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  [No.1057] 黒いクリスマス 投稿者:スズメ   投稿日:2010/12/23(Thu) 22:25:13   46clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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  それは、空から降ってきた。
  ふわふわ・・・そしてひらひら。


  天気予報では曇りだって言っていたのにな。
  まあ、外れてくれてうれしいかもしれない。
  何年ぶりだろうか。 


  白い聖夜 通称、ホワイトクリスマス 




  
   窓から見上げる空は、灰色の雲が覆っている。 
  その上には明るいお日さまと空があるって事は理解している・・・が、
  理解するのと信じるのは別だと思う。 こんな曇りの日に雲の上だけはさんさんと
  いいお天気だなんて・・・うらやましすぎる。

   ピュウと通った風に身をすくませてみれば、その風はもう一回とばかりに追い討ちをかけてきた。
  せめて晴れだったら、日差しぐらいはあったかいだろうに。
  まったく、これでは風邪をひいてしまうとぐちを言いつつ洗濯物をベランダの手すりに引っ掛けて、
  寒い寒いと言いながら戻った部屋には丸まった背中が見え隠れしていた。
  もぞもぞとうごめいている。

 「あ・・・こらー盗み食い禁止! さっきご飯食べたばかりだろーが!」

   丸い背中をポケモンフードの袋から引っこ抜くと、しまったとばかりに細い目をさらに細くして
  そいつは手足をばたばたさせていた。

   そいつ=ヒノアラシ。 一般的に野生のものは珍しいらしい・・・が。
  学校でも街中でもちらほら見かける有名な種族である。
  どれもこれも、ジョウト地方の初心者用ポケモンのせい。
  珍しいはずのこいつらは初心者用として大量発生しているうえに、ポケモンリーグやその辺の大会でも
  よく見かけられる。
  ついでに、捨てヒノアラシや捨てチコリータなど馬鹿に出来ない事態も発生しつつある。
  面倒見れないやつはトレーナーになるなと言いたいが、そういう奴に限って
  最初は面倒見れるつもりだったとか、捨てるつもりなんかなかったと言い出す有様。
  こいつも、保護センターにボランティア活動とかに行ったときに引き取ってきた奴だ。
  そういえば、ボランティアの保護センター清掃活動に参加しようと誘ってきた本人、ユウトは
  誰かを連れ帰ったのだろうか?
  ここしばらく講義を欠席していたがので確認ついでに連絡してみたら、 
 「今日講義なんか聞いてたら住む場所が消える」とか、
 「荷物が瓦礫の下に埋まって燃やされる」やら言われた。
  ポケモンもっていないくせに詳しいから、ヒノアラシのことを聞こうと思ったのに。
  というか、なんでボランティアだけ参加しているんだよあいつ。

 「ヒノヒノー」

   しまった、もがいているこいつのことを忘れていた。
  とりあえず、床におろしてみるとわたわたと部屋の隅っこに逃げていった。

 「まいったな。」

   昨日引き取ってきたばかりなのであたりまえだが、信頼関係はゼロ。
  何をあげればいいのかわからなくて昨日はご飯抜き。
  今日の朝ホームセンターで徳用のポケモンフードを買ってきてあげてみたら必死に食べていた。
  まあ、おなかがすいているのは分かるが・・・二キロのポケモンフードを半分以上食べるとは
  思わなかった。 というか、確実によくない。
  閑話休題。 話がすり替わっている気がする。
  まあとにかく、部屋の隅にうずくまっているこいつをどうにかしたい。
  
 「えーっと・・・」

   名前を呼ぼうとして気づく。 こいつ、名前がない。
  種族名で呼ぶのもなんだし・・・考えるか。
  えーっと、ヒノアラシ、 火の嵐・・・灯の荒しなんだこりゃ。
  安直過ぎるのも考え物だしな・・・茶でも飲むか。
 
