽さに負け、彼の千本の刀を集めるという悲願は後1つというところで叶わなかったが、それ以来「鬼若」は、その男に忠誠を尽くして、奪った刀をそのままに、共に宵闇に消えていったよ。

    うむ?その「鬼若」と相手の名を知りたいと??
    それならば教えてやろう、「鬼若」の名は武蔵坊弁慶
    そしてそやつの相手となった者は、幼名は「牛若丸」、名を源義経と言うのだ。

    あれから数十の時が経った頃、彼らの最後と思われる噂を幾つも聞いた。

    さすがの我も混乱するほどであった、豊縁の地よりもさらに西の地、もしくは深奥の地に逃げ延びたとも言われるが、我もあの橋の上の決闘以来、二人の姿は一度も見てはおらぬ、この狐をも騙す二人には、我も他の獣も関心しておったよ。


    +あとがき+

    こはるさんに催促はされましたが、私自身続きを書くつもりでいたのですらすらと書けました。

    今回は弁慶と義経の二人が出会った話を脚色しました。
    この二人は本当に有名ですからね、次は何時の時代のを書こうかしらね。

    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評してもいいのよ】


      [No.867] 【かき乱してみた】10,29話はそのままに修正  投稿者:てこ   投稿日:2010/10/28(Thu) 03:21:01     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

     

     激しい雨が降り続いている。ここまで、急に天気が崩れるのは、いくら山だと言っても珍しい。この山はそれほど険しくはないが、天気によって山と言うのは豹変するものなのだ。遭難、土砂崩れ、落下――。雨は、足元を悪くし、視界を狭め、体温を奪う。
    「何か起こるな」
     そんな胸騒ぎがした。とびきり悪い、何かが起こりそうな気がした。今夜、自分は眠れるだろうか。いや、今夜自分が生きている保障などないのだ。自ら危険な場所に赴く、そんなことが仕事なのだから。

     どこかで獣の吼える声がする。遠吠えとは違うその吼え方は、レンジャーの訓練を受けたポケモンだけが発する吼え方だ。深呼吸をして、耳を澄まし、雨の音の中から吼え声だけに全神経を集中させる。
     ――増援。

     やはり。傍らに居た相棒も険しい顔をしていた。うむ、頼むぞ。
    「行こう、あの場所へ」
     相棒の左手をしっかりと握り締め、俺は目を閉じた。余計なことを考えると、普段からアレが下手な相棒の成功率がさらに下がってしまう。はやる気持ちを抑え、無心、無心と心の中で唱えた。内臓だけが浮くような気持ちの悪い心地。徐々に、意識が遠のき、ぷつんと切れた。

    「大丈夫ですかって……ぅわーっ!!」

     気づくと、俺は2メートルほど藪の中をずり落ちていた。泥だらけである。相棒はちゃっかり地面のあるところに着地したらしい。泥だらけの俺を見て、両手を合わせて申し訳なさそうにしている。テレポートミスってごめん!みたいな。

     ……。

     ――――

    「はぁはぁ……増援に参りました!――のポケモンレンジャーです!」

     「おう」と力強い言葉が返ってきた。一人は強そうなトレーナー、毛一人は同業者。そして、おそらく彼らの手持ちであろう逞しげなポケモン達がトロピウスの背中に乗せられた一人の少年を囲んでいる。少年に意識はなさそうだ。少年の身体に大量の出血や、大きな傷は見られなかったが、見えないところが余計に怖かった。小さな、ヒトカゲが彼の力なく下がった手を握り締めている。
     
    「少年とヒトカゲが土砂崩れに巻き込まれました。ポケモンは無事ですが、少年の様態が危険です」

     アブソルを従えたレンジャーが言う。短い言葉だが、無駄がなく、不足した情報もない。目の前の二人はどちらも、本当に危険な状況を何度も切り抜けてきたような人たちなのだろう。互いのやり取りも、することにも、無駄がなく速く、正確だった。

     手袋をはずし、少年の身体に触れる。ふむ。体温が低い。意識レベルも低い。確かに危険だ。生死を彷徨うという状況ではないが、すぐに、病院で手当てを受けたほうがいいだろう。ついさっきまで大丈夫そうだった状況が一気に急変することだって、ありえないわけではないのだ。
     それに、また何かが起こらないとも限らない。今すぐにでも、この場所を離れた方がいい。
     だが、降り続く雨がそれを阻んでいる――わけか。雨は先ほどよりも、強くなっている。雲も黒い。雷雲である可能性が高い。下手に飛べば、少年もトロピウスも、命を落としかねない。
    「なるほどねぇ……」
     だとすれば、少しでも時間に余裕をもたせるほかあるまい。
     俺の腰につけたモンスターボールから、一匹の小さなポケモンが飛び出した。魔女のような帽子の頭に、ひらひらとした紫の身体。ムウマージ。
     彼女は、ボールから出るやいなや俺を少しだけじっと見つめて力強く頷いた。自分のすることは、ボールに出る前から気づいていたのだろう。すまん。心の中で俺は謝った
     弱った少年の上に覆いかぶさるように俺のムウマージが擦りつく。そして、少年の身体と自分の身体を密着させるように、張り付いた。

    「な、何を……?」
     リオルを連れたトレーナーがが不信そうに俺を見る。大丈夫ですと、小さく答えて俺は少年とムウマージを見ていた。ゆらりと、不思議な力が動く気配を感じる。徐々にムウマージの身体が光をおび、やがては少年をも包み込む。数秒程たって、ムウマージは少年から離れるとふらふらと俺のもとへ戻ってきた。俺は、頭を一撫でして、モンスターボールに戻した。ありがとう、おつかれさま。ゆっくり休んでくれ。

