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  [No.1643] 愛、アイ、哀 投稿者:moss   投稿日:2011/07/26(Tue) 22:13:53   75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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※そんなグロくないけど苦手なかたは注意報 
























 満点の星空にぽっかりと月が浮かぶ。冷えた砂漠の夜風はさらさらと砂を運んでは去っていく。
その中にただ一人、辺りにそぐわない真っ白なコートを着込んだ旅人の姿があった。
頭をすっぽりとフードで覆っているため性別はわからない。
 底の厚いくすんだ茶色い靴で柔らかな砂漠の地を踏みしめ歩く。
その様子はまるで絵画のようで、幻想的な背景の中をゆっくりと進んでいく。
 砂の中に瓦礫が交ざってきたころ、不意に旅人は歩みを止める。
前方には朽ち果てた古城。百年くらい前ならばオアシスにそびえたつ美しい城だったかもしれない。
しかし今では砂嵐の影響か、壁は風化して崩れかけ、かろうじて残った建物の一部は
やや左に傾いてしまっている。いつ崩れてもおかしくないような状況にあった。
 背後から気配を感じて旅人は振り返る。
「 ……何かお困りかしら?必要であれば、休める場所に案内するわよ」
 白いフリルのついたかわいらしい膝丈の黒いミニドレス。
そこから伸びる細く白い足。黒く艶やかな髪をなびかせる。
背丈が旅人の半分程度しかない小柄な少女は偉そうな足取りで旅人の前までやってきた。
手に持ったカンテラが揺れる。マリンブルーのぱっちりとした両目が旅人をとらえる。
旅人は言った。
「 ……近くに休める場所があれば、案内していただけると助かります」
 フード越しのくぐもった低い声。少女は目を細めると、ドレスの裾を翻して歩き出す。
旅人も黙ってそれに続く。さくさくと砂の中を進んでいく。
 満月が強くまたたいた。




  ※



 
少女は幸せ者であった。父は一国を統べる王。母はその妃にあたる。
砂漠の中に存在し、国民の支持を多大に受けたまさにオアシスで呼べる国。かくして少女は
皆の祝福の中、オアシスの王女として生を授かる。
国王夫妻は“愛しい”という意味をこめて、ディアと名付けた。
 ディアはたくさんの期待と慈愛を受けて健やかに育っていった。
三歳になる頃にはすでに言葉を喋り、毎日のように外で遊び回っており、そのせいで
白い肌は鮮やかな小麦色に変化し活発な印象を与えていた。
やんちゃで活発でよく笑い、よく泣いて、わがままですぐにすねる。子供らしい子供だった。
そしてすぐに機嫌を直してまた遊びまわり、王宮で飼われているムーランドやらペルシアンなど
ポケモンと戯れるのだ。ディアはポケモンが大好きだった。
 それを見かねた国王が、彼女の五歳の誕生日にポケモンをプレゼントとして贈る。
箱に入れられ贈られたそれは、小さな黒い体に白いリボンをつけた生き物。
首には黒い首輪がついている。
「お父さんありがとう!」
 子供らしい無邪気な笑顔。ポケモンは無表情に目をぱちくりさせる。
彼女はそれに、ビアンカと名付けた。



  ※


 
 少女に案内されたのは古城の中の一角。今にも崩れそうな壁が特徴的な、
おせじにもきれいとはいえない部屋だった。一瞬こんなところでと不満を抱いたが、
少女が「ちょっと待ってて」と部屋の奥に消えていったので安心する。
横倒しになった、見るだけで貴族のものだとわかるような家具が部屋の
あちらこちらにちらばっている。中でも目を引いたのはくすんだ色の、古びた大きなベッドだった。
下ろされたレースカーテンにはいくつものくもの巣が張り巡らされている。
かつて女の子の部屋だったのかと旅人は思案する。
「となるとここが……?」
 旅人は少女が戻ってこないことを素早く確認すると、ごそごそとコートの中から
青い手帳を取り出した。ぱらぱらとページを捲り一定のところで止める。
「――さんの言っていた城っていうのはやっぱり……」
「待たせたわね」
 背後からの燐とした声で旅人は目にも止まらぬ速さでそれをしまうと、くるりと振り返り「いえ、
こちらこそ手間をかけさせてすみません」とさわやかに言い放つ。
「さぁ案内するわよ。安心して。ここから先はまだきれいだから」
 皮肉のこもった口調で言い歩き出す。わずかに悪戯っぽく微笑んでいるたのを旅人は見過ごさず、
罰の悪い顔をする。が、すぐに微笑んで
「それはどうも、―――」
「え?」
 少女はぴたりと足を止め振り返る。
「何か言った?」
「いえ」
 旅人は表情を変えない。
「何も」
 少女は顔をしかめるが「 そう」とだけ言って、再び歩き出してしまう。
かつかつとかかとが、ひび割れた黒い大理石のような床を打ち付ける。
 それを見て旅人は呟く。
「全く、難儀なもんだね」




