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  •   [No.2673] 第七話「とおい はなび」 投稿者:No.017   投稿日:2012/10/16(Tue) 20:01:22     104clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:遅れてきた青年】 【バカー!】 【アオバのバカー!】 【BWで観覧車が出る前の話なんだぜこれ…


    おこるな ?? が くるぞ
    かなしむな ?? が ちかづいてくるぞ
    よろこぶこと たのしむこと あたりまえの せいかつ
    それが しあわせ
    そうすれば ???サマ の しゅくふくがある

    「シンオウしんわ」より





    ●第七話「とおい はなび」





     思い出した。すべてを。
     この場所が何処であるのか。自分が何者であるのか。
     自分がポケモントレーナーであること。どんなポケモン達がいっしょにいて、どのように彼らと共に呼吸をし、どうやって戦ってきたのかを。傍らにいる女性トレーナーが誰なのかを。
     そして、自分が成さなくてはならないことを。

     青年が記憶の回復を伝えるとシロナは大いに喜んだ。
     最も、試合の流れが変わったあたりからそうではないかと思っていたらしいが。


    「いきますよ!」
     ノガミが六つのモンスターボールを一斉に投げる。次々と赤い光が立って、様々な形のポケモンの姿が形成されてゆく。そして、そのポケモン達はスタジアムの中央で構えているある一匹のポケモンに向かって突進していく。
    「リーフストームから、噛み砕く!」
     先鋒はハヤシガメ。背中を守る鎧の上から生えた樹木から無数の葉が刃となって舞い散り、ターゲットの方向に吸い込まれるように飛んでいく。その先にいるのは両腕にヒレの刃を持ったドラゴンポケモン。彼女はキッとハヤシガメを睨みつけた。
     嵐の日の豪雨のように葉が身体を叩く。走りこんできたハヤシガメが彼女の腕に噛み付いた。が、軽々と彼女はそれを払ってみせる。ハヤシガメの身体が吹っ飛んだ。
    「次!」
     とノガミが叫ぶ。スタジアムに複数映る影の一つが大きな影に向かって飛び掛る。だが、その影もすぐに吹っ飛んだ。チッ、とノガミが舌打ちする。


    「ノガミさん、ポケモンは持っていらっしゃらないんですか」
     立会いを依頼してきた青年が、次にノガミにぶつけてきた質問はそんな内容だった。
    「……持っていたら、なんなんですか」
     不機嫌そうに答えた後、ノガミはしまったと思った。わざわざ答える必要もなかっただろうに。気がつけば、すっかり青年のペースに乗せられていたのだ。答えを聞いた瞬間、青年がにんまりと笑ったのが見えた。
    「それなら決まりだ。立会いの時はノガミさんのポケモンみんな連れて」
    「アオバさん、」
     思わずノガミは青年の言葉を遮る。
    「なんです?」
    「それって、もはや立会いとは言いませんよね?」
    「似たようなものじゃないですか」
    「全然違いますよ! あなた、私のポケモン相手にバトルの予行をするつもりでしょ!」
    「……だめ、ですか?」
     と、青年はこの世の終わりのような残念そうな顔をして聞いてきた。
    「う……っ」
     と、ノガミは一瞬動揺するが、
    「そ、そんな顔に騙されませんよ! だいたいポケモンリーグで上位の人のポケモンの相手が、私のポケモンに務まるわけがないでしょ! シロナさんかカイトさんに頼めばいいじゃないですか」
    「シロナはだめです」
    「なんでです?」
    「これから当たる相手なんですよ。わざわざ今から手のうち明かすわけにはいかないでしょ」
    「カイトさんは?」
    「ああ、カイトもだめです」
    「なぜ」
    「去年負けた後、自分のポケモンと一緒に会場の屋台のメニュー全制覇だと言って、食べ歩きツアーを敢行していました。バトルを見る以外は閉幕までそうやっていました。たぶん今年もそうなるでしょう」
    「………………」
    「そういう訳だからノガミさん、俺にはあなたしか頼る人がいないのです……」
     ぽん、ノガミの両肩をつかんで青年は、デパートの屋上でトレーナーに飲み物をねだるポケモンのような眼差しを向けてきた。
    「自分のポケモン同士でやってもいいけど、パターンが知れていて。どうしてもそうじゃないポケモンとやっておきたいんですよ」
    「ですから、相手になりませんよ。僕のポケモンなんて……」
     気持ち悪い人だな、と思いながらノガミは目線を逸らし、そう答えた。
    「そりゃ、普通に勝負したらそうかもしれませんが」
     と、青年が言う。キラリとノガミの眼鏡が光った。この野郎、自分で言いやがった。
    「でも、たとえば、ノガミさんのポケモン六匹でガブリエルを袋叩きとかだったらどうです? 予行の方法は何も正規の対戦方法によらなくてもいいんだし」
     やはりこいつは人をバカにしている、とノガミは思う。
     しかしまぁ、モノは考えようだ。たしかに六匹でかかればいかにリーグ上位トレーナーのポケモンと言えど、一匹くらい戦闘不能にできるかもしれない。不本意な形式ではあるが実力者と一戦交えてみるのも一興ではないか。
    「…………、…………わかりました。では回復が終わったら連絡しますから」
     渋々とノガミは了承した。
     けれど内心、自分の心の動きに少し驚いていた。現役を退いてからほとんどバトルをしたがらなかった彼にとって、それは思わぬ心境の変化だった。もしかしたら、試合を見て元現役トレーナーの血が騒いだのかもしれなかった。
     ……最も、単純に青年の挑発に乗ってしまったとも言えるのだが。
    「それよりアオバさん、早く手を放してください」
    「どうしてです?」
    「後ろに立っているシロナさんが、さっきからずっと変な目で見ているからです」
    「…………」


     ガブリエルに、三匹の影が同時に飛び掛かった。一匹が技でガブリエルの動きを止め、残りの二匹が挟み撃ちにする。
     小賢しい! とばかりに彼女は咆哮を上げた。
    「砂嵐」
     と、青年が唱えると、彼女を中心にして砂を伴った竜巻が沸き起こり、ポケモン達を弾き飛ばす。残りは一匹。
     青年はノガミの方向を見る。ノガミの足元には六つのボールが落ちている。うち五つはすでに殻で、中身がなくなったパールルみたいにパカッと口をあけて転がっている。その中に一つ。まだ開いていないボールがあった。半球が青い色のボールだった。通常のモンスターボールの捕獲性能を一段階向上させたその機械球の名は、スーパーボール。
     突然そのボールのボタンが赤く点滅したかと思うと、形を形成しきる前に砂嵐にむかって一直線に飛び出した。ずっと息を殺して、この機を待っていたようだった。
     青年とそのポケモンが、最後のポケモンが飛び込んだ先に目を凝らすが姿が見えない。
    「コクヨウ、ドラゴンクロー」
     ノガミが指示を出す。
     突然、ガブリエルの背後からノガミのポケモンが現れ、彼女の背中を切り裂いた。
     すながくれ。砂嵐の中で姿を隠し、回避率を上げるポケモンの特性の一つ。ガブリエルと同じ特性を持つポケモンの一撃。
    「特性が同じなら小さいほうが捕捉するのは困難となる」
     ガブリエルが振り向いたとき、ポケモンの姿はすでになかった。すると今度は横から一撃が放たれる。
    「嵐を止めろ、ガブリエル!」
     青年がそう指示して、彼女は嵐を止める。
     が、砂が収まりきらないうちに別の所から竜巻が巻き起こった。
    「そちらが止めたならこちらで、起こせばいいだけのことです。コクヨウ!」
     また一撃が入る。
     一方的な相手の攻撃に、ガブリエルはイライラした様子を見せる。
    「熱くなるな、ガブ」
     青年が冷静に彼女をなだめる。
    「雨乞いだ」
     ガブリエルの表情がすっと軽くなる。落ち着きを取り戻したのが見てとれた。ガブリエルが空に向かって咆哮する。
    「くそ、そんな技まで!」
    「すながくれ同士になったら、体格のいいほうが不利。以前、これにしてやられたことがありましてね。もっとも相手が水ポケモンなんかを隠し持っていると墓穴を掘りますが」
     雲が現れる。空気中の水分を吸ってみるみるうちに成長していく。ほどなくして、雨粒がスタジアムを濡らしはじめた。さきほどまで舞っていた砂は、雨に吸収され、みるみる視界が開けていく。雨で濡らされた地面はもう砂を巻き上げない。ポケモンの姿があらわになる。
     それはガブリアスによく似た、デフォルメして縮めたようなポケモンだった。爪が一本しかなく、両腕に鎌のようなヒレのようなものを生やしている。頭に生えた妙な形の突起もそっくりだ。
    「ガバイトか」
     と、青年が呟いた。
     ガバイト。それはガブリアスの一段階前の姿だ。ノガミの持つそれは通常のガバイトよりは少し黒っぽい色をしている。おそらくコクヨウと言う名前はそこからきているのだろう。
     ガバイトはその姿があらわになっても戦意を失わなかった。低く唸り声を上げ、その目には確かな闘志が宿っていた。
     相手が自分の進化系だろうが構わない。むしろ、最後まで姿を見せなかったのは、邪魔者がいなくなった後、自分の同族とサシで勝負する気だったからのように思えた。
     たいしたヤツだ、と青年は感心した。すぐさまガブリエルに攻撃の指示を出す。経験上知っていた。こういうやつは力をもって戦闘不能にすることでしか止まらない。
    「逆鱗」
     青年がその単語を口にすると、ガブリエルの眼がカッと燃えた。そうかと思うと、瞬く間にガバイトまで距離を詰める。
     何かが発火するような音がスタジアムに響き渡って、勝負は決した。


    「バッジを集めて回っていた頃、たまたまテレビのリーグで見たガブリアスに憧れましてね、なんとか生息地を調べ出してフカマルを捕まえに行ったんです。けど、なかなか見つからなくて」
    「なかなか会えないんですよね」
    「もう諦めて帰ろうかなというときに、洞窟のもう一つの入り口を見つけまして」
    「フカマルのトレーナーなら誰でも通る道ですよね、それ」
    「そうなんですよね、誰も本当の生息地を教えてくれないんですよ」
    「この種を持つための通過儀式、なんですよね」
     自動販売機で買ったサイコソーダがやけにうまく感じる。こんな感覚はひさしぶりだとノガミは思った。彼が座っているベンチの隣には青年が腰掛け、うまそうにミックスオレをすすっていた。
    「ねぇ、ノガミさん、なんでトレーナーやめちゃったんです?」
     すっかりリラックスしきっていたところで、彼は青年の奇襲を食らった。
    「……なんで、そんなことを聞きたがるんです?」
     こいつ空気が読めないんじゃないか、と思いつつ、ノガミが問い返す。
    「どうしてって、聞いてみたかったからですよ」
     と、青年が答えた。
     やはり空気が読めないようだ、とノガミは思う。
    「……限界を、感じたからですよ。バッジを八つ集めたはいいけど毎年予選を通過できなくてね」
     けして気分のよい問いではなかった。彼はさも平静そうに、不機嫌さを隠すようにそう答えた。
    「それで、ポケモン協会の職員になった?」
    「そう、トレーナーには見切りをつけて、ね。それが何か?」
     表情を出さないようにしながら、彼は続けた。目の前の青年といい、上司といい、どうして皆そのことにばかり触れたがるのだ? もう、たくさんなのに。
    「うーん……なんていうかノガミさん、まだまだ行ける気がするんですよね。発展途上っていうか。特にコクヨウなんか」
     やっぱりこいつとはソリが合わないらしい、とノガミは思った。
    「たとえば、ノガミさんがポケモンを厳しくあしらって、他の手持ちに見放されたとしても、彼だけは文句言わないでついてきてくれますよ」
    「私、そんなにスパルタに見えますか」
    「例え、ですよ」
     と、青年は言った。悪気がないのはわかっていた。だが。
     ノガミはぐっと奥歯を噛んだ。お前みたいに、自分が欲しかったものをみんな持っているお前なんかに、何がわかるというのだ。
    「私達の成長は、バッジを八つとった時点で止まったんです。決して、次のリーグが巡ってくるまで遊んでいたわけじゃない。次こそは予選を通過するんだって賢明に努力した。けれど、何度やっても結果は同じ。成績が上がることは決してなかった。それどころか、一般に時期だろうと言われる段階に来ても、それを過ぎても、ついにコクヨウ達が進化することはなかったんです」
     そういえば、という表情を青年が浮かべた。ノガミの使ってくるポケモンの中で二段階の進化をするポケモン達、ハヤシガメもガバイトも最初の進化を経験しているだけなのだ。
    「それで見切りをつけたと?」
    「越えられない壁があるんです。ポケモン不孝なトレーナーだと思っているんでしょう? 僕はあなたのようにご立派なトレーナーにはなれなかった」
     投げ捨てるように彼は言った。それは青年へのあてつけを含んでいたが、けしてそれだけの言葉でもなかった。
    「そんなことありませんよ。世の中にはもっとポケモン不孝なトレーナーがたくさんいる。自分の手持ちのことを忘れちゃったり、手放したりするトレーナーがね。それはポケモンを強くしてやれれば理想なのかもしれない。でも一番重要なのは一緒にいてやることだと俺は思います。あなたは現役を退いた今だって、ずっと一緒にいるじゃないですか」
    「どうですかね。今日みたいな機会がなかったらボックスに預けっぱなしだったかもしれませんよ」
    「それは嘘ですね。ハヤシガメの葉のみずみずしさも、ガバイトの鱗の輝きも、ボックスに預けているだけじゃ維持できやしない」
     青年がすぐさま切り返してきて、ノガミはそれ以上悪態をつけなくなる。
    「喜ぶこと、楽しむこと、当たり前の生活。それが幸せ」
    「なんですか、それ?」
    「シンオウ神話の一節です。なかなか深いと思いませんか? 本当に大切なものはきっと身近なところにある。リーグの成績なんておまけみたいなものです」
     青年は言った。彼は膝に乗せたサンダースを撫でてやる。その足元や傍らに、彼のガブリアスや他のポケモン達が寝そべり、寝息を立てていた。
    「あなたに言われても説得力ありませんよ。御託はたくさんです」
     と、ノガミは答えた。
     ……嫌いだ、お前なんか。
     ああ、どうして。どうして自分のとなりにいるのが、ミモリアオバという青年ではなく僕自身でないのだろうか。
     不意に、青年の膝の上のサンダースが片耳をぴくっと上げた。そして、立ち上がると、ノガミに向かって吠え立て始めた。そのあまりの剣幕に怖気づいて、彼は後ずさりする。気持ちを読まれたのか。それにしたってそんなに怒らなくてもいいじゃないか。
     さらに、サンダースにつられて青年の他のポケモン達までもが騒ぎ始めた。あるものは同じように吠え立て、あるものはバサバサと落ち着きなく飛び回り、あるものは鼻息を荒くして地面を蹴る。ガブリアスの咆哮がスタジアムに響き渡り、ハッサムがものすごい形相で睨みつけてきて、ノガミは心底震え上がった。
    「落ち着いてください! ノガミさんにじゃないですよ」
     サンダースをなだめながら青年が言った。
    「その、野生のポケモンがこっちを見ていたみたいで……」
    「え、野生ポケモン!?」
    「おいラミエル、そんなに毛を逆立てると痛いじゃないか! お前たちもいい加減鎮まれ。これ以上吼えるならボールに戻すからな!」
     青年がそう言うと、キュウンとサンダースが鳴いて、耳を垂れると悲しそうな顔をした。彼らは不満そうだったが、渋々と騒ぐのをやめていき、そこでやっと落ち着きを取り戻したノガミはポケモン達の吠え立てた方向を見た。が、すでに野生ポケモンの姿は見当たらなかった。
    「これだけ訓練の入ったポケモンがあんなに吼えるなんて……。一体何がいたんですか」
     と、ノガミが尋ねたが、すぐに姿を隠してしまってよくわからなかったようなことを青年は言った。彼は、よしよしいい子だ、怒鳴ったりしてごめんよ、などとと言って、自分の周りに集まったポケモン達を撫でてやる。ガブリアスが青年にかぶりつくのが見えた。
    「ノガミさん、お騒がせしてすみませんでした」
     ガブリアスに噛み付かれながら、青年が謝罪する。
     きっと、これが信頼関係なのだと思う。
     だが、一方でノガミはこうも思った。こいつは自分の欲しいものをすべて手に入れているのだと。こんなにも持つ者は持たぬ者を惨めにする。強者のポケモンはそれを持たぬトレーナーの嫉妬を掻き立てる、と。
     そしてタイミング悪く、青年はさきほどまで話していたことについて話題を軌道修正してきた。
    「そうだ。さっきの続きなんですがね、ノガミさんにぜひ聞いて欲しい話があるんですよ。俺の祖母の昔話なんですけど」
     こいつは本当に空気が読めないらしい、とノガミは思う。
     一方、青年もノガミがあまりに不機嫌そうな顔をしているので、一瞬躊躇した様子を見せた。が、結局彼は構わずに話を始めてしまった。
    「初日にシロナが言ったと思うけれど、俺の祖母は四天王キクノの姉妹にあたるのです」
     と、前置きする。
    「俺はこういう髪型でしょう。よく男のくせにと言われるし、シロナにもキザだと言われるんですけどね、俺の髪を結んでいるこれ、祖母から貰ったものなんですよ。幸運をもたらすお守りだと言っていました」


    「ヒマそうだな、シロナ」
     屋台の並ぶ通りを彷徨うシロナに、声をかけたのはカイトだった。口のまわりをソースらしきもので汚して、手にはイカ焼きを持っていた。 傍らのエンペルトも同じようにイカを持って、嘴を汚している。皇帝ポケモンの威厳も何もあったものではない。
    「そういうあなたも相当ヒマそうだけど」
     と、シロナが言うと、一回戦でアオバに負けちまったからな、とカイトが答えた。
    「おまえさんは勝ったんだろう?」
    「ええ、お陰様で。というかアオバと当たるまでは負けられないのよ」
    「当たるまで、じゃなくてアオバに勝つまで、だろ?」
    「そうね、そうとも言うわ。あわよくば、そのまま優勝といきたいわね」
     ふふっ、とシロナが笑う。
    「ところで、アオバは? 一緒じゃないのか」
    「調整中よ。今までの遅れを取り戻すんだって。記憶が戻った途端、これよ」
    「記憶が戻った? 記憶喪失ってマジだったの?」
    「そうよ、大変だったんだから。だから、あなたにはお礼を言わなくちゃいけないわね。あなたとの試合中に戻ったのよ」
    「おいおい、俺ってそういう役回りなのか?」
     と、カイトは損したなぁといった感じをあらわにした。
    「そうだ、ちょうどよかったわ。ちょっと付き合って欲しいんだけど」
     突然、シロナが思いついたように言った。
    「付き合う? あんたが付き合っているのはアオバじゃなかったのか」
    「ちょっと! そういう意味の付き合うじゃないわよ! だいたいアオバとはそういう関係じゃないんだからね!」
     カイトがちょっとつっつくとシロナは簡単に予想通りの反応をしてくる。わかりやすいなぁと、彼は思った。
    「そうじゃなくて……もう少しで、リオ達の回復が済むのよ。あなたにはバトルの練習相手になって欲しいの。アオバが調整しているっていうのにこっちも負けてられないじゃない」
    「まぁな、でも俺でいいわけ?」
    「あなたアオバに負けて悔しくないの? ここで私の相手になって、それで私がアオバに勝ったなら間接的にしろ勝ったってことになるわ」
    「……なんかその理屈、無理やりじゃない?」
    「いいじゃない。食べ歩きもたいがいにして少しは運動したほうがいいわよ。そのほうが後の食事がおいしくなるわ」
    「…………ふーむ、それもそうかぁ」
     そう言うと、イカ焼きを一気に平らげる。一緒になってエンペルトもそれを平らげた。どうやらその気になったらしい。
    「わかった、その話乗るよ。イワトビもリベンジ決めたいってさ」
    「ありがと。さっそく、スタジアム使用の手続きしをないとね、一緒にきてくれる?」
    「ああ」
     そうして、おそらくは利害が一致した二人はスタジアムに向けて歩き出した。
    「でもさぁ、シロナ。お前、本当にアオバと付き合う気ないわけ?」
     道中、カイトはそんな質問をぶつけてくる。
    「ちょっと、なんでさっきからその話題ばっかりなのよ!」
    「だって、お前アオバのことさ、」
    「それ以上は言わないで」
    「素直じゃないな」
    「うるさいわね。私だって、その時がきたら、ちゃんと……」
    「その時?」
    「アオバに勝った時よ」
     顔を真っ赤にして彼女は答えた。そして、こう言った。
     ――私ね、決めているの。その時までは勝負に集中する。でも準決勝で勝ったら、準決勝で彼に勝てたら、気持ちを伝えるの。
     それを聞いたカイトは「そっか」と言って、それ以上は何も言わなかった。


    「彼女は、遅咲きのトレーナーだった」
     と、青年は語った。
    「若い頃の祖母は姉のキクノに比べると極端に出来が悪くてね、顔はそっくりなのに、バトルの成績はてんで正反対。とうとう比べられるのに耐えかねて、シンオウを出て行っちゃったんです」
    「……それはまた思い切りましたね。シンオウを出てどこに行かれたんですか」
     と、ノガミが冷めた調子で言った。そっけない反応ではあったが、まったく話を聞く気がないわけでもないらしかった。
    「カントーです」
     と、青年が答える。
    「自分を誰も知らない土地にいって、ようやく彼女は姉妹の呪縛から解放された。カントーの大学に通い、結婚して出産もした。その間も細々とトレーナーを続けながら、ね。そうして、子どもも大きくなって旅立っていって」
    「それで?」
    「それからです。手隙になって、彼女はさらに本格的なトレーナー修行をはじめた。そして、おおよそ若いとはいえない年齢から急に強くなったんです。彼女は勝ちに勝ちまくり、ついにカントーの四天王に上り詰めた」
    「……つまり、姉妹そろって四天王になっちゃった訳ですか。あなたのお婆様がそこまで変わった理由はなんだったのでしょう?」
     そうノガミが問うと、青年は待っていたとばかりに続ける。
    「祖母が言うには、ある日突然、自分が四天王になっているのをはっきりとイメージしたのだそうです」
    「イメージした……?」
     彼にとっては意外な回答だったらしく、ノガミは詳細を尋ねる。
    「そう、それはもうリアルに」
     と、青年は答えた。
    「彼女が好んで使用するのはゴーストタイプでね、もしかしたら、祖母の見た『それ』は彼女のゲンガーが見せた幻か何かだったのかもしれない。ほら、あいつらってそういうものを見せるのが得意でしょう」
    「ゴーストポケモンでその手の話をしたらきりがありませんね」
    「でも祖母は、それを本気にした」
     青年は言った。今までのどんな語りよりも強調して答えた。
    「……それで、四天王になったと?」
    「そうです」
     青年が肯定する。確信を持って。
    「全部とは言いませんが、ゴーストが使う技は精神的に来るものなんじゃないでしょうか。ダメージを受けた相手がダメージを受けたと思うから、ダメージを受けるのです」
    「受けたと思うから……ですか」
    「たとえば、幻覚。見えている本人には、たしかに見えているんです。脳がそう自覚しているんです。となると、ノーマル属性にゴースト技がほとんど効かないのはこのあたりに関係があるのかもしれない。ノーマルという属性が精神に作用しているとすれば……」
     すると、はぁ、とノガミがため息をつく。
    「それはまた大胆な仮説ですね。研究者の道に進まれたほうがよかったのでは?」
     と、嫌味を言った。
    「俺が思うに、あなたは早い段階で負けすぎたのです。だから勝つ自分を、自分のポケモン本来の強さをイメージできないでいる」
     と、青年も負けずに答える。が、
    「……その話が本当だとしても、私とあなたのお婆様は違いますよ」
     と、ノガミは言った。
    「想像するんですよ、ノガミさん。スタジアムに続く階段を。長い長い廊下を渡り終えて、そこを一歩、また一歩登っていく。扉を開くと、歓声が聞こえてくる――――俺はこう思うのです。表彰台に立つ自分を最後までイメージし続けることができた者、信じ続けられる者がチャンピオンになれるのだと」
    「…………」
     ノガミはしばらく青年を見つめて黙っていたが、最後に一言、ぼそりと言った。
     そんな人、いるんでしょうか、と。
    「これで俺の話は終わりです。長々と変な話をしてすみませんでした。別に忘れても構わないけれど、心の片隅にでも置いておいてくれるなら嬉しいです」
    「…………考えておきますよ」
     青年がしんみりした口調で言うので、ノガミは思わずそんな答えを返す。それに対して青年は、
    「ありがとう」
     と、礼を述べた。


     トーナメントは二回戦へと移行する。一人の勝者と一人の敗者を出して。上に一段上がるごとに半分のトレーナーが消えていく。その中で青年は、上へと上がっていく。
     彼の持つガブリエルを筆頭とした強靭なポケモン達、そこに冷静な青年の指示が加われば、鬼に金棒だった。そうそう勝てるものなどいはしない。
     二回戦を終えて三回戦進出。彼は確実に駒を進める。そこにはもう、かつての頼りない青年の姿はなくなっていた。