     少年の呼吸が、先ほどに比べて穏やかになったように感じる。身体も温かくはないが、冷たくもなくなっていた。これで、少しは時間が稼げるはずだ。

    「様態が……何をされたのですか?」
    「いたみわけですよ、いたみわけ」

     いたみわけは、自分の体力と相手の体力を同じにする技。つまり、ムウマージの体力が少年に分け与えられたということである。もっとも、この技を使うレンジャーは少ない。自分のポケモンを傷つける、犠牲にするようで嫌だと言われるし、俺は何て冷たい奴なんだと思われていることだろう。けれど、俺もムウマージもポケモンレンジャーの端くれとして、一生懸命に誰かを助けたい。そんな気持ちでやっているから、まあ、しょうがない。

     遠くの空は、白い。きっと、あと少しすれば雨が弱まるはずだ。いや、弱まってくれないと困る。この、黒雲が通り過ぎる、もしくは、少しでも雨が弱まるまで、少年がもってくれれば、大丈夫だろう。
    「やっぱりポワルン……」
    「気を抜くんじゃないぞ」
    「り、了解です!」
     トレーナーもポケモンレンジャーも、今まで険しかった顔を少し緩ませ、同時にポケモンたちもほっとしたように、笑顔を見せた。何とか、最悪な状況は避けられそうだ。その場には、微かな安堵の空気が流れていた。その時だった。


     アブソルが急に立ち上がった。全身の毛を激しく逆立てて、赤い赤い目を大きく見開いて――

     ――まさか!

     アブソルは吼えた。救助を求める声ではない。それは恐ろしいほどに響く――災いを知らせる声。

    「逃げろ!!」

     誰が言葉を発したのか、はたまた自分が発したのか。大木の折れる音がする。視界が斜めに揺れる。青年のレンジャーが何か叫んでいるらしいが、何も聞こえない。藪も木も地面も、下へ下へと、動き始めた。



    ――
    何かかき乱してすみませんすみませんすみまえ(ry
    ここでこそ、いたみわけだっ!とひらめき、救助してみました。

    なんか、すみません!


    10月29日 若干修正させていただきました
    11,23 クーウィさんのトレーナーさんのこと、レンジャーさんと書いておりました。間違えちゃっててすみません……。


      [No.856] 大丈夫だ、問題な(ry 投稿者:砂糖水@携帯   投稿日:2010/10/27(Wed) 00:21:27     39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    全く問題ないですよ!
    ここに構想から約一年かかってようやく完成させた人間がいますから。
    むしろ私からしたら早いという。


    では感想をば。

    主人公の、多少のフィクションどころじゃない現実の改変っぷりに笑いました。
    どこか考え方が可笑しくて、なんでこーなるの!
    みたいな。

    その主人公のみぞおちに体当たりかますジャノビーが可愛いです。
    拗ねてるジャノビーも可愛いです。

    細かな時間が書いてあるあたり、小説というより日記とか行動記録みたいだな、と思いました。

    全体がコミカルな調子で進んでいってとても楽しく読めました。



    最後に、細かくてすみませんが誤字脱字の報告です。

    > ツタージャをもらってトレーナーの旅を初めた。
    →始めた。

    > 一大スペクタクル巨編の一節してしまおう。
    →一節にしてしまおう。

    > 顔を洗い歯を磨いた私は、さっそく何もするこが無くなってしまった。
    →何もすることが無くなってしまった。

    > ―ジャノビーはいつも負けた時、どうして感じていたのだろうか。
    →どう感じていたのだろうか。


    という感じだと思います。

    それでは長々と失礼しました。


    【私にも誰か早く書くコツを教えてください】


      [No.845] なん……だと…… 投稿者:てこ   投稿日:2010/10/26(Tue) 00:42:41     46clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    書いてみたがある…だと…(ざわ…ざわ…

    てこです!
    はじめて!の下にある文字を一回見て、うつむき、「いや、まさか。夢だろう、夢でないはずがない」と呟き、もう一度顔をあげ

    夢じゃなかったあぁぁぁあ!!
    リアルでウホッとか言ってしまったじゃないか!このぉ!

    海星さん、ありがとうございます!
    改めて、てこです!気持ち悪くてすみません。うれしかったのです許してくださいませ。


    ケーシィ、テレポートミスりすぎです。んでもってちゃっかりしすぎです。こいつめ!呪い死んでやる。

    そして、相変わらずのマニュアル人間の幼馴染で安心というか、よくぞ!
    どのカセットのとか、バージョン設定はしていないのですが、なんだろ……明るい中にウラがありそうでなんか、あれですね。幼馴染は

    こう、アニメ的にパウワウが「モンスターボールには入っていないけれど仲間だよ」みたいな流れになるかと思いましたが、ゲーム界はそう甘くはなかったですね
    でも、きっと別の流れで再開してジュゴンとして活躍しているかもしれません――フーディンと一緒に!

    オチ。そうきたか!
    確かにさいしょから、だと主人公の記憶もケーシィも消えてしまいますよね。だから、最初からの下に 幼馴染から という選択肢を作ったら大じょ(ry

    いやはや、ありがとうございます
    きっと、ケーシィも喜んでることでしょう。主人公をどこかに置き去りにして――。


      [No.817] ジェバンニが一晩で 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/10/24(Sun) 21:32:10     60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「チャットをして寝て起きたら、チャットで出てたネタがもう小説になってたぜ」を実現してみました。

    実を言うと、チャットをしながら書いていました。多分その所為です。


      [No.795] ■小説コンテストスレ 投稿者:017@管理人   《URL》   投稿日:2010/10/24(Sun) 02:39:55     60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    マサポケで開催予定の小説コンテストのスレ(暫定)です。


      [No.755] Re: まとめ更新しました。 投稿者:兎翔   投稿日:2010/10/21(Thu) 08:21:49     56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    まとめ更新お疲れさまです。
    お願いがあるのですが、「たまには天日干しでも。」のタイトルを「洗濯日和【描いてみた】」に変更していただけますか?