  ※




 ディアが十歳になるころには、彼女はおてんば王女として国中で有名になっていた。
というのも五歳の誕生日を過ぎてからというもの、彼女は毎日のように
相棒のビアンカと共に様々な場所へと遊びに出かけ、散々危険な目にあいつつも
それをやめなかったからである。例えばスピアーの大群に喧嘩を売り追いかけられてみたり、
ギャラドスのいる湖に石を投げ、怒り狂ったギャラドスの破壊光線をかわしながら逃げ帰ったりと
巷では有名な話である。
 それに困った国王夫妻は、なんとか危険なことはやめさせようと努力はしたものの、
幾多の修羅場をかいくぐってきたディアにとっては何の脅しにもならず、
逆に彼女の闘争心を擽ったともいえよう。諦めた国王夫妻はビアンカに娘の安否を託し
ついには何も言わなくなったという。わがままな娘をもつと大変である。
 そんな両親の心配などまるで知らない彼女は、懲りずに遊びに出かけては元気にもしくは
ずたぼろになって帰ってくる。
 ある日のことだった。ディアはいつものようにビアンカを連れて、オアシスの外れに
広がる広大な森林へと出かけた。ここには強くも弱くもないポケモンが生息しているため、
母親には「 あの森には近づくんじゃありません」と強く言われていた。だが、しかし
あの彼女が素直に言うことを聞くはずもなく、遊び場所としてちょくちょく訪れていた。
あまり奥まで行くと戻れなくなることはわかっていたし、進もうとすればビアンカが服の裾を
ひっぱり進むことを拒む。年の割には頭の良い子だったといえよう。
 頭の良い子だったので、彼女は森の入り口に立ったとき、何かがいつもと違うことに
気がつけた。隣ではビアンカが無言で彼女を見上げている。黒い首輪がヤミカラスの濡れ羽のように
てらりと光る。ディアは小声で呟いた。
「何かが、いる?」
 遠くでかすかに音がする。それが人の声なのかポケモンの鳴き声なのかはわからなかった。
一体何が起こっているのか。好奇心に負けたディアは静かにビアンカを連れ森へ入る。
息を殺して物音を立てないようにしながら直感で草の中をそろそろと進んでいく。
そのうちに音は、複数の男の話し声であることがわかり、ディアの中の緊張感が増すと同時に
好奇心もまた増していた。どくんどくんと心臓の音がうるさく鼓動する。
 話し声は彼女たちがいつも遊んでいたちょっとした空間だった。そこだけ木が何本か切られており、
人が座れるくらいの大きさの切り株が立っている。
日ごろから空き缶が落ちていたりと彼女たち以外にも人の訪れていた様子はあったものの、
実際そこに人がいるところを目撃したことはなかった。
 切り株には五人の男が座って、何やら神妙な顔つきで話し合っていた。彼女は見つかっては
いけないと思い、丈の長い草の中に見を隠す。幸いそこにポケモンはいなかった。
 ディアはそっと聞き耳を立てる。そこで見るからに体格の良い男たちは急に声のトーンを落とした。
 ――「……く……は……考え……」
 ――「……つけよ。それを……だろう?」
 大事な部分が聞き取れない。ディアは決心して限界まで近づく。
音を立てないように慎重に移動する。
 ――「明日だ。いよいよ明日決行する」
 ――「俺もこいつも早く国王を倒したくて仕方ねぇよ」
 ディアの目が大きく見開かれる。……パパ?!
 ――「あの親ばか夫婦め。子供にばかり気をとられて……」
 ――「もうあの国はだめだ。だからこうして俺たちが今ここに集まっている」
 ――「そのとおりだよ。……作戦は覚えているな?まずお前が最初に町で暴れる」
 ――「わかってらぁ。そんで奴らが俺に気をとられているうちにお前らが城へ侵入する」
 ――「で、俺が使用人どもの注意を引いてるうちにてめぇらが先に行くんだろ?」
 ――「そして協力して火をつける!」
 息を呑んだ。彼女は口の前に両手をあて、目を見開いたま小刻みに体を震わせている。
それに追い討ちをかけるように男たちは言った。
―「「「「「国王の懺悔に、乾杯!!」」」」」
 グラスの触れ合う音の代わりに拳のぶつかった音が響く。
ディアは耐え切れなくなって、そっとその場から逃げ出した。




