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ぷおおおおおおおおおお!
とりあえず少年、そこ変わってもらおうか…ッ!フワンテで空飛びたい! なんてスバラシイ肝試しなんだ、ソノオに行きたい、そうだソノオ行こう。
始終少年そこ変われと念じつつ(違った、ほほえましいとニヤニヤしつつ、拝読させていただきました。
なんと可愛らしい肝試しなんでしょうか。フワンテ、フワライドのかわいさに何度悶えたか……
しかし、デートにフワライドで颯爽と登場が軽く挑戦なことがわかりました、たしかに彼?は風に流されますよね。
あんな妄想質問から発展していただき、ありがとうございました!
へろーマコさん、わざわざカウントありがとうございます!
> テレポートの回数は7回です!
> ですから、最終カウントのあった「そこは金色の大地」での回数が13だったので、後6回です。
> 私のヒロイン(マイコちゃん)がヒメリの実をあげているはずなので、テレポートに使うか、他の技に使うか、他の話に出てくるポケモンについばむとか虫食いされるか。
> 其処ら辺を楽しみにしてます。
よし、ついばまれて虫喰われましょう。
だってビリリダマのどの辺に口があるのか分からないもの!
【そろそろ終わらせたいんだけどどうしよう】
昼間だというのに鬱蒼としたウバメの森は、すでに薄暗かった。それでも何かを探すように緑のバンダナが動く。それを身につけているのは小さな女の子。緑色は森にとけて野生のポケモンから身を守るため。そしてその後ろでは、ピンク色のエネコが主人と一緒になって探していた。
ポッポが横切り、キャタピーが葉を食べている中で、ひたすら探していた。時には上を向いて、探し物がないか確かめて。その顔は焦っている。日がくれる前に家に帰らなければならない。けれど探し物はいくどもいくども見つからない。
ふと上を見上げた。ウバメの森の奥深く。来たことのない、人の通る道を大きく外れてしまったところ。後ろを振り返っても、横を見ても知らないところ。どちらに行けば元の道に戻れるのかも解らない。早起きなホーホーの鳴き声が聞こえた。
薄暗い道、ホーホーの声。心細さに感情が溢れそうだった。大声を出しても誰も来ない。トレーナーだってこんな時間は滅多に通らない道。助けを求めることは不可能。勘で歩くけれど、いってもいっても覚えのある道は見つからない。足は疲労し、木の根に躓く。派手に転げ、落ち葉が体中につく。
「うわーーーん」
転げたことで感情の抑えが壊れた。その場でエネコを抱えて泣き出す。野生のポケモン達がその大声から逃げるように離れる。ただ一つの足音以外は。
「どうしたのかな、緑猫(みどりねこ)ちゃん」
優しくて明るい声に顔を上げる。目の前にいるのは女の人。なのだけれども。涙のせいなのか、輪郭がぼんやりとしている。いや違う。ぼんやりとしているのは薄く光っているようだった。肌が白くて綺麗な人。泣く子も黙る美しさ。というより奇妙さ。なんというか、不思議な絵画の世界に迷い込んでしまったかのようだった。
「どうしたのかな、緑猫ちゃん。お腹すいたのかな?」
にっこりと微笑まれても、言葉が出て来なかった。迷ったのと疲れたのと探し物がみつからないのと、全て言いたかったのだけど、緑猫から出てくる言葉はそうじゃなかった。
「お……ねえちゃんだれ?」
「わたし?ふふふ、教えなぁい」
今まで会ったことのないようなふわふわとした手応えのない会話。次に出てくる言葉が見つからずにしばらくその人を見た。
「そんなに見つめられたら困っちゃうなぁ」
語彙がそんなに無いので、形容のしようがない。一つだけ言えるのは、こちらの会話をのらりくらりかわす、手強い相手だということ。
「……わたし、みどりねこじゃないもん」
「かわいい緑のバンダナして、猫みたいだよね。だから緑猫ちゃん。連れているのはエネコかな?」
「そ、そうだよ。この前、ホウエン地方から来た人がくれたの」
エネコはその人の足元によって、匂いをかいだりしていたが、やがて不安になったのか主人の元へと戻って行く。
変な名前を勝手につけられた。けれど緑のバンダナの巻き方が猫の耳のようだと言われたこともないわけではない。だが名前も聞かずに見た目で名前をつけるなんて。
「……おねえちゃん誰なの?」
「ないしょ。ここには寄り道しに来たの。これからヒワダの方に行くの」
かみ合ってない会話に混乱。けれどもヒワダに行くと聞いて、思わず立ち上がる。
「おねえちゃんヒワダ行くの?あのね、わたしコガネシティに行きたい!ついていっていい?」
「反対方向だけど、いいのかな?」
「途中まででいいの!帰る道が解らなくて、来た道に戻れれば後は帰れるから!」
帰れるなら何でも良かった。人間じゃなくても良かったのである。
「緑猫ちゃん、知らない人はそう信じちゃダメよ。この暗さならヤミカラスだって飛んでるんだから。ついていったら迷って食べられちゃうよ」
「でもお姉ちゃんはそんなことしないから大丈夫だよ」
「何を根拠に言うのかな?」
「解らないけど、お姉ちゃん悪い人じゃないもん!」
「緑猫ちゃんは疑うことも覚えようね。でもいいよ、途中までね」
その一つ一つのしぐさがやはり不思議だった。振り返り、歩き始める瞬間。踏みしめる落ち葉の音が自分より小さい。歩くたびにエネコがむずむずするのか落ち着かない様子で走り回る。
