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  •   [No.2473] 【ポケライフ】ちいさくなる 投稿者:aotoki   投稿日:2012/06/19(Tue) 17:35:29     70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

    ぼくが部屋のすみっこに座っていると、バクフーンはいつもぼくのとなりにいてくれる。
    背中の炎をけして、そーっと、ぼくの近くにやってきて、あったかい体でぼくのとなりにくっついてくれる。
    パパとママの言い付けどおり、リビングのテーブルの上でボールの中にいるはずなのに、バクフーンはいつもぼくの部屋まで出てくる。
    そんなときは大抵、パパとママがケンカしてるときだ。
    パパとママはなかよしだって、どんな本にも書いてあるけど、それはウソだってぼくは知っている。だって、なかよしならケンカのあとの『ごめんね』があるでしょ?ぼくだって、友達とケンカしたら、ぼくが悪くても悪くなくてもあやまりに行く。でもパパとママにはそれがない。だから、いつまでもケンカをしてるんだ。

    いつまでも。いつまでも。ぼくが寝たはずの時間から、いつまでも。

    そんなパパとママを聞いているのが、ぼくはイヤだ。
    だから、こうして部屋のすみでちいさくなることにしてる。まるで、図鑑でみたヒノアラシみたいに。


    もうひとつ、ぼくは知っていることがある。
    それはぼくがバクフーンに命令すれば、パパとママのケンカは片付けられるってこと。
    ぼくが一言、友達とのバトルのときみたいになにかをいえば、パパも、ママも、二度とケンカをしなくなる。
    バクフーンも、ぼくが言わないからそうしないだけで、本当はケンカを止めさせたいはずなんだ。

    ぼくは知っている。
    パパとママがケンカしているとき、バクフーンもぼくと一緒に悲しいかおになる。けれどすこしだけ、一回だけ、かならずドアの向こうを睨むんだ。それも、バトルの前のときみたいな、怖い目で。まるで、敵が向こうにいるような怖い目で。


    …でも、ぼくはそれをするのがイヤだ。
    だって、そんなことしても、本当に二人はなかよしにならないから。
    だれも、ぼくのとなりにいてくれなくなるから。

    だから、ぼくはこうして部屋のすみでちいさくなることにしている。
    そうすれば、バクフーンがとなりに来てくれて、ぼくと一緒にいてくれるから。



    ***
    初めましての方は初めまして。
    また読んで下さった方は、ありがとうございます。aotokiです。
    ポケモンは家族。じゃあこういうちょっと物悲しいのもありかな、と勢いで書きました。
    第二世代はチコリ―タでしたがバクフーンもなかなか好きです。・・・べっ、べつにオーダイルが嫌いだとかそういうのじゃないからね!!

    反省はしている。だが後悔は(カイリューの はかいこうせん!


    【なにしてもいいのよ】


      [No.2206] x.e.f 投稿者:巳佑   投稿日:2012/01/18(Wed) 04:53:26     158clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

     
     左目がカタカタと音を立てる
     
     
     僕を拾ってくれた あの日
     色違いで仲間外れにされて 
     身も心も傷ついた僕を
     二人は優しい手の平で乗せてくれた
     初めてもらった温かさが心地よかった

     
     左目がカタカタと音を立てる

     
     二人は幼なじみの少年少女
     少年はわんぱくで行動力はあるけど ときどき周りが見えないのが玉にキズ
     少女は恥ずかしがり屋だけど 自分の意志をしっかり持っている
     僕はどちらかのものというわけじゃない
     僕は少年少女の友達だ

     
     左目がカタカタと音を立てる

     
     少年少女も大きくなって 
     旅に出る日がやってきた
     少年少女の肩に乗って 
     僕も旅に出る
     
     少年の無鉄砲な行動でスピアーの大群に追いかけられた日
     少女の緊張でポケモンバトルに負けてしまった日
     少年の根性で言うことを聞かなかったポケモンの心が開いた日
     少女の勇気が小さなポケモンを悪者の手から守った日

     失敗も成功も一緒に噛みあう日々
     こうして少年少女は大人になっていくところを
     僕は近くで見ることができて
     誇りに思う

     
     左目がカタカタと音を立てる

     
     少年少女が少し大きくなって
     僕も進化して大きくなった
     肩に乗ることができないのは寂しいけど
     代わりに力を手に入れたんだ
     二人を支える力を手に入れたんだ

     旅をしている間に少年少女はマルチバトルで活躍して
     性格はズレているのに息はピッタリだ
     二人はいい関係だねと言われたとき
     少女は顔を赤くさせて
     少年は少女の様子に首を傾げて
     僕はとりあえず少年の頭をつついといた
     
     ときどきケンカすることもあった
     お気に入りのモーモーミルクを勝手に飲まれたとか
     バトルであーだこーだともめたりとか
     少年は最初納得できなくて
     少女は泣いてばっかりで
     だけど最後は謝って
     また笑顔になれた
     
     
     左目がカタカタと音を立てる 

     
     それからもマルチバトルで活躍し続けて
     世界でも有名な二人組になった少年少女は
     いつのまにか大人になっていた
     だけど心は少年少女のままで
     
     色々なところを旅しては
     今までと同じようにポケモンと出逢った
     ミルタンクの乳しぼりを体験したり
     ゾロアの悪戯イリュージョンで化かされたり
     我流な技を出してくるコジョンドに出逢ったり
     オーロラとともにレックウザを発見したり 

     色々なところを旅しては
     今までと同じように人と出逢った
     自信のないトレーナーにポケモンを教えたり
     森で同じ迷子になった人と夜を語り明かしたり
     一度バトルした人に再会してまたバトルで熱くなったり
     まだまだ現役だという老人の旅人に出逢ったり 
     