    よくよく文章読んだら、みんな明らかに天日干しですよね。
    「たまには」とか意味わかんないですよね…orz

    お手数おかけして申し訳ありません。

    追記:変更確認しました。ありがとうございますm(_ _)m


      [No.614] 【カゲボウズ憑き物件】まとめ 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2010/09/09(Thu) 08:30:33     39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    カゲボウズが洗濯された結果がこれだよ!
    http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/index.html

    「書いてみた」等で正式タイトル(?)がついていなかったものは、ひとまずこちらで適当につけてしまいました。
    こういうタイトルにして欲しいみたいな場合は申請ください。


    Cocoさんの書いてみたを広げた功績は大きい……

    【みんなで書いてみたをまとめたのよ】



    ※独立スレだったけど、台風便乗


      [No.576] Re: 詠んでみた。 投稿者:たけあゆ   投稿日:2010/09/01(Wed) 22:02:31     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    はとちゃんとの会話抜粋。

    たけあゆ :
    はとちゃらし〜い短歌だね。古典ぽい作風にするなら
    「うるわし君」がもうちょっと比喩されてもいいかなぁ
    想い人への表現が直接的過ぎて無粋な気がしなくもないような。。。
    蓮の花よりも美しいと思えるなにかに!

    彼岸のNo.017:古語あんまり知らないので見逃してw
    うんでも検討はしとくw
    で、考えたんだけど「君」を「月」に変えるのはどうかなー。
    満ち欠けはするけれど花と違って美しさを保ったままだし、
    貴女は年老いてしまったけどその(内面的な)美しさは変わらないみたいな暗喩になるかなーとか、ならないかなーとか。
    あ、
    ミシマさんとツッキーが揃うからとか思ったわけではないよ?
    ないよ?(笑

    たけあゆ:
    月!すごくいいと思います!!ちょっと試し書き。

    【水芙蓉 咲き乱れるは さうざうし 冴えたる月を 隠す蚊帳なり】

    なんて如何なもんかしら?

    彼岸のNo.017:
    冴えたるときたかー、いいなぁ それいいなぁ。
    こうなんか歳はとったけど人間として洗練されてきた感じがいいね。

    たけあゆ:
    かぐや姫にもあるように「月」は手の届かない美しさの象徴として
    すごくいいチョイスだと思うよー

    まぁそんな訳で、通りすがりに短歌に反応してみました(・w・*


      [No.560] ●豊縁昔語―詠み人知らず 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2010/08/31(Tue) 00:04:45     93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ■豊縁昔語――詠み人知らず


     昔むかし、秋津国の南、豊縁と呼ばれる土地には異なる色の大きな都が二つございました。
     二つの都に住む人々はお互いに大変仲が悪うございました。
     彼らはそれぞれ自分達の色、信仰こそが正統だと考えておりました。
     今回はその二つの都のうちの一つ、青の都に住む一人の女の話をすることに致しましょう。

     その女は今の時代では貴族などと呼ばれる身分でありました。
     齢は四十と五十の間くらいでありましょうか。
     蓮見小町などと呼ばれた昔の彼女は美人だと有名でした。
     若い頃などは都の様々なものが、彼女を一目見ようと足繁く通ったものです。
     しかしやはり歳や老いに勝つことは出来ませんでした。
     今や長い髪には多くの白が混じり、肌の張りはなくなり、顔にはすっかりしわが増えてきたその女にはもはや言い寄るものは誰もおりませんでした。
     夫はおりますけれど、若い娘の宮に通うのに夢中です。
     彼女には見向きもしませんでした。

     そんな彼女の唯一の楽しみは時折開かれる歌会でございました。
     夜に集まった高貴な身分の人々は西と東にわかれ、東西一人ずつがそれぞれの五七五七七の歌を詠んでその出来栄えを競い合うのです。
     見目の美しさは歳を追うごとに色あせます。
     けれど和歌ならばどんなに歳をとっても、美しさで負けることはありません。
     歌ならば彼女はほとんど負けたことがありませんでした。
     季節の歌、恋の歌……歌会に出されるあらゆる題を彼女は詠ってまいりました。

    「ふうむ、ハスミどのの勝ちじゃ」

     このように審判が言うと彼女の胸はすっといたします。
     自分に見向きもしない男達、若くて美しい女達もこの時ばかりは悔しそうな顔をします。
     そんな者達を和歌で負かして彼女は気晴らしをしていたのでした。
     全員が歌を詠み、甲乙がつきますと、歌会の主催である位の高い男が今日出た歌の総評を述べました。
     そうして、次に催される歌の題お発表いたしました。

    「次は水面(みなも)という題でやろうと思う。十日後の今日と同じ時間に屋敷に集まるよう」

     こうして貴族達は次の題目のことを頭に浮かべながら帰路についたのでございます。

     ハスミはさっそく次の題で和歌を考え始めました。
     和歌の得意な彼女は一日、二日で題の歌を作ってしまいます。
     書き物をしながら、散策をしながら、題目のことに思いを馳せます。
     すると少しずつ何かが溜まりはじめるのです。
     彼女はその何かを水と呼んでおりました。それが溜まると和歌ができるのだといいます。
     よい和歌と云うのは、まるで庭にある添水(そうず)の竹の筒が流れ落ちる水を蓄え、ある重さに達したときのようにカラーンと澄んだ音と共に水を落とすように、彼女の中に落ちてくるのであります。
     彼女はいつものように水が溜まるのを待っておりました。
     ですが今回は何かが変でした。
     まるで何日も雨の降らない日照りの日でも続いたかのように彼女の中に水が溜まらないのです。
     どこかに穴があいているのか、それとも渇いてしまうのか、理由はよくわからないのですが、一向に和歌が降ってくる気配がございません。
     いつもなら一日二日で出来てしまうものが三日、四日経っても出来てこないのです。
     彼女は心配になって参りました。

