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  [No.1032] 幻影序曲 投稿者:紀成   投稿日:2010/12/13(Mon) 20:27:01   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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昔、一組の幸せな家族がおりました。
父親と母親、それに娘が一人。
小さな家ながらも、慎ましく幸せに暮らしていました。

ところが、ある日のことです。
母親の方の両親がいきなり訪ねて来ました。母親の実家は古くから伝わる由緒正しい家柄で、彼女が結婚する時も大反対されていました。
結局、結婚させてくれなければ縁を切ると言われ、渋々承諾したのですが。
両親はまだ幼い娘を部屋に入れ、ここにいるようにと言いました。
娘は四人の話の内容が分かりませんでした。まだ幼かったためなのか、それとも理解したくなかったのか。
いずれにしろ、両親が娘を出しに来た時には、全てが決まっていたのです。
悲しそうな顔で、両親は娘にこう言いました。

「お前は、今日から御祖父様達の家で暮らすんだ」

後で彼女自身が聞いたことですが、その彼女の母親には、姉がいました。叔母にあたる存在です。
その叔母は妹より先に結婚したのですが、子供を産めない体でした。
だから、妹の子である彼女を迎え入れようと、祖父母は考えたのです。
まだ幼かった彼女には、事情など分かりません。考える暇もないまま、車に乗せられたのです。
外で手を振る両親を見て、彼女は直感しました。

「おとうさんと、おかあさんには、もうにどとあえないんだ」

やがて、車は立派な門の前で止まりました。
和風のとても大きな家です。
驚く彼女に、祖父は言いました。
「今日からここが、お前の家だ」

家には沢山の人がいました。皆整った顔立ちをしています。お母さんに似ている人もいます。
「この人達が、今日からお前の家族だよ」
一人一人の顔を見つめていると、その中にこちらをじっと見ている女の人がいました。
ピンク色の綺麗な着物を着て、撫子の簪をしています。
女の人は、彼女を冷たい目で見ていました。怖い、と彼女は思いました。
「この女の人が、お前のお母さんになるんだよ」

おかあさん。
ということは、答えは一つしかありません。
この人が、叔母にあたる人なのです。

自分の部屋に案内してもらう時、叔母さんは彼女とすれ違い様に言いました。
とても小さい声だったので、普通の人には聞き取れなかったでしょう。
それでも、彼女には聞こえました。はっきりと。
「私に子供さえ産めれば、このカミヤの恥の妹の子を・・あんたを引き取らなくても済んだのに!」

次の日から、厳しい毎日が始まりました。
朝は五時に起きて、水を汲みに行きます。それが終わったら雑巾かけです。長い廊下は、まだ幼い彼女にとっては苦しい物でした。
それが終わったら、召し使いに髪を梳かしてもらいます。その後で朝食。
お母さんにもお父さんにも会えないばかりか、外へ出ることも許されませんでした。
毎日長い廊下を雑巾がけしていましたから、運動不足にはなりませんでしたが。
それだけなら耐えられたでしょう。ですが、彼女にとって一番苦しかったことは、両親に会えないことだけではありませんでした。
何者かが、彼女を殺そうとしてくるのです。食事に薬品を入れたり、夜中に首を締めようとしたり。
いつしか彼女は、信じる者は自分だけになっていきました。
誰かと一緒にいることを嫌い、食事も個室で取ります。時折薬品が入っていたりしましたが、少しずつ口にしていきました。
耐性を付けていったのです。


小学生になった彼女は、ある時『ポケモン』の話を聞きました。
彼らは不思議な生き物で、何十種類、タイプに分かれています。人間の友達はいらないと思っていた彼女ですが、ポケモンがいたら良いと思っていたのは事実でした。
ですが、カミヤはポケモンを嫌っていました。
彼女は反論したら今まで以上に危険な目に遭うと思い、何も口に出しませんでした。


やがて、小学校に入って少しは楽になると思いましたが・・
どうやら『カミヤ』の姓はこの辺りには絶大な影響力を持っているらしく、クラスメイトは彼女をお嬢様扱いして、陰口を叩いたりするのです。
彼女は、だんだん他人を信じないだけでなく、嫌うようになっていきました。