     一つ一つの出逢いには違う物語があって
     これの他にも色々あって
     語りつくせないほどの
     想い出が溢れてくる
     
     旅でもマルチバトルでも二人三脚で走り続けた少年少女は
     左手の薬指に指輪をはめて
     手を繋いで一つのゴールを果たした

     
     左目がカタカタと音を立てる


     ひとまず旅を終えることにした少年少女は
     赤い屋根の家で一緒に暮らし始めて
     やがて子供を授かって
     その子も旅を始めて

     やがてその子に妻ができる頃になると
     少年少女は老人になっていた
     
     もう一度だけ旅をしてみようかと
     笑顔輝く少年に
     あの日に再会しに行くのも楽しみだと
     頬を赤らめる少女がいた 
     もちろんお前も一緒に行くぞと
     僕の右羽に少年の手が繋がって
     僕の左羽に少女の手が繋がって
     再び世界へと羽ばたいた
     
     
     左目がカタカタと音を立てる
     

     懐かしい想い出に胸が温かくなる
     一コマ一コマに映る命 
     この左目に刻んできた少年少女の一生は
     僕の誇りだ
     
      
     やがて左目から音がなくなった


     スクリーンの前に少年少女
     しわだらけの手を繋いで微笑みながら眠っていた
     生まれ変わっても
     また二人と一緒に旅がしたい
     我がままかな?
     叶わないのかな?
     
     でも大好きだから
     そう願ってもいいでしょう?
     
     二人に想いを馳せながら
     左目を閉じて

     右目を静かに開けて
     願いを埋め込んだ



    【書いてみました】

     ネイティオの左目は過去を見ることができて、右目は未来を見ることができる。ネイティオのその特性と、エスパーによる念写を使って、映画を見せるかのように、相手にあんな風に過去を見せることができたらいいなぁと思いながら、今回の物語を書いてみました。 
     
     ちなみに『x.e.f』の『x』は『xatu』でネイティオの英語名です。
     また、『e』は『eyes』で目という意味で。
     そして、『f』は『films』で映画という意味です。(一応、両方とも複数形表記にしときました)

     最初は『f』で『future』= 未来、『x』= 何かの英単語 = 過去、という意味もありますよー、にしてみたかったのですが、『x』から始まるもので過去という意味の英単語が自分では見つからず……もし見つけたよという方がいらっしゃいましたら、ぜひ(以下略) 
     
     
     追伸:大人になったり、老人になったりなのに『少年少女』という表記をしていたのは、二人の心と、姿が変わっても、その人はその人なんだということを表したかったからです。分かりづらかったら、すいません。一応、説明しときました。(汗)

     
     ありがとうございました。


    【何をしてもいいですよ♪】


      [No.1933] 画用紙に描かれた憧憬 投稿者:tyuune   投稿日:2011/09/28(Wed) 21:26:34     121clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     男は絵を描く。真っ白なキャンバスに筆が色をつける。踊るように筆は動く。白い部分が様々な色彩に埋められてゆく。一人きりの部屋で、筆が走る音だけが響く。
     彼の背はひょろ長く、もやしのように頼りない。年の頃、三十半ばに見える彼の髪はぼさぼさで手入れの跡がなく、無造作に後ろに結ばれている。服は様々な絵の具の色が染み付いた、元は白であっただろうTシャツ、そして、これまた色が染み付いたベージュのカーゴパンツを着ていた。
     部屋は画材で占められており、足の踏み場も無い。描きかけの絵は壁に荒っぽく立てかけてあり、どれも縦一メートル程の大きな絵ばかりだった。山、花、人物、河など、多種多様な絵は、一つの共通点があった。どれも一様にして、見ているだけで悲しみが伝わってくる、という共通点。それは、雑然としている部屋の印象を、薄暗い物へと変化させていた。
     そんな部屋、その壁際の一角、綺麗に整理整頓された場所があった。散らばった絵の具もバケツもそこには無い、まるで、その場所だけがきれいに切り取られたかのように。
     そこには絵が飾ってあった。他の絵のように無造作に置かれているのではない、きちんと額縁に飾ってある絵。しかし、どこにでもある画用紙に描かれた絵。
     絵の中では少年と一匹のポケモンが、共に並んで、嬉しそうな笑顔で絵を描いていた。その背景は、今男が絵を描いている部屋と同じ間取り。絵はその部屋で描かれたことは間違いないだろう。だが、現在の男の隣にそのポケモンはいない。一人だ。一人きりで一心不乱になって筆を振る。鬼気迫った顔で、何かに取り憑かれたように。
     男は筆を振るう。彼の落ち窪んだ瞳から、涙が零れ落ちた。二滴、三滴、床に滴る。
     今の男とは対照的に、絵の中の一人と一匹は、なごやかな空気の中、筆を自由気ままに走らせていた。本当に楽しくて仕方がないといった風に、笑いながら。



     
     少年は物心ついた時からドーブルと共にいた。ドーブルはいつも絵を描いていて、少年はその横で絵を描く姿を眺めていただけだったが、いつからか少年も絵を共に描くようになった。一人と一匹、並んで絵を描く。それが彼らの休日の過ごし方だった。
     ドーブルの絵は独創的で躍動感溢れるものであった。今にも飛び出して動き出しそうな絵を見て、少年はいつも『僕も、ドーブルのような絵を描けるようになりたい』と思ったものだ。
     それに対して少年の絵は、お世辞にも上手いとはいえないものだったが、感情が多分に篭っていた。喜びを絵に閉じ込めるのが上手かった。
     一人と一匹は並んで絵を描いていた。大きな画用紙に向かって。競う事も無く、難しい事も考えず、ただ、筆の進むままに任せて。
     ドーブルは幸せだった。少年も同じく、幸せだった。
     