「あの、おねえちゃん」
「疲れたのかな?」
「ううん、あのね、白いぼうし、なかった?」
「ぼうし?見てないよ。探してるの?」
「ずっと探してるんだけど、見つからないの。大切なものなのに」
「大切なものはね、手放しちゃだめよ」
「うん……」
「どこで無くしたのかな?」
「それが解らなくて。気付いたらなかったの。でも昨日、ウバメの森にブリーの実を取りに来たからその時しか考えられなくて。どうしよう、明日のために買ってもらったのに」
「明日?どこかへ行くの?」
少しだけ、その質問に食いついてきた。けれどこの不思議な人が今さら何をしようが気になるわけもない。
「行くよ!明日は学校でラジオ塔の見学に行くんだ!展望台まで行くんだよ。いつもは帽子の代わりにバンダナだけど、せっかく行くからって私のお姉ちゃんに買ってもらったんだ!」
少し調子を狂わされた。そのまま無言で歩いて行ってしまったから。少し速度を早めたその人に、おいてかれまいと走る。
突如、歩みを止める。その少し後ろで立ち止まった。
「緑猫ちゃん、明日は絶対に学校お休みしちゃいなよ」
突然のことで、言葉が出ない。楽しみにしていたことなのに、休めと言われて。
「ね?」
「明日は楽しみにしてたから、行かなきゃ。友達も楽しみにしてるから」
「そうかあ。でもね、本当明日はラジオ塔は見学するところじゃないんだよ。お家に帰ったら、明日は休んだ方がいいよ」
「なんでそんなこと言うの?」
「なんでかなあ、緑猫ちゃんだから話したくなっちゃったのかもね。ほら、ついたよウバメの森の道」
薄暗いけれど見える。森の神様を奉っているほこらがあって、遠くには低い柵のある池も見えて。
「ありがとう!おねえちゃんのおかげで……おねえちゃん?」
振り返ってもそこには何もなかった。淡く光る綺麗な人。薄暗いウバメの森ではすぐに見えるはずなのに、何も見えなかった。
「エネコ知らない?」
エネコは遠くを見つめていた。主人に呼ばれていることを知ると、エネコはすぐに返事をして寄ってきた。何かを持って。
「何拾ったの?みせてー!」
エネコが持っていたのは小さなつぶつぶ。よく見えないけれど、石ではなさそう。
「何かの、タネかなあ?どこで拾ったの?」
この辺りでみないタネ。家に帰ったら植えてみようと、ウバメの森を後にした。エネコもついていく。一回だけ、森の方を振り向くと、短い声で鳴く。そしてやたらと速い主人の後を追いかけた。
あのお姉ちゃんは森の神様の使いだったのかな。
その次の日、ラジオ塔が爆破された事件が、朝からニュースでやっていた。そのおかげで見学は中止。先生たちは何も被害がないうちで良かったといっていた。クラスの友達も中止になって残念そうだった。
けれど、あのお姉ちゃんの言う通りじゃなかったら、どうなっていたのだろう。私には全く解らない。
あれ以来、私を緑猫と呼ぶお姉ちゃんには会わなかった。ウバメの森で待っていても、ヒワダタウンに行っても。不思議な綺麗な女の人を、トレーナーは誰一人見ていないといった。
そうそう、あの時エネコが持っていたタネを植えてみた。庭は狭いからほんの隅っこだけど、花が咲いたんだ。図鑑で調べたその花。
ホウセンカ
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ゴーヤロック信者が、一生懸命ご神体を彫った結果のようです。
【ごめんなさい】【石を投げないでください】【食べないでください】【お好きにどうぞ】
目を開けた。朝日が入って来ている。堅いソファの上。あちこちが痛い体を起こし、ユウキは軽くあくびをする。もう何日も研究室にこもりきり。風呂に入る余裕などなく、自分でも体臭が解る。べとつく髪をかきあげ、昨日から行なっている実験の観察にかかる。
大学院。ポケモンのことを詳しく研究するために進学した。しかし学部生だった時の予想通り、時間がない。身分は学生だというのに、家に帰れない。今は就職活動もしなければいけない時期。だがユウキを救ってくれたのは昔のツテ。デボンコーポレーションという大きな会社にすでに決まっている。同じ研究室の同級生は彼をうらやましがり、裏ではコネをつかわないと入れないような小物とバカにしている。そして、その自分ではどうにもならない恨みを、ユウキ一人に実験を押し付けることで晴らしていた。
教授も感知していない。あるのは、便利に動く院生のユウキ、というくらい。一流企業に就職が決まっていることを誇らしく思ってくれていることだけが幸い。そうして同級生と距離がどんどん出来ていてー
実験が終わった。結果をメモしたレポートをメモリに移し替え、鞄に入れる。何日分かのゴミをまとめ、研究室にカギをかけると、やっと家路につく。
昔はポケモンが好きだった。どんどん知識が増えて行くのが楽しかった。けれど今では、ポケモンの知識が増えていくごとに苦痛が伴ってくる。なぜこんな自分の生活を犠牲にしてもやらなければならないのか。就職活動という名目でなぜ代わりに実験を一人で請け負わないといけないのか。
外に出ると、やわらかな春の風がユウキをなでる。もういつの間にか春一番が吹き、道路脇では小さな青い花が咲いている。もうすぐ桜の季節だ。昔から好きだった。次々と芽吹いてくる植物と、冬眠から覚めてくるポケモンたち。春を喜ぶように、いろんなものと出会えるから。ああ、少し寄り道していこうか、こんな春風の中、公園で寝ていくのも悪くない。道の途中にある河川敷の公園にユウキは立ち寄った。そして木陰のベンチに座ると、今までの疲れか、そのまま眠ってしまっていた。
