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  •   [No.2663] 第二話「うけつけとっぱと ポケモンたち」 投稿者:No.017   投稿日:2012/10/15(Mon) 23:31:15     76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:遅れてきた青年

    むかし シンオウが できたとき
    ポケモンと ひとは おたがいに ものを おくり
    ものを おくられ ささえあっていた
    そこで ある ポケモンは いつも ひとを たすけてやるため
    ひとの まえに あらわれるよう ほかの ポケモンに はなした
    それからだ
    ひとが くさむらに はいると ポケモンが とびだすようになったのは

    「シンオウちほうの しんわ」より





    ●第二話「うけつけとっぱと ポケモンたち」





    「だーかーら!! 本人だって言っているでしょう!!」
     受付カウンターの前でシロナが吼えていた。
    「……こ、困ります」
     今日、彼女の次に困惑の表情を浮かべることになったのは、エントリーの最終確認をする受付をしていた眼鏡の男であった。
     いきなり男を引きずった女性トレーナーがずかずかと乗り込んできて、私の連れは身分証明ができないが、これは本人に間違いがないからとにかく出場させろ、などと訳の判らないことを強要してきたのだ。それに気のせいだろうか、出場する本人はあまり積極的という風には見えず、連れである女のほうが熱心なのである。
    「とにかくですね、ポケモン図鑑もない、トレーナーカードもない身分証明ができない方の参加を受け付けることは出来ません」
     と、眼鏡の男は答えた。
    「身分証明ができないですって! 馬鹿言わないでよ! アオバはね、去年だってシンオウ大会に出ているんだから!」
     シロナがまた吼える。無茶苦茶な要求だということくらい彼女にだってわかっていた。だが、ここで引っ込む訳にはいかない事情が彼女にはあった。押し切ってやる。必ず彼を出場させてやる。
    「ベスト4まで残ったのよ! あなたが覚えてないはずないでしょう!」
     そこまで言うと、シロナは青年を受付の前に突き出した。
    「男のくせに髪の伸ばして結わいてるわ、妙に気取った服装しているわ、こんなヤツなかなかいないでしょ。加えて去年のベスト4! 忘れたとは言わせないわよ」
     スーツのような衣服に身を包み、少し古ぼけた紐で長い髪を結わいたその姿に、受付は確かに見覚えがあった。
    「……それは」
     と、受付が濁った返事を返したその隙をシロナは見逃さない。
    「ほら、見なさい。覚えているじゃないのよ」
     と、押しの一言を放った。
    「いえ、しかし規則は規則でして……」
    「ちょっとアオバ! あんたも何か言ってやりなさいよ!」
    「いや、何かって言われても……」
     青年は困った顔をする。右を見れば困った顔の受付、左を見ればシロナが怖い顔をしていた。その空気に耐えられず、
    「もう、いいですよ。ほら、受付の方も困っていますよ。これ以上お二人に迷惑をかけたくないです」
     と、彼は答えた。すると、
    「だめよ!!!」
     とシロナは叫んだ。
     ぐっと腕を掴むと、きっと青年を睨みつける。彼は少し驚いた。彼女は
    「そんなこと絶対に許さないから」
    と、言った。
    「でも……」
    「あなたは出るんだから! ポケモンリーグに出場するの!」
     と、続ける。なんでそんなこと言うの、とでも言いたげに青年を見つめた。
     怒っていた。けれど、それ以上に悲しそうで、その眼には明らかな意志の光が宿っていた。それを見て、青年はそれ以上言うのをやめた。どうしてなのか理由はわからないけれど、彼女が本気なのだということだけはわかったからだ。
    「ほら、当の本人もそう言っていますし……」
     受付がすかさずそう言ったが
    「もういい。あなたじゃ話にならない。上の人を呼んできて」
     と、彼女は切り返した。
    「は?」
    「あなたじゃ話にならないって言っているのよ。去年の入賞者って言ったら今年の優勝候補じゃないのよ。それを出場させないっていうのはどういう了見なの。だから、あなたじゃダメ。もっと話がわかる人、呼んできて」
    「な……っ」
    「それとも何? あなたの身内が出場しているから、有望な芽は今のうちに摘み取っておこうっていう魂胆かしら? そうなったら問題よね。アオバが出場できなかったらそういう噂を流してやるから」
    「ちょっと! 妙な言いがかりはやめてくださいよ。私はあくまで規則に従って……」
     受付がお決まりの文句を返す。だが、彼女は
    「ハッ! 規則ですって!」
     と、切り捨てた。
    「……しょうがないわね、これだけはアオバから口止めされているから言うまいと思っていたのだけど……。あなた四天王のキクノさんは知っているわよね?」
     突然、シロナはそんな話題を持ち出した。
     四天王。リーグ優勝者を待ち構えるトレーナー集団。ポケモンバトルのエリート達である。優勝すれば彼らに挑戦することができる。その中の一人、キクノは老練のトレーナーで、地面タイプのエキスパートとして広くその名を知られている。
    「そ、そりゃあ」
    「アオバはね。キクノさんのご姉妹の孫にあたるのよ。つまり親戚よ。四天王の親戚!」
     受付はぴくっと眉を動かした。同時に驚いたのは青年自身である。思わず
    「え、そうなの?」
     などと、聞いてしまった。瞬間、
    「記憶喪失はすっこんでなさいッ!」
     と、シロナが渇を入れる。
    「……はい」
     青年はすぐに身を引いた。また余計な発言をして変に話をこじらせると、シロナがまた吼えそうだったからだ。それを確かめてシロナが続ける。
    「つまり、今あなたは四天王の親戚の出場を断ろうとしているわけ。私が一言キクノさんに告げ口すれば、どうなるかわかる? 規則を守るのと、こっちの要求を呑むのとどっちがお利口かしらねぇ?」
     あんたが規則を持ち出すのならこっちにはこれがあるのだ、どうだまいったか! とでも言いたげに、シロナはふふんと笑った。
     四天王、彼らがポケモンリーグに持つ影響力は大きい。つまるところ権力が彼らにはある。当然、一般の運営スタッフなど相手にならないだろう。
     チェックメイト、後はキングを取るだけ。ポケモンゲットで言うなら、影踏みか黒い眼差しで逃げられなくした上でマスターボールを投げるだけ、といったところだろうか。
     この一押しで受付にうんと言わせてやる。シロナはバン、とカウンターを叩いた。
    「いいこと! わかったなら、とにかくアオバを出場させなさい!」
     受付はさすがに「うん」とまでは言わなかったものの、彼女の気迫に押され、それ以上言い返せなくなってしまった。
     いや、半分くらい呆れも入っていたかもしれない。お前、そこまでしてコイツを出場させたいのか! お前は一体何なんだ! とひきつった彼の顔に書いてあって、それを横目に見ていた青年はちょっとばかり苦笑いをした。
     そして、いつのまにか大声を聞きつけてやってきた受付の上司らしき人物が、ここはとりあえず受付して事後確認したほうがいいようなことを彼に助言した。
     かくして青年の、ミモリアオバの出場手続きは整ったのだった。


    「次はポケモンよ」
     受付を済まし、パソコンの前に立ったシロナは続ける。
    「まさかあなた、手持ちのポケモンまで落としたとは言わないわよね。とりあえずボックスを確認しましょう。仮パスワードも発行してもらったわ。正式な確認がとれるまでは試合後にすぐに戻す条件付だけどね」
     そうしてシロナは青年のボックスを開いてみる。画面が切り替わり、彼の所持ポケモンが標示される。彼女はほうっと一息をついた。
    「居た……。カードみたいにどこかに落としたってことはなかったみたい。安心したわ」
     パソコン画面を覗き込みながら、マウスを左右に忙しく動かしていく。
    「予選で使用できるポケモンは三体よ。グループ中でとにかく試合をしまくって、勝ち点の多い者から抜けて行くトリプルビート方式。ポケモンは私が適当に見繕うわよ。いいわね?」
    「ええ、いいですけど……いや、お任せします」
     青年は戸惑い気味に答えた。しかし、何も思い出せない今、彼は自分のことを一番知っているらしい彼女にすべてを委ねるしか選択肢がなかった。パソコン画面を真剣な眼差しで見つめるシロナを、横目にちらちらと、やや不安げに観察する。
     やはり、彼女はどうあっても自分を出場させるつもりらしかった。彼女をそこまで駆り立てるものは一体なんなのか、青年はそんなことを考える。
     やがてパソコンの隣に併設された転送装置、そこに三つの機械球が転送されてきた。シロナはそれを取り出すと、青年に手渡す。
    「さあ、投げてみて。何かやったら思い出すかもしれないわ」
     青年は言われるがまま三つのボールを投げる。ボールは赤い光を放ち、光はポケモンのシルエットを形成する。光が消えると同時にポケモン達が姿を現した。
     出てきたのは四足の黄色い獣型ポケモン、そして赤色のメタリックな虫ポケモン、そして、紺色の怪獣のようなポケモンの三匹だった。その中でも一際大きい怪獣型は、頭の左右に妙な形の突起をつけており、腕と背中には飛行機の翼のようなヒレを生やしていた。
     すぐさま黄色と紺色が、青年に近づいてきて取り囲むと、身体全体を観察するようにフンフンと匂いを嗅いだ。赤色は出てきた場所に立ったまま、何やらするどい眼でことの成り行きを観察している。
     次の瞬間、青年の悲鳴が響き渡った。寄ってきた二匹のうち、紺色のほうが青年を押さえつけた。すぐさま彼の頭に大きな口をセットすると、カジカジと甘噛みしはじめたのだ。
    「…………いででででっ!!!」
     激しく動揺する青年。だが、一本しかない爪ががっしりと捕らえて離さない。
    「ちょ、なんなんだよ、このガブリアス!」
     青年のそんな台詞も紺色はお構いなしだ。青年と対面できたことがよほど嬉しいのか、頭にかぶりつきながらも、魚の尾ビレのような尻尾を激しく上下に振っている。
    「あ、ヤメ……いだい、いたいって……っ!」
     青年は懸命に自分の頭から牙を引き離そうともがく。が、ドラゴンポケモンに力で敵うはずもなく、それはむなしい抵抗に終わった。その様子を見ていたシロナは腹を抱えて爆笑する。
    「どう!? 何か思い出した?」
     などと聞いてくる始末だった。
    「何も思い出さないよ! それよりこいつをどうにかしてくれ!」
     と、青年は訴えたが、彼女は「愛情表現よ」と、まったく相手にしなかった。むしろ、その様子を見て楽しんでいるフシがあった。
     シロナは気が付いていなかったが、青年には、その様子を目にした赤色の虫ポケモン、ハッサムの眼がふっと優しくなったように見えた。さっきまでずいぶん警戒しているように見えたのに。そして、今の今まで探るように匂いを嗅いでいたサンダースも、急に安心したように足に顔を擦り寄らせてきた。
     こいつら、急に懐いてきたなぁ。さっきまでのは一体、なんだったのだろう? ガブリアスに頭をかじられながら、青年は疑問に思った。
    「ガブちゃんのその癖、去年から変わってないのね。それにしても久しぶりに会ったみたいに興奮しちゃって!」
     そう言ってシロナはまた笑う。頭にかぶりついたこのガブリアスは、ニックネームをガブリエルと言うのだと説明した。
     ガブリエルとは、さる宗教の教典の中に登場し、聖女に受胎告知をする天使らしいが、響きがそれっぽいからという安易な理由でアオバがそこから命名したのだと彼女は言う。実際、こんないかつい顔のポケモンが「あなたは神様の子を授かりましたよ」と、庭先に現れたら聖女が悲鳴を上げて飛び上がってしまうだろう。「おまえは魔王の子を孕んだんだぜ。グヒヒヒヒ」と説明したほうが納得していただけるに違いない。
     そして、魔王の使いガブリエルが行為に満足し始めた頃、シロナは一転、まじめな顔になって彼のポケモン達に
    「いいことあなた達、今、ご主人様は人生最大のピンチを迎えているわ」
     と、切り出した。
    「ご主人様はね、大事な試合の前だって言うのに自分が誰で、何しにきたのか忘れてしまったのですって。困ったことにあなた達のことも忘れちゃっているし、バトルのやりかたも忘れちゃってる。だから、ご主人様の指示がなくてもあなた達が判断して、戦って、勝たなくちゃいけないの」
     青年はガブリエルの爪に捕まったまま、参ったなという感じで、ぽりぽりと頭を掻いた。
     サンダースとハッサムが互いに目配せして、不安げな表情を浮かべる。青年の頭に夢中だったガブリエルは、あまり状況が飲み込めていないらしく、首を傾げた。
     そんな彼のポケモン達の表情を読み取ったシロナは、
    「大丈夫、いつもやっていたようにやればいいのよ。あなたたちならできるわ」
     などと助言した。そして、
    「必ずよ。必ずアオバを決勝トーナメントまで連れて行ってね」
     と、付け加えたのだった。
     予選Aが佳境に入ろうとしていた。ある者は基準の勝ち点を取って早くも決勝トーナメントへの切符を手にしていた。またある者は残り少なくなった時間と懸命に戦っている。
     そう、彼にはちゃんと勝ち進んでもらわなくては。こんなところでつまずかせるわけにはいかない。本来の彼はこんなものじゃない。記憶が戻るまでの辛抱よ、とシロナは思った。
     予選Bの開始時間が一刻一刻と迫っていた。


      [No.2575] Re: このお話、いただき! 投稿者:穂風奏   投稿日:2012/08/15(Wed) 13:50:20     79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

    はじめまして、穂風奏です
    私の作品からイラコンに参加してくださるとは、本当にありがとうございます
    オオタチは見事に気持ちよさそうに扇風機独占してますね
    写真の左のグレイシアと主人公のだるそうな様子はどうなるのでしょうか
    完成を楽しみに待っております!
    それでは失礼しました


      [No.2492] 絵画『悲しい少年』 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/06/30(Sat) 14:18:35     71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

    ※アテンション!
    ・BW2に登場する『ストレンジャーハウス』のネタバレを多少含みます
    ・捏造バリバリ入ってます
    ・毎度のことながらアブノーマルな表現があります
    ・苦手な方はバックプリーズ










    ――――――――――――――――――――

    火山に近い田舎町。植物は特定の種類しか育たず、赤い岩石や土、独特の暑さが訪れる人間を拒む。雨が降る日より火山灰が降る日の方が多い、とはこの土地に昔から住む人間の談である。そこは活火山に面した場所であり、訪れる人間を選ぶ場所であった。
    だがそういう土地なわけで、学者やバックパッカーはひっきりなしに訪れる。彼らが落としていくお金でその交通も何もかも不便なその町は成り立っていた。

    「暑いし、熱い」

    不機嫌そうな声で郊外を歩く一つの美しい人影。夜になると白い仮面で片面が隠れるその顔は、今は深く帽子を被ることで顔を隠している。腰まである長い髪は、頭の高いところで一つにまとめている。こうでもしないと辿り着く前に倒れてしまいそうだったからだ。
    彼女――レディ・ファントムは地図を取り出した。フキヨセシティからの小さな旅客機にのって四十分と少し。同乗していた客はこぞって火山に向かったが、彼女はこんな暑い日にそんな熱い場所に行くほど酔狂な人間ではなかった。
    行く理由があったのは、とある廃屋だった。