     十年が経ち、少年は青年に成長した。青年の絵画の技量は驚くほどに上がっていた。絵のタッチは繊細かつ大胆。細かな塗りむらも無く、色の発色はまぶしいほどに輝いていた。彼はその技術を買われ、小さな美大に通っていた。
     だが、技術の代わりに失われた物があった。感情だ。絵に込められた感情。子供の頃、絵に込められた喜びが、現在の絵からは殆ど見えなくなっていた。
     彼は絵を描くことが、昔ほど好きではなくなっていた。
     純粋で、何も知らなかった子供の頃とは違い、今の彼には絵を描くに際し、邪魔な物が多すぎた。両親の期待、同級生の嫉妬、将来の不安……。それらに押されて、喜びは影を潜めていた。絵を描く事が億劫になったのもそのせいだった。
     ドーブルは、いつでも尻尾の先に付いた筆で、変わらず絵を描く。長年描き続けたせいか、絵を描くことを定められた種族に生まれたせいか、若しくはその両方か……ドーブルの絵は既に、数少ないプロと肩を並べられるほどに成長していた。
     そんなドーブルの絵を見て、青年にある感情が芽生えた。嫉妬だ。労せずして秀逸な絵を描くドーブルに対し、青年は嫉妬を覚えた。嫉妬は、青年の消えかけていた喜びを、完全に押しつぶした。


     それから、青年の絵は上達しなくなった。いくら小手先の技術は上がろうと、彼の武器であった喜びが消え去った今、青年の絵は薄っぺらで、誰も見向きもしなくなった。
     美大での成績も右肩下がりに落ちてゆき、ついには、あわや留年直前とまで追い詰められていた。彼は焦っていた。次のコンクールで一次審査を通らないと、留年する事が確定してしまったのだ。将来への不安は、その姿を徐々に肥大化させていった。
     そんなある日。彼はある愚かな選択をする。

    「なあ、ドーブル、頼むよ」
     青年はドーブルに、手を合わせて頼み込んだ。
    「お前の絵なら、コンクールの一次審査なんて余裕だから、な、頼む!」
     彼はドーブルの絵を、自分の絵であると騙ってコンクールに提出しようとしたのだ。
     初めのうちは頑なに首を横に振っていたドーブルだったが、青年の強い押しに耐え切れなくなってきたのか、少しずつ首を振る力が弱まって。
    「頼む!」
     青年の声に、ドーブルは悲しげに頷いた。


     それから数週間後、コンクールの結果が届いた。青年は狂喜した。
    「やった! やったぞ! 入賞だ!」
     青年は賞状を嬉しそうに見せびらかしながら、ドーブルに結果を話した。
     彼はドーブルの絵を提出した。その結果、入賞。ドーブルの絵は、一次審査を余裕で通り抜け、二次、三次審査を軽く突破し、他の作品を大きく引き離しての入賞。
    「俺が必要なんだってよ! あのお偉いさん方!」
     さらには、彼はその入賞で、とある有名美大にスカウトされた。誰もが羨む程の輝かしい経歴を持つ美大。そこを卒業できれば、将来は安泰であるといえた。
     青年の嬉しそうな顔とは対照的に、ドーブルの顔は暗く落ち込んでいた。


     そして、青年は深く考えず、有名美大に転入した。それだけで青年は喜んだが、そこがゴールではない。卒業するためには、青年の絵では明らかに力不足だった。
     当然、青年の絵は成長していない。ドーブルの絵を借りただけである彼の化けの皮は、すぐさま剥げそうになっていた。 
     転入したはいいものの、青年は授業の内容についていけない。実技テストでは散々な結果に終わった。
     必然的に……
    「お願いだよドーブル、もう一度だけだからさ」
     青年はドーブルに再び頼み込んだ。ドーブルは嫌だと首を横に振ったが、前回と同じく、最終的には首を縦に振る事となった。



     かくして青年はドーブルの絵を提出した。無論、一度だけで終わろうはずも無い。何度も何度も、青年はドーブルに頼み込み、同じ数だけドーブルは頷いた。
     青年は絵を描く必要が無くなった。自分が絵を描いても、教授には溜息を吐かれ、大学の友人には嘲笑される。だが、ドーブルの絵を見せればたちまち評価は一変する。天才だと持てはやされ、コンクールには当然、入賞。苦労して描いても嫌な思いをするだけだというのに、どうして描く必要性があろうか。
     そうして、青年が絵を描く事は無くなった。
     新品に近い青年の画材を、ドーブルは横目で見、次に、昼間だというのに寝転んでいる青年の背中を見た。
     ドーブルは、絵を描くことが好きだった。だがそれは、少年がいたから。少年がドーブルの絵を見て感嘆符を漏らす事に、喜びを覚えた。そして共に肩を並べて絵を描くことが、彼は心の底から好きだった。
     少年が青年となり絵を描かなくなっても、ドーブルが絵を描き続けている理由は、過去への憧憬に他ならない。いつかきっと、いつかきっとまた、あの頃のように共に絵を描ける日が来る、そう信じていたからだった。
     だが、ドーブルは気付いてしまった。自分が絵を描き続ける限り、青年が絵を描くことは無い、という事に。
     ドーブルは絵を描いている少年が好きだった。嬉しそうな顔をして画用紙に筆を走らせる少年の姿が。
     ドーブルは自分と共に並んで絵を描く少年が好きだった。画用紙いっぱいに描いた空を、河を、樹を見せ合いながら描くのが何より好きだった。
     だが、そんな少年はもう、どこにもいなかった。目の前にいるのは、自分を利用する事しか考えていない醜い青年。絵を描く事をやめ、ただ怠惰に生きる愚かな青年。
     ドーブルが好きだった、幼い頃から共にいた少年。彼はもうドーブルの空想の中にしか存在しなかった。  
     だから、ドーブルは……。




