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  [No.1384] 跋渉 投稿者:茶色   投稿日:2011/07/03(Sun) 15:43:05   106clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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   跋渉


 歩く。
 飛ぶ。


 人が過ちを犯した森、黒こげの幹が残っていた。
 あたり一帯が焼け野原になっていた。
 この森を燃やした木の葉はもう残っていない。その木の葉をつける木は、一本も残っていない。

 愚かなことだ。森は少しずつ燃えるものだということも知らず、火がつく度に火を消した。
 たまりにたまった木の葉や枯れ木は一気に燃え上がった。そして森が消えた。

 これが愚かと言わずなんと言おう?
 森を殺したのは火ではなく、人なのだ。
 浅はかな考えで小火を消して、大火を招いた。


 木の葉の燃えカスが白のスニーカーを灰色に染める。
 ヂリヂリと燃えた木の葉は灰色になって、前と同じように地面を覆っている。私が踏んだ所だけ、私の足の跡がついた。
 木の燃えカスが灰色のスニーカーを黒く染める。
 パチパチと燃えた木は黒い炭になって、灰色の地面の上に転がっている。踏んでも感触すらない。踏んだ所だけが砕けた。

 屍臭がする。
 黒く焼け焦げた屍骸の群れ。
 火が消えて日が経とうというのに、足跡一つ残っていない。
 山から山を渡り歩き、かつての森を端から端まで歩き回っても、一つも残っていない。
 捕食者も被食者も、植物も動物も全ていなくなったのだ。いるとすれば、目には見えない、肉を腐す彼らだけなのだ。


 歩く。飛ぶ。

 丘を越えた。谷を越えた。東に向かった。西に向かった。
 続くのは空の青と白、大地の灰と黒。

 諦めがついた。もうこの森は死んだ。
 私は灰の混じった川に沿って歩き出す。もうここにはいたくない。

 ひょろろろろー

 空にいる彼が鳴いた。彼は何かを見つけたのか、一直線に丘を越えていった。
 私は彼を追いかける。
 丘を越えると、とりわけ大きな木の幹が見えた。炭となった木の幹があった。
 彼はその上空を回っている。ここだよ、と私に告げている。
 私は丘を降りて行った。初めは気付かなかったが川の方から緑色の何かがいくつか、その幹に近づこうとしている。

 キモリ?

 こちらに気付き、彼らは警戒の目を私と私の相棒に向けた。
 私は立ち止まる。何も残っていないこの森に何故彼らがいる?
 確かに川には魚がいる。食べられないことはない。だが、彼らはそもそも魚を食べるのだろうか。
 そして、どうしてジュカインやジュプトルがいない?

 ひょろろろろー

 相方がまた鳴いた。彼が言いたいのはキモリ達のことではないらしい。
 私はもう一度、木の幹を見る。
 黒く染まり、枝も葉っぱも焼け落ちた大木だ。この森で一番大きな木だったのかもしれない。
 じっくりと木を見る。

「これは、」

 残った幹の根に、緑の双葉が生えていた。
 この木の子どもだろうか。寄り添うように生えている。害がないことをキモリに伝える。
 私は緑の前で膝をついた。トロピウスが降りて来る。それを見て、キモリ達もやって来た。

 キモリはこの子を守っているのだ。

 いつ生えたのかは分からない。でも、この子は生きている。
 木は樹になって、キモリはジュカインになる。
 樹は種を作り、ジュカインはキモリを産む。
 やがてそれは森になる。

 森は生きている。
 それをキモリ達は教えてくれている。


 『跋渉』おわり


お題:樹
【描いてもいいのよ】【書いてもいいのよ】


  [No.1385] 再掲です 投稿者:茶色   投稿日:2011/07/03(Sun) 15:50:52   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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こんにちは。茶色です。

本作は昨年の5月にふと思いついて書いた掌編です。
1年くらい前にログ消失に巻き込まれて消えてしまっていましたが、ふと思い立って再掲しました。

先日書き上げたものと同じ題材だなぁ、と上げてみて気付きました。
個人的には、今後しばらくは、もう少しエグい方向性で攻めていきたいです。
そのためにどんなコントラストが必要か、ちょっぴり考えてみたり。

それでは、読んでいただきありがとうございました。


  [No.1423] あれ、コダマにみえr( 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/05(Tue) 20:21:55   67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 もののけ姫のコダマです。あれも森の妖精だったか精霊だったか。

 ブラックホワイトのコバルオン関連かなあと思ったけど、とても暖かいストーリーになっているなあと思いました。
 キモリがこれから森を育てていって、そして何年後かに立派な森に再生するのかと思うと、スケールの大きい話です。
 けれど、今まで山火事になろうが雷落ちようが、全滅した森ってないんですよね
 そう考えると、自然の豊かさを感じさせる話でした。

【キモリかわいい】


  [No.1445] Re: あれ、コダマにみえr( 投稿者:茶色   投稿日:2011/07/05(Tue) 22:18:58   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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感想いただき、ありがとうございます。

>  もののけ姫のコダマです。あれも森の妖精だったか精霊だったか。

精霊だったと思います。

>  ブラックホワイトのコバルオン関連かなあと思ったけど、とても暖かいストーリーになっているなあと思いました。

BWをまだやっていないので調べてみました。
コバルオン、いつか使ってみたいです。

>  けれど、今まで山火事になろうが雷落ちようが、全滅した森ってないんですよね

森全滅というのは確かに大げさに書いています。山いくつ分あったんだ、という話しで。
ただ、ある部分ではちょっとした元ネタはあります。
「小火を消して大火を招いた」というのがその所で、これは実際にアメリカであったことだったりします。
森丸ごと、とは言いませんが、それまでは森の一部が散発的に燃えていたのが、
森の大部分が消失する大火事が多発することになりました。

>  キモリがこれから森を育てていって、そして何年後かに立派な森に再生するのかと思うと、スケールの大きい話です。
>  そう考えると、自然の豊かさを感じさせる話でした。

人間の力では及ばないことって、多くあります。
そのスケールをどうやって表現するか、今後挑戦していきたいです。

> 【キモリかわいい】

キモリをぎゅっとしたい!


お読みいただき&感想をいただき、ありがとうございました!