     試合が終わる。その日はすでに夜になっていた。勝者を祝福するかのように花火が夜空に咲き誇る。
    「アオバさん、僕は花火が嫌いです」
     夜の調整中、夜空に咲く花火を見ながら、ノガミはそんなことを言った。
    「どうして?」
     と青年が尋ねると、
    「儚いじゃないですか。まるで敗れ去っていくトレーナーの夢のようだ。僕はこの仕事についてチャンピオンになれないトレーナー達をたくさん見てきました。かつての僕がそうだったように。花火が一つ消えるたびに夢が一つ消える。僕にはそんな風に見えるんです」
     彼は損な性格だな、と青年は思う。けれど、そんなセリフを吐くノガミの気持ちを否定できずにいる自分に気がついた。いつからだろう、と回想する。
     だがすぐに、ああ、あの時だと青年は目星をつけた。初日の屋台で、予選落ちしたトレーナーの言葉を聞いたあの時。
     パン、と花火が上がる。花火の下にあの時屋台から見えた観覧車が見えた。
    「でも、どんなに強いチャンピオンだっていつかは誰かに負けるんですよ。観覧車が上に登ってもいつかは降りてくるみたいに。誰だっていつか観覧車から降りなくちゃいけない。それって、他のチャンピオンになれなかったトレーナーとどう違うのでしょうか」
     いつのまにか青年はそんな言葉を呟いていた。
    「だったら、なんでみんなチャンピオンなんかになりたがるんでしょうか。いつか誰かに負けるためだとしたら空しすぎやしませんか」
     と、ノガミが問う。
    「それには二通りの答え方ができます。夢っていうのはそういうものなんです、と答えることもできるし、いつか誰かに負けるためという風に答えることも出来る。どう考えるかは……」
    「アオバさん、それって、負けたいんですか。勝ちたいんですか?」
    「そりゃあ勝ちたいに決まってるじゃないですか」
     と青年は言った。
    「そういえば、」
     急に思いついたようにノガミが話題を振る。
    「勝つの負けるのって言ったら、シロナさんはどうなんです。最近見かけませんけど」
    「ああ、あいつはあいつでトレーニングしているんでしょう」
    「そんなもんなんですか」
    「そんなもんですよ。今頃ガブリエル対策でも立てているんじゃないですか」
     そう言って、青年はハハハ、と笑った。ノガミはその答えにあまり満足しなかったらしく、
    「シロナさんってアオバさんの何なんです? どう思っているのですか、彼女のこと」
     と、少々突っ込んだ質問をしてみる。
    「なに、って」
     青年が少々言葉を詰まらせる。そして、しばらく考え込んで、
    「あいつはライバルです。今大会で最もてこずる相手だと思っています」
     と、答えた。
    「……それだけ、ですか?」
    「それだけですよ。他に何があるって言うんです?」
    「……そんなこと言ってると、そのうちカイトさんあたりに取られちゃいますよ」
     と、ノガミが言うと、ああそれが聞きたかったのね、と察したらしく
    「大丈夫、それはない」
     と答えてみせた。
    「あなたのそういう自信過剰なところが嫌いだ」
     ノガミは呆れたように言った。

     三回戦、青年はさらに駒を進めた。シロナも負けてはいなかった。的確な指示で、対戦相手のポケモン達を次々に攻略していった。去年よりずいぶんキレが増したように思える。
     カワハラがトーナメント表に書き込んだ赤い線が、伸びて近づいていった。

    「ねぇ、ノガミさん、ガブリエル使ってみません?」
     そんな頃、青年が突然、そんな提案をしてきた。
    「なんなんですか、今度は」
    「僕が残りのメンバーで挑む。ノガミさんとガブリエルでそれを迎え撃つ。ガバイトを持っているあなたなら、勝手はわかるでしょ」
    「今度は何を企んでいるんですか」
    「いや、実際にガブリアスを使ったらその、いいイメージが沸くんじゃないかと……」
    「まさかあなた、私がガブリアスを使ったら、コクヨウが進化すると思っているんじゃ」
     あ、ばれた? という表情を青年が浮かべ、やっぱりという感じでノガミがため息をつく。
    「でも、やるだけならタダでしょう。僕としても相手がガブリエルをどう見るかというところを試す目的があるんです。対戦相手の目線で見てみたいんですよ。言うなればシロナの目線でね」
     と青年は切り返した。
    「そういえば、さっき結果が出たみたいです」
     ノガミは思い出したように告げた。
    「勝ちましたよ、彼女」

     四回戦が終わる。二人の線はさらに近づいた。
     ステージは五回戦へと移ってゆく。

     ポケモン達をボールに収め、シロナは控え室のソファーに座っていた。さすがに、試合数が少なくなってきているためか控え室のテレビは、リーグに関係でない番組も映し出すようになった。今やっているのはシンオウ旅紀行なる旅行番組だ。
     心は静かだった。そう、テレビ画面に映る湖の水面のように静かだ。
    『えー、私は今リッシ湖のほとりのホテルに来ております。ここに新しくできたレストランは、なんとポケモンバトルが楽しめるレストランで、湖の風景と食事を楽しみながら――』
     そこまでアナウンサーが言うと、突然テレビがぷっつりと切れた。
     彼女が何事かと思って振り返ると、そこにテレビのリモコンを持ったアオバが立っている。
    「よお、ひさしぶり」
     と、青年は言った。
     いきなりテレビの電源を切られて、シロナは少々むっとしたが、それはひさびさに見た青年の姿の前に掻き消えてしまった。
     一回戦が終わってからろくに会っていなかった。もちろんお互いがそのようにしていたのもあるのだが、たまに見かける青年はいつも何かを考え込んでいて、話しかけようとしたら、決まってノガミがやってきて、さっさと調整に向かってしまい、タイミングを逃しっぱなしだった。これが本来あるべき関係なのかもしれない、と彼女は思ったが、避けられているようにも感じて少し不安になっていた。だから、
     ――五回戦もとい準々決勝が終わったら、外でゆっくり話さないか。
     そんな誘いがその場で青年のほうからあって、シロナの胸は躍った。

     ポケモンリーグ、それは祭である。
     観客はずっとバトルばかりを観戦しているわけではない。食べ、飲み、歌い、買い物をし、祭を満喫する。それを満足させるため屋台はもちろんのこと様々な店が並び、花火が打ちあがり、アミューズメント施設が建造され、フル稼働する。
     五回戦に勝利し、待ち合わせの場所についたシロナを、少し前に勝ち上がった青年は待っていた。
    「勝ったな」
     と、開口一番に彼が言って
    「うん」
     と、シロナが返事をする。二人は歩き出した。
     屋台で適当に腹ごしらえをすると、今度は様々なグッズの並ぶ露店を見て回る。あるときはフカマルのぬいぐるみを見つけ、ガブちゃんだ、似てねぇよなどと言い合い、通行人が連れているリオルを見つけてはしゃいだりした。
     次に見つけたのはアクセサリーの店、ポケモンの耳や尻尾、模様をモチーフにした髪飾りなどが並んでいた。その中に黒いかんざしのようなものを青年が発見する。
    「なぁこれ、ルカリオの耳の下の突起に似てないか」
     と、青年が尋ねると、
    「でもラインが入っているじゃない、きっとブラッキーがモデルよ」
     と、シロナが答えた。
    「でもこれを二対にして使うと……」
    「………………」
     そう言って今度は、それを重ねてみせる。
     彼がずいぶんムキになって頑張るので、彼女は、ハイハイそうね、ルカリオね、と同意した。
     するとどういうわけか、青年はルカリオだと主張するそれをレジに持っていき、会計を済ませる。そんなものを買ってどうするのよ、と言うシロナに
    「はい」
     と、手渡した。
    「……いらないわよ」
    「いいじゃん、準決勝進出祝い」
     紙袋を押し付ける。
    「誰も頼んでない」
     ちょっと、頬を赤く染めながらシロナが言う。
    「どういう風の吹き回し? ……今日のあなた、ヘンよ」
    「そうか? だって、連日のバトルで賞金もずいぶん入ったし……とにかく、渡したからな」
     そういって、青年は方向転換すると早足ですたすたと歩いて行ってしまった。返品を受け付けるつもりはないようだ。
    「…………」
     押し付けられた紙袋をしばし見つめた後、シロナは青年の後を追う。いくつもの露店と灯りが作るトンネルを抜け、二人は歩いていく。夜空にはパン、パンと花火の上がる音が響いていた。突然、青年の足が止まる。
    「今度はなんなのよ」
     と、シロナが尋ねると、
    「ねぇシロナ、あれ乗らない?」
     と夜空を指差して青年が言った。 
     花火が上がる夜空を仰いで彼が提案したのは、初日の夜に屋台から見た観覧車だった。

    「しばらくぶりだな、こうしてゆっくり話すのは」
     彼らは窓に映るガラス張りの夜空を背景に、対になってゴンドラの椅子に腰掛けている。
    「予選ではずいぶん世話になったのに、何の礼もせず悪かった」
     改まって青年はそう言った。でもガブ達をちゃんとかまってやりたくてと、続ける。
     ああ、もしかしてさっきの謎のプレゼントはそういう意味だったのかしら、などとシロナは思案した。
    「仕方ないわよ。あんな状態だったんだもの。それに今はトーナメント中、調整は必要よ」
     と、答えた。
    「ああ、そうだな」
     と、青年が返す。
     そんな会話をする二人を乗せて、ゆっくりゆっくりとゴンドラが登っていく。
    「いよいよ準決勝だな。俺かシロナ、どちらか勝ったほうが夜の決勝に進む」
    「そ、そうだね」
     夜空に花が咲く。青年がいつになく真剣な表情で話すので、彼女は少し緊張した様子だった。
    「……言っとくが、手加減はしないからな」
    「あ、当たり前じゃない、そんなの!」
     顔を赤く染めてシロナが叫ぶ。
     夜空に花が咲いては消え、また打ちあがる。その後に続いて音が響いてくる。
    「ここまで来るのに長いようで短かったような気がするな。いずれにせよ、表彰台に足を掛けられるところまでは来たわけだ。あとはどの位置に立てるか、それが問題だ」
     冷たいガラスの壁に触れて、夜空を覗き込むように青年は言った。
    「ねえ、どうしたの、アオバ。やっぱり今日のあなたヘンよ」
     と、シロナは言う。
     すると青年はシロナのほうに向き直って、
    「なぁシロナ、お前はどうしてチャンピオンになりたいんだ?」
     と、問うた。
    「え、どうしてって…………」
    「どんなに強いチャンピオンでも、いつかは負けるときが来る。その座を誰かに譲るときが来る。観覧車に乗って高いところに行ってみても、いつかは下り始める。いつかは観覧車から降りなくちゃいけないのに」
    「たしかに、それは……そうだけど」
    「いつか誰かに負けるためにチャンピオンが存在するのだとしたら、空しすぎると思わないか? だったら、どうして皆チャンピオンなんかになりたがるんだろう?」
     突然、青年がそんなことを言い出すので、彼女は驚いた。おおよそ彼らしくない発言だと思った。いや、倒すべきライバルにそんなことを言って欲しくはなかったのかもしれない。
    「やっぱり今日のあなたヘンよ。記憶が戻って、知恵熱でも起こしたんじゃないの?」
    「……そうかもしれないな」
    「ちょっとは否定しなさいよ」
     シロナが突っ込む。
    「実は、これと同じことをある人が言ってきてね」
     と、青年が答えた。
    「それ、ノガミさんでしょ」
    「よくわかったな」
    「あなたこの数日、ノガミさんくらいにしか会ってないもの。あの人なら言いそうだわ」
    「おいおい、それはノガミさん傷つくんじゃないかな……」
     だが、完全否定もできず、青年は苦笑いする。それから彼は、ノガミのポケモンとバトルをしたこと、どんなことを話して、何を思ったのかそんなことのもろもろを彼女に語った。彼女はそれを黙って聞いていた。
     観覧車が上がっていく。もうすぐ頂上が近かった。
    「………………イメージしたからよ」
     突然、シロナは言った。
    「え?」
    「私がチャンピオンになりたい理由。幼いころ、おばあちゃんに連れていってもらってポケモンリーグを見たの。それで、いつか私も自分のポケモンを連れて、この舞台に立つんだって、表彰台に上がるんだって想像したわ。その後に、いつか自分がどうなるかなんて知らない。けれど、そのとき確信したの。私のあるべき場所はここだって」
    「…………それだけ?」
    「それだけよ」
    「……そうか」
     青年は夜空を仰ぐ。また一つ、花火が上がって消えた。
     花火が一つ消えるたびに、誰かの夢が消えていくと言った者がいた。誰もが望んだとおりに生きられるわけじゃない。望んだとおりになれるわけじゃない、勝ち残れるわけじゃない。
     けれど、もし――
    「それじゃあ、」と、青年は言いかけて、一度止める。
     次に自分が彼女に問うであろう、その問いの答え。青年にはもうわかっていたからだ。
     だが、だからこそ、はっきりと聞きたいと彼は思った。もう一度口に出す。
    「それじゃあ、その時のイメージは今でも変わっていないんだね?」
     青年は問うた。
     そして、彼女はただ一言、こう答えた。
    「当たり前じゃない」と。
     それを聞いた青年の口元がフッと笑う。
     観覧車は頂上に達し、瞬間、下りに入った。花火の音が耳に響いている。
    「なぁシロナ、大事な話があるんだ」
     突然、青年はそんなことを切り出した。
    「えっ……?」
    「シロナに聞きたいことがあるんだ。どう思っているか」
     真剣な顔で青年は尋ねる。
    「どう思っているって……?」
     どうって、どういうことだろう。突然の彼の言葉に彼女は激しく動揺した。
    「ちょ、ちょっと待って!」
     まだ心の準備ができてない、と言うようにシロナが青年を制止する。だが、青年はそれを受け入れる様子もなく
    「やはりこういうのは君の気持ちをちゃんと汲んで、その上で……だな」
     などと言うので、彼女はさらに動揺する。
    「ちょ、ちょっと待ってアオバ、そういうことは準決勝が終わってから……!」
    「その、どう思うよ? 俺の………………ポケモンのことなんだけどさ」
    「……………………は?」
    「いや、だからその、ガブとかラミエルとかさ、お前、ああいうポケモン好みか?」
    「………………、……」
     一瞬後、青年は選ぶ言葉を間違えたと後悔した。
     係員によると、廻る観覧車のゴンドラの一つが激しく揺れた気がしたという。
     問題のゴンドラが下に戻ってきた時、男女が何やら言い争っていたらしい。特に女のほうがおかんむりで「バカ! アオバのバカ! バカバカバカ!」などと喚いていた。そして
    「私はあんたなんかに絶対負けないんだからッ!!」
     というようなことを叫んで、止める男をふりほどいて走り去っていったのだという。

    「じゃあお前はさ、俺にどうしろって言うんだよ」
     一人残された青年が呟いた。記憶が戻ってからもうずっと考え続けていたことがあった。

     夜空に花が咲く。花火の音が耳に響いている。ばらばらと響いてやがて消える。花が咲いて、咲いては散っていく。


      [No.2596] これはどう見ても事故フラグ 投稿者:No.017   投稿日:2012/09/01(Sat) 12:29:52     74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    いやこれ絶対事故るでしょ。この後。
    夜道で野生のポケモンにあってハンドル回して事故るね。
    そして死体を養分にして研究成果が実体になって出てくるね。

    で場面は一転、
    どっかの街から主人公の旅が始まる。

    研究成果と主人公がどこで出会うかはまた後の話

    【誰か書いていいのよ】


      [No.2522] 夏コミに行った 投稿者:No.017   投稿日:2012/07/19(Thu) 22:54:43     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    イラスト投稿系SNSで、人気の絵師がいるんだ。
    女の子を描かせたら超かわいいし、サイレントマンガもユーモアがあってうまい。
    ポケモンを描かせても一級品なんだ。
    いっつも更新楽しみにしてた。
    そしたらお知らせが上がったんだ。
    普段は全然コメント描かないのに珍しいなって思ったら、夏コミに出展するそうだ。
    これはもう行かなくちゃって思ったね。

    いやあ、熱いしすごい列だった。
    みんなこの人の本が目当てらしい。
    差し入れを持って僕は並んだ。
    じりじりと前に進んでいく。
    どんな人なんだろう。どんな人なんだろう。
    そうして、前の人がいなくなって自分の番が来た時にご本尊が姿を現した!


    ……ドーブルだった。

    夏コミのお知らせはトレーナーさんが書いたんだそうだ。
    ポケモンも出展とはさすがコミケだなって思った夏だったね。


      [No.2450] 【ポケライフ】ダゲキの衣服作り 投稿者:   投稿日:2012/06/07(Thu) 23:26:12     95clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     あまり知られていないが、ダゲキナゲキとエルフーンは共生関係にある。と、いうのもエルフーンのモコモコしたあの綿は、上質なセルロースで出来ており、人間には理解できないが、メブキジカやバッフロンにとっては甘いらしいのだ(一応、ビリジオンなど三獣士達にとっても甘いらしい)。
     何言っているのかよくわからねーと思うが、ありのままに説明するとそれらのポケモンにとってはエルフーンのモコモコはおやつ代わり。綿あめのようなものなのだという。
     けれど、エルフーンにとってあのモコモコはファッションだとかクッションだとかそんなチャチなものでは断じてない。外敵が襲ってきたら、それを後ろに向けて身を守るという、有用な使い方があるのだ。

     実際、モコモコに噛みつかせて、相手が絡まった綿を取ろうともがいている最中に、綿を千切って逃げたりする姿もよく確認されている。すり抜けの特性も、そうして生き残った個体が積み上げてきた遺伝子の賜物なのである。
     戦っても敵わない相手にはそうしてやり過ごし、痺れ粉などをばらまいてエルフーンだが、草食の特性を持つバッフロンやメブキジカにはヤドリギの種も痺れ粉も効かない。だから、普通に考えればエルフーンはモコモコを根こそぎ喰われるしかないのである。
     そこで登場するのがダゲキとナゲキだ。彼らは、真っ白な胴着を見に纏い、草で作った帯を締めて気を引き締めることで知られるポケモンだ。彼らは格闘タイプのノーマルタイプに対する優位性を活かしてエルフーンを草食の特性のポケモンから守る代わりに、体毛の薄い身体を傷から守るために綿の衣服を纏うのだ。

     そんなエルフーンのセナがやってきて、もう4か月。夏の頃には薄かった背中のモコモコも、だんだんボリュームを増してきているようだ。
     その薄かったモコモコというのは、ムーランドやチョロネコのように自然に抜けていくことで薄くなるだけではなく、原因はうちで飼っているポケモンのもう一人、ダゲキのタイショウのおかげだ。
     もともとは、お祝いのためにセナをゲットしたのだが、捕まえ方が原因だったのか、最初は俺に心を開いてくれなかった。そんな時でも、本能的に味方だと認識できるのか対象に対してだけは落ち着いて接しており、タイショウの服の修理のために綿を分け与えていた
     タイショウは綿を少量つまんで、それをより合わせて糸にする。その糸を、ほつれた胴着と同化させ、繕って穴を塞ぐ。セナを家に迎えるまでは、わざわざ専用の綿を購入していたが、いつでも新鮮な綿が手に入る今の状況を、タイショウは気に入ってくれたようである。
     日中の鍛錬を終えると、その過程で傷ついた部分を、夜な夜な修繕する。セナと暮らすうちにそんな習慣が出来てゆき、それが高じた今となっては、暇な時間に他のポケモンの胴着も作ってしまう始末。ダゲキやナゲキは、上手く胴着を作られない子供に対して胴着を作ってあげる習性があるが、その習性の賜物なのだろう。
     今日は、数日前に進化したコジョンドのアサヒに対して、一週間かけての進化祝いのお披露目だ。人間と暮らしているうちに、記念やお祝いという概念も覚えたポケモンたちは、アサヒを中心にお祝いのムードを楽しんでいる。
     着せてもらった胴着を、鬱陶しいと思いながらもまんざらではないのか、開いた胸元を気にしながらアサヒは照れた顔をしていた。それを作るために体を張ったセナと、腕を振るったタイショウは満足げに微笑んでいる。

    「ほら、アサヒ。これが今のお前の姿だぞ?」
     みんなが幸せそうな表情になる中、鏡を持ってきてアサヒ自身にもわかりやすく披露目を。人間の俺にとってみれば妙に似合っているその立ち姿。それがポケモンにはどう映るのかわからないけれど、タイショウのためにも喜んでくれるといいな。


    ――――
    ダゲキナゲキとエルフーンの関係は、私の脳内ではすでに鉄板になっている……ドレディアよりも好きなんです。
    野生の本能や習性と人間の文化の融合。そんなものがポケモンにあるのならば、こんな光景もあるんじゃないかと思います。


      [No.2379] 御2人も書いて下さったですと…… 投稿者:門森 輝   投稿日:2012/04/12(Thu) 21:04:04     62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     うひゃっほぅ! わっほぅ!  書いて下さった方が御2人も! きゃっほぅ! 
     ピッチさん、音色さん、書いて頂きありがとうございます! ありがとうございます!

    >逃がすだなんて酷い話だ
     『つよいポケモン よわいポケモン そんなの ひとのかって ほんとうに つよい トレーナーなら すきなポケモンで かてるように がんばるべき』 カリン様もこう仰られておりますし好きなポケモンで勝つのが一番嬉しいものですよね。厳選は勝てる様に頑張った結果ですからねぇ。
     エネコロロが擦り寄るクリーム色と薄桃色のストール……グラエナが食いつきエネコロロが敬遠する生肉タイプのポケモンフーズ……安くなったエネコのしっぽ……なるほどです。こう言う様に直接書かずに仄めかす手法大好きです。憧れます。
     厳選余りは1人の廃人から大量に生まれますが、1人の客が欲するのは同じポケモンでしたら通常は1匹、多くとも数匹でしょうし、まず売れ残りは出てくるでしょうからね。それをどう処分するかとなるとこうなるんですかね。それとも最初からこう捌くつもりで貰い受けたんですかね。どちらにしてもこういった内容大好きです。
     つまり何が言いたいかと言いますと、この作品大好きです! 厳選の理由もそのトレーナーの考えとして納得出来ますし、ポスターのイラスト例等も凄く好みです。書いて下さり本当にありがとうございます!

    >生態系が乱れるとか(笑)
     ひゃっはぁぁ! 
     逃がす事が禁止になるとポケモン狩ってる人にも影響が及ぶのですね。獲物が減るのは困りますものね。
     確かにプラズマ団の格好は宇宙人ですね。ただあのフードが頬っ被りに見えて仕方ないのは私だけですか。
     こういったノリも好きです。書いて下さりありがとうございます!

     最後にもう一度、書いて下さりありがとうございました!

    【大事な大事なビジネスチャ〜ンス】
    【ひゃっはぁぁ!】


      [No.2304] 【お願い】参加者の皆様へ、メールアドレス連絡のお願い 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/03/15(Thu) 19:58:44     43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    どうも、586です(´ω`)

    3/18(日)の打ち上げに参加いただける方に、お願いがあります。
    当日連絡が取れるよう、お手数ですが下記のメールアドレスに対して、本文に「名前」(HN)を記載して
    メールを送信してください。

    shell_586★yahoo.co.jp
    (※★を@に変更してください)

    受信できた方から随時、こちらの携帯電話のメールアドレスを送付します。
    いざと言うときに備えて連絡を取れるようにしておきましょう(`・ω・´)

    以上、よろしくお願いいたします。


      [No.2232] リセット 前編 投稿者:紀成   投稿日:2012/02/01(Wed) 19:50:50     114clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「げ」
    私はディスプレイを眺めていた。中には真っ黒い空間に一人取り残された少女。ドット絵だが、白いニット帽と黒いタンクトップ、巨大な黄色いボストンバッグが目立つ。おまけとして膝上十五センチのギリギリミニスカートは、ちょっとやりすぎなんじゃないかと付け加える。
    十字キーを押しても、ABボタンを押してもウンともスンとも言わない。一応動くことは動くんだけど、それでもそこから出ることは敵わない。彼女の目の前にはひたすら闇が広がり、決して終わることのない空間が続く。まあ、ドット絵である彼女にそれが映っているかどうかは分からないんだけど。
    数日前にネットで見かけた、表にはまだ出ていないポケモンの遭遇、捕獲方法を試してみたところだった。私は製作者側じゃないからアレだけど、よくこんな複雑なプログラム作る気になるよね。
    見た時の私の気持ちは、『ダメだ』という気持ちと『好奇心』という気持ちが半々になっていた。でも何も面白いことがない退屈な日常。たまには、そういう『危ないこと』をしてみたい。
    そう思っているうちに、DSにソフトを入れて電源を点けていた。サイトで見た通りのことをして、一体どうなるのかをちょっとドキドキしながら見ていた。
    だけど、間違えた。
    緊張だかなんだか分からないけど、手が震えて十字キーを押し間違えた。おかげでバグが発生して、この有様。
    彼女は永久にこの部屋から出られないらしい。
    「参ったなー」
    私は頭を掻いた。せっかく図鑑完成して、他地方からの受け入れも出来てたところだったんだけど。手持ちもほとんどレベル100に達してたのにねえ。
    「仕方ないか」
    前からのソフトから経由していなかっただけでも、有り難いと思おう。そう自分に言い聞かせて、私はレポートを書いた。これ書いたら一生……本当に一生彼女はこの空間の中に閉じ込められる。でもまあ、プログラムだし。それに。
    「リセットすれば、また会えるし」
    私は電源を切ると、再び最初の画面になったのを確認してボタンを押した。黒い画面と白い枠が出現する。白い画面の文字が踊る。私は迷わず『はい』を選択した。
    データを消去していると、ケータイが鳴り響いた。開いて確認する。ゲーム仲間からだった。
    「なんだなんだ」
    こんな内容だった。

    『図鑑完成したよ!ニコッ (゜▽゜)v(゜▽゜)v o(゜▽゜)o イェーイ!!』

    その下に添付ファイル。見れば、カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ四つの地方のポケモンを集めたという図鑑のデータの写真があった。記念すべき最初のポケモン、フシギダネが永久に続く笑顔で飛び跳ねている。
    「いいなあ。私もがんばろ」
    私は返信した後再びDSのディスプレイに目を向ける。とっくにデータは消去されていた。はじめからを選んで博士を迎える。
    「また会ったね博士」
    博士はプログラムの通りに私に話しかけてくる。ナナカマド博士。歴代博士の名前はほとんど全員が植物らしい。じゃあ彼の名前も植物なのか。意外。
    そう考えているうちに主人公の性別を決める画面になった。迷わず女の子をチョイス。名前。名前は……

    リ ン ネ

    巡る、ってイメージでつけた。博士の激励と共に彼女の体が縮み、さっきのドット絵までになる。そこから先は、前にもやっているからスラスラいけた。
    主人公のライバルの少年に急かされ、湖へ。
    忘れていったカバンを調べて、ムックルとの戦闘へ。
    緊急事態ということで中に入っていたボールを一つ選ぶ。前はヒコザルだったけど、今度はポッチャマ。
    戦闘終了後、博士とその助手の少年に会うところまでで本日は終了。目が痛くなった。丁度夕食に呼ばれたところだったし、いいだろう。


    「裏技?」
    次の日、私は学校で昨日のメールを送ってきた友達と話していた。彼女も相当のゲーマーで、新作ゲームを彼女に与えれば必ず二十四時間以内にクリアしてくる。
    そんな彼女を私はすごいと思うだけでもなく、ちょっと嫉妬していた。どうやったらそんなに早くクリアできるんだか。一つのゲームをじっくりかけて遊ぶのも醍醐味だと思うのだけど。第一そんな簡単にクリアしてたら次のゲームを買うお金がすぐ無くなってしまう。
    しばらく前まではそう思っていたけど、彼女が何処かの財閥会長の孫娘だという話を聞いてからは、もうどうでもよくなった。彼女の脳と財力にかかれば、どんなゲームもすぐにクリアされてしまうのだ。
    「そう!この前掲示板で見たんだけどね」
    彼女はその愛くるしい顔をグッとこちらに近づけてきた。初対面の男は大体これに引っかかる。こんな可愛くてスタイルもいい、おまけに性格もいい彼女がゲーマーなんて、誰も思わないだろう。
    「サイトを回ってたら、何か掲示板……というか、チャットをみつけたの。そこに色んなゲームのバグがあって。面白いなーって思って見てたら、最後の方にポケモン関係のバグがあったの」
    「また変なのじゃないの?下手したらデータ消し飛ぶとか」
    私は昨日のことを思い出した。電源切ってどうにかなるならいいけど、プログラム自体が変になるバグがあるような裏技は辞退したい。
    「ううん。むしろすごく楽しそうな感じだった。耳貸して」
    こういう昔の少女漫画のようなことを平気でやってのけるのが彼女だ。続く言葉に、私の目は点になった。
    「……は?」

    『ゲームの中に、入れるらしいの』

    「ただいまー」
    帰宅途中でコンビニで買ったキャンディーを舐めながら私はドアを開けた。両親は共働きで深夜まで帰ってこない。最近二人と顔を合わせたのは、いつだっけ……
    テレビを点ける。午後五時のニュース番組だった。最近幼い子供が急に失踪する事件が相次いでいるという。何処かの誘拐魔の仕業だろうか。評論家の『最近は子供をきちんと見ない親が増えていますからね』という言葉で私はテレビゲームに切り替えた。PBR。ポケモン・バトル・レボリューション。
    リモコンを持ってコロシアムをチョイスする。さて、今日は何処のマスターを倒そうか。
    (……)
    BGMが右耳から左耳を突き抜けていく。口の中のキャンディーは舌の上で甘味を出していた。飲み込むと喉が痛くなる。
    彼女の言葉。その裏技を使うと、ゲームの中に入れるらしい。嘘だろふざけんな、と言いかけたところで始業のチャイムが鳴ってしまった。去り際に彼女が呟いた。
    『後でメールでやり方教えるわ。暇ならやってみて』
    そのメールはまだ来ていない。忘れているのか、習い事で遅くなっているのか。お嬢様というのは色々苦労が絶えないのだといつだったか言っていた。何不自由ない暮らしで何を言っているんだ、と周りに突かれていた。
    昨日消したデータのエンペルトが、相手にハイドロカノンを出した。元データは消えても、こちらに移したデータはこちらをリセットしない限り消えない。一つに何かあっても複数あれば、支障はない。
    もしかしたらこの世界も同じなのかもしれない、と思い始めた時。ケータイが鳴った。慌てて手に取る。差出人は彼女だった。

    title:裏技の件

    少しドキドキしながら本文を見て…… あれ?