そして、ある日彼女の運命を大きく変える出来事が起きるのです。
それが彼女にとって幸せなことなのかは分かりません。
ですが、彼女はそれを受け入れました。

『それ』を見ていた者は口を揃えてこう言うのです。

「彼女は正に、亡霊の子だ」と。

全ては、

あの日から始まったのでした・・

ーーーーーーー
『ファントムプレリュード』


  [No.1040] 幻影交響曲 投稿者:紀成   投稿日:2010/12/15(Wed) 23:04:33   52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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青菜のおひたしを箸でつまみ、唇まで持っていく。ピリリ、としたような感触でカオリは箸を置いた。
「お嬢様、お気召しませんでしたか?」
お手伝いさんが不安そうに聞いてくる。この人は知らないのだろう。
これに、毒が入っていることを。
「・・すまないけど、他の野菜の付け合わせをもらえる?」
「は、はい!失礼しました」
部屋を出て行ったのを確認して、私は緊張の糸を解いた。この家にいるとどうしても気を抜くことが出来ない。特に、他人といると。
(笑顔を見せたら、付け込まれる)
この家に来てから私は笑わなくなった。学校でもひたすら無表情だ。家柄のことで何か言われても、殴られても。何をされても。
「・・」
私は近くにあった鏡を覗きこんだ。首に細い、赤い跡が残っている。痛くて苦しかった。叫ぶこともできなくて、ひたすら足を動かした。暗い時だったため、誰かは分からない。
今までだってそうだ。街に出れば事故に遭いかけ、食事をすれば毒が入り、寝ている時は首を絞められる。
よく生き延びて来たものだ、と自分でも感心する。ずっと続いてきたせいか、毒には耐性がつき、車をかわすために運動神経が異常に上がった。
ただ、首を絞められるのだけは何も得ていない。感覚がちょっと鋭くなったけど、あんまり意味はない。
一つだけ分かっていることは・・
この家では、自分以外の全てが敵ってことだ。


小学生になってから、時々聞き耳を立てるようになった。お手伝いさんの噂話によれば、私が引き取られた理由は、一つだけ。
跡取りが必要だったのだ。
カミヤの血を途絶えさせないための、跡取りが。

その日の1時間目は、図工だった。小学五年にもなってくると、好きな子同士で固まって席を作る。私は常に一番後ろの席で作業をしていた。
版画ということで、彫刻刀で木の板を削る。お題は、『好きなポケモン』
私は一度もポケモンを持ったことがない。それどころか、カミヤは代々ポケモンを毛嫌いしていたようで、その手のテレビや小説は一切見せない。
言ってはいけないかもしれないけど、私はポケモンと一緒に旅をするのが夢だ。世間では十歳になったら旅をしていいらしいけど、カミヤの家はそれを絶対許さない。理由は分からないけど。
木の板の上に、資料として配られた絵を写して描いていく。ペンでなぞって削っていく。私の描いたのはゴーストタイプばかりだ。
「うわ、ゴーストタイプだ」
後ろからけなすような声がして、私は変な方向に彫刻刀を動かしてしまった。嫌な感触の後、鋭い痛みが体を走る。
ボタリ、と赤い雫が机の上に落ちた。
「カミヤさん!?」
耳をつん裂くような声と共に、先生がすっ飛んできた。後ろにいた生徒の一人を睨むと、私の左手を取った。
「酷い傷・・保健室へ行かないと」
「大丈夫です。一人で行けますから」
「でも」
「大丈夫です」
まだ血が流れる片手をおさえ、私は席を立った。何かが付いて来るのが気配で分かった。

保健室には行かずに、私は水道で血を流した。けっこう深い傷だ。跡になるかもしれないが、別にいい。
そう、そんなことは今はどうでもいい。さっきから、私の後ろに纏わり付いてくる、何か。
「気配は分かってるの。出て来て欲しいな」
独り言のように呟いた。反応はない。私は振り向いた。
・・誰もいない。
「見えてないだけなのか、それとも消えたのか・・」
その時だった。

『ふしぎなにんげん』
『ふしぎなおんな』

聞こえた。
何かの声。冷たくて、体の底からはい上がってくるような。でも聞いていたい、変な感じ。
急に窓に打ち付ける風が強かった。静かな空間に、水道から流れる水の音と、何かの笑い声が響く。

ざわざわざわ
『クスクス』
『わらわないんだ』
『おどろかないんだ』

(見える・・)
私は廊下のすみっこで固まっているポケモン達を見た。紺色のてるてる坊主が沢山と、黒っぽいぬいぐるみも少し。
一度図書館で写真を見たことがある。カゲボウズと、ジュペッタだ。負の感情を食べるという。
私の影から一本の腕が出て来た。何かを掴もうとしていたので私は怪我をしている手でそっと握ってやった。黒い手だ。不気味なはずなのに、温かくて、不思議な感じがした。
血がまた流れ出して、黒い手が赤く染まった。そのまま引っ張り上げると、一匹のポケモンが出て来た。
金色の顔の仮面に、泣き腫らしたような赤い目。そして血涙のように目の下にある模様。
その目が、じっと私を見ていた。
「何で影から出て来たの」
驚かない。驚こうにも、怠くて神経が働かない。
『元々あの家にいたんだ』
「カミヤの?」
『誰も気付かなかったから、皆を見てた。食事に毒を入れたのも、首を絞めようとしたのも、交通事故に遭わせようとしたのも、・・カオリの叔母がやったこと』
感づいていたことだ。今更驚きはしない。
『傷、大丈夫?』
『大丈夫。そのうち止まるから』
ダメだ。眠い・・