   台所に行ってコップに水を入れてレンチン。 それにティーパックを入れれば完成。
  ついでにせんべいを持って部屋に戻る。

   隅っこのやつがせんべいに反応した。
  こいつ・・・くいしんぼうだな。
  食べ物の誘惑に逆らおうとしているが、視線はせんべいに釘付け。
  うーん。 クイタランなんてどうかな・・・同じ名前のポケモンがいた気がする。
  なら、ヒノアラシと食いしん坊でヒノ坊なんて・・・だめか。
  我ながらネームセンスのかけらもないな。 
  そういえば・・・こいつを引き取ってきた日は天皇誕生日だったな。
  今日はクリスマスイブか、まったくどいつもこいつも浮かれやがって。
  デートだかお出かけだか知らないが不景気だというのに財布の紐がゆるすぎる。
  後で金を貸せなんていわれても貸す金なんてないんだぞ?
  なにせ、貧乏だからな。 いや、また話がすり替わっている。
  えーっと、名前だ名前。
  
   部屋の隅を見てみれば、誘惑と戦うヒノアラシ。
  
   そういえば、アンズの花言葉が誘惑だった気がする。
  アンズは、臆病な愛とか、慎み深さって意味もあるけど。
  
   部屋のすみから壁伝いに忍び寄ってくる影が一つ。
  立ったままなのもどうかと思うので、コタツに入る。 あったかい。
  私が動いてびっくりしたのかうしろに飛びずさった影が一つ。
  ズザザザーって。 1mぐらいさがったところで壁に背中をぶつけた。
  なんだこいつ。 ちょっとかわいい。
  
   名前か・・・うーん。
  私ネーミングセンスゼロなんだよなー。
  まあ、安直じゃなかったらいいんじゃね?
  アンズとクリスマスイブでアンイなんてどうか?
  いや、安易と間違えそうだ。 というか、絶対間違える。
  だったら、アンリは? まて、こいつが男の子だったらどうする。
  ・・・まあ、いっか。 今時変わった名前のやつなんてごろごろいそうだしな。  
 
 「アンリ、ほらっ。 ありがたく貰っとけ。」

   そういいながら、さっきと同じ壁からほふく前進をしてくる
  ヒノアラシに向かってせんべいを一枚投げた。 
  

   警戒とはいってもまあ、近寄ってこないだけ。
  実際、ポケモンフードは食べているし、その際噛み付かれてもいない。
  さっきだって、首の根っこをつかんでも炎で攻撃をされてはいないわけだし。
  前に捨てられているわけだから、警戒するのも当たり前だろう。
  だが、見ている限りアンリは誘惑に負けたらしい。
  せんべいにかじりついている。

   私が手をのばしても無反応。
  やっぱり、こいつも人に飼われていたんだなと感じる。
  野生なら、食事中だろうがいきなり触られて反応しないわけがないだろう。
  ものすごいスピードでがりがり削られたせんべいは姿を消し視線は私の手に持っている
  せんべいに狙いを付けている。 

 「アンリ、欲しいのか?」

   アンリという名前にぴくっと反応した。
  一応認知してくれたらしい。

 「ほら、やるからこっちこい。」

   視線はせんべいに釘付けのまま。
  せんべいを振ればふらりふらりと歩いてきた。
  目の前に来たところでほら。 と差し出すと、バキ。 という音と共にせんべいをとられた。
  餌付け・・・成功なのだろうか?
  バキバキバキという音と共にせんべいの粉が飛びちる。
  掃除するしかないか・・・めんどうだな。






 「で、どんなのがおすすめなんだ?」

   私たちは買い物をしていた。
  クリスマスイブだというのに、居るのはショッピングセンター。
  理想とは程遠い場所で、昨日か、もっと前からはしゃいでいた友人の姿が脳裏に浮かんだ。
  クリスマスと、その前のイブにはね! と話す友人が非常に恨めしい。
  