かさりと音がする。その音にユウキは目を開ける。そして目の前の人物は起こしちゃったね、と笑っていた。ユウキは寝ぼけているのかと目をこする。まぎれもなく本物だ。もう子供ではなく、大人の女の人。けれど面影だけは変わらない。子供の頃に一緒にホウエン地方を駆け回っていたハルカだった。
「久しぶり! 元気してた?」
「ハルカ!? ハルカだ!」
思わぬ再開に、研究室での嫌な気分は吹き飛んでしまった。ハルカもユウキと会えたことが嬉しそう。そして実験がいいタイミングで終わったことに感謝する。
「今、大学の近くで一人暮らししてんだ。散らかってるけど寄っていきなよ」
「すごーい! ユウキって家事できなそうなのに」
「ほっとけ」
家までは後少し。それにしてもハルカはこの体臭なんとも思わないのか。ユウキは不安になってきた。こんなことならば、体を拭くくらいすればよかった。後悔しても遅い。玄関のカギを開けると、何日かぶりの自宅に入る。
ハルカにお茶と適当なお菓子を出し、まず体を洗う。濡れてない風呂場が、どんどん湯気にそまっていく。久しぶりの水が伝わる感触は何とも言えず気持ちがいい。研究室にもシャワーくらいあればいいのだが、そんな施設はない。そもそも、研究室に泊まること事態が、学校側の許可が下りていないのだ。
急いで着替え、今まできていたものは、全部洗濯機に放り込む。そしてバスタオルで髪を拭きながらハルカの前に出て行く。
「はやいね。ちゃんと乾かさないと」
座ってるユウキのバスタオルを取ると、その手で優しく頭を拭く。一緒にフエンタウンの温泉に行った時もこうしてもらっていた。そしてあの時は……
「背伸びたね」
ハルカも覚えてるのだろうか。まだ子供で、どうしていいか解らなかったあの感情。そして今、それが蘇ったようにユウキの心臓は鳴った。そのまま離ればなれになって、数年が経ったけれども。ハルカはバスタオルを取った。
「はい、終わり」
バスタオルをベランダにかけていた。そこまでしなくてもいいのに。戻ってきたハルカは気にするなとしかいわない。久しぶりに会って、ハルカもぎこちないような感じがあったのかもしれない。
「ハルカ、ちょっといい?」
手招きして自分の隣に引き寄せる。ハルカのいい香りが近づく。
「どうしたの?」
聞くまでもなかった。肩を抱き、懐に寄せる。慌てるハルカに、ユウキは冷静に言った。
「ハルカ、覚えてる? 俺はあの時、ハルカが好きだった」
「え、そ、そんな昔のこと……」
「でも言えなかった。だから、今からでもいい。俺と……」
ハルカは答えを言わなかった。そのかわり、ユウキの唇はやわらかいもので閉ざされる。長い歳月を超えた二人の想いが、そこにあった。ユウキの手に力が入る。ハルカを離さないように。
「私も好きだよ、ユウキ」
今度こそは間違いないように。気づかないフリをしないように。再び唇を重ねて、誓った。
オダマキのやつ、彼女できたらしいぞ
デボンだし、まじリア充だよな
いいじゃねえか、あいつに全部任しておけばよ
来たぞ、黙ってろ
ユウキがホールに入る。今日は研究の発表の日。実験を代わりにやって、データをとって集計してやった同級生たちも発表する。自分の研究よりも時間がかかったやつもいた。ユウキは進行役。教授のお気に入りだから仕方ない。
「それでは、研究発表を始めます。わたくしは司会、進行のオダマキ ユウキと申します。さて、発表してもらう前に、冊子をごらんください」
聴衆が配られた冊子をめくる。何か訂正かと文字に釘付けだ。
「この中に、いくつか間違ったものがあるのですが、それは各人で発表していただきます。各人が解れば、の話ですけど」
人任せにしておいた分、隅々に目を通してるはずだ。そうでなければ、間違いを即座に訂正し、恥をかかせてやる。ユウキのただならぬ目つきに、同級生はうろたえた。まさかまじめなユウキが偽のデータを渡すわけはないとたかをくくっていたからだ。
「では、順番通りに始めたいと思います」
どこでユウキが訂正を入れるかなんて予想ができない。発表の順番が早く終われとみな願っていた。
発表も終わり、テーブルや片付けをしている。担当教授からは、人のことまで解る素晴らしい院生だとユウキをほめたたえた。恥をかかされた院生たちは、気まずそうにしている。彼らをみて、なぜ院生で就職が決まらないかが少し解った気がした。そして自分がコネだけでなんとかなったわけでもないことに。
「自分のことも自分で出来ないなんて、大人としてやっていけませんからね、俺はまじめにしますよ」
思わずハルカに話した、学校での現状。それを聞いたハルカが泣き出してしまったのには驚いた。そして今の自分をやっと解ってくれる人に会えたのと、つられたのでユウキも泣き出す。涙が止まらないのに、ハルカを泣かせてしまったことを悔やんだ。二度と泣かせないよう、この現状を変えてやる。
ユウキの決意は、ただならぬものだった。時にはデータをかえ、計算を一つ間違ってやったり、学部生との交流の際には、あちらの方が詳しいと自分に来ないようにしたり。それを面倒見のいい相談役だと思っていたのだから。今まで人にばかりやらせていた罰だと、心の中で思った。
