俺は正直ボロ雑巾だった。
そりゃまぁ、なぁ。40後半になって養う家族の一つもいなけりゃ些細なミスを積み重ねればいつかはクビにだってなるだろうけども、この年で浮浪者なんかになるとは思わないって。
慣れない公園ぐらしは街の清掃員に追い出された。まったく、ここは外ばかりはキラキラとネオンで飾り立てるが裏を返せばそれだけ隠したいものがいっぱいあるってことだ。
たとえば路地裏のスクラップ置き場。異臭を放つここには可燃不燃プラスチック缶瓶粗大ごみなんだって投げ込まれる。
人間のゴミもここであってんのか? 笑えないことを考えながら、足元に転がった缶を派手に蹴り飛ばした。
「やぁーぶ!」
暗がりの中で蹴飛ばした缶を追いかけるゴミ袋を見つけた。
なんじゃありゃ。真っ暗な闇の中、ヘドロみたいな緑色をした生き物があるいてきた。ゴミが凝り固まったみたいな手に持っているのは、俺が蹴飛ばし少しへこんだアルミ缶。
ボロボロのズボンを持っていない方の手でばしばし叩く。よごれるからやめろ、と言いたいがすでにズタボロなんだからこれ以上ボロくさくなってもいいか、と諦める。
どうやら俺に向かって何やら怒っているらしい。ただ俺はれっきとした人間だ。おまけにピュアでもイノセントでもないもんだからこいつの言っていることが分からない。
ぐいっと一回ズボンをひっぱって、歩き出す。
しばらく歩いてこっちを見上げた。どことなく咎める様に見てくるってことはついてこいってことなのか?
職はないが時間はある。面白半分でついて行った。
ついた先は、コンビニだった。
そしてそいつは何をしたと思う?
俺の目の前で、コンビニの前に置いてある缶のゴミ箱に俺が蹴飛ばした缶を捨てやがった。しかもちゃんと、『アルミ缶』って書いてある方に。
そうした後に俺を見上げ、ばしばしと今度はゴミ箱を叩く。
『ちゃんとごみはゴミ箱に捨てなさい』と説教されている気分になった。
そのあとに笑いがこみ上げる。ゴミみたいに落ちぶれた人間が、ゴミ袋にごみの捨て方を説教されるなんて、傑作じゃないか!
ひとしきり笑ったあと、きょとんとしているヤブクロンに謝る。俺が悪かったよ。
満足したのか、ヤブクロンがくるっと踵を返して路地に帰っていく。
好奇心か、きまぐれか、俺はそいつについて行ってみた。
ヤブクロンはごそごそと器用にさっきのスクラップの山の中に帰っていく。真似してガラガラ音を立てながら入ってみると、驚いた。
だってそいつ、何やってたと思う?
スクラップ置き場は可燃不燃プラスチック缶瓶粗大ごみが投げ込まれてる。
そしてそいつは、可燃ごみ、不燃ごみ、プラスチックに缶、ビン、挙句粗大ゴミ。全部、分別してやがった。
奥の方はチラチーノ顔負け並みに整然とゴミが綺麗に分別されている。表の方のはきっとまだ手が回ってない奴なんだろう。
見たところ、他にこいつ以外にヤブクロンはおろか、ダストダスだっていない。
じゃあ、こいつ全部これ一人でやったのか!?
なんとゆー根性。あぁ、でも、ポケモンってやることなさげだもんな。俺なんかそのやることすらまともにできないから会社クビになったんだけど。
がらん、動いた拍子に積まれていたなんかのゴミが落ちた。派手な音にヤブクロンが振り向く。
えーと、なんて言い訳すればいいんだ?
困った俺はとりあえず、手直にあった燃えないゴミをヤブクロン流に分類されてるところに持っていく。
置こうとしたら、止められた。え?違うの?あっち?指された方に持っていく。ヤブクロンが嬉しそうに撥ねた。
あーー…、俺はどうせ、社会のゴミみたいなものだからなぁ。ここでゴミ分別やるのも、面白いかもなぁ。
「なぁ、俺しばらくここに捨てられてもいいか?」
冗談みたいに言ってみた。ヤブクロンがしばらく考える。そしてばしばしと俺を殴った。なんだよもう。
「分かったわかった、捨てるんじゃなくて、しばらくここでお前を手伝うってことなら?」
・・それならいいのね。どうやらこのヤブクロン、捨てる、という言葉に反応するみたいだ。
深夜の街角でがらんがらんと音がする。
とあるスクラップ置き場は、今日も無限のゴミを分別している。
缶 じゃない
完
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余談 朱雀様に捧げまするリクエスト(でもないか)
『適当な名前で入って正体がばれたらリクエストを受ける』チャットで見事に正体がばれてその場で書いたようなもんです。
【ほぼまんまなのよ】
【なにしてくれてもいいのよ】