    『たぶん霊の一種だろう』

    体の両サイドを大量の書物に囲まれながら、マダムは煙管をふかした。執事兼パシリであるゾロアークが、淹れた紅茶にブランデーを数滴垂らし、レディの前のミニテーブルに置く。一口飲む。本場イギリスのアフタヌーンティーでも通用する美味しさだが、イライラはおさまらない。
    今日はゆっくりホテルの一室で過ごそうと思ったのに、突然現れた男(ゾロアークが化けた姿)に無理やりここ……黄昏堂に連れて来られたのだ。
    モルテが側にいないことも入れておいたのだろう。ポケモン、しかもマダムの我侭を全て聞くことの出来る者の力は凄まじかった。
    あれよあれよと椅子に座らされ、苦い顔で無言の抗議をしたが全く効かない。ふと横を見れば、ゾロアークが疲れた顔をしていた。相当こき使われているのだろう。なんだか哀れに思える。

    『ここ最近、ある廃屋となった屋敷で怪奇現象が起きているという噂がある。入った者の話では、昼間だというのに家具がひとりでに動いたり、別の部屋から入ってまた出た時では家具の位置が違ったりしていると』
    『で?』
    『そんな事が起きているということは、何らかの力は働いているんだろう。まだ幽霊の類の目撃情報はないが』

    ほら、と渡された地図に示された場所は見たことの無い町の近くだった。ドが付く田舎すぎて、認識していなかったのだろう。説明文を読めば、活火山のふもとにあり、その熱で作る伝統的な焼き物が有名だという。
    そしてその屋敷は、悲しい事件があったとされ、誰も寄せ付けないと言われている。異邦の家―― 通称、『ストレンジャーハウス』。
    紅茶をもう一口啜る。地図を机の上に投げ出す。

    『行ってやるよ』
    『よろしい。原因解明とその源を持って来てくれ』
    『幽霊捕まえんの』
    『ゾロアーク、お前も行ってこい』

    そんなやりとりがあったのが数時間前。今レディは土壁で造られた、ここらの土地独特の家の前に立っている。他の家は皆町にあるというのに、ここだけ離れた場所に建てられていた。
    ふとゾロアークを見ると、不思議な顔をしていた。苦い顔、とでも言うべきだろうか。こんな顔を見るのは初めてだ。

    「どうしたの」
    『いや…… どうも気分が優れなくてな』
    「ああ、確かにこの家からは変なオーラが漂ってくる。何かいることは間違いないだろ」

    さび付いたドアノブを捻る。耳を塞ぎたくなるような音が響く。数センチあけて中を確認。よく見えない。
    そのままドアを半分ほど開け、持参した懐中電灯のスイッチを入れた。灯に照らされ、埃が漂っているのが見えた。
    どうやらしばらく誰も入っていないらしい。床に降り積もった埃には、足跡は無かった。

    「よくこんな所取り壊さずに放っておいたな」
    『取り壊せないらしい。何度か試みた会社もあったようだが、そうする度におかしな事故が起きる』
    「ありがち」

    今レディ達が立っている場所が、リビング兼玄関。家具はソファ、テーブル、ランプ、観賞用の植物。どれもこれもひっくり返ったり倒れていたりして乱雑なイメージを与えてくる。
    向かって両サイドが二階へと繋がる階段になっていた。ソファが倒れていたが、これくらいなら飛び越えていける。
    地下へと続く階段は、図書室へと繋がっているらしい。本好きなレディが目を輝かせた。

    「ここっていつから建っているんだろうね」
    『はっきりしないが、二十年は経っているだろう。建物の痛み方から大体の時間が推測できる』
    「ふーん。……とりあえず二階に行こうか」

    ソファを飛び越え、階段を上ろうとした時何かの視線を感じた。振り向くと、どうやって飾ったのか一枚の人物ががこちらを見ている。いや、『見ているように』見えるだけだ。ゾロアークも気付いたらしい。技を繰り出そうとする彼を、レディはとめた。流石にこんな辺鄙な場所に近づく物好きはそうそういないだろうが、万が一気付いて近づく一般人が出てきては困る。
    絵の中にいたのは男だった。自画像だろうか。年齢は二十代前半。そう描いたのか本当にそうなのかは分からないが、女とも取れるくらい美形だ。
    ふと、気付いたことがあってレディはゾロアークに話を持ちかけた。

    「ここに住んでいた人間って?」
    『さあ……。マダムは知っているかもしれないが、俺は知らん。ただ、空き家になってからの時間の方が長いことは確かだ』

    絵からの視線は消えない。どうやら本当にここには何かいるらしい。それも相当に高い力を持った物。自分だけでなく『あの』マダムに仕えるゾロアークも見えていないのだから、そこらの未練がましく街をさ迷っている普通の霊とは違う。
    モルテの顔が浮かんだ。彼は今日も、このクソ暑い中で魂の回収を行なっているのだろうか。そういえばこの時期は海難事故や熱中症で特定の年代の魂が多くなるって言ってたな。特に彼らは自分が死んだことを気付いてない場合が多いから、説得にも苦労すると――

    『レディ』

    ゾロアークの声で我に返った。三つある入り口のうちの一つ。真ん中。そこで彼が手招きしている。

    『ここから気配を感じる』
    「確かにね。……でも」
    『ああ。さっきの絵画とはまた違う気配だ』
    「やだな。まさか別々の霊が同じ家に住み着いてんの」

    ありえない話ではない。だがそうなると厄介なことになる。同じ屋根の下にいても、同じ考えを持つ霊などいないのだから。そこらは生前と同じである。
    そっとドアノブに手をかける。特に拒絶うんぬんは感じない。そのまま開ける。

    「!」

    流石に驚いた。ドアを開いてまず目に入ったのは、キャンバスに描かれた少年の絵だったからだ。台に立てかけられ、その台の前には椅子がある。床には木製のパレットと絵筆。ただし埃が降り積もっていて、絵の具も乾いていた。
    美術室のような匂いがする。長い間開けられていなかったのだろう。様々な匂いが混じった空気が、一人と一匹の鼻をついた。
    ハンカチで口と鼻を押さえ、ドアを全開にして中に入る。キャンバスの中の少年は美しかった。美少年、という言葉が正に相応しい。イッシュ地方では珍しい、黒い髪と瞳の持ち主。少し寂しげな、悲しげな瞳がレディを見つめている。

    『……美しいな』
    「やっぱ君でもそう思うか。マダムが見たら絶対欲しがるだろうね」

    いささかもったいない気もするけど、という言葉をレディは飲み込んだ。マダムが美しい物や人に並々ならぬ関心があるのは、以前の『DOLL HOUSE』の件で分かっている。というか、分かってしまった。あまり知りたくなかったが、知ってしまったものは仕方がない。
    ぐるりと部屋内を見渡す。描きかけのキャンバスが積まれていた。今まで使っていたであろう油絵の具のセットもある。その中の一つのキャンバスを手に取り――声が詰まった。

    『どうした』
    「……なるほどね、そういうこと」

    こほんと咳払いをする。彼女の常識人の一面が現れた瞬間だった。裏返しにして、ゾロアークに渡す。少々訝しげな視線を送っていた彼の顔色が変わった。
    その少年の絵であることに変わりはない。だがそこに描かれた少年の下書は、裸だった。別室だろう。ベッドの上でシーツにくるまり、妖艶な笑みを向けている。そこまで細かく描けるこの作者にも驚いたが、少年がそんな顔を出来ることが驚きだった。
    何故――

    「天性の物か、調教されたか。いずれにせよ、この絵の作者は相当その少年に御執心だったみたいだな」
    『……』
    「どうする?マダムにお土産に持って帰る?」
    『冗談だろ』

    レディが笑った。それに合わせて、もう一つの笑い声が聞こえてきた。部屋の窓際。その少年が笑っていた。同じ黒髪に黒い瞳。身長はレディの胸にかかるくらい。一五〇といったところか。
    白いシャツにジーパンをはいている。視線に気付いたのか、こちらを見た。

    「こんにちは」
    『こんちは』

    少年が歩み寄ってきた。美しい。絵では表現しきれないほどのオーラを纏っている。どんな人間でも跪きそうな、カリスマ性。プチ・ヒトラーとでも呼ぼうか。
    少年が横にあった絵を見た。ああ、という顔をしてため息をつく。

    『この絵、欲しい?』
    「くれるならもらいたいかな。私の趣味じゃないけど、知り合いにこういうの好きな奴がいるんだ」
    『ふーん。ねえ、アンタ視える人なんだね』
    「だからこうして話してるんだろ」
    『それもそうだね』

    飄々としている。ゾロアークは二人の会話を見つめることしかできなかった。比較的常識を持ち合わせている彼は、彼女のように『視える者』として話をすることが出来ない。おかしな話だが、この少年が持ち合わせているオーラに圧倒されていた。

    「名前は?私はレディ・ファントム。そう呼ばれてる」
    『綺麗な名前だね。俺は特定の名前はないよ』
    「どうして?」
    『分からない?その絵を見たなら分かると思ったんだけど』

    ゾロアークの持っている絵。それを聞いて彼は確信した。おそらく、この少年は――

    『娼婦、のような立場だったのか』
    『そーだよ。地下街で色んな人間を相手にしてた』
    「両方?」
    『うん。物心ついた頃にはそこにいた。昼も夜も分からない空間でさ。唯一時間が分かることがあったら、お客が途切れる時だよ。今思えばあれが朝から昼間だったんだろうね。皆地上で仕事してくるんだから』

    昼と夜で別の顔を持つ。街だけでなく、人も同じらしい。聞けば、彼はある一人の男に見初められてここに来たらしい。その男は画家で、また本人も大変な美貌の持ち主だったという。
    そこでレディはあの肖像画を思い出した。この家は、あの男の家だったようだ。

    「で、何で君は幽霊になったの」
    『ストレートだね……まあいいや。あの人は一、二年は俺に手を出さなかった。毎日のように絵のモデルにはなってたけど、それもそういう耽美的な絵じゃない。色々な場所に連れて行ってもらったよ。向日葵が咲き誇る高原とか、巨大な橋に造られた街とかさ。そこでいつもキャンバスを持って絵を描いてた』
    「その絵は?」
    『そこに積み重なってるキャンバスの、一番下の方』

    ゾロアークが引っ張り出した。向日葵の黄色と茎の緑、空と雲のコントラストが美しい。その向日葵の中で、彼は微笑んでいた。
    絵によって服装も違った。春夏秋冬、季節に分けて変えている。相当稼ぎはあったようだ。

    『二年半くらい経った頃かな。あの人が親友をこの家に連れてきたんだ。同い年らしいんだけど、全然そんな雰囲気がなかった。むしろ二十くらい年上なんじゃないの、っていう感じ』
    「老け顔だったの?」
    『うん。でもとってもいい人だった。頭撫でられてドキドキしたのはその人が初めてだったよ』

    色白の頬に少しだけ赤みが差した。年相当の可愛らしさに頬が緩みそうになるのを押える。一方、ゾロアークは嫌な空気を感じていた。何と言ったらいいのだろう。嫌悪感、憎悪、歪んだ何か。そんな負の感情を持った空気が、何処からか流れ込んでくる。
    レディも気付いていた。だが彼を不安にさせないため、話を聞きながらも神経はその空気の方へ集中させている。

    『それで、時々その人に外に連れて行ってもらうことが多くなった。その人が笑ってくれる度に嬉しくなった。――今思えば分かる。俺、その人が好きだったんだ』
    「……」
    『気持ち悪い?』
    「ううん。誰かを好きになるのは素敵なことだと思う。だけど」
    『分かった?その通りだよ。その時期からあの人の様子がおかしくなった。今までとは違う絵を描くようになった。当然、モデルとなる俺にも――』

    思い出したのか、肩を少し震わせる。裸でシーツを纏い、妖艶に微笑む絵。だがその心の中は何を思っていたのだろう。想像できない。

    『痛かった。熱くて、辛かった。でもあの人の顔がとんでもなく辛そうで、泣きたいのはこっちなのに拒めなかった。そのうち外に出してもらえなくなって、ただひたすらあの人の望むままになった』
    「……」
    『この絵』

    悲しげな光を湛える瞳。その瞳は、今レディが話している少年がしている目と同じだった。

    『この絵は、俺が死ぬ直前まで描かれていた。あの日、俺はものすごい久しぶりに服を着せられてそこに立っていた。あの人の目はいつになく真剣で、何も喋らずに絵筆を動かしてた。
    俺はどんな顔していいか分からなくて、ずっとこの絵の表情をしてた。
    そして何時間か経った後――」

    彼は立ち上がった。そのまま自分の方へ近づいてくる。ビクリと肩を震わせる自分を彼はそっと抱きしめた。予想していなかったことに硬直し、自分はそのままになっていた。
    首にパレットナイフが押し付けられていたことに気付いたのは、その数分後だった。悲鳴を上げる前に彼が耳元で呟いた。

    『――愛してるよ、ボウヤ』


    「……歪んだ愛情の、成れの果て」
    『その後は覚えてない。ただ、俺が死んだ後にあの人も死んだ。それは確かだ。ただ何処にいるのかは分からない』
    「……」
    『レディ』

    ゾロアークの声が緊張感を纏っていることに気付く。と同時に、空気が重くなった。ずしりと体にかかる重圧。少年も気付いたようだ。
    火影を取り出す。そのまま部屋の入り口に向ける。彼は自分の後ろに庇う。
    入り口から吹き込む風。その感覚に、レディは覚えがあった。

    「……『あやしいかぜ』」

    突風が吹いた。不意をつかれ、そのまま後ろにひっくり返る。一回転。体勢を立て直して前を見据えれば、何か黒い影がこちらを見ているのが分かった。さっき肖像画から感じた物と同じだ。ということはやはり――

    「しつこい男は嫌われるよ」

    ゾロアークが『つじぎり』を繰り出した。相手はポケモンではない。だが攻撃しなければまずいことを本能が察知していた。効いているのかいないのか、相手は怯まない。
    念の塊。そう感じた。死んで尚、この少年への執着を捨てきれない、哀れな男の――

    「こいつの本体って何処」
    『肖像画じゃないのか』
    「……」

    分かってるならやれよ、とは言えなかった。この塊が邪魔なのだ。レディはカゲボウズを連れてこなかったことを後悔した。彼らにとってはさぞ甘美な食事になっただろう。彼らの餌は、負の念。恨み、憎悪、悪意。挙げればキリがない。人の思いというのは、奥が深い。深すぎて自分でも分からなくなることがある。
    おそらくこの男も――
    レディが駆け出した。塊が一瞬怯んだ隙をついて斬りかかる。真っ二つに割れ、また元通りになる。本体を倒さなくてはならないようだ。
    そのまま二階の踊り場へ。肖像画の顔が醜く歪んでいるように見えるのは気のせいではないだろう。

    「ゾロアーク、その子頼んだよ!」
    『ああ!』

    肖像画との距離は約五メートルというところ。躊躇いはない。手すりに飛び乗り、右足を軸にして左足を前に出す。そのまま斬りかかって――
    ガシャン、という音と共に一階の床に落ちた。痛む腰を抑えて一緒に落ちてきた肖像画を見つめる。裏返しになっているのを見てそっと表へ返す。そして寒気がした。
    思わずその目に一の文字を入れる。

    「……」
    『レディ!』

    塊が消えたのだろう。ゾロアークと少年が降りてきた。もう澱んだ空気は消え去っている。少年の顔も幽霊にしては血の気があった。目を切られた肖像画を見て、なんとも言えない顔をしている。
    この絵どうしよう、という言葉に答えたのはゾロアークだった。