それから1年が過ぎた。卒業式の日で就職が決まっていたのは10人中4人。他にもいたのだけれど、あの発表の事件から学校をやめてしまったのが何人かいて、卒業する頃にはここまで減った。
「じゃあ、連絡するから」
就職してから住むところも決めていた。すでに移り住み、ユウキは家で待ってくれるハルカに伝える。わかったとハルカは言った。
「研究室だもんね、最後の集まり?」
「最後じゃないだろうけど、なんとか解ってくれた貴重なやつらだよ」
あれから改心してまじめにやるようになった。そのおかげで、ユウキは何日も家に帰らないことなどない。毎日布団で寝て、ご飯も食べて。こんな当たり前のことが出来なかったのが不思議なくらい。
ユウキは家を出る。式典と、かつての仲間に会うために。そして一つ、小さな箱を持って。見送ってくれるハルカに手を振った。
「ハルカ!」
「どうしたの!?」
「ありがとう!」
大学院の生活を変えてくれた人。愛しい人。愛すべき人。気づかなかったなんてもう言いたく無い。大切にしよう、これからも。ずっと。
卒業式は学部生も院生も一緒だった。まだ若い学部生のノリというのが懐かしい。そんなに年をとったわけじゃないけれど、傍目でみるととても若いのだ。サークルでは胴上げしたり、騒いだり。昔はああだったなと、卒業証書を手に急ぐ。研究室のやつらはもう二度と会わないかもしれない。
「オダマキ、これからどこか行かないか?」
研究室の同級生が集まっていた。最後かもしれないけれど、ユウキは断る。問いただそうとする彼らより先に、ユウキは口を開く。
「待ってるやつがいるんだよ」
後ろからはリア充リア充とはやし立てる声がする。それは陰湿な言い方ではなく、むしろ祝福に近い言葉。ユウキは渡すものを確認すると、約束の場所へと行く。
春の冷たい風が吹く。けれど植物は黄緑色の新芽を出し始めていた。ホウエンの田舎町、ミシロタウン。ユウキの実家がここにある。卒業式のこの日、実家で騒ごうということになっていた。もちろん、ハルカも一緒に。
「卒業おめでとう。オダマキ博士Jr.だね」
ハルカはそう言って大きな花束をくれた。父親はこれが世代交代というものか、と少し寂しそうだった。そんな父親を吹き飛ばすように、パーティは始まる。
「父さん、母さん」
乾杯の前に、ユウキは改まって止めた。どうした、と両親はユウキを見る。
「俺が今日ここにハルカを呼んだのは、もう決めたんだ。結婚するって」
ハルカは聞いてないという顔をしている。それもそのはず。渡すはずのものは、まだユウキの手の中。驚く両親を前に、ユウキはそれを渡す。銀色の婚約指輪。ハルカが寝てる間にサイズを計ったり、それはそれは意外なところで努力をして手に入れたもの。
「ありがとう、ユウキ」
ハルカの左手の薬指にぴったりとはまる。どんな美しい宝石よりも輝いて見えた。
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チャットでの恋愛もののことで、書き始めたら予定と違うものができあがりましたすみません。
予定のものは全く進んでおりません
ので、忘れてないよという意味もこめて。
【すきにしてください】【このリア充め】【ホウエン組ばかりうんざり?いいじゃねえか愛してる】
【一】
人間ってえのはえてしてポケモンの邪魔にしかならねえ。あいつらは俺達をふるさとから強引に引っぺがし、わけのわかんねえ球にぶち込んで連れ去っちまう。そんでもってひたすらこき使ってあっちこっち連れ回すってんだからそら邪魔でしかねえだろう。ふざけんじゃねえってんだこんにゃろう。
というのもよ、いつもこの辺の森に餌を取りに来るもんで仲良くなったヤミカラスってえのが最近来なくなったもんだから、どうしたもんかと同じ場所に住んでいるピカチュウっていうのに聞いてみると、人間に捕まったってえ話じゃねえか。正直言うと、俺は恐い。その突然襲いかかってくる人間ってえのがもの凄く恐い。ああああ情けねえ。あんなひょろっこい人間をびびるなんて情けねえ。けどよ、あいつらの連れて歩くポケモンってえのがめっぽう強い。そらあもう闘うお人形のように、人間達の言う事を聞いて攻撃してくんだ。というと恐いのは人間じゃなくてポケモンだろう? なんてことを言われるかもしれねえが、それは違う。そのめっぽう強いポケモンに命令できる人間の力ってえのが、きっと一番おっそろしい。歯向かえば絶対に倒せるのに、あのめっぽう強いポケモン共は、人間を攻撃しやがらねえ。それどころかはいほいと言うことを聞いて、俺達をぼかすかと攻撃してきやがる。こりゃあ一体どういうこった。
「あ、ケーシイいた!」
そんな風にボンヤリ考えながら森の中をブラブラしていると、俺の前にのこのこと現れやがった奴がいた。黒い短髪頭のそのガキは、俺を見つけたことにあたふたしながらも、腰についたあのいまいましい球を俺の前に投げやがる。
「お願い、スリープ!」
中から出てきたのは、何考えてんだかよくわかんねえ、鼻のなげえ二足歩行のエスパーポケモン。っへ。俺の敵じゃないさ。今まで幾度となく人間に攻められながら、一度たりとも捕まってねえどころか、一度たりとも攻撃を受けていない。そんな俺を捕まえようなんざ百年はええ。なんたって俺には、伝家の宝刀テレポートっちゅう技がある。それがある限り、一生人間なんかに捕まるわけがねえ。はは、残念だったな。この間抜けそうなスリープは捕まえられても、この俺は捕まえられないぜ!