    「んー、ふああ」
     青年が目を覚ます。ひょろ長い身体を大きく伸ばして、上体を気だるげに持ち上げた。
    「ドーブルー?」
     青年は相棒の名を呼んだ。だが、声は部屋の中に反響するだけで、返事は聞こえなかった。
    「ドーブルー、毎度悪いが、頼みがあるんだー」
     立ち上がり、相棒の姿を探す。だが、探せど探せど姿は無い。
     青年は怪訝に思いながらも、そのうち帰ってくるだろう、と結論付けて、ベッドに入り、二度寝する事にした。


     数日が経った。しかし、いつまで経ってもドーブルは帰ってこなかった。
     コンクールの日は近い。青年は焦燥感に冷や汗をかいた。
    「糞っ! どこに行ったんだ! ドーブルの奴!」
     早くドーブルに絵を描いて貰わなければ、大変な事になる。自分の絵ではダメだ。ドーブルの絵でなければ、入賞どころか門前払いされるに違いない。
     彼は自分の事しか考えていなかった。
     青年は家中を歩き回った。もちろんドーブルはいない。そんな中、部屋の片隅に、ある物が目に付いた。
    「画用紙……?」
     青年もドーブルも、キャンバスかスケッチブックに絵を描いていた。画用紙を使っていたのは、はるか遠い昔。技術も知らず、ただ筆の赴くままに描いていた頃。
     彼は何の気なしに画用紙を拾い上げ、裏返した。
     瞬間、息を呑んだ。
     そこに描かれていたのは幼き頃の少年とドーブル。西日が優しく窓から照る中、少年は筆を、ドーブルは尻尾を持ちながら、大きな画用紙に向かって絵を描いていた。夕日の赤が少年とドーブルの横顔を、朱色に染めあげていた。
     彼らの表情、在りし日の彼らは、笑っていた。絵を描くことが嬉くて、楽しくて、幸せだったあの頃。絵を描ける。それだけが全てだったあの頃。あの瞬間が、時間を越えて画用紙の中に閉じ込められていた。
     ありったけの喜びと幸せを詰め込んだその絵に、滴る物があった。それは、涙。
     青年はいつの間にか泣いていた。涙が瞳から溢れて止まらなかった。
     彼は理解した。ドーブルの喜びを、幸せを、悲しみを。今まで自分の事しか考えていなかった青年自身の愚かさを。そして、ドーブルがもう戻ってこないという事を。
     青年の嗚咽は部屋の中に空虚に響いた。同じ部屋の中、画用紙の中にいる少年とドーブルは笑っているのに、青年は泣いていた。後悔に打ち震え、悲しみにむせび泣いていた。


     青年はかつて純粋だった。純粋ゆえに、喜びが大きかった。だが、成長するにつれ、純粋ではいられなくなる。優越感、劣等感、不安、そして嫉妬。それらを目の当たりにした彼の喜びの割合は押され、小さくなってゆき、終には自らの嫉妬によって消え去った。
     代わりに彼を支配したのは怠惰。怠惰により、彼は楽な方へ、楽な方へと流れ落ちた。相棒であるドーブルを利用した。ドーブルの喜びも幸せも知らず、ただ自分が楽をするために利用した。
     その結果、彼の前からドーブルが消えた。遠い思い出の彼方にある、少年とドーブルとの幸せだった日の情景を絵に書き残して。物心付いた頃から共にいたドーブル、自らの半身とも言える相棒を失った青年の心に、芽生えた感情は……。


     青年は茫然自失として、ベッドに腰掛けていた。その目は虚ろで、何も写してはいない様。食事ものどを通らず、もう何日も飲まず食わずだった。
     彼の心にはぽっかりと穴が開いていた。もう考えるのも億劫で、このまま死んでしまっても構わない、という思いが去来した。
     そんな彼だが、瞬きした拍子に、ある物が目に入った。絵だ。テーブルの上に置かれた、大きな画用紙いっぱいに描かれた、ドーブルが残した絵。
     その絵を見て、青年の心にある感情が芽生えた。後悔、自己嫌悪。そして、何より一番大きな感情、それは、悲しみ。
     悲しみに背を押されるようにして、彼は立ち上がり、筆を手に取った。



     青年の悲しみは絵に現れた。自らの過ちにより、相棒を失った。その苦痛、絶望、悲しみ。彼の絵は負の感情に満ち満ちていた。彼の長所であった、感情を絵に現す力。幼き日は喜びに溢れた絵を描いた。楽しくて仕方がないといった気持ちを、絵に閉じ込めた。そして、今は悲しみに淀みきった絵を描く。悲しくて胸が張り裂けそうな気持ちを、青年は絵に刻み込む。
     皮肉にも、その絵は評価された。入賞とまではいかなかったが、最終審査まで残った。
    それからも、青年は一心不乱に絵を描き続けた。いくら絵を描いても、胸中の悲しみは薄れる事は無い。だが、彼は絵に吐き出すことをやめなかった。
     昼夜問わず青年は絵を描き続けた。一日の大半をキャンバスの前で過ごす。血反吐を吐くような日々。いくら肉体が悲鳴を上げようとも、心の痛みよりははるかにマシだった。
     画風がいきなり変わったこともあり、一時は才能が枯れた、などと噂された。だが、徐々に彼の描く悲しみに魅せられる人間は増え、彼はドーブルが築いた地位を取り戻した。しかし、今の彼には、それはどうでもいい事だった。
     彼は、ドーブルが描き残した画用紙に目を遣る度、胸を引っかくような悲しみに苛まれた。そして、在りし日に憧憬を覚えた。過去への憧憬。それは、かつてドーブルが抱いた物と同じだった。
     ひたすら絵を描いていた幼き日、ドーブルと共に絵を描いていたあの頃。嫉妬も悲しみも知らず、喜びに満ちていた幸せな日々。青年は、過去に対し、気が狂うほど恋焦がれた。
     青年は絵を描く。絵を描き続けたら、いつかドーブルが戻ってきてくれる。そして、あの頃と同じように、笑いながら絵を描ける日が来る。そんな淡く儚い期待を、胸に抱きながら。




