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  [No.1393] 初めて会った日 投稿者:キトラ   投稿日:2011/07/05(Tue) 00:42:25   29clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 緑芽吹く季節。ホウエンにも桜が咲き乱れていた。もちろん、ミシロタウンも例外なく。春の青空と桜の花が美しい景色を見せていた。
 その街で研究所を構えるオダマキ博士は、忙しそうに動いていた。研究ではない。今日は久しぶりに旧友が遊びに来る。お互い、所帯を持ってからは1日中遊ぶことがなかった。そんな状態だから、今日はとてもワクワクする。
 玄関のチャイムが鳴る。妻が応対した。続いてオダマキ博士も玄関に行く。気分はとても軽い。久しぶりに見る友人を迎えた。
「センリ!良く来た!奥さんもどうぞ!」
「貧乏トレーナー呼びつけたんだからな、たくさん食わせてもらうぞ」
「はは、出世払いで返してもらうよ」
質素な身なりでも、堅実そうな顔つきはごまかせない。その奥さんも同じようである。
「ま、上がって。庭に火を起こしてるから、靴持ってきなよ」
言われるまま庭に案内される。センリの子供も行儀よく挨拶して、靴を持ってきていた。
「何歳になったんだっけ?」
「ガーネットはもう4歳。近所の子たちがみんな幼稚園行ってるから昼間は遊び相手いなくてね」
「そうか、うちのザフィールと一緒なんだな」
「そういえば姿見えないけど、どうしたんだ?」
「いや、それが…」
言葉を濁す。妻が二階に行き、嫌がる声が聞こえてくる。それを何とかなだめ、階段を降りる音がした。
「ほら、ザフィール、ちゃんと挨拶しなさい」
深くフードをかぶり、下を向いて母親の影から出てこない。人見知りというより、人前に出るのを嫌がっている。
「ザフィール、ちゃんとしなさい」
父親がいっても小さく口を動かすだけ。センリが近づこうものなら逃げる。
「すまん、ちょっと色々あって、それから他の人と喋らないんだ」
センリが戻ると気づく。ガーネットがいない。足音の方を見ると、ガーネットがザフィールの前に立ち、そのフードに手をかけ、思いっきり引っ張る。怯えた表情のザフィールの顔がはっきりと見えるようになった。そして彼の白い髪も。
「うわっ!」
ザフィールは手で頭を覆う。大人たちはわかった。子供の髪の色ではない。不自然な色。それを知らない人間の目に触れさせ、好奇な視線を注がれて来たのだろう。そして笑われ、けなされて。その場から逃げ出そうとするザフィールの手をガーネットは掴んだ。
「雪みたいにきれいな色なのに」
ザフィールはガーネットを見た。彼女は手を離すと、笑顔で話し出した。
「私、ガーネットっていうの。みんなネネちゃんって言うよ」
「ネネちゃん?」
「さいる君だよね!さーくんでいい?」
つられたのかザフィールも笑っていた。名前が違って覚えられていたけど、そんなこと気にも止まらなかった。家族以外で初めて髪のことを認めてくれたから。

 子供というのは仲良くなるにも早いもので、たらふく食べた後は庭を走り回っている。時折火に気をつけろと注意されていた。二人とも仲良く返事をすると、屋内に上がっていく。庭の木を登ったり、草花を触ったりして泥だらけ。落ち着きのない二人にどこからともなく、ケーキ食べるかと声がかかる。すぐさま行儀よく外の椅子に座った。
「あー!」
大きな声を上げる。ザフィールがガーネットに食ってかかりそうな勢いで、男児特有の頭を突き抜けた黄色い声でまくしたてる。
「おれのが少ない!」
ケーキの隣のオレンジジュースに、ザフィールは文句をつけた。
「同じくらいじゃん!」
ガーネットも負けじと言い返している。大きなペットボトルをがんとして渡そうとしない。子供というのは変なところで意地を張る。
「おれのが少ない!」
ザフィールも主張を変えない。一度出した主張は変えられない。
「うるさいよ!」
ガーネットが持ったペットボトルが、握りつぶされ、形状を変える。それに臆することもなく、ザフィールは主張を続けた。
「ネネちゃんずるい!」
突き飛ばす。椅子からガーネットが落ちた。びっくりしたのか、ガーネットが泣き出す。それを聞いて、今まで黙ってみていたオダマキ博士がザフィールの前に立つ。
「女の子泣かすとは何事だ!」
子供の体重だし、大人の腕力には適わない。平手打ちで、ザフィールは尻餅をついた。余談ではあるけど、オダマキ博士がザフィールを本気で叩いたのはこれが最初である。いきなりの父親の体罰に驚いたのか、ザフィールも一緒になって泣いていた。