「ようし、スリープ! 金縛りだ!」
ん? んん? あれれ? や、やべえやべえ、テレポートが出来ねえよ。ああ、やべえやべえ。逃げられないんじゃ俺には勝ち目なんてねえ。実を言うと、生まれてこの方バトルなんてほとんどしてねえ。誰かと喋ってるか、寝てるか、飯食ってるかだけだ。だから、本当は連戦無敗なだけであって、連戦連勝なわけじゃねえ。
「今度ははたくだよ!」
スリープは、またも人間の言いなりになってとことこ向かってきやがる。でもやべえ、俺ったら逃げられねえ。おたおたしているうちに、そのまま俺はスリープにはたかれる。ああ、いってえ。こんにゃろ、思いっきりやりやがって。
「おいおいおい! いてえじゃねえか!」
「そらあバトルなんだから当たり前ですわ」
……なんだよ、その語尾。
「なんだっててめえは俺を殴ってきやがる。何か恨みでもあんのかい!」
「恨みなんかないですわ。ただ、うちのご主人がそう命令するんで」
「あんなのに従っていて楽しいか? 俺にゃあまったくわかんねえ」
「じゃあ、あんたもどうだい? 同じような力を持つ者同士一緒に旅をするっていうのも中々いいんでないかい? 外に出りゃ楽しいし、楽しい理由がわかるってもんですわ。それに、こんな森ん中にずっといるんじゃ、頭がくさっちまいますわ」
「スリープ! もう一度はたくだよ!」
「俺はこの森が好きでここにいるんでえ。お前らなんかと一緒にいけ、ぶぁ! お前こんにゃろ、話し合ってる途中なんだから叩くんじゃねえやい! 舌かんじまっただろ!」
「いやあ、ご主人からの指示だったもんで。ほんで、なんだっけ? 嫌だって話だっけ? なら、一度一緒に来てみっといいですわ。うちの主人は、他の人間とはちっと違うんですわ」
「どこが違うんでえ! あのいまいましいボールをこっちに投げて無理やり押し込むだけだろう!」
「ほう、あんたはあれが気に入らんのかい。じゃあ、ちょっと待ってな」
何か妙なことを言い出したスリープは、俺に背を向けボウズの方へ何か身振り手振りバタバタし出した。自分のポケモンが何やってんだかまったくわかんねえ様子のボウズだったが、スリープがモンスターボールを指差すとどうやら気付いたらしく、それを手にとって「これ?」なんて言いだしやがる。こいつ、本当に俺を捕まえる気があるのか。
「え? モンスターボールはだめってこと?」
スリープは何度も首を縦に振り、再び俺の方へ振り返る。へへ、と得意げな顔をしてその間抜け面をこっちに向けやがった。
「ほうら、後はあんた次第だ。一度旅っつうのを経験してみるのもいい。気に入らなかったら勝手に逃げちまえばいいさ。どうだ? 来るかい?」
森は好きだ。生まれた場所だから好きだ。当たり前だ。ただ、俺にだって外の世界がどうなってんのかくらい、見てみてえ気持ちも少しはある。少しだ。ほんの少し。だからって一人で行くのは危ねえし、人間に従うってえのも癪だし、あのボールも嫌だ。
「うちの主人、前からあんたのこと気に入っていて、一緒に旅がしたいってうるせえんだ。ここはこっちの顔を立てると思って、一つ乗ってみないかい? 気にらなかったら逃げていいし、逃げるんだったら協力しますわ。それに、あんたにとったら外は未開の地だろう? ぼくらと一緒にそこを探検するっていうのも悪くない話かもしれんですわ」
へ。間抜け面しやがって、中々口は達者でやがる。この俺の心を揺り動かすたあなかなかやるじゃあねえか。ちっとボウズの方を見てみると、目をキラキラさせてこっちを見ていやがる。ボールはもう腰にしまっちまって、それを投げてくる様子もねえ。人間は嫌いだ。ついていくポケモンだって嫌いだ。俺はこの森が好きだ。ここにいる奴らが好きだ。りんごが好きだ。でも。
「し、しっかたねえ、このケーシィが、ちっとだけ、ちっとだけお前のそのまったく面白そうでもなんでもねえ提案に乗ってやろうじゃねえか!」
スリープは、不気味に笑みを浮かべながらボウズの方に二人で向かい合うように並んできて、俺の肩に手を回してくる。なんでえ、気持ち悪い。
「まあ、よろしく頼ますわ」
「ちっとだけだぞ、ちっとだ」
俺とスリープとのやり取りをわかっていないながらも、それを了承と理解したらしいボウズが、すぐさま走ってきて俺を抱き上げやがった。ぐお、苦しい。この、こうなったらテレポート! って、そうだ、金縛りがまだ効いてる……。
「うわあ、かわいい! よろしくね、ケーシィ!」
人間のくせに、なんてえ奴だ。痛くない抱擁なんかしやがって。まったく、わけのわかんねえ奴らだ。
【二】
俺はこの世界の中の砂粒のほどの存在、いてもいなくてもそれほど変わらない小さなものだってえことに気付いたのは、ぐるぐるといろんな場所を旅した後たどり着いた、とんでもねえ数の人間がうじゃうじゃしてやがる、ポケモンリーグセキエイ大会でのことだった。人間達がポケモンを戦わせ始め、やれハイドロポンプだの雷だのとんでもねえ技を繰り出しながら喧嘩を始める。人間の言いなりになっているだけのくせして、誰も彼もが俺より強い。なんだってあいつらはあんなに強いんだ。
「いやあ、強いねえどっちも。あんたはどっちが勝つと思う?」