    『こんな出来事を引き起こすほどの絵だ。まだ怨念が残っているかもしれない。これこそ持って帰ってマダムに預けた方がいいだろう』
    「受け取るかな」
    『修正は不可能だろうな。これだけザックリやられていては……美貌も台無しだ』
    「言うねえ」

    その時の感情で動いてしまう。それが本人も自覚している、レディの悪い癖だった。直さなくてはならないと分かっている。現にカクライと遭遇するとそのせいで余計なトラブルを招いてしまうことも多い。今回もそれが発動してしまい、思わず火影を手に取ってしまった。
    あの時、最後の視線が自分を貫いた。哀しみに良く似た、憎悪。可愛さ余って憎さ百倍とはよく言ったものである。彼に触るな、彼と話すな。そんな言葉が聞こえたような気がして、レディは口を押えた。
    ふと彼を見れば、思案気な顔つきになっている。どうした、と聞く前に向こうから話を切り出した。

    『あのさ……』

    マダムは上機嫌だった。ゾロアークの声も聞こえないくらいに。そしてレディの蔑みの視線も全く気付かないくらいに。黄昏堂の女主人の威厳も形無しである。
    その少年が提案したこととは、二階にある自分をモデルに描かれた絵を全て渡す代わりに、あの最後の絵を修正してくれないか、ということだった。何故とゾロアークに彼は頬をかきながら言った。
    その絵を、見てもらいたい人がいる―― と。
    そんなわけで恨みの肖像画を回収ついでにそのキャンバスを黄昏堂に持ち帰って来たのである。ちなみに少年本人は『行かなくちゃいけない場所がある』と言ってそのまま屋敷を出て行った。聞けば肖像画が自分がいる部屋の目の前に壁にあったせいで、その怨念が邪魔して外に出られなかったのだという。
    絵を見たマダムはなるほど、と頷いた。

    「相当長い間念を込めて描いていたらしいな。ほら、この赤黒い部分。自分の血を使ってる」
    「ゲッ」
    「それで、この絵は私が貰っていいんだな?」
    『おそらくは』
    「新しく飾る部屋を用意しないとな。名前は……」

    浮かれたマダムなんて滅多に見られるものではないが、別に目に焼き付けておこうとは思わない。ため息をついて再び最後の絵を見つめる。悲しげな顔。おそらく二つの意味で悲しんでいたのだろう。一つは、主人の痛みを知った悲しみ。もう一つは―― いや、やめておこう。他人のことに干渉するのは愚か者のすることだ。
    自分が出来ることをするだけ。それだけだ。

    そしてこれは、後日談。
    ある街の小さな美術館に、一枚の絵が寄贈された。添付されていた手紙には『よろしければ飾ってください』と書かれていたという。
    一応専門家を呼んで鑑定してみると、それは若くして亡くなった有名な画家の物であることが分かり、すぐさまスペースを取って飾られることとなった。
    だが一つだけ分からないことがある。
    それは、一度描かれてから十年以上経った後にもう一度修正されていたのだ。てっきり他人が直したのかと思ったが、タッチや色使いは全て本人の物であり、首を傾げざるをえない。それでも本物には違いないということで、その絵は今日も美術館で人の目に触れている。
    その絵のタイトルは――

    『幸せな少年』

    ―――――――――――――――――――
    神風です。久々のレディです。モルテじゃなくてゾロアークと組ませるのは初めてですね。
    やっぱこのシリーズが一番書いてて楽しい。
    私の趣味が分かります。


      [No.2410] 川原の石 投稿者:ことら   《URL》   投稿日:2012/05/03(Thu) 01:23:53     103clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    やぶ蛇とはこのことだろうか。ゴーヤロック神に「ダイゴさんくださいいい!!!」と頼み込んだら、同じようで神の方が深く読み込んだダイゴさん像ができていた。しかしこのままでは引き下がれない。一度消えたこの話、もう一度書くべし。評価なんぞ知らん。書きたいからかく。

    前書き:ロンスト「流星をおいかけて」の前の話。読んでなくても解る。


     平日の穏やかな晴れの日は、道行く人もまばらだった。春の風がダイゴのスプリングコートを撫でる。首筋から入る風に、思わず身を縮めた。春とはいえジョウトはまだ肌寒い。薄い手袋では指先が冷たい。
     それでもこの大きな川沿いの道が一番好きだ。人でごった返していないし、野生のポケモンをたまに見ることができる。都会の鬱蒼とした人の中にいると、息が詰まりそうになる。対岸では暇なおじさんが釣りやゴルフをしていた。ガーディの散歩をしている人もいる。
     ダイゴは足を止めた。まだ平日というのに真新しい制服を着た女の子が川を見つめて座っている。
    「こんな時間からサボりかい?」
     なぜ声をかけたのか解らなかった。ただ何となくかけなくてはいけないと思った。ダイゴの声に、女の子は顔をあげる。横から見たときは気付かなかったが、左頬に大きなガーゼがあって、涙で濡れていた。
    「学校はどうしたの?」
    「行かない」
     手に握られていたくしゃくしゃになった紙を見せて来た。その要約はーー二度と来るな。
    「またどうして?」
     ただ黙って女の子は座ったまま左側にあった石を掴む。ダイゴは信じられなかった。その体格からは想像できないくらいに強い力で石は飛んだ。そしてそれは普通の人間ではとても届かないような川幅を越えて対岸にめり込む。
    「普通の人は対岸に石なんて届かない。届く私は異常なんだ。異常だから必要ないんだ」
     たまにポケモンと同じような力や特性を持つ人間がいるとは聞いたことがあった。集団行動を好む学校からすれば、こんな強い力を持つ人間は不穏分子でしかないのだろう。
     ダイゴは黙って足元の石を拾う。手首をひねってそれを投げた。水面に落ちるとぱしゃんと跳ねて、生き物のように水上を進む。そして対岸の草むらに消えて行く。
    「向こうに石が届くのが異常なら、僕も異常だね」
     驚いたように女の子がダイゴを見上げていた。
    「こんな真っ昼間から君を見てる先生は授業中だ。つまり君がどこ行こうが関係ない。それにもうすぐお昼だ」
     ダイゴの差し出す手を掴んだ。その時、初めて彼女が笑った。

     昼間から制服を着た中学生の女の子を連れてる男は、不審者とうつっているようだ。コガネシティですれ違う人の視線が言っていた。けれどダイゴは気にもせず、たわいのない話をしながら歩く。そして都会の中の静かなレストランへと入った。
    「そういえば君の名前聞いてなかったね。僕はダイゴだよ」
    「ダイゴさんですか」
     彼女の視線はやや下を向いた。そして消え入るような声で話しだす。
    「私は……その、ガーネットです」
    「へぇ」
     宝石や鉱物の話になると聞く名前だ。それが人の名前になると、ガーネットの反応を見る限り苦労してきたのだろう。
    「変な名前なのは解ってるんですけど、生まれた時からこの名前ですし」
    「いや、いい名前だよ。努力、友愛、勝利を意味する石だ。赤く燃える美しい色をしている。気高い宝石だね」
    「あっ……そう、ですか?」
     少しだけガーネットの顔色が明るくなった。
    「うん。僕はそう思うな。僕の友達がね、宝石の名前を持つ子はとても大切な役割があって、どんな困難にも立ち向かうんだと言ってた。古いホウエンの昔話なんだけどね」
    「ホウエン?」
    「僕はホウエン地方に住んでるんだ。普段はポケモントレーナーをやっているんだけど、たまにこうしていろんなところに出向くんだよ。ガーネットちゃんはホウエンに来たことあるかい?」
    「ないです。私のお父さんもトレーナーなんですけど、あちこちの大会にいっててほとんどいませんし、お母さんは仕事に行ってるので」
    「なるほど。ホウエン地方はね、とにかく海が綺麗なんだ。家の近くの海も、ポケモンが多くてね。緑も豊かでね、とにかくおいしい木の実が多いんだ。一度来てみなよ。本当にいいところだから」
    「私のお父さんもホウエン地方の出身らしくて、昔はそっちに住んでたらしいんですけどあんまり覚えてなくて」
     料理が運ばれてくる。デミグラスソースの乗ったおいしそうなオムライスが二人分。スプーンを左手で取るガーネットを見て、ダイゴもスプーンを持った。彼女はちゃんと食べるか気になったが、心配は無用のよう。
    「ガーネットちゃんの名前は、その昔話にあやかってつけたのかもね」
    「へ? 昔話ですか? 宝石の名前ってやつですか?」
    「お父さんがホウエンの人なら知っててもおかしくないだろうしさ。紅玉と青玉という名前を持った人たちがいてね、その人たちは陸と海とつながっているっていう話だよ。今で言えばルビーとサファイアって名前かもしれないし、違う国の言葉での名前かもしれない」
    「ルビー、ですか」
    「そうだよ」
    「私が生まれた時、お父さんはルビーにしたいって言って来たらしいんです。でも突然、絶対だめだ、っていきなり言い出したらしくて」
    「ああ、やっぱりその話を知ってるのかもね」
    「だからって、こんな名前ないと思ってたんですけど、ダイゴさんが初めていいって言ってくれたし、少し自信もてました」
     普通に笑うんだな、とダイゴは思った。中学生にしては淀みきった顔だったのに、今では年相応の女の子にしか見えない。
     それにしてもただ力が人より強いというだけで、学校が来るなと言うのだろうか。それと頬のガーゼのことも。出会ったばかりで深くは聞けない。話したくなるまでは聞かない方がいいとダイゴは思った。

     食後のコーヒーを飲む頃には、すっかり打ち解けてしまっていた。初対面であるはずなのに、そんな事を思わせないくらいに。ガーネットはフルーツの乗ったおいしそうなケーキを食べている。それを正面からダイゴは見ていた。じろじろ見ていたら失礼かなと目をそらすけど、自然と彼女も見ている気がする。そして目が合うとガーネットの方からそらした。
    「もうこんな時間なんだね」
     ダイゴは左腕にしている時計を見た。すでに午後2時になってしまっている。
    「ガーネットちゃんは家に帰るんだよね」
     帰りづらいのだろう。ガーネットは今までのテンションから一段落ちたトーンで話す。
    「あんまり帰りたくないです」
    「けどちゃんと今のことは話さないとね。一緒に説明しよう。きっと解ってくれるよ」
     店を出る。小さな子供と歩くように、ガーネットの手を握って。すれ違う人々は相変わらず怪訝な視線を向けるけれど、二人は気にしていなかった。

     不審者を見るような目で見られる。それはそうだ。娘が知らない男を連れて来て、親が警戒しないわけがない。特に父親が見る目は、敵を近づけまいとする目だった。その警戒を解くには、まずダイゴは自分から情報を出す。
    「ホウエンでポケモントレーナーをしているダイゴと言います」
    「これはどうも。私はトレーナーのセンリです。それで、ホウエンのトレーナーがうちの娘に何のようですか」
    「川原で会いました。さっきのことですよ。僕はそれを伝えにきました」
     センリに伝えるのは、ガーネットのこと。学校のこともそう、特性のこともそう。トレーナーがポケモンを語るのと同じくらいにダイゴは話す。事件のことは知っていたが、ガーネットに来た紙は知らなかったようだ。
     話して行くうちに、センリはかなりガーネットの特性のことは注意していて、絶対に人を叩いたり掴んだりしてはいけないと言っていたことが解る。それが例え嫌なことを言われても、絶対にダメだと。それなのに……
    「集団で金銭を?」
    「カツアゲっていうのかな。新入生だからやりやすいのだろうって学校の先生も言っていたね」
     生徒を正しく指導できない学校ではよくあること。集団で自分より大きな人間に囲まれ、銀色の刃で斬りつけられて、どんなに禁止されていてもそうするしか自分の身を守れなかった。見た目からは全く想像できない力で、一人一人を殴り、骨を折って戦闘不能にさせる。
     その時のガーネットは必死だったのだろう。左の頬から血が流れてることも気付かなかったと言った。自分の血か相手の血か解らないけど、床は赤く鉄の匂いがしていた。物音に気付いた先生が来た時には、ガーネットはそこに立ち尽くしていた。
    「とにかく娘がお世話になったようで。どうもありがとうございます」
     これ以上は出会ったばかりの人間が関わることではない。ダイゴは一礼すると玄関に向かう。ノブに手をかけると、それは勢いよく外に開いた。
    「ただいま!」
     ダイゴは目を疑う。ガーネットを一回り小さくしたような女の子が入って来たのだ。
    「あれ、おきゃくさん!? こんにちは!」
     使い込まれたランドセルを背負って、にこにことダイゴを見ている。ガーネットの妹で、くれないという名前らしい。すっと家の中に入って行く。
    「くれないちゃんとそっくりなんだね」
    「違いは身長と性格だけってよく言われます」
     さっき家に入ったばかりのくれないは、ダイゴを見送るようにガーネットの隣にいた。見送るというのは口実だろう、どちらかといえば姉の側にいたいといった感じだ。
    「じゃ、僕は帰る。今日は楽しかったよ、ありがとうねガーネットちゃん」
    「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
     ガーネットが一礼する。それに倣ってくれないもお辞儀をした。
    「あの、また会えますか?」
    「そうだね」
     ダイゴは鞄から予定の書かれた手帳を取り出す。
    「もう少しジョウトにはいるから、また会えるかもね。よかったらこれが連絡先だから、渡しておくよ」
     この日はそうして別れた。くれないが最後まで嬉しそうな顔でダイゴとガーネットを見ていた。

