鏡よ鏡よ、鏡さん?
きれいなのはボク? それともキミ?
見つめ合うのは二組の目。
鏡のようにそっくりで、それなのに鏡じゃないんだ。
ボクの目のまえには、赤いキミ。ふわふわの耳が、ちょこちょこゆれている。
ボクらの家、街にちょっと近い森の中にある、ボクらの場所。
ついさっき、通りがかったジグザグマさんがこう言った。
まるで鏡のよう。
ボクは、鏡じゃないから、キミが鏡?
だけれどけれど、キミから見たら、ボクが鏡?
自分は自分で見れないから、キミとボクの手を見比べてみよう。
キミは赤。ボクは青。
形はそっくり、違うのは色。
あえて言うなら、ほっぺたの形も、手の大きさもちょっとずつ違ってはいるはずだけど。
お互いに手のひらを合わせてみれば、ボクの手のほうがほんの少し大きいんだ。
そっくりに見える、ボクらは二人。
キミは鏡? ボクが鏡?
だけれどけれど、手の色は違うんだ。大きさだって、少しだけでも、それでも違う。
ちょっとずつ、違っているから、同じじゃないだろう?
だからだから、ボクらはきっと違うんだ。
「鏡のように」は、例えばの話なんだから。
何でキミは、この話になるとそんなに神経質になるんだい?
うつむく私の耳は赤。
私達の家には、ふかふか落ち葉のじゅうたんが敷かれているの。
じゅうたんの上に転がるのは、オレンのみ。
ジグザグマさんが置いていった、木の実と言葉。
気が付いたときには、一緒にいた。
周りの人には「そっくりさんね」といわれてきたの。
まるで鏡のようにって。
生まれた場所は違うはずで、生まれたときも違うんでしょう?
でもでも、確認するには遅すぎて。
時の掃除屋さんがさっさと、何処かに片付けてしまった。
私と君は家族の様なものだけれど、双子じゃないのでしょう?
プラスルとマイナン。
君は言ったよね、私がプラスルで君がマイナンだって、説明してくれた。
君が人間の町に殴りこみに行った後、よく分からない資料を持って戻ってきたその時に。
字は読めなくて、よく分からなかったけれど。
違うんでしょう、そうでしょう?
なら、何で……私と君は「鏡のように」そっくりなの?
「ねえ、私と帽子を交換してみない?」
「ボクらの帽子は取れないよ」
「何とかして取替えっこできないの?」
「……きっと、大切なものを失うよ」
「なら、色を交換してみましょ?」
「色を交換って、ボクらの服は脱げないよ」
「ならなら、ペンキで色を変えてみましょ?」
「ボクはあんなもの、大嫌いだし、街に行くなんて許さない。人間は怖いんだ」
「つまらないの。ならなら、一緒に水たまりを覗き込んでみない?」
「いいよそれなら。早く行こう? 」
でもでも、水たまりに映ったのは私だけ。
水の波紋が邪魔して君が見えないの。
波紋だけじゃない、雲も葉っぱも風も。なんで君を隠しちゃうの?
私は君の鏡じゃないの。そうでしょう?
でも、君のそばに居たら私は鏡のまま?
誰もが言うの「鏡に映ったみたいにそっくりな双子」って。
私達は双子じゃないの、なら残るのは鏡だけ?
わからない、鏡って何?
水たまりは、鏡の代わりになっているの?
君は青で、私は赤。
でもでも、水たまりは君を映してくれなかった。
私は、何を信じればいいの?
鏡を探す? どうやって。
風が、通り過ぎていった。風の中には、こことは違った香りが混じっていた。
ここにないなら、探しに行けばいいよね?
キミが居なくなった。
ボクらは双子じゃない。なのに似ている。
だから言われるんだ「鏡に映ったような」と。
ボクは鏡? 違うだろう?
キミは鏡じゃない。鏡は動かないだろう?
何で分からないんだよ、「鏡」は例えなんだよ。
ボクは「青」のマイナン。
キミは「赤」のプラスル。
「マイナス」と「プラス」は違うんだ。
生まれも時もどっかに消えた。 在るのは今。
君がいなくなったとたん、ラクライがボクらの家に押し入った。
一人だけではどうしようもなくて、飛ばされて叩きつけられて。
ボクもキミも、一人では非力なんだ。だけれど、二人だったら強くなれる。
似ているけれど違う、そんな二人だから、一緒に居れば、強くなれるんだ。
意地悪なラクライは、怪我をしたボクを見てにやりと笑った。
ボク一人では、誰にも勝てないんだ。
このまま、ボクらはこの場所……生きてきた場所を奪われるのか?
キミは、それでいいの?
ボクらはこの家を守って、そこで暮らしてきた。
キミが居なくては、守れない場所。
これ以上一人で戦ったとしても、ボクは壁に叩きつけられるだけ。
キミは、どこにいる?
