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  [No.1209] You can do! 投稿者:でりでり   《URL》   投稿日:2011/05/20(Fri) 19:57:50   140clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 きっかけはとある春の日の体育の授業だった。
 たまたま風邪をひいてて見学していた私は、アクティブさが微塵も感じられない女子のバレーから目を背けて、男子のサッカーを見つめていた。
 ……いや、気付けばいつの間にか私の目線は薄汚れたサッカーボールから一人の男子を捉えていた。
 走り回りながらも決してしんどそうな顔を見せず笑顔でグラウンドを軽い身のこなしで駆け抜け、チームの皆に指示を出すあの男子。
 確か大和っていう名前だったかな。中学二年生に上がったばかりだから、クラスメイトとはいえクラス替えしたばかりだし、そもそも異性の名前というものは覚えにくいものである。
 とにもかくにも不思議な引力が働いて、私は彼から目が離せないでいた。
 相手のディフェンスをフェイントでかわし、ゴールネットにボールを突き刺してはしゃぐ彼。私もつられてガッツポーズして、ちょっとしてから何やってるんだろうと思ったけれども、それは沸き立つ感情からしたら些細なものであって、咎める気にはならなかった。
 気付けば体育が終わってからのその日の授業も、黒板や見飽きた教師ではなく、斜め前の席に座る彼の後ろ姿ばかり眺めていた。
 学校が終わり日が暮れて、家に帰っても上の空。家族も訝しげな目で私を見ていたけど、どうも何にも身が入らない。心配する家族をよそに唯一じゃれてきた弟のニャースには、げんこつもといミニアームハンマーをしたらその日は寄ってこなくなった。
 もちろんこの上の空の理由は分かる。寝ようとベッドに転がりこんでも、昼の出来事……いや、彼の姿が頭から離れない。
 こういう気持ちは少女漫画とかドラマとかで知っている。
「恋……ってやつなのかな」
 と自分に言い聞かせたつもりでぽつんと呟いたのだが、ベッドの隣でソーナノ! と私の唯一な手持ちが大声を出した。馬鹿にされてる気がして腹が立つ。手の届く範囲にあったぬいぐるみをなげつけると、小さな悲鳴があったがすぐに黙った。ほがらかポケモンなんだ。どうせまた笑顔をこちらに向けるに決まっている。



 翌日は朝からひどくブルーだった。
 今日は授業でポケモンバトルの実習がある。実習自体は好きだ。体力に差があるから男女別に分けられる体育と違って、男女合同でこの実習は行われる。私からしたらとろくさい女子と生ぬるいことをしなくていいし、……何より勉強が苦手だからこういう授業はおお助かりなのだ。
 が、そのポケモンを忘れて来てしまった。
 と私は右手にモンスターボールを持ちながら思った。
 これに入ってるあのバカソーナノはこれっぽっちもバトルに向かない。バカバカいいながらそれなりにきちんと可愛がっているのだが、ソーナノがする受身なバトルはせっかちな私には向きやしない。だから大概は喚く弟の頭をはたいてニャースを連行する。あのニャースは甘いものさえ与えればちゃんと言うことを聞いてくれるのだ。
 しかし上の空の弊害で、実習のことを思い出したのは登校してきてからだった。ああ、弱った。他にも頭の中でぐちゃぐちゃ考えていたけど、もちろんどうにもなりそうになかった。