  ※




 少し休ませてもらうだけなのに、すごいところに来たなと旅人は関心する。同時に
あの城のなかにまだこんなきれいな場所があったのかと苦笑した。やっぱり見た目じゃ
全てはわからない。
 再度少女に案内されたのは、なにやら豪華な造りの部屋だった。さすが城なだけあるなと
いうような高級感あふれる家具が無造作に配置されている。床に敷かれた絨毯は何かのポケモンの
毛皮で作られていて、少女はそれを土足で踏んづけていく。シャンデラのようなシャンデリアに
明かりを灯すと少女は旅人に椅子を勧める。旅人は小さく会釈して座る。ギシッと椅子の軋む音。
 沈黙の中、ふと旅人は壁に掛けられた肖像がに気が付いた。
「……もしかしてあの絵はあなたですか?」
 一瞬の間の後、少女は静かに答える。
「そうよ。その絵はあたしの絵。絵の下に名前が彫ってあるでしょう?」
「dear……ディア、さん?」 
 ディア。どこかで聞いたことのある名前だと言いそうになり口ごもる。ああ、この子が。
 少女――ディアは旅人の方へ来ると、近くのテーブルに持っていたカップを置いた。
強く香ばしい香りからジャスミンティーだと仮定し、「ありがとうございます」とだけ言って手を付けない。
ディアは何も言わずに近くに座り足を組む。優雅な動作でカップを口に付ける。
「……あたしはかつてこの場所に存在していた国の王女にあたる存在。今は一人でここに住んでいるの」
 淡々と少女は自分の正体をあっさりと明かす。その様子がどこか自分に言い聞かせるようにして喋っているようで、少し違和感を抱えつつも旅人は相槌を打っていく。
「一人?」
 旅人はフードで隠れた顔を上げた。ついでにカップにもようやく口を付けたが
一口でまたもとの場所に戻してしまう。
「こんなところに一人で、ですか?」
「あら、心配してくれてるの?ありがとう、でも大丈夫よ。こうしてたまに人も来てくれるし
食べ物だっていっぱいあるわ。それなりに充実したところよ、ここ」
「そうですか……」
 旅人はどこか残念そうに言うと、すくっと立ち上がりコートの内側から拳銃を取り出し
銃口を彼女の額に突きつける。
「だったら死んでください」
 乾いた銃声が古城に響く。