次に起きた時、私は自分の部屋で寝ていた。左手が痛い。やはり夢とかそういうものじゃ無かったらしい。
『おきたおきた』
『しにぞこないだー』
嫌な台詞が聞こえて、私は上を見た。カゲボウズが沢山。ゴーストタイプが見えるようになったのも夢じゃ無かったようだ。
「死んで欲しかった?」
左手には包帯が巻かれていた。まだ血が滲んでいる。
『しんでもらっちゃこまる。エサがなくなる』
「エサ?」
『カオリをにくむおんなのねんだー』
思い出した。カゲボウズは負の感情を食べるんだ。この家はいいエサ場になるだろう。
「そういえば、さっきの・・」
『いるよ』
部屋の隅から声がした。
『あの後、人間の一人がカオリを見つけた。血は止まりかけていたから、家に運んだんだ』
「よく殺されなかったな、私」
『流石に教師が心配している前では殺さないさ』
白い布団が目に眩しい。そこで、ふと思いついたことを口に出してみる。
「貴方達、ずっとこの家にいるの?」


話を聞き終えて、私は納得した。
「なるほどね。叔母さまは私の母さんを憎んでいたってわけか」
『だからもともとここはエサがないときのばしょだったんだ』
『ここにはいつもエサがあるからなー』
カゲボウズ達の声を無視して、私は赤目にたずねる。
「ところで、貴方の名前は?」
『デスマス』
不思議な名前だ。
『カオリ、どうする気だ?』
「どういうこと」
『カオリの叔母はカオリを憎んでる。現に殺そうとしてる』
「・・」
『僕達に出来ることならなんだってする』

最初は、何をどうしたいって気持ちはこれっぽっちもなかった。叔母のように犯罪の芽を育てるつもりもなかった。
ただ。

「両親と私を引き離したことは・・許せないんだ」
記憶の片隅に残る優しい声。眠る時聴かせてくれた子守唄。
父さんもよく休日には何処かに連れていってくれたっけ・・
「私がこの家に来ないといけない理由の中には、私のことを考えてなんて一つもなかった。ただ、跡取りがいなかっただけ。
両親が私を手放したこともちょっと恨みたいけど・・やっぱり恨めない。
産みの親であり、短くても育ての親だから」

そう。たとえどんな理由があったとしても、私は両親を恨めない。
恨めるはずがないんだ・・!

カゲボウズ達がユラユラと揺れている。デスマスの赤い目が輝いたように見えた。
鏡を見る。自分が映っているはずなのに、別の何かが映っているように見えた。

「奴らを許すな」
「奴らの好きにはさせない」
「奴らは鬼だ」
「奴らは私を殺そうとしている」

「だったら」

目が赤い。まるで流した血のようだ。

「殺られる前に、殺ってやる」



カオリは、目を覚ました。夢を見ていた。長い夢を。
「・・」
『おはようカオリ』
『おはよー』

カゲボウズ達が天蓋ベッドのカーテンを開けて入って来る。一言返すと、カオリは黒いフリルのついたワンピースをクロゼットから取り出した。
そして、暖炉の側に置いてある厚い本を取り、読みはじめた。

ーーーーーーーー
『ファントムシンフォニー』


  [No.1048] 幻影夜想曲 投稿者:紀成   投稿日:2010/12/19(Sun) 08:38:14   62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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期末試験の時、私はずっと勉強以外のことを考えていた。
勿論、ちゃんと勉強はしていたけど。残り時間、ずっとあることを考えていた。
そっと後ろを見てみると、彼女は机に突っ伏して寝ていた。
成績はわからないけど、きっと真面目な方なのだろう。


図書館で勉強するついでに調べた、カミヤの姓に関する歴史。
かなり古く、二百年前くらいから続く家柄だと言う。それぞれの時代に合った商売と振る舞いをしてきたおかげで、今では五本指に入るほどの財力を持っているらしい。
だが、それが書いてあった本は十年前の物。
それにあった住所の本家に行ってみたが、既に広々とした空き地になっていた。
近くにいた同年代の人間に聞いてみたが、何も教えてはくれなかった。
・・まるで、なにかに怯えているかのように。

私は近くにあった交番のお巡りさんに聞いてみた。カミヤの本家は何処に移動したのか、と。
だが返ってきたのは意外な答えだった。
「カミヤの家?あそこは火事で焼けちゃったんですよー」
「え!?」
お巡りさんは辺りを見回しながら、私にボソッと言った。
「実は、ここだけの話なんですけどね」