    『ごめーん。何かあの裏技、私の勘違いだったみたい。帰ってからもう一度見たら、下手すればゲームそのもののデータが消去されちゃうって書いてあったから。
    だから忘れてね』

    なんだ。彼女の早とちりか。まあいいや。しかしゲームそのもののデータが消し飛ぶくらいの裏技って、どういう弄りかたしたらそうなるんだろう。ちょっと気になったけど、そのことはそれっきり忘れてしまった。

    (でももし…… もしもゲームの中に入れたら、どんなことになるんだろう。この世界とは全く違った世界。普通では不可能なことも簡単にできてしまう。空を飛んだり、戦ったり、巨大な陰謀に立ち向かったり――
    そうだ。ポケモンゲームの中に入れたら、ポケモンと旅をすることだってできる。彼らの背中に乗って空を飛ぶって、どんな感じなんだろう。伝説のポケモンって実際に目の前にしたらどうなるのかな。ルビサファのグラードン、カイオーガ、レックウザ。レジ三体。
    彼らが本当にバトルしたら、世界が終わるどころじゃない。この世が終わる気がする……)


    次の日は休日だった。朝九時くらいに起きようと思って布団の中で丸まっていたら、いきなり下からドンドン音がした。慌てて飛び起きると、部屋のドアが勢いよく開いて、母さんが入って来た。流石の母さんも、休日は仕事が休みだ。
    「大変!大変よ!」
    母さんは慌てると、文に主語が無くなってしまう。何が大変なのか。眠い目を擦り、私は布団からのそのそと起き上がった。
    「何。休日くらい遅起きさせて……」
    「大変なのよ!アンタの友達がいなくなっちゃったのよ!」
    「は」
    「今テレビでやってるから、早く来て!」

    スリッパを履く余裕もなく、私は一階のリビングへ転がるように降りてきた。テレビは朝のワイドショーだった。普通なら芸能人の結婚や離婚を面白可笑しく報道するんだけど、今日は様子がおかしい。左上の画面に文字が並んでいる。

    “財閥会長の孫、突如消息不明”

    額を冷や汗が伝った。さっきから同じニュースが流れているらしく、アナウンサーが事件の概要を話し出した。頭が真っ白であんまり読み取れなかったが、こういうことらしい。
    昨日、彼女は帰った後に両親に挨拶した後自分の部屋に閉じこもったらしい。夕食もそこで摂るということで、メイドは彼女の部屋の前に夕食を置いた。二時間後に食器を回収しに来た時はドアの前に空の皿があったことから、その時はまだ部屋の中にいたらしい。
    だが、朝になってメイドが起こしにドアを叩いても返事がない。鍵がかかっていて手動では開けることができない。心配になって両親を呼びに行き、二人が呼んだが変わらず。最終手段ということで壁を斧で割って入った。
    だがそこには誰もいない。彼女がいつも使っているパジャマが脱ぎ捨てられた状態で散乱していたが、当の本人の姿はなかった――
    財閥会長の孫娘と言えば、誘拐の線も考えられる。だが抵抗した跡はなく、警察は知人の犯行から捜査を進めるという。
    「……」
    「大変なことになっちゃったわねえ」
    「お母さん」
    「何よ。どうしたの?顔色悪くして」
    「いや、」
    私がそう言いかけた時、玄関のチャイムが鳴った。はいはい、と母親がボタンを押す。話していくうちに状況が変わったことが分かった。私に向かって目配せをする。ついでに自分の服を引っ張る。
    すぐに分かった。上へ行き、玄関の方を見る。見慣れない車が一台。見慣れないスーツの男が二人。片方はスラリ、もう片方はずんぐり。
    私は一先ず簡単に着替えた。

    「――さて」
    スラリとした人の方が手帳を取り出す。横にしてメモする。彼らはメモする時、手帳を横にするという話を昔聞いたことがあった。
    「君は、失踪したお嬢さんとは友達だったんだよね」
    「はい」
    「最近、何か変わったことなかったかな。どんな些細なことでもいい。例えば、変な男が彼女の近くにいたとか」
    彼らは思った通り、刑事だった。知り合いから当たっていくというマスコミの話は本当だったらしい。
    「いえ……。あの子は送り迎えは自家用車だったし、言い寄る男なんて沢山いました。でもあの子は男遊びとかするタイプじゃありません。自分の趣味の方が大事みたいな子で」
    「趣味?」
    「はい」
    ずんぐりした方が身を乗り出してきた。思わず顔が引きつる。
    「どんな趣味かな」
    「ゲームです」
    「ゲーム?そのお嬢さんはゲーム好きだったのかい?」
    驚いた声。無理もないだろう。彼らの中の彼女の像が、ガラガラと崩れ落ちた瞬間だった。
    「私もよく一緒にやってたんですけど、彼女はどんなゲームも簡単にクリアしてしまうんです。それに関しては、無敵でした」
    「ほー……」
    理解できない、という顔をしている。この世代の刑事さんを寄越したこと自体が間違いだったんじゃないのかな。
    「ちなみに、最近ハマっていたゲームは?」
    「ポケモンです」
    「ポケモン!」
    二人が顔を見合わせた。その色にはっきりと確信の色が浮かぶ。焦りも入っているような気がした。その顔色を見て、私はある一つの可能性を思い出していた。昨日、帰ってきた時に見たニュース。その後の彼女のメール。話。
    まさか…… 
    「刑事さん、あの子の部屋にDSはありませんでしたか。ピンク色の、シールが沢山ついているやつ」
    「悪いけど、一般の人に捜査内容を話すわけにはいかないんだ」
    「あったはずです。せめて、その中に入っていたソフトだけ確認させてください。

    ……ポケモン、なんですよね?」


    刑事さんは苦い顔をして帰っていった。私はケータイにメールや着信が入っていることを確かめるために二階へ行った。床にDSが置いてある。一番古いタイプ。厚くて今の型に慣れている人は使いにくいだろう。だが私にとってはこれが一番使いやすい。ポケモンやるときはいつもこれだった。
    ケータイのメール履歴を見る。あの子の最後のメールが頭の中に浮かんだ。裏技の件が大きなバグを引き起こすことになりそうなこと。だから私に教えることはしない、そう言われた。

    ――本当に、そうだったの?

    ケータイが鳴っている。私は無意識に通話ボタンを押し、耳に当てた。ディスプレイに表示された文字が『非通知』であることも知らずに。
    「……はい」
    ザー、ザーというノイズの音が聞こえた。電波状態が悪いらしい。私は窓際に行った。だけどまだノイズが晴れない。というか、一体誰がかけてきてるの?
    「もしもし?誰ですか」

    『二つの世界は繋がった』

    ゾクリ、と寒気がした。甲高い声。よく事件の証言とかに使われる、フィルターが掛けられた声に似ている。
    「え?」
    『賽は投げられた。お前達の過ちだ!』
    ケータイのディスプレイが光りだした。白い光が私の視界に広がって……


    何も、聞こえない。


      [No.2157] ミカルゲを撥ねた 投稿者:音色   投稿日:2011/12/28(Wed) 23:48:11     81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     朝っぱらからサンタコスムウマージに着せ替え人形にされ、それでも仕事をこなすため、仕事場について作業着に着替える。
     冬だからと支給された上着もチョロネコ印の紫色。紫ってゴーストカラーじゃん。どこまでこいつらとの縁が憑きまとうのやら。
     自転車に荷物を積み、ヨマワルとルートをチェック。ゴースは木枯らしに吹かれて飛んでいきかけるのをヌケニンが見送っていた。おい!
     いざ出発する前になるとどうにか戻ってきたゴ―スはするりとポケットに避難。やれやれ。


     209番道路はそこそこ広いのに中州が多くてついでに橋も多い。最短ルートを見つけるのにいつも苦労する。
     面倒な時は河原を突っ切る。バランスは悪いが時間には変えられないっつーの。
     先を飛ぶヌケニンにヨマワル。お前らは空を飛べていいよなぁちくしょう!地べたを事情なんか知らないで気楽なこった。自転車の不都合を叫んでみる。意味無し。
     ポケットの中でカイロと一緒にぬくぬくしているゴ―スの野郎はこのあと私の八つ当たりを受けることなど知る由もなかった。


     12月の終わりといえばあっという間に暗くなる。仕事は終わって帰りのついでに買い物すればありゃ、星が綺麗。とかいってる場合じゃない。
     吐く息は白い、要するに寒い。ヌケニンは呼吸してないからそうだが、ゴ―スもヨマワルも鬼火で暖をとって・・って、それ温いの?青白いのに?あぁ、化学的に考えりゃ青い方が温度は高いのか・・・。
     自転車の明かりじゃ心細いが、正直鬼火も頼りにならない。ヌケニンのフラッシュはこ―ゆー時こそ打ってつけ、と思ったのだがあれって一瞬じゃん。ってことで却下。
     早く帰りて―とか思いながら209番道路に差し掛かったら、どうも妙な音がする。みょーんみょーんと機械だか鳴き声だか微妙な感じの。あれだ、除夜の鐘の予行演習か?なわけないか。
     何だこれ。怨霊かなんかでも出るってか?ゴーストがいたらマジビビりコースだが、生憎ゴーストホイホイ体質のこっちには本物が3匹ばかし憑いているわけだから全然怖くない。というか、怖いの域を超えてる。
     お仲間?ゴ―スは知らんといい、ヨマワルは首を振り、ヌケニンは無反応。そうか、同種族じゃねぇか。
     じゃあいいや。無視。これ以上うちのゴースト人口増やすわけにもいかんし。かかわり合いになるまい。
     そう思って再度気合を入れてこぎ出した。近づく謎のおんみょーんもそのうち通り過ぎるだろうと思いつつそこそこ速度も出てきて良い感じになってきた瞬間。
     ぎゅわん、と音がしてなんかはねた。
     え、なに、小型のポケモンでも撥ねちまった?慌てて止まる。おい、鬼火持ってこい。
     見づらい青白い炎に照らされて見つけてそれは。
     ・・・ただの石。
     何だ、石か。その割にはいやに鈍い音がしたな。おんみょーんも急に止まったし。ゴ―スがせっつく。何。え、こいつポケモン?まじで。
     いや、ポケモンにしちゃ小さくねぇか。石だけ。・・・ちょっと割れてるけど。撥ねた衝撃にヒビでも入ったか。
     拾ってみると何か声っぽいのが聞こえる。よくよく聞くとおんみょーん・・・ってこいつか!さっきからうるさかったのは!
     うるさい腹いせに買い物袋からサランラップを出す。うにょうにょ紫色の顔っぽいのが出てきたがオール無視。ラップでぐるぐる巻きにしてやるこの野郎。
     3秒後、紫のうにょうにょは出てこれなくなった。こいつ、ゴーストっぽいくせに塩化ビニルはすり抜けられんのか。ゴ―ス爆笑。ヌケニン無表情。ヨマワルだけ気の毒そうに見ていた。
     よし、気が済んだ。こいつこのまま放置・・ヨマワル嫌そうだね。しょうがないなー、ヌケニン、シザークロス。
     出てきたうにょうにょがポケモン語で抗議するが無視。いや、ひたすらおんみょーんを連呼されても通訳通さなかったらわかんねぇし。
     とりあえず落ち着いたっぽいから、ゴ―ス通訳よろしく。


     この石、じゃないこのポケモン、ミカルゲとかいうポケモンらしい。予想通りゴーストタイプ。私のゴーストホイホイ体質超万能。嬉しくねー。
     で、こいつ普段はこの道路のはじっこにある御霊の塔とやらにはめ込まれているらしいが、近所の悪ガキやら野生のポケモンがぶつかって崩れて道のまん中にほおりだされて恨み事を吐いていたらしい。それがあのおんみょーんか。
     いや、悪ガキはともかく野生のポケモンに崩されるってどんだけもろいんだそれ。とりあえず直してくれと懇願してくるので夜中の騒音被害を防ぐために一応現場に向かって見る。
     ・・・これか、三途の河のほとりで積み掛けを崩された出来そこないの石の塔みたいなの。しょうがねぇな。直す、はめる。はいおしまい。
     まぁ次は崩されないように頑張れ、適当に声をかけて家に帰った。その日は。


     しばらくしてまた通りかかった時にヨマワルが気にするようなそぶりを見せたので様子を見に行った。
     案の定ぶち壊れていた。あー、まぁ、うん、ミカルゲはどこだ。
     その辺の落ちていた。・・・紫のうにょうにょが無いから寝てんのか?
     川につけてみる。冷たさで今年最大のおんみょ―んを聞いた。うるせぇ。
     そしてまた壊されているのを見てショックを受けていた。
     御霊の塔の場所が悪いんじゃないかって気がする。引っ越しを進めてみた。



     数時間後、うちの庭に御霊の塔ができていた。
    「いや、そーゆーことじゃなくて」


    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    余談   とゆーわけでミカルゲの出現場所はもりのようかんです。

    【年末年始で間に合うのか】
    【何してもいいのよ】


      [No.2086] 【百字】せいでんき 投稿者:西条流月   投稿日:2011/11/26(Sat) 00:57:22     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ぴりっとくる冬の風物詩。
    びっくりすることはあっても痺れるほどじゃないと思う。
    膝の上で丸くなってるピカチュウに手をかざす。やっぱりぴりっとくるだけ。
    こんなんでマヒしてしまうポケモンは敏感なんだろうか。




    そういえば、最近書いてない。なんか書きたい。
    砂糖水さんが100字書きたいなぁと言ったので、書いてみた

    【好きにしていいの】


      [No.2012] いつかのメリークリスマス 投稿者:紀成   投稿日:2011/10/20(Thu) 20:06:39     44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    吐く息が、白い。まるで白い毛糸の束のようだ。だが毛糸と違うところは、天に昇ろうとして、一瞬で消えてしまうところだろう。
    十一月下旬、この時間帯は既に冷たい空気に包まれ、とてもじゃないが上着が必要となる。ついでに言えば薄いマフラーのような物も欲しいところだ。
    「……」
    私はコートのポケットに手を入れた。ゆっくりと、夜の姿へと変わっていく繁華街。客引きの声は途絶えることなくせわしなく行き交う人々の耳を通り抜けていく。
    道の真ん中で、空を見つめて立ち止まっている私を、人は特に気にもせずに避けていく。誰もが皆、この冬に近くなっていく寒さと情景を楽しんでいるように思える。

    あれは、彼女が高校三年生の冬だった。
    『少し店を頼む』と言い、何か言いたげな彼女を残して店を出た。その場所もネオンが煌く繁華街で、既に時計は八時を回っていたが人がいなくなる気配は無かった。むしろどんどん増えていくような感じがした。
    私は走り、いつだったか彼女が見つめていたアンティークショップに入った。ショーウィンドウに飾られていた、どことなく英国を思わせるような色合いのマフラー。
    プレゼント用にしてもらい、店を出る。私の足は自然と早歩きになっていた。たかがイベントのプレゼントを買うためにこんなに幸せな気持ちになるなんて、思いもしなかった。
    幸せそうなトレーナーとポケモンが、大きな包みを抱えて歩くのを何度も追い抜いた。彼女は――
    喜んでくれるだろうか。


    店の裏口から、中に入る。丁度最後のお客が帰ったところだった。ここのカフェで働いているのは私と、彼女だけ。アルバイトは募集していなかった。募集できるだけの金も、必要とする時間も無かった。
    「あ、お帰りなさい、マスター」
    「遅くなってすまない」
    彼女は布巾でテーブルを拭いていた。彼女のマグマラシが寄ってくる。頭を撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細めた。
    「表、大分冷えてきたみたいですね」
    「ああ」
    「……曇ってきたみたいですね」
    元々ネオンだらけで星も見えない街。だが、今日は別の何かが空を多い尽くしていた。

    「ユエさん」

    以前、彼女に聞いたことがあった。自分の名前が、何故『月』と書いて『ユエ』なのか。瞳が月のように丸く、透き通った色をしているからだという。祖母が昔中国に住んでいて、それで付けたという話もあるようだが……
    「何ですか、マスター」
    「これを」
    ギンガムチェックの袋に、真紅のリボンがかけられた包み。
    彼女の丸い目が更に丸くなった。
    「マスター、これは」

    「クリスマスおめでとう、ユエさん」

    彼女の目から、雫が落ちた。慌ててハンカチを出そうとするが、彼女はそれを止めた。
    「誰かにプレゼントもらうなんて……すごい久しぶり」
    「前にあの店のショーウィンドウを見つめていたことを思い出したんだ」
    「でも私……何も用意してない」
    「いいんだ」
    「じゃあ……せめて、食事作らせてください。いつか、と思って練習してたんです」
    彼女はマグマラシを抱き上げた。そして言った。

    「待ってていただけますか?」


    「マスター!」
    長い回想に耽っていた私を現実に引き戻したのは、双子のタックルだった。石畳にキスしかけたところを、ドレディアが支えてくれた。
    「……ヒナさん、ヒメさん」
    「何ボーッとしてんのよ!何か『心ここにあらず』って感じだったわよ」
    いや、本当にそうだったのだが。
    「買出し終わりましたよ。帰りましょう」
    「今日はあたし達が作るから!」
    「……気絶しない物を頼むよ」
    ドレディアが心配そうに見つめてくる。大丈夫、という顔で私は双子の後に続いた。

    あの時と同じ、幸せそうな顔をしたトレーナーとポケモンが、私の横を通り過ぎていく。


    ――――――
    季節はずれ…というよりかは時期はずれ?
    もうどうにでもなーれ!(やけくそ)


      [No.1935] [書いてみた] 豊縁昔語 ミナミハ島物語 投稿者:紀成   投稿日:2011/09/29(Thu) 20:21:55     82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ホウエン地方は、大きな大陸一つと大小さまざまな島からなる水と緑に囲まれた美しい地方です。各地の伝承を調べてみると、一体いつから伝わっているのか大変興味をそそられるような昔話が残っています。
    ヒワマキシティの成り立ち、とか。
    記憶に新しい、アクア団とマグマ団の元となった者達の戦争とか。
    キナギタウンとマボロシ島の関係とか。
    他にも合わせて百を超える伝説、神話、昔話が残っています。それは今でも祖父母から父母へ、父母から子供へと伝えられて残っているのです。
    ――しかし、そんな話に詳しいホウエン地方の人々でも、あまり知られていない物語が幾つかあります。祖父母、それも八十を超えた人達がやっと知っているような話だというのです。
    彼らは、それを話すとき必ず遠い目をして、海の方を見ます。

    『今ではバトルフロンティアとして知られている島は、私たちが子供の頃は別の名前がついた小さな無人島だった。今では埋め立てと開発でほとんど昔の面影は残っていないが、夕方、晴れた時に海の方を見ると、空に巨大な影が映ることがある。それはその島よりももっともっと南、ホウエン地方、最果ての地なのだ』

    しかし、地図で見てみるとバトルフロンティアがある島より南にそれらしい大きさの島はありません。一度調べてみた友人の話では、それ以上南にいけば別地方の領地に入ることになってしまい、あえなく断念したそうです。
    そのことを彼らに言うと、否定するわけでもなく、怒るわけでもなく、その話をしてくれました。
    「その最果ての島の名前は、ミナミハ島という。私たちホウエン人と同じ血を引いた者達が、幸せに暮らす島なんだ」

    今から数百年前のことです。当時ホウエン地方は、『豊縁』と呼ばれ、今と同じく水と緑豊かな地として知られていました。人々は皆、太陽の光に当たりながら働いていたので、日に焼けた褐色の肌をしていました。
    彼らはとても信心深く、獣や植物を無闇に取ることはしませんでした。獣は食料にする分だけを取り、そして残った骨や皮も無駄にすることはありません。彼らはその方法で、その時代よりも前からその地で暮らしてきたのです。
    しかし、いつの時代も争いはあるものです。当時に残された記録を見てみると、地の神を崇拝する赤の軍と、海の神を崇拝する青の軍が互いに豊縁全土で争ったと書かれています。
    彼らは豊かな地に目をつけ、食料や武器を調達するためにそこに根を下ろしました。そして元々そこに住んでいた人達に言いました。
    「もっと植物を持って来い」
    「もっと獣を狩って来い」
    人々がそんなことは出来ないというと、赤の軍は炎で森を焼き、青の軍は海水で森を枯らしてしまいました。人々は仕方なく、二つの軍に従いました。
    二つの軍の領地は今のキンセツシティと百十九番道路を隔てる海で分かれていて、彼らが占領してからはたとえ向こうに恋人や家族がいても会いに行くことは許されませんでした。
    土地はどんどん荒れていきました。戦争は酷くなり、人々は食べる物にも困るようになりました。しかし逆らう者は捕まり、軍が使う獣共の餌にされました。

    それから数年、豊縁はかつての影も形も無くなっていました。人も少なくなり、皆痩せ細っていました。
    しかし、戦争に終わりの兆しは見えませんでした。互いの軍共疲れ果てているはずなのに、それでも戦うのをやめませんでした。それはまさしく『狂気』と言うべき何かが突き動かしているようでした。
    ある時、赤の軍の主将が何か新しい武器を手に入れたようでした。遠い、遠い地方の国に残り少ない金貨や銀貨を全て渡し、持って来たようです。
    それは、武器とは言いがたいものでした。獣のようであり、機械のようでもありました。
    主将は言いました。
    「こいつは、名を悪食という。腹が減れば、周りにある物という物を全て喰らい尽くす。明日、こいつを使って青の軍の領地に一斉攻撃を仕掛ける。それまでは刺激しないように静かにしておくんだ。いいな」
    とんでもないことです。悪食が腹を空かせれば、敵味方関係なく喰われてしまうでしょう。それだけではありません。生き残っている住人も、残り少ない土地の緑も……
    その話をこっそり聞いていた土地の人は、すぐに残っていた仲間を集めました。他説ありますが、赤の軍が本拠地にしていた土地の生き残りを全て合わせても、三十人を超えるか超えないかだったようです。
    彼らはこの島から脱出することを考えていました。老若男女、全てがそう思っていました。自分達が他人に強制されていたとはいえ、島の自然を壊してしまったのは紛れもない事実です。しかし、このまま留まっていれば何も修復できないままに悪食に喰われてしまうでしょう。
    彼らは考え、考え、そして思いつきました。

    「船を、奪う」

    赤の軍は海を嫌っています。しかし海に囲まれた豊縁に来るには、空か海どちらかを移動する手段が必要でした。そこで、武器だけは船に乗せて届けていたのです。
    その船はかなり風化していましたが、まだ乗ることは出来そうでした。彼らは深夜、悪食を起こさないようにそっと船に乗り込みました。一体悪食がなんだったのかは分かりません。今で言う極秘扱いだったようです。
    しかし、あと少しで全員乗り込めるという所で夜が明けてしまいました。水平線の彼方から一筋の光が差込み、悪食の目に当たりました。
    驚いて目を覚ました悪食が最初に見た物は、今まさに船に乗り込もうとする子供の姿でした。腹を空かせた悪食は、手始めに自分を繋いでいた鎖を食べ尽くすと、船の方へと向かってきたのです。
    大人達は子供を置いて逃げようとしました。しかし船から一人の男が飛び降り、子供を船内へ押し上げ、悪食に向かって走り出しました。
    男の思いを汲み取った者達は、船を海へと出しました。海には玉鯨や心魚、毒水母の死骸が浮いていました。
    その船が出る所を、赤の軍の主将は見ていました。しかしどうすることも出来ません。一人の男を犠牲にして、彼らは助かったのです。