 「・・・そんな顔なんかしているとカゲボウズに引っ付かれるぞ。」

   小型ポケモン用の食器を手に取りながらユウトは物騒なことを言った。
  そういえばこいつ、「あの」幽霊屋敷に住んでいるんだっけ。

 「なんか、失礼なこと考えているだろ。・・・こいつなんか、手ごろな値段だぞ。」

   どうだ? と見せてきたのは、ちょっと深めで大きめの皿。
  
 「アンリには大きすぎない?」

   アンリの顔以上の皿は必要ないんじゃないだろうか。

 「いや、ヒノアラシって顔が長いだろ?」

   なるほど。 と頷いて皿を買い物かごにつっこむ。
  ユウトを呼び出して正解だったな。 
  知り合いの中ではこいつが一番詳しいし。 

 「あとは、水飲み機か。 炎タイプだし、わりと器用なやつらだからボトルタイプがいいだろ。」

   そういって、次の売り場に向かうユウトには迷いがない。
  どうやら、このホームセンターのどこに何があるかを熟知しているようだ。
  ユウトの後を追っている時、珍しいものを見つけた。
  ゴーストグッズなる怪しい品々。
  怨念飴や延命砂糖、悲鳴クラッカーおまけに補修用影綿。
  ご丁寧に、商品のパッケージにはそのグッズに反応するポケモンが描かれている。
  お値段はさほどでもないか・・・そうだ!
  幽霊屋敷のかたがたにプレゼントしてみようではないか。
  安めのものをいくつかかごに入れて、水飲み機売り場へ急いでいった。










  「・・・は? 幽霊屋敷に用がある?」

  「ちょっと実験をしようと思ってね。 アンリ、お店でたから出てきていいよ。」

    ポンという音と共にアンリが姿を現した。
   眠そうに目をこすっていることから、さっきまで寝ていたらしい。

  「ユキナがポケモンを持つようになるとはびっくりだな。」

    からかい混じりの口調で茶化してくるユウト。
   まあ、ポケモンには基本おびえられるのが常の私だからなー。
   べつに、野生のこを捕まえてまで飼おうとは思わないだけ。
   なつかれると面倒だからさっさとあっち行けってやってただけなんだが。
   その威嚇も、キミのところのお化けには通用しなかったけど。

  「そういえば、ユウトはポケモン引き取ったのか?」

    まあなと言いながら、赤と白のボールをつかんだ。
   ポンっとでてきたのは・・・つぼみを背負った緑のポケモン。
   そういえば、こいつらの種族も初心者用だったっけな。

  「フシギソウの、ダンドだ。 曇華って花の名前からとった。」

    またまた、珍しい名前を出してきたもんだとおもう。
   読み方はダンドクだったか。

  「こいつさ・・・気性が荒くて、お化けのやつらに喧嘩売るから大変なんだよ。」
  
    はあ・・・とため息の音が聞こえる。
   お化けのやつらに喧嘩、か。 たいへんだな。
   
  「本当はポケモンを引き取るつもりはなかったんだけどな。
   ご飯代かかるし、お金ないし。 でも、引き取り手がなかったら・・・なんて
   言われちゃうと・・・なあ。」

    理由は私と同じか。
   私もこいつもお人よしなのか、それとも捨てる人が非情なのか。

    そうこういっているうちに屋敷が見えてきた。
   道一本はいっただけでこうも薄暗くなるもんだから驚きだ。
   相変わらず屋敷はボロくてお化け屋敷のようだ。 家賃は安(過ぎる)とはいえ
   ここに住むこいつの気が知れない。 お化けは別にいいが隙間風やカビが問題だ。

  「ちょっと新しくなっただろ?」

  「別に変わった様には見えない・・・ツタが取り払われて割れたガラスが消えたな。」

    だからといって、知らない人が見たらお化け屋敷だ。
   あ、雑草もなくなったかもしれない。 ここ、池なんてあったんだな。

  「改装されたんだよ。 一応」

  「それでしばらく休んでいたのか。」

   確かに、ここの家主が本当にユウトから聞くような人なら、ユウトの気持ちも分からないでもない。
  おおかた、荷物ごと部屋を崩されそうになったんだろう。
  そうゆうハチャメチャな思考の人ならうちの親戚にもいる。
  お正月のときなんか人様の家(私の祖父の家)でどんど焼きをしようとして火事を起こしかけた。
  (母のシャワーズが大活躍だった)
  そういえば、あの人もゴーストポケモンが集まってくるやら何やら言っていたっけ。

  「まあ、お化けたちならその辺にいるから・・・実験するならみんなも呼ぶか?」
  
    携帯電話を片手に門をギギギ・・・(門も変えればいいのに)と開けたユウトが
   提案してきた・・・が、みんなお楽しみ中なのだ。 まったく、恨めしいことこの上ない。