俺がボウズの膝の上で我慢してやっているというのに、のうのうと席一つ分を使って座るスリープは、その野太い声でたずねてきた。
「知らねえやい。俺には全く興味がねえ」
「これ決勝ですぜ。見なきゃそんですわ。この試合が、最高のポケモンと人間を決めるっていうのに」
「この世界の頂点の人間だろう。あのポケモンはお人形だ」
「はあ、でもきっとあの連中はトレーナーについていきたくてついて行ってるんでしょうよ。じゃなきゃあそこまで強くなれませんわ」
いんや。と、俺が反論してみると、スリープの興味はすでに再び動きだしたバトルへと移っていた。こんにゃろう、相変わらずマイペースな奴だ。
バトルを見てみっと、カメックスというでっけえ亀がちっこい電気野朗のピカチュウにやられ、交代するところだった。やっぱり興味ねえやい、と居眠りでも始めようとすると、カメックスを出していた方、元世界の頂点、そして次期トキワシティジムリーダー候補らしいグリーンとやらが、フーディンを出しやがった。その姿は、俺がいつかそうなるかもしれねえ姿だ。
「あんたもやっぱりトップレベルの同属とあれば、見ずにはいられんでしょう」
スリープの声を無視した。俺はあのもの凄く厳かな、誰が何をしても動かないような、どっしりと直立した姿に目を奪われていた。
強いだろうな。
俺がそう思った瞬間、奴はまったく目に追えない速度で移動し、ピカチュウの目の前まで迫りやがる。そのまま一瞬の動作でピカチュウをスプーンで殴り飛ばし、宙に浮いたそいつはそのまま静止した。あれは、サイコキネシスだ。俺がずっと小さいとき、おやじ(フーディン)が俺を人間から守るときに使っていた技で、初めてみたときそれは驚いた。自分も似たような力を使えるってえのに、そのあまりの力の差を不思議に思った。きっと、あのレベルのサイコキネシスに捕まっちまうと、指一本も動かねえだろう。その通り、ピカチュウは先ほどのあのカメックスとのバトルの消耗もあってか、体をピクリとも動かせないままさらに宙に放られ、そのまま地面に落下させられる。あの勢いで受身もとれず落下したとなればもう無理だ。フーディンはサイコキネシスを解くが、やはりピカチュウは動けなかった。
「わあっ、あのフーディン強い!」
「おほっ。すんげえ力だ」
ボウズとスリープが感嘆の声を上げていた。無理もないぜこりゃ。くそ。なんだって人間に従っているだけのくせしてあんなに強いんだ。
「……むかつく。なんで、あんなに強いんだ」
思わずボソっと漏れた俺の言葉を聞いていたのか、スリープがニヤっと笑った。こいつ後でシメる。
「ケーシイもあんな風になれたら格好いいね!」
「…………」
なんだかしらんがチクっとした。
その夜、興奮気味なボウズと、ケツいたいですわあの椅子かたいですわと呟くスリープと、トキワポケモンセンターの宿舎へ戻ってきた。夜寝るときはモンスターボールの中がいいんですわ、とスリープは自分からあの狭っくるしそうなボールの中に入っていき、俺はいつも通りベッドの上、ボウズの横で寝ることとなる。しかしいつも通りには眠れねえ。くそ。何か今日はむしゃくしゃする。どうしたってんだこの野朗。スリープに言われた言葉やボウズに言われた言葉が妙に頭にはっついて離れない。なんだよ。俺が間違っているっていうのか? お人形じゃなくて、本当にあいつらはあのトレーナーにくっついてるっていうのか? ああ、むかつく。むかつく。こんなこと、あの森にいたときにはなかった。だらしなくいつも寝てやがるピカチュウや、ピタピタと地面に絵を書くことが好きなドーブル。えさをとりに来てはやれあそこのニドランがあっちのニドランとくっついたとか、そんなくだらないことを喋ってやがったヤミカラス。ああ、森が懐かしい。帰りてえ、そろそろ帰りてえ。
「んん、むにゃ」
めちゃくちゃ気持ち良さそうに眠っている坊主を見て、俺はむくりと起き上がる。
「……ちょっと散歩してくるだけでえ」
その顔から目を背け、俺はテレポートした。
【三】
夜の町をふわふわと浮かんでいると、ジムやトレーナーハウスといった、強い奴らが集まるらしい建物が見える。ぼんやりそれらを何も考えずに見ていると、トキワシティには凄く強いトレーナーがたくさんいるんだって! といつかボウズが言っていたのを思い出した。……俺もあんなところに入って頑張ってみれば、なんてことが一瞬だけ頭がよぎっちまって、ぶるぶると顔を横に振ってそれをかき消す。俺はバトルなんて嫌いだ。それに、あのボウズもスリープも、申し訳程度にしかバトルなんてやったことがねえ。あいつらは本当にただ世界を見て周ることが目的らしく、ジムにだって入ったことがなければなるったけバトルは断ってきた。それを馬鹿した奴もいた。笑った奴もいた。それはいいねと言った奴もいた。頑張れよと言った奴もいた。いろんな人間が、いた。俺が思った以上に人間っていうのはいろんな種類がいて、俺の思った以上にいろんなポケモンもいた。タマムシシティにゃ、イーブイとかいう巷じゃ人気らしいが、やたらと性格の悪いポケモンがいた。サイクリングロード(自転車とやらは貸し出しだった)に入ろうとしたところにでーんと寝ていたカビゴン。ありゃあ、すげえ。今まで見た中じゃ一番でかいポケモンだった。セキチクシティのサファリパークで見たウツボットの群れに近づいちまったときは、死ぬかと思った。ああ、そういやあそこには歯のない人間もいたな。
