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  [No.1119] 【再募集】映画監督になってみませんか? 投稿者:巳佑   投稿日:2011/05/02(Mon) 22:42:09   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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【再募集】映画監督になってみませんか? (画像サイズ: 400×568 86kB)

黄色の燕尾服、蝶ネクタイに、漆黒のサングラスをかけたメタボの小柄な男が言いました。

「今、そこのポスターを見ているそこのアナタ! そう、アナタネ! 映画監督になってみないでアルカ? この子達をどうメイキングするのも、アナタの自由ネ! さっさ! こんなところで立ち話でもなんだし、ちょっと近くの喫茶店でワタシとお話するネ! 逃がさないでアルヨ!!」


というわけで、映画監督になったアナタはどんな物語を紡ぐのか!
メガホンを片手に目指せ! アカデミー賞ならぬポケデミー賞!!!


【書いてもいいのよ】 


  [No.1207] 飛雲の夜の夢 前編 投稿者:ラクダ   投稿日:2011/05/20(Fri) 01:39:33   103clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 イッシュ地方の、さる映画館の入り口にて。一人の老人とその相棒が、眩い照明に照らされた一枚のポスターを眺めていた。有名な画家の手によるそれには、黄色い星の瞬く夜空を背景に、鬣を掴まれ困惑した表情のゾロアーク、そんな彼に向かって悪戯っ子のようなウインクを送るミミロップが活き活きと描かれている。よく見ると、チェッカー模様の敷石から伸びた街灯の影から、こっそりこちらを覗き見る一匹のポワルン。それを見つけた彼らは、視線を交わして微笑み合う。
 ステッキを持ち替え、空いた右手を差し出す老人。その手にそっと、自分の小さな左手を乗せる相棒――美しきミミロップ。一人と一匹は繋いだ手を緩やかに振りながら、最終上映の時間が迫る映画館の中へと静かに入っていった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ぐわあ、と何度目かの大欠伸をする。すっかり俺のお目付け役と化しているポーが、これまた何度目になるのか、顔をしかめて小言を言った。
「もうちょっとさあ、表面だけでも真面目な態度できないの? 見なよ、お姫様方がすっかり呆れてるじゃん」
「うるせえな。真面目も何も、あれ見てりゃテンション下がるっての。ずーっとおんなじことの繰り返し、お前は飽きねえわけ?」
 俺がそう返すと、隣のポワルンは溜息を付いた。飽きるも何も、と呟く。
「ぶっちゃけ、僕のパートナーじゃないから興味は無いんだけどね。誰が選ばれようと知ったこっちゃないんだけど」
「えらい言い様だな」
「……知ったこっちゃないけど、一応真面目にオーディションやってるんだからさ、こっちもそれなりの態度で観覧すべきじゃない? 相手に失礼じゃん。ルークの態度悪すぎ、一般ポケなら即刻退場レベルだよ。反省しな」
「お前の口も悪すぎだろ。映画の主役勤めるゾロアーク様に対する態度か、それ」
「その主役を務めるゾロアーク様の相方を決めようっていう審査なんだから、アンタが見てなくてどうすんのさ」
 いつも通りの悪口雑言の応酬。お互い本気じゃない、ちょっとしたじゃれあいみたいなもの。気心の知れた仲だからこそ、お互いに遠慮なく会話が出来る。この業界ではなかなか得難い関係だ。

 俺達がここでだらだら喋くってるのには訳がある。来年の秋に公開予定の娯楽映画、「飛雲の夜の夢」のメインキャストを決めるためのオーディションが開かれているからだ。といっても残るはヒロインの王女役だけ、集まっているのは一握りの候補達とその付き添い、うちのプロダクションの連中、主演の俺と脇役のポワルンくらいのものだから、いつもの規模より小さいといえるだろう。
 元々、この映画のキャストの募集・決定はとうの昔に終わっていた。が、お姫様役のドレディアが病気を理由に降板(実際は大手に引き抜かれたらしい)、急遽代役を決めなければならない羽目になり、俺にも関係あるんだからと引っ張り出されてきたものの。
「見てたところで、結局決めるのは人間共だろ。ほれ、あのスポンサーとか監督だとか」
 俺が爪で指したほうを見やって、まあね、と頷くポー。
 