     暖かい夕日が窓から差し込む。雑然として散らかった部屋に、一人の男がいた。キャンバスに向かって筆を振る男の顔には、年月を感じさせる皺が深く刻まれていた。
     男は絵を描いていた。かつて青年だった男は、変わらず悲しみに浸りきった絵を描く。
     ドーブルが出て行った日から、二十年が経っていた。あれから男は大学をトップの成績で卒業し、画家となった。それでも慢心せず、男は朝から晩まで絵を描き続けた。
     絵を売って出来た金は、最低限の生活費を残し、殆どを宣伝費に使った。タダで美術館に寄付した事もあった。小学校、市役所、ありとあらゆる公共の機関に、自分の作品を展示してもらうよう頼み込み、幾度となく無料で個展を開いた。それらの目的は、ドーブルに自分の絵を見てもらうため。そしてあわよくば、自分の下へ帰って来てもらうため。
     だが、それは二十年間叶う事は無かった。しかし、それでも男は絵を描き続けていた。彼は諦める事を知らない。色褪せる事の無い悲しみを絵に叩きつける。
     ドーブルが帰ってきた後のことを、男は幾度となくも思い描いた。悲しみは、きっと喜びに変わるだろう。不安も嫉妬も悲しみも、強い喜びによって見えなくなるだろう。そうするならば、きっと、悲しみが無い彼の絵は売れなくなる。だが男は、それでもいい、ドーブルが帰ってきてくれるなら。そう思っていた。
     彼にとって、絵は既に欠かせない存在である。現在の地位も、名誉も、全ては絵によって培われた物である。だが、男には、それよりも遥かに大切なものがあった。
     かつて男は自分の選択により、最も大切なものを失った。何者にも変えがたい大切な相棒。彼が自らの元へ帰ってくるならば、他の全てを投げ打ってもいい。命を棄てようと、構いはしない。だから、帰ってきてくれ。男はそう願い続けた。
     男はキャンバスいっぱいに悲しみを描く。差し込む夕日の朱が、男の横顔を照らす。額縁に入ったドーブルの絵も一緒に照らし出され、額縁にあるガラスの装飾が光を乱反射した。男は眉間に皺を寄せながら、筆をパレットに押し付け、色を染み込ませた。
     そんな時、物音が後ろの方から聞こえた。
    「おい、私が絵を描いている時は、入ってくるなと言った筈だが」
     男は苛立ちつつ、吐き棄てるように言った。
     また絵を高く買いたいとか言う画商でも来たのだろう。それか、記者か。彼らは遠慮を知らない。こちらの思う事など知らず、ずかずかと家の中に踏み込んでくる。
     大抵はアポイントを取っているのだが、たまに飛び込みで取材に来る者、営業に来る者もいる。 そういった輩なのだろう。彼は溜息をついた。
     ひたひたとした足音が、彼の後方にある廊下から響く。
    「おい! 聞いているのか!」
     息を吸い、もう一度怒鳴りつけた所で、男は違和感に気付いた。
     彼の家は土足である。リノニウム製の床は、カツカツと靴の硬質な足音を響かせるはずだ。だが、今聞こえている音は何だ。ひたひたという音が耳に届く、まるで靴を履いていないかのように。
     もしや……。
     後ろから、ゆっくりとドアの開く音がする。懐かしい香りがした。足音は止まる。
     男は、破裂しそうな自らの心臓の音を、まるで他人事のように聴いていた。早鐘のように心臓が鼓動をうるさく刻む。筆を握る手が、凍えているかのように震えた。
     彼は期待と不安、悲しみがない交ぜになった表情で、振り返った。
     そこには。


     
     ある画家がいた。彼の絵は、見る者に深い悲しみを与える。一目見るだけで、涙が溢れるほどの悲しみに包まれるのだ。彼の絵は反響を呼んだ。彼の家に記者が詰めかけ、その理由を聞いた。画家は、理由を頑として答える事は無かった。
     画家は数え切れないほどの多くの絵を世に発表した。何としてでも、絵を大衆に見せるよう働きかけた。
     だがある日を境に、画家の絵は喜びと幸せを見る者に与えるようになった。彼の絵は驚くほど暖かくなり、悲しみは姿を消した。彼の絵を見ると、穏やかな気持ちになり、ついつい頬が緩んでしまう。
     彼は、一番大切なものを取り戻せたのだ。


     窓から入る西日の光が部屋を朱色に染める。部屋は相変わらず画材で散らかり、独特の饐えたような匂いが漂う。
     男は絵を描いていた。キャンバスに向かい、筆を走らせる。夕日で朱色に染まった横顔は、何とも嬉しそうで、口元が緩みっぱなしだった。
     その傍らにはドーブルがいた。ドーブルも尻尾の筆を自在に操り、自身の背丈と同じくらいの高さを持つ、広いキャンバスいっぱいに尻尾を踊らせる。ドーブルは目を細め、幸せそうに尻尾を握る。
     一人と一匹の絵には、ある共通点があった。喜びだ。喜びが波の奔流の様に、絵の中でざわめいている。
     ふと、男の瞳から涙がこぼれる。二滴、三滴、床に滴る。ドーブルはそれに気付き、筆を止めて心配そうに男の顔を見上げた。
     男は何でもないよ、と言うようにドーブルの頭を撫でた。彼の涙は、嬉し涙。幸せすぎて、感情が瞳から溢れだした。
     その時、微風が窓から吹き込んだ。風は一人と一匹を優しく撫で、部屋の一角へ辿り着いた。そこには画用紙に描かれた憧憬があった。少年とドーブルがにこやかに笑いあい、並んで絵を描いている。喜びに満ち溢れた表情の一人と一匹。過去の情景。彼らが恋焦がれ、あこがれ続けた姿。幾年もの悲しみを経て、ついに今の彼らと重なった。
     一人と一匹は、なごやかな空気の中、筆を自由気ままに走らせていた。本当に楽しくて仕方がないといった風に、笑いながら。


      [No.1664] わぉ 投稿者:イサリ   投稿日:2011/07/28(Thu) 20:58:31     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     絶賛 期末考査&レポート中でお返事が遅くなって申し訳ありません;;
     キトラさん、書いてくださりありがとうございます!!