カミヤ。漢字で書くと、火の宮。
この家は、二百年以上続く歴史が古い家だという。
最初、火宮の家はこことは違う、地方の広い土地にあったそうだ。様々な商売と動きで瞬く間に大財閥にのし上がったらしい。
だが、家を建てようとした土地には、祠があった。それよりずっと昔、この土地が飢饉に見舞われた時に、何処からともなく現れて村人達を救ってくれた、魔獣を奉った祠が。
当然、そこに住んでいた人々は猛反対したが、火宮の頭領はその土地全体を治める者に大金を送り、祠を壊させるように言ったという。
そうして、人々の反対も虚しく、祠は壊され火宮の屋敷が建てられた。
火宮財閥はそれを皮切りにますます大きくなっていったのだが・・

それは、家が出来てから三年ほど建った時だった。
深夜、突然ドーンという音がした。驚いた人々が表に出てみると、火宮の家の方が赤く染まっている。
火事だ。
近づいて見れば、屋敷が赤い炎に包まれて瞬く間に燃え尽きていくのが見えた。
「魔獣の祟りじゃ」
一人が、そう言った。祠を壊したせいで、魔獣が怒ったのだと。
結局、その火事で当時の火宮の頭領が亡くなった。頭領を失った火宮の生き残りは、その土地から出ていくことを余儀なくされた。
だが、これだけでは終わらなかった。

別の土地に家を建てた後も、再び火事で家と頭領を失い、次もまた・・
それの繰り返しだった。いつしか、火宮は『火の呪いの一族』と呼ばれるようになる。

「ここに来てからは、そんなことは無くなったらしいんですけどね・・」
「というと?」
お巡りさんは真っさらの土地の方を見た。
「また、出たんですよ。祟りが」

・・それは、今から一年前のクリスマス前日だった。
家族と過ごしていたそのお巡りさんは、外が騒がしいことに気付いて表に出た。
そこには、煙と何か焦げるような嫌な臭いが充満していた。
そして、煙が漂って来る方向に・・
火宮の屋敷が、燃えていたのだ。

(小説家の端くれとして、そういう祟りみたいな物に興味はあるけど、流石に現代にはなぁ・・)
学校からの帰り道。期末試験が終わったということで皆浮足立っているが、私には喜べなかった。
話し掛けてくる友達をあしらって、そのまま市立図書館に向かう。
平日の午前中とあって、あまり人はいなかった。近くの机に座って、本を数冊取ってくる。
お巡りさんの最後の言葉が、脳裏に浮かんだ。

「燃え盛る屋敷に行った時には、既に消防隊が消化活動を行っていました。その時、聞こえたんですよ」
「何が?」
「歌ですよ、歌。確か・・」

『幻影の蝋燭は人の命を吸い
青い灯を燈していく

幻影の人形は人に捨てられ
捨てた相手を探しさ迷い歩く

幻影の仮面は醜い姿に変わり果て
過去を思って血涙を流す

幻影の坊主は妬みを食らいつくし
また新しい妬みを求めていく

人も同じなのです』

童謡集を調べてみたけど、そんな歌は載っていなかった。
おそらく、オリジナルだろう。誰が歌ったのかは分からないけど、その火事に重要な何かな気がする。
私はメモを取ると、その図書館を後にした。


冬は日が暮れるのが早い。
私は家への道を急ぐ。息を切らせて走って、角を曲がって・・

ドンッ

「きゃっ」

何かにぶつかった。尻餅をつかないで済んで良かった。
「す、すみませ・・」
「カゲネコミスミさん」
聞き覚えのある声がした。顔を上げる。
焦げ茶色のセミロングに、細いとも丸いとも言えない目。
「カミヤさん!?」
そこには、アンティークのように古めかしいデザインのランプを持った火宮さんが立っていた。

「・・そう、図書館の帰りなんだ」
結局その後は立ち話になった。ランプの火がユラユラと揺れる。
「ちょっと調べたいことがあったから」
「何を?」
言っていいのだろうか。
「あのね、」

隣町で一年前に起きた、火事の事件。

「・・そう」
火宮さんの表情は何も変わらない。怯えることも、驚くことも。
「どうして調べてるの」
「えっ」
冷たい風が吹き付ける。彼女の視線も冷たい気がする。何か、咎められてるわけじゃないんだけど、何もかも見透かされてるような気が。
「しょ、小説の資料にならないかなぁと」
「ふぅん」
また沈黙。気まずい。
「実際に」
「へ」
「実際にあった事件をモデルに小説を書くのは、その事件の被害者や遺族に失礼だと思うよ」
きっぱり綺麗に言われて、私はしばらくフリーズしていた。まさか火宮さんに言われるとは思わなかった。
おかげで反応が少し遅れた。気付いた時には既に彼女の姿は夕闇に紛れて見えなくなっていた。
私は何だか心細くなり、走って家に帰った。