 会場の中程、審査員席と書かれた一群には、怪しげな人間たちがひしめいている。 筆頭は、黒サングラスに黄色い燕尾服、蝶ネクタイをしているメタボ気味の妙な小男。全身から怪しさ漲る、って感じのあれが今回の企画のスポンサーらしい。その隣でにたにた笑ってる締りの無さそうなのが、“新進気鋭の新人監督”ラ・クーダ氏だとか。うん、こいつが撮る映画は絶対コケるな。間違いない。
 そのまた隣では、俺の名目上の飼い主である、ポケモンタレント養成所――通称ポケタレの社長が、じっとりと陰湿な目でヒロイン候補達を睨め回している。ほらほらそこのお嬢さん方、ビビったら負けだぜ。役を手に入れたいなら、この業付く爺の視線くらい耐え抜けよ?
 まあ、正直役柄に相応しい候補なんていないんだけどな。二次選考に残った六匹のうち、どいつもこいつもいまいちパッとしない。所属事務所の威光で残った奴らだから、しょうがないのかもしれないけど。
 
「でもさ、この中の選択肢しかないなら、ルークにも権利ある……というより、積極的に選ぶべきなんじゃないの? いつも言ってるでしょ、相性会わない相手と仕事したくないって」 
 心を読んだのか? こいつ。思わず鼻に皴を寄せた俺を無視して、ポーは右端の候補を指した。
「あの子なんてどう? 可愛いじゃない」
「あのマラカッチか? 駄目だね。今でさえ震えてるんだ、本番で演技なんか出来ないだろうよ」
「じゃあ、あの子」
「ルージュラか……いや、あんな高ビーそうな奴気に食わねえ」
「あ、そ。こっちの子はどう?」
「なんか毛艶が良くないな。それにチラチーノと俺とじゃ身長違いすぎる、物凄いでこぼこコンビになるぜ」
「んー、何で候補に残ってんのかなあ。じゃ、そっちの子は?」
「……確かに可愛いけど、おてんばなお姫様役に呪われボディのプルリルってどうよ? しかもあいつら毒で痺れさせて海底へ連れ込むんだぜ? 別物の映画になるぞ」
「どう見てもホラーだね。……えっと、彼女は?」
「いやいや、俺よりでかいヒロインて有りか? その前に、ガルーラ子持ちだろ? 姫君子持ちでいいのかよ!」
「残るは……」
「あり得ねえ!! モロバレルの姫なんて絶対認めねえからな!!」

 うっかり、全力で吼えてしまった。
 会場中から突き刺さる視線、視線、視線。特にモロバレルの恨みがましい目付きが……痛い。ホント悪かった、頼むからそんな目で見ないでくれ。俺は壁際の椅子で体を縮め、“小さくなる”を実行しようとした。この時ほど、自分がピッピかなんかに生まれなかったことを悔やんだことは無い。
 いや。いっそ小さくなるのは諦めて、隣で馬鹿だねーコイツなんてほざいているクソポワルンに、“八つ当たり”でもかましてやるべきか。
 そんな事を考えていると、どこか遠くでドアの軋む音が聞こえた。誰かが開けて、次いで閉める………や、あれは叩きつけるって表現するべきだな。続いて廊下を爆走、足音はどんどんこちらに近づいてくる。お陰様で、俺に注がれていた痛い視線は全てそちらに向けられた。誰か知らんがありがとう、助かったぜ。
 足音の主は急ブレーキをかけざま、両開きの扉を叩き開けながら遅くなってすみませんでしたぁー!!――――と、叫びながら転がり込んできた。まだ若い兄ちゃんだ。
 一瞬静まり返った会場に、ざわざわと不協和音の呟きが満ちる。突然の乱入者に不審の目を向ける審査員達に、兄ちゃんはつかつかと歩み寄るなり体を直角に曲げてお辞儀をした。その格好のまま、今度は機関銃のごとく何かをまくし立て始める。

