ポケモンストーリーズ!投稿板
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  •   [No.2154] 黄昏堂のよくある一日 投稿者:紀成   投稿日:2011/12/27(Tue) 20:56:22     58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

    ※多少残酷・グロテスクな表現が含まれています。苦手な方はバックプリーズ















    「お前の願いを言え。どんな願いも叶えてやる。お前が払う代償は一つだけ――」
    絶世の美女、と言ってもオーバーな気がしなかった。長くて美しいプラチナ色の髪。時折フードの隙間から見え隠れする瞳は、果てしなく深い灰色。まるで吸い込まれていくようだ。
    裾の長いドレスを着、長い脚を器用に組んで椅子に座っている。写真の一枚でも撮りたいくらいだ。
    「どうした?あまりにも美しいから、見惚れてしまったか?……心配しなくても、私は逃げやしないさ」
    薄いルージュを引いた唇から、声が漏れる。隣に立っている狐が、苦い顔をした。目の前に座った女は、ハッと我に帰って目の前の美女から目を逸らす。
    人を魅了する何か。『力』と言ってもいい。時代に名を残してきた人物は皆、それに魅入られていたのかもしれない。何に使うかは各々の勝手だが、独裁者として名を馳せた者も多いようだ。
    そしておそらくは、この美女も――


    彼女……名前は明かさないでおこう。一ヶ月前まで一児の母親であった。夫はいない。所謂シングルマザーである。子供が出来てからその男に逃げられ、一人で育ててきた。
    だが一ヶ月前に子供が失踪した。まだ六歳の子供が。警察に通報したが、見つからなかった。最悪の事例―― 殺されたかもしれないということも考えて捜査してくれたが、未だに遺体の類も見つかっていない。もしそれが本当にあったとしたら、一刻も早く見つけて欲しい。
    女は疲れきった顔をしていた。目の下の肉が落ち、頬はたるんでいる。まだ若いようだが、表情のせいで十歳は年を取っているように見える。流した涙のせいで頬が赤い。
    髪は染めているらしい。明るい茶髪。染める薬のせいで少々毛先が痛んでいる――というのが、美女の隣で立っている狐の観察した結果だった。
    彼女は悩み、苦しみ、喘ぎ、そしてここに導かれた。
    隣の女…… マダム・トワイライトが主人をつとめる店、『黄昏堂』に。


    黄昏堂。知る人ぞ知る店。主に曰くつきの商品を扱い、表沙汰に出来ないような物ばかりが並ぶ。ただし普通の『非合法』『闇オークション』『裏ショップ』と呼ばれている店とは、少々……かなり違う。それを証明できる理由は主に二つあり、

    一つは、たとえ『非合法』だとしても、『闇オークション』だとしても、『裏ショップ』だとしても決してそれらに扱うことの出来ない品が商品になっているということ。

    二つは、もしもそれらの店がその品を扱ってしまった場合、下手すれば命に関わる大事になるということ。

    これら二つが主な理由だが―― 論外として外されている理由が、もう一つ。
    三つ目。

    本当に必要としている者の前にしか、その店は姿を表さない。
    そしてその表す時間帯は、必ず黄昏時…… 夕日が沈みかける時間だということ、だ。

    「つまり、アンタはその息子が生きているのか死んでいるのかを知りたいわけだ」
    『くたばっている』と言わなかったあたり、マダムも少しは人間の心理という物を理解してきたように感じる。店を出した頃は全く相手の心情を理解せずにとんでもないことを口にし、服の襟を掴まれたこともあった。まあそのようなややこしい物を持たないマダムにとっては、人間の心情など厄介なことこの上ないのだろうが。
    「ええ…… なんとかなりませんか」
    消え入るような声だ。ずっと下を向いたままで、マダムの顔を見ようとしない。それに…… 気のせいだろうか。妙な感じがする。言葉では言い表せない、変な何か。
    「解決してやってもいいが、その前に私からも一つだけ」
    「え?」
    いつものようにパズルを出すのかと思ったが、どうやら違うらしい。煙を吐き出し、口元を引き締める。
    「アンタの旦那がいなくなったのは、何年前だ」
    突拍子もない質問だった。女も目を丸くしている。マダムが白けた顔をした。
    「質問の内容が分からなかったか。アンタの」
    「どうしてそんなことを聞くの!?……アイツのことなんて、関係ないじゃない」
    「答えなければ、息子の体の行方は永遠に分からないままだぞ」
    こちらは切り札を握っているんだ、というような口調。その通りなのだが。女はなにやらブツブツ言っていたが、諦めたように口を開いた。
    「五年前よ。急にいなくなったの。あの子が出来たと知らせた後だったから、逃げたのね」
    「……」
    「これでいいでしょ。あの子は今何処にいるの?」
    マダムが隣の狐に目配せした。狐が一回転する。あっという間にそれは台付きの電話になった。さきほどの狐と同じ色合いの電話。かなり古いタイプだ。昭和の庶民が使っていたような黒電話を思い出させる。
    「これは」
    「黄昏堂の必需品。心と心を繋ぐ電話だ。会いたい人間を強く思えば、その人間にかかる。
    ……さあ、かけてみろ」
    マダムが言い終わる前に、女は受話器を手に取った。震える手で耳に持っていき、息子の顔を思い浮かべる。コール音が耳の奥で鳴り響く。