    船に乗って脱出した彼らがどうなったかは何処にも書かれていません。その後、悪食は名前の通り全てを喰らい尽くし、青の軍の領地に攻め込みました。しかし、偶然なのか必然なのか、青の軍も悪食を持っていたのです。
    二匹の悪食は両軍の兵、武器、そして互いの体に喰らいつきました。三日三晩の戦いの末、二匹は力尽き、息絶えました。
    青の軍の領地にいた土地の人達は、今のヒワマキシティ辺りの地下に逃げ込んでいて、難を逃れました。当時の生活跡が今でも残っています。
    軍が全滅したのを知った彼らは、すぐに赤の軍の領地に向かいました。離れ離れになっていた家族や友人、恋人が無事なのかを調べるためです。
    しかし、そこには誰一人いませんでした。浜辺に頭部を千切られたと思われる男の死体と、何か大きな物が海へ出たような跡があるだけです。ですが彼らは分かりました。ここにいた人達は、皆海の向こうへ行ったのだと――

    それから、何年も何年も経ちました。焼け跡から再び木の芽が吹き出し、小さな木々の群となっていきました。汚れた海は長い年月の中で浄化され、再び美しい風景が戻ってきました。
    人々は再び自然との共生の中で独自の文化を生み出していきました。それと共に、後に生まれた子供や孫に彼らのことを話すようになりました。
    当時、バトルフロンティアが出来る前の島はナミハ島と呼ばれていました。今でもその島がホウエン最南端だと言われていますが、彼らは違うと主張します。
    ナミハ島よりももっと南に、自分達と同じ血を引いた者達が住む島――
    『ミナミハ島』があるのだと。

    さて、それから更に数百年。今から百年ほど前に、豊縁はホウエン地方と名を変えました。
    別地方との貿易、移住の受け入れが始まり近代化が進むようになりました。その中で、昔話は少しずつ薄れていくようになり、これではいけないと思った者達が豊縁昔語という本として出版しようと考えました。
    そこで彼らはホウエンにいるお年寄りに昔話を聞いて回りました。その中の一人がミナミハ島の話を聞き、もし本当にあるのなら是非行って見たいと思いました。
    彼は優秀なポケモンレンジャーに頼み、ナミハ島……今のバトルフロンティアよりもっと南の海域を調べてもらいました。しかし数日後返って来た答えは、『くまなく探したが、何処にもそれらしい島は見当たらない』と言うのです。


    それでも、ホウエンに住む老人達は、自分達と同じ血を引いた者達が、実り豊かで美しいミナミハ島というところで幸せに暮らしていると信じているのです。

    (神風紀成 著 ホウエン地方昔話 総集編 ミナミハ島物語 より)


      [No.1864] なし 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/09/15(Thu) 21:36:05     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    GJ!
    パーティの仲良くて楽しそうな雰囲気が伝わってきた!
    今度も負けないぜ。byデボラ


      [No.1790] 9:1 投稿者:みなみ   投稿日:2011/08/26(Fri) 06:26:02     88clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    初投下です。36℃くらいの生温かい目で見守ってくださいまし。




    ----



    私の名前はグレイシア。今はこのタワーオブヘブンにすみついている野生ポケモンの一匹なの。
    どうしてこんなところに住んでいるのか気になるの?別に教えてあげてもいいけど……。そんなに気なるの?
    分かったよ。話してあげるからとりあえずそこに座って。………それじゃあ……




    …………教えてあげようか、私の過去を……






    ----


    「なあ、グレイシア。そのポフィンどうだ?うまいか?」
    「ん?別に………」
    満面の笑みで私にポフィンの味を評価してもらおうとするマスターに私は冷たい一言を言い放つ。がっくりうなだれて「またか………」といった顔をした後私から少し離れもう一つのモンスターボールを取り出してリーフィアにも同じことをやり始めた。リーフィアがご主人に微笑み返して「おいしいですよ」と言っているのを見て私はため息をつきながら道端でのマスターの手作りポフィン試食会を尻目に草むらでゴロゴロしだした。そりゃあリーフィアのほうが愛想がいいからそうしたくなる気持ちもわかる。でももうこれは私の性分なのだ。仕方のないこと。そう思いながらも自然と寂しさを感じる私にほとほと嫌気がさしているのも今更のことなんだけどね。
    人から見れば「捕まえたばかりのポケモンはそんなものさ」そう言われるような毎日繰り返しているこの風景。でも、それは違う。実際私は捕まえられたばかりのポケモンじゃない。マスターが卵から孵してここまで育て上げてくれた今のメンバーの中では最古参&最強のポケモンだ。そんなポケモンがマスターになついていないわけがないと思うけど……。


    そんなことを考えているとマスターが私に出発する声をかけ私をモンスターボールの中に戻す。
    ……しかし、すぐにボールから出された。目の前にはマスターを威嚇しているハトーボーが。野生ポケモンとの戦闘か……。
    ハトーボーは威嚇しても動じずに大きなあくびをしている私に少しおびえているようだが私は気にすることもなくマスターの指示を待つ。
    「グレイシア!冷凍ビーム!!」
    そう叫ぶのとほぼ同時に私は周りの温度を調節しながら頭の前方に…なんていうのかな?気?みたいなものを集中させる。あとはあのトロくさいハトーボーに向けてそれを発射するだけ。
    私はそれを2、3秒でやってのけかわいそうだとは思ったけど野生のハトーボーを氷漬けにした。それがマスターの指示だから。私は経験値とかいうものを得ることなく再びモンスターボールに戻される。当たり前だ。私は俗に言うLv100とかいうやつらしいからそうなのだとか。あのレベルアップの快感を味わいたかったがもう無理らしい。それはそれで寂しいけどね。それとこうして野生ポケモンとの勝負に私を使うと野生ポケモンの命が危険にさらされかねないような気もするが私はよく知らない。いつもすぐにボールに戻されてしまうから。
    「ありがとう、グレイシア」
    モンスターボールの中へ戻る最中にマスター声を聞いた。いつもこう言ってくれる。でも私はそれに相槌を打ったことがない。そんなの恥ずかしくって私には絶対無理だった。





    私はほどなくしてもう一度モンスターボールから出された。でもそこには野生のポケモンもおらず。草むらが行く手を阻んでいるわけでもない室内だった。私は室内を見まわしてみるとそこには「ポケモン大好きクラブ」の文字が。私はだいぶ長い間マスターと一緒にいたから人間の文字を読むことができる。そこは他のポケモンに自慢できるところだ。……別に自慢はしてないけどさ。
    するとマスターがいきなりリーフィアを指差してムンナを抱きかかえているお姉さんに声をかけた。
    「それじゃあ、あの子でお願いします」
    「分かったわ。そこのリーフィアちゃん!ちょっとおいで」
    そう言われ別に拒絶することなくお姉さんのもとへ小走りで近寄るリーフィア。するとお姉さんがしゃがみこみ真剣なまなざしでリーフィアを観察し始める。少しリーフィアが引いていたがほどなくお姉さんが立ち上がりマスターに声をかける。
    「この子。とってもあなたになついているのね!見ているこっちがジェラシーだわ!」
    そう言ってリーフィアの頭をなで始めた。マスターは少し照れている風にも見えなくない……。なんだかすごく不快だ。そんなことを考えているとマスターがこっちを見ながらお姉さんに再び声をかけた。
    「それじゃあ、あのグレイシアもお願いできます?」
    「もちろん!こっちにおいで。グレイシアちゃん」
    私は別に小走りになることもなくゆっくりお姉さんのほうへと近づいていく。お姉さんは再びしゃがみこんで私の顔を覗き込んだ後少し怪訝そうな顔をしてマスターに声をかけた。
    「この子、あなたになついていないみたいね…。目つきが怖いわ…」
    「はあ………。そうですか……」
    そう言って首をかしげながら私のほうを見る。そりゃあずっと旅のお供をしていた私が少しもなついていないわけないし、私はマスターのことをすっごく信頼しているよ。…………別に好きってわけじゃないからね!
    目つきが悪いのも無愛想なのも全部この性格のせいだしなおそうとはずっと思ってる。がんばってるけど、なかなかうまくいかなくって……。今みたいなことは珍しいことじゃないの。こんな私のこと嫌いにならないのかが心配で…。でも何をやってもうまくいかなくて……。

    私は……私はどうしたらいいの?



    ----


    しばらくしてマスターがほかのトレーナーと戦うとかいうことで私は最後の切り札として一番最後に出されることになった。マスターの手持ちポケモンはおかしいことに私以外は本当に弱いのだ。私は相手とのタイプ相性を無視して戦えるけどほかのメンバーはどうやらそうではないらしい。
    結局、ほかの手持ちが相手のポケモンを一匹も倒さなかったため私が一匹で相手を全滅させた。みんなイーブイの進化系だったね。グレイシアはいなかったけど。でもみんな雌だったのはどうかと思う。マスターいわく「そういう趣味のやつ」だそうだが…。
    負けたことがショックだったのか相手のトレーナーはがっくりうなだれている。マスターがそんな相手のトレーナーに歩み寄り声をかけていた。
    「クロー、そんなに落ち込むなって」
    「落ち込むよ……。あんな華奢な感じのグレイシアに全滅させられるなんて……」
    なるほど、あのトレーナーはクローという名前なのか……。外人じゃあなさそうだしただのあだ名だよね。
    でも華奢だなんて……少しだけうれしいかも。いつもはトレーナー相手にグレイシア無双を繰り広げると「鬼!」「チートだ!」なんて言われていたから…。そんなことを考えているとマスターに呼ばれた。クローという名のトレーナーもマスターのそばに立っている。何なのだろう……。そう思いながら私は二人のもへ歩み寄った。

    二人のもとへ来た私をマスターが確認するとマスターがクローに声をかけた。
    「それじゃあクロー。よろしく頼む」
    「あいよ。僕にまっかせなさ〜い」
    するといきなり私の目の前にしゃがみこんで私の瞳をじっとのぞきこみながら私に声をかけ始めた。
    「僕の名前は&ruby(みなみ くろう){南九郎};っていうんだ。よろしくな。かわいいグレイシアちゃん」
    「………………」
    私は押し黙ってそっぽを向いた。ずっと見つめられてそんな言葉をかけられたら恥ずかしくなっちゃって…。今私の顔が少し赤いのもわかる。
    そんなことを思っているとクローが微笑みながら静かに立ち上がりマスターに声をかけた。
    「このグレイシア、ステータスに書いてある性格は?」
    「寂しがり屋だったけど?」
    「ふ〜ん。僕の見た限りじゃあそれもありうるけど僕だったら性格を書き換えるな……『ツンデレ』だと!」
    「…………はあ…」
    「僕の第三の目からみるとツンが9割デレが1割ってところだな。そう簡単に甘えてはくれないと思うけど、まあ気長に付き合えばいいんじゃない?」
    「なるほど……。参考になったよ。サンキューな」
    「それじゃあ鑑定料4500円を……」
    「それじゃあバイバイ」
    「ツンデレ」とか「第三の目」とか意味のわからない言葉だらけだったけど私のことで話しているのは何となくわかった。別に深追いはしないけどさ。
    マスターはクローの言葉をさらりとスルーして私を見つめながら一言。
    「ツンデレかぁ……」
    とつぶやいて私をボールに戻した。


    ----

    その日、私たちはポケモンセンターで夜を過ごすことにした。ポケモンセンターの中って思っていたよりも広い。そのためちょっとしたホテルみたいな感じになっている。それでもホテルじゃないから食事は出てこないみたい。ご主人は手持ちのポケモンを部屋の中に出すとテキトーに分けたポケモンフーズをポケモンの食事用に作られた器に分け私たちに声をかけた。
    「それじゃあ、いただきます」
    「いただきま〜す!」
    私を除く全員がそう言ってポケモンフーズに口をつけ始めた。どうもこのセリフを大声で言うのはためらわれる。最近までは小声でも言うようにしていたがそれも面倒になったからこうして何も言わずにポケモンフーズに口をつける。………このポケモンフーズあんまり好きじゃないんだよね…。なんか乾燥しきっていて口の中の水分をみんなポケモンフーズに吸い取られていくような感じがする。そのせいですごく飲み込みにくい……。
    私は落ち着いてゆっくりポケモンフーズを食しながらみんなの様子を見る。食べること以外することがないからさ……。
    さっきみんなの様子とか言ったけど私がさっきからじっと見ているのは私のマスター。そのマスターはリーフィアと楽しそうにおしゃべりをしている。ううっ、今すぐ冷凍ビームをリーフィアに撃ちたい。今ならきっと最高威力の冷凍ビームが出せるに違いない。
    私はそんな気持ちを押し殺しながらリーフィアと談笑しているマスターを見ていた。……べっ、別に妬いてるわけじゃないんだからね!それにあのリーフィアは雄だから変な気がなければマスターとくっつくことはないはず!……って、あれ?私、なんか必死にマスターとくっつこうとしているような発言を?まあいいや。アホな事考えている間に飯も食い終わった。私は伸びをした後ゴロゴロしだした。
    マスターはリーフィアと話し終えたのか私の近くによりゴロゴロしている私にあきれたような口調で声をかけてきた。
    「グレイシア〜。食べた後に寝るとミルタンクになっちゃうぞ〜」
    「…………なるわけないじゃん………」
    私は顔色を変えることなくそう言い返す。あ〜あもっと場を和ませるような切り返しは知っているのになんでこんな言い方になっちゃうかなぁ?マスターは相変わらずの私の態度に少しへそを曲げたのか再びリーフィアのもとへ行く。
    はぁ……。こんな性格。なおせるのならなおしたいよ。ますます自分のことが嫌いになっていく。ますます私からマスターという存在が遠のいていく……。


    夜、すべてのポケモンがモンスターボールの中に戻された。みんなが寝静まった頃私はまだ起きていた。モンスターボールの中からはほんの少しだけだけど外の様子が中から見えるように作られていて外の声や音を聞き取ることもできる。しかし、中にいるポケモンがそれを望まないと外の様子や音などを聞き取ることができないというまさにハイテクの四文字があっているような気がする代物だ。ちなみにポケモンの意志でモンスターボールにはいることはできるらしいがポケモンの意志でモンスターボールから出ることは絶対に出来ないらしい。……話がそれたね。
    私は外の様子を見始めた。ちょうどマスターの寝ているベッドが見える。でも、マスターはそこで寝ていなかった。ベッドに腰をかけこちらをじっと見ている。私はマスターの姿が確認できるけど当然マスターは私が起きているだなんて思ってもいないだろう。でも、いつもなら私も含めて寝ている時間。なのにどうして今日に限って?
    そんなことを考えていてもわかるわけないなぁ。と思っているとマスターがぽつりぽつりと独り言を言い始めた。
    「はぁ……。グレイシアは俺のことどう思っているんだろうな……?……俺のことが嫌いなのかな?」
    違う………。違う!!そうモンスターボールの中で叫びモンスターボールの中に広がる空間の壁を前足でたたく。この声が少しでも届いてほしかったから。
    「今までずっとグレイシアのことが………大好きだった。でもどう接してやっていいのかが分からなくって………」
    えっ………?私のことが……好き?一瞬耳を疑った。頭の整理がつかないまま私はマスターの言葉に再び耳を傾けた。
    「こんなぎくしゃくした関係のままでいるのはお互いつらいよな……。でも、どうすれば………」
    そんな………マスターの悩むことじゃない!私が素直になれればいいことなのに!
    お願い……!この私の思い、マスターに伝えさせて!今すぐに!私は絶対開くことのないモンスターボールの中の空間の壁に攻撃を続けていたが知らないうちに疲れはて眠ってしまった…………。



    ----


    私はモンスターボールの中で目を覚ました。眠たい目をこすり静かに伸びをしていると昨日の出来事をハッと思いだす。急いで外の様子を確認するとマスターはまた草むらの生い茂った道路を歩いていた。でも、私を手持ちの先頭にして虫よけスプレーのようなたぐいのものをつけたのか野生のポケモンは全くマスターに近寄ろうとしていない。
    …………あれ?私はまだご飯食べてないのに出発してるってことは私もしかしてね過ごした!?ガーン、ショック〜……。急にあの乾燥しきったポケモンフーズが恋しくなってきた。でも仕方がない。例の話も兼ねてお昼ごはんの時を待とう…。

    でも、のんびりしていられるほど心に余裕がなかったからマスターの様子をモンスターボールの中から見ることにした。すると、少し根暗な感じのするトレーナーにマスターが声をかけられていた。内容が気になる。話の途中からだけど気にしないよ。盗み聞き開始!
    根暗な男がマスターに話を持ちかけていた。
    「それじゃあ、バトルを開始する……。制限なし賞金制もなしだが……例のルールでいいな……?」
    「……………ああ、かまわないよ。でも、負けたほうの意見も尊重の方向で……」
    「了解した……それでは、始めるぞ………!」
    例のルールって何なんだろう?そんなことを考えているとすると急に視界が反転する。ちょっと!乱暴に扱わないでよ!!そんなことを思っていると手持ちの最後にモンスターボールを移動させられた。ここからだとマスターの背中しか見えない。バトルの様子が全く把握できないと悟ったため私はバトルに備えて完全に眠気を飛ばそうとしていた。
    しばらくして私は外に出される。バトルの真っ最中だってわかっているけど今私の気持ちを伝えても問題ないよね?私はマスターのほうに体ごと振り返りマスターに声をかけようとした。
    「あの…………マスター…………」
    蚊の鳴くような声で私は声をかけようと試みる。こんな声じゃあ聞こえないかな?そんなことを思っていると案の定聞こえてなかったみたい。マスターは必死に私に大声で指示を出す。
    「グレイシア!!あいつらかなり手ごわいぞ!朝飯抜いててきついかもしれないけど頼む!がんばってくれ!
     それじゃあ、アーケオスに冷凍ビーム!!」
    私はしぶしぶ後ろを振り返ってみるともうすぐそこに私に頭突きをかまそうとしているアーケオスが迫っていた。
    私は急いで冷凍ビームをアーケオスに向けて放つ。あまり力をためてなかったのもあって氷がアーケオスの全身を覆った後地面に落ちた衝撃で分厚い氷が割れた。いつもはこれしきじゃあ割れないんだけどね。それでも十分ノックアウトできたみたいだけど。
    バトルフィールドにいる相手のアブソルは完全に私におびえている感じがする。特性はプレッシャーみたいな雰囲気がするけどこれじゃあまるで私が相手を威圧しているみたいだ。
    「戻れ……アーケオス。ついでにアブソルもだ」
    相手がポケモンをみんな引き上げてしまった。するとすぐに二つのボールを構え私の目の前に二匹のポケモンを繰り出した。ピクシーとゴウカザルか……。タイプ相性まずいのがいるけど大丈夫だろう。私の力でたたきつぶすだけだし。
    「グレイシア!!先にゴウカザルを倒す方向でいくよ!フルパワーで冷凍ビーム!!」
    私はいつもよりも強大なエネルギーを空気中から得るため力を一点に集中させ始めた。そして発射するのと同時に敵のトレーナーが指示を出す声が聞こえた。
    「ピクシー、この指とまれ。ゴウカザルは……隙を突いて例の技だ……」
    ピクシーがその短い指を振り始める。私の発射したエネルギーの塊はピクシーの方向へと軌道を変える。しかし、ピクシーはよけることはかなわず完全に氷塊の中に閉じ込められた。それを確認しゴウカザルのほうへ視線を戻しt……。
    わき腹に激痛が走り全身に一気に伝わっていくような感覚がした。横を見てみると鬼のような形相のゴウカザルが。そのゴウカザルは紅蓮の炎に包まれその体は少しだけ傷ついていた。この技は……フレアドライブ?そう思った瞬間ゴウカザルは身にまとった炎を解き体勢を変え私に容赦なく守りを捨てすべての力を破壊に使うインファイトを放っ…………。

    ゴウカザルの荒い息遣いのあいまにかすかにマスターの呼ぶ声がする……。しかし、そこで私の意識は途絶えた………。




    ----


    私はしばらくしてから目を覚ました。どうやらモンスターボールの中で眠っていたらしい。傷が体からきれいさっぱり消え去っているところをみるとポケモンセンターのような施設で回復してもらったのかな?
    私はそんなことを考えながら外の様子をモンスターボールの中から確認すると案の定ポケモンセンターの中だった。私は初めてバトルに負けたショックよりもマスターの心配をしだした。たいていポケモン勝負に負けた場合その責任はトレーナーのほうへのしかかる。ほら、あなただってポケモン勝負に負けたら賞金を払わされるでしょう?ポケモンの力不足、ミスなどが原因であっても最終的に損をするのは負けたほうのトレーナーなのだ。そんなことを考えながら勝負していると如何に自分の戦いがマスターに大きな影響を及ぼすのか考えさせられるような気がする。……話がずれたね。
    マスターは案の定暗い顔をしながら根暗なトレーナーと向かい合うように座っていた。今回の戦いの場合賞金制ではないからその分怖い。一体どんなルールでマスターが戦っていたのか私には理解できなかったがこちらの利益になるようなことはない。それだけは理解していた。
    「それじゃあ、例のルールに従って君がポケモンを指定してくれないか?」
    「……分かった。それじゃあ………グレイシアがいい。……先ほど戦っていたやつな……」
    えっ!私のことを言っているの?この男は?そもそも私をどうするつもりなの?例のルールっていったい何なの?
    私は頭がパニックになりながらもマスターたちの会話に再び耳を傾けた。
    「うっ…………。グレイシアか………」
    「どうする……?いやならほかのポケモンも考えておくが………?」
    マスターが悩んでいる。なんで悩んでいるのか大体察しがついた。きっとこの二人が言っているのはポケモン交換のことだ。負けたほうのポケモンを勝ったほうのカスポケモンと交換するんだ……きっと。
    嫌だ!!そんなの絶対に!私は知らないうちに叫んでいた。まだこの思いマスターに届けてないのに!!
    私がそうしているのにも気づかず二人は会話を進める。
    「いや…………。グレイシアでいいよ。……こいつのためにも………」
    「本当にいいのか………?」
    「ああ」
    短くマスターがそう答えた瞬間私は目の前が真っ暗になった。
    マスターが何か言っていたがそんなこと気にもせず、私はただただ茫然と宙を眺めていた。

    ほどなくして何か私の近くに落ちているのに気がついた。私はそれを拾った。人間には「メール」と呼ばれているものだ。私はそれを読み始めた。そこには私のステータスには載っていないような特徴が雪をイメージしたような便せんに細かい字でたくさん書かれていた。こんなに私のこと分かっていてくれていたんだ……。急に悲しくなった。こんなにいいマスターと私はもうすぐわかれてしまうなんて。
    もっと甘えればよかった。もっと話せばよかった。もっとふれていたかった。もっと………もっと………………。
    後悔の念があふれだす。しかし、私にそれを止める術は無かった……。



    ----


    気が付いたらもうすでにマスターは私のマスターではなくなっていた。私はどこかの道路で根暗なトレーナーの前にモンスターボールから出された。近くで見て初めて気がついたけどマスターよりも若いまだ少年という雰囲気を漂わせていた。帽子を深くかぶり目が見えなかった分根暗というイメージが付きまとっていたが下から彼の顔を見上げ初めて彼の少年らしい瞳を見たときただの短パン小僧なんだと感じた。
    私はもっていたマスターの匂いがかすかに感じられるメールを少年に渡した。少年は少し目を通しすぐにポケットにしまいこんだ。クシャッという紙が折れる音がした。マスターが一生懸命書いたものをなぜあんなにも乱雑に扱えられるのだろう?私は少年から目をそらしながらそんなことを考えていた。

    それからしばらく少年の手持ちで「ドラゴンタイプ撃破要員」として参加していた。彼は少年とは思えないほど理知的な戦い方だった。そんなトレーナーにもらわれれば人生幸せだ。そう考えるポケモンは数知れないだろう。でもやはり私にとってのマスターはひとりしかいなかった……。




    それから私は悲しみに暮れた。食べることを忘れ、かわりに物思いにふけるようになった。寝ることを忘れ今まで流したことなど一度もなかった涙を流し続けるようになった。


    私はほどなくして力尽きた。少年がポケモンセンターに連れて行きポケモンドクターに診せようとした直前だったような気がする。最期に小さくマスターの名前をつぶやき目をとじ、そこで私の人生は終わった…………。



    ----


    これが私の人生。私のすべて。



    そのあと魂だけでここにとどまり続けていることぐらい言わなくてもわかるよね?



    …………あの後私のマスターにはあっていない。もうずっとあえない。そんな気もする……。






    でもね。もし、もしもマスターが来てくれたらね。


    そっと近くで呟きたいの。


    「ありがと………」

    ってね……。




    ----

    元ネタはこの小説と本当に同じです。
    僕が友達との勝負に負け手持ちのグレイシアを拉致られました(泣)
    今どうしているだろうあの娘……。そんなことを考えていたら自然に手がキーボードのほうへ………。
    そんな作品です。最後まで読んでいただきありがとうございました。


      [No.1716] あたえられたもの 投稿者:クロトカゲ   投稿日:2011/08/08(Mon) 23:19:04     55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    感想ありがとうございます。感想が付く作品だと思っていなかったので感動も一入です!
    「あれ、自分の名前のスレッドが上がってる?」この瞬間は何回あっても嬉しいものですねー。


    凄く読み込んで頂いたようで、寧ろ自分の意図以上に読み取って頂いてるのでは?(笑)
    こちらで書くのも少々蛇足かもしれませんが、二匹だけを出すと決めたときから、対比の作品にしようと思い書きました。あとは奪う者と与える者なんて対比も少しあったりします。

    敬語ピカチュウは、ぶっきらぼうな口調のヤミカラスとの対比で丁寧な言葉遣いにしてみたのですが、思わぬインパクトでラッキーでした。敬語ピカチュウ、一つのジャンルとして確立するかもしれませんね(笑)

    気に入ってもらえて何よりでですが、もう、褒め過ぎですよー!
    本当にこれほどまでに褒めて頂き、ブラックシティを見下ろせるぐらい舞い上がっています。(笑)
    また楽しんで頂ける作品が書けるよう、頑張りますね。

    ありがとうございました!