「あれか、審査中止になったポケプロって」
 納得顔で呟くポー。何のことを言ってるんだ?
「ああ、ルークは会議サボってたから知らなかっただろうけど。本当は、二次選考の通過者は七匹だったんだ。でも、一箇所連絡の取れなくなったプロダクションがあってね、そこは切捨てってことになったんだけど」
 喋り続けている兄ちゃんを興味深々で見守りつつ、ご丁寧に教えてくれる。つーか、俺はサボってたんじゃなくて自分の時間を有意義に使ってただけなの。
「……ふーん、初めてのイッシュで迷いに迷った挙句、携帯の充電切れて連絡できなかった、ね。よくある話だよねー」
「まあ、言い訳としちゃ定番だよな。というか、あいつイッシュの出身じゃないわけ?」
「うん。どこだっけ、シンオウ? そこからポケモン連れてくるって話だった」
「そりゃまた遠いとこからご苦労なこった。んで? どんな奴?」
「知らないよ。僕は一次の書類選考に参加してなかったし。無名のポケプロの新人、ぐらいの情報しかなかった」
 
だべっている間に、兄ちゃんはどうにかこうにか事情を説明し終えたようだ。審査員達は未だ冷たい目を向けながらも、まあお情けで見てやろうか、ぐらいの気持ちに傾いてきているらしい。
 そこに出せ、という合図を受けて、兄ちゃんは安堵の表情で腰のモンスターボールに手を伸ばした。安心するのはまだ早いぜ、出した奴によってはけちょんけちょんに貶されるからな。他の候補のマネージャー達も、馬鹿にしたような顔で新たなライバルを眺めている。出遅れた奴のポケモンなんか大したことないってか。
 ベルトからボールを外し、じっと見つめた後。兄ちゃんはそれをゆっくりと投げる。頼んだぜ、と低く囁く声が俺の耳に聞こえた。

 眩い光と共に現れたのは、見たことのないポケモンだった。すらりとした体を覆うビロードのような茶色い毛皮、垂れた長い耳や脚先に生えるもこもこの白い毛。ルビーのような鮮烈な赤い瞳、そこには知性の煌めきが宿っていた。全身から漂う気品に、他のポケモンたちが霞んで見える。
 声も出ない審査員達に涼やかな眼差しを向け、彼女は優雅に一礼してみせた。
 そいつは見たことがないほど美しく、魅力的だった。
「決まったね」
 隣でポワルンがぼそりと呟く。俺はただただ、頷くことしかできなかった。




 彼女と話が出来たのは、煩雑な事務処理が全て終わってからだった。すでに日はとっぷりと暮れている。今度は逃げられないように、と契約書でがんじがらめにしておいてから、上層部の連中はようやく彼女とそのマネージャーを解放した。疲れきった表情を浮かべながらも、会議室の外をうろつく俺の姿に気付いたマネージャーは、ちょっぴり笑って彼女に俺を指し示した。挨拶に行っておいで、とでも言ったんだろう。
 跳ねるような軽やかな足取りで部屋を出ると、彼女は俺のすぐ側までやって来た。澄んだ瞳でじっと見つめられて、俺の心臓は跳ね上がった。なんだよ、なんでこんなビビッてんだ。しっかりしろよ俺!
「……あんた、なんてポケモンなんだ?見たことねぇんだけど」
 口からはこんな言葉しか出てこなかった。違うだろ、もっと言うべきこと色々あるだろ! 我ながら情けない。
 そんな俺ににこりと笑って(心臓がもう一跳ねした)、彼女は深々とお辞儀をした。
「私はシンオウ地方出身のミミロップ、ラズベリーと申します。あなたが、ゾロアークのルークさんですね?」
「……おう」
「撮影の間、パートナー役を勤めさせていただきます。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
 もう一度、丁寧に頭を下げる。つられて俺もぎこちなく首を曲げた。てか、こんな挨拶されたことないからどう対応したらいいか分かんねえ………。
 ミミロップのラズベリーは、首を傾げてこっちを見ている。俺が何か言うのを待っているらしい。
「あー、ええと、よろしく。その……シンオウってのは、かなり遠いんだろ? 遥々ここまで、よく来たな」
 しどろもどろの適当な返事でも、歓迎と受け取ったらしい彼女は顔を輝かせた。
「はい! ありがとうございます。ミオシティからの長い長い船旅でしたけれど、見たことのない景色を沢山見られて楽しかったです」
 言ってから、くすりと笑って付け加える。
「でも、ヒウンシティはあまり見られませんでした。あの人が地図を無くしちゃって、街中を大急ぎで走り抜けただけなんです。もっとゆっくり、建物を見学したかったな……」
 優しい眼差しでマネージャーを振り返る。窓の向こうで、彼女のマネージャー氏は机に突っ伏して居眠りを始めていた。
「あらあら、あんなところで眠ったら風邪をひいてしまうわ。ルークさん、すみませんが今日はこの辺で失礼します」
「ああ、うん」
「それでは、おやすみなさい」
 ふわりと微笑んで、ラズベリーは優美に身を翻すと会議室の中に入っていった。俺もまた、混乱した思いを抱えたまま、彼女達に背を向けてその場を立ち去った。