    「ハスミどの、歌会に出す歌は出来ましたかな」

     近所に住む貴族が尋ねます。

    「ええ、もちろんですわ」

     つい強がってそのように答えましたが、彼女の中で焦燥は募るばかりです。
     困ったことに五日経っても、六日経っても歌が出来ないままでありました。

    「ああ困ったわ。歌が出来ない」

     と、彼女は嘆きました。
     貴族の中にはあまり歌が得意でない者もおりまして、秀でたものに依頼などしているものもおりましたが、ずっと自作を通してきてそのようなものを必要としなかった彼女にはそんなあてもございません。
     しかしそうこうしているうちにも日は過ぎて参ります。
     そうして、八日が過ぎようとしたころです。

    「ハスミどの、あなた様の相手が決まりましてございます」

     と、使いのものが来て言いました。
    「誰ですの」と、ハスミが尋ねますと、「レンゲどのです」と、使いのものが答えました。
     彼女は絶句いたしました。
     その名前は夫が足繁く通っている宮に住む若い女の名前だったからです。
     負けたくない!
     絶対に負けたくない!
     と、彼女は強く念じました。
     けれどまだ歌ができません。

    「わかっているわ。もう昔のように若さでも、美しさでも勝てやしない。歌を作るのよ、私にはもう歌しかないのだから……」

     と彼女は自分に言い聞かせました。
     けれどそうこうしている間に九日目になりました。
     ハスミはぶつぶつと呟きながら、お付のもの一人つけずに屋敷を出てゆきました。

    「お願いします。どうか私に歌を授けてください。あの女に負けない歌を」

     困った時の神頼みと申します。
     彼女は都外れに静かに佇む、古ぼけた小さな社に供物を捧げると願をかけました。
     都の中央には海王神宮と呼ばれる都人達が多く参拝する立派な神社がありまして、神様の力で言うなら、そちらがよかったのかもしれません。
     けれどこんな願いをかけるところを人に見られたくありませんでした。
     ですからハスミは人知れずひっそりと佇むその社に赴き、願をかけたのでした。
     石碑に刻まれた名は擦れて読むことができません。
     それでも、人も来ず寂れていようとも、社そのものが壊されていないところを見るとおそらくは中央の神宮に祀られた海王様の眷属なのでしょう。
     気がつけば空は大分暗くなっておりました。
     道を見失う前に帰らなければ、と彼女は思いました。
     しかし、日が沈むより早く暗い雨雲が空を覆い、ぽつぽつと雨が降り出します。
     あたりはすっかりと暗くなってしまいました。
     それでもなんとか道を確認しながら彼女は都への帰路を急ぎました。

    「水面、水面……水面の歌……」

     その間にも彼女はずっと歌の題を唱えておりました。
     そうして、都の門近くにある蓮の花の咲く大きな池の橋を彼女が渡っている時のことでした。
     どこからか低い声が聞こえたのでございます。

    『ハスミどの、ハスミどの』

     ハスミは驚いて振り返ります。けれど彼女の後ろには誰も見えません。
     橋の向こうは暗く、ただ橋の上に雨の落ちる音が聞こえるだけです。
     するとふたたびどこからか低い声が聞こえてまいりました。

    『水芙蓉 咲き乱れるは さうざうし うるはし君を 隠す蚊帳なり』

     ぽつぽつと雨音が響く中、低い声が呟いたのは歌でした。
     五と七と五七七の歌でありました。



     そうして十日目の夜に彼女は詠みました。
     結局それ以上の歌を作ることができなかった彼女は、あの雨の夜に聴こえた五七五七七の歌を詠んだのでございます。
     審判は即座にハスミに勝ちを言い渡しました。
     正面に見えるのは若い女の悔しそうな顔。
     ハスミはほっと胸を撫で下ろしました。

     前々から歌がうまいと言われていたハスミでしたが、これを機とし、彼女はますます歌人としての評判を高めたと伝えられています。
     水芙蓉の歌に端を発し、彼女は歌の世界は大きく広がった。
     瑞々しい女性の感性に、季節の彩(いろどり)と、あらゆる場所からの視点、懐かしさが合わさってより豊かなものになった、と。
     後の世で札遊びの歌を選んだとある歌人はそのように論じています。
     
     ハスミはより多くの歌会へ招かれて、より多くの歌を詠みました。
     幾度と無く彼女の勝ちが告げられました。
     歌会で彼女と当たったらどんな歌人も絶対に勝てない。
     都の貴族はそのように噂し、歌会で彼女と当たることを恐れたといいます。
     彼女は十年、二十年と歌を詠み続けました。




     さて、このようにして歌人としての地位を欲しいままにしてきたハスミでありましたが、やはり老いには勝てませんでした。
     ますます寄る年波はや彼女の身体を衰えさせていきました。
     すべての髪の毛がすっかり白くなってしまい、腰を悪くしたハスミは、やがて歌会にも顔を出さなくなりました。
     そのうちに彼女の夫が亡くなりました。
     彼女は都外れの粗末な庵に隠居いたしまして、時に和歌を作って欲しいという依頼を受けながら、ひっそりと余生を過ごしたのであります。
     そんなハスミのもとに時折尋ねてくる男がありました。