    誤字報告感謝です。修正しました。


      [No.1643] 愛、アイ、哀 投稿者:moss   投稿日:2011/07/26(Tue) 22:13:53     74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ※そんなグロくないけど苦手なかたは注意報 
























     満点の星空にぽっかりと月が浮かぶ。冷えた砂漠の夜風はさらさらと砂を運んでは去っていく。
    その中にただ一人、辺りにそぐわない真っ白なコートを着込んだ旅人の姿があった。
    頭をすっぽりとフードで覆っているため性別はわからない。
     底の厚いくすんだ茶色い靴で柔らかな砂漠の地を踏みしめ歩く。
    その様子はまるで絵画のようで、幻想的な背景の中をゆっくりと進んでいく。
     砂の中に瓦礫が交ざってきたころ、不意に旅人は歩みを止める。
    前方には朽ち果てた古城。百年くらい前ならばオアシスにそびえたつ美しい城だったかもしれない。
    しかし今では砂嵐の影響か、壁は風化して崩れかけ、かろうじて残った建物の一部は
    やや左に傾いてしまっている。いつ崩れてもおかしくないような状況にあった。
     背後から気配を感じて旅人は振り返る。
    「 ……何かお困りかしら?必要であれば、休める場所に案内するわよ」
     白いフリルのついたかわいらしい膝丈の黒いミニドレス。
    そこから伸びる細く白い足。黒く艶やかな髪をなびかせる。
    背丈が旅人の半分程度しかない小柄な少女は偉そうな足取りで旅人の前までやってきた。
    手に持ったカンテラが揺れる。マリンブルーのぱっちりとした両目が旅人をとらえる。
    旅人は言った。
    「 ……近くに休める場所があれば、案内していただけると助かります」
     フード越しのくぐもった低い声。少女は目を細めると、ドレスの裾を翻して歩き出す。
    旅人も黙ってそれに続く。さくさくと砂の中を進んでいく。
     満月が強くまたたいた。




      ※



     
    少女は幸せ者であった。父は一国を統べる王。母はその妃にあたる。
    砂漠の中に存在し、国民の支持を多大に受けたまさにオアシスで呼べる国。かくして少女は
    皆の祝福の中、オアシスの王女として生を授かる。
    国王夫妻は“愛しい”という意味をこめて、ディアと名付けた。
     ディアはたくさんの期待と慈愛を受けて健やかに育っていった。
    三歳になる頃にはすでに言葉を喋り、毎日のように外で遊び回っており、そのせいで
    白い肌は鮮やかな小麦色に変化し活発な印象を与えていた。
    やんちゃで活発でよく笑い、よく泣いて、わがままですぐにすねる。子供らしい子供だった。
    そしてすぐに機嫌を直してまた遊びまわり、王宮で飼われているムーランドやらペルシアンなど
    ポケモンと戯れるのだ。ディアはポケモンが大好きだった。
     それを見かねた国王が、彼女の五歳の誕生日にポケモンをプレゼントとして贈る。
    箱に入れられ贈られたそれは、小さな黒い体に白いリボンをつけた生き物。
    首には黒い首輪がついている。
    「お父さんありがとう!」
     子供らしい無邪気な笑顔。ポケモンは無表情に目をぱちくりさせる。
    彼女はそれに、ビアンカと名付けた。



      ※


     
     少女に案内されたのは古城の中の一角。今にも崩れそうな壁が特徴的な、
    おせじにもきれいとはいえない部屋だった。一瞬こんなところでと不満を抱いたが、
    少女が「ちょっと待ってて」と部屋の奥に消えていったので安心する。
    横倒しになった、見るだけで貴族のものだとわかるような家具が部屋の
    あちらこちらにちらばっている。中でも目を引いたのはくすんだ色の、古びた大きなベッドだった。
    下ろされたレースカーテンにはいくつものくもの巣が張り巡らされている。
    かつて女の子の部屋だったのかと旅人は思案する。
    「となるとここが……?」
     旅人は少女が戻ってこないことを素早く確認すると、ごそごそとコートの中から
    青い手帳を取り出した。ぱらぱらとページを捲り一定のところで止める。
    「――さんの言っていた城っていうのはやっぱり……」
    「待たせたわね」
     背後からの燐とした声で旅人は目にも止まらぬ速さでそれをしまうと、くるりと振り返り「いえ、
    こちらこそ手間をかけさせてすみません」とさわやかに言い放つ。
    「さぁ案内するわよ。安心して。ここから先はまだきれいだから」
     皮肉のこもった口調で言い歩き出す。わずかに悪戯っぽく微笑んでいるたのを旅人は見過ごさず、
    罰の悪い顔をする。が、すぐに微笑んで
    「それはどうも、―――」
    「え?」
     少女はぴたりと足を止め振り返る。
    「何か言った?」
    「いえ」
     旅人は表情を変えない。
    「何も」
     少女は顔をしかめるが「 そう」とだけ言って、再び歩き出してしまう。
    かつかつとかかとが、ひび割れた黒い大理石のような床を打ち付ける。
     それを見て旅人は呟く。
    「全く、難儀なもんだね」




      ※




     ディアが十歳になるころには、彼女はおてんば王女として国中で有名になっていた。
    というのも五歳の誕生日を過ぎてからというもの、彼女は毎日のように
    相棒のビアンカと共に様々な場所へと遊びに出かけ、散々危険な目にあいつつも
    それをやめなかったからである。例えばスピアーの大群に喧嘩を売り追いかけられてみたり、
    ギャラドスのいる湖に石を投げ、怒り狂ったギャラドスの破壊光線をかわしながら逃げ帰ったりと
    巷では有名な話である。
     それに困った国王夫妻は、なんとか危険なことはやめさせようと努力はしたものの、
    幾多の修羅場をかいくぐってきたディアにとっては何の脅しにもならず、
    逆に彼女の闘争心を擽ったともいえよう。諦めた国王夫妻はビアンカに娘の安否を託し
    ついには何も言わなくなったという。わがままな娘をもつと大変である。
     そんな両親の心配などまるで知らない彼女は、懲りずに遊びに出かけては元気にもしくは
    ずたぼろになって帰ってくる。
     ある日のことだった。ディアはいつものようにビアンカを連れて、オアシスの外れに
    広がる広大な森林へと出かけた。ここには強くも弱くもないポケモンが生息しているため、
    母親には「 あの森には近づくんじゃありません」と強く言われていた。だが、しかし
    あの彼女が素直に言うことを聞くはずもなく、遊び場所としてちょくちょく訪れていた。
    あまり奥まで行くと戻れなくなることはわかっていたし、進もうとすればビアンカが服の裾を
    ひっぱり進むことを拒む。年の割には頭の良い子だったといえよう。
     頭の良い子だったので、彼女は森の入り口に立ったとき、何かがいつもと違うことに
    気がつけた。隣ではビアンカが無言で彼女を見上げている。黒い首輪がヤミカラスの濡れ羽のように
    てらりと光る。ディアは小声で呟いた。
    「何かが、いる?」
     遠くでかすかに音がする。それが人の声なのかポケモンの鳴き声なのかはわからなかった。
    一体何が起こっているのか。好奇心に負けたディアは静かにビアンカを連れ森へ入る。
    息を殺して物音を立てないようにしながら直感で草の中をそろそろと進んでいく。
    そのうちに音は、複数の男の話し声であることがわかり、ディアの中の緊張感が増すと同時に
    好奇心もまた増していた。どくんどくんと心臓の音がうるさく鼓動する。
     話し声は彼女たちがいつも遊んでいたちょっとした空間だった。そこだけ木が何本か切られており、
    人が座れるくらいの大きさの切り株が立っている。
    日ごろから空き缶が落ちていたりと彼女たち以外にも人の訪れていた様子はあったものの、
    実際そこに人がいるところを目撃したことはなかった。
     切り株には五人の男が座って、何やら神妙な顔つきで話し合っていた。彼女は見つかっては
    いけないと思い、丈の長い草の中に見を隠す。幸いそこにポケモンはいなかった。
     ディアはそっと聞き耳を立てる。そこで見るからに体格の良い男たちは急に声のトーンを落とした。
     ――「……く……は……考え……」
     ――「……つけよ。それを……だろう?」
     大事な部分が聞き取れない。ディアは決心して限界まで近づく。
    音を立てないように慎重に移動する。
     ――「明日だ。いよいよ明日決行する」
     ――「俺もこいつも早く国王を倒したくて仕方ねぇよ」
     ディアの目が大きく見開かれる。……パパ?!
     ――「あの親ばか夫婦め。子供にばかり気をとられて……」
     ――「もうあの国はだめだ。だからこうして俺たちが今ここに集まっている」
     ――「そのとおりだよ。……作戦は覚えているな?まずお前が最初に町で暴れる」
     ――「わかってらぁ。そんで奴らが俺に気をとられているうちにお前らが城へ侵入する」
     ――「で、俺が使用人どもの注意を引いてるうちにてめぇらが先に行くんだろ?」
     ――「そして協力して火をつける!」
     息を呑んだ。彼女は口の前に両手をあて、目を見開いたま小刻みに体を震わせている。
    それに追い討ちをかけるように男たちは言った。
    ―「「「「「国王の懺悔に、乾杯!!」」」」」
     グラスの触れ合う音の代わりに拳のぶつかった音が響く。
    ディアは耐え切れなくなって、そっとその場から逃げ出した。




      ※




     少し休ませてもらうだけなのに、すごいところに来たなと旅人は関心する。同時に
    あの城のなかにまだこんなきれいな場所があったのかと苦笑した。やっぱり見た目じゃ
    全てはわからない。
     再度少女に案内されたのは、なにやら豪華な造りの部屋だった。さすが城なだけあるなと
    いうような高級感あふれる家具が無造作に配置されている。床に敷かれた絨毯は何かのポケモンの
    毛皮で作られていて、少女はそれを土足で踏んづけていく。シャンデラのようなシャンデリアに
    明かりを灯すと少女は旅人に椅子を勧める。旅人は小さく会釈して座る。ギシッと椅子の軋む音。
     沈黙の中、ふと旅人は壁に掛けられた肖像がに気が付いた。
    「……もしかしてあの絵はあなたですか?」
     一瞬の間の後、少女は静かに答える。
    「そうよ。その絵はあたしの絵。絵の下に名前が彫ってあるでしょう?」
    「dear……ディア、さん?」 
     ディア。どこかで聞いたことのある名前だと言いそうになり口ごもる。ああ、この子が。
     少女――ディアは旅人の方へ来ると、近くのテーブルに持っていたカップを置いた。
    強く香ばしい香りからジャスミンティーだと仮定し、「ありがとうございます」とだけ言って手を付けない。
    ディアは何も言わずに近くに座り足を組む。優雅な動作でカップを口に付ける。
    「……あたしはかつてこの場所に存在していた国の王女にあたる存在。今は一人でここに住んでいるの」
     淡々と少女は自分の正体をあっさりと明かす。その様子がどこか自分に言い聞かせるようにして喋っているようで、少し違和感を抱えつつも旅人は相槌を打っていく。
    「一人?」
     旅人はフードで隠れた顔を上げた。ついでにカップにもようやく口を付けたが
    一口でまたもとの場所に戻してしまう。
    「こんなところに一人で、ですか?」
    「あら、心配してくれてるの?ありがとう、でも大丈夫よ。こうしてたまに人も来てくれるし
    食べ物だっていっぱいあるわ。それなりに充実したところよ、ここ」
    「そうですか……」
     旅人はどこか残念そうに言うと、すくっと立ち上がりコートの内側から拳銃を取り出し
    銃口を彼女の額に突きつける。
    「だったら死んでください」
     乾いた銃声が古城に響く。




      ※




     ついに“明日”はやってきて、朝から町は大騒ぎだった。一人の男がポケモンと共に町で
    暴れ周り、人々はパニックに陥っていた。あまりにも混乱しすぎていて国王もそれに対応できる
    はずがなく、またあちこちで国王に対するデモが起こりつつあった。
     国民の罵声から逃げるように、ディアとビアンカとその母親は国王の命令で、門から一番遠い
    子供部屋に身を隠していた。
    「……大丈夫よ大丈夫。わたくしたちは大丈夫……大丈夫……きっと彼が全部収めてくれるはず……」
     ぶつぶつと自分に言い聞かせる母親。艶やかな黒髪に両手をあてくしゃりと握り潰しながら必死の
    形相で呟き続ける。ビアンカはひたすら無言だった。外からは無理矢理門を開く音がして、人々の
    怒声がより一層耳に届く。それが怖くて、ディアはずっと目を瞑り両手で耳をふさいでいた。
     そのままどれくらいの時間がたったのか。遠くで国王らしき断末魔がかすかに聞こえた。
    「あなた!」
    「……! 行っちゃ駄目よ、ママ!!」
     ディアは必死で扉に駆け寄る母親をなだめる。しかし興奮状態の母親の耳にそれは届かず
    「な、何をするの!はなしなさいっ」
     と、部屋の隅まで突き飛ばされてしまう。
     母親は自分が娘を突き飛ばしてしまったことにひどく驚いたのか、奇声を発して勢いよく扉を開き、
    部屋の外へと消える。
    「だ、だめだよママ!死んじゃうよっ、だから行かないでよぉママぁ!」
     叫び声もむなしく、代わりに返ってきたのは鋭い銃声と二度目の断末魔。
    「……あ。こいつ、もしかして国王様の奥様じゃねぇか?あーあ、殺しちまったよ。……まあもう
    旦那さんも他界したし、向こうで仲良くやるんだな。さて、あとは火がこっち来る前にあいつらと合流して
    逃げるとするか」
     扉の向こうで聞こえた男の声。全て聞き終えぬうちに、ディアはビアンカを抱いて子供部屋のクローゼットにそろりそろりと閉じこもる。
    「ごめんなさいごめんなさぁい。パパもママも、あたしのせいで死んじゃったんだよねぇ。……うっひぐ。えぐ。どぉしたらいいのかなぁ、ねぇびあんかあああぁぁぁぁっ」
     狭い空間でぽたりぽたりと涙を落とす。
     抱きしめられたビアンカはただ何もいわずに見て――




     ※



     
     吹っ飛んだのはディアではなく、旅人のフードだった。ぱさりと灰色の髪が顔にかかる。
    長い前髪に隠れた深い紫色の瞳が鋭い眼光を帯びる。
    「あら。けっこういい顔してたのね!もっとおじさまかとおもったわ」
    「……。こんな至近距離で外したなんて認めたくないなぁ……」
     全く会話の成立していないこの物騒な状況の中、この期におよんで無邪気に笑う目の前の
    少女に旅人は少し畏怖を抱いていた。
     何故真っ直ぐ発砲した弾が自身の身につけていたものを吹き飛ばしたのか。
     考え込む旅人にディアは笑う。
    「一般人が銃なんか持ち歩いちゃっていいのぉ?時代は物騒になったわねぇ」
     お前が言うか。その言葉は発することなく、旅人はディアに首をつかまれ壁に打ち付けられた。
    少女とは思えないような力でギリギリと締め上げられる。
    「あっ……」
    「ここに来た本来の目的を言いなさい。あなたがずっとここに来たかったのは知ってるのよ。
    今日までの三日間あなたはずっとこの城を偵察してきたんだものね。あたし、ずっとなんだろうなぁって
    気になってたのよ」
     このままだと本気で喉を潰されると本能が察知し旅人は素直に答えた。
    「げほっ、……し、城の……調査……」
    「嘘。あなたはあたしを殺しに来た。そうでしょう?この間ここに来た男と格好がそっくりだもの。
    まあ顔はあなたのほうがいいけどね。でもその人はあたしが喰べちゃったけど」
     ぺろりと舌をだしてくすくすと嗤う。はたから見れば可愛らしい笑顔なのだが眼光は鋭く、
    ましてや首を絞められている旅人は悪魔の笑みとしか思えなかった。
     旅人は薄れゆく意識の中で、自分の前にここに来て少女に喰べられた同業者のことを哀れんだ。
    今はすっかり彼女の肉と化しているであろう彼を吹き飛ばしてしまうなんて。
    なんて私は残酷なヤツなんだろう、と。
     一方少女はあせっていた。こんなに力をこめているのに、何故コイツの目は一応恐れはあるものの、
    失望を感じさせないのは何故なのかしら。これから何をされるかわかっているはずなのに。
     少女は聞く。
    「さぁ。心の準備はいいかしら?死ぬ前に何か言いたいことがあれば今のうちよ」
     あくまでも自分が有利な立場にいることを示すために余裕をもって言う。
     このとき旅人はトイレに行かせてくださいと言おうと思ったのだが、あまりに幼稚な考えだと否定し、
    もっとまともな質問はないかと思考する。
     ひらめいた旅人は口を開いた。
    「何故、私を、ここに、連れ、て、来た、ん、で、す?」
     まるであかずきんちゃんのような台詞にディアは面を食らいつつも、彼女は狼になって答えてやる。
    「……それはお前を喰べるためさ!」
     かかった!旅人はわずかに残った意識で自身を賞賛した。彼が狙ったのは自分を食べようとする瞬間。
    つまり首から手が離れる一瞬。
     旅人は叫ぶ。
    「ゲン、ガー!シャドー、ボー、ル!!」
     刹那。ディアの背後で巨大な影が蠢いた。





      ※ 




     あたしは俗にいう奴隷ってヤツだった。汚らしい人間の住む汚らしい場所で生まれ、
    親なんて言葉も知らないまま奴隷市場で売りさばかれ、情のない腐ったトレーナーの手持ちに
    なっては、言う事を聞かないでおいたら捨てられた。
    能力だけで選んでいる人間の言うことなんて聞きたくないし、一緒にいたくもなかったので
    丁度いいっていったら丁度よかったけど。
     そのたびにあたしはまた奴隷市場に商品として並べられ高額で取引された。そんな毎日。
    だからよく隣に並んでいたあたしと同じ商品の奴らにもったいないと言われるのが不満だった。
    もったいない?ならあんたたちも買われてみなさいよ。
    どうせ買われてっていいことなんてないのに。だけどそう言うヤツに限ってトレーナーに見込まれる
    だけの能力がなかった。
     あたしは人間が嫌いだし、もっと嫌いなのはあたしの能力だけを利用しようとする奴ら。見てるだけで
    いらいらするのにそいつらなんかに利用されるなんてもってのほかだ。
     そんなある日のことだった。あたしはいつものようにトレーナーに逃がされ、
    奴隷市場に舞い戻ったところで少し不機嫌だった。
     見慣れた光景をまじまじとぎょうしポケモンらしく見ていたら、視界の隅で挙動不審な男を見つけた。
    そいつはあたりをきょろきょろとせわしく見回しながらこちらにやって来る。
    「すみませんっ。急いでるんですが、何かいいポケモンありませんか?」
     あたしは顔をしかめた。“いいポケモン”といわれると必ずと言ってもいいほどあたしを持ち出すから。
    それと理由はもう一つあった。何よりこの男自体が怪しいじゃないか。薄汚くぼろぼろのマントを纏い、
    フードを目深にかぶっているためはたから見ればとてもうさんくさい。
    けどあたしの特性にかかればフードなんてないもの同然。だからこそわかる。
    おんぼろマントでは隠し切れない高級感が。こことは違う清潔感が。フードの下はきれいに
    オールバックにしてあるし、顎には髭すら生えていない。この男は一体何者なんだろう?
     あたしがしばらく凝視して観察していると、隣に並んでいたモノズとかいうやつ(めんどくさいから
    通称;となり)がこっそり話しかけてきた。
    「おぉ。あれは間違いねぇ。あれは“上の世界”のヤツだぜ。しかも大層大物だな。ありゃ国王様か
    なんかじゃねえか?なぁんかどっかで見たことあるような感じがするんだよな」
     ちなみあたしに人間は喰べられるということを教えてくれたのもコイツだった。こんなところにいる
    わりにはまともなやつだったとあたしは思う。もしかしたらまともじゃなさすぎて逆にまともっぽく
    見えたのかもしれない。関係ないけど。
     “上の世界”のお偉いさんらしき男は予想通りあたしを買ってくれた。近くで見るとやっぱりとなりの
    予想は当たってるんじゃないかと思い、もしそうならばあたしはこれからすごいところに行くんじゃない
    かと、珍しく良い気分になれた。
     となりの予想は大当たりし、男は“上の世界”に出るなり、何やら大きくて豪華な建物に直行した。
    “下の世界”とは比べ物にならないくらいきれいで大きな部屋でマントを脱ぎ、国王らしき立派な服を
    他者に着せてもらう。
    ああいうお世話係みたいなのは確か使用人とかいうんだっけとか考えていると、急に黒い首輪みたい
    なのを付けられた。それにしてはずっしりと重い。
     そうだ。あたしはこれを知っている。爆弾だ。
     目を白黒させるあたしに対し、国王姿の男は冷たく言い放つ。
    「その首輪は爆弾だ。もし貴様が何かよからぬことをしでかせば、その瞬間に起爆させる」
     嘘でしょう?あたしは言葉を失った。国王のポケモンになれば、いつかどこかで聞いたおとぎばなし
    のように、愛し愛されて自由に暮らせると心のどこかで思っていた。けどそれは甘かったの?
    奴隷は結局どこへ行っても奴隷のまま、愛は与えられず自由なんて夢?
     そんなこと、奴隷のあたしが望んでいいことじゃないのに望んだあたしが結局は馬鹿だったってことね。
    もう一人のあたしがそう耳元で囁いた。
    「これからお前を娘に託す。もし娘に何かしたら……わかっているな?」
     そうしてあたしは少女、ディアと出会う。急に入っていた箱を開けられ眩しくて目をぱちぱちさせていた
    あたしを抱きしめ、警戒するあたしをやさしくなだめ、名前までくれた。
    「今日からあなたは“ビアンカ”だよ!」
     嬉しかった。このあたしがここまで喜ぶんだから相当なものだったと思う。
     守ってあげたい。遊んであげたい。愛してあげたい。
     それと同時に湧き上がる憤りの感情。
     あの子のせいであたしは首に爆弾を付けられた。あの幸せそうな表情が憎い。憎い。憎い。
    すぐに両親に泣きすがるのがあたしへの侮辱みたいで。
     いつからかこう思うようになった。

     「あの子がいるから自由になれない」



    「ごめんなさいごめんなさぁい。パパもママも、あたしのせいで死んじゃったんだよねぇ。……うっひぐ。
    えぐ。どぉしたらいいのかなぁ、ねぇびあんかあああぁぁぁぁっ」
     だからあたしはあんなことをしたのかもしれない。
     クローゼットの中であたしを抱いて泣き叫ぶディアを見て、何故か唐突にどうにかして楽にして
    あげたいと思ったのだ。
    ここまではよかったのに。
     かつてとなりの言っていた言葉を思い出す。
    「知ってるか?人間ってなぁ、お前みたいに小さい奴でも喰えるんだとよ。何、手順は簡単さ。まず――」
     あたしはそのままの姿勢でできるだけがんばって体を伸ばす。そして彼女の細く白い首筋に
    思いっきり噛み付いた。
    「え……あ。びあ……んか?」
     それが最後の言葉となった。あたしは特に何も考えずにとなりの言ったとおりの手順を思い出し
    ながらその通りの場所に噛み付いていく。何も聞こえない。何も見てない。ただ。ただ目の前のことに
    集中して。楽しかった思い出がよみがえったりしたけどそれでも。
     ごちそうさまのころに、あたしは皮肉にも進化した。今までどんなことがあっても進化しなかったのに。
     クローゼットから出て、前より高くなった身長で辺りを見まわす。部屋の外はきっと火の海になってる
    ことだろう。ドアノブにも触れられないと思う。
     窓が少しだけ開いてるのを発見する。あたしは迷わず大きく窓を開け、窓枠に足をかける。
     そのとき、また唐突にもとなりの言葉を思い出す。
    「喰らうっていうのはなぁ。相手を自分の中に取り込むってことだ。だからなぁ。喰えば喰らった人間の
    姿になれるんだと」
     決断は早かった。やり方なんて知らなかったけど、知らないうちに叫んでいたからどうにかできたんだと思う。
    「でぃああああああっごめんなさああああああいっ」
     ディアになったあたしは逃げるようにそこから飛び降りた。



     
      ※




     「げほっげほっ。あー、やっと息ができる。……あ、ゲンガー放さないでくださいね」
     ゲンガーはわかってると言うようにニタリと笑う。両手にはゴチミルが持ち上げられており、せめて
    もの反抗かのつもりか、しきりに電磁波バチバチと青い火花を散らせている。しかし、レベルの差か、
    ゲンガーは平然と立っている。
     旅人は白いコートの中から手帳を取り出してゴチミルを見る。
    「あー、あったあった。これだこれだ。元王女のポケモンゴチム……今はゴチミルか。が王女を喰べて、
    それから城に訪れた人間を襲っては喰ってるっていう……。本当ですか?」
     青白い稲光に照らされた表情はどこか自嘲的に笑っていた。そして静かにどこか一点を見つめたまま「そうよ」と言った。
    「一体何故?」
     旅人が素直にたずねる。
    「何故ですって?」
     カラカラと笑って言う。
    「ねたましかったのよ。あの子が」
    「そうですか……」
     旅人は目を伏せる。その様子にゴチミルはばつの悪そうな顔をする。
    「…………」
    「…………」
     自分が話さないと会話が成り立たないことに気が付いた彼女はぽつりぽつりと語りだす。
    「……ほんとうらやましかったわ。いい子だったし、何よりあたしに優しくしてくれた。
    ……でもね。同時に妬ましかったのよ」
     一呼吸置いて続ける。
    「あの子はあたしにないものを持っていた。家族や友達。恵まれた環境っていうのもあったわね。
    まぁそのせいであの子の両親はあの子のことを馬鹿みたいに可愛がっていたものね。
    あの子も二人が好きだったけど、娘のポケモンの首に爆弾付けるのもどうかと思うわよ。全く……」
     また一呼吸。
    「……あの時、あの子に抱かれたあの状況であんなことを思ったのはただ単にあの子を救いたいって
    いうのもあった。
    でも、一番はあの子になりたかったのかもしれない」
     旅人は黙って聞いていた。話が終わったのを感じ、目を閉じてからゆっくりと瞼を開き、
    キッとゴチミルを見つめる。
    そして床に落ちてる銃を右手で拾う。
    「そういえば、あなたは一体何者なのかしら?」
     カシャンと銃を振って弾が入っているのを確かめる。
    「私ですか。うーん、なんでしょうねぇ」
     腕をしっかりと伸ばして銃を構える。マシンガンのような小さな白銀の銃の銃口はしっかりと
    ゴチミルの左胸に向けられている。
    ゲンガーがケケケと怪しげに笑う。旅人の紫色の視線がゴチミルを刺す。
    「私はただの悪者退治を頼まれた一介の旅人ににすぎませんよ」
     引き金を引く。崩れ落ちるゴチミル。ゲンガーだけがケケケと笑う。
    「おやすみディア……いや、ビアンカ嬢。良い悪夢を」
     ゲンガーが大きな口を開けてゴチミルの死体を丸呑みにした。
     旅人は振り返ることなく進んでいく。その後をてけてけとゲンガーが追いかけていった。


      [No.1572] ・・・だいばくはつ 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/09(Sat) 16:07:45     59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    みんなのコメントのサーナイト♀はリア充って・・・
    あの世界にもやはりそういう価値観が・・・それはそれで恐ろしい。
    というかそこじゃないだろ、リア充!