 翌日。朝早くから俺のマネージャーに叩き起こされ、問答無用で風呂に入れられて(あのシャンプー嫌いだって言ったのに!)磨きたてられた俺は、仏頂面で撮影スタジオに座り込んでいた。前で監督が撮影の心得とやらをくどくどしく話していたが、右から左へあっさり抜けていく。そんなもん、ゾロア時代から聞かされてるから知ってるっての。
 今日の予定は、まず宣伝用のポスターの元になる写真を撮り、その後時間の調整をつけながら出来る限り映画本編の撮影を進めるらしい。全体のスケジュールが押しているから、今後も結構きつい日程が組まれている。新人のお姫さん、大丈夫かね……?
 ちらりと隣の様子を窺う。ラズベリーは真剣に聞き入っているようだ。過密スケジュールもなんのその、やる気は十分らしい。実は今朝も声をかけようかと思ったけど……なんて言ったらいいかわからなくて、結局無難な挨拶だけに終わってしまった。なんでこんな調子が狂うんだろうな、ったく。
 場慣れしているポーの奴も、これと言って不満の表情を現していないようだ。というより、いつも笑ってるみたいな顔してるから判り辛いんだよ、こいつ。

 今回の映画は、人間が言うところの『恋愛冒険活劇』であるらしい。
 監督曰く、ストーリーは歴史ある大国の姫君が規律に縛られた自由のない暮らしを嘆くシーンから始まる。ある夜、とうとう我慢の限界に達した王女は、こっそり宮殿を抜け出て市街を探検する計画を立てる。ところが、それを実行しようとした矢先、王政の転覆を狙う過激な組織の連中に拉致され、人質としてアジトに監禁されてしまう。そこから逃げる決意を固めた王女は、世話係兼見張りのゾロアークを油断させる為に、わざと無邪気に振舞って夜の市内見物をねだる。ゾロアークもその思惑に気付いていながら、王女を扱いやすくする為に意向を聞き入れ、組織には黙って彼女を連れ出す。
 深夜、街が寝静まった頃。偽りの自由を楽しむ王女と、虜囚である彼女に振り回されるゾロアークとの間に奇妙な友情が芽生え始める。やがて、それは淡い恋愛感情に発展していき―――――。
 
 だぁーっ!! なんだこのこっ恥ずかしい展開は! 改めて聞くと全身にマメパト並の鳥肌が浮かぶ。ポーもラズベリーも、よくまあ真面目に監督の語りに付き合ってられるな。要するにあれだろ、暇を持て余したお姫さんと悪の組織の下っ端がいちゃいちゃしようとしてできずに別れる話だろ。
 一人しらける俺に構わず、さあいってみようかと陽気に話を進める監督。カメラマンが進み出て、俺達とマネージャーに指示をとばす。映画のワンシーンを再現するらしい。
 
 深夜の路上、悪戯心を起こした姫君がゾロアークの長い鬣を引っ張る。じゃれかかる姫を困ったように見下ろすゾロアーク、そんな二人を物陰から監視する組織の密偵ポワルン。
 
 背景は後で合成するから、と言って、カメラマンは俺とラズベリーを押しやった。ポーはさっさと定位置についてスタンバイしている。
 撮影用の白い壁を背に、俺は途方に暮れた。とりあえず横向きに――彼女に背を向ける感じで――立ってみたものの、さあそこから先はどうすればいい? 姫君の動き次第で、絵面が変わる。
 ラズベリーのマネージャーが、身振りで何かを示している。こくりと頷いて、彼女は俺の鬣に手をかけた。
「ちょっと失礼しますね」
 囁いて……いきなり引っ張った! 思わず体勢を崩しかけた俺の肩に、ぽすんと柔らかいものがぶつかる感触。見下ろすと、そこには。
 肩に頭をもたせ掛け、片手で鬣の先を弄びながら、悪戯っぽく笑う小悪魔なミミロップがいた。俺と目が合った瞬間、ぱちりとウインク。
 …………完璧だ。
 カメラのフラッシュが光る。興奮気味のカメラマンが立て続けにシャッターを切るせいで、目がちかちかする。それより予想以上の可愛らしさを見せ付けられて、頭がくらくらする。
「……あんた、演技上手いな」
 ようやく声を絞り出すと、おてんばな姫君は淑やかなミミロップに戻って、ありがとうございますと照れたように呟いた。