  ※




 ついに“明日”はやってきて、朝から町は大騒ぎだった。一人の男がポケモンと共に町で
暴れ周り、人々はパニックに陥っていた。あまりにも混乱しすぎていて国王もそれに対応できる
はずがなく、またあちこちで国王に対するデモが起こりつつあった。
 国民の罵声から逃げるように、ディアとビアンカとその母親は国王の命令で、門から一番遠い
子供部屋に身を隠していた。
「……大丈夫よ大丈夫。わたくしたちは大丈夫……大丈夫……きっと彼が全部収めてくれるはず……」
 ぶつぶつと自分に言い聞かせる母親。艶やかな黒髪に両手をあてくしゃりと握り潰しながら必死の
形相で呟き続ける。ビアンカはひたすら無言だった。外からは無理矢理門を開く音がして、人々の
怒声がより一層耳に届く。それが怖くて、ディアはずっと目を瞑り両手で耳をふさいでいた。
 そのままどれくらいの時間がたったのか。遠くで国王らしき断末魔がかすかに聞こえた。
「あなた!」
「……! 行っちゃ駄目よ、ママ!!」
 ディアは必死で扉に駆け寄る母親をなだめる。しかし興奮状態の母親の耳にそれは届かず
「な、何をするの!はなしなさいっ」
 と、部屋の隅まで突き飛ばされてしまう。
 母親は自分が娘を突き飛ばしてしまったことにひどく驚いたのか、奇声を発して勢いよく扉を開き、
部屋の外へと消える。
「だ、だめだよママ!死んじゃうよっ、だから行かないでよぉママぁ!」
 叫び声もむなしく、代わりに返ってきたのは鋭い銃声と二度目の断末魔。
「……あ。こいつ、もしかして国王様の奥様じゃねぇか?あーあ、殺しちまったよ。……まあもう
旦那さんも他界したし、向こうで仲良くやるんだな。さて、あとは火がこっち来る前にあいつらと合流して
逃げるとするか」
 扉の向こうで聞こえた男の声。全て聞き終えぬうちに、ディアはビアンカを抱いて子供部屋のクローゼットにそろりそろりと閉じこもる。
「ごめんなさいごめんなさぁい。パパもママも、あたしのせいで死んじゃったんだよねぇ。……うっひぐ。えぐ。どぉしたらいいのかなぁ、ねぇびあんかあああぁぁぁぁっ」
 狭い空間でぽたりぽたりと涙を落とす。
 抱きしめられたビアンカはただ何もいわずに見て――




 ※



 
 吹っ飛んだのはディアではなく、旅人のフードだった。ぱさりと灰色の髪が顔にかかる。
長い前髪に隠れた深い紫色の瞳が鋭い眼光を帯びる。
「あら。けっこういい顔してたのね!もっとおじさまかとおもったわ」
「……。こんな至近距離で外したなんて認めたくないなぁ……」
 全く会話の成立していないこの物騒な状況の中、この期におよんで無邪気に笑う目の前の
少女に旅人は少し畏怖を抱いていた。
 何故真っ直ぐ発砲した弾が自身の身につけていたものを吹き飛ばしたのか。
 考え込む旅人にディアは笑う。
「一般人が銃なんか持ち歩いちゃっていいのぉ?時代は物騒になったわねぇ」
 お前が言うか。その言葉は発することなく、旅人はディアに首をつかまれ壁に打ち付けられた。
少女とは思えないような力でギリギリと締め上げられる。
「あっ……」
「ここに来た本来の目的を言いなさい。あなたがずっとここに来たかったのは知ってるのよ。
今日までの三日間あなたはずっとこの城を偵察してきたんだものね。あたし、ずっとなんだろうなぁって
気になってたのよ」
 このままだと本気で喉を潰されると本能が察知し旅人は素直に答えた。
「げほっ、……し、城の……調査……」
「嘘。あなたはあたしを殺しに来た。そうでしょう?この間ここに来た男と格好がそっくりだもの。
まあ顔はあなたのほうがいいけどね。でもその人はあたしが喰べちゃったけど」
 ぺろりと舌をだしてくすくすと嗤う。はたから見れば可愛らしい笑顔なのだが眼光は鋭く、
ましてや首を絞められている旅人は悪魔の笑みとしか思えなかった。
 旅人は薄れゆく意識の中で、自分の前にここに来て少女に喰べられた同業者のことを哀れんだ。
今はすっかり彼女の肉と化しているであろう彼を吹き飛ばしてしまうなんて。
なんて私は残酷なヤツなんだろう、と。
 一方少女はあせっていた。こんなに力をこめているのに、何故コイツの目は一応恐れはあるものの、
失望を感じさせないのは何故なのかしら。これから何をされるかわかっているはずなのに。
 少女は聞く。
「さぁ。心の準備はいいかしら?死ぬ前に何か言いたいことがあれば今のうちよ」
 あくまでも自分が有利な立場にいることを示すために余裕をもって言う。
 このとき旅人はトイレに行かせてくださいと言おうと思ったのだが、あまりに幼稚な考えだと否定し、
もっとまともな質問はないかと思考する。
 ひらめいた旅人は口を開いた。
「何故、私を、ここに、連れ、て、来た、ん、で、す?」
 まるであかずきんちゃんのような台詞にディアは面を食らいつつも、彼女は狼になって答えてやる。
「……それはお前を喰べるためさ!」
 かかった!旅人はわずかに残った意識で自身を賞賛した。彼が狙ったのは自分を食べようとする瞬間。
つまり首から手が離れる一瞬。
 旅人は叫ぶ。
「ゲン、ガー!シャドー、ボー、ル!!」
 刹那。ディアの背後で巨大な影が蠢いた。