    小さなブラックホールを天の川に飛ばせば良かったのに・・・


      [No.1501] 星に願いを 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/07(Thu) 19:19:25     44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     大きな笹に短冊がところせましと吊るされてる。ヒカリはそれに興味を持ったらしい。なぜかとしきりに聞いてくるから、七夕なんだと教えてやった。知らなかったようで、織り姫と彦星にかわいそうかわいそうと言っていた。けれどヒカリ、俺としてはお前の方がかわいそうだよ。コウキのこと、好きなのに、あいつはそのことを知らない。ヒカリがそのことで何度も涙を流したのも知ってる。
     だからこそ、俺はペンを握った。そして今まで一番丁寧な字で書いてやった。一年に一度に会う、思い合う二人よりも、常に一緒にいるのに一方通行な思いをしているヒカリのために。
    「コウキに彼女が出来ますように」
     書いたものをヒカリに見られないように、ムクバードに頼んで高いところにつるしてもらった。それでもヒカリはまだ何を書くか迷っていた。たくさんありすぎて、何を書いていいか解らないんだろ。じっと見てたら、見ないでと顔を赤くして言ってた。後ろを向いたら、さっと書いたようで、手の届くところに吊るしていた。
    「一年に一回だけじゃなくて、ずっと会ってられますように」
     そういった、ヒカリの相手に寄り添う優しさが、俺は好きなんだ。



    ーーーーーーーーーーーー
    シンオウのライバルがこんな細やかな観察ができるわけないというツッコミはやーめーてー
    ホウエンはどうしても二人がラブラブに見えるけれど、シンオウはなぜか片思いに見える。
    イッシュは殴り合ってる関係に(
    それは受け取り方なのかな。シンオウは多分、シリーズで一番ライバルと仲良しだから、その分片思いに見えてしまうのかもしれない。

    【実は百字のつもりだった】【百字じゃ足りなかった】【好きにして良いのよ】【反論歓迎】


      [No.1430] うちのは「クロミ」という 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/05(Tue) 20:41:16     25clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    うちの飼っていた犬は黒かった。赤いところはないけど、腹が白い。そういう犬種らしい。
    そいつはとんでもなくバカ。犬のくせにキャベツの芯が好き。あとキュウリとか

    というわけで、そんな犬を思い出した、スイカ。

    スイカおいしいよ!うちでは誰も食べないから、一人で買って一人で食べてる。


      [No.1359] いつの間にやら 投稿者:紀成   投稿日:2011/06/23(Thu) 19:25:35     41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    えーと…覚えてる範囲で書き出してみようか。

    1、昔からの一族の掟に従い、親殺しをして成長していく娘とその父親。
    2、ちょっとした言葉のナイフから友人を傷つけ、もう二度と戻れない関係を作ってしまった『私』
    3、我慢強くてひたすら病魔と闘ったレントラーと、その本人を励まし続けたご主人。
    4、やぶれたせかいに住み着いたお父さんと、居候と思いながらも追い出さない仕事中毒のギラティナ。
    5、仲間と里を救うため自ら身代わりになって悪ポケモン達を食い止めた『花の歌姫』
    6、あるひと言の意味を考えるゾロアと、賢くて優しいゾロアーク。
    7、お人よしで人助けをするために死んでいった兄と、残された姉弟。
    8、あるポケモンを愛して愛して、しまいには狂いかけた少女。
    9、スイクンと共にヴァイオリンを弾こうとする学生さん。
    10、ライモンにあるカフェのマスターと、その看板息子。他にキャラも登場。
    11、主人に先立たれて一人屋敷に住むゴチルゼルと、迷い込んだ少年。
    12、夢が叶った日に全て割れると信じる、硝子の置物を持つ少女。
    13、昔のポケモンの思い出を語る。
    14、コールコール キルキルキル
    15、カラカラカラ コロコロコロ
    16、自分達が生み出した人間達を滅ぼすひと言。
    17、わが子を眠りにつかせる、母親のおまじない。
    18、白い竜を目の前にした主人公と、仲間達に対する思い。
    19、別地方からの受け入れと、彼らの思い出。
    20、長年連れ添ったジャローダの幸せを願う男。
    21、一人じゃ何も出来なかった少女が、一匹のツタージャによって扉を開く。
    22、ホップステップで踊りましょう?
    23、世間の喧騒に飽きた少女の、少しずれた日々。
    24、『アルビノ』私は彼をそう呼んだ。
    25、ゴーストタイプを引き連れる少女と、魂の回収をする死神の出会い。
    26、僕の望んだ世界は、モノクロだった。
    27、雨の中での出会いは、運命でも何でもない、ただの偶然。
    28、プログラマーをしている女性の深夜の呟き。
    29、移り気な心は、まるで紫陽花。
    30、ファントムガールから、レディ・ファントムへ。
    31、カゲボウズが虫歯になっちゃった…?
    32、千年に七日間しか起きることの出来ないポケモンの、短い旅。
    33、暴君と恐れられる彼女も、恋はするんだ。
    34、向こう側には、こんなアイテムがあるらしいよ。
    35、デコボココンビになりそうな…予感。
    36、ポケモンは道具じゃないんだ。一歩踏み間違えれば、貴方も―
    37、『ここにいるよ』



    38、

    ねえ、知ってる?

    紀成がここに投稿し始めてから、

    一年が経ったんだよ。


    始まりは2010年6月13日。午前12時16分41秒。某ネットカフェからの投稿でした。
    皆様のコメントや拍手数、そして沢山の作品に刺激を受けて、大きくなりました。
    この一年、色々なことがありましたが、ここに来るたび元気をもらえました。

    『皆の作品とコメントが、私の執筆の糧です』

    まだまだルーキーの域を出ていませんが、これからもよろしくお願いします!


      [No.1288] 相棒 まだそれっぽくはない(仮) 投稿者:紀成   投稿日:2011/06/05(Sun) 14:29:40     60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ミドリ:つまり、コラボというのはコラボさせてもらう相手の小説をよく読んで、おかしな場所が無いかきちんと確かめる必要があるんです。例えばカクライさんがいきなり彼女に会っちゃったり、コクトウさんがいやに血の気が多かったり、ライザくんが敬語だったら、おかしいでしょ?というかやらかしましたよね、一度。
    つまり事前によく打ち合わせして、ネタをよく練っておくということが重要なんです。分かりましたか?

    紀成:わかりませーん!

    …そんなこんなで、音色さんとのコラボ『相棒〜二人だけの(仮)』は始まったのでした。やれやれ…


    ――――――――――
    ミドリはデザイナーである。まだ高校生だが、両親の人脈を勝手に使って、デザイン会社などに知り合いを作り、ここまでのし上がってきたのだ。こう言うと何だか敵が多い気もするが、確かに敵は多い。学校に友人はあまりいないし、いたとしてもまた彼もちょっと変わり者なのだ。
    容姿はあまりよくないが、読書家で秀才で偏食でそして折り紙が大得意という、一風変わった個性の持ち主である。パートーナーはムーランドらしい。あまり話したことは無いが、眼鏡をかけると性格がガラリと変わるミドリのことは、同じ読書家として好いているとかいないとか。
    その日、ミドリはライモンシティの遊園地に来ていた。今回のパートナーはジャローダのみ。自分でデザインしたシルクのローブを着せていた。
    「このロゴのブローチがポイントなんだよね。ポケモンに着せるにはちょっと高いけど、多分冬になったらセレブがポケモンへのクリスマス・プレゼントとして買ってくれるでしょう。
    …ちょっと暑いけど、すぐだから我慢してね」
    『キュウウ…』
    ジャローダは草タイプ。寒いのにも弱いが、暑いのにも弱い。ミドリは今自分が着ている服を見た。比較的涼しいデザインにしてある。これも、自分でデザインした物だ。
    「…それにしても、まさかこんな時期にこんな物に出ることになるなんてね」
    ミドリは改めて、待合室と称されたテントの中に貼ってある、一枚のチラシを見た。

    ことの始まりは、一週間ほど前。『プラズマ団』と名乗る者から、手紙が届けられた。
    『貴方をポケモンと共存するデザイナーとして、私どもが主催するイベントにご招待します』
    最初は眉唾ものだった。だが本気になってきたのは、きちんと会場である遊園地の無料券が同封されていたからだ。騙すなら、ここまではしないだろう。
    『参加する場合は、三日以内にこの手紙に同封されている紙に出席するか否かを書いて出してください。住所は手紙に書いてある物をそのまま書いてください。いいお返事をお待ちしております』
    読み終わるかという前に、ミドリはボールペンを取り出した。ジャローダのデザインだ。尻尾をノックして、ペン先を出す。
    「イエス、と」
    そしてその足でギアステーション前のポストに投函してきた。
    返事が来たのは、次の日。『ご出席ありがとうございます。つきましては、貴方様がデザインした服を自ら着て臨んでいただきたいと思います。
    出来るならば、ポケモンにも一着をお願いします』


    そんなこんなで、今に至る。待合室には沢山の人とポケモンがいた。ミドリ・ソラミネの名はかなり知れ渡っているが、実物を見た者は関係者と、雑誌のカメラマンやライターくらいしかいない。ファンの人達はあまり知らないはずだ。
    ま、もし見たとしても信じない気もするけど…高校生だし。
    表のステージでは、同じような制服を着たプラズマ団の団員達が司会をしている。服のデザインはまあいいけど、ピッチリしたフードが気に入らない。あれじゃ男女の区別が遠くから見たらつかないじゃない。
    「不思議なことを考える人もいるものね…ポケモン解放なんて」
    近くでオーベムに餌をあげていた女性トレーナーが呟いた。考え方は人それぞれだろう。だが、その食い違いが時に救いようのない悲劇を生み出すこともある。
    祖父を警視長に、叔父を監査官長に持つミドリは、そのことをよく知っていた。

    『続いては、イッシュにその名を轟かせるデザイナー、ミドリ・ソラミネの登場です!』
    司会の声に、観客席がざわめいた。若い女の声が一番よく聞こえる。服は買ったことが無くても、名前は聞いたことがあるという人間がほとんどだろう。
    ジャローダが促した。眼鏡はそのまんま。目まで下げるのは、あるべき時だけでいい。
    ステージに上がる。驚きというか、落胆というか。そんな二つの声が混ざり合っている。司会がマイクを渡してきた。スピーチ?何も考えて無いよ。
    「こんな子供だと思い、落胆したでしょうか」
    ざわめきが止んだ。こんな言葉を吐くなら、眼鏡を下げていいよね…

    「ポケモンは道具ではありませんよ、皆さん。そこは百も承知でしょうが、一応お伝えしておきます。
    個体値が高ければいいという問題ではありません。本当にポケモンが好きならば、そのポケモンを一生懸命育てるべきではありませんか?
    トレーナーが自分勝手なら、ポケモンは簡単に離れていくでしょう。ボールという道具で縛っているだけで、結局はポケモンは人よりずっと強い存在です。その気になれば、このジャローダも私の息の根を止めることだって可能でしょう」
    ジャローダが驚いて首を振った。私は笑って彼の頭を撫でる。
    「ポケモンと人間が共存していく上で一番大切なのは、信頼です。この時代まで築き上げてきた関係を、これからも崩さないようにしていきたいと、私は思います」
    私は礼をした。数秒後、爆発するような拍手が起きた。

    その後は待合室から他の人を見ていた。私の次は…ポケモンの義手、義足を作っている人らしい。
    「コクトウです」
    若い男の人だった。片腕が義手のダゲキを連れている。
    「このダゲキは片腕がありません。トレーナーによってそうなってしまったのです。長いこと彼の義手の調整をしてきましたが、人がポケモンに与えた傷は簡単に治るものではありません。
    おそらくこのダゲキも、人間をよく思ってはいないでしょう」
    待合室から見たダゲキの目は、鋭かった。自分が大勢の人間に見られることを、必死で耐えているような目だ。
    「俺はこのダゲキに、お前の腕を失くした人間を許してやってくれとは言いません。ただ、そんな人間もいるけど、ポケモンを大切にするという心の持ち主が少なくとも一人はいるということを、知って欲しいのです。
    ここで話を聞いてくれている人達もそうであると、信じています。ありがとうございました」
    拍手が沸き起こった。私も気付かないうちに手を叩いていた。この人は、色んなポケモンを見てきたんだ―
    何となくそんな気がした。

    スピーチが終わってしまうと、何もすることが無い。丁度昼時だったので、屋台を見て回った。オクタン焼き、ポケモンを象ったカステラ、木の実を丸ごと飴に包んだ木の実飴。
    その中に見知った顔を見つけた。店の前にはレックウザも真っ青の長い列が並んでいる。店の主人は…
    「ユエさん」
    「あら、ミドリちゃん!さっきのスピーチ良かったわよ」
    GEK1994のユエさんだった。丁度お客にカップに入れたゼクロムを渡していたところだった。どうやら今回限定の商品があるらしい。
    「特製カレーパン、ください」
    「はい。手持ちポケモンのタイプは?」
    「水です」
    「はい、分かりました」
    後ろには大鍋。美味しそうなカレーがたっぷり入っている。そばにあった白パンにカレーを入れると、ユエさんは小さなボウルに入った青色のペーストを中に入れた。
    「それは?」
    「これはネコブの実とシーヤの実を混ぜ合わせてペーストにした物よ。連れているポケモンのタイプに合わせてカレーに入れるペーストが違うの」
    相変わらずのアイデア精神だ。マグマラシはいないみたいだけど…
    「あの子はメラルバと一緒よ。お金渡しておいたから、好きに食べてるわ」
    「今日も預けて行かれたんですか」
    「ま、これもサービスよね。帰りにゼクロム飲んで行ってくれるし」
    その時だった。

    「変な言いがかりつけてんじゃねえよ!この時計は俺のなんだよ!」

    ステージ近くから罵声が聞こえた。私も含むその場にいた人が一斉に向こうを見る。
    「何かしら」
    「ちょっと見てきますね」
    私はジャローダと一緒に騒ぎのする方へ行ってみた。二人の男が争っている。あれ、片方は…
    「だけど、その時計は俺の鞄についてて、ついさっき盗まれて」
    「これがアンタのだって証拠でもあんのかよ!名誉毀損で訴えるぞ!」
    片方はサーフィンでもやっているのだろうか。この時期にしてはかなり肌が焼けた男だった。もう片方はさっきステージに上がってた人だ。
    確か…コクトウさんだっけ?
    どちらにしろ、ここまで見てしまったら白黒はっきりつけたいところだ。私は眼鏡を再び目元まで下げた。
    「いい加減に…」
    「どうなされましたか」
    二人の視線がこっちを向いた。うん、こういうのって嫌いじゃない。それにしたって、このサーファーの顔どっかで見たような…
    「コイツが俺の時計取ったとかほざくんだよ」
    「待ってください。初めからお願いします。コクトウさん」
    「え…ああ」
    彼が話し始めた。

    コクトウさんは話し終わった後、とりあえず食事をしようと思い鞄を下げて人ごみの中を歩いていたらしい。めぼしい物が見つかって並ぼうとした時、ふと財布の中身はどうなっていたかが頭に浮かんだ。もし順番が来てお金が足りなかったらイミが無い。
    なので鞄のチャックを開けようと鞄を見たところ、いつも付けているはずの時計が無くなっていた。ご丁寧に鎖がペンチか何かで切られていたそうだ。
    慌てて辺りを見回すと、一人の男が自分が鞄に下げていたはずの時計を右手で宙に放り投げているのが見えた。それで声をかけて―
    今に至る、らしい。
    「なるほど」
    「鞄に付けているとはいえ、うちの工房は物を何処かに置き忘れることが出来ないくらい小さな場所なんだ。毎日見てる。だから遠目から見ても絶対間違うはずが無い」
    「ふざけんなよ。ったく、何でこんな場所まで来てこんな目に遭わなきゃならねえんだ」
    「ふむ…」
    ミドリは考える。憧れの名探偵ほどまではいかないけど、これくらいのいざこざなら一人で片付けたい。
    「貴方、マリンスポーツをしていますね」
    「は」
    「この時期にしては肌が黒い。それにその短い髪形。そして」
    ミドリは男の着ている服の袖を捲くった。手首より上は、白だ。
    「おそらくサーフィンでしょうねえ。ここまで独特な日焼けの跡は同じマリンスポーツでも限られてきますから。
    …おや、これは?」
    右と左の腕の日焼けを見比べる。右の方が、わずかに白い部分が多い。
    「ダイバーズウォッチの跡でしょうか。防水、水圧に耐えられるだけの丈夫さ。水中はもちろん、陸上でも普通に使うことができます。
    つまり貴方は、腕時計を愛用していた。ここまで日焼けの跡が残るということは、相当長い間使っていたのでしょう」
    「な、なんなんだよ」
    「腕時計を愛用しているのに、わざわざチェーン付きの時計を手に持つというのは、いささか妙な気もしますがねえ…」
    ミドリの独特な言い回しが癪に障ったらしい。男が吠えた。
    「ふざけんなよ!餓鬼だと思ってなめてんじゃねえぞ!」
    「もしペンチか何かで切ったとしても、盗られた本人が気付くまで少なくとも数分はかかっています。その間にペンチを捨てることは可能です。探そうにも、この人ごみから見つけることは骨が折れるでしょう。
    それだけでは証拠にはなりませんが…やっと思い出せました」
    「え」
    ミドリは男に向かって言った。

    「貴方、窃盗の容疑で指名手配されていますね。サーファーとして肌の色と髪形を変えたつもりでしょうが、その目の色は誤魔化せませんよ」

    男が走り出した。懐からナイフを出して振り回す。野次馬がちりぢりになる。
    「待ちなさい!」
    ミドリは走り出した。あまり走るのは得意ではない。だがそんなこと言ってる場合じゃない。
    「あっ」
    男が側にいた一人の女性を人質にとった。首にナイフを突きつけている。
    「来るな!来たらこの女を刺すぞ!」
    「馬鹿なマネはよしなさい!」
    ミドリが叫んだ。
    「ここで逃げおおせても、貴方の罪が増えるだけです。今はただ必死かもしれない。ですが、罪を重ねれば重ねるほど、貴方の背中にのしかかっていくんですよ。
    貴方はそんな人生を歩みたいんですか!自分の自制心すら失ってしまいましたかっ!」
    男が怯んだ。と、その時、ミドリはある違和感に気付いた。男に人質にされている女性の首が、下がったままなのだ。茶髪のポニーテール。どこかで見たことがあるような服装。
    あれ、この人ってもしかして…
    「ねえ?」
    ずっと黙っていた女が口を開いた。男が女の顔を見る。
    「ああ?」
    「今、貴方何処触ってるか分かってる?」
    ミドリは少し考えた後、後ろに立っているコクトウの元まで下がった。幸いにも男の周りに人はいない。これなら平気だろう。
    「何処って」
    男の左腕は、女の胸をぐるりと一周するような形で抱き寄せていた。

    「何処触ってんじゃおんどりゃああああああああああああああっ!」

    耳を劈くような声が響き渡った。怯んだ男が腕を放した隙に、女が抜け出す。そのまま右拳をみぞおちにヒットさせる。男の体は十メートル近く吹っ飛んだ。
    「え、あの、ちょ」
    「随分と好き勝手やってくれたじゃない。他人の物盗んどいて、いいがかりつけられた?ふざけんじゃないわよ!」
    声を聞きつけたマグマラシとメラルバが寄ってきた。ミドリがボソッと呟く。
    「ユエさん…落ち着いてください」
    「アンタなんて人間の風上にもおけないわ!ちょっと、誰か鉄パイプ持ってきて!」
    「いけません、ユエさん!そんなことしたら貴方も犯罪者になってしまいますよ!マスターの店を守るんでしょう!?」
    その場にいた常連客の一人が必死に叫んだ。ユエの動きが止まる。
    「マスター…」
    「貴方がいなくなったら、あの店はすぐに潰れてしまいますよ!それでいいんですか!?」
    しばらくの沈黙。ユエが深呼吸し、そして男ではなく地面に左拳を突き刺した。
    少しへこむコンクリ。
    「それは…困るわ」
    「マスターの珈琲の味を出せるのは、貴方だけなんですよ」
    「そうね…ごめんなさい、私が間違ってた」
    立ち上がるユエ。体を起き上がらせる男。そして―

    「やっぱムカつくけどね」

    バシン!という音と共に、男が気絶した。左頬を真っ赤に腫らせて。


    男のポケットから、鎖が切れた時計が見つかった。男は警察に連行されていった。
    「ありがとう」
    「礼にはおよびませんよ」
    ミドリが笑った。ずっと部屋に篭っていたからか、色々すっきりした気がする。
    「すごいな、君。細かいことに気付くんだ」
    「学校では疎まれていますがねえ。私の悪い癖」
    眼鏡を額に上げる。いつものスタイルだ。
    「じゃ、またね!貴方とは縁がありそう。またすぐに会える気がする」
    「なあ、最後にいいか」
    「え?」
    コクトウが鞄から木彫りのジャローダを出した。
    「助けてもらったお礼。君、ジャローダ持ってただろ。よかったら」
    「すごーい!ありがとう」
    ミドリが頬ずりをした。やはり高校生なのだろう。たとえデザイナーでも、眼鏡をかけることで人格が変わっても、探偵としての素質を供えていても―


    その後、二人はちょくちょく行く先々で遭遇することとなる。そしてデコボコの探偵コンビとして警察内にその名を知らしめることになるのは…
    まだ、先の話だ。

    ―――――――――――――――
    構想:二週間以上
    執筆:五時間ちょっと
    備考:土下座

    [書いてもいいのよ]
    [黄金コンビの誕生なのよ?]