    「サダイエ様がお見えになりました」

     と、下女が言いますと「お通しして」とハスミが答えます。
     すると襖が開けられて、烏帽子姿の男が入ってまいりました。

    「これはサダイエどの、またいらしてくれたのですね。いつもこのような出迎えでごめんなさいね」

     下半身を布団に埋めて、半身だけ起き上がったハスミが申し訳なさそうに言います。

    「いいえ」

     と、男は答えました。
     齢はハスミの二、三十ほど下でありましょうか。
     王宮仕えの歌人として、また歌の選者としても名を知られる男でした。
     最近は御所に住む大王(おおきみ)の命で、古今の歌をまとめたばかりなのです。

    「噂はお聞きしましたわ。なんでも私の歌をまとめてくださるとか」
    「おやおや、お耳が早いですなぁ」

     新進気鋭の歌人は笑います。
     
    「ハスミどのは私の憧れです。どんな題を与えられても一級品、歌会では負けなし、もしすべての勝負事が歌で片付くのならば、今頃はあなた様が豊縁を一つにしておりましょう。私はハスミどのような歌人になりたくて研鑽を重ねて参りました」
    「まあ、お上手ですこと」

     と、ハスミも微笑み返します。

    「ご謙遜を。それに私は嬉しいのです。あなたの歌をまとめられることが」

     若き歌人は本当に嬉しそうに語りました。

    「ご存知なら話が早い。今日はそのことで相談に参りました。和歌集にはそれに相応しい表題がなければなりませんからね。どのようなものがいいかと思いまして」
    「そうねぇ……」

     ハスミは庵の外を眺めてしばし思案を致しました。
     彼女の部屋からは大きな池が見えます。
     蓮の花が点々と浮かんでおりました。
     この庵自体が池に片足を突っ込むような形で立っておりまして、彼女の部屋は池の上にあったのです。

    「こんなのはどうかしら。……"詠み人知らず"というのは」

     しばらくの思案の後に彼女はそう答えました。

    「よ、詠み人知らずでございますか?」

     若き歌人は目を丸くして聞き返しました。
     詠み人知らずというのは、作者不詳という意味です。
     記録が残っておらず、和歌の作者がわからない歌には、詠み人知らずと記されるのです。
     ですから自分の和歌集に詠み人知らずという表題をつけたいというのでは、男が不思議がるのも無理はありません。

    「サダイエどの、あなたは以前に私の歌を評してこう言ったことがありましたね。私の歌には瑞々しさがあった。その後に季節の彩、あらゆる場所からの視点、懐かしさが合わさって、より豊かなものになった、と」
    「ええ」
    「そうして、こうもおっしゃいました。私の歌の世界が広がったのは、水芙蓉の歌以降である、と。さすがはサダイエどのです。大王もが認める歌人だけのことはございます」

     仕方が無いわねぇとでも言うように彼女は微笑みました。
     そしてこのように続けました。

    「その通りですわ。だって水芙蓉の歌以降、私の名で詠われた歌の半分は別の方が作ったのですもの」
    「……なんですって」
    「別に驚くようなことではございませんでしょう。作者が別にいたなんていうことはこの世界にはよくあることです。あなたも薄々感づいていたのではなくて?」

     ぐっと男は唸りました。
     この年老いた女歌人にもう何もかも見透かされたような気がいたしました。
     彼も本当は知りたかったのかもしれません。

    「……たしかに、考えなかったことがなかったわけではありません。……しかし、それなら誰だと言うのです。私は知りません。あなた様の代わりに歌を作れるような歌人にとんと心当たりがございません」
    「ご存知ないのは無理もございません。その歌人は人ではありませんもの」

     ハスミは隠すでもなくさらりと言いました。
     彼女もうこの世に留まっていられる時間がそう長くないと知っていました。
     ですから遺言の代わりになどと考えたのかもしれません。

    「私も姿を見たことはありませんの」

     と、彼女は言いました。
     そうして打ち明け話がはじまったのでございます。


     二十年程前、あなた様もご存知の通り、歌会で水面という歌の題が出されました。
     そのときに私、歌を作ることができませんでしたの。
     はじめてでしたわ。まるで枯れてしまった泉のように、まったく水が溜まらないのです。
     けれど、相手は夫が通う宮の憎い女。
     私は絶対に負けたくなくて、都の外れにある小さな社の神様に願をかけました。
     歌が欲しい、あの女に負けない歌を授けてほしい、と。
     その帰り道のことです。北門の池をまたぐ橋にさしかかった時に誰かが歌を詠んだのです。
     それが水芙蓉の歌でした。
     その歌で私は勝つことができたのです。

     けれども私にも歌人としての誇りがございます。
     自分以外の作った歌を使うのはこれきりにしようと思って、社へは近づかないようにしておりました。
     その後の何回かは自分で歌を作りましたわ。
     もう水が溜まらないなんていうこともありませんでした。私は自力で作り続けることが出来たのです。

     でも、十の歌会を経て、十の題をこなしたときに、私はふと思ったのです。
     あのすばらしい歌を詠んだ歌人ならこの題をどう表すのだろうかと。
     私は声の聞こえた橋に行きました。
     そうして、さきほど歌会で披露したばかりの五七五七七の歌をもって姿見えぬ歌人に呼びかけたのです。
     返歌はすぐに返って参りました。
     すばらしい出来栄えでした。

    「近くにいらっしゃるのでしょう。どうか姿を見せてください」

     私はそのように呼びかけましたが、姿は見えません。
     かわりにまた声が聞こえて参りました。

    『貴女にお見せできるような容姿ではないのです』

     よくよく聞けばそれは私の足元から聞こえてくるようでした。
     私ははっとして橋の下を見ましたわ。
     けれど気がつきました。橋の下にあるのは池の濁った水ばかりだということに。
     するとまた声が聞こえました。