 

 この一件以来、俺とラズベリーの距離は急激に縮まった。まあ縮まったというか、向こうは最初から親しげに振舞ってくれてたんだけど、こっちが気恥ずかしくて話せなかったってだけなんだけどな。なんか妙に美人だし、清楚っていうの? 相手したことないタイプだったし。
 でも、相手も俺と同じ演技者だと分かったら、戸惑いもへったくれも吹っ飛んだ。世間を化かす、そんなことはこの世界に生まれてからずっとやってきた。同じような奴らに囲まれて育ち、似たような連中と一緒に暮らしてきた。この一見別世界そうなミミロップも俺の同類だと思うと、なんていうか……すごく嬉しかった。親近感が沸いた、ってのか。
 
 連日の撮影の合間に、俺達は色んなことを話した。故郷の事、名前の事、映画の事、過去の事。特に生まれ育ちに関しては、俺達は面白いくらいに対照的だった。
 俺が都会生まれ都会育ちだと言えば、ラズベリーはシンオウの雪深い山で生まれて野生として育ったという。俺がポケモンタレントの卵として仕込まれていた頃、彼女は兄弟達と野山を駆け巡っていた。
 有名だった親父の跡を継いで映画界にデビューし、期待の星ともてはやされていた時。
 好奇心のままに遊び歩いていたラズベリーは、他のポケモンに襲われて瀕死の傷を負った。逃げ延びたものの動けなくなっていた彼女を救ったのが、今のマネージャー氏だという。
「あの人は、代々続く育て屋の家の息子なんです。実家の仕事を継ぐために帰ってきた時、倒れていた私を見つけて家に連れて帰ってくれました。今こうして生きていられるのも、あの人が親身になって看病してくれたからなんです」
 真っ赤な瞳を懐かしそうに細めて、ラズベリーは思い出を語る。
 
 傷が完治した後、マネージャー氏は彼女を山へ返そうとしたらしい。しかし、どうあっても残るという強固な意思に根負けし、彼女にラズベリー ――山を彩る赤い果実――の名を与え、家業の助手として側に置くことにした。晴れて手持ちとなったラズベリーは育て屋の仕事を手伝いつつ、彼に対する恩義から懐き進化を遂げてミミロップとなり、忙しいながらも充実した毎日を送っていた。
 が、しかし。
「あの人のお父さんというのが、結構頑固な方なんです。ポケモンの扱いが悪かったり、強い子を選ぶために無理やり卵を産ませようとするトレーナーがどうしても許せないらしくて。そんな人が来た時は、怒鳴りつけて追い返したり、取っ組み合いの喧嘩になったり……そういう事を繰り返していたら、だんだんお客様が減ってしまって」
 あ、でも凄くいい人なんですよ、と慌てて肩を持つラズベリー。正直、その頑固親父真っ当過ぎて育て屋に向いてないんじゃないかと思ったが、口には出さずにおく。
 父親の意思を継いだ息子は、苦しい状況の中でも理想を追い続けたという。
 しかしとうとう資金繰りが切羽詰り、廃業の瀬戸際に追い込まれた彼は、一か八かの賭けに出た。一攫千金のチャンスを掴むために、唯一かつ最大の切り札であるラズベリーをポケモンタレントに仕立て上げ、北の果てシンオウから映画界のメッカであるイッシュに殴り込みをかけることにしたのだという。