私は言ったの「大嫌い」って。
君は「青」、私は「赤」。でもでもそっくりなの、私は鏡?
私は鏡じゃないなりたくない。そんな、知りもしないものになんかなりたくない。
だから、君を突き放したの「大嫌い」って。君と一緒にいるから、私は鏡になっちゃうのでしょう?
走るのは草むら、鏡を探して私を見つける。だから走るの。
キミを突き放したのは夕方。おやすみお日さま、おはようお月さま。
あすふぁるとという道は固くて、足が少し痛くなってきた。
でもでも私は止まらないの、止まれないの。
ねえねえお月さま。あなたはどこにでも居て、その場所からどこでも見ることができるのでしょう?
鏡って何? 答えを頂戴、お月さま。
あすふぁるとの横、がさがさ草むらが動いた。
地面に転がる怠け者さん、あなたは誰の影?
君は私が突き放した。鏡になりたくなくて。
私を鏡にする君は「大嫌い」……ううん、違うの。
私が嫌いなのは私自身。君だって、わざとじゃないはず。
だから、八つ当たりなんかで、君を突き放すなんて事をしてしまった私が、嫌いなの。
でもねでもね、私は私が大切なんだよ?
なんだって、始まるのは自分から。
私の世界は私が居なきゃ成り立たないの。 だから、だから。
どうしても、自分以外のものに押し付けたくなる。大切な物を傷つけたくなんてないから。
閃光が散って、目がくらんだ。何かが迫ってくるのはわかるのに、よけれない。
柄の悪い「ライボルト」なんかに負けたことはなかったよ。
いつも、追い返してやったよね。それは、君が居たから。
私一人じゃ何も出来ない、何もさせてもらえない。
さよなら地面、私は空を飛んだ。
私は知ったよ。土の味はとってもまずいんだね。
ごめんね君。私が嫌いなのは君じゃなくて……
ねえねえ君は、来てくれる?
君は鏡を知っているの? 私を助けてくれる?
虫がいいのはわかっているの。
でもでも、君が居ないなんて考えたことがないの、考えられない。
君もそうなんでしょ? ねえ、青い影となって現れ君。
火花が散る、てだすけはいつもの通り、お願いね?
バチバチ光って、電気は影の眠りを覚ましてやるの。
そうすれば、どんな影だって起きて光ってあたりは明るくなるよ。
「マイナス」の君、「プラス」の私。そろってはじめて強くなる。
最初から、君に聞けばよかったんだ。君は、知っていたのでしょう?
昔のこと、思い出したよ?
君は以前、家出したよね。私を置いて、人間の町へ行っちゃった。
怒ったよ私。君も今、怒っている? それとも呆れているの?
君が街を嫌いになったのは、それからだよね。
あの時も、ライボルトに吹っ飛ばされた。なんだか怒りたくなってきたよ。
飛んでいったライボルトを、ラクライが数人追っかけていった。
家に帰ろう、占領されているなら取り戻そう。話はそれから。
結局、私は鏡を知らない。自分を写すなら、水も同じじゃないの?
鏡を見るためだけに人間に近付くなんて、馬鹿らしいよね。
わからないから、自分なりに考えてみた。私が納得できればそれでいい。だから、聞いて?
私も君もそっくり鏡、そう考えた。
でもでも、そっくりでも別の鏡なんだよ?
何でも映す鏡には、いろんなことが映りすぎて何も見えなくなる。
でもでも、その何処か、君の鏡には私が、私の鏡には君が一緒に映っていた。
いっぱい邪魔されて見えなくなるときもあるけれど、近くにいる。
誰だって……一緒に居れば、鏡のように映り込むんだ。
私の中には君が写って、少し君に似てくるんだ。長く一緒に居れば居るほど。
だけれどけれど、元の鏡は別のもの。ね
ふしぎふしぎ、人の中に別の人。
自分の中に、世界のあらゆる物が。そうでしょう?
私は鏡、君も鏡。お互いを映す心の多面鏡。
ボクも鏡でキミも鏡。
キミは難しいことを考えるなあ。
キミにはボクの中に、キミ自身を見ることが出来るのかい?
答えは要らない、見つけてみせる。
ボクに出来る精いっぱいの意地さ。
鏡よ鏡よ鏡さん。
きれいなのは私? それとも君?
見つめ合うのは二組の目。
シンクロして動く、二組の耳。
形はそっくりだけれど、色が違う。
赤いのが私。青いのが君。
鏡のようにそっくりで、でもでも違うの。
私の鏡のなか、やっと見つけた君の姿。そして私の姿。
水たまりの中には空が映っている。
お空の鏡には天気が映っている。
だけれどだけど、私の心の鏡に映るのは君。
でもでも、僕の心の鏡には君が映っている。
私達は、あなた達のどんな部分に表れていますか?
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コンテストに一度出させてもらったものです。
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