深夜。私は今日写して来た歌を見ていた。かなり意味深だと自分でも思う。幻影という単語が何回も出て来て、不気味な感じもするし。
第一、これかどういう歌なのかが分からない。悪魔の手鞠歌じゃあるまいし。
「・・」
気のせいか、外に吹く北風が強くなってきた気がする。雲一つなく、綺麗な三日月なのに・・


「潮時、かな」
カオリの言葉に、デスカーン達が凍りついた。♀のプルリルが落ち着きなく動きはじめる。ジュペッタは焦り顔になった。
『何があった』
デスカーンが言った。カオリが部屋の壁を見る。白い半分だけのマスク。オペラ、『オペラ座の怪人』でファントムが付けていた物と同じデザインだ。
「・・クラスメイトで小説家の子が、隣町で起きた一年前の火事を調べてる」
『また家を替えるつもりか』
白い仮面を手に取り、右目に付ける。不気味な雰囲気が醸し出される。
「ずっと表舞台には出なかった。噂だけで人を震えさせる、そうやって火宮のことを調べさせないようにしていた」
仮面を外し、床に置く。
「いつか、火宮の真相が分かる時が来る」
『カオリがファントムだとしたら、私達のポジションが無くなるぞ』
「私はヒロインの歌姫じゃない。勿論、ラルフでもない。表舞台にはいざという時しか出て来ない、ファントム」
影とか幻影という意味だ。裏の世界で動く者。
「デスカーン達はこれ。右目の仮面。私の正体を隠してくれるから」


あれは、静かな夜だった。
こっそり部屋を出て、私服に着替えて家の門から道に出た。
ゆっくり深呼吸し、吐く。
パチン、と指を鳴らした。
一瞬の間を置いてー

四方向から一斉に、赤い炎が上がった。

確かに、静かな夜だった。
全てを無に返した、焼き尽くした夜だった。
ーーーーーーー
『ファントムノクターン』


  [No.1051] 幻影十四行詩 投稿者:紀成   投稿日:2010/12/21(Tue) 19:41:43   42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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一、光が強い場所では、幻影もその存在をより濃くする

ニ、光なき場所に追われた幻影は、自らが流す血で熔けて消えるか

三、幻影が何故希望と絶望を両方与えたがる

四、幻影だって表舞台に出ずに生きられるわけじゃない

五、光の中にいたとしても、影という自分の本当の姿を知ることなど不可能に近いこと

六、幻として人前に出た瞬間が相手に希望を与えることもある

七、幻として表舞台に出る状況を見極めないと、一生光の中に出ることが出来なくなる

八、幻影が愛する薔薇は敵に焦がされるか

九、自分の愛を守るために幻影は剣を取れるか

十、仮面を剥がされた幻影は何も言わずに自ら死を選ぶ

十一、幻影は過去にも未来にも縛られてはいけない

十二、幻影は人前で涙を流さず、また泣いてもいけない

十三、幻は幻のままであることを願う


十四、幻影は人を愛することはできない


ーーーーーーー
『ファントムソネット』


  [No.1066] Re: 幻影十四行詩 投稿者:スズメ   投稿日:2010/12/24(Fri) 20:16:20   32clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 これは・・・掟みたいなものなんでしょうか?
 それとも・・・?

 十一、幻影は過去にも未来にも縛られてはいけない

  過去にも未来にもってことは、一人の人物としてではなく幻影として存在するということ・・・?

三、幻影が何故希望と絶望を両方与えたがる

 この部分は自問自答にも見える気が・・・幻影は一人じゃなくてたくさん集まって幻影と化しているということ・・・?

 簡潔なのに、深い意味とかがこめてある話だと感じられます・・・


  [No.1099] 幻影幻想曲 投稿者:紀成   投稿日:2010/12/27(Mon) 14:02:45   33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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真冬、しかも聖夜の闇の中に映し出される家。
紅い炎に綺麗に包まれていく。
(今までありがとう、なんて)

全く思いもしなかった。早く消えて無くなってしまえばいいと思った。


カオリの部屋には、等身大の鏡がある。時々そこに立って、目を凝らすのだ。
やぶれたせかいへの、扉が開かないかと。
「あっちの世界は、どんな生き物が住んでいるんだろうね」
カーテンを開けると、冬独特の日差しが部屋に入って来て、暫く窓を明けていないことを思い出す。
そして、ヨノワールのことも。
彼とは二ヶ月近く会っていない。冷たく凍りつくような寒波のせいで、魂の回収が間に合っていないのだろうか。
貧富の差が激しいこの世界。自分はおそらく富のポジションだったのだろう。火宮の家は広く、数年住んだ自分でも分からない部屋が沢山あった。
御祖父様、御祖母様、自分の母となった叔母様。その他にも沢山の人間が住んでいたが、思い出せない。
いや、覚えていないの間違いかもしれない。だって、あの晩に自分以外全て一緒くたになったから。