    コールコール キルキルキル
    コールコール キルキルキル
    コールコール キルキルキル

    ガチャ

    『……はい』
    酷いノイズの中、聞きなれた幼い声が女の耳に届いた。女が歓喜の声を上げた。
    「ああ!良かった、無事だったのね。今何処にいるの?すぐ迎えに行くから、そこで待ってて」

    『これないよ』

    落ち着いた声が、耳を貫いた。

    『おかあさんは、これない。ぼくのいるところには』
    「何を言っているの?だってこうして電話できているじゃない」
    『ううん。これはこころをつなぐだけ。それはあいてのからだがなくても、はなすことができる』
    「え……」

    『ぼくはもう、いないんだよ』

    マダムの吐き出す煙が、女の顔の周りに纏わりつく。電話は既に狐に戻っている。女は顔に煙がかかっても何も言わない。この世の者とは思えない表情で拳を握り締めている。
    「騙した、のね」
    「私は『心と心を繋ぐ』と言っただけで、『死者とは繋がらない』とは言っていない。良かったじゃないか。愛する息子の居場所が分かって」
    「良くないわよ!死んだことは認めるけども、遺体の場所までは分からなかったじゃない!」
    鬼の形相だ、と狐は思った。これは夢に出るだろうな、とも思った。だがマダムは表情一つ変えない。まるで相手がそこに存在していないかのように。
    「教えなさい。あの子の遺体は何処なの?これは代償なしでも教えられるはずでしょ!」
    「……」
    「教えなさい!」

    マダムがフードを外した。女が後ずさる。女の手を取り、相手の腹に当てた。

    「ここ、だろう?」



    「精神疾患・記憶障害、カニバリズム……
    あの女はそれだったのか?」
    「簡単に言えば、そうなるな」
    マダムが紅茶を啜った。オレンジ・ペコ。味より香りを楽しむためのお茶だ。しかし、と狐――ゾロアークはげんなりする。この場でわざわざ飲むこともないだろうに。
    先ほどマダムに掴みかかった女は、既にその報いを受けていた。その証拠に、高級そうな絨毯に点々と赤い染みが付着している。
    「とてつもないストレスが原因だろう。夫が出て行ったというのも」
    「喰ったのか」
    「おそらくは」
    マダムが左手を出した。その行動の意味が分からないゾロアークは一瞬首を傾げる。
    「時の糸と、鋼の針を」
    「……もう解れてきたのか。最後にやってから三十年しか経っていないぞ」
    「そろそろ限界に近いらしいな。この身体も」

    そう言って、マダムは何事もなかったかのように紅茶を啜った。


      [No.1566] ツボに入った 投稿者:ラクダ   投稿日:2011/07/09(Sat) 00:34:21     71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     こんばんは、初めましてです。

     旦那さんの軽妙な返しに吹きましたw 実にリアル! 「百文字ばかり」の作品の中で、これが一番好きです。
     楽しませていただきました!