「それはちょっと無茶過ぎねぇ?」
 我慢できなくなって、ついツッコんでしまった。なんで一攫千金の手段がいきなり映画タレントに結びつくんだ、とか、ツテもコネも無いのにどうやってこの世界に入るつもりだったんだ、とか。他にも言いたい事は色々ある。そもそも有名イコール金持ち、ってのは素人の発想だ。ここはそんなに甘いもんじゃないぜ。
 そう言うと、ラズベリーは恥ずかしそうにしょげてしまった。ちょっと待て、条件反射で「すんません俺が悪かったです」って言いたくなるこの雰囲気はなんだ。俺は別に謝るようなことは言ってない、はずだ。くそう、やっぱり調子狂うな。
「私もそう思ったんです。でも、うちに来てくださるお客様の中に、コンテストの審査員をされている方がいて。その方が、私には才能がある、発揮できる場を与えなければもったいないと強く勧めてくださって……つい、あの人と一緒にその気になってしまったんです」
 自惚れですね、と消え入りそうな声で呟いて、ラズベリーは垂れ耳を更に垂らしてうなだれた。いや、ちょっ、待てって。
「あー、推薦者がいたのか。まあその……なんだ、ほら、結局はそいつの言ったこと正しかったんだから、別にいいんじゃないか? 駄目ならとっくに予選落ちだったろうし。二次審査じゃ他の奴ら蹴散らしてあっさり通ったろ? それに自惚れってか、お前ホントに演技の才能あるしさ。そこは自信持っていいぜ」
 
 ……何、この変わり身の早さとクサいセリフ。演技でもないのにあっさりこんな事言ってる自分が信じられねえ、しかもかなり本気で言ってるってのがよけいに信じられねえ。大丈夫か、俺。
 内心悶絶する俺の様子に気付かず、ラズベリーは上目遣いにこっちを見上げる。それやめてくれ、すっげえドキドキするから!
「本当、ですか……?」
「ああ、うん。俺、嘘は言わねえ主義なんだ」
「そうそう。ルークってば馬鹿で正直だから、この言葉は信じていいと思うよ?」
 
 …………一気に気持ちが冷めた。どっから湧きやがった、このクソポワルン。ていうか『馬鹿で正直』ってなんだ、せめて『馬鹿正直』にしろよ……そっちも充分腹立つけどな!
「何しに来たんだよ、ポー」
「ご挨拶だねえ。お二人さん、いなくなって随分経つから皆探し回ってるよ? 特にお姫様のマネージャーさん、えらく心配してたね」
「まあ、大変! 急いで戻らなくちゃ!」
 言うなり、腰掛けていたベンチからぴょこんと立ち上がった彼女は一目散に駆け出した。途中で振り返り、ルークさんも戻りましょう、きっと心配されてますよとかなんとか叫んでいる。微妙な気分のまま手を振って見送ってから、改めてポーに向き直る。
「……んだよ、そのにやけ顔は」
「べっつにー? ルークってばああいう清純派が好みなんだぁ、って思ってるだけ」
「や、好みとかそんな風に思ってないし! 単に見たことない感じの奴だから面白いなってだけで」
「ふぅん、それだけ?」
「それだけって、お前……」
 そりゃちっとは可愛いなとか、いいコだよなとか思うけど……言ったら絶対からかわれるからやめておく。
 こういう時は逃げるが勝ち、とポーに背を向けたその時。
「ねえ、ルーク」
 ひどく真面目な声を掛けられて、俺はついつい足を止めた。くそっ、こいつがマジ声出すときって大抵ろくでもない話題なんだよな。
 なんだよ、と返そうとした瞬間、聞こえてきた言葉に耳を疑う。
「あの子にあんまり深入りしない方がいいよ。面倒事に関わりたくないならね」
 
 どういう、意味だ。咄嗟に振り返った俺の目に、やけに冷静なポーの視線がぶつかった。周囲にはへらへらした態度で通しているが、こいつの本性はこっち――冷静で計算高い、ポケタレ業界きっての切れ者だ。
 絶句する俺に、奴は淡々と言葉をかける。
「ルークがいつも通りの付き合い方をするなら黙っておこうと思ってたけど……意外に気に入ってるみたいだから、ちょっと忠告しておこうと思ってね。彼女は危ないよ」
「……危ないって、何が」
「精神面が、さ。この世界で育ってスレちゃった僕らと違って、外から来た彼女は疑うことを知らない純粋な心を持ってる、これは普通ならとてもいい事だけど……ここじゃ、それが命取りになりかねない」