     ジョウトでの用事は忙しく、コガネシティからエンジュシティを往復する毎日だった。空いた時間をみつけては、観光のためにスズの塔や焼けた塔の近くまで行く。スリバチ山を歩いて気に入った石を集める。
     石はその土地の神様が宿っているという。だからこそ持ち帰ってはいけないと言われていた。それを信じるわけではないが、どうしても気に入ったものは手に入れたくなってしまう。
     ダイゴは半分あの時のことを忘れかけていた。石をながめ、ジョウトに来た時のことを思い出していた。突如、突き上げるようにガーネットの顔が浮かぶ。予定は空いている。帰るまでにもう一度会っておきたい。ダイゴはモンスターボールを取り出した。鋼の翼エアームドがあらわれる。
     コガネシティに降りると、わずかな記憶を頼りにダイゴは歩き出した。一度行っただけだが、何となく道は覚えてる。この川を上流に沿って歩いて、そしてウバメの森が遠くに見える橋を……
    「なにするのよ!」
     激しく言い争う声が聞こえる。
    「俺たちにこんなケガさせといて、なんでお前が平気で歩いてんだよ! 金くらいだせ」
     白い包帯を巻いた集団が、女の子の髪を引っ張っている。
    「こいつ校長にもう二度と人を殴らないって誓約書かかされたんだぜ」
     抵抗しない相手を殴りつける。それが上級生のすることなのか。
    「エアームド」
     鋼の翼から風の刃が飛んだ。数人の髪の毛を切り落とし、空へ消える。
    「うわっ!」
    「なんだ!?」
    「んだよおっさん」
     振り向いた不良たちがダイゴに気付く。
    「ダイゴさん!?」
     驚いたようなガーネットの声がした。
    「知り合いかよ」
    「うぜえよおっさん、ナンパに」
     再びダイゴは命令する。エアームドは固い翼を振り切った。エアームドの抜けた固い羽が地面をえぐりとって落ちる。
    「ナンパって言うのね、誘う側を不快にさせないことを言うんだよ」
     ポケモントレーナーがポケモンを使って人間に攻撃することなんてまずない。不良たちもそうくくっていたから、ダイゴの行動には誰もが黙った。
    「と、トレーナーのくせに」
    「そうだそうだトレーナーが人間攻撃したら」
     ポケモントレーナーが意図的に人間を傷付ければ、その資格は簡単に剥奪される。そんなことは常識だからこそ、不良たちはダイゴを挑発したのだ。
    「……想像以上に頭の悪い人間っているんだね」
     もう一つボールが開く。そこから出て来たのは土偶ネンドール。目のようなものがたくさんあり、その場が静かになる。
    「ポケモンは攻撃するだけじゃないんだよ。お家に帰って、パパやママから常識を学んでおいで」
     ネンドールはダイゴの意図を汲み取った。まばたきしている間に不良と共に姿は消え、数秒後にネンドールだけダイゴの元へと戻ってくる。
    「大丈夫かい?」
     ガーネットは何が起きたか解ってないようだった。誰もいないことを確認して、ダイゴの顔をみた。
    「いや、あの、ダイゴさんまさか・・・」
    「ああ、彼らはそれぞれの家に帰しておいたよ。大丈夫だ、あれなら傷付けたわけじゃないから責任は問われない」
     ネンドールとエアームドがボールに戻っていく。そしてガーネットを抱き起こした。
    「一緒に帰ろう」
     ガーネットは何も言わず下を向いてダイゴの少し後ろを歩く。ダイゴが声をかけても、生返事しか返ってこない。
    「さっきのやつ」
     ガーネットが消え入りそうな声で言った。
    「昨日家にも来ました。親つれて、こうなったのは私のせいだから治療費はらえって、なんで私はこんなにまでされても何にもできないんですか?」
     ダイゴは何も言わずポケットからハンカチを取り出して、ガーネットの涙をぬぐう。彼女がハンカチをつかむと、肩を優しく叩いた。
    「ガーネットちゃんは何も悪くない。あんなことされても我慢していたのは本当に偉いと思う。僕だったらできない。何があっても絶対に手を出してはいけないなんてことは、僕はあり得ないと思う」
    「ダイゴ……さんっ!ダイゴさん!」
     今まで押さえていたものを一気に爆発させたかのように、ガーネットが声をあげていた。小さな子をあやすかように、ダイゴはガーネットを抱きしめる。

     対岸では暇なおじさんが釣りやゴルフをしていた。ガーディの散歩をしている人もいる。野生のペルシアンが川の魚を狙っていた。その後ろではニャースが見ている。どうやら子供に狩りを教えているようだ。
     その様子を見ながら、ダイゴはガーネットと一緒に川原で話していた。いつの間にか世間話になっていて、あのことなどなかったかのようだ。
    「ダイゴさんってポケモントレーナーなんですよね」
    「うん、そうだよ」
    「ポケモンってかわいいですか?」
    「かわいいよ。愛情をこめた分、期待に応えてくれる。言葉は話せないけど、僕にとっては人生のパートナーだ」
     自分のポケモンを持っていないとその辺りはいまいちピンと来ないのだろう。ガーネットは目の前のポッポを見て、不思議そうな顔をしている。
    「そうだ、ガーネットちゃんもポケモンもってみたらどうかな?」
    「えっ、私育てたことないですし」
    「大丈夫、ポケモンだって色々いて、懐いてくれる……そうだ実家にエネコっていうかわいいピンク色の猫がいるんだけど、どうかな?」
    「そんな、もらっちゃ悪いような……」
    「大丈夫だよ。会社の近くにはよくいるんだ。大人しいポケモンだからすぐ慣れてくれるよ」
     そうと決まったら。ダイゴは立ち上がる。

     ポケモンセンターでエネコの入ったボールを受け取った。そして外に出ると早速ボールから出してみる。
    「これがエネコなんですね。笑ってるみたいでかわいい」
     喉をごろごろ鳴らし、エネコはガーネットに甘えた。エネコをおそるおそる抱き上げて、頭をなでている。ふんわりとした猫の毛がガーネットの腕に収まる。
    「でも、もし力いれすぎてつぶしちゃったりしたら……」
    「考え過ぎだよ。技もそんな強いの覚えないから扱いきれなくなることはないよ。大切にしてね」
    「はい。ありがとうございます」
     ガーネットはとても嬉しそうだった。ダイゴからの贈り物、それを今までで一番大切というように。
     完全には打ち解けきれてないコンビではあった。帰り道、エネコはずっとガーネットの後ろをついていく。主人だと認めているかは解らない。途中、目につくもの全てに飛び掛かろうとしたり、ガーネットの髪にじゃれつこうとしたり、それはもうイタズラの大好きなエネコだった。
    「おかえり!」
     家につくと、元気よく向かえたのはガーネットの妹のくれないだ。身長差がなかったら、見分けはつかないだろう。
    「あ、おねえちゃんのせんせい!」
     ダイゴに向かってそう言った。くれないからはそう見えるようだった。けれど興味はダイゴからすぐに違う方に行く。そう、エネコだ。
    「かわいいーーー!!おねえちゃんどしたのそのこ!」
    「エネコだよ。ダイゴさんからもらったの」
     エネコも大きな声にひるんだが、くれないに捕獲され、なで回されては逃げ場はない。
    「ねえねえおねえちゃん、エネコかうの!?かわいい!」
     頭をなで回され、細い目で一生懸命助けてくれと訴えてるようだった。
    「くれないちゃん、エネコはぎゅっと抱くんじゃなくて優しく抱いてあげて。それから喉を撫でてあげると喜ぶよ」
    「え?そうなの?」
     ダイゴに言われた通りに抱くと、先ほどの苦しそうなエネコの顔から、普通のエネコの顔に戻る。
    「わあ、ほんとうだ。きもちよさそう!」
     エネコはくれないの腕の中でゴロゴロと喉をならしていた。
    「エネコまで区別ついてないのかな」
     ガーネットが小さく言ったのを、ダイゴは聞き逃さなかった。

     明日にはホウエンへ戻る。長い休暇が終わり、また現実へと戻るのだ。帰ってしまう前に、一言つたえた方がいいだろうとダイゴは道を歩く。
     家の近くまで来ると、ガーネットがギャロップを連れた同い年くらいの女の子ととても楽しそうに話している。最初はダイゴのことを気付いていなかったが、視界に入ると大きく手を振った。
    「ダイゴさん!こんにちは!」
    「やあ!こんにちは。ガーネットちゃんのお友達かな?凄い立派なギャロップを連れてるね」
     角は太く、蹄は固そうだ。そしてなにより燃え上がるようなたてがみ一つ一つが美しい。撫でようとしたら、ギャロップに睨まれてしまった。
    「はいそうです。ネネが言ってたトレーナーさんですよね!私はキヌコです。ネネと小さい時からの友達!」
     とても嬉しそうにキヌコは今度から一緒の学校に通えると話していた。ダイゴはそれを聞いて安心する。この短期間ではあったけど、妹のように思っていたガーネットと仲良しな子が同じ学校へ通う。誰にも助けを求められない性格だからこそ、キヌコの存在は救いに思えた。
    「あ、ディザイエの散歩の途中だから、じゃね」
     キヌコはギャロップを連れてそのまま去っていく。最後までギャロップはダイゴを睨んでいた。
    「ダイゴさん、キヌに先越されましたが、私は転校できることになったんです!」
    「うん、みたいだね。仲良さそうなお友達だね」
    「はい。中学が別で不安だったけど、一緒になってよかった!」
     ガーネットはとても嬉しそうに話している。何も進まず、完全につまったかのように思えた現状は、とてもよい方向に向かっているようだ。
    「良かった。僕も心置きなくホウエンに戻れるね」
    「あ、そうか……」
     少し曇りかけた表情を隠し、笑顔でガーネットは続ける。
    「ダイゴさん、ホウエンのトレーナーなんですよね。あの、連絡してもいいですか?」
    「いいよ。次は夏にジョウトに来る予定なんだけど、その時また連絡するよ。その時また元気な顔みせてね」
    「……はい!」
     ガーネットはダイゴに手を振る。ダイゴはまたね、と言って笑顔で去っていく。まだ春の寒い日だった。


    ーーーーーーーーーーーーー
    そして流星プロローグへ続く
    初恋は実りません。
    ゴーヤロック神に勝負を挑んだ事自体が間違ってると言われても気にしない。かきたいものをかくんだ!
    【好きにしてください】


      [No.2326] アイデンティティ 投稿者:紀成   投稿日:2012/03/29(Thu) 20:25:18     53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ふう……。
    僕は、額に張り付いた汗を拭った。周りの騒がしさは、今日も変わらない。濃い緑色の同じ型をした服を着た人達が、忙しそうに僕の目の前を行ったり来たりしている。ただ流石に身長と髪形は違った。誰だったか『皆同じに見える』って言っていたけど、毎日毎日終電までここにいて、彼らを観察していれば嫌でも見分けが付くようになるだろう。
    たとえば、いくら双子でも性格は違ったり、大きくなればそれぞれ違う趣味を持ったりするわけで。現に僕の上司がそうだ。姿かたちは食玩のダブってしまったフィギュアを並べたくらい似ているのに、使うポケモンと性格は全く違う。あと服装も違うけど、手持ちポケモン関係なしで制服を取り替えれば、きっと誰も気付かないだろう。
    「ねーねー、ジャッジさん」
    小さな女の子の声で、我に返った。ショートカットの女の子。小学生くらいかな。丁度ポケモン取り扱い免許を持てる年だ。
    「なにかな」
    「あなたにポケモンを見せれば、どれだけ強いか言ってくれるっておねーちゃんから聞いたんだけど」
    僕は心の中でため息をついた。だが表情は変えない。笑顔のままで、彼女の視線に合わせるようにしゃがむ。
    「そうだよ」
    「じゃあ、このモノズを見て」
    そう言って彼女が取り出したモノズを見て、僕はもう一度ため息をついた。もちろん気付かれないように、心の中で。毛艶はいい。ミュージカルや他地方にあるという『コンテスト』に使えば、確実に良い評価をもらえるだろう。
    だが僕の仕事は、見せられたポケモンがどのくらいバトルをする能力に長けているかをジャッジすること。いつからこんなことが出来るようになったかは分からない。ただ、幼い時からやけに僕が選ぶポケモンは強かった。野生をゲットしても、他人から貰っても。
    僕はそういう『当たりクジ』を引きやすい強運の持ち主だったのかもしれない。中学に入る頃には、人目見ただけでそのポケモンの能力値が手に取るように分かるようになっていった。
    そのおかげでこうして仕事をもらえている。僕にしかできない仕事だ。ギアステーションに一日立って、見せられるポケモンの能力値を言うだけで暮らしていける。このご時勢に良い待遇を受けていると言っていいだろう。
    「うん、綺麗なモノズだね」
    「おねえちゃんのお使いなの。今日ジャッジさんに見せに行こうと思ってたんだけど、怪我しちゃって」
    「怪我?」
    「学校帰りに変な人に襲われた……って」

    最近ライモンシティだけではなく、イッシュ地方全体で問題になっていることがある。社会現象、と言った方がいいだろうか。
    『廃人』と呼ばれるポケモントレーナーの増加だ。
    彼らはポケモンを扱うトレーナー。それは皆共通していることだ。だが違うのは、より良いポケモン―― 能力値が高いポケモンを得るために様々なことをする。タマゴをひたすらそのポケモンに産ませ、孵ったポケモンの能力値を調べる。望みに合わなかったポケモンは逃がす。
    そんなことを続けるうちに、ある一部の種が増加したりして街のゴミが食い荒らされたり、それで住処が無くなったポケモン同士の争いが起こったり、食べ物が無くなったポケモンがその付近の住人を襲ったりするという事件が相次いでいた。
    このままではいけないということで、保健所がその街に溢れかえったポケモン達を捕まえているが元々はぐれた能力の持ち主ばかりなので、引き取り手も少なく、引き取られなかった者は……
    そして、そんな『廃人』を狩る者達も現れた。数年前に『プラズマ団』と名乗る集団が説いた『ポケモンは自由であるべきである』『ポケモンは人間から解放されるべきである』という信念に基づき、廃人はポケモンを虐待する者と見なし、様々な所で襲うようになった。
    いわゆる『廃人狩り』である。中にはタマゴを産ませていたポケモンを助けるため、と称して育て屋を襲い、そこに預けられていた珍しいポケモンを奪っていった盗人もいたらしいが、そこらへんは僕の知るところではない。
    そんなわけで、廃人も廃人狩りもポケモンがいなくならない限りおそらく消滅しないだろうという結果が出ている。

    「そうだな…… まずまずっていったところかな」
    「分かった。ありがとう、ジャッジさん」
    「ちょっと待って」
    モノズをボールに戻し、去って行こうとする彼女に僕は声をかけた。
    「そのモノズ、お姉ちゃんはどうするのか分かるかな」
    「……多分逃がしちゃうと思う。私は一匹もらったのがいるし、その他にキバゴもいるから」
    「もし逃がしちゃうなら、僕にくれないかな」

    モノズを育てるのは難しい。目が見えないため、あらゆる物を体当たり状態で確かめていく。おまけに歯が鋭く、慣れてない人は生傷が絶えない。
    だけど僕は、自分がジャッジしたポケモンが『必要ない』と言われて捨てられていくのは耐えられなかった。確かに救えるのは数えるほどしかいないけど――

    それでも、僕は彼らに居場所を作ってあげたいのだ。

    数日後、僕の隣にモノズが増えた。上司の許可を取り、何か噛んでて飽きない物を持参して噛ませることで連れて来る許可を得た。
    今日も彼は、僕の隣で古くて固いタオルを噛んでいる。そのタオルがボロボロになるころには、もしかしたら新しい仲間が増えているかもしれない。
    「ジャッジさん、このコはどんな感じ?」

    そう言ってイーブイを抱えた少女の目には、微塵の曇りもない。


      [No.2243] 塔と鐘 投稿者:櫻野弥生   投稿日:2012/02/14(Tue) 00:59:47     79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ガサ、ガサ。

    子供はおろか、背の低い大人ならすっぽりと隠れてしまうような草むら.
    その湿った中を掻き分けて進む一人の男がいた。
    彼が背負っている革色のリュックはリズムよく踊る。
    空にはどんよりとした雲が浮かび、今にでも大きな雨粒を落としてやろうと言っているかのようである。
    男は、煙たい匂いが鼻の奥を刺激するのを感じた。

    お香か。
    男は、思う。
    匂いの風上を頼り、草むらを抜けると、その元はあった。
    高く聳える塔。


    タワーオブヘブン。


    イッシュ地方最大の、ポケモン用の墓地だ。
    各地のポケモンの御霊がこの塔で供養されている。
    塔の頂上には大きな鐘があり、それを鳴らすことでポケモンたちが安らかに眠ることが出来るといわれている。
    内部の各フロアごとに墓石があり、お参りへ来る人が毎日いる。
    しかし、天気があまりよくないからか、あたりに人の気配はなさそうだ。
    男はキョロキョロとあたりを見回すが、薄暗い影の中の草木しか視界には入らない。


    男は、この塔に鐘を鳴らしにきた。
    ただ、鳴らしたいと思っただけだ。
    それ以外に理由なんてない。


    漠然とした理由で来た男は塔を眺めた。
    見上げ、霞の向こうにある頂上が透けて見えるかのようにじっと見つめる。
    その先の、なんとも形容しがたい魅力を感じる。
    男は、すっかり心を奪われていた。