      [No.985] 少女と案山子 投稿者:セピア   投稿日:2010/11/21(Sun) 21:10:02     103clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ■ 少女と案山子



    ハジシゲタウンで開催されるというポケモンコンテスト。
    このコンテストに出場するために、私はキンセツシティからハジシゲタウンへの道を旅していた。

    111番道路に到着した辺りで一息ついていた私は、ポケナビで現在地を確認していた。

    ――― どうやら111番道路から113番道路へ行くには二つの道があるらしい。

    一つはこの先にある煙突山の洞窟、通称「炎の抜け道」を通って行く道。
    そしてもう一つは、今私の右手に見える砂漠を通ることで、「炎の抜け道」をショートカットして113番道路へと続く道。

    どちらの道が距離が短いのかは明白だ。それに「炎の抜け道」の出入り口に行くためにはこの先の急な坂を登らなければならない。
    一方で砂漠を通れば、距離が短いうえに道も平坦だ。

    悩むことなく、私は砂漠を通る道を選択した。



    この日の天気は雲一つない快晴だった。さらに運のいい事に ― 後で聞いた話だとこの砂漠は普段は砂嵐が酷いのだそうだが ― 砂嵐もピタリと止んでいた。

    ――― まるで私のコンテスト出場を祝ってくれているかのようね。

    そんな調子のいい事を考えながら、私は意気揚々と見渡す限り砂一面の大地を歩いていた。


    しかし、程無くして事態は急転した。
    もう歩いて何時間と経っているにもかかわらず、なかなか砂漠から抜けられない。遠くまで見渡しても砂丘ばかりなのだ。
    さっきまで暖かかったはずの日差しは、いつの間にかジリジリと辺り一帯を照りつけていた。
    進む方向が気付かない間にずれていたのだろうか。もしそうだとすれば、おそらく今の私は“迷子”といって差し支えないだろう。

    ――― だけど、問題ないわ。私にはポケナビがあるもの。

    私は懐から片手に収まる程度の小型の電子機器を取り出した。そして「タウンマップ」を開き現在地を確認しようと、電源を入れた。
    ところが、ポケナビの画面にはメニュー画面が表示されなかった。代わりに表示されたのは―――


    ――― 「充電切れ」


    「………」


    予想外の表示に思わず絶句してしまった。

    しばらく画面を見つめた後、私はポケナビをテレビと同じ要領で叩いてみたり、あらゆる方角に向けてみたりした。
    それでもポケナビの画面には一向にメニューが表示される気配がなかった。額からは気温とは関係のない嫌な汗が噴き出してきていた。

    「なんとかこの砂漠を抜けなないと……」

    自分に対して警告するかのように、私はそう呟いた。



    その後もしばらく歩いてはみたものの、事態は好転しなかった。
    視界に広がっているのは相変わらず砂丘ばかり。後ろを向くと自分の足跡が延々と続いていること以外は、全く変わらない光景だった。
    幸いなことに、水だけには困らなかった。私の相棒が“水鉄砲”で空の水筒を満たしてくれるからだ。
    もちろんその水が衛生的なのかどうかはわからないが、少なくとも喉の渇きで倒れるよりかはマシというものだ。

    「ありがとう、戻って休んでて」

    私は相棒をボールに戻すと、重たい脚を引きずりながら再び歩き始めた。
    もうじき夜になるのだろうか、太陽は柔らかな紅色の光を帯びて砂漠の地平線に沈もうとしている。

    ―――暗くなれば、無闇やたらには歩けなくなるわね。

    私はそう考えて、一先ず一夜を明かせるような場所を探すことにした。
    …といってもここは砂漠なので、どこで寝ようとあまり変わらないのだが。

    辺りを見回していると遠くに何かを捉えた。遠目から見た感じでは、洞窟のようだ。
    とりあえず、あの洞窟の中なら多少は風雨を凌げるだろう。いや、この場合は砂嵐だろうか。
    そんなことを考えながら、私は進路を洞窟へと向けてゆっくりと歩き出した。徐々に洞窟の姿が大きくなってきた。
    疲労感のせいか、両足だけは機械的に動くものの意識がボンヤリとしている。



    だから―――私は気付けなかったのだ。足音を消して背後に近付いてくる気配に。

    不意に首の裏に強い衝撃を受け、私の視界は暗転した………











    ―――――パチッ、パチッ


    火の爆ぜる様な音で私は目を覚ました。ぼやけた視界に映るのは、三日月と星が輝いている夜空だ。
    私は目を擦りながら、ゆっくりと起き上がった。

    ―――なぜ、こんなところで横になっていたんだろう…?