     チルットのモデルは童話に出てくる「幸せの青い鳥」(……だと勝手に思っている。)
     ならば色違いの金色の鳥は……

     そんなことを考えながら読ませていただきました。

    > さあ、そのチルットを渡しなさい。

     この部分でナウシカのワンシーンが頭に浮かんでしまい、一層複雑な気持ちになりました。

     色違いとか、変わった外見や強い能力を持ったポケモンは、その逸話が長い間語り継がれるうちに、内容が誇張されたり、いつの間にかまるっきり変わってしまったり……ってあの世界ではよくありそうですね。(野の火の影響受けまくりですみません;;)

     それでは、キトラさん本当にありがとうございました!!


      [No.1403] 天の川見れたらいいなとか。 投稿者:スズメ   投稿日:2011/07/05(Tue) 18:06:00     90clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     笹を発見したのでさっそく・・・
    「テストで赤点取りませんように」
    なら勉強しろと言うのはおいておいて、前回がかなりぎりぎりだったので後がないというか・・・
     テスト終わったら、作りかけの粘土とか作ってしまいたいです。机の上ぐちゃぐちゃ・・・


     

     初夏なのか梅雨なのかよくわからない今年の七月、いきなり雨が降ったり、猛暑と化したり。
    降ったばかりの夕立でじめじめする道路を歩けば、太陽からの熱線攻撃が直撃。
    のたのたと植え込みの方へ向かうカラナクシも心なしか慌て気味。
    あっという間に水たまりも消えちゃうもんねなんて空を見れば、夕立の名残は薄れつつあった。

     最近家ではカタツムリを見かけることが減りました。
    引っ越してきた頃には駐車場の壁に10匹ぐらいはへばりついていたのに、見る影もなし。
    うわさによると、環境の変化に弱いとか。カラナクシは大丈夫なのかな?


      [No.1138] 【再投稿】鞄 投稿者:音色   投稿日:2011/05/04(Wed) 23:39:07     97clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    『巷の大ブーム!最新流行トレンド〜!今日は、今年の流行を真っ先にお伝えしちゃうよ!今年のキーポイントはズバリ、『ワイルド』!』


     物心ついたときから、あたしは豪傑一家に囲まれて育った。
    「いいか!体の傷は勲章だ!多ければ多いほどいいことに越したことはない!」
     親父はいつもそう言って、頭をくしゃくしゃになるまでなでてくれた。
    「爪を研ぐことは忘れないこと。でないとすぐに切れ味が悪くなって使い物にならなくなるよ!」
     母さんはそう言って自慢げに両手を天にかざした。
    「良いライバルを見つけろよ。そいつとは一生をかけて闘い続けると誓えるようなやつをな」
    「最後も、その人と闘いながら死ぬのが、最高の幸福なのよ」
     爺ちゃんはそう言って、婆ちゃんもそう言った。
     周りの大人はみんな傷だらけで、幸せいっぱいだ。
     だって、あたしの一族には永遠のライバルがるから。
     種族丸ごと好敵手。ハブネークの奴等と闘う事は、あたしがザングースとして生まれてくる前から、決まってたことだった。


    『まずはメリープの羊毛で編まれたあったかいセーターやマフラーなどをご紹介します!とってもふわふわだけど、静電気がたまりやすいから、無意識のうちに髪型がボンバー!なんてことにもなって目立つこと間違いナシ!』


     けど、小さい時はハブネークってのがどんな奴だか全く見当がつかなかった。
     決闘に連れて行ってくれって何回か頼んでみたんだけど、兄ちゃんも親父も、もちろん爺ちゃんも『男同士のバトルの邪魔をするな!』と一括された。
     母さんや婆ちゃんは『あんたも大きくなったらきっと、良い好敵手に会えるよ』としか言ってくれない。
     長年のライバルだって言うのに、里にはハブネークを表す戦利品は一つもなかったから、余計にどんな奴だか気になった。
     大きな牙をもっているんだろうか。どんな体格何だろうか。もしかしたら空を飛べるんだろうか。不思議な技を使ってくるんだろうか。
     気になって気になって、仕方なくなったから、あたしはこっそり里を抜け出して、ハブネークって言うのがどんなのなのか、見に行くことにした。


    『こちらはお店のお勧めの小物はオコリザルがつけているものと全く同じ重さのリストバンドです!体力をつけたいあなた、いかがですか?』


     大きな河に阻まれて、あたしは途方に暮れていた。向こう岸から、ハブネークがやってくるんだって、親父が言っているのをこっそり聞いたのに。
     橋なんてものはなくて、岩は両側から突き出して途中から途切れていた。飛びこえればどうにか届きそうだけど、まだまだ体の小さなあたしに、それはとてもじゃないけど不可能だった。
     やっぱり、もっと大きくならないと駄目なのかな。がっかりしたあたしは、少しで良いから向こうの奥が見えないかと、岩の上から身を乗り出した。
     その時、ふいに風が吹いてきて、たまらずあたしはバランスを崩した。まっさかさまに川に落ちる!
     そのとき、あたしの体はぴたりと宙に浮いて止まった。何が起こったのかさっぱり分からない。そのままぶん投げられるように、あたしは草むらに頭から突っこんだ。
     大丈夫か?
     なんとかね。
     相手を見ずに返事を返して、どうにか頭をひっこ抜く。くるりと振り返って向こう岸をみると、そこにはあたしよりも大きくて長い、ポケモンがいた。
     見た瞬間に、びりりと分かった。
     こいつがハブネークだ。鋭い眼、牙、尻尾!その姿、全てがあたしのなかのハブネーク像にかちりと刻みつけられた。
     同時に確信した。
     あたしのライバルは、こいつだ!