    『私は人にあらず。水底に棲まう者なのです』

     驚きました。
     歌人は水に棲む者だったのです。

    『ハスミどの。貴女が小さかった頃から私は貴女を知っています。二十を数えた頃の貴女はそれは美しかった』

     そう水に棲む歌人は言いました。そして語り出しました。
     私はこの土地が草原と湿地ばかりだった頃からここに住んでいる、と。

     あの頃の虫や魚や鳥、獣たちはは皆、人の言葉を操ることが出来た。
     私達は十日に一度は歌会を開き、その出来栄えを競いあった。
     だがこの地に都が建造されはじめた頃からか、だんだん何かがおかしくなっていった。
     次第に獣達は言葉を失っていった。
     はじめに話さなくなったのは虫達だった。
     それは鳥、魚へと広がっていった。
     親の世代で言の葉を操れた者達も、子は話すことが出来なかった。
     私達の子ども達も同じだった。彼らが言葉を発すことはついぞなかった。
     かろうじて言葉を繋いだ獣達も都が出来る頃にはどこか別の場所へ去っていった……。
     それはちょうど二の国が争って、各地で人による神狩りがはじまった時期と一致していた。知ったのはずいぶんと後になってからだったが。
     それでもその頃はまだよかった。
     私の社は青の下、同属のよしみで破壊を免れたし、水の中の友人達も健在だったからだ。
     私達は言葉を発し、歌を作ることが出来た。
     だが時は少しずつ奪っていった。
     言葉交わせる友人達も一人、また一人と声届かぬ場所へ旅立っていった。
     私は最後の一人。
     この土地の水に棲む者の中で人と同じ言葉を発し、歌を詠める最後の一人なのだ。

    「けれど水の歌人は人を恨んではおりませんでしたわ。これはこの世の大きな流れなのだと、彼は云ったのです。多くの神々君臨する旧い時代が終わって、新しい時代がくるだけのことなのだと。自分はその変化の時に居合わせた。ただあるがままを受け入れよう、と」

     けれど私にはわかりましたわ。
     水に棲む歌人の哀しみが。
     まだ若くて美しかった頃、多くの男たちが私のところにやってきました。
     けれど年月はすべてを奪ってゆきました。
     私は次第に省みられることがなくなって、夫にも見捨てられ一人になっていった。
     私は見たのです。
     水の歌人の境遇の中に自分の姿を見たのです。
     私達は共に去りゆく者、忘れられてゆく者なのです。

    「それからというもの、私は会の前の晩になると水の歌人と言葉を交わすようになりました。歌会の題でお互いに歌を詠い、よりよいと決めたほうを次の晩の歌会に出したのです」

     水の歌人はたくさんの歌を知っていました。
     自分が若い頃に作った歌、水に棲んでいた友人達の歌、空や野の向こうに去っていった鳥や獣がかつて詠んだという季節とりどりの歌を教えてくれたこともありました。

    「だから私の詠んだ歌は誰にも負けませんでした。私の立つ橋の下には水の歌人を含めた何人もの詠み手がいたのですもの。たかだか三十や四十を生きた人間一人には負ける道理がないのです」

     そこまで云うとハスミは身体を横たえました。
     上を見上げると若き歌人が沸いてくる言葉を整理しかねています。

    「ふふふ、ついしゃべりすぎてしまいましたね。今の話を信じるも信じないのもあなたの自由です。和歌集の表題のこと、無理に頭に入れろとは申しませんわ。けれど差支えが無いのなら、その烏帽子の中にでも入れて置いてくださいませ」

     そうして、彼女は布団をかぶり目を閉じたのでありました。



     サダイエのもとに訃報が届いたのはその数日後でした。
     世話をしていたものによれば、ハスミの死に顔はもう言い残すことがないというように穏やかなものだったといいます。

     しかし、奇怪なのはその後でした。
     ハスミの亡骸は人の墓に入ることはありませんでした。
     葬列に加わるはずだったその亡骸は、都を少しばかり揺らした小さな地震によって、庵と部屋ごと崩れて池の中へと投げ出されたのだというのです。
     やがて庵の廃材は浮かんできましたが、ハスミの亡骸が浮かんでくることはありませんでした。



    「ハスミどの、あなたは水の歌人のもとへ行かれたのだろうか……?」

     サダイエは出来上がった和歌集のうちの一冊に石をくくりつけ、かつて庵のあった池の底へと沈めました。
     歌集はほの暗い水の底へ沈んで、すぐに見えなくなりました。
     そのとき、

    「おや?」

     と、サダイエは呟きました。
     すうっと、何か大きな影が水の中を横切ったのが見えたのです。
     影には長い長い二本の髭が生えているように見えました。団扇のような形をした尾びれが揺れ、そして水底に消えました。

     ……今のは、今横切った魚は大鯰(おおなまず)であろうか。

     そのように彼の目には映りましたが、はっきりとはしませんでした。
     歌集を沈めた時の波紋が、まだわずかに揺らめいておりました。



     それは昔むかしのことです。
     まだ獣達が人と言葉交わすことが出来た頃のお話でございます。





    ----------------------------------------------------------------
    お題:詠み人知らず(自由題)



     水芙蓉 咲き乱れるは さうざうし うるはし君を 隠す蚊帳なり


    意味:水芙蓉、すなわち蓮の花がたくさん咲くというのは寂しいものだ。咲きすぎた蓮の花は、水面に映る美しい貴女の顔を覆い隠す蚊帳となってしまうのだから。

    有名な短歌から拝借してくるつもりが、合うものが見つからず自作しました。
    本来は魚の視点から見た歌だけれど、水面を見る男女のどちらかが相手を想い作った歌という解釈もできるようにした(つもり)。



    ■豊縁昔語シリーズ
    HP版:http://pijyon.schoolbus.jp/novel/index.html#houen
    pixiv版:http://www.pixiv.net/series.php?id=636

    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評していいのよ】


      [No.532] Re: イーブイに関する相談 投稿者:セピア   投稿日:2010/08/26(Thu) 23:36:06     55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    > 知恵袋に寄せられた相談:
    > 父と母がイーブイの進化を何にするかを巡って対立しています。
    > どうすればいいでしょうか?