  ※ 




 あたしは俗にいう奴隷ってヤツだった。汚らしい人間の住む汚らしい場所で生まれ、
親なんて言葉も知らないまま奴隷市場で売りさばかれ、情のない腐ったトレーナーの手持ちに
なっては、言う事を聞かないでおいたら捨てられた。
能力だけで選んでいる人間の言うことなんて聞きたくないし、一緒にいたくもなかったので
丁度いいっていったら丁度よかったけど。
 そのたびにあたしはまた奴隷市場に商品として並べられ高額で取引された。そんな毎日。
だからよく隣に並んでいたあたしと同じ商品の奴らにもったいないと言われるのが不満だった。
もったいない?ならあんたたちも買われてみなさいよ。
どうせ買われてっていいことなんてないのに。だけどそう言うヤツに限ってトレーナーに見込まれる
だけの能力がなかった。
 あたしは人間が嫌いだし、もっと嫌いなのはあたしの能力だけを利用しようとする奴ら。見てるだけで
いらいらするのにそいつらなんかに利用されるなんてもってのほかだ。
 そんなある日のことだった。あたしはいつものようにトレーナーに逃がされ、
奴隷市場に舞い戻ったところで少し不機嫌だった。
 見慣れた光景をまじまじとぎょうしポケモンらしく見ていたら、視界の隅で挙動不審な男を見つけた。
そいつはあたりをきょろきょろとせわしく見回しながらこちらにやって来る。
「すみませんっ。急いでるんですが、何かいいポケモンありませんか?」
 あたしは顔をしかめた。“いいポケモン”といわれると必ずと言ってもいいほどあたしを持ち出すから。
それと理由はもう一つあった。何よりこの男自体が怪しいじゃないか。薄汚くぼろぼろのマントを纏い、
フードを目深にかぶっているためはたから見ればとてもうさんくさい。
けどあたしの特性にかかればフードなんてないもの同然。だからこそわかる。
おんぼろマントでは隠し切れない高級感が。こことは違う清潔感が。フードの下はきれいに
オールバックにしてあるし、顎には髭すら生えていない。この男は一体何者なんだろう?
 あたしがしばらく凝視して観察していると、隣に並んでいたモノズとかいうやつ(めんどくさいから
通称;となり)がこっそり話しかけてきた。
「おぉ。あれは間違いねぇ。あれは“上の世界”のヤツだぜ。しかも大層大物だな。ありゃ国王様か
なんかじゃねえか?なぁんかどっかで見たことあるような感じがするんだよな」
 ちなみあたしに人間は喰べられるということを教えてくれたのもコイツだった。こんなところにいる
わりにはまともなやつだったとあたしは思う。もしかしたらまともじゃなさすぎて逆にまともっぽく
見えたのかもしれない。関係ないけど。
 “上の世界”のお偉いさんらしき男は予想通りあたしを買ってくれた。近くで見るとやっぱりとなりの
予想は当たってるんじゃないかと思い、もしそうならばあたしはこれからすごいところに行くんじゃない
かと、珍しく良い気分になれた。
 となりの予想は大当たりし、男は“上の世界”に出るなり、何やら大きくて豪華な建物に直行した。
“下の世界”とは比べ物にならないくらいきれいで大きな部屋でマントを脱ぎ、国王らしき立派な服を
他者に着せてもらう。
ああいうお世話係みたいなのは確か使用人とかいうんだっけとか考えていると、急に黒い首輪みたい
なのを付けられた。それにしてはずっしりと重い。
 そうだ。あたしはこれを知っている。爆弾だ。
 目を白黒させるあたしに対し、国王姿の男は冷たく言い放つ。
「その首輪は爆弾だ。もし貴様が何かよからぬことをしでかせば、その瞬間に起爆させる」
 嘘でしょう?あたしは言葉を失った。国王のポケモンになれば、いつかどこかで聞いたおとぎばなし
のように、愛し愛されて自由に暮らせると心のどこかで思っていた。けどそれは甘かったの?
奴隷は結局どこへ行っても奴隷のまま、愛は与えられず自由なんて夢?
 そんなこと、奴隷のあたしが望んでいいことじゃないのに望んだあたしが結局は馬鹿だったってことね。
もう一人のあたしがそう耳元で囁いた。
「これからお前を娘に託す。もし娘に何かしたら……わかっているな?」
 そうしてあたしは少女、ディアと出会う。急に入っていた箱を開けられ眩しくて目をぱちぱちさせていた
あたしを抱きしめ、警戒するあたしをやさしくなだめ、名前までくれた。
「今日からあなたは“ビアンカ”だよ!」
 嬉しかった。このあたしがここまで喜ぶんだから相当なものだったと思う。
 守ってあげたい。遊んであげたい。愛してあげたい。
 それと同時に湧き上がる憤りの感情。
 あの子のせいであたしは首に爆弾を付けられた。あの幸せそうな表情が憎い。憎い。憎い。
すぐに両親に泣きすがるのがあたしへの侮辱みたいで。
 いつからかこう思うようになった。