    「あの」


    という透き通った声が聞こえるまでは。
    その刹那、男は体を震わした。
    何者なんだろう?
    声の主に意識を向けた。
    「はい?」
    男は振り向いて、その姿を瞳に焼き付ける。


    少女が、いた。


    ぴゅう、と吹いた風に栗色の髪はさらりとなびく。
    栗色のワンピースを着た少女は男をじっと見つめていた。


    「おにいさん、塔にのぼるの?」


    透き通って、消えてしまいそうなその声は、どこか悲しげだと男は思った。


    「そうだね、今から塔の頂上に行くんだ」
    ふぅん、と少女は言った。


    「あのさ、あたしも、ついて行っていいかな?」
    「君もかい?」
    「うん」
    少女はうなずいた。
    「一人で行くの、こわいから」




    塔の中は昼間だというのに薄暗い。
    壁にかけられた蝋燭の灯はぼんやりと光、墓石を、床を橙に染めている。
    中には人はいないようだ。


    だが、何かが見つめている。
    そんな感覚に襲われた。


    「おにいさん、きをつけて。このあたりはヒトモシがすんでいるの」
    「そういえば、そんなことを聞いたことがあるよ」
    この塔にはヒトモシが生息している。
    彼らは人の魂を好んでいるため、下手な行動をすると命取りになりかねない。
    そんな話を昔聞いた覚えがあった。
    「あの蝋燭もヒトモシよ」
    「えっ?」
    男は壁の蝋燭を見つめた。
    ゆらゆらと炎が燃えている。


    蝋がにやりと笑った。


    「!?」
    男は正体の顔を見たと同時に、腕を引っ張られる感覚に襲われた。


    右腕をつかんでいたのは、少女だった。
    「はやく行きましょう。こわいでしょ」
    少女は足早に歩き始めた。
    男は崩しかけた体勢を整え、付いていく。
    「危なかった……。しかし、よく知ってるね。ここ何回か来たことあるのかい?」
    男の質問に症状はビクッと体を震わした。
    もしかして、聴いちゃいけなかったかな。と男が考えていると、
    「……うん、何回か」
    消え入るような声が答えた。
    「一人で来たら危ないから、だれかいないかさがしていたの。そしたら、あなたが来たからたすかった」


    少女の手はひんやりとしていた。
    塔の薄暗さがそのまま体に出ているかのように。
    少女に引きつられて、螺旋階段までたどり着いた。
    一段踏み出すごとに、こつん、こつん、と音を響かた。
    ヒトモシの灯に映し出されたひとつの影は、鐘へと近づいていく。




    長い長い階段の先を超えると鐘があると期待した男は墓が並ぶフロアが続いたことに肩を落とした。
    「まだまだ先よ」
    少女の発した言葉に重なって、
    「……ぼう……」
    という声が聞こえた気がした。
    「なんだ?」
    と男は振り返ったが、人がいる様子は無い。


    「ヒトモシのしわざよ。はやくしなきゃせいめいりょくをすい取られるわ」
    少女は声の方向に目もくれず、次の階段に向かっていた。
    「おにいさん、いそぐわよ」
    少女は、駆け出した。
    おおっと、と男は声を漏らした。
    駆ける少女に引っ張られながら、次の階段へと向かっていく。
    彼女の冷え切った手につかまれながら。




    幾段もの階段を上り、規則的に並ぶ墓石を目にし、進んだ。
    そして、最後の階段にたどり着いた。
    「もうすこしで頂上よ」
    「ああ、そうかい」


    最後の階段の先から光が屋内に差し込んでいる。
    一歩、一歩階段を踏みしめる。
    外気は少女の手のようにひんやりとしてきていた。
    間違いなく、頂上が近いんだ。
    男は思った。
    「君のおかげでヒトモシに襲われることもなかった」
    「そうね……ありがとう」
    少女はぽつりとつぶやいた。


    階段を踏みしめるごとに、体の重みが男を苦しめた。
    ずっと歩き続けたからだろう、男は痛みを堪える。
    視界は次第に明るくなっていく。
    そして、最後の一段を踏んだ。




    頂上は、ぼんやりと霞がかっていた。
    その中にうっすらと大きな鐘が見えた。
    「これが、頂上か…」
    男は鐘へと歩み始めた。
    一歩足を踏み出すたびに重くのしかかる感覚を堪える。
    そして、鐘の前に立った。
    鐘から垂れた紐を手に取り、引っ張った。


    ごおおん、ごおおん。


    鈍い音がん響き渡った。
    遠く、深くまで。
    男の心の奥底にまで染み込む。
    重い体から何かが離れていくような、そんな感覚に包み込まれた。


    目的を達成してすっきりした男が鐘に背を向けると、少女が立っていた。
    「もう、かえるの?」
    「ああ、やりたいことは終わったしね」
    少女は拳を握った。


    「……つまんない」


    少女は、拳を振り上げた。
    「つまんないつまんないつまんないつまんない! もっとあそぼうよ!」
    「お、おい……落ち着け!」
    少女は体を震わせて睨み付けた。
    「あそびたいんだよ? この子たちもあそびたいんだよ?」


    刹那、男の肩に重みを感じた。
    視線を右肩に向けると、いた。


    白い体に、赤いともし火。
    ヒトモシだ。


    「なっ……」
    男は、意気揚々としたヒトモシの姿を見て、頭にぐるぐると何かがめぐり始めた。
    「なっ、なんで……ヒトモシがいるんだ……?」
    渦の中から拾い上げた言葉を発した。
    「あそびたいんだよ? ミ……ンナ、アソビタ……インダ……ヨ?」
    少女の顔は、ゆがみ始めていた。
    口は左頬の位置まで伸び、鼻は斜めに、目は右頬に傾いている。
    口から、目から、鼻から、緑色の液体が流れ始めた。
    男は、息を呑んだ。
    瞬きをすると、歪んだ少女は消えた。
    そこに、一匹のポケモンがふわふわと浮かんでいた。


    灰色の体に大きな頭。お腹の4つのボタン。
    オーベムである。


    「あ、あぁ……」
    そこに、少女などいなかったんだ。
    最初から幻影だったんだ。


    男は、体中の力が抜けきってしまった。
    ぺたり、とつめたい地面に尻をついた。
    肩のヒトモシはぴょこん、と降りた。


    ……遊びたいんだよ?


    「……やめてくれ……頼む……」
    男の体はすっかり冷え切っていた。
    次第に近づいてくるオーベムが大きく、そして恐怖に感じられた。


    ……なんで、遊んでくれないの……?
    「やめろ……やめるんだ……この化物……!」


    ぴたっと、オーベムの動きが止まった。
    ……化、物……?
    体をぶるっと震わせた。


    ……ボクって、化物なの……?
    悲しそうな瞳で男を見つめた。
    潤んだ瞳の奥には何か、淋しげな感覚があるように見えた。


    ……そうだよね、怖いよね。
    オーベムはがっくりとうな垂れた様子だった。
    さっきの一言が重くのしかかったらしい。


    ……ボク、ただ遊びたいだけだったんだ……
    「オーベム……」
    男は膝をついた。
    「酷いこと言っちまってごめんな」
    男はオーベムの頭をなでた。
    オーベムは驚いた様子で男を見つめる。
    潤んだ瞳に男の顔が映りこんだ。


    ……許してくれるの?
    「こっちこそ酷いこと言ったしな。お前はただ遊びたかっただけなんだろう」
    オーベムはコクリと頷いた。
    「そうだな、ちょっとだけ遊んでもいいぞ?」
    ……え? 本当に?
    オーベムは目を丸くした。
    男はああ、と言った。
    オーベムは踊るように喜んだ。
    ……やった、ありがとう!
    その姿を見ながら、男はにっこりと笑った。
    後ろから、ヒトモシがぴょこんと肩に乗った。
    そして、にやりと笑った。


    「次のニュースです。フキヨセシティ郊外のタワーオブヘブンそばで男性の遺体が発見されました。
    遺体は死後数週間が経過したものと思われ、警察が身元の確認を行っています。
    近辺には革色のバッグがあり――」



     ――――――――――――――――――

    お久しぶりです。名前のとおりのものです。
    最近ご無沙汰だったので、リハビリがてら。
    ところで、書いていくうちにオーベムが可愛く見えてきたんです。
    あのくりっくりとしたおめめ。なにこれ可愛い。
    もっと怖いってイメージだったんですが、気づいたら抱きしめたくなってました。
    そんなノリで無理やり乗り切りました。


    【好きにしていいのよ】【オーベム抱きしめてもいいのよ】


      [No.2158] 手紙 投稿者:きとら   投稿日:2011/12/30(Fri) 16:53:06     66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     僕はもう行かなければならない。ここではない、どこか遠くに。

     僕はまず家に寄った。きっとあの子はここに立ち寄ってくれるはずだ。
     あの子には本当に悪いことをした。僕に好意を持ってくれたこと、素直に嬉しいと思っているよ。
     だから、最後のダンバルは君に託そう。まだまだ輝く未来を待つ君のパートナーとして欲しい。
     机に向かう隣にはエアームドが力無く鳴く。ごめんね、最後まで無理させて。僕にもう少し力があれば、こんな結果にはならなかっただろう。
     全ての真実を手紙にしても、君にはちょっと信じられないことばかりだから、僕は誰にも告げずに旅立つ。
     ごめんね。本当は君のことをもっと誉めたかった。君の成長を見届けたかった。君の好意を受け止めたかった。これじゃあ僕が君から逃げたみたい。
     神様はいつも意地悪だ。願い事など叶えてくれない。けど一つだけは叶えてくれたようだ。
     手紙を書き終えた。ペンをおいて、ダンバルのボールを置いた。きっと見てくれると信じている。

     扉の開く音がする。思ったよりも早かったね。
    「ダイゴさん?」
     いつもと違うから戸惑っているのかな。机の上にある手紙を見つけてた。何を考えてるかなんて表情で解るよ。
    「ダイゴさんに会いたいよ」
     ごめんね。君の願いを聞くことはもうできないよ。僕の願いが叶ったのだから。だから僕は遠くへと行かなければならない。君にこんな無様な姿を見られたくはないんだ。
     ポケモンたちが行こうと言う。君が開けた窓から潮風が入り込む。君の髪が潮風に揺れた。僕も君の髪に触れて旅立つ。
    「さようなら、ハルカちゃん」
     君が教えてくれたのは、人の暖かみ。こんな小さな子に教わるとは思わなかった。
     君が立派なトレーナーになって、僕を打ち負かした時は、なんて早く願いが叶ったのだろうと思った。僕はとても嬉しかった。

    『ルネシティで、若い男性のものと見られる遺体が発見されました。なお、死後かなり経過しており、警察では身元の確認を急いでいます』

    「ざまぁねぇな」
    「この先には行かせない…君たちのような無法者に、未来を摘み取る権利などない」
    「口だけは達者だな。望み通りしてやるよ!」



     もし、生まれ変わりがあるとしたら
     君のポケモンになって、ずっと一緒にいてあげる
     それで悪い奴らに絶対に負けないくらい強く、君を守ってあげるからね

    ーーーーーーーーーーーーー
    あまりの欝さに自分が暗くなった。
    【何してもいいのよ】


      [No.2077] ピカチュウさん 投稿者:ヴェロキア   投稿日:2011/11/19(Sat) 18:30:23     50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ピカチュウさんシリーズです。
    ピカチュウさんの紹介をします。

    【ポケモン】ピカチュウ
    【名前】ピカチュウさん
    【性別】♂
    【設定】明るい性格。友達にイーブイ、グレイシア、リーフィア、ブースター、シャワーズ、サンダース、エーフィー、ブラッキーがいる。洞窟に住んでいる。冬が嫌い。

    こんな感じですかね〜じゃ、更新頑張りま〜す。


      [No.1992] 投稿者:音色   投稿日:2011/10/16(Sun) 00:33:10     104clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     その日は突き抜けるような空が広がっていた。あいつと死合うにはまさに、絶好の日だった。
     寝床に光が差す前にむくりと体を起こした後に、雨の香りはどこにもなかった。
     目が覚めると同時に腹に寂しさを覚える。母さんを起こすのも気が引けて、あたしはこっそり窓から抜け出した。

     適当な木々から恵みを受け取る。早すぎる朝飯だけれど、これからあいつと殺しあうんだから。
     かじりつき、口の周りの果汁を舐める。あぁでも、こんな早い時間にはいないだろうな。
     馬鹿をやったことに気づく。お天道様はまだほんの少しも顔をのぞかせちゃいないのに、あいつがあそこで先に待っているはずじゃないじゃないか。
     あいつは決闘に遅刻したことはない。けど、今回はあたしが早く行き過ぎてるだけだ。だってこんな真っ青な空の下で、あいつと殺りあえるなんて、それだけでわくわくしちまって。
     たまにはゆっくり待ってやるのも面白いかもしれない。
     口の中で転がしていた種を吐き出して、あたしは両手の爪を眺めた。



     ふと眼がさめればまだ太陽は昇っていなかった。まだ朝は寒い。眠りに引き返すには十分だった。
     しかし妙に目が冴える。ずるりと寝床から這い出して、俺は空腹によって完全に目が覚めた。
     どうも朝っていうのはいつも決まって腹が減っている。晩にしていることといえば生傷だらけの体を休めるために寝ているだけだっていうのに。
     
     まぁ、生傷の原因はあいつとの決闘だけど。外に出れば冷たい風にあたる。眠い、と反射的に感じるのは本能か。
     少し先にある林檎の木を目指す。何かを食わないと体が冷えっぱなしだ。体を動かす。
     秋空は雲ひとつない。まるで、いつか見た海みたいだ。いや、こんなに澄んじゃいなかった。やっぱり、空は空だ。
     今日は随分と天気が良い。あいつはまだ寝床の中だろうか。
     こんな朝っぱらから面を合わせることはまずないだろうけど、仮に、だ。
     あいつにあったら、殺しあうか。まだまだこの体は冷える余地がある。眠りこむ前に、この風を涼しく感じられるくらい、死合うことができれば。
     
     
     だってこんな決闘日和、滅多にお目にかかれない。
     

     好敵手ってのどうしてこう、似てるのかねぇ?
     いつもの場所で、いつものように鉢合わせ。
     朝飯は?すませた。上等。ならやるか。

     互いの武器がぶつかり合う、派手な音が空に吸い込まれていった。

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    余談  お題はまだ変わっていなかった。ギリセーフ。
    コンテストのザンハブ作品に影響されました。認めます。

    【お題:陽】
    【しかしえらく応募作品と見劣りする】


      [No.1906] しあわせタマゴ(初期案) 投稿者:   《URL》   投稿日:2011/09/23(Fri) 11:03:14     78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    初期案を引っ張り出したのでまずこれを。

    -------------------------------------------------------------------------
    タイトル
     「しあわせのカタチ」

    話の骨格
     「幸福とは個人の解釈で異なるもの」

    興味を引くポイント
     「タマゴばくだん」で勇敢に戦う武闘派のラッキー

    主人公
     ラッキーと一緒に周囲のトレーナーをなぎ倒す勝気な少女「さち」

    ポイント
     ラッキーは「たまごポケモン」で、一緒にいるトレーナーに「しあわせ」をもたらす
     個々人の「しあわせ」とは何か
     少女とラッキーの対比・共通化

    起承転結
     起:飛びぬけた腕力と「タマゴばくだん」で無敵を誇るラッキーを引き連れる少女。ラッキーと一緒に戦っていると「しあわせ」だと感じる
     承:妹分の少女もラッキーを連れているのだが、そのラッキーは正反対の技である「タマゴうみ」を使う。妹分のラッキーは「しあわせ」そうだった
     転:悩んだ少女がラッキーにとっての「しあわせ」を考え、「タマゴばくだん」を忘れさせようとする。そして、自分も変わろうと考える。だが……
     結:やはりあるがままが一番「しあわせ」なのだということに気付き、今日も元気に相手ポケモンを容赦なく爆撃するのであった

    -------------------------------------------------------------------------

    人間のトレーナーがいたりタイトルが違ったりしていますが、大筋の方向は見えていた模様。
    ちなみに、よく見ると人間の名前が完成稿で登場する主人公のラッキーにリサイクルされている。


      [No.1823] Re: あれれー? 投稿者:みなみ   投稿日:2011/09/02(Fri) 06:00:42     51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    アレレ〜?
    ドコデシタッケ〜?