 どうしようなんて答えのでない考えを放棄して、相変わらず大和君の背中を見ているとあっという間に授業は進み、三時間目に実習が入る。
 うちのクラス四十人がゾロゾロとグラウンドまで出ると、思い思いにポケモンをモンスターボールを繰り出す。イシツブテやらコロモリやらケムッソチョロネコマグマッグ……、あとソーナノ。
 このソーナノを実習どころか他のポケモンがこんなにいっぱいいるところで出したのは初めてで、ぴょこぴょこ飛び回りながらあちこち走り出す。
「あ、ちょっと!」
 まだ子供のソーナノは、物珍しさからか他のいろんなポケモンの方へ駆け寄り様子を見てはまた別のポケモンを見る。それを追いかけていると、ソーナノは終いには他人のポケモンとぶつかってしまう。ぶつかられたバルキーも、ぶつかったソーナノも別にケガをするでもなかったが、迷惑なのは迷惑だ。ソーナノを抱き抱えてトレーナーに謝る。
「うちのソーナノが迷惑かけてごめん!」
「ん? 全然大丈夫だよ」
 テンパりながら謝ってから気付いた。バルキーのトレーナーは大和君だった。意識してしまったせいか、なおさら申し訳なくなる。
「なかなか可愛いソーナノだね」
「そっ、そうかな……」
 それに反応して、ソーナノ! と足元から声が聞こえてうるさい黙れ、いつも通りはたこうと右手を振り上げたが、ここは彼の手前、あははと誤魔化して右手で後頭部を撫でる。
「えー、今日はマルチバトルをします。適当にペアを見つけて、他のペアと自由に対戦してください」
 やや年老いたおばさん教師がにこやかに言い放つと、他のクラスメイトたちは思い思いにペアを組み始める。どうしよう、そう思ったときすぐそこから声がかかる。
「ねぇ、よかったら俺と組まない?」
「えっ!? わっ、私でいいの?」
 大和君が声をかけてくれた。しかし彼は私が驚いたことが想定外だったのか、困惑した表情を作る。
「ダメ……かな?」
「ソーナノ!」
「あんたうるさい! ……じゃなくて、むしろこちらこそ!」
「良かった、それじゃあ行こうか」
 私と彼の優しげな目が合うと、なぜだかまっすぐ見ていられなくて視線を逃がし、彼の問いかけに対して自分で言ったか言っていないかわからないくらいでうんとしか答えれなかった。
 対戦相手は大和君とよく一緒にいる男子の友人ら二人組。対戦する前に、大和、女子と組んでるのかよーと冷やかされて、彼の評価に悪影響を与えたかと思い、うつむいてしまったが、彼はそんな友人の言葉を軽く流して私に頑張ろうな、と優しく声をかけてくれた。
 でもソーナノで頑張れるのだろうか。先行きの不安から、苦笑しつつうんとだけ返す。足を引っ張るのだけは避けよう。彼の面子のためにも、私自身のプライドのためにも。
 先生の合図によって一斉にマルチバトルがあちこちで始まる。私たちもそれに続き、早速声が飛び交った。私たちは無論ソーナノとバルキー。向こうはブビィとクルミル。上手い具合に物理攻撃も特殊攻撃も出来そうなコンビじゃないか。ただただ投げやりにカウンターかミラーコートを指示するだけじゃどうにもなりそうにない。だったら!
「体当たりだクルミル」
「ブビィ、睨み付ける!」
 来た! その指示を待っていた!
「ソーナノ、ブビィにアンコール!」
 そして私は大和君の方を向いて、また目が合ってややドキリと心臓が大きく鐘を鳴らしたが、クルミルをお願い、と早口で伝えたいことが言えた。でもそれが上ずった声だったから、その声が自分の耳に入ったとき恥ずかしさから顔まで赤くなって、誤魔化そうと再びポケモンたちに視線を向けた。
 彼の指示と共にバルキーがクルミルに猫だましをしかけ、怯んで動けない横をソーナノがぴょこぴょこ跳ねて場を睨み付けるブビィの元に向かい、アンコールを仕掛ける。決まった、これでブビィは封じた!
 陽は高く影は伸びていないというのに、狙ったかそうでないかは知らないけどソーナノが良いポジションにいる。
「ブビィ、火の粉だって! 睨み付けるじゃなくて!」
 あの男子は相当バカみたいだ。鼻でふんと笑って、ソーナノにそこから動かないでと指示する。するとこちらを向いてソーナノ? と首をかしげたもんだから、ああバカばっかりだと思う。なんとか足踏みするジェスチャーで伝えたら、ソーナノは頭を縦に振る。
「バルキー、クルミルにバレットパンチだ!」
「クルミル、後ろに下がって避けろ!」
 猫だましから続けて一撃喰らわそうと右手を振りかぶるバルキーの攻撃を避けようとする指示だろう。しかし、クルミルは動けない。バレットパンチを受けても動かないクルミルを、バルキーはぼこぼこにする。さすがに可哀想になってきた。
「もういいよ、ソーナノ」
 トリックは簡単、特性影踏みは、影を踏んだ相手の動きを任意である程度は抑える効果。これでクルミルをサンドバッグにしたのだ。すっかり動けなくなったクルミルをボールに戻した男子をよそに、ブビィはようやく動けるようになったらしい。
「ブビィ、今度こそ火の粉!」
「ミラーコート」
 油断だらけだ。さっきから火の粉火の粉って言っていたら、こう対処すればいいだけで、ソーナノが受けたエネルギーの倍のエネルギーをそのまま返せばあっさりブビィは動けなくなった。
「ふぅ……」
 ほっと胸を撫で下ろす。大和君の足を引っ張るとかそんなこともなく無事に勝てた。そうのんびり余韻にひたる間もなく、大和君がやったな! と声をかけてくれる。そして彼は右手を顔の横くらいに持ち上げる。それが何を意味してるか分からないでボンヤリしていると。
「ハイタッチ」
 と彼に言われて慌てて右手を彼のと重ねる。
 パシィンと響かせて、彼の肌に触れたんだなぁと思うと、右手が感じる温もり以上に顔が熱くなって真っ赤になる。
 またまたうつむいてしまうと、大丈夫か? 保健室行く? と尋ねられて慌てて首を横に振る。
 あぁ、保健室の先生が恋の病とか直せたなら喜んで行ったのになぁ。