    コクトウさんの口調がよく分からないとか…ドウスリャイイノ…


      [No.1216] マサポケオフ2日目in上野 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2011/05/22(Sun) 20:21:58     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    マサポケオフ2日目in上野 ダイジェスト


    ●数日前
    鉱物マスター久方女史より国立科学博物館に行きたいというリクあり、じゃあ予備日に行こうぜという話になった。

    ●前日
    明日行く人ーとオフ参加メンバーから参加者を募ったら、久方さんとNo.017の2人しかいない。
    欠席理由は主に金欠と審査の関係。
    そこでチャットで呼びかけたところ茶色氏が23区内在住、と口を滑らせる。

    017「来なさい」
    茶色「じゃあ、流月さんにも来て貰います」
    017「おk、流月さんも参加ね」
    流月「ちょっと!? トイレに行ってる間に参加決まってるんだけどどういうことなの!?」

    流月さんはラージサイズの文字で不在を主張したが、それはチャットメンバーによって華麗にスルーされた。

    017「じゃあ、メール送るねー」

    こうして流月さんの強制参加が決まった。
    その頃、ツイッター上で運悪くツイートしていた本棚システム開発者Y氏。
    017にロックオンされ、参加させられることに。
    かくして彼らは上野駅公園改札にて集合の約束をした。


    参加者(敬称略):

    No.017
    久方
    茶色
    西条流月(強制参加)
    本棚システム開発者ことY氏

    こま(メール参加)
    てこ(電話参加)
    586(メール参加…?)
    きとかげ(チャット参加)
    音色(チャット参加)


    ●当日

    改札前で待っていると茶色氏がやってくる。
    そうして改札外で待ってた久方さんと合流する。

    017「ところで流月さん(強制参加)って茶色さんのお知り合いなんですか」
    茶色「いや全然」
    017「ちょwww」

    ここで明らかになる接点のなさ。

    586(メール参加)「(強制参加の話を聞いて)これぞマサポケクオリティwww」

    そのうちにY氏(紳士)と流月氏(強制参加)が到着する。
    一同は国立科学博物館へ。


    ●国立科学博物館

    国立科学博物館(こくりつかがくはくぶつかん、英称:National Museum of Nature and Science、略称:かはく、科博)は、独立行政法人国立科学博物館が運営する博物館施設。「自然史に関する科学その他の自然科学及びその応用に関する調査及び研究並びにこれらに関する資料の収集、保管(育成を含む)及び公衆への供覧等を行うことにより、自然科学及び社会教育の振興を図る」ことを目的とした博物館である。(wikipeddia より)
    そしてオフ参加メンバーを奇行に走らせる魔境である。

    オフメンバーの主な奇行

    ・ヒグマの剥製を見て「リングマだ!」と口走る
    ・シカの剥製を見て「オドシシだ!」と口走る
    ・ウサギの剥製を見て「ミミロップだ!」「ニドランだ!」と口走る
    ・ウサギの剥製のポーズに制作者の妙なこだわりを感じ取り「ポケモン世界にミミロップの剥製を作る職人がいたらセクシーポーズをとらせるに違いない」と妄想を膨らます
    ・カラスバトを見て「ブラックピジョンさんだ!」と口走る
    ・キジの標本を見て「ケンホロウがいる!」と興奮する
    ・雀の剥製を発見。「スズメさんがおる……」と呟く
    ・要石に鎮められたナマズの絵を見て「ナマズンがミカルゲさんにやられている」と解説する
    ・世界最大の蛾の標本の前で「ガーメイルだ! ガーメイルがいる!」と口走る
    ・アンモナイトの化石の前ではもちろん「オムナイトだ! オムスターだ!」と口走る
    ・大きなアンモナイトに皆で手を当て宇宙人との交信を始める
    ・古代人から現代人への進化の展示、男(おじさん)の顔の作りに妙なこだわりを感じ取る(女より明らかに気合いが入っている)
    ・茶色さんは縄文人と一緒にいる犬が気に入ったようだ
    ・現代人部分の展示は現代人自らが入り展示品となる仕様。Y氏が入り、撮影会に。Y氏は犠牲になったのだ……
    ・銅鐸を鑑賞。「テンガン山にはこれがいっぱい浮いてるのか……相当に銅鐸文化が発達していたようだ」と考察を述べる。
    ・日本各地の骸骨を観察。「586さんは縄文型だな……」とつぶやく
    ・葉っぱの化石を見て「リーフのいしだ!」と興奮する
    ・忠犬ハチ公は秋田犬なのででかい。映画は所詮柴犬サイズである
    ・魚の展示を見てお腹がすいてくる
    ・フタバスズキリュウを見て「リアルラプラスだ!」と叫ぶ
    ・首長竜はモノを喉に詰まらせて窒息死しないのか本気で心配する
    ・ウタツサウルス(魚竜)の顔が茶色さんに似ていると017が主張。目元が似てた
    ・料亭のおじさんが集めたという鉱石コレクションが壁一面の展示。久方さん大興奮。博物館にヤミラミを入れてはいけないとういう結論に達する
    ・数ある標本の中にひときわもふもふなアカギツネの剥製を発見。もふ神様を前に撮影会となる。隣にあるリングマの標本は華麗にスルーされる
    ・ミュージアムショップに並ぶ「かいのカセキ」「ひみつのこはく」に誘惑される

    奇行を繰り返した後に、お腹が減ったので昼ご飯を食べに行くことにする


    ●Y氏プロデュース、優雅なティータイム

    Y氏いわく近くに良い感じのカフェがあるという。
    公園まわりをぐりりと歩き、案内されたのはオサレなカフェ。

    こまさんからメールが来る「カフェレポよろしく」。
    紅茶の画像を見せつけるように送ったところ、「まさか!麺つゆ?」と返信される。

    017「ちげーよ!」
    こま「ちゲーチス!」
    017「だめだこいつはやくなんとかしないと」
    こま「これだけは自信を持って言える! 手遅れです」
    017「ここに病院を建てよう」
    こま「週末病棟ですね!! わかります」

    わけがわからないよ。
    とりあえずデザートの画像を見せつけるように送っておいた。

    てこさんから電話がかかってくる。
    順番に少しずつお話しする。
    かわいい声だった。襲いたい。

    しばしオサレな店で優雅なティータイムを満喫する。
    が、だんだん雲行きが怪しくなり雨が降り出してきた。


    ●雨が降るとユニクロが儲かる

    結論から言おう。
    我々が店から出たとき、雨ザーザーでやばかった。
    用意のいい男性勢は傘を取り出すが、女性勢は持っていない。
    先導するY氏を先頭にし、茶色+017、流月+久方で豪雨の中を進むこととなった。

    017「カイオーガがあらぶっているようだ。グラードンを頼む。レックウザでもいいよ」

    きとかげ(チャット)「それは雨ごいを覚えたカゲボウズが降らしているんですよ」

    なんということだ。
    留守番チャットに溜まる怨念を食って元気いっぱいのカゲボウズに住人らは雨乞いを覚えさせたらしい。
    なんという逆襲であろうか。
    皆が上野駅についた頃には傘から外れた半身、傘に入った半身で色が違っていたのだった。
    我々は悟った。オフの持ち物には折りたたみ傘(必須)の要項を設けるべきだと。

    レッスンの為、ここでY氏とはお別れをした。
    我々は次なる行動を健闘する。「何か食べるか、それとも服を買うか」
    とりあえず寒くてしょうがないので 我々はユニクロへと足を運んだ。

    ユニクロはネタTシャツ……じゃなくて企業ロゴTシャツの宝庫だった。
    「あかいきつね」「みどりのたぬき」「明治チョコレート」「亀田製菓」「エビスビール」……無駄に種類豊富である。
    茶色さんは「みどりのたぬき」を欲しがっていたがあいにく在庫切れだった為、「TOKYU HANDS」をチョイスし、久方さんは「共和の輪ゴムの箱柄(http://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/B001CQYGME/ref=aw_d_iz_office-products?is=m)」をチョイスした。
    017はファスナーがついた長袖を買った。自分の小説キャラに着せてファスナーを下ろすというあらぬ妄想を展開していた為、久方さんに白い目で見られた。
    着替える。身体も温かくなったので我々は腹ごしらえをすることにした。


    ●バナナの天ぷら

    流月「あったかいものが食べたい」
    茶色「うどん食べたいですね」
    017「うん、うどん食べたい」

    我々は雨にうたれ暖かいうどんを所望していた。上野駅のレストラン案内を見る。
    すると都合の良いことにカレーうどん屋があるではないか! 我々は真っ先にそこへ向かった。

    「前会計になりまーす」

    お店のお姉さんにそう案内されて我々はメニューを見る。
    するとそこに妙なラインナップを発見した。

    「バナナ天カレーうどん \1250」

    017「……バ、ナナ?」

    ツッコミどころは\1250という値段ではない。もちろんバナナである。

    twitter
    --------------------------------------------
    pijyon No.017
    バナナ天カレーうどんとかわけがわからないよ

    586 586
    @pijyon kwsk
    --------------------------------------------

    これはオフレポの為に注文するしかない。身体を張るしかない。
    おもむろに注文をすると久方さんがチャットに報告をした。

    音色(チャット)「うまいのかそれ?」

    他のメンバーがきわめて平々凡々な……否、定番メニューを頼む中、私のもとにはカレーうどんと皿に乗ったてんぷらが運ばれてくる。
    しかしいつもと違うのは、てんぷらの中身がバナナだとうことである。
    一本丸々を衣で包み、揚げて、真ん中から切って 中身がバナナだということをこれでもかと主張している。
    ……まずはカレーうどん(単品)をいただくことにする。

    うまい。
    単価が高いでけあって クオリティが高い。
    麺には腰があってシコシコだし、カレーのスープもよい味だ。今なら雨補正もかかっている。
    問題はバナナである。
    箸でつかむ。カレーにてんぷらを浸し、パクリと一口。

    あ、以外とイケる。うまい。

    天ぷらの衣は文句なくサクっとしており、口に広がるバナナの甘み。それがカレーとほどよく合うのである。
    まーそりゃあ どこぞの登山カフェじゃあるまいし、合わなきゃメニューにしねぇよなぁ……
    しかし考えた人と通した人はすごいと思う。

    ありがたやー これも雨乞いカゲボウズのお導きに違いない、と 017はカゲボウズに感謝するのであった。
    (これをカゲボウズ教という)

    ポケモンの世界にはポケモンに雨を降らせて、傘を売って設けてる商人がぜったいにいると私は思う。

    店を出る。上野駅改札に移動。
    久方さんの新幹線の時間になったので、我々はここで別れることとなった。

    久方「あっ、うどん屋に帽子忘れた」

    この後、017がうどん屋に走って戻ったのはまた別の話である。



    上野オフダイジェスト 完



    ●余談

    茶色「どこまで行くの?」
    流月・017「山手線で○○まで」
    茶色「なんだ方向一緒じゃん」


    オフ会は帰るまでが オフ会です



    二日間、ありがとうございました。


      [No.1142] [再投稿]最後の花束 投稿者:一刀流   投稿日:2011/05/05(Thu) 11:25:00     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     あれから一年が経とうとしていた。
     第三次世界大戦、徴兵令が発令され、私の恋人は遠い戦地へと赴いた。
    「大丈夫。きっと帰ってくるよ。だからそれまで待っていてほしい」
     そう言い残して。
     
     三日前に世界大戦は終わった。勝利を手にしたのは、私たちの国が所属しているホウエン、ジョウト、カントー連合だ。
     もし、もしも彼が生きていれば今日、列車に乗って帰ってくるはずだ。
     重い不安と、強い期待を胸に、私はよそ行きのワンピースを着た。彼はお腹をすかしているかもしれないと、お握りを鞄に二つ放り込んだ。服が汚れているかもしれないと、洗った彼の服も持っていった。

     籍は入れていなかった。同居こそしていたものの、まだ籍は入れていない。
     籍を入れる手続きをしようと思っていたその日に、赤紙が届いたのだ。
      
     大勢の人がたくさんの荷物を持って駅のホームに並んでいた。子供連れの婦人が半分ほどの割合を占めている。子どもが「お父さんの乗ったポッポーまだ?」と言う声が耳を掠めた。一瞬、ポッポに乗って帰って来るのかと思ったが、すぐにそれが列車の比喩だということに気が付き、私は頬を赤らめた。
     
     皆が期待で胸を弾ませている中、歓声と共に列車がホームを貫いた。窓から顔を出したり腕を伸ばしている大勢の男の人たちを見て、きっとあの人も帰ってきていると確信した。あんなにたくさんの人がいるんだもの。あの人だけがいないわけがない。
     列車が停車すると中からあふれ出るように人が湧き出し、押し出すように人が殺到した。抱き合う人、赤ん坊を抱え込む人、恋人と思われる女性とキスする人。再会の喜び方は様々だった。
     そんな人たちを横目に見つつも、私は常にあの人を探していた。
     そして私が見たのは、土で汚れ、軍服のあちこちで穴が顔を出し、少し日焼けしたあの人だった。
     
     涙が頬を伝った。
     
     彼の視線は自分の胸に付けたペンダントと民衆を往復していた。戦地に赴く前に私が彼にプレゼントしたペンダントだ。中には私の写真が入れてある。
     私は感慨にふけっていて、彼の元に行くことなど忘れていた。しかし、彼がこちらを向いた瞬間に私は我に返った。彼はどういう反応をしたらいいかわからない様子で、それでもにっこりとほほ笑んだ。私は涙を流しながら彼のもとに駆け寄り、抱きついた。
     そして彼はそっと、私の耳元で囁いた。
     そして彼はもう一度ほほ笑んだ。
     そして彼は、消えた。

     





     空気を伝わる砲撃の衝撃音が森を揺るがした。葉と葉が身を寄せ合うたびに乾いた音を発する。
     森の中で、二人の男が茂みに身をゆだねていた。一人はペンダントを胸に、一人は銃を腕に。敵に見つかりにくい緑と茶色の軍用服をつけ、体中を土に塗(まみ)れさせていた。
     森にはたくさんの地雷が仕掛けてある。もし敵が突入してきた時でも、敵の戦力を減らせるように。地雷が仕掛けられた箇所は地図に記入されている。
    「全く、俺たちも運がないな。よりによって突入部隊に入れられちまうなんて」
     銃を腕に抱えている男が言った。ペンダントを胸に付けた男が相槌をうつ。
    「だけど死ぬわけにはいかない。だろ?」
     ペンダントを揺らし、時折息を切らしながら言った。肺も喉も、体中が悲鳴をあげていた。
     ──そう。死ぬわけにはいかないんだ。故郷で待つ最愛の人のことを思い、胸に下げた希望を腕で強く握りしめた。

     刹那、男に降りかかったのは血の雨。隣の男が撃たれたのだ。
    「くそっ!」
     男は走った。このままでは自分にも流れ弾が当たる恐れがあったし、すでに自分の位置を知られているかもしれない。少なくとも、ここを離れるのが得策だと考えた。
     走る。背を曲げ、見つからないように細心の注意を払いながら、一心不乱に。撃たれた仲間が頭を過ぎる。その考えも置き去りにして男は走る。今まで見てきた幾数もの死んだ仲間たちが、過去から追いかけてくる。一層早く、男は走る。そして気がつく。

     ──地雷っ!!

     本当に僅かに盛り上がり、なおかつ土を掘り返された後がある。反射的に身体にブレーキを掛けた。
     息を弾ませながら、失った単調なリズムを取り戻そうと男は立ち止まる。
     
     ふと草の擦れる乾いた音が心臓を凍らせた。敵兵か。それとも味方か。あるいは風の悪戯か。次第に音は大きくなっていく。いつでも走りだせるよう、戦えるよう、男は身構える。
     
     現れたのは、黒い狐だった。とても小さな。恐らく先ほどの銃撃音を聞きつけ逃げてきたのだと考えた。
     安堵の息を漏らし、そして男に緊張が走った。
     黒い狐が真っ直ぐ、地雷の方向へと走って行ったから。





     気がつくと男はボロボロになっていた。辺りには置いて行かれた黒煙が空へと登れずに留まっている。
     
     不思議と痛みはなかった。

     黒煙の中から黒い狐がおぼつかない足取りで近寄ってきた。その口にはきらきらと光る希望が咥えられている。走り出した時にでも外れたのだろう。
     男は狐が持ってきた希望の中から覗く天使を見て、呻いた。
    「君にもう一度会う事が出来たなら。どんな形でもいい。もう一度君に会う事が出来たなら」
     言い終わると少しずつ眠たくなってきた。世界が黒くかすんでいく。
     遠い世界に行く旅の途中、男は彼女へ送る花束として最後にこう言った。





     希望を咥えた黒い狐は走った。
     お母さんもお父さんも、お婆ちゃんもお爺ちゃんもみんな口をそろえて言っていたから。
     恩をいただいたら恩で返すのだと。
     希望を抱いた黒い狐は走った。男の残した最後の花束を彼女に届けるために。





    「愛してるよ」



    ───────────────

    一部保存していなかったため少し文章がかわっています。

    最近全くアイディアが出ない。。。気分転換に初めからBWやろうかな。


      [No.1067] Re: くわっ!? 投稿者:イケズキ   投稿日:2010/12/24(Fri) 20:58:27     33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    >  困るコマタナが目に浮かぶ。……美容院に行ってきた母(変化無し)の変化を見つけるぐらい、大変なんですよね。師匠の変わったところを見つけるのってww

    その通り。師匠のオシャレを見つけるのは、ふつう無理です。ストライクはきっと、長年の勘と、師匠へのリスペクトで発見したのでしょう。

    > >  「でも、いつもの白ネギの、青い所少し切ったって、あまり変わらないと思うけどなぁ。」
    >  師匠、それはさすがに気づかないかと……クワァッ!! すみません、素振りしてきます。

    もちろん素振りの掛け声は、「クワァッ」だぞbyカモネギ師匠

    >  感想にもなってない気がしますが、ここはメリクリで許してください><

     いえいえ、むしろ楽しいツッコミありがとうございました。


      [No.994] とけないこおり 投稿者:クロトカゲ   投稿日:2010/11/28(Sun) 08:51:02     42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「今日はちょっと調子が悪かったんだもん」

     私の呟きはその部屋に響き、消えた。

    「テスト勉強や家の手伝いで、バトルの練習できなかったし」

     言葉は誰も聞くことなく消えていく。震えているのは雪の降る中歩いてきたからだ。それだけだ。
    この部屋には私以外誰もおらず、外へは風の音でかき消されるはずだ。誰にも聞こえない。
     私は泣きそうな時、この山の室にやってくる。
     昔、冷蔵庫がなかった時代の夏、偉い殿様に運ぶ氷を保存しておくのに使われていたらしい。その洞窟は今は何にも使われておらず、人が来ることはほとんどない。


    そんなに弱っちいんじゃ、トレーナーの旅なんていつまでも無理だな!


     今日もバトルに負け、情けない姿を誰にも見られたくなくて、山にあるここに来ていた。
     ポケモンは出さない。
    手持ちのポケモン達はきっと慰めてくれるだろう。だけどそんな優しいポケモンに勝利を与えることができない私はもっと情けなくなってしまう。悲しくて悲しくて泣いてしまうかもしれない。
     だからポケモンは出さない。

    膝を抱え、目を閉じた私は、どれぐらいそうしていたのかはわからない。なんとなく気になって顔を上げたのは、風のせいだった。唸るような音がするその風は、外から吹き込んでくるものじゃない。
    それじゃあ――

    そこには今まで来た時には気づかなかったものがある。
    穴、と呼ぶにはちょっと綺麗過ぎる。切り抜いたかのような通路。
    いや、ひょっとしてずっとあった?
     そう錯覚してしまう程に静かに、その道はあった。

    「……」

     誘われるように、知らず知らずのうちに足を進めていた。
     不気味な風と私の足音を聞きながら、奥へ奥へと進んでいく。
     石の壁が、少しづつ色を変え、音を変え温度を変えていく。次第にはっきりと氷の壁へと変わっていく。
     やっぱり変だ。
    室は初めて来たときに隅から隅まで見てまわったはずだ。
    見つけられないはずはなかった。でも昨日今日作ったにしては深い。
     何なんだろう。
     引き返そうかと思ったけれど、どうしても足は止まらない。
     普段歩き慣れた雪道とは違い、気を抜くと滑ってしまいそうな氷の床を進んでいく。

     たどり着いた部屋、そこには、

    「すごい……」

     巨大な氷が宝石のようにきらめいていた。

     テレビで見たことがある宝石よりもずっときれいな氷。大きなものから小さなものまで静かに光っている。言葉も出ない。しばらく動けなかった。
     どれぐらいの間そうしていたのだろうか、やっと動いたのは私ではなかった。大きな氷が揺れ、それに付いていた小さな結晶が落ちて割れた。

    「うそ……でしょ……」

     氷の柱の一つだと思っていたものがゆっくりと動き出したのだ。よく見ると人の形をしたそれが、先の尖った足を床に突き立て、前に1歩、2歩と進んできた。
     さらに、柱の表面には数個の丸い模様が浮かび上がり、チカチカ点滅した。

    「ポケモン……?」

     詳しくは覚えてないが、本で読んだことがある。どこかの地方の伝説のポケモンだ。
     そんなポケモンが何で?
     いや、そんなことはどうでもいい。
     二度と起きないこのチャンス、絶対にものにしなくちゃ!
     伝説のポケモンを捕まえるのだ!
     私は腰のポーチに入っていたモンスターボールに手を伸ばすと――

    そんなに弱っちいんじゃ、トレーナーの旅なんていつまでも無理だな!

     ボールを握った右手が凍ったように動かない。ピクリともしない。
     私には無理だ。でんせつのポケモンと戦うなんて無理だ。
     動けない
     目に入ったのは氷のポケモンの右腕。そこには大きな亀裂が入っていた。

    「怪我……してるの?」

    ポケモンは動かない。
     
    「傷薬とか効くのかしら?」

     そもそも、そんな伝説なんていわれるポケモンは普通のポケモンと同じなんだろうか。どうしていいかわからない私は、とりあえず手持ちの回復アイテムを使うことにした。が、たいしたアイテムを持っていない。

    「効果があればいいんだけど」

    持っていたいい傷薬を三つ、普通の傷薬を五つ使いきった。木の実も何個か持っていたがどこが口なのかもわからない。そもそも木の実を食べるのだろうか?
    ポケモンはされるがままだった。時が止まったように動かない。

    「ごめんね、元気の塊とか持ってたらよかったんだけど」

     残念ながら私はまだ子どもだ。それに弱い。お小遣いだって少ないし、バトルで賞金を稼ぐこともできない。普段持ち歩くことはおろか、買いに行くことすらできやしない。


     図書室で調べてみると、意外にあっさりと見つかった。
     レジアイス 氷山ポケモン
     ホウエン地方の伝説のポケモンだという。
     そんな遠くに伝わるポケモンが何故いるんだろうか?
     結局その本にも、他の本にも私の知りたい情報はない。

     それからレジアイスに会いに行くのが私の日課になった。別に何をするわけでもない。ただレジアイスを見て、そばにいるだけだ。あいかわらず右腕は直らない。

    「ねぇ、触っていい?」

     レジアイスも模様が優しく光り、消えた。
     それが肯定なのか否定なのか確かめようはない。ましてや私の言葉に反応したのかさえわからない。
     私はレジアイスの前に立ち、そっと手のひらを氷の体に当てた。
     
     
     ――それはとにかく冷たくて――
     

     レジアイスに抱きつくように両手を広げ、体を預ける。
     
    「やっぱり冷たいのね。ちょっと痛いかも。でも――」

     私を包んでくれるような、そんな優しさを感じる、と思うのは感傷的なんだろうか。

    「ねえ、あなたはどこから来たの?」

    「どうしてここに来たの?」

    「何を考えているの?」

    「      」

     突然の出来事に私はすぐにレジアイスから離れた。
     模様が突然強く光りはじめたのだ。
     ぱらぱらと氷りの粒が天井から落ちて、私の体に乗った。
     次の瞬間、私は氷の床に滑って倒れた。
     まるでポケギアの振動のように、私の周りの空気ごと、体がブルブル震えて立っていられない。

     妙な震えはすぐに納まり、体を起こすと前にレジアイスが立っている。しかし、今まで見慣れた氷のポケモンとは様子が違う気がした。

     機械みたいな、壊れたラジオのような妙な音が鳴り、レジアイスのひび割れた腕がこちらに向けられた。
     驚いて身動きのできない私を見つめながら、その腕の前に光と風が集まり始める。
     室に入っていったときのように、私はそこに吸い寄せられて、目を話すことが出来ない。

    (れいとうビーム?! れいとうパンチ?! こごえるかぜ?!)

     私の脳裏に最悪の光景が広がった。




     その日、私は風邪を引いた。


    「まったく、あんなに吹雪いてるのにずっと外にいて。風邪を引くにきまってるじゃないの」
    「ん〜〜……」
    「それ食べたら早く寝るのよ」
    「ん〜〜……」

     レジアイスと別れてから四日経った。信じられないぐらい熱が出て、一日寝込んだままだった。二日目・三日目も熱は引かず、だるさが続き、食欲も全然なかった。今日はやっとだるさも少し和らいで何とかお粥をお腹に収めているが風邪は治らない。
     曇りガラスを拭いてみても外はどうなっているかわからない。とにかく真っ白だ。レジアイスはどうしているのだろう。

    「全く、あんな吹雪の日に何してたのよ。山にはなんにもないでしょ」
    「危ないから雪が降ってる日は山に行くのはやめなさい」

    私、伝説のポケモン見つけたのよ。

    父さんは笑うかしら。母さんは熱がひどくなったと心配するかもしれない。きっと信じてはくれないだろう。絶対。
     それに私はあの後のことをよく覚えていないのだ。光った腕。それしか覚えていない。そのあと自分の足で山を降り、家まで帰ったのはなんとなく覚えている。それだけだ。

    「わたし、ねる。おやすみ」
    「暖かくするのよ」

    ベッドに潜り込むと私は目を閉じる。ドアの向こうから二人の話し声が聞こえる。

    「じゃあ誰かに会ってるのかしら?」
    「彼氏か? 父さんは許さんぞ」
    「じゃあ本人に聞いてみたら? 彼氏はいるのかって」
    「別に俺は気にならん。だからお母さんが聞きなさい」
    「まあ」

     そして窓を叩く風の音で、話し声は聞こえなくなった。
     吹雪は続いている。
     一向におさまる気配がない。

     次の日、空はどこまでも一面の青。晴れ渡る空を見たのはずいぶん久しぶりな気がした。
    氷の室は閉ざされていた。
     解け始めた雪が落ちてきたようで入り口は塞がっていた。

    一週間もすると、続いた陽気で雪が解け始めた。山の銀世界も狭くなり、やがて緑の姿を取り戻すのだろう。
     そしてあの室を塞ぐ雪も解けていた。

    「あんれまぁ、こんなところに何かようかよぉ?」
    「あ、はい。ちょっと」

     室の管理のおじさんが、なにやら作業をしていたので、私はその場を離れようとした。

    「ちょっとまってけろ。おめぇさん、冬の間ここで何かやってただろ?」
    「ええ、ちょっと」

     勝手に出入りして起こられるのかと思い、私は曖昧な返事しかできなかったが、そういうことではなかったらしい。
    ヒゲ面を笑顔に変えておじさんは言った。

    「別に汚してたわけでねぇし、だぁいじょうぶだで。それより忘れ物取りに来たんでねぇのか?」

     忘れ物? いったい何のことだろう?

    「あぁ、ワシ、でりかしーっちゅうもんがねえから。ごめんな」
    「いえ、別に。ところで」
    「ん?」
    「ここって奥に続く道というか、奥に洞窟とかありませんでしたっけ?」
    「んなもんねぇよ。ワシャ40年以上ここ使っとるが、んなもん見たことねぇなぁ」

     じゃあ、あの部屋は何だったんだろうか。熱が見せた幻?

    「ほれ、まだこん中は冷えてるから溶けてなかったよ。これ作ってたんだろ?器用な娘っこだなぁ、おめは」

    おじさんが差し出したのは氷。人型にも見えるそれをおじさんは私が作ったと勘違いしたのだ。

    「ありがとう」
    「んじゃ気いつけてなぁ」

     私はその氷はレジアイスが作ったのだと思った。あの光はきっとこれを作るため。あの空気の揺れは不思議な力で私の型でも取っていたのかもしれない。

    「それともあの時本当に――」

     ――レジアイスはどこに行ったのかしら?

     本格的に春が訪れたら私は旅に出よう。それでレジアイスを探しに行くのだ。旅をしながらあの腕を直す方法も探そう。

     ――レジアイスは今何をしているのかしら?
               