    ワーストアンサー:お父様とお母様が望む進化以外の進化をイーブイにさせてください。
          
    > 知恵袋に寄せられた相談:
    > 娘のイーブイをサンダースにするつもりだったのですが、なんだか黒いポケモンになってしまいました。
    > 娘が泣いています。どうすればいいでしょうか?

    アンサー?:防御と特防に極振りして、「のろい」と「しっぺがえし」を覚えさせてください。
          娘さんがトレーナーなら、ブラッキーの無双っぷりに喜ぶと思います。





    【珍回答するのよ】


      [No.508] Re: 収穫したい 投稿者:兎翔   投稿日:2010/08/23(Mon) 22:10:20     37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    > 兎翔さん、描いてみたありがとうございます。
    > お手数をおかけしてすみませんでした。
    >
    > とりあえず左端の眠そうな子は貰った!
    > ぷちっ!
    >
    >
    コメントありがとうございます!
    カゲボウズ狩り、一匹二十円!
    幸薄荘にて、随時開催中!

    …なんて言ったら、住民のみなさんに怒られそうですね(汗


      [No.469] 収穫したい 投稿者:No.017   投稿日:2010/08/19(Thu) 20:28:41     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    兎翔さん、描いてみたありがとうございます。
    お手数をおかけしてすみませんでした。

    とりあえず左端の眠そうな子は貰った!
    ぷちっ!


    > 管理人様のご意見に賛成です!
    > まとめて読める形式だとより楽しいと思います。
    > タイトルはありきたりですが「カゲボウズ日和。」とかどうでしょうか?

    さあ、みんなどんどんタイトルを投稿するんだ!
    あっ、ここは震源地のCoCoさんに決めていただくという手も……w
    どうでしょう?

    案その2:カゲボウズストーリーズ! (待て




    【もっと描いていいのよ】


      [No.441] あ…ありのまま 今起こった事を話すぜ!+おまけ 投稿者:CoCo   投稿日:2010/08/18(Wed) 00:02:28     76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「朝方読ませていただいたLandryに感想をつけようと思って出てきたら、続編があっただけでなくレスがすごいことになっていた」
     な…何を言ってるのか わからねーと思(ry


    > ちょwwww
    > 誰かさんのせいで習慣化してるじゃんかよwww
     洗濯はしているが、反省はしていない。

    > とりあえずCoCoさん偉大すぎるだろ
     しかし偉大なのは間違いなくカゲボウズです。


     みなさん本当にありがとうございます。


    > なんですかこのカゲボウズ連鎖?!(^^;)
     おいしいです。

    > ものすごくこのあたりに住んでみたくなったサトチでした。
    御影「204号室空いてるよ。俺ん家の隣だけど」


     以下沢山のありがとうございますと返信代わりにするにはあまりに蛇足すぎたおまけ



    ***


     誰かが引っ越してきたらしい。
     さっき俺の部屋に引越し蕎麦を持ってきた。冴えない感じの大学生だった。あの顔は、幸薄荘にある108のジンクスの一つ【ざまあ鍋】を知る日も遠くなさそうだ。

     とか思いながら、久しぶりにハローワークで良さそうな仕事を紹介してもらえてほくほくしていたのでカゲボウズが現れなかったのに、なぜかいつもタライを設置しているアパート裏の草むらへ出てきてしまった。

     大家さんがしばらく草刈をサボっているのか雑草ぼうぼうの裏庭を見つめて、驚いたことに御影先輩が座り込んでいるのを見つけた。

     アパートの裏の壁に寄りかかって、煙草を吹かしながら右手で一匹のカゲボウズの頭をつまんでいた。

     カゲボウズはイヤイヤとでもいうように首を振っているが、御影先輩はそんな様子をもろともせず、目の高さまでそいつを持ち上げてじっと見つめている。
     首を振っているカゲボウズがとても健気で、つい俺は先輩に声をかけてしまった。

    「御影先輩」
    「あ」

     先輩は咥え煙草のまま口の隙間から煙とともに間の抜けた声を出すと、拍子にカゲボウズをつまんでいた指を離したようだ。

     カゲボウズはふわ、と先輩を避けると、ぴゅーっとこっちへ飛んできて、俺のYシャツの胸ポケットに飛び込んできた。
     見上げる目が二、三瞬き、若干うるんでいるようにも見える。

    「先輩、あんましカゲボウズを邪険に扱わないでやって下さいよ」
    「だってそいつ俺のトゲピーいじめたんだもん」

     先輩はずるずると背中で壁を滑り、気だるい動作で地面に腰を下ろして煙を噴出す。

     いじめたって、子供かアンタ。

    「なんでYシャツなの」
     先輩が言った。確かに俺がスウェットじゃないのは珍しい。
    「仕事探しに行ったんです」
    「へー。見つかったの」
    「見てください」

     俺は折り皺のついた求人リストのコピーを出した。

       登録No.017 『ポケモントリミングセンター』
       ピカチュウからマンムーまで、どんなポケモンもピカピカに!
       愛する手持ち達に、あの頃の輝きを……

    「ここなら自転車で通える距離だし、割と給料もよさげで」
    「……洗濯が趣味なのか?」
     先輩は真面目な顔で言った。

    「んなわけないじゃないスか」
    「でも何か最近よく洗ってない? 黒いの」
    「あいつらここんとこ自分からタライに飛び込んでくるんですよ。すっかり味しめちゃったみたいで」
    「へー」