    『小物ばかりではなく今度は食べ物路線で行きましょう!キマワリの花弁を使った紅茶は、こちらのお店の一番の目玉商品だそうです』


     そいつはとっても気さくだった。なんであたしを助けたのかと聞いたら
    「そんなこと考えなかったな・・。誰かが落ちそうになってるのを見て、危ない!・・って思ったら、体が動いたんだ」
     体格はあたしの二倍はあるのに、歳はそんなに変わらないと聞いて、驚いた。
     ここに来た目的もあたしとほとんど一緒。好敵手と言われているザングースを一目見ようとここに来たらしい。
     自分も村ではまだまだ若造扱いで、決闘に連れて行ってもらえないとこぼしたのを聞いて、思わず共感してしまった。
    「俺たち、なんか似てるな?」
     そう言うと、お互い爆笑した。夕日が沈むまで、そこでそいつと話した。家族のこと、村のこと、そして、将来のこと。
     種族同志の因縁について、どう思っているのか聞いてみたら
    「正直に言っちまうと、多分、いがみ合いがあったのはものすごい大昔なんだと思うぜ」
     けど、世代を超えるうちに、そんなことはどうでもよくなってきた。
    「お互いを殺し合うんじゃない、お互いを認めて、礼儀として決闘をするんだ」
     でも、どうせ決闘なら・・。勝ちたい。その気持ちが、種族を動かしているんじゃないかとそいつは言った。
     別れる時に、あたしは決闘を申し込んだ。そいつはもちろん承諾した。
    「俺、分かったぜ。俺はあんたときっと闘う」
     最初の決闘の日取り、3年後の今日、月が天辺に昇った時。
     お互いに、幼く不敵に笑って見せて、同時に背中を向けあった。 


    『わ、これとってもおいしいですね!』
    『当店自慢の、ポフィンケーキです。人間にもポケモンにも食べていただけるように工夫を凝らしたものなんですよ』
    『なるほどなるほど。隠し味はなんですか?』
    『トロピウスの首の房をパウダーにして練りこんであるんです』


     決闘の日はあっという間にやってきた。私は一回り大きくなって大人と変わらなくなってきた、爪もしっかり研いできた。親父や兄貴にいっぱいぶつかってきた。
     でも、あいつと、ハブネークと遣り合うなんて、本当にこの時は初めてだったから、あたしは緊張と興奮がまぜこぜになって、何度も空を見上げて月が早く昇らないかとじれったかった。
     真上にようやく月が現れて、あたりの空気が凍る時間帯。
     あたしの目の前に、あいつはやってきた。
     3年前より、牙も尻尾も、何より溢れだす気迫が、これは本物の決闘なんだと思い知る。
     今宵、先に相手の体に勲章を刻みつけるのはどちらが先か。
     あたしとあいつは睨み合って、飛び出した。


    『っと、ここでニュースです。さきほど、以前から指名手配されていた密猟のグループが捕まったそうです。捕まった場所は・・』


     爺ちゃんが死んだ。一番幸せな死にかただった。爺ちゃんは、決闘で死んだ。相手は、もちろん、爺ちゃんのライバルだった。
     日暮れから次の日の朝にかけて爺ちゃんが帰ってこなくて、兄貴と婆ちゃんが探しに行ったら、少し広めの川沿いで、爺ちゃんと、その相手が絡み合って死んでいた。
     あたしたちが駆け付けるのと同時に、向こう側からハブネークもぞろぞろやってきた。あいつもその中にいた。
     いつも自慢していた爺ちゃんの鋭い爪は、相手の腹に突き刺してあって、爺ちゃんのライバルは爺ちゃんの喉笛に噛みついて絶命していた。
     お互いの最後の一撃が決定打になったんだと思った。
     親父は相手のハブネークの代表みたいなのと何か喋っていた。多分、墓をどうするかって話。
     好敵手と一緒に決闘場所に葬るか、片方ずつ持って帰って里に埋葬するか。
     あたしは里の中で墓を見たことがない。
     爺ちゃんはこの場所で眠ることになった。


    『この密猟グループは今までまったく正体がつかめていなかったのですが、とあるカメラマンが密猟現場跡を偶然撮影してから調査が始まったものでして・・』


     爺ちゃんが死んでからも、あたしとあいつは何度も決闘した。勲章は増える一方で、黒星も白星も数えるのが面倒くさくなるくらいやり合った。
     二人仲良く川に落っこちたことは何度もあったし、たまには決闘じゃなくてぼんやり散歩することもあった、
     もっと広い世界が見たいとか、いろんなポケモンとも決闘してみたいとか、そんなことを取り留めもなく話した。
    「やっぱり、自分が知りつくした場所じゃなくて、知らない場所に行きたいよな」
     不意にあいつがそんなことを言った。その声がどうに爽やかで、あたしにはあいつが急に何処か遠くに行ってしまいそうで、二度と会えない予感がちらりとかすめた。
    「そんなことするなよ!」
     急に大声を出したあたしを見て、あいつはきょとんとした。
    「いいか、お前はあたしのライバルなんだ!あたしを殺すのお前でお前を殺すのはあたしだ。だから、あたしを殺さずにどっかにいくなんていう事したら・・」
     殺してやるから、と続けそうになって、自分の言ってることの矛盾に頭がこんがらがった。
     あいつはそんなあたしを見て、くすくす笑った後、当たり前だろとあたしを小突いた。
     