ただの、醜い物に。

『とんでもない事を考えているな』
後ろから肩を叩かれて、カオリは我に返った。
「あの日にああしなければ、逆に自分が危なかった」
『重すぎたか』
「全く。逆に軽いくらい」
デスカーンは心の中で思い返していた。
あれから、一年近く経つ。ただの失火と警察では判断されたが、本当は・・
「私は自分の夢を叶えたかっただけなんだ。それなのに皆邪魔した」
夢は人を盲目にさせる。
「だから、全部一緒くたにした」

私達とカオリがやったことだ。
当初、警察も少しはカオリに疑いの目を向けたが四方向から同じ時間に火を出すことは時限爆弾でもないと限りなく不可能に近いため、結局失火による火事にまとめられた。
「そろそろ進展がある気がする」
『何がだ』
「ギラティナに会うシナリオが、始まる」


『・・その通りだ』


後ろから突然声がして、カオリは振り返った。気配を感じなかった。ゴーストタイプか。
カオリが、その名前を呼んだ。
「ヨノワール」
『今は、モルテと呼んでくれ』
モルテは柄に合わない態度だった。何か言わなくてはならないような、でも言いたくないような事を閉じ込めている感じだ。
「久しぶりだね」
『ああ。二ヶ月ぶりくらいか』
「自ら私の家に来るって無かったよね」
『・・・』
背後にいたデスカーン達は嫌な予感がしていた。いざとなったらモルテを攻撃するつもりで、戦闘態勢になっていた。
「で、用件は?」
『カオリ・・』

いつかは話さなくてはならないと思っていた。そうしなくては、カオリ自身も自分自身も両方報われない結末が待っていることになるからだ。
だが。

『私は・・』

言ったとしても、どちらかにはバッドエンドが訪れるのは決まっていた。

『ギラティナの、使いだ』

一分。ニ分。三分。普通なら短い時間だろう。だが後ろにいるデスカーン達と、返事を待つモルテには永遠に続くように思えるくらい長い時間だった。
「・・で?」
『は?』
カオリは肩を竦めた。
「質問してるのはこっちなんだけど」
『分かった。もう一つ付け加える』

考えれば分かることだ。
ギラティナは魂を冥界に送る仕事をしている。
その存在に会うということは、

『ギラティナに会うには・・死ぬ方法しか無いんだ』


・・今、こいつは何と言った?
死ぬしか無い?
夢を叶えるために、カオリは死ぬのか?

『ふざけるなっ!』
デスカーンが叫んだ。カオリの鼓膜がビリビリと震える。
『死ぬことで叶える夢なんて夢なんかじゃない!
ただの自己満足』
「黙れよ」
カオリが口を開いた。冷たい、凍てつくような声が全員の神経を震わせた。
「モルテ、それを私に言いに来たってことは・・
連れて行ってくれるんだよね?」
大きな手を取る。
「ねぇ?」
有無を言わさない口調。自分の死よりも、夢を叶えることを選ぶ・・
そういう意思が見て取れた。
『カオリ、私はお前を連れていくことは出来ない』
「・・どういうこと」
モルテの手がカオリの両肩を抱いた。
『死んで欲しく無いんだ』

暫くの沈黙。カオリはキョトンとしている。
不意に。
「・・はは」
カオリが笑い出した。
「モルテも私の夢を壊すつもりなんだね・・」
『さっきデスカーンが言った通りだ。死を持ってしてまで叶える夢なんて、夢じゃない』
「知らないよ」
冷たく言い放つ。モルテに抱きついた。
「この物語に幸せな終わりなんて誰も望んでないんだ。私の夢を壊すことが幸せな終わりになるの?」
『・・』
「答えてよ」

まるで駄々っ子だ、とモルテは思った。大人びているかと思いきや、玩具を奪われた子供の如く振る舞う。
カオリにとって、夢を叶えることは自分の存在意義だったのだろう。だからモルテに対して挑発的な態度を取っている。
(所詮はまだ子供、か)
そんな彼女を愛おしく思ったのもまた事実だ。そして、死んで欲しく無いと思ったのも、事実だ。
『夢を叶えられれば、死んでも構わないというんだな』
「そうだよ」
『では、反対に聞く』