    名前はそれ以上言ったらみねうち×40ですよ☆

    冗談はそれくらいにして、ご存じの通り最近荒らしがひどくなってきたので移民してきたわけです。
    まあ、またどこかへ流れてしまう可能性大ですが(汗
    え、URL?(滝汗

    ………絶対零度ぉっ!


      [No.1738] そして帰って来たのは 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/08/11(Thu) 21:11:56     65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     シキジカを呼ぶ。夏の体毛は、森と解け合ってやや見にくい。ご飯の用意ができたと。そしてキャンピングカーのドアを開ける。いつもは森の景色が見えるのに、今日は違った。たまに遊びに来てくれる子でもない。見た事もない人間。
    「麗しいお方……」
    「えーと?」
    「俺は池月と申します!こんな鬱蒼とした森とキャンピングカーは貴方に似合わない!俺と一緒に世界へ飛び出しましょう!」
    「えーと?」
     手を取ろうとする。さわられたらまずい。イリュージョンで人間になっていることがバレてしまう。思わず一歩しりぞく。
    「そんな警戒しなくても!俺は誠実な男です!貴方ほど麗しいお方のもふもふ……じゃなかった、御手に触れたとしても、けがすことはありません!」
    「私はここで待つ人がいます。人間とは暮らせません」
    「そんな!貴方の好物だと聞いたヒメリパイも持って来たのです!ぜひ食べてください!」
     誰が好物だと言ったのかは知らないけれど、その男が持って来た包みにはヒメリのパイ。作ってみたりしているけれど、他の人が作ったのを見るのはさらに食欲が増す。
    「……仕方ない、狭いけど入って。シキジカ!ご飯!!!」
     シキジカが入ってくる。そして男を見上げると、誰、と聞いた来た。男に聞こえない小さな声で「知らないけど、池月っていうここから出て行こうっていう変な男」とシキジカに言う。
    「でも珍しいね、人間をキャンピングカーに入れるなんて」
    「仕方ない。今日のご飯はオレン漬けだけど、シキジカもヒメリパイ食べる?」
    「食べる!」
     食卓は一人分。仕方ないので、その辺にあった段ボールを椅子に、パイを切り分け、オレンのワイン漬けを出す。そして男の方を見ると、うっとりとした顔でこちらを見ている。本当に目的がこちらなのだろう。
    「こんな狭いキャンピングカーでいいのですか?貴方にはもっと広い世界が……」
    「ですから私には待つ人がいます。その人が帰ってくるまでここは離れることが出来ません」
    「心に決めた人がいると……では、今からその人を俺に変えませんか!?後悔はさせません!」
    「ですから……」
    「いいのです!すぐに決めなくても!俺に人生あずける覚悟というのは、相当なものでしょう!」
    「いやだから……」
    「貴方のもふもふ……じゃなかった、素敵な胸に埋もれたい!!!」
    「聞いてんのかこの色男!!!」
     思わず食卓を越えて悪の波動を撃ち放つ。その波動が、男を直撃する。人間にはかなり効くはずだ。黙らせるくらいはできるはず。
     そして目を疑う。
    「ぞろ、あーく?」
     そこにいたのは、イリュージョンがとけたゾロアーク。自分と違うのは、頭から背中にかけて生える警戒色が、赤ではなく、青いこと。そして少し黒い毛皮も茶色いこと。
    「同じくイリュージョンでくどいてみましたが、俺は諦めませんからね!!!」
     素早い。キャンピングカーの入り口からさーっと出ていった。何がしたかったのか解らず、とりあえず去ってく後ろ姿を見送る。
    「……仲間だったんじゃないの?」
     シキジカは聞く。
    「確かにそうなんだけど、あれはなんか違うような……」
    「いいの?せっかく仲間がいたのに」
    「よくない、かな?」
    「よくないよ。留守番してるからいってきなよ!」
     とりあえず匂いを追って青ゾロアークの後を追う。まだこの辺りにいるはずだ。特徴的な青い毛はすぐに解るはず。そして。
    「麗しいお方!追いかけて来てくれたのですね!!」
     もうすでにイリュージョンがとけてる。それに、最初からゾロアークだと解ってきていた節もある。
    「追いかけてないけど、貴方誰?」
    「俺は池月です!」
    「そこじゃなくて、何の用?」
    「貴方と一緒にもふもふな世界を作りたいのです!!貴方のそのもふもふな毛皮ならば、見事なもふもふパラダイスが作れます!」
    「もふもふパラダイス?」
     そういえば聞いたことあるような。この世にはもふもふパラダイスという美しい毛並みをもったポケモンたちが集う場所があると。ゾロアだった時に、そこにいくの?と冗談まじりに聞かれた。
    「遠いんでしょう?私はここから離れない」
    「そんなことありません!常にこの池月が迎えに来て送りにきましょう!いざ、貴方の漆黒なもふもふを!!」
    「……私にはシキジカもいるし、勝手にはなれるわけにはいかない」
    「そんな!俺には貴方しか見えない!貴方こそそのような楽園に行くべきゾロアークだ!すぐにでなくてもいい、明日も来ます!ぜひいいお返事を!!」
     そういって池月は消えて行く。気配は完全に消えた。仕方ないとキャンピングカーまで帰る。
    「おかえり!あれ?どうしたの?楽しそうだね」
    「え?そう?」
    「うん、とっても楽しそう。何か良い事あった?」
    「内緒」
     そういってヒメリパイをたいらげた。自分で作るのとは違って、ふんわりとした甘みが口に広がった。

    ーーーーーーーーーーーーーーー
    【もふパラ】
    イッシュに来た池月くん、迷いの森のお姉さんを口説いてます。
    私の世界は、細々つながっているので、解りにくいところありますが、そこはご容赦ください。

    【好きにしていいのよ】【初恋は青ゾロアーク】


      [No.1655] 奇妙なカフェの一日 投稿者:紀成   投稿日:2011/07/28(Thu) 17:26:15     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    「おはようございます、ユエさん!」
    「おはようございまーす」
    「…」

    「Ms,ユエ。今日もメラルバをよろしくお願いします」
    「…」

    「マスター!今からプール行くの!遊園地に巨大プールが出来たんだよ!」
    「…」

    「マスター聞いて聞いて!昨日のアニメでクラスタが大爆発したの!あとね、先輩の言ってた台詞の意味がやっと分かったの!」
    「…意味が分からないわよ」

    「あー、暑いな。ユエちゃん、キュレムゼクロム一つ」
    「俺はキュレムレシラムで」
    「…」

    「ユエ、なんか、変だ」
    「…」


    ユエが全く喋らない。たまに話すことがあっても、もにょもにょとしか喋らない。おかげで何度も聞き直すハメになる。
    おまけに落ち着きがない。少し頬を触ってみて顔をしかめ、ため息をつく時も鼻から。そして表情が暗い。
    そんなのが一日中続いていた。

    「あの…マスター、何かあったんですか?」
    「…」

    ユエがおもむろにカウンター下からメモ帳とペンを出した。サラサラと書く光景を皆がジッと見守る。てっきり筆談マスターにでもなるかと思いきや…
    「ん」
    ユエが見せたメモ帳に書かれた一文。

    『親知らず 抜いた直後で 喋れない』
    「…」

    今日もGEK1994は平和だった。

    ――――――――――
    前々から温めていたネタ。くだらねえww
    ちなみにクラスタ大爆発はツイッターで検索を。


      [No.1574] 日常に! 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/09(Sat) 16:13:00     57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    夏休み最後の日は、宿題を埋めるための日でございますな人にはちょっと解らないです!
    ですが、夏休みが終わってしまうあのなんともいえないがっかり感は解ります。
    大学の時に夏休みが2ヶ月あった時、次の授業がもう嫌になったのは毎年のこと。


      [No.1493] コンサートホール 投稿者:風間深織   投稿日:2011/07/07(Thu) 03:11:04     67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     毎週金曜あの時間、彼女はあそこに現れる。響き渡る空気の振動、少し切ないあのメロディ。波の上でひたすら歌うその姿は、まるで誰かを待っているようだった。


    たったひとりのコンサートホールに、ふさわしい観客を…


    -----+*-----+*-----+*-----+*-----
    百文字作品に便乗。多分百文字です…自信ない。こんなん作ってるくらいなら勉強しろよ自分…


      [No.1412] 今でも様々な説を見かける 投稿者:キトラ   投稿日:2011/07/05(Tue) 19:17:15     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    1、最初に決めた相手以外とはタマゴを作らない
    2、人間の手では繁殖させることは出来ない


    ニドクインの説明では、子供を巣から守ると書いてあるので、いるはずなのですよね。
    金銀発売から今までの、ポケモンの七不思議です。


      [No.1331] Re: 君の長さは地下百キロ■感想です■ 投稿者:スウ   投稿日:2011/06/16(Thu) 23:32:42     48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    はじめまして。想像力が刺激されてめちゃくちゃ面白いです。ダグトリオのことでこんなに考えたことは今までありませんでしたね。

    >「ハイスピードカメラで映しても、爪らしきもの影も形も見えない。テッカニンも真っ青のスピードだ」

    この箇所が一番傑作でした。
    こいつらのきりさくには、なにか、スピード以外の要因でもあるのでしょうか……?


      [No.1249] 心の多面鏡(別名 ココロさがし) 投稿者:スズメ   投稿日:2011/05/30(Mon) 00:13:15     35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    鏡よ鏡よ、鏡さん?
    きれいなのはボク? それともキミ?

     見つめ合うのは二組の目。

     鏡のようにそっくりで、それなのに鏡じゃないんだ。


     ボクの目のまえには、赤いキミ。ふわふわの耳が、ちょこちょこゆれている。
    ボクらの家、街にちょっと近い森の中にある、ボクらの場所。
    ついさっき、通りがかったジグザグマさんがこう言った。

     まるで鏡のよう。

    ボクは、鏡じゃないから、キミが鏡?
    だけれどけれど、キミから見たら、ボクが鏡?
    自分は自分で見れないから、キミとボクの手を見比べてみよう。
    キミは赤。ボクは青。
    形はそっくり、違うのは色。
    あえて言うなら、ほっぺたの形も、手の大きさもちょっとずつ違ってはいるはずだけど。
    お互いに手のひらを合わせてみれば、ボクの手のほうがほんの少し大きいんだ。
    そっくりに見える、ボクらは二人。
    キミは鏡? ボクが鏡?
    だけれどけれど、手の色は違うんだ。大きさだって、少しだけでも、それでも違う。
    ちょっとずつ、違っているから、同じじゃないだろう?
    だからだから、ボクらはきっと違うんだ。
    「鏡のように」は、例えばの話なんだから。
    何でキミは、この話になるとそんなに神経質になるんだい?




     うつむく私の耳は赤。
    私達の家には、ふかふか落ち葉のじゅうたんが敷かれているの。
    じゅうたんの上に転がるのは、オレンのみ。
    ジグザグマさんが置いていった、木の実と言葉。

     気が付いたときには、一緒にいた。
    周りの人には「そっくりさんね」といわれてきたの。
    まるで鏡のようにって。
    生まれた場所は違うはずで、生まれたときも違うんでしょう?
    でもでも、確認するには遅すぎて。
    時の掃除屋さんがさっさと、何処かに片付けてしまった。
    私と君は家族の様なものだけれど、双子じゃないのでしょう?
    プラスルとマイナン。
    君は言ったよね、私がプラスルで君がマイナンだって、説明してくれた。
    君が人間の町に殴りこみに行った後、よく分からない資料を持って戻ってきたその時に。
    字は読めなくて、よく分からなかったけれど。
    違うんでしょう、そうでしょう?
    なら、何で……私と君は「鏡のように」そっくりなの?



    「ねえ、私と帽子を交換してみない?」
     
    「ボクらの帽子は取れないよ」

    「何とかして取替えっこできないの?」

    「……きっと、大切なものを失うよ」

    「なら、色を交換してみましょ?」

    「色を交換って、ボクらの服は脱げないよ」

    「ならなら、ペンキで色を変えてみましょ?」
     
    「ボクはあんなもの、大嫌いだし、街に行くなんて許さない。人間は怖いんだ」

    「つまらないの。ならなら、一緒に水たまりを覗き込んでみない?」

    「いいよそれなら。早く行こう? 」


     
     でもでも、水たまりに映ったのは私だけ。
    水の波紋が邪魔して君が見えないの。
    波紋だけじゃない、雲も葉っぱも風も。なんで君を隠しちゃうの?

      
     
     私は君の鏡じゃないの。そうでしょう?
    でも、君のそばに居たら私は鏡のまま?
    誰もが言うの「鏡に映ったみたいにそっくりな双子」って。
    私達は双子じゃないの、なら残るのは鏡だけ?
    わからない、鏡って何?
    水たまりは、鏡の代わりになっているの?
    君は青で、私は赤。
    でもでも、水たまりは君を映してくれなかった。
    私は、何を信じればいいの?
    鏡を探す? どうやって。
    風が、通り過ぎていった。風の中には、こことは違った香りが混じっていた。
    ここにないなら、探しに行けばいいよね?



      

     キミが居なくなった。
    ボクらは双子じゃない。なのに似ている。
    だから言われるんだ「鏡に映ったような」と。
    ボクは鏡? 違うだろう?
    キミは鏡じゃない。鏡は動かないだろう?
    何で分からないんだよ、「鏡」は例えなんだよ。
    ボクは「青」のマイナン。
    キミは「赤」のプラスル。
    「マイナス」と「プラス」は違うんだ。
    生まれも時もどっかに消えた。 在るのは今。
    君がいなくなったとたん、ラクライがボクらの家に押し入った。
    一人だけではどうしようもなくて、飛ばされて叩きつけられて。
    ボクもキミも、一人では非力なんだ。だけれど、二人だったら強くなれる。
    似ているけれど違う、そんな二人だから、一緒に居れば、強くなれるんだ。
    意地悪なラクライは、怪我をしたボクを見てにやりと笑った。
    ボク一人では、誰にも勝てないんだ。
    このまま、ボクらはこの場所……生きてきた場所を奪われるのか?
    キミは、それでいいの?
    ボクらはこの家を守って、そこで暮らしてきた。
    キミが居なくては、守れない場所。
    これ以上一人で戦ったとしても、ボクは壁に叩きつけられるだけ。
    キミは、どこにいる?