「……なんだ。俺、何考えてんだ」
とんでもねえことを考えている気がして、俺は戻ることにした。
【四】
「おや、ケーシイさんじゃないですか。こんなところで会うなんて、こりゃ驚きました」
テレポートを使わずだらだら飛んでセンターへ戻ろうとしていると、突然横から声をかけられた。
「……お? お前、ヤミカラスか?」
「ええ、そうです、ヤミカラスですよ。覚えていますか? 久しぶりですねえ。ああ、懐かしい。あの森でよく喋りましたよねえ」
「本当久しぶりだなあ。お前、今何やってるんだ?」
そういやこいつも人間についていったんだった。つーことはこいつ、バトルやって、ジム行って、もしかして、そうとう強いのか。うわっ、森にいたときはただの軟弱やろうだったのにそれはむかつく。でも、懐かしい。久しぶりに森の仲間に会えてうれしい。森での生活を思い出す。ああ、もの凄くのんびりしてたよなあ。
「私ですか? 私はあのクズトレーナーに捨てられたんで、森に戻ろうかと思ってるんです」
「……捨てられたあ?」
思わず、素っ頓狂な声を出しちまった。ヤミカラスの言葉は、俺の頭ん中を驚き一色に染めあげるには十分だった。
「私のような弱くて格好悪いポケモンは、いらないそうですよ。最初しぶいとか言われて気に入られたのをいいことに、調子に乗った私も悪いんですけどねえ。ニューラとかいうやたらキザな野朗を仲間にしてから、私なんてもうクズ扱いですよ。でもだからってすぐ抜けては癪なんで、私も嫌嫌ここまでついてきたんですけど、とうとうお払い箱になっちゃいました。ああ、本当人間ってクズですよねえ。こんなに連れまわしておいて、お前は弱いからいらないだって。ああ、本当にゴミ。ありゃあ世界のゴミですよ……」
ヤミカラスは最後はもう、顔をしかめながらゴニョゴニョと恨み言を呟いていた。
「……後悔は?」
「なんのですか? ……ああ、ついていったことにですか? しているに決まってるじゃないですか。バトルばかりさせられて、あちこち連れまわされて、まあ無駄に力はつきましたが、それだけですよ」
「……そうか」
ヤミカラスのトレーナと、ボウズを重ねる。そんなことを考えたとき、俺は自分に驚いた。不思議と、きっと怒ったり恨んだりしねえなあ、と思った。いや、むしろ――。
「ねえケーシイさん。あなたもトレーナーに捕まってここまで来たんでしょう? だったら、この辺でそんなのやめにして森へ帰りましょうよ。どうせ人間なんて私らのことをバトルの道具としか思ってませんって。ちょっと好みが変わったり強いのが手に入ると、途端に態度が変わるんですから」
人間はクズ。ヤミカラスの言葉が、俺の頭をつんざくように刺さってきた。ボウズと旅した記憶が、切り取られた絵のように頭にたくさん浮かんだ。ボウズは笑っていた。いつでも楽しそうに、笑っていやがった。スリープもそんなボウズを見るのが好きらしく、ニヤっと間抜け面を歪めて笑っていた。……じゃあ、俺は? 俺は? ――俺は?
「何ぼうっとしてるんですか。もしかして、人間についていくなんて言うんじゃないでしょうね。あんなのについていっても損するだけですって。ケーシイさん、いつもそう言っていたじゃないですか」
「あ、ああ。わかってる」
「うーん、じゃあ明日の昼、朝は眠いんで昼です。北の森の前で待ってますから、来てくださいね。……ああ、ケーシイさんと話していたら、早く戻りたくなっちゃいましたよ」
そう言って、ヤミカラスはパタパタと去っていった。今日は、トキワの森の木にでもとまって眠るつもりだろう。
「明日、ねえ」
小さくなっていくヤミカラスを見ていると、考えるのが億劫だった。
【五】
翌日。太陽の光を浴びながら、一睡もできなかったようなダルさを覚える体を起こす。ボウズは、すうすうと寝息を立てて眠っている。スリープも、多分起きない。それが何故かとても残念なことのように感じる。……だめだだめだ。俺はもう、帰るんだから。
「じゃあなボウズ。ついでに、スリープも」
ボウズの顔をもう一度見ておこうと思ったが、それをやってはいけない気がして、それをやったら何かがどうにかなる気がして、俺はすぐテレポートした。
俺のテレポート範囲なんてたかが知れている。案の定森まで一気に移ることは出来ず、森から大分離れたところに移り、そのままふわふわと浮かんで森へと移動する。だんだんと、森が鮮明になってくる。森への入り口となる木の上に立つ、ヤミカラスが見える。ああ、俺は帰るのか。なんとなく躊躇する自分がいる。このまま、このまま行っていいのか? 結構な期間、俺をひたすら仲間だと信じたあいつらと一緒に旅をしてきたその終わりが、これでいいのか? なあ、おい。俺。どうなんだよ。そんなんでいいわけ? あいつら、クズだったか? 外の世界の探検は、つまらなかったか? 足りなくはないのか?