 「あの子がいるから自由になれない」



「ごめんなさいごめんなさぁい。パパもママも、あたしのせいで死んじゃったんだよねぇ。……うっひぐ。
えぐ。どぉしたらいいのかなぁ、ねぇびあんかあああぁぁぁぁっ」
 だからあたしはあんなことをしたのかもしれない。
 クローゼットの中であたしを抱いて泣き叫ぶディアを見て、何故か唐突にどうにかして楽にして
あげたいと思ったのだ。
ここまではよかったのに。
 かつてとなりの言っていた言葉を思い出す。
「知ってるか?人間ってなぁ、お前みたいに小さい奴でも喰えるんだとよ。何、手順は簡単さ。まず――」
 あたしはそのままの姿勢でできるだけがんばって体を伸ばす。そして彼女の細く白い首筋に
思いっきり噛み付いた。
「え……あ。びあ……んか?」
 それが最後の言葉となった。あたしは特に何も考えずにとなりの言ったとおりの手順を思い出し
ながらその通りの場所に噛み付いていく。何も聞こえない。何も見てない。ただ。ただ目の前のことに
集中して。楽しかった思い出がよみがえったりしたけどそれでも。
 ごちそうさまのころに、あたしは皮肉にも進化した。今までどんなことがあっても進化しなかったのに。
 クローゼットから出て、前より高くなった身長で辺りを見まわす。部屋の外はきっと火の海になってる
ことだろう。ドアノブにも触れられないと思う。
 窓が少しだけ開いてるのを発見する。あたしは迷わず大きく窓を開け、窓枠に足をかける。
 そのとき、また唐突にもとなりの言葉を思い出す。
「喰らうっていうのはなぁ。相手を自分の中に取り込むってことだ。だからなぁ。喰えば喰らった人間の
姿になれるんだと」
 決断は早かった。やり方なんて知らなかったけど、知らないうちに叫んでいたからどうにかできたんだと思う。
「でぃああああああっごめんなさああああああいっ」
 ディアになったあたしは逃げるようにそこから飛び降りた。



