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  [No.1138] 【再投稿】鞄 投稿者:音色   投稿日:2011/05/04(Wed) 23:39:07   97clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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『巷の大ブーム!最新流行トレンド〜!今日は、今年の流行を真っ先にお伝えしちゃうよ!今年のキーポイントはズバリ、『ワイルド』!』


 物心ついたときから、あたしは豪傑一家に囲まれて育った。
「いいか!体の傷は勲章だ!多ければ多いほどいいことに越したことはない!」
 親父はいつもそう言って、頭をくしゃくしゃになるまでなでてくれた。
「爪を研ぐことは忘れないこと。でないとすぐに切れ味が悪くなって使い物にならなくなるよ!」
 母さんはそう言って自慢げに両手を天にかざした。
「良いライバルを見つけろよ。そいつとは一生をかけて闘い続けると誓えるようなやつをな」
「最後も、その人と闘いながら死ぬのが、最高の幸福なのよ」
 爺ちゃんはそう言って、婆ちゃんもそう言った。
 周りの大人はみんな傷だらけで、幸せいっぱいだ。
 だって、あたしの一族には永遠のライバルがるから。
 種族丸ごと好敵手。ハブネークの奴等と闘う事は、あたしがザングースとして生まれてくる前から、決まってたことだった。


『まずはメリープの羊毛で編まれたあったかいセーターやマフラーなどをご紹介します!とってもふわふわだけど、静電気がたまりやすいから、無意識のうちに髪型がボンバー!なんてことにもなって目立つこと間違いナシ!』


 けど、小さい時はハブネークってのがどんな奴だか全く見当がつかなかった。
 決闘に連れて行ってくれって何回か頼んでみたんだけど、兄ちゃんも親父も、もちろん爺ちゃんも『男同士のバトルの邪魔をするな!』と一括された。
 母さんや婆ちゃんは『あんたも大きくなったらきっと、良い好敵手に会えるよ』としか言ってくれない。
 長年のライバルだって言うのに、里にはハブネークを表す戦利品は一つもなかったから、余計にどんな奴だか気になった。
 大きな牙をもっているんだろうか。どんな体格何だろうか。もしかしたら空を飛べるんだろうか。不思議な技を使ってくるんだろうか。
 気になって気になって、仕方なくなったから、あたしはこっそり里を抜け出して、ハブネークって言うのがどんなのなのか、見に行くことにした。


『こちらはお店のお勧めの小物はオコリザルがつけているものと全く同じ重さのリストバンドです!体力をつけたいあなた、いかがですか?』


 大きな河に阻まれて、あたしは途方に暮れていた。向こう岸から、ハブネークがやってくるんだって、親父が言っているのをこっそり聞いたのに。
 橋なんてものはなくて、岩は両側から突き出して途中から途切れていた。飛びこえればどうにか届きそうだけど、まだまだ体の小さなあたしに、それはとてもじゃないけど不可能だった。
 やっぱり、もっと大きくならないと駄目なのかな。がっかりしたあたしは、少しで良いから向こうの奥が見えないかと、岩の上から身を乗り出した。
 その時、ふいに風が吹いてきて、たまらずあたしはバランスを崩した。まっさかさまに川に落ちる!
 そのとき、あたしの体はぴたりと宙に浮いて止まった。何が起こったのかさっぱり分からない。そのままぶん投げられるように、あたしは草むらに頭から突っこんだ。
 大丈夫か?
 なんとかね。
 相手を見ずに返事を返して、どうにか頭をひっこ抜く。くるりと振り返って向こう岸をみると、そこにはあたしよりも大きくて長い、ポケモンがいた。
 見た瞬間に、びりりと分かった。
 こいつがハブネークだ。鋭い眼、牙、尻尾!その姿、全てがあたしのなかのハブネーク像にかちりと刻みつけられた。
 同時に確信した。
 あたしのライバルは、こいつだ!