    疑問に思うと同時に深いゆったりとした口調の声が聞こえた。

    「おう、目ぇ覚めたかい」

    声のした方を向くと、「誰か」が猫背になって座り込んでいた。こちらに背を向けているので顔は見えない。
    しかし先程聞こえたのは火の爆ぜる音で間違いなさそうだ。座り込んでいる彼の目の前で、焚き火が煌々と辺りを照らしている。

    私はその声の主が続きの言葉を発するのを待った。しかし、彼は再び喋り出すことはなかった。
    黙って火に薪ではなく細い枝をくべている。その態度を奇妙に思いながらも、私は立ち上がって火のそばへ近寄った。

    焚き火を挟んで彼の向かいに腰を降ろし、とりあえず何か言おうとした。

    「あのー……」

    あなたは誰ですか、どうして私はこんなところで寝てたんですか、今何時ごろですか。
    尋ねたいことはいくつかあったものの、それらの疑問は、しかし私の口から発せられることはなかった。

    なぜなら―――私が彼の姿を見てしまったからだ。

    最初に目に飛び込んできたのは全身の肌の色だった。白でも黒でも、もちろん肌色でもないその色は見紛う事無き「黄緑色」。
    菱形の緑色の棘のようなものが全身から浮き出てている様は、とてもじゃないが人間とは思えない。
    私が絶句しているのが面白いのだろうか、目深にかぶったとんがり帽子で表情こそわからないものの、かろうじて見える口元が不敵な笑みを湛えていた。

    「そんなに驚かなくとも…化け物を見た人間みたいじゃないか」

    黄緑色の案山子のような生物は先程と同じゆったりとした声で言った。
    その言葉で私は我に返ったものの、依然として混乱は続いていた。初めて見るポケモンだ。しかも流暢に喋っている。
    ホウエン地方は広いと分かってはいたが、こんな辺境の地に人の言葉を使うポケモンがいるとは。
    それと「みたい」じゃなくて、その通り。そのように突っ込もうとすると、いきなり彼の自己紹介が始まった。

    「俺の名はノクタス。特技は“草笛”だ。この砂漠には昔から住んでいる。何故喋れるのかは訊くなよ、面倒だから。」

    一気にそう捲し立てると、彼は「何か質問は?」と問いかけてきた。えーっと…
    まだ私が混乱していると感じたのか、そのノクタスは再び話し始めた。

    「嬢ちゃんには謝らなきゃなんねぇ。理由はさっき“ふいうち”をしちまったことだ」

    それを言われて私は思い出した。そうか、気絶していたのはそのせいか。
    首の裏はまだひりひりとしていて、やんわりと撫でると少々痛い。途端に怒りが沸点に達した。

    「そうよ!あんた一体どうして、あんな…」

    私が不満を言い終わらないうちに、「だけどな」とノクタスが遮った。

    「俺が気絶させなきゃ、嬢ちゃんは今頃ナックラーの腹の中だ」

    その言葉に思わず口をつぐむと、彼はこう続けた。

    「あの辺りはナックラーたちの生息地なんだ。迂闊に近づいたら奴らの“ありじごく”に捕まって生きては帰れない。
     文句はあるかも知れんが、本来なら嬢ちゃんは例を言うべきなんだぜ」

    それを聞いて私は若干不本意ながらもお礼の言葉を述べた。ただしせめてもの反抗として努めて平坦な声で。

    「…助けてくれてありがとう」

    「…棒読みかよ、まぁお互い様だがな」

    ノクタスはやれやれと手を広げて首を横に振った。何か腹が立つ。
    しかし、ふと疑問に思ったことがあったので、私はそれを聞いてみることにした。

    「お互い様ってどういうこと?」

    ノクタスはそれを聞くと、私のことををまっすぐに見つめてにんまりと笑った。
    その笑顔を見た私の背筋には、正体不明の悪寒が走った。

    「ああ、それはなぁ……」

    そこで一端台詞を切ると、不意に下を向いて黙り込んだ。
    そしてひっそりとこう続けた。


    「嬢ちゃんを…、食べるためさ」



    私は反射的に立ち上がり、この場から逃げようと―――して、躓いた。
    もう一度立ち上がろうとすると、突然体が重くなったように感じた。

    「逃げようとしても無駄さ、“わたほうし”で嬢ちゃんの動きを鈍くさせてもらった」

    さっきまで焚き火の向こうにいたはずのノクタスが、いつの間にか転んだ私の横に立っていた。
    私を見つめるその両眼は、まさに捕食者のそれだ。瞳の奥が爛々と輝いている。