     
     私は言ったの「大嫌い」って。
    君は「青」、私は「赤」。でもでもそっくりなの、私は鏡?
    私は鏡じゃないなりたくない。そんな、知りもしないものになんかなりたくない。
    だから、君を突き放したの「大嫌い」って。君と一緒にいるから、私は鏡になっちゃうのでしょう?
    走るのは草むら、鏡を探して私を見つける。だから走るの。
    キミを突き放したのは夕方。おやすみお日さま、おはようお月さま。
    あすふぁるとという道は固くて、足が少し痛くなってきた。
    でもでも私は止まらないの、止まれないの。
    ねえねえお月さま。あなたはどこにでも居て、その場所からどこでも見ることができるのでしょう?
    鏡って何? 答えを頂戴、お月さま。
    あすふぁるとの横、がさがさ草むらが動いた。
    地面に転がる怠け者さん、あなたは誰の影?


     君は私が突き放した。鏡になりたくなくて。
    私を鏡にする君は「大嫌い」……ううん、違うの。
    私が嫌いなのは私自身。君だって、わざとじゃないはず。
    だから、八つ当たりなんかで、君を突き放すなんて事をしてしまった私が、嫌いなの。
    でもねでもね、私は私が大切なんだよ?
    なんだって、始まるのは自分から。
    私の世界は私が居なきゃ成り立たないの。 だから、だから。
    どうしても、自分以外のものに押し付けたくなる。大切な物を傷つけたくなんてないから。
    閃光が散って、目がくらんだ。何かが迫ってくるのはわかるのに、よけれない。
    柄の悪い「ライボルト」なんかに負けたことはなかったよ。
    いつも、追い返してやったよね。それは、君が居たから。
    私一人じゃ何も出来ない、何もさせてもらえない。
    さよなら地面、私は空を飛んだ。
    私は知ったよ。土の味はとってもまずいんだね。 
    ごめんね君。私が嫌いなのは君じゃなくて……
    ねえねえ君は、来てくれる?
    君は鏡を知っているの? 私を助けてくれる?
    虫がいいのはわかっているの。
    でもでも、君が居ないなんて考えたことがないの、考えられない。
    君もそうなんでしょ? ねえ、青い影となって現れ君。
    火花が散る、てだすけはいつもの通り、お願いね?
    バチバチ光って、電気は影の眠りを覚ましてやるの。
    そうすれば、どんな影だって起きて光ってあたりは明るくなるよ。
    「マイナス」の君、「プラス」の私。そろってはじめて強くなる。
    最初から、君に聞けばよかったんだ。君は、知っていたのでしょう?
     
     昔のこと、思い出したよ?
    君は以前、家出したよね。私を置いて、人間の町へ行っちゃった。
    怒ったよ私。君も今、怒っている? それとも呆れているの?
    君が街を嫌いになったのは、それからだよね。
    あの時も、ライボルトに吹っ飛ばされた。なんだか怒りたくなってきたよ。
    飛んでいったライボルトを、ラクライが数人追っかけていった。
    家に帰ろう、占領されているなら取り戻そう。話はそれから。


     結局、私は鏡を知らない。自分を写すなら、水も同じじゃないの?
    鏡を見るためだけに人間に近付くなんて、馬鹿らしいよね。
    わからないから、自分なりに考えてみた。私が納得できればそれでいい。だから、聞いて?


     私も君もそっくり鏡、そう考えた。
    でもでも、そっくりでも別の鏡なんだよ?
    何でも映す鏡には、いろんなことが映りすぎて何も見えなくなる。
    でもでも、その何処か、君の鏡には私が、私の鏡には君が一緒に映っていた。
    いっぱい邪魔されて見えなくなるときもあるけれど、近くにいる。
    誰だって……一緒に居れば、鏡のように映り込むんだ。
    私の中には君が写って、少し君に似てくるんだ。長く一緒に居れば居るほど。
    だけれどけれど、元の鏡は別のもの。ね
    ふしぎふしぎ、人の中に別の人。
    自分の中に、世界のあらゆる物が。そうでしょう?
    私は鏡、君も鏡。お互いを映す心の多面鏡。

      
     ボクも鏡でキミも鏡。
    キミは難しいことを考えるなあ。
    キミにはボクの中に、キミ自身を見ることが出来るのかい?
    答えは要らない、見つけてみせる。
    ボクに出来る精いっぱいの意地さ。

      

     鏡よ鏡よ鏡さん。
    きれいなのは私? それとも君?

     見つめ合うのは二組の目。
       
     シンクロして動く、二組の耳。
    形はそっくりだけれど、色が違う。

     赤いのが私。青いのが君。

     鏡のようにそっくりで、でもでも違うの。
    私の鏡のなか、やっと見つけた君の姿。そして私の姿。

     水たまりの中には空が映っている。
    お空の鏡には天気が映っている。

     だけれどだけど、私の心の鏡に映るのは君。

     でもでも、僕の心の鏡には君が映っている。

     私達は、あなた達のどんな部分に表れていますか?
      

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    コンテストに一度出させてもらったものです。
    【批評していいのよ】【書いてもいいのよ】【描いてもいいのよ】【文句があったら遠慮なくどうぞ】

      
      
     
     


      
     
      


      [No.1168] とりあえず叫ぶぜ! 投稿者:レイニー   投稿日:2011/05/10(Tue) 11:32:04     65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    というわけで、再掲ラッシュの中、私も叫ばせていただきます。


    ・ピッチさん『俺の彼女はコスプレイヤー』
    チャットの産物らしいですが、カオスチャットを全く感じさせない高クオリティ。そこに痺れる、憧れる!
    是非是非あの温かな恋愛物をもう一度……!


    ・てこさん『たべたい』
    ジュペッタ可愛いよジュペッタ。俺の嫁にしたい。


    ・151ちゃんねる、最強幼馴染の安価スレ
    タイトル&作者名失念で申し訳ない……orz
    しかしながら、あのノリとオチには大爆笑でしたwwwww


    ・むぎごはんさん『トリト丼つくってみた』
    トリト丼発起人として、ぜひ再掲お願いします(土下座)


    いろいろ愛が多すぎて、叫び足りてませんが、とりあえず。
    思いつき次第また叫ぶよ!きっと!


      [No.1082] ホワイトシャペッツクリスマス 投稿者:CoCo   投稿日:2010/12/25(Sat) 23:59:19     106clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    ※先に〔http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/kagebouzu/index.html〕をお読みいただくとまだ安全にたのしめます



     カゲボウズたちは本来夜行性である。夜更けの町をひゅるりらと彷徨い、床につくにもつけぬような恨みつらみを吐き出す人間の家の軒下でその染み出した怨念をいただく。
     その本質は、宿憑きのカゲボウズであっても変わらない。
     集合住宅だというのにカゲボウズたちが騒ぎ出すのは決まって夜中であった。ささやくような衣擦れが部屋中いたるところからするというだけでも十分な安眠妨害だろうが、それに加えてこのボウズどもは、人間の道具で遊ぶのだ。カーテンレールをかしゃんかしゃんやったり、電灯の笠の上に乗っかって埃の雪を降らせたり。テレビをつけると興味を示し寄ってくる数匹のカゲボウズで半分近く占領されるわ、ストーブにあつまってきて熱風を遮るわ、ろくなことがない。

    「おいカゲボウズども!」
     ある夜、ついに宿主の男が切れた。
    「明日が何の日だか知ってんのか、え、知ってんのか? クリスマスだよクリスマス! どっかの聖なる神様の誕生日で神聖な日なんだってよ!」
     投げやりに言う男の口の端から妬みの念が零れ落ちるのを見逃さず、カーテンの裏からタンスの中からカゲボウズが集まってくる。
    「お前ら静かにしてねえと、サンタクロースに浄化されんぞ!」

     とたん、黒坊主たちに衝撃が走った。
     わさわさ わさわさわさ

    (じょうか……だと……)
    (じょうかってなに)
    (うらみのねんをけされて まっしろになることだ)
    (くいあらためてしまうことだ)
    (なん……だと)
    (そんならおれら しろぼうずにされちまうわけか)
    (うわあ)
    (しょぼい)
    (ごーすとぽけもんの そんげんにかかわるな)
    (やばいな)
    (やばすぎる)
    (どくおーたすけてくれー)

     いっせいに黒い波が青年に押し寄せたが、慣れているのか微動だにもしない。
    「せいぜい赤い服着た白髭の爺さん警戒してろ!」
     25日のシフトを彼女持ちの同僚に交換され、「――さんなら代わってくれると思ってました(笑)」とまで言われた恨みをポケモンにまでやつあたりするしがない男は煎餅布団にもぐりこみ、立て付けの悪い雨戸の隙間風に震えながら眠りにつく。
     その悪い夢のおこぼれを肴に、カゲボウズたちはずっとさざなみのごとくさわさわしていた。

    (あかいふくにしろいひげ とな)
    (さんたくろーすとは なんだ?)
    (あぶないものなのか)
    (どくおのくちょうと さらにそのにくしみぐあいからさっするに そうとうきょうあくなそんざいらしいな)
    (きっとぼくらをじょうかする きょうふのだんざいしゃだぜ)

     震えるカゲボウズの一部からティッシュを裂いたような悲鳴があがる。

    (おいおい おくそくでことをかたるのはやめたまえ)

     そこへ現れたのは、賢そうな目つきの一匹。

    (うわさとそうぞうにおどらされると しんじつがくもる。たいせつなのは おおくのじょうほうをえて それをえらび ときにはきりすて そしてかんがえることではないのかね?)
    (やいやいなんだおまえ)
    (くりすます おそるるにたらず。わたしはさんたくろーすのしょうたいにつながるじょうほうのいちぶをにぎっている)
    (おおおっ)

     四畳半がざわめいた。

    (さんたくろーすとは かみさまのつかいでな。よいおこないをしたものに しあわせをはこぶそんざいなのだというぞ)
    (なんてこった)
    (しあわせとな それはちょうきてきにみれば われわれにはまいなすですぞ)
    (いやいや そもそもここいらにすんでいるにんげんが よいおこないをしていたためしがありますか)
    (あるあ……ねーな)
    (どくおはこのあいだ じぶんのあらっているさーないとのあえぎごえで はなぢをながしていたぞ)
    (なんたるふらちな)
    (おんりょうのぽけもんによくにたあのおとこは またみょうなことばかりやっているしな)
    (あっし、あのおとこになべでにこまれたことがありやす)
    (な、なんだってー!)
    (くわれたのか どうだった)
    (へい、それがとんでもなく きれいさっぱり よのなかのしがらみをあらいがなしてしまい うらみぶそくでとべなくなるところでした)
    (じょうか……か)
    (ひいいいいいいい)
    (しかしここまであくぎょうをくりかえしたとすれば さんたくろーすはまず こないとみてよいだろう)
    (なるほど)

     一同、ふう、と一息。

    (とかく くりすますのまちからはうらみがあふれているぞ)
    (なんだと それどこじょうほうだ)
    (はんかがい いくか)
    (おれたるいからどくおでいいや)
    (おれも)
    (さいきん どくおのとりまきふえたな)
    (おまえらゆるんでるぞ そんなんじゃいまにほどけてただのぬのだ)
    (おっさんげんきだなあ)
    (じだいかねえ)

     イブの夜は沈み。
     やがて朝が来る。それはクリスマス、大仰な名前のついたただの平日だ。そう思っている人は意外と多い。
     はしゃぎまわるのは枕元にプレゼントを見つける子供か、記念日にかこつけてデートのタイミングを見つける子供か。

     そんなように世間様を呪ってはカゲボウズのおやつにされる男の部屋へ、朝、少しだけ雪が降った。
    「さむ」
     男は作業着の上にダウンジャケットやらなんやらを着込み、悪態をつきながら出かけていった。

     カゲボウズたちはたいがい眠っていたが、何匹か、夜更かしの常連がそわそわしていた。
     勝手にストーブのスイッチを入れ、火にあぶられるものがあれば、せっせとお湯の栓を捻り暖まろうとするものがいる。

     その中で、ひときわ小さな一匹が、なぜか暖かさとは対極の、結露した冷たい色の窓に向かっていた。
     雨戸の隙間に張られた新聞紙をやぶいて外へ飛び出す。さむい。はあ、と吐き出した小さな吐息が白く染まる。曇天でまるで朝を覆い隠し、見下ろす街灯が点滅しているぐらいだ。隣では自動販売機がじーっと稼動音を鳴らしながら佇んでいる。

     小さなカゲボウズは寒さに震えながら、軒下にくっついた。
     ぷらぷら揺れながら、道路を通りすがる車なんかをみつめている。

     やがてコートを着込んだ女性がひとり、通りかかった。
     茶色の手袋をしたままポケットから財布を取り出して、小銭を取り出す。
     が、指を滑らせたのか、きゃっと一瞬の悲鳴と金属音。コインはコンクリートの地面で跳ねて、自動販売機の下に転がっていってしまった。
     女性はもうおろおろしてしまって、何度も何度も自販機の奈落を覗き込もうと試みていたが、さすがに這いつくばるのは気が引けるようで、そのまま手を突っ込むわけにもいかず、だいぶ難儀していた。

     ぷちボウズが雪とともに舞い降りる。
     女性は神妙な面持ちで突然現れたゴーストを見つめていたが、そいつがごそごそと自販機の底へもぐりこみ、うんとこしょよっこいせと何か引っ張ってくるのを見て、感づいたらしい。じっと見守る。

     やがて五百円玉を咥えたカゲボウズは、重たそうにしながらもふよふよと女性の手元まで浮いてきた。
    「ありがとう」
     女性はにっこりわらった。しかし坊主は首をかしげるばかりである。
     そしてなぜか、もう一度自販機の下まで降りてくると、今度は百円玉をもってきた。
     次は女性が首を捻る。
    「これは私のじゃないから」
     それだけ言って、五百円玉を穴に落とし、コーンポタージュを買うとすたすたと去っていった。

     ぷちボウズは百円玉をみつめている。



     その頃、部屋はちょっとした騒ぎであった。
     なぜなら突然、換気扇から見たことのないポケモンが煙のように侵入してきたからである。
     赤い服に白い髭、黄色い嘴にふくらんだ大きな袋。

    (さんたくろーすだ!)

     カゲボウズたちはいっせいにカーテンの裏へタンスの上へパソコンの後ろへ隠れると、さんたくろーすにプレッシャーの視線を送った。
     いっぽうのさんたくろーすは、部屋の影という影から三角形の光がみつめているというのに気にも留めず、我が物顔で部屋を歩き回る。

    (どうする、さんたくろーすがきちまったぞ)
    (ひがいじょうきょうを かくにん! こちらでんきのうえ、おーるくりあ! ほかで じょうかされたものは?)
    (こちらカーテン! ひがいなし! カゲのすけとカゲよがことさらにいちゃついております!)
    (よし、すみやかにひきはがせ! つぎ!)
    (こちらタンス! いじょうありません! でもいささかかずがおおすぎておっこちそうです!)
    (たえろ! つぎ!)
    (こちらあったかいきかいのうしろ! えまーじぇんしー! なんびきか かたいひもに ひっかかって みうごきがとれません!)
    (なんとかしろ!)

