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  [No.1189] 鎮魂歌と幻影 投稿者:紀成   投稿日:2011/05/15(Sun) 16:56:31   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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「五月だというのに、息が白い」
ファントムは白い手袋をした手に吐息を吹きかけた。息は白い毛糸玉のようにふわりと舞い、一瞬で消えた。
とある煉瓦造りの建物の前で、ファントムは傘を畳んだ。ミドリ・ソラミネの新作で、黒地に白い装飾が施されている物だ。何だかんだ言って、ミドリの作る作品は気に入っている。このコートも彼女自ら手がけた物だ。
「Cafe Requiem、か… 何となくここだけ空気が冷たい気がするんだよね」
黒い看板に書かれた文字は、一般人が見れば素敵な雰囲気を醸し出すのに役立っている。もっとも、こんな辺鄙な場所に人が来るかどうかは不明だが。
ファントムは傘に付いた雫と、コートに纏わり付いて熱を奪っていく霧雨に顔をしかめながら、扉を開けた。

薄暗い。だが暗くもなく、丁度いい照明が灯っている。扉を閉めると同時に、外の世界とこの空間が切り離されたような錯覚に陥る。いや、錯覚…では無いのかもしれない。ただ、怯えてここで出ることはしなかった。
色彩と古びたレコードがとても良いイメージを作り出している。傘立てが無かったので、ファントムは側にいたゴビットに傘を預けた。一礼して下がるポケモン達。
そんなに広くない。目の前のカウンターの向こうで、一人の男がファントムに微笑みかけた。
「いらっしゃいませ」
「…どうも」
いつもならこんな言葉は返さない。だが、今のファントムはそれを搾り出すのが精一杯だった。その男の雰囲気が何とも言い難い…本当に何と言ったらいいのか分からなかった。何かモヤモヤするような、不快感。
「コーヒーでよろしいですか、レディ・ファントム」
「!」
「いえ、ここにいらっしゃるお客様に、貴方のことを知っている方がいるものですから。勿論、プライバシーの保護で誰とは言いませんよ。ああ、私のことはできればマスターと呼んでください」
「…」
何だか釈然としない気分で、ファントムは椅子に腰掛けた。白いカップに注がれたコーヒー。
「外は雨のようですね。雨はお嫌いですか」
「火は雨が嫌いだよ。でも私はそうでもない。自分の存在を消してくれる気がするから」
コーヒーを一口啜る。砂糖とは別の甘さが口の中に残り、ファントムは首を傾げた。
「…これ、砂糖じゃないよね」
「よく分かりましたね」
カップを磨きながら、マスターが言った。
「シンオウ地方に生息するミツハニーが取った蜂蜜を入れてみました」
とろりとした甘い感触が舌に溜まる。何となく不快感を感じてファントムはコーヒーで流し込んだ。
「おや、お客様が来たようですね」
「!」
いつの間にか、隣にはヨノワールが座っていた。モルテ…ではない。彼はもっと雰囲気が穏やかだ。彼の注文を聞いた後、マスターが笑って言った。
「かしこまりました」
今度は紅茶をいれている。今回も砂糖は入れずに…ジャムを入れた。ロシアンティーだ。二つのカップに入れる。仕上げにバラの花びらを散らす。
マスターはヨノワールと…ファントムの前にそれを置いた。
「頼んでないんだけど」
「あちらのお客様からでございます。お体が冷えては風邪を引く、と」
ヨノワールがお辞儀をした。側にいたムウマが頬を染めて騒ぐ。やはり♀ポケモンでもこういう事にときめく物なのか、と思いながらファントムは紅茶を啜った。
さっきのコーヒーよりかは甘くない。いつの間にか濡れていたコートも乾いていた。


帰りかげにヨノワールは一本の白いバラをファントムに渡して帰って行った。マスター曰く、『くれぐれも、そのバラが赤く染まらないように』と言っていたそうだ。
「モルテと同業者かな」
バラはマスターが用意してくれた水の入ったグラスの中で、静かに寝息をたてている。
「モルテ、とは?」
「私の友人。ヨノワールで、今は魂の回収をしてる。ギラティナに焦がれていた私を止めた」
「ほう。何とおっしゃったのですか?」
「…」
ファントムは少し躊躇った後、言った。

「お前が夢を叶える代わりに死ぬことなんて、誰も望んでいない」

しばらくの沈黙。レコードが新しい音楽を奏で始めた。モーツァルトの、『鎮魂歌』だ。
「優しいお方ですね」
「同情で言われた気はしなかった。本気の目だった。…一つ目の本気ってどんなか分からないだろうけど」
外はまだ雨が降っているらしい。音楽が途切れるごとに、雨音がしみこんでくる。
「そろそろ帰るよ。ありがとう」
「またいつでもどうぞ。レディ・ファントム。…いえ、火宮香織嬢」
ぴたり、と帰りがけの足が止まった。カゲボウズ達が騒ぎ出す。
「そのバラ、預けとくよ。いつかモルテがここに来たら、あげてくれ。ファントムからの贈り物だと」
「かしこまりました」
もう振り返らない。ファントムはゆっくりと雨の中へ出て行った。


「彼女が、あの死神が愛する者ですか」
誰もいない店内で、マスターは楽しげに笑った。

雨はまだ、止みそうにない。

――――――――――――――――
オワタ(色んな意味で)とりあえず今言っておく。
書いてて楽しかった!久方さん、ありがとうございました!


  [No.1191] コラボ! コラボ! 投稿者:久方小風夜   投稿日:2011/05/15(Sun) 20:54:36   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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うちのマスターとファントム嬢のコラボキタ―――――(゜∀゜)―――――ッ!!


紀成さんの文章から漂うおしゃれな感じがたまりません……なにこれ素敵すぎる。
コーヒーに蜂蜜とかバラの花入りロシアンティーとかおしゃれるぎるうあああああ!!
そしてやだこのマスターカッコいい……自宅にいる時の軽く数千倍は輝いている……! ハアハア(*´Д`)

こちら、自宅にお持ち帰りしてもよろしいでしょうかっ!


ではでは、ありがとうございました!
こっちもじわじわ頑張ります―


  [No.1195] どうぞどうぞ 投稿者:紀成   投稿日:2011/05/16(Mon) 22:36:13   29clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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> うちのマスターとファントム嬢のコラボキタ―――――(゜∀゜)―――――ッ!!

構想二週間、執筆四時間です。キャラが分からなくて迷いました。
挙句の果てに久方様のサイトを覗いて確認する始末…

>
> 紀成さんの文章から漂うおしゃれな感じがたまりません……なにこれ素敵すぎる。
> コーヒーに蜂蜜とかバラの花入りロシアンティーとかおしゃれるぎるうあああああ!!

一度ロシアンティーは出してみたかったのですよ
女性客限定ということでどうでしょう(

> そしてやだこのマスターカッコいい……自宅にいる時の軽く数千倍は輝いている……! ハアハア(*´Д`)

ここらが限界です もっとかっこよく書きたい

> こちら、自宅にお持ち帰りしてもよろしいでしょうかっ!

[何をしてもいいのよ]

> ではでは、ありがとうございました!
> こっちもじわじわ頑張ります―

よろしくお願いします!では。