  「リカもカナタもみーんなお出かけだと。」
 
    私の一言にユウトが固まった。

  「な、なんだって・・・。」

    あ、カゲボウズがよってきた。
   前より数が増えている気がする。 ついでに他のお化けも出てきた。

   お日さまは傾いて、もうすぐ闇に包まれる。
   帰りはネイティにテレポートで送ってもらうから心配ない。

  
    それより・・・実験実験。 オカルトグッズを試してみよう。
   青春をエンジョイしているやつを見返せるぐらい面白い実験にしてやる!!
   この時、私の後ろでアンリがお化けにおびえていたらしい。
  

  
    まずは「怨念飴」・・・包みをはがしたとたんカゲボウズに持っていかれた。
   あ、すごい。 黒い塊になって喧嘩をしている。
  
  「どこで買ってきたんだその飴は。」

  「さっきのホームセンター。」

    あれ、本当に効くのかよ・・・とユウトが目を丸くしている。
   なんか、原材料名が気になるな。
   見てみた。 原材料、水あめ 砂糖 カラメル色素 怨念
   見なければ良かった。


  「次、延命砂糖。 ヒトモシに使えるらしい」 

  「ヒトモシって命を吸い取るらしいぞ。 まあ、俺の部屋にはお化けは入ってこないし(偶にしか)
   鼠とかがいるせいか、今のところなんともないけどな。」

    なんかちょっと怖いポケモンだな・・・かわいいのに。
   とりあえず、包みをはがしたら・・・はらはらと粉が舞った。
   ヒトモシがわらわらよってきて、粉を浴びている。
   炎が心なしか緑に見える。
   原材料は・・・見るのが怖い。

  「以上、実験終了。 あんまし面白くなかったな。」

  「いや・・・すごい騒ぎになっているんだけど。」

    ユウトの言うとおり、庭はすごい騒ぎになっていた。
   屋敷の庭では黒い塊がぶつかってはばらばらになって、緑の炎が揺らめいて・・・
   幻想的ともいえなくないが、暗い中でそれを見るとかなり恐ろしい。

    ポフッとユウトの頭にネイティが着地した。
   そのまま、じーっと庭の騒ぎを見つめている。
   そういえば、これも買ったんだっけ?
   袋のそこに残っていた黒い飴みたいなのを放り投げてみた。
   説明も何もないし・・・あれ?
   これ、買った覚えなかったんだが。

  「・・・ぇ?」
 
    隣でユウトが間抜けな声を漏らした。
   からかおうとして前を向くと、

  「・・・は。」

    庭に穴。 もしくはダークホール、ブラックホールでもいい。
   お化けたちがいっせいに避難してきた。
   ゴゴゴ・・・と、音はないけれどそんな感じに影が姿をあらわ・・・さなかった。
   途中で消えた。 なんだったんだ。
   ただ、庭の雑草(刈っても根元は残っている)が、そこだけぽっかりと消えた。
   まさか・・・ね。

    私たちが呆けている時、 それは、空から降ってきた。
   ふわふわ・・・そしてひらひら。


    天気予報では曇りだって言っていたのにな。
   まあ、外れてくれてうれしいかもしれない。
   何年ぶりだろうか。 


   白い聖夜 通称、ホワイトクリスマス 

    ならば、黒い聖夜は何なのか。
  
   まあ、もう二度と経験したくはないが。

   ゆーきあるものよ、無謀な挑戦はやめろ。 

   あれはだめだ、出て来なかったから助かったけど、たまったもんじゃない。
   とにかく、クリスマスの夜に黒い飴みたいなピカピカしたやつ、しかも身に覚えのないやつを
   見つけたらてをださないで、そっとしておくべきだ。
  

    じゃないと、投げた場所に影の足跡が残るからな。
   

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 珍しく、長めの物です。 
 ここまでよんでくださりありがとうございました。
 お化け記念日の方を読むと屋敷の様子が分かりやすいかもです。
【批評していいのよ】【書いてもいいのよ】【描いてもいいのよ】