「ザフィール謝りなさい」
母親に抱っこされて、ザフィールは何も言わずガーネットを見ていた。頭を叩かれ、ザフィールは母親から離れてガーネットのそばに行く。
「ネネちゃんごめんね」
ガーネットがそっぽを向く。その様子を見て、センリが言った。
「ほら、ガーネット。ちゃんとザフィール君は謝ってくれだんだから、ガーネットもちゃんとしなさい」
注意され、仕方なしにガーネットがザフィールに言う。いいよ、と。
「私もごめんね」
何事もなかったのようにまた仲良く遊んでいる。子供だなぁと大人たちはそのまま宴会を続行した。
子供たちは外に飽きたのか二階で遊んでいる。二階はザフィールの部屋があって、おもちゃの箱とぬいぐるみが一つあった。
「これエネコって言うんだ!」
ピンク色のネコ。ザフィールはそれが好きだと言っていた。ガーネットが触ろうとすると、大切なものを持っていかれそうな目で見ている。
「かわいいね」
「そうでしょ?もっと大きくなって、本物のエネコと一緒にポケモントレーナーになるんだ!そしたら、ネネちゃんにもポケモンあげるよ!」
「本当?じゃあ私、ピッピがいい!」
「いいよ、約束する」
ガーネットが左手の小指を出してきた。ザフィールも同じように小指を絡める。
「嘘ついたら針千本飲ます!指切った!」
離れる手。針千本の意味も分かってなかったけど、約束するときの常套句。


「今日はありがとう。また暇みつけたら遊びに行こう」
帰り際、センリは言った。オダマキ博士も同じ。
「早くホウエンに帰れるといいな!」
「そうしたいがな、ジョウトでやっと見つけた仕事だからそうも行かん」
センリに手をひかれ、ガーネットが振り返る。
「バイバイ、さーくん!」
ザフィールが手を降っていた。振り返す。約束を忘れないと言って。



「良くも食べてくれたわね」
ガーネットが恐ろしいオーラを身にまとって近付いて来る。ザフィールは思わず後ずさり。
「だって、その、そんなテーブルにあったら食べていいのかと…」
「あるわけないでしょ!ここのケーキ手に入れるのに何ヶ月前から予約すると思ってんのよ!」
テレビに出ていた、人気の洋菓子店。そこのケーキを買っておいたら、ザフィールが勝手に食べた。しかもガーネットが一番楽しみにしていたゴスの実ケーキ。当然の怒りである。
「いや、その、ごめん!食べていいものだと…」
「バカ!」
食べ物の恨みは恐ろしい。壁際に追い詰める。殺される。あまりの怖さに頭が床とくっつくのではないかというくらいに土下座する。
「…謝ったから許してあげよう。そのかわり、今日の夕飯はザフィールのおごりで。そうそう、このあたりにおいしいお店あるんだよねえ、ちょっと高いんだけどー」
そのときのガーネットの笑みは、悪魔の笑みに等しかった。ようやくザフィールが顔をあげ、立ち上がる。その瞬間、ガーネットの手にザフィールの頭が触れた。
「…いいなあ」
ため息をつく。白くてさらさらしていて、よく見れば艶も良い。色がついているライトを当てれば、天使の輪が出来るくらいに綺麗な髪。立ち上がったザフィールの髪をこれでもかというくらいに触る。
「本当、新雪みたいで綺麗だよね」
「うーん、前にも誰かに言われた気がするだがなあ、ハルちゃんじゃないし…」
「誰でもいいんじゃない?私と感性が一緒ってなだけで」
二人とも既に覚えていない。約束も、話したことも。そして立場が完全に逆になってることも。ポケモンを渡す約束など覚えてるはずもなかった。けれど二人は何となくだったのか、記憶の片隅にあったのか。ザフィールが選んだガーネットへのプレゼントはピッピのもの、そしてガーネットがザフィールに選んだ贈り物はエネコのもの。誰に言われたまでもなく、自然と手が伸びたのが、それだった。
 


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ケーキが食べたい。
子供を描くのはとても苦手です。
小さい頃のビデオがわんさか出てきましてね、それに映っていたワンシーンを文章化でございます。
もちろん、覚えておりません。
カイナシティって絶対においしい海鮮が食べれるところがたくさんあると信じてやまない。

【すきにしていいのよ】