     わいきゃあやってるあいだにも、ぽてっぽてっと歩きつめるさんたくろーすはもう部屋の真ん中です。
     しかも、ごそごそと袋をあさりはじめました。

    (おい、さんたくろーすは なにをはじめようとしているんだ?)
    (おそらく、ぷれぜんとをとりだすのかと)
    (ぷれぜんと……だと……)
    (ひさしくきかなかった ひびきだぜ)
    (もしや どくおをねぎらうつもりなのかもしれません)
    (なんだとぅー)
    (それはまずい)
    (きょうのどくおはことさらにどくどくしくかえってくるんじゃないかとみんながきたいしていたさなか、さんたくろーすの手によってしあわせがもたらされてしまい、おうどうてきかたるしすがはっせい、うらみつらみがうさんむしょうというわけか)
    (なんだあいつ わけわからんことばをつかうぞ)
    (にんげんのざっしをよみすぎたな)
    (わかることばでおk)
    (ともかくあのぷれぜんとをそしせねば)
    (そういん! じゅんびはいいか!)

     掛け声にあちこちから念派があふれる。
     それでようやくさんたくろーすも部屋の異常さに気がついて、あわててきょろきょろしはじめた。

    (かかれぇー!)

     どくおのへやは くろいはどうを つかった!

     と表現しても差し支えないほどの黒いかたまりが、壁から影から隙間からひゅんひゅん飛んできて赤白のポケモンにぶつかった。そいつは翼のような前足で頭をおさえてひたすら耐える。が、ついに脳天に一匹が命中し、ふらふらと倒れこんでしまった。

    (どや!)

     カゲボウズたちは部屋を守った自分たちの栄光にどっと沸いた。

     が、さんたくろーすはしぶとく起き上がった。
     白い羽毛を散らしながら、ぴょこたんと畳の上に立ち上がり、首を振ってくえくえ言う。

    (全く、活きのいいカゲボウズなんてはじめてみたぜ。やっぱり洗濯ってやつの影響かね)

     カゲボウズたちはひっしにおばけのふりをした。
     たちされー、たちされー

    (そんなに頑張らなくてもこいつを置いたらすぐに次の家に行くさ)
     と、さんたくろーすが取り出したのは、小さなプレゼント箱。
    (こいつは、この部屋の主に綺麗にしてもらったポケモンたちの感謝のかたまりなんだ。こいつを置いて帰らないことには運び屋ポケモンの名が廃るってもんでね)

     カゲボウズたちはゆらゆらした。

    (しかしお前らの執念には驚いた。この俺を出し抜いてみせたほうびに、何かお前らにもプレゼントをやりたいところだが、お前らの幸福は主の不幸か。さてどうしたもんかね)

    (べつにどくおはねんじゅうふこうだからいいよ)
     どいつかが言った。

    (じゃあ後のことはなんとやら、とりあえずプレゼントだけ置いてさっさと退散するとしよう。じゃあな小さな悪意ども、メリークリスマス)

     さんたくろーすは窓の隙間に飛び込んで、煙か霧のようにしゅるりと消えてしまった。
     ぽつねんと残ったのは、赤いリボンのプレゼントボックス。



     さて、小さなカゲボウズはというと、冷たい道端で百円玉を必死に持ち上げ、自販機の穴に放り込もうとやっきになっていた。
     よいしょよいしょっと必死に持ち上げ、たまには押しつぶされそうになりながらも顔を真っ赤にして持ち上げて――ついに、がしゃこん。
     押し込めた達成感もままならないまま、ボタンに突撃する。
     さっきの女性が押したのと同じボタン、思いきり押してみたが何もおこらない。本当ならおおきな音がして下の取り出し口にこの透明な壁のむこうのものとおなじものが出てくるはずなのだが。
     なんどもなんどもぶつかるが、いっこうに出てくる気配はない。
     それもそのはず、コーンポタージュは百五十円なのだった。

     あんまりぶつかりすぎて、あたまのさきっぽが折れてしまうかと思われたそのとき。
     突然、ぴろりろぴろりろと音がして、自販機が眩しく光った。
     あまりの眩さにカゲボウズがぎゅっと目を閉じ、そろそろと瞼を持ち上げてみると。
     取り出し口にコーンポタージュが落ちていた。

     きゃいきゃいうれしそうにするちびボウズの後ろを、一羽のデリバードがぽてぽて歩きながら、調子のはずれたクリスマスキャロルをくちずさんでいた。




     つつく

    ***
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評していいのよ】

     なんとも言えない感じですがメリークリスマス。
     最後に毒男サイドを付け足していたらクリスマス中に投稿できなさそうだったので一部完(おい)!

     ぎりぎりなのよー


      [No.997] 素敵な案山子 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/11/30(Tue) 19:54:26     57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    まずノクタスに惚れました。なんてかっこいいノクタス!
    喋り方がいちいち洒落ていて格好良い。ノクタスの声が聞こえてくるようでした。
    演技とはいえ少女を脅したり、と思えば次の場面では必死に命乞いしたりして、憎めない。
    妙に人間臭い陽気なノクタスとお転婆少女。二人の掛け合いも楽しくてなりません。

    愉快な出会いのひとコマ、楽しませていただきました。


      [No.913] お化け記念日 おまけ 投稿者:スズメ   投稿日:2010/11/02(Tue) 21:18:09     71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    11月2日  曇り


     今日は朝から、屋敷の改装を始めた。
     とりあえず、屋根と二階の床をピジョット(手持ち)にふきとばしてもらった。

     「んじゃ、ヒトモシ軍団、そこの瓦礫を燃やしちゃって。」

     今は空っぽの畑の上に積み重なった瓦礫の山に
     ヒトモシ(ランプラー・シャンデラ含む)たちが集まっていく。
     とりあえず、屋根に関してはこれでいいか。


     「な・・・なにやってるんですか!」

     あ、サボリ学生。 今日もサボっているのか。
     見ているんだったら手伝え。

     「じょうだんじゃねーよ・・・。(自分の部屋が壊されそうなのに学校なんか行ってられるか)」

     役に立たないな。(サボリ学生に決定だな)
     あ、そこのロトム。草刈機に入って庭の雑草を刈れ。
     そっちのロトムは洗濯機に入って瓦礫が燃えたころに消火しろ。

     よっぽどお化け記念日に期待しているのか。
     集まったゴーストポケモン達(さらに増えている)は文句も言わずに作業をしている。
     それにしても、何でこんなにお化けばかり集まるのか。
     ボロイからなのか? 屋敷がボロいからなのか・・・?

     
     ギュイーンと騒音を立てながら進むロトムのうしろを追っかけてみると、小さな池を発見。
     へ〜。 うちって池なんかあったんだな。

     「あったんだなって・・・自分の家だろ。」

     ぶつくさ言いながらサボリ学生が後ろについてくる。
     自分の家って言ったって、住み始めたときにはすでにこの状態だったし。

     「・・・・・・。(前の持ち主は誰だったんだよ)」

     
     ぷか

     ・・・?
     池に気泡が・・・魚か?
     魚だったら捕まえて今日の夕飯のおかずにしてしまおうか。


     ぷくくぷか〜バシャ

     「うわああああ?!」

     サボリ学生(めんどいから学生でいいや。・・・本名なんだっけ?)が腰を抜かした。
     なんなんだ・・・ああ。

     また増えたのか。



     池から出てきたのは、プルリルなる船幽霊?みたいなお化け。
     

     ザバア

     あ、なんかでかいのも出てきた。
     進化形だろうか。
     まあ、どっちでもいいか。

     「そこの、あっちで消火を手伝って来い」

     そう言って、瓦礫の方向を指差した。
     ロトムだけだとパワー不足かもしれないし、ちょうど良かった。

     
     どごーん という音がして、地面が揺れた。
     今度は何だ。

     「今度はロボットみたいな奴ですね。」

     あ、学生。 復活したのか、早いな。
     そのロボットみたいな奴って・・・最近発見された奴か?
     ゴーレムっぽいの間違いだろ。

     
     「待っててください、今調べていますから。」

     どこに持っていたんだ、その大きな辞書は。
     あ、なんか飛んでくるぞ。

     
     どかーん。
     こんどは、屋敷の壁の一部が剥がれ落ちた。

     
     「えーーっと・・・たぶんこいつです。 ゴビット?」

     タイプは・・・ゴーストと岩か。 またかよ。
     まあ、力ありそうだし。

     「そこのやつ、そのゴビット、とりあえずお前が崩した壁を直すのを手伝え。」

     ついでに、そこのゴビットのしんかけいみたいなやつもな。
     そういえば、おまえらさっき空を飛んでいたよな・・・よし。
     学生、お前学校まで歩くのがどーたらこーたら言っていただろ。
     こいつに乗っていけば解決だ。

     「は? え・・・こいつ空飛ぶんですか?」

     さっき飛んでたぞ。
     あとで捕まえてみたらどうだ。
     ネイティ、壁を持ち上げるの手伝ってくれ。









     なんだかんだ言いつつも、一応作業は進んでいる。
     ポケモンの力は偉大だな。
     後は雨さえ降らなければ完ぺきだ。
     てるてる坊主でも作ってみるか? ・・・晴れても困るか。


     「・・・こんなんで本当に大丈夫なんですか?」


     まあ、多分なんとかなるだろ。
     心配なのは、新しい木材が足らないということだけだ。
     まあ、一部(大部分)流用すれば何とかなるだろ。
     設計図は一応、知り合い(自称専門家)に書いてもらったし。
     後で本人に来てもらうし(役に立つかはべつとして)。
     
     









     11月 31日  曇りのち晴れ。



     なんか、すごく早く改装(改築)が終わった。


     結果。

     おんぼろぼろお化け屋敷がぼろお化け屋敷になった。
     とりあえず、ましになったというか、雨漏りは無くなった。
     ただし、木材を流用したら、ボロくなってしまった。


     お化け記念日(改装記念日)ということでパーティーを開いたら、
     なぜかミカルゲが増えていた。
     ミカルゲは庭から掘り起こされたらしい。
     
     ミカルゲなんか、どうやったら埋まるんだよ。
     


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     おまけみたいなもの、その後?
     閑話として・・・
     主人公(?)になっている管理人ですが、なんで管理人なんかやっているのかと聞いたところ、
    寝ててもお金が入るからと答えたそうです。
    生活費で足りないところは畑の作物(お化けが作った)売って何とかしたとか・・・おい。

     ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


    タグを付け忘れていました・・・
    【批評していいのよ】【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】【住んでもいいのよ】


      [No.828] 空想の空想を 投稿者:てこ   投稿日:2010/10/24(Sun) 19:49:36     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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    描いてみました

    うろ覚え&やっつけですみません


      [No.478] うらみ鍋つくってみた 投稿者:こはる   投稿日:2010/08/20(Fri) 23:17:17     70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     ある日、ミカルゲ顔の先輩が現れた。
     俺の通う大学でも噂になっている先輩だ。……と思う。これだけインパクトの強い先輩はいない。
     onmyonnと書かれたTシャツを着て、ミカルゲ顔で俺の部屋のドアを叩き続けた。朝早くから。
    「鍋を貸してほしい」
     10分ほどもドアを叩き続けたとは思えないほどさわやかに、ミカルゲ顔に似合わないほどさわやかに言う。鍋を貸して欲しいと、意味不明なお願いをしてきた。
    「いま何時だと」
    「君のとこの鍋は、昔ながらの金色アルミ製シリーズを使っているだろう」
    「まぁ、使ってますけど。いま何時だと」
    「やはり煮物料理は昔ながらの金色アルミ製シリーズに限るんだ。貸してくれ」
    「この暑いのに、煮物」
    「もちろん、完成のあかつきには君にも見せてやろう。だから、昔ながらの金色ア」
    「わかりました。わかりましたから持ってってください」
     音を上げたのは、俺だった。サマヨール寝癖髪をつけたまま、俺は先輩を部屋に招き入れた。愛用のホーホー時計は、午前5時を示している。
     鍋一式は、ワンリキー引越センターの段ボール箱の中にしまったはず。探してみると、段ボールは押し入れの奥に押し込まれていた。よいせと埃をかぶった段ボール箱を引き出した俺は、無難に20cm鍋を取り出す。仁王立ちの先輩に渡そうとすると、「45cm鍋がいい」などという注文が飛んできた。45cm鍋なんて、なにに使うんだ。
    「うん、この色、艶、形。まさにイメージ通りだ。」
    「16とかじゃなくて良いんですか?」
    「45がいい。42でも39でもだめだ」
     よいせと一抱えもある両手鍋を持ってきた俺に、先輩がにこにこと笑った。きっとミカルゲが笑うと、こんな感じだろう。
    「なににつかうんです」
    「君はなぜ昔ながらの金色アル」
    「親父が無言で押しつけてきました」
    「いい親父殿だな」
     45cm鍋なんて、地元の料理会でしかお目にかかったことがない。なにに使うんだ、この先輩は。
    「闇鍋サークルが【地獄鍋】を作った。とても美味かったので、【うらみ鍋】を作ってみようと思う」
    「【地獄鍋】行ったんですか!」
     真夏に密室で火鍋を食うと地獄に行けるという訳の分からん理論を展開し、実行したあげく熱中症でばたばた倒れたため、学生会が中止を宣告したという鍋大会。
     なにげに恐ろしい先輩なのだと感じる俺のよこで、先輩はアルミ鍋をばこばこ叩いている。
    「うん。これなら良いだろう。【うらみ鍋】ができたら、君にも食わせてやろう」
     にこやかな笑顔を残して、午前5時の訪問客は去っていったのだ。45cmのアルミ製両手鍋を抱えて。


     俺が45cm両手鍋を貸してから早7日。先輩が【うらみ鍋】を作っていた。
     45cm両手鍋をたき火にかけ、ぐつぐつと青黒い液体を煮ている。オソロシイ液体の中に浮かぶ、6匹のカゲボウズたち。
    「構内をうろちょろして、うらみつらみを吸わせてきた。七日かけたから、いいダシがでるはずだ」
    「カゲボウズになにしてるんスッ!」
    「君の隣に住んでる男が洗った。あいつはプロだ」
    「あ、キレイなんスね。……じゃなくて、カゲボウズって煮て良いんですか」
    「煮洗いというのもある」
    「色落ちするでしょ」
    「色落ちしたという報告はない」
    「なんでそんなに青黒いんです」
    「オレン汁とウイ汁とシーヤ汁をつかった」
    「全部しぶいのじゃないですか」
    「辛味にはフィラ汁とマトマ汁をいれてある。きっと美味い」
     きっぱり言い切られては、もはやなにも言えない。煮られるカゲボウズたちを見ると、なぜかうっとりしている。やつらにとっては、温泉気分なのかもしれない。
     そのまま煮ることしばし。先輩が両手鍋をたき火からおろした。カゲボウズのつのを掴むと、鍋の外に取り出していく。ふやけたカゲボウズが、ふらふらとある部屋に向かうのを、俺は見た。俺の隣の部屋だ。
     鍋から浅黒い物体を引き出した先輩が、はふはふ良いながら食う。呆然と立ちつくす俺に、先輩が赤黒い物体を差し出した。
    「食うか?」
    「……いえ、遠慮してきます」
     カゲボウズのうらみ入り鍋。あまり食いたいものではない。


    ++++++
    料理番組をみてたら、いつの間にか書いていた。
    よし、削除キーはいれた。いつだって消せる。
    かわいいカゲボウズたちに、コレをぶら下げて良いのだろうか。

    【書いてもいいのよ・描いてもいいのよ】
    【批評してもいいのよ】
    【ぶらさげていいのかしらん】

    【まとめ賛成なのよ】←私が言っても良いのでしょうか?


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