 
  ※




 「げほっげほっ。あー、やっと息ができる。……あ、ゲンガー放さないでくださいね」
 ゲンガーはわかってると言うようにニタリと笑う。両手にはゴチミルが持ち上げられており、せめて
もの反抗かのつもりか、しきりに電磁波バチバチと青い火花を散らせている。しかし、レベルの差か、
ゲンガーは平然と立っている。
 旅人は白いコートの中から手帳を取り出してゴチミルを見る。
「あー、あったあった。これだこれだ。元王女のポケモンゴチム……今はゴチミルか。が王女を喰べて、
それから城に訪れた人間を襲っては喰ってるっていう……。本当ですか?」
 青白い稲光に照らされた表情はどこか自嘲的に笑っていた。そして静かにどこか一点を見つめたまま「そうよ」と言った。
「一体何故?」
 旅人が素直にたずねる。
「何故ですって?」
 カラカラと笑って言う。
「ねたましかったのよ。あの子が」
「そうですか……」
 旅人は目を伏せる。その様子にゴチミルはばつの悪そうな顔をする。
「…………」
「…………」
 自分が話さないと会話が成り立たないことに気が付いた彼女はぽつりぽつりと語りだす。
「……ほんとうらやましかったわ。いい子だったし、何よりあたしに優しくしてくれた。
……でもね。同時に妬ましかったのよ」
 一呼吸置いて続ける。
「あの子はあたしにないものを持っていた。家族や友達。恵まれた環境っていうのもあったわね。
まぁそのせいであの子の両親はあの子のことを馬鹿みたいに可愛がっていたものね。
あの子も二人が好きだったけど、娘のポケモンの首に爆弾付けるのもどうかと思うわよ。全く……」
 また一呼吸。
「……あの時、あの子に抱かれたあの状況であんなことを思ったのはただ単にあの子を救いたいって
いうのもあった。
でも、一番はあの子になりたかったのかもしれない」
 旅人は黙って聞いていた。話が終わったのを感じ、目を閉じてからゆっくりと瞼を開き、
キッとゴチミルを見つめる。
そして床に落ちてる銃を右手で拾う。
「そういえば、あなたは一体何者なのかしら?」
 カシャンと銃を振って弾が入っているのを確かめる。
「私ですか。うーん、なんでしょうねぇ」
 腕をしっかりと伸ばして銃を構える。マシンガンのような小さな白銀の銃の銃口はしっかりと
ゴチミルの左胸に向けられている。
ゲンガーがケケケと怪しげに笑う。旅人の紫色の視線がゴチミルを刺す。
「私はただの悪者退治を頼まれた一介の旅人ににすぎませんよ」
 引き金を引く。崩れ落ちるゴチミル。ゲンガーだけがケケケと笑う。
「おやすみディア……いや、ビアンカ嬢。良い悪夢を」
 ゲンガーが大きな口を開けてゴチミルの死体を丸呑みにした。
 旅人は振り返ることなく進んでいく。その後をてけてけとゲンガーが追いかけていった。


  [No.1644] 処女作です 投稿者:moss   投稿日:2011/07/26(Tue) 22:24:12   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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処女作です。
いいたいことはそれだけです、はい。





中二病作なのでなまぬるい目で見ていただければ幸いです。


だれか私をけなしてくれー。





【批評してもいいのよというかしてください】  【褒められて伸びるタイプです】


  [No.1645] ゴチミル怖えぇ 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2011/07/27(Wed) 10:11:41   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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ついにmossさん書きましたか!!
…で、一つ言わせてください。

「これが処女作とかどんだけクオリティ高いんだあ!!」

登場人物の心理描写がもう。読んでて展開が読めませんでした。
こういう『どんでん返し』的な?作品すっごく好きです。

首に爆弾は無いよお父様…。


【これだけ書ける才能が自分も欲しい】
【ぜひ次も書いてください】


  [No.1646] あ、ありがとうございますっ 投稿者:moss   投稿日:2011/07/27(Wed) 10:44:25   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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> ついにmossさん書きましたか!!