 それからと言うものの私の上の空具合は加速して、上の宇宙(そら)まで行ってしまった。
 当然他の授業に身が入ることもなく、なんと大和君の背中を見るだけで顔が赤くなる! これにはダルマッカもビックリ間違いない。
 なんとかしなくちゃいけない。このままではたぶんぼんやりしすぎて帰り道に事故にでも遭いそうだ。
 じゃあどうしろと。
 十歳年が離れていて去年結婚をした従兄弟は、恋愛は恐ろしいぞがははとこの前言っていた。恐ろしすぎてどうにかなりそうだった。
 そんなことを考えてる帰りの道中である。ついでなのでソーナノを連れながらぼんやり歩いていると、背後から私の名前を呼ぶ声がした。
 もしかしてと振り返れば、大和君が駆け足でこちらにやってきていた。
「ど、どうしたの? そんなに慌てて!」
「気になることがあってさ……」
「気になる……こと?」
「バトルの実習からずっとぼんやりしてたから、やっぱり何かあったのかなって思って……」
 貴方のせいだなんて言えない。
「もしかして俺のせい? 何かしてたなら謝るから!」
 なんて急所に当たる一撃。て、適当に誤魔化して帰ろう!
 そう踵を返そうとしたら、足がコンクリートとひっついたかのように動かない! まさか。こいつめ!
 どうやら上半身はある程度動くようなので、首を動かしてこいつ、ソーナノの方を見れば……予想通りだった。
 私の影を踏んでいやがる。
 私に何を期待しているんだまったく!
「と、とりあえずごめん!」
「あ、謝らないで。何もないし、あったとしても私のせいだし」
 そう言った途端ビターン! と、かなり派手な音がした。発生源はまたもやソーナノ。恐る恐るソーナノを見れば、またもやしっぽを持ち上げてアスファルトに叩きつける。ビターン。ソーナノのこの習性は怒ったときにするものであって、つまりこいつは今絶賛お怒り中なのだ。大和君も呆気に取られている。
 私をこのタイミングで影踏みした挙げ句怒ってるとなると……。
「ごめん、嘘ついた。実は大和君のせい」
 ほら止んだ。ソーナノは険しい表情からいつものようなニコニコ笑顔に戻った。
「おっ、俺何かしたかな。責任取れるなら取るから!」
 こうなったらやけだやけ! 顔だけじゃなく、身体中まで熱くなって、今の私は茹で蛸と区別がつかないだろう。でもソーナノのせいでどうすることも出来なくて、ええいままよ! 大和君ごめんなさい!
「大和君のことばっか考えちゃってて、いろんなことに身が入らないから……。だから、責任取って私と付き合って!」
 ふわりとした感覚とともに、下半身の自由が効くようになった。もう何言ってんだ私! このまま蒸発するかダッシュで逃げたい! ほら大和君だって戸惑って……あれ?
「お、俺でいいなら……」
 うっそだー。まさかの展開に逃げることを忘れていると、脇からソーナノ! と聞き飽きた声がする。
 何であんたが返事すんのよ、それが可笑しくって笑い出すと、つられて彼も笑い出す。
 春の空に二つの笑い声がこだまする。


