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  [No.1605] ジョウト昔話 人食い蝶 投稿者:紀成   投稿日:2011/07/14(Thu) 18:41:16   41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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さっきから貴方達の話を聞いてると、随分女の子同士っていうのはいざこざが絶えないみたいね。ま、男同士みたいにサバサバしすぎても嫌なんだけども。彼らから見たら、女っていうのは厄介な生き物みたいよ?急に訳も分からず泣き出したり、すぐに気が変わるし。
まあそれが女の魅力みたいな物なのかもしれないけど。小学校高学年から中学にかけてはそれは酷いものよ。貴方達ももうすぐ中学だから、わざわざ仲良し同士で私の話を聞いているんだと思うけどね。
そう。女は嫉妬深く、その気になれば周りが見えなくなっても自を貫き通すっていう、こわーい生き物なの。
今から話すのは、ジョウト地方、エンジュシティの昔話よ。

貴方達、花街って知ってる?聞いたことくらいはあるでしょ?今で言うキャバクラみたいなもの…って言ったら本場の人達にすごく失礼ね。今じゃ何でもアリみたいなイメージがあるけど、当時の花街はもっとルールが厳しかったのよ。
まず、そこで働いているのは各地から売られてきた女の子達。丁稚奉公っていうの。今じゃありえないけど、当時はお金を前払いしてもらう代わりに子供をその店で働かせることが多かったの。貴方達よりもずっと年下―四歳とか五歳の子供が親や兄弟を養うために働いてたのよ。
そして下働きから上に、呼出し、座敷持、格子、太夫などがいたのよ。ちなみに太夫は後にいなくなって、散茶っていうのが一番上の花魁になったらしいわ。
そしてカントー地方では当時花魁って呼ばれていたけど、ジョウトでは太夫の名前が一般的だったようね。

で、もちろん遊ぶ方にも厳しいしきたり…今で言う暗黙のルールがあったのよね。
花魁には、茶屋を通して取り次いでもらわないといけなかった。今で言う店に直接ってわけじゃないの。だから、茶屋で豪勢に遊び金を落とす必要があったみたい。
それからも大変なのよ。 座敷では、花魁は上座に座り、客は常に下座に座っていた。花魁クラスの遊女は客よりも上位だったのである。今じゃあまり考えられないわよね。まあご指名ナンバーワンなら話は別かもしれないけど…
一回目は話も出来ず、飲み食いもできなかった。この時花魁は相手の男を見て品定めをし、相応しいか否かを見極める。もし駄目だったら二度とその花魁には会うことを許されなかったのよ。二回目は多少近くには寄ってくれるけど、基本的には一回目と同じ。三回目にようやく馴染みになって、自分の名前の入ったお椀とお箸が渡されるの。この時、ご祝儀としてお金を払わないといけなかったみたい。
そして馴染みになると、他の花魁を指名するのは浮気と見なされたらしい。もしそうなった場合、指名されていた花魁はお客を捕まえて、茶屋に苦情を言ったらしいわ。

それは、ある晩のこと。一人の男が歌舞練場の近くを歩いていたの。そうしたら、どこからかシクシクと泣く声が聞こえた。周りを見渡すと、とても美しい女が着物の裾で涙を拭いながら泣いているのよ。男が尋ねると、その女はこう言った。
『近くの川に大切な物を落としてしまったんです』
男は彼女の美しさに見惚れて、自分が探すって言ったのよね。今ではもう埋められていて無くなっているけど、昔エンジュには川があった。焼けた塔の近くにあるあの池は、その名残らしいわ。
で、男が川まで行って探していると、女が場所が違うと言う。また移動しても、違うと言う。
じゃあ何処なんだと言うと、その女は―

『お前の心臓が落し物さ』

次の朝、その男は干からびた状態で見つかった。体液と言う体液を全て抜かれて、川に浮いていたそうよ。目撃者がいなかったから、事件は迷宮入りしかけたんだけど…
また次の朝も遺体が見つかった。同じ状態で。あるエンジュに済んでいた一族の頭領が、変に思い殺された男たちのことを調べてみたの。そうしたら、二人ともある花魁の馴染みの客だった。
頭領はその花魁に会って話をしてみたかったらしいけど、話が出来るのは最低でも三日経ってから。その間にまた犠牲者が出たら意味が無い。
男は思い切って自分を犠牲にしてその花魁の正体を掴もうとしたの。

男は被害者と同じように歌舞練場の周辺を歩いていた。案の定、一人の女が泣いている。その着物は黄色と赤と青が入り、金色の粉が塗られているような、それは美しい物だったらしい。
男は女に近づき、たずねた。女は落し物をしたという。男は川まで行き、振り向いた。
『お前は人間じゃないな。何者だ』
女はニタリと笑い、そのまま着物を脱ぎ捨てた。どんどん姿が変貌し、巨大な羽を持ち、黒い丸まった口を持った蝶へと姿を変えた。
『出やがったな!化け物め』
男はあらかじめ近くに用意しておいた松明に持っていた乾いた棒を翳し、小さな松明を作った。どうやらあの巨大な蝶は丸まった口で獲物の体液を吸い尽くしていたらしい。
口を伸ばしてきた頃を見計らい、男は松明を投げつけた。見事に口に命中し、細い口の先からみるみるうちに炎が移り、蝶に襲い掛かった。
アッと言う間のことだった。蝶は悲鳴を上げながら燃え尽きた。

何故巨大化したのかは分からないって。もう二百年以上前のことだから、詳しい記録も残っていない。私図書館で調べてみたから。え?何でこんなこと調べたのかって?いや、ね。常連さんの預かりポケモンが進化したら巨大な炎ポケモンになるっていうから。
うちの看板息子も炎タイプだし。やっぱ虫タイプは炎で焼かれちゃ終わりなのかしらね…
あ、最後に一つ。童謡の『ちょうちょ』ってあるでしょ?ほら、『ちょうちょ、ちょうちょ、なのはにとまれ』って。『なのは』は菜の花のことね。『なのはにあいたら さくらにとまれ』菜の花に飽きたら、桜にとまれ。
桜の花から花へ。とまれよ遊べ、遊べよとまれ…
遊び好きな男を、蜜を所構わず吸っていく蝶に喩えた歌なのよ。本当の話。