    「人間ってーのは脂が乗っていて実に旨い。特に女子供はな。この辺りには食糧が少ないもんだから、嬢ちゃんは貴重な栄養さ」

    ノクタスが喋っている間に、私はなんとか腰につけているモンスターボールに手を伸ばした。
    しかしいくら腰のあたりを探っても、一向に何かを触れる様子はない。

    「ちょっと!私のモンスターボールどこにやったの!?」

    私の鬼気迫る大声のせいか、はたまた話を遮られたせいか、ノクタスは顔をしかめた。

    「嬢ちゃんのボールなら、勝手に火の傍に置かせてもらったぜ。獲物に抵抗されると厄介なんでな」

    この角度からでは見えないが、おそらくそうなのだろう。しかし相棒のあの子がいないのでは打つ手がない。

    「万事休す…、ね」

    悔し紛れにそう呟いた。なんとか逃げようとするも、身体は少ししか動かない。

    「そのようだ」

    ノクタスはその言葉に同意すると大きく片腕を振り上げた。

    「人間だろうとポケモンだろうと、今まで俺の“ニードルアーム”を受けて無事だった奴はいねぇ。悪いな」

    それと同時に振り上げた腕が急降下して私の首に迫ってくる。私は攻撃に耐えるため反射的にぎゅっと目を瞑った。

















    ……………あ、れ?

    かなりの衝撃を覚悟していたが、いつまでたってもその瞬間が来ない。
    ゆっくりと瞼を持ちあげると、ノクタスは腕を振り下ろし、あとわずかで私の首に当たるかという寸でのところで固まっていた。
    気のせいだろうか、肩が小刻みに震えているように見える。

    「クックックッ…アッハッハッハッハ!」

    突然の大笑いに私は吃驚した。一体何事か。
    しばらくゲラゲラと笑っていたノクタスは、その後ぜいぜいと息を切らしながらこう言った。

    「いやー、いやいや。すまねぇなぁ、譲ちゃん。あんまり譲ちゃんが可愛いから、ククッ、つい調子に乗りすぎちまった」

    そして不意に私の傍を離れると、さっきまで腰を下ろしていた場所に戻ると再びどっかりと座り込んだ。

    「譲ちゃんも、こっち来て座んな。…心配しなくても取って食ったりしねえよ」

    どう聞いてもさっきまでの行動とそぐわない陽気な口調だった、ただし相変わらずゆったりとした声ではあるが。
    私はその言葉を疑いながらも、ボールを取り返すために焚き火のそばへ向かった。
    腰を下ろした私に向かってノクタスはニヤニヤ笑いながら続けた。

    「いやー、俺の趣味は冗談でよぉ。今みたいに人やポケモンを脅かすのがたまらなく好きなんだ」

    「さっきのアレは、ちょっとした演技ってやつだ。少しやり過ぎた感はあるがな。どうだ?吃驚したか?」

    そう言ってから、ノクタスはまたゲラゲラと笑った。
    一方私はといえば、何も言わずにただ黙って俯いていた。
    そして火の傍にあったボールを無言で掴むと、ノクタスから距離をとるため素早く焚き火の傍を離れた。

    「…何やってんだ?」

    ノクタスはまだニヤニヤしている。今の状況が分かっていないようだ。

    「…なんでもないわ」

    私はにっこりと――極めてにっこりと微笑んだ。そして空高くボールを中に放り上げた。

    「出てきて…ゴロちゃん」

    鋭い雄叫びと共に、私の相棒 ――― ラグラージが姿を現す。
    どっしりと構えたその風貌は今まで数多くのトレーナーたちを圧倒し、力強い瞳は一睨みで彼らのポケモンを射竦めてきた。
    それはそのノクタスにも同じことだったようで、今度こそ彼の顔からは笑いが消し飛んだ。

    「…何、する気だ?」

    さっきまでの陽気な声はどこへやら、ノクタスの声はがたがたと震えていた。
    やはり野生のポケモンというだけあって、自分と相手の格の違いを一目で見抜いたようだ。
    代わりに私が微笑みながら、質問に答える。