『お前は何故・・震えている?』

モルテの胴体に抱きついたままのカオリの体は、震えていた。
「武者震いだよ」
『こんな状況で震えるのは武者震いとは言わない。
ただの拒絶反応だ』
カオリの体がピクッと反応した。そっと体から引き離す。
両目に、涙が溜まっていた。
「何だよ、」
『誰も幸せな終わりを望んでいないと言ったな。私からも言わせてもらう。


お前が夢を叶える代わりに死ぬことなんて、誰も望んでいない』

カオリは目尻に涙を溜めていたが、流しはしなかった。
幻影は泣かない。
あの日、家を燃やしてからずっと定めていた掟だ。
戻らない。戻れない。
それでも姓を火宮のままにしたのには、まだ甘かったのかもしれない。
自ら死にたいなんて思ったことは無かった。火宮の人間のことはどうでもよかった。ただ、両親の分まで生きようと思った。
「・・」
私が夢を叶えるために死んだら、あの二人はどんな顔をするだろうか。
見たくはない。
ただ、火宮の人間が生きていたら、見てみたい気もする。
醜く歪んだ、鬼の顔。

そこでまた、私はあの時と同じことをしただろう。
皆、同じ塊に・・

『カオリ』
『マスター』
後ろでゴーストタイプ達の声がする。焦っている様子は感じられない。
「モルテ」
『・・』


「私は、私の道を行く」



また、静かな夜がやってこようとしていた。
ただ、かつての静けさとは少し違った。
念、怨み、妬み、復讐。
そんな物はどこにもなく。

ただ、希望と絶望の色が半分ずつ混ざり合った。
そんな夜だった。

ーーーーーーー
『ファントムファンタジア』


  [No.1110] 幻影鎮魂歌 投稿者:紀成   投稿日:2010/12/30(Thu) 19:42:12   27clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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ただ一人、道を行く
小さき者に、灯りを。

(影猫弥恭 著 『幻影人 』より)


原稿が進まない時は、散歩をする・・ってことは、前にも言った気がする。
バシャーモとダストダスを連れて、ひたすら街を歩く。
その日は締切前だったけど、部屋に篭ってネタが出ないのでは、しょうがない。
深夜零時近かったけど、私は家を出た。真冬の冷たい風が、体に吹き付けてくる。私は着ていたコートのチャック首まで上げた。
冬休みに入ってからは、火宮の家のことはあまり調べていない。というのも、年末ということで、ある雑誌に書いているコラムの締切に追われているのだ。
寝る間も惜しんで、とは正にこのことだ。おかげでクリスマスもケーキを食べるだけで、夜景すら見られなかった。ちょっと悲しかったが、作家として書き続けることが大切だと考え、耐える。
「恋人いなくても、出かけられなくても、私はクリスマス楽しいわよ・・」
「・・」
同じ境遇にあるミコトに言ったら、冷たい目で見られ、こう言われた。
「僕、クリスマスは家族と過ごす物だと思ってるから。恋人やプレゼントなんて、この国だけだよ」
そういうミコトも、そのサバサバしすぎた性格のせいで、この前彼氏いない歴十六年を更新した。
本人は全く気にせず、平気でこんなことを言う。
「将来は、鰐ポケモンに囲まれて暮らしたいな」
唯一のエスパータイプ、ランクルスの立場はどうなるのだろうか。


ブーッ ブーッ

「!」
ジャンパースカートのポケットに入れた携帯が鳴っている。夜の闇に白いディスプレイが映える。
ミドリちゃんからだった。こんな時間に何だろう。
「はい」
『・・ミスミ先輩』
どことなく落ち着きが無い。ミドリちゃんらしくない。
「どーしたのよ」
『火宮先輩の、』

続く言葉に、私は携帯を落としそうになった。

『火宮の家が、燃えてるんです』

バシャーモにおぶってもらい、火宮さんの家に向かった。近付くにつれて、何かが焼けるような異臭いがしてくる。
あの後、一時停止した私に、ミドリちゃんが一気にまくし立てた。
『さっき、夜食の買い出しに行った帰りに火宮先輩の家の近くを通ったんです。って言っても、遠目からだったんですけど。
・・そしたら』

午後九時くらいといえば、とっくに夕日は沈み、星が瞬き出している頃だ。
寒がりのツタージャをジャケットの中に入れ、夜道を歩いていたミドリの目の横に、何か赤っぽい物が映った。
不思議に思ってよくよく見てみると、