     あ、そういえば。

    「こないだまた何匹か土団子になってたんで、洗濯しようとしたんですけど、何か何匹からかすごくフローラルな香りがしたような」
    「ふーん」

     まさか、他の家でも。
     それも何か良い香りのする家で。
     たとえば女の子の家で。
     まさかそんなことはないだろうな。
     そんなことはないはずだ。
     そんなの羨まし過ぎる。

    「…………」

     先輩は微妙な視線を俺に向けると、突然ゆらりと立ち上がった。
     胸ポケットでカゲボウズがびくっとした。

    「寝るわ。」

     先輩は言い残すと、二階の自分の部屋へ戻っていった。
     去っていく背中は、大家さんが「御影さん似合うと思いますよ?」とどこからともなく持ってきた、かなめいしの柄がプリントされたTシャツ。

     どこかでテッカニンが鳴いている。

    「……今日、昼飯コンビニの幕の内弁当なんだけど、食う?」
     俺が胸ポケットにたずねると、中の黒いのはとくに返事をしなかった代わりに部屋まで間違いなくついてきやがった。



     終わっていいのよ


    ***

    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評していいのよ】
    【洗濯していいのよ】

     ひたすら能天気ですみません。


      [No.419] えええっ+おまけ 投稿者:CoCo   投稿日:2010/08/16(Mon) 19:42:57     72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ありがとうございます。
     大切に洗濯します。がふっ((

     という御礼だけでは少し寂しいのでおまけという名の蛇足。

    ***



     カゲボウズがなびいている。
     しかも長い。
     縦に。

     衝撃の瞬間を目撃した。
     カゲボウズの下にぶらさがるカゲボウズ、その下にぶらさがるカゲボウズ、その下にぶらさがるカゲボウズ、その下にぶらさがるカゲボウズの下にぶらさがるカゲボウズの下にぶらさがるカゲボウズ。

     数匹のカゲボウズが縦に長く連なり、あたかも見舞いの千羽鶴のような格好で風になびいている。

     しかし、彼らは何も楽しくてあんな格好をしているわけじゃないことを、一部始終を見守っていた俺は知っている。

     ――最近、幸薄荘に住み着いてるカゲボウズに、一匹新顔が加わったのだ。
     まだ子供なのか何なのか、ほかのカゲボウズより一回り小さいカゲボウズ。
     大家さんによってつけられたニックネームはぷちボウズ。

     うまく軒下にくっつくことができないのか、なぜか一匹だけぽとりと、地面に落ちてしまったりしているぷちボウズ(救出済)。
     アパートの二階へあがる手すりのところに何故だかたまに挟まっているぷちボウズ(救出済)。
     消火器の箱の上で昼寝していてヤミカラスに食われそうになっていたぷちボウズ(救出済)。

     ドジなのか迷子になりやすいのか、一匹でふらふらしていることが多い(そして気がつくと地面に落ちていることの多い)新顔のそいつ。
     他のカゲボウズと仲が良くないのかナァ、と思ってちょっと心配したりしていたのだが。

     八月某日、その日カゲボウズが並んだのは、二階の205号室。
     あそこに誰が住んでいるのか俺は知らないが、相当のことがあったらしい、普段住んでいるカゲボウズの他にも、なんとどこから現れたのか、ゴースがうろついたりもしていた。大きいカゲボウズたちとしばらく睨みあって退散したようだったが。ゴーストタイプのポケモンにも縄張りがあるらしい。

     そしてそこにあのぷちボウズも居た。
     右端のほうでそよ風に吹かれてふらっふらしていたので、落ちるんじゃないかと思って下で待機していたら、案の定、そいつの頭は軒下から離れ、ふわふわと落ちてきた。

     しょうがねえから受け止めてやろうかと思った矢先。

     まず一番右のカゲボウズが軒下を離れ、ふわふわと新入りを追いかけてきた。
     そしてぷちボウズを受け止める。

     次に右から二番目だったカゲボウズが離れ、さらに後を追いかける。
     そして受け止めたカゲボウズの頭の先を受け止める。

     三番目も四番目も……と続いて、一番左はしに居たカゲボウズはちょっとふわふわした後、205号室の物干し竿の右はじにくっついた。

     気がつくとあらふしぎ。
     カゲボウズのぼりが出来上がっていた。

     良かったなぷち子。
     お前、意外と愛されているみたいで。
     羨ましいぜこの野郎。

     俺がそんな光景を見上げていると、後ろから肩を叩かれた。
     誰だと思って振り向くと、左頬に大家さんのひとさし指が突き刺さった。

    「またカゲボウズの観察ですか?」

     長い髪と可愛いモンスターボール型のエプロンを真夏のあっつい風に揺らす、可愛い大家さん。
     フラグが立ったと思う前に、"また"のニュアンスになんともいえないものを感じて、とりあえずハローワークに通っています。


     おわりなさい

    ***

    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評していいのよ】

     毒男lv.31 ジョブ:夢追い人


      [No.282] 書いてみました 投稿者:こはる   投稿日:2010/07/15(Thu) 18:26:43     70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    わたしは、おまえに捕らえられた。その白く輝く命にからめとられた。
    わたしは、月光すらかすむおまえの虜だ。

    わたしはおまえを捕らえる。
    白の毛も、蒼い炎も、おまえの命も。
    おまえはわたしを捕らえる。
    金の毛も、紅い炎も、わたしの命も。
    そうやって、わたしとおまえは捕らえあう。歪んだ籠のなかに捕らえあう。

    おまえはだれにもわたさない。おまえだけはわたさない。
    だれにも、わたさない。だれにも、わたされやしない。

    -----------------------
    図々しくも書かせていただきました。
    素適な絵に文章力が途中脱落……ごめんなさい!


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