[掲示板へもどる]
一括表示

  [No.1616] メモリーチップ 投稿者:紀成   投稿日:2011/07/19(Tue) 16:57:36   77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

『ねえ、お父さん、どうしてこんなことをするの?』
『そりゃあ、何年経ってもお前を忘れたくないからだよ』
『これで撮ってたら忘れないの?』
『ああ。壊さない限り、一生残るんだ。そしてお父さんが死んでも、それはお前の子供に受け継がれる。
メモリーは消されない限り、ずっと後まで継ぐことが出来るんだ』
『へえー』

これが、五歳の時。

『あ、お父さんまた引っ張りだして来たの?』
『ああ。前のメモリーチップもきちんと残ってるぞ』
『なんか恥ずかしいな。僕がまだ右も左も分からないような状態だった時のメモリーだろ?』
『とんでもない。これは成長の記録となるんだ。さあ、質問に答えて』
『はいはい』

これが、十歳の時。

『…今度はお袋かい』
『お父さんがね、送ってきて欲しいんだって。貴方の声を聞きたいって』
『電話があるじゃないか』
『電話できないくらい忙しいのよ。今大きなプロジェクトに関わってるとかで、昼も夜も無いんですって』
『なら尚更電話にした方がいいと思うけど…』
『はいはい、えっとね、貴方が思う幸せとは何ですか?』

五年毎、それぞれ一時間ちょっとの質問と答え。それが僕にされた両親からの問題だ。後で分かったことだけど、僕が産まれた時からそれは撮られていたらしい。…もっとも、ゼロ歳の時はただ姿を撮られているだけらしいけど。
最初は父親の役目だった。僕が十歳の時に何処かの巨大なコーポレーションの研究室に抜擢されて単身赴任するまでは。あの後父親からの連絡は一度も来ていないが、手紙だけがたまに届く。
五年後との僕の記録を送って欲しいらしい。
「何だかな」
仕方無いので僕は質問に答えていった。

『最近嬉しかったこと?やっぱポケモンのタマゴを貰ったことかな』
『つまらないことか… ポケモンが孵るまでは、退屈だろうね』
『幸せ?その時によって違うと思うよ』
『怒りや憎しみ?怒りは分かるけど、憎しみって何?』

これが、五歳から十歳くらいの時。で、十五歳の時。

『友達って何か?かなり分けられると思う。親友と仲間の間じゃない?』
『愛って何か?…ちょっと、恥ずかしいこと言わせないでよ。誰かを守りたい、大切にしたい…かな』
『哀しみって何か。誰かを失ったり、大切な人が死んだり』

これを記録したチップは、母さんから父さんへと渡された。その後の行方は分からない。


「対象者への挿入、完了しました」
「よかろう。心拍は」
「安定しています。…あの、これで本当に目覚めるのでしょうか」
「今までどんな情景を挿入しても目覚めなかった。私達が考え付く術は、これしかない」

何故俺を起こそうとする?俺は眠たいんだ。邪魔しないでくれ。
俺はここで眠っていたいんだ。人の声は悲鳴ばかり。音は痛々しい物や、色は赤や黒、茶色と華がない。

『ねえ、お父さん、どうしてこんなことをするの?』

頭の奥で声が聞こえた。今までとは違う。優しい子供の声だ。歳は分からない。トーンからして…女か。
また新しい記録が入ったのか…

『最近嬉しかったこと?やっぱポケモンのタマゴを貰ったことかな』
『つまらないことか… ポケモンが孵るまでは、退屈だろうね』
『幸せ?その時によって違うと思うよ』
『怒りや憎しみ?怒りは分かるけど、憎しみって何?』

嬉しさ。怒り。憎しみ。幸せ。つまらない。彼女はこれらを知っているらしい。孵る?孵るって何だ?
そんな情報はまだ入ったことが無い。

『友達って何か?かなり分けられると思う。親友と仲間の間じゃない?』
『愛って何か?…ちょっと、恥ずかしいこと言わせないでよ。誰かを守りたい、大切にしたい…かな』
『哀しみって何か。誰かを失ったり、大切な人が死んだり』

愛。哀しみ。友達。愛って何だ?誰かを守りたい、大切にしたい…
よく分からないが、重要なことのように思える。今まで見てきた物とは正反対に感じる。

男の声が聞こえた。

『お前がどうしてここにいるのか。それは望まれているからだ。お前はお父さんとお母さんとの間に出来た、かけがえの無い命だ』

いのち。俺もその中に入るのか… お父さんとお母さんとは、誰だ?俺は気がついたらここにいた。
そんな存在が俺にもいるのか?