    『詳しい情報は手に入り次第、お伝えします。では、次のお勧め商品に参りましょう!今度は大人気のバックの新商品です・・』


     あいつが決闘の約束をすっぽかしたことに、あたしは今までで一番腹を立てた。
     一回だって遅刻したこともなければ、約束を破るようなことをしなかったあいつが来なかったことの不安を、あたしは怒りで抑え込んで、勢いに任せてあいつのところに行くことにした。
     一度も飛び越えたことのなかった川を渡り、あいつが今まで踏みしめてきた道をたどる。
     少し森の先でひらけた空間が見えたから、あたしはそこにあいつをはじめとするハブネークが住んでいるんだと思ったのに。
     そこには、なんにもなかった。
     地面には無数の知らない足跡があった。今まで見たことのない足跡が、地面いっぱいに残っていた。
     

    『さて、メグロコの革をなめして作ったこちらのバック、いかかでしょう?』
    『非常に凝ったデザインですね。しかしこれよりもお勧め商品があるのです』


     あたしは泣いた。
     親父に殴られても兄貴とケンカしても母さんに怒られても婆ちゃんが倒れても爺ちゃんが死んでもあいつにボコボコにやられたって泣いたこと無かったのに。
     返せ!あたしは何かに叫ぶ。
     あたしの親友を返せ
     あたしのライバルを返せ
     あたしの一番大切なモノを返せ
     あたしの  あたしたちの生きがいを返せ

     あいつをどこにやっちまったんだ
     あいつを あいつを 返せよう

     ひらけたちいさなそのばしょは しらないあしあとと しらないにおいしかなかった
     

    『気になる次の新商品は、CMの後で!』

     
     生きがいを失ったあたしの里は、みんな魂が抜けたようになっちまった。
     誰も爪を研ごうとしない。誰も稽古をしようとしない。
     婆ちゃんだけが、いつも爺ちゃんの墓参りに行ってただけだった。
    「爺ちゃんは、本当に、幸せ者だね」
     そう言った次の日、婆ちゃんは、爺ちゃんの墓の前で冷たくなっていた。
     親父と母さんは婆ちゃんを里に持って帰って埋めた。里の中に初めてお墓ができた。
     
     あたしはいつもあの場所に行った。
     知らない足跡をいつも眺めた。日に日に薄くなっていく匂いを、とにかく覚えようと必死だった。
     ある日、大雨が降って、足跡も匂いもきれいさっぱり消えたけど、あたしはあの日をちっとも忘れられなかった。
     
     ・・そうだ、あいつは言ってたじゃないか。
     もっと世界が見たいって、いろんなポケモンと決闘がしたいって。
     あいつはきっと、ここからほんの少し遠くに行っただけなんだ。
     だったら、探せばいいじゃないか。
     こんな簡単なことに気がつかないなんて、あたしはどれだけ馬鹿なんだろう。
     あたしはあいつを探すことに決めた。
      

    『こちらが今回の目玉商品になるバックでございます』
    『これはなんのポケモンの革なんでしょうか?』
    『ハブネークの革なのです。ハブネークはご存じのとおり、ザングースと常に敵対関係にあるため、たくさんの戦いをこなし、非常に強靭な体を持っています』
    『しかし、大きな傷がありませんか?』
    『そこが大きな特徴です。あえて傷のある革を使用するんです。何故ならそこが一番丈夫だからです』
    『なるほど!ワイルドさもアピールできますね!』

     
     あたしはこれからも生きることに決めた。
     あたしはあいつを見つけ出し、あの日の決闘を申し込む。
     あたしはあいつを殺しにかかる。あいつもあたしを殺しにかかる。
     あいつの腹をあたしは切り裂いて、あいつはあたしの喉笛を喰いちぎる。
     それがあたしの夢なんだ。
     それが、一番幸せなんだ。

     今日もあたしはあいつを探している。


    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    余談   どうにか残っていた作品のログ。
    師匠がどうしても! ・・とのお言葉を頂いたのでここに残しまする
    いちおー、これのお題は【足跡】です
    まともに考えたらこれが俺がここの正式な初投稿作品なんだよなぁ


      [No.868] Re: 翡翠の竜神 投稿者:NOAH   投稿日:2010/10/28(Thu) 17:23:55     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    おや人の子、この竜に何用か。

    なに?紅と藍が目を覚まし、我を忘れておると??

    なるほど・・・・・・2人の男が、自らの野望のために起こしたと・・・・・・。

    フフ・・・・・・昔を思い出す。

    昔、この地の者が青と赤に分かれて争っておった時期があった。
    その者たちの総領は、藍と紅を起こしかけた。

    そして我直々に、力を見せつけ争いを止めた。

    だが・・・・・・人はまた、過ちを犯してしまったのだな・・・・・・。
    致し方あるまい、もしまた、人が過ちを犯したのであれば、
    その者たちを正しく導いてくれと頼まれたのでな。

    人の子よ、空より出しこの翡翠の竜、藍と紅を沈め、
    また人を導き正そう。

    我が名は翡翠の竜・・・・・・レックウザ成り。



    +あとがき+
    続き書いてみました
    そしてお目汚しだなんて書いて申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!!
    NO.17さんは憧れの方でしてぇはい・・・いずれは自分のも見ていただきたいと思ってたのでもうすごく感激です!!!!

    あ、ちなみに今回の続きはポケモンエメラルドの場面を小説にしてみました。
    勢いで書きました。NO,17さんの言葉通り勢いって本当、大切ですね。

    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評してもいいのよ】


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