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  [No.1142] [再投稿]最後の花束 投稿者:一刀流   投稿日:2011/05/05(Thu) 11:25:00   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 あれから一年が経とうとしていた。
 第三次世界大戦、徴兵令が発令され、私の恋人は遠い戦地へと赴いた。
「大丈夫。きっと帰ってくるよ。だからそれまで待っていてほしい」
 そう言い残して。
 
 三日前に世界大戦は終わった。勝利を手にしたのは、私たちの国が所属しているホウエン、ジョウト、カントー連合だ。
 もし、もしも彼が生きていれば今日、列車に乗って帰ってくるはずだ。
 重い不安と、強い期待を胸に、私はよそ行きのワンピースを着た。彼はお腹をすかしているかもしれないと、お握りを鞄に二つ放り込んだ。服が汚れているかもしれないと、洗った彼の服も持っていった。

 籍は入れていなかった。同居こそしていたものの、まだ籍は入れていない。
 籍を入れる手続きをしようと思っていたその日に、赤紙が届いたのだ。
  
 大勢の人がたくさんの荷物を持って駅のホームに並んでいた。子供連れの婦人が半分ほどの割合を占めている。子どもが「お父さんの乗ったポッポーまだ?」と言う声が耳を掠めた。一瞬、ポッポに乗って帰って来るのかと思ったが、すぐにそれが列車の比喩だということに気が付き、私は頬を赤らめた。
 
 皆が期待で胸を弾ませている中、歓声と共に列車がホームを貫いた。窓から顔を出したり腕を伸ばしている大勢の男の人たちを見て、きっとあの人も帰ってきていると確信した。あんなにたくさんの人がいるんだもの。あの人だけがいないわけがない。
 列車が停車すると中からあふれ出るように人が湧き出し、押し出すように人が殺到した。抱き合う人、赤ん坊を抱え込む人、恋人と思われる女性とキスする人。再会の喜び方は様々だった。
 そんな人たちを横目に見つつも、私は常にあの人を探していた。
 そして私が見たのは、土で汚れ、軍服のあちこちで穴が顔を出し、少し日焼けしたあの人だった。
 
 涙が頬を伝った。
 
 彼の視線は自分の胸に付けたペンダントと民衆を往復していた。戦地に赴く前に私が彼にプレゼントしたペンダントだ。中には私の写真が入れてある。
 私は感慨にふけっていて、彼の元に行くことなど忘れていた。しかし、彼がこちらを向いた瞬間に私は我に返った。彼はどういう反応をしたらいいかわからない様子で、それでもにっこりとほほ笑んだ。私は涙を流しながら彼のもとに駆け寄り、抱きついた。
 そして彼はそっと、私の耳元で囁いた。
 そして彼はもう一度ほほ笑んだ。
 そして彼は、消えた。

 





 空気を伝わる砲撃の衝撃音が森を揺るがした。葉と葉が身を寄せ合うたびに乾いた音を発する。
 森の中で、二人の男が茂みに身をゆだねていた。一人はペンダントを胸に、一人は銃を腕に。敵に見つかりにくい緑と茶色の軍用服をつけ、体中を土に塗(まみ)れさせていた。
 森にはたくさんの地雷が仕掛けてある。もし敵が突入してきた時でも、敵の戦力を減らせるように。地雷が仕掛けられた箇所は地図に記入されている。
「全く、俺たちも運がないな。よりによって突入部隊に入れられちまうなんて」
 銃を腕に抱えている男が言った。ペンダントを胸に付けた男が相槌をうつ。
「だけど死ぬわけにはいかない。だろ?」
 ペンダントを揺らし、時折息を切らしながら言った。肺も喉も、体中が悲鳴をあげていた。
 ──そう。死ぬわけにはいかないんだ。故郷で待つ最愛の人のことを思い、胸に下げた希望を腕で強く握りしめた。

 刹那、男に降りかかったのは血の雨。隣の男が撃たれたのだ。
「くそっ!」
 男は走った。このままでは自分にも流れ弾が当たる恐れがあったし、すでに自分の位置を知られているかもしれない。少なくとも、ここを離れるのが得策だと考えた。
 走る。背を曲げ、見つからないように細心の注意を払いながら、一心不乱に。撃たれた仲間が頭を過ぎる。その考えも置き去りにして男は走る。今まで見てきた幾数もの死んだ仲間たちが、過去から追いかけてくる。一層早く、男は走る。そして気がつく。

 ──地雷っ!!

 本当に僅かに盛り上がり、なおかつ土を掘り返された後がある。反射的に身体にブレーキを掛けた。
 息を弾ませながら、失った単調なリズムを取り戻そうと男は立ち止まる。
 
 ふと草の擦れる乾いた音が心臓を凍らせた。敵兵か。それとも味方か。あるいは風の悪戯か。次第に音は大きくなっていく。いつでも走りだせるよう、戦えるよう、男は身構える。
 
 現れたのは、黒い狐だった。とても小さな。恐らく先ほどの銃撃音を聞きつけ逃げてきたのだと考えた。
 安堵の息を漏らし、そして男に緊張が走った。
 黒い狐が真っ直ぐ、地雷の方向へと走って行ったから。





 気がつくと男はボロボロになっていた。辺りには置いて行かれた黒煙が空へと登れずに留まっている。
 
 不思議と痛みはなかった。

 黒煙の中から黒い狐がおぼつかない足取りで近寄ってきた。その口にはきらきらと光る希望が咥えられている。走り出した時にでも外れたのだろう。
 男は狐が持ってきた希望の中から覗く天使を見て、呻いた。
「君にもう一度会う事が出来たなら。どんな形でもいい。もう一度君に会う事が出来たなら」
 言い終わると少しずつ眠たくなってきた。世界が黒くかすんでいく。
 遠い世界に行く旅の途中、男は彼女へ送る花束として最後にこう言った。





 希望を咥えた黒い狐は走った。
 お母さんもお父さんも、お婆ちゃんもお爺ちゃんもみんな口をそろえて言っていたから。
 恩をいただいたら恩で返すのだと。
 希望を抱いた黒い狐は走った。男の残した最後の花束を彼女に届けるために。





「愛してるよ」



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一部保存していなかったため少し文章がかわっています。

最近全くアイディアが出ない。。。気分転換に初めからBWやろうかな。