「あ」
もう、森に着いてしまった。ヤミカラスは、まだ木の上で眠っていた。あいつらが寝ているうちに飛び出してくるのはいいが、くそ、昼までは少し時間がありすぎる。
「……仕方ねえ。こいつ元々夜行性だし、今は寝かしておいてやるか」
【六】
「あんな馬鹿な奴らの顔を一生拝まないで済むなんて、本当せいせいしますよね」
ヤミカラスが起きるのを待とうと木に寄りかかっているといつの間にか寝てしまったらしく、昼近くになって起きだしたヤミカラスが俺を起こしにきた。なんだかやたら元気に、嬉しそうにしていた。
「……一生会えない、か」
「なにぼそぼそ言ってるんですか。さ、行きましょう」
「ああ」
ヤミカラスはぱたぱたと空へ羽ばたき、俺も一緒に浮かび上がる。
「ああ、本当楽しみだ。皆、僕らのこと覚えてますかねえ」
ヤミカラスの後ろについていきながら、ちらっと後ろをふり向くと、トキワシティがどんどん遠くなっていく。
おい俺。どうなんだよ俺。探検は、つまらなかったか? ディグダの穴、面白かっただろう? ポケモンタワー、恐かっただろう? ヤマブキシティ、凄かっただろう? リニアモーなんとかってやつ、乗りたいだろう? まだ行ってないところがたくさんあるよなあ。まだ面白いポケモンがきっといるよなあ。あいつらと一緒に、まだ、旅したいよなあ。今まで旅をしてきて、楽しかったよなあ。あいつらのこと、好きだよなあ。なあ、俺。どうなんだよ。
「……ケーシイさん?」
突然止まった俺に気付いて振り返ったヤミカラスは、怪訝そうにこっちを見た。
「何、やってんですか? 早く行きましょうよ」
「…… なあ、ヤミカラス。知ってるか? この世界にゃさ、いろんな人間がいて、いろんなポケモンがいる。中にはクズみてえな奴もいるし、とびっきり楽しい奴だっているんだ。いつも間抜け面してるくせに変なところ鋭い奴や、いつもにこにこしてて世界を探検するのが大好きな奴とか。そいつら、本当に本気で俺のこと信用してやがってよ、隣にいる俺がなぜかいっつも悪者みてえなんだ。その間抜けの奴なんか、最初の条件なんかぜってえ忘れてるぜ」
「へ? 何、言ってるんですか?」
「悪い。俺、森は好きだけど、あいつらのことも好きだ」
まだ、探検したりねえよ。まだ見てないことばっかりだ。なあ、俺。
「なに言ってんですかケーシイさん! そんなのやめたほうがいいですって! 無駄ですって!」
「無駄じゃねえよ。楽しいぜ、探検。森以外に、こんな楽しい場所があるなんて、俺、知らなかったもんな。俺にとっちゃ、この世界はまだまだ未開の地ばかりだ。まだまだ足らねえよ」
「な、なにを……なにを馬鹿なこと言ってんですか!」
「馬鹿か。俺も、昔はこんなことする奴は馬鹿だと思ってたけど、でもさあ、馬鹿でいいじゃん。馬鹿、楽しいぜ」
「なっ!」
「悪いヤミカラス。先、戻っててくれよ」
わーわーと反論するヤミカラスに背を向け、俺は、すぐにテレポートをした。体が軽い。ああ、俺のくせして、なんてざまだ。あんな奴らが大好きなんて、本当、どうかしてるぜ。
【七】
人間ってえのはえてしてポケモンの邪魔にしかならねえ。修正。人間ってえのはポケモンの邪魔にも人間自身の邪魔にもなる。そう確信したのはいつごろだったか、もう、大分前だったように思える。でも、それを再確認したのは、たった今だった。俺が急いでトキワへ戻るとすでにポケモンセンターにはおらず、一体どこに行ったかと思えば、そのまま次の目的地のマサラへ向かおうと南下していた。南下していて、柄の悪い頭がおっ立ったトレーナーに絡まれていた。セキエイ大会一回戦でグリーンとかいうあのアホみたいに強い奴に負けたことにまだむしゃくしゃしていて、ボウズで憂さ晴らしなんつうアホな真似をするつもりらしく、そんな様子を上空から見ていた俺は、バトルなんかからっきしなくせして、迷わずボウズの盾になるスリープの隣に突っ込んだ。迷うはずがなかった。
「あ、ケ、ケーシイ! どこ行ってたんだよ! 探したんだぞ!」
震えた声で騒ぐボウズにすまんと一鳴き入れ、俺はすぐさまスリープの横に並び、へらへらと笑いながらモンスターボールを構えるトレーナーとにらみ合う。ああ、俺達、もうちょっと強くなったほうがいいよなあ。旅とか探検っつっても、ボウズを守れなきゃ話になんねえ。洞窟とか山でいつもいつも逃げてるばかりじゃまずいよなあ。こりゃあやっぱり、あのグリーンとかいう奴のとこ乗り込んでみた方がいいかもなあ。
「お、もういいんかい? ヤミカラスとのお話は済んだんかい?」
俺が戻って来たのがまるで当たりめえかのように、スリープは俺の方を一つも見ずに喋りだした。
「……なんだよ、おめえ、知ってたのかよ」
「ぼかぁ、ゆめくいが使えるんですわ」
「……朝やたら体が重かったのって、もしかして寝不足じゃなくておめえのせいか」
「へっへへ。まあ、硬いこといいっこなしですぜ。今は、こいつをどうにかしないと」
そういえば、いつの間にかこいつの変な語尾も気にならなくなってる。
「一つだけ、提案してやる。俺をもう一度入れてくれるってなら、俺がこの場をどうにかしてもいい」
俺のその提案に、くつくつとスリープは笑った。いつも通りの展開。俺達の自然体。探検仲間の自然体。ああ、いい。こいつら、やっぱり好きだ。
スリープは、今度はちゃんとこっちをふり向いて、口を開く。
「ま、一つよろしく頼んますわ。いつもの通り、やって頂戴」
「がってんしょうち!」
相手はライチュウ。どうひっくり返っても勝てっこねえ。というわけで、いつもの通りやってやらあ!
選択肢は、未だ一つ。スリープの手をとり後ろへ逃走。そのままボウズの手をとって、あらよと発動伝家の宝刀テレポート!
[了]
【何をしてもいいのよ】
いきなり湧くヤツ
どうも初めましてです。
深夜徘徊魔です(爆)
兎に角情景が頭に引っ切り無しに思い浮かんで、とても楽しかったですー(笑)
普段主人公が何気無しに行ってる『波乗り』ですが、大勢の一般のトレーナー達がやってる光景を想像すると、確かに面白いですね。
長編のページでCoCoさんがお書きになっている、『一般流通が無くて弟子入りが必要』と言う設定も好きですが、こう言う風に一般人が使用している風景も、それぞれの個性が出てきて捨て難い風物詩。 ・・・難しい所だなぁ(苦笑)
通り道を横から覗いている、と言うシチュエーションが、なかなか臨場感を伴っていていい感じでした。
こんな感じの短編を拝見させて頂いてると、個人的にまた色々頭の中に刺激が入ってありがたいです(笑)
・・個人的に、『カツノリちゃん』なる人物がパッと頭の中に出てこず、ちょっと気になるかも知れぬ・・・(爆)
では・・失礼致しました。
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