[掲示板へもどる]
一括表示

  [No.1172] 千年星の七日 投稿者:紀成   投稿日:2011/05/10(Tue) 22:05:53   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

あるところに 千年彗星という 千年に一度だけ現れる巨大な流星がありました
その力を受け 千年に一度目覚める 不思議なポケモンがおりました
そのポケモンは 星の力を授かり 人々の願いを叶える力を持つといいます

さて 千年に一度といいますが 正確には 千年に一度 『七日間だけ』 目を覚ますのです
何度かの目覚めの期間に 彼は思いました
自分が寝ている間にも 宇宙は在り続けている この千年の間に どれだけ変わったのだろう

ポケモンは彗星に乗って様々な星を回る旅に出ました 七日だけですから 全ての星を回ることは出来ません
でも なるべく多くの星を回ろうと思っていました 自分が眠っている間にどんなことがあったのか
教えてもらおうと思ったのです

まず最初に来たのは 真っ赤に燃え滾る星でした 地表は熱い炎で覆われ 陽炎で遠くは見えません
地に降り立てばあっという間に熔けてしまうでしょう
ポケモンはなるべく地から離れて移動しました すると 大きな岩の上に 一人の少女が座っているのが見えました 右目に仮面をつけています
少女は何もせず 黙ってその燃え滾る星を見つめていました
「こんにちは」とポケモンは言いました
「こんにちは」と少女も言いました
「ここは何の星なの?」「星?」「だって銀河に浮かんでいるじゃないか」
少女はクックッと可笑しそうに笑いました
「そうだね 星かもしれないね ここは太陽に近い とても熱い場所なんだ 分かる?
太陽に愛されない者は冷たく凍りつき 反対に狂うほど愛されている者はこうなるんだ」
フレアが少女に襲いかかりました ですが 少女には傷一つつきません
「どうして君は火傷しないの」
「炎に対するくらい 冷たい何かに守られているからだよ この炎は私に触れることすら出来ない」

次にポケモンがやって来たのは クリーム色の星でした そこには一人の女性がいました
「あら 久々のお客様」とその女性は言いました
「話し相手がいなくて 寂しかったの 少しだけ相手になってくれる?」
「いいよ」とポケモンは応じました
「ここにはかつて 私を入れて三人が住んでいた でもある事から 別の場所に移っていったの」
「君は追いかけなかったの?」
「彼らが望む場所は 私の望む場所じゃなかった 身体を壊したりして迷惑をかけたくなかった
ただそれだけよ」
女性は儚く笑いました それは美しくも在り そうしか出来なかった自分への嘲笑のようでもありました
「貴方は何処へ向かうの ここもすぐに朽ちてしまうわよ」
「こんなに綺麗な星だけど」
「幼い時からの癖なの なんとなく ね」

次にポケモンがやって来たのは 美しい緑色の星でした そこには可愛らしい少女がいました
「僕は千年眠っていたんだ その間にあったことを話してよ」
「千年…ですか」と少女はオドオドしながら言いました「私がここに来たのは三百年前なんです」
「その前は?」
「遥か銀河の彼方にある 大きな星に住んでいました でもそれも二百年前に 滅んでしまいました」
「どうして?」
「皆が皆 同じ考え方だったからです 生物の誕生にもあるように 単純な構造は いつか破滅を招きます」
「そうなの」
少女は抱いていた草蛇のぬいぐるみを抱きしめました
「ここに一人でいて 寂しくない?」
「いいえ… と言えば 嘘になります 食べ物も水も空気もあります 住むには申し分無い環境です
でも 友達がいません」
「じゃあ 僕が友達になってあげるよ 千年待ってくれる?」
「はい ずっとお待ちしています」
ポケモンと少女は握手を交わしました