───
【好きにしていいのよ】

チャットでもらったネタ「影踏みとか黒いまなざしとかその辺で書け」というお題を消化。
ただ普通にやるだけじゃつまらないので奇をてらしてみました。
書いててソーナノ可愛いなとか思ってたんだけどこいつ60cmもあるんだって!
でかい!!
ちなみにこの一カ月の間にこんなイチャイチャものを三作書いてて非リアなわたしはめげそうです。


  [No.1222] Re: You can do! 投稿者:   《URL》   投稿日:2011/05/23(Mon) 23:50:41   50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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あわわわわ

無茶振りみたいなお題をこんな形で昇華してくださってありがとうございます! まさか恋愛方面でくるとは……しかもソーナノの魅力に気付いてしまいましたよ。ソーナノ!

一目惚れして体育の授業で組になってその上向こうから心配しながらやってくるなんてもう甘くて美味しいです。甘々で胸焼けしますが、それも味の内。こういう恋愛物だいすきです。甘いモノってほっとするんです。

> 「ブビィ、今度こそ火の粉!」
> 「ミラーコート」
>  油断だらけだ。さっきから火の粉火の粉って言っていたら、こう対処すればいいだけ

このバトル描写が好きです。サックリ攻略してる感じが好きです。

>  どうやら上半身はある程度動くようなので、首を動かしてこいつ、ソーナノの方を見れば……予想通りだった。
>  私の影を踏んでいやがる。

ソーナノさんいい仕事をしてらっしゃる! 強引に告白させる流れにもってくソーナノさんに敬服せざるを得ません。
こっから最後まで、こっちが恥ずかしくなって落ち着いて読めませんでした。でも、青春ばんざい。

甘いのありがとうございました。


  [No.1223] Re: You can do! 投稿者:でりでり   投稿日:2011/05/24(Tue) 07:42:48   46clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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まさかわたし自身もこんな五千字も書くなんて思ってませんでした。
それと最初はソーナンスの予定だったんですが、ソーナノにして良かったなあと重々思います。ソーナノ可愛いからまたいつの機会か出したいなぁ……。

このシチュエーションは中々気に入ってます!
わたしも甘いのは大好きなので、いつかもっと甘々でにやにやが止まらないのを書きたいなあ、なんて。

本当はミラーコートの描写もきっちりしたかったんですがよく分からなかったので雑になっちゃいました。
ソーナノの影踏みも完全に自己解釈の結果、こうなりました。
ちなみに書いてるこちらも落ち着いて書けませんでしたw
青春万歳!

感想とお題提供ありがとうございました。