     ひんやりした氷は太陽に照らされても溶ける様子がない。だから、きっとあのレジアイスが作ったに違いないのだ。
     
     私は何度も読んで、もう覚えてしまったそれを、歌みたいに詩を読むように口に出した。ホウエン地方の伝説のポケモンについて書かれた石盤の一文だ。 


    わたしたちはこのあなでぽけもんとくらしせいかつし、そしていきてきた。
    すべてはぽけもんのおかげだ。だがわたしたちはぽけもんをとじこめた。
    こわかったのだ。ゆーきあるものよきぼうにみちたものよ。
    とびらをあけよ。そこにえいえんのぽけもんがいる。


     風が吹いた。もうすっかり暖かくなったはずなのに、北風のように冷たい風が。

    「寒いな」

     私はさっきまで氷を持って冷え切った手に息を吐きかけ、擦り合わせた。
     そして体をぎゅっと抱きしめる。
     震えはしばらく止まらなかった。 


    ------------------------------------------------------------------------ 

    【書いてもいいのよ】 【描いてもいいのよ】 【批評してもいいのよ】


      [No.920] 戦機は熟して 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/11/03(Wed) 15:30:52     43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    増援――二人目のレンジャー隊員が現場に到着したのは、一人目の若い人物が現場に現れてから、幾らも経たない内にであった。
    ・・・どうやらこの地方のポケモンレンジャーと言うやつは、彼の故郷の同職達より更に優秀で、訓練も行き届いているらしい。

    しかも彼は、現れ方こそ少々アレではあったものの、相当経験を積んだベテランであるらしく、到着するや否や少年に応急処置を施し、容態を安定状態にまで持っていくことに成功したのだ。
    ――流石は、プロの仕事である。

    今まで殆どバトルの経験ばかり積んできた青年には、『痛み分け』にあのような活用法があろう事など、考えた事すらなかった。
    まさにポケモンの技の活用法は、トレーナー次第で何処まででも広がるものである事を、彼は改めて認識させられた。

    今や少年の頬は、ちゃんと血の通った生者のそれにますます近付いて来たし、呼吸の程も安定し、意識を取り戻す見込みすら見えて来ている。
    そこで彼は、再び岩陰に薪を積み上げると、何とかもう一度焚き火を作ることが出来ないかと、吹き込んでくる雨粒を顔から拭いつつ、試行錯誤してみた。
    そんな彼の隣では、ビーダルのルパーが器用な手つきで、せっせと雨水でアルミの小鍋を洗っている。  ・・・冷え切った体を手っ取り早く温めるには、やはり熱い汁物が一番である。

    救助対象者の容態が安定した事への安心感から、彼と若いレンジャーは思わず頬を緩めて、それぞれの作業を続けながらも、軽く無駄口を叩き始める。
    ――何でも彼は、自分と同じく海の向こうの出身で、故郷の豊縁地方から遙々と、この地方まで研修に来ているらしい。

    同じ海を越えて来た身の上でも、知り合いの人物が渡海したついでに、気楽な思いで金魚のフンを演じただけの彼にとっては、なんとも耳の痛い話であった。
    何のかんのと理由を付け、未だに当ても無い根無し草の身分で通している青年には、まだまだ若いにもかかわらず、自らの夢に向かって一途に走る駆け出しレンジャー氏のその姿は、正視するのも戸惑われるほどに、純粋で眩しい。

    しかしそんな中でも、件のベテランレンジャーは、一人神経を張り詰めたままで、気を緩めかけた両者に対して、鋭い声で注意を呼びかける。

    そして、そんな彼の言葉と心配のほどは、遠からずして現実のものとなったのだ。
     
     
    漸く小さな炎が生まれ出で、更に遠くの空に雲の切れ目を確認出来た、まさにその時――
    突然蹲っていたアブソルが立ち上がって、天に向けて咆えた。
    続いて間を置かずに、足元の地面が不気味に揺らぎ、目の前のガレ場の上部が溶けて流れるアイスか何かの様に、形を崩してずり落ち始める。

    「えぃ、くそったれ・・!」

    今度ばかりは思った言葉がそのまま、口をついて出た。  ・・・そして、罵り声を上げる暇も有らばこそ。
    滑落し始めた土の塊は、そのまま最も崖際に位置していたベテランレンジャー氏と手持ちポケモンのフーディンに、まっしぐらに迫ってきた。

    例え瞬時に状況を把握して反応したところで、到底手当てが間に合うタイミングではなかった。  ・・・そんな中彼に出来た事は、ルカリオのリムイにヒトカゲを託す事と、チルタリスのフィーに、トロピウスが救助者共々飛び立てるよう、『追い風』の支援を命じる事。
    ――それに、土砂崩れに巻き込まれた時にどのように体を動かせば良いかを、頭の隅で微かに、反芻する事ぐらいであった。 
     
     
    だがしかし、どう見ても絶望的であったレンジャーとフーディンのコンビは、突然自らを襲ったこの突発的な災害に、見事なまでの反応を見せる。
    倒れ掛かったフーディンをレンジャーが支えると、間髪を入れず腰のボールからムウマージが飛び出して、諸共に後ろにのめろうとしていた両者を、サイコキネシスで受け止める。
    更に支えられたフーディン自体は、強烈なサイコキネシスで流れ出した土砂の波を単身食い止め、一時的にではあろうとも、この緊急事態を押さえ込み、時を稼ぐ態勢を確立してのけたのである。

    目の前のその一連の出来事に、押し寄せる泥土の波を、如何にして乗り切るかにのみ考えが集中していた彼は、一瞬だけ息を詰めて、視線の先で人柱になっている、三者の姿を凝視した。
    ・・・今ならまだ、何か手を打てる筈だ。 彼の腰のボールには、まだ最後の一匹の手持ちポケモンが、出番を求めて待機している。  

    けれども件のレンジャーが彼に向けて発したのは、助力を求める救援の叫びではなく、人命に責任を負っている、プロとしての指示であった。

    「行ってくれ! はやく、ここから逃げてくれ!」

    それを耳にした瞬間、彼は己の拳を反射的に握り締めて、そのまま食い入るような視線を、相手に向けて注ぎかける。
    ――己の生業に誇りを持っている者にのみ可能な、確固たる意志の表示。  ・・・この場に彼を置いていくことは、情に於いて決して、肯んじ得るものではない。

    しかし、ここで情に流されてもたつく内に、全員が諸共に全滅してしまえば、彼のこのプロとしての行いが、全て無為に帰してしまう事になる。
    ――結局彼は、相手の必死な視線に背中を押されるようにして、理に従った。

    身を翻して仲間達の方向へと取って返すと、既に行動に出ている若いレンジャーとウツボットに手を貸して、迅速に後退出来る退路を確保すべく、アブソルの先導に従って手持ちを動かす。
    ・・・背後では、自身と共に身を以って盾と為している手持ちポケモン達への、ベテランレンジャーの激励の叫びが、吹きすさぶ風と雷鳴を圧し、聞こえてくる。
    見捨てることだけは忍びない――今は兎に角一刻も早く退路を確保し、彼らに救援の手を差し伸べられるよう、努力しなくてはならない。
     
     

    ――しかし、彼らにも限界はあった。  

    遂に何とか避難経路を切り開き、全員が崩落の範囲外まで、達し終わった頃・・・振り返った彼と若いレンジャー隊員との目に、再び動き始めた泥土の流れが飛び込んでくる。

    間に合わなかった――そんな思いが、奥底から湧き上がって来る怒りとなって、彼の心を満たす。
    ・・・ずっと各地を回って修行を重ねて来たと言うのに、こんな大事な時に何の手も打てなかった自分の無力さ加減が、腹立たしいほどに情けなかった。

    だがその時、同じく唇を噛んでいた傍らの若者が、不意に声を上げた。
    それに反応してハッと顔を上げた青年の目にも、流れ落ちる土砂が再び何かにつっかえた様に動きを止める様が、はっきりと映る。

    「行ってみましょう・・!」

    そう声をかけて来た豊縁出身のレンジャーに頷き返すと、彼らは急いで、元来た道を引き返す。

    驚くべきことに、現場に戻った頃にはすっかり泥土の崩落が収まっており、静まり返った土くれの海は、何かに均されたが如く、平らに押し固められている。

    「これは『地均し』・・・  あっ・・!」

    信じられない光景に唖然とする彼の隣で、その有様から使われた技を的確に見て取った若いレンジャー隊員が、泥にまみれた件のレンジャー隊員とポケモン達を、やや下降した位置に見つけ出す。  ・・・その傍らには、また新しく一匹のエーフィが、二股の尻尾を風になぶらせ、額の宝石のような赤い輝きを稲光の中に煌かせながら、静かに佇んでいた。
    エーフィの所属が誰のものであるかは分からないにせよ、あのポケモンがレンジャー隊員の命を救ったことは、確かな様である。
    そして更に、その直後――突然彼らの目の前に、一人のトレーナーが、ポケモンと共に降って来た。

    驚いて立ち止まる彼らに気付くと、その人物 ― ゾロアークを連れ、肩にパチュルを乗せた黒髪の女性トレーナーは、一瞬感情の揺らめきをその面上に走らせたものの、直ぐに元の冷徹な風貌を取り戻して、彼ら一行を静かに見回す。
    傍らの若者の質問にも、素っ気無い返答を返すのみの彼女は、次いで泥だらけのベテランレンジャー隊員の元に走り寄り、介抱を始めた彼らに背を向けて、3匹のポケモンを解き放ちながら、自らの用件を簡潔に口にした。

    「野暮用だ。 この雨を降らす奴らに用があってな。」

    その言葉を聞いた途端、青年の脳裏に、先程思い浮かべた伝説の内容が、改めて蘇って来る。  ・・・同時にそれは、普段は彼の心の奥底に息を潜めているある感覚を、唐突なタイミングで目覚めさせていた。

    「風神と雷神か」

    突然低くなった彼の声音にも全く動じずに、彼女は背を向けたまま遠ざかりつつ、言葉を返した。

    「・・・さあな。 私が遭難しても、助けに来なくていいぞ、レンジャー」

    いずれもこの地方で初めて目にする事になった彼女の手持ちポケモン達は、みな一様にトレーナーである彼女に対して強い信頼感を持っているらしく、何処か超然としたその言動と共に、彼女の実力の程をはっきりと物語っている。

    5匹のポケモンを引き連れて離れていくその背中を見つめながら、彼は遂に堪えきれず、ある決心をして、傍らで同じくその背中を見送っている二人のポケモンレンジャーに向け、用件を切り出す。

    彼の郷里では、『神』もまた一個の命――天と地の間に生きる、兄弟の一人として扱われる。  ――よって、『神』は敬われる一方で、それに値する振る舞いをも、同時に求められる事となっていた。
    だがしかし、今日この場で起きている『神』の振る舞いの程は、彼が幼少時より親しんで来たその価値観からは、大きくかけ離れているものだった。  ――彼の郷里ではそんな時、人間達はその怒りを鎮める為に祈るのではなく、憤りと反省を促す意味を込めて、強い調子で抗議する事を旨としていた。

    ・・・そう――つまりは、そう言う事だ。


    「済みませんが、しばしこの場をお任せしても宜しいでしょうか?」

    そう口にした彼に対し、両者は既に彼の目論見を悟っていたらしく、一瞬彼の方を見つめて口ごもったが、やがてどちらからとも無く頷いてくれた。

    「任せてください! これでも俺だって、レンジャーの端くれですよ!  なぁ、ウツボット! アブソル!」

    若者のその言葉に、手持ちのポケモン達も一様に力強い反応を示して、主人の決意を後押しする。

    「こっちも大丈夫だ。 ・・・彼の意識が戻ったなら、ついでに加勢もさせて貰うさ。」

    フーディンとムウマージに代わる代わる手当てを受けているベテラン隊員の方も、体調の回復もあってか余裕を持って、彼の願いを受け入れてくれた。
    そしてその言葉を首肯するかのように、腰に付けているモンスターボールの一つが、ガタガタと揺れる。  ・・・どうやら、ここにも一匹、頼りになる暴れ者がいるようである。

    彼は念の為、その場にルカリオとビーダル、それにチルタリスの三匹を残して行く事にすると、更に残りの手持ちの内の一匹であるリーフィアに、付近の斜面を補強することを命じる。
    そんな彼に向け、泥だらけのベテラン隊員の方が、急に改まった口調になって、こう指摘する。

    「さっきの女性(ひと)なんだが・・・ 助けは要らないとか言ってたけど、どうも見たところでは、体調が万全とは思えなかったんだ。  ・・・後を追うのなら、その辺も心得ておいて欲しい。」

    「えぇ、分かってます。  ・・・そっちこそ助太刀は有難いですが、無理してまで追っかけて来ないで下さいよ?  ・・・命の恩人にもしもの事があったら、俺はこの地方に足向けて寝られなくなっちゃうんですから。 そんなのは、真っ平ご免ですよ。」

    ――流石は本職だ。 彼自身はルカリオに諭されたその事実を、この人物は既にあの時目にした後姿だけで、しっかりと見抜いている。
    内心は舌を巻きながらも、敢えて彼は軽い調子で言葉を返して、相手の懸念と心配の程に対し、余裕を持って受け答えする。

    「じゃ、後は宜しくお願いします。 ・・・どうせ加勢は断られるでしょうから、勢子としてでも使ってもらって来ますよ。  ちょっとばかりして片付いたら、またちゃんと戻って来ます。」

    「約束はちゃんと守ってくれないと困るぞ?  これ以上あんな目に合わされるのは、俺達だってもう御免だからな。」

    お決まりとも言える去り際の一言に、笑顔で答える泥だらけのベテラン隊員。
    あんな出来事の後でも、すぐに気持ちを切り替え軽口を合わせて来た相手の態度に、彼は改めてレンジャーと言う職種に対し、強い敬意の念を抱いた。
    ・・・もし無事にこの事態を乗り切って、更に何時の日か、漂泊の生活に終止符を打つ決心が付いたなら――その時は自らもまた、この道に足を踏み入れられるよう、挑戦してみるのも悪くはないだろう。

    ――まぁしかし、無論それが何時になるかは、皆目分かったものではなかったが。


    その一方で、指示を受けたリーフィアが動き出し、崖際や斜面に苗床となる『タネマシンガン』を撃ち込み始めると、救助者を背負ったトロピウスの側から離れようとしなかったヒトカゲが、不意にここに至って、青年の下へと歩み寄ってきた。
    何事かとヒトカゲに視線を集める一同の前で、そのポケモンは真っ直ぐに彼を見つめて、三本指の小さな拳を握り締め、降り注ぐ雨を物ともせずに、よく響く声で鳴く。
    ――倒れた主人の背中を怯えた表情で揺すっていたその目が、今は自らが為すべき行いを見つけ、力強い決意に満ちている。

    そんなヒトカゲと、共に付き添って駆けつけて来たリオルとを交互に見つめる内、ふと青年の剃り跡の濃い、浅黒く精悍な面上に、誇らしげな微笑が浮かぶ。

    「お前も来るか。 ・・よし、なら存分に暴な!」

    しゃがみ込んでヒトカゲの頭を軽く掴んで揺すぶってやると、彼はチラリと主人である少年の様子を確認してから、立ち上がった。  ・・・少年の容態は安定し、意識を取り戻すのも遠くはなさそうであったが、今のところはまだ、泥のような夢の世界から帰還してはいない。
    目が覚めていれば、この頼もしい相棒の『名前(ニックネーム)』を、聞いて置きたい所であったが――今は残念ながら、それは叶わないようだ。
     
     
    リオルとヒトカゲを引き連れ、彼が闇の中に溶け込んだ女性トレーナーの背中を追いかけて、出発した直後――突然背後の崖の方で、再び雷鳴と風の唸りが激しさを増し、アブソルが一際高々と、天に向けて咆えた。
    傍らに位置していたエーフィは俯いて神経を集中し、待機していたルカリオが、何かの波導を感じているのか、崖の方へと気遣わしげな視線を向ける。

    「お出ましか・・・」

    そうポツリと呟いた彼の表情は、つい先刻までとは打って変わり、相手を求めて各地を流離い、自らを研ぎ澄ますべく僻地に分け入る、ポケモントレーナー本来のそれに立ち返っている。  ・・・元々周りからどう見られようと、例え異端視されて疎外されようとも、自分の考え方・スタイルを靡かせないのが、彼の選択した生き方だ。
    稲光をよく光る眼に反射させ、風にはためいた上着の内側には、海の向こうで手に入れた、幾つかのバッジが垣間見える。
    他人を忌避する訳でなく、かと言って合わせる訳でもない孤独な根無し草の動向は、その場その場の成り行きと、『狩人』としての天性の本能で決まる。

    背後で見送ってくれるレンジャー達の生き様に憧れながらも、彼らの世界に素直に溶け込む事を拒むそれは、押さえ切れない闘争心と言う形で、常に彼の生き方を制限して来た。
    ――しかしそれは同時に、ここまでずっと彼の命とトレーナーとしての人生を支えてくれた、最良の守護神でもある。

    「借りを返さないとな。 ・・・一発お見舞いしてやって――」

    そう口にして、ニヤッと愉しそうに笑う彼に答えるように、腰に付けている最後のモンスターボールがガタリと動き、リオルとヒトカゲが前方に佇む三匹のポケモン達の影に向けて、勢い良く走り出し始めた。
     
     
     
     
     
     
    ―――――
     
     
    長いしひたすら無理矢理気味な展開・・・  しかも止めに、全く進んでいない!!(爆)

    とにかく、好き勝手やりたい放題に流してしまいました・・(汗) 
    大勢の方々のキャラクターをお借りしましたが、果たして彼らのイメージを崩壊させていないかが、何処までも心配な今日この頃。  ・・・お叱りがあり次第修正いたしますので、突込み所があらばどうぞお願いします(汗)

    特に兎翔さんのヒトカゲ君を連れ去ったことについては、今一際の謝罪の程を・・・  すまん、少年・・・瀕死にさせたりしないように気を付けさせる故、勘弁してけれ・・・(爆)

    結論として、進展はしておりません・・!(爆)
    この後に海星さんがお膳立てしてくれたバトルシーンが控えておりますが、どなたか勇士の方、どうぞ一筆!(オイ)

    仮にやられちゃっても、個人的には後続のツボちゃんやさくらちゃん辺りが何とかしてくれると信じてますので、かなりお気楽な感じですね(笑)


    では・・・取りあえずは、これにて逃げちゃいます――


    【戦力に不足は無いのよ】

    【煮るなり焼くなりお好きに為されたし】

    【少年も起きて参加しちゃったらどうかなと思うのよ】


    PS.アーカイブは皆さんの御意見にお任せしますです。  ・・・取りあえずは賛成票も投じられているので、自分もそちらに加担しまs(チキンめ・・・)


      [No.849] 行きずりの所業  【助けに行ってみたのよ】 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/10/26(Tue) 16:06:51     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    崩れた斜面をずっと下っていくと、張り出した岩棚に隠れて見えなかった場所に、小さな火明かりが見えた。

    「あれか?」

    声をかけた相手は、離れず従っている獣人めいた人型。  自らは直接地に足を付けながらも、中空にある彼よりずっと素早くガレ場を下り行くそれに確認を取ると、真剣な面持ちでこくりと頷く。

    そのまま一気に下まで駆け下りるルカリオの背中を追って、彼もまた、背を借りているポケモンに向け、火明かりに向けて降下するように伝える。
    背中の主人がしっかり掴まっているかどうかを確認するように首を捻じった後、急激に高度を下げ始めた彼女の綿雲のような羽からは、たっぷり吸い込まれた雨水が道しるべの様に、背後の空間に散っていく。

    チルタリスが地に着くのももどかしく、彼は水溜りを無視して地面に飛び降り、激しく水飛沫を立てながら、倒れている人影とポケモンに向けて走り寄った。
    そこでは既に、先に下り終えていたルカリオが、主人に寄り添うように倒れているヒトカゲを抱き上げ、雨のかからない岩陰に、運び込もうとしている真っ最中だった。

    「リムイ、そっちは任せる。  フィー、こっちに来てくれ!!」

    ルカリオに声をかけると、彼―もうそろそろ20に達するだろうかと言う風情の、やや色浅黒い青年トレーナーは、背後で体を激しく震わせ、濡れた羽に含まれている水分を飛ばしているチルタリスを呼ぶ。
    同時に腰のボールを一つ掴むと、その場にまた一匹仲間を増やした。

    「ラックル、この人を掘り出してくれ。  ・・・傷を負ってるかも知れないから、慎重にやってくれよ?」

    ボールから飛び出したリオルにそう告げると、相手は勢い良く頷くや、早速作業にかかる。
    『穴を掘る』と『岩砕き』で、リオルがどんどんと半身を土砂に埋めていたトレーナーを掘り出している内に、彼は素早く膝間付くと、倒れている人物の容態をざっと調べてみた。

    見た所では、まだ若いその人物は、危険なレベルの低体温状態にはあるものの、何とか致命傷と思われるような負傷の類は、免れている感じである。
    ・・・今はとにかく、下がってしまっている体温を温めなければならない。

    リオルが何とか覆いかぶさっていた土砂を取り除き終えると、彼は急いで触診によって骨折の有無を確認し、何とか短い距離を移動させるだけなら心配無い事を確認してから、件の遭難者を注意して抱き上げ、先にルカリオがヒトカゲを運び込んでいた、立ち木の隣にある岩陰まで、早足に急ぐ。
    ・・・雷が木に落ちる可能性もチラリと頭を過ぎりはしたが、知るもんか。
     
     
    無事に岩陰に着くと、彼は運んできた相手を静かに下ろして、付いて来たリオルと、指示を待っているルカリオに向け、短く早口に命じる。

    「リムイ、この人に『癒しの波導』。 ラックルは、ヒトカゲに向けて『まねっこ』だ。」

    すぐに行動に出る両者の息は、親子だけあって流石にぴったりである。
    次いで彼は、同じく付いて来た残りの一匹に向けて言葉を掛けると同時に、更に二匹の手持ちポケモンを、この場に加える。

    「フィーは、取りあえず水気を切って置いてくれ。  ・・すぐに、働いてもらうからな。  コナムとルパーは薪を集めて欲しい。 雨の中大変だが、すぐにかかってくれ。」

    指示を受け終わるのも待たずに、リーフィアとビーダルは冷たい時雨の中を駆け出して行く。
    そしてこちらは、「心得た」とばかりに立ち木の反対側に回って、盛大に水飛沫を撥ね上げているチルタリスを尻目に、青年はすぐさま目の前の遭難者の介抱にかかる。

    他国――海を越えたずっと先、『新奥』の出身者である彼には、北国で必須とも言えるこの手の応急処置は、手馴れたものであった。

     
    先ず、着ている物を手際よく脱がせ、下半身の一枚以外は全て、脇に放り出す。  
    ・・・本人は意識が戻れば恥ずかしがるかもしれないが、それも命あっての物種。 こんな時に、羞恥心なんぞに構っている余裕は無い。

    次いで水気を切ったチルタリスを呼び戻すと、半身を抱き起こしている救助者に向け、『フェザーダンス』を繰り出させた。
    あっという間に綿毛状の羽毛で包まれた目の前の冷え切った体を、今度はチルタリスにも手伝わせ、懸命に摩擦する。

    そうこうしている内に、パートナーと思われるヒトカゲの方が先に目を覚まして、技を切り上げたリオルと共に、慌てて此方によって来た。  ・・・流石にポケモンだけに、回復は早いものだ。

    しかし、人間はそうは行かない。 
    絶大な生命力を誇るポケモンだからこそ、これだけの速度で体力を取り戻すことができるわけであって、元よりポケモンに対して使う『癒しの波導』だけでは、早々救助者の容態を完治させることは叶わない。  

    しかし、折り良くリーフィアとビーダルが薪の第一陣を背負って帰ってきたので、彼らに協力して薪を積ませ、ヒトカゲに着火してもらう。
    更に、新たに生じた手空きをも総動員して、懸命に摩擦を続けた結果、何とかずっと青白かった救助対象者の頬に、微かな赤みが差して来た。  ・・・どうやら、最初の峠は越えられそうだ。
     
     
    そこで彼は、摩擦作業はその場のポケモン達に任せることにして、バックパックから小さなアルミの鍋と水筒を取り出すと、水を注いだ鍋を枝を組んだ物に引っ掛けて火にかけた。

    手早く一緒に取り出した干魚や木の実をポケットナイフで刻んで、沸騰した鍋の中に放り込むと、道中の道具交換に使う予定だった酒のボトルを引っ張り出して、中身を幾らか鍋にあける。  ・・・彼自身は飲酒癖は無いが、この手の品は出す所に出すと非常に喜ばれ、そこそこの品に化けることがあるのだ。
     
     
    そこまで終えると、彼はリオルに向けて声をかけた。

    「ラックル、悪いが今から道まで登って行って、誰か助けを呼んで来てくれ。  
    ・・・このままじゃ人手も足りないし、ここは土砂が崩れてくるかもしれないから、夜明かしするには都合が悪い。
    お前の足なら、夜が来る前に誰か見つけてこれるだろう。」
     
    頷いて飛び出していくリオルの背中を見つめながら、彼は空模様を見定め始めた。
     
     
    ・・・山の天候は気まぐれだ。  今はさっさと、ここから移動する手立てを見つけなければならない――
     
     
     
     
     
    ―――――

    ・・・またやらかした

    仕事前ギリギリまで粘ってひたすらPCに向かう馬鹿。
    『赤の救助隊』時代の思い出が立ち上ってきて、思わずやってしまった・・・  

    取りあえず、解決してなくて御免なさい(爆)
     
     
    【お好きになさってください】
    【救援大歓迎なのよ】


      [No.556] Re: 質問,質問! 投稿者:兎翔   投稿日:2010/08/30(Mon) 08:49:12     55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    > 毎日暑くてポケモン達がへばっています。
    > 最近では食欲も無くて・・
    > 完全に夏バテですよね。どうすればいいでしょうか。
    > エアコンはあんまり使いたくないんですが。
    >
    > よろしくお願いします。

    回答
    お手持ちのポケモンは何タイプでしょうか?
    タイプによっても色々な方法があると思います。
    水タイプならばお風呂に水を張ってプールにしてあげると喜びますよ。
    炎タイプは近づくと溶けてしまうので無効ですが、かき氷などの冷たいものを少し与えてあげるのも良いと思います。
    ただし与えすぎはおなかを壊す原因になってしまうのでほどほどに。
    岩タイプ、地面タイプのポケモンはひんやりとした洞窟の中に連れて行ってあげるといいかもしれません。
    間違っても水をかけて冷やそうとしないこと。


    なんだかありきたりな感じになってしまいました。
    炎タイプのポケモンもばてたりするのでしょうか?

    【追記】
    回答2

    そうだ、シンオウに行こう。


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