『小物ばかりではなく今度は食べ物路線で行きましょう!キマワリの花弁を使った紅茶は、こちらのお店の一番の目玉商品だそうです』


 そいつはとっても気さくだった。なんであたしを助けたのかと聞いたら
「そんなこと考えなかったな・・。誰かが落ちそうになってるのを見て、危ない!・・って思ったら、体が動いたんだ」
 体格はあたしの二倍はあるのに、歳はそんなに変わらないと聞いて、驚いた。
 ここに来た目的もあたしとほとんど一緒。好敵手と言われているザングースを一目見ようとここに来たらしい。
 自分も村ではまだまだ若造扱いで、決闘に連れて行ってもらえないとこぼしたのを聞いて、思わず共感してしまった。
「俺たち、なんか似てるな?」
 そう言うと、お互い爆笑した。夕日が沈むまで、そこでそいつと話した。家族のこと、村のこと、そして、将来のこと。
 種族同志の因縁について、どう思っているのか聞いてみたら
「正直に言っちまうと、多分、いがみ合いがあったのはものすごい大昔なんだと思うぜ」
 けど、世代を超えるうちに、そんなことはどうでもよくなってきた。
「お互いを殺し合うんじゃない、お互いを認めて、礼儀として決闘をするんだ」
 でも、どうせ決闘なら・・。勝ちたい。その気持ちが、種族を動かしているんじゃないかとそいつは言った。
 別れる時に、あたしは決闘を申し込んだ。そいつはもちろん承諾した。
「俺、分かったぜ。俺はあんたときっと闘う」
 最初の決闘の日取り、3年後の今日、月が天辺に昇った時。
 お互いに、幼く不敵に笑って見せて、同時に背中を向けあった。 


『わ、これとってもおいしいですね!』
『当店自慢の、ポフィンケーキです。人間にもポケモンにも食べていただけるように工夫を凝らしたものなんですよ』
『なるほどなるほど。隠し味はなんですか?』
『トロピウスの首の房をパウダーにして練りこんであるんです』


 決闘の日はあっという間にやってきた。私は一回り大きくなって大人と変わらなくなってきた、爪もしっかり研いできた。親父や兄貴にいっぱいぶつかってきた。
 でも、あいつと、ハブネークと遣り合うなんて、本当にこの時は初めてだったから、あたしは緊張と興奮がまぜこぜになって、何度も空を見上げて月が早く昇らないかとじれったかった。
 真上にようやく月が現れて、あたりの空気が凍る時間帯。
 あたしの目の前に、あいつはやってきた。
 3年前より、牙も尻尾も、何より溢れだす気迫が、これは本物の決闘なんだと思い知る。
 今宵、先に相手の体に勲章を刻みつけるのはどちらが先か。
 あたしとあいつは睨み合って、飛び出した。


『っと、ここでニュースです。さきほど、以前から指名手配されていた密猟のグループが捕まったそうです。捕まった場所は・・』


 爺ちゃんが死んだ。一番幸せな死にかただった。爺ちゃんは、決闘で死んだ。相手は、もちろん、爺ちゃんのライバルだった。
 日暮れから次の日の朝にかけて爺ちゃんが帰ってこなくて、兄貴と婆ちゃんが探しに行ったら、少し広めの川沿いで、爺ちゃんと、その相手が絡み合って死んでいた。
 あたしたちが駆け付けるのと同時に、向こう側からハブネークもぞろぞろやってきた。あいつもその中にいた。
 いつも自慢していた爺ちゃんの鋭い爪は、相手の腹に突き刺してあって、爺ちゃんのライバルは爺ちゃんの喉笛に噛みついて絶命していた。
 お互いの最後の一撃が決定打になったんだと思った。
 親父は相手のハブネークの代表みたいなのと何か喋っていた。多分、墓をどうするかって話。
 好敵手と一緒に決闘場所に葬るか、片方ずつ持って帰って里に埋葬するか。
 あたしは里の中で墓を見たことがない。
 爺ちゃんはこの場所で眠ることになった。


『この密猟グループは今までまったく正体がつかめていなかったのですが、とあるカメラマンが密猟現場跡を偶然撮影してから調査が始まったものでして・・』


 爺ちゃんが死んでからも、あたしとあいつは何度も決闘した。勲章は増える一方で、黒星も白星も数えるのが面倒くさくなるくらいやり合った。
 二人仲良く川に落っこちたことは何度もあったし、たまには決闘じゃなくてぼんやり散歩することもあった、
 もっと広い世界が見たいとか、いろんなポケモンとも決闘してみたいとか、そんなことを取り留めもなく話した。
「やっぱり、自分が知りつくした場所じゃなくて、知らない場所に行きたいよな」
 不意にあいつがそんなことを言った。その声がどうに爽やかで、あたしにはあいつが急に何処か遠くに行ってしまいそうで、二度と会えない予感がちらりとかすめた。
「そんなことするなよ!」
 急に大声を出したあたしを見て、あいつはきょとんとした。
「いいか、お前はあたしのライバルなんだ!あたしを殺すのお前でお前を殺すのはあたしだ。だから、あたしを殺さずにどっかにいくなんていう事したら・・」
 殺してやるから、と続けそうになって、自分の言ってることの矛盾に頭がこんがらがった。
 あいつはそんなあたしを見て、くすくす笑った後、当たり前だろとあたしを小突いた。
 