空が紅色に染まっていた。まるで世界の終わりの情景のように。

「ミドリちゃん!?」
現場は既に野次馬と消防団、警察でざわついていた。誰もが炎に包まれた館を興奮した目で見つめている。
野次馬の中からミドリを見つけると、ミスミは駆け寄った。
「先輩」
「ここが火宮の家って・・知ってたの?」
ミドリは頷いた。
「この前誕生日を祝ってもらったんです。この家で」
ミスミはあのカオリが他人の誕生日を祝っているシーンを頭に浮かべようとしたが、無理だった。いや、それ以前にミドリの誕生日すら知らなかった。
「どんな感じだったの」
「え、普通に・・。ケーキ作ったって言ってて、凄く美味しかったですよ」
彼女が料理をするのだろうか。疑いの目を向けたかったが、ミドリは嘘をつくような人間じゃない。
「別に変わったことはありませんでしたがねぇ」
「いや、それ以前に」
カオリが脱出できているのか。
知りたいことは、それだけだ。


数時間前ー

「モルテ、私の話を少し聞いてもらえるかな」
いつもの黒いフリルが付いたワンピースではなく、 チェーンがついた黒いパンツと、同じく黒のジャケットに着替えたカオリが言った。
「私の両親は、私が火宮に養子に入ってから五年後に亡くなった。理由は聞かされてないけど・・心労だと思う」
話が続いている。
「火宮にいた頃はポケモン・・デスカーン達が側にいたり、夢を叶えたい、欲しいなんて考えたことも無かった。家柄が家柄だったし、何より自分が生きるので精一杯だったから」
カオリがジャケットのポケットを探り、硝子の破片を取り出した。鋭い方をモルテに向け、そのまま弾く。
もちろん、簡単に避けるモルテ。しかしー
破片はブーメランのように戻って来て、モルテの手に当たる部分を少し切り裂いた。
破片は真っ直ぐカオリの元へ着地する。
『・・見事な物だな』
「火宮の家には、本倉庫があったんだ。西洋、東洋、ジャンルも沢山あったよ。
こういう、隠し武器による暗殺術もね。そこから学んだんだ」
『ふつうにたたかえば、カオリはキライなやつをこらしめることだってできたんだー』
『できたんだー』
カゲボウズ達がまくし立てる。
「でも、しなかった。流石に当時家が無いのは苦しい物があったからね」
淡々と、でもハッキリ語る。その胸中が、モルテには分からなかった。
何となく分かった気になっていた、の方がいいかもしれない。同じようなポジションの人間。
そうとしか思っていなかったのが事実だ。
「その日をクリスマスイヴの日にしたのには、何も理由は無いよ。ただやるならこの日かと思って」
火宮。火の宮。
代々伝えられてきた呪いの通りに、家に火を放った。
それが、最初で最後の火宮家への復讐だ。

「私は何にも縛られない。火宮の名前を捨てて、ただの『カオリ』という一人の旅人になる」
『どうするつもりだ』
「ついて来たいなら、ついて来ればいい」
デスカーン達がカオリの周りに集まった。
『私達はついて行く。カオリが望むなら、地獄まで』
「死んだ後に行く場所は地獄オンリーじゃないんだけどね」
暖炉にはもう火は入っていない。

「一年前と同じだ。全てを灰にしろ」


火は約二時間で消えた。これから警察が現場検証をするらしい。
「この状態じゃ、元々ここに人が住んでいたかどうかも分からないかもしれませんね」
「そうね」
「火宮先輩・・」
家は辛うじて形が残っている状態だった。どうやったらここまで強く燃やせるんだろう。
(どんなことに巻き込まれても死なないような気がする・・)
彼女がどんな気持ちで今まで生きていたのかは、分からない。
ただ、火宮の人間として生きなくてはならなかった悔しさ、人生の十年以上を自分で決められなかった腹立たしさは分かる気がする。
もし、その気持ちのためにこれを自ら起こしたとしたら・・。
「・・火宮さんは、もうここには戻って来ないんじゃないかな」
「へ?」
「まだ分からないけどね」
黒く焦げた家は、主がいなくなった寂しい雰囲気を醸し出していた。


『学校には私から連絡しておこう。ちょっとした騒ぎになるかもしれないが、顔は割れていない。
・・特に問題は無いだろう』
「ありがとう」
カオリは手に持った白い仮面を見た。これだけは燃やさずに、持って来たのだ。
『これからどうするつもりだ』
「・・行く当ても無い旅をするよ。ここには戻って来ない」
『そうか』
朝日が昇って来た。冬の時期特有の、遅い朝日だ。
「でも、またいつかモルテとは会ってしまうんだろうね」
『嫌か?』
「・・」
遠い目で道の向こうを見た。
「それが、運命なのかもしれない。火の宮の跡を継ぐ者として生まれて、幻として生きなくてはならなくなった者のー」


ファントムガール、塀の上。
ファントムガール、落っこちた。

王様も、お妃様も、捨てられたぬいぐるみも、誰も彼女を戻そうとしない。

彼等も一緒に、落っこちた。

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『ファントムレクイエム』