 ふわりと俺の鼻先まで漂ってきて、ひたと目を見据える。まるで黒い眼差しに絡め取られたかのように、動くことができなかった。聞きたくない、でも聞かずにいられない。
「ああいうタイプはいずれ挫折する。精神的な脆さが致命傷になってね。君だって、薄々彼女の欠点には気付いてるんだろう?」
「……るせえ」
「もう一度言っておく、これは忠告だ。あの子に深入りしちゃいけない、君も巻き添えになる……」
「うるせえ! 黙れ!!」
 本気で吼えた。ぴたりと口をつぐんだポーは、ガラス玉のような目を俺に向けている。
 視線を合わせていられなくて、頭を振り切るようにして目を逸らした俺は、今度こそ奴に背を向けて走り出した。いや、逃げ出した。
 考えたくない事から、自分の疑問から、友人の言葉から、逃げ出したかった。

 
 最悪の事態から、逃れたかった。







――――――――――――――――――

(仮あとがき)

(巳佑さんに快く許可を頂き、謎の小男氏にあっさり勧誘されて映画監督に挑戦させていただくことになりましたラクダです。……いえ、ラ・クーダ氏とは別人です。
 しかしまあ、恋愛にとんと疎い自分が、まさかそういう要素のある話を書くことになろうとは……我ながら唖然。ううむ、これぞ絵の魔力!

 ようやく前半が書き終わった! 絵を拝見してから、脳内で話が出来上がるまでは時間がかからなかったのに……超ド級の遅筆にて、前編だけで二ヶ月かかるという体たらく。おまけに酷く長々しい!
 本来なら全編出来上がってから上げるべきなのですが、(真に勝手ながら)己のモチベーション維持の為に前編のみ上げさせていただくことにしました。さあ、掲載させていただいたんだから後には引けんぞ、後半もちゃっちゃと仕上げようぜ私……!
 取り急ぎ、ここまで。巳佑さん、書かせていただいてありがとうございます!)


  [No.1376] スクリーン前にて。 投稿者:巳佑   投稿日:2011/07/01(Fri) 19:02:18   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 おぉ……! あの時のチャットでお聞きした映画が今ここに……!(ドキドキ)
 監督ラ・クーダ氏、いいもの観させてもらいましたよ……! 
 本当に嬉しいです!
 ありがとうございます!

『序幕』
 老人と美しいミミロップ……なんかロマンを感じますなぁ……とても画になります!(ドキドキ)


『序盤』
 いきなりヤル気ローテンションのルーク君で吹きました。(笑)
 でもまぁ……確かに元のヒロインがドレディアだったからなぁ……ハードルが高いのも無理ないか。(汗)
 しかし、ルーク君……モロバレルも可愛いと私は思うよ?(キラーン&ゲームでの鳴き声が個人的には予想を反して可愛らしかった) 
 
 それと、相棒(?)のポーさんとのやり取りが絶妙で、とても興奮しました。
 この後、ポーさんが所々見せる鋭さには思わず鳥肌が立ちましたです。(汗) 
 このポワルン油断ならぬ。(汗)

 そして……来ました! ラ・クーダ監督!
 この方の映画は必ずヒットすると私は信じてます。(キラーン)
   
   
『中盤』
 最初に言いたい……ラズベリーさんの演技に私も惚れました。(ドキドキ) 

 美しいミミロップのラズベリーさんが登場して……ヤル気ローテンションだったルーク君の心境の変化がとても印象的でした。(ドキドキ)
 ヤル気になっただけではなくて……これはきっと恋に落ちているだろうと予想。(キラーン)  
 そして、昔話で色々と気になるキーワード(例:有名だった親父の跡を継いで映画界デビューし、期待の星としてもてはやされいた時)が……。
 後篇の展開と何か絡むのかなぁ……とても気になっています。(間違っていたらスイマセン)
  
 それと……浮上してきた育て屋の深い事情。(汗)
 親父さんの熱くてまっすぐな心意気には胸を打たれました。
 ポケモンのことをしっかりと考えている人なのだろうなぁ……と。
 まぁ、それが玉に傷だったりしたようですが。(汗)


『終盤』
 ポーさんの言葉で鳥肌が立ちました……だって、これ、絶対、後篇に何か起こるフラグじゃないですか!(ドキドキ)
 ラズベリーさんの欠点とは?
 その欠点から、どのような事態を招くことになってしまうのか?
 
 そして……ルーク君のあの取り乱れよう……何か過去(トラウマになりそうなことなど)にあったのでしょうか?(汗)
 


★最後に。
 私の記憶間違えでなければ、【書いてもいいのよ】タグを付けたイラストの投稿で初めて来た物語です……!(ドキドキ)
 一枚のイラストから展開されていく物語に、本当に嬉しくもあり、そのような視点から来ますか! といった(もちろん良い意味で)驚きもありました。
 ラクダさん、素敵な物語、ありがとうございます!
 後編も楽しみにしてます!