『―だから、命。ミコトと名づけた』

みこと。さっきの女の名前はミコトというのか。今入ったメモリーは、ミコトという女の記録なのか。

「私の娘の十七年を撮ってきたんです。十歳からは妻に頼んで。彼のプログラミングに必要な情報を質問することで、彼にとっての答えを見つけ出そうとしたんです」

ミコト。命という文字でミコト。綺麗な名前だ。もしかしたら、ミコトが俺のルーツなのかもしれない。
会ってみたい。会いたい。どうすれば会える―


何かが、動き出そうとしていた。ミコト本人の知らないところで、何かが。
そしてそれが全てを揺るがすような大事件になるとは、本人はおろか、この『彼』すらも知らなかった。


  [No.1659] 実はSFだと思って読んでいた。 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/28(Thu) 19:44:27   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 記憶だけ出し入れして他人に成り代わっていくものだとおもって見てしまった。が、最後は違った。

そして最後は媒体と本体が違ってしまっているように思えたのですが、それでいいのかな。
恐ろしいファンタジーだよ、SFというのは。
科学の力で人格すら変えてしまうし、記憶もいじりたい放題だから。

でもこういうの好きである。


  [No.1917] メモリークリエイト 投稿者:紀成   投稿日:2011/09/23(Fri) 20:47:00   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

気がついた時には、ここにいた。
最初はぼんやりとしか見えなかった。何故見えるのか、その概念すらも無かった。
そのうち、見える物達が騒がしくなった。
次々に、何かを何かに入れるようになった。そしてそのつど、俺の中にイメージが入って来た。
赤・黒。息が詰まる。後にそれは『苦しい』という概念だと知ることになる。
そして俺は文字を覚えた。平仮名、カタカナ、漢字。そして様々な知識。

俺がいる場所は、研究室。
俺は、人によって造られた。
俺の名前は―― 今のところは、『3510』
識別番号というらしい。さんごーいちぜろ。後に、別の読み方をすることを知る。

俺に入る知識は、ひたすら華が無かった。
人の叫び声。広がる赤。取れた体の一部。茶色と黒。
それが、今俺が生きている世界にあるということを知り、俺はひたすら意識を閉ざし続けた。
何か、何か色が欲しい。美しい色を――

『年』という物を知ったが、どのくらい経ったのかは、分からない。
それは、突然俺の中に入って来た。
人の映像。だが、今までとは違う。こちらに向かって笑いかけてくる。あどけない子供。いや、少女。
質問される内容に戸惑いながらも答えていく。
投入される度に彼女の答えは変わり、俺はそれで初めて『物事を考えることにこれと言った答えは無い』ことを知った。
人の数だけ考えがある。そして、それが衝突して今までの華の無い出来事が起こるのだと。
何となく、分かった。

そして姿も変わっていった。もう少女はあまり言えない。これは、『女』だろう。
今まで知った概念と言葉を並べても表せない何かを、俺は抱いていた。

この気持ちは何だ?
俺は、この『ミコト』という女に何を求めている?
やがて俺は、ミコトが言っていた言葉から答えを割り出した。

ああ、
これが『愛』なんだと。

『愛って何か?…ちょっと、恥ずかしいこと言わせないでよ。誰かを守りたい、大切にしたい…かな』


俺は目を開けた。人間の驚嘆の声が聞こえる。
俺は起き上がった。誰かを呼びに行ったのか、ガラスの向こうには誰もいない。
纏わりついている何かを契る。赤い光とサイレンが、体を照らす。
そこで初めて、俺は自分の体を見た。

『み こ と』

それが、俺が始めて発した言葉だった。

ミコトは、俺を見てどう思うだろうか。怖がるだろうか。拒絶するだろうか。嫌がるだろうか。
それでもいい。俺は、ミコトに会いたい。『愛』という物を教えてくれた、彼女に会いたい。話したい。出来ることならば――

『いま あいにいく』


ガラスが割れた。人は何も出来ない。
俺はゆっくりと、光の中へ一歩を踏み出した。