    「えーっとねぇ…仕返し、かな」

    「…へぇ、そ、そうかい。譲ちゃん中々お転婆だねぇ…」

    余裕ぶっているつもりかもしれないが、声が震えている。視線も定まっていない。

    「命乞いするなら許してあげてもいいけど…?」

    私がそう言うと、ノクタスは居住まいを正し器用に正座すると、頭を擦り付ける様にして土下座した。

    「い、命だけは取らないでくれ!いや、下さい!」

    悲鳴に近い懇願だった。私はゴロちゃんに訊ねる。

    「どうする?命が惜しいみたいだから、ここは見逃してあげようか?」

    最近コンテスト続きで体が訛っていたのか、ゴロちゃんは不満そうに鼻を鳴らした。
    ノクタスは嬉しそうにしながら頭を上げた。

    「譲ちゃん、ありが―――」

    しかし彼はお礼を言いきれなかった。なぜなら―――


    「ゴロちゃん!アームハンマーーー!!」


    私の指示にその台詞をかき消されたからだ。
    顔面にゴロちゃんのアームハンマーを受けたノクタスは、力無く崩れ落ちピクリとも動かなくなった。



    ――― 翌朝。



    「嬢ちゃん、俺そろそろ限界なんだけど…」

    私を背負っているノクタスは疲れ果てた声でそう言った。私は勿論聞こえないふりをする。






    あの後、朝になってもノクタスは目を覚まさなかった。仕方がないので私はゴロちゃんに“ハイドロポンプ”をしてもらう。
    ずぶ濡れになったノクタスは、顔を手で抑えてふらふらしながら起き上がった。

    「お、俺は一体…?」

    その姿は昨晩気絶から目覚めた私に良く似ている。

    「おはよう。御気分は如何かしら?」

    「じょ、譲ちゃん!!頼むから命だけは!!」

    どうやら昨晩のトラウマが残っていたらしい。恐怖からか、あるいはずぶ濡れになった寒さからか、ブルブルと震えている。
    私は腕組みをして溜息交じりに言った。

    「…もうその話は良いわ。許してあげる」

    「ホントですか!?」

    さっきとは打って変わって、ノクタスは涙を流して喜んでいる。

    「た・だ・し!条件があるわ」

    私は彼を黙らせるため、大きな声を出した後こう付け加えた。

    「あなた、この辺りに昔から住んでるのよね。…ということはこの辺りの地理にも詳しいはずよね」

    「あ、ああ…」

    ノクタスはコックリと頷いた。

    「私、この砂漠で道に迷っちゃって…道案内を頼みたいんだけど?」

    それを聞いたノクタスはたちまち憤慨した。

    「冗談じゃねぇ!瀕死にされかけた相手にどうして親切なんか―――」

    私は彼の声を遮って残念そうに呟いた。そしておもむろにゴロちゃんの方を向く。

    「あらそう、残念。…ゴロちゃん出番よ。冷凍パ―――」

    「謹んでお役目引き受けさせていただきます!!」

    指示を出しきる前にノクタスは土下座して案内役を買って出た。

    「…ありがとう」

    私は彼を見下ろして、微笑みながらそう言った。





    「なぁ、頼むから自分の足で歩いてくれよ…」

    ノクタスには昨晩のような元気はない、当然だ。
    ゴロちゃんのアームハンマーをモロに受けたのだから。むしろこうして、歩いているだけでも奇跡的だと思う。
    私は仕方なく、彼の背から降りて地面に着地した。どうして彼が私を背負っていたのかというと、さっき口答えをした罰を受けていたからだ。

    「あ!」

    ノクタスが嬉しそうに声を上げる。私も彼が向いている方を見た。遠くに森が見える。砂漠から抜けられるみたいだ。

    「なぁ、この辺りで俺はお役御免で良いかい?」

    「そうね、もうここでいいわ。今日はありがとう」

    今度は私も、心から感謝の言葉を述べた。ノクタスは満更でもなさそうに頭を掻きながら、

    「いいってことよ」

    と言って照れくさそうに笑った。その後しばらくの間をおいて―――


    「それじゃあな」


    それを別れの挨拶にして、私に背を向け今まで来た道の方を振り返った。
    ゆっくりと歩き出し、私のもとから遠ざかって行く。

    「じゃあね!」

    私が声をかけると、ノクタスは振り向かずに片手を振っていた。
    もう片方の手は、こちらからは何をしているのかわからないが、口元に当てているようだ。

    しかし程無くして、彼が何をしていたのか分かった―――“草笛”が聞こえてきたのだ。


    「綺麗な音色…」


    私はその姿を見送りながら呟いた後、再び振り返って遠くの森を見た。そして第一歩を踏み出し、113番道路へ歩いて行った。




    その日砂漠には、陽気な案山子の草笛が響いていたという。



    -fin-




    ********************************************************


    あとがき

    初めましての方には初めまして。お久しぶりの方にはお久しぶりです。セピアと申します。
    しばらく読み専になっていましたが、久々に作品を書いてみました。
    タイトルが安直過ぎるのはお気になさらず(笑)
    …そうなんです、気のきいたタイトルが思い付かないんですorz

    気を取り直して…
    この作品を気に入っていただければ幸いです。それではまたお会いしましょうノシ


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