四番目の星は 少し変わっていました 紫色の星でした
「おいしそうだね君 残念だよ 満腹じゃなかったら食べてあげたんだけど」
赤い目の女性が 大量の骨の上に座っていました
「僕は鋼だから美味しくないよ」
「そう でも多少の足しにはなりそうだね」
女性は側にあった白い骨を齧りました
「僕はね 他人が嫌いなんだ 愚かで脆弱な奴らなんて この骨と同じくらいどうでもいい物
この骨を砕こうが 折ろうが 踏み潰そうが 僕の心は揺るぎもしないよ」
「どうして嫌いなの?」
「好き嫌いに理由も無いさ 僕が愛してるのは たった一つだけ」
女性はポケモンの小さな手を取って自分の胸に当てました
「聞こえる?この中に もう一つ生き物がいるんだ 孕んだわけじゃない ただ 彼は追われていた 僕は彼を守ると決めた 僕と彼は歪んだ愛で結ばれてる この身体を引き裂けば 彼は怒り狂って裂いた相手を殺すだろう
それでいいんだよ」
ポケモンは寒気がしましたが 不思議と嫌悪は感じませんでした

五番目に来た時 ポケモンは疲れていました
「長旅ご苦労様 何も無いが 休んで行ってくれ」
一人の男が岩で出来た椅子に座っていました ポケモンはその側にあった小さな椅子に座りました
「君はここに一人で暮らしてるの?」
「いや あと二人いる だが今は留守だ」
「どんな人?」
「ひと言では言い表せないな …性格は歪み無いな 多分」
男は疲れているようでした ポケモンよりも ずっと
「何かあったの」
「悪い夢を見たんだ あまり思い出したくないし 言いたくない」
それを聞いて ポケモンは何も言いませんでした
「君は何処から来たんだ」
「何処からって訳じゃないんだ ずっと銀河を旅してきた」
「いつからかな」
「千年」
男は驚いた顔をしましたが 冗談には聞こえなかったようです
「長いな」
「ねえ この千年の間に 何かあった?」
「私はあまり時間については詳しくない …別の人に聞きなさい」

六番目に来た時 ポケモンは既にあと二日で眠りにつく頃でした
その星は何処か奇妙でした 白と黒が混ざり合った マーブル模様のようです
「おや 久々のお客様だ」
男がステッキを持って立っていました 時折顔のビジョンがぼやけて 幾つなのか分かりません
「ねえ 君はいつからここにいるの」
「さて いつからでしょう あまり時間にはこだわらないので」
「どうして?」
男はシルクハットを被りなおしました
「世界の何処にいても 時間は平等に流れます 時差があっても かならずその日はやって来る
千年 一万年 一億年経っても それはきっと変わりないでしょう
勿論 星に住む者達がいなくなったとしても」
ポケモンは銀河を見つめました 色々な星が輝いています
彼らも 悠久の時を歩んで来たのです
「貴方は これからどうするのですか」
「もう一つ行って見るよ」
「そうですか お気をつけて」

最後の星に着いた時 ポケモンはあと一時間で眠りにつかなければなりませんでした
綺麗な黒い星には 銀色の髪をした美しい女性が星達を眺めていました
「はじめまして ここに住んでるの?」
「はじめまして? ううん 君と私は初対面じゃないよ」
そう言ってポケモンの顔を見た女性は 右目に仮面を付けていました
「あ」
「一番目の星で会ったね 千年彗星の王子様」
彼女は美しく成長していました 最初に会った時の面影は僅かです
「どうして君が」
「私にも分からない ただ これが未来の私なんだろうね 長い長い宇宙を旅するうちに 時間の感覚がおかしくなってしまったみたいだ」
ふと彼女がポケモンを見ると ポケモンは欠伸をしていました
「もう眠るのかい」
「うん ごめんね あんまり話せなくて」
ポケモンの身体が光に包まれます
「じゃあ 私の願い 聞いてくれるかな」

彼女はポケモンの短冊にそっと キスをしました

「君が千年経っても 一人ぼっちじゃないように」

眠り繭の状態になったポケモンは 彗星と共に 暗い宇宙に消えていきました
「おやすみ 良い夢を」

何処かで 彼は旅を続けています
また千年後 誰かにめぐり合えるように

――――――――――――
[描いてもいいのよ]