 それでは、失礼しました。



【ラ・クーダ監督最高!(キラーン)】


  [No.1524] 舞台裏にて。 投稿者:ラクダ   投稿日:2011/07/07(Thu) 22:33:18   46clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 返事が遅くなって申し訳ありません。感想を頂きまして、本当にありがとうございます!私の背後で、ラ・クーダ監督も喜びのあまり踊り狂っております! (うぜえ

 さて、最初に言わせていただきます。……巳佑さん、あなたの特性は「鋭い目」か「お見通し」ですか……!?
 感想・指摘が非常に的確で、読み込んでくださってるんだなぁと嬉しいやら、な、なんでバレてるんだ!? と慌てるやら。

> 『序盤』
>  いきなりヤル気ローテンションのルーク君で吹きました。(笑)
 
 すみません、物凄く態度の悪い奴で……。ただ、映画業界で『金の卵』として大事に(甘やかされて)育てられたという経緯がありますので。根は悪くない、素直で単純な奴なんです。……タブンネ。
 ポーの方は……スレきってますね(笑)
    
>  美しいミミロップのラズベリーさんが登場して……ヤル気ローテンションだったルーク君の心境の変化がとても印象的でした。(ドキドキ)
>  ヤル気になっただけではなくて……これはきっと恋に落ちているだろうと予想。(キラーン)  

 淡い恋心ってどうやって表現するんだあ! と慣れない作業に頭を悩ませていたので、読み取っていただけて嬉しかったです。

>  そして、昔話で色々と気になるキーワード(例:有名だった親父の跡を継いで映画界デビューし、期待の星としてもてはやされいた時)が……。
>  後篇の展開と何か絡むのかなぁ……とても気になっています。(間違っていたらスイマセン)

 ば、ばれてーら……! 実は、後編で父親について言及する場面など、あの「昔話」にいくつか伏線を張っておいた(つもり)でした。……まさかこんな所まで読み取ってくださっているとは! 恐るべし、巳佑さんの鋭い目……!


> 『終盤』
>  ポーさんの言葉で鳥肌が立ちました……だって、これ、絶対、後篇に何か起こるフラグじゃないですか!(ドキドキ)
>  ラズベリーさんの欠点とは?
>  その欠点から、どのような事態を招くことになってしまうのか?
>  
>  そして……ルーク君のあの取り乱れよう……何か過去(トラウマになりそうなことなど)にあったのでしょうか?(汗)
>  

 巳佑さん、お見通し持ちですね(確定)。トラウマ、というべきか、後編で語らせるつもりの家族関係に関わってくる部分なのです。
 なんだかもう、こうも明快に展開が読まれると……嬉しくてたまらないですね(笑)
 ちなみに、第二回コンテスト作品に登場したメタモンの「わらわっち」。作者はどなただろう、後編にもメタモン出す予定だからなんだか親近感、なんて思っていたら。いざ、匿名の蓋を開けたら巳佑さん! 驚きました(笑)
 ついでに、改稿版ではヘルガーが出てくるなんて……! (別作品に登場予定でした)
 ポケモンの選択が見事に一致。正に、お見通し。恐るべし!

> ★最後に。
>  私の記憶間違えでなければ、【書いてもいいのよ】タグを付けたイラストの投稿で初めて来た物語です……!(ドキドキ)

 私の記憶違いでなければ、チャットにてこの絵のお話を構想していると仰った方がもう二人おられます。
 「    」さーん、「   」さーん! 先に投稿してしまいましたが、ご遠慮なさらずに投稿なさってくださいねー! というか、私が是非拝見したいのです! お待ちしております!

>  ラクダさん、素敵な物語、ありがとうございます!
>  後編も楽しみにしてます!
>
> 【ラ・クーダ監督最高!(キラーン)】

 ラ・クーダ監督が感動にむせんでおります! (ますますうぜえ
 素敵な物語、といって頂けて、もう嬉しいやら気恥ずかしいやら。後編もしっかり書く所存ですので(お待たせすること確実ですがorz)、またぜひお読みいただけたらと思います。
 どうもありがとうございました!