やっとですねー。これをルーズリーフに書き上げてからどのくらいたったんでしょうねー、もうわすれちゃいましたねー。


「これが処女作とかどんだけクオリティ高いんだあ!!」

高くないです!みなさんの処女作スレ見ればこんなの……(爆)
とりあえずこんな感じが私の頭の中ですね。中二病ですね、はい。


> 登場人物の心理描写がもう。読んでて展開が読めませんでした。
> こういう『どんでん返し』的な?作品すっごく好きです。

どんでん返しは自分も好きなので取り入れました。ていうかもう、最初の書き方と最後の書き方が変わってるやんって思いながら書き上げました(オイ





とりあえず次のネタは頭の中にあるので、もしかしたらまた投稿するかもです。
そのときはまたよろしくおねがいしますねーw


  [No.1648] 処女作……? 投稿者:しじみ   投稿日:2011/07/27(Wed) 14:23:50   46clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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こんにちは、チャット以来ですね!
あの時HNがミスで「しじま」になってた「しじみ」です。

ええと。
オルカさんも仰ってますがハイクオリティでびっくりしちゃいました。
冒頭の砂漠の描写がとても好きです。

展開はどんでん返しという手法もあり、読んでいてとても面白いのですが、
ビアンカ嬢の外見の描写がちょっと少なくてイメージしづらかったかな?と思いました。

これが処女作とか妬みます。
ぜひぜひこれからも執筆してくださいませ!


  [No.1649] 褒められてたぶん育ちます 投稿者:moss   投稿日:2011/07/27(Wed) 17:31:50   48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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> あの時HNがミスで「しじま」になってた「しじみ」です。

あ、「しじま」さんって「しじみ」さんだったのね、気づかなかった。すいません。

> 冒頭の砂漠の描写がとても好きです。

褒められて(以下略 あああありがとうございます!砂漠の描写が一度してみたかったものでw

> 展開はどんでん返しという手法もあり、読んでいてとても面白いのですが、
> ビアンカ嬢の外見の描写がちょっと少なくてイメージしづらかったかな?と思いました。

外見の描写は自分的にあまりいれたくないっていうのもあったんですよ。なんかこうどんでん返しをするためって言ったら変ですけどw  こう最後の最後でどーんとかばーんとかしてみたかったんですね、たぶんw


これからもがんばって書くのでそのときはまたよろしくおねがいします!


  [No.1656] 無邪気な残酷さがいい 投稿者:クロトカゲ   投稿日:2011/07/28(Thu) 18:37:42   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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面白かったです。最初の作品がこれだけ書ければもう、今後も期待大ですね。

改行でコンパクトにまとまってる雰囲気や最後の締め方から、外国の残酷な童話のような綺麗で残酷な独特の雰囲気が素敵でした。

ビアンカがディアになるくだりも、ポケモン世界ではひょっとしたらありえるんじゃないかと思いましたねー。人を食べると人になる、というのはいかにもポケモンに広まってそうな伝説で、この部分もすごく好きでした。

旅人が自分について語らなかったり、赤ずきんのやりとりや演劇的なセリフなど、旅人の謎めいたところもクライマックスに向けて話を一気に引き締めて、雰囲気を出すのに一役買ってたのかなと思います。

次回作も楽しみにしてますー。


  [No.1667] このあいだはありがとうございました! 投稿者:moss   投稿日:2011/07/29(Fri) 08:05:03   52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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> 面白かったです。最初の作品がこれだけ書ければもう、今後も期待大ですね。

が、がんばりまする。ただネタが出ていてもそれを文章化するのに多大な時間を消費するので……。
あまり期待なさってもよいことはきっとありませんぜw

> ビアンカがディアになるくだりも、ポケモン世界ではひょっとしたらありえるんじゃないかと思いましたねー。人を食べると人になる、というのはいかにもポケモンに広まってそうな伝説で、この部分もすごく好きでした。

どうしてもホラーじゃないけど変な話を書きたかったもので、とりあえずポケモンが人を食べるって設定はすごく好きなので、書いてる途中にピキーン!ときたわけですね、はい。

このあいだは誤字やアドバイスありがとうございました! 一応修正はかけましたが、なんせ深夜に行ったものでまだ「あれ?」ってところがあるかもしれません。
何かあればまたどうぞよろしくおねがいしますなのです。