『詳しい情報は手に入り次第、お伝えします。では、次のお勧め商品に参りましょう!今度は大人気のバックの新商品です・・』


 あいつが決闘の約束をすっぽかしたことに、あたしは今までで一番腹を立てた。
 一回だって遅刻したこともなければ、約束を破るようなことをしなかったあいつが来なかったことの不安を、あたしは怒りで抑え込んで、勢いに任せてあいつのところに行くことにした。
 一度も飛び越えたことのなかった川を渡り、あいつが今まで踏みしめてきた道をたどる。
 少し森の先でひらけた空間が見えたから、あたしはそこにあいつをはじめとするハブネークが住んでいるんだと思ったのに。
 そこには、なんにもなかった。
 地面には無数の知らない足跡があった。今まで見たことのない足跡が、地面いっぱいに残っていた。
 

『さて、メグロコの革をなめして作ったこちらのバック、いかかでしょう?』
『非常に凝ったデザインですね。しかしこれよりもお勧め商品があるのです』


 あたしは泣いた。
 親父に殴られても兄貴とケンカしても母さんに怒られても婆ちゃんが倒れても爺ちゃんが死んでもあいつにボコボコにやられたって泣いたこと無かったのに。
 返せ!あたしは何かに叫ぶ。
 あたしの親友を返せ
 あたしのライバルを返せ
 あたしの一番大切なモノを返せ
 あたしの  あたしたちの生きがいを返せ

 あいつをどこにやっちまったんだ
 あいつを あいつを 返せよう

 ひらけたちいさなそのばしょは しらないあしあとと しらないにおいしかなかった
 

『気になる次の新商品は、CMの後で!』

 
 生きがいを失ったあたしの里は、みんな魂が抜けたようになっちまった。
 誰も爪を研ごうとしない。誰も稽古をしようとしない。
 婆ちゃんだけが、いつも爺ちゃんの墓参りに行ってただけだった。
「爺ちゃんは、本当に、幸せ者だね」
 そう言った次の日、婆ちゃんは、爺ちゃんの墓の前で冷たくなっていた。
 親父と母さんは婆ちゃんを里に持って帰って埋めた。里の中に初めてお墓ができた。
 
 あたしはいつもあの場所に行った。
 知らない足跡をいつも眺めた。日に日に薄くなっていく匂いを、とにかく覚えようと必死だった。
 ある日、大雨が降って、足跡も匂いもきれいさっぱり消えたけど、あたしはあの日をちっとも忘れられなかった。
 
 ・・そうだ、あいつは言ってたじゃないか。
 もっと世界が見たいって、いろんなポケモンと決闘がしたいって。
 あいつはきっと、ここからほんの少し遠くに行っただけなんだ。
 だったら、探せばいいじゃないか。
 こんな簡単なことに気がつかないなんて、あたしはどれだけ馬鹿なんだろう。
 あたしはあいつを探すことに決めた。
  

『こちらが今回の目玉商品になるバックでございます』
『これはなんのポケモンの革なんでしょうか?』
『ハブネークの革なのです。ハブネークはご存じのとおり、ザングースと常に敵対関係にあるため、たくさんの戦いをこなし、非常に強靭な体を持っています』
『しかし、大きな傷がありませんか?』
『そこが大きな特徴です。あえて傷のある革を使用するんです。何故ならそこが一番丈夫だからです』
『なるほど!ワイルドさもアピールできますね!』

 
 あたしはこれからも生きることに決めた。
 あたしはあいつを見つけ出し、あの日の決闘を申し込む。
 あたしはあいつを殺しにかかる。あいつもあたしを殺しにかかる。
 あいつの腹をあたしは切り裂いて、あいつはあたしの喉笛を喰いちぎる。
 それがあたしの夢なんだ。
 それが、一番幸せなんだ。

 今日もあたしはあいつを探している。


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余談   どうにか残っていた作品のログ。
師匠がどうしても! ・・とのお言葉を頂いたのでここに残しまする
いちおー、これのお題は【足跡】です
まともに考えたらこれが俺がここの正式な初投稿作品なんだよなぁ